説明

印刷システム及び印刷システム用プログラム

【課題】画質の劣化を抑制しつつ、ホストコンピューターからプリンターへの印刷用画像データの転送時間を短縮すること。
【解決手段】ホストコンピューターは画素をグループ化して疑似画素を生成する。疑似画素にRGB形式の代表値を割り当て、プリンターに転送する。一方、内部にエッジを有する又は境界がエッジとなっている疑似画素を構成する画素については、ホストコンピューターがハーフトーン処理を行うと共に、生成されたドットデータをプリンターに転送する。プリンターは、転送されたドットデータと代表値とによって印刷を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置は、通常、各画素についてドット形成の有無を示すデータ(ドットデータ)を基に印刷を行う。ドットデータは、通常、RGB形式による画像データを変換することによって生成される。画像の解像度が高くなればなるほど、この変換に時間を要する。
【0003】
そこで、複数の画素をグループ化し、グループ内のエッジの有無に応じた処理を行うことによって、変換に要する時間を短縮する技術が知られている。ここで言うエッジとは、色や明度が急激に変化することによって生じる境界線のことである。この技術では、エッジを有するグループは従来通りに変換する一方、エッジを有しないグループは情報を圧縮して変換を行う。この変換は、通常、プリンターと通信するホスト装置(コンピューター)が実行する。変換によって生成されたドットデータは、印刷のためのデータとして、ホスト装置からプリンターに転送される。プリンターは、転送されたドットデータを基に印刷を行う(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−289274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術は、印刷のためのデータをプリンターに転送する時間の短縮と、印刷画質の劣化の抑制とを両立させることが課題であった。特に近年は、ホスト装置によるドットデータへの変換速度の向上や、ラインプリンターによる用紙送り速度の向上によって、ホスト装置からプリンターへのデータの転送に要する時間が、印刷処理にとっての律速となる状況が生じていた。よって、データの転送時間の短縮が課題となっていた。もちろん、解像度を低くすれば、データの転送時間の短縮を容易に実現できるが、その分、画質が劣化する。このように、ドットデータをプリンターに転送する時間の短縮と、印刷画質の劣化の抑制とを両立させることが課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためのものであり、以下の形態または適用例として実現できる。
【0007】
適用例1:ホスト装置と、各画素についてドット形成の有無を示すドットデータを用いて印刷を行うプリンターとを備える印刷システムであって、
前記ホスト装置は、
複数の画素をグループ化することによって、疑似画素を生成する疑似画素生成部と、
内部にエッジを含まない前記疑似画素それぞれについて、該疑似画素を構成する各画素の表色値を反映した代表値を割り当てる割り当て部と、
内部にエッジを含む前記疑似画素を構成する画素を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するホストハーフトーン処理部と、
前記割り当て部によって割り当てられた代表値と、前記ホストハーフトーン処理部によって生成されたドットデータとを前記プリンターに転送する転送部とを備え、
前記プリンターは、
前記ホスト装置から転送された代表値を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するプリンターハーフトーン処理部と、
前記プリンターハーフトーン処理部によって生成されたドットデータと、前記ホスト装置から転送されたドットデータとによって印刷を行う印刷部とを備えることを要旨とする。
この印刷システムによれば、印刷のためのデータの転送時間の短縮と、印刷画質の劣化の抑制とを両立できる。この印刷システムにおいては、内部にエッジを含まない疑似画素について、ドットデータではなく、代表値を転送する。代表値は、複数の画素から構成されることによって低解像度化された疑似画素についてのデータなので、ドットデータよりもデータ量が小さい。よって、ホスト装置からプリンターへ転送するデータ量を小さくできる。ひいては、データ転送にかかる時間を短縮できる。
