説明

印刷装置、印刷方法およびディザマスクの設定方法

【課題】高画質の印刷を行なうには、一般に分散性の高いマスクを用いたディザ法や誤差拡散法が用いられるが、ドットの形成位置にずれが生じると、想定した画質を実現することが困難となる。
【解決手段】画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを生成する際、印刷条件が異なる複数の画素グループに属する各ドットを共通領域で重ねて印刷するものとし、共通領域において形成されるドットの分布に、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を持たせる。更に、2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、第1,第2の画素が共通領域において隣接画素である場合、隣接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドットを用いて画像を印刷する印刷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、1種類あるいは数種類程度のドットを印刷媒体に記録することで、多階調の画像を再現する技術が、プリンターなどの印刷装置で用いられている。近年では、こうした多階調化の技術はめざましい発展を遂げており、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)などの数種類の色相のインクの大小2種類程度のドットを組み合わせ、その分布を制御することによって、いわゆる写真画質の画像を形成することも可能となっている。それ自体の階調値の少ないもの、例えばドットを形成する・しない(ドットのオン・オフ)で、多階調の画像を高画質で再現しようとすると、ドットの分布を如何に適切にコントロールするかが問題となる。こうしたドットの分布を、空間周波数の領域で分析する技術の進展により、現在では、空間周波数の領域において、所定の周波数以下の成分をできるだけ少なくしたノイズ特性を、ドットの分布に持たせることにより、画質を高められることが知られている。
【0003】
こうしたノイズ特性の代表的なものが、ブルーノイズ特性である。ブルーノイズとは、例えば一定階調値の画像を再現するためにドットを一様に形成した画像の空間周波数が、所定周波数以下にほとんど成分を有しない特性を意味している。人間の目は、一定以下の低周波数成分には敏感でも、高周波成分については視認性は高くない。このため、こうしたブルーノイズ特性を有する画像は、滑らかで高画質なものに感じられるのである。こうしたブルーノイズ特性を有する画像の形成技術を開示したものとして、下記特許技術文献1等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,341,228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブルーノイズ特性を有する画像の画質が最も高くなるのは、画像処理により得られたドットの形成位置に、正しくドットが形成される場合に限られる。現実の印刷装置では、ドットの形成位置に関しては、種々の要因により、本来の形成位置にドットを形成できないことがあり得る。例えば、ドット形成を、ノズルからのインク滴の吐出により行なうインクジェットプリンターでは、ノズル毎の個体差によりインク滴の弾着位置は異なっている。また、ドット形成を行なう印刷ヘッドを、印刷媒体、例えば印刷用紙に対して相対的に移動させながらドットを形成するプリンターでは、印刷ヘッドの位置決め誤差により、ドットの形成位置に誤差を生じることが知られている。代表的な誤差としては、印刷ヘッドの往動時と復動時でそれぞれドットを形成する双方向印刷時の誤差がある。また同様の誤差の一つとしては、複数回の主走査により一つのラスタを形成するマルチパス印字方式により生じる誤差も知られている。
【0006】
この他、印刷媒体の撓み、例えば印刷用紙がインクを吸収して撓むこと(いわゆるコックリング)により、インク滴の弾着位置、即ちドットの形成位置がずれる現象も知られている。もとよりこうしたドット形成位置のずれは、インク滴を用いる印刷装置だけではなく、熱転写方式の印刷装置や熱昇華型、あるいは用紙の幅方向に印刷ヘッドを配列したいわゆるラインプリンターなど、他の方式の印刷装置でも、同じ領域でのドットの形成を複数の画素グループに分けて行なう場合には、生じ得る課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成するドットデータ生成部と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、前記画像を印刷する印刷部と
を備え、
前記共通領域において形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
印刷装置。
【0009】
この適用例1によれば、共通領域に形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有しており、印刷される画像は、少なくとも共通領域において、いわゆるブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性に近い特性を示すことになり、印刷される画像を高品質にすることができる。しかも、近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されているので、ドットの形成位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の印刷装置であって、
前記ドット形成の有無は、前記各画素の階調値と予め用意されたディザマスクの各閾値とを比較することにより決定され、
前記共通領域におけるドット形成の有無を判断する際の前記閾値が、前記ノイズ特性を有し、且つ前記所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、前記k1・k2に近づくように設定されている
印刷装置。
【0011】
この適用例2の印刷装置では、上記の閾値を備えたディザマスクを用いてドット形成の有無を決定しているので、ドット形成の判断を高速に行なうことができるというディザ法のメリットを十二分に引き出しつつ、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0012】
[適用例3]
適用例2記載の印刷装置であって、
前記ディザマスクは、前記第1,第2の画素が属する2つの画素グループの各々について、該2つの画素グループの一方に属する画素のみにより形成される第1の画像と、他方に属する画素のみにより形成される第2の画像と、前記第1,第2の画像を重ねた印刷画像と、のいずれについても、画像を形成するドットの分布が、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有するように、前記閾値が定められている
印刷装置。
【0013】
適用例3の印刷装置では、ディザマスクの閾値は上記のように定められているので、ドットの形成位置にずれが生じても、近接画素にドットが形成される確率の上昇を抑制でき、かつ近接画素を含む他の画素に着目しても、ドット形成の偏りの発生を抑制できるので、共通領域で印刷される画像を高品質に保つことができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1記載の印刷装置であって、
前記ドット形成の有無は、誤差拡散法に基づいて行なうものとし、
前記近接画素の双方にドットが形成されている確率を示すバッファを備え、該バッファの値が前記k1・k2に近づくように、誤差拡散法によりドット形成の有無を判断する際の画素の階調値を増減補正する
印刷装置。
【0015】
この適用例4記載の印刷装置では、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制し、誤差拡散法による高画質化のメリットを十分に引き出すことができる。
【0016】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、主走査方向に対して往復動作を行うとともに、往動の主走査と復動の主走査の双方により前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素グループは、前記往動の主走査によりドットが形成される画素のグループであり、前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記復動の主走査によりドットが形成される画素のグループである、
印刷装置。
【0017】
この適用例5記載の印刷装置では、往動の主走査と復動の主走査で形成されるドット位置にずれが生じても、近接画素にドットが形成される確率の上昇を抑制することができる。したがって、往復動印刷(双方向印刷)による印刷時間の短縮というメリットを享受しつつ、共通領域で印刷される画像を高品質に保つことができる。
【0018】
適用例5の印刷装置は、いわゆる双方向印刷を行なうことができ、双方向印刷時のドットの形成位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0019】
[適用例6]
適用例5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向および該主走査方向に交差する副走査方向の両方向において、互い違いに配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記主走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と該画素に対して前記副走査方向の一方に隣接する画素との組合わせである
印刷装置。
【0020】
[適用例7]
適用性5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向において交互に、かつ該主走査方向とは交差する副走査方向には、前記往動の主走査により形成されるドットまたは前記復動の主走査により形成されるドットが連続するよう配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記主走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と前記隣接する画素に対して前記副走査方向のいずれかの側に隣接する各画素との組合わせである
印刷装置。
【0021】
[適用例8]
適用例5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向に交差する副走査方向おいて交互に、かつ前記主走査方向には、前記往動の主走査により形成されるドットまたは前記復動の主走査により形成されるドットが連続するよう配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記副走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と前記隣接する画素に対して前記主走査方向のいずれかの側に隣接する各画素との組合わせである
印刷装置。
【0022】
上述した適用例6ないし8記載の印刷装置は、往動の主走査と復動の主走査により形成されるドットの配置が、いわゆるたすき掛け(適用例6)、カラム交互(適用例7)、ラスタ交互(適用例8)のいずれの場合に、近接画素をいずれの方向にとって、その形成隔離を制御するかを特定している。これらの組合わせにより、往動の主走査と復動の主走査で形成されるドットの位置にずれが生じても、隣接画素におけるドットの形成確率の変動は抑制され、ドットの形成位置のずれに起因する画質の劣化を抑制することができる。
【0023】
[適用例9]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、主走査方向に対して主走査を行ないつつ前記ドットを形成すると共に、複数回の主走査により前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数回の主走査のうち互いに異なる主走査によりドットが形成される画素のグループである
印刷装置。
【0024】
適用例9記載の印刷装置によれば、いわゆるマルチパス印刷において、異なる主走査により形成されるドットの位置にずれが生じた場合でも、近接する画素にドットが形成される確率の変動を抑制することができ、ドットの形成位置のずれに起因する画質の劣化を抑制することができる。
【0025】
適用例9記載の印刷装置は、複数回の主走査でラスタを形成するものであり、互いに異なる主走査で形成されるドットの位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0026】
[適用例10]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記印刷媒体上にドットを形成する複数のヘッドを有すると共に、前記印刷媒体を前記複数のヘッドに対して相対的に移動させて、前記印刷媒体上に前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数のヘッドのうち互いに異なるヘッドによりドットが形成される画素のグループである、
印刷装置。
【0027】
適用例10記載の印刷装置は、複数のヘッドを有しており、ヘッドが異なることに起因してドット形成位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0028】
