説明

向上した安定性を有する脂肪分解酵素変異体、及びこれをコードするポリヌクレオチド

本発明は、洗剤中で向上した安定性を有する脂質分解酵素変異体及びこれをコードするポリヌクレオチドを提供する。洗剤中で向上した安定性を有する脂質分解酵素変異体は、親脂質分解酵素におけるある特定のアミノ酸残基を置換することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤中で向上した安定性を有する脂質分解酵素変異体、及びその調製方法に関する。それは、特に、サーモマイセス・ラヌギノーサス(Thermomyces lanuginosus)リパーゼの脂質分解酵素変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な工業目的、例えば、洗剤の効率の向上のために、真菌性脂肪分解酵素、例えば、サーモマイセス・ラヌギノーサス(別名、フミコラ・ラヌギノーサ(Humicola lanuginosa)の使用が知られている。サーモマイセス・ラヌギノーサス(別名、フミコラ・ラヌギノーサ、EP 258 068及びEP 305 216)由来のリパーゼが、Lipolase(登録商標)(Novozymes A/Sの製品)の商標名で、洗浄剤としての用途で販売されている。WO 0060063には、洗浄溶液において特に良好な第一洗浄機能を有するT.ラヌギノーサスリパーゼの変異体が記載されている。衣服及び他の織物から、脂質又は脂肪の染みを除去するための、洗剤酵素としてのリパーゼの使用に加え、これらは、パン及び他の焼き製品用のパン生地を作製するための添加剤としても、及びパルプ及び紙製品におけるピッチ(pitch)問題の除去においても使用される。ある出願によれば、熱安定性が向上した脂質分解酵素が所望され(EP 374700、WO 9213130)、一方、他の出願によれば、洗剤中の安定性が所望される。WO 92/05249、WO92/19726及びWO 97/07202は、T.ラヌギノーサス(H.ラヌギノーサ)の変異体を開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第一の態様によれば、本発明は、(a)親脂肪分解酵素と比較して、配列番号2のアミノ酸27、216、227、231、233及び256のいずれかに対応するアミノ酸残基の置換を含んでなるアミノ酸配列を有し;及び(b)当該親脂肪分解酵素よりも洗剤中でより安定である、親脂肪分解酵素の変異体に関する。
【0004】
さらなる態様によれば、本発明は、前記変異体をコードする単離ポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含んでなる核酸構築物、当該核酸構築物を含んでなる組換え発現ベクター、及び当該核酸構築物又は組換え発現ベクターを含んでなる形質転換宿主細胞に関する。
【0005】
さらなる態様によれば、本発明は、(a)前記変異体の作製に適する条件下で、前記ポリペプチドを含んでなる前記核酸構築物又は組換え発現ベクターを含んでなる、組換え宿主細胞を培養するステップ;及び(b)前記変異体を回収するステップ、を含んでなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体の調製方法に関する。
【0006】
さらなる態様によれば、本発明は、カルボン酸エステルの加水分解における、又はエステルの加水分解、合成又はエステル交換における脂質分解酵素変異体の使用に関する。
【0007】
さらなる態様によれば、本発明は、脂質分解酵素変異体を含んでなる調製物に関する。
【0008】
さらなる態様によれば、本発明は、洗剤中で安定な調製物の製造のための、脂質分解酵素変異体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1−A】図1は、リパーゼのアラインメントを示す。
【図1−B】図1は、リパーゼのアラインメントを示す。
【図1−C】図1は、リパーゼのアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アミノ酸修飾のための命名法
本発明のリパーゼ変異体について記載する場合、参照の容易のために以下の命名法を使用する:
(1又は複数の)本来のアミノ酸:(1又は複数の)位置:(1又は複数の)置換アミノ酸
【0011】
この命名法によれば、例えば、位置195におけるグリシンのグルタミン酸への置換は、G195Eと示される。同じ位置でのグリシンの欠失は、G195*と示され、そして付加的なアミノ酸残基の挿入、例えばリジンならば、G195GKと示される。他のリパーゼとの比較で「欠失」を含む特定のリパーゼの場合、このような位置での挿入は、位置36におけるアスパラギン酸の挿入であれば、*36Dのように示される。
【0012】
多重変異はプラスにより分けられる。すなわち:R170Y+G195Eは、位置170及び195での、それぞれアルギニン及びグリシンからチロシン及びグルタミン酸への置換を表す変異である。
【0013】
記載するアラインメント方法を適用する場合、X231は、位置231に対応する親脂肪分解酵素におけるアミノ酸を示す。X231Rは、このアミノ酸がRで置換されることを示す。配列番号2について、XはTであり、そしてX231Rは、位置231のTをRで置換することを示す。ある位置(例えば231)でのアミノ酸が、アミノ酸群、例えば、R及びP及びYからなる群から選択される別のアミノ酸により置換されてもよく、これはX231R/P/Yと示されることになる。
