説明

原発性頭痛障害の治療のためのプロスタノイドアンタゴニストの使用

【課題】原発性頭痛障害および薬物誘発性頭痛の治療、ならびに原発性頭痛障害および薬物誘発性頭痛の治療用薬剤の提供。
【解決手段】プロスタノイドEP4アンタゴニストである下記AH22921およびAH23848の使用、並びに該化合物を含む薬剤。更に、該化合物をジヒドロエルゴタミン、5-HT2アンタゴニスト、5-HT1Dアゴニスト、またはβ-遮断薬から選択される1つ以上の治療薬と組合わせた薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトおよびその他の哺乳動物における原発性頭痛障害または薬物誘発性頭痛の治療方法、および原発性頭痛障害または薬物誘発性頭痛の治療用薬剤の調製における化合物の使用に関する。特に、本発明は、プロスタノイドEP4受容体にアンタゴニストとして作用する化合物、およびそれらを含有する医薬組成物の、新規な医療上の使用に関する。そのようなEP4受容体アンタゴニストの2つはAH22921(1)およびAH23848(2)である。
【化1】

【背景技術】
【0002】
片頭痛の痛みは、大脳脈管構造の血管の異常な拡張に起因するという見方が広く浸透している。脳血管の拡張は、局所圧を誘発し、局所性感覚経路の活性化および痛みをもたらすことになる。これは、その他の前述した原発性頭痛障害および薬物誘発性頭痛にも当てはまる。
【0003】
NSAIDS、麦角アルカロイド類、および異なる5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT)受容体の異なるサブタイプと、アゴニスト(例えばスマトリプタン)またはアンタゴニスト(例えばケタンセリン)のいずれかとして相互作用する数種の化合物など、多くの薬物が片頭痛などの原発性頭痛障害の治療に使用されている。しかしながら、5-HT受容体と相互作用する薬物のうち、5-HT1Dアゴニストとして記載された化合物(例としてスマトリプタンが挙げられる)のクラスのみが、ある特定の頭痛を軽減するであろう。5-HT1Dアゴニストは、大脳脈管構造で血管収縮を引き起こすことがよく知られており、そのことは血管拡張説を裏付ける[Humphrey, P.P.A., Feniuk, W., Motevalian, M., Parsons A.A. および Whalley, E.T., 「ヒト硬膜でのスマトリプタンの血管収縮作用(The vasoconstrictor action of sumatriptan on human dura mater)」、Fozard, J. および Saxena, P.R.編、「セロトニン;分子生物学、受容体および機能的効果(Serotonin: Molecular Biology, Receptors and Functional effects)」、Birkhauser Verlag, Basel, 1991]。
【0004】
強力な血管拡張剤であるEシリーズ(Iシリーズではない)プロスタノイドを片頭痛患者に外来投与すると、片頭痛様症状が誘発されることが知られている[Carlson, L.A., Ekelund, L.G. and Oro, L. (1986) Acta Med. Scand. 183, 423; Peatfield, R. (1981) Headache 32, 98-100]。NSAIDS(プロスタノイドの生合成を阻害することにより作用する)の片頭痛発作の予防または軽減における有効性[Karachalios, G.N., Fotiadou, A., Chrisikos, N., Karabetsos, A. およびKehagoiglou (1992) Headache 21, 190; Hansen, P. (1994) Pharmacol. Toxicol. 75, Suppl.2, 81-82]と共に、この証明が、該疾患の病因にプロスタノイドが関与していることを裏付ける。プロスタノイドの正確な役割は明らかではないが、局所性血管拡張作用、炎症作用、または痛覚過敏作用の組合せを含みうる。そのような作用と最も頻繁に関連しているプロスタノイドはPGE2である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Humphrey, P.P.A., Feniuk, W., Motevalian, M., Parsons A.A.およびWhalley, E.T., 「ヒト硬膜でのスマトリプタンの血管収縮作用(The vasoconstrictor action of sumatriptan on human dura mater)」、Fozard, J. および Saxena, P.R.編、「セロトニン;分子生物学、受容体および機能的効果(Serotonin: Molecular Biology, Receptors and Functional effects)」、Birkhauser Verlag, Basel, 1991
【非特許文献2】Carlson, L.A., Ekelund, L.G. and Oro, L. (1986) Acta Med. Scand. 183, 423