[適用例11]
適用例1ないし適用例4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記印刷媒体上にドットを形成するヘッドを有するとともに、前記ヘッドを前記印刷媒体に対して相対的に移動させて、前記印刷媒体上に前記画像を印刷し、
前記ヘッドは、前記印刷媒体に対してインクを吐出する複数のノズルを主走査方向とは交叉する方向に配列してなるノズル列を、前記主走査方向に離間して複数備え、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数のノズル列のうち互いに異なるノズル列によりドットが形成される画素のグループである、
印刷装置。
【0029】
適用例11記載の印刷装置は、インクを吐出する複数のノズル列を有しており、ノイズ列が異なることに起因してドット形成位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0030】
[適用例12]
適用例1ないし適用例11のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記画素に対応して形成される前記ドットとして、一つの画素に大きさの異なる2種類以上のドットを形成可能なヘッドを備え、
前記近接画素におけるドット形成確率の設定は、前記2種類以上のドットのうち、大きさの小さい側からの1種または2種類以上のドットの組合わせのいずれかについてなされている
印刷装置。
【0031】
適用例12記載の印刷装置は、画素グループ毎のドットの形成位置にずれが生じても、2種類以上のドットのうち、大きさの小さい側からの1種または2種類以上のドットの組合わせのいずれかについて、近接画素でのドットの形成確率の上昇が抑制される。近接画素におけるドット形成の確率が変動したとき、画質に影響を与えやすいのは、低階調領域に形成されやすいドットである。したがって、2種類以上のドットのうち、大きさの小さい側からの1種または2種類以上のドットの組合わせのいずれかについて、近接画素のドット形成の確率を設定すれば、画質の劣化の抑制を十分に行なうことができる。
【0032】
[適用例13]
適用例1ないし適用例12のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記2つの画素グループ間においてドット形成位置のずれが発生しやすい方向については、より隔たった位置の画素まで前記近接画素として扱う
印刷装置。
この適用例の印刷装置によれば、ドット形成位置にずれが生じやすい方向にはより隔たった位置まで近接画素として扱うので、効率よく画質の劣化を抑制することができる。
【0033】
[適用例14]
前記確率Kが、
k1・k2−0.2<K<k1・k2
の範囲とされている適用例1ないし適用例13のいずれか一項記載の印刷装置。
この適用例14記載の印刷装置によれば、所定の階調値において任意の第1の画素、第2の画素にドットが形成される平均確率k1、k2である場合に、近接画素の双方にドットが形成される確率Kを、ドット形成の確率をドットの配置によって調整しない場合の確率k1・k2に十分に近づけることができる。このため、ドット形成の位置に生じるずれの程度が様々であっても対応でき、こうした場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0034】
[適用例15]
前記所定の階調範囲は、0<k1<0.2、0<k2<0.2の範囲である適用例1ないし適用例14のいずれか一項記載の印刷装置。
この適用例11の印刷装置では、近接画素の双方にドットが形成される確率をk1・k2に近づけている階調範囲を、低濃度側に設定しているので、ドットの形成位置にずれが生じても、粒状性の低下を抑制することができる。
【0035】
[適用例16]
前記確率k1,k2が共にkであり、前記近接画素に関する形成確率Kがk2 に近づけられている適用例1ないし適用例15のいずれか一項記載の印刷装置。
この印刷装置では、ドットの形成確率を、第1の画素グループと第2の画素グループとで同じとして扱うので、処理を簡便にすることができる。
【0036】
[適用例17]
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する方法であって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成する工程と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、前記画像を印刷する工程と
を備え、
前記共通領域において形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
印刷方法。
【0037】
[適用例18]
コンピュータに実行されて、印刷媒体上形成されるドットのデータを生成するプログラムであって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成する機能と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成が、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行なわれ、かつ該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことを前提として、前記共通領域において形成されるドットの分布に、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を持たせる機能と
を備え、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
プログラム。
【0038】
これらの適用例17、18によれば、適用例1と同様、共通領域に形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有しており、印刷される画像は、少なくとも共通領域において、いわゆるブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性に近い特性を示すように、ドットの形成を制御することができる。したがって、このドット形成のデータを用いて印刷される画像を高品質にすることができる。しかも、近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されているので、ドットの形成位置にずれが生じた場合でも、近接画素におけるドット形成の確率の上昇を抑制することができる。このため、ドット形成位置にずれが生じた場合の画質の劣化を抑制することができる。
【0039】
[適用例19]
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する際に用いるディザマスクを設定する方法であって、
前記ディザマスクを構成する閾値であって、前記画像に含まれる各画素でのドット形成の有無を判断するために、該画素の階調値と比較される複数の閾値を用意し、
所定の階調値の画像を前記閾値と比較することで形成されるドットの分布が、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、且つ前記所定の階調値において任意の画素にドットが形成される平均確率がkの場合に、互いに近接する2つの画素の双方にドットが形成される確率Kがk2 に近づくように、前記複数の閾値のディザマスクとしての配置を決定する
ディザマスクの設定方法。
【0040】
適用例18によれば、適用例1ないし3などの印刷装置において用いるディザマスクを容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例であるプリンター20の概略構成図である。
【図2】実施例における印刷ヘッド90のノズル列を例示する説明図である。
【図3】往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットとの組合わせのバリエーションを示す説明図である。
【図4】実施例における印刷処理を示すフローチャートである。
【図5】往動時および復動時に形成されるドットとその組合わせを示す説明図である。
【図6】往動時と復動時のドット形成位置にずれが生じた場合を例示する説明図である。
【図7】分散型ディザマスクを用いた場合のドットの配置例とペアドットとを示す説明図である。
【図8】着目画素OJに対する隣接画素NR,NDを示す説明図である。
【図9】ドット発生率kとペアドットの発生率Kとの関係を示すグラフである。
【図10】往動時と復動時のドット形成位置にずれが生じた場合の被覆率変動を例示するグラフである。
【図11】画素を単位としたドット形成位置のずれ量とペアドット発生率のk2 からの偏差との関係を示すグラフである。
【図12】ペア画素制御マスクの生成方法を示すフローチャートである。
【図13】階調値Sとペアドット目標値Mとの関係を示す説明図である。
【図14】感度特性VTF(Visual Transfer Function)の一例を示す説明図である。
【図15】他の印字方法における着目画素と隣接画素との関係を示す説明図である。
【図16】往動時のドットの分布と復動時のドットの分布および合成時のドットの分布を例示する説明図である。
【図17】第2実施例におけるディザマスクの生成処理を示すフローチャートである。
【図18】着目画素の選択処理における格納要素の配置について説明する説明図である。
【図19】第1のディザマスク評価処理を示すフローチャートである。
【図20】ブルーノイズ特性およびグリーンノイズ特性の一例を示す説明図である。
【図21】本発明の第3実施例における処理を説明する説明図である。
【図22】第3実施例におけるハーフトーン処理を示すフローチャートである。
【図23】第3実施例における隣接画素を示す説明図である。
【図24】第3実施例においてペアドットの数を制御するための結果値の設定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
A.第1実施例:
本発明の第1実施例について説明する。
A−1.装置構成:
図1は、本発明の第1実施例としてのプリンター20の概略構成図である。プリンター20は、双方向印刷を行うシリアル式インクジェットプリンターであり、図示するように、プリンター20は、紙送りモーター74によって印刷用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモーター70によってキャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ80に搭載された印刷ヘッド90を駆動してインクの吐出およびドット形成を行う機構と、これらの紙送りモーター74,キャリッジモーター70,印刷ヘッド90および操作パネル99との信号のやり取りを司る制御ユニット30とから構成されている。
【0043】
キャリッジ80をプラテン75の軸方向に往復動させる機構は、プラテン75の軸と平行に架設され、キャリッジ80を摺動可能に保持する摺動軸73と、キャリッジモーター70との間に無端の駆動ベルト71を張設するプーリ72等から構成されている。
【0044】
キャリッジ80には、カラーインクとして、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエロインク(Y)、ブラックインク(K)、ライトシアンインク(Lc)、ライトマゼンタインク(Lm)をそれぞれ収容したカラーインク用のインクカートリッジ82〜87が搭載される。キャリッジ80の下部の印刷ヘッド90には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ80にこれらのインクカートリッジ82〜87を上方から装着すると、各カートリッジから印刷ヘッド90へのインクの供給が可能となる。
【0045】
印刷ヘッド90には、図2に示したように、各インク色に対応して、インク滴を吐出する複数のノズルを副走査方向に配列したノズル列が設けられている。ノズル列におけるノズルの配列ピッチRは、ドットの形成ピッチ(ラスタ間隔r)の整数倍とされており、印刷時には、主走査毎に、印刷ヘッド90に対して用紙を副走査方向に相対的に移動しつつ主走査を複数回繰り返すことで、各ラスタを完成する、いわゆるインターレースによる印刷を行なう。また、一つのラスタを複数回の主走査により完成する、いわゆるオーバーラップ印刷も実施することができる。このため、インターレースとオーバラップとを組み合わせることにより、各ラスタあるいは各カラムを、印刷ヘッド90の往動時あるいは復動時のいずれかで形成されるドットに統一した、いわゆるカラム交互のドット配置(図3(A))あるいはラスタ交互のドット配置(図3(B))で印刷することができる。あるいは、往動時に形成されるドット、復動時に形成されるドットを、各ラスタおよび各カラムにおいて、交互に配置する、いわゆるたすき掛けのドット配置(図3(C))で印刷することも可能である。第1実施例では、図3(C)に示したたすき掛けのドット配置により印刷するものとした。こうしたインターレースやオーバーラップを用いて所望のドット配置を実現する方法は、周知のものなので、詳しい説明は省略する。
【0046】
上記の印刷ヘッド90やキャリッジモーター70、紙送りモーター74などを制御して印刷を実行する制御ユニット30は、CPU40や、ROM51、RAM52、EEPROM60がバスで相互に接続されて構成されている。制御ユニット30は、ROM51やEEPROM60に記憶されたプログラムをRAM52に展開し、実行することにより、プリンター20の動作全般を制御するほか、請求項におけるドットデータ生成部42、印刷部43としても機能する。これらの機能部の詳細については後述する。
