説明

印刷装置、および補正方法

【課題】高精度のカラーキャリブレーションを行う印刷装置を提供する。
【解決手段】媒体を第1の方向に搬送し、インクの吐出ヘッドと媒体の反射光強度の信号を出力するセンサーを第1の方向と直交する第2の方向に移動させ、第1の階調値、それより濃い第2の階調値、第1と第2の間の複数の階調値の各パッチを第2の方向で位置が異なるようにパターンを形成し、第2の階調値のパッチとそれ以外のパッチのそれぞれの信号を出力し、インクが吐出されていない空白領域中の第2の方向における位置で、第2の階調値のパッチと同じ位置と、第2の階調値のパッチ以外のパッチと同じ位置のそれぞれでの信号を出力し、出力された各信号を用いて第2の階調値のパッチが実際に形成位置以外の位置に形成された場合の信号を用いて第2の階調値のパッチ以外のパッチの階調値に対応する吐出量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び印刷装置における補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体(紙、布など)に画像を印刷する印刷装置では、媒体に階調値が異なる多数のパッチを含むパターンを印刷しつつ、そのパターン中の各パッチを光学センサーを用いて読み取り、その読み取り結果に応じた補正処理(キャリブレーション)が行われている。例えば、以下の特許文献1では、階調値の異なる多数のパッチを含んだパターンを印刷し、それぞれのパッチの読み取り濃度に応じて、印刷すべき画像の階調値を補正すること(いわゆるカラーキャリブレーション)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−302521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなカラーキャリブレーションを行う場合には、それぞれのパッチの濃度を高い精度で検出する必要がある。しかしながら、同じ濃度で印刷されたパッチであっても、媒体上でパッチが印刷されている位置により、光学センサーによる読み取り値が異なる場合がある。たとえば、媒体上の各位置において、その位置での媒体表面と光学センサーによる読み取り位置との距離に誤差があれば、読み取り値が異なってしまう。
【0005】
本発明は、光学センサーによってカラーキャリブレーション用のパッチを読み取る際の誤差を考慮して適正にカラーキャリブレーションが行える印刷装置、および印刷装置における補正方法を提供することを目的としている。また、その他の目的については以下の記載で明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、媒体を第1の方向に搬送する搬送ユニットと、前記第1の方向と直交する第2の方向に移動しつつ、インクを吐出するヘッドと、
前記第2の方向に移動しつつ、前記媒体上に照射して光の反射光強度に応じた信号を出力する光学センサーと、を備え、
第1の階調値のパッチと、前記第1の階調値よりも濃い階調値の第2の階調値のパッチと、前記第1の階調値と前記第2の階調値との間の複数の階調値のパッチとを含むパターンを用いて、前記インクの吐出量を補正する場合に、
前記第2の方向において各パッチの位置が異なるように、前記パターンを形成するパッチパターン形成ステップと、
前記第2の階調値のパッチの前記信号と、前記パターンのうち前記第2の階調値のパッチ以外のパッチでの前記信号と、を出力する濃度測定ステップと、
前記媒体のうち前記インクが吐出されていない空白領域であって、前記第2の階調値のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、前記空白領域であって、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、を出力する媒体濃度測定ステップと、
前記濃度測定ステップと前記媒体濃度測定ステップとで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの位置に、前記第2の階調値のパッチが形成された場合の前記信号を出力する濃度予測ステップと、
前記濃度予測ステップで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの階調値に対応する吐出量を補正する補正ステップと、
を行う印刷装置。
【0007】
なお、本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】印刷装置の全体構成のブロック図である。
【図2】(A)は、印刷装置の内部構造の概略を示す斜視図である。(B)は、印刷装置の内部構造の概略を示す側面図である。
【図3】印刷装置を構成するヘッドの下面におけるノズルの配列を示す図である。
【図4】カラーキャリブレーションの原理を示す図である。
【図5】印刷装置におけるプラテンギャップの高低差を考慮してカラーキャリブレーションを行う際に光学センサーが読み取る帯状のパターンの一例を示す図である。
【図6】第1の実施例に係る階調補正方法の効果を確認するために光学センサーが読み取る帯状のパターンを示す図である。
【図7】図6に示した帯状のパターンについて、測定点の位置と濃度の測定値との関係を示す図である。
【図8】第1の実施例に係る階調補正方法の効果を示す図である。
【図9】第1の実施例に係る階調補正方法において使用される、媒体上に形成されるパッチの一例を示す図である。
【図10】第1の実施例に係る階調補正方法のフロー図である。
【図11】第2の実施例に係る階調補正方法において媒体上に形成される帯状のグレースケールパターンの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===実施形態について===
本発明の実施形態は、上記主たる発明に対応する実施形態が備える特徴の他に、以下の特徴を備えていてもよい。
【0010】
前記パターンは、前記第2の方向において、前記第1の階調値のパッチ、前記複数の階調値のパッチ、前記第2の階調値のパッチの順に並ぶこと。
【0011】
前記パターンは、前記第1の方向に複数形成され、
複数の前記パターンのうちの隣接する前記パターンは、前記空白領域が介在され、
前記濃度予測ステップにおいて用いられる前記媒体濃度測定ステップの前記信号は、当該濃度予測ステップにおいて用いられる前記濃度測定ステップの前記信号を出力したパターンに隣接する前記空白領域の信号であること。
【0012】
前記第1の階調値のパッチと前記第2の階調値のパッチとは、それぞれ、前記第1の方向の幅が、前記光学センサーの受光部が読み取り可能な検出領域の前記第1の方向の幅よりも広く、前記第2の方向の幅が、前記検出領域の前記第2の方向の幅よりも広く、
