説明

単室型真空熱処理炉及び単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法

【課題】短時間で効果的に結露を防止し、作業効率を向上させて良好な被処理品を得ることができる単室型真空熱処理炉及び単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法を提供する。
【解決手段】炉壁11に水冷ジャケット15が設けられ、該炉壁11により内部に被処理品Wの処理空間Sが形成された炉本体1と、炉本体1内に設置された被処理品Wを加熱する加熱装置2と、処理空間S内に冷却ガスを供給する冷却ガス供給装置3と、処理空間S内に設置された熱交換器52により前記冷却ガスを介して被処理品Wを冷却する第一の冷媒循環系と、前記処理空間内を減圧する減圧装置4と、冷却ジャケット15に冷媒Cを供給する第二の冷媒循環系とを備えた単室型真空熱処理炉Aにおいて、前記第二の冷媒循環系は、冷媒Cを加熱する冷媒加熱部65を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製品について例えば焼入れ等の熱処理を行う際に用いられる単室型真空熱処理炉及び単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、炉本体の開口部から該炉本体内に被処理品を装入設置し、前記開口部を閉塞したのち該炉本体内を真空引きすると共に、前記炉本体の炉壁に設けられた冷却ジャケット内に冷媒を供給して該炉壁を冷却し、前記被処理品を加熱してこれを加熱処理した後、前記炉本体内にガスを導入すると共に該冷却ガスを冷却して該被処理品を冷却し、その後前記開口部を開口させて前記被処理品を新たな被処理品に交換して順次被処理品の熱処理を行うものが知られている。
【0003】
このような装置は、被処理品の加熱処理中に炉壁が高温となって作業環境が悪化すること及び炉壁が劣化することを防止するために、炉壁に冷却ジャケットを設けてこの炉壁を冷却するものである。
【0004】
ところで、このような単室型真空熱処理では、真空熱処理後に炉扉を開いて被処理品を外部へ取り出す際に、冷却処理によって炉本体の内表面温度が外気温度より低いと、炉内に流入した外気中の水分が炉本体の内表面に結露する。そして、この状態で新たな被処理品を炉内に装入して加熱すると、真空熱処理中に結露した水滴が除々に気化して水蒸気となり、これが被処理品の表面を酸化して着色する。
【0005】
下記特許文献1には、被処理品の真空熱処理の真空熱処理の前工程及び/又は後工程として、炉扉を閉じたままで炉内に冷却ガスを循環させると共にこの冷却ガスを炉内に設けられた加熱装置で加熱し、炉内全体を水分の蒸発温度よりも十分高く被処理品が酸化・着色しない温度まで加熱して、炉本体の内表面への結露を防ぐことにより、被処理品への酸化及び着色を防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−10097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、炉本体の炉壁に設けられた冷却ジャケット内に冷媒が供給されているので、加熱した冷却ガスを循環させても炉本体の内表面の昇温に相当時間を要する。そのため、次の被処理品の処理を開始するまで待つ必要が生じ、結果として被処理品の処理効率が悪くなるという問題がある。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、短時間で効果的に結露を防止し、作業効率を向上させて良好な被処理品を得ることができる単室型真空熱処理炉及び単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、単室型真空熱処理炉に係る第一の解決手段として、炉壁に水冷ジャケットが設けられ、該炉壁により内部に被処理品の処理空間が形成された炉本体と、
前記炉本体内に設置された被処理品を加熱する加熱装置と、前記処理空間内に冷却ガスを供給する冷却ガス供給装置と、前記処理空間内に設置された熱交換器により前記冷却ガスを介して前記被処理品を冷却する第一の冷媒循環系と、前記処理空間内を減圧する減圧装置と、前記冷却ジャケットに冷媒を供給する第二の冷媒循環系とを備えた単室型真空熱処理炉において、前記第二の冷媒循環系は、前記冷媒を加熱する冷媒加熱部を備えている、という手段を採用する。
