説明

半導体集積回路装置

【課題】ノイズ感度が小さく、サンプリング/ホールド誤差のサンプリング依存期間を小さく抑え、高精度で安定したサンプリング/ホールドを実現する。
【解決手段】サンプル/ホールド回路9は、トランジスタ12の両補の接続部には、抵抗10,11がそれぞれ接続されており、抵抗11の他方の接続部と基準電位VSSとの間には静電容量素子13が接続された構成となっている。このように、トランジスタ12の両方の接続部に、抵抗10,11がそれぞれ接続されていることにより、該トランジスタ12がONした際の電荷の抜き差しにおいて、入力信号Vin側、静電容量素子13側ともに、(Cg(:トランジスタ12の対バックゲート容量)/2×R)の時定数を有することになり、ホールドオフセット電圧ΔVhoff=qg/2Cshとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ信号のサンプル/ホールド技術に関し、特に、光ディスク装置における高精度なサンプル/ホールド処理に有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)ドライブなどに例示される光ディスク装置には、フロントエンド処理用の半導体集積回路装置が設けられている。
【0003】
この種の半導体集積回路装置は、光ディスクから読み取った信号をアナログ信号処理にて抽出する。このフロントエンド処理では、RF(Radio Frequency)帯域の入力信号をサンプリング、およびホールドする各種のサンプル/ホールド回路が広く用いられている。
【0004】
近年、光ディスク装置の普及に伴い、高倍速での再生や記録への対応が不可欠となっており、これら高倍速の再生、記録を実現するためには、高速でかつ高精度なサンプルホールド回路が必要となる。
【0005】
一般に、サンプル/ホールド回路は、スイッチとして機能するMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタと静電容量素子とにより構成されたもの、あるいはMOSトランジスタと静電容量素子に、抵抗が加えられた構成からなるものなどがある。
【0006】
MOSトランジスタと静電容量素子とからなる場合、MOSトランジスタの一方の接続部が光ピックアップから読み出された入力信号が入力されるように接続されている。MOSトランジスタの他方の接続部と基準電位VSSとの間には、静電容量素子が接続されており、該MOSトランジスタの他方の接続部が、サンプル/ホールド回路のサンプリング信号の出力部となる。
【0007】
また、MOSトランジスタと静電容量素子に、抵抗が加えられているサンプル/ホールド回路の場合には、光ピックアップから読み出された入力信号が入力される入力部とMOSトランジスタの一方の接続部との間に抵抗が直列接続されている構成と、MOSトランジスタの他方の接続部と静電容量素子の一方の接続部が接続されている間に、抵抗が接続されている構成とが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記のようなサンプル/ホールド回路による回路構成では、次のような問題点があることが本発明者により見い出された。
【0009】
MOSトランジスタと静電容量素子とからなるサンプル/ホールド回路の場合には、サンプリング時のノイズ感度が高いために、ノイズによるサンプリング/ホールド誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0010】
また、MOSトランジスタと静電容量素子に抵抗を加えた構成のサンプル/ホールド回路では、MOSトランジスタがOFF(ホールド状態)からON(サンプリング開始)に切り換わる時に発生する、ホールド状態出力電圧とサンプリング開始時出力電圧との差分(オフセット)であるサンプリングオフセット電圧と、MOSトランジスタがON(サンプリング状態)からOFF(ホールド開始)に切り換わる時に発生する、サンプリング状態出力電圧とホールド開始時出力電圧との差分(オフセット)であるホールドオフセット電圧とが同じにならないために、サンプリング期間が短くなると、サンプリング/ホールド誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、ノイズ感度が小さく、サンプリング/ホールド誤差のサンプリング依存期間を小さく抑えることにより、高精度で安定したサンプリング/ホールドを実現することのできる技術を提供することにある。
【0012】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
