半導体装置
【課題】電子部品中の電気的接合部の接合層に関し、鉛成分を含有せず先行技術よりもより高い接合強度・破壊靱性が得られる接合材を接合層として有する半導体装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする。
【解決手段】本発明に係る半導体装置は、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品(特に半導体装置)中の電気的接合部(例えば、半導体素子と回路部材との接合部)の接合層に関し、特に、粒径が1〜1000 nmのAg(銀)粒子を主材とする接合材、該接合材を用いて接合した部分を有する半導体装置およびその製造方法に関する。以下、半導体素子や回路部材等を総称して電子部材と称す。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属粒子の粒径がナノメートルサイズまで小さくなり粒子あたりの構成原子数が少なくなると、粒子の体積に対する表面積の影響は急激に増大し、バルク状態に比較して融点や焼結温度が大幅に低下することが知られている(本明細書では、粒径が1〜1000 nmの粒子をナノ粒子と定義する)。そして、この金属ナノ粒子の低温焼結性を利用したエレクトロニクス実装における接合材として適用する報告がなされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、有機物に被覆された平均粒径100 nm以下の金属ナノ粒子を主材とする接合材を用いて、加熱により有機物を分解するとともに金属ナノ粒子同士を焼結させることで接合を行うことが記載されている。該接合方法では、接合後の金属粒子はその界面が金属結合により接合され、全体としてバルク金属へと変化することから、非常に高い耐熱性と信頼性および高放熱性を有するとされている。また、特許文献1には、上述の接合材に対して、骨材として100μm程度以下の金属粒子を混合する方法についても記載されている。
【0004】
一方、電子部品等の接続において、近年、はんだの鉛フリー化が求められているが、高温はんだ(融点:300℃程度)に関してはその代替となる材料が未だ定まっていない。電子部品等の実装においては階層はんだを用いることが必要不可欠とされているため、現在使われている高温はんだ(鉛含有率:約96%)に代わる材料の出現が強く望まれている。
【0005】
【非特許文献1】第13回マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集(MES2003)、pp. 96-99.
【特許文献1】特開2004−107728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような先行技術は、通常使われている高温はんだ(鉛含有率:約96%)の代替材料として期待されるが、300〜400℃の高温環境下で用いたとき(電子部品の製造プロセスにおいて該高温環境を経験すると)、接合強度の観点で良好な結果が得られない場合がある。本発明はそのような問題点に鑑みてなされたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、電子部品の製造プロセス(特に、半導体装置の製造プロセス)における電子部材同士の電気的接合において、先行技術のAgナノ粒子を利用した接合材を用いた場合に比して、より高い接合強度・破壊靱性が得られる接合材を接合層として有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、
前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、
前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、
前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子部品の製造プロセス(特に、半導体装置の製造プロセス)における部材同士の電気的接合において、先行技術に比して、より高い接合強度・破壊靱性が得られる接合材を接合層として有する半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上述の本発明において、以下のような改良や変更を加えることは好ましい。
(i)前記金属X分散相は複数の結晶粒から構成され、前記複数の結晶粒同士は互いに酸化皮膜を介さずに金属接合している。
(ii)前記Agマトリックスに対する前記金属X分散相の質量比は、0より大きく1より小さい。
(iii)前記金属接合の接合界面領域には、該界面を挟む結晶に起因する相互拡散層が形成されている。
(iv)前記金属X分散相は略球体または略楕円体であり、前記金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、前記金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、前記接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にある。
(v)前記金属X分散相におけるひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離は、「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にある。
(vi)前記電子部材の最表面は該電子部材表面上に形成されたメタライズ層であり、前記メタライズ層はAu,Pt,Pd,Ag,Cu,Niのいずれか、またはそれらの合金で構成されている。
(vii)前記金属Xは、Cuおよび/またはNiである。
【0011】
本発明は、半導体装置中で用いられる接合材に関する発明者らの精力的な調査・研究により完成した。はじめに、本発明者らが行った接合プロセスにおける予備的検討について説明する。
【0012】
本発明者らは、Agナノ粒子を主材とする次のような接合材を用いてCu(銅)電極同士を接合した接合部の剪断強度について検討した。
(1)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と有機物に被覆されていない平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材
(2)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と有機物に被覆されていない平均粒径5μmのCu粒子とを混合した接合材
(3)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子のみの接合材(基準用試料)
それぞれの接合材についてAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と熱処理温度を変化させて調査を行った。接合条件は、熱処理温度を300〜400℃、接合時間を150 s、接合加圧力を2.5 MPaとした。剪断試験には、ボンドテスター(西進商事株式会社製、SS-100KP、最大荷重100 kg)を用いた(その他詳細は後述する)。その結果を図1,2にそれぞれ示す。
【0013】
図1は、上記(1)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。図2は、上記(2)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。なお、規格化剪断強度とは、上記(3)の接合材(Agナノ粒子のみ、Cu粒子の質量比=0)の場合の剪断強度を1として規格化したものである。図1,2から判るように、いずれの場合においても接合材中のCu粒子の質量比が増加するほど接合部の剪断強度が低下する傾向があることが判明した。
【0014】
そこで、その傾向の要因を調査するために、剪断試験による破壊途中および破壊後の接合部組織を観察した。図3は、Cu電極接合部の断面を表したモデル図である。図3に示すように、Cu電極301とCu電極302は、接合材300を介して接合されている。接合材300は、前述したようにAgナノ粒子とCu粒子(骨材)からなり、熱処理によって、焼結銀303のマトリックス中に骨材304が分散した組織となる。
【0015】
剪断試験による破壊途中および破壊後の接合部微細組織を観察した結果、主たる破壊経路および/または破壊の起点が、骨材304同士(Cu粒子同士)の界面部305,306、および、骨材304とCu電極301,302との界面307,308にあることが判った。これは、これらの領域(305〜308)での接合強度が、Agナノ粒子により形成された焼結銀303内部の強度、焼結銀303と骨材304との界面部309の接合強度、焼結銀303とCu電極301,302との界面部310,311の接合強度に比して低いことを強く示唆するものである。
【0016】
また、図1と図2を比較すると、図1に示した(1)の接合材の方が、図2に示した(2)の接合材よりも規格化剪断強度が小さいことが判る。これに関しては次のように考えることができる。(1)の接合材における骨材(平均粒径0.2μmのCuナノ粒子)は、(2)の接合材における骨材(平均粒径5μmのCu粒子)よりも粒径が小さいために自己凝集性が大きく、Agマトリックス中でも骨材同士の凝集箇所が多く生じやすいと考えられる。骨材同士の凝集は、図3の305,306に示したような骨材同士の界面部に起因する接合不良部分になりやすく、剪断試験における破壊の起点や破壊経路を構成する。このため、(1)の接合材の方が、(2)の接合材よりも規格化剪断強度が小さくなったと考えられた。
【0017】
以下に、図を参照しながら、本発明に係る実施の形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【0018】
本発明は、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする。金属XがAgマトリックス中に略均等に分散し、かつ各界面が良好な金属結合を形成することにより、Ag相のみあるいは金属X相のみの焼結体組織よりも機械的強度(例えば、剪断強度)が向上するものである。
【0019】
一般に、単一相における応力破壊のメカニズムは、応力によりまず微小なクラックが発生し、次に発生したクラックの先端部周辺への応力集中が生じることにより、該クラックが成長し全体に進展して破壊に至ると言われている。また、分散強化や析出強化と言われる機構は、マトリックス相よりも塑性変形しにくい相(いわゆる硬い相)をマトリックス相中に分散させることで、分散相をクラック成長のバリアとして機能させたり、該分散相を転位のピン止めとして機能させたりすることで、全体としての破壊靱性や強度を向上させるものである。
【0020】
上述の剪断試験結果において、分散強化が期待されるはずの接合材(1),(2)でAgナノ粒子のみ(Cu粒子の質量比=0)の接合材よりも剪断強度が低くなる傾向が見られた。そして微細組織観察から、マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など、全ての界面における接合強度のバランス(全ての界面が良好な接合強度を有すること)が重要であることが判った。すなわち、本発明においては、接合層中に存在する界面が全て金属結合していることがポイントである。
【0021】
言い換えると、接合層において、焼結銀層と金属X分散相との界面、焼結銀層と電子部材の最表面との界面、金属X分散相と電子部材の最表面との界面、金属X分散相内部に界面が存在する場合はその界面のいずれかひとつでも金属接合が得られていない接合状態であれば、その領域が応力負荷時にクラックの起点やクラックの伝達経路となりやすく、剪断強度が著しく低下する。なお、本発明において、金属接合が得られていない接合状態とは、接合界面に空隙等が存在し密着が得られていない、あるいはいずれか一方あるいは両方の酸化皮膜層を介して接合が行われている状態と定義する。また、本発明において、金属結合している状態とは、酸化皮膜層を介さずに焼結している状態で、異種金属界面の場合は接合界面領域(例えば、界面から15 nm程度)で相互拡散層を形成している状態と定義する。酸化皮膜層や相互拡散層の有無は、例えばTEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)等で評価することができる。
【0022】
上記の接合部の強化や破壊靱性の向上効果は、金属XがAgマトリックス中に分散する、すなわちAgマトリックスが分散相に対し網目状にネットワークを形成することで効果を発揮する。より具体的には、金属X分散相が略球体または略楕円体であり、金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にあることが望ましい。さらに、ひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離が「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にあることが望ましい。上記範囲から外れると、金属X分散相による骨材として期待される機能が発揮されない。