【非特許文献3】Peatfield, R. (1981) Headache 32, 98-100
【非特許文献4】Karachalios, G.N., Fotiadou, A., Chrisikos, N., Karabetsos, A. およびKehagoiglou (1992) Headache 21, 190
【非特許文献5】Hansen, P. (1994) Pharmacol. Toxicol. 75, Suppl.2, 81-82
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
EP4アンタゴニストが、片頭痛などの原発性頭痛障害の頭痛症状を軽減しうることは、思いがけない発見であった。本明細書で用いる「原発性頭痛障害」という用語は、片頭痛、緊張性頭痛、群発性頭痛、鎮痛薬反跳性頭痛、慢性的発作性片頭痛および血管障害に関連する頭痛を含む。従って、本発明は第一の態様において、ヒトおよびその他の哺乳動物における原発性頭痛障害および薬物誘発性頭痛の治療方法を提供し、該方法は有効量のEP4アンタゴニストまたはその薬学的に許容される塩および/または溶媒和物を投与することを包含する。
【0007】
また、更なる態様によって、原発性頭痛障害および薬物誘発性頭痛の治療に用いる薬剤の調製における、EP4アンタゴニストの使用も提供する。
【0008】
本発明の上記態様のいずれにおいても、EP4アンタゴニストはプロスタノイド型であっても非プロスタノイド型であってもよい。本発明は、既知のEP4アンタゴニストと、まだ発見されていないEP4アンタゴニストの全てを包含することを意図する。
【0009】
現在好ましい態様において、本発明は、原発性頭痛障害または薬物誘発性頭痛の治療用薬剤の調製における、AH22921(1)またはAH23848(2)またはその薬学的に許容される塩および/または溶媒和物の使用を提供する。
【0010】
本発明の更なる態様において、EP4アンタゴニストは、所望であれば、ジヒドロエルゴタミンなどの麦角誘導体、ケタンセリンなどの5-HT2アンタゴニスト、またはスマトリプタン、ナラトリプタンまたはゾルミトリプタンなどの5-HT1Dアゴニスト、またはプロプラノロールなどのβ-遮断薬など、その他の治療薬1つ以上と組合せて用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
分離されたヒト脳血管での多数のプロスタノイドの作用を調べて、その他の血管拡張プロスタノイドPGD2およびPGF2a1は作用を及ぼさないが、PGE2がこれらの血管に複合的に作用することは思いがけない発見であった。PGE2は太い血管(直径1mmより太い)の収縮を引き起こすが、片頭痛に伴う痛みとの関連においてより重大なのは、驚くべきことに、それは細い脳血管(直径1mmより細い)の、濃度に関連して強力な弛緩を引き起こすと考えられることである。様々な薬理学的に活性な薬物の研究により、この弛緩作用はプロスタノイドEP受容体を介していることが分かった。この思いがけないPGE2の作用は片頭痛の痛みの原因であり、選択的EP4アンタゴニストは、現在の治療法、特にNSAIDSに勝る利点を有する、新規で有効な抗片頭痛薬になると考えられる。EP4アンタゴニストの方が副作用の障害がより少ないばかりでなく、NSAIDより高い有効性を示すであろう。なぜなら、NSAIDは内因性プロスタグランジンにより引き起こされる脳脈管構造に及ぼす有害な血管拡張作用および有益な血管収縮作用の両方を排除するからである。対照的に、EP4アンタゴニストは、有害な血管拡張作用のみを阻害する。
【0012】
本発明の更なる実施形態は、EP4受容体アンタゴニストと、片頭痛の治療に用いられるその他の治療薬、例えば麦角誘導体(ジヒドロエルゴタミンなど)、5-HT2アンタゴニスト(ケタンセリンなど)、または5-HT1Dアゴニスト(スマトリプタン、ナラトリプタンまたはゾルミトリプタンなど)またはβ-遮断薬(プロプラノロールなど)との組合せである。
【0013】
ヒト血小板でのアラキドン酸の活性代謝産物であるトロンボキサンA2 (TXA2)は、強力に血管平滑筋を収縮して血小板を凝集する。AH22191(1), AH23848(2)および関連の化合物はTXA2の作用に拮抗し、それによって血小板の凝集および気管支収縮を阻害する。このように、これらの化合物はぜん息の治療における使用、および心臓血管障害における抗血栓薬としての使用について特許請求されている(英国特許第2,028,805号および米国特許第4,342, 756号は、AH22191およびAH23848についてそれぞれ記載している)。また、AH22191およびAH23848はどちらも、EP4受容体を遮断して、子豚伏在静脈のPGE2誘発性弛緩の弱いアンタゴニストであることが示されている(pA2値は、それぞれ5.3および5.4である)[Coleman, R.A., Grix, S.P., Head, S.A., Louttit, J.B., Mallett, A.およびSheldrick, R.L.G. (1994)Prostaglandins 47, 151-168; Coleman, R.A., Mallett, A.およびSheldrick, R.L.G. (1995) Advances in Prostaglandin, Thromboxane and Leukotriene Research, 23, 241-246]。しかし、その他のEP受容体サブタイプである、EP1、EP2およびEP3には効果がない。しかしながら、今や本発明によりAH23848が、ヒト脳血管に及ぼすPGE2の弛緩作用のアンタゴニストであることが示されている。子豚伏在静脈と同じく、分離された大脳動脈においても、AH23848は同様のEP4アンタゴニストの効力を示す。このように、1つのクラスとしてのEP4受容体アンタゴニスト、特にAH22191およびAH23848は、片頭痛の治療に有効である。