【0014】
全ての場合において、一般に認められるIUPACの1文字又は3文字アミノ酸の略記が使用される。
【0015】
同一性:本明細書で使用される場合「同一性」なる用語は、2つのアミノ酸配列間又は2つのヌクレオチド配列間の同系性を意味し、「同一性」というパラメータにより記載される。
【0016】
本発明の目的によれば、2つのアミノ酸配列のアラインメントは、EMBOSSパッケージ(http://emboss.org)第2.8.0版のNeedleプログラムを用いて決定される。このNeedleプログラムは、Needleman,S.B.及びWunsch,C.D.(1970)J.Mol.Biol.48,443−453に記載される国際的なアラインメントアルゴリズムを実施する。使用される置換マトリクスは、BLOSUM62であり、ギャップ・オープニング・ペナルティが10、及びギャップ・エクステンション・ペナルティが0.5である。
【0017】
本発明のアミノ酸配列(「発明配列」;例えば、配列番号2のアミノ酸1〜269)と、異なるアミノ酸配列(「外来配列」)との間の同一性の度合いは、2つの配列のアラインメントにおける正確な一致の数を、「発明配列」の長さ又は「外来配列」の長さのいずれか短い方で除して計算される。この結果は、同一性の割合で表される。
【0018】
「発明配列」及び「外来配列」が重複する同じ位置に、同一のアミノ酸残基を有する場合、正確な一致となる。配列の長さは、配列におけるアミノ酸残基の数である(例えば、配列番号2の長さは269である)。
【0019】
上記手法は、アラインメントのための、同一性及び相同性の計算のために使用されてもよい。本発明において相同性及びアラインメントは、下記の通り計算している。
【0020】
相同性及びアラインメント
本発明の目的によれば、相同性の度合いを、当該技術分野で既知のコンピュータプログラム、例えば、GCGプログラムパッケージ(Program Manual for the Wisconsin Package,Version 8,August 1994,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wisconsin,USA 53711)(Needleman,S.B. and Wunsch,C.D.,(1970),Journal of Molecular Biology,48,443−45)から提供されるGAP等を用い、ポリペプチド配列比較のための以下の設定:GAPクリエーション・ペナルティ3.0及びGAPエクステンション・ペナルティ0.1でGAPを用いることにより、好適に決定してもよい。
【0021】
本発明において、以下のリパーゼにおける対応する(又は相同である)位置は、図1に示すアラインメントにより定義される。前記リパーゼは、アブシディア・レフレクサ(Absidia reflexa)、アブシディア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、リゾプス・デレマル(Rhizopus delemar)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ツビンゲンシス(Aspergillus tubingensis)、フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporrum)、フサリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、ペニシリウム・カメンバーティレクサ(Penicillium camembertilexa)、アスペルギルス・ホエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、サーモマイセス・ラヌギノーサス(別名、フミコラ・ラヌギノーサ)及びランデリナ・ペニサポラ(Landerina penisapora)である。
【0022】
アラインメントにおいて示されないリパーゼ配列における、相同位置を見つけるために、注目の配列を、図1に示す配列と並べる。新規な配列は、GAPアラインメントを用いることにより、GAPプログラムにより発見される最も相同性の高い配列と、図1における現在のアラインメントとを配列する。GAPは、GCGプログラムパッケージ(Program Manual for the Wisconsin Package,Version 8,August 1994,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wisconsin,USA 53711)(Needleman,S.B. and Wunsch,C.D.,(1970),Journal of Molecular Biology,48,443−45)において提供される。ポリペプチド配列比較のために、以下の設定を用いる:GAPクリエーション・ペナルティ3.0及びGAPエクステンション・ペナルティ0.1。
【0023】
親リパーゼ
任意の好適な脂肪分解酵素を、親リパーゼとも呼ばれる親脂肪分解酵素として使用してよい。ある実施態様によれば、脂肪分解酵素は、真菌脂肪分解酵素であってよい。
【0024】
