説明

同期電動機の回転子及び圧縮機

【課題】振動・騒音を低減することができる同期電動機の回転子を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明に係る同期電動機の回転子20は、電磁鋼板を積層して形成され、外周縁に沿って磁石挿入孔2が形成される回転子鉄心1と、磁石挿入孔2に挿入され、磁極を構成する永久磁石4と、回転子鉄心1の外周縁と永久磁石4との間に形成される外周磁性体領域6とを備え、外周磁性体領域6の面積が磁極間近傍では小さく、磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、回転子鉄心1の外周縁と永久磁石4との間に非磁性体領域5を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、永久磁石を用いる同期電動機の回転子に関する。さらに、その同期電動機の回転子を用いる同期電動機を搭載する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
積層鉄心内に永久磁石を配置する回転子を用いた同期電動機は、回転子外周の磁性体部分を用いたリラクタンストルクを用いることで、電動機を高トルク化することが可能である。反面、内部に配置された永久磁石より発生する磁束の向きが外周の磁性体部分で容易に変化する。そのため、運転中に回転子の磁極と固定子のティースとの位置関係によって磁束の向きが急に変化することがある。それにより、同期電動機より発生する騒音・振動が大きくなることがある。
【0003】
この課題に対して、以下に示す技術が提案がなされている。即ち、積層回転子鉄心内に永久磁石片を有する電動機の永久磁石回転子を、簡易な構成でコギングトルク低減をはかったものにするために、永久磁石片開口部で形成する直方体部に挿入する永久磁石片を、2種の永久磁石材とし、中央部主材の軸方向にスキューする中央部主材と、その両側の略直方体部を補充する形状で、かつ中央部主材より磁束密度の低い副材の永久磁石片から構成する永久磁石回転子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、永久磁石の体積当たりの電動機効率を高めることを目的として、歯部は固定子に備えられており、回転子と空隙を挟んで対向する。回転子は永久磁石埋設用孔が穿たれた軟磁性体を備えており、回転軸の回りに回転可能である。軟磁性体には回転軸に沿って永久磁石埋設用孔が穿たれている。永久磁石埋設用孔には永久磁石が埋設される。永久磁石の磁極面は回転軸に垂直な法線を有しており、円形を呈する回転子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、電機子反作用磁束を軽減すると共に、外周部鉄心の磁束分布を改善することにより、騒音や振動の少ない高効率な永久磁石電動機を提供するために、回転子鉄心中にその軸心を中心とする略正多角形の各辺に対応する部位に形成された永久磁石収容孔と、この磁石収納孔にそれぞれ挿入された永久磁石と、永久磁石収容孔の外周部鉄心に形成され、径方向に細長く、かつ、永久磁石収容孔に沿って離隔配置された4個以上のスリット孔とを備え、スリット孔の径方向外側端のピッチを略等しくし、径方向内側端のピッチを永久磁石の中央部を大きくし、中央部から端部に離れるに従って小さくした永久磁石電動機が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−174324号公報
【特許文献2】特開2006−14389号公報
【特許文献3】特開2005−94968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2のように、永久磁石を回転軸に対して傾斜した形状としたり、円形にするのは、以下に示す課題がある。例えば、永久磁石を回転子の表面に配置して、固定子と直接対向させる場合には、大きな効果が得られるが、磁性体内部に配置する場合には、永久磁石表面の磁性体の内部で磁束の向きが変化しやすいことから、永久磁石の形状を工夫したことによる効果は、永久磁石を回転子表面に配置した場合に比べると小さくなる。
【0007】
また、上記特許文献3に記載されている技術の場合、回転子表面の磁性体内の磁束の向きの変化をスリット孔によってある程度制限してしまうことで、同期電動機の振動・騒音を抑える効果を得ることができる。しかし、スリット孔によって、リラクタンストルクが発生しにくくなり、永久磁石を回転子磁性体内部に配置する回転子の特徴を利用できなくなるという課題がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされるもので、振動・騒音を低減することができる同期電動機の回転子及びその同期電動機の回転子を用いた圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る同期電動機の回転子は、電磁鋼板を積層して形成され、外周縁に沿って磁石挿入孔が形成される回転子鉄心と、磁石挿入孔に挿入され、磁極を構成する永久磁石と、回転子鉄心の外周縁と永久磁石との間に形成される外周磁性体領域とを備え、外周磁性体領域の面積が磁極間近傍では小さく、磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、回転子鉄心の外周縁と永久磁石との間に非磁性体領域を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る同期電動機の回転子は、外周磁性体領域の面積が磁極間近傍では小さく、磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、回転子鉄心の外周縁と永久磁石との間に非磁性体領域を形成したことにより、固定子に鎖交する磁束の変化が緩やかになり、トルク脈動を抑え、同期電動機の振動・騒音を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1乃至図11は実施の形態1を示す図で、図1は同期電動機の回転子20の斜視図、図2は図1のA部断面図、図3は図1のB部断面図、図4は図1のC部断面図、図5は同期電動機の回転子20の正面図、図6は変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図、図7は変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及びA〜E部断面図(b)、図8は変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)、図9は変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)、図10は図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形9を、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形10と比較した図、図11は図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形29を、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形30と比較した図である。
