説明

双極型二次電池

【課題】初回充放電で発生したガスによる電極間のイオン移動、電池反応が阻害されるのを抑制する双極型二次電池を提供する。
【解決手段】集電体11の一方の面に正極13、他方の面に負極15が形成された双極型電極と、電解質層17と、周辺部に配置されたシール部31からなる双極型二次電池10において、単電池層19の1辺に、シール部31と電極ー電解質層対向部との間に充放電で発生したガス37のたまり部35を有することを特徴とする双極型二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、集電体および負極がこの順序で積層された電極を有する双極型二次電池に関する。本発明の双極型二次電池は、例えば、電気自動車、燃料電池車及びハイブリッド電気自動車等のモータ等の駆動用電源として用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン二次電池に注目が集まっている。ただし、自動車に適用するためには、大出力を確保するために、複数の二次電池を直列に接続して用いる必要がある。
【0003】
しかしながら、接続部を介して電池を接続した場合、接続部の電気抵抗によって出力が低下してしまう。また、接続部を有する電池は空間的にも不利益を有する。すなわち、接続部の占有体積によって、電池の出力密度やエネルギー密度の低下がもたらされる。
【0004】
この問題を解決するものとして、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置した双極型二次電池が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
こうした双極型二次電池(以下、バイポーラ電池ともいう)を構成しようとすると、端部で電極間同士が接触し短絡してしまう恐れがある。このような短絡を防止するためには、正極および負極とこれらの間に電解質を含浸させたセパレータを挟んで構成される電池単位(=単電池層)の周囲を絶縁物で被うようにして集電箔を挟んで積層している。このような構成とすることで、電池単位の周囲が絶縁物で覆われるため各電極間の短絡が防止される(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−95400号公報
【特許文献2】特開平11−204136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のような双極型二次電池では、電池単位(=単電池層)の周囲を絶縁物で覆っているため、単電池層が密封されてしまうことになる。そうすると、初回充放電のガスが発生するため、密封状態の各単電池層内に発生ガスによる気泡が存在することで、単電池層内の電極間におけるイオン移動を阻害し電池の出力が低下するという問題が生じた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、回充電で各単電池層内に発生したガス(気泡)による単電池層内の電極間におけるイオン移動、ひいては電池反応が阻害されるのを抑制することのできる双極型二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成された双極型電極と、
前記正極と前記負極の間に挟まれた電解質と、
前記電解質の漏れを防止するために周辺部に配置されたシール部と、
を複数枚直列に積層した双極型二次電池において、
各単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質対向部との間に初回充放電で発生したガスのたまり部を有することを特徴とする双極型二次電池により達成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の双極型二次電池では、初回充電で各単電池層内に発生したガスを貯めるガスだまり部を双極型二次電池の一辺に設けることを特徴とすることで、単電池層内に発生し電池反応を阻害するガスをガスだまり部に排出することが可能になる。その結果、電解質の漏れ出しによる液絡(短絡)を防ぎつつ、同時に密封状態の各単電池層内部で発生したガス(気泡)をガスだまり部にため、電池の出力低下を防ぐことが可能になり、電池の出力が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の双極型二次電池は、集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成された双極型電極と、前記正極と前記負極の間に挟まれた電解質と、前記電解質の漏れを防止するために周辺部に配置されたシール部と、を複数枚直列に積層した双極型二次電池において、各単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質対向部との間に初回充放電で発生したガスのたまり部を有することを特徴とするものである。本発明の双極型二次電池構成とすることで、単電池層内で発生したガスをガスだまりにためることが可能になり、電池の出力低下を防ぐことができるものである。
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
図1は、本発明の双極型二次電池の代表的な一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池(以下、単に「双極型二次電池」とも称する)の概要を模式的に表した断面概略図である。なお、本明細書においては、バイポーラ電池を例に挙げて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0013】
図1に示す本実施形態の双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の電池要素21が、電池外装材29であるラミネートシートの内部に封止された構造を有する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の双極型二次電池10の電池要素21は、集電体11の一方の面に正極(正極活物質層)13が形成され他方の面に負極(負極活物質層)15が形成された複数の双極型電極16を有する。各双極型電極16は、電解質層17を介して積層されて電池要素21を形成する。この際、一の双極型電極16aの正極活物質層13と前記一の双極型電極16aに隣接する他の双極型電極16bの負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極16および電解質層17が積層されている。即ち、一の双極型電極16aの正極13と前記一の双極型電極16aに隣接する他の双極型電極16bの負極15の間に電解質層17が挟まれている。
【0015】
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)19を構成する。従って、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層17の漏れを防止するために単電池層19の周辺部にはシール部31が配置されている。該シール部31を設けることで隣接する集電体11間を絶縁することもできる。なお、電池要素(電池構造体)21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、電池要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
【0016】
さらに、図1に示す双極型二次電池10では、正極側最外層集電体11aが延長されて正極タブ25とされ、電池外装材29であるラミネートシートから導出している。一方、負極側最外層集電体11bが延長されて負極タブ27とされ、同様に電池外装材29であるラミネートシートから導出している。
【0017】
以下、本発明の特徴的な構成について、詳細に説明する。図2Aは、本発明の双極型二次電池の単電池層の1辺のみに、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガスのたまり部が設けられてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。なお、図2Bは、従来の双極型二次電池のシール部と電極−電解質層対向部の配置構成の様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。また、図3は、本発明の双極型二次電池の単電池層の1辺のみに、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガスのたまり部が設けられてなる様子を模式的に表した図面であり、このうち、図3Aは、双極型二次電池内の単電池層(但し、集電体は図示せず、省略している)の平面概略図である。図3B〜図3Dは、図3AのB−B線断面のうち、シール部と、電極−電解質層対向部との配置構成、およびこれらの間に形成されるガスのたまり部の構成(図2Aとは異なる他の構成)例を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【0018】
図2A及び図3に示すように、本発明の双極型二次電池10では、各単電池層19の1辺に、好ましくは1辺のみに、シール部31と電極−電解質対向部33との間に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガスのたまり(ガスだまり部)35を有することを特徴とするものである。ガスだまり部35を有することにより、各単電池層19内に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガス(気泡)37を図2Aに示す矢印方向に沿って移動させガスだまり部35に排出させて貯めることが可能になり、電池の出力低下を防ぐことが可能になる。
【0019】
一方、図2Bに示すように、従来の双極型二次電池10では、ガスたまり部35を有していないため、各単電池層19内に初回充放電時のガス(気泡)37の発生は単電池層19の電極間に気泡として残留してしまう。即ち、双極型でない通常のリチウムイオン二次電池ではラミネート外装を一度切断しガスを抜き封止することにより初回充放電時に発生するガスを抜くことができるが、双極型二次電池では各単電池層19がシール部31によりシールされているために同様の手段が使用できない。
【0020】
本発明において、各単電池層19内で発生したガス(気泡)37を図2Aに示す矢印方向に沿って移動させガスだまり部35に排出させて貯めるには、後述する製造方法を用いて作製することで容易に達成することができる。ここで、簡単に説明すれば、予め減圧(真空)下でシール部31を形成し、ガスだまり部35内を減圧(真空)状態のまま密封し、その後、初回充放電を行った後、図2Aに示す矢印方向に沿って、電池10にロールプレスをかけることで、各単電池層19内で発生したガス(気泡)37を当該矢印方向に沿って移動させガスだまり部35に排出させて貯めることができるものである。これは、初回充放電により発生するガス量は、2回目以降の充放電により発生するガス量に比して非常に多い。通常、初回充放電時に発生するガス量(体積量)を100とした場合、充放電条件にもよるが、正常な状態で行われる限りにおいては、2回目以降の充放電時に発生するガス量(体積量)は、せいぜい0.5〜1.0程度であり、初回充放電で発生するガスを電極間から排出することが、極めて有効である。そのため充放電時、とりわけ初回充放電時に発生したガス(気泡)37をガスだまり部35に排出させて貯めることができれば、電池の出力低下を極めて有効に防ぐことができるものである。
【0021】
ここで、電極−電解質層対向部33とは正極13−電解質層17−負極15が形成され電池として作動している部位である。したがって、これらのどれかが存在しない部分は電極−電解質層対向部33ではない。例えば、図3B〜図3Dでは、いずれも引出線Lの左側の部分が電極−電解質層対向部33になる。ガスだまり部35は、当該電極−電解質層対向部33とシール部31との間の空間部をいう。即ち、図3B〜図3Dに示すように、電極−電解質層対向部33とシール部31との間に電極、セパレータが存在する場合は、当該電極、セパレータそれぞれの空孔部分も当該空間部に含まれるものとする。こうした電極やセパレータの空孔部分にも、発生したガスをためることができるためである。なお、双極型二次電池10内は、通常シール部31により各単電池層19が密封されているため、ガスだまり部35のガス(=製造過程で行われる初回充電、更にその後に充放電を行うとする製造工程で発生したガス)の有無の確認は容易に可能である。
【0022】
本発明の双極型二次電池10では、前記ガスだまり部35の1辺の電極−電解質対向部33とシール部31間の空孔体積をBとし、他の3辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積をAとしたときに、A<Bを満たすことが望ましい。電解質の漏れ出しによる液絡(短絡)を防ぎつつ、同時に内部で発生したガスをガスだまりにため、電池の出力低下を防ぐことが可能になり、電池の出力が向上する。さらにA<Bの関係を満足することでガスだまり部35の体積を少なくすることが可能になり電池の出力密度が向上する点で優れている。
【0023】
前記Aは、前記Bに対して1/2以下、好ましくは1/5以下であるものがより望ましい。これは、電池内で発生したガスをガスだまりにためることが可能になり、電池の出力低下を防ぐことが可能になるからである。特にAがBに対して1/2以下とすることでガスだまり部35の体積をより少なくすることが可能になり電池の出力密度が向上することができるためである。
【0024】
