説明

合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及び合成樹脂製コイルスプリングの中間物並びに合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型

【課題】コイルスプリングのピッチ間を保護樹脂部によって連結することにより、ピッチ間寸法を所定寸法になすことができる合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及びコイルスプリングの中間物並びに合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型を提供することを目的とするものである。
【解決手段】本発明にかかる合成樹脂製コイルスプリングの中間物は、コイルスプリングのピッチ間に形成された保護樹脂部S2と、コイルスプリングの径方向外側に対向して、軸線方向に沿って形成された一対の縦方向ランナー樹脂部S4と、前記保護樹脂部と縦方向ランナー樹脂部とを接続する横方向ランナー樹脂部S3と、前記縦方向ランナー樹脂部S4の何れか一方に接続された主ランナー樹脂部S5とを少なくとも備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及び合成樹脂製コイルスプリングの中間物並びに合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型に関し、特に成型時における歪み等の変形を抑制することができる合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及び合成樹脂製コイルスプリングの中間物並びに合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における合成樹脂製スプリングの製造方法としては、例えば、実開平5−53922号公報に示す製造方法が知られている。この製造方法は、ゲートを交差式板ばねの端部(結合部)に設け、ゲートを介して金型内に溶融合成樹脂を注入し、溶融合成樹脂が固化してから成形品を金型より取り出し、その後、ゲート部分を切断し、交差式板ばねを製造するものである。
【0003】
また、コイルスプリングの場合も同様に、ゲートをコイルスプリングの端部に設け、ゲートを介して金型内に溶融合成樹脂注入し、溶融合成樹脂が固化してから成形品を金型より取り出し、その後、ゲート部分を切断し、コイルスプリングを製造することが知られている。
【0004】
このコイルスプリングの製造方法について図5に基づいて説明する。
この図5に示す符号10は金型であって、この金型10は分割可能に構成されている。この図5に示された金型は、分割可能な金型のうち一方の金型であって、他方の金型は一の金型と同様な形状に形成され、以下に述べるように組み合わされることにより、キャビティー、ランナーが形成されるように構成されている。
即ち、分割された金型(図5に示す金型と図示しない金型)が合体することにより、前記金型10内にコイルスプリングを形成するための螺旋状のキャビティーaが形成される。
また前記キャビティーaに対してゲートbを介してランナーcが設けられ、更にこのライナーcに外部から溶融樹脂を注入するスプールdが設けられている。
【0005】
また、前記金型10内の前記螺旋状のキャビティーaの中央部には、センターピン1が配置され、このセンターピン1は螺旋状のキャビティーaの軸線方向に挿入可能に構成されている。尚、螺旋状のキャビティーaの中央部にセンターピン1が配置された状態で、前記キャビティーaは成形するコイルスプリングの形状に対応した空間を形成する。
【0006】
また、前記センターピン1の基端部は基台2に固定されると共に、センターピン1の他端側は基台2上に設けられた移動プレート4を挿通し、前記したように螺旋状のキャビティーaに挿入、配置される。
更に、前記移動プレート4は突出しピン3により、センターピン1の軸線方向に移動可能に構成され、この移動プレート4が突出しピン3により押出されることにより、移動プレート4上に突出しているセンターピン1の長さを短くするように構成されている。
【0007】
次にコイルスプリングの製造方法について説明する。
先ず、スプールdから溶融合成樹脂が注入されるとライナーc、ゲートbを介して中央にセンターピン1が差し込まれているキャビティーa内に、合成樹脂が注入される。
この溶融樹脂の注入後、所定時間が経過した後に、金型を上下に分割し、更に前記移動プレート4を突き出しピン3によって前方(矢視方向)に押し出す。これによって、ゲートb、ランナーc、スプールdが付いた成形品であるコイルスプリング中間物が金型から取り出される。
