説明

可変容量ターボチャージャ及びその製造方法

【課題】摺動部の摩耗が生じても異常摩耗を防止できる可変容量ターボチャージャ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タービン21のノズルベーン30の翼角度を調整するノズル翼角度調整リング32とそのノズル翼角度調整リング32を回転するクランクレバー33をタービンハウジング26外に備えた可変容量ターボチャージャにおいて、ノズル翼角度調整リング32の溝32aとクランクレバー33との係合部に、シリコン樹脂中に二硫化タングステン粒子とグラファイトと三酸化アンチモンを分散させた皮膜10を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンに翼角度可変のノズルベーンを備えた可変容量ターボチャージャに係り、特にそのノズルベーンの翼角度を調整するノズル翼角度調整リングの耐摩耗性を向上させた可変容量ターボチャージャ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ディーゼルエンジンには、ターボチャージャが装着されているが、一般的には固定容量(コンベンショナル)のターボチャージャが使われている、しかし、2011年より規制が強化される北米や欧州の規格に適用するために、固定容量に代えて、可変容量ターボチャージャ(VNT、VGTと呼ばれている)の採用が決定されている。
【0003】
この車両用ディーゼルエンジンに装着される従来の可変容量ターボチャージャは、特許文献1,2に示されるようにタービン側にノズルベーンを設けて排ガス流量を制御するもので、これを図5〜図7により説明する。
【0004】
図7に示すように可変容量ターボチャージャ20は、タービン21とコンプレッサ22をベアリングハウジング29で連結し、そのタービン21にタービン容量可変機構24が設けられて構成される。
【0005】
タービン21は、タービンインペラ25と、タービンインペラ25を囲み、排ガスが導入されるタービンハウジング26とからなり、コンプレッサ22は、コンプレッサインペラ27と、コンプレッサインペラ27を囲み、吸気が導入されるコンプレッサハウジング28とからなる。タービンインペラ25とコンプレッサインペラ27とはターボ軸23で連結され、ターボ軸23がベアリングハウジング29内に収容されると共にベアリングハウジング29内に設けた軸受部(図示せず)で軸承される。
【0006】
タービン容量可変機構24は、図5〜図7に示すように、タービンハウジング26のノズルスロート部26aの円周方向に沿って適宜間隔で翼角度可変に設けられた多数のノズルベーン30と、これらノズルベーン30をリンクプレート31を介して連結されたノズル翼角度調整リング32と、そのノズル翼角度調整リング32の溝32aに係合し、ノズル翼角度調整リング32を回動するためのクランクレバー33と、そのクランクレバー33に連結され、タービンハウジング26外に延出されるクランク軸34と、その延出されたクランク軸34に連結され、クランク軸34を回転するためのコントロールリンク35と、そのコントロールリンク35を駆動するモータからなる駆動装置36とからなる。
【0007】
コントロールリンク35は、図6に示すように、駆動装置36に連結された第1駆動レバー37と、クランク軸34に連結された第2駆動レバー38と第1及び第2駆動レバー37、38を連結するリンクピン39a、39bを備えたコントロールロッド40とからなる。
【0008】
このタービン容量可変機構24によるノズルベーン30の翼角度調整は、図7に示すように、駆動装置36が所定角度回転することで、コントロールロッド40が往復移動し、これによりクランク軸34が所定角度回転すると共にクランクレバー33が回動して、ノズル翼角度調整リング32が所定角度回転し、これにより、リンクプレート31を介してノズルベーン30の翼角度が調整され、タービンハウジング26からノズルスロート部26aを介してタービンインペラ25に流入する排ガスの流入角とその容量が調整されることで、タービンインペラ25の回転速度を可変することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−296053号公報