【0009】
単室型真空熱処理炉に係る第二の解決手段として、上記単室型真空熱処理炉の第一の解決手段において、前記第二の冷媒循環系が、前記冷却ジャケットに供給する冷媒を冷却する冷媒冷却部と、前記冷媒加熱部とを備えて構成され、前記冷媒の温度を計測するセンサと、該センサの出力信号に基づいて前記冷媒加熱部及び前記冷媒冷却部を制御する制御装置と、を備えてなる、という手段を採用する。
【0010】
単室型真空熱処理炉に係る第三の解決手段として、上記単室型真空熱処理炉の第二の解決手段において、前記炉本体が、その内部に前記被処理品を搬入・搬出する開口部を具備すると共に、該開口部を開閉する炉扉と、該炉扉による前記開口部の閉塞解除を行うロック機構とを備え、前記制御装置は、前記被処理品の冷却中に前記炉扉を閉塞すると共に冷却後に前記冷媒の温度を炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間で保持した場合に解除するロック機構制御部を備えている、という手段を採用する。
【0011】
単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法の第一の解決手段として、炉本体の開口部から該炉本体内に被処理品を装入かつ設置し、前記開口部を閉塞したのち該炉本体内を真空引きすると共に、前記炉本体の炉壁に設けられた冷却ジャケット内に冷媒を供給して該炉壁を冷却し、前記被処理品を加熱してこれを加熱処理した後、前記炉本体内に冷却ガスを導入すると共に該冷却ガスを冷却して前記被処理品を冷却し、その後前記開口部を開口させて前記被処理品を新たな被処理品に交換して順次被処理品の熱処理を行う単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法であって、前記被処理品の冷却後に前記冷媒を加熱して前記炉壁を昇温させることにより新たな被処理品の加熱処理時における水蒸気の発生を防止して該被処理品の酸化を防止する、という手段を採用する。
【0012】
単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法の第二の解決手段として、上記単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法の第一の解決手段において、前記冷媒の温度を炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間保持して、前記被処理品を装入及び/又は抽出する、という手段を採用する。
単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法の第三の解決手段として、上記単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法の第二の解決手段において、前記冷媒の温度が炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間保持されるまでは、前記炉本体の炉扉を閉じておく、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炉壁に設けられた冷却ジャケットに供給される冷媒を加熱する冷媒加熱部を備えるので、炉本体の内表面が直接的に昇温される。これにより、炉本体の内表面の結露が短時間で効果的に防止されると共に作業効率を向上させて良好な被処理品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る単室型真空熱処理炉Aの全体構成を示す図であり、図2は、図1におけるA−A線断面図である。なお、図1においては、加熱室Rを密閉した状態で図示しており、図2においては、加熱室Rを開放した状態で示している。
【0015】
図1に示すように、単室型真空熱処理炉Aは、炉本体1と、加熱装置2と、冷却ガス供給装置3と、減圧装置4と、冷却装置5と、冷媒循環系6と、制御装置8とを備えている。
【0016】
炉本体1は、炉壁11により内部に被処理品Wの処理空間Sが形成されたものであって、略円筒形状に形成されたものである。この炉本体1は、中心軸(円筒の中心軸)が水平となるように、周面に形成された脚部17が下側に位置するように床Fに設置されている。
