説明

吸着部材付き触媒コンバータ

【課題】 吸着部材の耐久性を向上できる吸着部材付き触媒コンバータ1の提供。
【解決手段】 制御部14は、吸着部材2bの離脱終了後は、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とすることで、エンジンa1からの排気の全量をメイン管5に流入させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着部材付き触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した吸着部材付き触媒コンバータの技術が公知になっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−194231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の発明にあっては、吸着部材の離脱終了後においても排気の一部が吸着部材を通過するため、吸着部材の耐久性が低下してしまうという問題点があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、吸着部材の耐久性を向上できる吸着部材付き触媒コンバータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明では、排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した本体と、エンジンからの排気を触媒担体に導くメイン管と、上記メイン管の上流側から分岐してエンジンからの排気を吸着部材に導くバイパス管と、上記メイン管とバイパス管における分岐位置の下流側にそれぞれ設けられる弁と、上記両弁の開閉動作を制御可能な制御部を備え、上記制御部は、エンジンの始動時から排気の温度上昇に伴って吸着部材が離脱温度になるまでは、メイン管の弁を閉じる一方、バイパス管の弁を開いた状態とし、上記吸着部材の離脱温度から触媒担体が活性温度になるまでは、メイン管の弁を開く一方、バイパス管の弁を閉じた状態とし、上記触媒担体が活性温度になってから吸着部材が離脱を終了するまでは、両弁を共に開いた状態とし、上記吸着部材が離脱を終了した後は、メイン管の弁を開く一方、バイパス管の弁を閉じた状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明では、制御部は、吸着部材が離脱を終了した後は、メイン管の弁を開く一方、バイパス管の弁を閉じた状態とするため、吸着部材の離脱終了後において、排気がバイパス管を介して吸着部材を通過することがなく、吸着部材の耐久性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
以下、実施例1を説明する。
図1は実施例1の排気系を示す全体図、図2は実施例1の吸着部材付き触媒コンバータを示す側面図、図3〜6は実施例1の作用を説明する図、図7は実施例1の効果を説明する実験結果を示す図である。
【0009】
先ず、全体構成を説明する。
図1に示すように、実施例1の自動車の排気系は、エンジンa1と、触媒コンバータa2と、吸着部材付き触媒コンバータ1と、センタマフラa3と、リアマフラa4が接続管b1(エキゾーストマニホールド)、b2、b3、b4を介して連結されている。
【0010】
触媒コンバータa2は、公知のものと同様に筒状の本体内に図示を省略する金属触媒担体またはセラミックス製触媒担体が採用される他、エンジンa1側から流入した排気中の有害成分(HC、CO、Nox等)を無害成分(CO2、O等)に浄化して下流側へ排出するものである。
そして、この触媒コンバータa2の下流側には、後述する吸着部材付き触媒コンバータ1が設けられている。
【0011】
図2に示すように、吸着部材付き触媒コンバータ1は、吸着部2及び触媒部3等を有する本体4と、メイン管5と、バイパス管6等が備えられている。
吸着部2は、金属製で円筒状の外筒2aと、この外筒2aに収容された円柱状の吸着部材2bとから構成されている。
なお、吸着部材2bは、公知のものと同様に軸方向へ貫通形成されたセル(図示せず)の表面にゼオライト等の吸着材をコーティングしてなるものが採用されている。
【0012】
外筒2aの上流側端部には、金属製で円筒状のシェル7が連通接続され、さらに、このシェル7の上流側端部は、略お碗状のエンドプレート8で閉塞されている。
これにより、本体4内の吸着部材2bの上流側には室R1が形成されている。
外筒2aの下流側端部には、金属製で円筒状のシェル9が連通接続され、さらに、このシェル9の下流側端部には触媒部3の外筒3aが連通接続されている。
【0013】
触媒部3は、金属製で円筒状の外筒3aと、この外筒3aに収容された円柱状の触媒担体3bとから構成されている。
触媒担体3bは、前述した触媒コンバータa2の触媒担体と同様に、公知の金属触媒担体またはセラミックス製触媒担体が採用されている。
外筒3aの下流側端部には、下流側へ行くにつれて縮径されたディフューザ10が連通接続されると共に、このディフィーザ10の下流側端部には接続管b3と連通接続するためのフランジ11が固定されている。