【0023】
接合層のマトリックス相としてはAgが好ましい。マトリックスを形成する金属は、分散相を形成する金属よりも焼結能に優れることが望ましいためである。優れた焼結能とは、焼結機構を構成する表面拡散係数や体積拡散係数が大きいことを意味する特性である。また、表面拡散は焼結層形成に対する影響が大きいため、表面拡散を阻害しないように酸化し難い性質(貴な性質)を有することも焼結能に強く影響を及ぼす。このような観点から、Cu,Ag,Au(金),Pt(白金),Pd(パラジウム)のうちの単独または2種類以上の金属や合金などもマトリックスを形成するための金属として用いることが可能である。中でも、拡散係数の最も大きいAgが好ましい。また、この観点から、Cuマトリックス中にこれよりも硬度が高いNi(ニッケル)が分散する接合部についても、Cuのみで構成されるよりも強度や破壊靱性が向上すると考えられる。
【0024】
上述のような分散組織は、個々の粒子表面が有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgナノ粒子と、個々の粒子表面が有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgよりも硬い金属Xナノ粒子を混合・焼結することで得られる(詳細は後述する)。なお、「硬い金属」とは、例えば、焼鈍された状態でAgよりも高いビッカース高度を有する金属を意味するものとする。金属X粒子がAgマトリックス中に分散していないと、金属X粒子同士の界面、金属X粒子と電子部材の最表面との界面が脆弱になりやすく、本発明の目的を達成することができない。ここで、脆弱になる(脆弱な界面)とは、金属X粒子同士の界面、金属X粒子と電子部材の最表面との界面に隙間がある、あるいは金属接合が得られていない状態を意味する。また、金属ナノ粒子(Agおよび金属X)の粒径は、それぞれ1〜1000 nmの粒径分布が好ましく、1〜100 nmの粒径分布が更に好ましい。一方、個々の金属ナノ粒子表面を被覆する有機物量は、熱処理前の接合材全体の1〜15 mass%とするのが好ましい。さらに好ましくは1〜10 mass%である。個々の金属ナノ粒子表面を一様に被覆することができる範囲で有機物量をできるだけ抑制した方が、有機物除去にかかる時間と手間が減少し接合プロセスの短縮化や低温化が図れる。
【0025】
粒径1〜1000 nmの金属ナノ粒子を有機物で被覆する方法に特段の制限は無く、個々の粒子表面を一様に被覆できるかぎり既知の方法を利用することができる。また、金属ナノ粒子を被覆する有機物は金属ナノ粒子の凝集を防止し、分散媒中に独立に(略均等に)分散することが可能な有機物であれば、被覆の形態については特に限定されない。有機物の種類としては、カルボン酸類、アルコール類、アミン類から選ばれる1種以上の有機物が好ましい。なお、「類」のなかには、有機物が金属と化学的に結合した場合などに由来するイオンや錯体等も含めるものとする。ただし、硫黄やハロゲン元素を含有する有機物は、接合後の接合層内に当該元素が残留して腐食の原因となる可能性があるため、避ける方が望ましい。
【0026】
カルボン酸類の例としては、酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、2,4-ヘキサジインカルボン酸、2,4-ヘプタジインカルボン酸、2,4-オクタジインカルボン酸、2,4-デカジインカルボン酸、2,4-ドデカジインカルボン酸、2,4-テトラデカジインカルボン酸、2,4-ペンタデカジインカルボン酸、2,4-ヘキサデカジインカルボン酸、2,4-オクタデカジインカルボン酸、2,4-ノナデカジインカルボン酸、10,12-テトラデカジインカルボン酸、10,12-ペンタデカジインカルボン酸、10,12-ヘキサデカジインカルボン酸、10,12-ヘプタデカジインカルボン酸、10,12-オクタデカジインカルボン酸、10,12-トリコサジインカルボン酸、10,12-ペンタコサジインカルボン酸、10,12-ヘキサコサジインカルボン酸、10,12-ヘプタコサジインカルボン酸、10,12-オクタコサジインカルボン酸、10,12-ノナコサジインカルボン酸、2,4-ヘキサジインジカルボン酸、3,5-オクタジインジカルボン酸、4,6-デカジインジカルボン酸、8,10-オクタデカジインジカルボン酸などが挙げられる。
【0027】
アルコール類の例としては、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オエレイルアルコール、リノリルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0028】
アミン類の例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、イソプロピルアミン、1,5-ジメチルヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、メチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルプロパン-2-アミン、アニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、2,4-ヘキサジイニルアミン、2,4-ヘプタジイニルアミン、2,4-オクタジイニルアミン、2,4-デカジイニルアミン、2,4-ドデカジイニルアミン、2,4-テトラデカジイニルアミン、2,4-ペンタデカジイニルアミン、2,4-ヘキサデカジイニルアミン、2,4-オクタデカジイニルアミン、2,4-ノナデカジイニルアミン、10,12-テトラデカジイニルアミン、10,12-ペンタデカジイニルアミン、10,12-ヘキサデカジイニルアミン、10,12-ヘプタデカジイニルアミン、10,12-オクタデカジイニルアミン、10,12-トリコサジイニルアミン、10,12-ペンタコサジイニルアミン、10,12-ヘキサコサジイニルアミン、10,12-ヘプタコサジイニルアミン、10,12-オクタコサジイニルアミン、10,12-ノナコサジイニルアミン、2,4-ヘキサジイニルジアミン、3,5-オクタジイニルジアミン、4,6-デカジイニルジアミン、8,10-オクタデカジイニルジアミン、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸ラウリルアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ラウリルアミドなどが挙げられる。
【0029】
金属ナノ粒子を被覆する有機物は金属表面から脱離した際に、副生成物が低温で分解しやすい分子構造であることが好ましい。また、詳細は後述するが、マトリックスとなる金属ナノ粒子と骨材となる金属ナノ粒子を被覆する有機物は、互いに同程度の極性を有するものを用いることが好ましい。極性が同程度の有機物で被覆することにより、それぞれの金属ナノ粒子の有機分散媒への分散性を同程度にすることができるからである。なお、極性の程度は、極性の小さいトルエンや極性の大きい水などへ分散させることにより調査できる。
【0030】
本発明に係る接合材における金属Xの質量比は、マトリックス相のAgの質量に対して0より大きく1より小さい範囲が好ましい。より好ましくは、0より大きく0.25以下である(詳細は後述する)。
【0031】
個々の粒子表面に有機物が被覆されたAgナノ粒子と個々の粒子表面に有機物が被覆された金属Xナノ粒子とを混合する方法としては、両者の有機物と略同じ大きさの極性を持つ分散媒に分散させて混合する方法が最も簡便であり好ましい。また、混合する具体的な手段としては、例えば、三本ロール法、攪拌振動子、攪拌器など一般的な手段を用いることができる。一方、極性の小さい分散媒としては、例えば、トルエン、α-テルピネオールなどが挙げられ、極性の大きい分散媒としては、例えば水が挙げられ、中間としては、例えば、1級アルコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0032】
有機物によりその表面を被覆された金属Xナノ粒子およびAgナノ粒子から構成される接合材は、そのままで用いてもよいが、電子部材の接合箇所に供給(例えば、塗布や印刷)しやすくするためにインク状・ペースト状、またはシート状とするのも好ましい。インク状・ペースト状として用いる場合には、分散媒として水や有機溶媒などを添加してもよい。分散媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テルピネオール、水、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、シクロヘキサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。また、市販の溶剤としては、例えば、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、メガファックF-479(大日本インキ化学工業株式会社製、メガファック:登録商標)、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(以上、富士フイルムイメージングカラーラント株式会社製、ソルスパース:登録商標)などの高分子系分散剤などを用いることができる。
【0033】
インク状・ペースト状の接合材は、例えば、インクジェット法により微細なノズルからインクやペーストを噴出させて電子部材の接合する部分に塗布する方法、塗布する部分が開口したメタルマスクやメッシュ状マスクを用いて必要部分にのみ塗布を行う方法など、接合する部分の面積・形状に応じて、既知の方法を適宜組み合わせて塗布・印刷することが可能である。
【0034】
また、加圧成形によりシート状に加工して接合材として用いることができる。このとき、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールやカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸のような室温で固体である有機物を添加することで成形性が向上する。以上のように、電子部材の接合箇所に塗布・印刷しやすくするために、接合材をインク状・ペースト状、またはシート材に調整することは好ましいが、このとき接合材中の金属ナノ粒子の含有量が60〜99 mass%となるようにすることが好ましい。
【0035】
上述のような本発明に係る個々の粒子表面が有機物で被覆されたAgナノ粒子と個々の粒子表面が有機物で被覆された金属Xナノ粒子を含む接合材を、接合する電子部材間に配置し加熱処理することにより、接合材中の有機物成分が除去されるとともにAgナノ粒子と金属Xナノ粒子が焼結され、本発明に係るAgマトリックス中に金属Xが分散した複合金属焼結体(接合層)となる。これにより、該電子部材同士を接合することができる。なお、このとき接合層と電子部材との界面においても金属接合が得られる。
【0036】
加熱処理における温度に関しては、150〜400℃で行うことが好ましい(詳細は後述する)。150℃未満では接合材中の有機物成分の除去が不完全になる場合があり、400℃を超えると電子部材の耐熱性の観点から不具合が生じる場合がある。なお、上限温度は接合する電子部材の耐熱性に起因することから、接合する電子部材が許容する場合は400℃に限定されるものではない。
【0037】
また、加熱処理とともに該接合部を0より大きい圧力で加圧することは好ましい。熱処理中に加圧することで、有機物成分の分解・排出および金属ナノ粒子の焼結にともなう体積収縮を補うことができる。これにより、該接合部の接合強度が向上する。なお、付与する加圧力は10 MPa未満とすることが好ましい。より好ましくは5 MPa以下である。これは、接合する電子部材(例えば、半導体チップやその上面に形成された配線および電極)が一般的に物理的な変形に弱いためである。表1に示すように、10 MPa以上の加圧を付与すると接合する半導体チップに破損が生じる場合があった。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明に係る接合材と当接する電子部材の最表面は、Agと金属接合が得られやすい金属種でメタライズされることが好ましく、例えば、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Ni、またはそれらの合金から選ばれた材料を用いることができる(詳細は後述する)。
【0040】
本発明に係る接合材は、加熱処理によって複合金属焼結体(接合層)となることでバルク体としての性質を示すようになることから、その融点が熱処理温度(焼結温度)よりもはるかに高いものになる。半導体装置の製造プロセスにおける現行の実装方法は、階層はんだを用いることが主流となっており、1次実装で用いられるはんだには、2次実装で主に用いられるSn−Ag−Cu系はんだの実装温度(230〜260℃)以上の融点を有していることが求められる。この理由により、高温はんだ(鉛含有率:約96%、融点:約300℃)がしばしば用いられている。また、この融点の観点から、金属XはAgと合金化してもその融点が少なくとも300℃を超える金属であるAu、Cu、Ni、Ti、Pt、Pdの群から選ばれる単体、またはその合金であることが好ましい。これにより、現状では困難となっている高温はんだの鉛フリー化が可能になる。