前記複数の階調値のパッチは、それぞれ、前記第1の方向の幅が、前記検出領域の前記第1の方向の幅よりも広く、前記第2の方向の幅が、前記検出領域の前記第2の方向の幅よりも狭いこと。
【0013】
また、本発明の実施例は、第1の階調値のパッチと、前記第1の階調値よりも濃い階調値の第2の階調値のパッチと、前記第1の階調値と前記第2の階調値との間の複数の階調値のパッチとを含むパターンを用いて、ヘッドが吐出するインクの吐出量を補正する方法であって、
前記ヘッドにより、媒体が搬送される第1の方向と直交する第2の方向において各パッチの位置が異なるように、前記パターンを形成するパッチパターン形成ステップと、
前記媒体上に照射して光の反射光強度に応じた信号を出力する光学センサーにより、前記第2の階調値のパッチの前記信号と、前記パターンのうち前記第2の階調値のパッチ以外のパッチでの前記信号と、を出力する濃度測定ステップと、
前記センサーにより、前記媒体のうち前記インクが吐出されていない空白領域であって、前記第2の階調値のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、前記空白領域であって、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、を出力する媒体濃度測定ステップと、
前記濃度測定ステップと前記媒体濃度測定ステップとで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの位置に、前記第2の階調値のパッチが形成された場合の前記信号を出力する濃度予測ステップと、
前記濃度予測ステップで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの階調値に対応する吐出量を補正する補正ステップと、
を含む補正方法としている。
【0014】
===印刷装置の基本的な構成と動作===
図1は、実施形態に係る印刷装置1の機能ブロック図であり、図2は、印刷装置1の内部構造の概略を示す図である。なお、図2(A)は、その内部構造の斜視図であり、図2(B)は側面図である。印刷装置1は、コントローラー10、搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、および検出器群50を主要な構成として含んでいる。
【0015】
コントローラー10は、実質的に、印刷装置1の制御用コンピューターであり、演算処理装置であるCPU11、CPU11からの命令に従って各ユニット(20,30,40)や検出器群50を制御したり、各ユニット(20,30,40)や検出器群50が出力するデータをCPU11に転送したりするためのユニット制御部12、CPU11により実行されるプログラムの格納領域やそのプログラムの作業領域が確保されるメモリー13、外部装置であるコンピューター100とCPU11とのデータ通信を仲介するための通信インターフェイス部(通信IF)14などを含んで構成されている。
【0016】
搬送ユニット20は、紙などの媒体Sを第1の方向(以下、搬送方向)に搬送させるためのものである。ここで、媒体Sが上流側から供給されて下流側から排出されるものとして搬送方向を規定し、媒体Sにおいて、画像が形成される面を上面、あるいはおもて面として印刷装置1における相対的な上下方向を規定する。搬送ユニット20は、給紙ローラー21、搬送モーター22、搬送ローラー23、プラテン24、排紙ローラー25などを含んで構成されている。給紙ローラー21は、印刷装置1の上流側外方から供給された媒体Sを印刷装置1内に搬送するためのローラーである。搬送ローラー23は、搬送モーター22によって駆動され、従動ローラー26とともに媒体Sを挟み込み、給紙ローラー21によって給紙された媒体Sを印刷可能な領域まで搬送する。
【0017】
プラテン24は、印刷中の媒体Sを下方から支持するためのものである。排紙ローラー25は、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられ、搬送ローラー23と同期して回転し、当該媒体Sを印刷装置1の外部に排出する。
【0018】
キャリッジユニット30は、インクを吐出するためのノズルを備えたヘッド41を内蔵したキャリッジ31を水平面で搬送方向と直交する第2の方向(以下、走査方向)に移動させるものである。キャリッジ31は、キャリッジモーター32によって駆動されることで、キャリッジガイド軸33に案内されて走査方向に往復移動可能となっている。また本実施例では、多色印刷をするための複数の色(シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックK)のインクがインクカートリッジ34に充填され、インクカートリッジ34がキャリッジ31に着脱自在に装着されている。
【0019】
なお、キャリッジ31は、印刷装置1が印刷動作を実行していないときに走査方向の一端側にて待機し、印刷動作中は、走査方向で所定の移動範囲内で往復運動する。そして、以下では、キャリッジ31の移動範囲の両端について、キャリッジ31が待機する側をホーム側、その反対側をフル側と称することとする。ここでは、下流側から見て走査方向の右側をホーム側としている。
【0020】
検出器群50は、印刷装置1内の様々な状態を検出するための各種センサーを含み、検出器群50に含まれる各センサーは、その検出結果(検出データ)をコントローラー10に出力する。この例では、キャリッジ31の走査方向での位置を検出するリニア式エンコーダー51、搬送ローラー23の回転量を検出するためのローラロータリー式エンコーダー52、給紙中の媒体Sの先端の位置を検出する媒体検出センサー53、およびヘッド41の下面42に配設された光学センサー54などが検出器群50に含まれている。
【0021】
ヘッド41を主体として構成されるヘッドユニット40は、インクの液滴(以下、インク滴)を媒体Sに向けて吐出するための構成である。当該ヘッド41は、図3に示したように、下面42に複数のノズルNが配設されている。複数のノズルNは、搬送方向に沿うように一定間隔aで並んで開口し、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKの各色に応じてノズル列(53C,53M,53Y,53K)を形成している。それぞれのノズル列(53C,53M,53Y,53K)は、走査方向に沿って一定間隔bで並んでおり、各ノズル列(53C,53M,53Y,53K)は、それぞれ色が異なるインクに対応している。各ノズルNには、それぞれインクチャンバー(図示せず)と、ピエゾ素子が設けられている。ピエゾ素子の駆動によってインクチャンバーが伸縮・膨張すると、ノズルNからインク滴が吐出されるようになっている。そして、ヘッドユニット40は、ヘッド41とピエゾ素子の駆動回路などを含んで構成されている。以上のような構成を備えたヘッド41は、キャリッジ31と一体となって走査方向に移動し、その移動中にインク滴を断続的に吐出することで、走査方向に沿ったドットライン(ラスタライン)を媒体Sのおもて面に形成する。