脂肪分解酵素は、カンジダ(Candida)、クリベロマイセス(Kluyveromyces)、ピキア(Pichia)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、又はヤロウイア(Yarrowia)等の属起源の酵母脂肪分解酵素;又はより好ましくは、アクレモニウム(Acremonium)、アスペルギルス(Aspergillus)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、フィロバシジウム(Filobasidium)、フサリウム(Fusarium)、フミコラ(Humicola)、マグナポルテ(Magnaporthe)、ムコール(Mucor)、ミセリオプソラ(Myceliophthora)、ネオカリマスティクス(Neocallimastix)、ネウロスポラ(Neurospora)、パエシロマイセス(Paecilomyces)、ペニシリウム(Penicillium)、ピロマイセス(Piromyces)、シゾフィラム(Schizophyllum)、タラロマイセス(Talaromyces)、サーモアスカス(Thermoascus)、チエラビア(Thielavia)、トリポクラジウム(Tolypocladium)、サーモマイセス又はトリコデルマ(Trichoderma)等の属起源の糸状菌脂肪分解酵素でもよい。
【0025】
脂肪分解酵素は、さらに、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ジアスタティクス(Saccharomyces diastaticus)、サッカロマイセス・ドウグラシイ(Saccharomyces douglasii)、サッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、又はサッカロマイセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)又はサッカロマイセス・オビフォルミス(Saccharomyces oviformis)脂肪分解酵素でもよい。
【0026】
あるいは、脂肪分解酵素は、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・ホエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ジャポニクス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・タービゲンシス(Aspergillus turbigensis)、フサリウム・バクトリジオイデス(Fusarium bactridioides)、フサリウム・セレアリス(Fusarium cerealis)、フサリウム・クルークウェレンス(Fusarium crookwellense)、フサリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)、フサリウム・グラミネアルム(Fusarium graminearum)、フサリウム・グラミナム(Fusarium graminum)、フサリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)、フサリウム・ネグンジ(Fusarium negundi)、フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フサリウム・レチクラタム(Fusarium reticulatum)、フサリウム・ロセウム(Fusarium roseum)、フサリウム・サムブシナム(Fusarium sambucinum)、フサリウム・サルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フサリウム・スポロトリチオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フサリウム・スルフレウム(Fusarium sulphureum)、フサリウム・トルロサム(Fusarium torulosum)、フサリウム・トリコテシオイデス(Fusarium trichothecioides)、フサリウム・ベネナツム(Fusarium venenatum)、フミコラ・インソレンス(Humicola insolens)、サーモマイセス・ラヌギノーサス(別名、フミコラ・ラヌギノーサス)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ミセリフソラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila)、ネウロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ペニシリウム・パープロゲナム(Penicillium purpurogenum)、トリコデルマ・ハージアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンギブラチアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、又はトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)脂肪分解酵素である。
【0027】
ある実施態様によれば、本発明は、サーモマイセス・リパーゼ又はサーモマイセス・ラヌギノーサス・リパーゼである脂肪分解酵素変異体に関する。
【0028】
ある実施態様によれば、本発明は、脂肪分解酵素変異体に関し、ここで当該変異体は、配列番号2と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%同一である。