【0047】
EEPROM60には、ディザマスク62が記憶されている。本実施例で用いたディザマスク62は、64×64の大きさを有しており、0から256までの閾値が、4096個の格納要素に格納されている。各閾値は、後述するハーフトーン処理おいて用いられる。ディザマスク62としての各閾値の配置は、いわゆるブルーノイズマスクに近い特性を持つように決定されている。本実施例で用いたディザマスク62の特性については、後で詳しく説明するが、高画質を実現するディザマスクと同様、分散性の高い分散型ディザマスクとして構成されている。
【0048】
本実施例では、印刷は、プリンター20単独で行なわれる。制御ユニット30には、メモリカードスロット98が接続されており、メモリカードスロット98に挿入したメモリカードMCから画像データORGを読み込んで入力する。本実施例においては、メモリカードMCから入力する画像データORGは、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色の色成分からなるデータである。プリンター20は、このメモリカードMC内の画像ORGを用いて印刷を行なう。もとより、外部のコンピュータにUSBなどやLANを用いて接続し、コンピュータ側でハーフトーン処理などを行ない、その結果を受け取ってプリンター20で印刷するといった構成を取ることも差し支えない。
【0049】
以上のようなハードウェア構成を有するプリンター20は、キャリッジモーター70を駆動することによって、印刷ヘッド90を印刷用紙Pに対して主走査方向に往復動させ、また、紙送りモーター74を駆動することによって、印刷用紙Pを副走査方向に移動させる。制御ユニット30は、キャリッジ80が往復動する動き(主走査)や、印刷媒体の紙送りの動き(副走査)に合わせて、印刷データに基づいて適切なタイミングでノズルを駆動することにより、印刷用紙P上の適切な位置に適切な色のインクドットを形成する。こうすることによって、プリンター20は、印刷用紙P上にメモリカードMCから入力したカラー画像を印刷することが可能となっている。
【0050】
A−2.印刷処理:
プリンター20における印刷処理について説明する。図4は、プリンター20における印刷処理の流れを示すフローチャートである。ここでの印刷処理は、ユーザーが操作パネル99等を用いて、メモリカードMCに記憶された所定の画像の印刷指示操作を行うことで開始される。印刷処理を開始すると、CPU40は、まず、メモリカードスロット98を介してメモリカードMCから印刷対象であるRGB形式の画像データORGを読み込んで入力する(ステップS110)。
【0051】
画像データORGを入力すると、CPU40は、EEPROM60に記憶されたルックアップテーブル(図示せず)を参照して、画像データORGについて、RGB形式をCMYKLcLm形式に色変換する(ステップS120)。
【0052】
色変換処理を行うと、CPU40は、ドットデータ生成部42の処理として、画像データを各色のドットのON/OFFデータ(以下、ドットデータともいう)に変換する処理(以下、ハーフトーン処理とも呼ぶ)を行なう(ステップS130)。この処理は、本実施例においては、ディザ法を用いて行う。すなわち、入力データと、ディザマスク62を構成する複数の閾値のうちの、入力データに対応する位置の格納要素に格納された閾値とを比較し、入力データが閾値よりも大きければ、ドットを形成する(ドットON)と判断し、入力データが閾値以下であればドットを形成しない(ドットOFF)と判断するものである。この処理で用いるディザマスク62は、主走査方向および副走査方向に並ぶ各々の入力データに対して、主走査方向および副走査方向に繰り返し適用される。本実施例におけるハーフトーン処理は、生成するドットデータが所定の特性を有するように制御される。この制御の内容は、ディザマスク62のもつ性質に依存している。ディザマスク62の有する特性については、後述する。なお、ハーフトーン処理は、ドットのON/OFFの2値化処理に限らず、大ドットおよび小ドットのON/OFFなど、多値化処理であってもよい。また、ステップS130に供する画像データは、解像度変換処理やスムージング処理などの画像処理が施されたものであってもよい。
【0053】
ハーフトーン処理を行うと、CPU40は、プリンター20のノズル配置や紙送り量などに合わせて、1回の主走査単位で印画するドットパターンデータに並び替えるオーバーラップおよびインターレース処理を行う(ステップS140)。オーバーラップおよびインターレース処理を行うと、CPU40は、印刷部43の処理として、印刷ヘッド90、キャリッジモーター70、モーター74等を駆動させて、印刷を実行する(ステップS150)。
【0054】
かかる印刷処理で形成されるドットの配置について説明する。上述の説明からも明らかなように、プリンター20は、印刷媒体の共通の印刷領域に、印刷媒体に対するインクの吐出位置を変えつつ、複数の異なるタイミング(すなわち、往動と復動)で印刷ヘッドからインクを吐出してドットを形成し、往動で形成されたドット(以下、往動ドットともいう)と、復動で形成されたドット(以下、復動ドットともいう)とが相互に組み合わされた印刷画像を出力する。第1実施例では、ドットの配置をたすき掛け配置(図3(C))としているので、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットは、図5(A)にハッチングを施して示したように千鳥配列の画素位置に形成され、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットは、図5(B)に網掛け施して示したように、往動時のドット位置とはカラム方向に1画素分ずれた千鳥配列の画素位置に形成される。往動時に形成されるドットに対応した画素の集合を第1の画素グループ、復動時に形成されるドットに対応した画素の集合を第2の画素グループと呼ぶ。図5(A)、(B)において、実際に形成されたドットを、それぞれ「●」印およびハッチングを施した「○」印で示した。ドットサイズは、通常、ドットの形成位置に多少のずれが生じても最大濃度で、印刷媒体表面を100%被覆できるよう、画素の対角線サイズよりも大きめに設定されている。印刷された画像は、図5(C)に示したように、第1,第2の画素グループのそれぞれで形成されたドットを合わせたものとなる。
【0055】
往動時と復動時とでは、ドットの形成の印刷条件は異なるので、実際に形成されるドットは、図5(C)とは異なる場合がある。例えば、復動時のドット形成位置に対して、往動時のドット形成位置が、ラスタ方向(主走査方向)に約1画素分ずれているとすると、図5(C)で示した例では、図6(A)に示したように、往動時に形成されるドットが、主走査方向にずれた結果、ドットの重なり合う面積が増加する。また図6(B)に示したように、この例ではずれ量が2に増えるとさらに重なり面積が増加する。図5(C)からも分かるように、位置ずれがなければドット同士の重なりは非常に少ない。これはブルーノイズ特性を有するディザマスクでは、できるだけドットを離して配置しようとするためである。これに対して実際の印刷において、ドット形成位置に位置ずれが生じると、図6(A),図6(B)に示したように、往動時にドットが形成される第1の画素グループに属するドットと、復動時にドットが形成される第2の画素グループに属するドットの重なり量が増える。ドット重なり量が増えると、ドットが印刷用紙Pを覆う割合である被覆率は変動する。また、ドットの形成位置にずれがなければ、隣接することのなかったドットが、ドットの形成位置がずれたことで、隣り合う位置に形成されることも起こりえる。この場合には、被覆率は変動しないが、ドット同士が近接するために、粒状感が変動することになる。
【0056】
A−3.ハーフトーン処理:
以上の点を踏まえて、第1実施例におけるハーフトーン処理の特徴について説明する。第1実施例では、図4のステップS130として示したハーフトーン処理において、第1の画素グループに属する画素と第2の画素グループに属する画素の階調値を、EEPROM60に記憶したディザマスク62と比較することにより、それぞれの画素位置にドットを形成するか形成しないかを決定している。決定されたドットのオン・オフを示すデータを、ドットデータと呼ぶ。
【0057】
ドットデータを生成するのに用いられるディザマスク62は、既に説明したように、分散性の高いものとして設定されているので、画像の濃度が低い領域では、ドットの配置はまばらになる。分散性の観点から、互いに上下または左右に隣接する2つの画素にドットが配置されることはほとんど生じない。この様子を図7(A)に示した。図7(A)では、8×8の領域を例示しており、画像の階調値が一様に26/255である場合を例示した。この場合、8×8の領域に、その約1割の画素、つまり6個程度の画素にドットが形成されることになる。
【0058】
これに対して、第1実施例では、有意の確率で、隣接する画素にドットが配置されることが生じるよう、ディザマスク62の閾値が設定されている。隣接する画素に共に形成されたドットが形成された一例を、図7(B)に示した。第1実施例では、こうした隣接する画素に共にドットが形成されるという状態が、画像の階調値が低い領域(例えば階調値が1〜127/255の領域)でも、有意の確率で生じるように、ディザマスク62が作られている。
【0059】
ここで有意の確率とは、次のようにして設定された確率である。第1実施例で用いるディザマスク62では、画像データの階調値が0〜127/255の範囲では、第1および第2の画素グループに属する各画素に、ドットが配置される場合の確率をk(0≦k≦1)とすると、ドットが形成された一つの画素のラスタ方向(主走査方向)右に隣接する画素またはカラム方向(副走査方向)下に隣接する画素のいずれかにドットが形成される確率Kが、それぞれ0.8×k2 程度とされている。
【0060】
着目した一つの画素に対して隣接する画素のうち、ドットが形成されるグループが異なるものを、以下「隣接画素」と呼ぶ。着目した画素に隣接する画素は、図3(C)のたすき掛けの配置では、上下左右方向に4つ存在する。ドットの形成位置の大きなズレが生じるのは、往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの間である。したがって、単に隣接しているか否かだけではなく、隣接しかつ異なる画素グループに属している画素同士に限って、ドットの発生確率を調整する。第1実施例では、往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットは、図3(C)に示したように、互い違いになっているので、着目画素に対して隣接しかつ異なる画素グループ属している画素は、着目画素の上下、左右の4箇所に存在する。本実施例では、このうち、ラスタ方向(主走査方向)右、およびカラム方向(副走査方向)下に隣接する画素だけを、着目画素に対する「隣接画素」としている。これは、着目画素からみて点対称にある隣接画素は、どちらか一方だけを考慮して、ベアドット(隣接画素の両方に形成されたドット)を数えれば良いからである。画像を形成する全画素について、画像の左上から右下へと、着目画素を順次移動しながら、点対称にある隣接画素のいずれか一方だけを数えていけば、重複することなく、すべてのペアドットを数えることができる。
【0061】
図8(A)は、着目画素OJの位置を(0,0)とし、主走査右方向および副走査下方向をプラスとした場合、位置(1,0)が右側の隣接画素NR、位置(0,1)が下側の隣接画素NDとなることを示している。また、着目画素OJと、隣接画素NR,NDのいずれか一つとの関係を特定する場合には、これらをまとめて「ペア画素」と呼ぶ。第1実施例では、着目画素と共にペア画素を構成する隣接画素は、上記の通り、着目画素OJの右または下の画素NR,NDに限っているが、逆に着目画素のOJの左や上の画素などに限ってペアドットを数えても差し支えない。また、図8(A)では、ペア画素を、着目する画素に隣接する画素に限っているが、ペア画素として、発生確率を考慮する画素は、隣接する画素に限る必要はない。図8(B)、(C)に示したように、着目画素から隔たった位置の画素まで隣接画素として扱うこともでき、こうした場合の詳しい説明は、後述する。
【0062】
ペア画素にドットが形成される確率について説明する。ここで階調値は、ドットがオンになる(形成される)確率に対応するものとして扱う。仮に、ハーフトーン処理される画像ORGが、階調値26/255の一様な画像であったとすると、ドットの配置は10画素に1つ程度になる(k=0.1)。これに対して、ペア画素にドットが形成される確率Kが、第1実施例のディザマスクでは、K=0.8×k2 ≒0.008程度とされているのである。従来の分散性の高いディザマスクでは、低濃度領域では、ドットの分散性を優先しており、隣接する画素であるペア画素に共にドットが形成され確率は、限りなく0に近付けられている。実際、ブルーノイズマスクとして知られている特性を有するディザマスクでは、階調値26/255で、ペア画素に共にドットが形成される例は見つからなかった。
【0063】
これに対して第1実施例では、階調値が0〜127/255、つまりドットの形成確率kが0〜0.5程度の範囲で、ペア画素にドットが共に形成される確率Kは、0.8×k2 程度である。つまり、例えば、階調値が52/255(k≒0.2)であれば、ペア画素に共にドットが形成される確率Kが、0.032、つまり100組のペア画素当たり3組程度の割合でドットが形成されていることになる。