これにより、触媒担体3bの上流側には室R2が形成されると共に、ここに、仕切部材12が設けられている。
【0014】
仕切部材12は、金属製で略漏斗状に形成される他、その傾斜面には複数の連通穴12aが設けられている。
仕切部材12の下流側端部は、触媒担体3bを覆うように臨んだ状態で配置される一方、上流側端部にはメイン管5の下流側端部が連通接続されている。
【0015】
メイン管5の上流側端部には、接続管b2と連通接続するためのフランジ13が固定される一方、下流側端部はエンドプレート8及び吸着部材2bの中心部を貫通して仕切部材12の上流側端部に連通接続されている。
【0016】
バイパス管6の上流側端部は、メイン管5の上流側から分岐した状態で連通接続される一方、下流側端部はエンドプレート8から室R1に連通接続されている。
【0017】
さらに、メイン管5とバイパス管6における分岐位置の下流側には、弁V1,V2が設けられると共に、これら両弁V1,V2の開閉動作は制御部14によって制御されている。
なお、実施例1の両弁V1,V2は軽量・安価なバタフライ弁が採用されている。
【0018】
また、制御部14は、エンジンコントロールユニット15(ECU15)に電気的に接続されている。
さらに、制御部14は、吸着部材2b及び触媒担体3bの表面温度または下流側雰囲気温度を検出するための温度センサ16,17にも電気的に接続されている。
その他、前述した金属製の構成部材の接合部同士は図示を省略する溶接等により固定されている。
【0019】
次に、作用を説明する。
このように構成された吸着部材付き触媒コンバータ1では、制御部14がECU15からのエンジンa1の稼働状態と各温度センサ16,17の検出結果に基づいて、エンジンa1の始動開始から下記表1のように各弁V1,V2の開閉動作を制御する。
【0020】
【表1】

【0021】
(1)エンジン始動時から吸着部材が離脱温度となるまで
先ず、エンジン始動時から排気の温度が上昇して、吸着部材2bが離脱温度となるまでは、メイン管5の弁V1を閉じる一方、バイパス管6の弁V2を開いた状態とする。
なお、吸着部材2bの離脱温度は一般的に250℃(=温度センサ16の検出結果)以上である。
【0022】
これにより、図3に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をバイパス管6から室R1に流入させた後、吸着部材2bを通過させる。
その後、吸着部材2bを通過して室R2に流入した排気を、室R2の仕切部材12の連通穴12aを介して触媒担体3bに通過させた後、下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bでは通過する排気中の炭化水素を吸着する。
また、排気の温度は低温であるため、触媒コンバータa2の触媒担体及び触媒担体3bは機能しない(表1参照)。
【0023】
従って、エンジン始動時において、触媒コンバータa2の触媒担体及び触媒担体3bが機能していない間に排気中の炭化水素が大気放出されるのを防止できる。
【0024】
(2)吸着部材の離脱温度から触媒担体が活性温度になるまで
次に、吸着部材2bが離脱温度となって触媒担体3bが活性温度になるまでは、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とする。
なお、触媒担体3bの活性温度は一般的に350℃以上(=温度センサ17の検出結果)である。
【0025】
これにより、図4に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をメイン管5から触媒担体3bに通過させて下流側へ排出する。
この際、触媒コンバータa2の触媒担体は活性温度になっており、排気中の炭化水素は触媒コンバータa2の触媒担体によって浄化できるようになっている(表1参照)。
また、仕切部材12によって排気の一部が吸着部材2b側へ吹き返すのを防止できる。
【0026】
(3)触媒担体が活性温度になってから吸着部材が離脱を終了するまで
次に、触媒担体3bが活性温度になってから吸着部材2bが離脱を終了するまでは、両弁V1,V2を共に開いた状態とする。
なお、吸着部材2bの離脱終了は、弁V2を開いてから所定時間後とする。あるいは、室R2に炭化水素濃度を測定するセンサを設けて検出したり、公知のようにECU15からの信号を基に吸着部材2bに残留する炭化水素量を推測して判定するようにしても良い。
【0027】
これにより、図5に示すように、バイパス管6とメイン管5の両方に排気を流入させて、触媒担体3bに通過させた後、下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bでは吸着していた炭化水素を離脱させて下流側へ排出する。
また、触媒担体3bでは、バイパス管6とメイン管5を介して通過する排気中の前述した炭化水素を含む有害成分を無害成分に浄化した後、下流側へ排出する(表1参照)。
【0028】
(4)吸着部材が離脱を終了した後
次に、吸着部材2bが離脱を終了した後は、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とする。
【0029】
これにより、図6に示すように、排気(図中破線で図示)の全量をメイン管5から触媒担体3bに通過させて下流側へ排出する。
