説明

含浸製品、及び該製品に使用される基布含浸液

【課題】本発明の目的は、皮膚への刺激が少ない基布含浸液であって、基布への防腐剤の吸着が抑制されて優れた防腐効果を奏することができ、更には白濁することなく、良好な外観性状を備えている基布含浸液、及び当該基布含浸液が基布に含浸された含浸製品を提供することを目的とする。
【解決手段】抗菌性リン脂質及びアニオン性高分子を配合し、且つ抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が100〜1000重量部の比率を満たす基布含浸液を使用して、含浸製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚への刺激が少ない基布含浸液であって、基布への防腐剤の吸着が抑制されて優れた防腐効果を奏することができ、更には白濁することなく外観性状も良好である基布含浸液に関する。更に、本発明は、当該基布含浸液が基布に含浸された含浸製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットワイパー、化粧用パック剤、マスクに装着される含浸フィルター等の、基布に基布含浸液(薬液、化粧水、乳液、水等)を含浸させた製品(含浸製品)には、防腐効果を付与する目的で、防腐剤が配合されている。従来、このような含浸製品において、基布含浸液中の防腐剤が基布に吸着し、所望の防腐効果や殺菌効果を発揮できないという問題点がある。このような問題点を解決するために、塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム化合物及びアミノ酸型界面活性剤を含む薬液を基布含浸液として使用する技術(特許文献1参照)、並びにアミドアミン型界面活性剤とカチオン性のアミノ酸型界面活性剤を含有し、且つpH3以上5以下に調整されている薬液を基布含浸液として使用する技術(特許文献2及び3参照)が提案されている。しかしながら、防腐剤として使用される第4級アンモニウム化合物には、皮膚へのヒリツキ感やピリピリ感等の刺激の懸念があった。また、両性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を併用する技術では、皮膚への刺激が懸念されるpH3〜5の酸性領域でしか使用できず、皮膚への刺激のみならず、基布含浸液に配合される成分が制限されるという欠点もある。
【0003】
一方、従来、皮膚への刺激性が著しく低い防腐剤として、抗菌性リン脂質が知られている(特許文献4参照)。また、抗菌性リン脂質を含むウェットタイプのシート製品として、抗菌性リン脂質(ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドン酸)及びアニオン性高分子(アルキル酸メタクリル酸アルキル)を1:0.5の重量比で含む基布含浸液を基布に含浸させた製品が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、文献5に開示されている基布含浸液では、抗菌性リン脂質の基布への吸着が生じるため、含浸製品に十分な防腐効果を備えさせることが困難である。そのため、従来の抗菌性リン脂質を含む基布含浸液では、含浸製品に所望の抗菌効果を奏させるためには、他の防腐剤を併用することが必要とされている。
【0004】
また、含浸製品に使用される基布含浸液は、濁りが低減され、外観性状が良好であることも求められている。
【0005】
このような従来技術を背景として、基布への防腐剤の吸着が抑制されていると共に、白濁することなく外観性状も良好であり、しかも皮膚への刺激が少ない基布含浸液の開発、更には当該基布含浸液が基布に含浸された含浸製品の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-191521号公報
【特許文献2】特開2002-326902号公報
【特許文献3】特開2002-325697号公報
【特許文献4】特開2003-342146号公報
【特許文献5】特開2004-26657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚への刺激が少ない基布含浸液であって、基布への防腐剤の吸着が抑制されて優れた防腐効果を奏することができ、更には白濁が防止され外観性状も良好である基布含浸液を提供することを目的とする。更に、本発明は、当該基布含浸液が基布に含浸されてなる含浸製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、抗菌性リン脂質及びアニオン性高分子を配合し、且つ抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が100〜1000重量部の比率を満たす基布含浸液によれば、皮膚への刺激が少なく、更に基布への抗菌性リン脂質の吸着が抑制されており、基布に含浸させても優れた防腐効果を奏することができることを見出した。更に、当該基布含浸液は、白濁することなく、良好な外観性状を備えていることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の態様の発明を提供する。
項1. 抗菌性リン脂質及びアニオン性高分子を含有し、且つ抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が100〜1000重量部の比率を満たすことを特徴とする、基布含浸液。
