説明

印刷物検査方法及び印刷物検査装置

【課題】構造の異なる新たなセンサに変更した場合でも変更前のセンサ用基準データを利用して印刷物を検査する。
【解決手段】ラインセンサによって計測したデータ上に、ポイントセンサによる検査領域の計測を再現する領域を設定し、設定された領域に含まれる画素値を重み係数によって変換して検査データを生成し、当該検査データをポイントセンサ基準データと比較して印刷物検査を行う。検査に利用する重み係数は、基準媒体をラインセンサによって計測したデータとポイントセンサ基準データとが所定の類似性を満たすように、投受光される光や、投受光素子の取り付け状態を考慮して決定される。重み係数の決定と当該重み係数を用いた印刷物評価とを同じ印刷物検査装置によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷物の印刷状態を検査する印刷物検査方法及び印刷物検査装置に関し、特に、余白部を挟んで複数の印刷原画を並べて印刷した大判印刷物の印刷状態を表面の光学特性に基づいて検査する印刷物検査方法及び印刷物検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大量の印刷物を印刷する場合に、原画となる一つの印刷対象物を繰り返し用紙に印刷して印刷物を生成するのではなく、同一の印刷対象物を規則的に並べた大判原画を大判用紙に印刷し、その結果得られた大判印刷物から各印刷対象物の領域を切り出す技術が知られている。これにより、一度の印刷処理で多数の印刷物を入手することが可能となる。このような大判印刷物表面の光学特性を調べることで、大判印刷物上の各印刷対象物が適正なものであるか否かを検査する技術が存在する(特許文献1参照)。例えば正常に印刷された印刷対象物から生成された基準データと、検査対象となる印刷対象物の領域を計測した計測データとの比較により印刷物検査を行う。
【0003】
精巧に印刷された印刷物を検査する場合には小型のセンサを利用して印刷物表面と所定の微小間隔を保ちながら印刷物上を非接触に走査してその光学特性を計測する。例えば、図11に示すような投受光素子から成る単一のポイントセンサによって直径数mm程度の検査領域の光学特性を計測し、その計測結果を予めポイントセンサ用に生成されていた基準データと比較することにより、走査部に印刷されたインクの光学特性やこれらインクの印刷状態の良否の検査を行う。通常、印刷物の絵柄や各種インクの材料に応じて複数の検査領域が設定され、各領域の基準データと計測データとの比較により印刷物全体のインク材料やインク量及び又は印刷状態の良否が判定評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−326031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術によれば、検査対象となる領域に合わせてポイントセンサを移動させつつ各走査位置で検査する必要があるため、複数の検査対象を含む大判印刷物の検査に時間を要し、更に、検査対象域を追加拡大して印刷物広域面でのインク材料の良否や、不用なインクでの汚損の有無等を検査する場合には、更に走査回数が多くなり、多大な時間を必要とするという問題がある。
【0006】
ポイントセンサの代わりにラインセンサを利用することで、ポイントセンサの移動を省く方策も考えられるが、単純にセンサの種類を変更することはできない。センサの種類を変更すると、変更前のセンサ用に蓄積されてきた各印刷物用の基準データを利用できなくなると共に、変更前のポイントセンサ用の基準データを用いて同等レベルの検査特性や精度を継承して継続することが困難となるからである。
【0007】
また、従来のポイントセンサに、別途ラインセンサや又はエリア(カメラ)センサを追加することも考えられるが、この場合も、追加センサと変更前のポイントセンサを同等レベルの検査特性や精度で整合させることが難しく、更には、センサ追加に伴う周辺機構の変更は変更前のポイントセンサ用基準データにも影響を及ぼす危険性が生じる。
【0008】
本発明は、上記従来技術による課題を解決するためになされたものであって、複数の検査対象域を有する大判印刷物の検査を、これまでに蓄積されたポイントセンサの基準データや当該基準データに基づく良否判定精度を変えることなく短時間で実行すると共に、蓄積された基準データと同等レベルの精度で別領域に対応する新しい基準データの作成をも可能として、これら検査すべき印刷物の光学特性を迅速かつ正確に検査することができる印刷物検査方法及び印刷物検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、印刷媒体表面の光学特性に基づいて印刷状態の検査を行う印刷物検査方法であって、ポイントセンサにより基準印刷媒体の光学特性を計測して記憶部に記憶しておくポイントセンサ基準データ記憶工程と、ラインセンサにより基準印刷媒体の光学特性を計測する基準印刷媒体計測工程と、基準媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ基準データを記憶部から読み出すデータ読出工程と、基準媒体計測工程で計測されたラインセンサ計測データにポイントセンサの有効計測領域に対応する演算ブロック領域を設定する領域設定工程と、演算ブロック領域に含まれる画素値を重み係数を用いて変換して検査データを生成する検査データ生成工程と、検査データとポイントセンサ基準データとを比較評価する比較評価工程と、比較評価工程において、検査データとポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たさないときは演算ブロック領域及び/又は重み係数を修正する係数修正工程と、検査データとポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たす演算ブロック領域と重み係数を決定する係数決定工程とを含んだことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、係数決定工程により決定された演算ブロック領域及び重み係数を含む計測データ変換情報を作成し記憶部に格納する情報格納工程をさらに含んだことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、係数修正工程は、演算ブロック領域、重み係数を形成する係数値の高い領域の境界形状、領域内の係数値の値、及び領域中心から外側方向への係数値の変化量の少なくともいずれか一つを修正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、係数修正工程は、演算ブロック領域に対応する重み係数を形成する各係数の値をZ方向とし、各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に重み係数が略円錐台形状となるように各係数値を修正することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、係数修正工程は、演算ブロック領域に対応する重み係数が略楕円錐台形状となるように各係数値を修正することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサにより検査媒体の光学特性を計測する工程と、検査媒体計測工程により計測されたラインセンサ計測データに領域設定工程により設定された領域と同一の演算ブロック領域を設定する工程と、演算ブロック領域に含まれる画素値を係数決定工程により決定された重み係数で変換して検査データを生成するとともに、検査データとポイントセンサ基準データとを比較評価して印刷物検査を行う工程とをさらに含んだことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、領域設定工程は、演算ブロック領域の開始位置や中心位置、当該演算ブロック領域を規定するチャネル幅及びライン幅を各個に順次増減変更する領域パラメータ変更工程と、所定の重み係数値を用いて領域パラメータ変更工程により変更された各領域パラメータで規定される演算ブロック領域から算出した検査データとポイントセンサ基準データとの類似性を評価すると共に、最大の類似性を得た領域パラメータで規定される演算ブロック領域をポイントセンサの有効計測領域とする領域パラメータ決定工程とを含んだことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、係数修正工程は、ポイントセンサ基準データに対応する演算ブロック領域を規定する開始位置や中心位置と、チャネル幅及びライン幅を含む領域パラメータと当該演算ブロック領域の計測データに適用する重み係数を初期値設定する初期値設定工程と、初期値設定工程により設定された重み係数を用いて算出した検査データがポイントセンサ基準データと最大の類似度を得る演算ブロック領域の領域パラメータを、当該領域パラメータを順次変更しながら検索決定する領域パラメータ決定工程と、領域パラメータ決定工程により検索決定した領域パラメータで規定する演算ブロック領域から抽出する計測データに関して検査データがポイントセンサ基準データと最大の類似度を得る重み係数を順次検索する工程とを含んだことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記発明において、前記係数修正工程は、重み係数を形成する係数値に関し、演算ブロック領域の中央部に対応する係数値から周辺部に対応する係数値に向けて低下変動する係数値が、演算ブロック領域の周辺部の低下変動が無くなる領域で、かつ、係数値がポイントセンサ基準データとの類似性評価で無視できる大きさである領域を特小領域として検索すると共に、当該特小領域を演算ブロック領域から削除する演算ブロック変更工程をさらに含み、検査データ生成工程では、演算ブロック変更工程により変更された演算ブロック領域に含まれる画素値のみを、重み係数を用いて変換して検査データを生成することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサにより計測された印刷基準媒体の計測データを、ポイントセンサ基準データと所定の類似度に変換する当該計測データに対応の演算ブロック領域と、当該演算ブロック領域での重み係数とを用いて、計測データに新規な検査領域を設定するとともに、当該検査領域に対応するポイントセンサ基準データを作成する検査対象領域追加工程をさらに含んだことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、印刷媒体表面の光学特性に基づいて印刷状態の検査を行う印刷物検査装置であって、印刷媒体表面の光学特性を計測するラインセンサと、基準印刷媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ基準データを記憶する記憶部と、ラインセンサにより基準媒体を計測したラインセンサ計測データにポイントセンサの有効計測領域に対応する領域である演算ブロック領域を設定して該領域内に含まれる画素値を重み係数を用いて変換して検査データを生成するとともに、重み係数を修正して検査データとポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たす重み係数を決定する重み係数算出部とを備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、重み係数算出部によって決定されたブロック領域及び重み係数を記憶部に格納する計測データ変換情報作成部をさらに備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、重み係数算出部は、検査データとポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たさないときは、演算ブロック領域、重み係数を形成する係数値の高い領域の境界形状、領域内の係数値の値、及び領域中心から外側方向への係数値の変化量の少なくともいずれか一つを修正することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、重み係数算出部は、演算ブロック領域に対応する重み係数を形成する各係数の値をZ方向とし、各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に重み係数が略円錐台形状又は略楕円錐台となるように各係数値を修正することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記発明において、重み係数算出部は、演算ブロック領域に対応する重み係数が略楕円錐台形状となるように各係数値を修正することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサにより検査媒体を計測したデータの演算ブロック領域に含まれる画素値を、重み係数算出部によって決定された重み係数で変換して検査データを生成する計測データ変換部と、計測データ変換部によって生成された検査データをポイントセンサ基準データと比較して印刷物の印刷状態を評価する検査データ評価部とをさらに備えたことを特徴とする。
