説明

半導電性シームレスベルト

【課題】均一性に優れた電気特性を有する半導電性シームレスベルトを提供すること。
【解決手段】基材層形成用樹脂と第1の導電性材料とを含む管状の基材層と、該基材層の外周面側に設けられ、エラストマーと第2の導電性材料とを含む管状の弾性層と、該弾性層の外周面側に設けられ、離型層形成用樹脂とポリアニリンとを含む管状の離型層とを有する、半導電性シームレスベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電性シームレスベルトに関する。より詳細には、少なくとも基材層と弾性層と離型層とを有し、各層が導電性材料を含む、半導電性シームレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式で像を形成記録する画像形成装置としては、複写機やレーザープリンタ、ビデオプリンタやファクシミリ、それらの複合機等が知られている。この種の装置では、装置寿命の向上などを目的として、感光ドラム等の像担持体にトナー等の記録剤により形成された像を記録媒体上に直接定着させる方式を回避すべく、像担持体上の像を中間転写ベルトに一旦転写(一次転写)し、それを記録媒体上に転写(二次転写)してから定着を行う中間転写方式が検討されている。
【0003】
上記記録媒体は、代表的には紙であり、近年では、エンボス紙、和紙等の表面に凹凸を有する記録用紙も利用されている。そのため、様々な表面状態を有する記録用紙のそれぞれに対して高品位な画質を形成することが要求されている。該要求に対しては、中間転写ベルトに弾性層を設けて柔軟性を付与し、用紙表面の凹凸に追従させることにより、用紙の表面状態の違いに起因する転写の不均一性を抑制し、転写効率を向上することが提案されている(特許文献1、2、および3)。
【0004】
上記中間転写方式においては、トナーの受け渡しを電気的に行うことから、より高精細な画質を実現するためには、従来よりも均一性に優れた電気特性(例えば、体積抵抗率および表面抵抗率)を有する中間転写ベルトが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−25421号公報
【特許文献2】特開2009−25422号公報
【特許文献3】特許第3775769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところ
は、均一性に優れた電気特性を有する半導電性シームレスベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば半導電性シームレスベルトが提供される。該半導電性シームレスベルトは、基材層形成用樹脂と第1の導電性材料とを含む管状の基材層と、該基材層の外周面側に設けられ、エラストマーと第2の導電性材料とを含む管状の弾性層と、該弾性層の外周面側に設けられ、離型層形成用樹脂とポリアニリンとを含む管状の離型層とを有する。
好ましい実施形態においては、上記離型層形成用樹脂がフッ素系樹脂である。
好ましい実施形態においては、上記離型層形成用樹脂のガラス転移温度が50℃以下である。
好ましい実施形態においては、上記半導電性シームレスベルトの外周面の静摩擦係数が1以下である。
好ましい実施形態においては、上記離型層が第3の導電性材料をさらに含む。
好ましい実施形態においては、上記第1の導電性材料、第2の導電性材料、および第3の導電性材料が、カーボンブラックである。
好ましい実施形態においては、上記離型層が架橋剤をさらに含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導電性シームレスベルトは、離型層が導電性材料として分散性に優れたポリアニリンを含むので、均一性に優れた電気特性および優れた表面状態を有し得る。また、弾性層を有するので、用紙表面の凹凸に追従して、高品位な画質を形成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の好ましい実施形態における半導電性シームレスベルトの構成を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
A.半導電性シームレスベルト
図1は、本発明の好ましい実施形態による半導電性シームレスベルトの構成を説明する概略部分断面図である。本発明の半導電性シームレスベルト100は、基材層形成用樹脂と第1の導電性材料とを含む管状の基材層1と、該基材層の外周面側に設けられ、エラストマーと第2の導電性材料とを含む管状の弾性層2と、該弾性層の外周面側に設けられ、離型層形成用樹脂とポリアニリンとを含む管状の離型層3とを有する。基材層1は、半導電性シームレスベルトの最内周を形成する層であり、離型層3は、半導電性シームレスベルトの最外周を形成する層である。本発明の半導電性シームレスベルトは、必要に応じて、基材層と弾性層との間および/または弾性層と離型層との間にプライマー層(図示せず)をさらに有し得る。上記のとおり、基材層、弾性層、および離型層のそれぞれが導電性材料を含むことにより、所望の電気特性を有する半導電性シームレスベルトが得られ得る。さらに、離型層が分散性に優れたポリアニリンを含むことにより、ベルト内における電気特性のばらつきが低減され、表面状態(Rz、光沢度等)に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0011】
本発明の半導電性シームレスベルトは、接合部(フィルムを管状とした際に生じる接合部)を有さない。そのため、周長精度に優れ、良好な画像形成に寄与するとともに、耐久性にも優れる。
【0012】
本発明の半導電性シームレスベルトは、中間転写ベルトとして機能し得る電気特性を有する。具体的には、本発明の半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は、好ましくは1×10〜1×1012Ω/□、さらに好ましくは1×10〜1×1012Ω/□である。体積抵抗率は、好ましくは1×10〜1×1012Ω・cm、さらに好ましくは1×10〜1×1012Ω・cmである。電気特性がこのような範囲内であれば、優れたトナー転写性が得られ得る。該電気特性は、例えば、半導電性シームレスベルトを構成する各層に含まれる導電性材料の種類および含有量を調整することにより制御することができる。