【特許文献2】特開2004−270472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ノズル翼角度調整リング32は、タービンハウジング26外に設けられるものの、タービンハウジング26の外側雰囲気でも300℃以上の高温に晒されるため、潤滑油による潤滑は不可能であり、ノズル翼角度調整リング32の溝32aと、ノズル翼角度調整リング32を回動するためのクランクレバー33との摺動部は、摩擦抵抗が大きくなる問題がある。特にこの摺動部の部分は、内部にある排ガス導入量の絞り量を調整する多数のノズルベーン30に働く合力が働くため、接触応力が高くなる。
【0011】
従来は、ノズル翼角度調整リング32とクランクレバー33をSUSで形成し、その摺動面をクロマイズ処理(クロム元素により表面硬化処理)或いは硬化処理として、窒化処理、DLCコーティング(ダイアモンド・ライク・コーティング)、トリバロイT400合金(登録商標)、ハステロイ(登録商標)などを用いることが提案されている。
【0012】
しかしながら、材料強度を強化しても、高温環境で使用されるため機械的摩擦が避けられず、異常摩耗を防ぐことはできない問題がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、摺動部の摩耗が生じても異常摩耗を防止できる可変容量ターボチャージャ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、タービンのノズルベーンの翼角度を調整するノズル翼角度調整リングとそのノズル翼角度調整リングを回転するクランクレバーをタービンハウジング外に備えた可変容量ターボチャージャにおいて、ノズル翼角度調整リングの溝とクランクレバーとの係合部に、シリコン樹脂中に二硫化タングステン粒子とグラファイトと三酸化アンチモンを分散させた皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャである。
【0015】
請求項2の発明は、タービンのノズルベーンの翼角度を調整するノズル翼角度調整リングとそのノズル翼角度調整リングを回転するクランクレバーをタービンハウジング外に備えた可変容量ターボチャージャの製造方法において、シリコン樹脂を40〜50質量部、二硫化タングステン粒子を30〜40質量部 、グラファイトを6〜10質量部、三酸化アンチモンを10〜20質量部とし、これにバインダを加え、これをノズル翼角度調整リングの溝とクランクレバーの摺動面に塗布した後乾燥させ、これを数回繰り返し、皮膜厚さを30±10μmにした後、これを焼成して皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャの製造方法である。
【0016】
請求項3の発明は、前記摺動面の外周面にクロマイズ処理又は窒化処理を行った後、前記皮膜を形成した請求項2記載の可変容量ターボチャージャの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、摺動面に、シリコン樹脂中に、二硫化タングステンとグラファイトと三酸化アンチモンを分散させた皮膜を形成することで、高温環境であっても摺動性が高く耐摩耗性に優れたノズル翼角度調整リング構造を備えた可変容量ターボチャージャとすることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の可変容量ターボチャージャのノズル翼角度調整リング構造の一実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の可変容量ターボチャージャのノズル翼角度調整リング構造の摺動面に形成した皮膜の耐摩耗性と摺動性を説明する図である。
【図3】本発明と従来例における耐摩耗試験結果を示す図である。
【図4】従来における摺動面の摩耗を説明する図である。
【図5】可変容量ターボチャージャのノズルベーンとノズル翼角度調整リング構造の詳細を示す斜視図である。
【図6】可変容量ターボチャージャのコントロールリンクの詳細を示す斜視図である。
【図7】可変容量ターボチャージャの全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
先ず、可変容量ターボチャージャの基本的構成は、図5〜図7で説明したとおりであり、その詳細な説明は省略する。
【0021】
さて、図1は、本発明の可変容量ターボチャージャのノズル翼角度調整リング構造を示したものであり、図1(a)はノズル翼角度調整リング構造の全体斜視図、図1(b)はノズル翼角度調整リング32の要部斜視図を、図1(c)は、クランクレバー33の要部斜視図を示したものである。