エッジを含まない疑似画素の印刷は、代表値によっても、各画素の表色値によっても、エッジを含まないのだから画質に大差はない。よって、この印刷システムによれば、印刷のためのデータの転送時間の短縮と、画質の劣化の抑制とを両立できる。
【0008】
適用例2:適用例1に記載の印刷システムであって、
前記割り当て部は、前記疑似画素の中で、内部にエッジを含まないものに加えて、内部にエッジを含むものそれぞれに前記代表値を割り当て、
前記転送部は、前記内部にエッジを含む疑似画素と、前記内部にエッジを含まない疑似画素とに割り当てられた前記代表値を転送し、
前記印刷部は、前記ホスト装置から転送されたドットデータと、前記プリンターハーフトーン処理部によって生成されたドットデータとが同一の画素について存在する場合、該画素について前記ホスト装置から転送されたドットデータによって印刷を行うことを要旨とする。
この印刷システムによれば、疑似画素にエッジが含まれるか否かを、割り当て部及び転送部が判断する必要がなくなる。よって、ホスト装置の処理負荷が低くなる。なお、プリンターハーフトーン処理部は、内部にエッジを含む疑似画素を構成する画素のドットデータを生成しても良いし、しなくても良い。
【0009】
適用例3:適用例1又は適用例2に記載の印刷システムであって、
前記転送部は、前記代表値を圧縮して転送することを要旨とする。
この印刷システムによれば、代表値に関するデータ量を更に小さくすることができる。
【0010】
適用例4:適用例3に記載の印刷システムであって、
前記ホスト装置は、前記内部にエッジを含む疑似画素の代表値を、隣の疑似画素の代表値と同じ値に変更する変更部を備えることを要旨とする。
この印刷システムによれば、代表値に関するデータ量を更に小さくすることができる。データ圧縮の圧縮率は、同じデータが連続するほど、高くなる場合が多い。よって、内部にエッジを含む疑似画素の代表値を、隣の疑似画素の代表値と同じ値に変更することによって、圧縮率が高くなり、データ量が小さくなる。なお、内部にエッジを含む疑似画素の代表値は、印刷には用いられないので、値を変更しても画質には影響しない。「隣の疑似画素」とは、圧縮において隣のデータとなる疑似画素のことである。
【0011】
適用例5:適用例1から適用例4の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記代表値は、前記疑似画素それぞれを構成する複数の画素の表色値の統計値である
印刷システム。
この印刷システムによれば、代表値を簡単に算出できるので、割り当てにかかる時間を短縮できる。統計値としては、例えば、平均値、最大値、最小値などが考えられる。
【0012】
適用例6:適用例1から適用例5の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記表色値は、無彩色を示すためのものであることを要旨とする。
この印刷システムによれば、カラー印刷の場合に比べて、代表値とホストハーフトーン処理部によるドットデータとのデータ量が小さくなるので、データを転送する時間を短縮できる。
【0013】
適用例7:適用例1から適用例6の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記ホストハーフトーン処理部は、前記内部にエッジを含まない疑似画素同士の境界にエッジが存在する場合、該エッジとしての境界を共有する疑似画素の少なくとも1つを選択し、該選択した疑似画素を構成する画素をハーフトーン処理の対象に加えることを要旨とする。
この印刷システムによれば、疑似画素同士の境界にエッジが存在する場合でも、高画質な印刷ができる。
【0014】
適用例8:ホスト装置に実行させるためのホスト用プログラムと、各画素についてドットの有無を示すドットデータを用いて印刷を行うプリンターに実行させるためのプリンター用プログラムとを備える印刷システム用プログラムであって、
前記ホスト用プログラムは、
複数の画素をグループ化することによって、前記プリンターの解像度よりも低い解像度を有する疑似画素を生成する疑似画素生成手順と、
前記疑似画素の中で内部にエッジを含まないものそれぞれについて、該疑似画素を構成する各画素に割り当てられた表色値を基にして決定される代表値を割り当てる割り当て手順と、