【0012】
図1により、同期電動機の回転子20の構成を説明する。以下、同期電動機の回転子20を単に回転子と呼ぶ場合もある。同期電動機の回転子20は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心1と、永久磁石4とを備える。回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の外周縁に沿って四角形状に形成される四箇所の永久磁石4が挿入される磁石挿入孔2を備える。夫々の磁石挿入孔2は、断面形状が周方向に長い長方形である。また、回転子鉄心1は、中心部に回転軸が嵌合する回転軸嵌合孔3を備える。さらに、回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の両端付近の永久磁石4の外側鉄心部に、非磁性体領域5を備える。回転子鉄心1の磁石挿入孔2、回転軸嵌合孔3、非磁性体領域5以外は、磁性体領域(鉄心部)である。磁性体領域の中の磁石挿入孔2よりも外側の部分を外周磁性体領域6と呼ぶ。
【0013】
非磁性体領域5は、軸方向両端近傍で、各1磁極の永久磁石4の外側部分の両端に設けられている。1磁極につき、計四箇所に三角形状(略直角三角形)の非磁性体領域5が形成されている。略直角三角形の非磁性体領域5は、その直角三角形の直角をなす二辺の一辺が磁極間の近辺で磁極間に平行に配置され、且つ他の一辺が回転子鉄心1の軸方向端面に一致する。
【0014】
従って、非磁性体領域5の断面積は、図2〜図3に示すように、回転子鉄心1の軸方向端部から中心付近に向かうにつれ、小さくなる。図4に示すように、回転子鉄心1の軸方向の中心付近には、非磁性体領域5は存在しない。
【0015】
上記のように非磁性体領域5を形成することによって、各1磁極を構成する永久磁石4の外周面に対向する外周磁性体領域6は、磁極の中心付近で面積が大きく、磁極間付近で面積が小さくなる形状となる。
【0016】
同期電動機の回転子20が回転するとき、固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積は、非磁性体領域5が無い回転子の場合には、回転子の回転角に比例して、徐々に増加する。
【0017】
これに対して、非磁性体領域5を有する同期電動機の回転子20では、回転子の回転角に対して、初めは固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積の増加が少なく、徐々に面積の増加が大きくなっていく。
【0018】
回転子表面の全面に外周磁性体領域6がある場合、永久磁石4より発生する磁束は、外周磁性体領域6の中で容易に方向を変えてしまう。そのため、回転子の回転中に外周磁性体領域6の一部が固定子のティースに対向し始めると、固定子のスロット開口部のより磁気抵抗の少ない対向部分に磁束が急に集中するため、対向をはじめたティースに流入する磁束が急に増加する。この磁束の急な変化が固定子の巻線に生じる誘起電圧に歪みが生じて同期電動機のトルク脈動が大きくなり、振動・騒音の要因となる。
【0019】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、回転子が回転するときに、外周磁性体領域6が固定子のティースに対向する面積がはじめは小さく、磁極中心に向かって回転が進むに従って徐々に面積の増加量が大きくなる。従って、ティースに急に磁束が流入することが抑制されて、巻線に生じる誘起電圧の歪みが少なくなり、トルク脈動を抑えて、振動・騒音の少ない同期電動機が得られる。
【0020】
通常、永久磁石4を回転子内部に配置する回転子の場合、電磁鋼板を積層した回転子鉄心1を用いることが多く、図1に示す回転子鉄心1は、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板を打ち抜く穴の形状を、積層する電磁鋼板ごとに徐々に変化させることで図1に示すような同期電動機の回転子20を実現できる。
【0021】
しかし、この場合は、打ち抜く電磁鋼板の種類が多くなるため、大規模な金型、プレス設備が必要となる。
【0022】
これに対して、図6に示す変形例1の同期電動機の回転子20は、同一形状の電磁鋼板を複数枚連続して積層し、非磁性体領域5の周方向長さを回転軸方向に対して階段状に変化させている。
【0023】
このようにすることで、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板の種類を削減でき、金型、プレス設備の規模を縮小できる。
【0024】
また、図7(a)に示す変形例2の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を、軸方向に開けられる複数のスリット孔7a,7b,7c,7dを備えるスリット孔7で構成してもよい。スリット孔7の深さを磁極間に近いほど深く、磁極中心に近くなるに従って浅くする。即ち、スリット孔7a,7b,7c,7dの軸方向の深さをd7a、d7b、d7c、d7dとすると、
d7a>d7b>d7c>d7d
である。
【0025】
このように構成することで、図1に示す非磁性体領域5に近い効果が得られる。また、非磁性体領域5を構成するために電磁鋼板を打ち抜く穴も、図7(b)に示すようにその数を変更することで実現できることから、規模の小さい金型、プレス設備での製造が可能である。
【0026】
図7(b)のA部断面は、図7(a)のA部の断面を示す。以下、B部断面〜E部断面も同様である。
【0027】
また、図8(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を軸方向の長さの異なる複数の非磁性空間8a,8b,8c,8dを備える非磁性空間8で構成することでも実現は可能である。
【0028】
図8(a)の場合、非磁性空間8は回転子の軸方向の両端に体積の大きい空間が配置され、中心付近に向かうに従って、体積の小さい(軸方向寸法の小さい)空間が配置される。即ち、非磁性空間8a,8b,8c,8dの軸方向長さを、L8a,L8b,L8c,L8dとすると、
