吸音構造体用部材及び吸音構造体
【課題】 吸音構造体を製造するに際し、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択や構造体自体の透明化を可能とすると共に、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持する、新規な吸音構造体用部材及びそれを用いた吸音構造体の提供。
【解決手段】 所定の測定方法に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、所定の測定方法に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材。
【解決手段】 所定の測定方法に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、所定の測定方法に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸音性能を示す吸音構造体(例えば、壁、窓、天井)と、当該吸音構造体の構成パーツである吸音構造体用部材に関する。特に、本発明は、吸音構造体を製造するに際し、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択や構造体自体の透明化を可能とすると共に、空気層が無くとも高い吸音特性を維持する、新規な吸音構造体用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
美術館や博物館をはじめ、文化施設や展示施設にシンプルで継ぎ目のない内装材料を使いたいという建築設計の要望には根強いものがある。そのため、これらの空間の内装にはコンクリートや金属材料等など、反射性の固い材料が選ばれることになる。結果として、静けさを必要とする室内音響の要求条件からは程遠い、残響が長く鳴竜(フラッタエコ)などの音響障害に悩まされる空間となるケースがほとんどだった。また、室内プールの天井などについても、水に強い材料をということで、同様に反射性の固い材料が使われることが多く、響きの多い、場内アナウンスなどの明瞭度が悪い空間条件になることが多かった。
【0003】
これらは全て、固い質感の吸音構造体用部材が不在であることに起因しており、この事実はこれまで建築家の強い要望を阻んできた。固い質感の吸音材料、というだけであれば軽石や発泡成形された金属等がある程度の吸音性を示すので、用途によっては使えないことはない。しかし、これらの表面は凸凹しており平滑とは言いがたく、吸音率も中程度で中途半端の域を免れ得なかった。「固くて平滑な表面を持ち、高い吸音率を示す部材(構造)」という建築業界の要求は、「静かでシンプルな室内表面」を有する美術館や博物館を実現したい、或いは、室内拡声設備の明瞭度が良い室内プールを提供したい、といった切実かつ現実的なニーズから発しており、永きに亘り実現が待たれる対象技術であったが、これら視覚条件と音響条件を同時に満たすアイデアや工業技術が浮上しなかった。
【0004】
ところで、従来の吸音材はグラスウールやフェルト・カーペット・カーテン等に代表されるように、物理的な質感は「柔らかく」、固い(硬い)イメージからは程遠いものがほとんどであった。防振床材として使われる高密度グラスウールボード(例:96kg/m3)や天井吸音材として一般的な岩綿吸音板(商品例:ミネラートン・ダイロートン)などは、ある程度の固さを有しているものの、指で押せば変形するなど強度的にも「固い」とは言えず、吸音特性としてもグラスウールより低い、あるいは吸音に関わる周波数範囲が狭くなっている。
【0005】
一方、これを打破するために開発された発泡金属板や金属焼結板の場合、吸音特性に加え遮音性や電磁シールド性などを併せ持つ一方で、表面は概して平滑でなく細かいながら凸凹しており、美術館や博物館の内装には向かない。吸音特性も、空気層と組み合わせればグラスウールに準ずる特性を示すが、一般的にはグラスウールより低く、また、価格的にも高めである。価格を下げるために開発された多孔質石材(商品名:クーストーン(COUSTONE)/イングランド産フリントストーンを粉砕し特殊樹脂で固めた軽石状の材料、発泡バーミキュライト/中国産のバーミキュライトを原石と混ぜて800〜1500℃で焼結加工した吸音性・保温性などを持つ育苗用軽石、等)もあるが、金属板と同様に表面はざらざらしており強度的には脆く、吸音特性もグラスウールよりは低く狭帯域のため、室内用吸音材料としては使いにくい嫌いがある。
【0006】
また、穿孔板として現在最も普及している有孔合板(有孔ベニヤ)は、選択吸音性で特定の周波数帯域だけを吸音するので使いにくく、更に最近では穴あきという外観が好まれず内装として使われる機会が減ってきている。表面に通気性のクロスを配置するという回避手段もあるが、孔の部分が空気の出入で汚れ黒ずむなど視覚的な問題を誘発している。孔の径を1mm以下にしたMPP(Multi−perforated Panel)の場合は、開口率は更に低く音響透過性という視点からは異なる範疇の材料と位置づけられるが、背後空気層にグラスウールを充填した「ヘルムホルツ型吸音構造」に対し、決定的に差別化できる特徴が無い。ここで、孔径が1mm以下である場合は、空気の粘性による減衰と開口端での反射減衰により音響透過率が減少すると言われている。より詳しくは、図1に示すように、開放端の反射における減音量にはfl=cl/λに依存する関係があり、微小な開孔では低周波数帯域の音が通過せずに反射されやすくなる、つまり、0.5mm以下の径を有する孔を100Hz以下の低周波数帯域の音が通過することは理論上困難である(非特許文献1)。孔径を小さくしようとすると、理論上低周波数帯域の音ほど通過し難くなると言われており、設計上の限界があると考えられている。
【0007】
【非特許文献1】「建築の音響設計<新訂版>/日本建築学会設計計画パンフレット4」P40/図5(日本建築学会編/彰国社刊)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、吸音構造体を製造するに際し、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択や構造体自体の透明化を可能とすると共に、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持する、新規な吸音構造体用部材及びそれを用いた吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(1)は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材である。