この際、吸着部材2bの炭化水素は完全に離脱した初期状態となる。
また、触媒担体3bでは、バイパス管6とメイン管5を介して通過する排気中の有害成分を無害成分に浄化した後、下流側へ排出する(表1参照)。
【0030】
ここで、従来の発明にあっては、吸着部材2bの離脱終了後においても、排気の一部が吸着部材2bを通過するため、吸着部材2bの耐久性が低下してしまうという問題点があった。
【0031】
これに対し、実施例1では、前述したように、吸着部材2bの離脱終了後は、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とすることで、エンジンa1からの排気の全量をメイン管5に流入させるため、排気がバイパス管6を介して吸着部材2bを通過することがなく、吸着部材2bの耐久性を向上できる。
また、吸着部材2bのゼオライト等のコーティング量や触媒担体3bの触媒量を減らすことができ、単体コストを低く抑えることができる。
また、吸着部材2bの離脱終了後の車両通常走行時において、通気抵抗が比較的大きい吸着部材2bに排気を通過させる必要がなく、排気抵抗を軽減して出力向上に貢献できる。
【0032】
次に、前述した(1)〜(4)の場合における時間(Time)と炭化水素の排出量(HC Emission)の関係図を実験等を通じて得られた結果を図7に示す。
図7に示すように、実施例1の発明品は、上述した(3)で触媒担体3bが活性状態になる前に排出される炭化水素の排出量を低く抑えることができる。
【0033】
次に、効果を説明する。
以上、説明したように、実施例1の発明では、制御部14は、吸着部材2bの離脱終了後には、メイン管5の弁V1を開く一方、バイパス管6の弁V2を閉じた状態とすることで、エンジンa1からの排気の全量をメイン管5に流入させるため、吸着部材2bの離脱終了後において、排気がバイパス管6を介して吸着部材2bを通過することがなく、吸着部材2bの耐久性を向上できる。
【0034】
以上、実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
例えば、実施例1では、吸着部2と触媒部3を別体で構成して連通接続したが、共用の筒状の本体4にこれらを収容することもできる。
【0035】
また、実施例1では、吸着部材2bや触媒担体3bの温度を温度センサ16,17によって直接検出したが、その他の各種センサを用いて検出したり、ECU15からの情報に基づいて推測しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1の排気系を示す全体図である。
【図2】実施例1の吸着部材付き触媒コンバータを示す側面図である。
【図3】実施例1の作用を説明する図である。
【図4】実施例1の作用を説明する図である。
【図5】実施例1の作用を説明する図である。
【図6】実施例1の作用を説明する図である。
【図7】実施例1の効果を説明する実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
a1 エンジン
a2 触媒コンバータ
a3 センタマフラ
a4 リアマフラ
b1、b2、b3、b4 接続管
R1、R2 室
V1、V2 弁
1 吸着部材付き触媒コンバータ
2 吸着部
2a 外筒
2b 吸着部材
3 触媒部
3a 外筒
3b 触媒担体
4 本体
5 メイン管
6 バイパス管
7 シェル
8 エンドプレート
9 シェル
10 ディフィーザ
11 フランジ
12 仕切部材
12a 連通穴
13 フランジ
14 制御部
15 エンジンコントロールユニット(ECU)
16、17 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気中の炭化水素を吸着・離脱可能な吸着部材と、この吸着部の下流側に連通した状態で配置され、排気を浄化可能な触媒担体とを収容した本体と、
エンジンからの排気を触媒担体に導くメイン管と、
前記メイン管の上流側から分岐してエンジンからの排気を吸着部材に導くバイパス管と、
前記メイン管とバイパス管における分岐位置の下流側にそれぞれ設けられる弁と、
前記両弁の開閉動作を制御可能な制御部を備え、
前記制御部は、エンジンの始動時から排気の温度上昇に伴って吸着部材が離脱温度になるまでは、メイン管の弁を閉じる一方、バイパス管の弁を開いた状態とし、
前記吸着部材の離脱温度から触媒担体が活性温度になるまでは、メイン管の弁を開く一方、バイパス管の弁を閉じた状態とし、
前記触媒担体が活性温度になってから吸着部材が離脱を終了するまでは、両弁を共に開いた状態とし、
前記吸着部材が離脱を終了した後は、メイン管の弁を開く一方、バイパス管の弁を閉じた状態とすることを特徴とする吸着部材付き触媒コンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174342(P2009−174342A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11458(P2008−11458)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】