【0029】
洗剤中の安定性が向上した脂質分解酵素変異体における変更の確認
以下に述べる位置は、配列番号2におけるアミノ酸残基の位置である。「相同性及びアラインメント」の段落には、異なるリパーゼにおけるアミノ酸残基の対応する又は相同の位置をどのように発見するかが記載されている。
【0030】
驚くべきことに、本発明の脂肪分解酵素変異体、脂肪分解変異体、又は端的に変異体は、親脂肪分解酵素よりも、洗剤中でより安定であることがわかった。洗剤中の安定性は、洗剤の存在下、脂肪分解/リパーゼ活性を維持する量として定義される。リパーゼ活性は、全体的又は部分的に維持されてよい。すなわち、本発明の変異体は、その由来である親リパーゼと比較して、洗剤の存在下、そのリパーゼ活性を、全体的又は部分的のいずれかで維持する能力の向上を示す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「リパーゼ活性」なる用語は、ジアクリルグリセロール及びカルボキシレートの形成のもと、トリアシルグリセロールの加水分解を触媒する、カルボン酸エステル加水分解酵素活性を意味する。本発明の目的によれば、リパーゼ活性は、以下の方法により決定される:リパーゼのための基質は、乳化剤としてアラビアゴムを用いて、トリブチリン(トリブチル酸グリセリン)を乳化することにより調製される。30℃、pH7又は9でのトリブチリンの加水分解は、pHスタット滴定実験において行われる。リパーゼ活性の1単位(1LU)は、30℃、pH7で、1分当たり1マイクロモルのブチル酸を放出できる酵素量として定義される。
【0032】
ある実施態様によれば、本発明の変異体は、参照酵素と比較している。本明細書で使用される場合「参照酵素」又は「参照リパーゼ」なる用語は、置換T231R+N233Rを有する配列番号2の成熟部分を意味する。
【0033】
ある実施態様によれば、本発明は、(a)親脂肪分解酵素と比較して、配列番号2のアミノ酸27、216、227、231、233及び256のいずれかに対応するアミノ酸残基の置換を含んでなるアミノ酸配列を有し;及び(b)当該親脂肪分解酵素よりも洗剤中でより安定である、親脂肪分解酵素の変異体に関する。
【0034】
ある実施態様によれば、本発明は、(a)配列番号2のアミノ酸残基231及び233を含んでなり、且つ親脂肪分解酵素と比較して、アミノ酸27、216、227及び256のいずれかに対応するアミノ酸残基の置換を含んでなるアミノ酸配列を有し;及び(b)親脂肪分解酵素よりも洗剤中でより安定である、親脂肪酸分解酵素の変異体に関する。
【0035】
ある実施態様によれば、本発明は、配列番号2に対応する位置である、位置231+233、及び(a)27;(b)216;又は(c)256;のうちの1つにおけるアミノ酸変更を有し、任意に、227をさらに含んでなる、親脂肪酸分解酵素の変異体に関する。
【0036】
ある実施態様によれば、本発明は、アミノ酸の置換が、配列番号2の27R、216P、227G、231R、233R又は256Kのうちの1つである変異体に関する。
【0037】
ある実施態様によれば、本発明は、アミノ酸置換が、配列番号2のD27R、S216P、L227G、T231R、N233R又はP256Kのうちの1つである変異体に関する。
【0038】
ある実施態様によれば、本発明は、(a)T231R+N233R+P256K;(b)L227G+T231R+N233R;(c)L227G+T231R+N233R+P256K;(d)D27R+T231R+N233R;(e)D27R+L227G+T231R+N233R;及び(f)S216P+T231R+N233R、からなる群から選択される置換を含んでなる変異体に関する。
【0039】
ある実施態様によれば、本発明は、親脂肪分解酵素が、配列番号2と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%同一である変異体に関する。
【0040】
ある実施態様によれば、本発明は、親脂肪分解酵素が、サーモマイセス・ラヌギノーサス DSM 4109により作製され、配列番号2のアミノ酸を有する変異体に関する。
【0041】
ある実施態様によれば、本発明は、洗剤が液体洗剤状態である変異体に関する。
【0042】
【表1】

【0043】
ある実施態様によれば、本発明は、脂肪分解酵素変異体を含んでなる調製物に関する。
【0044】
ある実施態様によれば、本発明は、液体調製物であってよい調製物に関する。
【0045】
脂肪分解酵素変異体のポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞、作製
ある実施態様によれば、本発明は、脂肪分解酵素変異体をコードする単離ポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、非常に低ストリンジェンシー条件、好ましくは低ストリンジェンシー条件、より好ましくは中ストリンジェンシー条件、より好ましくは中−高ストリンジェンシー条件、さらにより好ましくは高ストリンジェンシー条件、及び最も好ましくは非常に高ストリンジェンシー条件下で、(i)配列番号1のヌクレオチド178〜660、(ii)配列番号1のヌクレオチド178〜660に含まれるcDNA、(iii)(i)又は(ii)のサブ配列、又は(iv)(i)、(ii)又は(iii)の相補鎖とハイブリダイズできる(J.Sambrook,E.F.Fritsch,and T.Maniatis,1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d edition,Cold Spring Harbor,New York)。配列番号1のサブ配列は、少なくとも100個の連続ヌクレオチド、又は好ましくは少なくとも200個の連続ヌクレオチドを含む。さらに、当該サブ配列は、リパーゼ活性を有するポリペプチド断片をコードしてよい。