本発明による半導体集積回路装置は、スイッチング動作を行うトランジスタと、サンプル容量である静電容量素子と、サンプリング期間にかかわらず、ホールドオフセット電圧とサンプリングオフセット電圧とを略等しくするオフセット電圧制限部とを備えたサンプル/ホールド回路を有したものである。
【0015】
また、本願のその他の発明の概要を簡単に示す。
【0016】
本発明による半導体集積回路装置は、前記オフセット電圧制限部が、一方の接続部に入力信号が入力され、他方の接続部には、トランジスタの一方の接続部が接続された第1の抵抗と、一方の接続部にトランジスタの他方の接続部が接続され、他方の接続部がサンプル/ホールド回路の出力部となり、他方の接続部と基準電位との間に静電容量素子が接続された第2の抵抗とよりなるものである。
【0017】
また、本発明による半導体集積回路装置は、前記サンプル/ホールド回路が、光ディスク装置のアナログフロントエンド処理に用いられるものである。
【発明の効果】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0019】
(1)サンプリング/ホールド誤差のサンプリング依存期間を大幅に小さくすることができ、サンプリング/ホールドばらつきを大幅に抑えることができる。
【0020】
(2)また、上記(1)により、サンプル/ホールド回路を用いて構成された半導体集積回路装置を光ディスク装置に用いることにより、記録、再生を高倍速で安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態による半導体集積回路装置のブロック図、図2は、図1の半導体集積回路装置に備えられたサンプル/ホールド回路の構成を示す回路図、図3は、図2のサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係を示す説明図、図4は、本発明者が検討したサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係の一例を示す説明図、図5は、本発明者が検討したサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係の他例を示す説明図である。
【0023】
本実施の形態において、半導体集積回路装置1は、DVDドライブなどに例示される光ディスク装置において、光ディスクから読み取った信号から再生信号、およびサーボ信号などのドライブ制御に必要な各種信号を生成するアナログフロントエンド処理用として用いられる。
【0024】
半導体集積回路装置1は、図1に示すように、インタフェース2、RF(Radio Frequency)系回路3、Wobble/各種検出回路4、サーボ系回路5、ならびにAPC(Auto Laser Power Control)回路6から構成されている。
【0025】
インタフェース2は、ピックアップ7とのインタフェースであり、光ディスク装置に設けられたピックアップ7から読み出された信号が入力される。ピックアップ7は、回転駆動されるDVDディスクなどの光ディスクにレーザ光を照射し、その反射光をフォトダイオードからなる受光部で受光して光学変換して該光ディスクに記憶されている情報を読み出す。
【0026】
インタフェース2には、RF系回路3、Wobble/各種検出回路4、サーボ系回路5、およびAPC回路6がそれぞれ接続されている。また、RF系回路3、Wobble/各種検出回路4、サーボ系回路5、ならびにAPC回路6には、後段に設けられたデジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)8が接続されている。
【0027】
RF系回路3は、RF帯域の信号から再生信号を生成し、DSP8に該再生信号を出力する。Wobble/各種検出回路4は、Wobble、およびディスクの傷や欠陥、記録部/未記録部などを検出し、その検出結果をDSP8に出力する。
【0028】
サーボ系回路5は、ピックアップ7やレンズの位置を制御するための各種演算を行い、その演算結果をDSP8に出力する。APC回路6は、 再生/記録のレーザパワーを検出し、ピックアップ7にフィードバック、あるいはDSP8に出力する。
【0029】
図2は、サーボ系回路5、およびAPC回路6に設けられたサンプル/ホールド回路9の構成例を示す回路図である。
【0030】
サンプル/ホールド回路9は、図示するように、抵抗10,11、トランジスタ12、およびサンプル容量となる静電容量素子13から構成されている。
【0031】
抵抗10の一方の接続部には、入力信号Vinが入力され、該抵抗10の他方の接続部には、MOS構成のトランジスタ12の一方の接続部が接続されている。トランジスタ12の他方の接続部には、抵抗11の一方の接続部が接続されており、該抵抗11の他方の接続部には、静電容量素子13の一方の接続部が接続されている。