【0025】
なお、略円錐台形状とは、円錐台の側面が断面形状で見た場合に直線状である場合に加えて曲線状となる場合を含む概念である。略楕円錐台についても同様に側面形状が直線又曲線で校正される場合を含む概念である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、計測データ変換情報の各パラメータ値とその組み合わせを変更しながら、ラインセンサにより基準媒体を計測したデータから生成した検査データとポイントセンサ用基準データが所定以上の類似関係を満たすように重み係数を決定するので、この計測データ変換情報を用いてラインセンサにより検査媒体を計測したデータからポイントセンサによる計測データを再現できる。すなわち、ラインセンサの計測データから算出した検査データをポイントセンサ用の基準データと比較できるため、ポイントセンサを利用する場合と同様に印刷物を検査することができ、ラインセンサ用の基準データを生成し直す必要がない。
【0027】
また、本発明によれば、ラインセンサによる計測データ領域の開始位置、チャネル幅及びライン幅を、変換後の検査データとポイントセンサ用基準データとの類似度が最大となるように決定することとしたので、ポイントセンサによる計測で利用される光の特性やポイントセンサの取り付け状態等を正確に反映するデータ領域を決定することができ、ラインセンサによる計測データからポイントセンサによって計測した場合と同様のデータをさらに精度良く再現することができる。
【0028】
また、本発明によれば、重み係数に加えてラインセンサによる計測データの変換に用いるゲイン及びオフセットを、変換後の検査データとポイントセンサ用基準データとが所定の誤差範囲内で一致するように決定することとしたので、変換後の検査データを補正する処理等、追加の後処理が不要である。
【0029】
また、本発明によれば、決定した重み係数等の計測データ変換情報を記憶部に保存するので、その後は重み係数を読み出して印刷物の検査を行うことができる。
【0030】
また、本発明によれば、重み係数を構成する係数値の高い領域、係数値の値、及び係数値の高い領域から低い領域への係数値の変化の少なくともいずれか一つを修正することとしたので、ポイントセンサによる実際の計測状況に基づく最適な重み係数を決定することができる。
【0031】
また、本発明によれば、重み係数を構成する各係数値をZ軸方向とし演算ブロック領域の各画素値に対応する係数値の位置をXY平面とする3次元形状で表したときに重み係数が円錐台形状又は楕円錐台形状となるように修正することとしたので、ポイントセンサによる実際の計測状況を反映した重み係数を決定することができる。この重み係数を利用すれば、ラインセンサによる計測データから、ポイントセンサによる計測データを高い精度で再現でき、ポイントセンサ用の基準データを利用しながら正確な印刷物検査を行うことができる。
【0032】
また、本発明によれば、重み係数を決定したときと同じ条件でラインセンサによって検査媒体を計測したデータから画素値を選択すると共に、これをポイントセンサによる計測データを再現できるように決定した重み係数で変換して検査データを生成することとしたので、検査データをポイントセンサ用基準データと比較して印刷物を検査することができる。ラインセンサは1回の走査で検査媒体全体を走査できるため、ポイントセンサのように検査領域ごとに走査を繰り返す必要がなく、検査にかかる時間を短縮できる。
【0033】
また、本発明によれば、基準媒体の計測で得たラインセンサの計測データから、同媒体の所定領域のポントセンサ用基準データと高い精度で近似する検査データを抽出生成する重み係数等計測データ変換情報を算出したが、この重み係数等計測データ変換情報が有するラインセンサ計測データのポントセンサ用基準データへの近似変換機能は、ラインセンサ計測データから新しい任意領域の実在しないポイントセンサ用基準データと対応する検査データを抽出生成して、当該検査データを新しい領域の新しい基準データとすることができる。更に、重み係数等計測データ変換情報が有する新しい基準データの作成機能は、同類の他の印刷物の基準媒体に対しても適用できる。すなわち、ポイントセンサ用基準データを持たない別種の印刷物の基準媒体についても、この基準媒体の計測で得たラインセンサ計測データから上記の別途ポイントセンサ用基準データと同等の近似精度で基準データを新しく作成でき、これら別種の印刷物の任意領域の印刷状態に関しても、新しく作成した基準データを用いて良否検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明に係る印刷物検査方法の概要を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る印刷物検査装置の概要を示す図である。
【図3】図3は、本実施例に係る印刷物検査装置の外観図である。
【図4】図4は、本実施例に係る印刷物検査装置の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、印刷物検査に利用する重み係数を算出する処理手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、媒体上の検査領域を示す図である。
【図7】図7は、ラインセンサによる計測データから検査データを生成する方法を示す図である。
【図8】図8は、3次元表示した重み係数を示す図である。
【図9】図9は、印刷物検査の検査手順を示すフローチャートである。
【図10】図10は、大判印刷物の一例を示す図である。
【図11】図11は、ポイントセンサの構造の例を示す図である。
【図12】図12は、演算ブロック領域と重み係数の変化を示す図である。
【図13】図13は、検査データと基準データとの類似例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る印刷物検査方法及び印刷物検査装置の好適な実施例を詳細に説明する。以下の実施例は、印刷物からの反射光量の検査に係る実施例である。
【0036】
本発明に係る印刷物検査方法及び印刷物検査装置は、大判印刷物の検査に適しているが、大判印刷物に限らず印刷物全般を検査することができる。以下では、大判印刷物を含む印刷物全般を「印刷物」と記載して説明する。また同じ色や図柄等を印刷された印刷物について、検査用の基準データを生成するために利用する正常な印刷状態にある印刷物を「基準媒体」と記載し、印刷物検査の対象となる印刷物を「検査媒体」と記載する。
【0037】
本発明に係る印刷物検査方法の概要について図1、図2、図10及び図11を用いて説明した後、本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法や印刷物検査方法、及び印刷物検査装置の実施例について図3から図9、図12及び図13を用いて説明する。
【0038】
本発明に係る印刷物検査方法は、図1(A)に示すようにラインセンサ12を利用して検査媒体101の光学特性を計測し、この計測結果を、図1(B)に示すようにポイントセンサ112によって基準媒体102を計測して生成された基準データと比較して印刷物の検査を行う点に一つの特徴がある。
【0039】
まず、従来のポイントセンサ112による印刷物検査の概要を説明する。図11にポイントセンサ112の構造の一例を示す。ポイントセンサ112は、従来の印刷物検査に利用されていたセンサで、所定波長の光を発光する発光素子112aから投光され印刷物表面で反射された反射光を単一の受光素子112bで受光し、電気信号に変換する機能を有する。ポイントセンサ112には、図11(A)に示すように反射光を直接受光する形式や、図11(B)に示すように反射光をハーフミラー113を介して受光する形式がある。例えば検知面として直径3mm程度の受光素子112bを有するポイントセンサ112を利用して、印刷物表面の所定領域の反射光を検出し、印刷物のインクの光学特性や図柄等印刷状態を精密に検査していた。
【0040】
ポイントセンサ用の基準データは、図1(B)に示すように、検査基準となる正常に印刷された基準媒体102の検査対象領域上を、同図の矢印で示すようにポイントセンサ112で走査することにより生成していた。図1(E)に、このようにして生成されたポイントセンサ用基準データの一例を示す。横軸は基準媒体102を走査したときの走査線上の位置であり、縦軸は検出光量である。
【0041】
印刷物検査を行うときは、図1(C)に示すように、検査対象となる検査媒体101上で、ポイントセンサ用基準データを生成した領域と同じ領域を、ポイントセンサ用基準データを生成したポイントセンサ112又はこれと同構造を有するポイントセンサ112によって走査する。図1(F)に、このようにして計測された計測データの一例を示す。
【0042】
そして、図1(H)に示すように、同じポイントセンサ112を利用して検査媒体101を計測して得られたデータと基準媒体102を計測して得られた基準データとを比較し、印刷物表面の状態を検査していた。
【0043】
なお、検査データと基準データの比較は、図1(H)に示す波形データ全体、すなわち全走査領域のデータを比較して行う場合もあるし、同図に破線で示した領域R等、所定の部分領域のデータのみを比較する場合もある。また同一データ上の複数の部分領域についてデータを比較する場合もある。さらに同じ印刷物上の異なる位置に検査領域が設定されている場合は、これらの検査領域を走査して得られた複数データの各々について、全域走査領域又は部分領域のデータを比較する場合もある。媒体上のどの領域を検査するかについては、印刷された各種インクや図柄等の特徴に応じて予め設定されており、設定された領域に応じて基準データが生成される。
【0044】
