説明

単気筒4サイクルエンジン

【課題】 1つのセンサで正規の点火と捨て火を判別でき低コストな単気筒4サイクルエンジンを提供すること。
【解決手段】 クランク軸10と、クランク軸10に固定された回転数検出プーリー20と、回転数検出プーリー20からパルス信号波形31を生成する1つのパルス発生器30と、パルス信号波形31からパルス整形波形41を生成するパルス波形整形回路40と、パルス整形波形41から圧縮工程と排気工程の識別を行い点火制御を行う制御回路50とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単気筒4サイクルエンジンの点火制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の単気筒4サイクルエンジンの点火制御では、クランク軸の回転数1回転に1回のクランク角検出用パルスと、フライホイールの歯車を計測する角速度検出用パルスの2つのパルス信号を用いて、クランク角の位置と角速度から点火タイミングを演算により導きだして、正確な点火時期制御、および、正規の点火と捨て火の判別をするものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、クランク軸のクランク角検出パルスを、1回転あたり3パルス以上とし、360°の回転速度と1回転内での連続するパルスの間隔からクランク軸の角速度を補正して最適な点火時期を算出するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−226367号公報
【特許文献2】特開2002−25719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の従来技術では点火時期制御および正規の点火と捨て火を判別するために、角速度を検出するためのセンサとクランク角を検出するセンサの2つのセンサが必要であり、センサの取り付けスペースの問題、センサが2つ必要なためコストが高くなる問題があった。
【0005】
また、特許文献2の従来技術ではクランク角を複数パルスで検出する事により正確な点火時期制御は可能であるが、正規の点火と捨て火の判別が困難な問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、1つのセンサで正規の点火と捨て火を判別できる低コストな単気筒4サイクルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、クランク軸と、前記クランク軸に固定され外周部分に複数の歯を備えた回転数検出プーリーと、前記回転数検出プーリーの複数の前記歯からパルス信号を生成する1つのパルス発生器と、前記パルス信号からパルス整形波形を生成するパルス波形整形回路と、前記パルス整形波形から圧縮工程と排気工程の識別を行い点火制御を行う制御装置と、を備える。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記圧縮工程と前記排気工程の識別は、燃焼サイクル内でのパルス周期の違いから求める、ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、前記回転数検出プーリーの複数の前記歯は、円周方向の長さが他と異なる歯を備える、ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、前記回転数検出プーリーの複数の前記歯は、周期が他と異なる歯を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明では、圧縮工程と排気工程のパルス周期の違いから1つのパルス発生器により正規の点火と捨て火の判別が可能になる。したがってセンサの取り付けが1つでよいため従来の2つのセンサを用いる場合と比較して取り付けスペースが少なくなり、またセンサが1つのためコストを低減できる。
【0012】
また、圧縮工程と排気工程の識別ができるため、正規の点火と捨て火を判定して、捨て火を除去する事により点火プラグを長寿命化することができる。特にコージェネレーションシステムの様に、連続運転時間が長く長期の寿命が要求されるエンジンに有効である。
【0013】
また、捨て火のタイミングでの点火コイルおよび点火プラグへの通電を行わないことにより、エネルギーロスを低減することができる。特にコージェネレーションシステムの様に、省エネルギー性が要求される機器において運転中のエネルギーロス低減できる。また、クランク軸で検出したパルスを1サイクル(2回転(720°CA))分監視し、パルス間隔の平均からエンジン回転数とクランク軸の角度を算出することで、1サイクルでの回転変動が大きい単気筒4サイクルエンジンにおいて、精度の良い点火時期を得る事ができる。
【0014】
また、本発明では1個のパルス信号からエンジン回転数とクランク角を同時に検出することができ、エンジン回転数制御と点火時期制御を実現できる。
【0015】