【0013】
本発明の半導電性シームレスベルトの外周面の表面粗さ(10点平均粗さ、Rz)は、好ましくは5.0μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下である。Rzがこのような範囲内であれば、優れたトナー転写性および紙の分離性が得られ得る。その結果、高画質な画像を高速で形成することができる。Rzは、商品名「小形表面粗さ測定機 サーフテストSJ−301」(ミツトヨ社製)等の市販のRz測定機により求めることができる。
【0014】
本発明の半導電性シームレスベルトの外周面の光沢度は、好ましくは60度以上、さらに好ましくは70度以上である。光沢度がこのような範囲内であれば、優れたトナー転写性および紙の分離性が得られ得る。その結果、高画質な画像を高速で形成することができる。
【0015】
本発明の半導電性シームレスベルトの外周面の静摩擦係数は、好ましくは1以下であり、さらに好ましくは0.8以下である。静摩擦係数がこのような範囲内であれば、ベルト表面のベタつきが低減されるので、優れたトナー離型性が得られ得る。また、ブレード等のクリーニング部材との滑り性が良好となるので、優れたクリーニング性が得られ得る。静摩擦係数は、離型層形成用樹脂の種類を選択することや、離型層形成用樹脂を架橋させること等によって上記範囲に調整することができる。
【0016】
本発明の半導電性シームレスベルトの総厚みは、好ましくは10〜800μm、さらに好ましくは50〜600μmである。厚みがこのような範囲内であれば、強度や柔軟性等の機械的特性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0017】
B.基材層
基材層は、基材層形成用樹脂と第1の導電性材料とを含み、管状に成形されている。
【0018】
基材層形成用樹脂としては、機械的特性に優れた基材層を形成し得るものであれば、任意の適切な樹脂が採用され得る。具体例としては、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、およびポリフェニレンサルフィド系樹脂が挙げられる。なかでも、ポリイミド系樹脂が好ましい。優れた耐熱性と高い機械的強度を有するからである。
【0019】
上記ポリイミド系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。上記ポリイミド系樹脂としては、例えば、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物との共重合体が挙げられる。
【0020】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0021】
上記ジアミン化合物の具体例としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0022】
上記第1の導電性材料としては、基材層に所望の電気特性を付与し得るものであれば、任意の適切な材料が採用され得る。上記導電性材料の具体例としては、例えば、カーボンブラック等の各種カーボン;アルミニウム、ニッケル、銀、銅等の各種金属;酸化スズ、チタン酸カリウム等の各種無機化合物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;等が挙げられる。低コストを実現できるという点、取り扱い易いという点から、好ましくは、カーボンブラックである。
【0023】
上記カーボンブラックは、所望の電気特性に応じて任意の適切なものが採用され得る。上記カーボンブラックの具体例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。中抵抗から高抵抗域(例えば、表面抵抗率10〜1014Ω/□、体積抵抗率10〜1014Ω・cm)において制電性が必要である場合は、特にチャンネルブラックやファーネスブラックが好適に用いられる。上記カーボンブラックは、用途に応じて、酸化処理、グラフト処理等の処理を施してもよい。酸化処理を施せば、酸化劣化を防止することができ、グラフト処理を施せば、溶媒への分散性を向上させることができる。
【0024】
上記カーボンブラックは、市販品を用いてもよい。市販品のチャンネルブラックの具体例としては、デグサ・ジャパン社製の商品名「Color Black FW200」、「Color Black FW2」、「Color Black FW2V」、「Color Black FW1」、「Color Black FW18」、「Special Black 6」、「Color Black S170」、「Color Black S160」、「Special Black 5」、「Special Black 4」、「Special Black 4A」、「Printex 150T」、「Printex U」、「Printex V」、「Printex 140U」、「Printex 140V」等が挙げられる。市販品のファーネスブラックの具体例としては、デグサ・ジャパン社製の商品名「Special Black 550」、「Special Black 350」、「Special Black 250」、「Special Black 100」、「Printex 35」、「Printex 25」、三菱化学社製の商品名「MA 7」、「MA 77」、「MA 8」、「MA 11」、「MA 100」、「MA 100R」、「MA 220」、「MA 230」、キャボット社製、「MONARCH 1300」、「MONARCH 1100」、「MONARCH 1000」、「MONARCH 900」、「MONARCH 880」、「MONARCH 800」、「MONARCH 700」、「MOGUL L」、「REGAL 400R」、「VULCAN XC−72R」等が挙げられる。
【0025】
基材層中における第1の導電性材料の含有量は、所望の電気特性、機械的特性等に応じて適切に設定され得る。該含有量は、基材層形成用樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部である。第1の導電性材料の含有量がこのような範囲内であれば、機械的特性に優れ、所望の電気特性を有する半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0026】