同じ基準媒体の同じ検査領域であっても、生成される基準データは、検査領域を計測するセンサによって変化する。具体的には、検査対象が同じであっても、発光素子によって印刷物表面に照射される光の波長や強度等の特性が異なり、反射光を検出する受光素子の特性等によって計測されるデータが異なるためにデータが変化する。また計測する環境の影響を受ける場合もある。構造が同じセンサの場合は、これらのセンサ間の個体差等を補正することによって対応できる。しかし、センサの構造自体を変更した場合は補正では対応できず、それまで利用されてきた基準データを利用することができない。このような場合は、新たに採用したセンサ用に基準データを生成し直す必要があった。例えば図1(A)に示すように、印刷物検査用センサとして、ポイントセンサ112に代えて、新たにラインセンサ12を採用した場合、計測データは同図(D)に示すような画素値41の集合となる。そのため同図(E)に示す基準データと比較して印刷物を同等レベルの精度で検査することができない。
【0045】
しかし、本発明に係る印刷物検査方法によれば、基準データを生成したセンサとは構造が異なるセンサを採用しながら、過去に生成された基準データを利用して印刷物の検査を同等レベルの精度で行うことができる。すなわち、本発明は、ポイントセンサ112に代えてラインセンサ12を採用した場合にも、従来のポイントセンサ112用の基準データを利用して印刷物の光学特性を評価できることを特徴とする。
【0046】
具体的には、図1(A)に示すラインセンサ12によって計測された同図(D)の計測データに重み係数を適用して変換し、同図(G)に示すようにポイントセンサ112で計測した場合に得られる計測データを再現する。ポイントセンサ112により計測された場合のデータを擬似的に再現することができれば、同図(H)に示すように、従来の検査と同じポントセンサの基準データと比較することにより印刷物の評価を行うことができる。計測データを変換する方法の詳細については後述する。以下では、センサによって計測された計測データと区別するため、計測データを変換して生成したデータを「検査データ」と記載する。
【0047】
次に、印刷物紙面の光学特性を検査する様になされた本発明に係る印刷物検査装置の詳細について説明する。図2は、本発明の実施例に係る印刷物検査装置による印刷物検査方法の概要を示す図である。同図では、本発明に係る印刷物検査装置10の一部のみを示している。同図の(A)には印刷物検査装置10の俯瞰図を、同図の(B)にはヘッドユニット11を印刷物100側からみた図を、同図の(C)には、ヘッドユニット11をY軸の正方向からみた図を、それぞれ示している。
【0048】
なお、図2(A)には、ラインセンサ12を含むヘッドユニット11を移動して印刷物100の表面を走査する態様を示したが、ラインセンサ12を含むヘッドユニット11側を固定し、媒体100側を移動することにより印刷物100の表面を走査してもよい。
【0049】
図2(B)に示したように、ヘッドユニット11には、Y軸方向に並んだLED等のライン状発光素子12aと、CCDやフォトダイオード等の受光素子12bとによって構成されるラインセンサ12が内蔵されている。ポイントセンサ112が単一の受光素子を利用して、例えば直径数mmの比較的に小さな計測領域の光学特性値を計測するのに対し、ラインセンサ12は複数の受光素子102bを線状に配置したリニアアレイセンサで、例えばY軸方向に200dpiの分解能を有する高密度センサである。
【0050】
具体的には、例えばラインセンサ12の発光素子12aとして24チャンネルの発光LEDアレイが利用される。LEDから投光された光は印刷物100の表面で反射される。ラインセンサ12は、印刷物表面で反射された光を、受光素子12bとして利用するCCDアレイで受光し、反射光強度に応じた電気信号を出力する機能を有する。ラインセンサ12はX軸方向に走査しつつ微小間隔毎に紙面の光学特性値を読み取る高密度光学センサであり、例えばX軸方向に200dpiの分解能を有する。
【0051】
ラインセンサ12を構成する一組のライン状発光素子12a及び受光素子12bは、走査方向であるX方向に並べて配置される。そして、ライン状発光素子12a及び受光素子12bの各アレイは、副走査方向であるY方向に並べて配置される。ラインセンサ12は、大判印刷物100に含まれる基本単位の検査媒体101よりも長いセンサ有効長を有する。例えば基本単位の検査媒体101の副走査方向長さが76mmである場合、ラインセンサ12の有効長は、ラインセンサ検知面が均一光量で均一感度の検知能力を得るために80mm以上であることが望ましい。このようにラインセンサ12が検査媒体の長さよりも長いセンサ有効長を有することにより、1回の走査で検査媒体全域を計測できるため、計測時間を大幅に短縮することができる。
【0052】
なお、ラインセンサ12の構造は上述した構造に限定されるものではなく、例えば図11(B)に示したポイントセンサ112と同様に、ハーフミラー113を利用して反射光を受光する構造であってもよい。また計測には、可視光の他、赤外光や紫外光を単独及び/又は複数利用することもできる。特定の波長域における光学特性を計測するには、ライン状発光素子12aの発光波長を選択したり、さらには受光素子12bに光学フィルタ等を適用して所望の波長域に対する光学特性を抽出して利用する。これら印刷物の検査に利用する光学特性は、検査すべき印刷物の材質や、印刷に利用されるインク等の特性に応じて決定される。
【0053】
さらに、ラインセンサ12は印刷物の透過光を検出してもよい。反射光及び/又は透過光の使用方法は検査すべき印刷物の光学特性に合わせて必要とする波長域と共に決定される。なお、透過光を検出する場合は、受光素子側からの照射に替えて、印刷物100の裏面側から光を照射すればよい。例えば、スキャナやコピー機の原稿台のように印刷物を載置する台盤側から光を照射すれば印刷物の表面側への透過光の光学特性を計測できる。また図示しないが、表面側及び裏面側の発光を交互に繰り返しつつ表面側に設けた単一の受光センサで光学特性を計測すれば、反射光と透過光の両特性を検知することができる。このような複数の発光光源を交互に順次発光する方式をもちいれば、単一の受光センサで複数の波長に対する光学特性を検査することができる。
【0054】
図2(B)に示すように、ヘッドユニット11には、Y軸と平行な取付軸と、その軸に転動可能な一組のローラ11aが設けられている。ラインセンサ12により印刷物検査を行うときは、大判印刷物の余白部、すなわち基本単位となる検査媒体101の領域外を、ローラ11aが接紙走行することで、ラインセンサ12の下面検知面と印刷物100との微少間隔(例えば3〜5mm)を保持する。
【0055】
ヘッドユニット11は、5c方向(図2のZ軸の正方向及び負方向)に移動可能なZ軸用可動部2cを介して、X軸用可動部3aに接続されている。Z軸用可動部2cは、Z軸用駆動モータ1cによって移動制御される。またX軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって5a方向(同図のX軸の正方向及び負方向)に移動制御される。さらにX軸用ガイド2aは、Y軸用可動部3bに接続されている。Y軸用可動部3bは、Y軸用ガイド2b上を、Y軸用駆動モータ1bによって5b方向(同図のY軸の正方向及び負方向)に移動制御される。すなわち、ヘッドユニット11は、図2に示したX軸、Y軸及びZ軸の各々に沿って移動自在に設けられている。
【0056】
例えば図2(A)に示した走査方向200に大判印刷物100を走査する場合、検査領域に対応する位置でY座標を固定したうえで、X座標の走査開始位置でローラ11aが大判印刷物100に接するまでヘッドユニット11をZ軸方向に下降させて、ラインセンサ12と印刷物100の間が所定距離だけ離間した状態とする。そして、X座標のみを変化させることで走査方向200にヘッドユニット11を走行し、印刷物100上を走査させる。なお走査に先立って、別途印刷物の位置を確認し、この確認結果に従って、検査すべき印刷物の位置に対応するよう走査位置を補正してもよい。すなわちセンサユニット11に搭載した小型センサ等を利用して印刷物に設けた所定マーク位置を確認し、この確認結果に基づいて走査位置を補正する構成とすれば、印刷物のX軸方向及び/又はY軸方向への位置ずれや回転にも正確な走査位置の設定が行える。
【0057】
つづいて、X座標の走査終了位置に達すると、ヘッドユニット11をZ軸方向に上昇させて、ローラ11aを大判印刷物100から離す。そして、ヘッドユニット11のY座標を変更しつつX座標を走行開始位置まで戻す。その後、ヘッドユニット11を再び下降させて次の走査を開始する。
【0058】
なお、本実施例ではローラ11aを基本単位の検査媒体101の幅としたが、全原画幅として印刷物100の上下端余白部や、図示しないが、この印刷物100と同一水平面に設けた印刷物上下端外の周辺ガイド板上を転動走行する構造としても良い。
【0059】
次に、検査対象となる大判印刷物100について説明する。図10に、大判印刷物100の一例を示す。大判印刷物100は、基本単位となる検査媒体101が複数印刷された印刷物である。同図には、X方向にA〜Dまでの4列、Y方向に1〜5までの5行の計20(4×5)個の検査媒体101が印刷された大判印刷物100を示している。大判印刷物100の外周部分及び各検査媒体101の間には、インクが印刷されていない余白部が設けられている。
【0060】
そして、上述したように、X方向の走査を行う場合には、たとえば、図10における第1行の左端でヘッドユニット11を下降させて第1行の走査を開始し、第1行の右端までの走査が終了したならば、ヘッドユニット11を上昇させる。そしてヘッドユニット11を上昇させた状態で第2行の左端でヘッドユニット11を下降させ、第2行の走査を開始する。
【0061】
図2に戻り、図2の(B)について説明する。図2(B)に示したように、ヘッドユニット11を大判印刷物100側からみると、複数のライン状発光素子12a及び受光素子12bを含むラインセンサ12がヘッドユニット11の走行方向200と直交する方向、すなわち同図のY軸方向に配置されている。
【0062】
図2(B)に示すように、ラインセンサ12の印刷物100側の面には複数の穴11bが設けられている。これらの穴は、印刷物100へ吹き付けるエアーの噴出口である。印刷物100へ吹き付けるエアーは、図示しないコンプレッサから供給される圧縮エアーである。ラインセンサ12で印刷物表面の結像画像を得るようにして光学特性を精密に検査するためには、ラインセンサ12と印刷物100との距離を一定に保ち、印刷物表面からの反射光を正確に検出する必要がある。そのためには噴出口11bを利用して、印刷物100を載置される台に密着させる必要がある。そこで、図2(C)に示したように、噴出口11bから方向300へ向けてエアーを吹き付けて印刷物100の波打ちやしわを矯正する。これにより、ラインセンサ12と印刷物100との間隔を適正に保つことができる。エアーは、チューブやパイプといった流路11cを経由して噴出口11bへ導かれる。
【0063】
なお、ラインセンサ12と印刷物100との間の距離を一定に保つ方法として、上述したローラ11aを利用する方法の他、距離計測用センサを利用する方法もある。具体的には、例えばレーザ式の距離計測センサをヘッドユニット11に設けて、ラインセンサ12と大判印刷物100との距離を計測し、計測結果に応じてラインセンサ12をZ軸方向に移動制御すれば、ラインセンサ12と大判印刷物100との距離を常に一定に保つことができる。この場合、ローラ11aは不要となり、物理的な接紙防止手段を失うことになるが、各検査位置でのX軸走査開始位置と終了位置毎で行うヘッドユニット11の上下駆動が不要となるので検査走行所要時間の短縮を図ることができる。