項2. 基布がアニオン性電荷を有するものである、項1に記載の基布含浸液。
項3. 基布が不織布である、項1又は2に記載の基布含浸液。
項4. アニオン性高分子が、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、及びポリアクリル酸部分中和物よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1乃至3のいずれかに記載の基布含浸液。
項5. 抗菌性リン脂質が、アルキルPGジモニウムクロリドリン酸、アルキルアミドプロピルPGジモニウムクロリドンリン酸、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1乃至4のいずれかに記載の基布含浸液。
項6. 項1乃至5のいずれかに記載の基布含浸液が、基布に含浸させていることを特徴とする、含浸製品。
項7. 人体用ウェットワイパー、化粧用パック剤又はマスクに装着される含浸フィルターである、項6に記載の含浸製品。
項8. 項1乃至5のいずれかに記載の基布含浸液を、基布に含浸させることを特徴とする、基布への抗菌性リン脂質の吸着抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の基布含浸液によれば、防腐剤として、抗菌性リン脂質を使用しているので、皮膚への刺激が少なく、敏感肌の人であっても違和感や不快感を生じさせることなく使用することができる。また、本発明の基布含浸液は、基布に含浸させても、抗菌性リン脂質の吸着を抑制して優れた防腐効果を奏することが可能になっており、白濁することなく外観性状を安定に維持できるので、含浸製品の製造原料として有用である。
【0011】
また、本発明の含浸製品によれば、皮膚への刺激が少ない上、優れた防腐効果を奏することができ、基布含浸液の外観性状も安定に保持されるので、人体用のウェットワイパー、化粧用パック剤、マスクに装着される含浸フィルター等として好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、表記「PG」はプロピレングリコールの略記である。
【0013】
I.基布含浸液
本発明の基布含浸液は、含浸製品の製造原料として基布に含浸させるために使用されるものであって、抗菌性リン脂質及びアニオン性高分子を含有し、且つ抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が100〜1000重量部の比率を満たすことを特徴とするものである。
【0014】
本発明において抗菌性リン脂質とは、PGジモニウムクロリドリン酸骨格を有し、抗菌性を示すリン脂質のことである。本発明に使用される抗菌性リン脂質としては、特に制限される物ではないが、例えば、アルキルPGジモニウムクロリドリン酸、アルキルアミドPGジモニウムクロリドリン酸、及びこれらの塩が例示される。ここで、アルキルPGジモニウムクロリドリン酸及びアルキルアミドPGジモニウムクロリドリン酸におけるアルキル基の炭素数としては、特に制限されるものではないが、通常12〜24、好ましくは12〜18が例示される。
【0015】
アルキルPGジモニウムクロリドリン酸の具体例としては、ヤシPGジモニウムクロリドリン酸等が挙げられる。
【0016】
また、アルキルアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸の具体例としては、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、リノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、コカミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、ステアラアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、ボラージアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、サンフラワーアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、オリバミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、グレープシードアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、リシノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸等が挙げられる。
【0017】
アルキルPGジモニウムクロリドリン酸及びアルキルアミドPGジモニウムクロリドリン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0018】
これらの抗菌性リン脂質の中でも、より一層顕著に基布への吸着抑制効果を奏させるとの観点から、好ましくは、ヤシPGジモニウムクロリドリン酸、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、リノールアミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、及びこれらの塩が挙げられ、更に好ましくは、ヤシPGジモニウムクロリドリン酸、ミリスタミドプロピルPGジモニウムクロリドリン酸、及びこれらの塩が挙げられる。