L8a>L8b>L8c>L8d
である。
【0029】
また、非磁性空間8a,8b,8c,8d同志の間隔は、軸方向中心に向かって徐々に広くなっている。このように非磁性空間8を配置することで、その部分の軸方向の磁性体の密度が変化して、軸方向中心付近の磁性体の密度が高くなり、図1に示す同期電動機の回転子20と同様の外周磁性体領域6の形状を模擬できる。このため、図1に示す同期電動機の回転子20と同様の効果が得られる。
【0030】
図8(a)の同期電動機の回転子20の場合、積層する電磁鋼板の形状は、非磁性空間8を構成するための穴の有無で2種類の形状で構成が可能であるため、さらに製造設備の小型化、低コスト化が可能である。
【0031】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、永久磁石4の表面の外周磁性体領域6にスリットの無い部分が多く存在するため、リラクタンストルクの利用が可能であり、これによって、同期電動機のトルク向上が可能である。
【0032】
また、回転子端面付近の磁極間に非磁性体領域5を設けると、永久磁石4のこの非磁性体領域5に対向する部分から、軸方向へ磁束が漏れやすくなるため、ホールIC(ホールICとは、ホールエレメント、アンプ、Schmitt trigger回路と出力トランジスタを1チップのシリコン上に組み込んだもの)等のセンサを用いて回転子の磁極を検出しようとする場合には、回転子端面の磁束を拾いやすくなる。
【0033】
回転子端面付近の磁極間に非磁性体領域5を設ける回転子の場合、永久磁石4の非磁性体領域5に対向する部分は、非磁性体領域5の磁気抵抗が大きく、表面に外周磁性体領域6を有する部分に比べると、発生する磁束が少なくなる。回転子鉄心1の内部に埋め込む永久磁石4には、希土類の高価な永久磁石4を用いることが多く、コストパフォーマンスの観点からは、必ずしも最適では無い場合がある。
【0034】
この場合、図9(a)に示すように、永久磁石4の形状を外周磁性体領域6と同様の形状として、非磁性体領域5に対する面積を減らすことにより、磁束量全体は減少するが、永久磁石4の使用量に対しては、磁束を有効に引き出すことができ、コストパフォーマンスの良い回転子を得ることができる。
【0035】
図8(a)に示す非磁性空間8を非磁性体領域5として用いる場合、図9(b)のような形状の永久磁石4を挿入することで、外周磁性体領域6と同形状の永久磁石4を挿入した回転子と同様の効果が得られる回転子が実現可能である。
【0036】
以下に、シミュレーションにて求めた、図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形9及びコギングトルクの波形29を、図10及び図11に示す。同期電動機には、以下に示す仕様のものを使用した。
(1)固定子:外径φ100、内径φ52、高さ(コア幅)40mm、6スロット。
(2)回転子:外径φ50、高さ(コア幅)40mm、4極。
(3)非磁性体領域5:直角三角形のもので、直角三角形の二辺の長さが永久磁石4の縦、横のそれぞれの寸法の略1/3になるようにした。
図10は、図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形9を示したものである。比較のため、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形10も同時に示している。
【0037】
回転子外周に非磁性体領域5を持たない回転子を用いたときの誘起電圧波形10に比べると、図6の同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形9は、波形の歪みが少なくなっていることがわかる。
【0038】
また、図11は、図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形29を示す。比較のため、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形30も同時に示している。これより、図6に示す同期電動機の回転子20を用い同期電動機のコギングトルクの波形29が、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形30よりも小さくなっていることがわかる。
【0039】
実施の形態2.
図12乃至図16は実施の形態2を示す図で、図12は同期電動機の回転子20の斜視図、図13は変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図、図14は変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図、図15は変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)、図16は変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)である。
【0040】
図12により、同期電動機の回転子20の構成を説明する。以下、同期電動機の回転子20を単に回転子と呼ぶ場合もある。同期電動機の回転子20は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心1と、永久磁石4とを備える。回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の外周縁に沿って四角形状に形成される四箇所の永久磁石4が挿入される磁石挿入孔2を備える。夫々の磁石挿入孔2は、断面形状が周方向に長い長方形である。また、回転子鉄心1は、中心部に回転軸が嵌合する回転軸嵌合孔3を備える。さらに、回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の軸方向中心付近の永久磁石4の外側に、非磁性体領域5を備える。回転子鉄心1の磁石挿入孔2、回転軸嵌合孔3、非磁性体領域5以外は、磁性体領域(鉄心部)である。磁性体領域の中の磁石挿入孔2よりも外側の部分を外周磁性体領域6と呼ぶ。
【0041】
非磁性体領域5は、回転子鉄心1の軸方向中心付近で、1磁極の両端に設けられている。1磁極当たり二箇所の非磁性体領域5が存在する。
【0042】
非磁性体領域5の形状は、正面から見て略二等辺三角形である。そして、二等辺三角形の底辺が磁極間近傍に、且つ磁極間に平行に位置する。
【0043】
従って、非磁性体領域5の断面積は、回転子鉄心1の軸方向中心付近から軸方向両端に向かうに従って、徐々に隣り合う磁極間の近辺に配置されながら小さくなっている。