【0014】
EP4受容体アンタゴニストの同定法および定量方法は、上記のColeman, R.A.による2つの文献に記載されている。これらの文献の全文は、参照により本明細書中に組込まれ、本明細書および記載された本発明のコンセプトの不可欠な部分をなしている。
【0015】
EP4受容体の特徴は、Coleman R.A.らによる総説においても議論されており[Coleman R.A.ら 「エイコサノイド;バイオテクノロジーから治療への応用まで(Eicosanoids: From Biotechnology to Therapeutic Applications)」Folco, Samuelsson, Maclouf, および Velo, 編、 Plenum Press, New York, 1996, p137-154]、該文献の本文も参照により本明細書中に組込まれ、本明細書の不可欠な部分をなしている。
【0016】
曖昧さを回避するため、本発明の明細書において、EP4受容体アンタゴニストは、上述の方法によりEP4受容体にアンタゴニスト活性、特に分離したヒト脳血管のPGE2誘導性弛緩に対するアンタゴニスト活性を示す、化合物、薬物または混合物のいずれであってもよい。
【0017】
EP4アンタゴニストは化学物質としてそのまま投与しうるが、その活性成分は医薬製剤として提供することが好ましい。適切な医薬製剤は、上記で参照した特許明細書に記載されている。
【0018】
このように、EP4アンタゴニストは、経口投与、バッカル投与、非経口投与、局所的投与、デポー投与または直腸投与用に製剤化するか、または(口または鼻のいずれかからの)吸息または吸入による投与に適した形態に製剤化しうる。経口および非経口の製剤が好適である。
【0019】
経口投与に用いる医薬組成物は、結合剤(例えば、予めゼラチン化されたトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロースまたはリン酸水素カルシウムなど);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカなど);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはナトリウムデンプングリコレート);または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)などの製薬上許容される賦形剤を用いて従来の方法により調製される錠剤またはカプセル剤の形態をとってよい。錠剤は当業界でよく知られる方法によりコーティングしうる。経口投与に用いる液体製剤は、液剤、シロップ剤または懸濁剤の形態をとってもよいし、水またはその他の適切なビヒクルで使用前に調製するための乾燥製剤としても提供しうる。そのような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水溶性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分画植物油);および防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、またはソルビン酸)などの製薬上許容される添加剤を用いて、従来の方法により調製しうる。該製剤はバッファー塩、香料、着色料および甘味料も適宜含有しうる。
【0020】
経口投与する製剤は、活性化合物の徐放性が付与されるように適切に製剤化しうる。
【0021】
バッカル投与する組成物は、慣用方法により製剤化された錠剤またはロゼンジの形態をとりうる。
【0022】
EP4アンタゴニストは、ボーラス投与または連続注入によって非経口投与するように製剤化しうる。注入する製剤は、防腐剤とともに、アンプルまたは複数回容量用の容器などに、単位剤形で提供しうる。該組成物は、油性または水性のビヒクル中で、懸濁剤、溶液剤または乳濁剤などの形態をとることができ、懸濁化剤、安定剤および/または分散助剤などの配合剤を含有しうる。あるいは、該活性成分は、発熱物質を含まない滅菌水などの適切なビヒクルで使用前に調製するための粉末状であってもよい。
【0023】
EP4アンタゴニストは、局所的に投与するには、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、ペッサリー剤、エアロゾル剤または点滴液剤(例えば点眼剤、点耳剤または点鼻剤)の形態で製剤化しうる。軟膏剤およびクリーム剤は、例えば、水性または油性基剤を用いて適切な増粘剤および/またはゲル化剤を添加して製剤化しうる。