【0017】
炉本体1は、容器胴部12と炉扉13とロック機構14と冷却ジャケット15とを備えている。
容器胴部12は、炉壁11aによって構成されて、一方の端部が開口部12aとなった略円筒形状のものであり、加熱装置2等を容器胴部12の内部に収容すると共に開口部12aから被処理品Wが装入・抽出される。図2に示すように、この容器胴部12の内部下方には、開口部12aから他方の端部近傍まで、炉本体1の中心軸方向に沿って互いに平行に形成された二つの平行床部12bが形成されている。また、開口部12aの周囲を囲む炉壁11aには、フランジ部12cが形成されている。
【0018】
炉扉13は、炉壁11bによって構成された略円盤形状のものであり、開口部12aを開口・閉塞するものである。この炉扉13の周縁には、開口部12aの閉塞時において、フランジ部12cと重なるように形成されたフランジ部13aが形成されている。
【0019】
ロック機構14は、炉扉13による開口部12aの閉塞解除を行うものである。具体的には、フランジ部12cとフランジ部13aとに係合するクランプリング14aとクランプリング14aを締め付ける駆動機構14bとからなり、フランジ部12cとフランジ部13aとを密着させた状態で強固固定し、容器胴部12を密閉することが可能である。
【0020】
冷却ジャケット15(15a、15b)は、処理空間Sを囲繞するように炉壁11(11a,11b)に設けられたものであり、それぞれ冷媒Cが供給される供給口15a1,15b1が備えられると共に冷媒Cを排出する排出口15a2,15b2が備えられている。なお、冷却ジャケット15a、15bは、直接的には連通しない独立のものである。
【0021】
加熱装置2は、平行床部12bに支持されて、容器胴部12内に収容されている。この加熱装置2は、車輪21の設けられた箱状断熱材22と、ヒータ26と、炉床27とを備えている。
車輪21は、箱状断熱材22によって構成される加熱室Rが平行床部12b上を炉本体1の中心軸方向に移動することができるように取り付けられたものである。
【0022】
箱状断熱材22は、セラミックファイバ製のものであり、加熱室Rを構成するように設けられている。すなわち、加熱室Rは、車輪21が設けられる床板22aと、開口部12a側に設けられた正面壁22bと、この正面壁22bと対向するように設けられた背面壁22cと、炉本体1の中心軸に沿うと共に互いに平行となるように設けられた側面壁22d、22eと、天板22fとから構成され、被処理品Wを収容可能である。
なお、この箱状断熱材22には、加熱室Rの温度を計測するための熱電対(不図示)が備えられており、この計測信号が制御装置8に伝送されるようになっている。
【0023】
また、正面壁22bには、被処理品Wの搬入搬出口23aが形成されると共にこれを開閉可能な加熱室扉23bが設けられている。さらに、床板22aには冷却ガス導入口24aが形成されると共にこれを開閉可能な床蓋24bが設けられており、天板22fには冷却ガス排出口25aが形成されると共にこれを開閉可能な天蓋25bが設けられている。
【0024】
床蓋24bは、炉外の下部に設けられた空気圧シリンダ24cによって鉛直に駆動され、また、天蓋25bは、炉外の側部に設けられた空気圧シリンダ25cによって水平に駆動される。なお、加熱室扉23bは、不図示の開閉装置によって開閉が行われる。
【0025】
このように、搬入搬出口23aを加熱室扉23bにより閉塞させた状態において、床蓋24b及び天蓋25bを閉じることにより加熱室Rが密閉されると共に、床蓋24b及び天蓋25bを開けることにより加熱室Rが外部と連通するようになっている。
【0026】
ヒータ26は、被処理品Wが加熱室Rに搬入された場合に被処理品Wを囲むように加熱室Rに設けられている。
炉床27は、炉本体1の中心軸に平行な複数の棒状部材から構成されており、床板22aに設けられている。
【0027】
冷却ガス供給装置3は、処理空間Sに冷却ガスGを供給するものであり、減圧装置4は、開口部12aから流入した外気を排気して処理空間Sを減圧するものである。
【0028】
冷却装置5は、送風機51と熱交換器52とを備えている。
送風機51は、冷却ガスGを送風する冷却ファン51aと、この冷却ファン51aを回動させるファンモータ51bを備えており、冷却ファン51aが炉内に、また、ファンモータ51bが炉外に位置するように炉本体1の上部に設けられている。