前記Aが0であるものがより望ましいものである(図3A参照のこと)。ガスだまり部35の1辺以外の他の3辺では、余分な空孔体積が存在しないため、電池の出力密度、容量密度を向上することができる。また、各辺ごとに電極−電解質層対向部33に対して所定の空孔体積が生じるようにシール部31を形成するのに比べて、位置合わせが比較的容易であるなど製造上のメリットもある。また、後述するガスを排出する工程でガスだまり部側に双極型二次電池にロールプレスをかける場合には、図6A,Bに示すように、一方向のみにロールプレスするだけでよく、電極間に気泡が残留するのを効果的に防ぐことができ、またロールがけ回数の低減も可能であり、異方向へのロールがけに比べて使用する装置なども簡便でよいなど多くの利点を有するものである。一方、各辺に向けて異方向に2〜4回かに分けてロールプレスする場合、一度プレスした部分は、電極と電解質層との界面の密着性が高まっており、こうした部分に異なる方向に再度プレスして気泡を移動させようとすると、高密着された界面を気泡が通過しずらく残留するおそれが生じるほか、当該界面を通過する際に活物質粒子の脱落などを招くおそれもある。
【0025】
ここで、Bとはガスだまり部35の空孔体積、Aは残りの3辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積の中で一番大きい空孔体積とする。電極−電解質層対向部33とシール部19間の空孔体積は、電極−電解質層対向部33とシール部31間に電極13ないし15、セパレータ(電解質未塗布部分)17a、電解質層17が存在する場合は、当該電極13ないし15、セパレータ(電解質未塗布部分)17a、電解質層17、およびこれらが存在しない空間(=空孔率100%)につき、それぞれの空孔率から計算される空孔の体積の和として求めることができる。なお、電極や電解質層では、空孔率0%の場合、その空孔部分の体積は0となる。
【0026】
また、本発明では、上記空孔体積Bと、残りの3辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積の合計の空孔体積Cとの間でも、上記と同様に、C<Bの関係を満足するのが望ましく、好ましくは前記Cは、前記Bに対して1/2以下、好ましくは1/5以下であるものがより望ましく、特に好ましくはCが0であるものがより望ましいものである(図3A参照のこと)。これらの理由は、上記AとBとの関係で説明したと同様の理由によるものである。こうしたCとBとの関係を満足することで、ガスだまり部35の体積B、更には空孔体積Cを加えた全体の空孔体積より少なくすることが可能になり、電池の出力密度が向上することができるためである。
【0027】
また、電極−電解質層対向部33の面積をX(cm)としたとき、前記ガスだまり部35の1辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積B(cm)との間で、10cm−1≦(X/B)≦10cm−1、好ましくは10cm−1≦(X/B)≦10cm−1の関係を満たすのが望ましい。(X/B)が10cm−1未満の場合には、ガスだまりの大きさが非常に大きくなるため、体積効率が悪くなる。一方、(X/B)が10cm−1を超える場合にはガスだまりの大きさが非常に小さくなり発生ガスを抜ききるのが困難になる。
【0028】
次に、図4は、本発明の双極型二次電池の他の実施形態として、ガスだまり部の一部にガス吸着材料として活性炭を用いたガス吸着層が設置されてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。図5は、本発明の双極型二次電池の他の実施形態として、ガスだまり部の一部にガス吸着材料として炭素材料を主体とする負極材料を用いたガス吸着層が設置されてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【0029】
本発明の双極型二次電池では、図4に示すように、ガスだまり部35にガス吸着材料が設置されているものであってもよい。詳しくは、ガス吸着材料(例えば、活性炭)を用いて形成されたガス吸着層41が設置されていてもよい。ガス吸着層(ガス吸着材料)41が存在することで発生したガスを吸着させ、ガスだまり部35の体積(空孔体積B)を低減することができ、電池の出力密度が向上することができるためである。当該ガス吸着層(ガス吸着材料)41が設置されてなる実施形態においても、電解質の漏れ出しによる液絡(短絡)を防ぎつつ、同時に内部で発生したガスをガスだまり部35にため、電池の出力低下を防ぐことが可能になり、電池の出力が向上することができる。かかるガス吸着層(ガス吸着材料)41の空孔率は、当該ガス吸着量を勘案しないものとする。なお、他の3辺に空孔を設ける場合には、当該空孔部分にもガス吸着材料を用いて形成されたガス吸着層が設置されるようにしてもよい。こうすることで、他の3辺に空孔の体積を少なくすることが可能になり電池の出力密度の向上に寄与することができるためである。
【0030】
また、ガス吸着材料としては、特に制限されるものではなく、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンシート、炭素材料を主体とする負極材料、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、各種粘土、酸化鉄、過塩素酸マグネシウム、イオン交換樹脂、各種金属塩等の従来公知のものが挙げられる。こうした中から、リチウムイオン二次電池の充放電反応に影響したり、電解質層への影響しない材料を適宜選択して用いてもよい。なお、カーボンシートとしては、従来公知のものを用いることができ、活性カーボンシート、例えば、Kyonlの様な活性炭繊維の織布などが利用できる。ガス吸着材料は1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0031】
好ましくは、ガス吸着材料として炭素材料を主体とする負極材料を用いた負極(=ガス吸着層)が延長(設置)されてなるものが望ましい。即ち、本発明の双極型二次電池では、図5に示すように、ガス吸着材料として炭素材料を主体とする負極材料を用いる場合には、当該負極材料を用いて負極15を形成する際に、電極−電解質層対向部33よりも広く形成するだけで、当該電極−電解質層対向部33から食み出した負極15部分をガス吸着層41として利用することができる。これにより、使用材料の部品点数の削減、塗工回数の削減、塗工厚さや幅、位置合わせの調整作業がきわめて容易である点で優れている。なお、ガス吸着材料として炭素材料を主体とする負極材料を用いてガス吸着層41を設置する場合、負極15を形成する側に用いるのが望ましい。正極13を形成した側に炭素材料を主体とする負極材料を用いると、正極13とガス吸着層41との間で接触による短絡現象が生じ、電池性能が低下するおそれがあるためである。ただし、正極13とガス吸着層41との間に適当な絶縁シール部(図示せず)を設ける場合には、正極13を形成した側に炭素材料を主体とする負極材料を用いたガス吸着層41を設けてもよい。
【0032】
なお、ガス吸着材料として活性炭などの多孔質材料を用いる場合でも、ガス吸着層41を構成する他の材料としては、負極材料と同様なバインダなどの材料を用いて成形加工性を高めるようにするのが望ましい。この際、得られるガス吸着層内の多孔質材料がガス吸着可能なように該活性炭などの多孔質材料の表面全体をバインダなどで被覆しなうように留意する必要がある。ガス吸着層41を構成する他の材料に、導電助剤や電解質等の負極材料は加えなくてもよい。ガスだまり部35は電池反応に利用されないためである。
【0033】
上記ガス吸着材料の使用量としては、ガスだまり部に排出されてくる発生ガス量に応じて、適宜決定されるものであり、事前に予備実験などを行って、ガス吸着材料によるガス吸着量及びガスだまり部でのガス排出許容量から適宜決定すればよい。使用形態によっては、ガスだまり部全体にガス吸着材料を使用してもよい。ガスだまり部に初回充電で発生したガス(気泡)を排出し、気体が貯まった状態におかれていると、使用状況により該ガスだまり部に外部から振動や衝撃などの負荷が加わって加圧された場合に、シール部にガスによる高い加圧力がかかる。しかしながら、ガス吸着材料にこうしたガス(気体)を吸着させることで、ガスだまり部に外部から振動や衝撃などの負荷が加わって加圧された場合でも、ガスだまり部でのガス(気体)量が少なくなっており、シール部に高い耐圧性を持たせなくてよいので、該シール部を形成する幅を小さくすることができる点で優れている。
【0034】
以上が、本発明の双極型二次電池の特徴的な構成要件(主にガスだまり部)に関する説明であり、他の構成要件に関しては特に制限されるものではない。よって、以下では、本発明の双極型二次電池の特徴的な構成要件(主にガスだまり部)以外の他の構成要件に関し、双極型リチウムイオン二次電池を例に取り説明するが、本発明がこれらに制限されるものではない。
【0035】
[集電体]
本発明で用いることのできる集電体としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを利用することができる。例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく使える。また、金属表面に、アルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点からは、アルミニウム箔を集電体として用いることが好ましい。
【0036】
また、本発明では、上記集電体として、Feを主成分とし、Cr、Niを合金化したステンレスを用いることが好ましい。これらの集電体を用いることで正極、負極両電位に耐えうる集電体にできるからである。また、このような集電体とすることで0Vに電圧をおとすことが可能になる点でも優れている。さらにMo成分を有するSUS316Lを用いることが好ましい。
【0037】
また、本発明では、上記集電体として、高分子材料を主成分とする導電性高分子膜であるものを使用してもよい。これらの集電体を用いることで軽量化が可能になり、また正極、負極両電位に耐えうる集電体にできるからである。また、このような集電体とすることで0Vに電圧をおとすことが可能になる。
【0038】
ここでいう導電性高分子とは、高分子材料と導電性を付加する為の導電性フィラーとで構成されているフィラー分散型導電性高分子、高分子材料自体が導電性を有する導電性ポリマー両方を含む。
【0039】
さらに、本発明で用いることのできる集電体としては、製法上、スプレーコートなどの薄膜製造技術により、所望の形状に製膜して形成したものを利用することもできる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などの金属粉末を主成分として、これにバインダ(樹脂)、溶剤を含む集電体金属ペーストを加熱して成形してなるものである。これら金属粉末は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいし、さらに、製法上の特徴を生かして金属粉末の種類の異なるものを多層に積層したものであってもよい。好ましくは、正極と負極とを電子伝導性により結合する主成分としてケイ素材料(例えば、平均粒子径10nm〜100μm程度のシリコン粒子のほか、平均繊維径10nm〜100μm程度、繊維長さ0.1〜1000μm程度のシリコンナノチューブ、シリコンマイクロチューブ、シリコンナノファイバ、シリコンマイクロファイバ、シリコンナノコイル、シリコンマイクロコイルなどの繊維状のものなど)を用い、さらに樹脂(バインダー)として、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、ベークライトのいずれか、もしくはこれらの複数からなるものを適当な配合比率で配合したものを用いて形成したものであってもよい。安価で耐酸化性を有する集電体とすることができる。その結果、長期の信頼性を有する双極型二次電池を安価に作ることができるためである。
【0040】
上記バインダとしては、特に制限されるべきものではなく、例えば、エポキシ樹脂など、従来公知の樹脂バインダ材料を用いることができるほか、導電性高分子材料を用いても良い。
【0041】
集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0042】
集電体11は、通常の金属箔などをもちいることができるほか、真空プロセスを用いて形成することができる。具体的にはスパッタ、蒸着、イオンプレーティングおよび溶射などに代表されるPVD(Physical Vapor Deposition;物理気相成長法ないし物理的蒸着法)、CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長法ないし化学的蒸着法)、のいずれかの方法により形成することもできる。スパッタ法としては、例えば、集電体、更には後述する電極の形成に適した電子サイクロトロン共鳴スパッタ法、あるいは後述する電解質層(セパレータを用いなくともよい、固体電解質を用いる場合に適している)やシール部等の形成に適した高周波(RF)スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、対向ターゲットスパッタ法、ミラートロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。蒸着法としては、CVD(化学的蒸着法)とPVD(物理的蒸着法)が挙げられる。CVDとしては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVDなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。PVDとしては、スパッタ法、パルスレーザ蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、電子ビーム蒸着法、溶射法などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0043】