【0041】
一方、電子部材の接合部には、上述の耐熱性(融点)の要求に加えて、高い放熱性(高い熱伝導性)が求められている。例えば、インバータ等に用いられるパワー半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置においては、該半導体装置の電極は、電流を流す電極であるのと同時に半導体素子を固定する部材でもある。より具体的には、パワートランジスタの固定部材(ベース材)は、しばしばコレクタ電極を兼ねており、半導体装置稼動時に数アンペア以上の電流が流れる。このような半導体装置を安全かつ安定して動作させるためには、半導体装置の動作時に発生する熱を該パッケージの外へ効率良く放散させ、さらに接合部の接続信頼性も確保する必要がある。このために、長期信頼性を含む耐熱性に加えて高い放熱性が要求される。
【0042】
前述したように、本発明に係る接合材は、加熱処理によって複合金属焼結体(接合層)となることでバルク体としての性質を示すようになることから、優れた耐熱性に加えて高い放熱性(高い熱伝導性)を有する(具体的な実施例は後述する)。なお、本発明に係る複合金属焼結体において、分散相としてCuやNiを用いることは、マトリックス相であるAgと金属間化合物を形成しないこと、共晶による固相線温度が770℃以上であること等の理由から特に好ましい。
【0043】
本発明に係る接合層は、ろう付け・溶接・共晶のような溶融凝固組織ではなく、金属結晶の焼結組織を有していることに特徴がある。400℃以下の焼結温度により形成された接合層は、Agと金属Xの全体が合金化することはないため、一方が他方の粒成長バリア層として機能し、結晶粒径が微細な組織(例えば、粒径1μm以下)を得ることが可能である。結晶粒を微細に制御する(粒界や異材界面が増加する)ことで接合部の靱性・破壊靱性が向上する。
【0044】
なお、接合層においては、マトリックス相のみならず、分散相も金属Xナノ粒子の焼結により形成されるため、その形状は焼結を反映した形態となる。また、分散相を構成する金属Xナノ粒子に関しては、焼結前の段階においてその粒子表面に自然酸化皮膜が存在していてもよい。詳細は後述するが、分散相を構成する金属Xナノ粒子およびAgナノ粒子を被覆する有機物の存在により、熱処理途中で該自然酸化皮膜が還元されるためである。
【0045】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【実施例1】
【0046】
実施例1では、骨材として混合する金属Xナノ粒子表面に対する有機物被覆の効果について検討した。接合材(4)として、個々の粒子表面が有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面が有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材を用意した。このとき、前述の接合材(1),(2)と同様に、Agナノ粒子を被覆する有機物はアミン類、Cuナノ粒子を被覆する有機物はカルボン酸類とし、混合するときの分散媒としては水を用いた。また、Ag粒子に対するCu粒子の質量比を変化させた接合材を用意した。上記接合材を用いて接合する被接合試験片は、無酸素銅製とし、上側として直径5mm、厚さ2mmの円板形状の試験片、下側として直径10 mm、厚さ5mmの円板形状の試験片とした。
【0047】
上記の上下試験片間に接合材(4)を設置後、真空乾燥処理を加えることによって、水のみを除去した。次に、加圧しながら加熱処理を行うことにより接合継手を接合した。接合条件は、接合最高加熱温度(接合温度)が300〜400℃、接合時間が150 s、接合加圧力が2.5 MPaである。なお、接合時間とは、室温からの接合温度までの昇温と最高加熱温度で保持した時間の総和である。
【0048】
次に、上記接合条件により作製した接合継手を用い、純粋剪断応力下での接合部強度を測定した。剪断試験には、ボンドテスター(西進商事株式会社製、SS-100KP、最大荷重100 kg)を用いた。剪断速度は30 mm/minとし、試験片を剪断ツールで破断させ、破断時の最大荷重を測定した。このようにして得られた最大荷重を接合面積で除することにより得られた値を接合継手の剪断強度とした。
【0049】
図4は、上記(4)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。前述したように、規格化剪断強度とは、(3)の接合材(Agナノ粒子のみ、Cu粒子の質量比=0)の場合の剪断強度を1として規格化したものである。図4と図1を比較すると明らかなように、いずれの接合温度においても(4)の接合材の方が(1)の接合材よりも高い規格化剪断強度を有していることが判る。また、接合温度400℃の場合において、(4)の接合材のCuナノ粒子質量比が0〜1(少なくとも0.25)のとき、規格化剪断強度が1より大きくなっていることが判る。
【0050】
上記(4)の接合材と前記(1)の接合材との差異は、骨材として混合したCuナノ粒子の個々の表面が有機物で被覆されているか否かである。図4の結果から、複合金属焼結体による接続層を形成した場合に、個々の粒子表面を有機物で被覆したCuナノ粒子を用いることによって、図3で示したような骨材304同士(Cu粒子同士)の界面部305,306、および、骨材304とCu電極301,302との界面307,308における接合強度(金属接合性)が大幅に改善したものと考えられる。すなわち、実施例1の検討から、接合材に混合する金属Xナノ粒子は、少なくとも個々の粒子表面を有機物で被覆することが重要であることが明らかになった。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、個々のナノ粒子表面を被覆する有機物の極性の大きさについて検討した。接合材(5)として、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材を用意した。このとき、混合するときの分散媒としてはトルエンを用いた。また、Ag粒子に対するCu粒子の質量比を変化させた接合材を用意した。その後、実施例1と同様の条件・方法で、接合継手を作製しその接合部強度を測定した。
【0052】
剪断強度の結果を図5に示す。図5は、上記(5)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。図5と図4を比較すると明らかなように、いずれの接合温度においても(5)の接合材の方が(4)の接合材よりも更に高い規格化剪断強度を有していることが判る。また、(5)の接合材のCuナノ粒子質量比が0〜1のとき、規格化剪断強度が1より大きくなっていることが判る。
【0053】
上記のような結果が得られた理由は、次のように考えることができる。接合材(4)および(5)で用いたカルボン酸類有機物で被覆されたCuナノ粒子と、接合材(5)で用いたアミン類有機物に被覆されたAgナノ粒子は、トルエンなどの無極性分散媒(あるいは極性が小さい分散媒)に対して分散性がよい。よって、接合材(5)は、分散媒としてトルエンを用いたため、分散媒中で均質な混合が得られたものと考えられる。一方、接合材(4)で用いたアミン類有機物に被覆されたAgナノ粒子は、水などの極性分散媒(あるいは極性が大きい分散媒)に対して分散性がよい。これに対し、接合材(4)は、分散媒として水を用いたため、分散媒中での混合にアンバランスが生じたものと考えられる。
【0054】
各試料の接合層の微細組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、極性が異なる有機物の組み合わせ(例えば、接合材(4))の場合、Cuナノ粒子による分散相の一部に凝集に起因すると考えられる偏析が認められた。これに対し、極性が同程度の有機物の組み合わせ(接合材(5))場合、Agマトリックス中にCu分散相が略均等に分散した組織となっていた。実施例2の検討から、接合材を調合する際に用いる有機物は、その極性が同程度になるような組み合わせを選定することが重要であることが明らかになった。
【実施例3】
【0055】
実施例3では、本発明に係る接合材における接合温度について検討した。熱測定は、熱天秤/示差熱分析計(セイコーインスツル株式会社製、TG/DTA6200)を用い、昇温速度を10℃/minとし大気中で測定を行った。図6は、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合した接合材に対する熱分析結果である。図6に示すように、約150℃から約300℃において発熱ピークが検出され、この発熱ピークに伴って重量減少が観察された。また、重量はその後ほぼ一定となっていた。
【0056】
この結果から、発熱ピークおよび重量減少は、個々の粒子表面を被覆した有機物の酸化分解に起因するものと考えられた。さらに、測定後の試料をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察したところ、金属ナノ粒子同士の焼結が確認された。実施例3の検討から、接合温度を150℃以上とすることが望ましいことが明らかになった。
【実施例4】
【0057】
実施例4では、Cuナノ粒子の表面性状(表面に存在する自然酸化皮膜)について検討した。図7は、個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子に対して、XRD測定(X線回折装置:株式会社リガク製、RU200B)を行った結果である。図7に示すように、Cuのピークの他にCu2Oのピークが検出された。また、該Cuナノ粒子をTEM観察したところ、Cuナノ粒子の表面に1〜5 nm程度のCu2O層の存在が観察された。
【0058】
次に、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と上記Cuナノ粒子(表面にCu2Oが存在し、その外側がカルボン酸類有機物で被覆されている)とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合した接合材(6)を用意した。混合するときの分散媒としては極性の小さいトルエンを用いた。その後、接合温度400℃、接合時間150 s、加圧力2.5 MPaで接合継手を作製し、得られた継手の接合層に対してXRD測定を行った。その結果を図8に示す。図8は、接合材(6)を用いて接合した接合層に対してXRD測定を行った結果の1例である。図8に示すように、接合材(6)で検出されたCu2Oの存在を表すピークは検出されなかった。これは、Agナノ粒子およびCuナノ粒子を被覆した有機物の酸化分解によって自然酸化被膜(例えばCu2O)を還元したためと考えられた。実施例4の検討から、混合する金属Xナノ粒子は、その粒子表面に自然酸化程度の皮膜を有していても問題にならないことが明らかになった。
【実施例5】
【0059】
接合層中に存在する界面(マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など)が全て金属接合しているかを調査するために、接合層をTEM-EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)で観察した。一般に、Agナノ粒子により形成された焼結銀層は、ボイドなどの接合欠陥が存在しない場合、多結晶体となっており、その結晶サイズはサブミクロン程度(100〜1000 nmの範囲)である。一方、本発明に係る接合層については、その結晶サイズは、10〜1000 nmと100 nmよりも明らかに小さな結晶粒が確認された。その理由は、分散相である焼結銅がマトリックス相である焼結銀の粒成長のバリア層として機能したものと考えられた。
【0060】
また、観察の結果、接合層中に存在する界面(マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など)で酸化皮膜等の存在は認められなかった。一方、それら界面領域において、多数の双晶が導入されていることを確認した。これらの双晶は、主として焼結・粒成長の際に導入されたものと考えられ、酸化皮膜が存在しないことと併せて、各種界面が金属接合していることを強く示唆するものである。
【0061】
図9は、接合材(6)を用いて接合した接合層において、マトリックス相である焼結銀と分散相である焼結銅との界面領域に対して、TEM−EDXによる定量分析を行った結果の1例である。界面を挟む両側数nm(5〜15 nm程度)の範囲に相互拡散を表す濃度変化が認められた。また、その界面領域で格子ひずみが観察された。格子定数の異なる両者(Ag:0.4086 nm、Cu:0.3615 nm)が金属接合・相互拡散した結果、格子ひずみが導入されたものと考えられた。すなわち、該界面領域は傾斜的に合金化した金属接合を形成していると考えられ、その結果、酸素原子の粒界拡散を阻害し接合部全体の耐酸化性がAgと略同等になることが期待される(少なくともCu単体の焼結体よりも耐酸化性が向上すると考えられる)。