【0022】
図1(b)に示すようにノズル翼角度調整リング32には、クランクレバー33に係合する溝32aが形成される。図1(c)に示すようにクランクレバー33は、ノズル翼角度調整リング32の溝32aに係合する係合ピン33aと、クランク軸34(図6、図7)に連結されるボス部33bを有する。
【0023】
本発明においては、ノズル翼角度調整リング32の溝32aの内面と、クランクレバー33の係合ピン33aの外周の双方の摺動面、又はいずれか一方の摺動面に、耐摩耗性と自己潤滑性を有する皮膜10を形成したものである。
【0024】
またこれら摺動面は、皮膜形成前に、クロマイズ処理や窒化処理を施され、その硬化層の外周面に皮膜10が形成される。
【0025】
この皮膜10の成分は、
(A)シリコン樹脂 40〜50質量部
(B)二硫化タングステン粒子 30〜40質量部
(C)グラファイト 6〜10質量部
(D)三酸化アンチモン 10〜20質量部
からなる。
【0026】
(A)シリコン樹脂としては、ポリシロキサン結合(Si−O−Si)を主骨格にもち、耐熱温度300℃を超える耐熱性があるもので、重合度の低いものを用いる。
【0027】
(B)二硫化タングステン粒子は、自己潤滑性に優れた粒子であり、平均粒径は1〜2μmのものを用いる。
【0028】
(C)グラファイトとしては、自己潤滑性に優れると共に、摩耗して皮膜から剥離しても潤滑性を有するので好ましく、平均粒径は1〜2μmのものを用いる。
【0029】
(D)三酸化アンチモンは、潤滑補助剤として、また耐摩耗性を向上剤として加えるものである。
【0030】
この(A)〜(D)の成分に無機バインダを加えて皮膜形成樹脂とする。
【0031】
この皮膜形成樹脂をスプレー塗装等にて摺動面(溝32aの内面、係合ピン33aの外周面)にコーティング膜を形成した後、70〜90℃で20分以上加熱乾燥する。このスプレー塗装と乾燥を3〜5回繰り返し、最終的に30±10μm、好ましくは30μm厚さのコーティング膜を形成した後、230℃±10℃で60分焼き付けてコーティング膜を焼成することで皮膜10を形成する。
【0032】
この皮膜10の特性は、
摩擦係数 0.06(代表値)
碁盤目テスト 100/100(JIS K 5400)
鉛筆硬度 5H
耐熱性 約600℃×30分加熱した後も変化なし
であった。
【0033】
また、溝32aの内面、係合ピン33aの外周面、クロマイズ処理または窒化処理などの硬化処理後に塗装するが、硬化層をサンドブラスト処理して表面を粗面化した後、塗装を行うようにするとよい。
【0034】
次に皮膜10の作用を説明する。
【0035】
先ず、図4は、皮膜を形成していない従来のノズル翼角度調整リング32の溝32aの内周面とクランクレバー33の係合ピン33aの外周面の状態を示している。
【0036】
この従来例においては、溝32a(或いは係合ピン33a)の表面は窒化処理をしていてもミクロンオーダの加工荒さが残っており、摺動面が均一に接している状態にはならず、図4(a)に示すように、最大高さとなる頂部が内周面に点接触した状態にある。従って、図4(a)の状態で摩擦や振動等による接触応力が高いと、点接触した部分32pからミクロの破壊が発生し、図4(b)に示すように接触部が欠け落ちて破損片32Bとなって摺動面から消失し、その後、順次高い部分32pの接触と破壊が発生し、通常摩擦とは異なり急速に摩耗が進行してしまい、表面硬化処理した硬化層が消失してしまうことがわかった。
【0037】
これに対して、本発明は、皮膜10を形成することで、上述した異常摩耗を防止できるようにしたものである。
【0038】
これを図2により説明する。
【0039】
図2は、溝32a(又は係合ピン33a)に形成した皮膜10の断面を拡大した模式図を示している。
【0040】
先ず図2(a)に示すように皮膜10の形成直後は、シリコン樹脂11A中に、二硫化タングステン粒子11Bとグラファイト11Cが分散した状態の皮膜10が形成された溝32a(又は係合ピン33a)となり、この状態で、係合ピン33a(又は溝32a)の内周面と接した状態となる。
【0041】
このように皮膜10中に二硫化タングステン粒子11Bとグラファイト11Cを含むことで、摺動面の摺動性は高温下でも良好となる。
【0042】
次に、図2(b)に示すように、皮膜10が、使用中に摩耗により二硫化タングステン粒子11Bとグラファイト11Cが順次摺動面から放出され、緩やかに摩耗する。
【0043】