更にその後、前記コイルスプリング中間物のゲートbの部分から切断することでコイルスプリングを得ることができる。
【特許文献1】実開平5−53922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来におけるコイルスプリングの製造方法にあっては、前記したように移動プレートを突出しピンによって前方に押し出すことにより、ゲート、ランナー、スプールが付いている成形品である中間物を金型から取り出している。
この際、螺旋状のキャビティーによって成形されたコイルスプリングの内周面とセンターピン1の外周面とが圧接状態(密着状態)となっているため、前記圧接状態に抗して突出しピンを抜くと、コイルスプリングに歪み等の変形が生じ、ピッチ間寸法を所定の設計寸法になすことができないという課題があった。更に言えば、所定のピッチ間寸法が得られないため、所定のバネ力が得られないといった課題があった。
【0009】
本発明は前記した問題点を解決したものであり、コイルスプリングのピッチ間を保護樹脂部によって連結することにより、ピッチ間寸法を所定寸法になすことができる合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及びコイルスプリングの中間物並びに合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかる合成樹脂製コイルスプリングの製造方法は、センターピンによって、コイルスプリングの形状に対応した螺旋状のキャビティーが形成されると共に、前記キャビティーの螺旋のピッチ間を接続する保護ランナーが少なくとも形成された金型内に、溶融合成樹脂を注入し、コイルスプリングを成形する工程と、前記工程の後、成形されたコイルスプリングを押し出して、センターピンより取外す工程と、前記工程の後、成形されたコイルスプリングのピッチ間を接続している前記保護ランナーの保護樹脂部を切断して、コイルスプリングを得る工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
このように成形されたコイルスプリングのピッチ間には保護樹脂部が形成されるため、成形されたコイルスプリングを押し出して、センターピンより取外す際、コイルスプリングの内周面とセンターピンの外周面とが圧接状態(密着状態)であっても、歪み等の変形が抑制される。
その結果、コイルスプリングのピッチ間寸法を所定の設計寸法になすことができ、所定のバネ力を有するコイルスプリングを得ることができる。
【0012】
ここで、前記保護ランナーは、前記キャビティーの螺旋の全ピッチ間に形成され、成形されたコイルスプリングの各ピッチ間は保護樹脂部によって連結されていることが望ましい。
このように、コイルスプリングの各ピッチ間は保護樹脂部によって連結されているため、コイルスプリングの歪み等の変形がより抑制される。また保護ランナーは、前記キャビティーの螺旋の全ピッチ間に形成されているため、溶融合成樹脂を均一にキャビティー内に注入することできる。
【0013】
また、上記目的を達成するためになされた本発明にかかる合成樹脂製コイルスプリングの中間物は、コイルスプリングのピッチ間に形成された保護樹脂部と、コイルスプリングの径方向外側に対向して、軸線方向に沿って形成された一対の縦方向ランナー樹脂部と、前記保護樹脂部と縦方向ランナー樹脂部とを接続する横方向ランナー樹脂部と、前記縦方向ランナー樹脂部の何れか一方に接続された主ランナー樹脂部とを少なくとも備えることを特徴としている。
【0014】
このように、成形された合成樹脂製コイルスプリングの中間物は、コイルスプリングのピッチ間に形成された保護樹脂部を備えるため、この中間物を金型から取外す際の歪み等の変形を抑制することができ、コイルスプリングのピッチ間寸法を所定の設計寸法になすことができ、所定のバネ力を有するコイルスプリングを得ることができる。
【0015】
更に、上記目的を達成するためになされた本発明にかかる合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型は、合成樹脂製コイルスプリングを製造するための金型であって、センターピンによって、コイルスプリングの形状に対応した螺旋状の空間に形成されるキャビティーと、前記キャビティーの螺旋のピッチ間を接続する保護ランナーとを少なくとも備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コイルスプリングのピッチ間を保護樹脂部によって連結することにより、ピッチ間寸法を所定寸法になすことができる合成樹脂製コイルスプリングの製造方法及びコイルスプリングの中間物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る合成樹脂製コイルスプリングの製造方法を図1〜4に基づいて説明する。尚、図1は分割可能に形成された金型の一方の金型を示す平面図、図2は成形後、分割可能な金型のうち一方の金型を取除いた状態の平面図、図3はコイルスプリングの中間物を示す平面図、図4はコイルスプリングを示す平面図である。