【0022】
また、ヘッド41の下面42には光学センサー54も配設されている。当該光学センサー54は、媒体Sのおもて面に光を照射する光源55と、媒体Sからの反射光を検出し、その反射光強度に応じた信号を出力する受光素子56とを含んで構成されており、その搬送方向における配置位置は、ヘッド41において、最も下流側に位置するノズルNと同じ位置となっている。それによって、光学センサー54は、媒体Sが上流側から下流側に搬送されながら媒体S上に画像が形成されて、上流側のノズルNによってすでに形成された画像の領域が下流側に移動してきたとき、ヘッド41が走査方向に移動するのに伴って、その形成済みの画像領域の反射光強度を走査方向に連続的に測定することができる。すなわち、搬送方向を逆転させることなく、画像の形成動作と反射光強度の測定動作とを並行して行うことができる。
【0023】
以上の構成を備えた印刷装置1は、コンピューター100から送信されてきた各画素についての各色の階調値に基づいて、媒体S上で、特定の一つの画素に相当する所定の位置の所定の面積領域に、所定の色のインク滴を所定の量だけ吐出する。それによって、媒体S上に画像を形成する。
【0024】
==カラーキャリブレーションの必要性===
印刷装置1では、ヘッド41の個体差などに起因して同じ機種の印刷装置1であっても、その印刷特性(濃度や明度、彩度、色相など)が一致しない可能性がある。また、同一の印刷装置1であっても、印刷特性が経時変化することもある。そこで、印刷装置1には、媒体Sに各階調値に対応する複数パッチを含むパターンを形成し、その各階調値について、期待されるパッチの濃度(期待値)と実際に媒体S上に形成されたパッチの濃度(測定値)との誤差を検出し、誤差が低減するようにインクの吐出量を補正するカラーキャリブレーション機能が設けられている。
【0025】
===カラーキャリブレーションの概略===
カラーキャリブレーションは、第1の階調値のパッチと、第1の階調値よりも濃い階調値の第2の階調値のパッチと、第1の階調値と第2の階調値との間の複数の階調値のパッチとを含むパターンを用いてインクの吐出量を補正するものである。ここで、カラーキャリブレーション機能による階調の補正手順について一例を挙げると、まず、印刷装置1が扱う各色のインク(例えば、C,M,Y,Kの色インク)毎に階調値が異なる多数のパッチを媒体S上に形成し、それぞれのパッチの反射光強度を光学センサー54を用いて読み取る。そして、読み取り値から求められる測定値と各パッチの期待値との誤差を検出し、その誤差に基づいて階調値と実際に吐出するインクの量などの値などを変更する。すなわち、所定の階調値が与えられた際に、媒体S上のパッチに対する測定値が期待値に一致するように補正する。
【0026】
図4に、カラーキャリブレーションの原理を概略的に示した。ここでは、0〜255までの256階調で濃淡が表現されていることとし、各階調に対する期待値の特性が図中の直線(期待値特性)Pで表されているものとする。また、第1の階調値として、インク滴を全く吐出しない場合の階調値(ここでは階調255に相当)を採用している。すなわち、第1の階調値の濃度は媒体S自体の濃度(以下、紙白)である。第2の階調値の濃度については、一つの画素を特定の色のインク滴で塗り潰したときの濃度(以下、100%ベタ、ここでは階調0での濃度)を採用している。第1の階調値と第2の階調値との間の複数の階調値は、ここでは、紙白から100%ベタまでの、全階調値、あるいは離散的な複数の階調値となる。もちろん、第1の階調値の濃度よりも第2の階調値の濃度の方が濃ければ、第1の階調値や第2の階調値は、紙白や100%ベタでなくてもよい。
【0027】
そして、従来のカラーキャリブレーション方法(以下、従来例)では、第1の階調値から第2の階調値まで(ここでは、紙白から100%ベタまで)の複数の階調値に対応するパッチからなるパターンを実際に形成するとともに、全階調値、あるいは離散的な階調値に対応する各パッチを光学センサーで読み取り、その読み取り値に基づいて階調値と実際に媒体S上に形成されるパッチの濃度との関係(測定値特性)Rを求めている。なお、測定値特性Rは、光学センサーの個体差や経時変化などを考慮して、例えば、紙白に対応する測定値を0、100%ベタの測定値を1にするなどして正規化する。
【0028】
そして、ある階調値xにおける測定値R(x)に対し、同じ階調値xでの期待値がP(x)である場合、そのP(x)一致する測定値R(x’)での階調値x’を測定値特性Rより求め、ある階調値xが与えられた際には、階調値x’に相当する濃度で画像を形成するように補正する。それによって、期待値P(x)と測定値R(x)が一致することになる。
【0029】
===従来例の問題点===
上述したように、カラーキャリブレーションによって期待値と測定値とを一致させることが可能となる。ところで、従来例に係るカラーキャリブレーション方法に際しては、濃度が異なる多数のパッチを媒体S上に形成することになるが、実際には、同じ階調値に基づいて形成したパッチであっても、そのパッチの形成位置によって測定値に誤差が生じる可能性がある。
【0030】
例えば、印刷装置1の組み立て精度や印刷装置1を構成する部品の加工精度などにより、光学センサー54の読み取り面、すなわちヘッド41の下面42と媒体Sのおもて面との距離が媒体Sの位置によって異なると、同じ濃度のパッチでも、そのパッチの形成位置によって異なる濃度として測定されてしまう。具体例を挙げると、キャリッジガイド軸33やプラテン24の両端に高低差があれば、ホーム側とフル側とで、媒体Sのおもて面とヘッド下面との距離(プラテンギャップ)が異なり、ホーム位置とフル位置とでは、同じ濃度のパッチでも異なる測定値となる。これは、プラテンギャップが広ければ光学センサーから照射光が反射してきた際にその反射光強度が減少し、実際よりも濃い濃度の測定値となってしまい、反対にプラテンギャップが狭ければ、反射光強度が増加し、淡い濃度の測定値となってしまうためである。
【0031】
===パッチの形成位置を考慮したカラーキャリブレーション方法===