【0064】
このように、本発明に係る印刷物検査方法では、走行方向と直交する向きに配したラインセンサ12をヘッドユニット11に対して設け、かかるヘッドユニット11を用いて大判印刷物100を走査する。
【0065】
次に、本実施例に係る印刷物検査装置10の外観について図3を用いて説明する。同図(A)に示すように、印刷物検査装置10には、大判印刷物100を載置するための台盤21が設けられている。この台盤21は、上面が平坦となるように加工されたガラス等の非磁性体から構成されている。そして、台盤21の両脇には、大判印刷物の対向する辺を固定するクランプ機構22及び23が、それぞれ設けられている。すなわち、作業者が大判印刷物100を台盤21上に載置する際には、位置決めピン24で大判印刷物100の前後方向の位置及び上方からみた回転角を調整しつつ、クランプ機構22及び23で大判印刷物100の外周部分に設けられた余白部を引っ張りながら固定する。これにより、大判印刷物100が台盤21の上面に沿った規定位置に載置される。
【0066】
また、台盤21の上方には、図2で説明したヘッドユニット11が設けられている。表示・操作部25は、ディスプレイなどの表示部と、ダイヤルやボタンといった操作部とを備え、印刷物検査装置10に対する各種の指示を入力したり、印刷物検査装置10による検査結果を表示したりする。
【0067】
図3(B)は、図2で示したラインセンサ12を含むセンサユニット11が、大判印刷物100の全ての基本単位の検査媒体101を一回の走査で検査可能となる様に大型化した場合の実施例を示している。なお、図示はしないが、複数組の投受光素子(12a及び12b)を各基本単位の検査媒体101に対応してY軸方向へ千鳥状に配置したラインセンサ12を用いて構成してもよい。また、印刷物のY軸長と同等な計測長を有する投受光素子(12a及び12b)で構成してもよい。
【0068】
図3(C)は、図3(B)に示したラインセンサ12を含むセンサユニット11を固定して、検査すべき大判印刷物100を走査方向に移動させる場合を示している。このように、センサユニット11及び印刷物のいずれを移動させるかは特に限定されない。
【0069】
次に、印刷物検査装置10の内部構成について図4を用いて説明する。図4は、本実施例に係る印刷物検査装置10の構成を示すブロック図である。同図では、図2に示した可動機構等の記載を省略している。
【0070】
図4に示すように、印刷物検査装置10は、ヘッドユニット11と、制御部13と、記憶部14と、エアーコンプレッサ15とを備えている。ヘッドユニット11は、ラインセンサ12をさらに備えている。制御部13は、移動制御部13aと、光学情報記憶指示部13bと、重み係数算出部13cと、計測データ変換情報作成部13dと、計測データ変換部13eと、検査データ評価部13fとをさらに備えている。記憶部14は、ラインセンサ計測データ14aと、ポイントセンサ基準データ14bと、重み係数等計測データ変換情報14cとを記憶する。エアーコンプレッサ15から送り出された圧縮エアーは、図2(C)に示したチューブやパイプといった流路11c経由で、ヘッドユニット11に設けられた噴出口11bへ導かれる。
【0071】
ヘッドユニット11は、ラインセンサ12を保持するユニットであり、制御部13の移動制御部13aからの指示に基づき、検査対象である印刷物100に対する相対位置を図2(A)に示したX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。また同じく移動制御部13aからの指示に基づき、ヘッドユニット11に設けられた噴出口11bからのエアー噴出の開始及び停止を行う。
【0072】
走査方向200へ走行するようにヘッドユニット11に設けられた1組のローラ11aの間隔は、大判印刷物100に印刷された検査媒体101間の余白部上を各ローラ11aが通過する幅に調整されている。また、各ローラ11a厚み方向の幅は余白部の幅よりも小さくなるように調整されている。
【0073】
なお、印刷物検査装置10が、ローラ11aに代えて又はローラ11aに加えて、ラインセンサ12と大判印刷物100の間の距離を計測するためのレーザセンサ16を備えていてもよい。例えば、ヘッドユニット11側又は台盤21側に備えられたレーザセンサ16によって、ラインセンサ12と大判印刷物100との間の距離を計測する。計測結果は、移動制御部13aに入力され、移動制御部13aが計測結果に基づいて、ラインセンサ12のZ軸方向の位置を制御すれば、ラインセンサ12と大判印刷物100との距離を常に一定に保つことができる。ラインセンサ12の位置は、ラインセンサ12を含むヘッドユニット11の位置を変更することによって制御してもよいし、ヘッドユニット11の位置は台盤21及びローラ11aとの関係で固定され、ヘッドユニット11に対するラインセンサ12の位置のみを変更することによって制御してもよい。
【0074】
制御部13は、ヘッドユニット11の移動制御及びエアー噴出制御、ラインセンサ12で計測したラインセンサ計測データ14aの記憶、ラインセンサ計測データ14a及びポイントセンサ基準データ14bに基づく重み係数の算出、算出した重み係数を含む重み係数等計測データ変換情報14cの記憶、重み係数を利用したラインセンサ計測データ14aの変換、及び検査データとポイントセンサ基準データ14bとの比較といった処理を行う処理部である。
【0075】
移動制御部13aは、図2に示した各モータ(1a、1b及び1c)を制御することにより、ヘッドユニット11の移動制御を行う処理部である。またヘッドユニット11内で、ヘッドユニット11に対してラインセンサ12が可動状態にあるときは、ラインセンサの移動制御を併せて行う。さらに移動制御部13aは、エアーコンプレッサ15によって供給された圧縮エアーをヘッドユニット11に設けた噴出口11bから印刷物100へ向けて噴射するエアーの噴出動作を制御する。
【0076】
光学情報記憶指示部13bは、ラインセンサ12によって計測された印刷物表面の光学特性をラインセンサ計測データ14aとして記憶部14へ格納する処理部である。ラインセンサ計測データ14aは、ラインセンサ12の識別子、走査時のX座標及びY座標、ラインセンサ12によって計測されたデータ等を含む情報である。記憶部14へ記憶されたラインセンサ計測データ14aは、計測対象が基準媒体102であるときは重み係数算出部13cによって、計測対象が検査媒体101であるときは計測データ変換部13eによって利用される。
【0077】
重み係数算出部13cは、計測対象が基準媒体102である場合に、記憶部14に記憶されたラインセンサ計測データ14aと、予め記憶済みのポイントセンサ基準データ14bとを読み出し、両者から重み係数等計測データ変換情報14cを算出する処理を行う処理部である。具体的には、基準媒体102を計測したラインセンサ計測データ14aから別途ポイントセンサ基準データ14bに対応する領域データを抽出すると共に、当該抽出データを重み係数によって変換して検査データを生成する。そして当該検査データが同じ基準媒体102を計測して生成されたポイントセンサ基準データ14bと一致するようにデータ抽出領域の適正化及び重み係数の修正を行って、最適な重み係数等計測データ変換情報14cを算出する。この重み係数等計測データ変換情報14cの算出方法詳細については後述する。
【0078】
計測データ変換情報作成部13dは、重み係数算出部13cで算出された重み係数を含む重み係数等計測データ変換情報14cを記憶部14に格納する処理を行う処理部である。重み係数等計測データ変換情報14cとして、重み係数を算出するときに用いられた基準媒体102に関する情報、ポイントセンサ基準データ14bを特定する情報、ラインセンサ12に関する情報、例えば、ポイントセンサ基準データ14bに対応するラインセンサ計測データの位置や領域情報等を、重み係数と関連付けて記憶することができる。
【0079】
基準媒体102に関する情報には、基準媒体102で代表される検査すべき印刷物を特定する情報や、媒体上の計測位置に関する情報等が含まれる。この基準媒体102情報を参照することにより、検査媒体101の種類に応じて検査すべき計測位置と各計測位置での光学特性データを特定することができる。ラインセンサ12に関する情報には、ラインセンサ12を特定する識別子等の情報、計測に利用した光の種類や波長に関する情報、光学特性を計測した受光素子の性能や特性に関する情報が含まれる。このラインセンサ情報を参照することにより、検査に用いたラインセンサ12に応じて、ポイントセンサ基準データ14bに対応して抽出すべき計測データの位置と抽出領域、及びこれら抽出データに演算すべき重み係数を特定することができる。すなわち、ある検査媒体101をラインセンサ12で計測したときに、検査媒体101及びラインセンサ12の情報に基づいて重み係数等計測データ変換情報14cを参照し、ラインセンサ12の計測データを変換するために必要な変換対象位置と変換対象領域の情報、重み係数、検査に用いるポイントセンサ基準データ14b等を特定することができる。
【0080】
計測データ変換部13eは、計測対象が検査媒体101である場合に、記憶部14から読み出したラインセンサ計測データ14aを、同記憶部14から読み出した重み係数等計測データ変換情報14cによって変換する処理を行う処理部である。具体的には、検査に用いた検査媒体101の種類やラインセンサ12の特性に基づいて、利用可能な重み係数等計測データ変換情報14cを特定する。そして重み係数等計測データ変換情報14cに含まれる変換対象位置や変換対象領域の情報と重み係数を利用してラインセンサ計測データ14aを変換し、ポイントセンサ基準データ14bと比較可能な検査データを生成する。
【0081】
検査データ評価部13fは、計測データ変換部13eによって生成された検査データと、ポイントセンサ基準データ14bとを比較して、印刷物の印刷状態の良否を判定評価する処理を行う処理部である。ポイントセンサ基準データ14bは、計測データ変換部13eによって特定された重み係数等計測データ変換情報14cに含まれる情報に基づいて、記憶部14から読み出される。
【0082】
記憶部14は、ハードディスクドライブや揮発性又は不揮発性メモリといった記憶デバイスによって構成される記憶装置である。記憶部14では、ラインセンサ計測データ14aやポイントセンサ基準データ14b等のデータが印刷物の種類と対応付けて格納されている。そのため格納されたデータ及び印刷物のいずれか一方が特定されると、他方を特定することができる。ポイントセンサ基準データ14b及び重み係数等計測データ変換情報14cは、記憶部14内で記憶保持されて利用されるのに対し、ラインセンサ計測データ14aは、重み係数を算出したり印刷物を評価したりする間だけ保持されればよい。そのため、別途にデータをファイル保存する場合を除いてはラインセンサ計測データ14aの保存には揮発性メモリを利用してもよい。また制御部13による処理が高速な場合には、ラインセンサ計測データ14aを記憶部14に記憶することなく、重み係数算出部13bや計測データ変換部13eによってリアルタイムに処理してもよい。
【0083】