[電極(正極及び負極)]
正極(正極活物質層ともいう)13および負極(負極活物質層ともいう)15の構成については、特に限定されず、公知の正極および負極が適用可能である。電極には、電極が正極であれば正極活物質、電極が負極であれば負極活物質が含まれる。正極活物質および負極活物質は、電池の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0044】
例えば、双極型二次電池が双極型リチウムイオン二次電池である場合には、正極活物質としては、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物などが挙げられる。この他、LiFePOなどの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOHなどが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。容量、出力特性に優れた電池を構成できることから、正極活物質として遷移金属とリチウムとの複合酸化物(リチウム−遷移金属複合酸化物)を用いるのが望ましい。
【0045】
正極活物質の粒径は、双極型二次電池の電極抵抗を低減するために、双極型でない溶液(電解液)系のリチウムイオン二次電池で用いられる一般に用いられる粒径よりも小さいものを使用するとよい。具体的には、正極活物質微粒子の平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmであるとよい。
【0046】
正極13の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して適宜決定すればよく、通常1〜500μm程度である。
【0047】
正極13は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、真空プロセスを用いて形成することができる。具体的には上記集電体の項で説明したようなスパッタ、蒸着、イオンプレーティングおよび溶射などに代表されるPVD、CVD、のいずれかの方法により形成することもできる。スパッタ法としては、例えば、電極、更には上記集電体の形成に適した電子サイクロトロン共鳴スパッタ法、電解質層や周辺絶縁層の形成に適した高周波(RF)スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、対向ターゲットスパッタ法、ミラートロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。蒸着法としては、CVDとPVDが挙げられる。CVDとしては、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVDなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。PVDとしては、スパッタ法、パルスレーザ蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法、電子ビーム蒸着法、溶射法などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0048】
こうした形成法に適した正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルトニッケル酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、コバルトニッケルマンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウムなどが好適に利用可能である。こうした形成法を用いた場合には、正極の厚さは、0.001〜10μm、好ましくは0.01〜1μmの範囲まで薄膜化を図ることができる。
【0049】
また、双極型二次電池が双極型リチウムイオン二次電池である場合の負極活物質としては、特に制限されるものではなく、チタン酸リチウム、リチウム金属、リチウムアルミ合金、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバ、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどの結晶性炭素材や非結晶性炭素材等のカーボン(炭素材料)といった従来公知の負極材料を用いることができるが、容量、出力特性に優れた電池を構成できることから、これらカーボンもしくはリチウム−遷移金属複合酸化物を用いるのが望ましい。具体的には、結晶性炭素材や非結晶性炭素材などのカーボン(炭素材料)や、LiTi12、チタン酸化物などの金属材料(リチウム−移金属複合酸化物や遷移金属酸化物など)が挙げられる。カーボン(炭素材料)としてより詳しくは、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンファイバ、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンなどが挙げられる。リチウム−移金属複合酸化物としては、リチウム−チタン複合酸化物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。以上のことから、容量、出力特性に優れた電池を構成するには、正極活物質としてリチウム−遷移金属複合酸化物を用い、負極活物質としてカーボンもしくはリチウム−遷移金属複合酸化物を用いる組合せが望ましいといえる。
【0050】
負極活物質の粒径は、双極型二次電池の電極抵抗を低減するために、双極型でない溶液(電解液)系のリチウムイオン二次電池で用いられる一般に用いられる粒径よりも小さいものを使用するとよい。具体的には、負極活物質微粒子の平均粒径が0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmであるとよい。
【0051】
負極15の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して適宜決定すればよく、通常1〜500μm程度である。
【0052】
負極は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、スパッタ、蒸着、CVD、PVD、イオンプレーティングおよび溶射のいずれかの方法によっても形成することもできる。こうした形成法に適した負極活物質としては、チタン酸リチウムのほか、カーボン、リチウム金属、リチウムアルミ合金、リチウムスズ合金、リチウムケイ素合金などが好適に利用可能である。こうした形成法を用いた場合には、負極の厚さは、0.001〜10μm、好ましくは0.01〜1μmの範囲まで薄膜化を図ることができる。
【0053】
電極は、電子伝導性を高めるための導電助剤、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性高分子、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などが含まれ得る。
【0054】
上記導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などが挙げられる。導電助剤を含ませることによって、電極で発生した電子の伝導性を高めて、電池性能を向上させることができる。
【0055】
上記バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミドなどが挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0056】
電解質としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのイオン伝導性高分子(固体高分子電解質)などが挙げられる。
【0057】
イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)は、電池の種類に応じて選択すればよい。双極型二次電池が、双極型リチウムイオン二次電池である場合には、電解質支持塩(リチウム塩)としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩、またはこれらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0058】
活物質、導電助剤、バインダ、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性高分子、電解液など)、電解質支持塩(リチウム塩)などの電極の構成材料の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定することが好ましい。
【0059】
本発明では、後述する製造方法や実施例に示すように、活物質、導電助剤、バインダ等の電極の構成材料の粒子間に形成される空隙部分に、さらに固体電解質(ゲル電解質を含む)を含浸させてなるのが望ましい。
【0060】
[電解質層]
電解質層は、液体、ゲル、固体のいずれの相であってもよい。電池が破損した際の安全性や液絡の防止を考慮すると、電解質層は、ゲルポリマー電解質層、全固体電解質層のような固体電解質を用いることが好ましい。電解質層として固体電解質(詳しくは、後述するが、高分子ゲル電解質、固体高分子型電解質、無機固体型電解質すべてを含めるものとする)を用いることにより漏液を防止することが可能となり、液絡を防ぎ信頼性の高い双極型二次電池を構成できるからである。また、固体電解質を用いる場合、初回充電で発生するガス(気泡)が、電極間に止まり抜けにくい構造を有しており、本発明の構成を適用することによる恩恵を最もよく享受することができ、双極型二次電池の信頼性を高めることができるためである。即ち、本発明の作用効果を顕著に発現することができる電池構成ともいえる。双極型二次電池の信頼性を高めることができる。
【0061】
電解質層としてゲルポリマー電解質層(高分子ゲル電解質)を用いることで、電解質の流動性がなくなり、集電体への電解質の流出をおさえ、各層間のイオン伝導性を遮断することが可能になる。ゲル電解質のホストポリマーとしては、PEO、PPO、PVdF、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、PAN、PMA、PMMAなどがあげられる。また、可塑剤としては通常リチウムイオン電池に用いられる電解液を用いることが可能である。
【0062】
電解質層として全固体電解質層(固体高分子型電解質、無機固体型電解質)を用いた場合も、電解質の流動性がなくなるため、集電体への電解質の流出がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが可能になる。全固体電解質層を用いた場合、電解質層からの電解液の浸透のおそれがないため、集電体の空孔率が高くてもよい。特に全固体電解質層を用いてなる(さらに上記電極(正極及び負極)中の電解質成分にも全固体電解質を用いてなる)全固体電池であるのが望ましい。これは、本発明においては双極型二次電池に用いる電解質は、液体であってもよいし、ゲルや固体であってもよいが、特に固体である場合は、酸化反応が起こりにくく、より耐久性が向上するためである。
【0063】
上記ゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)は、PEO、PPOなどの全固体型高分子電解質に、通常リチウムイオン電池で用いられる電解液を含ませることにより作製される。PVdF、PAN、PMMAなど、リチウムイオン伝導性をもたない高分子の骨格中に、電解液を保持させたものもゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)にあたる。ゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)を構成するポリマーと電解液との比率は、特に限定されず、ポリマー100%を全固体高分子電解質、電解液100%を液体電解質とすると、その中間体はすべてゲルポリマー電解質(高分子ゲル電解質)の概念に含まれる。また、セラミックなどの無機固体などイオン伝導性を持つ無機固体型電解質も全固体型電解質にあたる。よって、上記高分子ゲル電解質、固体高分子型電解質、無機固体型電解質すべてを含めて固体電解質とする。
【0064】
電解質層中には、イオン伝導性を確保するために支持塩が含まれることが好ましい。電池がリチウム二次電池である場合には、支持塩としては、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO、またはこれらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。PEO、PPOのようなポリアルキレンオキシド系高分子は、前述の通り、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOなどのリチウム塩をよく溶解しうる。また、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度が発現する。
【0065】
電解質層としては、具体的には、従来公知の材料として、(a)高分子ゲル電解質(ゲルポリマー電解質)、(b)全固体高分子電解質(高分子固体電解質、無機固体型電解質)、(c)液体電解質(電解液)または(d)これら電解質を含浸させたセパレータ(不織布セパレータを含む)を用いることができる。好ましくは、出力特性、容量、反応性、サイクル耐久性に優れ、低コストな材料である、ゲル電解質材料を好適に使用できる。
【0066】
(a)高分子ゲル電解質