【0019】
本発明において、上記抗菌性リン脂質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の基布含浸液における上記抗菌性リン脂質の配合割合としては、基布に防腐作用を付与できることを限度として特に制限されないが、通常0.01〜1重量%、好ましくは0.03〜0.2重量%、更に好ましくは0.04〜0.2重量%が挙げられる。
【0021】
また、本発明において、アニオン性高分子は、カルボキシル基やスルホニル基等のアニオン基を有する水溶性高分子であって、水中で解離して負の電荷を帯びる性質を有する高分子化合物のことである。本発明に使用されるアニオン性高分子としては、特に制限されるものではないが、例えば、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸部分中和物等が例示される。
【0022】
本発明に使用されるアニオン性高分子の分子量については、アニオン性高分子の種類に応じて適宜設定されるが、通常5万〜1000万、好ましくは20万〜500万、更に好ましくは50万〜300万、特に好ましくは75万〜300万が例示される。より具体的には、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体であれば分子量が5万〜120万であることが望ましく、20万〜120万がより望ましく、このような例としてはSTABILEZE QM(アイエスピー・ジャパン株式会社製)、VEMA A106H5(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。カルボキシビニルポリマーであれば分子量が50万〜500万であることが望ましく、このような例としてはカーボポール980、カーボポール981、カーボポール934、カーボポール2984(いずれもノベオン社製)が挙げられる。また、カルボキシメチルセルロースであれば分子量が50万〜400万であることが望ましく、このような例としてはCMCダイセル 2252、1110、1190、1220、1230、2200、2450(いずれもダイセル化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体であれば分子量が100万〜300万であることが望ましく、このような例としてはペムレンTR-1、ペムレンTR-2(いずれもノベオン社製)等が挙げられる。更に、ポリアクリル酸部分中和物であれば分子量が100万〜1000万であることが望ましく、このような例としてはパナカヤクN(日本化薬株式会社製)、ビスコメートNP-600、ビスコメートNP-800(いずれも昭和電工株式会社製)等が挙げられる。なお、本明細書において、アニオン性高分子の分子量は、重量平均分子量であり、GPC法によって測定される値である。
【0023】
また、本発明に使用されるアニオン性高分子の粘性については、特に制限されるものではないが、好適な一例として、例えば、0.1重量%水溶液(即ち、水に0.1重量%となるようにアニオン性高分子を添加した溶液)について、B型粘度計(東機産業株式会社 TV−10M形粘度計;ローターNo.2)を用いて、25℃、回転速度60rpm、30秒間の回転後に測定した粘度が10〜25,000mPa・S、好ましくは10〜5,000mPa・S、更に好ましくは10〜1,000mPa・Sを満たすものが例示される。
【0024】
また、本発明に使用されるアニオン性高分子の酸解離定数(PKa)についても、特に制限されるものではないが、例えば4〜9、好ましくは4.5〜9、更に好ましくは5〜9が例示される。このような酸解離定数の範囲を満たすアニオン性高分子を使用することによって、基布への抗菌性リン脂質の吸着を一層効果的に抑制し、更には基布含浸液の白濁防止をより効果的に図ることが可能になる。
【0025】
上記アニオン性高分子の中でも、抗菌性リン脂質の基布への吸着抑制効果をより強く奏させるとの観点から、好ましくは、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸部分中和物等が挙げられ、更に好ましくは、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体が挙げられる。
【0026】
本発明において、上記アニオン性高分子は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明の基布含浸液において、アニオン性高分子は、抗菌性リン脂質100重量部当たり100〜1000重量部の比率を満たすように配合される。このような比率を充足させることによって、抗菌性リン脂質の基布への吸着抑制効果を獲得し、更には基布含浸液の白濁防止を実現することが可能になる。抗菌性リン脂質の基布への吸着抑制効果をより一層強く奏させるという観点から、抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が好ましくは110〜1000重量部、更に好ましくは135〜1000重量部が挙げられる。
【0028】