【0044】
これにより、1磁極を構成する永久磁石4の外周面に対向する外周磁性体領域6は、磁極の中心付近で面積が大きく、磁極間付近で面積が小さくなる形状となる。
【0045】
回転子が回転するとき、固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積は、非磁性体領域5が無い回転子の場合は、回転子の回転角に比例して、徐々に増加する。
【0046】
これに対して、非磁性体領域5を有する回転子では、回転子の回転角に対して、はじめは対向する面積の増加が少なく、徐々に面積の増加が大きくなっていく。
【0047】
回転子表面に非磁性体領域5がある場合、永久磁石4より発生する磁束は、外周磁性体領域6の中で容易に方向を変えてしまうため、回転子の回転中に外周磁性体領域6の一部が固定子のティースに対向し始めると、固定子のスロット開口部より磁気抵抗の少ない対向部分に磁束が急に集中するため、対向をはじめたティースに流入する磁束が急に増加する。この磁束の急な変化が固定子の巻線に生じる誘起電圧に歪みが発生して、同期電動機のトルク脈動が大きくなり、振動・騒音の要因となる。
【0048】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、回転子が回転するときに、外周磁性体領域6が固定子のティースに対向する面積がはじめ小さく、磁極中心に向かって回転が進むに従って徐々に面積の増加量が大きくなる。従って、ティースに急に磁束が流入することが抑制されて、巻線に生じる誘起電圧の歪みが少なくなり、トルク脈動を抑えて、振動・騒音の少ない同期電動機が得られる。
【0049】
通常、永久磁石4を回転子内部に配置する回転子の場合、電磁鋼板を積層した回転子鉄心1を用いることが多く、図12に示す回転子鉄心1は、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板を打ち抜く穴の形状を、積層する電磁鋼板ごとに徐々に変化させることで図12に示すような同期電動機の回転子20を実現できる。
【0050】
また、図13に示す変形例1の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を回転軸方向に対して、階段状に変化させるようにしてもよい。
【0051】
このようにすることで、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板の種類を削減でき、金型、プレス設備の規模を縮小できる。
【0052】
また、図14に示す変形例2の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を、軸方向に開けられる複数のスリット孔7a,7b,7c,7dを備えるスリット孔7で構成してもよい。スリット孔7の軸方向の長さを磁極間に近いほど長く、磁極中心に近くなるに従って短くする。即ち、スリット孔7a,7b,7c,7dの軸方向の長さをd7a、d7b、d7c、d7d、d7eとすると、
d7a>d7b>d7c>d7d
である。
【0053】
このように構成することで、図12に示す非磁性体領域5に近い効果が得られる。また、磁束の変化を緩やかにできるため、コギングトルクも小さくすることができる。また、非磁性体領域5を構成するために電磁鋼板を打ち抜く穴も、その数を変更することで実現できることから、規模の小さい金型、プレス設備での製造が可能である。
【0054】
また、図15(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を軸方向の長さの異なる複数の非磁性空間8a,8b,8c,8dを備える非磁性空間8で構成することでも実現は可能である。
【0055】
図15(a)の場合、非磁性空間8は軸方向の中央付近に体積の大きい空間が配置され、両端に向かうに従って体積の小さい(軸方向寸法の小さい)空間が配置される。即ち、非磁性空間8a,8b,8c,8dの軸方向長さを、L8a,L8b,L8c,L8dとすると、
L8a>L8b>L8c>L8d
である。
【0056】
また、図15(b)に示すように、非磁性空間8a,8b,8c,8d同志の間隔は、軸方向中心に向かって徐々に狭くなっている。このように非磁性空間8を配置することで、軸方向の磁性体の密度が変化して、軸方向両端の磁性体の密度が高くなり、図12に示す同期電動機の回転子20と同様の外周磁性体領域6の形状を模擬できる。このため、図15(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20は、図12に示す同期電動機の回転子20と同様の効果が得られる。
【0057】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、永久磁石4の表面の外周磁性体領域6にスリットの無い部分が多く存在するため、リラクタンストルクの利用が可能であり、これによって、同期電動機のトルク向上が可能である。
【0058】
図12乃至図15に示す同期電動機の回転子20の場合、永久磁石4の非磁性体領域5に対向する部分は、非磁性体領域5の磁気抵抗が大きく、表面に外周磁性体領域6を有する部分に比べると、発生する磁束が少なくなる。永久磁石4を回転子鉄心1の内部に埋め込む回転子に用いる永久磁石4には、希土類の高価な永久磁石4を用いることが多く、コストパフォーマンスの観点からは、必ずしも最適では無い場合がある。
【0059】
この場合、図16(a)に示すように、永久磁石4の形状を外周磁性体領域6と同様の形状となるように、複数(図16(a)の場合は2枚(1磁極当たり))の永久磁石4で構成する。
【0060】
そのようにすることで、永久磁石4の磁束量全体は減少する。しかし、非磁性体領域5に対する面積を減らして、永久磁石4の使用量に対して磁束を有効に引き出すことができ、コストパフォーマンスの良い回転子を得ることができる。
【0061】
図15に示す非磁性体領域5を用いた場合、図16(b)のような永久磁石4を挿入することで、外周磁性体領域6と同形状の永久磁石4を挿入した回転子と同様の効果が得られる。
【0062】
図12乃至図15において、非磁性体領域5の回転子外周鉄心部及び非磁性体領域5と磁石挿入孔2との間の鉄心部は、薄肉の磁性体で構成されている。特に、回転子外周鉄心部の薄肉部は、剛性が低くなる。反面外周磁性体領域6は、全体が電磁鋼板等の磁性材料で構成されるため剛性は高い。外周磁性体領域6を軸方向端面近くに配置する図12乃至図15に示す同期電動機の回転子20は、外部からの応力による変形がおこりにくい。このため、製造の際の組立や運搬での破損が生じにくい。
【0063】
実施の形態3.