高分子ゲル電解質とは、ポリマーマトリックス中に電解液を保持させたものをいう。高分子ゲル電解質として用いるポリマーマトリックス(高分子)は、たとえば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PEO)、ポリプロピレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸エステル、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVdF−HFP)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)およびそれらの共重合体が望ましく、中でもPEO、PPOおよびそれらの共重合体、あるいは、PVdF−HFPを用いることが望ましい。電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものであり、電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種が、溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(GBL)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびそれらの混合物が望ましい。
【0067】
本発明におけるゲル電解質中の電解液の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本発明では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
【0068】
(b)全固体高分子電解質(高分子固体電解質、無機固体型電解質)
全固体高分子電解質としては、例えば、PEO、PPO、これらの共重合体などの公知の固体高分子電解質、セラミックなどのイオン伝導性を持つ無機固体型電解質が挙げられる。固体高分子電解質中には、イオン伝導性を確保するためにリチウム塩が含まれる。リチウム塩としては、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO、またはこれらの混合物などが使用できる。
【0069】
(c)液体電解質(電解液)
電解液とは、電解質塩を溶媒に溶かしたものが挙げられる。ここで、電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種が、溶媒としては、EC、PC、GBL、DMC、DECおよびそれらの混合物が望ましい。
【0070】
電解質のなかでは、ゲル電解質を含浸させたセパレータが好ましい。容量、出力特性に優れた電池を構成できるからである。
【0071】
(d)上記電解質を含浸させたセパレータ(不織布セパレータを含む)
セパレータに含浸させることのできる電解質としては、既に説明した(a)〜(c)と同様のものを用いることができる。
【0072】
上記セパレータとしては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーからなる多孔性シートおよび不織布を挙げることができる。
【0073】
多孔性シートとしては、例えば、微多孔質セパレータを用いることができる。該ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリイミド、アラミドが挙げられる。上記セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできないが、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。上記セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)、その空孔率は20〜80%であることが望ましい。
【0074】
不織布としては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。不織布セパレータの空孔率は50〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解質の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大することになる。
【0075】
さらに、本発明では、スパッタ、蒸着、CVD、PVD、イオンプレーティングおよび溶射のいずれかの方法により電解質層を形成することもできる。こうした形成法に適した電解質層としては、リン酸リチウムオキシナイトライドガラス、リン酸リチウム、チオリシコン化合物、LiPO−LiS−SiSガラス、LiS−Pガラスなどが好適に利用可能である。
【0076】
[シール部]
シール部(シーラントないし周辺絶縁層とも称されている)31は、電解質層17の漏れを防止するために単電池層19の周辺部に配置されている。この他にも電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。該シール部31としては、例えば、PE、PPなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが使用でき、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ただし、これらに何ら制限されるものではない。
【0077】
シール部31も、スパッタ、蒸着、CVD、PVD、イオンプレーティングおよび溶射のいずれかの方法により形成することもできる。こうした形成法に適したシール部31としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、イットリアなどが好適に利用可能である。
【0078】
[ガス吸着材料(ガス吸着層)]
上記シール部31内には、必要に応じて、図4および図5に示すように、ガス吸着材料、詳しくはガス吸着材料を用いてなるガス吸着層41を配置してもよい。ガス吸着層41が存在することで発生したガスを吸着させ、ガスだまりの体積を低減することが可能になるからである。
【0079】
上記ガス吸着材料としては、特に制限されるものではなく、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンシート、炭素材料を主体とする負極材料、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、各種粘土、酸化鉄、過塩素酸マグネシウム、イオン交換樹脂、各種金属塩等の従来公知のものが挙げられる。好ましくは炭素材料を主体とする負極材料である。こうした炭素材料を主体とする負極材料からなるガス吸着層が存在することで発生したガスを吸着させ、ガスだまりの体積を低減することが可能になるからである。加えて負極材料がガス吸着材料となることで製造工程の簡略化を図ることが可能になるからである。これにより、電解質の漏れ出しによる液絡(短絡)を防ぎつつ、同時に内部で発生したガスをガスだまり部にため、電池の出力低下を防ぐことが可能になり、電池の出力が向上する。このようなガス吸着材料を設置することでガスだまり部35の体積を少なくすることが可能になり電池の出力密度が向上することができる点で優れている。
【0080】
[正極および負極タブ]
双極型二次電池10においては、電池外部に電流を取り出す目的で、最外層集電体(11a、11b)に電気的に接続されたタブ(正極タブ25および負極タブ27)が外装材であるラミネートシート29の外部に取り出されている。具体的には、正極用最外層集電体11aに電気的に接続された正極タブ25と、負極用最外層集電体11bに電気的に接続された負極タブ27とが、外装材29の外部に取り出される。
【0081】
タブ(正極タブ25および負極タブ27)を構成する材料は、特に制限されず、双極型二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極タブ25と負極タブ27とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。また、最外層集電体(11a、11b)を延長することによりタブ(25、27)としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
【0082】
さらに、電流取り出し用の高導電性タブ25、27により、少なくても正極および負極末端極の電極、詳しくは正極および負極末端極の電極の集電体である最外層集電体11a、11bすべてを覆って構成されるのが望ましい(図1参照等のこと)。このような構成とすることで双極型二次電池の電流を面で受けることが可能になるためである。その結果、電池の出力が向上する点で優れている。
【0083】
[正極および負極端子板]
正極および負極端子板は、必要に応じて使用する。例えば、最外部の集電体11a、11bから正極タブ25及び負極タブ27を直接取り出す場合には、正極および負極端子板は用いなくてもよい。
【0084】
正極および負極端子板の材料は、従来公知のリチウムイオン電池で用いられる材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、これらの合金を利用することができる。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点からは、アルミニウムを用いることが好ましい。さらに、端子部での内部抵抗を抑える観点から、正極および負極端子板の厚さは、通常、0.1〜2mm程度が望ましい。
【0085】
[正極および負極リード]
正極および負極リードに関しても、必要に応じて使用する。例えば、最外部の集電体11a、11bから出力電極端子(正極タブ25及び負極タブ27)を直接取り出す場合(図7参照のこと)には、正極および負極リードは用いなくてもよい。
【0086】
正極および負極リードの材料は、公知のリチウムイオン電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0087】
[電池外装材]
電池外装材29としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた電池要素(電池構造体)21を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0088】
[双極型二次電池の外観構成]
図7は、本発明に係る双極型二次電池の代表的な実施形態である積層型の扁平な双極型二次電池の外観を表した斜視図である。
【0089】
図7に示すように、積層型の扁平な双極型二次電池10では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ25、負極タブ27が引き出されている。電池要素(電池構造体)21は、双極型二次電池10の電池外装材29によって包まれ、その周囲は熱融着されており、電池要素(電池構造体)(図示せず)は正極タブ25及び負極タブ27を引き出した状態で密封されている。ここで、電池要素(電池構造体)21は、先に説明した図1に示す双極型二次電池の電池要素(電池構造体)21に相当するものであり、集電体11、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成れるまでの単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0090】
なお、本発明の双極型二次電池10は、図1、7に示すような積層型の扁平な形状のものに制限されるものではなく、巻回型の双極型二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。こうした巻回型の双極型二次電池の場合には、ガスだまり部を形成した電池要素(電池構造体)を巻回する前に、後述する製造方法における工程(I)〜(III)を行えばよい。即ち、ガスだまり部を形成した電池要素(電池構造体)を巻回する前に、初回充電、更にはその後の充放電を行った後、ガスだまり部にガスを排出させ、その後に、ガスだまり部を形成した電池要素(電池構造体)を巻回し、外装材のラミネートフィルムや従来の円筒缶(金属缶)に収納し、密封するようにすればよい。
【0091】
また、図7に示すタブ25、27の取り出しに関しても、特に制限されるものではなく、正極タブ25と負極タブ27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ25と負極タブ27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図7に示すものに制限されるものではない。また、巻回型の双極型二次電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0092】
本発明の双極型二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0093】
[双極型二次電池モジュール]
本発明の双極型二次電池モジュールは、本発明の双極型二次電池を少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。なお、本発明の双極型二次電池モジュールでは、本発明の双極型二次電池のほか、他の二次電池(例えば、双極型でない通常のリチウムイオン二次電池など)を用いて、これらを直列に、並列に、または直列と並列とに、複数個組み合わせて、双極型二次電池モジュールを構成することもできる。
【0094】
双極型二次電池モジュールにおける双極型二次電池の数および接続の仕方は、電池に求める出力および容量に応じて決定されるとよい。双極型二次電池モジュールを構成した場合、双極型二次電池単独(素電池)と比較して、電池としての安定性が増す。また、双極型二次電池モジュールを構成することにより、双極型二次電池モジュールのなかの1つの単電池層(単セル)の劣化によるモジュール全体への影響を低減することもできる。