基材層の厚みは、目的等に応じて適切に設定され得る。画像形成装置への組み込み等を考慮すると、該厚みは、好ましくは10〜300μm、さらに好ましくは30〜200μmである。また、このような厚みであれば、強度や柔軟性等の機械的特性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0027】
上記基材層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。基材層形成用樹脂としてポリイミド系樹脂を用いる場合、基材層は、例えば、(1)有機溶媒中に上記第1の導電性材料を分散させて、導電性材料分散液を調製し、(2)導電性材料分散液に上記テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体と上記ジアミン化合物を溶解させた後、重合反応を進行させることにより導電性材料分散ポリアミド酸溶液を調製し、(3)導電性材料分散ポリアミド酸溶液を円筒金型の周面に展開させた後に閉環イミド化反応を進行させることにより形成され得る。また、例えば、上記(1)および(2)の代わりに、導電性材料分散液とポリアミド酸溶液とをそれぞれ別に調製してから混合することにより、導電性材料分散ポリアミド酸溶液を得てもよい。円筒金型の周面に導電性材料分散ポリアミド酸溶液を展開させた後に閉環イミド化反応を進行させることによって、接合部(フィルムを管状とした際に生じる接合部)を有さないシームレスベルトの基材層を得ることができる。その結果、耐久性および周長精度に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【0028】
上記有機溶媒としては、上記導電性材料を分散させ得、重合反応系に対して不活性である限り、任意の適切な有機溶媒が用いられ得る。有機溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。なかでも、極性のアミド系溶媒である、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの極性のアミド系溶媒であれば、導電性材料の分散溶媒とポリアミド酸を生成する際の重合反応溶媒とを兼用することができる。また、低分子量のN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドであれば、蒸発、置換または拡散によりポリアミド酸及びポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。上記有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記有機溶媒には、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独でまたは2種以上を組み合わせて混合してもよい。
【0030】
上記導電性材料分散ポリアミド酸溶液には、さらに分散剤が添加されていてもよい。分散剤を含んでいれば、上記導電性材料と上記有機溶媒との親和性を高めることができる。
【0031】
上記分散剤は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な分散剤が採用され得る。上記分散剤の具体例としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピペリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等の高分子分散剤;界面活性剤;無機塩;等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記導電性材料の分散方法としては、任意の適切な分散方法を適用できる。当該分散方法として、例えば、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、超音波分散等の方法が挙げられる。分散状態を調べる方法としては、任意の適切な方法を適用できる。例えば、光学顕微鏡にて観察する方法が挙げられる。
【0033】
上記テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物とを重合反応させる際、好ましくは、触媒を添加する。当該触媒は、任意の適切な触媒が採用され得る。当該触媒の具体例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等が挙げられる。なかでも、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が好ましい。
【0034】
上記触媒の使用量は、ポリアミド酸前駆体溶液のアミド酸1モル当量に対して、好ましくは0.04〜0.4モル当量、より好ましくは0.05〜0.4モル当量である。触媒の添加量が0.04モル当量未満では触媒の効果が十分ではないおそれがある。また、触媒の添加量が0.4モル当量より多くても触媒添加効果の向上が見られないおそれがある。
【0035】
上記重合反応時のモノマー濃度(有機溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン化合物の濃度)は、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。
【0036】
上記重合反応時の反応温度は、好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは5〜50℃である。また、反応時間は、好ましくは0.5〜10時間である。
【0037】
上記導電性材料分散ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、好ましくは、B型粘度計で1〜1000Pa・s(25℃)である。溶液粘度がこのような範囲内であれば、円筒金型内に均一に溶液を展開することができ、厚みの均一な半導電性シームレスベルトを得ることができる。上記導電性材料分散ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、上記重合反応後に得られた導電性材料分散ポリアミド酸溶液をさらに加熱、攪拌すること、または、有機溶媒で希釈することにより調整することができる。当該加熱温度は、好ましくは、50〜90℃である。