【0018】
本発明における金型は、従来の金型と同様に分割可能に構成され、分割された金型5が合体することにより、前記金型内に、コイルスプリングを形成するための螺旋状のキャビティー52が形成される。
この金型5には、図1に示すように、センターピン1を挿入するための半円状のセンターピン用孔51が設けられている。
【0019】
また、このセンターピン用孔51の軸線方向に沿って形成されたコイルスプリングを形成するための螺旋状のキャビティー52と、前記螺旋状キャビティー52のピッチ間を接続するための保護ランナー53が設けられている。
更に、この保護ランナー53に接続され、横方向(螺旋状溝キャビティー52の外側方向)に延設された横方向ランナー54と、前記横方向ランナー54に接続され、縦方向(センターピン用孔51の軸線方向)に延設された縦方向ランナー55が設けられている。この縦方向ランナー55は、螺旋状キャビティー52の径方向外側に対向して、センターピン用孔51の軸線方向に沿って一対形成されている。
また、前記縦方向ランナー55に接続された主ランナー56が設けられ、この主ランナー56は、金型内に溶融合成樹脂を供給するためのスプール(図示せず)に接続されている。
【0020】
そして、基台2に移動プレート4を当接させた状態で、前記した構成を有する金型5を付き合わせると共に、前記センターピン1をセンターピン用孔51内に挿入する。このようにセンターピン1が挿入されることで、螺旋状溝のキャビティー52は、センターピン1の外周において螺旋状の閉空間が形成される。即ち、キャビティー52は、コイルスプリングの形状に対応した螺旋状の閉空間に形成される。
この状態において主ランナー56に溶融合成樹脂をスプールから注入すると、前記主ランナー56から縦方向ランナー55に流れ込み、横方向ランナー24を介して保護ランナー53に流れ込む。
【0021】
この保護ランナー53は前記キャビティー52に連通されているため、前記キャビティー52に溶融合成樹脂は流れ込み、前記螺旋状キャビティー52内に溶融合成樹脂が充填される。このように、保護ランナー53は前記キャビティー52に連通されているため、キャビティー52内に均一に流れ込ませることができる。
そして、この全てのランナー53〜56及び螺旋状キャビティー52に溶融合成樹脂が充填された状態において、溶融合成樹脂の供給を停止し、この状態を所定時間維持する。
【0022】
尚、前記溶融合成樹脂が完全に固化した状態(熱収縮が完全に終了した状態)まで前記状態を維持すると、センターピン1との密着力(圧接力)が強くなるため、溶融合成樹脂が完全に固化する(熱収縮が完全に終了する)直前に、金型を離開し、中間物Sを取り出す。金型を離開した状態(一方の金型を取り除いた状態)を図2に示す。
【0023】
そして、この金型を離開した状態からの中間物Sの取り出しは、移動プレート4を前方(矢印方向)に押し出すことによってなされる。
即ち、突出しピン3によって移動プレート4を前方(矢印方向)に押し出すことによって、移動プレート4は螺旋状キャビティー52によって形成されたコイルスプリング部S1の下端を押し出す。そして、前記コイルスプリング部S1をセンターピン1から取外す。
【0024】
このコイルスプリング部S1の下端の押出し時において、中間物Sは完全に固化していない状態(熱収縮が終了していない状態)であることから、センターピン1の外周面とスプリング部S1の内周面との食い付き(密着力)が小さい。そのため、摩擦抵抗が小さい状態でセンターピン1からコイルスプリング部S1を取外すことができる。
【0025】
このようにして取り出された中間物Sは、図3に示すように、螺旋状キャビティー52によって形成されたコイルスプリング部S1と、保護ライナー53によって形成された保護樹脂部S2と、横方向ランナーによって形成された横方向ランナー樹脂部S3と、縦方向ランナーによって形成された縦方向ランナー樹脂部S4と、主ランナーによって形成された主ランナー樹脂部S5から構成されている。
【0026】