【0095】
また、図8は、本発明に係る双極型二次電池モジュールの代表的な実施形態の外観図であって、図8Aは双極型二次電池モジュールの平面図であり、図8Bは双極型二次電池モジュールの正面図であり、図8Cは双極型二次電池モジュールの側面図である。
【0096】
図8に示すように、本発明に係る双極型二次電池モジュール300は、本発明の双極型二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の双極型二次電池モジュール250を形成し、この装脱着可能な小型の双極型二次電池モジュール250をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ双極型二次電池モジュール300を形成することもできる。図8Aは、双極型二次電池モジュール300の平面図、図8Aは正面図、図8Cは側面図を示しているが、作成した装脱着可能な小型の双極型二次電池モジュール250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この双極型二次電池モジュール250は接続治具310を用いて複数段積層される。何個の双極型二次電池を接続して双極型二次電池モジュール250を作成するか、また、何段の双極型二次電池モジュール250を積層して双極型二次電池モジュール300を作成するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0097】
[車両]
本発明の双極型二次電池またはこれらを複数個組み合わせてなる双極型二次電池モジュールは、好ましくは、車両の駆動用電源として用いられうる。本発明の双極型二次電池または双極型二次電池モジュールを、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両であれば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0098】
以上の双極型二次電池またはこれらを複数個組み合わせてなる双極型二次電池モジュールを、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。他の車両、例えば、電車であっても適用は可能である。
【0099】
図9は、本発明の双極型二次電池モジュールを搭載した車両の概念図である。
【0100】
図9に示したように、双極型二次電池モジュール300を電気自動車400のような車両に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、双極型二次電池モジュール300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームでも良い。以上のような双極型二次電池モジュール300を用いた電気自動車400は高い耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。本発明の双極型二次電池モジュールを搭載した車両としては、図9に示すような電気自動車のほか、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに幅広く適用できるものである。
【0101】
[双極型二次電池の製造方法]
次に、本発明の双極型二次電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。ただし、本発明の特徴部である、双極型二次電池の各単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質層対向部との間に初回充放電に発生したガスを排出させ貯めた(溜めた)ガスだまり部35を有する所望の双極型二次電池を完成するには、以下の工程を行うのが望ましい。図6Aは、本発明の双極型二次電池の製造方法における、ガスだまり部にガスを排出する工程を行う際の様子を模式的に表した平面概略図である。図6Bは、図6AのB−B線断面のうち、ガスたまり部近傍を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【0102】
図6を参照すれば、本発明の双極型二次電池10の製造方法は、双極型電極16と、正極13と負極15の間に挟まれた電解質層17と、前記電解質層からの電解質の漏れを防止するために周辺部に配置されたシール部31と、を複数枚直列に積層することにより双極型二次電池10を作製する工程(双極型二次電池の作製工程ともいう)(I)と、
前記双極型二次電池10に初回充電を行う工程(初回充電工程ともいう)(II)と、
前記双極型二次電池10のガスだまり部に(初回充電で発生した)ガスを排出する工程(ガス排出工程ともいう)(III)と、を行うことを特徴とするものである。このような工程で製造することで初回充電時に発生したガスをガスだまり部に効率よく効果的に排出しためることが可能になり、電池の出力低下を防ぐことが可能になるからである。即ち、電解質の漏れ出しによる液絡(短絡)を防ぎつつ、同時に電池内部(詳しくは電極−電解質対向部33)で発生したガスをガスだまり部にため、電池の出力低下を防ぐことが可能になり、電池の出力が向上する。このような工程で製造することで、単電池層の4辺の周辺部に形成されるガスだまり全体の体積を、1辺のガスだまり部に集約させ、当該ガスだまり部のみに発生ガスを排出させためることができ、ガスだまり全体の体積を少なくすることが可能になり電池の出力密度が向上する。以下、各工程ごとに、詳しく説明する。
【0103】
(I)双極型二次電池の作製工程
双極型二次電池の作製工程としては、特に制限されるものではなく、従来公知の製造方法を利用して作製することができる。
【0104】
この際、シール部31を形成する際に、所定のガスだまり部35ができるように各単電池層19の1辺に、好ましくは1辺のみに、シール部31と電極−電解質対向部33との間に初回充電で発生するガス量に見合うだけ(好ましくは、所定のマージンを持たせておくのがよい)ガスだまり部35ができるように、電極−電解質対向部33から所定の間隔を空けてシール部31を形成すればよい。
【0105】
ここで、初回充電で発生するガス量は、予め予備実験などを行って、単電池層から発生するガス量を測定して置けばよい。
【0106】
また、本発明では、従来と同様に、水分や空気等がシール部内の単電池層19やガスだまり部35に残留を防止する観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましいが、より好ましくは、減圧(真空)下で行うのが望ましい。これは、後述するガス排出工程(III)を実施するまでに、ガスだまり部35内部を減圧(真空)状態にしておくことで、ガス排出工程を実施した際に、簡単に発生ガスをガスだまり35に排出して、ためることができるためである。また、ガス排出工程を実施して所望の双極型二次電電池を完成した状態で、ガスだまり部35の内圧上昇がなく、シール部31を耐圧構造とする必要がなく、シール部31に用いる材料が制限されず、またその使用量も少なくてよいなどの点で優れている。
【0107】
以上が、本工程における本発明に特有の製造要件といえるものである。上記以外の製造要件に関しては、特に制限されるものではないため、以下に簡単に説明するが、本発明の製造方法がこれらに何ら制限されるものでないことはいうまでもない。
【0108】
(i)正極用組成物の塗布
まず、適当な集電体を準備する。正極用組成物は、通常はスラリー(正極用スラリー)として得られ、集電体の一方の面に塗布される。塗布方法には、バーコーティング、スプレーコーティングのほか、スクリーン印刷、インクジェット方式で印刷する塗布方法なども含まれる。さらに、上記したように真空プロセスを用いて形成することができる。具体的には蒸着、イオンプレーティングおよび溶射などに代表されるPVD(Physical Vapor Deposition;物理気相成長法ないし物理的蒸着法)、CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長法ないし化学的蒸着法)、のいずれかの方法により形成することもできる。これら真空プロセスを用いて形成する方法に関しては、既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。以下の、電極、電解質層、シール部などに関しても、これら真空プロセスを用いて形成する方法が適用できるが、既に説明した通りであるの、以下の電極、電解質層、シール部での説明も省略する。
【0109】
正極用スラリーは、正極活物質を含む溶液である。他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、高分子ゲル電解質の原料(高分子原料、電解液など)、リチウム塩などが任意で含まれる。高分子電解質層に高分子ゲル電解質を用いることから、正極活物質微粒子同士を結びつける従来公知のバインダ、電子伝導性を高めるための導電助剤、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのスラリー粘度調整溶媒などが含まれていればよく、高分子ゲル電解質の原料やリチウム塩などは含まれていなくても良い。
【0110】
高分子ゲル電解質の高分子原料は、PEO、PPO、これらの共重合体などが挙げられ、分子内に架橋性の官能基(炭素−炭素二重結合など)を有することが好ましい。この架橋性の官能基を用いて高分子原料を架橋することによって、機械的強度が向上する。
【0111】
正極活物質、導電助剤、バインダ、リチウム塩、電解液に関しては、前述した化合物を用いることができる。
【0112】
重合開始剤は、重合させる化合物に応じて選択する必要がある。例えば、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。
【0113】
NMPなどの溶媒は、正極用スラリーの種類に応じて選択する。
【0114】
正極活物質、リチウム塩、導電助剤等の添加量は、バイポーラ電池の目的等に応じて調節すればよく、通常用いられる量を添加すればよい。重合開始剤の添加量は、高分子原料に含まれる架橋性官能基の数に応じて決定される。通常は高分子原料に対して0.01〜1質量%程度である。
【0115】
(ii)正極の形成
正極用スラリーが塗布された集電体を乾燥して、含まれる溶媒を除去し、正極を形成する。それと同時に、正極用スラリーによっては、架橋反応を進行させて、高分子固体電解質の機械的強度を高めてもよい。乾燥は真空乾燥機などを用いることができる。乾燥の条件は塗布された正極用スラリーに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は40〜150℃で5分〜20時間である。
【0116】
作製した正極は、表面の平滑性および厚さの均一性を向上させるためにプレス操作を行うのがよい。プレス操作は冷間でプレスロールする方法または熱間でプレスロールする方法のいずれの方法でも良い。熱間でプレスロールする方法の場合は、電解質支持塩や重合性ポリマーが分解する温度以下で行うのが望ましい。プレス圧力は線圧で200〜1000kg/cmで行うことが望ましい。
【0117】
(iii)負極用組成物の塗布
正極が形成された面と反対側の集電体の表面に、負極活物質を含む負極用組成物(負極用スラリー)を塗布する。
【0118】
負極用スラリーは、負極活物質を含む溶液である。他成分として、導電助剤、バインダ、重合開始剤、高分子ゲル電解質の原料(高分子原料、電解液など)およびリチウム塩などが任意で含まれる。使用される原料や添加量については、「(i)正極用組成物の塗布」の項での説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0119】
(iv)負極の形成
負極用スラリーが塗布された集電体を乾燥して、含まれる溶媒を除去し、負極を形成する。それと同時に、負極用スラリーによっては、架橋反応を進行させて、高分子ゲル電解質の機械的強度を高めてもよい。この作業により、バイポーラ電極が完成する。乾燥は真空乾燥機などを用いることができる。乾燥の条件は塗布された負極用スラリーに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は40〜150℃で5分〜20時間である。
【0120】
また、上記「(ii)正極の形成」の項で説明したプレス操作は、例えば、集電体の片面に正極活物質層を形成した後に、電池に用いる複数の正極活物質層につき、全体をまとめて行っても良い。負極活物質層についても同様である。更には集電体の片面に正極活物質層を形成し、他面に負極活物質層を形成した後に、正極活物質層および負極活物質層をまとめてプレス操作を行っても良い。プレス操作に要する工数を大幅に低減することができるためである。一方、正極活物質層および負極活物質層を構成する各層ごとに所定の膜厚を確保する観点からは、正極活物質層および負極活物質層を構成する各層ごとに行うのが望ましい。このようにプレス操作の対象や時期については、必要に応じて適宜選択すればよい。また、プレス条件については、正極活物質層または負極活物質層の各層ごとの場合でも、電池に用いる複数の正極活物質層および/または負極活物質層につき、全体をまとめて行う場合であっても、上記「(ii)正極の形成」の項で説明した範囲内において調製することができる。
【0121】
(v)双極型電極および電解質層の作製(電解質の作製)
上述の通りに作製した双極型電極の両面の正極及び負極全面、並びにセパレータの所定の位置(中央部;電極面積またはそれより広い面積部分)に、ゲル原料溶液(プレゲル溶液)や固体電解質の前駆体溶液を含浸させ、重合させ、双極型電極および電解質層を作製する。これにより、電極のイオン伝導性を高めることができると共に所望の電解質層を形成することができるものである。また、電極の空孔部分にゲル電解質や固体電解質を含浸させることで、ますます初回充電で発生したガス(気泡)が電極や電解質層の空孔部分を通じて抜けにくい構造となるが、本発明のように、意図的にガスだまり部を設け、ここに発生ガスを排出させてためる構造の双極型二次電池では、上記電極のイオン伝導性を高める効果を有効に発現した上で、発生ガス(気泡)によるイオン伝導を阻害することなく電池性能の低下を防止できる点で優れている。