【0032】
また、静電容量素子13の他方の接続部は、基準電位VSSが接続されており、該静電容量素子13の一方の接続部が接続された抵抗11の他方の接続部が、サンプル/ホールド回路9の出力信号Voutが出力される出力部となる。
【0033】
サンプル/ホールド回路9から出力された出力信号Voutは、サーボ系回路5では後段に接続されたサーボ演算回路などに入力され、APC回路6では、後段に接続されたゲイン調整を行うGCA(Gain Control Amp)などに入力される。
【0034】
次に、本実施の形態におけるサンプル/ホールド回路9の作用について説明する。
【0035】
まず、サンプル/ホールド回路9におけるサンプリング/ホールド誤差のサンプリング期間依存性について説明する。
【0036】
サンプリング/ホールド誤差のサンプリング期間依存性は、サンプリングオフセット電圧とホールドオフセット電圧が同じとならない場合に発生する。
【0037】
サンプリングオフセット電圧、ホールドオフセット電圧は、トランジスタ12がON(サンプリング開始)、あるいはOFF(ホールド開始)した際に、トランジスタ12のゲート(トランジスタ12におけるゲートの寄生容量である対バックゲート容量Cg)と静電容量素子13のサンプル容量Cshとの間の電荷の抜き差しで発生する。
【0038】
入力信号VinがDCで固定電位の場合を考える。サンプリング(トランジスタ12がON)時に、対バックゲート容量Cgに溜まっている電荷をqgとすると、トランジスタ12がOFFする時は、ゲート生成が解除される方向のため、対バックゲート容量Cgとサンプル容量Cshとの間での電荷抜き差しはqg/2となる(残りのqg/2は、入力信号Vin側との抜き差しとなる)。
【0039】
これにより、ホールドオフセット電圧ΔVhoffは、
ΔVhoff=qg/2Csh
となる。
【0040】
これに対して、トランジスタ12がONしたときは、入力信号Vin側と静電容量素子13側から同時に対バックゲート容量Cgに電荷の抜き差しが開始される。そのため、対バックゲート容量Cgへの電荷の抜き差しが、入力信号Vin側と静電容量素子13側で等しくqg/2となれば、サンプリングオフセット電圧ΔVsoffは、
ΔVsoff=qg/2Csh
となり、サンプリングオフセット電圧とホールドオフセット電圧とが等しくなる。
【0041】
サンプル/ホールド回路9では、トランジスタ12の両方の接続部に、抵抗10,11がそれぞれ接続されているので、トランジスタ12がONした際の電荷の抜き差しにおいて、入力信号Vin、静電容量素子13側ともに、(Cg/2×R)の時定数を有することになり、前述したように、ホールドオフセット電圧ΔVhoff=qg/2Cshとすることができる。
【0042】
したがって、サンプリング期間にかかわらず、ホールドオフセット電圧とサンプリングオフセット電圧とを等しくすることが可能となり、図3に示すように、サンプリング/ホールドを繰り返してもオフセット電圧が積み重なってしまうことを防止することができる。
【0043】
たとえば、背景技術で述べたように、トランジスタの前段、もしくは後段のいずれか一方にのみ抵抗が設けられているサンプル/ホールド回路では、トランジスタがONした際の電荷の抜き差しが、入力信号Vin側(またはサンプル容量側)で、対バックゲート容量Cgと抵抗とで構成される時定数を有することになり、サンプリングオフセット電圧ΔVsoff=qg/2Cshとならなくなり、サンプリングオフセット電圧とホールドオフセット電圧とが等しくならないことになる。
【0044】
サンプリングオフセット電圧とホールドオフセット電圧とが等しくない場合、ホールド後のサンプリング期間(Csh×R)の時定数で、オフセット差分ΔVhoff−ΔVsoffサンプリングしなければならず、サンプリング期間が(Csh×R)の時定数に対して不十分な場合には、サンプリングしきれなかった分がオフセット電圧として残り、図4、および図5に示すように、サンプリング/ホールドを繰り返すことでオフセット電圧が積み重なってしまうことになる。
【0045】
一方、サンプル/ホールド回路9では、前述したように、ホールドオフセット電圧ΔVhoff=qg/2Cshとすることにより、ホールドオフセット電圧とサンプリングオフセット電圧とを等しくすることができる。
【0046】
それにより、本実施の形態によれば、サンプリング/ホールド誤差のサンプリング依存期間を大幅に小さくすることができるので、サンプル/ホールド回路9におけるサンプリング/ホールドばらつきを大幅に抑えることができる。
【0047】
また、光ディスク装置における記録、再生を高倍速で安定して行うことが可能となる。