図17乃至図21は実施の形態3を示す図で、図17は同期電動機の回転子20の斜視図、図18は変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図、図19は変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図、図20は変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)、図21は変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)である。
【0064】
図17により、同期電動機の回転子20の構成を説明する。以下、同期電動機の回転子20を単に回転子と呼ぶ場合もある。同期電動機の回転子20は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心1と、永久磁石4とを備える。回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の外周縁に沿って四角形状に形成される四箇所の永久磁石4が挿入される磁石挿入孔2を備える。夫々の磁石挿入孔2は、断面形状が周方向に長い長方形である。また、回転子鉄心1は、中心部に回転軸が嵌合する回転軸嵌合孔3を備える。さらに、回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の両端付近の永久磁石4の外側に、非磁性体領域5を備える。回転子鉄心1の磁石挿入孔2、回転軸嵌合孔3、非磁性体領域5以外は、磁性体領域(鉄心部)である。磁性体領域の中の磁石挿入孔2よりも外側の部分を外周磁性体領域6と呼ぶ。
【0065】
非磁性体領域5は、1磁極当たり2箇所に設けられる。夫々の非磁性体領域5は、回転子鉄心1の軸方向両端に分かれて、1磁極を構成する永久磁石4の対角線上に配置される。即ち、一の非磁性体領域5は、隣接する一方の磁極間近傍に設けられる。他の非磁性体領域5は、隣接する他方の磁極間近傍に設けられる。
【0066】
その断面積は、回転子の軸方向から見て中心付近に向かうに従って、徐々に隣り合う磁極間の近辺に配置されながら小さくなっている。これによって、1磁極を構成する永久磁石4の外周面に対向する外周磁性体領域6は、磁極の中心付近で面積が大きく、磁極間付近で面積が小さくなる形状をとる。
【0067】
1磁極につき、計二箇所に三角形状(略直角三角形)の非磁性体領域5が形成されている。略直角三角形の非磁性体領域5は、その直角三角形の直角をなす二辺の一辺が磁極間の近辺で磁極間に平行に配置され、且つ他の一辺が回転子鉄心1の軸方向端面に一致する。
【0068】
従って、非磁性体領域5の断面積は、回転子鉄心1の軸方向端部から中心付近に向かうにつれ、小さくなる。回転子鉄心1の軸方向の中心付近には、非磁性体領域5は存在しない。
【0069】
上記のように非磁性体領域5を形成することによって、各1磁極を構成する永久磁石4の外周面に対向する外周磁性体領域6は、磁極の中心付近で面積が大きく、磁極間付近で面積が小さくなる形状となる。
【0070】
同期電動機の回転子20が回転するとき、固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積は、非磁性体領域5が無い回転子の場合には、回転子の回転角に比例して、徐々に増加する。
【0071】
これに対して、非磁性体領域5を有する同期電動機の回転子20では、回転子の回転角に対して、初めは固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積の増加が少なく、徐々に面積の増加が大きくなっていく。
【0072】
回転子表面の全面に外周磁性体領域6がある場合、永久磁石4より発生する磁束は、外周磁性体領域6の中で容易に方向を変えてしまう。そのため、回転子の回転中に外周磁性体領域6の一部が固定子のティースに対向し始めると、固定子のスロット開口部より磁気抵抗の少ない対向部分に磁束が急に集中するため、対向をはじめたティースに流入する磁束が急に増加する。この磁束の急な変化が固定子の巻線に生じる誘起電圧に歪みが生じて同期電動機のトルク脈動が大きくなり、振動・騒音の要因となる。
【0073】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、回転子が回転するときに、外周磁性体領域6が固定子のティースに対向する面積がはじめは小さく、磁極中心に向かって回転が進むに従って徐々に面積の増加量が大きくなる。従って、ティースに急に磁束が流入することが抑制されて、巻線に生じる誘起電圧の歪みが少なくなり、トルク脈動を抑えて、振動・騒音の少ない同期電動機が得られる。
【0074】
これは、表面に永久磁石4を配置した回転子において、磁極にスキューをかけた回転子と同様の効果である。また、磁束の変化を緩やかにできるため、コギングトルクも小さくすることができる。
【0075】
通常、永久磁石4を回転子内部に配置する回転子の場合、電磁鋼板を積層した回転子鉄心1を用いることが多く、図17に示す同期電動機の回転子20は、実施の形態1,2と同様、非磁性体領域5を構成するために電磁鋼板を打ち抜く穴の形状を、積層する電磁鋼板ごとに徐々に変化させることで実現できる。
【0076】
また、図18に示す変形例1の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を回転軸方向に対して、階段状に変化させることで、非磁性体領域5を構成する電磁鋼板の種類を削減できる。
【0077】
あるいは、図19に示す変形例2の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を複数のスリット孔7a,7b,7c,7dで構成してもよい。スリット孔7の軸方向の長さを磁極間に近いほど長く、磁極中心に近くなるに従って短くする。即ち、スリット孔7a,7b,7c,7dの軸方向の長さをd7a、d7b、d7c、d7d、d7eとすると、
d7a>d7b>d7c>d7d
である。
【0078】
このように構成することで、図17の非磁性体領域5に近い効果が得られ、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板を打ち抜く穴もその数を変更することで実現できることから、規模の小さい金型、プレス設備での製造ができる。
【0079】
図20(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を軸方向の長さの異なる複数の非磁性空間8a,8b,8c,8d,8eを備える非磁性空間8で構成することでも実現は可能である。
【0080】
図20(a)の場合、非磁性空間8は軸方向の中央付近に体積の小さい空間が配置され、両端に向かうに従って体積の大きい(軸方向寸法の大きい)空間が配置される。即ち、非磁性空間8a,8b,8c,8d,8eの軸方向長さを、L8a,L8b,L8c,L8d,L8eとすると、
L8a>L8b>L8c>L8d>L8e
である。
【0081】
また、図20(b)に示すように、非磁性空間8a,8b,8c,8d,8e同志の間隔は、軸方向中心に向かって徐々に広くなっている。このように非磁性空間8を配置することで、軸方向の磁性体の密度が変化して、軸方向両端の磁性体の密度が高くなり、図17に示す同期電動機の回転子20と同様の外周磁性体領域6の形状を模擬できる。このため、図20(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20は、図17に示す同期電動機の回転子20と同様の効果が得られる。
【0082】
図20(a)の同期電動機の回転子20の場合、積層する電磁鋼板は、非磁性空間8を構成するための穴の位置の違う2種類と、非磁性空間8を構成するための穴の無い1種類との計3種類であるため、製造設備の小型化、低コスト化が可能である。
【0083】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、永久磁石4の表面の外周磁性体領域6にスリットの無い部分が多く存在するため、リラクタンストルクの利用が可能であり、これによって、同期電動機のトルク向上が可能である。
【0084】
また、本実施の形態の同期電動機の回転子20の場合、隣り合う磁極の間を非磁性体領域5で大きく隔離できるため、磁極間の磁束の短絡を少なくでき、より多くの磁束を回転子表面に出すことができる。
【0085】
図17乃至図20に示す同期電動機の回転子20の場合、永久磁石4の非磁性体領域5に対向する部分は、非磁性体領域5の磁気抵抗が大きく、表面に外周磁性体領域6を有する部分に比べると、発生する磁束が少なくなる。永久磁石4を回転子鉄心1の内部に埋め込む回転子に用いる永久磁石4には、希土類の高価な永久磁石4を用いることが多く、コストパフォーマンスの観点からは、必ずしも最適では無い場合がある。
【0086】
この場合、図21(a)に示すように、永久磁石4の形状を外周磁性体領域6と同様の形状として、非磁性体領域5に対する面積を減らすことにより、磁束量全体は減少するが、永久磁石4の使用量に対しては、磁束を有効に引き出すことができ、コストパフォーマンスの良い回転子を得ることができる。
【0087】
図20(a)に示す非磁性空間8を非磁性体領域5として用いる場合、図21(b)のような形状の永久磁石4を挿入することで、外周磁性体領域6と同形状の永久磁石4を挿入した回転子と同様の効果が得られる回転子が実現可能である。
【0088】
実施の形態4.