【0122】
双極型電極に含浸させるゲル原料溶液(プレゲル溶液)は、高分子ゲル電解質の原料高分子(ホストポリマー)、リチウム塩、重合開始剤等を溶媒に溶解させて調製した溶液を意味する。ホストポリマー、リチウム塩などは、双極型二次電池の正極において記載した説明と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0123】
双極型電極に含浸させる固体電解質の前駆体溶液は、高分子固体電解質の原料高分子(ホストポリマー)、リチウム塩、重合開始剤等を混合して調製した溶液を意味する。ホストポリマー、リチウム塩などは、双極型二次電池の正極において記載した説明と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0124】
重合開始剤は、重合方法(熱重合法、紫外線重合法、放射線重合法、電子線重合法など)や重合させる化合物に応じて適宜選択する必要がある。例えば、紫外線重合開始剤としてベンジルジメチルケタール、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられるが、これらに制限されるべきものではない。また、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、n−ピロリドンなどのスラリー粘度調整用溶媒などが挙げられる。重合開始剤の添加量は、ホストポリマーに含まれる架橋性官能基の数に応じて決定される。通常は上記ホストポリマーに対して0.01〜1質量%程度である。
【0125】
ゲル原料溶液や固体電解質の前駆体溶液の含浸は、双極型電極両面の正極及び負極の全面、並びにセパレータ上の中央部に塗布し、真空乾燥により乾燥(ゲル原料溶では、溶媒を除去)させることで、正極及び負極の空隙部にゲル電解質ないし全固体電解質を含有してなる双極型電極、並びにセパレータの多孔質部分にゲル電解質ないし全固体電解質を含有してなる電解質層を得ることができる。ゲル原料溶液ないし固体電解質の前駆体溶液は、まだゲル状や固体状になっていないため、電極およびセパレータに浸透していく。また、前記含浸には、アプリケーターやコーターなどを用いれば微量の供給も可能である。
【0126】
その後、ゲル原料溶液ないし固体電解質の前駆体溶液を含浸させた電極およびセパレータに含まれるホストポリマーを、熱、紫外線、放射線、電子線等により重合(架橋)する。重合には、簡便かつ確実に重合を行うことができることから、熱重合を行うことが望ましい。乾燥ないし熱重合は、真空乾燥機など従来公知の装置を用いることができる。乾燥ないし熱重合の条件はゲル原料溶液や固体電解質の前駆体溶液に応じて適宜決定すればよい。得られるセパレータの電解質塗布部分のサイズ(面積)は、単電池層(単セル)の集電体の電極形成部のサイズ(面積)よりも若干小さくしても良いし、同じにしても良いし、若干大きくしても良いなど、特に制限されるものではない。
【0127】
本発明において、電解質層は、好ましくはゲル原料溶液や固体電解質の前駆体溶液(ポリマー電解質原料溶液)をセパレータに含浸させて重合(架橋)されてなる。セパレータを用いることにより、電解液の充填量を高めることができるとともに、熱伝導性を確保することができるため、好適に用いられる。しかし、本発明の電解質層は、かような構成に限定されず、セパレータを含まない従来公知の電解質層を用いてもよい。
【0128】
以上のように作製した双極型電極を高真空下で十分加熱乾燥してから、双極型電極と電解質層をそれぞれを適当なサイズに複数個切りだす。電解質層は、双極型電極の集電体サイズよりも若干大きくすることが望ましい。
【0129】
(vi)シール部前駆体の形成
上記(v)で得られた双極型電極の正極周辺部の電極未塗布部分にディスペンサ等を用いて、電極13の外周部(4辺全て)にシール部前駆体(例えば、1液性未硬化エポキシ樹脂)を塗布する。
【0130】
次に上記(v)で得られた電解質層を正極側に集電体を覆うように設置する。
【0131】
その後、電解質層のうち、外周部近傍のゲル電解質未塗布部分のセパレータの上から電極未塗布部分(=ゲル電解質未塗布部分;前記シール部前駆体を塗布した部分と同じ部分)にディスペンサ等を用いて、電解質層外周部のセパレータにシール部前駆体(例えば、1液性未硬化エポキシ樹脂)を塗布し、含浸させる。セパレータ内部(含浸)とその上部(負極周辺部の電極未塗布部分に相当する位置)にシール前駆体が位置するように、必要に応じて数回に分けて塗布してもよい。シール部前駆体の塗布位置については、それぞれガスだまりの体積B(ガスだまり部)、そのほか3辺の体積Aとなるように塗布すればよい。
【0132】
さらに、本発明では、必要に応じて、負極側のガスだまり部に図4のように、活性炭などのガス吸着材料を含有するガス吸着層を配置してもよい。該ガス吸着層の形成に用いたガス吸着スラリーは、ガス吸着材料と、電極に用いたと同様なバインダと、NMP等の適当な粘度調整溶媒を添加し、混合してガス吸着スラリーを調製し、集電体に負極を作成した後に、当該集電体の負極側の外周部に塗布、乾燥してガス吸着層を形成してもよい。該ガス吸着層は、負極とシール部との間の外周部(ガスだまり部内部)にいわば額縁状に形成すればよい。さらに、負極側のハードカーボン電極部をガスだまり部に図5のように延長した負極を作成し、ガスだまり部に負極材料で形成されたガス吸着層を形成してもよい。
【0133】
なお、上記(i)〜(vi)の工程を行う際には、電池内部に水分等が混入するのを防止する観点から、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0134】
(vii)電池要素(電池構造体)の作製
上記で得られた双極型電極と電解質層を、真空(減圧)密封しつつ、正極(活物質層)と負極(活物質層)が電解質層を挟んで対向するように、それぞれ交互に順次積層し、熱プレス機により面圧0.1〜2.0kg/cm、好ましくは0.5〜1.0kg/cmとし、25〜150℃、好ましくは45〜100℃、より好ましくは60〜80℃で0.1〜2時間、好ましくは0.5〜1時間熱プレスすることにより、未硬化のシール部前駆体を硬化する。この工程は使用する接着剤により決められる値であり、たとえばエポキシ樹脂の硬化温度、あるいはオレフィン系のホットメルトの融点により決定される。本工程(vii)によりシール部を所定の厚みまでプレス、さらに硬化を行うことで単電池層(単セル)が所望のセル数積層された電池要素(電池構造体)を作成することができる。積層数は、双極型二次電池に求められる電池特性を考慮して決定される。電解質層が一面または両面に形成された双極型電極を、直接貼り合わせてもよい。最外層の電解質層上には、それぞれ電流取り出し用の電極を配置する。正極側の最外層には、集電体上に正極のみを形成した電流取り出し用の電極を配置する。負極側の最外層には、集電体上に負極のみを形成した電流取り出し用の電極を配置する。双極型電極と電解質層とを積層させて双極型二次電池を得る段階は、従来と同様に、不活性雰囲気下(例えば、アルゴン雰囲気下や窒素雰囲気下)で行ってもよいが、本発明では、当該作製工程では、双極型電極と電解質層を順次積層後、真空(減圧)にしてガスだまり部を含むシール部の内側全体の雰囲気ガス(不活性ガスないし空気)を排気しながら、熱プレス機により熱プレスすることにより、未硬化のシール部前駆体を硬化すると共に真空密封するのが望ましい。これにより、シール部で真空密封されたガスだまり部の内部が真空(減圧)状態になった電池要素(電池構造体)を形成することができるためである。ここでの真空(減圧)条件としては、大気圧を101.3kPaに対して2kPa以下、好ましくは1kPa以下、より好ましくは0.5kPa以下とするのが望ましい。また、こうした真空環境は、双極型電極及び電解質層の積層作業から熱プレス機までの全体工程が真空になるようにするのが望ましい。こうした真空環境は、例えば、高性能真空ポンプを用いた真空チャンバー内部に積層機構を追加した真空積層装置を用いて行うことができる。
【0135】
(viii)電極タブの取り付け
得られた電池要素(電池構造体)の両電池最外部の単電池層の集電体に正極タブ及び負極タブを配設(電気的に接続)する。電池最外部の単電池層の集電体に取り付けるタブは、カーボン系導電性接着剤等で接着してもよい。
【0136】
必要に応じて、正極タブ及び負極タブに、さらに正極リード及び負極リードをそれぞれ接合(電気的に接続)してもよい。正極リードおよび負極リードの接合方法としては特に制限されるべきものではないが、接合温度の低い超音波溶接等が好適に利用し得るものであるが、これに限定されるべきものではなく、従来公知の接合方法を適宜利用することができ、タブと同じように、カーボン系導電性接着剤等で接着してもよい。
【0137】
(ix)双極型二次電池(初回充電・ガス排出前のもの)の作製
次いで、この電極タブが取り付けられた電池要素(電池構造体)を、外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、アルミラミネート等の電池外装材ないし電池ケースを用い真空密封し、外周を熱融着によってシールし、双極型二次電池(初回充電・ガス抜き前のもの)を製造する。電池外装材(金属−高分子ラミネート材)の材質は、内面がポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆された金属(アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅など)が好適である。以上が、従来の双極型二次電池の製造方法の全工程にあたるものであるが、本発明の双極型二次電池の製造方法では、双極型二次電池の作製工程(I)に該当するものである。
【0138】
なお、上記(viii)〜(ix)の工程を行う際にも、電池内部に水分等が混入するのを防止する観点から、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0139】
(II)初回充電工程
初回充電工程は、前記双極型二次電池10に初回充電を行うものであればよく、特に制限されるものではなく、従来公知の製造方法、特に充放電技術を利用して作製することができる。
【0140】
ここで、対象となる双極型二次電池は、図1に示すように、ラミネートシートなどの電池外装材で封入した状態のものであってもよいし、該電池外装材で封入する前の電池要素(電池構造体)21に正極タブと負極タブが取り付けられた状態のものとしてもよい。この場合には、後述するガス排出工程IIIで、ラミネートシートなどの電池外装材が損傷するおそれがなく優れている。なお、この場合には、後述するガス排出工程IIIで発生ガスをガスだまり部35に排出しためた後に、ラミネートシートなどの電池外装材に収納し、封止して密封すればよい。
【0141】
本工程での初回充電条件としては、特に制限されるものではなく、電池の理論容量になるまで(=満充電状態になるまで;例えば、双極型リチウム二次電池などでは、電池電圧が単電池層数×4.2Vになるまで)、一般的な条件にて充電を行えばよい。ここでは、ガス発生が起こりにくい条件で充電するよりも、積極的にガス発生を起こしやすい条件で満充電するのが望ましいといえる。具体的には、定電流1C相当充電の後、定電圧充電を長時間(1時間〜10時間)かける条件で初回充電を行えばよい。
【0142】
なお、双極型二次電池、例えば、双極型リチウム二次電池などでは、充放電サイクルを通じて最も多くのガスが発生するのが初回充電時であり、以降の充放電時には、正常な状態で充放電されている限り、殆どガス発生はない。そのため、当該工程では初回充電のみを実施すればよいが、これに何ら制限されるものではなく、適当に数サイクル充放電を行ってもよい。即ち、初回充電さえ実施していればよく、その後の充放電の有無は特に問題ではない。ただし、電池寿命及び製造工数及び製造コスト(経済性)の観点からは、製造段階で余分な充放電を実施することは望ましくなく、初回充電だけを行うのが望ましい。一方、ガス排出工程(III)を行う場合、通常の電池の充放電時には加わることのない外部負荷(ロールプレス)が電池に印加されることになる。そのため、双極型二次電池が満充電状態(=大量のエネルギーを蓄えた状態)よりも、放電状態(エネルギーを放出した状態)で取り扱う方が、作業上の安全が確保しやすい点で優れている。かかる観点からは、初回充放電のみを行うのが望ましい。
【0143】
ここで、初回放電条件としては、特に制限されるものではなく、例えば、双極型リチウム二次電池などでは、電池電圧が単電池層数×2.5Vになるまで(=初回充電で蓄えたエネルギーを放出した状態になるまで)、一般的な条件にて放電を行えばよい。ここでは、ガス発生は殆どないためである。具体的には、定電流放電1C相当の電流の条件で初回放電を行えばよい。
【0144】
なお、2回目以降の充放電を行う場合にも、特に制限されるものではなく、一般的な条件にて、例えば、上記初回充放電条件と同じ条件にて充放電を行えばよい。具体的には、上限電圧:単電池層数×4.2V、下限電圧:単電池層数×2.5Vの条件で充放電を行えばよい。基本的には通常の自動車駆動用の充放電を前記条件内で行えばよい。
【0145】
(III)ガス排出工程
ガス排出工程では、双極型二次電池10のガスだまり部35にガスを排出するものである。
【0146】