本発明の基布含浸液におけるアニオン性高分子の配合割合については、抗菌性リン脂質の配合割合、及び抗菌性リン脂質とアニオン性高分子の比率によって定まるが、一例として、0.01〜10重量%、好ましくは0.03〜2重量%、更に好ましくは0.04〜2重量%、特に好ましくは0.05〜2が挙げられる。
【0029】
また、本発明の基布含浸液のpHについては、特に制限されるものではないが、皮膚に対する低刺激性を確保し、抗菌性リン脂質の防腐効果を有効に奏させるという観点から、pHは、通常5〜10、好ましくは6.5〜10、更に好ましくは6.5〜9が例示される。pHの調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のpH調整剤を用いることができる。
【0030】
本発明の基布含浸液には、上記配合成分の他に、必要に応じて、局所麻酔剤、血管収縮剤、収斂剤、鎮痒剤、消炎剤、抗菌剤等の薬理活性成分を配合してもよく、更にキレート剤、界面活性剤、緩衝剤、低級アルコール、高級アルコール、多価アルコール、脂肪酸、油脂、ロウ、炭化水素、糖類、アミノ酸、ペプチド、ビタミン、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、清涼化剤、香料等の添加成分を配合してもよい。
【0031】
本発明の基布含浸液は、上記配合成分の所定量を、超純水、精製水、イオン交換水、水道水等の水に添加することにより調製される。
【0032】
本発明の基布含浸液は、含浸製品(ウェットタイプの製品)の製造原料として、基布に含浸させるための含浸液として使用される。本発明の基布含浸液の含浸対象となる基布、及び本発明の基布含浸液を用いて製される含新製品については、後述する欄で詳述する。
【0033】
II.含浸製品
本発明の含浸製品は、上記基布含浸液が基布に含浸されてなることを特徴とするものである。
【0034】
本発明の含浸製品で使用される基布は、天然繊維で形成されたもの、化学繊維で形成されたもの、又は天然繊維と化学繊維の混合繊維によって形成されたものであってもよい。天然繊維としては、パルプ、綿、麻、亜麻、キュ―プラ等の植物繊維;羊毛、キヤメル、カシミヤ、モヘヤ、その他の獣毛、絹等の動物繊維;石綿等の鉱物繊維が挙げられる。化学繊維としては、レーヨン、ポリノジック等の再生繊維;アセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート、ポリクラール等の合成繊維が例示される。
【0035】
これらの基布の内、上記基布含浸液の含浸を容易ならしめるという観点から、親水性の基布が好ましい。親水性の基布とは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、スルホニル基等の親水性基を有する繊維を含む基布であり、具体的には、植物性繊維として、綿、パルプ、動物性繊維、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール等が例示される。更に親水性の基布の中でも、アニオン性電荷を有するものは、抗菌リン脂質の基布への吸着抑制効果を高めることができ、好適に使用される。ここで、アニオン性電荷を有する基布とは、カルボキシル基やスルホニル基等のアニオン性基を有し、水中で負の電荷を帯びる性質を有している基布であり、具体的には、動物繊維、ナイロン、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアクリロニトリル等が例示される。
【0036】
本発明の含浸製品で使用される基布としては、不織布、布、タオル、ガーゼ、脱脂綿等のいずれであってもよいが、好ましくは不織布が挙げられる。
【0037】
基布として使用される不織布の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、エアレイド法、スパンレース法、スパンボンド法、メルトブロー法、ニードルパンチ法等を挙げることができる。また、基布として使用される不織布は、例えば、公知の接着剤(合成ゴム系ホットメルト、EVA系ホットメルト、ポリオレフィン系ホットメルト、ポリアミド系ホットメルト、ポリエステル系ホットメルト、ポリウレタン系ホットメルト等)によって貼り合せたものであってもよい。
【0038】
また、本発明の含浸製品において、基布に含浸させる上記基布含浸液の量については、特に制限されないが、例えば基布100重量部当たり、上記基布含浸液が350〜5000重量部、好ましくは500〜5000重量部、更に好ましくは600〜5000重量部となる量が挙げられる。
【0039】
本発明の含浸製品は、含有されている抗菌性リン脂質の防腐効果を有効に奏することができるので、様々な用途で提供される。具体的には、発明の含浸製品は、人体用のウェットワイパー(お手拭き、肌拭き、おしり拭き等)、化粧用パック剤、殺菌消毒剤、マスクに装着される含浸フィルター等の人体に適用される製品であってもよく、また、家具、電化製品、食器、便器、自動車、眼鏡等の清拭剤として使用されるものであってもよい。なお、ここで、マスクに装着される含浸フィルターとは、マスクにフィルターとして装着されるシートであって、基布含浸液が含浸されているウェットシートのことである。
【0040】
III. 基布への抗菌性リン脂質の吸着抑制方法
前述するように、上記基布含浸液を基布に含浸させることによって、基布含浸液に含まれる抗菌性リン脂質の基布への吸着を抑制することが可能になる。そこで、本発明は、更に、上記基布含浸液を基布に含浸させることを特徴とする、基布への抗菌性リン脂質の吸着抑制方法をも提供する。