図22乃至図26は実施の形態4を示す図で、図22は同期電動機の回転子20の斜視図、図23は変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図、図24は変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図、図25は変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)、図26は変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)である。
【0089】
図22により、同期電動機の回転子20の構成を説明する。以下、同期電動機の回転子20を単に回転子と呼ぶ場合もある。同期電動機の回転子20は、電磁鋼板を積層して形成される回転子鉄心1と、永久磁石4とを備える。回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の外周縁に沿って四角形状に形成される四箇所の永久磁石4が挿入される磁石挿入孔2を備える。夫々の磁石挿入孔2は、断面形状が周方向に長い長方形である。また、回転子鉄心1は、中心部に回転軸が嵌合する回転軸嵌合孔3を備える。さらに、回転子鉄心1は、該回転子鉄心1の両端付近の磁極部(永久磁石4)の外側に、非磁性体領域5を備える。回転子鉄心1の磁石挿入孔2、回転軸嵌合孔3、非磁性体領域5以外は、磁性体領域(鉄心部)である。磁性体領域の中の磁石挿入孔2よりも外側の部分を外周磁性体領域6と呼ぶ。
【0090】
非磁性体領域5は、1磁極当たり2箇所に設けられる。夫々の非磁性体領域5は、回転子鉄心1の軸方向両端に分かれて、1磁極を構成する永久磁石4の対角線上に配置される。即ち、一の非磁性体領域5は、隣接する一方の磁極間近傍に設けられる。他の非磁性体領域5は、隣接する他方の磁極間近傍に設けられる。
【0091】
その断面積は、回転子の軸方向から見て中心付近に向かうに従って、徐々に隣り合う磁極間の近辺に配置されながら大きくなっている。これによって、1磁極を構成する永久磁石4の外周面に対向する外周磁性体領域6は、磁極の中心付近で面積が大きく、磁極間付近で面積が小さくなる形状をとる。
【0092】
1磁極につき、計二箇所に三角形状(略直角三角形)の非磁性体領域5が形成されている。略直角三角形の非磁性体領域5は、その直角三角形の直角をなす二辺の一辺が磁極間の近辺で磁極間に平行に配置され、且つ他の一辺が回転子鉄心1の軸方向略中心部において周方向に配置される。
【0093】
従って、非磁性体領域5の断面積は、回転子鉄心1の軸方向端部から中心付近に向かうにつれ、大きくなる。
【0094】
同期電動機の回転子20が回転するとき、固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積は、非磁性体領域5が無い回転子の場合には、回転子の回転角に比例して、徐々に増加する。
【0095】
これに対して、非磁性体領域5を有する同期電動機の回転子20では、回転子の回転角に対して、初めは固定子のティースに対向する外周磁性体領域6の面積の増加が少なく、徐々に面積の増加が大きくなっていく。
【0096】
回転子表面の全面に外周磁性体領域6がある場合、永久磁石4より発生する磁束は、外周磁性体領域6の中で容易に方向を変えてしまう。そのため、回転子の回転中に外周磁性体領域6の一部が固定子のティースに対向し始めると、固定子のスロット開口部より磁気抵抗の少ない対向部分に磁束が急に集中するため、対向をはじめたティースに流入する磁束が急に増加する。この磁束の急な変化が固定子の巻線に生じる誘起電圧に歪みが生じて同期電動機のトルク脈動が大きくなり、振動・騒音の要因となる。
【0097】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、回転子が回転するときに、外周磁性体領域6が固定子のティースに対向する面積がはじめは小さく、磁極中心に向かって回転が進むに従って徐々に面積の増加量が大きくなる。従って、ティースに急に磁束が流入することが抑制されて、巻線に生じる誘起電圧の歪みが少なくなり、トルク脈動を抑えて、振動・騒音の少ない同期電動機が得られる。
【0098】
これは、表面に永久磁石4を配置した回転子において、磁極にスキューをかけた回転子と同様の効果である。また、磁束の変化を緩やかにできるため、コギングトルクも小さくすることができる。
【0099】
通常、永久磁石4を回転子内部に配置する回転子の場合、電磁鋼板を積層した回転子鉄心1を用いることが多く、図22に示す回転子鉄心1は、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板を打ち抜く穴の形状を、積層する電磁鋼板ごとに徐々に変化させることで図22に示すような同期電動機の回転子20を実現できる。