また、正規の点火と捨て火の判定を毎360°CAにて行い、負荷変動や失火により急激な回転変動があった場合には、捨て火判定を解除して毎360°CAに点火を行い、再び回転が安定したところで捨て火判定を行うことで、誤判定によるエンジン停止を防止できる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明では、圧縮工程と排気工程の燃焼サイクル内でのパルス周期の違いに着目して、圧縮工程時間>排気工程時間、圧縮工程時間―排気工程時間>判定基準時間差、となることを演算により判別することで、1つのパルス発生器で正規の点火と捨て火の判別が可能になる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明では、回転数検出プーリーの複数の歯に、円周方向の長さが他と異なる長歯または短歯を備えることで、連続する2パルスのDUTY比(パルス幅/周期)を計算して長パルスと短パルスを識別し、長パルスの次の短パルスの立ち上がりがエンジン始動時の最適点火位置となる様に調整し、エンジン回転数により最適な点火タイミングを演算により補正することができる。例えば、クランク軸を1回転あたり4パルス以上の等間隔のパルス(内1パルスは他のパルスとDUTY比が異なる)で検出する。
【0018】
また、請求項4に記載の発明では、回転数検出プーリーの複数の歯に、周期が他と異なる歯を備えることで、DUTY比は同じでも、パルス周期が他のパルス周期と1箇所だけ異なるため、エンジン始動時の最適点火位置となる様に調整し、エンジン回転数により最適な点火タイミングを演算により補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する
図1は、本発明の単気筒4サイクルエンジン1の説明図である。単気筒4サイクルエンジン1は、点火プラグ2と、バルブ3と、シリンダ4内を往復運動するピストン5と、ピストン5からの往復運動を回転運動に変換するクランク軸10と、クランク軸10に固定された回転数検出プーリー20と、回転数検出プーリー20からパルス信号を生成する1つのパルス発生器30を備える。
【0020】
図2は、回転数検出プーリー20の詳細を示す説明図である。回転数検出プーリー20は、クランク軸10に固定され外周部分に3つの短歯21と、円周方向の長さが短歯21より長い1つの長歯22を備える。
【0021】
図3は、パルス発生器30で発生するパルス信号波形31と、パルス波形整形回路40(図7)で整形されたパルス整形波形41を示す図である。クランク軸10が回転するとパルス発生器30は、回転検出プーリー20の短歯21、長歯22が近づいた時に正電圧32を発生し、回転検出プーリーの短歯21、長歯22が離れた時に負電圧33を発生する。パルス信号波形31をパルス整形回路40にてパルス整形波形41に変換する。このパルス整形波形41の周期およびDUTY比から長歯と短歯を判別する。
【0022】
図4は、図2の回転数検出プーリー20の変形例を示す説明図である。回転数検出プーリー20aの外周部分に3つの長歯22と、1つの短歯21を備える構成である。
【0023】
図5は、図2の回転数検出プーリー20の変形例を示す説明図である。回転数検出プーリー20bの外周部分に4つ同じ周期の短歯21と、周期の異なる1つの短歯24を備える。図4、図5においても、図2の回転検出プーリーと同様の効果が得られる。
【0024】
図6は、単気筒4サイクルエンジン1の圧縮工程、燃焼工程、排気工程、吸気工程におけるパルス整形波形を示す説明図である。単気筒4サイクルエンジンの各工程とパルス整形波形の特徴でもある1回の燃焼サイクル内(720°CA)での回転の違いを利用して、圧縮工程と排気工程の識別を行う。圧縮工程ではシリンダ4内のガスをピストン5で圧縮するため、クランク軸10の回転は遅くなる。排気工程では、バルブ3が開いているためガスの圧縮がなく、クランク軸10の回転は圧縮工程と比べて速くなる。長歯22の立ち上がりパルスから短歯21の立ち上がりパルスまでの時間計測から、圧縮工程か排気工程かを判別し、圧縮工程と判別した場合は正規の点火を行い、排気工程と判別した場合は捨て火として点火は行わない。
【0025】
同時に、1サイクル(720°CA)のパルス周期を平均化してエンジン回転数を算出する事により1サイクル内での速度の違いによる影響を除去したエンジン回転数を算出して回転数制御および点火時期の補正に利用する。
【0026】
図7は、制御装置50の制御フローである。S1のパルス発生器30のパルス信号波形41はS3でパルス信号波形41の周期からエンジン回転数検出が行われ、S4でエンジン回転数制御が行われ、S5でスロットル制御が行われる。S9でパルス整形波形41からクランク角度検出を行い、S10で点火タイミング検出を行う。S6で、S3で検出したエンジン回転数と、S9で検出したクランク角度から、クランク角の角速度を検出し、圧縮工程か排気工程かが判別される。S7で、S10で検出した点火タイミングと、S4の回転数制御と、S6で検出したクランク角の角速度と、圧縮工程か排気工程かの判別と、を総合的に判断して点火タイミング補正演算を行い、S8にて、圧縮工程において正規の点火を行う。
【0027】
図8は、エンジンの状態判別処理の制御フローである。 エンジン始動時の初期点火において排気工程で気筒内の未燃ガスに着火してエンジンが逆回転してしまうことを防止するために、スタータによる回転数が規定回転数を超えるまでは点火を行わないように制御する。S11でスタータ始動後1サイクル(720°CA)が経過したか判断し、1サイクル以上の場合、S12でエンジン回転数を算出する。S13でエンジン回転数が点火許可回転数以上か判断し、点火許可回転数以下の場合は点火をしないで(S14)処理を終了する。点火許可回転数以上の場合(S15)点火を許可し、S16で捨て火判定処理を行う。
【0028】