この中間物Sのコイルスプリング部S1の各ピッチ間には、保護ランナー53によって形成された保護樹脂部S2が形成されているため、コイルスプリング部S1のセンターピン1からの取外しの際、コイルスプリング部S1に押出し力が加わっても、各ピッチ間の間隔が狭くなる等の歪み、あるいはコイルスプリング形状の変形等を防止することができる。
その結果、センターピン1を抜き取った状態(図3を参照)において設計した通りのコイルスプリング(中間物S)を得ることができる。
【0027】
次いで、中間物Sが完全に固化した後(熱収縮が完全に終了した後)に、切断機によってコイルスプリング部S1のピッチ間に接続されている保護樹脂部S2の部分を切断することで、横方向ランナー樹脂部S3、縦方向ランナー樹脂部S4及び主ランナー樹脂部S5も保護樹脂部S2と共に分離され、図4に示すコイルスプリング6を得ることができる。
【0028】
なお、前記した実施形態にあっては、スプリング部S1の各ピッチ間に保護樹脂部S2を形成した場合について説明したが、保護樹脂部S2は必ずしも各ピッチ間に設ける必要はない。また、実施形態の図1乃至図3では1回の射出成形において2個の中間物Sを製造する場合を示しているが、1個の中間物を製造してもよく、あるいはまた3個以上の中間物Sを同時に製造するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の合成樹脂製スプリングの製造方法に使用する金型であって、分割可能に形成された金型の一方の金型を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した金型を使用して中間物を製造するための製造装置の概略図であって、成形後の分割可能な金型のうち一方の金型を取除いた状態の概略図である。
【図3】図3は、本発明のコイルスプリングの中間物を示す平面図である。
【図4】図4は、図3の中間物の保護樹脂部をカットした製品のコイルスプリングの平面図である。
【図5】従来のコイルスプリングを製造するための装置の概略図であって、図2に対応する図である。
【符号の説明】
【0030】
1 センターピン
2 基台
3 突き出しピン
4 移動プレート
5 金型
51 センターピン用孔
52 螺旋状キャビティー
53 保護ランナー
54 横方向ランナー
55 縦方向ランナー
56 主ランナー
6 コイルスプリング
S 中間物
S1 コイルスプリング部
S2 保護樹脂部
S3 横方向ランナー樹脂部
S4 縦方向ランナー樹脂部
S5 主ランナー樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センターピンによって、コイルスプリングの形状に対応した螺旋状のキャビティーが形成されると共に、前記キャビティーの螺旋のピッチ間を接続する保護ランナーが少なくとも形成された金型内に、溶融合成樹脂を注入し、コイルスプリングを成形する工程と、
前記工程の後、成形されたコイルスプリングを押し出して、センターピンより取外す工程と、
前記工程の後、成形されたコイルスプリングのピッチ間を接続している前記保護ランナーの保護樹脂部を切断して、コイルスプリングを得る工程と、
を含むことを特徴とする合成樹脂製コイルスプリングの製造方法。
【請求項2】
前記保護ランナーは、前記キャビティーの螺旋の全ピッチ間に形成され、成形されたコイルスプリングの各ピッチ間は保護樹脂部によって連結されていることを特徴とする請求項1記載の合成樹脂製スプリングの製造方法。
【請求項3】
コイルスプリングのピッチ間に形成された保護樹脂部と、
コイルスプリングの径方向外側に対向して、軸線方向に沿って形成された一対の縦方向ランナー樹脂部と、前記保護樹脂部と縦方向ランナー樹脂部とを接続する横方向ランナー樹脂部と、前記縦方向ランナー樹脂部の何れか一方に接続された主ランナー樹脂部とを少なくとも備えることを特徴とするスプリングの中間物。
【請求項4】
合成樹脂製コイルスプリングを製造するための金型であって、センターピンによって、コイルスプリングの形状に対応した螺旋状の空間に形成されるキャビティーと、前記キャビティーの螺旋のピッチ間を接続する保護ランナーとを少なくとも備えることを特徴とする合成樹脂製コイルスプリングの製造に用いられる金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−842(P2009−842A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162027(P2007−162027)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(502413201)エルフ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】