【0038】
導電性材料分散ポリアミド酸溶液を円筒金型の周面に展開させる方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、ディスペンサー塗布方式、浸漬方式、遠心方式、注形型に充填する方式が挙げられる。好ましくは、回転遠心成形法により金型内周面に遠心力により展開させる遠心方法が用いられ得る。このような方法によれば、導電性材料分散ポリアミド酸溶液を均一に展開させることができる。また、円筒金型内の片端部付近に導電性材料分散ポリアミド酸溶液を供給した後、金型内に該金型と一定のクリアランスを有する走行体を走行させる方法や円筒金型と一定のクリアランスを有する孔内に、導電性材料分散ポリアミド酸溶液が外周の全面または一部に供給された円筒金型を通過させる方法を用いてもよい。
【0039】
円筒金型の周面に塗布された導電性材料分散ポリアミド酸溶液の閉環イミド化反応は、加熱によって行われる。該加熱により、溶媒の除去も行われ得る。
【0040】
上記加熱温度は、任意の適切な温度に設定され得る。好ましくは多段加熱方式が採用される。多段加熱方式においては、まず、80〜180℃程度の低温で加熱して溶媒を蒸発除去し、ついで250〜400℃程度に昇温して閉環イミド化反応を行うことが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて適宜に設定され得る。通常、低温加熱およびその後の高温加熱とも10〜60分程度である。このような多段加熱方式を用いれば、イミド転化に伴い発生する閉環水や溶媒の蒸発に起因する微小ボイドの発生を防止し得る。
【0041】
加熱方法としては、好ましくは、金型を回転させながら加熱する方法、高精度の熱風循環を用いる方法、低温で投入し昇温速度を小さくする方法およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。このような加熱方法によれば、ポリアミド酸溶液およびその乾燥物への加熱を均等に行うことができる。その結果、基材層の表面抵抗率および体積抵抗率を均一にすることができる。
【0042】
基材層形成用樹脂としてポリイミド系樹脂以外の樹脂を用いる場合、基材層は、例えば、樹脂を上記有機溶媒に溶解して樹脂溶液を調製し、該樹脂溶液と上記導電性材料分散液とを混合して導電性材料分散樹脂溶液を調製し、該導電性材料分散樹脂溶液を円筒金型の周面に展開させた後に有機溶媒を除去することにより形成され得る。
【0043】
C.弾性層
弾性層は、エラストマーと第2の導電性材料とを含み、管状に成形されている。該弾性層は、上記基材層の外周面側に設けられている。
【0044】
上記エラストマーとしては、任意の適切なエラストマーが採用され得る。エラストマーとは、一般に知られているように、弾性を示す高分子物質であり、外力により容易に変化するが、それを除くと直ちに原型にほぼ回復する力学的性質(ゴム弾性)を有する。
【0045】
上記エラストマーとしては、例えば、天然ゴムや合成ゴムなどの加硫ゴム;熱可塑性エラストマー;スパンデックスやポリカーボネート弾性繊維などの弾性繊維;スポンジゴムやフォームラバーなどの弾性発泡体;などが挙げられる。
【0046】
上記合成ゴムとしては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO、GECO、GPCO)、塩素化ポリエチレン(CM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM、FEPM、FFKM)、シリコーンゴム(MQ、PMQ)、多硫化ゴム(OT、EOT)、ホスファゼンゴム(FZ、PZ)などが挙げられる。
【0047】
上記熱可塑性エラストマーは、常温では加硫ゴムの性質を示し、高温では可塑化されて、プラスチック加工機で成形できる高分子材料であり、TPEと称される。上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロック共重合体(SIS)等のポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリウレタン系TPE、1,2−ポリブタジエン系TPE、ポリ塩化ビニル系TPE、ポリアミド系TPEなどが挙げられる。
【0048】
本発明においては、上記エラストマーが、硬化反応を必要とせずに得られるエラストマーであることが好ましく、SISであることがより好ましい。操作性に優れ、弾性層の電気特性の制御が容易になるからである。
【0049】
上記第2の導電性材料としては、弾性層に所望の電気特性を付与し得るものであれば、任意の適切な材料が採用され得る。具体例としては、第1の導電性材料として例示された材料と同様の材料が挙げられる。なかでも、カーボンブラックが好ましい。低コストを実現でき、取り扱い易いからである。
【0050】
弾性層中における第2の導電性材料の含有量は、所望の電気特性、機械的特性等に応じて適切に設定され得る。該含有量は、エラストマー100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部である。第2の導電性材料の含有量がこのような範囲内であれば、機械的特性に優れ、所望の電気特性を有する半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0051】
上記弾性層の厚みは、目的等に応じて適切に設定され得る。画像形成装置への組み込み等を考慮すると、該厚みは、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは50〜400μmである。また、このような厚みであれば、強度や柔軟性等の機械的特性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0052】
上記弾性層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、上記弾性層の形成材料を含む溶液(以下、「弾性層形成溶液」という)を上記基材層の外周面に展開する方法が挙げられる。弾性層形成溶液は、溶液状態のエラストマーに第2の導電性材料を分散したものであっても良いし、任意の適切な有機溶媒に上記形成材料を溶解または分散したものでも良い。管状の基材層の外周面に弾性層形成溶液を展開することによって、接合部(フィルムを管状とした際に生じる接合部)を有さないシームレスベルトの弾性層を得ることができる。その結果、耐久性および周長精度に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【0053】