上述したように、従来例に係るカラーキャリブレーション方法では、同じ階調値に基づいて形成したパッチであっても、そのパッチの形成位置によって測定値に誤差が生じる、という問題があった。そこで、この問題を解決するための一般的なカラーキャリブレーション方法(以下、比較例1)について説明する。図5に、比較例1に係るカラーキャリブレーション方法について、その概略を示した。比較例1では、この図5に示したように、まず、媒体面Sの走査方向に亘って100%ベタの帯状のパッチ(以下、帯状ベタ)P100と、ホーム位置からフル位置に向かって徐々に階調値が異なるパッチPpを走査方向に帯状に並べて、走査方向に向かって徐々に濃度が変化するグレースケールの帯状パターン(以下、グレースケールパターン)Pgとを搬送方向に平行に形成する。すなわち、走査方向の所定の位置と所定の階調値とが対応付けされたパッチPpを形成する。
【0032】
次に、紙白となっている領域を空白領域として、走査方向に亘る空白領域PWを設ける。そして、この空白領域PWにおける走査方向の各位置で紙白の濃度を測定し、さらに、キャリッジ31を走査方向に移動させながら帯状ベタP100の各位置での濃度を測定する。それによって、走査方向における各位置での紙白と100%ベタの濃度とが特定される。
【0033】
また、キャリッジ31を走査方向に移動させながらグレースケールパターンPgの各位置での濃度を測定する。そして、あらかじめ対応付けされている走査方向の位置と階調値との関係から、階調値とその階調値で形成したパッチPpの濃度の測定値との対応関係を得る。また、ある位置p1での紙白と100%ベタの濃度の測定値の範囲を正規化し、その位置p1に対応するパッチPpに対する測定値を正規化したときの値を求める。他の位置も同様にして紙白と100%ベタの測定値の範囲を正規化し、その位置に対応する階調値でのパッチPpの測定値を正規化したときの値を求める。それによって、正規化が走査方向の各位置で行われ、パッチPpの形成位置に依存しない測定値特性が得られる。もちろん、光学センサー54は、ヘッド41が走査方向に移動するのに伴って走査方向の各位置での反射光強度を読み取るため、媒体S上に全ての帯状パターン(P100,Pg)を形成した後に媒体Sを逆方向に搬送させ、形成済みの帯状パターン(P100,Pg)を走査しながら濃度を読み取る必要がない。すなわち、帯状パターン(P100,Pg)の形成動作と同時に読み取り動作を行う。なお、図5では、説明を容易にするために、帯状ベタP100や、グレースケールパターンPg、およびグレースケールパターンPgに含まれる各パッチPpのサイズを誇張して示している。
【0034】
===コックリング(紙よれ)について===
図5に示した比較例1に係るカラーキャリブレーション方法では、印刷装置1の機械的な精度に起因してプラテンギャップに誤差があっても、パッチの形成位置に関わる問題を解決することができる、しかし、比較例1に係るカラーキャリブレーション方法にも問題がある。具体的には、帯状ベタP100を走査方向に亘って形成する必要があり、媒体S上には、多量のインクが所定の帯状領域に集中して吐出されることになる。そのため、媒体Sの種類によっては、媒体Sにインクが多量に染みこんで媒体Sが膨潤し、媒体Sが波打つ、所謂「紙よれ」「コックリング」などと呼ばれる現象(以下、紙よれ)が発生する。そのため、走査方向における各位置で、プラテンギャップとは別の紙よれに起因する濃度ムラが発生する。すなわち、媒体Sのおもて面と光学センサー54の読み取り面との距離には、印刷装置1の機械的なプラテンギャップに起因する高低差の他に、紙よれによる高低差が含まれることになる。しかも、紙よれによる高低差は、プラテンギャップのようにホーム側とフル側との間の単純な高低差ではなく、走査方向の各位置で不規則で短い周期で発生することになる。そのため、走査方向の各位置で紙白と100%ベタの濃度を測定して正規化したとしても、紙よれによる不規則な高低差により、キャリブレーションの機会ごとに、正規化の基準となる紙白と100%ベタの濃度の数値範囲が大きく異なってしまう。そこで、以下では、プラテンギャップなどの印刷装置1自体の機械的精度などに起因する濃度ムラと紙よれに起因する濃度ムラの双方を考慮し、精度よくカラーキャリブレーションを行える方法(以下、キャリブレーション方法)を実施例として挙げる。
【0035】
===第1の実施例===
第1の実施例として、印刷装置1自体の機械的精度などに起因する濃度ムラと紙よれに起因する濃度ムラの双方を考慮したキャリブレーション方法の基本原理を挙げる。
【0036】
<濃度の測定>
上記、比較例1は、媒体S上の各位置に形成されているパッチの濃度の実測値に基づいてカラーキャリブレーションを行っている。したがって、紙よれが発生しなければ、精度が高いカラーキャリブレーション方法である、と言える。そこで、まず、比較例1に係るキャリブレーション方法による補正効果と、第1の実施例に係るキャリブレーション方法による補正効果との差異を確認する。そして、そのために、印刷装置1を、フル側のプラテンギャップがホーム側よりも150μm大きくなるように調整し、その上で、紙よれが発生しにくい媒体Sを用い、当該媒体S上に複数の帯状パターンを形成した。図6に当該複数の帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)が形成された媒体Sの概略図を示した。各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)は、それぞれ、走査方向に亘って同じ階調値に対応する濃度で形成されており、この例では、シアンC、マゼンダM、イエローYの各色について、帯状ベタ(C3,M3,Y3)と、C、M、Yの各色について、2つの中間調に対応する階調値で形成した2本の帯状パターン(C1とC2,M1とM2,Y1とY2、以下帯状中間調パターン)を形成した。すなわち、各色3本、合計9本の帯状パターンを形成した。そして、走査方向に亘って紙白となっている空白領域PWと、各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)について、走査方向の各位置での濃度を測定した。
【0037】