【0046】
少なくとも100ヌクレオチド長の長いプローブについて、非常に低〜非常に高のストリンジェンシー条件は、以下の溶液中での、42℃でのプレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションとして定義され、当該溶液は、5×SSPE、0.3%SDS、200ug/ml剪断及び変性させたサケ精子DNAに加え、25%ホルムアミドの場合は、非常に低及び低ストリンジェンシー、35%ホルムアミドの場合は、中及び中−高ストリンジェンシー、又は50%ホルムアミドの場合は、高及び非常に高ストリンジェンシー条件であり、その後、標準的サザンブロット法を、好ましくは12〜24時間行う。
【0047】
少なくとも100ヌクレオチド長の長いプローブについて、担体物質は、以下の溶液を用いて、各々15分間、最終的に3回洗浄され、ここで溶液とは、2×SSC、0.2%SDSであり、これが、好ましくは少なくとも45℃(非常に低ストリンジェンシー)、より好ましくは少なくとも50℃(低ストリンジェンシー)、より好ましくは少なくとも55℃(中ストリンジェンシー)、より好ましくは少なくとも60℃(中−高ストリンジェンシー)、さらにより好ましくは少なくとも65℃(高ストリンジェンシー)、及び最も好ましくは70℃(非常に高ストリンジェンシー)でなされる。
【0048】
ある実施態様によれば、本発明は、発現宿主において、脂肪分解酵素変異体ポリペプチドの作製を指示する少なくとも1つの調節配列と作動的に結合するポリヌクレオチドを含んでなる、核酸構築物に関する。
【0049】
ある実施態様によれば、本発明は、前記核酸構築物を含んでなる、組換え発現ベクターに関する。
【0050】
ある実施態様によれば、本発明は、前記核酸構築物又は前記組換え発現ベクターを含んでなる、形質転換宿主細胞に関する。
【0051】
脂肪分解酵素変異体をコードする単離ポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含んでなる核酸構築物、当該核酸構築物を含んでなる組換え発現ベクター、及び当該核酸構築物又は当該組換え発現ベクターを含んでなる形質転換宿主細胞は、全て、当該技術分野で既知の方法により得てもよい。
【0052】
洗剤中で安定な脂肪分解酵素変異体を得るための方法
脂肪分解酵素の変異体は、当該技術分野で既知の方法、例えばWO 9522615又はWO 0032758に記載されるような、例えば、部位特異的変異導入、ランダム変異導入又は局在化変異導入等により得てもよい。親脂肪分解酵素から得られる洗剤中で安定な変異体は、以下の一般的方法により得てもよい。
【0053】
・変異導入(エラープローン、ドープオリゴ、スパイクオリゴ)
・一次スクリーニング
・洗剤中でより安定な突然変異体の確認
・メンテナンス(グリセロール培養、LB−Ampプレート、Mini−Prep)
・他のアッセイプレートへのストリーキングアウト(streaking out)
−二次スクリーニング(一次スクリーニングより1段高い)
・DNA配列決定
・宿主細胞、例えばアスペルギルス等への形質転換
・100mlスケールでの培養、精製、DSC
【0054】
ある実施態様によれば、本発明は、(a)前記脂肪分解酵素変異体の作製に適する条件下、核酸構築物又は核酸構築物を含んでなる組換え発現ベクターを含んでなる、形質転換宿主細胞を培養するステップ;及び(b)前記脂肪分解酵素変異体を回収するステップ、を含んでなる脂肪分解酵素変異体の調製方法に関する。この方法は、当該技術分野で既知の原理に従って実施されてよい。
【0055】
ある実施態様によれば、本発明は、(a)親脂肪分解酵素を選択するステップ、(b)親脂肪分解酵素において、配列番号2の27、216、227、231、233及び256のいずれかに対応する少なくとも1つのアミノ酸残基を置換するステップ、(c)任意に、(b)で記載したもの以外の1又は複数のアミノ酸を変更するステップ、(d)ステップ(a)〜(c)から得られる変異体を調製するステップ、(e)変異体の洗剤中での安定性を試験するステップ、(f)洗剤中での安定性が向上した変異体を選択するステップ、(g)選択した変異体を作製するステップ、を含んでなる変異体を調製する方法に関する。
【0056】
使用
本発明の変異体は、親脂肪分解酵素の類似体を使用してもよく、そしていくつかの目的について、当該変異体は、洗剤中での安定性が向上するために好まれる可能性がある。すなわち、ある実施態様によれば、本発明は、カルボン酸エステルの加水分解、又はエステルの加水分解、合成もしくはエステル交換における当該変異体の使用に関する。
【0057】
ある実施態様によれば、本発明は、洗剤中安定な調製物の製造のための、前記変異体の使用に関する。
【実施例】
【0058】
本発明は、以下の実施例によりさらに記載され、これは本発明の範囲を制限すると解されるべきではない。
【0059】
緩衝剤及び基質として使用される化学物質は、少なくとも試薬級の市販品であった。
【0060】