【実施例6】
【0062】
実施例6では、電子部材(被接合電極)の最表面の性状について調査した。前述したように、一般に高い接合部強度を得るためには、電子部材と接合層との界面においても金属接合を得ることが重要である。そこで、被接合試験片の表面にメタライズ層としてAu層,Ag層,Cu層,Ni層を形成し、その効果を検証した。各メタライズ層での接合強度を評価するために、上記(6)の接合材を用いて、実施例1と同様の条件・方法で、接合継手を作製しその接合部強度を測定した。図10は、各メタライズ層における接合温度と規格化剪断強度との関係を示すグラフである。図10に示したように、いずれのメタライズ層に対しても1以上の規格化剪断強度が得られた。特に、Au層やAg層は全接合温度範囲(300〜400℃)において、Cu層やNi層は少なくとも350℃以上の接合温度範囲において1.5以上の規格化剪断強度が得られた。メタライズ層としてのPt層やPd層は、元素の化学的性質を考慮するとAu層やAg層と同等の結果が得られると考えられる。
【実施例7】
【0063】
実施例7では、本発明に係る半導体装置について説明する。図11は、本発明に係る半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置の構造例を示した模式図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は図11(a)のA-A'断面図である。図11に示すように、半導体素子(例えばMOSFET)101はセラミックス絶縁基板102上に形成された配線電極102a,102b上に搭載され、該セラミックス絶縁基板102はベース材103上に搭載され、該ベース材103はエポキシ系樹脂ケース105に収納されている。エポキシ系樹脂ケース105に形成された電極端子110と配線電極102a,102bとの間は、ボンディングワイヤ104(例えば、直径300μmのAl線)によって超音波接合法などの方法で接続されている。また、各半導体素子101に形成されたゲート電極・エミッタ電極(図示せず)と電極端子110との間もボンディングワイヤ104によって接続されている。エポキシ系樹脂ケース105の内部は、シリカケトン樹脂107が充填され、該ケースの上部には、エポキシ系樹脂の蓋106が設けられている。
【0064】
ここで、ベース材103とセラミックス絶縁基板102とは、本発明に係る接合材(7)を用いて形成された接合層108により接合されている。セラミックス絶縁板102に形成された配線電極102a上には、8個のMOSFET素子101が接合材(7)により形成された接合層109を介して接合されている。また、温度検出用サーミスタ素子111が、配線電極102b上に接合層109を介して搭載されている。なお、接合材(7)とは、個々の粒子表面がカルボン酸類有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がアミン類とカルボン酸類からなる有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.1」で混合し、さらにα-テルピネオールに分散させたペースト状の接合材である。
【0065】
接合層108,109による接合は、次のような手順で行った。まず、セラミックス絶縁板102の配線電極102a(最表面にNiめっきが施されたCu電極)およびベース材103上の所定の箇所に上記接合材(7)をそれぞれ塗布した。次に、塗布した接合材(7)の上にセラミックス絶縁板102および半導体素子101(端子最表面にはAuめっきが施されている)を配置した。その後、接合温度が約300℃、接合時間が300 s、加圧力が1 MPaの接合条件により接合を行った。
【0066】
なお、エポキシ系樹脂ケース105とベース材103との間は、シリカケトン接着樹脂(図示せず)を用いて固定されている。また、エポキシ系樹脂の蓋106には凹部106’が設けられ、電極端子110には穴110’が設けられており、絶縁型半導体装置を外部回路と接続するためのネジ(図示せず)が装着できるようになっている。ベース材103および電極端子110は、あらかじめ所定形状に打抜き成形されたCu板の表面にNiめっきを施したものである。
【0067】
図12は、図11に示した半導体素子101搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。図12に示すように、ベース材103とセラミックス絶縁基板102との間にはペースト状の接合材(7)が配置され、セラミックス絶縁板102に形成された配線電極102aと半導体素子101との間にもペースト状の接合材(7)が配置されている。このとき、ペースト状接合材の塗布時にペーストの流出防止のために、ベース材103上にはセラミックス絶縁基板102の搭載領域を規定するように撥水膜122が施されている。同様に、セラミックス絶縁基板102上には、半導体素子101の搭載領域を規定するように撥水膜121が施されており、ペースト塗布時の流出防止を図っている。
【実施例8】
【0068】
図13は、本発明に係る半導体装置の他の構造例を示した斜視模式図である。図13に示すように、ベース材203上にセラミックス絶縁基板202が搭載され、セラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202a上に半導体素子201が搭載され、半導体素子201のエミッタ電極は接続端子204を介してセラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202bと接続されている。ベース材203、配線電極202a,202b、および接続端子204は、それぞれCu板の表面にNiめっきを施し、その上にAgめっきを施したものである。
【0069】
図14は、図13に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。セラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202aと半導体素子201との間、半導体素子201のエミッタ電極と接続端子204との間、電極配線202bと接続端子204との間には、それぞれ本発明に係る接合材(8)が配置されている。なお、接合材(8)とは、個々の粒子表面がアミン類とアルコール類からなる有機物で被覆された粒径5〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がアミン類とカルボン酸類からなる有機物で被覆された粒径30〜500 nmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合し、さらに加圧成型してシート状に加工した接合材である。
【0070】
図14のように配置・搭載した後、接合温度が約300℃、接合時間が300 s、加圧力が0.5 MPaの接合条件により接合を行った。これにより、Agマトリックス相中に分散相であるCu相が均等に分散した接続層(複合金属焼結層)が形成され接合が完了した。本実施例の半導体装置は、配線幅の大きい接続端子204を用いることで、コレクタ電極だけでなくエミッタ電極部分にも大きな電流を流すことができる。このとき、本発明に係る接続層は、良好な耐熱性、高い電気伝導性、高い熱伝導性を有することから、当該半導体装置を安全かつ安定して動作させることができる。
【0071】
上記の実施例では、半導体装置の例としてMOSFETの場合について説明したが、本発明に係る半導体装置はそれに限定されることはない。例えば、LED(特に、高輝度LED等)を基板に実装する際に本発明の接合材を用いて接合を行うことは、従来のはんだや熱伝導性接着材よりも放熱性を格段に向上させることが可能となり好適である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】接合材(1)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図2】接合材(2)におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図3】Cu電極接合部の断面を表したモデル図である。
【図4】接合材(4)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図5】接合材(5)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図6】個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.2」で混合した接合材に対する熱分析結果である。
【図7】個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子に対して、XRD測定を行った結果である。
【図8】接合材(6)を用いて接合した接合層に対してXRD測定を行った結果の1例である。
【図9】接合材(6)を用いて接合した接合層において、マトリックス相である焼結銀と分散相である焼結銅との界面領域に対して、TEM−EDXによる定量分析を行った結果の1例である。
【図10】接合材(6)を用いて作製した各電極との接合強度における各メタライズ層における接合温度と規格化剪断強度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置の構造例を示した模式図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は図11(a)のA-A'断面図である。
【図12】図11に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。
【図13】本発明に係る半導体装置の他の構造例を示した斜視模式図である。
【図14】図13に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。
【符号の説明】
【0073】
101…半導体素子、102…セラミックス絶縁基板、102a,102b…配線電極、
103…ベース材、104…ボンディングワイヤ、105…エポキシ系樹脂ケース、
106…エポキシ系樹脂の蓋、106’…凹部、107…シリカケトン樹脂、
108,109…接合層、110…電極端子、110’…穴、111…温度検出用サーミスタ素子、
121,122…撥水膜、
201…半導体素子、202…セラミックス絶縁基板、202a,202b…配線電極、
203…ベース材、204…接続端子、
300…接合材、301,302…Cu電極、303…焼結銀、304…骨材、
305,306…骨材同士の界面部、307、308…Cu電極との界面部、
309…焼結銀と骨材の界面部、310,311…焼結銀とCu電極との界面部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品(特に半導体装置)中の電気的接合部(例えば、半導体素子と回路部材との接合部)の接合層に関し、特に、粒径が1〜1000 nmのAg(銀)粒子を主材とする接合材、該接合材を用いて接合した部分を有する半導体装置およびその製造方法に関する。以下、半導体素子や回路部材等を総称して電子部材と称す。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属粒子の粒径がナノメートルサイズまで小さくなり粒子あたりの構成原子数が少なくなると、粒子の体積に対する表面積の影響は急激に増大し、バルク状態に比較して融点や焼結温度が大幅に低下することが知られている(本明細書では、粒径が1〜1000 nmの粒子をナノ粒子と定義する)。そして、この金属ナノ粒子の低温焼結性を利用したエレクトロニクス実装における接合材として適用する報告がなされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、有機物に被覆された平均粒径100 nm以下の金属ナノ粒子を主材とする接合材を用いて、加熱により有機物を分解するとともに金属ナノ粒子同士を焼結させることで接合を行うことが記載されている。該接合方法では、接合後の金属粒子はその界面が金属結合により接合され、全体としてバルク金属へと変化することから、非常に高い耐熱性と信頼性および高放熱性を有するとされている。また、特許文献1には、上述の接合材に対して、骨材として100μm程度以下の金属粒子を混合する方法についても記載されている。
【0004】
一方、電子部品等の接続において、近年、はんだの鉛フリー化が求められているが、高温はんだ(融点:300℃程度)に関してはその代替となる材料が未だ定まっていない。電子部品等の実装においては階層はんだを用いることが必要不可欠とされているため、現在使われている高温はんだ(鉛含有率:約96%)に代わる材料の出現が強く望まれている。
【0005】
【非特許文献1】第13回マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集(MES2003)、pp. 96-99.