前記疑似画素の中で内部にエッジを含むものを構成する画素を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するホストハーフトーン処理手順と、
前記割り当て手順によって割り当てられた代表値と、前記ホストハーフトーン処理手順によって生成されたドットデータとを前記プリンターに転送する転送手順と
を実行させるためのものであり、
前記プリンター用プログラムは、
前記ホスト装置から転送された代表値を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するプリンターハーフトーン処理手順と、
前記プリンターハーフトーン処理手順によって生成されたドットデータと、前記ホスト装置から転送されたドットデータとによって印刷を行う印刷手順と
を実行させるためのものであることを要旨とする。
この印刷システム用プログラムによれば、適用例1と同じ効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】印刷システム10の構成。
【図2】ホストコンピューター200とプリンター300との構成。
【図3】ホスト側処理を示すフローチャート。
【図4】データが変換される様子。
【図5】ホストハーフトーン処理を示すフローチャート。
【図6】プリンター側処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.印刷システム(図1、図2):
図1は、印刷システム10の構成を説明する図である。印刷システム10は、ホストコンピューター200とプリンター300とを備える。ホストコンピューター200とプリンター300とはUSBケーブル120によって接続されている。ホストコンピューター200は、印刷のためのデータ(以下「印刷用画像データ」と言う。)をプリンター300に転送する。プリンター300は、ホストコンピューター200から転送された印刷用画像データに基づいて、解像度1440×720dpiによって印刷媒体に画像を印刷する。この印刷用画像データは、表示用画像データが、プリンタードライバーによって変換されたデータである。表示用画像データは、ホストコンピューター200に備えられたディスプレイ装置215(図2と共に後述)に画像を表示させるためのものである。表示用画像データは、1画素当たり8bit×3原色のRGB形式データであり、解像度が720×720dpiである。
【0017】
図2は、ホストコンピューター200とプリンター300の構成を概略的に示す図である。ホストコンピューター200は、CPU201、RAM203、ROM205、ディスプレイ装置コントローラー207、キーボードコントローラー209、メモリーコントローラー211、ハードディスクドライブ(HDD)213、通信インターフェイス(I/F)220を備える。これらの構成要素はバス230を介して互いに接続されている。ディスプレイ装置コントローラー207には、ディスプレイ装置215が接続される。キーボードコントローラー209にはキーボード217が接続され、メモリーコントローラー211には外部メモリー219が接続されている。通信I/F220にはUSBケーブル120が接続されている。本実施形態においては、通信I/F220と後述する通信I/F320との規格はUSB2.0である。USBケーブル120はUSB2.0に対応したケーブルである。CPU201は、ホストコンピューター200全体の動作を制御するために、HDD213に記憶されているプログラムをRAM203に読み出して実行する。
【0018】
一方、プリンター300は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを用いて印刷を行うラインプリンターである。プリンター300はCPU301、RAM303、ROM305、印刷部インターフェイス(I/F)307、メモリーコントローラー309、操作パネル313、通信インターフェイス(I/F)320を備える。これらの構成要素はバス330によって互いに接続されている。印刷部I/F307には印刷部311が接続され、メモリーコントローラー309には外部メモリー315が接続されている。
【0019】
CPU301は、プリンター300全体の動作を制御するために、ROM305に記憶されているプログラムをRAM303に読み出して実行する。印刷部311は、インクを蓄えるインクカートリッジ、印刷ヘッド、プラテンなど、印刷媒体にインクを吐出して印刷を行うためのハードウェアである。
【0020】