【0100】
また、図23に示す変形例1の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を回転軸方向に対して、階段状に変化させることで、非磁性体領域5を構成する電磁鋼板の種類を削減できる。
【0101】
あるいは、図24に示す変形例2の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を複数のスリット孔7a,7b,7c,7dで構成してもよい。スリット孔7の軸方向の長さを磁極間に近いほど長く、磁極中心に近くなるに従って短くする。即ち、スリット孔7a,7b,7c,7dの軸方向の長さをd7a、d7b、d7c、d7d、d7eとすると、
d7a>d7b>d7c>d7d
である。
【0102】
このように構成することで、図22の非磁性体領域5に近い効果が得られ、非磁性体領域5を構成するための電磁鋼板を打ち抜く穴もその数を変更することで実現できることから、規模の小さい金型、プレス設備での製造ができる。
【0103】
図25(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20のように、非磁性体領域5を軸方向の長さの異なる複数の非磁性空間8a,8b,8c,8d,8eを備える非磁性空間8で構成することでも実現は可能である。
【0104】
図25(a)の場合、非磁性空間8は軸方向の中央付近に体積の大きい空間が配置され、両端に向かうに従って体積の小さい(軸方向寸法の小さい)空間が配置される。即ち、非磁性空間8a,8b,8c,8d,8eの軸方向長さを、L8a,L8b,L8c,L8d,L8eとすると、
L8a>L8b>L8c>L8d>L8e
である。
【0105】
また、図25(b)に示すように、非磁性空間8a,8b,8c,8d,8e同志の間隔は、軸方向中心に向かって徐々に狭くなっている。このように非磁性空間8を配置することで、軸方向の磁性体の密度が変化して、軸方向両端の磁性体の密度が高くなり、図22に示す同期電動機の回転子20と同様の外周磁性体領域6の形状を模擬できる。このため、図25(a)に示す変形例3の同期電動機の回転子20は、図22に示す同期電動機の回転子20と同様の効果が得られる。
【0106】
図25(a)の同期電動機の回転子20の場合、積層する電磁鋼板は、非磁性空間8を構成するための穴の位置の違う2種類と、非磁性空間8を構成するための穴の無い1種類との計3種類であるため、製造設備の小型化、低コスト化が可能である。
【0107】
本実施の形態による同期電動機の回転子20は、永久磁石4の表面の外周磁性体領域6にスリットの無い部分が多く存在するため、リラクタンストルクの利用が可能であり、これによって、同期電動機のトルク向上が可能である。
【0108】
また、本実施の形態の同期電動機の回転子20の場合、隣り合う磁極の間を非磁性体領域5で大きく隔離できるため、磁極間の磁束の短絡を少なくでき、より多くの磁束を回転子表面に出すことができる。
【0109】
図22乃至図24に示す同期電動機の回転子20の場合、永久磁石4の非磁性体領域5に対向する部分は、非磁性体領域5の磁気抵抗が大きく、表面に外周磁性体領域6を有する部分に比べると、発生する磁束が少なくなる。永久磁石4を回転子鉄心1の内部に埋め込む回転子に用いる永久磁石4には、希土類の高価な永久磁石4を用いることが多く、コストパフォーマンスの観点からは、必ずしも最適では無い場合がある。
【0110】
この場合、図26(a)に示すように、永久磁石4の形状を外周磁性体領域6と同様の形状として、非磁性体領域5に対する面積を減らすことにより、磁束量全体は減少するが、永久磁石4の使用量に対しては、磁束を有効に引き出すことができ、コストパフォーマンスの良い回転子を得ることができる。
【0111】
図25(a)に示す非磁性空間8を非磁性体領域5として用いる場合、図26(b)のような形状の永久磁石4を挿入することで、外周磁性体領域6と同形状の永久磁石4を挿入した回転子と同様の効果が得られる回転子が実現可能である。
【0112】
図22乃至図25において、非磁性体領域5の回転子外周鉄心部及び非磁性体領域5と磁石挿入孔2との間の鉄心部は、薄肉の磁性体で構成されている。特に、回転子外周鉄心部の薄肉部は、剛性が低くなる。反面外周磁性体領域6は、全体が電磁鋼板等の磁性材料で構成されるため剛性は高い。外周磁性体領域6を軸方向端面近くに配置する図22乃至図25に示す同期電動機の回転子20は、外部からの応力による変形がおこりにくい。このため、製造の際の組立や運搬での破損が生じにくい。
【0113】
実施の形態5.