実施例1−リパーゼ変異体の発現
脂肪分解酵素変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドを構築し、そして当該技術分野の標準的方法を用いて、好適な宿主細胞に形質転換する。
【0061】
実施例2−リパーゼ変異体の作製
発酵は、一定の培地温度34℃、開始容量1.2リットルを用いる硫加(fed−batch)発酵として行われる。培地の初期pHを6.5に設定する。pHが7.0まで上昇したら、10%のH3PO4を添加して、この値を維持する。培地中の溶解酸素レベルを、攪拌速度を変えながら、且つ培地1リットル当たり1分当たり1.0リットルの固定通気速度を用いることにより制御する。フィード(feed)添加速度を、硫加段階全体で一定レベルに維持する。
【0062】
バッチ培地は、炭素源としてマルトース、窒素源として尿素及び酵母抽出物、及び微量金属及び塩の混合物を含有する。硫加段階の間、連続的に添加したフィードは、炭素源としてマルトースシロップを含み、一方、十分な窒素供給を確実にするため、酵母抽出物及び尿素を添加する。
【0063】
脂肪分解酵素変異体の精製は、当該技術分野で既知の標準的方法、例えば、発酵上清の濾過及び続く疎水性クロマトグラフィ及びイオン交換クロマトグラフィによりなされてもよく、例えばEP 0 851 913 EP、実施例3に記載されている。
【0064】
実施例3−脂肪分解酵素変異体の洗剤中の安定性
以下の脂肪分解酵素変異体を、安定性について試験し、且つ参照脂肪分解酵素、配列番号2と比較した。
【0065】
【表2】

【0066】
脂肪分解酵素変異体及び参照を、1グラムの市販の洗剤当たり、0.065mg酵素タンパク質濃度で投入した。
【0067】
【表3】

【0068】
洗剤及び脂肪分解酵素変異体又は参照酵素を含んでなるサンプルを、pH=7.7でトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝剤に溶解させ、そして−18℃及び35℃で、それぞれ2週間及び4週間保存した。残存酵素活性は、35℃でインキュベーション後のリパーゼ活性を、−18℃で保存したサンプルのリパーゼ活性で除したものとして計算した。安定性データを以下の表4に示す。全ての6つの脂肪分解酵素変異体は、参照リパーゼと比較して、洗剤中での安定性の向上を示した。
【0069】
リパーゼ活性を、古草酸塩及びp−ニトロフェニル産物を生じさせる、基質p−ニトロフェニル−古草酸塩(pNp−Val)の加水分解を追跡することにより測定した。検出波長=405nm;pH=7.7;及び温度=37℃。このpHでエステラーゼ活性を有する全てのリパーゼは、この方法で解析できる。
【0070】
【表4】

【配列表フリーテキスト】
【0071】
配列番号1は、サーモマイセス・ラヌギノーサス由来のリパーゼをコードするDNA配列を示す。
配列番号2は、サーモマイセス・ラヌギノーサス由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、アブシディア・レフレクサ(Absidia reflexa)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、アブシディア・コリムビフェラ(Absidia corymbifera)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、アスペルギルス・ツビンゲンシス(Aspergillus tubingensis)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、フサリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporrum)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、フサリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号11は、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号12は、ペニシリウム・カメンバーティレクサ(Penicillium camembertilexa)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号13は、アスペルギルス・ホエティダス(Aspergillus foetidus)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号14は、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号15は、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
配列番号16は、ランデリナ・ペニサポラ(Landerina penisapora)由来のリパーゼのアミノ酸配列を示す。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)親脂肪分解酵素と比較して、配列番号2のアミノ酸27、216、227、231、233及び256のいずれかに対応するアミノ酸残基の置換を含んでなるアミノ酸配列を有し;及び
b)当該親脂肪分解酵素よりも洗剤中でより安定である、
親脂肪分解酵素の変異体。
【請求項2】