操作パネル313は、ユーザーが、印刷に関わる設定や指示を行うためのユーザーインターフェイスである。この設定とは、印刷媒体の種類や大きさなどの設定である。この指示とは、印刷の開始や中止などの指示である。
【0021】
プリンター300は、印刷媒体にドットを形成する際に、大ドット、中ドット、小ドットの3種類の大きさのドットを使い分ける。よって、ドットデータは、1画素当たり、2bit×4色の8bitが必要である。
【0022】
2.ホスト側処理(図3、図5):
図3は、ホスト側処理を示すフローチャートである。ホスト側処理の実行主体は、ホストコンピューター200に備えられたCPU201である。処理の開始の契機は、操作パネル313を介して印刷の指示が入力されることである。
【0023】
図4は、ホスト側処理およびプリンター側処理(図6と共に後述)によって、データが変換される様子を示した図である。図4の(A)(B)は、表示用画像データを構成する多数の画素の一部として、4画素×4画素の16画素分を示す。16画素分のデータ量は、8bit×3原色×16画素の384bitとなる。
【0024】
CPU201は、ホスト側処理を開始すると、表示用画像データの画素を4つずつグループ化することによって、疑似画素を生成する(ステップS410)。疑似画素は、縦2画素×横2画素によって構成される。図4の(C)は、16の画素を基にした4つの疑似画素を示す。疑似画素の解像度は、360×360dpiということになる。
【0025】
次に、各疑似画素に代表値を割り当てる(ステップS420)。代表値とは、疑似画素に属する画素のRGB値の平均値のことである。つまり、1つの疑似画素に1色分の情報を割り当てる。疑似画素のデータ量は、8bit×3原色×4画素の96bitとなり、元の384bitに比べて小さい。次に、ホストハーフトーン処理を実行する(ステップS430)。
【0026】
図5は、ホストハーフトーン処理を示すフローチャートである。まず、内部にエッジを含む疑似画素(以下「内部エッジ疑似画素」と言う。)のフラグ(以下、このフラグを「エッジフラグ」と言う。)をONに設定する(ステップS431)。エッジフラグは、初期値がOFFである。ここで言う「エッジを含む」とは、疑似画素を構成する4つの画素のRGB値が、所定範囲内に収まっていないことを意味する。「所定範囲内に収まっていない」とは、RGB3つの値それぞれについて、最大値と最小値との差が256階調値中33階調値以上である場合のことである。つまり、RGB値のうち1つでも最大値と最小値との差が33階調値以上であれば、エッジを含むと判定される。
【0027】
続いて、エッジフラグがOFFの疑似画素の中から、未選択のものを1つ選択する(ステップS433)。この「未選択のもの」とは、ステップS433が、エッジフラグがOFFの疑似画素の数だけ繰り返し実行されるものであり、過去に選択対象となった疑似画素を選択対象から除外することを意味する。
【0028】
次に、選択した疑似画素の境界の少なくとも一部にエッジがあるかを判定する(ステップS435)。ここでのエッジの判定方法は、或る1つの画素と、その画素と共に疑似画素の境界を共有する画素との比較によって行う。比較方法は、内部エッジ疑似画素の場合と同様に、RGB3つの値それぞれについて、差が256階調値中32階調値以下か否かによって行う。
【0029】
境界にエッジがある場合(ステップS435,YES)、エッジを共有する疑似画素のエッジフラグがONかを判定する(ステップS437)。OFFの場合(ステップS437NO)、エッジを共有する疑似画素の代表値によって定まる色に比べて、選択された疑似画素の代表値によって定まる色の方が明るいか(明度が高いか)を判定する(ステップS439)。選択された疑似画素の方が明るいとは言えない(暗い又は同じ)場合(ステップS439,NO)、選択している疑似画素のエッジフラグをONに設定し(ステップS441)、ステップS443に進む。
【0030】
一方、選択した疑似画素の境界にはエッジがない(ステップS435,NO)、エッジを共有する疑似画素のエッジフラグがONである(ステップS437,YES)、又はエッジを共有する疑似画素の代表値によって定まる色に比べて、選択された疑似画素の代表値によって定まる色の方が明るい(ステップS439,YES)場合、ステップS441を実行せずに、エッジフラグをOFFのままにして、ステップS443に進む。
【0031】