【0048】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0049】
たとえば、前記実施の形態では、アナログフロントエンド処理の半導体集積回路装置にサンプル/ホールド回路を用いた場合について記載したが、本発明は、アナログフロントエンド処理の半導体集積回路装置だけでなく、サンプル/ホールド回路を有する半導体集積回路装置全般に適用することができる。
【0050】
図6は、サンプル/ホールド回路9の接続構成例を示したブロック図であり、図7は、サンプル/ホールド回路9を用いて構成されたA/D(Analog/Digital)変換器14の一例を示すブロック図である。
【0051】
図6では、サンプル/ホールド回路9の後段にバッファBが接続されており、該バッファBを介してサンプル/ホールド回路9から出力されたアナログ信号が出力される。
【0052】
また、図7では、サンプル/ホールド回路9の後段にA/DコンバータADCが接続されており、サンプル/ホールド回路9から出力されたアナログ信号がA/DコンバータADCに入力され、該A/DコンバータADCによってデジタル信号に変換される。そして、A/DコンバータADCから出力されたデジタル信号が、A/D変換器14の出力なる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、サンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間依存、およびサンプリング/ホールドばらつきの低減技術に適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態による半導体集積回路装置のブロック図である。
【図2】図1の半導体集積回路装置に備えられたサンプル/ホールド回路の構成を示す回路図である。
【図3】図2のサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係を示す説明図である。
【図4】本発明者が検討したサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係の一例を示す説明図である。
【図5】本発明者が検討したサンプル/ホールド回路におけるサンプリング期間とサンプリングオフセット電圧/ホールドオフセット電圧の関係の他例を示す説明図である。
【図6】本発明の他の実施の形態によるサンプル/ホールド回路の接続例を示したブロック図である。
【図7】本発明の他の実施の形態によるサンプル/ホールド回路を用いて構成されたA/D変換器の構成例を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0055】
1 半導体集積回路装置
2 インタフェース
3 RF系回路
4 Wobble/各種検出回路
5 サーボ系回路
6 APC回路
7 ピックアップ
8 DSP
9 サンプル/ホールド回路
10,11 抵抗
12 トランジスタ
13 静電容量素子
14A/D変換器
B バッファ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング動作を行うトランジスタと、
サンプル容量である静電容量素子と、
サンプリング期間にかかわらず、ホールドオフセット電圧とサンプリングオフセット電圧とを略等しくするオフセット電圧制限部とを備えたサンプル/ホールド回路を有したことを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体集積回路装置において、
前記オフセット電圧制限部は、
一方の接続部に入力信号が入力され、他方の接続部には、前記トランジスタの一方の接続部が接続された第1の抵抗と、
一方の接続部に前記トランジスタの他方の接続部が接続され、他方の接続部が前記サンプル/ホールド回路の出力部となり、前記他方の接続部と基準電位との間に前記静電容量素子が接続された第2の抵抗とよりなることを特徴とする半導体集積回路装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体集積回路装置において、
前記サンプル/ホールド回路は、
光ディスク装置のアナログフロントエンド処理に用いられることを特徴とする半導体集積回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−42372(P2008−42372A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211846(P2006−211846)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【Fターム(参考)】