上記弾性層形成溶液を基材層の外周面に展開する方法は、好ましくは、上記弾性層形成溶液を基材層の外周面に塗布する工程と、塗布後に乾燥および加熱する工程を含む。
【0054】
上記弾性層形成溶液を塗布する方法としては、例えば、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、刷毛塗り等の方法が挙げられる。
【0055】
上記スプレーコートに用いるガンとしては、均一な塗布が可能であることから、ノズル径の小さいガンが好ましい。当該ノズル径は、好ましくは、0.1〜2.0mmである。また、上記スプレーコート時のスプレー圧は、好ましくは、1.0〜5.0kg/cmである。
【0056】
上記弾性層形成溶液を塗布する際、基材層の内側に、形状保持のための円筒体を嵌挿してもよい。また、該溶液の塗布された基材層に円筒体を外挿配置させ、その状態から、上記円筒体または基材層を円筒体の軸方向に走行させるか、もしくは上記両者を互いに反対方向に走行させて塗布厚みを均一にしてもよい。
【0057】
上記弾性層形成溶液を塗布した後の加熱温度は、好ましくは20〜200℃であり、さらに好ましくは80〜150℃である。また、加熱時間は、好ましくは1分〜24時間である。
【0058】
上記弾性層を形成する際には、予め基材層表面に表面処理を施して、基材層と弾性層との密着性を向上してもよい。このような処理としては、例えば、アルカリ処理、プライマー処理、超音波処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線(UV)照射処理、電子線照射処理、レーザー処理が挙げられる。
【0059】
D.離型層
離型層は、離型層形成用樹脂とポリアニリンとを含み、管状に成形されている。該離型層は、上記弾性層の外周面側に設けられている。
【0060】
上記離型層形成用樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。離型性に優れることから、フッ素系樹脂が好ましく用いられる。フッ素系樹脂としては、液状(ディスパージョンを含む)のフッ素系樹脂が好ましい。
【0061】
上記フッ素系樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)等が挙げられる。上記フッ素系樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記離型層形成用樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは35℃以下である。一般に、ポリアニリンを含むことにより離型層が硬くなり、得られる半導電性シームレスベルトを屈曲させると、離型層にヒビ割れ、シワ等が発生する場合がある。しかしながら、離型層形成用樹脂のTgがこのような範囲内であれば、離型層表面の柔軟性が維持され得るので、ヒビ割れ、シワ等の発生が抑制されて、耐久性および転写性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0063】
上記離型層形成用樹脂は、離型層中において架橋していることが好ましい。離型層形成用樹脂が架橋構造を有することにより、離型層表面のベタつきが低減され、トナー離型性が向上し得る。
【0064】
上記ポリアニリンとしては、離型層に所望の電気特性を付与し得るものであれば、任意の適切なポリアニリンが採用され得る。例えば、脱ドープ状態のポリアニリンであってもよく、ドープ状態のポリアニリンであってもよく、自己ドープ型のポリアニリンであってもよい。ポリアニリンは、有機溶媒に溶解または分散した状態で樹脂と混合することができ、樹脂中への分散性に優れるので、ベルト内の電気特性のばらつきを低減することができる。また、優れた表面状態の半導電性シームレスベルトが得られ得る。有機溶媒としては、例えば、上記B項に記載の有機溶媒が用いられ得る。
【0065】
上記脱ドープ状態のポリアニリンとしては、好ましくは有機溶媒に可溶なポリアニリンが用いられ得る。有機溶媒に溶解してポリアニリン溶液とすることができ、樹脂と容易に混合し得るからである。好ましい具体例としては、特開平3−28229号に記載のポリアニリンが挙げられる。該ポリアニリンは、脱ドープ状態でN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒に可溶であり、樹脂との混合性に優れる。
【0066】
上記ドープ状態のポリアニリンは、任意の適切な脱ドープ状態のポリアニリンにドーパントを接触させてドープすることによって得られる。ドーパントは、好ましくはプロトン酸であり、さらに好ましくは酸解離定数 pKa値が4.8以下であるプロトン酸である。このようなプロトン酸の具体例としては、特開平3−28229号に記載のプロトン酸が挙げられる。ドープ状態のポリアニリンとしては、例えば、商品名「ORMECON(登録商標)」(日産化学社製)等の市販品を用いることもできる。
【0067】
上記自己ドープ型のポリアニリンは、分子構造内にドーパントとなる酸性基(例えば、スルホン基)を有するポリアニリンである。このようなポリアニリン(例えば、ポリアニリンスルホン酸)は、公知の方法によって得ることができる。また、例えば、ポリアニリンスルホン酸(三菱レイヨン社製)等の市販品を用いることもできる。
【0068】
上記離型層中におけるポリアニリンの含有量は、所望の電気特性、機械的特性等に応じて適切に設定され得る。該含有量は、離型層形成用樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部である。ポリアニリンの含有量がこのような範囲内であれば、機械的特性および表面状態に優れ、所望の電気特性を有する半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0069】