上記の通りステップS433〜ステップS441は、境界にエッジが存在する疑似画素(以下「境界エッジ疑似画素」と言う。)のエッジフラグをONに設定することを目的としている。この処理は、エッジの再現性の向上が目的なので、エッジフラグをONに設定する境界エッジ疑似画素は、全てでなくても良く、エッジを共有する境界エッジ疑似画素の何れか1つで良い。よって、エッジを共有する疑似画素が内部エッジ疑似画素であれば、選択した疑似画素のエッジフラグをONに変更する必要はない。一方、両方とも内部エッジ疑似画素ではない場合、何れかのエッジ疑似画素を選択する。選択する疑似画素は、ステップS441で説明した通り、色が暗い方である。色が暗い方、つまり、より広い面積のインクドットによって形成される方を選択することによって、エッジの再現性がより良くなる。
【0032】
ステップS443に進むと、ステップS433において未選択の疑似画素が残っているかを判定する。未選択のものが残っていれば(ステップS443,YES)、ステップS433に戻る。
【0033】
内部エッジ疑似画素以外の疑似画素が全て選択されたら(ステップS443,NO)、エッジフラグがONの疑似画素(以下「エッジON疑似画素」と言う。)を構成する画素を対象にして、CMYK変換を実行する(ステップS445)。CMYK変換は、ROM205に記憶された変換用LUTを参照し、LUT上に無いデータについては補間演算をすることによって実行する。
【0034】
続いて、CMYK変換された画素を対象にして、ハーフトーン処理を実行し(ステップS447)、ホストハーフトーン処理を終える。このハーフトーン処理によって、プリンターの解像度である1440×720dpiによるドットデータを生成する。なお、ハーフトーン処理には、誤差拡散法を用いる。誤差拡散法を用いることによって、特に境界エッジ疑似画素を構成する画素について画質が良好になる。
【0035】
図4の(D)は、ステップS445におけるハーフトーン処理によって生成されたドットデータを構成する多数の画素の一部として、32画素分を示す。32画素分のドットデータのデータ量は、2bit×4色×32画素の256bitである。
【0036】
次に、エッジON疑似画素の代表値を、隣の疑似画素と同じものになるように変更する(ステップS450)。隣の疑似画素とは、原則は左隣で、左隣が存在しない場合(左端の疑似画素の場合)は、右隣である。このステップは、次のステップS460におけるハフマン符号化法による圧縮の圧縮率を向上させることを目的としている。隣の疑似画素として左隣のものを選択するのは、ハフマン符号化法の順列にならったものである。
【0037】
続いて、全疑似画素の代表値とエッジフラグとをハフマン符号化法によって圧縮してプリンター300に転送すると共に、ハーフトーン処理によって生成されたドットデータをプリンター300に転送し(ステップS460)、ホスト側処理を終える。この3種類のデータが、先述した印刷用画像データを構成する。
【0038】
3.プリンター側処理(図6):
図6は、プリンター側処理を示すフローチャートである。プリンター側処理の実行主体は、プリンター300に備えられたCPU301である。処理の開始の契機は、ホストコンピューター200から印刷用画像データの転送を受けたことである。
【0039】
まず、転送された圧縮データの解凍によって、代表値とエッジフラグとを取得する(ステップS510)。次に、代表値をCMYK変換する(ステップS520)。このCMYK変換は、ROM305に記憶された変換用LUTを参照することによって実行する。この変換用LUTは、ホストコンピューター200のROM205に記憶されたものと同じである。
【0040】
次に、CMYK変換された代表値によってハーフトーン処理を実行する(ステップS530)。このハーフトーン処理においても、1400×720dpiのドットデータを生成する。図4の(E)は、ステップS530におけるハーフトーン処理によって生成されたドットデータを構成する多数の画素の一部として、32画素分を示す。
【0041】
続いて、代表値に基づき生成されたドットデータを、ホストコンピューター200から転送されたドットデータによって上書きを行う(ステップS540)。この上書きは、エッジON疑似画素を構成する画素が対象になる。図4の(F)は、ステップS540によって生成されたドットデータを構成する多数の画素の一部として、32画素分を示す。
【0042】