【0064】
ペア画素にドットが形成される割合を模式的に示したのが図9である。図9において、横軸は、画素にドットが形成される確率で、画像の階調値に対応している。また、図9の縦軸は、ペア画素に共にドットが形成される割合を示している。図9において、実線JD1は、本実施例のディザマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示しており、一点鎖線BN1は、ブルーノイズマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示している。また、破線WN1は、ホワイトノイズマスクを用いてハーフトーン処理を行なった場合を示している。ここでホワイトノイズマスクとは、マスクサイズを十分に大きくした上で、ディザマスクの各閾値を乱数により設定することで、閾値を毎回乱数によって発生させるランダムディザ法と同等の結果が得られるようにしたディザマスクを指すものとする。ブルーノイズマスクは低周波成分を含まないブルーノイズ特性を示すにの対し、ホワイトノイズマスクは、低周波成分から高周波成分までをまんべんなく含むホワイトノイズ特性を示す。
【0065】
図示するように、ブルーノイズマスクを用いた場合には、画像の階調値が低い領域(階調値0〜51、ドットの発生確率k=0〜0.2)では、ペア画素に共にドットが形成される確率はほぼ0である。これに対して、ホワイトノイズマスクを用いた場合には、ドットの形成位置はランダムなので、ドットの形成の確率kに対して、ペア画素にドットが形成される確率は、k2 にほぼ一致している。これらの特性に対して、本実施例で採用したディザマスクでは、分散型のディザマスクでありながら、ペア画素に共にドットが形成される確率Kは、実線JD1として示したように、階調値の範囲0〜127(ドットの発生確率k=0〜0.5)で、ほぼ0.8×k2 とされている。即ち、本実施例で用いたディザマスクは、形成されるドットの分布については、ブルーノイズマスクに近い分散性を示しながら、ペア画素に共にドットが形成される確率Kについては、ホワイトノイズマスクに近いと特性を示すものとなっている。こうしたペア画素におけるドット形成の割合を高めた分散型のディザマスクの作り方については、後で改めて説明する。
【0066】
A−4.実施例の効果:
上記構成を備えた第1実施例のプリンター20では、画像データORGを受け取って、制御ユニット30により図4に示した処理を行なうことで、印刷用紙Pに画像を印刷する。このとき、画像を構成する各画素の階調値は、ディザマスク62を用いたディザ法によりハーフトーン処理されて、ドットの分布に変換される。ディザマスク62はもともとは分散性を優先して、ブルーノイズマスクを典型とする分散型ディザマスクとされているので、ハーフトーン処理されてドットの分布により表現された画像の画質は粒状感が低く、かつ画像の再現性の高いものとなっている。
【0067】
その上、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループの画素と、復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループの画素との間で隣接関係にある画素、即ちペア画素にドットが形成される確率が、ブルーノイズマスクより高く設定されている。したがって、往動時と復動時でドットの形成位置にずれを生じても、画質の低下が生じにくいという特徴を有する。この点を図10に拠って説明する。
【0068】
図10は、ドットの形成の割合が96/255である階調値の画像データORGを処理した場合の被覆率変動のシュミレーション結果を示すグラフである。図において、横軸は、往動時と復動時のドット形成位置のずれ量を、画素を単位として示し、縦軸は、被覆率変動率を示している。図10のグラフにおいて、実線JE1は、第1実施例のディザマスク62を用いた場合を、破線BB1は、ドット同士が極力離散的に発生するよう作成された典型的なブルーノイズマスクを用いた場合を、それぞれ示している。ここで被覆率とは、形成されたドットが用紙Pを覆っている割合を意味し、被覆率の変動とは、本来ドットの形成位置にずれがない場合にドットが印刷用紙Pを覆う割合を基準として、ドットの形成位置にずれが生じたために、ドットの重なりが生じて用紙を覆う割合が変化する、その程度を意味している。
【0069】
図10では、プリンターでの実際の印刷の状況に近づけるため、ドットサイズは画素サイズよりやや大き目に設定してある。このため、ドット同士が重ならなくても、ドット同士が隣接して接触した状態になるとドットの重なりが発生し、被覆率は低下する。典型的なブルーノイズマスクではドット間隔を極力離して分散配置しようとするため、ずれがない状態でドット同士の接触、すなわち被覆率低下要因は最小となっている。したがって、実際のプリンター20で、例えば往復動印刷時におけるドットの形成位置にずれが発生すると、ドットの形成位置は最適配置からくずれ、ドット同士の接触や重なりが増え、一般に被覆率が低下する。同じ階調値のデータを印刷している場合に、被覆率が変動すると、画像の濃淡ムラとなり、画質が低下する。こうした被覆率変動による画質のムラは、特に大判プリンターにより印刷された大判の印刷物ほど目に付きやすい。なぜなら、大判の印刷物は、離れて見るのが普通であり、離れて見た場合には、低周波の印字ムラに気づき易くなるからである。
【0070】
図10に示したように、本実施例のディザマスク62を用いた場合には、往動時と復動時でドット形成位置にずれを生じても、通常の分散型ディザマスクを用いた場合より、被覆率の変動が生じ難いことが分かる。なお、図10では、往動時印刷位置に対する復動時印刷位置のずれ量Δdが画素を単位として偶数の時(Δd=2、4・・・)よりも奇数の時(Δd=1、3・・)の被覆率低下率が大きくなる、ずれ量2を周期とする変動がみられる。ずれ量2周期の変動が発生するのは、図3(C)に示したたすき掛けの配置による印刷では、水平ずれ量が奇数の時には往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの位置が完全に重なるからである。このため、他の要因によるドット形成位置のずれを考慮せず、すべてのドットの形成位置が往復動で同じようにずれると仮定して行なったシミュレーションでは、水平ずれ量が奇数のとき、図10に示したように、被覆率低下が顕在化することになるのである。実際のプリンター20では、往復動印刷におけるドット形成位置のずれに、画素単位の小さな位置ずれが重畳されるため、図10に示した被覆率の変動は、平坦化される。本実施例のディザマスク62を用いた場合の被覆率変動は、図10の実線JF1はより更に平坦なものになり、ほとんど問題とならなくなる。これに対して、分散型ディザマスクを用いた場合の変動は、図10の破線BB1より多少平坦化されるものの十分には解消しきれず、被覆率の変動は残ることになる。
【0071】
したがって、本実施例のディザマスクを用いたプリンター20では、従来の分散型ディザマスクを用いたものより、往復動時のドット形成位置のずれに対して画質の低下を抑制でき、現実には高い印字品質を実現することができる。また、階調値の低い画像を印刷している際にドットの形成位置にずれが生じた場合でも、ペアドットの形成の数が大きく変動することがない。これはもともと低階調領域におけるペアドットの形成の割合を、ランダムなドット配置を採った場合に生じる割合k2 に近づけているからである。図9を用いて説明したように、ブルーノイズマスクのように、低階調領域において、ペア画素に共にドットが形成される確率Kを小さいかほぼ0にしていると、往動時と復動時とのドット形成位置、あるいは副走査後のドット形成位置に大きなズレが生じると、本来ペアドットになるはずのなかったドット同士が隣接または重なり合うことになり、被覆率の変動が大きく、画像に濃度むらが発生する。また、低濃度領域では粒状感が悪化する。本実施例のディザマスクを用いたハーフトーン処理では、もともとペア画素に共にドットが形成される確率を高くしてあるので、ドットの形成位置がずれても、ペア画素に共にドットが形成される確率はあまり大きくは変動しない。このため、画像の粒状感の悪化を招くこともない。
【0072】
ペアドットの形成の割合をk2 に近づけることにしたのは、次の新たな知見に拠っている。即ち、ブルーノイズマスクなどによってドット間隔を極力離して分散配置しておいても、特定の画素グループのドットの形成位置がずれ、そのずれ量が十分に大きくなると、特定方向のドットが互いに隣接してペアドットとなる確率はk2 に収束するとの知見が得られた。実際のブルーノイズマスクを調査したところ、図11に示したように、ずれ量が4から5画素以上になると、ぺアドットの発生率はほぼ一定値k2 に収束することが判明した。これは、ずれ量が大きいと、もともとは離れた距離にある2画素が隣接することになるためである。2画素の距離が十分に離れていると、両画素におけるドット形成の有無の相関が低下するため、両画素に同時にドットが形成される確率は、単純に両者の階調値(ドット形成の確率k)を掛け合わせた値k2 となる。したがって、ずれがない状態でのペアドット発生率をあらかじめk2 に近づけておけば、どのようなずれが発生した時にもペアドット発生率はあまり変化せず、被覆率変動を抑制できる。
【0073】
上記第1実施例では、ペア画素に共にドットが形成される確率Kを、
K=0.8×k2
としている。したがって、ドットの形成位置にずれがない場合のドットの分布の分散性の低下を抑制することができる。この係数は、ペアドットの発生確率を調整するものであり、係数が0.8であれば、ベアドットの発生率が80%に抑制されると言うことを意味している。もとより、係数は、例えば0.6〜1.4程度の範囲であれば、適宜設定することができる。係数を0.8〜1.2の範囲とすれば、ドット形成位置のずれに対するペアドットの発生確率の変動を好適に抑制することができ、係数を値1.0に近づけるほど、ベアドットの発生確率の変動の抑制という観点からは望ましいものとなる。また、低階調度の領域でのドットの分散性を優先する場合などであれば、係数を値0.8以下、例えば0.6〜0.8の程度に調整することもできる。
【0074】
B.ディザマスクの生成方法:
上述した第1実施例で用いたディザマスクは、以下の手法により生成した。図12は、第1実施例で用いたディザマスクの生成方法の一例を示すフローチャートである。この実施例では、ブルーノイズマスクを用意し、このブルーノイズマスクから、ペア画素に共にドットが形成される確率をK2 に近づけたディザマスクを生成する。生成されるディザマスクを、以下「ペア画素制御マスク」と呼ぶ。また、作成中のディザマスクは、「作業用マスク」と呼ぶものとする。
【0075】
ペア画素制御マスクを生成する場合には、まずブルーノイズマスクを用意する(ステップS200)。この例では、64×64の大きさのブルーノイズマスクを用いた。この例のブルーノイズマスクでは、64×64の大きさを有するマトリックスに、0〜254までの255個の閾値が格納されている。次に、現在の作業用マスクについて、全階調範囲に亘る階調値毎のペアドット数をカウントする処理を行なう(ステップS210)。この処理は、詳しくは、右隣接ペアドット数RPD[1,2,・・・127]と、下隣接ペアドット数UPD[1,2,・・・127]とを、個別にカウントする処理である。以下の説明において、(S)のように丸括弧を用いた場合は、その階調値Sにおける値を示し、[a,・・x]のように[]を用いた場合は、階調範囲a〜xまでの配列を表わすものとする。また、階調範囲a〜xまでの配列は、[a:x]として表わすものとする。
【0076】
作業用マスクについては、すべての閾値は分かっているから、階調値1〜127/255の範囲について、各階調値におけるドットの形成位置を調べることができる。このため、各階調値S毎の右隣接ペアドット数RPD(S)と下隣接ペアドット数UPD(S)とをカウントすることは容易である。ここでペアドットの数のカウントを、階調値1〜127/255に限っているのは、第1実施例で用いたペア画素制御マスク、つまり1〜127/255の階調範囲でペアドットの発生確率を所定の特性にしたマスクを生成するためである。階調値Sが大きくなると、ブルーノイズマスクにおいてもペアドット数はここで実現しようとしている発生確率に近づくので、全範囲について隣接ペアドット数をカウントする代わりに、階調値1〜127/255の範囲で、ペアドットの発生確率を調整すればよいことは、図9を用いて既に説明した通りである。もとより、以下に説明する手法は、全階調範囲について、ペアドット数をカウントし、その発生確率を調整する場合にも適用可能である。
【0077】
ステップS210で所定の階調範囲(ここでは1〜127/255)における右隣接ペアドット数RPD[1:127]と下隣接ペアドット数UPD[1:127]とをカウントした後、各階調値S毎のペアドット数が、目標範囲M(S)に入っているか否かについて判断する(ステップS220)。ここで目標範囲M(S)は、次のようにして設定した範囲である。仮に、ディザマスクがホワイトノイズ特性を備えているとすれば、ドットはランダムに発生されることになり、一つの画素にドットが形成される確率がkである場合、右または下の隣接画素にもドットが形成される確率(これをペアドットの発生確率という)は、それぞれk2 となる。画像の階調値が値1の時には、
k=0.00392156(=1/255)
であり、ペアドットの発生確率は、
2 =0.0000154
となる。したがって、ランダムにドットが形成されると仮定した場合に64×64の画素においてペア画素が存在すると予測される値(以下、予測値という)Hは、
H=k2 ×4096=0.126≒0