上記離型層は、好ましくは架橋剤をさらに含む。架橋剤を含むことにより、離型層形成用樹脂の架橋を進行させ得、トナー離型性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得るからである。架橋剤は、離型層形成用樹脂が有する官能基に応じて適切に選択され得る。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用量は、架橋剤および/または離型層形成用樹脂が有する官能基の含有量等に応じて適切に設定され得る。架橋密度が高いと離型層の柔軟性が低下する場合があり、架橋密度が低いと十分なトナー離型性が得られない場合があるからである。代表的には、架橋剤の使用量は、離型層形成用樹脂100重量部に対し、1〜40重量部である。
【0070】
上記離型層は、好ましくは第3の導電性材料をさらに含む。第3の導電性材料とポリアニリンとを組み合わせて用いることにより、離型層の電気特性を所望の範囲に容易に制御することができる。また、ポリアニリン単独で用いる場合に比べてその使用量を減少させ得るので、離型層表面の柔軟性を維持して、シワやヒビ割れの発生を防止し得るからである。第3の導電性材料としては、第1の導電性材料として例示された材料と同様の材料が挙げられる。なかでも、カーボンブラックが好ましい。低コストを実現でき、取り扱い易いからである。
【0071】
上記離型層中における第3の導電性材料の含有量は、所望の電気特性、機械的特性等に応じて適切に設定され得る。第3の導電性材料の含有量は、離型層形成用樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜40重量部であり、さらに好ましくは0.5〜30重量部である。また、ポリアニリン100重量部に対して、好ましくは1〜1000重量部、さらに好ましくは10〜800重量部である。
【0072】
上記離型層は、必要に応じて上記ドーパントをさらに含む。離型層がドーパントを含む場合、ポリアニリンがドープされて導電性を発揮するので、離型層形成後に導電化処理を施す必要がない。
【0073】
上記離型層の厚みは、目的等に応じて適切に設定され得る。画像形成装置への組み込み等を考慮すると、該厚みは、好ましくは0.5〜30μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。また、このような厚みであれば、離型性および機械的特性に優れた半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0074】
上記離型層の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、上記離型層の形成材料を含む溶液(以下、「離型層形成溶液」という)を上記弾性層の外周面に展開する方法が挙げられる。離型層形成溶液は、溶液状態の離型層形成用樹脂に他の材料を溶解または分散したものであっても良いし、有機溶媒に上記形成材料を溶解または分散したものでも良い。有機溶媒としては、例えば、上記B項に記載の有機溶媒が用いられ得る。管状の弾性層の外周面に離型層形成溶液を展開することによって、接合部(フィルムを管状とした際に生じる接合部)を有さないシ-ムレスベルトの離型層を得ることができる。その結果、耐久性および周長精度に優れるシームレスベルトを得ることができる。展開させる方法としては、例えば、上記弾性層形成溶液を基材層の外周面に展開する方法と同様の方法を用いることができる。
【0075】
必要に応じて、得られた離型層に導電化処理を施してもよい。導電化処理としては、例えば、上記ドーパントの溶液に浸漬することが挙げられる。
【0076】
E.プライマー層
本発明の半導電性シームレスベルトは、必要に応じて、上記基材層と弾性層との間および/または弾性層と離型層との間にプライマー層を有していてもよい。プライマー層を有することにより、層間の密着性を向上させることができる。プライマー層の形成材料としては、フッ素系プライマー、ポリイミド系プライマー等が挙げられる。フッ素系プライマーとしては、PR−990CL(三井デュポンフロロケミカル社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例等における、試験および評価方法は以下のとおりである。
【0078】
[電気特性]
1.表面抵抗率および体積抵抗率
ハイレスタにUP MCP−HT450(三菱化学社製、プローブ:UR)を用い、印加電圧500V、(なお、常用対数値で8.0以下は測定不可のため電圧を低下させ印加電圧10Vで測定)、10秒間の測定条件にて、25℃、60%RHでの表面抵抗率および体積抵抗率を測定した。ベルト表面の4箇所を測定し、平均値を常用対数値にて示した。
2.均一性評価:
測定した4箇所の表面抵抗率および体積抵抗率の常用対数値のばらつき(最大値−最小値)が0.5未満である場合を「○」、0.5以上1未満である場合を「△」、1以上である場合を「×」と評価した。
【0079】
[光沢]
半導電性シームレスベルトの外周面の光沢度を製品名「ハンディ型光沢計PG−1M」(日本電色工業社製)を使用して測定した。入射角20°で評価を行い、70度以上である場合を「○」、70度未満である場合を「×」と評価した。
【0080】
[静摩擦係数]
半導電性シームレスベルトの外周面の静摩擦係数を製品名「トライボギア ミューズTYPE:94i−II」(新東科学社製)を使用して測定した。
【0081】
[柔軟性評価]
半導電性シームレスベルトを複写機(リコー社製、製品名「imagio MP C3500」)に中間転写ベルトとして組み込んで、通常印刷時と同様の条件で印刷した後のベルト表面を目視で観察し、外周面に問題がない場合を「○」、シワが発生している場合を「△」、ヒビ割れが発生している場合を「×」と評価した。
【0082】
[実施例1]
(基材層の形成)
3000gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に乾燥したカーボンブラック(デグサ・ジャパン製、製品名「Printex V」)140.2gを添加し、ボールミルにて6時間、室温で攪拌することにより、カーボンブラック分散液を得た。
【0083】