図7に、空白領域PWにおける走査方向の位置pと濃度の測定値との対応関係を示す曲線PW(p)、および各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)の位置pと測定値との対応関係を示す曲線(C1(p)〜C3(p):M1(p)〜M3(p):Y1(p)〜Y3(p))を示した。なお、ここでは、媒体S上で画像形成が可能な印刷領域において、走査方向の最もホーム側の位置0から最もフル側の位置752まで等間隔に配置された合計753点の位置を測定点として、各測定点にて光学センサー54が読み取った反射光の強度を測定値とした。そして、測定点を横軸とし、空白領域PWおよび各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)に対する測定値を縦軸としたグラフを作成した。当該図7に示したように、ホーム側よりフル側のプラテンギャップが広いため、フル側での反射光強度が減少し、空白領域PWに対応するグラフ曲線PW(p)と各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)に対する測定値のグラフ曲線(C1(p)〜C3(p):M1(p)〜M3(p):Y1(p)〜Y3(p))は、総じて直線的に右下がりの形状となっており、その直線の傾きもほぼ一致している。
【0038】
次に、図6に示した、空白領域PWと各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)に対する測定値について、比較例1に係るキャリブレーション方法と第1の実施例に係るキャリブレーション方法とによって階調値を補正した。以下に、それぞれのキャリブレーション方法による補正手順を図6、図7を用いて説明する。
【0039】
<比較例1の補正手順>
比較例1に係るキャリブレーション方法では、空白領域PWにおけるある任意の測定点での紙白の濃度と、同じ測定点での各色の100%のベタの帯状パターン(C3,M3,Y3)、および各色の帯状中間調パターン(C1とC2,M1とM2,Y1とY2)の濃度を測定し、これらの測定値を用いて図4に示したような正規化された濃度特性Rを特定している。ここで、ある階調値で形成したシアンCの帯状中間調パターンC1に対応するグラフ曲線C1(p)を例に挙げて説明すると、空白領域PWにおけるある任意の測定点をp1として、当該p1での紙白の濃度をPW(p1)、シアンCの帯状ベタC3上で、測定点p1における濃度をC3(p1)、帯状中間調パターンC1上で、測定点p1における測定値をC1(p1)とすれば、この中間調の測定値C1(p1)を正規化した値RC1(p1)は、
C1(p1)={C1(p1)−C3(p1)}/{PW(p1)−C3(p1)}
で表される。すなわち、紙白、100%ベタ、中間調のそれぞれの濃度が全て同一の測定点p1でされ、その測定値に基づいて当該中間調の濃度が正規化されている。しかし、上述したように、この比較例1のカラーキャリブレーション方法では、補正の精度を高くすることが可能である反面、帯状ベタC3や帯状中間調パターンC1の形成が必須となり、媒体Sの種類によっては、紙よれに関わる問題が発生することが知られている。紙よれが発生しなくても媒体Sやインクの消費量に関わる問題が存在する。
【0040】
<第1の実施例の手順>
次に、第1の実施例に係るカラーキャリブレーション方法による補正手順について説明する。第1の実施例は、概略的には、光学センサー54が出力した、走査方向の所定に位置に形成されている100%ベタの濃度に相当する信号と、同じ位置での紙白の濃度に相当する信号とを用い、上記所定の位置以外の位置に100%ベタのパッチが形成された場合に、そのパッチを光学センサー54が読み取ったときの信号を予測するものである。以下に、帯状中間調パターンC1に対応するグラフ曲線C1(p)を例に挙げてより具体的に説明する。
【0041】
第1の実施例では、図7に示した測定結果、すなわち、空白領域PWに対応するグラフ曲線PW(p)と各帯状パターン(C1〜C3:M1〜M3:Y1〜Y3)に対する測定値のグラフ曲線(C1(p)〜C3(p):M1(p)〜M3(p):Y1(p)〜Y3(p))とが総じて同じ傾きの直線であった、という結果に鑑み、任意の測定点p1における紙白の測定値PW(p1)と、特定の測定点p2における紙白の測定値PW(p2)と、帯状ベタC3上の特定の測定点p2における測定値C3(p2)と、帯状中間調パターンC1における任意の測定点p1での測定値C1(p1)とを用いて濃度特性Rを特定する。
【0042】
具体的には、以下の式1によって、まず、二つの測定点p1、p2での紙白の測定値PW(p1)、PW(p2)と、帯状ベタC3上の測定点p2における測定値C3(p2)とに基づいて、帯状ベタC3上の測定点p1での測定値C3(p1)を推算する。すなわち、C3(p1)の予測値C3’(p1)を求める。
C3’(p1)={PW(p1)−PW(p2)}+C3(p2)…<式1>

次に、上記予測値C3’(p1)と、帯状中間調パターンC1における任意の測定点p1での測定値C1(p1)と、当該測定点p1にける紙白の測定値PW(p1)とに基づいて当該中間調の測定値を正規化した値R’C1(p1)を以下の式2に基づいて求める。
R’C1(p1)=
{C1(p1)−C3’(p1)}/{PW(p1)−C3’(p1)}…<式2>
【0043】
<比較例2>
上述した第1の実施例では、帯状ベタC1上の任意の測定点p1における予測値C3’(p1)を推算している。そこで、この第1の実施例の効果が特別であることを確認するために、帯状ベタC1上の任意の測定点p1における予測値C3’(p1)を推算せず、任意の測定点p1における紙白の測定値PW(p1)と、中間調の帯状パターンC1における同じ測定点p1での測定値C1(p1)と、帯状ベタC3上の特定の測定点p2における測定値C3(p2)とを用いて測定値C1(p1)を正規化するキャリブレーション方法を比較例2として挙げる。すなわち、比較例2に係るカラーキャリブレーション方法では、ある中間調の帯状パターンC1上の任意の測定点p1での測定値C1(p1)を正規化した値R’C1(p1)を以下の式に基づいて計算している。
R’C1(p1)={C1(p1)−C3(p2)}/{PW(p1)−C3(p2)}
【0044】
<比較例1、第1の実施例、比較例2についての補正効果>
図8は、上記比較例1、第1の実施例、および比較例2のそれぞれに係るキャリブレーション方法による補正効果の差異を示している。当該図8では、シアンCのインクを用いて形成したある中間調の帯状パターンC1上の測定点pを横軸とし、上記従来例、比較例、および第1の実施例の方法で各測定点pにおける帯状パターンC1の測定値を正規化したときの値を縦軸にしたグラフを示している。すなわち、図8に示したグラフは、図4において、帯状パターンC1の階調値がxであるとして、その階調値xにおける濃度特性曲線R上の点R(x)を測定点ごとに求めることに相当する。なお、第1の実施例と比較例では、特定の測定点での100%ベタの濃度として、最もフル側からホーム側に向けて連続する20箇所の測定点での濃度を平均した値を採用している。なお、図8(A)に示したグラフは、各キャリブレーション方法による補正効果についての総体的な傾向を示すものであり、図8(B)は、(A)における円内を拡大した図である。