である。この計算を、予め、階調値1〜127/255の範囲で繰り返し、ペアドットの理論上の予測値H[1:127]を求め、これに係数0.8をかけたものを、各階調値Sにおけるペアドットの目標値m[1:127]として求めておく。なお、本実施例では、目標値m(S)に±20%の幅を持たせ、これを目標範囲M(S)と呼ぶものとする。
【0078】
階調値Sを1〜32とした場合のペアドットの予測値H[1:32]、目標値m[1:32]を図13に示した。図示するように、階調値S=10で、予測値H(10)=6、目標値m(10)=5、階調値S=20で、予測値H(20)=25、目標値m(20)=20、といった値になることが分かる。
【0079】
ステップS220では、こうして求めておいた理論的なペアドットの目標範囲M[1:127]と右隣接ペアドット数RPD[1:127]および下隣接ペアドット数UPD[1:127]とを比較する。比較の結果、両ペアドット数RPD[1:127],URD[1:127]が共に、目標範囲M[1:127]に入っていると判断できない場合には、次に作業用マスクにおける閾値のうち、適当な数の閾値(例えば2つの閾値)をランダムに入れ替える処理を行なう(ステップS230)。ランダムに入れ替えているので、同じ画素グループに対応する閾値同士を入れ替えることもあれば、異なる画素グループ間で入れ替えることもあり得る。
【0080】
作業用マスクにおける閾値を入れ替えると、各階調値におけるペアドットの数は変化するので、閾値を入れ替えたことによるペアドット数の修正を行なう(ステップS240)。ペアドットの数は、入れ替えを行なった閾値に対応した階調値の範囲内でしか変わらないので、1〜127/255の階調範囲で改めてカウントするのではなく、例えば閾値pと閾値q(p<q)とを入れ替えたとすれば、右隣接ペアドット数RPD[p:q]と下隣接ペアドット数UPD[p:q]のみ数え直せば良い。なお、入れ替える閾値はランダムに選択するものとしたが、階調値1〜127/255の範囲でペアドットの発生特性を調整しようとしているので、入れ替える閾値の少なくとも一方は、この範囲に入っている閾値にすることが望ましい。
【0081】
こうして数え直したペアドットの数を調べて、次に、ペアドット特性が改善されたか否かを判断する(ステップS250)。ここでペアドット特性が改善したか否かは、次のように判断される。
(A)閾値を入れ替えたことにより、右および下隣接ペアドット数RPD[p:q],UPD[p:q]が、k2 に近づいていれば、改善したと判断する。
(B)閾値を入れ替えたことにより、右および下隣接ペアドット数UPD[p:q],[p:q]のいずれか一方がk2 に近づき他方が変化していないとき、改善と判断する。
(C)階調範囲[p:q]の一部で改善、一部で悪化している場合は、この階調範囲の各階調値において生じるペアドットの数とその階調値での予測値との差の総和が小さくなっていれば改善と判断する。
【0082】
上記判断を行なって、ペアドット特性が改善していないと判断された場合には、ステップS230に戻り、閾値をランダムに入れ替える処理から再度実行する。閾値の入れ替えは、2つの閾値を入れ替えるのであれば、その組合わせは、階調の全範囲であれば、
40962 通り
存在することになる。階調値1ないし127/255の範囲に限っても、
20482 通り
存在することになる。したがって、閾値の入れ替えの組合わせは相当数に上り、すべての場合を尽くすには相当の時間を要するものの、順次行なえば、ペアドット特性を改善する入れ替えが見い出される(ステップS250、「YES」)。
【0083】
そこで、ペアドット特性が改善されたと判断した場合には、次に粒状性特性が問題ないか否かを判断する(ステップS260)。ここで、粒状性特性が問題ないとは、以下に示す粒状性指数が目標としている範囲に入っているか、あるいは目標範囲に入っていないが閾値の入れ替え前より改善した場合を意味している。粒状性指数は、公知の技術であるため(例えば、特開2007−15359号公報)、詳しい説明は省略するが、画像をフーリエ変換してパワースペクトルFSを求め、得られたパワースペクトルFSを、人間が有する視覚の空間周波数に対する感度特性VTF(Visual Transfer Function)に相当する重みを付けて、各空間周波数で積分して求められる指標である。図14に、VTFの一例を示す。こうしたVTFを与える実験式には、種々の式が提案されているが、次式(1)に代表的な実験式を示す。変数Lは観察距離を表しており、変数uは空間周波数を表している。粒状性指数は、かかるVTFに基づいて、次式(2)に示す計算式によって算出することができる。係数τは、得られた値を人間の感覚と合わせるための係数である。なお、算出方法からも明らかなように、粒状性指数は、人間がドットを目立つと感じるか否かを示す指標であるとも言える。かかる粒状性指数は、その値が小さいほど印刷画質においてドットが視認されにくく、その点において優れているといえる。
【0084】
【数1】

【0085】
【数2】

【0086】
当初用意したブルーノイズマスクは、粒状性指数が最も小さな値となるように構成されているが、ステップS230でランダムに閾値を入れ替えていくと、作業用マスクの粒状性は、ブルーノイズマスクより低下する。そこで、人間の視覚特性から見て許容できる範囲で粒状性指数の目標範囲を設けておき、この範囲からみて問題がないか否かを判断するのである。もとより、粒状性指数は階調値毎に定まる値なので、各階調値毎に上限値を用意し、各階調値における粒状性指数がこの上限値以下になっていれば、粒状性特性は目標範囲に入っていると判断すれば良い。
【0087】
粒状性特性に問題があれば、つまり目標範囲に入っておらず、且つ閾値の入れ替え前と比較して改善もされていない場合には(ステップS260、「NO」)、ステップS230に戻り、閾値の入れ替えから、上記処理を繰り返す。ステップS230ないしS260の処理を繰り返した結果、ペアドット特性が改善され且つ粒状性特性も問題ないと判断された場合には(ステップS250、S260:共に「YES」)、一旦ステップS230〜S260のループを抜けて、ステップS220に戻り、ペアドットの発生特性が目標範囲か否かの判断を行なう。
【0088】
ペアドットの発生特性が目標範囲に入っていると判断できなければ(ステップS220、「NO」)、上述したステップS230以下の処理を繰り返す。図12に示した処理では、ステップS220ないしS260は、条件が満たされるまで、閾値の入れ替えを行ないながら繰り返し実行される。そこで、このステップS230からS260までの処理が実行される回数(以下、ループ回数という)が小さいうちは、ステップS260における粒状性指数の上限値を大きくしておき、ループ回数が増加するにしたがって、上限値を最終的な目標値に近づけていく、といった処理を行なっても良い。このように上限値をループ回数に応じて変化させることで、粒状性指数が局所的なミニマム値に陥ることを防止することができる。
【0089】
こうして何度かステップS230ないしS260のループ処理が実行され、やがて粒状性特性に問題がなく、かつ右隣接ペアドット数RPD[1:127]および下隣接ペアドット数UPD[1:127]が目標範囲M[1:127]に入ると判断できれば(ステップS220、「YES」)、ペア画素制御マスクが完成したとして、その時点の作業用マスクをペア画素制御マスクとして保存し(ステップS270)、「END」に抜けて、ペア画素制御マスクの生成ルーチン(図12)を終了する。なお、上記の説明では、ペアドットの発生特性が目標範囲に入っているか否かは、ドットの発生があり得る階調値の全範囲のうち1〜127/255の範囲で行なったが、ペア画素制御マスクがペアドットの発生確率を制御しようとしている階調範囲で行なうものとすれば良い。例えば、もっと低濃度の範囲(ドットの発生確率k=0〜0.25、0.2〜0.5などに対応した階調範囲)に限って行なうものとしても良い。
【0090】
以上説明した手法により、ブルーノイズマスクを基本として、ペア画素制御マスクを得ることができる。このディザマスクが、第1実施例において、ドットの形成の判断に用いられたディザマスクである。このペア画素制御マスクは、ブルーノイズマスクを基本としているので、画像の階調値が低い範囲で形成されるドットの分布を、空間周波数として解析すると、人間の視覚感度が高い低周波領域にほとんど成分を持っていない。このため、高い画質を実現可能なディザマスクを提供することができる。しかも、上記のペア画素制御マスクでは、隣接画素に共にドットが形成されるペアドットの発生確率が、その階調値でのドットの形成確率kにおいて、k2 ×0.8程度になるようにされている。このため、往動と復動でのドットの形成位置にずれが生じても、被覆率の変動が小さく、ドットの形成位置のずれに起因する画像の濃度むらの発生を抑制可能なディザマスクを提供することができる。
【0091】
本実施例では、ブルーノイズマスクを出発点としてペア画素制御マスクを生成したが、他の任意の特性を有するディザマスクから生成することも可能である。上述したようにブルーノイズマスクやあるいはグリーンノイズマスクなど、分散性に優れ、もともとの分散性が収束させたい特性に近いものから生成した方が、生成に要する時間を短くすることができる。また、一からディザマスクを生成する際に、次のルールを適用して、ペア画素制御マスクを生成することも可能である。
(1)閾値を、小さい側または大きい側のいずれか一方から順次マトリックスに配置する。
(2)既に、ある位置に配置された閾値に対して、次の閾値を配置する際、粒状性指数などの評価値を用いて、次の閾値の配置位置とその場合の評価値とを対応付ける。その上で、評価の高い順次に、次の閾値の配置位置の候補を特定する。
(3)上記の候補を評価の高い側から順に取り出し、その場合のペアドットの数をカウントする。ペアドットの数が必要数(例えば図12に示した数)となる候補を見つけたら、その位置に次の閾値を配置する。
(4)上記の(1)〜(3)を、閾値が尽きるまで繰り返す。
こうしたルールを用いて、一から閾値の配置を決定し、ペア画素制御マスクを生成するものとしても良い。
【0092】
C.第1実施例の変形例:
以上説明した第1実施例の変形例について説明する。第1実施例では、往動と復動では、ドットの形成位置が、主走査、副走査両方向について互い違いになるものとし、ペア画素を構成する隣接画素の位置は、図8(A)に示すように、主走査方向右側、副走査方向下側の2画素としたが、隣接画素をこの2つに限らず、更に、副走査方向下側にラスタにおける左右の隣接画素を含めるものとしても良い。着目画素OJの位置を(0,0)としたとき、隣接画素として、(1,0)、(0,1)の位置の画素のみならず、(−2,1)、(2,1)の位置の画素も隣接画素とみなし、ペアドットを計4組カウントするのである。これを図8(B)に示した。もとより、更にこの範囲を広げて、図8(C)の8画素まで拡大することも考えられる。ペア画素の範囲を広ければ、一般にドットの形成位置のずれ方が変化しても、これに対する濃度むらの発生を抑制することができる。なお、隣接画素の範囲は、印刷におけるドットの形成位置のずれが生じやすい方向については広く取ることが望ましい。図8(B)に示したように、主走査方向に広く隣接画素を設定すれば、主走査方向のズレに起因する濃度の抑制に効果的である。
【0093】
また、往動時に形成されるドットの復動時に形成されるドットを、図3(A)に示したように、カラム交互や、図3(B)に示したラスタ交互とすることもできる。これらの場合にも、隣接画素の範囲は様々な設定が可能である。カラム交互の場合には、図15(A)ないし(C)に示したように、着目画素OJに対して、1個、3個、8個の画素を隣接画素として設定することができる。あるいはラスタ交互の場合には、図15(D)ないし(F)に示したように、着目画素OJに対して、1個、4個、8個の画素を隣接画素として設定することができる。これらの場合にも、図12に示した手法を適用して、ブルーノイズマスクを基礎に、ベアドットの発生確率Kを、
K=0.8×k2
としたペア画素制御マスクを生成することができる。
【0094】
また上記の実施例・変形例では、説明を簡明にするために、画像の階調値の解像度を8ビット、閾値の範囲を0〜255としているが、ディザマスクに配置される閾値を0〜4095とし、画像の階調値を表わすピット数を増やして、例えば10ビットにすれば、最小の階調値1に対して、配置されるドットの数を減らすことができ、階調値が1増加する度に増加するドットの数を減らすことができる。したがって、ベアドットの発生確率の制御を一層きめ細かく行なうことができる。もとより、ディザマスクを128×128や、256×512など更に大きくすれば、10ビットで表現された階調値が、値1である場合に形成されるドットの数は、前者で4個、後者で32個程度となる。これら、ディザマスクの大きさや、階調値を表わすビット数、ディザマスクに配置される閾値の種類などは、実行するハーフトーン処理の目的(画質優先か処理速度優先か、あるいは大判印刷用か否かなど)や処理時間などを考慮して決定すればよい。
【0095】