a)配列番号2のアミノ酸残基231及び233を含んでなり、且つ親脂肪分解酵素と比較して、アミノ酸27、216、227及び256のいずれかに対応するアミノ酸残基の置換を含んでなるアミノ酸配列を有し;及び
b)親脂肪分解酵素よりも洗剤中でより安定である、
親脂肪酸分解酵素の変異体。
【請求項3】
配列番号2に対応する位置である、位置231+233、及び
a)27;
b)216;又は
c)256;
のうちの1つにおいてアミノ酸変更を有し、任意に、227をさらに含んでなる、親脂肪酸分解酵素の変異体。
【請求項4】
前記アミノ酸置換が、配列番号2の27R、216P、227G、231R、233R又は256Kのうちの1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項5】
前記アミノ酸置換が、配列番号2のD27R、S216P、L227G、T231R、N233R又はP256Kのうちの1つである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項6】
a)T231R+N233R+P256K;
b)L227G+T231R+N233R;
c)L227G+T231R+N233R+P256K;
d)D27R+T231R+N233R;
e)D27R+L227G+T231R+N233R;及び
f)S216P+T231R+N233R、
からなる群から選択される置換を含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項7】
前記親脂肪分解酵素が、配列番号2と、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも100%同一である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項8】
前記親脂肪分解酵素が、サーモマイセス・ラヌギノーサス(Thermomyces lanuginosus)DSM 4109により作製され、配列番号2のアミノ酸を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項9】
前記洗剤が液体洗剤状態である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の変異体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の変異体をコードする、単離ポリヌクレオチド。
【請求項11】
発現宿主において、前記変異体の作製を指示する少なくとも1つの調節配列と作動的に結合する、請求項10の単離ポリヌクレオチドを含んでなる、核酸構築物。
【請求項12】
請求項11の核酸構築物を含んでなる、組換え発現ベクター。
【請求項13】
請求項11の核酸構築物又は請求項12の組換え発現ベクターを含んでなる、組換え宿主細胞。
【請求項14】
a)前記変異体の作製に適する条件下で、前記ポリペプチドを含んでなる前記核酸構築物又は組換え発現ベクターを含んでなる、組換え宿主細胞を培養するステップ;及び
b)前記変異体を回収するステップ、
を含んでなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変種の調製方法。
【請求項15】
a)親脂肪分解酵素を選択するステップ、
b)親脂肪分解酵素において、配列番号2の27、216、227、231、233及び256のいずれかに対応する少なくとも1つのアミノ酸残基を置換するステップ、
c)任意に、(b)で記載したもの以外の1又は複数のアミノ酸を変更するステップ、
d)ステップ(a)〜(c)から得られる変異体を調製するステップ、
e)変異体の洗剤中での安定性を試験するステップ、
f)洗剤中での安定性が向上した変異体を選択するステップ、
g)選択した変異体を作製するステップ、
を含んでなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体の調製方法。
【請求項16】
カルボン酸エステルの加水分解における、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体の使用。
【請求項17】
エステルの加水分解、合成又はエステル交換における、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体の使用。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体を含んでなる調製物。
【請求項19】
液体調製物であってよい、請求項18に記載の調製物。
【請求項20】
洗剤中で安定な調製物の製造のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の脂肪分解酵素変異体の使用。

【図1−C】
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【公表番号】特表2011−514805(P2011−514805A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548101(P2010−548101)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/052247
【国際公開番号】WO2009/106553
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】