【0041】
本吸着抑制方法において、使用される基布含浸液の組成、基布の種類、基布に対する基布含浸液の含浸量等については、上記と同様である。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下で使用した高分子化合物は、次の通りである:カルボキシビニルポリマー(商品名「カーボポール2984」、ノベオン社製、粘度22.8mPa・s)、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(商品名「ペムレンTR-2」、ノベオン社製、粘度905mPa・s)、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(商品名「STABILEZE QM」、ISP社製、粘度342mPa・s)、カルボキシメチルセルロース(商品名「CMCダイセル2252」、ダイセル化学工業社製、粘度939mPa・s)、及びポリアクリル酸部分中和物(商品名「パナカヤクN」、日本化薬社製、粘度155.2mPa・s)。いずれの高分子の粘度も、前述する条件で測定される値である。
【0043】
実施例1
表1に示す組成の基布含浸液を調製し、それぞれの基布含浸液12gを不織布(パルプ+レーヨン積層;パルプ目付600g/m)2gに含浸させ、スクリュー管内にて密閉した状態で3時間静置した。
【0044】
含浸3時間後に、不織布から基布含浸液を搾り出し、当該基布含浸液の防腐効果を以下の方法で評価した。更に、調製された基布含浸液の外観性状を以下の方法で評価した。
【0045】
<防腐効果の評価>
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を用いて、以下の手順に従ってMIC(最終発育阻止濃度)測定試験を実施した。
(1)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の培養
試験菌を普通寒天培地に移植し、35〜37℃で24 時間培養する。
(2)接種用菌液の調製
培養した黄色ブドウ球菌を生理食塩水にて1.0×108cfu/ml(マクファーランド比濁法にてマクファーランドNo. 0.5に調製する)となるように希釈した。
(3)試験用培地の調製
菌濃度が1.0〜5.0×104cfu/mlになるように、ミューラー・ヒントン・ブイヨン(MHB)培地に上記(2)で調製した菌液を添加し、試験用培地を調製した。
(4)試験操作
MHB培地を用いて基布含浸液を1/2,1/4、1/8に段階希釈し、基布含浸液100μLと、上記(3)で調製した試験用培地100μLを96穴プレートの各穴に添加し、35〜37℃で24 時間培養した。
(5)判定
培養後、肉眼観察により試験菌の発育の有無を調べ、発育が認められない試料の最低濃度をMIC(最小発育阻止濃度)とした。防腐活性値として、「コントロールの基布含浸液の場合のMIC」を「実施例又は比較例の基布含浸液の場合のMIC」で除した値を算出し、下記の判定基準に従って防腐活性を分類した。
防腐活性の判定基準
◎ :防腐活性値が15以上
○ :防腐活性値が5以上15未満
× :防腐活性値が2以上5未満
××:防腐活性値が2未満。
【0046】
<外観性状の評価>
調製後の基布含浸液の外観を観察し、下記の判定基準に従って分類した。
外観性状の判定基準
◎ :透明である
○ :肉眼では沈殿物は確認されないが、半透明である
× :肉眼で沈殿物が僅かに認められ、微白濁している
××:肉眼で沈殿物が認められ、明らかに白濁している
【0047】
得られた結果を表1に示す。この結果から、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸100重量部当たり、カルボキシビニルポリマーが80重量部以下で含む基布含浸液(比較例1-1及び1-2)では、防腐活性が著しく低下しており、更には外観性状も悪化することが明らかとなった。これに対して、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸100重量部当たりカルボキシビニルポリマーを100〜1000重量部、特に100:135〜1000重量部の比率で含む基布含浸液(実施例1-1〜1-7)では、優れた防腐活性が発揮され、外観性状も良好であることが確認された。このような実施例1-1〜1-7における優れた防腐活性は、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸の不織布への吸着が抑制されていることに起因すると考えられる。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2
表2に示す組成の基布含浸液を用いて、上記実施例1と同条件で、防腐活性及び外観性状を評価した。
【0050】
結果を表2に示す。この結果からも、上記実施例1と同傾向の結果が得られた。即ち、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸100重量部当たりアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を100〜1000重量部、特に100:135〜1000重量部の比率で含む基布含浸液(実施例2-1〜2-7)の場合においてのみ、優れた防腐活性及び良好な外観性状が認められたが、このような比率を下回る範囲でアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を含む場合には、防腐活性及び外観性状の双方が製品として満足できるレベルに達していなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例3