第1実施例では、ベアドットの制御を階調値0〜127/255の範囲、換言すれば、ドットの発生確率kが、0<k<0.5の範囲を想定してペア画素制御マスクを用意したが、この範囲については、上限値を更に低階調値の側に限定してもよい。例えば、0<k<0.2などの範囲に限ってペアドットの制御を行なうものとしても良い。一般に、画素サイズに対する実際のドットのサイズが大きくなるほど、ずれによるドットの重なりが生じやすくなるから、濃度変動が問題になる階調領域が低濃度側に移動する。したがって、調整する範囲を画素サイズに対する実際のドットのサイズに応じて変更することも現実的である。また下限値をさらに高階調値側に限定してもよい。一般に、階調値0近辺の低階調領域では、もともとドットの形成位置が遠く隔たっており、ドットの形成位置にずれが生じても濃度むらの問題はそれほど顕在化しない。このため、0.1<k<0.4や0.2<k<0.5などの範囲に限って、ペア画素制御マスクを生成してもよい。また、往動時に形成されるドットの割合と復動時に形成されるドットの割合を最初から異ならせておき、それぞれについて、異なるドットの形成確率k1,k2を設定してペアドットの制御行なうことも差し支えない。
【0096】
D.第2実施例:
D−1.ディザマスク:
次に、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例としてのプリンター20のハードウェアは、第1実施例と同一である(図1参照)。また、プリンター20における印刷制御処理(図4)は、ハーフトーン処理において用いるディザマスクが異なっている点を除いて同一である。第2実施例でも、ハーフトーン処理は、いわゆるディザ法によって行なう。
【0097】
第2実施例で用いるディザマスクと第1実施例で用いたディザマスクとの異同は、以下の通りであり。
(1)両者の共通点:
・共に、ディザマスクの大きさは、64×64である。
・共に、ペアドットの発生確率Kは、ドットの形成確率kに対して、
K=0.8×k2
に設定されている。
・共に、分散性を優先した分散型ディザマスクである。
(2)両者の相違点:
・第1実施例における64×64のディザマスクの閾値は、印刷ヘッド90の往動と復動により形成されるドットの分布の分散性のみを考慮して作られていたのに対して、第2実施例におけるディザマスクは、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループおよび印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループについて、それぞれドットの分散性を考慮して作られている。
【0098】
上記相違点について説明する。プリンター20による画像の形成は、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットとによっている。したがって、ある階調値で得られた画像におけるドットの分布は、印刷ヘッド90の往動と復動で形成されたドットの両方の分布となる。このため従来は、この状態でのドットの分散性を高くすることを目標として、ディザマスクの閾値を決定されていた。これに対して、第2実施例で用いるディザマスクは、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループと、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループとの各々について、分散性が考慮されている。即ち、第2実施例で用いたディザマスクは、図16に例示したように、ある画像が形成される際に、往動時に形成されるドット(図16(A))それ自体の分散性と、復動時に形成されるドット(図16(B))それ自体の分散性とが、考慮されているのである。もとより、それに加えて、第2実施例で用いたディザマスクは、ペアドットの発生確率Kが、0.8×k2 とされていることは言うまでもない。なお、このようなディザマスクの生成方法については後述するが、作り方の如何に拠らず、上記の性質を有するディザマスクを用いればよいことは勿論である。
【0099】
かかる性質を有するディザマスクを用いた第2実施例のプリンター20では、印刷ヘッド90の往動と復動とで形成されるドット位置にずれが生じても、画質の低下を十分に抑制することができる。その理由は次の通りである。
(i)第2実施例では、印刷ヘッド90の往動時に形成されるドットが属する第1の画素グループと、印刷ヘッド90の復動時に形成されるドットが属する第2の画素グループとの各々について、分散性が考慮されたディザマスクを用いている。このため、往動時と復動時とでドットの形成位置にずれが生じたとしても、それぞれの画素グループに属するドットの分散性が保障されているために、両グループのドットが共通領域で重ね合わされた場合のドットの分散性の低下は僅かなものに留まる。2つの画素グループに属するドットを組み合わせた場合の粒状性は、各画素グループに属するドット単独の粒状性と強い相関を示すからである。
(ii)第2実施例では、更に、ペアドットの発生確率Kが、0.8×k2 とされている。このため、第1実施例で説明したように、印刷ヘッド90の往動および復動で形成されるドットの位置にずれが生じても、被覆率の変動が抑制され、またペアドットの発生確率にも大きな変動を生じない。このため、ドットの形成位置にずれが生じても、画質低下は抑制されるのである。
【0100】
D−2.ディザマスクの生成方法:
上記性質を有するディザマスク62の生成方法の手順を図17に示した。ディザマスク62の生成においては、図示するように、まず、ディザマスク62のサイズに応じた閾値を用意する(ステップS310)。第2実施例においては、ディザマスク62は、64×64の大きさを有しているが、以下では8×8、つまり64個の格納要素を有するものに簡略化して説明する。ステップS310では、格納要素と同数の0〜63の閾値を用意するものとした。
【0101】
閾値を用意すると、次に、着目閾値選択処理を行う(ステップS320)。着目閾値選択処理とは、用意した0〜63の閾値のうちの、未だ格納要素に格納されていない閾値のうちから1つの閾値を着目閾値として選択する処理である。本実施例においては、用意した閾値のうちの小さい閾値から順に、着目閾値を選択することとした。図18に示すように、ディザマスクを構成する格納要素に、後述する工程によって値0〜3の閾値が既に格納要素に格納されている場合には、次にステップS320において選択される着目閾値は値4である。
【0102】
着目閾値を選択すると、次に、第1のディザマスク評価処理を行う(ステップS400)。第1のディザマスク評価処理とは、用意した閾値が未だ格納されていない格納要素(以下、空白格納要素ともいう)の1つに対して着目閾値を格納したとした場合に、閾値が既に格納された格納要素(以下、決定格納要素ともいう)の配置が表すドットの形成パターンについての、ドットの分散の程度を示す評価値E1を、空白格納要素の各々について算出する処理である。この評価値E1の算出方法については後述するが、本実施例では、評価値E1は、その値が小さいほどドットの分散性が良好となり、印刷画像の粒状性の観点から優れているといえる。
【0103】
次に、この評価値E1を用いて、格納要素を決定する処理を行ない(ステップS330)、更に全格納要素について、これを決定する処理が完了したかを判断する(ステップS340)。すべての格納要素についての処理が終わっていなければ、上述したステップS320に戻って、上記の処理を繰り返す。
【0104】
上述した第1のディザマスク評価処理を行なって、全格納要素への閾値の格納が完了すれば(ステップS340、「YES」)、仮のディザマスクが完成したことになる。そこで、次に、第2のディザマスク評価処理を行なう(ステップS500)。第2のディザマスク評価処理とは、第1実施例で行なったペア画素制御マスクを生成した処理と等価な処理である。但し、第1実施例のペア画素制御マスクを生成する際には、ブルーノイズマスクを出発点としたが(図12、ステップS200)、第2実施例における第2のディザマスク評価処理では、第1のディザマスク評価処理により得られた結果としての仮のディザマスクを出発点として、処理を行なう。以上により、第2実施例で用いたディザマスクが生成される。
【0105】
D−3.第1のディザマスク評価処理:
上述したディザマスク生成処理における第1のディザマスク評価処理について、図19を用いて説明する。第1のディザマスク評価処理では、図19に示すように、まず、グループ化処理を行う(ステップS410)。グループ化処理とは、ディザマスクを構成する複数の格納要素を、当該複数の格納要素に格納された閾値がハーフトーン処理で適用されるドット形成位置でのドットの形成を往動と復動のうちのいずれで行なうかに着目して、複数のグループに区分する処理である。つまり、印刷ヘッドの往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットの配置の態様(第2実施例では、図3(A)に示したカラム交互モードとした)に基づいて、格納要素のグループを設定する処理である。なお、設定するグループは、印刷媒体の共通の印刷領域に、印刷媒体に対するインクの吐出位置を変えつつ、複数の異なるタイミングで印刷ヘッドからインクを吐出してドットを形成する場合の、当該異なるタイミングに基づいて設定すればよい。複数の異なるタイミングとしては、往動と復動に代えて、あるいは、加えて、共通の印刷領域にN回(Nは3以上の整数)の主走査でドットを形成する場合の、主走査の順番(何回目の主走査であるか)としてもよい。
【0106】
こうして、グループ化処理を行うと、決定格納要素のドットをONにする(ステップS420)。図18では、値0〜3の閾値が格納された決定格納要素のドットがONにされた様子をシングルハッチングで示している。決定格納要素のドットをONにすると、次に、候補格納要素選択処理を行う(ステップS430)。候補格納要素選択処理とは、着目閾値を格納すべき格納要素の候補である候補格納要素を選択する処理である。空白格納要素の各々には、着目閾値を格納することが可能であるから、ここでは、空白格納要素のうちの1つを、候補格納要素として選択する。候補格納要素選択処理を行うと、次に、候補格納要素のドットをONにする(ステップS440)。図18では、空白格納要素の1つを候補格納要素として選択し、当該候補格納要素のドットをONにした様子を、クロスハッチングで示している。
【0107】
候補格納要素のドットをONにすると、次に、グループ選択処理を行なう(ステップS450)。グループ選択処理とは、上記ステップS410で設定したp個(pは2以上の整数、ここではp=2)のグループG1〜Gpのうちから、1つのグループGq(qは1以上p以下の整数)を選択する処理である。
【0108】
グループGqを選択すると、次に、グループGqに属する格納要素に対応するドット形成パターンに基づいて、ドットの分散の程度を示す評価値E1q、つまり、ドットがどの程度満遍なく分散された状態で形成されるかを示す評価値を算出する(ステップS460)。ドットを満遍なく分散された状態で形成するためには、図20に示すブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性を有するディザマスクを生成すればよいことが知られている。本実施例においては、このような特性のディザマスクを生成するために、ドットの分散性の程度を示す評価値として、第1実施例で説明した粒状性指数を用いることとした。
【0109】
評価値E1qを算出すると、全てのグループG1〜Gp(ここではG1〜G2)について評価値E1qを算出するまで、上記ステップS450,S460の工程を繰り返す(ステップS470)。こうして、全てのグループG1〜G2について評価値E1qを算出すると(ステップS470:YES)、算出した評価値E11〜E12に基づいて、次式(3)により、評価値E1を算出する(ステップS480)。式(3)においてd〜eは重み付け係数である。これらの重み付け係数は、良好な印刷画質が得られるように、一定値として、実験的に定められる。つまり、評価値E1とは、ディザマスクの決定格納要素の全体が表すドット形成パターンと、往動に対応する決定格納要素が表すそれぞれのドット形成パターンと、復動に対応する決定格納要素が表すそれぞれのドット形成パターンとについて、ドットの分散の程度を所定の重み付けで総合評価した評価値である。
E1=d×E11+e×E12・・・(3)
【0110】
評価値E1を算出すると、全ての候補格納要素(空白格納要素)について評価値E1を算出するまで、上記ステップS430〜S480の工程を繰り返す(ステップS490)。こうして、全ての候補格納要素について評価値E1を算出すると(ステップS490:YES)、第1のディザマスク評価処理は終了となる。
【0111】
かかる評価値E1を用いれば、往動時に形成されるドット、復動時に形成されるドットのいずれに対しても、ドットが分散して配置されるドット形成パターンを有する第1のディザマスクDM1を生成することができる。そこで、次にこうして生成されたディザマスクDM1を出発点として、第2のディザマスク評価処理が行なわれた。第2のディザマスクの評価処理は、第1実施例のペア画素制御ディザマスクの生成方法(図12)と同様なので、その説明は省略する。
【0112】
かかるディザマスク62を用いてハーフトーン処理を行えば、往動ドットと復動ドットとの間で位置ずれが生じても、往動ドット及び復動ドットの分散性は確保されたままであるから、画像全体のドットの分散性が確保され、印刷画質の粒状性の悪化を抑制することができる。
【0113】
E.第3実施例:
本発明の第3実施例について説明する。第3実施例は、第1,第2実施例と同一のハードウェアを用いて実現されるので、プリンター20の内部構成に等についての説明は省略する。第1,第2実施例との相違は、プリンター20内で実行されるハーフトーン処理として、誤差拡散法を用いる点である。第3実施例では、図21に示すように、画像データの左上を(0,0)とし、主走査方向をx、副走査方向をyとして、着目画素OB(x,y)について、順次ドットを形成するか否かの判断を行ない、その結果生じた濃度誤差(着目画素で実現すべき階調値と実際のドットの形成の有無により実現された濃度との差)を周辺の画素に拡散していく処理を行なう。図21に示したように、第3実施例では、濃度誤差は着目画素の周辺の4画素(x+1,y)、(x−1,y+1)、(x,y+1)、(x+1,y+1)に、それぞれ1/4ずつ分配するものとしている。なお、誤差を分配する割合は、画素誤差に異ならせても良いし、あるいは分配する画素の範囲を狭く、あるいは広くしても良い。また画像の階調値に応じて、誤差の分配範囲を切り換えてもよい。