さらに図2(c)に示すように摩耗が進行すると、シリコン樹脂11Aから溝32a(又は係合ピン33a)の表面の高い部分32p(又は33p)が露出し始めるが、二硫化タングステン粒子11Bとグラファイト11Cが固体潤滑剤であるため、図4で説明したような破壊脱落ではなく緩やかな接触摩耗が進行し、順次露出した部分の微少摩耗が発生し、最終的には、図2(d)に示すように全体がラッピングで磨かれたような鏡面32M(又は33M)の状態となり、局部で接触力を支えることなく面接触となるため、その摩耗速度を劇的に改善することができる。
【0044】
また、組立初期に上記のような鏡面状の仕上げ加工は、切削加工+研磨+ラッピングにより技術的には可能であるが、組立時の姿勢誤差、相手部品のばらつきを考えると接触姿勢を含み面接触の実現は困難である。
【0045】
またマッチング研磨といった方法も存在するが、ノズル翼角度調整リング32とクランクレバー33のように多数の部品を組み合わせた状態で実施するのはやはり困難である。
【0046】
このように、本発明は、ノズル翼角度調整リング32の溝32aとクランクレバー33の係合ピン33aの摺動面にシリコン樹脂からなる皮膜10を形成し、その皮膜10が摩耗しても、シリコン樹脂に分散させた二硫化タングステンやグラファイトが固体潤滑材となって、表面荒さの不具合を解消し最終的には摺動面を鏡面加工した状態とすることができる。
【0047】
次に、図3により本発明と従来例のノズル翼角度調整リング32とクランクレバー33を用いて実際に加速リグ試験での寿命試験を行った結果を説明する。この際振動入口はターボ取付部である翼角度調整リング32側から行った。
【0048】
図3において、本発明と従来例では、ノズル翼角度調整リング32とクランクレバー33は、共にSUSで、その摺動面にはベースのSUS+窒化処理(処理層はおおよそ50μmのもので評価)し、本発明では、窒化理後に皮膜を形成し、従来例ではコーティングレスとした。
【0049】
この結果、従来例では、摩耗寿命は、寿命時摩耗量が0.3289(mm)で、寿命時間は789(hr)であるのに対し、本発明では寿命時摩耗量が0.3289(mm)で、寿命時間は、2691(hr)と摩耗時妙は3.4倍延命できることが確認された。
【0050】
また図3より、本発明では、初期摩耗速度が大幅に低減され、定常摩耗速度は従来例に比べて約1/3と改善できることがわかった。
【符号の説明】
【0051】
10 皮膜
24 タービン容量可変機構
30 ノズルベーン
32 ノズル翼角度調整リング
32a 溝
33 クランクレバー
33a 係合ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンのノズルベーンの翼角度を調整するノズル翼角度調整リングとそのノズル翼角度調整リングを回転するクランクレバーをタービンハウジング外に備えた可変容量ターボチャージャにおいて、ノズル翼角度調整リングの溝とクランクレバーとの係合部に、シリコン樹脂中に二硫化タングステン粒子とグラファイトと三酸化アンチモンを分散させた皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャ。
【請求項2】
タービンのノズルベーンの翼角度を調整するノズル翼角度調整リングとそのノズル翼角度調整リングを回転するクランクレバーをタービンハウジング外に備えた可変容量ターボチャージャの製造方法において、シリコン樹脂を40〜50質量部、二硫化タングステン粒子を30〜40質量部 、グラファイトを6〜10質量部、三酸化アンチモンを10〜20質量部とし、これにバインダを加え、これをノズル翼角度調整リングの溝とクランクレバーの摺動面に塗布した後乾燥させ、これを数回繰り返し、皮膜厚さを30±10μmにした後、これを焼成して皮膜を形成したことを特徴とする可変容量ターボチャージャの製造方法。
【請求項3】
前記摺動面の外周面にクロマイズ処理又は窒化処理を行った後、前記皮膜を形成した請求項2記載の可変容量ターボチャージャの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−149612(P2012−149612A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10299(P2011−10299)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】