次に、上述した図4の各構成部によって印刷物検査を行う方法について説明する。以下では、例として、図10に示す大判印刷物100に含まれる基本単位となる検査媒体101がY方向に76mmの幅を有し、センサ有効径3mmのポイントセンサ112によってX方向に走査した1mmピッチの計測データからポイントセンサ基準データ14bが生成されたものとして説明する。またラインセンサ12は、上記検査媒体101の幅よりも長い80mmのセンサ有効長を有し、ライン状発光素子12aから可視光を照射して印刷物表面からの反射光を200dpiの解像度(0.127mmピッチ)で検出するものとして説明する。また、ポイントセンサ112の計測データ領域を図6(A)に示し、ラインセンサ12の計測データ領域は同図6(B)及び(C)に示すと共にその詳細を図7に示す。なお、図6及び図7の領域31は各々対応する検査領域を示し、例えば、検査の対象とする印刷物上端からの各座標領域を示す。
【0084】
まず、印刷物検査を行うには、ラインセンサ12による計測データから検査データを生成するために抽出すべき計測データの位置、当該データの抽出領域、及びこれら抽出データに演算すべき重み係数が必要である。そのため検査前の所定の段階で、基準媒体102を利用した重み係数等計測データ変換情報14cの算出を行う。重み係数等計測データ変換情報14cの算出方法の詳細について図5を用いて説明する。
【0085】
印刷物検査装置10に基準媒体102を含む大判印刷物100がセットされ、操作が開始されると、移動制御部13aは、ヘッドユニット11を予め設定された開始位置に移動させ検査領域の走査を開始する(ステップS1)。
【0086】
検査領域とは、印刷物の材質、印刷に用いられるインクの特性、印刷される図柄等を考慮して、印刷状態を評価するために予め設定された領域で、過去にポイントセンサ基準データ14bが生成された領域である。センサ有効径3mmの受光素子によって媒体からの反射光を計測するポイントセンサ112では、図6に示すように、幅3mmの帯状の領域で検査領域31,32及び33を構成する。
【0087】
ポイントセンサ112は、光学特性を測定できるセンサの有効計測領域が媒体に対して小さい。そのため、図6(A)に示すように、媒体上に複数の検査領域31,32及び33が異なるY座標位置に存在する場合、各検査領域に応じてポイントセンサ112を移動させ複数回走査する必要があった。これに対し、ラインセンサ12は、検査対象となる媒体の幅よりも長いセンサ有効長を有しているため、同図(B)に示すように、1回の走査で媒体上の全域を走査することができる。そのため、計測にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0088】
ラインセンサ12で計測されたデータは、光学情報記憶指示部13bによって、記憶部14内に記憶される(図5ステップS2)。光学情報記憶指示部13bは、ラインセンサ12によって計測した基準媒体102の光学特性と、移動制御部13aから取得した計測位置情報とを関連付けてラインセンサ計測データ14aとして記憶する。
【0089】
次に、重み係数算出部13cが、ラインセンサ計測データ14aと、これに対応するポイントセンサ基準データ14bとを記憶部14から読み出して重み係数等計測データ変換情報14cを算出する(ステップS3)。ラインセンサ12によって計測される光学特性は、図7(A)に示すように基準媒体102全面を200dpiの解像度で撮像した高密度な画像データになる。重み係数算出部13cは、この高密度画像データを構成する各画素値41から、センサ有効径3mmのポイントセンサ112によって1mmピッチで計測されたポイントセンサ基準データ14bと所定の誤差範囲内で一致する検査データを擬似的に再現するためのデータ抽出位置、抽出領域、及び抽出した各画素値と演算する重み係数を決定する。重み係数算出に利用するポイントセンサ基準データ14bは手動又は自動で選択する。
【0090】
ここで重み係数とは、ラインセンサ12によって得られた計測データから所定の抽出領域毎の各画素値41に対して設定される複数の乗算係数値の集合である。すなわち、これらは寄与率とも言うが、各画素に対応して設定された0から1までの値で総和値が1.0となる係数によって構成されるテーブルが重み係数である。このテーブルを構成する各係数値と対応する各画素値41とを乗算して合算することによりラインセンサ計測データ14aから、ポイントセンサ112により1mmピッチで計測した場合の各々の計測データを再現することができる。
【0091】
重み係数算出部13cによる上記のデータ抽出位置と抽出領域、及び抽出した各画素値と演算する重み係数の決定方法(図5ステップS3)の詳細について説明する。まず、基準媒体102上で選択された検査領域31を含む演算対象領域を抽出する(ステップS4)。センサ有効径が直径3mmのポイントセンサ112による理想的な検査領域は、図7(A)に示すように、幅3mmの帯状の検査領域31となる。これに対し図7(B)に示すように、検査領域31の幅よりも僅かに広い幅を有する領域、例えば約3.8mmに相当する30画素幅の領域を演算対象領域42として抽出する。演算対象領域42は、走査方向の中心線がポイントセンサ112によって走査される検査領域31の中心線34と一致するようにデータ抽出位置として設定する。
【0092】
ポイントセンサ112の有効径が3mmであっても、実際には、その計測データが幅3mmの検査領域31における光学特性のみによって得られたものではない可能性がある。具体的には、計測に利用される発光素子112a、発光素子から照射される光、反射光を計測する受光素子112b等の個体差や特性によって、媒体上の検査領域外の光学特性による影響を受ける可能性がある。そのため、ポイントセンサ112の径と等しい検査領域31よりも僅かに大きい領域を演算対象領域42として設定し、この領域に含まれる画素値41を利用してポイントセンサ112による計測を再現する。設定する演算対象領域42の幅は、ポイントセンサ112の有効径より20%から30%程度大きくすることが望ましい。なお、以下では設定した演算対象領域42の画素値41のみを利用して説明するが、このような処理は抽出領域のデータのみを用いて処理を続ける他、常に媒体全面の画素値を利用して抽出領域42の領域外の画素値41の重み係数を0とすることによっても実現することができる。
【0093】
設定した演算対象領域42上で、ポイントセンサ112による計測に合わせて、検査データを生成するための計測データの抽出領域としての演算ブロック領域43を設定する(図5ステップS5)。演算対象領域42は、30画素幅で走査方向に長い帯状の領域である。この領域上で、ポイントセンサ112の走査方向の分解能に合わせて演算ブロック領域43を設定する。すなわちポイントセンサ112による1回の計測でデータを得る領域を演算ブロック領域43として演算対象領域42上に設定する。
【0094】
具体的には、例えばポイントセンサ112が走査方向に1mm間隔で計測する場合、1mmは200dpiの分解能を有するラインセンサ12では約8画素分に相当するため、図7(C)に示すように、演算対象領域42の中心線34上で、検査領域の検査開始位置から8画素間隔で中心画素44a、44b…を順次設定する。そして、この中心画素44を中心として、先に設定した演算対象領域42の幅を一辺とする正方形領域、すなわち30画素×30画素の演算ブロック領域43a、43b…を設定する。このようにポイントセンサ112が検査領域を走査しながらポイントセンサ基準データ14bを構成する計測領域に相当する領域をデータ抽出領域として、演算対象領域42上でポイントセンサ12の計測間隔1mmに応じた所定画素分だけずらした演算ブロック領域43によって再現する。
【0095】
設定した演算ブロック領域43の各画素41を重み係数の初期値によって変換して検査データを生成する(図5ステップS6)。具体的には、演算ブロック領域43に含まれる各画素値41に重み係数を構成する各係数値を乗算して合算し、ポイントセンサ112による計測データを再現する検査データを生成する。図7(C)に示すように演算対象領域42上における演算ブロック領域43はその一部領域が重複するが、これらを同図(D)に示すようにポイントセンサ112の計測データに応じた個々のデータとして利用する。すなわち、演算ブロック領域43a,43b及び43cを構成する各画素値41に対応する重み係数を乗算し、その総和から、同図(E)に示すように走査方向に1mm間隔のポイントセンサ112による計測データを再現し、このデータ45a,45b及び45cを検査データとする。
【0096】
計測したデータの検査データへの変換に関し、変換対象となる計測データの抽出域となる演算ブロック領域と、抽出したデータの積和演算に利用する重み係数の事例を図8(A)〜(E)で視覚的に示す。ここで重み係数は、以下の数式1のように表すことができる。同式は演算ブロック領域の各重み係数値が0から1.0の値であると共に総和値は1とすることを示す。
【数1】

【0097】
なお、同図8(A)〜(E)は、X方向及びY方向が図12(A)演算ブロック領域43の画素位置を示し、Z方向が重み係数を構成する各係数の値を示している。すなわち、重み係数を、構成する係数によって3次元的に表現したものである。
【0098】
重み係数を構成する各係数は演算ブロック領域を構成する各画素に対応しているので、図8(A)〜(E)に示すX座標及びY座標は各重み係数の位置でもある。図12(A)は演算ブロック領域43と当該領域の中心画素44を中心とする円形領域46を示し、図12(B)は演算ブロック領域43の全画素に割り当てた重み係数T(0,0)からT(32,32)を示す。8図(A)に示したように、理想的な重み係数は、ポイントセンサ112の理想的な有効計測領域、すなわち図12(A)に示す演算ブロック領域43の中心画素44を中心とする直径3mmの円形領域46内で一定の値となり、この領域外の係数が0となる円柱形状で表される。重み係数の当初の値としては図8(A)に示す重み係数を利用する方法がある。
【0099】
また、図8(E)には二次元正規分布の密度関数f(x,y)をグラフ化した釣鐘状曲面を示すが、このグラフの中心点から周辺への曲面レート(どのような比率で曲面を作るかというレート)を用いて、中心画素44から直径3mmの円形領域46の周辺部への当初の重み係数値を割り当てる設定方法もある。この場合の中心画素から周辺への距離と割り当てた重み係数値のレート概様を1次元に模式化したものを図12(C)に示す。また図12(D)は、図12(A)の円形領域46を例示したもので、これら円形又は楕円形状の拡縮や楕円扁平率の大小、及び中心画素44の移動や回転形状の演算式と、これら各種形状での上記の図8(A)又は(E)に示す当初の重み係数値の割り当て方法は通常の汎用技術であるため詳細な説明は省略する。
【0100】
なお、本実施例の装置では、上記演算ブロック領域43と、この円形領域46の画素値に対応する重み係数等計測データ変換情報14cの初期値の設定に際して、上述した当初の値を適正化して初期値とする。まずポイントセンサ基準データ14bと、当該基準データに対応する演算ブロック領域43の円形領域46抽出データと、上述した当初設定の重み係数値を用いてラインセンサ計測データ14aから生成した検査データとの類似度を算出する。次に、演算ブロック領域43及び/又は円形領域46を、X軸及び/又はY軸方向へ順次微小移動しつつ同様に各々のポイントセンサ基準データ14bとの類似度を算出して、所定の移動域内で最大の類似度を得る演算ブロック領域43と円形領域46の位置を検索する。すなわち、当初に設定した重み係数値を用いて中心画素44の座標位置のみをX方向及び/又はY方向に順次移動して検査データを算出し、ポントセンサ基準データ14bと最大の類似度を得る中心画素44の座標位置を検索する。図12(C)の例4及び同図(D)に、中心画素44の位置移動を模式的に例示する。