【特許文献1】特開2004−107728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような先行技術は、通常使われている高温はんだ(鉛含有率:約96%)の代替材料として期待されるが、300〜400℃の高温環境下で用いたとき(電子部品の製造プロセスにおいて該高温環境を経験すると)、接合強度の観点で良好な結果が得られない場合がある。本発明はそのような問題点に鑑みてなされたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、電子部品の製造プロセス(特に、半導体装置の製造プロセス)における電子部材同士の電気的接合において、先行技術のAgナノ粒子を利用した接合材を用いた場合に比して、より高い接合強度・破壊靱性が得られる接合材を接合層として有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、
前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、
前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、
前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子部品の製造プロセス(特に、半導体装置の製造プロセス)における部材同士の電気的接合において、先行技術に比して、より高い接合強度・破壊靱性が得られる接合材を接合層として有する半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上述の本発明において、以下のような改良や変更を加えることは好ましい。
(i)前記金属X分散相は複数の結晶粒から構成され、前記複数の結晶粒同士は互いに酸化皮膜を介さずに金属接合している。
(ii)前記Agマトリックスに対する前記金属X分散相の質量比は、0より大きく1より小さい。
(iii)前記金属接合の接合界面領域には、該界面を挟む結晶に起因する相互拡散層が形成されている。
(iv)前記金属X分散相は略球体または略楕円体であり、前記金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、前記金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、前記接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にある。
(v)前記金属X分散相におけるひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離は、「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にある。
(vi)前記電子部材の最表面は該電子部材表面上に形成されたメタライズ層であり、前記メタライズ層はAu,Pt,Pd,Ag,Cu,Niのいずれか、またはそれらの合金で構成されている。
(vii)前記金属Xは、Cuおよび/またはNiである。
【0011】
本発明は、半導体装置中で用いられる接合材に関する発明者らの精力的な調査・研究により完成した。はじめに、本発明者らが行った接合プロセスにおける予備的検討について説明する。
【0012】
本発明者らは、Agナノ粒子を主材とする次のような接合材を用いてCu(銅)電極同士を接合した接合部の剪断強度について検討した。
(1)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と有機物に被覆されていない平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材
(2)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と有機物に被覆されていない平均粒径5μmのCu粒子とを混合した接合材
(3)有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子のみの接合材(基準用試料)
それぞれの接合材についてAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と熱処理温度を変化させて調査を行った。接合条件は、熱処理温度を300〜400℃、接合時間を150 s、接合加圧力を2.5 MPaとした。剪断試験には、ボンドテスター(西進商事株式会社製、SS-100KP、最大荷重100 kg)を用いた(その他詳細は後述する)。その結果を図1,2にそれぞれ示す。
【0013】
図1は、上記(1)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。図2は、上記(2)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。なお、規格化剪断強度とは、上記(3)の接合材(Agナノ粒子のみ、Cu粒子の質量比=0)の場合の剪断強度を1として規格化したものである。図1,2から判るように、いずれの場合においても接合材中のCu粒子の質量比が増加するほど接合部の剪断強度が低下する傾向があることが判明した。
【0014】
そこで、その傾向の要因を調査するために、剪断試験による破壊途中および破壊後の接合部組織を観察した。図3は、Cu電極接合部の断面を表したモデル図である。図3に示すように、Cu電極301とCu電極302は、接合材300を介して接合されている。接合材300は、前述したようにAgナノ粒子とCu粒子(骨材)からなり、熱処理によって、焼結銀303のマトリックス中に骨材304が分散した組織となる。
【0015】
剪断試験による破壊途中および破壊後の接合部微細組織を観察した結果、主たる破壊経路および/または破壊の起点が、骨材304同士(Cu粒子同士)の界面部305,306、および、骨材304とCu電極301,302との界面307,308にあることが判った。これは、これらの領域(305〜308)での接合強度が、Agナノ粒子により形成された焼結銀303内部の強度、焼結銀303と骨材304との界面部309の接合強度、焼結銀303とCu電極301,302との界面部310,311の接合強度に比して低いことを強く示唆するものである。
【0016】
また、図1と図2を比較すると、図1に示した(1)の接合材の方が、図2に示した(2)の接合材よりも規格化剪断強度が小さいことが判る。これに関しては次のように考えることができる。(1)の接合材における骨材(平均粒径0.2μmのCuナノ粒子)は、(2)の接合材における骨材(平均粒径5μmのCu粒子)よりも粒径が小さいために自己凝集性が大きく、Agマトリックス中でも骨材同士の凝集箇所が多く生じやすいと考えられる。骨材同士の凝集は、図3の305,306に示したような骨材同士の界面部に起因する接合不良部分になりやすく、剪断試験における破壊の起点や破壊経路を構成する。このため、(1)の接合材の方が、(2)の接合材よりも規格化剪断強度が小さくなったと考えられた。
【0017】
以下に、図を参照しながら、本発明に係る実施の形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【0018】
本発明は、電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする。金属XがAgマトリックス中に略均等に分散し、かつ各界面が良好な金属結合を形成することにより、Ag相のみあるいは金属X相のみの焼結体組織よりも機械的強度(例えば、剪断強度)が向上するものである。
【0019】
一般に、単一相における応力破壊のメカニズムは、応力によりまず微小なクラックが発生し、次に発生したクラックの先端部周辺への応力集中が生じることにより、該クラックが成長し全体に進展して破壊に至ると言われている。また、分散強化や析出強化と言われる機構は、マトリックス相よりも塑性変形しにくい相(いわゆる硬い相)をマトリックス相中に分散させることで、分散相をクラック成長のバリアとして機能させたり、該分散相を転位のピン止めとして機能させたりすることで、全体としての破壊靱性や強度を向上させるものである。
【0020】
上述の剪断試験結果において、分散強化が期待されるはずの接合材(1),(2)でAgナノ粒子のみ(Cu粒子の質量比=0)の接合材よりも剪断強度が低くなる傾向が見られた。そして微細組織観察から、マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など、全ての界面における接合強度のバランス(全ての界面が良好な接合強度を有すること)が重要であることが判った。すなわち、本発明においては、接合層中に存在する界面が全て金属結合していることがポイントである。
【0021】
言い換えると、接合層において、焼結銀層と金属X分散相との界面、焼結銀層と電子部材の最表面との界面、金属X分散相と電子部材の最表面との界面、金属X分散相内部に界面が存在する場合はその界面のいずれかひとつでも金属接合が得られていない接合状態であれば、その領域が応力負荷時にクラックの起点やクラックの伝達経路となりやすく、剪断強度が著しく低下する。なお、本発明において、金属接合が得られていない接合状態とは、接合界面に空隙等が存在し密着が得られていない、あるいはいずれか一方あるいは両方の酸化皮膜層を介して接合が行われている状態と定義する。また、本発明において、金属結合している状態とは、酸化皮膜層を介さずに焼結している状態で、異種金属界面の場合は接合界面領域(例えば、界面から15 nm程度)で相互拡散層を形成している状態と定義する。酸化皮膜層や相互拡散層の有無は、例えばTEM−EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)等で評価することができる。
【0022】
上記の接合部の強化や破壊靱性の向上効果は、金属XがAgマトリックス中に分散する、すなわちAgマトリックスが分散相に対し網目状にネットワークを形成することで効果を発揮する。より具体的には、金属X分散相が略球体または略楕円体であり、金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にあることが望ましい。さらに、ひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離が「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にあることが望ましい。上記範囲から外れると、金属X分散相による骨材として期待される機能が発揮されない。
【0023】
接合層のマトリックス相としてはAgが好ましい。マトリックスを形成する金属は、分散相を形成する金属よりも焼結能に優れることが望ましいためである。優れた焼結能とは、焼結機構を構成する表面拡散係数や体積拡散係数が大きいことを意味する特性である。また、表面拡散は焼結層形成に対する影響が大きいため、表面拡散を阻害しないように酸化し難い性質(貴な性質)を有することも焼結能に強く影響を及ぼす。このような観点から、Cu,Ag,Au(金),Pt(白金),Pd(パラジウム)のうちの単独または2種類以上の金属や合金などもマトリックスを形成するための金属として用いることが可能である。中でも、拡散係数の最も大きいAgが好ましい。また、この観点から、Cuマトリックス中にこれよりも硬度が高いNi(ニッケル)が分散する接合部についても、Cuのみで構成されるよりも強度や破壊靱性が向上すると考えられる。
【0024】
上述のような分散組織は、個々の粒子表面が有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgナノ粒子と、個々の粒子表面が有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgよりも硬い金属Xナノ粒子を混合・焼結することで得られる(詳細は後述する)。なお、「硬い金属」とは、例えば、焼鈍された状態でAgよりも高いビッカース高度を有する金属を意味するものとする。金属X粒子がAgマトリックス中に分散していないと、金属X粒子同士の界面、金属X粒子と電子部材の最表面との界面が脆弱になりやすく、本発明の目的を達成することができない。ここで、脆弱になる(脆弱な界面)とは、金属X粒子同士の界面、金属X粒子と電子部材の最表面との界面に隙間がある、あるいは金属接合が得られていない状態を意味する。また、金属ナノ粒子(Agおよび金属X)の粒径は、それぞれ1〜1000 nmの粒径分布が好ましく、1〜100 nmの粒径分布が更に好ましい。一方、個々の金属ナノ粒子表面を被覆する有機物量は、熱処理前の接合材全体の1〜15 mass%とするのが好ましい。さらに好ましくは1〜10 mass%である。個々の金属ナノ粒子表面を一様に被覆することができる範囲で有機物量をできるだけ抑制した方が、有機物除去にかかる時間と手間が減少し接合プロセスの短縮化や低温化が図れる。
【0025】
粒径1〜1000 nmの金属ナノ粒子を有機物で被覆する方法に特段の制限は無く、個々の粒子表面を一様に被覆できるかぎり既知の方法を利用することができる。また、金属ナノ粒子を被覆する有機物は金属ナノ粒子の凝集を防止し、分散媒中に独立に(略均等に)分散することが可能な有機物であれば、被覆の形態については特に限定されない。有機物の種類としては、カルボン酸類、アルコール類、アミン類から選ばれる1種以上の有機物が好ましい。なお、「類」のなかには、有機物が金属と化学的に結合した場合などに由来するイオンや錯体等も含めるものとする。ただし、硫黄やハロゲン元素を含有する有機物は、接合後の接合層内に当該元素が残留して腐食の原因となる可能性があるため、避ける方が望ましい。