熱交換器52は、内部に冷媒Cが流れる複数の伝熱管を備えており、この複数の伝熱管が冷却ファン51aを囲むようにして、炉本体1における炉内上部に設けられている。
【0029】
冷媒循環系(第一の冷媒循環系、第二の冷媒循環系)6は、冷却ジャケット15と、熱交換器52と、冷媒槽61と、循環ポンプ62と、三方弁63と、並列的に配置される冷媒冷却部64及び冷媒加熱部65と、これらの間に順次配設される配管66(66a〜66m)とから概略構成されている。
【0030】
冷媒槽61は、冷媒Cの貯留槽として機能するものであり、常に一定の冷媒Cが貯留されているように構成されている。なお、本実施形態においては、冷媒Cとしてオイルを用いている。
この冷媒槽61には、冷媒槽61に貯留した冷媒Cの温度が計測されるように熱電対71が備えられており、制御装置8に出力信号を継続的に供給するようになっている。
【0031】
循環ポンプ62は、配管66aにより冷媒槽61と連通しており、冷媒槽61に貯留された冷媒Cを配管66bに送出する。
三方弁63は、電動式のものであり、配管66bと、冷媒冷却部64に連通する配管66cと、冷媒加熱部65に連通する配管66dとが接続されている。すなわち、この三方弁63を動作させることにより、循環ポンプ62から送出された冷媒Cの系路を配管66c又は配管66dのいずれかに切り換えることができる。
【0032】
冷媒冷却部64は、配管66cから流入した冷媒Cと熱交換を行って冷媒Cを冷却するものであり、この冷却された冷媒Cが流出する配管66eと連通する。
冷媒加熱部65は、配管66dから流入した冷媒Cと熱交換を行って冷媒Cを加熱するものであり、この加熱された冷媒Cを流出する配管66fと連通する。
【0033】
配管66eと配管66fとは、連通して一つの配管を構成した後に、三つの配管に分岐する。すなわち、ジャケット15aの供給口15a1に接続された配管66gと、ジャケット15bの供給口15b1に接続された配管66hと、熱交換器52に接続される配管66iに分岐する。
【0034】
そして、配管66g,配管66hからそれぞれ冷却ジャケット15a,15bに流入した冷媒Cは、処理空間Sを囲繞する冷却ジャケット15内を流れた後に、排出口15a2,15b2からそれぞれ配管66j,66kに流入して、これら配管66j,66kと連通する冷媒槽61に貯留されるようになっている。同様に、熱交換器52の伝熱管を流れた冷媒Cは、配管66mを介して冷媒槽61に貯留されるようになっている。
このようにして冷媒循環系6が構成されている。
【0035】
制御装置8は、加熱装置2と、冷却ガス供給装置3と、減圧装置4と、冷却装置5と、冷媒循環系6の循環ポンプ62の動作を制御するものである。
例えば、制御装置8は、被処理品Wの加熱処理時において、ヒータ26に通電して所望の温度まで被処理品Wを加熱し、また、冷媒Cが冷却されるように循環系路を配管66cとすると共に冷媒冷却部64を作動させて冷媒Cを冷却する。同様に、冷却処理時において、炉内温度よりも設定温度が高い場合には、冷媒Cを冷却する。なお、加熱処理及び冷却処理の温度や時間は、被処理品Wの金属の種類及び熱処理の種類によって適宜変更される。
【0036】
この制御装置8は、被処理品Wの冷却処理後から新たな被処理品Wの装入を完了させるまでの間、冷媒Cの温度が設定温度tよりも低い場合に冷媒Cを昇温させる。具体的には、三方弁63を動作させて冷媒循環系を配管66dに切り換えると共に、冷媒加熱部65を作動させて冷媒を加熱する。なお、この冷媒Cの設定温度tは、一般に炉本体1の内表面の結露を有効に防止することができる温度(外気温を10℃程度上回る温度)に設定されている。また、外気温は炉外に設けられた温度センサ(不図示)から出力信号が制御装置8に供給されるようになっている。
【0037】
さらに、この制御装置8は、ロック機構制御部81を備えている。このロック機構制御部81は、被処理品Wの冷却中に炉扉13を閉塞すると共に冷却後に冷媒Cの温度を設定温度t以上、かつ、所定の時間Tで保持した場合に解除するものである。
【0038】
次に、上記構成からなる単室型真空熱処理炉Aの動作について説明する。図3は、この単室型真空熱処理炉Aの処理工程の一部を抜粋したものである。なお、以下の説明では、複数の被処理品Wの焼き入れを行う場合について説明し、この熱処理前の直近の熱処理からは十分に時間が経過して、炉内温度が外気温と同一となっている。また、冷媒Cは常に冷媒循環系6を循環しているものとする。