【0101】
次に、最大の類似度を得た演算ブロック領域の中心画素44を中心として、円形領域46をX軸方向及び又はY軸方向へ順次拡縮変更しつつ、同様に所定の拡縮範囲内で最大の類似度を得るデータ抽出領域としての円形領域46の最適形状を検索する。なお図8(E)に示す釣鐘状曲面のレートを用いる場合は、図12(C)の例1〜3に簡略した模式図で例示するが、図8(A)の場合の一律重み係数ではなく、領域46の拡縮とあわせて各画素に対応する重み係数の割り当てを修正して類似度を算出する。図12(D)右図に、所定の扁平率の楕円形状に拡縮した円形領域46と、この楕円形状を更に順次回転して同様に類似度を最大にした円形領域46を模式的に例示する。また、図12の楕円扁平率はX軸とY軸のプラスとマイナス方向に同率としたが、各方向に異なった扁平率の円形領域46となる場合もある。尚、中心画素44を中心とした円や楕円、楕円の扁平率、楕円の回転などは通常の汎用技術であり詳細な説明は省略する。
【0102】
検査データとポイントセンサ基準データ14bの類似度は、検査データとポイントセンサ基準データ14bとの相関係数や両データの二乗誤差を算出して確認する。相関係数の算出式は以下の数式2のように表される。これらは汎用技術であるため詳細な説明は省略する。
【数2】

【0103】
本実施例の装置では、上述したように算出した最大類似度を得る演算ブロック領域43と中心画素44の座標、及びデータ抽出領域としての円形領域46を適性化した位置座標とデータ抽出領域を、次に実行する重み係数を適正化するための処理の初期値として、重み係数等計測データ変換情報14cに設定する。このように、適性化した初期値の算出及び設定を行うことにより、次に実行する重み係数適正化の演算処理を大幅に軽減し、少ない演算回数で短時間に最適な重み係数を算出することが可能となる。
【0104】
次に、上述したように適正に初期化した、重み係数等計測データ変換情報14cとしての演算ブロック領域から、計測データを抽出し、当該計測データ及び演算すべき重み係数を用いて算出生成した検査データ45とポイントセンサ基準データ14bとを比較して両者の類似度を求め(図5ステップS7)、類似関係を評価する(ステップS8)。具体的には、生成した検査データ45とポイントセンサ基準データ14bとの二乗誤差を算出し、誤差が所定範囲内にあるか否かを判定する。或いは、これら検査データとポイントセンサ基準データ14bとの相関係数及び相関に係る回帰直線の傾きや切片を求め、相関係数や、回帰直線の傾き及び切片等が、所定の類似度以上であるか否かを判定してもよい。検査データとポイントセンサ基準データ14bの類似評価には各種の統計的手法を用いることができるが、これらは従来から知られている手法であるため詳細な説明を省略する。
【0105】
検査データとポイントセンサ基準データ14bとの誤差が一定範囲内であるときは(S8;Yes)、計測データ変換情報作成部13dが、重み係数を含む情報を、重み係数等計測データ変換情報14cとして記憶部14内に保存する(ステップS9)。重み係数等計測データ変換情報14cとして記憶されるデータには、ラインセンサ計測データ14aを変換して検査データをポイントセンサ基準データ14bと比較するために必要な情報が含まれる。具体的には、例えば、基準媒体102に関する印刷機械番号や印刷日、媒体番号等の情報、媒体上の計測位置に関する情報、ポイントセンサ基準データ14bを特定する情報、検査領域31、演算対象領域42、及び上記の初期値が適性化された演算ブロック領域43とこの中心画素値44を特定可能な情報と重み係数等が含まれる。またその他、重み係数を生成した日時、検査雰囲気の温度、作業者の氏名等のデータを含めることもできる。
【0106】
検査データとポイントセンサ基準データ14bとの類似度が許容範囲内にないときは(ステップS8;No)、重み係数値の一部を増減修正する(図5ステップS10)。そして、修正した重み係数値を利用して検査データの生成から類似評価までの処理(ステップS6〜S8)を再度行う。
【0107】
重み係数の修正は手動又は自動で行う。修正は、例えば、演算ブロック領域中央部で重み係数値の高い画素領域の広がりをX及び/又はY軸方向へ拡大又は縮小したり、図12(C)〜(D)に示したように重み係数値の高い領域から小さな領域への変動率を変更することにより行う。
【0108】
また、図8(C)及び(D)に示した重み係数値の高い領域の形状を真円ではなく楕円形とする等、領域の形状を変更する修正を行ってもよい。生成した検査データとポイントセンサ14b基準データ14bとの類似度が許容範囲内の最適な状態、すなわち、最も類似度が高い状態に収まるように、重み係数を構成する係数値の値や係数値を高くする領域、及び/又は当該領域中心部から外側周辺部方向への係数値の変化量等を順次に増減修正する。
【0109】
本実施例の装置では、ポイントセンサ112による計測は光を利用した計測であるため、実際には中央と周辺とで投受光される光の強度が異なり、この場合、重み係数の分布は図8(A)に示すように円柱形状にするよりも、同図(B)に示すように円錐台形状に修正した方が、ラインセンサ計測データ13bから抽出した検査データとポイントセンサ基準データ14bとの類似性が高くなる。また投受光する光、発光素子及び受光素子の特性や取り付け状態等による影響を受けるため、図11(A)に例示するポイントセンサでは、図8(C)に示すように、円錐台の水平断面を真円形状ではなく楕円形状に設定し、重み係数を楕円錐台形状にする方がより高い類似度を得られる。さらにセンサ中心から周辺に向けた重み係数の変化についても直線的な変化より、円錐台又は楕円錐台を構成する側面を曲線状にする方がより高い類似度を得られる。
【0110】
修正内容及び修正量と、修正内容の優先順位とを予め設定しておけば、設定に基づいて順次修正を行いながら、検査データとポイントセンサ基準データ14bとの類似度が許容範囲内となるまで自動的に処理を継続し、重み係数を決定することができる。また修正後の重み係数、又は重み係数の修正に必要な修正内容及び修正量等の情報を図示しない入力受付手段により受け付けて、その入力内容に基づいて重み係数算出部13cが重み係数を修正することもできる。
【0111】
また、重み係数の算出方法としては、ポイントセンサ基準データ14bの各検出値を複数の目的変数とすると共に、これらの各目的変数を、対応する演算ブロック領域の計測データの各画素値に重み係数を乗算した値を説明変数として、この説明変数の加算値で表現する多変量解析の重回帰分析手法を用いて求めることも可能である。演算手法は汎用計算方法であるため詳細な説明は省略するが、予め設定した許容時間の内に最小二乗法で算出した説明変数から、適合する重み係数値を算出することも可能である。
【0112】
このように、実際に計測を行うときの光や投受光素子の状態を考慮して、ラインセンサ12による計測データから生成した検査データと、ポイントセンサ基準データ14bとの最小二乗誤差或いは相関係数などで算出する類似度が許容範囲内となるように重み係数を修正する。そして、検査データとポイントセンサ基準データ14bが許容範囲内で一致したときは(ステップS8のYes)、計測データ変換情報作成部13dが、修正後の重み係数を含む情報を重み係数等計測データ変換情報14cとして記憶部14内に保存する(ステップS9)。
【0113】
なお、最適な重み係数の算出には、ゲイン及びオフセットの調整や、正規化の処理も含まれる。具体的には、例えば検査データとポイントセンサ基準データ14bの相関に係る回帰直線の傾きが1となるようにゲインを設定し、切片が0となるようにオフセットを設定する方法があり、他の方法としては、検査データとポイントセンサ基準データ14bの輝度変換、すなわち両データの最大値と最小値の差分値の比をゲインに反映させると共に、ポイントセンサ基準データ14bの最小値をオフセット値に反映させる方法などもある。回帰直線や輝度変換の関係式は汎用技術内容として詳細説明を省略するが、これら手法で算出したゲイン及びオフセットを重み係数に適用し、正規化する処理を行ったものを最終的な重み係数とすることが可能で。ゲイン及びオフセットを調整すれば検査データとポイントセンサ基準データ14bとの類似関係を維持しながら、検査データをポイントセンサ基準データ14bの値に近付けることができる。そのため印刷物検査を行うときに、ラインセンサ12による計測データを重み係数等計測データ変換情報14cによって検査データに変換した後、補正等の追加の後処理を行うことなく検査データを用いて従来の印刷物検査に係る処理をそのまま行うことができる。
【0114】
上記説明では、基準媒体102の一つの検査領域に対する重み係数等計測データ変換情報14cを算出する場合を例に説明したが、基準媒体102に複数の検査領域(31,32及び33)が設定されている場合は、全ての検査領域(31,32及び33)における最小二乗誤差又は相関係数等により得られる類似性が最良となる最適な重み係数を決定することもできる。
【0115】
例えば、全ての検査領域を合わせた連結データを一つの対象データとして重み係数等計測データ変換情報14cを算出することが可能である。
【0116】
また、特定の検査領域に関して最適化した演算ブロック領域のズレ修正内容や円形領域と、これら各演算ブロック領域に対する重み係数等を、別の検査領域に関する最適化演算の初期の設定値として用いつつ、各検査領域で、順次、最適な重み係数等計測データ変換情報14cの算出を繰り返して、最適値を更新することが可能である。この場合は、図5に示す重み係数を算出するステップS3、すなわちステップS4〜S10の処理内容を繰り返す。具体的には、記憶済みのラインセンサ計測データ14aから抽出する重み係数算出に利用する演算対象領域42(図7参照)を、検査領域の位置に応じて変更すればよいが、各検査領域で重み係数等計測データ変換情報14cを順次更新する場合は、各検査領域で順次異なる最良と算出した重み係数等計測データ変換情報14cの繰り返し更新変更を避けるために、以下の数式3に示す通り、先の検査領域で算出していた重み係数等計測データ変換情報14cからの更新変更幅を、更新回数に応じて順次縮小しつつ更新して、最終的に全ての検査領域に関して最良の類似関係を得る重み係数等計測データ変換情報14cに収束させる構成とする。
【数3】

【0117】
数式3は、更新項目(c)の重み係数等計測データ変換情報14cをWc(t)として、算出した更新すべき最良の重み係数等計測データ変換情報14cをXc(t)とした場合、Xc(t)とWc(t)の差分に別途更新毎に順次低くなる更新率α(t)を乗算した変更幅だけ変更して新しいWc(t+1)を得る内容を示す。尚、当初の更新率α(0)は試行錯誤の経験値で0.4程度が良い結果を得るが、この更新演算は別途設定した複数の更新項目を平行に進めて、各項目の更新率を順次0収束させる構成とする。
【0118】
なお、ラインセンサ12では1回の走査で基準媒体102全面を計測する。そのため、例えば図6に示したように複数の検査領域31,32及び33の各々について重み係数を決定するときも、ラインセンサ12による計測を繰り返す必要はなく、既に記憶部14に記憶済みのラインセンサ計測データ14aを利用することができる。また各検査領域31,32及び33の処理を並行して行うことができるため短時間で処理を行うことができる。
【0119】
複数の検査領域31,32及び33について重み係数を算出決定するときは、各検査領域31,32及び33を同様に取り扱う他に、図柄等に応じて優先する検査領域を設定し、重要な検査領域における検査データとポイントセンサ基準データ14bとの相関がより高くなるようにしてもよい。