【0114】
第3実施例では、ペアドットの発生を制御するために、2つのペア画素拡散データPed0(x,y)、Ped1(x,y)を演算し、これを用いてペアドットの発生確率を制御している。この制御について、図22を用いて説明する。なお、第3実施例でも、第1実施例と同様、印刷ヘッド90の往動時にドットが形成される画素と復動時にドットが形成される画素は、図3(C)に示したように、主走査方向および副走査方向に、互い違いに配列されている。ペア画素として想定しているのは、図23に示したように、着目画素OBに対して、主走査方向左側の画素NLおよび副走査方向上側の画素NUである。
【0115】
図22に示したペア画素制御誤差拡散ルーチンは、着目画素OBを、画像の左上(0,0)から順次主走査及び副走査方向に進めながら実行される。まず着目画素の階調データdata(x,y)を入力する処理を行なう(ステップS600)。階調データdata(x,y)とは、画像内で(x,y)に位置する画素の階調値を表わすデータそれ自体である。
【0116】
次に、この階調データdataに対して、以下の式(4)の演算を行なう(ステップS610)。
dataX←data(x,y)+ed1(x,y) …(4)
この演算は、階調データdataを、着目画素の周辺の処理済みの画素からの拡散データed1(x,y)で補正する処理である。拡散データの演算については、詳しくは後述するが、拡散データed1(x,y)とは、ドットの形成について判断を済ませた画素から着目画素OB(x,y)に向けて拡散された誤差データの総和である。
【0117】
こうして求めた補正済みデータdataXに対して、本実施例では、更に、次式(5)で示した演算を行なう(ステップS620)。
dataX2←dataX+w0×Ped0+w1×Ped1 …(5)
ここで、Ped0、Ped1は、処理済みの画素からのペア画素拡散データである。ペア画素拡散データPed0、Ped1とは、ペアドットが、着目画素OBと図23に示した隣接画素NL,NUのそれぞれとについて、共に形成される確率が、ベアドットが生じる確率の予測値に対して不足しているか否かを示すデータである。この点について、更に詳しく説明する。
【0118】
着目画素OBの階調値が8ビットの階調データdataで表わされるとき、階調データの範囲は、0〜255で表わされるので、隣接画素と着目画素の双方にドットが共に掲載される確率(以下、発生率という)PKは、
PK=(data/255)2
となる。但し、プリンター20の内部では、演算の効率を考えて、発生率PKを、
PK=(data)2 /255
として扱うものとしている。更に、階調値が一様な画像の場合は、主走査方向のペアドットの発生率と副走査方向のペアドットの発生率を同じ値として扱っても良いが、実際には、着目画素およびこれに隣接する画素の各々の階調データdataは異なることもあり得るので、これを、PK0(x,y)、PK1(x,y)として区別して扱うものとしている。
【0119】
このペアドットの発生率については、着目画素OBに関して、ドットを形成するか否かの判断(後述)を行なう際、併せて、ペアドットの形成がなされたか否かを判断し、その判断結果によって、ペアドットの発生率の予測値からのズレを周辺の画素に拡散している。拡散の様子は、後で詳しく説明するが、周辺の画素からの発生率の予測値の誤差拡散分Δpk0(x,y)、Δpk1(x,y)を用いて、次式(6)により、ペア画素拡散データPed0、Ped1を求めるのである。
【0120】
Ped0←PK0(x,y)+Δpk0(x,y)
Ped1←PK1(x,y)+Δpk1(x,y) …(6)
式(6)で求めたペア画素拡散データPed0、Ped1を用いて、式(5)の演算を行なうことにより、補正済み階調データdataX2を求めるのである。なお、式(4)におけるw0、w1は、ペアドットの発生率を調整する重み付け係数であり、ペアドットの発生率をホワイトノイズマスクの発生率に近づける場合には値1とすればよい。画像の粒状性を重視する場合には、値1より小さくすればよい。
【0121】
こうして補正済みの階調データdataX2を求めた後、次に、この補正済み階調データdataX2と閾値Thrとの大小を比較する処理を行なう(ステップS630)。比較対象となる閾値Thrは、固定値(例えば127)でも良いし、階調データdataに応じた値であっても良い。閾値Thrを階調データdataに応じた値とすれば、尾引などの現象を解消することができる。
【0122】
ステップS630での判断の結果、補正済み階調データdataX2が閾値Thr以上と判断されれば、ドットを形成するものとし、ドットデータDdata(x,y)に値1を入れ(ステップS640)、続いて、ドットを形成する場合の結果値を演算する処理を行なう(ステップS645)。他方、ステップS630において、補正済み階調データdataX2が閾値より小さいと判断されれば、ドットを形成しないものとし、ドットデータDdata(x,y)に値0を入れ(ステップS650)、続いて、ドットを形成しない場合の結果値を演算する処理を行なう(ステップS655)。ドットデータDdata(x,y)の値は、第1実施例で説明したインターレース処理において参照され、このデータにしたがって、ドットの形成がなされることになる。
【0123】
ステップS645、S655における結果値の演算処理についてまとめて説明する。着目画素OBについては、ドットが形成される場合(ステップS640)と形成されない場合(ステップS650)とがあるが、いずれの場合でも、後の誤差拡散処理に備えて、着目画素OBにおいて実現された濃度を確定する必要がある。これが、階調値に関する結果値res(x,y)である。また本実施例では、ペアドットの発生率を制御するので、同様に、着目画素OBにおいてペアドットが発生されたか否かを、結果値resP0,resP1として求めている。
【0124】
具体的には、階調値の結果値res(x,y)は、着目画素OBにドットが形成された場合(ステップS640)には値255に、ドットが形成されなかった場合(ステップS650)には値0に、それぞれ設定される。なお、結果値は必ずしも、値255または値0に設定する必要はなく、例えば濃度の低いインクや径の小さなインク滴が用いられた場合には、ドットが形成された際の結果値を、値96など、ドットを実際に形成するインクの濃度やインク滴の大きさに合わせて設定すれば良い。また、印刷用紙Pが白色でなく、所定の色が付いている場合には、ドットが形成されない場合の結果値の値を0より大きな所定値とすることも、差し支えない。こうした設定は、実際に印刷される画像の濃度を調整する上で好ましい。
【0125】
こうした階調値の結果値res(x,y)と共に、本実施例では、ペアドットの結果値resP0,resP1を求めている(ステップS645、S655)。これは、ペアドットの発生率を予測値に近づけるために用いる。具体的には、着目画素OBにドットを形成すると判断した場合(ステップS640)には、図24に示したように、着目画素OB(x,y)の左側の隣接画素NL(x−1,y)にドットが形成されているか否かの判断を行ない(ステップS660)、形成されていればペアドットが発生したとして、resP0に値255を設定し(ステップS661)、隣接画素NLにドットが形成されていなければ、ペアドットは発生していないとして、resP0に値0を設定する(ステップS662)。
【0126】
隣接画素NLについての判断結果がいずれの場合でも、続けて、着目画素OB(x,y)の上側の隣接画素NU(x,y−1)にドットが形成されているか否かの判断を行ない(ステップS665)、形成されていればペアドットが発生したとして、resP1に値255を設定し(ステップS666)、隣接画素NUにドットが形成されていなければ、ペアドットは発生していないとして、resP1に値0を設定する(ステップS667)。
【0127】
他方、ステップS650でドットを形成しないとした場合には、着目画素OB(x,y)の左側の隣接画素NLや上側の隣接画素NUとの間でペアドットが発生することはないから、結果値resP0,resP1に共に値0を設定する(ステップS655)。
【0128】
以上の処理により、着目画素OBについてのドット形成の判断および誤差拡散、ペア画素制御のためのペア画素拡散データなどの処理は完了し、次に誤差拡散処理(ステップS670)およびペア画素誤差拡散処理(ステップS680)を順次実行する。誤差拡散処理は、周知のものなので、説明は簡略なものとするが、ステップS645またはS655で設定した結果値res(x,y)と着目画素OBについて誤差拡散による補正(上記式(1)の演算)を施した階調データdataXとの差分を求め、これを図21に示した周辺の4つの画素に配分する処理である。具体的には、濃度誤差edと、誤差拡散バッファerとを以下の式により求めるのである。
ed=dataX−res(x,y)
er(x+1,y )=er(x+1,y )+ed/4
er(x−1,y+1)=er(x−1,y+1)+ed/4
er(x ,y+1)=er(x ,y+1)+ed/4
er(x+1,y+1)=er(x+1,y+1)+ed/4
したがって、図22のステップS610で説明した拡散データed1(x,y)とは、着目画素の周辺の各画素から、上記の演算により各誤差拡散バッファerに拡散された誤差の各画素における総和に相当する。
【0129】
同様に、ペア画素誤差拡散処理とは、主走査方向の隣接画素NLについての拡散データPed0(x,y)と、副走査方向の隣接画素NUについての拡散データPed1(x,y)とを求めるものであり、それぞれ発生率誤差Perr0、Perr1と、ペア画素誤差拡散バッファerP0、erP1とを、以下の式により求めるのである。
【0130】
隣接画素NLに関して:
Perr0=Ped0−resP0
erP0(x+1,y )=erP0(x+1,y )+Perr0/4
erP0(x−1,y+1)=erP0(x−1,y+1)+Perr0/4
erP0(x ,y+1)=erP0(x ,y+1)+Perr0/4
erP0(x+1,y+1)=erP0(x+1,y+1)+Perr0/4
隣接画素NUに関して:
Perr1=Ped1−resP1
erP1(x+1,y )=erP1(x+1,y )+Perr1/4
erP1(x−1,y+1)=erP1(x−1,y+1)+Perr1/4
erP1(x ,y+1)=erP1(x ,y+1)+Perr1/4
erP1(x+1,y+1)=erP1(x+1,y+1)+Perr1/4
【0131】
したがって、図22のステップS620についての式(3)で説明した誤差拡散分Δpk0(x,y)、Δpk1(x,y)とは、着目画素の周辺の各画素から、上記の演算により各ペア画素誤差拡散バッファerP0,erP1に拡散されたペアドットの発生率に関する予測値との誤差の各画素における総和に相当する。
【0132】
以上の処理を行なった後、画像を構成する全画素についての処理が完了したかを判断し(ステップS690)、すべての画素についての判断が終了していなければ、ステップS600に戻って、着目画素を一つ進めた上で、着目画素の階調データdata(x,y)の入力から、上記の処理を繰り返す。すべての画素についての判断が完了していれば、「END」に抜けて、本処理ルーチンを終了する。
【0133】
以上説明した第3実施例によれば、誤差拡散を行ないながら、ベアドットの発生率を、予測値に近づけることができる。本実施例では、予測値は、ドットの発生率の自乗とした。もとより、重み付け係数w0,w1を調整して、第1実施例と同様に、ホワイトノイズ特性の0.8程度とすることも可能である。本実施例では、基本的にアルゴリズムは誤差拡散を採用しているので、ドットの分散性は、ブルーノイズ特性に近く、極めて良好である。加えて、ペアドットの発生率は、ホワイトノイズ特性と同程度に制御されるので、印刷ヘッド90の往動時と復動時に形成されるドットの位置にずれが生じても、被覆率やペアドットの発生率が大きく変動することがない。このため、双方向印字のドット形成位置にずれが生じても、画質の劣化を十分に抑制することができる。
【0134】
また、本実施例では、誤差拡散のアルゴリズムにペア画素に関する処理を加えただけなので、処理ルーチンを僅かな補正・追加だけで実現することができるという利点を有する。更に、階調データについての誤差ほ拡散する範囲と、ペアドットの発生率の制御とは、別々の変数により実現されるので、例えば図8や図15に示したように、双方向印字の形態やペア画素の範囲を変更した場合でも、誤差拡散のアルゴリズムを変更する必要がない。あるいは、ペア画素の制御はそのままに、誤差拡散の範囲を変更することも容易である。
【0135】
以上本発明のいくつかの実施例について説明したが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、種々なる態様で実現できることはもちろんである。例えば、モノクロ印刷を行なうプリンターや、印刷ヘッドが用紙幅方向に亘って設けられたラインプリンターにおいて実施することも差し支えない。また、図4、図22に示した処理を、プリンター側ではなく、画像処理を行なうコンピュータ側(あるいはネットワーク上におかれたサーバ側)で実施することも差し支えない。またこれらの処理をハードウェア(例えば、プリンターとの間に設けられたRIP)によって実現しても良い。