得られたカーボンブラック分散液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)489.8gとp−フェニレンジアミン(PDA)179.9gとを溶解し、窒素雰囲気中において、室温で6時間反応させることにより、B型粘度計による溶液粘度が150Pa・sのカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液(カーボンブラックの添加量:ポリイミド樹脂に対して23重量%)を得た。
【0084】
内径300mm、長さ900mmの円筒金型(SUS製)の内面に上記カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液をディスペンサーで厚さ170μmに塗布後、1500rpmで10分間回転させて、均一な塗布面を得た。次いで、20rpmで回転させながら、金型の外側より130℃の熱風を30分間あてた後、5℃/分の昇温速度で350℃まで昇温し、更に350℃で15分間加熱することにより、溶媒の除去、脱水閉環水の除去、およびイミド化を行った。その後、室温まで冷却し、金型から剥離することにより、厚み75μmの半導電性ポリイミド樹脂管状体(基材層)を得た。
【0085】
(弾性層の形成)
SIS(日本ゼオン社製、製品名「クインタック3530」)にカーボンブラック(御国色素社製、製品名「MHIブラック」)15部を添加し、攪拌することにより、カーボンブラック分散液を得た。得られたカーボンブラック分散液を基材層としての上記半導電性ポリイミド樹脂管状体の外周面に、乾燥後の総厚が250μmとなるように塗布し、130℃まで15分間昇温・乾燥することにより、外周面に弾性層が設けられた半導電性ポリイミド樹脂管状体を形成した。
【0086】
(離型層の形成)
59.6gのトルエン中にフッ素系樹脂(旭硝子社製、製品名「ルミフロンLF600X」)20.0gとポリアニリンのキシレン溶液(日産化学工業社製、製品名「ORMECON NX−D103X」)6.3gとを添加して攪拌した。次いで、イソシアネート系架橋剤(DIC社製、製品名「バーノックDN−955」)4.4gを添加および攪拌して、離型層形成溶液(固形分濃度:15重量%)を得た。得られた離型層形成溶液において、フッ素系樹脂100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量は2重量部であった。該離型層形成溶液を、上記弾性層が設けられた半導電性ポリイミド樹脂管状体の外周面に均一にスプレーコートし、10分間風乾した。その後、130℃で20分間加熱して、溶媒の除去および架橋反応を進行させた。これにより、弾性層の外周面上に厚み5μmの離型層を形成して、半導電性シームレスベルトを得た。
【0087】
上記のようにして得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.82(logΩ/□)、体積抵抗率は9.53(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
イソシアネート系架橋剤の代わりに、メラミン系架橋剤(DIC社製、製品名「スーパーベッカミン J−820−60」)を用いて離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量:2重量部)を得たこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.31(logΩ/□)、体積抵抗率は9.24(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例3]
製品名「ルミフロンLF600X」(旭硝子社製)の代わりに、製品名「ルミフロンLF200」(旭硝子社製)を用い、さらに、イソシアネート系架橋剤(DIC社製、製品名「バーノックDN−955」)の代わりに、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、製品名「コロネートL」)を用いて離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量:2重量部)を得たこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.55(logΩ/□)、体積抵抗率は9.73(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例4]
以下のようにして離型層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は11.11(logΩ/□)、体積抵抗率は10.78(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(離型層の形成)
79.1gのトルエン中にフッ素系樹脂(旭硝子社製、製品名「ルミフロンLF200」)20.0gと、カーボンブラックのトルエン分散液(御国色素社製、製品名「MHIブラック♯210」)2.6gと、ポリアニリンのキシレン溶液(日産化学工業社製、製品名「ORMECON NX−D103X」)3.7gとを添加して攪拌した。次いで、イソシアネート系架橋剤(DIC社製、製品名「バーノックDN−955」)4.4gを添加および攪拌して、離型層形成溶液を得た。得られた離型層形成溶液において、フッ素系樹脂100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量は1重量部であり、カーボンブラックの固形分含有量は5重量部であった。該離型層形成溶液を、弾性層が設けられた半導電性ポリイミド樹脂管状体の外周面に均一にスプレーコートし、10分間風乾した。その後、130℃で20分間加熱して、溶媒の除去および架橋反応を進行させた。これにより、弾性層の外周面上に厚み5μmの離型層を形成した。
【0092】
[実施例5]
製品名「ルミフロンLF600X」(旭硝子社製)の代わりに、製品名「ルミフロンLF710F」(旭硝子社製)を用い、さらに、イソシアネート系架橋剤(DIC社製、製品名「バーノックDN−955」)の代わりに、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、製品名「コロネートL」)を用いて離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量:2重量部)を得たこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.20(logΩ/□)、体積抵抗率は9.71(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例1]