図9は、捨て火判定処理フローである。負荷の変動や失火などにより急激にエンジン回転数が変動した場合には圧縮工程と排気工程の各速度の差を明確に識別できない場合があるため、エンジンの燃焼サイクルが2サイクル(1440°CA)の間の回転変動量が規定値を超えた場合には捨て火判定を解除して毎サイクル(360°CA)毎に点火を行い、誤判定によるエンジン停止を防止する。S21でエンジン回転変動が規定以上が判断し、規定以上である場合には、S22で捨て火判定を解除する。S21でエンジン回転変動が規定以下の場合、S23で圧縮工程時間と排気工程時間の時間差が規定以上か判断する。規定以上の場合、S24で捨て火判定有りとして捨て火の制御を行う。規定以下の場合はS22捨て火判定を解除して、誤判定によるエンジン停止を防止する。
【0029】
本願発明では、圧縮工程と排気工程のパルス周期の違いから1つのパルス発生器により正規の点火と捨て火の判別が可能になる。したがってセンサの取り付けスペースが1つでよいため従来の2つのセンサを用いる場合と比較して取り付けスペースが少なくなり、またセンサが1つのためコストを低減できる。
【0030】
また、圧縮工程と排気工程の識別ができるため、正規の点火と捨て火を判定して、捨て火を除去する事により点火プラグ2を長寿命化することができる。また、捨て火のタイミングでの点火コイルおよび点火プラグ2への通電を行わないことにより、エネルギーロスを低減することができる。また、パルス発生器30で検出したパルスを1サイクル(2回転(720°CA))分監視し、パルス間隔の平均からエンジン回転数とクランク軸10の角度を算出することで、1サイクルでの回転変動が大きい単気筒4サイクルエンジン1において、精度の良い点火時期を得る事ができる。
【0031】
また、本発明では1個のパルス信号からエンジン回転数とクランク角を同時に検出することができ、エンジン回転数制御と点火時期制御を実現できる。
【0032】
また、正規の点火と捨て火の判定を毎360°CAにて行い、負荷変動や失火により急激な回転変動があった場合には、捨て火判定を解除して毎360°CAに点火を行い、再び回転が安定したところで捨て火判定を行うことで、誤判定によるエンジン停止を防止できる。
【0033】
また、圧縮工程と排気工程の燃焼サイクル内でのパルス周期の違いに着目して、圧縮工程時間>排気工程時間、圧縮工程時間―排気工程時間>判定基準時間差、となることを演算により判別することで、1つのパルス発生器30で正規の点火と捨て火の判別が可能になる。
【0034】
また、回転数検出プーリー20の短歯21と長歯22のDUTY比(パルス幅/周期)を計算して長パルスと短パルスを識別し、長パルスの次の短パルスの立ち上がりがエンジン始動時の最適点火位置となる様に調整し、エンジン回転数により最適な点火タイミングを演算により補正することができる。例えば、クランク軸を1回転あたり4パルス以上の等間隔のパルス(内1パルスは他のパルスとDUTY比が異なる)で検出する。
【0035】
また、回転数検出プーリー20に、周期が異なる短歯23を備えることで、DUTY比は同じでも、パルス周期が他のパルス周期と1箇所だけ異なるため、エンジン始動時の最適点火位置となる様に調整し、エンジン回転数により最適な点火タイミングを演算により補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の単気筒4サイクルエンジンの説明図である。
【図2】回転数検出プーリーの詳細を示す説明図である。
【図3】パルス発生器で発生するパルス信号波形と、パルス波形整形回路で整形されたパルス整形波形を示す図である。
【図4】図2の回転数検出プーリーの変形例を示す説明図である。
【図5】図2の回転数検出プーリーの変形例を示す説明図である。
【図6】単気筒4サイクルエンジン1の圧縮工程、燃焼工程、排気工程、吸気工程におけるパルス整形波形を示す説明図である。
【図7】制御装置の制御フローである。
【図8】エンジンの状態判別処理の制御フローである。
【図9】捨て火判定処理フローである。
【符号の説明】
【0037】
1 単気筒4サイクルエンジン
10 クランク軸
20 回転数検出プーリー
21 短歯
22 長歯
30 パルス発生器
31 パルス信号波形
40 パルス波形整形回路
41 パルス整形波形
50 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と、
前記クランク軸に固定され外周部分に複数の歯を備えた回転数検出プーリーと、
前記回転数検出プーリーの複数の前記歯からパルス信号を生成する1つのパルス発生器と、
前記パルス信号からパルス整形波形を生成するパルス波形整形回路と、
前記パルス整形波形から圧縮工程と排気工程の識別を行い点火制御を行う制御装置と、を備える単気筒4サイクルエンジン。
【請求項2】
前記圧縮工程と前記排気工程の識別は、燃焼サイクル内でのパルス周期の違いから求める、ことを特徴とする請求項1に記載の単気筒4サイクルエンジン。
【請求項3】
前記回転数検出プーリーの複数の前記歯は、円周方向の長さが他と異なる歯を備える、ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の単気筒4サイクルエンジン。
【請求項4】
前記回転数検出プーリーの複数の前記歯は、周期が他と異なる歯を備える、ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の単気筒4サイクルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−236036(P2009−236036A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84160(P2008−84160)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】