【0136】
また、上記実施例では、第1,第2の画素グループとして、双方向印字を行なう場合の往動時に形成されるドットが属する画素の集まりと、復動時に形成されるドットが属する画素の集まりとに限って説明したが、こうした画素グループは、印刷条件が異なるものであれば、様々な形態で設定することができる。例えば、複数回の主走査によりラスタを構成するいわゆるマルチパス印刷の各パスに拠って形成されるドットをそれぞれ別の画素グループに分け、各画素グループ間の隣接画素を設定して、ペアドットの発生率を制御することができる。あるいは、インクを吐出するノズル列ごとに、各ノズル列により形成されるドットが属する画素によりグルーブ分けすることも可能である。
【0137】
この他、往動時と復動時で形成されるドットの割合を異ならせた上で、ベアドットの形成確率を制御する構成や、ノイズからインク滴の大きさの異なるインク滴を吐出してドットを形成する構成などにも適用することができる。こうした大中小のドットを打ち分ける場合、あるいは濃淡複数種類のドットを打ち分ける場合には、ドット径の小さなもの(最も淡インクの側のもの)から1種類、あるいはドット径の小さなもの(最も淡インクの側のもの)から複数種類のドットについて、ベアドットの発生確率を制御することが好ましい。つまり、複数種類のドットのうち、大径のドット(濃ドット)は、高階調領域で形成されるので、これらのドットについてはペアドットの確率が制御されていなくても差し支えない。
【0138】
以上本発明の実施例として印刷装置、印刷方法、ディザマスクの生成方法について説明した。第1,第2実施例の印刷装置等は、ディザマスクに特定の特性が与えられていることにより、ペアドットの数を制御する。したがって、必ずしもディザマスクの特性を解析しなくても、本願発明を実施しているかを判断することができる。即ち、図9に示したように、分散性の高いディザマスクを用いている場合、ベアドットの発生率Kは、画像の階調値が低い領域(例えば0〜50/255、ドット発生率0〜0.2)では、ほぼ0となり、k2 に対して大きく隔たっている。したがって、式(1)(2)で示した粒状性指数により、画像の分散性が所定値以上であり、かつベアドットの形成確率Kが、ドットの発生率kに対して、例えば0.2・k2 ≦K≦ 0.8・k2 となっていれば、本願発明を実施しているは判定することができる。また、誤差拡散法を用いている場合には、そのノイズ特性はブルーノイズ特性とみなすことができるから、同様に、ペアドットの発生率を、画像の所定の階調範囲において計測することにより、容易に、上記判定を行なうことができる。
【符号の説明】
【0139】
20…プリンター
30…制御ユニット
40…CPU
42…ハーフトーン処理部
43…印刷部
51…ROM
52…RAM
60…EEPROM
62…ディザマスク
70…キャリッジモーター
71…駆動ベルト
72…プーリ
73…摺動軸
74…紙送りモーター
75…プラテン
80…キャリッジ
82〜87…インクカートリッジ
90…印刷ヘッド
98…メモリカードスロット
99…操作パネル
P…印刷用紙
MC…メモリカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成するドットデータ生成部と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、前記画像を印刷する印刷部と
を備え、
前記共通領域において形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置であって、
前記ドット形成の有無は、前記各画素の階調値と予め用意されたディザマスクの各閾値とを比較することにより決定され、
前記共通領域におけるドット形成の有無を判断する際の前記閾値が、前記ノイズ特性を有し、且つ前記所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、前記k1・k2に近づくように設定されている
印刷装置。
【請求項3】
請求項2記載の印刷装置であって、
前記ディザマスクは、前記第1,第2の画素が属する2つの画素グループの各々について、該2つの画素グループの一方に属する画素のみにより形成される第1の画像と、他方に属する画素のみにより形成される第2の画像と、前記第1,第2の画像を重ねた印刷画像と、のいずれについても、画像を形成するドットの分布が、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有するように、前記閾値が定められている
印刷装置。
【請求項4】
請求項1記載の印刷装置であって、
前記ドット形成の有無は、誤差拡散法に基づいて行なうものとし、
前記近接画素の双方にドットが形成されている確率を示すバッファを備え、該バッファの値が前記k1・k2に近づくように、誤差拡散法によりドット形成の有無を判断する際の画素の階調値を増減補正する
印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、主走査方向に対して往復動作を行うとともに、往動の主走査と復動の主走査の双方により前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素グループは、前記往動の主走査によりドットが形成される画素のグループであり、前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記復動の主走査によりドットが形成される画素のグループである
印刷装置。
【請求項6】
請求項5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向および該主走査方向に交差する副走査方向の両方向において、互い違いに配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記主走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と該画素に対して前記副走査方向の一方に隣接する画素との組合わせである
印刷装置。
【請求項7】
請求項5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向において交互に、かつ該主走査方向とは交差する副走査方向には、前記往動の主走査により形成されるドットまたは前記復動の主走査により形成されるドットが連続するよう配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記主走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と前記隣接する画素に対して前記副走査方向のいずれかの側に隣接する各画素との組合わせである
印刷装置。
【請求項8】
請求項5記載の印刷装置であって、
前記往動の主走査により形成されるドットと前記復動の主走査により形成されるドットとが、前記主走査方向に交差する副走査方向おいて交互に、かつ前記主走査方向には、前記往動の主走査により形成されるドットまたは前記復動の主走査により形成されるドットが連続するよう配置され、
前記近接画素は、一の画素と該画素に対して前記副走査方向の一方に隣接する画素との組合わせおよび前記一の画素と前記隣接する画素に対して前記主走査方向のいずれかの側に隣接する各画素との組合わせである
印刷装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、主走査方向に対して主走査を行ないつつ前記ドットを形成すると共に、複数回の主走査により前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数回の主走査のうち互いに異なる主走査によりドットが形成される画素のグループである
印刷装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記印刷媒体上にドットを形成する複数のヘッドを有すると共に、前記印刷媒体を前記複数のヘッドに対して相対的に移動させて、前記印刷媒体上に前記画像を印刷し、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数のヘッドのうち互いに異なるヘッドによりドットが形成される画素のグループである
印刷装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記印刷媒体上にドットを形成するヘッドを有するとともに、前記ヘッドを前記印刷媒体に対して相対的に移動させて、前記印刷媒体上に前記画像を印刷し、
前記ヘッドは、前記印刷媒体に対してインクを吐出する複数のノズルを主走査方向とは交叉する方向に配列してなるノズル列を、前記主走査方向に離間して複数備え、
前記第1の画素が属する第1の画素のグループと前記第2の画素が属する第2の画素のグループは、前記複数のノズル列のうち互いに異なるノズル列によりドットが形成される画素のグループである
印刷装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記印刷部は、前記画素に対応して形成される前記ドットとして、一つの画素に大きさの異なる2種類以上のドットを形成可能なヘッドを備え、
前記近接画素におけるドット形成確率の設定は、前記2種類以上のドットのうち、大きさの小さい側からの1種または2種類以上のドットの組合わせのいずれかについてなされている
印刷装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記2つの画素グループ間においてドット形成位置のずれが発生しやすい方向については、より隔たった位置の画素まで前記近接画素として扱う
印刷装置。
【請求項14】
前記確率Kが、
k1・k2−0.2<K<k1・k2
の範囲とされている請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載の印刷装置。
【請求項15】
前記所定の階調範囲は、0<k1<0.2、0<k2<0.2の範囲である請求項1ないし請求項14のいずれか一項記載の印刷装置。
【請求項16】
前記確率k1,k2が共にkであり、前記確率Kがk2 に近づけられている請求項1ないし請求項15のいずれか一項記載の印刷装置。
【請求項17】
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する方法であって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成する工程と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成を、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行ない、該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことで、前記画像を印刷する工程と
を備え、
前記共通領域において形成されるドットの分布は、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
印刷方法。
【請求項18】
コンピュータに実行されて、印刷媒体上形成されるドットのデータを生成するプログラムであって、
印刷する画像の画像データを受け取り、前記画像を形成する各画素の階調値に基づいて、ドット形成の有無を表すドットデータを、前記画素に対応付けて生成する機能と、
前記ドットデータに応じて前記印刷媒体上にドットを形成する際、前記ドットの形成が、印刷条件が異なる複数の画素グループに分けて行なわれ、かつ該複数の画素グループによるドットの形成の少なくとも一部を共通領域で行なうことを前提として、前記共通領域において形成されるドットの分布に、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を持たせる機能と
を備え、
前記複数の画素グループのうちの2つの画素グループにそれぞれ属する第1,第2の画素にドットが形成される確率k1,k2が、
k1<0.5、k2<0.5
である所定の階調範囲において、前記第1,第2の画素が前記共通領域において互いに近接する近接画素である場合、該近接画素の双方にドットが形成される確率Kが、k1・k2に近づくように設定されている
プログラム。
【請求項19】
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する際に用いるディザマスクを設定する方法であって、
前記ディザマスクを構成する閾値であって、前記画像に含まれる各画素でのドット形成の有無を判断するために、該画素の階調値と比較される複数の閾値を用意し、
所定の階調値の画像を前記閾値と比較することで形成されるドットの分布が、空間周波数領域において、所定の空間周波数以下の低周波領域より高周波側にピークを持つノイズ特性を有し、且つ前記所定の階調値において任意の画素にドットが形成される平均確率がkの場合に、互いに近接する2つの画素の双方にドットが形成される確率Kがk2 に近づくように、前記複数の閾値のディザマスクとしての配置を決定する
ディザマスクの設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−204939(P2012−204939A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65682(P2011−65682)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】