【0045】
図8(A)に示したように、比較例2に対応する曲線L3は、ホーム側で他の曲線(L1、L2)よりも高い値を示し、総じて右下がりの形状となっている。これは、比較例2に係るキャリブレーション方法では、100%ベタの濃度を特定の一点p2のみで測定しているため、印刷装置1の機械的な精度の影響を受けてしまうことが確認できた。すなわち、比較例2に係るキャリブレーション方法では、ホーム側とフル側のプラテンギャップの差による高低差の影響を受けてしまう。したがって、比較例2のキャリブレーション方法では、精度の高いカラーキャリブレーションを行うことができない。
【0046】
一方、比較例1に対応する曲線L1と第1の実施例に対応する曲線L2は、ホーム側からフル側に亘って平坦な形状となっており、双方の曲線(L1,L2)の軌跡もほぼ一致し、図8(A)に示したグラフでは、双方の曲線(L1,L2)を明確に区別することができないほど近似しており、このグラフの一部を拡大した図8(B)においても、点線で示した比較例1に対応する曲線L1と実線で示した第1の実施例に対応する曲線L2が極めて近似していることが確認できる。
【0047】
上述したように、比較例1のキャリブレーション方法では、図4における測定値特性Rを実測値に基づいて求めている。すなわち、走査方向に亘る全測定点で紙白と100%ベタの濃度を測定するとともに、特定の測定点に形成した特定の階調値のパッチの濃度を測定している。そのため、走査方向の位置によってプラテンギャップが異なっていても、特定の階調値のパッチが形成されている特定の測定点と同じ測定点における紙白と100%ベタの濃度に基づいて正規化しているため、その正規化した値が走査方向におけるプラテンギャップの誤差に左右されない。しかも、ここでは、紙よれの発生がほとんどない媒体Sを用いて比較例1に係る方法でキャリブレーションを行っていることから、比較例1は、精度が高いキャリブレーション方法である、と言える。
【0048】
そして、第1の実施例は、図8に示したように、その精度が高い比較例1とほとんど差異が無かった。しかも、第1の実施例のキャリブレーション方法は、媒体S上の空白領域PWにはインクが吐出されていないので原理的に紙よれが発生しないことを利用し、この空白領域PWについてのみ全測定点の濃度を測定し、100%ベタについてはその測定点の位置が分かれば、任意の位置で測定するだけでよい。
【0049】
図9に第1の実施例に係るキャリブレーション方法において使用される媒体S上に形成されるパッチの一例を示した。第1の実施例では、比較例1において必須だった帯状ベタP100を形成する必要が無く、走査方向に亘って紙白となる空白領域PWと、媒体S上の任意の位置に光学センサー54が読み取れる範囲の大きさの100%ベタのパッチPbと、任意の位置に所定の中間調のパッチPpが形成されていればよい。図示した例では、ホーム位置からフル位置に向かって徐々に階調値が異なるパッチPpを走査方向に帯状に並べたグレースケールパターンPgが形成されており、このグレースケールパターンPgの一方の端部(図中、フル側)のパッチPpが100%ベタのパッチPbとなっている。
【0050】
図9に示した例を上記式1と式2に適用すると、まず、式1により、走査方向のある位置p2に形成されている100%ベタのパッチPbの濃度の測定値C3(p2)と、空白領域PWにおける同じ位置p2での紙白の濃度の測定値PW(p2)と、空白領域PWにおける位置p1での紙白の濃度の測定値PW(p1)とを用い、この位置p2以外の位置p1に100%ベタのパッチが形成された場合に、その100%ベタのパッチの濃度の測定値C3’(p1)を予測する。そして、式2により、グレースケールパターンPg上で、位置p1に形成されているPpの濃度の測定値C1(p1)を正規化した値R’C1(p1)を、位置p1に形成されているPpの濃度の測定値C1(p1)と、位置p1での紙白の濃度の測定値PW(p1)と、式1により求められた100%ベタのパッチの濃度の測定値C3’(p1)とを用いて求める。
【0051】
もちろん、各階調値に対応する複数のパッチPpや100%ベタのパッチPbを他の位置に形成してもよい。いずれにしても、第1の実施例では、紙よれの原因となる帯状ベタP100が不要であるため、媒体Sの種類がどのようなものであっても高い精度でカラーキャリブレーションを行える。換言すれば、紙よれの発生が懸念される媒体Sでカラーキャリブレーションを行う場合、第1の実施例は、比較例1よりも高精度なカラーキャリブレーションを行うことが可能となる。
【0052】
<第1の実施例に係るカラーキャリブレーション方法の情報処理手順>
図10は、第1の実施例に係るキャリブレーション方法の手順をコントローラー10における情報処理の流れ図として示した。ここでは、ある色(Aとする)のある階調値(xとする)のパッチAxを用いてカラーキャリブレーションを行う例を示している。また、紙白の階調値をNとし(s1)、階調値が0〜Nまであることとしている。まず、紙白の状態から徐々に階調値を下げていき(s2)、階調値が100%ベタに対応する値でなければ、全測定点pにおける紙白の濃度PW(p)を測定し(s3→s4)、各測定点pでの紙白の測定値PW(p)を記憶する(s5)。
【0053】
つぎに、ある位置p2に100%ベタ(A100とする)のパッチを形成するとともに、そのパッチの濃度A100(p2)を測定(s6,s7)し、その位置p2と測定値A100(p2)とを記憶する(s8)。また、上記手順s2において設定されている階調xの濃度のパッチAxを媒体S上に形成するとともに、そのパッチAxの濃度を測定し(s9,s10)、位置p2と濃度Ax(p2)を記憶する(s11)。このようにして、ある階調xについての濃度を正規化した値を求めるのに必要なデータが揃う。
【0054】
そして、先の手順s5で記憶した走査方向の位置pごとの紙白の濃度の測定値PW(p)との関係から、ある階調値xのパッチAxが形成されている位置p1における紙白の濃度Pw(p1)を取得する(s12)。また、同じ位置p1に100%ベタA100が形成されていると仮定したときに、その仮想の100%ベタA100の濃度の予測値A’100(p1)を上記の式1に基づいて特定する(s13)。その上で、位置p1における紙白のPW(p1)と100%ベタの予測値A’100(p1)の数値範囲を正規化し(s14)、上記の式2に基づいて、ある階調値xについての濃度の測定値Ax(p1)を正規化した値R’Ax(p1)を求める(s15)。そして、階調値xと濃度を正規化した値R’Ax(p1)とを対応付けして記憶する。このようにして、ある階調値で形成したパターンについての濃度とその形成位置との対応関係を、全ての階調値について特定する(s16→s2,s3→おわり)。それによって、図4に示したような測定値特性Rが求められる。そして、最終的に、その測定値特性Rと期待値特性Pとが一致するように、ある階調値xで形成したときのパッチの実際の濃度R(x)と期待値P(x)とが一致するように補正する。