表3に示す組成の基布含浸液を用いて、上記実施例1と同条件で、防腐活性及び外観性状を評価した。
【0053】
結果を表3に示す。この結果からも、上記実施例1と同傾向の結果が得られた。即ち、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸100重量部当たりメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を100〜1000重量部、特に100:135〜1000重量部の比率で含む基布含浸液(実施例3-1〜3-7)の場合においてのみ、優れた防腐活性及び良好な外観性状が認められたが、このような比率を下回る範囲でメチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体を含む場合には、防腐活性及び外観性状の双方が製品として満足できるレベルに達していなかった。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例4−5
表4−5に示す組成の基布含浸液を用いて、上記実施例1と同条件で、防腐活性及び外観性状を評価した。
【0056】
結果を表4−5に示す。この結果からも、ミリスタミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸又はリノールアミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸を用いた場合でも、上記実施例1と同傾向の結果が得られた。即ち、ミリスタミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸100重量部当たりカルボキシビニルポリマー又はリノールアミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸を100〜1000重量部、特に100:135〜1000重量部の比率で含む基布含浸液(実施例4-1〜4-7、実施例5-1〜5-7)の場合においてのみ、優れた防腐活性及び良好な外観性状が認められたが、このような比率を下回る範囲でカルボキシビニルポリマーを含む場合には、防腐活性及び外観性状の双方が製品として満足できるレベルに達していなかった。
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
比較例6−12
表6に示す組成の基布含浸液を用いて、上記実施例1と同条件で、防腐活性及び外観性状を評価した。
【0060】
結果を表6に示す。この結果から、ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸100重量部当たり、アニオン性高分子以外の高分子化合物135重量部、或いはクエン酸等の低分子化合物135重量部で併用しても、防腐活性は弱かったことから、不織布にナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸が吸着していることが明らかとなった。また、アニオン性高分子以外の高分子化合物、或いはクエン酸等の低分子化合物を使用した場合には、外観性状の顕著な劣悪化を来す場合も認められた。
【0061】
【表6】

【0062】
総合考察
以上の結果から、上記実施例1−4で認められている優れた防腐活性及び良好な外観性状は、抗菌性リン脂質とアニオン性高分子とを100:100〜1000の重量比で含むことによって認められる特有の効果であり、アニオン性高分子の比率が上記範囲を下回る場合やアニオン性高分子以外の高分子化合物又は低分子化合物を使用した場合には獲得し得ないものであることが確認された。とりわけ、アニオン性高分子の中でも、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体及びカルボキシビニルポリマーは、白濁を防止して良好な外観性状を付与する効果が卓越しており、これらの2つの化合物は、本発明で使用されるアニオン性高分子として最も好適であることが確認された。
【0063】
実施例6−40
表7−10に示す組成の基布含浸液を調製し、上記実施例1と同条件で、防腐活性及び外観性状を評価したところ、これらについても、上記実施例1−5と同様に、優れた防腐活性及び良好な外観性状が認められた。
【0064】
【表7】

【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
【表10】

【0068】
実施例42 シート状化粧用パック剤
下記組成の基布含浸液を調製し、該基布含浸液25gを不織布(綿100%、目付60g/m)3gに含浸させることにより、シート状化粧用パック剤を製造した。
【0069】
単位(重量%)
ボラージアミドプロピルPGジモニウムクロリド 0.05
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1
水添C6−12オレフィンポリマー 3
ホホバ種子油 1