例えば、図6に示すように、適当な基盤61上に双極型二次電池10を載置し、該双極型二次電池10に適当なローラプレス機63等を用いて、ガスだまり部35の辺と対向する辺Xからガスだまり部35の辺Yまでロールプレスをかけることで、ガスだまり部35に先の工程(II)の初回充電(更にはその後の充放電)で発生したガス(気泡)37を排出し、貯めるものである。これにより、所望の双極型二次電池10を完成することができる。
【0147】
ここで、ロールプレス機としては、特に制限されるものではなく、従来公知にロールプレス機を適宜利用することができる。但し、本発明では、先の工程(II)で発生したガス37をガスだまり部35に漏れなく排出し、貯めることができるものであればよく、これらに何ら制限されるものではなく、従来公知の他のプレス装置やプレス技術を適宜利用してよいことはいうまでもない。
【0148】
ロールプレス機63のロール寸法としては、先の工程(II)で発生したガス37をガスだまり部35に漏れなく排出し、貯めることができるものであればよく、対向する辺Xないしガスだまり部35の辺Y全体に均一にロールプレスできるロール長さを有するものであればよく、その特に制限されるものではない。具体的には、ロール直径50〜500mm、好ましくは100〜200mmである。
【0149】
ロールプレスの加圧力としては、先の工程(II)で発生したガス37をガスだまり部35に漏れなく排出し、貯めることができるものであればよく、単電池層の積層数(セル数)、電極−電解質層対向部33の面積、前の工程(I)乃至(II)でのガスだまり部の減圧・真空処理の有無などによっても異なることから、事前に予備実験などを行って、最適な加圧力を決定するのが望ましい。具体的には、ロールプレスの加圧力(線圧)は、0.5〜20kg/cm、好ましくは2〜5kg/cmの範囲である。ロールプレスは必要に応じて加熱を行いながらのヒートロールプレスを行うべきであり、使用される電解質層の材料に応じて条件を決定する。
【0150】
また、ロールプレスの加工速度としては、先の工程(II)で発生したガス37をガスだまり部35に漏れなく排出し、貯めることができるものであればよく、単電池層の積層数(セル数)、電極−電解質層対向部33の面積、前の工程(I)乃至(II)でのガスだまり部の減圧・真空処理の有無などによっても異なることから、事前に予備実験などを行って、最適な加工速度を決定するのが望ましい。具体的には、加工速度が、1〜20m/分、好ましくは10〜15m/分の範囲である。
【0151】
なお、図6では、一方向に一回のみロールプレスをかける例を示したが、本発明では、これらに何ら制限されるものではなく、必要に応じて、他の辺の空孔に向けて1ないし複数回、ロールプレス等のプレスがけ(ガス排出処理)を行ってもよい。また、ガスだまり部の1辺(一方向)に向けて、一回のみ他の方法でプレスがけ(ガス排出処理)を行ってもよいし、複数回、ロールプレス等のプレスがけ(ガス排出処理)を行ってもよい。また、図6では、電池の上部にロールをかけた例を示したが、電池上部を固定し、電池の下部にロールプレス等のプレスがけ(ガス排出処理)を行ってもよい。さらに、図6では、1つのロールプレスを用いる例を示したが、複数のロールプレスを用いてプレスがけ(ガス排出処理)を行ってもよい。また、図6では、電池を水平な基板上に載置して(横にして)行ったが、電池を垂直な基板に固定し、立てて行っても良いし、電池を傾斜した基板に固定し、傾けて行っても良いなど、特に制限されるものではない。また、電極−電解質層対向部33の面積全体を面でプレスするようにしてもよい。
【0152】
また、本発明では、プレスがけ以外のガス排出処理を行ってガスを排出してもよいし、プレスがけと他のガス排出処理ないし排出促進処理(電池内部の吸引、振動、遠心、加温等)とを組み合わせてガスを排出してもよいなど、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0153】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0154】
実施例1〜8及び比較例1
(I)双極型二次電池の作製工程
<電極の形成>
1.正極の形成
以下の材料を所定の比で混合して正極スラリーを作製した。詳しくは、正極活物質としてLiMn、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ85wt%、5wt%、10wt%の比率に混合し、これらの混合組成物40質量部に対して60質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。
【0155】
厚さ15μmのステンレス(SUS)箔の集電体の片面に、該正極スラリーを塗布し、乾燥させて厚さ30μmの正極を形成した。
【0156】
2.負極の形成
以下の材料を所定の比で混合して負極を作製した。詳しくは、負極活物質としてハードカーボン、バインダとしてPVdFを使用し、負極活物質、バインダをそれぞれ90wt%、10wt%の比率に混合し、これらの混合組成物40質量部に対して60質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して負極スラリーを調製した。この際、正極面積と負極面積を同じとし、正極と負極の集電体への投影図が一致するように調整して正極及び負極を形成した。
【0157】
該負極スラリーを正極を形成した集電体の反対面に、該負極スラリーを塗布し、乾燥させて厚さ30μmの負極を形成した。
【0158】
3.双極型電極の作製
これにより、集電体の両面に正極と負極がそれぞれ形成された双極型電極が調製された。この双極型電極に、線圧10tとしてロールプレスを加え、その後、これらを縦140×横90mmに切断し、電極(正極及び負極)の周辺部10mmはあらかじめ電極を塗布していない部分(集電体のみの部分=集電体が露出した部分)のあるものを作成し、これにより縦120mm×横70mmの電極部(これを、電極−電解質層対向部とした)と周辺部に10mmのシールしろができた双極型電極を作製した。
【0159】
<ゲル電解質の形成>
以下の材料を所定の比で混合して電解質を作製した。
【0160】
電解液として、1.0M LiPF、プロピレンカーボネート(PC)+エチレンカーボネート(EC)(1:1)90wt%、ホストポリマーとして、HFP成分を10%含むポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)10wt%、および粘度調整溶媒として、電解液とPVdF−HFPの合計量100質量部に対してジメチルカーボネート(DMC)200質量部を混合してプレゲル溶液を調製した。
【0161】
該プレゲル溶液を先に形成された双極型電極両面の正極及び負極の全面、並びに縦150mm×横100mm、厚さ12μmのポリエチレンセパレータ(セパレータ空孔率:40%)上の中央部(電極面積と同じ、縦120mm×横70mmの範囲)に塗布し、真空乾燥によりDMCを除去、乾燥させることで、正極及び負極(の空隙部)にゲル電解質を含有してなる(ゲル電解質の染み込んだ)双極型電極、並びにポリプロピレンセパレータ(の多孔質部分)にゲル電解質を含有してなる(ゲル電解質の染み込んだ)ゲル電解質層を得た。これにより、正極及び負極および電解質層のゲル電解質塗布部分の空孔率は、実質的に0%となる(但し、ガスだまり部にこれら正極及び負極およびゲル電解質塗布部分は存在していないように形成したので、表1の空孔体積A,Bには関与していない。)。
【0162】
<シール部前駆体の形成>
図7Aは、双極型電極の正極周辺部へのシール部前駆体の塗布位置を変えることにより、実施例1〜8の空孔体積Bを有するガスだまり部が形成されてなる双極型電極の様子を模式的に表した平面概略図である。図7Bは、双極型電極の正極周辺部へのシール部前駆体の塗布位置を変えることにより、ガスだまり部が形成されていない比較例1の双極型電極の様子を模式的に表した平面概略図である。
【0163】
上記で得られた双極型電極の正極周辺部の電極未塗布部分にディスペンサを用いて、図7Aに示すように電極13の外周部(4辺全て)にシール部前駆体(1液性未硬化エポキシ樹脂)31aを塗布した。
【0164】
次に上記で得られたゲル電解質層を正極側に集電体であるSUS箔すべてを覆うように設置した。
【0165】
その後、ゲル電解質層のうち、外周部近傍のゲル電解質未塗布部分のセパレータの上から電極未塗布部分(=ゲル電解質未塗布部分;前記シール部前駆体を塗布した部分と同じ部分)にディスペンサを用いて、図7Aに示すようにゲル電解質層外周部のセパレータにシール部前駆体(1液性未硬化エポキシ樹脂)を塗布し、含浸させた。ここでは、セパレータ内部(含浸)とその上部(負極周辺部の電極未塗布部分に相当する位置)にシール前駆体が位置するように、必要に応じて数回に分けて塗布した。
【0166】
ただし、シール部前駆体の塗布位置については、異なる空孔体積のガスだまり部35を作成するために実施例1〜実施例8及び比較例1(図7B参照)のように変化させて塗布し、それぞれガスだまりの体積B、そのほか3辺の体積Aを規定した(表1参照のこと)。
【0167】
また、実施例7の電極には負極側のガスだまり部に図4のようにガス吸着材料として活性炭を含有するガス吸着層(活性炭)41を配置した。該ガス吸着層(活性炭)41の形成に用いたガス吸着スラリーは、ガス吸着材料である活性炭90wt%と、バインダとしてPVdF10wt%と、活性炭+バインダの合計量100質量部に対して200質量部のNMPを粘度調整溶媒として添加し、混合してガス吸着スラリーを調製した。このガス吸着スラリーは、集電体に負極を作成した後に、当該集電体の負極側の外周部に塗布、乾燥してガス吸着層(活性炭)41を形成した。該ガス吸着層(活性炭)41は、幅W5mm、厚さH30μmで、負極15とシール部31との間の外周部全体にいわば額縁状に形成した(図4参照)。また、該ガス吸着層(活性炭)41の空孔率は40%であった。
【0168】
さらに、実施例8の電極は、負極側のハードカーボン電極部をガスだまり部に図5のように延長した負極を作成した。これにより、実施例7と同様に、ガスだまり部35に負極材料で形成されたガス吸着層(負極カーボン材料)41を形成した。ガス吸着層(負極カーボン材料)41は、幅W5mm、厚さH30μmで、負極15とシール部31との間の外周部全体にいわば額縁状に形成した(図5参照)。また、該ガス吸着層(負極カーボン材料)41の空孔率は40%であった。また、電極−電解質層対向部33の面積X(cm)は、実施例1〜8及び比較例1のいずれも84cmであり、前記ガスだまり部35の1辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積B(cm)との間で、実施例1〜6では10cm−1≦(X/B)≦10cm−1の関係を満足するものであった。また、実施例7〜8でも10cm−1≦(X/B)≦10cm−1の関係を満足するものであった。一方、比較例1は、B=0cmであり、上記関係式に該当しないものであった。
【0169】
<電池要素(電池構造体)の作製>
上記で得られたゲル電解質層を載せた双極型電極をそれぞれ6枚真空密封しつつ、正極(活物質層)と負極(活物質層)がゲル電解質層を挟んで対向するように順次積層し、熱プレス機により面圧1kg/cm、80℃で1時間熱プレスすることにより、未硬化のシール部前駆体(1液性未硬化エポキシ樹脂)を硬化した。この工程によりシール部31を所定の厚みまでプレス、さらに硬化を行うことで単電池層(単セル)が5セル積層され、さらに真空密封を行うことで、ガスだまり部を含めたシール部の内側全体を真空状態で密封された実施例1〜実施例8及び比較例1の5直(5セル直列)構造の積層型の扁平な双極型リチウムイオン二次電池の電池要素(電池構造体)21を作成した(図1、図2、図4、図5、図7A,Bなど参照のこと。)。当該作製工程では、双極型電極6枚とゲル電解質層5枚を順次積層後、減圧(真空)にしてガスだまり部内のガスを排出しながら、熱プレス機により面圧1kg/cm、80℃で1時間熱プレスすることにより、未硬化のシール部前駆体(1液性未硬化エポキシ樹脂)を硬化した。これにより、シール部で密封されたガスだまり部の内部が減圧(真空)状態になった電池要素(電池構造体)21を形成することができた。
【0170】
<電極タブの取り付け>
得られた電池要素(電池構造体)21の電池最外部の単電池層19の集電体11a、11bに正極タブ25及び負極タブ27を配設した。電池最外部の単電池層19の集電体11a、11bに取り付けるタブ25、27には幅80mm、厚み150μmでアルミニウム製のものをそれぞれ使用し、カーボン系導電性接着剤で接着した。
【0171】
<積層型の双極型リチウムイオン二次電池(初回充電・ガス排出前のもの)の作製>
次いで、この電極タブが取り付けられた電池要素(電池構造体)21をアルミラミネートの電池外装材29を用い真空密封し、外周を熱融着によってシールし、5直構造の積層型の扁平な双極型リチウムイオン二次電池(初回充電・ガス抜き前のもの)を製造した(図7参照)。以上が、従来の双極型二次電池の製造方法の全工程にあたるものであるが、本発明の双極型二次電池の製造方法では、先に説明した双極型二次電池の作製工程(I)に該当するものである。
【0172】
(II)初回充電工程
初回充電工程では、前記工程(I)で得られた実施例1〜8及び比較例1の双極型二次電池に、以下の条件で初回充電を行った。
【0173】
実施例1〜8、比較例1の双極型二次電池を0.5Cの電流で21Vまで定電流充電(CC)し、その後定電圧で充電(CV)し、あわせて5時間充電した。比較例1の双極型二次電池に関しては、ここで、双極型二次電池の製造方法を終了(完了)した。
【0174】
(III)ガス排出工程
ガス排出工程では、前記工程(II)を行った後の実施例1〜8の双極型二次電池のガスだまり部に工程(II)で発生したガスを排出するものである。
【0175】