【0055】
===第2の実施例===
上記第1の実施例は、例えば、印刷装置1自体の組み立て精度や加工精度を起源とするするプラテンギャップの誤差と、紙よれに起因するプラテンギャップの誤差の双方を考慮したカラーキャリブレーション方法であって、プラテンギャップの誤差の有無や、その誤差の起源に依らず精度の高いカラーキャリブレーションを行える。ところで、光学センサー54による読み取り領域(検出スポット)は、例えば、直径数mm程度の円形領域であり、ここで例示した印刷装置1では、検出スポットが直径8mmの光学センサー54を用いている。したがって、第1の実施例の方法でカラーキャリブレーションを行う際にグレースケールパターンを媒体S上に形成すると、一つのグレースケールパターンに含まれる個々のパッチを検出スポットよりも大きく形成する必要がある。そのため、一つのグレースケールパターン内に全ての階調値のパッチを形成することができず、階調値の範囲が異なる複数のグレースケールパターンを搬送方向に形成することなる。そして、その複数のグレースケールパターンのそれぞれに含まれるパッチの濃度を測定することになる。したがって、カラーキャリブレーションの実行に長い時間を要する。もちろん、複数のグレースケールパターンを形成するために多量のインクを用いることにもなる。全階調に対応するパッチを形成するために、複数のグレースケールパターンを媒体Sに亘って形成したり、大きな媒体S上に形成したりすることも考えられ、媒体Sの消費量も多くなる。そこで、第2の実施例として、グレースケールパターンや、そのグレースケールパターンに含まれる各階調値に対応するパッチの大きさや形状を工夫することで、濃度の測定時間を短縮し、インクや媒体Sの使用量も削減できるキャリブレーション方法を挙げる。
【0056】
図11は、第2の実施例において媒体S上に形成されるグレースケールパターンPg2を示している。図11(A)は、グレースケールパターンPg2全体を示す図であり、(B)は、(A)における一部領域E3の拡大図である。ここに示したグレースケールパターンPg2は、搬送方向の幅w1が検出スポットspの搬送方向の幅よりも広く、さらに両端に、検出スポットspよりも大きな領域E1、E2が設けられている。そして、その両端の一方の領域E1が紙白、他端の領域E2が100%ベタの形成領域となっている。この例では、ホーム側の端部領域E1が紙白で、フル側の端部領域E2が100%ベタの領域となっている。そして、グレースケールパターンPg2の中間領域E3は、図11(B)に示したように、走査方向の幅w2が光学センサー54の検出スポットspの幅よりも狭い多数のスリット状のパッチ(以下、スリット状パッチ)Psで形成されており、各スリット状パッチPsは、各階調値に応じた濃度で、かつ、ホーム側からフル側に向けて徐々に濃度が増加していくように形成されている。したがって、ある階調値xに対応するスリット状パッチPs(x)のホーム側には階調値x+1のスリット状パッチPs(x+1)が形成され、フル側には階調値x−1のスリット状パッチPs(x−1)が形成されている。
【0057】
第2の実施例では、ある階調値xのスリット状パッチPs(x)は、光学センサー54の検出スポットspよりも狭い。すなわち、光学センサー54による反射光強度の測定領域は、そのスリット状パッチPs(x)からはみ出ている。しかし、階調値xのスリット状パッチPs(x)のホーム側には、その階調値xの前後の階調値x−1およびx+1の淡いスリット状パッチPs(x+1)と濃いスリット状パッチPs(x−1)が隣接して形成されており、光学センサー54の検出スポットspが階調値xのスリット状パッチPs(x)からはみ出していても、光学センサー54は、階調値xのスリット状パッチPs(x)の濃度にほぼ相当する値を出力することができる。
【0058】
このように、第2の実施例では、一つのグレースケールパターンPg2に、カラーキャリブレーションに必要な全ての階調値に対応するパッチPsを含ませることができ、各階調値のパッチPsの濃度を特定することが可能となる。それによって、カラーキャリブレーションを実行するためのインク量と媒体Sの消費量を削減し、その実行時間を短縮することが可能となる。
【0059】
===その他の実施例===
上記第1および第2の実施例では、走査方向の全ての測定点について紙白の測定値を特定することとしていたが、離散的に複数の測定点で紙白の反射光強度を測定し、各測定値同士を補間して走査方向の各位置と紙白の濃度との関係を特定してもよい。また、パッチについても、全階調値に対応して形成せず、離散的な階調値に対応する濃度のパッチを形成し、離散的な階調値での濃度の測定値同士を補間することで、全階調値についての測定値特性を特定してもよい。
【0060】
上記第1の実施例では、特定の色シアンCについての階調を補正していたが、実際には印刷装置1が扱う全てのインクの色についてカラーキャリブレーションを行うことになり、第2の実施例の方法でカラーキャリブレーションを行う場合でも、各色に対応する複数のグレースケールパターンを搬送方向に平行に並べて形成する必要がある。このとき、走査方向に帯状となる一つの空白領域についてのみ測定点と測定値との関係を特定してもよいが、光学センサー54は、動作継続時間に応じてその特性が経時変化する場合がある。例えば、光学センサー54自体が発する熱や印刷装置1の内部温度変化などによって特性が変化する場合がある。このような場合、各色のグレースケールパターンに対して測定を行った時点と、空白領域に対して測定を行った時点との時間差が大きいと、同じ濃度のパッチでも異なる濃度として測定されてしまい、精度良くカラーキャリブレーションを行うことができなくなる可能性がある。
【0061】
そこで、走査方向に帯状となる空白領域を各グレースケールパターンの間に介在させ、ある色についてカラーキャリブレーションを行う際には、その色のグレースケールパターンに隣接する空白領域で測定点と測定値との関係を特定してもよい。それによって、空白領域とグレースケールパターンとが短い時間内で測定されるため、光学センサー54の特性変化を最小限に抑えることができる。
【0062】
上記各実施例では、一回のカラーキャリブレーションにより濃度と階調値との対応関係を補正していたが、補正後の階調値と濃度との対応関係に基づいて形成した中間調パッチを用いて再度カラーキャリブレーションを行い、図4に示した測定値特性をより期待値特性に近似させるようにしてもよい。