図27は実施の形態5を示す図で、圧縮機11を示す図である。この圧縮機11には、実施の形態1乃至4のいずれかの同期電動機の回転子20を用いた同期電動機12が搭載されている。
【0114】
圧縮機11は、内部の圧縮機構部13で冷媒を圧縮し、冷媒配管14を通して圧縮した冷媒を冷凍サイクル(凝縮器、減圧装置、蒸発器等)へ送り、再び冷媒配管14を通して流入される冷媒の圧縮を行う。
【0115】
実施の形態1乃至4のいずれかの同期電動機の回転子20を用いた同期電動機12により圧縮機構部13を駆動することにより、圧縮機11の振動が抑えられる。冷媒が通る冷媒配管14は、圧縮機11を加振源として振動するため、圧縮機11の振動を抑えることで冷媒配管14の振動も抑えられ、振動による冷媒配管14の金属疲労等の劣化を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の活用例として、圧縮機11に用いられる同期電動機12への適用、空気調和機に用いられる圧縮機11への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】実施の形態1を示す図で、同期電動機の回転子20の斜視図。
【図2】実施の形態1を示す図で、図1のA部断面図。
【図3】実施の形態1を示す図で、図1のB部断面図。
【図4】実施の形態1を示す図で、図1のC部断面図。
【図5】実施の形態1を示す図で、同期電動機の回転子20の正面図。
【図6】実施の形態1を示す図で、変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図7】実施の形態1を示す図で、変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及びA〜E部断面図(b)。
【図8】実施の形態1を示す図で、変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)。
【図9】実施の形態1を示す図で、変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)。
【図10】実施の形態1を示す図で、図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形9を、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機の誘起電圧波形10と比較した図。
【図11】実施の形態1を示す図で、図6に示す同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形29を、非磁性体領域5を持たない同期電動機の回転子20を用いた同期電動機のコギングトルクの波形30と比較した図。
【図12】実施の形態2を示す図で、同期電動機の回転子20の斜視図。
【図13】実施の形態2を示す図で、変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図14】実施の形態2を示す図で、変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図15】実施の形態2を示す図で、変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)。
【図16】実施の形態2を示す図で、変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)。
【図17】実施の形態3を示す図で、同期電動機の回転子20の斜視図。
【図18】実施の形態3を示す図で、変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図19】実施の形態3を示す図で、変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図20】実施の形態3を示す図で、変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)。
【図21】実施の形態3を示す図で、変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)。
【図22】実施の形態4を示す図で、同期電動機の回転子20の斜視図。
【図23】実施の形態4を示す図で、変形例1の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図24】実施の形態4を示す図で、変形例2の同期電動機の回転子20の斜視図。
【図25】実施の形態4を示す図で、変形例3の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面断面図(b)。
【図26】実施の形態4を示す図で、変形例4の同期電動機の回転子20の斜視図(a)及び正面図(b)。
【図27】実施の形態5を示す図で、圧縮機11を示す図。
【符号の説明】
【0118】
1 回転子鉄心、2 磁石挿入孔、3 回転軸嵌合孔、4 永久磁石、5 非磁性体領域、6 外周磁性体領域、7 スリット孔、7a スリット孔、7b スリット孔、7c スリット孔、7d スリット孔、8 非磁性空間、8a 非磁性空間、8b 非磁性空間、8c 非磁性空間、8d 非磁性空間、9 誘起電圧波形、10 誘起電圧波形、11 圧縮機、12 同期電動機、13 圧縮機構部、14 冷媒配管、20 同期電動機の回転子、29 コギングトルクの波形、30 コギングトルクの波形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を積層して形成され、外周縁に沿って磁石挿入孔が形成される回転子鉄心と、
前記磁石挿入孔に挿入され、磁極を構成する永久磁石と、
前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間に形成される外周磁性体領域とを備え、
前記外周磁性体領域の面積が前記磁極間近傍では小さく、前記磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間に非磁性体領域を形成したことを特徴とする同期電動機の回転子。
【請求項2】
電磁鋼板を積層して形成され、外周縁に沿って磁石挿入孔が形成される回転子鉄心と、
前記磁石挿入孔に挿入され、磁極を構成する永久磁石と、
前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間に形成される外周磁性体領域とを備え、
前記外周磁性体領域の面積が前記磁極間近傍では小さく、前記磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間の前記回転子鉄心の軸方向端部に非磁性体領域を形成したことを特徴とする同期電動機の回転子。
【請求項3】
電磁鋼板を積層して形成され、外周縁に沿って磁石挿入孔が形成される回転子鉄心と、
前記磁石挿入孔に挿入され、磁極を構成する永久磁石と、
前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間に形成される外周磁性体領域とを備え、
前記外周磁性体領域の面積が前記磁極間近傍では小さく、前記磁極の中心に向かって徐々に面積が大きくなるように、前記回転子鉄心の外周縁と前記永久磁石との間の前記回転子鉄心の軸方向略中心部に非磁性体領域を形成したことを特徴とする同期電動機の回転子。
【請求項4】
前記非磁性体領域は、前記回転子鉄心の軸方向両端に分かれて、前記永久磁石の対角線上に配置されることを特徴とする請求項2記載の同期電動機の回転子。
【請求項5】
前記非磁性体領域は、略三角形状に形成され、前記三角形状の一辺が前記磁極間の近辺で前記磁極間に略平行に配置され、且つ他の一辺が前記回転子鉄心の軸方向端面に略一致することを特徴とする請求項4記載の同期電動機の回転子。
【請求項6】
前記非磁性体領域は、略三角形状に形成され、前記三角形状の一辺が前記磁極間の近辺で前記磁極間に略平行に配置され、且つ他の一辺が前記回転子鉄心の軸方向略中心部において周方向に配置されることを特徴とする請求項4記載の同期電動機の回転子。
【請求項7】
前記非磁性体領域の周方向長さを、軸方向に階段状に変化させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の同期電動機の回転子。
【請求項8】
前記非磁性体領域を、軸方向に開けられる、軸方向長さの異なる複数のスリット孔で構成することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の同期電動機の回転子。
【請求項9】
前記非磁性体領域を、軸方向の長さの異なる複数の非磁性空間で構成すること特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の同期電動機の回転子。
【請求項10】
前記永久磁石の形状を、前記外周磁性体領域の形状に合わせることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の同期電動機の回転子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の同期電動機の回転子を用いた同期電動機を搭載したことを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2009−219291(P2009−219291A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61945(P2008−61945)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】