最後に、上書きの結果として生成されたドットデータを基に印刷をし(ステップS550)、プリンター側処理を終える。
【0043】
4.効果:
印刷システム10によれば、ホストコンピューター200からプリンター300へ印刷用画像データを転送する時間を短縮できる。なぜなら、本実施形態の印刷用画像データは、全画素を対象にしたドットデータやRGB形式のデータよりもデータ量が小さいからである。
【0044】
先述したように、印刷用画像データは、全疑似画素の代表値およびエッジフラグが圧縮されたデータ、並びにエッジON疑似画素を構成する画素のドットデータである。印刷用画像データのデータ量は、エッジON疑似画素数が全疑似画素数に占める割合に依存する。つまり、その割合が小さいほど、印刷用画像データのデータ量は小さくなる。なぜなら、エッジフラグについては圧縮率が高くなり、ドットデータについては、対象となる画素が減少するので当然、データ量が小さくなる。よって、印刷用画像データのデータ量がどの程度小さいかを一概に言うことはできない。しかし、一般的な画像は、エッジを含まない領域(いわゆるベタ領域)が大半を占める。従って、一般的に、印刷用画像データのデータ量は、全画素を対象としたドットデータよりも、かなり小さいと言える。
【0045】
さらに、エッジON疑似画素の代表値を、隣の疑似画素と同じ値に変更することによって、圧縮率を向上させている。この結果、印刷用画像データのデータ量を更に小さくしている。
【0046】
このようにデータ量を小さくしつつも、印刷用画像データに基づく印刷は、高画質なものである。なぜなら、エッジについては、解像度を低くすることなく、印刷するからである。一方、ベタ領域については、解像度が低くなるものの、色の変化が小さい領域なので、解像度が低いことは視認されにくい。
【0047】
5.実施形態と適用例との対応関係:
ステップS410が疑似画素生成部を、ステップS420が割り当て部を、ステップS430がホストハーフトーン処理部を、ステップS450が変更部を、ステップS460が転送部を、ステップS530がプリンターハーフトーン処理部を、ステップS540及びステップS550が印刷部をそれぞれ実現するためのソフトウェアに相当する。
【0048】
6.他の実施形態:
本発明は、先述した実施形態になんら限定されるものではなく、発明の技術的範囲内における種々の形態により実施できる。例えば、実施形態の構成要素の中で付加的なものは、実施形態から省略できる。ここで言う付加的な構成要素とは、実質的に独立している適用例においては特定されていない事項に対応する要素のことである。また、例えば、以下のような実施形態でも良い。
【0049】
印刷用画像データは、モノクロ印刷用でも良い。この場合、印刷用画像データは、無彩色を示すためのものになるので、印刷用画像データのデータ量がより小さくなる。
【0050】
疑似画素の大きさ(疑似画素が何個の画素によって構成されるか)は、実施形態と異なっていても良い。ただし、疑似画素の解像度は、印刷用画像データのデータ量を小さくするために、ドットデータの解像度よりも低いことが好ましい。一方、疑似画素の解像度が著しく低い場合、エッジON疑似画素の割合が大きくなってしまい、データ量が小さくならないことが考えられる。このような事情を踏まえ、疑似画素の大きさを決定するのが好ましい。
【0051】
境界エッジ疑似画素のエッジフラグを、ONに変更しないようにしても良い。実施形態の場合、ステップS433〜ステップS443を省くことになる。こうすれば、ホストコンピューター200による処理負荷が低くなる。
【0052】
誤差拡散法の代わりに、処理が簡単で高速なディザ法を用いても良い。
ディザ法を用いる場合、ホストコンピューター200とプリンター300とで同じディザマスクを用いるのが好ましい。同じディザマスクを用いることによって、エッジON疑似画素と、エッジフラグがOFFの疑似画素とのつながりを滑らかにでき、疑似輪郭の発生を抑制できる。ディザマスクは、ブルーノイズ特性を有する巨大サイズのマスクを用いる、ブルーノイズマスク法が好ましい。
【0053】
エッジの定義は、実施形態と異なっていても良い。例えば、RGB値を3次元座標値に見立てて、比較する色同士の距離を求め、その距離が所定値以上か否かによって判定しても良い。
【0054】
転送速度が低速の場合や、印刷用画像データのデータ量が大きくなりそうな場合(例えば、文字を多く含む場合など)は、エッジON疑似画素を少なくするために判定を厳しくしても良い。
【0055】