【0120】
このようにして決定した重み係数を利用することにより、ラインセンサ計測データ14aから、ポイントセンサ112による計測データを再現した検査データを生成することができる。このとき演算ブロック領域の重み係数を、図8(A)に示すように、円柱状にするよりも、円錐台形状や楕円錐台形状にしたり、その側面が曲線で構成されるようにすることで、ポイントセンサ112による計測データとの相関が非常に高い検査データを生成することができる。また、図8(E)に示す二次曲面から算出する場合も、高い類似度を有する検査データの生成が可能となる。その結果、ラインセンサ計測データ14aから生成した検査データを、過去に生成済みのポイントセンサ基準データ14bと比較して印刷物を検査することができる。
【0121】
また、本実施例の装置では、上記算出された重み係数に関し、演算ブロック領域の中央部から周辺部に低下する重み係数値が周辺部で更なる低下変動が無くなる領域で、かつ、ラインセンサから得る計測データと積和演算して算出する検査データがポイントセンサ基準データ14bとの類似性評価で無視できる小さな重み係数値である領域を特小領域として検索すると共に、この特小領域を演算ブロック領域から削除する機能を備える。例えば、図8(A)〜(E)のX,Y平面4隅部を含む重み係数値の特小領域を削除した演算対象域を最終的な重み係数等計測データ変換情報14cとして修正更新する構成として、印刷物の検査時には特小領域に関するデータ読み出しや関連する演算処理時間の短縮とあわせて記憶容量の縮減を図る。更に、この特小領域の削除機能は、ラインセンサ計測データの検査データへの変換に必要とする演算ブロック領域と重み係数部のみを適正に抽出設定するものであり、印刷物の検査に先立って当初に実施する演算ブロック領域が広域に設定された場合にも、特小領域を除いて重み係数等計測データ変換情報14cの適正化が可能となり、演算ブロック領域の過小設定等に基づく検査精度の低下が防止できる。
【0122】
図13に、本願の印刷物検査装置での演算ブロック領域や重み計数等計測データ変換情報14cの適正化に関する相関係数を指標とした事例を示す。図13(A)は別途図6に示す検査領域31,32又は33等に関する演算ブロック領域の位置座標や重み計数の適性化前の状態、すなわち、ラインセンサで得た基準媒体計測データを当初の中心画素44及び円形形状66等から成る演算ブロック領域と図8(A)に示す当初の重み係数等計測データ変換情報14cを用い作成した検査データとポイントセンサ基準データ14bとの類似度の算出事例を示すが、検査データは図2(A)のX軸走査方向でマイナス方向への位置ズレが確認されて、数式2に示す類似度の指標とする相関係数も0.56である。図13(B)は、演算ブロック領域の中心画素44座標値のX軸走査方向及びY軸副走査方向のズレ修正とあわせて図12(D)右図に示す円形領域46の扁平率が修正された中間状態での類似度の事例を示すが、検査データと基準データには一部に差異が見られて、相関計数は0.98に改善されたが相関に係る回帰直線の傾きが1.2で切片も−18を示す。図13(C)は、演算ブロック領域と重み係数等計測データ変換情報14cの適性化演算が進み、検査データと基準データの差異が微小になった状態を示し、相関係数は0.99となり相関に係る回帰直線の傾きは0.99で切片も−0.18に改善された事例を示す。なお、本実施例の装置では、重み係数等計測データ変換情報14cの更新演算回数及び/又は演算時間を計数しており、予め設定された所定の演算回数や演算時間内で、検査すべき全検査領域に対して最大の類似度となる重み係数等計測データ変換情報14cを検索して記憶部14に記憶する構成とするが、上記の演算回数及び/又は演算時間内に所定の類似度が確認できない場合は、これら内容を警告する機能を有して、類似度更新演算の継続の可否や演算対象領域の変更、及び/又は対象データの変更設定が可能な構成とした。上記数式2に示した相関係数の計算式は一般的な式であるため、同図13(A)〜(C)に示す回帰直線に併せた詳細な説明は省略する。
【0123】
次に、上述した方法により決定した重み係数を利用して印刷物検査を行う方法を図9を用いて説明する。なお、媒体を走査し光学データを計測するステップS11から、計測データを記憶するステップS12は計測対象が基準媒体102であるか検査媒体101であるかの違いを除いて、上述した図5ステップS1からステップS2の処理と同じ処理内容であるため詳細な説明は省略する。
【0124】
印刷物検査装置10に検査媒体101を含む大判印刷物100がセットされ、操作が開始されると、移動制御部13aは、ヘッドユニット11を予め設定された開始位置に移動させ、媒体上の検査領域の走査を開始する(ステップS11)。
【0125】
ラインセンサ12によって計測されたデータは、光学情報記憶指示部13bによって、記憶部14内に記憶される(ステップS12)。光学情報記憶指示部13bは、ラインセンサ12によって計測された検査媒体102の計測データと、移動制御部13aから取得した計測位置情報とを関連付けてラインセンサ計測データ14aとして記憶する。
【0126】
次に、計測データ変換部13eが、記憶部14からラインセンサ計測データ14a及び重み係数等計測データ変換情報14cを読み出して、検査の対象とする計測データを重み係数によって変換し、検査データを生成する(ステップS13)。
【0127】
具体的には、計測データ変換部13eは、記憶部14に記憶された検査媒体101に関するラインセンサ計測データ14aの情報等に基づき、対応する重み係数等計測データ変換情報14cを特定する。そして、記憶部14から重み係数等計測データ変換情報14cを読み出し、重み係数等計測データ変換情報14cに含まれる情報を利用してラインセンサ計測データ14aから検査すべきポイントセンサ基準データ14bに対応する演算対象領域42の抽出と(ステップS14)、これら演算対象領域にある検査データを生成するための演算ブロック領域43の設定(ステップS15)を行う。そして、各演算ブロック領域43に含まれる各画素値41を、重み係数等計測データ変換情報14cに含まれる重み係数によって変換して検査データ45を生成する(ステップS16)。すなわち、各画素の値とこれら画素に対応する重み計数値の乗算値の総和値を各演算ブロック領域の検査データとして算出作成する。なお、印刷物の検査時は検査に先立って更新設定された重み係数等計測データ変換情報としての重み係数等計測データ変換情報14cに基づいて処理される。
【0128】
検査データ評価部13fは、生成された各検査データ45を、対応するポイントデータ基準データ14bと比較して印刷状態の良否を判定評価する(ステップS17)。検査データ評価部13fは、計測データ変換部13eから、生成された検査データ45と、対応するポイントデータ基準データ14bを特定可能な情報とを受け取る。そして、記憶部14からポイントデータ基準データ14bを読み出して検査データ45と比較し、ポイントセンサ基準データ14bと検査データ45との差違を各検査領域での差分値やこれら差分絶対値の総和、及び/又は相関係数によって評価し、これらの差違が所定範囲内に収まっているか否かで当該検査媒体101の印刷状態の良否を判定する。
【0129】
印刷状態を判定評価した結果は、検査媒体101から作成した検査データやポイントセンサ基準データ、及び/又は、これら両データの差分値情報等と併せて印刷物検査装置10の備える表示部25上に表示される(ステップS18)。
【0130】
本実施例では、ライン状発光素子12aから可視光を照射して印刷物表面からの反射光を200dpiの高密度解像画像で検査する場合を説明したが、表面の光学特性は紙面での反射光量に限定するものでなく、裏面からの透過光量にも適用可能である。また、ライン状発光素子12aを複数の異なる波長光の発光素子で構成して、各発光素子を順次に点灯駆動しつつ各波長光に対応する複数の高密度解像画像を検査しても良い。この場合は、ポイントセンサとラインセンサに複数波長の光を発光照射する機能を要するが、各波長別に対応するポイントセンサ用基準データ14bとラインセンサ高密度解像画像を得て、各波長に対応する重み係数等計測データ変換情報14cを上記の可視光の場合と同様に作成でき、この重み係数等計測データ変換情報14cを用いて複数の波長光で検査すべき検査媒体101の印刷状態を検査することが出来る。
【0131】
以上、本願の印刷物検査方法及び印刷物検査装置では、検査媒体101に複数の検査領域が設定されている場合にも、ラインセンサ12を利用して1回の走査により検査媒体101全面を計測したデータ上で、検査データの算出に利用する演算対象領域42(図7参照)を、検査すべき検査領域の位置に応じて設定すれば、ポイントセンサの様に計測を繰り返す必要はない。すなわち、例えば図6に示したように複数の検査領域31,32及び33の各々について検査データを算出するときも、ラインセンサ12による計測を再度行う必要はなく、既に記憶部14に記憶済みのラインセンサ計測データ14aを利用してすることができる。その結果、印刷物の検査に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0132】
このように、予め基準媒体102を利用して、ラインセンサ12の計測データをポイントセンサ112の計測データに高い精度で近似変換するための重み係数等計測データ変換情報14cを決定する構成としたので、検査媒体101の検査では、決定された重み係数等計測データ変換情報14cを利用することにより、ラインセンサ12による計測データから、ポイントセンサ112による計測データを再現した検査データを生成することができる。そのため、従来のポイントセンサ112用の基準データ14bを利用して印刷物の検査を行うことができる。また印刷物検査装置10が重み係数等計測データ変換情報14cを決定する機能を有するため、一つのポイントセンサ基準データ14bに対して複数の検査装置での個体差や設置環境に応じて各々の重み係数等計測データ変換情報14cを決定し、各検査装置において高精度な印刷物検査を行うことができる。
【0133】
印刷物評価に用いるセンサを変更した場合も、従来の基準データを利用して印刷物を評価することができるため、新たなセンサ用に基準データを生成する必要がない。例えばラインセンサを交換変更した場合にも、新たなセンサの計測データを高い精度で別途基準データに近似変換して利用することができる。なお本実施例の装置では副走査方向に200dpiの密度でレイアウトしたラインセンサを使用した場合を説明したが、X軸走査方向とY軸副走査方向で作る面画像を撮像するデジタルカメラを使用した場合も、同様に計測センサの変更に該当し、カメラによる計測データ、すなわち紙面の濃淡画像からラインセンサの場合と同様に重み係数等計測データ変換情報14cを生成して別途基準データに適合する検査データを生成することが可能である。上述したように、変更後のセンサの種類によらず、センサの変更後にも変更前の基準データを印刷物の検査に利用できるので、変更後のセンサに適応する基準データの生成に必要なコストや時間を大幅に削減することができる。
【0134】