詳しくは、前記(II)の工程後の双極型二次電池の電池については、図6に示すように、ガスだまり部35に向けてロールプレス(80℃、線圧12kg/cm)でガス抜き(工程(II)で発生したガスの排出)を行い、双極型二次電池の製造方法を完了した。
【0176】
上記により得られた実施例1〜8、比較例1の双極型二次電池のガスだまり部の空孔体積B、その他の辺の最大空孔体積A、電池体積の割合を下記表1にまとめて示す。表1中のBの体積は、双極型二次電池の1辺に設けられた単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電で発生したガスのたまり部35の空孔体積をいい、表1中のAの体積は、ガスのたまり部35の1辺以外の、残りの3辺の電極−電解質層対向部33とシール部31間の空孔体積の中で一番大きい空孔体積をいう(図7A,B参照)。
【0177】
【表1】

【0178】
<評価>
1.外観目視評価
双極型二次電池の見た目(外観目視)は、実施例1〜8の双極型二次電池ではほとんど変わっていなかったが、比較例1の双極型二次電池は、初回充電工程(II)でのガスの発生により電極部分にガスによる気泡による膨らみ(最大で1mm程度)が観察された。
【0179】
2.初回放電による容量(電池性能)評価
上記工程(III)まで行って得られた実施例1〜8及び工程(II)まで行って得られた比較例1の双極型二次電池を、いずれも0.5Cの電流で12.5Vまで放電を行い、初回放電を行った。その結果、実施例1〜8の双極型二次電池では、電池の設計容量値で放電したのに対し、比較例1の双極型二次電池では放電容量が設計容量値の2/3となっていた。したがって、初回充電で発生したガスを排出し、ためてなるガスだまり部35を有していない比較例1の従来型の双極型二次電池では、初回充電で発生した気泡が電極間に残されたまま排出されることがないため、かかる気泡に起因して電極間におけるイオン移動が阻害される(=反応面積が低下する)ことで電池性能が大きく低下することがわかった。
【0180】
3.電池抵抗測定による出力性能評価
実施例1〜8の電池抵抗測定(一定の電流を流し、5秒後の電圧降下から測定)を行ったところ、各電池の性能差は見られなかった。したがって、同じ抵抗の電池の出力密度というのは電池体積が小さい方が高くなるため体積が小さいものの方が性能が良いということになる。
【0181】
したがって、実施例1〜6の双極型二次電池については、体積がガスだまり部35の空孔体積Bに対するその他の3辺の空孔体積Aの体積が小さいため、出力性能は向上する結果となった。即ち、出力性能は、実施例1<実施例2<実施例3<実施例4<実施例5<実施例6(=これらの中でもっと良い)という結果になった(即ち、表1の電池体積の割合と符合する結果となった。)。
【0182】
また、実施例7、8の双極型二次電池では、ガス吸着材料を用いることでガスだまり部35のガス吸着能力が上がり、当該ガスだまり部35の空孔体積Bを低減することが可能になることがわかった。そのため、出力性能は、実施例6<実施例7=実施例8となり、実施例6よりもさらに出力性能は向上する結果となった。さらに、実施例8のようにガスだまり部にまで負極を延長することで、当該負極カーボン材料自体がガス吸着材料となり、負極14をガスだまり部全面、即ちシール部31まで塗布しておくことで簡単にガス吸着層41を構成することが可能となる。これにより製造方法が大幅に簡略化できた。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明の双極型二次電池の代表的な一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図2A】本発明の双極型二次電池の単電池層の1辺のみに、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガスのたまり部が設けられてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図2B】従来の双極型二次電池のシール部と電極−電解質層対向部の配置構成の様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図3A】図3は、本発明の双極型二次電池の単電池層の1辺のみに、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電(とりわけ初回充放電)で発生したガスのたまり部が設けられてなる様子を模式的に表した図面である。このうち、図3Aは、双極型二次電池内の単電池層(但し、集電体は図示せず、省略している)の平面概略図である。
【図3B】図3AのB−B線断面のうち、シール部と、電極−電解質層対向部との配置構成、およびこれらの間に形成されるガスのたまり部の構成(図2Aとは異なる他の構成)の一例を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図3C】図3AのB−B線断面のうち、シール部と、電極−電解質層対向部との配置構成、およびこれらの間に形成されるガスのたまり部の構成(図2Aとは異なる他の構成)の他の一例を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図3D】図3AのB−B線断面のうち、シール部と、電極−電解質層対向部との配置構成、およびこれらの間に形成されるガスのたまり部の構成(図2Aとは異なる他の構成)のさらに他の一例を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図4】本発明の双極型二次電池の他の実施形態として、ガスだまり部の一部にガス吸着材料として活性炭を用いたガス吸着層が設置されてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図5】本発明の双極型二次電池の他の実施形態として、ガスだまり部の一部にガス吸着材料として炭素材料を主体とする負極材料を用いたガス吸着層が設置されてなる様子を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図6A】本発明の双極型二次電池の製造方法における、ガスだまり部にガスを排出する工程を行う際の様子を模式的に表した平面概略図である。
【図6B】図6AのB−B線断面のうち、ガスたまり部近傍を模式的に表した、双極型二次電池内の任意の単電池層の部分断面概略図である。
【図7】本発明に係る双極型二次電池の代表的な実施形態である積層型の扁平な双極型二次電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図8】本発明に係る双極型二次電池モジュールの代表的な実施形態を模式的に表した外観図であって、図8Aは双極型二次電池モジュールの平面図であり、図8Bは双極型二次電池モジュールの正面図であり、図8Cは双極型二次電池モジュールの側面図である。
【図9】本発明の双極型二次電池モジュールを搭載した車両の概念図である。
【図10A】本発明の双極型二次電極の正極周辺部へのシール部前駆体の塗布位置を変えることにより、実施例1〜8の空孔体積Bを有するガスだまり部が形成されてなる双極型電極の様子を模式的に表した平面概略図である。
【図10B】本発明の双極型二次電極の正極周辺部へのシール部前駆体の塗布位置を変えることにより、ガスだまり部が形成されていない比較例1の双極型電極の様子を模式的に表した平面概略図である。
【符号の説明】
【0184】
10 双極型二次電池、
11 集電体、
11a 正極側の最外層集電体、
11b 負極側の最外層集電体、
13 正極(正極活物質層)、
15 負極(負極活物質層)、
16、16a、16b 双極型電極、
17 電解質層(ゲル電解質層)、
17a セパレータ(電解質未塗布部分)、
19 単電池層(=電池単位ないし単セル)、
21 電池要素(電池構造体)、
25 正極タブ、
27 負極タブ、
29 電池外装材(たとえばラミネートフィルム)、
31 シール部、
31a シール部前駆体(1液性未硬化エポキシ樹脂)、
33 電極−電解質層対向部、
35 ガスのたまり(ガスだまり部)、
37 主に初回充電時に発生したガス(気泡)、
41 ガス吸着層(ガス吸着材料)、
61 基盤、
63 ローラプレス機、
250 装脱着可能な小型の双極型二次電池モジュール、
300 双極型二次電池モジュール、
310 接続治具、
400 電気自動車。
【0185】
B ガスだまり部の1辺の電極−電解質対向部とシール部間の空孔体積、
A ガスだまり部の1辺以外の他の3辺の電極−電解質層対向部とシール部間の空孔体積の中で一番大きい空孔体積、
X ガスだまり部側の辺、
Y ガスだまり部側の辺に対向する辺。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成された双極型電極と、
前記正極と前記負極の間に挟まれた電解質層と、
前記電解質層からの電解質の漏れを防止するために周辺部に配置されたシール部と、
を複数枚直列に積層した双極型二次電池において、
各単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質層対向部との間に充放電で発生したガスのたまり部(以下、ガスだまり部ともいう)を有することを特徴とする双極型二次電池。
【請求項2】
前記ガスだまり部が、各単電池層の1辺に、シール部と電極−電解質層対向部との間に初回充電で発生したガスを排出し、ためてなるものである請求項1に記載の双極型二次電池。
【請求項3】
前記ガスだまり部の1辺の電極−電解質層対向部とシール部間の空孔体積をBとし、他の3辺の電極−電解質層対向部とシール部間の空孔体積をAとしたときに、A<Bを満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の双極型二次電池。
【請求項4】
前記Aは前記Bに対して1/2以下であることを特徴とする請求項3に記載の双極型二次電池。
【請求項5】
前記Aが0であることを特徴とする請求項3または4に記載の双極型二次電池。
【請求項6】
前記ガスだまり部にガス吸着材料が設置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項7】
前記ガス吸着材料は炭素材料を主体とする負極材料であることを特徴とする請求項6に記載の双極型二次電池。
【請求項8】
前記電極−電解質層対向部の面積をX(cm)としたとき、前記ガスだまり部の1辺の電極−電解質層対向部とシール部間の空孔体積B(cm)との間で、10cm−1≦(X/B)≦10cm−1の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項9】
電流取り出し用の高導電性タブにより少なくても正極および負極末端極の電極すべてを覆って構成される請求項1〜8のいずれか1項に記載の双極型二次電池モジュール。
【請求項10】
前記集電体が、Feを主成分とし、Cr、Niを合金化したステンレスであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項11】
前記集電体が、高分子材料を主成分とする導電性高分子膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項12】
前記電解質に固体電解質を用いることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項13】
正極活物質としてリチウム−遷移金属複合酸化物を用い、負極活物質としてカーボンもしくはリチウム−遷移金属複合酸化物を用いたことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の双極型二次電池。
【請求項14】
前記請求項1〜13のいずれかに記載の双極型二次電池の製造法方法であって、
前記双極型電極と、前記正極と前記負極の間に挟まれた電解質層と、前記電解質層ないし双極型電極からの電解質の漏れを防止するために単電池層の周辺部に配置されるシール部と、を複数枚直列に積層することにより双極型二次電池を作製する工程と、
前記双極型二次電池に初回充電を行う工程と、
前記双極型二次電池のガスだまり部にガスを排出する工程と、により製造された双極型二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記ガスだまり部にガスを排出する工程が、双極型二次電池にロールプレスをかけることによりなされるものであることを特徴とする請求項14に記載の双極型燃料電池の製造方法。
【請求項16】
双極型二次電池を作製する工程において、未硬化のシール部の一部が形成された双極型電極と、未硬化のシール部の残部が形成された電解質層と、を複数枚直列に積層する際に、真空ないし減圧密封しながら熱プレスして、未硬化のシール部の硬化と、シール部内部の真空ないし減圧密封とを行うことを特徴とする請求項14または15に記載の双極型燃料電池の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の双極型二次電池を少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されることを特徴とする双極型二次電池モジュール。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれかに記載の双極型二次電池および/または請求項17に記載のモジュールを駆動用電源として搭載した車両。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2008−97940(P2008−97940A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276866(P2006−276866)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】