エッジの閾値の増減は、ユーザーからの入力に応じて実行しても良い。例えば、高画質モードが選択された場合はエッジON疑似画素を多くするために判定を緩くし、高速印刷モードが選択された場合はエッジON疑似画素を少なくするために判定を厳しくしても良い。
【0056】
エッジON疑似画素を構成する画素については、プリンター300によるハーフトーン処理の対象外としても良い。ハーフトーン処理を実行しても、印刷には用いられないからである。
【0057】
エッジブロック近傍の画素で、エッジブロックから誤差が拡散されてきた画素については、「近傍の処理済画素からの拡散誤差」を近傍の未処理画素に拡散する工程を実施すると好ましい。こうすることで、エッジブロック画素から非エッジブロック画素に拡散された誤差が無視されず、その一部は再び別のエッジON疑似画素を構成する画素に拡散されるため、エッジの再現性がより良くなる。
【0058】
また、ホストコンピューター200によるエッジブロック処理では、エッジの再現性に優れた誤差拡散法を採用し、プリンター300による非エッジブロック処理では、誤差拡散法に近いドット配置が得られるディザ法のブルーノイズマスク法を採用するのは特に有効である。ブルーノイズマスク法は誤差拡散法よりも中間階調でのエッジ再現性が劣る、という課題があるが、この構成ではその欠点が解消され、データの大部分を占める非エッジブロックを高速なディザ法で処理するので処理速度と画質が両立する。
またこの時、エッジブロックと非エッジブロックの間にハーフトーン切り替えによる疑似輪郭が発生する場合がある。疑似輪郭の発生を抑制するには、エッジブロック近傍の非エッジブロック画素については、ステップS530での処理後に、そのハーフトーン結果を用いて誤差を計算し、近傍の未処理画素へ拡散する、誤差拡散法同様の誤差拡散工程を実施するなどが、有効である。
【0059】
代表値は、平均値でなくても良く、他の統計値、例えば、最大値や最小値などでも良い。或いは、統計値でなくても良く、例えば、常に左上の画素の値を代表値として採用しても良い。
【0060】
転送される代表値は、CMYK値でも良い。例えば、ホストコンピューター200が、RGB形式による代表値を決定した後に、その代表値をCMYK変換しても良いし、各画素のRGB値をCMYK変換してから代表値を決定しても良い。このように、ホストコンピューター200が、各画素のRGB値をCMYK変換する場合、エッジ判定をCMYK値に基づいて行っても良い。
【0061】
ホストコンピューター200は、代表値を割り当てるための処理と、ドットデータを生成するための処理とを並列に実行しても良い。
エッジON疑似画素については、代表値の転送を省いても良い。
圧縮の手法は、ハフマン符号化法でなくても、例えば、ランレングス法でも良い。また、JPEG法などの、非可逆的な圧縮法でもよい。
プリンター300は、シリアルプリンターでも良い。
【符号の説明】
【0062】
10…印刷システム
120…USBケーブル
200…ホストコンピューター
201…CPU
203…RAM
205…ROM
207…ディスプレイ装置コントローラー
209…キーボードコントローラー
211…メモリーコントローラー
213…ハードディスクドライブ
215…ディスプレイ装置
217…キーボード
219…外部メモリー
220…通信インターフェイス
230…バス
300…プリンター
301…CPU
303…RAM
305…ROM
307…印刷部インターフェイス
309…メモリーコントローラー
311…印刷部
313…操作パネル
315…外部メモリー
320…通信インターフェイス
330…バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト装置と、各画素についてドット形成の有無を示すドットデータを用いて印刷を行うプリンターとを備える印刷システムであって、
前記ホスト装置は、
複数の画素をグループ化することによって、疑似画素を生成する疑似画素生成部と、
内部にエッジを含まない前記疑似画素それぞれについて、該疑似画素を構成する各画素の表色値を反映した代表値を割り当てる割り当て部と、
内部にエッジを含む前記疑似画素を構成する画素を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するホストハーフトーン処理部と、
前記割り当て部によって割り当てられた代表値と、前記ホストハーフトーン処理部によって生成されたドットデータとを前記プリンターに転送する転送部とを備え、