【0063】
なお、上記の各実施例は、主として光学センサーを備えた印刷装置1とその印刷装置1を用いたカラーキャリブレーション方法を開示したものであるが、それ以外にも印刷方法、パッチの形成方法、パッチの構成や構造なども開示されている。また、上記の実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれている。
【符号の説明】
【0064】
1 印刷装置、10 コントローラー、11 CPU、12 ユニット制御部、
13 メモリー、14 通信インターフェイス、20 搬送ユニット、
21 給紙ローラー、22 搬送モーター、23 搬送ローラー、24 プラテン、
25 排紙ローラー、30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、
32 キャリッジモーター、33 キャリッジガイド軸、40 ヘッドユニット、
41 ヘッド、43C,43M,43Y,43K ノズル列、50 検出器群、
51 リニア式エンコーダー、52 ロータリー式エンコーダー、
53 紙検出センサー、54 光学センサー、55 光源、56 受光素子、
C1〜C3,M1〜M3,Y1〜Y3 帯状パターン、N ノズル、
P 期待値特性、P100 帯状ベタ、Pg,Pg2 グレースケールパターン、
Pb 100%ベタのパッチ、Pp パッチ、Ps スリット状パッチ、
PW 空白領域、R 測定値特性 S 媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を第1の方向に搬送する搬送ユニットと、
前記第1の方向と直交する第2の方向に移動しつつ、インクを吐出するヘッドと、
前記第2の方向に移動しつつ、前記媒体上に照射して光の反射光強度に応じた信号を出力する光学センサーと、
を備え、
第1の階調値のパッチと、前記第1の階調値よりも濃い階調値の第2の階調値のパッチと、前記第1の階調値と前記第2の階調値との間の複数の階調値のパッチとを含むパターンを用いて、前記インクの吐出量を補正する場合に、
前記第2の方向において各パッチの位置が異なるように、前記パターンを形成するパッチパターン形成ステップと、
前記第2の階調値のパッチの前記信号と、前記パターンのうち前記第2の階調値のパッチ以外のパッチでの前記信号と、を出力する濃度測定ステップと、
前記媒体のうち前記インクが吐出されていない空白領域であって、前記第2の階調値のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、前記空白領域であって、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、を出力する媒体濃度測定ステップと、
前記濃度測定ステップと前記媒体濃度測定ステップとで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの位置に、前記第2の階調値のパッチが形成された場合の前記信号を出力する濃度予測ステップと、
前記濃度予測ステップで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの階調値に対応する吐出量を補正する補正ステップと、
を行う印刷装置。
【請求項2】
前記パターンは、前記第2の方向において、前記第1の階調値のパッチ、前記複数の階調値のパッチ、前記第2の階調値のパッチの順に並ぶ、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記パターンは、前記第1の方向に複数形成され、
複数の前記パターンのうちの隣接する前記パターンは、前記空白領域が介在され、
前記濃度予測ステップにおいて用いられる前記媒体濃度測定ステップの前記信号は、当該濃度予測ステップにおいて用いられる前記濃度測定ステップの前記信号を出力したパターに隣接する前記空白領域の信号である、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記第1の階調値のパッチと前記第2の階調値のパッチとは、それぞれ、前記第1の方向の幅が、前記光学センサーの受光部が読み取り可能な検出領域の前記第1の方向の幅よりも広く、前記第2の方向の幅が、前記検出領域の前記第2の方向の幅よりも広く、
前記複数の階調値のパッチは、それぞれ、前記第1の方向の幅が、前記検出領域の前記第1の方向の幅よりも広く、前記第2の方向の幅が、前記検出領域の前記第2の方向の幅よりも狭い、
請求項2または請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
第1の階調値のパッチと、前記第1の階調値よりも濃い階調値の第2の階調値のパッチと、前記第1の階調値と前記第2の階調値との間の複数の階調値のパッチとを含むパターンを用いて、ヘッドが吐出するインクの吐出量を補正する補正方法であって、
前記ヘッドにより、媒体が搬送される第1の方向と直交する第2の方向において各パッチの位置が異なるように、前記パターンを形成するパッチパターン形成ステップと、
前記媒体上に照射して光の反射光強度に応じた信号を出力する光学センサーにより、前記第2の階調値のパッチの前記信号と、前記パターンのうち前記第2の階調値のパッチ以外のパッチでの前記信号と、を出力する濃度測定ステップと、
前記センサーにより、前記媒体のうち前記インクが吐出されていない空白領域であって、前記第2の階調値のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、前記空白領域であって、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチと前記第2の方向における位置が同じ領域での前記信号と、を出力する媒体濃度測定ステップと、
前記濃度測定ステップと前記媒体濃度測定ステップとで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの位置に、前記第2の階調値のパッチが形成された場合の前記信号を出力する濃度予測ステップと、
前記濃度予測ステップで出力された前記信号を用いて、前記第2の階調値のパッチ以外のパッチの階調値に対応する吐出量を補正する補正ステップと、
を含む補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−94977(P2013−94977A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236936(P2011−236936)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】