また、本実施例の検査装置では、ラインセンサ12で計測した基準媒体102の計測データ14aを別途ポイントセンサで計測して作成した基準データ14bに高い精度で近似する検査データに変換する重み係数等計測データ変換情報14cを生成するが、この重み係数等計測データ変換情報14cを用いて計測データ14aの別な検査領域、例えば図6(C)に示した新たな検査領域35に対応する新たな基準データ14bを算出生成することができる。すなわち、ラインセンサ12の計測テータとポイントセンサ112の計測データに関して検索位置や検索領域のズレ等の詳細な変換情報を含む重み係数等計測データ変換情報14cを用いれば、ラインセンサ12で計測した基準媒体102の計測データ14aから、ポイントセンサ基準データ14bが存在しない新たな検査領域35に対する新たな基準データ14bを算出設定することが可能である。この新しい基準データ14bの算出設定機能を用いれば、別途ポイントセンサ基準データ14bで作成した検査領域に追加して、ラインセンサ12を用いて検査媒体101を検査すべき領域を任意に新設することが可能となり、新設した領域でもポイントセンサ基準データ14bを用いた場合と同等の精度で印刷物の光学特性を検査することができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上のように、本発明に係る印刷物検査方法及び印刷物検査装置は、大判印刷物の印刷状態の検査に有用であり、特に従来の基準データを利用しながら構造の異なるセンサを新規に採用して検査に要する時間を短縮したい場合に適している。
【符号の説明】
【0136】
10 印刷物検査装置
11 ヘッドユニット
11a ローラ
11b エアー噴出口
11c 流路
12 ラインセンサ
13 制御部
13a 移動制御部
13b 光学情報記憶指示部
13c 重み係数算出部
13d 計測データ変換情報作成部
13e 計測データ変換部
13f 検査データ評価部
14 記憶部
15 エアーコンプレッサ
16 レーザセンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体表面の光学特性に基づいて印刷状態の検査を行う印刷物検査方法であって、
ポイントセンサにより基準印刷媒体の光学特性を計測して記憶部に記憶しておくポイントセンサ基準データ記憶工程と、
ラインセンサにより前記基準印刷媒体の光学特性を計測する基準印刷媒体計測工程と、
前記基準媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ基準データを前記記憶部から読み出すデータ読出工程と、
前記基準媒体計測工程で計測されたラインセンサ計測データに前記ポイントセンサの有効計測領域に対応する演算ブロック領域を設定する領域設定工程と、
前記演算ブロック領域に含まれる画素値を重み係数を用いて変換して検査データを生成する検査データ生成工程と、
前記検査データと前記ポイントセンサ基準データとを比較評価する比較評価工程と、
前期比較評価工程において、前記検査データと前記ポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たさないときは前記演算ブロック領域及び/又は重み係数を修正する係数修正工程と、
前記検査データと前記ポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たす前記演算ブロック領域と重み係数を決定する係数決定工程と
を含んだことを特徴とする印刷物検査方法。
【請求項2】
前記係数決定工程により決定された前記演算ブロック領域及び前記重み係数を含む計測データ変換情報を作成し前記記憶部に格納する情報格納工程をさらに含んだことを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項3】
前記係数修正工程は、前記演算ブロック領域、前記重み係数を形成する係数値の高い領域の境界形状、前記領域内の係数値の値、及び前記領域中心から外側方向への係数値の変化量の少なくともいずれか一つを修正することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷物検査方法。
【請求項4】
前記係数修正工程は、前記演算ブロック領域に対応する前記重み係数を形成する各係数の値をZ方向とし、前記各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に前記重み係数が略円錐台形状となるように前記各係数値を修正することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の印刷物検査方法。
【請求項5】
前記係数修正工程は、前記演算ブロック領域に対応する前記重み係数が略楕円錐台形状となるように前記各係数値を修正することを特徴とする請求項4に記載の印刷物検査方法。
【請求項6】
前記ラインセンサにより検査媒体の光学特性を計測する工程と、
前記検査媒体計測工程により計測されたラインセンサ計測データに前記領域設定工程により設定された領域と同一の前記演算ブロック領域を設定する工程と、
前記演算ブロック領域に含まれる画素値を前記係数決定工程により決定された前記重み係数で変換して検査データを生成するとともに、前記検査データと前記ポイントセンサ基準データとを比較評価して印刷物検査を行う工程と
をさらに含んだことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の印刷物検査方法。
【請求項7】
前記領域設定工程は、
前記演算ブロック領域の開始位置や中心位置、当該演算ブロック領域を規定するチャネル幅及びライン幅を各個に順次増減変更する領域パラメータ変更工程と、
所定の重み係数値を用いて、前記領域パラメータ変更工程により変更された各領域パラメータで規定される前記演算ブロック領域から算出した検査データと前記ポイントセンサ基準データとの類似性を評価すると共に、最大の類似性を得た前記領域パラメータで規定される前記演算ブロック領域を前記ポイントセンサの有効計測領域とする領域パラメータ決定工程と
を含んだことを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項8】
前記係数修正工程は、
前記ポイントセンサ基準データに対応する前記演算ブロック領域を規定する開始位置や中心位置と、チャネル幅及びライン幅を含む領域パラメータと当該演算ブロック領域の計測データに適用する前記重み係数を初期値設定する初期値設定工程と、
前記初期値設定工程により設定された前記重み係数を用いて算出した検査データが前記ポイントセンサ基準データと最大の類似度を得る演算ブロック領域の領域パラメータを、当該領域パラメータを順次変更しながら検索決定する領域パラメータ決定工程と、
前記領域パラメータ決定工程により検索決定した前記領域パラメータで規定する前記演算ブロック領域から抽出する計測データに関して前記検査データが前記ポイントセンサ基準データと最大の類似度を得る重み係数を順次検索する工程と
を含んだことを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項9】
前記係数修正工程は、
前記重み係数を形成する係数値に関し、前記演算ブロック領域の中央部に対応する前記係数値から周辺部に対応する前記係数値に向けて低下変動する前記係数値が、前記演算ブロック領域の周辺部の低下変動が無くなる領域で、かつ、前記係数値が前記ポイントセンサ基準データとの類似性評価で無視できる大きさである領域を特小領域として検索すると共に、当該特小領域を前記演算ブロック領域から削除する演算ブロック変更工程
をさらに含み、
前記検査データ生成工程では、前記演算ブロック変更工程により変更された前記演算ブロック領域に含まれる前記画素値のみを、前記重み係数を用いて変換して前記検査データを生成することを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項10】
前記ラインセンサにより計測された前記印刷基準媒体の計測データを、前記ポイントセンサ基準データと所定の類似度に変換する当該計測データに対応の前記演算ブロック領域と、当該演算ブロック領域での前記重み係数とを用いて、計測データに新規な検査領域を設定するとともに、当該検査領域に対応する前記ポイントセンサ基準データを作成する検査対象領域追加工程をさらに含んだことを特徴とする請求項1に記載の印刷物検査方法。
【請求項11】
印刷媒体表面の光学特性に基づいて印刷状態の検査を行う印刷物検査装置であって、
印刷媒体表面の光学特性を計測するラインセンサと、
基準印刷媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ基準データを記憶する記憶部と、
前記ラインセンサにより前記基準媒体を計測したラインセンサ計測データに前記ポイントセンサの有効計測領域に対応する領域である演算ブロック領域を設定して該領域内に含まれる画素値を重み係数を用いて変換して検査データを生成するとともに、前記重み係数を修正して前記検査データと前記ポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たす前記重み係数を決定する重み係数算出部と
を備えたことを特徴とする印刷物検査装置。
【請求項12】
前記重み係数算出部によって決定された前記ブロック領域及び前記重み係数を前記記憶部に格納する計測データ変換情報作成部をさらに備えたことを特徴とする請求項11に記載の印刷物検査装置。
【請求項13】
前記重み係数算出部は、前記検査データと前記ポイントセンサ基準データが所定の類似性を満たさないときは、前記演算ブロック領域、前記重み係数を形成する係数値の高い領域の境界形状、前記領域内の係数値の値、及び前記領域中心から外側方向への係数値の変化量の少なくともいずれか一つを修正することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の印刷物検査装置。
【請求項14】
前記重み係数算出部は、前記演算ブロック領域に対応する前記重み係数を形成する各係数の値をZ方向とし、前記各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に前記重み係数が略円錐台形状又は略楕円錐台となるように前記各係数値を修正することを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1つに記載の印刷物検査装置。
【請求項15】
前記重み係数算出部は、前記演算ブロック領域に対応する前記重み係数が略楕円錐台形状となるように前記各係数値を修正することを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1つに記載の印刷物検査装置。
【請求項16】
前記ラインセンサにより検査媒体を計測したデータの前記演算ブロック領域に含まれる画素値を、前記重み係数算出部によって決定された重み係数で変換して検査データを生成する計測データ変換部と、
前記計測データ変換部によって生成された前記検査データを前記ポイントセンサ基準データと比較して印刷物の印刷状態を評価する検査データ評価部と
をさらに備えたことを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか1つに記載の印刷物検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−247263(P2012−247263A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118256(P2011−118256)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】