【0026】
カルボン酸類の例としては、酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸ネルボン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、イワシ酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、2,4-ヘキサジインカルボン酸、2,4-ヘプタジインカルボン酸、2,4-オクタジインカルボン酸、2,4-デカジインカルボン酸、2,4-ドデカジインカルボン酸、2,4-テトラデカジインカルボン酸、2,4-ペンタデカジインカルボン酸、2,4-ヘキサデカジインカルボン酸、2,4-オクタデカジインカルボン酸、2,4-ノナデカジインカルボン酸、10,12-テトラデカジインカルボン酸、10,12-ペンタデカジインカルボン酸、10,12-ヘキサデカジインカルボン酸、10,12-ヘプタデカジインカルボン酸、10,12-オクタデカジインカルボン酸、10,12-トリコサジインカルボン酸、10,12-ペンタコサジインカルボン酸、10,12-ヘキサコサジインカルボン酸、10,12-ヘプタコサジインカルボン酸、10,12-オクタコサジインカルボン酸、10,12-ノナコサジインカルボン酸、2,4-ヘキサジインジカルボン酸、3,5-オクタジインジカルボン酸、4,6-デカジインジカルボン酸、8,10-オクタデカジインジカルボン酸などが挙げられる。
【0027】
アルコール類の例としては、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オエレイルアルコール、リノリルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0028】
アミン類の例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、イソプロピルアミン、1,5-ジメチルヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、メチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルプロパン-2-アミン、アニリン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、2,4-ヘキサジイニルアミン、2,4-ヘプタジイニルアミン、2,4-オクタジイニルアミン、2,4-デカジイニルアミン、2,4-ドデカジイニルアミン、2,4-テトラデカジイニルアミン、2,4-ペンタデカジイニルアミン、2,4-ヘキサデカジイニルアミン、2,4-オクタデカジイニルアミン、2,4-ノナデカジイニルアミン、10,12-テトラデカジイニルアミン、10,12-ペンタデカジイニルアミン、10,12-ヘキサデカジイニルアミン、10,12-ヘプタデカジイニルアミン、10,12-オクタデカジイニルアミン、10,12-トリコサジイニルアミン、10,12-ペンタコサジイニルアミン、10,12-ヘキサコサジイニルアミン、10,12-ヘプタコサジイニルアミン、10,12-オクタコサジイニルアミン、10,12-ノナコサジイニルアミン、2,4-ヘキサジイニルジアミン、3,5-オクタジイニルジアミン、4,6-デカジイニルジアミン、8,10-オクタデカジイニルジアミン、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸ラウリルアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ラウリルアミドなどが挙げられる。
【0029】
金属ナノ粒子を被覆する有機物は金属表面から脱離した際に、副生成物が低温で分解しやすい分子構造であることが好ましい。また、詳細は後述するが、マトリックスとなる金属ナノ粒子と骨材となる金属ナノ粒子を被覆する有機物は、互いに同程度の極性を有するものを用いることが好ましい。極性が同程度の有機物で被覆することにより、それぞれの金属ナノ粒子の有機分散媒への分散性を同程度にすることができるからである。なお、極性の程度は、極性の小さいトルエンや極性の大きい水などへ分散させることにより調査できる。
【0030】
本発明に係る接合材における金属Xの質量比は、マトリックス相のAgの質量に対して0より大きく1より小さい範囲が好ましい。より好ましくは、0より大きく0.25以下である(詳細は後述する)。
【0031】
個々の粒子表面に有機物が被覆されたAgナノ粒子と個々の粒子表面に有機物が被覆された金属Xナノ粒子とを混合する方法としては、両者の有機物と略同じ大きさの極性を持つ分散媒に分散させて混合する方法が最も簡便であり好ましい。また、混合する具体的な手段としては、例えば、三本ロール法、攪拌振動子、攪拌器など一般的な手段を用いることができる。一方、極性の小さい分散媒としては、例えば、トルエン、α-テルピネオールなどが挙げられ、極性の大きい分散媒としては、例えば水が挙げられ、中間としては、例えば、1級アルコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0032】
有機物によりその表面を被覆された金属Xナノ粒子およびAgナノ粒子から構成される接合材は、そのままで用いてもよいが、電子部材の接合箇所に供給(例えば、塗布や印刷)しやすくするためにインク状・ペースト状、またはシート状とするのも好ましい。インク状・ペースト状として用いる場合には、分散媒として水や有機溶媒などを添加してもよい。分散媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テルピネオール、水、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、シクロヘキサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。また、市販の溶剤としては、例えば、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、メガファックF-479(大日本インキ化学工業株式会社製、メガファック:登録商標)、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(以上、富士フイルムイメージングカラーラント株式会社製、ソルスパース:登録商標)などの高分子系分散剤などを用いることができる。
【0033】
インク状・ペースト状の接合材は、例えば、インクジェット法により微細なノズルからインクやペーストを噴出させて電子部材の接合する部分に塗布する方法、塗布する部分が開口したメタルマスクやメッシュ状マスクを用いて必要部分にのみ塗布を行う方法など、接合する部分の面積・形状に応じて、既知の方法を適宜組み合わせて塗布・印刷することが可能である。
【0034】
また、加圧成形によりシート状に加工して接合材として用いることができる。このとき、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールやカプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸のような室温で固体である有機物を添加することで成形性が向上する。以上のように、電子部材の接合箇所に塗布・印刷しやすくするために、接合材をインク状・ペースト状、またはシート材に調整することは好ましいが、このとき接合材中の金属ナノ粒子の含有量が60〜99 mass%となるようにすることが好ましい。
【0035】
上述のような本発明に係る個々の粒子表面が有機物で被覆されたAgナノ粒子と個々の粒子表面が有機物で被覆された金属Xナノ粒子を含む接合材を、接合する電子部材間に配置し加熱処理することにより、接合材中の有機物成分が除去されるとともにAgナノ粒子と金属Xナノ粒子が焼結され、本発明に係るAgマトリックス中に金属Xが分散した複合金属焼結体(接合層)となる。これにより、該電子部材同士を接合することができる。なお、このとき接合層と電子部材との界面においても金属接合が得られる。
【0036】
加熱処理における温度に関しては、150〜400℃で行うことが好ましい(詳細は後述する)。150℃未満では接合材中の有機物成分の除去が不完全になる場合があり、400℃を超えると電子部材の耐熱性の観点から不具合が生じる場合がある。なお、上限温度は接合する電子部材の耐熱性に起因することから、接合する電子部材が許容する場合は400℃に限定されるものではない。
【0037】
また、加熱処理とともに該接合部を0より大きい圧力で加圧することは好ましい。熱処理中に加圧することで、有機物成分の分解・排出および金属ナノ粒子の焼結にともなう体積収縮を補うことができる。これにより、該接合部の接合強度が向上する。なお、付与する加圧力は10 MPa未満とすることが好ましい。より好ましくは5 MPa以下である。これは、接合する電子部材(例えば、半導体チップやその上面に形成された配線および電極)が一般的に物理的な変形に弱いためである。表1に示すように、10 MPa以上の加圧を付与すると接合する半導体チップに破損が生じる場合があった。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明に係る接合材と当接する電子部材の最表面は、Agと金属接合が得られやすい金属種でメタライズされることが好ましく、例えば、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Ni、またはそれらの合金から選ばれた材料を用いることができる(詳細は後述する)。
【0040】
本発明に係る接合材は、加熱処理によって複合金属焼結体(接合層)となることでバルク体としての性質を示すようになることから、その融点が熱処理温度(焼結温度)よりもはるかに高いものになる。半導体装置の製造プロセスにおける現行の実装方法は、階層はんだを用いることが主流となっており、1次実装で用いられるはんだには、2次実装で主に用いられるSn−Ag−Cu系はんだの実装温度(230〜260℃)以上の融点を有していることが求められる。この理由により、高温はんだ(鉛含有率:約96%、融点:約300℃)がしばしば用いられている。また、この融点の観点から、金属XはAgと合金化してもその融点が少なくとも300℃を超える金属であるAu、Cu、Ni、Ti、Pt、Pdの群から選ばれる単体、またはその合金であることが好ましい。これにより、現状では困難となっている高温はんだの鉛フリー化が可能になる。
【0041】
一方、電子部材の接合部には、上述の耐熱性(融点)の要求に加えて、高い放熱性(高い熱伝導性)が求められている。例えば、インバータ等に用いられるパワー半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置においては、該半導体装置の電極は、電流を流す電極であるのと同時に半導体素子を固定する部材でもある。より具体的には、パワートランジスタの固定部材(ベース材)は、しばしばコレクタ電極を兼ねており、半導体装置稼動時に数アンペア以上の電流が流れる。このような半導体装置を安全かつ安定して動作させるためには、半導体装置の動作時に発生する熱を該パッケージの外へ効率良く放散させ、さらに接合部の接続信頼性も確保する必要がある。このために、長期信頼性を含む耐熱性に加えて高い放熱性が要求される。
【0042】
前述したように、本発明に係る接合材は、加熱処理によって複合金属焼結体(接合層)となることでバルク体としての性質を示すようになることから、優れた耐熱性に加えて高い放熱性(高い熱伝導性)を有する(具体的な実施例は後述する)。なお、本発明に係る複合金属焼結体において、分散相としてCuやNiを用いることは、マトリックス相であるAgと金属間化合物を形成しないこと、共晶による固相線温度が770℃以上であること等の理由から特に好ましい。
【0043】
本発明に係る接合層は、ろう付け・溶接・共晶のような溶融凝固組織ではなく、金属結晶の焼結組織を有していることに特徴がある。400℃以下の焼結温度により形成された接合層は、Agと金属Xの全体が合金化することはないため、一方が他方の粒成長バリア層として機能し、結晶粒径が微細な組織(例えば、粒径1μm以下)を得ることが可能である。結晶粒を微細に制御する(粒界や異材界面が増加する)ことで接合部の靱性・破壊靱性が向上する。
【0044】
なお、接合層においては、マトリックス相のみならず、分散相も金属Xナノ粒子の焼結により形成されるため、その形状は焼結を反映した形態となる。また、分散相を構成する金属Xナノ粒子に関しては、焼結前の段階においてその粒子表面に自然酸化皮膜が存在していてもよい。詳細は後述するが、分散相を構成する金属Xナノ粒子およびAgナノ粒子を被覆する有機物の存在により、熱処理途中で該自然酸化皮膜が還元されるためである。
【0045】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施例に限定されることはなく、適宜組み合わせてもよい。
【実施例1】
【0046】