【0039】
まず、炉扉13を開いて開口部12aを開口し、加熱室Rを外部に露出させて、加熱室扉23bを開き搬入搬出口23aを開口する。
【0040】
次に、被処理品Wが炉床27と略同一の高さに載置された装入抽出台を開口部12aに突き合わせる。そして、被処理品Wを加熱室Rの内部に装入した後、装入抽出台を開口部12aから離間させると共に加熱室扉23bを閉じて、搬入搬出口23aを閉じる。さらに、フランジ部13aをフランジ部12cに重ね合わせるように炉扉13を閉じ、駆動機構14bによりクランプリング14aを締め付け、容器胴部12を密閉する。
【0041】
次に、減圧装置4を作動させて処理空間Sを減圧する。この際、加熱室Rにおける床板22aの冷却ガス導入口24aと、天板22fの冷却ガス排出口25aとは、開口した状態である。そして、所定の真空度となった後に空気圧シリンダ24c,25cを作動させて、床蓋24b、天蓋25bを駆動し、冷却ガス導入口24a、冷却ガス排出口25aをそれぞれ閉塞する。
【0042】
次に、ヒータ26に通電することにより被処理品Wを所定の温度、かつ、所定の時間で加熱する。この際、炉壁11及び熱交換器52がヒータ26からのふく射によって加熱されることにより冷媒Cの温度が上昇するので、冷媒循環系6の系路を配管66cとした上で冷媒冷却部64を作動させて冷媒Cを冷却し、炉壁11を冷却する。
【0043】
加熱処理後、再び空気圧シリンダ24c,25cを作動させて、床蓋24b、天蓋25bを駆動し、冷却ガス導入口24a、冷却ガス排出口25aをそれぞれ開口させると共に冷却ガス供給装置3を作動させて冷却ガスGを供給する(図2参照)。
【0044】
同時に冷却装置5を駆動させて、冷却ガスGを処理空間Sに循環させる。この際、冷却ガスGは、熱交換器52の伝熱管内部に流れる冷媒Cと熱交換を行うことにより冷却され、冷媒Cが冷却ガスGから受け取った熱は、冷媒冷却部64により放熱される。なお、加熱室Rにおいては、冷却ガス導入口24aから炉床27を通過して冷却ガス排出口25aから排出されるように循環する。
【0045】
冷却処理完了を検知(ステップS1)した制御装置8は、冷媒Cの温度を計測すると共に冷媒Cの温度が設定温度tよりも高いか否か判断する(ステップS2)。
ステップS2の判断が「No」の場合、すなわち、冷媒Cの温度が設定温度tを下回っている場合には、三方弁63による冷媒循環系6の系路が配管66cであるか判断する(ステップS3)。
【0046】
ステップS3の判断が「Yes」の場合には、三方弁63を作動させて冷媒循環系6の系路を配管66dの方向に切り換える(ステップS4)。本実施形態では、上述したように炉壁11及び冷却ガスGを冷却するために冷媒循環系6の系路を配管66cとした上で冷媒冷却部64を作動させていたので、三方弁63を作動させて冷媒循環系6の系路を配管66dの方向に切り換える。
【0047】
ステップS4の後またはステップS3の判断が「No」の場合には、冷媒Cを加熱して冷媒Cを所定の温度となるまで加熱する(ステップS5)。つまり、冷媒加熱部65で加熱した冷媒Cが冷却ジャケット15に供給されて、炉本体1の内表面及び熱交換器52が直接的に昇温される。なお、この際、冷却ガスGは、循環したままである。
その後、再びステップS2の判断を行う。
【0048】
ステップS2の判断が「Yes」の場合には、制御装置8のロック機構制御部81は、所定の時間、冷媒Cが設定温度t以上であるか否かを判断する(ステップS6)。なお、この所定の時間は、冷却ガスGが熱交換器52及び炉壁11に暖められて、この冷却ガスGにより炉内温度が外気温以上となる時間が設定されている。
【0049】
ステップS6の判断が「No」の場合には、再びステップS2の判断をする。
ステップS6の判断が「Yes」の場合には、炉内が大気圧となっていることを前提に、ロック機構14の駆動機構14bを動作させてクランプリング14aの締め付けを解除する(ステップS7)。
【0050】
ロック機構14が解除された後、炉扉13を開けると共に開口部12aを開放し、加熱室Rの加熱室扉23bを開いて搬入搬出口23aを開口させる(ステップS8)。この際、炉本体1の内表面や熱交換器52の他、加熱室Rやファン51aも設定温度となっている。