【0024】
ローション剤は、水性または油性基剤を用いて製剤化することができ、一般的には1つ以上の乳化剤、安定剤、分散助剤、懸濁化剤、増粘剤または着色剤も含有する。点滴液剤は、水性または非水性基剤を用いて製剤化でき、また1つ以上の分散助剤、安定剤、可溶化剤または懸濁化剤も含有しうる。それらは防腐剤も含有しうる。
【0025】
EP4アンタゴニストは、カカオ脂またはその他のグリセリド類など、従来の座薬用の基剤を含有する座薬または停留性浣腸などの直腸用の組成物にも配合しうる。
【0026】
EP4アンタゴニストは、デポー製剤としても製剤化しうる。そのような作用持続型製剤は、埋め込み(例えば皮下または筋肉内)または筋肉注射により投与しうる。このように、例えば、本発明の化合物は、適切な高分子材料もしくは疎水性材料を用いて(例えば許容可能な油中の乳濁剤として)、またはイオン交換樹脂を用いて製剤化したり、あるいは、難溶性の塩などの、難溶性の誘導体として製剤化したりすることができる。
【0027】
鼻腔内投与については、EP4アンタゴニストは、適切な計量装置または単位投薬装置を用いて投与するための溶液剤として、あるいは適切なデリバリー装置を用いて投与するための適切な担体を含む粉末配合物として製剤化しうる。
【0028】
適切な投与量の範囲は、毒物学的データを考慮して当業者により計算しうる。患者の年齢および健康状態に応じて、日常的に投与量を変える必要があり、正確な投与量は最終的には担当医師または担当獣医の判断にゆだねられることが理解されよう。投与量は選択された投与経路および特定の化合物によっても左右される。適切な投与量の範囲は、例えば1日当たり体重1kgにつき0.1mg〜約400mgである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原発性頭痛障害または薬物誘発性頭痛の治療用薬剤の調製におけるEP4受容体アンタゴニストの使用。
【請求項2】
片頭痛の治療用薬剤の調製における、請求項1に記載のEP4受容体アンタゴニストの使用。
【請求項3】
EP4受容体アンタゴニストがAH22921(1)またはAH23848(2)、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
EP4受容体アンタゴニストを、ジヒドロエルゴタミン、5-HT2アンタゴニスト、5-HT1Dアゴニスト、またはβ-遮断薬から選択される1つ以上の治療薬と組合わせる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
5-HT2アンタゴニストがケタンセリンである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
5-HT1Dアゴニストがスマトリプタン、ナラトリプタンまたはゾルミトリプタンから選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
β-遮断薬がプロプラノロールである、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
EP4受容体アンタゴニストまたはその薬学的に有効な塩もしくは溶媒和物を含む、ヒトまたはその他の哺乳動物における原発性頭痛障害または薬物誘発性頭痛の治療用医薬組成物。
【請求項9】
片頭痛の治療用である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
EP4受容体アンタゴニストが、AH22921(1)またはAH23848(2)、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
EP4受容体アンタゴニストを、ジヒドロエルゴタミン、5-HT2アンタゴニスト、5-HT1Dアゴニスト、またはβ-遮断薬から選択される1つ以上の治療薬と組合わせて含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
5-HT2アンタゴニストがケタンセリンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
5-HT1Dアゴニストがスマトリプタン、ナラトリプタンまたはゾルミトリプタンから選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
β-遮断薬がプロプラノロールである、請求項11に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2010−47583(P2010−47583A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235310(P2009−235310)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【分割の表示】特願2000−571923(P2000−571923)の分割
【原出願日】平成10年9月25日(1998.9.25)
【出願人】(501025148)アステランド ユーケイ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】