実施例1では、骨材として混合する金属Xナノ粒子表面に対する有機物被覆の効果について検討した。接合材(4)として、個々の粒子表面が有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面が有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材を用意した。このとき、前述の接合材(1),(2)と同様に、Agナノ粒子を被覆する有機物はアミン類、Cuナノ粒子を被覆する有機物はカルボン酸類とし、混合するときの分散媒としては水を用いた。また、Ag粒子に対するCu粒子の質量比を変化させた接合材を用意した。上記接合材を用いて接合する被接合試験片は、無酸素銅製とし、上側として直径5mm、厚さ2mmの円板形状の試験片、下側として直径10 mm、厚さ5mmの円板形状の試験片とした。
【0047】
上記の上下試験片間に接合材(4)を設置後、真空乾燥処理を加えることによって、水のみを除去した。次に、加圧しながら加熱処理を行うことにより接合継手を接合した。接合条件は、接合最高加熱温度(接合温度)が300〜400℃、接合時間が150 s、接合加圧力が2.5 MPaである。なお、接合時間とは、室温からの接合温度までの昇温と最高加熱温度で保持した時間の総和である。
【0048】
次に、上記接合条件により作製した接合継手を用い、純粋剪断応力下での接合部強度を測定した。剪断試験には、ボンドテスター(西進商事株式会社製、SS-100KP、最大荷重100 kg)を用いた。剪断速度は30 mm/minとし、試験片を剪断ツールで破断させ、破断時の最大荷重を測定した。このようにして得られた最大荷重を接合面積で除することにより得られた値を接合継手の剪断強度とした。
【0049】
図4は、上記(4)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。前述したように、規格化剪断強度とは、(3)の接合材(Agナノ粒子のみ、Cu粒子の質量比=0)の場合の剪断強度を1として規格化したものである。図4と図1を比較すると明らかなように、いずれの接合温度においても(4)の接合材の方が(1)の接合材よりも高い規格化剪断強度を有していることが判る。また、接合温度400℃の場合において、(4)の接合材のCuナノ粒子質量比が0〜1(少なくとも0.25)のとき、規格化剪断強度が1より大きくなっていることが判る。
【0050】
上記(4)の接合材と前記(1)の接合材との差異は、骨材として混合したCuナノ粒子の個々の表面が有機物で被覆されているか否かである。図4の結果から、複合金属焼結体による接続層を形成した場合に、個々の粒子表面を有機物で被覆したCuナノ粒子を用いることによって、図3で示したような骨材304同士(Cu粒子同士)の界面部305,306、および、骨材304とCu電極301,302との界面307,308における接合強度(金属接合性)が大幅に改善したものと考えられる。すなわち、実施例1の検討から、接合材に混合する金属Xナノ粒子は、少なくとも個々の粒子表面を有機物で被覆することが重要であることが明らかになった。
【実施例2】
【0051】
実施例2では、個々のナノ粒子表面を被覆する有機物の極性の大きさについて検討した。接合材(5)として、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを混合した接合材を用意した。このとき、混合するときの分散媒としてはトルエンを用いた。また、Ag粒子に対するCu粒子の質量比を変化させた接合材を用意した。その後、実施例1と同様の条件・方法で、接合継手を作製しその接合部強度を測定した。
【0052】
剪断強度の結果を図5に示す。図5は、上記(5)の接合材におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。図5と図4を比較すると明らかなように、いずれの接合温度においても(5)の接合材の方が(4)の接合材よりも更に高い規格化剪断強度を有していることが判る。また、(5)の接合材のCuナノ粒子質量比が0〜1のとき、規格化剪断強度が1より大きくなっていることが判る。
【0053】
上記のような結果が得られた理由は、次のように考えることができる。接合材(4)および(5)で用いたカルボン酸類有機物で被覆されたCuナノ粒子と、接合材(5)で用いたアミン類有機物に被覆されたAgナノ粒子は、トルエンなどの無極性分散媒(あるいは極性が小さい分散媒)に対して分散性がよい。よって、接合材(5)は、分散媒としてトルエンを用いたため、分散媒中で均質な混合が得られたものと考えられる。一方、接合材(4)で用いたアミン類有機物に被覆されたAgナノ粒子は、水などの極性分散媒(あるいは極性が大きい分散媒)に対して分散性がよい。これに対し、接合材(4)は、分散媒として水を用いたため、分散媒中での混合にアンバランスが生じたものと考えられる。
【0054】
各試料の接合層の微細組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、極性が異なる有機物の組み合わせ(例えば、接合材(4))の場合、Cuナノ粒子による分散相の一部に凝集に起因すると考えられる偏析が認められた。これに対し、極性が同程度の有機物の組み合わせ(接合材(5))場合、Agマトリックス中にCu分散相が略均等に分散した組織となっていた。実施例2の検討から、接合材を調合する際に用いる有機物は、その極性が同程度になるような組み合わせを選定することが重要であることが明らかになった。
【実施例3】
【0055】
実施例3では、本発明に係る接合材における接合温度について検討した。熱測定は、熱天秤/示差熱分析計(セイコーインスツル株式会社製、TG/DTA6200)を用い、昇温速度を10℃/minとし大気中で測定を行った。図6は、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合した接合材に対する熱分析結果である。図6に示すように、約150℃から約300℃において発熱ピークが検出され、この発熱ピークに伴って重量減少が観察された。また、重量はその後ほぼ一定となっていた。
【0056】
この結果から、発熱ピークおよび重量減少は、個々の粒子表面を被覆した有機物の酸化分解に起因するものと考えられた。さらに、測定後の試料をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察したところ、金属ナノ粒子同士の焼結が確認された。実施例3の検討から、接合温度を150℃以上とすることが望ましいことが明らかになった。
【実施例4】
【0057】
実施例4では、Cuナノ粒子の表面性状(表面に存在する自然酸化皮膜)について検討した。図7は、個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子に対して、XRD測定(X線回折装置:株式会社リガク製、RU200B)を行った結果である。図7に示すように、Cuのピークの他にCu2Oのピークが検出された。また、該Cuナノ粒子をTEM観察したところ、Cuナノ粒子の表面に1〜5 nm程度のCu2O層の存在が観察された。
【0058】
次に、個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と上記Cuナノ粒子(表面にCu2Oが存在し、その外側がカルボン酸類有機物で被覆されている)とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合した接合材(6)を用意した。混合するときの分散媒としては極性の小さいトルエンを用いた。その後、接合温度400℃、接合時間150 s、加圧力2.5 MPaで接合継手を作製し、得られた継手の接合層に対してXRD測定を行った。その結果を図8に示す。図8は、接合材(6)を用いて接合した接合層に対してXRD測定を行った結果の1例である。図8に示すように、接合材(6)で検出されたCu2Oの存在を表すピークは検出されなかった。これは、Agナノ粒子およびCuナノ粒子を被覆した有機物の酸化分解によって自然酸化被膜(例えばCu2O)を還元したためと考えられた。実施例4の検討から、混合する金属Xナノ粒子は、その粒子表面に自然酸化程度の皮膜を有していても問題にならないことが明らかになった。
【実施例5】
【0059】
接合層中に存在する界面(マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など)が全て金属接合しているかを調査するために、接合層をTEM-EDX(透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置)で観察した。一般に、Agナノ粒子により形成された焼結銀層は、ボイドなどの接合欠陥が存在しない場合、多結晶体となっており、その結晶サイズはサブミクロン程度(100〜1000 nmの範囲)である。一方、本発明に係る接合層については、その結晶サイズは、10〜1000 nmと100 nmよりも明らかに小さな結晶粒が確認された。その理由は、分散相である焼結銅がマトリックス相である焼結銀の粒成長のバリア層として機能したものと考えられた。
【0060】
また、観察の結果、接合層中に存在する界面(マトリックス相と分散相との界面、マトリックス相と電子部材との界面、分散相と電子部材との界面、分散相内部の界面など)で酸化皮膜等の存在は認められなかった。一方、それら界面領域において、多数の双晶が導入されていることを確認した。これらの双晶は、主として焼結・粒成長の際に導入されたものと考えられ、酸化皮膜が存在しないことと併せて、各種界面が金属接合していることを強く示唆するものである。
【0061】
図9は、接合材(6)を用いて接合した接合層において、マトリックス相である焼結銀と分散相である焼結銅との界面領域に対して、TEM−EDXによる定量分析を行った結果の1例である。界面を挟む両側数nm(5〜15 nm程度)の範囲に相互拡散を表す濃度変化が認められた。また、その界面領域で格子ひずみが観察された。格子定数の異なる両者(Ag:0.4086 nm、Cu:0.3615 nm)が金属接合・相互拡散した結果、格子ひずみが導入されたものと考えられた。すなわち、該界面領域は傾斜的に合金化した金属接合を形成していると考えられ、その結果、酸素原子の粒界拡散を阻害し接合部全体の耐酸化性がAgと略同等になることが期待される(少なくともCu単体の焼結体よりも耐酸化性が向上すると考えられる)。
【実施例6】
【0062】
実施例6では、電子部材(被接合電極)の最表面の性状について調査した。前述したように、一般に高い接合部強度を得るためには、電子部材と接合層との界面においても金属接合を得ることが重要である。そこで、被接合試験片の表面にメタライズ層としてAu層,Ag層,Cu層,Ni層を形成し、その効果を検証した。各メタライズ層での接合強度を評価するために、上記(6)の接合材を用いて、実施例1と同様の条件・方法で、接合継手を作製しその接合部強度を測定した。図10は、各メタライズ層における接合温度と規格化剪断強度との関係を示すグラフである。図10に示したように、いずれのメタライズ層に対しても1以上の規格化剪断強度が得られた。特に、Au層やAg層は全接合温度範囲(300〜400℃)において、Cu層やNi層は少なくとも350℃以上の接合温度範囲において1.5以上の規格化剪断強度が得られた。メタライズ層としてのPt層やPd層は、元素の化学的性質を考慮するとAu層やAg層と同等の結果が得られると考えられる。
【実施例7】
【0063】
実施例7では、本発明に係る半導体装置について説明する。図11は、本発明に係る半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置の構造例を示した模式図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は図11(a)のA-A'断面図である。図11に示すように、半導体素子(例えばMOSFET)101はセラミックス絶縁基板102上に形成された配線電極102a,102b上に搭載され、該セラミックス絶縁基板102はベース材103上に搭載され、該ベース材103はエポキシ系樹脂ケース105に収納されている。エポキシ系樹脂ケース105に形成された電極端子110と配線電極102a,102bとの間は、ボンディングワイヤ104(例えば、直径300μmのAl線)によって超音波接合法などの方法で接続されている。また、各半導体素子101に形成されたゲート電極・エミッタ電極(図示せず)と電極端子110との間もボンディングワイヤ104によって接続されている。エポキシ系樹脂ケース105の内部は、シリカケトン樹脂107が充填され、該ケースの上部には、エポキシ系樹脂の蓋106が設けられている。
【0064】
ここで、ベース材103とセラミックス絶縁基板102とは、本発明に係る接合材(7)を用いて形成された接合層108により接合されている。セラミックス絶縁板102に形成された配線電極102a上には、8個のMOSFET素子101が接合材(7)により形成された接合層109を介して接合されている。また、温度検出用サーミスタ素子111が、配線電極102b上に接合層109を介して搭載されている。なお、接合材(7)とは、個々の粒子表面がカルボン酸類有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がアミン類とカルボン酸類からなる有機物で被覆された粒径1〜1000 nmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.1」で混合し、さらにα-テルピネオールに分散させたペースト状の接合材である。
【0065】