【0051】
その後、装入抽出台を再度炉床27に突き合わして、焼き入れ処理した被処理品Wを抽出し、新たな被処理品Wを装入までの間、制御装置8は、継続的に冷媒Cの温度を設定温度t以上とするため、ステップS2〜S5と同様の判断を繰り返す(ステップS9〜12)。
【0052】
つまり、開口部12aが開口している間は、炉本体1の内表面や熱交換器52は、設定温度t以上に保温されると共に、加熱室Rやファン51aも設定温度近傍の温度となっているので、炉内に外気が流入したとしても結露しない。
【0053】
その後、新たな被処理品Wを加熱室Rに装入した後(ステップS13)、加熱室扉23bと炉扉13とを再度閉じて、上記と同様にして熱処理を開始する。この際、ヒータ26により被処理品Wを加熱しても、炉本体1の内表面や熱交換器52の他、加熱室Rやファン51aに結露が生じていないので、炉内に水蒸気が発生することはない。
【0054】
同時に、三方弁63による冷媒循環系6の系路が配管66cであるか判断し(ステップS14)、ステップS14の判断が「Yes」の場合には処理を終了し、ステップS14の判断が「No」の場合には加熱処理時に冷媒Cを冷却するために冷媒循環系6の系路を配管66cに切り換え(ステップS15)、処理を終了する。
【0055】
新たな被処理品Wは、炉内に水蒸気が発生していないので、その表面が酸化せず、また、これによる着色も生じることなく、熱処理が完了される。
【0056】
以上説明した通り、本単室型真空熱処理炉Aによれば、冷媒循環系6に冷媒Cを加熱する冷媒加熱部65を備えるので、炉本体1の内表面が直接的に昇温される。これにより、炉本体1の内表面の結露が短時間で効果的に防止されると共に作業効率を向上させて良好な被処理品Wを得ることが可能となる。
【0057】
また、冷媒Cの温度を計測する熱電対71と、熱電対71の出力信号に基づいて冷媒加熱部65及び冷媒冷却部64を制御する制御装置とを備えるので、加熱処理時と冷却処理時と分けて、適宜冷媒Cの温度を変更することが可能になると共に、冷却処理終了後から新しい被処理品Wを装入するまでの間の冷媒Cの温度を変更することも可能となる。
【0058】
また、制御装置8が被処理品Wの冷却中に炉扉13を閉塞すると共に冷却後に冷媒Cの温度を設定温度t以上、かつ、所定の時間Tで保持した場合に解除するロック機構制御部81を備えるので、炉内温度を所望の温度に調整して炉本体1の内表面及び熱交換器52以外の結露を有効に防止することができる。さらに、冷却終了後に炉内温度が所望の温度以上になる前に、誤って炉扉13を開けることを完全に防止することができる。
【0059】
また、冷媒Cにオイルを用いているので、水を冷媒として用いた場合に発生するスケールの蓄積を防ぐことができる。
【0060】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や材質、その組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、本実施形態では、冷却ジャケット15と熱交換器52とを冷媒循環系6として共通のものとして構成したが、これらを独立した構成としても構わない。
【0061】
また、本実施形態では、三方弁63を設けて冷媒冷却部64と冷媒加熱部65とを並列的に配置して構成したが、三方弁63を設けずに直列的な配置としてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、冷媒Cにオイルを用いたが、冷却水であってもよいのは勿論である。
また、本実施形態では、箱状断熱材22に車輪21を設けたが、これは加熱室Rのメンテナンス性を向上するために設けたものであり、必ずしも設ける必要はない。
【0063】
また、本実施形態では、冷媒Cは絶えず冷媒循環系6を循環している構成としたが、例えば、被処理品Wの加熱処理中に熱交換器52への冷媒Cの供給を中断してもよいし、冷却処理中に冷却ジャケット15への冷媒Cの供給を中断する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の一実施形態における単室型真空熱処理炉Aの全体構成を示す図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】この発明の第一実施形態における単室型真空熱処理炉Aの処理工程の一部を抜粋したものである。