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 0.5
ステアリン酸グリセリル 0.2
ステアリン酸ソルビタン 0.15
3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート(IPBC) 0.006
水酸化カリウム pH7に調整
精製水 残部
合計 100
【0070】
実施例43 シート状化粧用パック剤
下記組成の基布含浸液を調製し、該基布含浸液20gを不織布(綿100%、目付60g/m)4gに含浸させることにより、シート状化粧用パック剤を製造した。
【0071】
単位(重量%)
ミリスタミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.2
ブチレングリコール 5
ジプロピレングリコール 2
POE(40)硬化ひまし油 0.5
パルミチン酸レチノ−ル 0.5
グリチルレチン酸ステアリル 0.5
ジステアリン酸スクロース 0.5
水酸化ナトリウム pH7に調整
精製水 残部
合計 100
【0072】
実施例44 人体用ウェットワイパー
下記組成の基布含浸液を調製し、該基布含浸液10gを不織布(パルプ/合成繊維(PET/PE)、目付65g/m)2gに含浸させることにより、人体用ウェットワイパーを製造した。
【0073】
単位(重量%)
リノールアミドプロピルPG-ジモニウムクロリドン酸 0.05
カルボキシビニルポリマー 0.05
ジプロピレングリコール 1
グリセリン 1
3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート(IPBC) 0.006
水酸化カリウム pH7に調整
精製水 残部
合計 100
【0074】
実施例45 人体用ウェットワイパー
下記組成の基布含浸液を調製し、該基布含浸液15gを不織布(パルプ/合成繊維(PET/PE)、目付65g/m)2gに含浸させることにより、人体用ウェットワイパーを製造した。
【0075】
単位(重量%)
コカミドプロピルPG-ジモニウムクロリド 0.05
メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体 0.05
メトキシケイヒ酸エチルへキシル 5
エタノール 2
ジプロピレングリコール 1
ブチレングリコール 1
ジメチコン 0.5
ポリソルベート60 0.5
3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート(IPBC) 0.006
水酸化カリウム pH7に調整
精製水 残部
合計 100
【0076】
実施例46 マスクに装着される含浸フィルター
下記組成の基布含浸液を調製し、該基布含浸液10gを不織布(パルプ/レーヨン積層、パルプ目付600g/m)2gに含浸させることにより、含浸フィルター付マスクに装着される含浸フィルターを製造した。
【0077】
単位(重量%)
ナトリウムヤシPG-ジモニウムクロリドリン酸 0.1
カルボキシメチルセルロース 0.1
香料 0.04
POE(60)硬化ひまし油 0.25
グリセリン 5
ジプロピレングリコール 3
3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバメート(IPBC) 0.006
水酸化カリウム pH7に調整
精製水 残部
合計 100

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性リン脂質及びアニオン性高分子を含有し、且つ抗菌性リン脂質100重量部当たり、アニオン性高分子が100〜1000重量部の比率を満たすことを特徴とする、基布含浸液。
【請求項2】
基布がアニオン性電荷を有するものである、請求項1に記載の基布含浸液。
【請求項3】
基布が不織布である、請求項1又は2に記載の基布含浸液。
【請求項4】
アニオン性高分子が、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、及びポリアクリル酸部分中和物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の基布含浸液。
【請求項5】
抗菌性リン脂質が、アルキルPGジモニウムクロリドリン酸、アルキルアミドプロピルPGジモニウムクロリドンリン酸、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至4のいずれかに記載の基布含浸液。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の基布含浸液が、基布に含浸させていることを特徴とする、含浸製品。
【請求項7】
人体用ウェットワイパー、化粧用パック剤又はマスクに装着される含浸フィルターである、請求項6に記載の含浸製品。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の基布含浸液を、基布に含浸させることを特徴とする、基布への抗菌性リン脂質の吸着抑制方法。

【公開番号】特開2010−229108(P2010−229108A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80485(P2009−80485)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】