接合層108,109による接合は、次のような手順で行った。まず、セラミックス絶縁板102の配線電極102a(最表面にNiめっきが施されたCu電極)およびベース材103上の所定の箇所に上記接合材(7)をそれぞれ塗布した。次に、塗布した接合材(7)の上にセラミックス絶縁板102および半導体素子101(端子最表面にはAuめっきが施されている)を配置した。その後、接合温度が約300℃、接合時間が300 s、加圧力が1 MPaの接合条件により接合を行った。
【0066】
なお、エポキシ系樹脂ケース105とベース材103との間は、シリカケトン接着樹脂(図示せず)を用いて固定されている。また、エポキシ系樹脂の蓋106には凹部106’が設けられ、電極端子110には穴110’が設けられており、絶縁型半導体装置を外部回路と接続するためのネジ(図示せず)が装着できるようになっている。ベース材103および電極端子110は、あらかじめ所定形状に打抜き成形されたCu板の表面にNiめっきを施したものである。
【0067】
図12は、図11に示した半導体素子101搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。図12に示すように、ベース材103とセラミックス絶縁基板102との間にはペースト状の接合材(7)が配置され、セラミックス絶縁板102に形成された配線電極102aと半導体素子101との間にもペースト状の接合材(7)が配置されている。このとき、ペースト状接合材の塗布時にペーストの流出防止のために、ベース材103上にはセラミックス絶縁基板102の搭載領域を規定するように撥水膜122が施されている。同様に、セラミックス絶縁基板102上には、半導体素子101の搭載領域を規定するように撥水膜121が施されており、ペースト塗布時の流出防止を図っている。
【実施例8】
【0068】
図13は、本発明に係る半導体装置の他の構造例を示した斜視模式図である。図13に示すように、ベース材203上にセラミックス絶縁基板202が搭載され、セラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202a上に半導体素子201が搭載され、半導体素子201のエミッタ電極は接続端子204を介してセラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202bと接続されている。ベース材203、配線電極202a,202b、および接続端子204は、それぞれCu板の表面にNiめっきを施し、その上にAgめっきを施したものである。
【0069】
図14は、図13に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。セラミックス絶縁基板202上に形成された配線電極202aと半導体素子201との間、半導体素子201のエミッタ電極と接続端子204との間、電極配線202bと接続端子204との間には、それぞれ本発明に係る接合材(8)が配置されている。なお、接合材(8)とは、個々の粒子表面がアミン類とアルコール類からなる有機物で被覆された粒径5〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がアミン類とカルボン酸類からなる有機物で被覆された粒径30〜500 nmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.25」で混合し、さらに加圧成型してシート状に加工した接合材である。
【0070】
図14のように配置・搭載した後、接合温度が約300℃、接合時間が300 s、加圧力が0.5 MPaの接合条件により接合を行った。これにより、Agマトリックス相中に分散相であるCu相が均等に分散した接続層(複合金属焼結層)が形成され接合が完了した。本実施例の半導体装置は、配線幅の大きい接続端子204を用いることで、コレクタ電極だけでなくエミッタ電極部分にも大きな電流を流すことができる。このとき、本発明に係る接続層は、良好な耐熱性、高い電気伝導性、高い熱伝導性を有することから、当該半導体装置を安全かつ安定して動作させることができる。
【0071】
上記の実施例では、半導体装置の例としてMOSFETの場合について説明したが、本発明に係る半導体装置はそれに限定されることはない。例えば、LED(特に、高輝度LED等)を基板に実装する際に本発明の接合材を用いて接合を行うことは、従来のはんだや熱伝導性接着材よりも放熱性を格段に向上させることが可能となり好適である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】接合材(1)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図2】接合材(2)におけるAgナノ粒子に対するCu粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図3】Cu電極接合部の断面を表したモデル図である。
【図4】接合材(4)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図5】接合材(5)におけるAgナノ粒子に対するCuナノ粒子の質量比と規格化剪断強度の関係を示すグラフである。
【図6】個々の粒子表面がアミン類有機物に被覆された粒径1〜100 nmのAgナノ粒子と個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子とを質量比「Ag:Cu = 1:0.2」で混合した接合材に対する熱分析結果である。
【図7】個々の粒子表面がカルボン酸類有機物に被覆された平均粒径0.2μmのCuナノ粒子に対して、XRD測定を行った結果である。
【図8】接合材(6)を用いて接合した接合層に対してXRD測定を行った結果の1例である。
【図9】接合材(6)を用いて接合した接合層において、マトリックス相である焼結銀と分散相である焼結銅との界面領域に対して、TEM−EDXによる定量分析を行った結果の1例である。
【図10】接合材(6)を用いて作製した各電極との接合強度における各メタライズ層における接合温度と規格化剪断強度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明に係る半導体装置の1つである非絶縁型半導体装置の構造例を示した模式図であり、図11(a)は上面図、図11(b)は図11(a)のA-A'断面図である。
【図12】図11に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。
【図13】本発明に係る半導体装置の他の構造例を示した斜視模式図である。
【図14】図13に示した半導体素子搭載部分の接合処理前における拡大断面模式図である。
【符号の説明】
【0073】
101…半導体素子、102…セラミックス絶縁基板、102a,102b…配線電極、
103…ベース材、104…ボンディングワイヤ、105…エポキシ系樹脂ケース、
106…エポキシ系樹脂の蓋、106’…凹部、107…シリカケトン樹脂、
108,109…接合層、110…電極端子、110’…穴、111…温度検出用サーミスタ素子、
121,122…撥水膜、
201…半導体素子、202…セラミックス絶縁基板、202a,202b…配線電極、
203…ベース材、204…接続端子、
300…接合材、301,302…Cu電極、303…焼結銀、304…骨材、
305,306…骨材同士の界面部、307、308…Cu電極との界面部、
309…焼結銀と骨材の界面部、310,311…焼結銀とCu電極との界面部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、
前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、
前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、
前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、
前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、
前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、
前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記金属X分散相は複数の結晶粒から構成され、
前記複数の結晶粒同士は互いに酸化皮膜を介さずに金属接合していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、
前記Agマトリックスに対する前記金属X分散相の質量比が、0より大きく1より小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属接合の接合界面領域には、該界面を挟む結晶に起因する相互拡散層が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属X分散相は略球体または略楕円体であり、前記金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、前記金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、前記接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
前記金属X分散相におけるひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離が「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の半導体装置において、
前記電子部材の最表面は該電子部材表面上に形成されたメタライズ層であり、
前記メタライズ層はAu,Pt,Pd,Ag,Cu,Niのいずれか、またはそれらの合金で構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属XがCuおよび/またはNiであることを特徴とする半導体装置。
【請求項1】
電子部材同士が接合層を介して電気的に接続されている半導体装置であって、
前記接合層は、Agマトリックスと、前記Agマトリックス中に分散しAgよりも硬度が高い金属Xからなる分散相とを含み、
前記Agマトリックスと前記金属X分散相とは互いに金属接合し、
前記Agマトリックスと前記電子部材の最表面とは互いに金属接合し、
前記金属X分散相と前記電子部材の最表面とは互いに金属接合しており、
前記金属X分散相は1μm以下の結晶粒を含み、
前記Agマトリックスは100 nmよりも小さな結晶粒を含んでいることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記金属X分散相は複数の結晶粒から構成され、
前記複数の結晶粒同士は互いに酸化皮膜を介さずに金属接合していることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置において、
前記Agマトリックスに対する前記金属X分散相の質量比が、0より大きく1より小さいことを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属接合の接合界面領域には、該界面を挟む結晶に起因する相互拡散層が形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属X分散相は略球体または略楕円体であり、前記金属X分散相が略球体とみなせる場合はその直径が、前記金属X分散相が略楕円体とみなせる場合にはその長軸が、前記接合層の厚さTに対して「T/(2×104) 〜T/2」の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において、
前記金属X分散相におけるひとつの分散相から最隣接の分散相までの距離が「T/(4×104) 〜T/2」の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の半導体装置において、
前記電子部材の最表面は該電子部材表面上に形成されたメタライズ層であり、
前記メタライズ層はAu,Pt,Pd,Ag,Cu,Niのいずれか、またはそれらの合金で構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の半導体装置において、
前記金属XがCuおよび/またはNiであることを特徴とする半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−124497(P2012−124497A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282940(P2011−282940)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2008−211477(P2008−211477)の分割
【原出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2008−211477(P2008−211477)の分割
【原出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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