【符号の説明】
【0065】
1…炉本体
2…加熱装置
3…供給装置
4…減圧装置
5…冷却装置
6…冷媒循環系
8…制御装置
11(11a、11b)…炉壁
12a…開口部
13…炉扉
14…ロック機構
15(15a,15b)…冷却ジャケット
52…熱交換器
64…冷媒冷却部
65…冷媒加熱部
71…熱電対(センサ)
81…ロック機構制御部
A…単室型真空熱処理炉
C…冷媒
G…冷却ガス
S…処理空間
W…被処理品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁に水冷ジャケットが設けられ、該炉壁により内部に被処理品の処理空間が形成された炉本体と、
前記炉本体内に設置された被処理品を加熱する加熱装置と、
前記処理空間内に冷却ガスを供給する冷却ガス供給装置と、
前記処理空間内に設置された熱交換器により前記冷却ガスを介して前記被処理品を冷却する第一の冷媒循環系と、
前記処理空間内を減圧する減圧装置と、
前記冷却ジャケットに冷媒を供給する第二の冷媒循環系とを備えた単室型真空熱処理炉において、
前記第二の冷媒循環系は、前記冷媒を加熱する冷媒加熱部を備えていることを特徴とする単室型真空熱処理炉。
【請求項2】
前記第二の冷媒循環系は、前記冷却ジャケットに供給する冷媒を冷却する冷媒冷却部と、前記冷媒加熱部とを備えて構成され、
前記冷媒の温度を計測するセンサと、該センサの出力信号に基づいて前記冷媒加熱部及び前記冷媒冷却部を制御する制御装置と、を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の単室型真空熱処理炉。
【請求項3】
前記炉本体は、その内部に前記被処理品を搬入・搬出する開口部を具備すると共に、該開口部を開閉する炉扉と、該炉扉による前記開口部の閉塞解除を行うロック機構とを備え、
前記制御装置は、前記被処理品の冷却中に前記炉扉を閉塞すると共に冷却後に前記冷媒の温度を炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間で保持した場合に解除するロック機構制御部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の単室型真空熱処理炉。
【請求項4】
炉本体の開口部から該炉本体内に被処理品を装入かつ設置し、前記開口部を閉塞したのち該炉本体内を真空引きすると共に、前記炉本体の炉壁に設けられた冷却ジャケット内に冷媒を供給して該炉壁を冷却し、前記被処理品を加熱してこれを加熱処理した後、前記炉本体内に冷却ガスを導入すると共に該冷却ガスを冷却して前記被処理品を冷却し、その後前記開口部を開口させて前記被処理品を新たな被処理品に交換して順次被処理品の熱処理を行う単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法であって、
前記被処理品の冷却後に前記冷媒を加熱して前記炉壁を昇温させることにより新たな被処理品の加熱処理時における水蒸気の発生を防止して該被処理品の酸化を防止することを特徴とする単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法。
【請求項5】
前記冷媒の温度を炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間保持して、前記被処理品を装入及び/又は抽出することを特徴とする請求項4に記載の単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法。
【請求項6】
前記冷媒の温度が炉外周囲の気温以上、かつ、所定の時間保持されるまでは、前記炉本体の炉扉を閉じておくことを特徴とする請求項5に記載の単室型真空熱処理炉における被処理品の酸化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−216344(P2009−216344A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62557(P2008−62557)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】