前記プリンターは、
前記ホスト装置から転送された代表値を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するプリンターハーフトーン処理部と、
前記プリンターハーフトーン処理部によって生成されたドットデータと、前記ホスト装置から転送されたドットデータとによって印刷を行う印刷部とを備える
印刷システム。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷システムであって、
前記割り当て部は、前記疑似画素の中で、内部にエッジを含まないものに加えて、内部にエッジを含むものそれぞれに前記代表値を割り当て、
前記転送部は、前記内部にエッジを含む疑似画素と、前記内部にエッジを含まない疑似画素とに割り当てられた前記代表値を転送し、
前記印刷部は、前記ホスト装置から転送されたドットデータと、前記プリンターハーフトーン処理部によって生成されたドットデータとが同一の画素について存在する場合、該画素について前記ホスト装置から転送されたドットデータによって印刷を行う
印刷システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の印刷システムであって、
前記転送部は、前記代表値を圧縮して転送する
印刷システム。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷システムであって、
前記ホスト装置は、前記内部にエッジを含む疑似画素の代表値を、隣の疑似画素の代表値と同じ値に変更する変更部を備える
印刷システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記代表値は、前記疑似画素それぞれを構成する画素の表色値の統計値である
印刷システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記表色値は、無彩色を示すためのものである
印刷システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一つに記載の印刷システムであって、
前記ホストハーフトーン処理部は、前記内部にエッジを含まない疑似画素同士の境界にエッジが存在する場合、該エッジとしての境界を共有する疑似画素の少なくとも1つを選択し、該選択した疑似画素を構成する画素をハーフトーン処理の対象に加える
印刷システム。
【請求項8】
ホスト装置に実行させるためのホスト用プログラムと、各画素についてドットの有無を示すドットデータを用いて印刷を行うプリンターに実行させるためのプリンター用プログラムとを備える印刷システム用プログラムであって、
前記ホスト用プログラムは、
複数の画素をグループ化することによって、前記プリンターの解像度よりも低い解像度を有する疑似画素を生成する疑似画素生成手順と、
前記疑似画素の中で内部にエッジを含まないものそれぞれについて、該疑似画素を構成する各画素に割り当てられた表色値を基にして決定される代表値を割り当てる割り当て手順と、
前記疑似画素の中で内部にエッジを含むものを構成する画素を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するホストハーフトーン処理手順と、
前記割り当て手順によって割り当てられた代表値と、前記ホストハーフトーン処理手順によって生成されたドットデータとを前記プリンターに転送する転送手順と
を実行させるためのものであり、
前記プリンター用プログラムは、
前記ホスト装置から転送された代表値を対象にしたハーフトーン処理を実行することによって、前記ドットデータを生成するプリンターハーフトーン処理手順と、
前記プリンターハーフトーン処理手順によって生成されたドットデータと、前記ホスト装置から転送されたドットデータとによって印刷を行う印刷手順と
を実行させるためのものである
印刷システム用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−115748(P2013−115748A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262643(P2011−262643)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】