ポリアニリンのキシレン溶液(日産化学工業社製、製品名「ORMECON NX−D103X」)の代わりに、カーボンブラックのトルエン分散液(御国色素社製、製品名「MHIブラック♯210」)を用いて離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するカーボンブラックの固形分含有量:20重量部)を調製したこと以外は実施例5と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は10.63(logΩ/□)、体積抵抗率は10.89(logΩ・cm)であった。また、該半導電性シームレスベルトの各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1から分かるとおり、離型層がポリアニリンを含む場合、電気特性のばらつきが小さく、かつ、優れた表面状態の半導電性シームレスベルトが得られる。また、離型層の導電性材料としてポリアニリンまたはカーボンブラックを単独で用いる場合、1×10〜1×1012Ω/□の範囲の表面抵抗率および1×1010〜1×1012Ω・cmの範囲の体積抵抗率と均一性に優れた電気特性とを両立することが困難であるが、ポリアニリンとカーボンブラックとを併用することにより、これらを比較的容易に両立することができる。
【0096】
[実施例6]
S1Sの代わりにクロロプレンゴムを用いて弾性層を形成したこと、および、製品名「ルミフロンLF600X」(旭硝子社製)の代わりに、製品名「ルミフロンLF200」(旭硝子社製)を用いて離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量:2重量部)を得たこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.67(logΩ/□)、体積抵抗率は9.22(logΩ・cm)、外周面の静摩擦係数は、0.59であった。
【0097】
得られた半導電性シームレスベルトを複写機(リコー社製、製品名「imagio MP C3500」)に中間転写ベルトとして組み込み、普通紙を用いて出力画像の色がシアンのベタ塗りの条件で印刷試験を行った。結果を表2に示す。
【0098】
[実施例7]
S1Sの代わりにクロロプレンゴムを用いて弾性層を形成したこと、および、架橋剤を用いずに離型層形成溶液(フッ素系樹脂の固形分100重量部に対するポリアニリンの固形分含有量:2重量部)を得たこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率は8.73(logΩ/□)、体積抵抗率は9.22(logΩ・cm)、外周面の静摩擦係数は、1.5より大きかった。
【0099】
得られた半導電性シームレスベルトを複写機(リコー社製、製品名「imagio MP C3500」)に中間転写ベルトとして組み込み、普通紙を用いて出力画像の色がシアンのベタ塗りの条件で印刷試験を行った。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2に示されるとおり、外周面の静摩擦係数が小さい半導電性シームレスベルトは、トナー離型性に優れ、中間転写体として良好に機能することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の半導電性シームレスベルトは、複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成装置における、定着用ベルト、感光体基体用ベルト、中間転写用ベルト、紙搬送用ベルトおよび転写定着用ベルト等に好適である。
【符号の説明】
【0103】
1 基材層
2 弾性層
3 離型層
100 半導電性シームレスベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層形成用樹脂と第1の導電性材料とを含む管状の基材層と、該基材層の外周面側に設けられ、エラストマーと第2の導電性材料とを含む管状の弾性層と、該弾性層の外周面側に設けられ、離型層形成用樹脂とポリアニリンとを含む管状の離型層とを有する、半導電性シームレスベルト。
【請求項2】
前記離型層形成用樹脂がフッ素系樹脂である、請求項1に記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項3】
前記離型層形成用樹脂のガラス転移温度が50℃以下である、請求項1または2に記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項4】
外周面の静摩擦係数が1以下である、請求項1から3のいずれかに記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項5】
前記離型層が第3の導電性材料をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項6】
前記第1の導電性材料、第2の導電性材料、および第3の導電性材料が、カーボンブラックである、請求項5に記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項7】
前記離型層が架橋剤をさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載の半導電性シームレスベルト。

【図1】
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【公開番号】特開2011−118023(P2011−118023A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273263(P2009−273263)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【復代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
【Fターム(参考)】