(測定方法1):無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
(測定方法2):JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【0010】
本発明(2)は、前記板状部材が、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0011】
ここで、図7及び図8を参照しながら、本発明(2)に係る硬質板が本発明(1)で規定する性質を有する原理を説明する。ここで、図7中、上側が平面図、下側は断面図である。まず、図7の左図に示すように、開口が1個の場合は開口部分でインピーダンスが急変し、かつ、空気の粘性も作用するため、断面の左側から到来した音は車や空調の消音器と同様、反射して穴(開口)を通過することができない。この孔を数個に増やしても状況は変わらず、図7の中図に示すように、音は「遮断」(遮音)され見かけ上の材料の遮音性、即ち、ほぼ母材の透過損失TL(dB)を維持する。しかし、図7の右図に示すように、この孔の数を開口率Pを一定に保ったまま増やしていき、開口径が1〜500μmとなると、各隣接開口間の距離もそれに伴って小さくなり、透過する音響エネルギーが急増し、Pが50%以下でも(つまり100%をはるかに下回るのに)、広い周波数にわたり「音響全透過」、即ち材料の一方に入射した音響エネルギーのほとんどが反対側に透過する現象を示すようになる。この全音響透過状態では、波動としての音響エネルギーが競合し合い、波動的に連携作用して開口面積以上に透過する(開口面積に対し過剰透過する)ものと考えられる。また、音響物理学的な面からは、波動方程式を展開する時の仮定としてしか存在しなかった材料境界面の性質、「局所作用的」性質を理想的な形で有する初めての材料となる。材料が「局所作用的」とは、材料表面において境界面に垂直な粒子速度成分Vnと音速との比、すなわちノーマル音響インピーダンスZnが入射角によらず材料の特定インピーダンスZに等しい、という性質で、この場合、VnはVn=p/Zのように計算できる。物理的には音がどの方向から材料に入射しても全て表面に垂直な成分に変換される性質、つまり、多くの微細管を並べたハニカム構造のような性質をいう。上記の「吸音板」は微小径の孔を無数に穿孔することになるので、結果的に「局所作用的」となる。「局所作用的」のイメージを図8に示す。
【0012】
本発明(3)は、前記硬質板が透明又は透光性の材料からなる、前記発明(2)の吸音構造体用部材である。
【0013】
本発明(4)は、前記シート状部材が、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0014】
本発明(5)は、前記シート状部材が、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されているフッ素繊維紙である、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0015】
本発明(6)は、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する吸音構造体である。
【0016】
本発明(7)は、前記発明(3)の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に空気層を有する、採光吸音天井又は採光吸音窓である吸音構造体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明(1)及び(6)によれば、吸音構造体を製造するに際し、所定のパラメータについて所定の範囲内にある板状部材又はシート状部材を吸音構造体用部材として採用すれば、高い吸音特性を有する吸音構造体を提供することができるので、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料・透明な吸音構造体といった、ニーズに応じた自由な性質を吸音構造体に付加できるという効果を奏する。更には、本発明(1)によれば、当該吸音構造体用部材を採用すれば、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持する吸音構造体とすることができる結果、吸音材と貼り合わせた自立性のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明(2)によれば、前記効果に加え、数十cm程度にまで近づいても孔の開口部をほとんど視認できない硬質板を使用するので、従来は吸音特性との関係で採用することが問題であった、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択が可能になるという効果を奏する。尚、開口率が一定の範囲内において孔径を極限まで十分小さくすることにより、波長の増加と共に音響透過し難くなるという従来常識とは逆に、音響透過しやすくなり、ついには全帯域で全音響透過性を示すという事実は、当業者にとって予想外のことである。
【0019】
本発明(3)によれば、前記効果に加え、硬質板が透明又は透光性材料からなる(例えばアクリル板)ので、視覚的には孔径が極めて小さく、ひとつひとつを開口として認められないばかりでなく、うっすらと曇った感じが加わるのみで、「固い平滑な表面」を有する音響的にも視覚的にも「無」に近い吸音板を提供することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明(4)によれば、前記効果に加え、吸音構造体用部材として金属繊維シートを採用するよう構成されているので、防水効果のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
本発明(5)によれば、前記効果に加え、吸音構造体用部材としてフッ素樹脂繊維紙を採用するよう構成されているので、防水効果のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明(7)によれば、前記効果に加え、透明又は透光性材料と空気層との組み合わせで吸音構造体を構築しているので、美術館や博物館で「透光性や透明性のある吸音天井」を構成したり、或いは、室内プール等で「水や湿気に強い吸音天井」を提供して明瞭度の高い拡声音質を確保したりすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、まず、本発明に係る吸音構造体用部材を説明し、次いで、本発明に係る吸音構造体を説明することとする。尚、本発明の技術的範囲は、以下で説明する最良形態には限定されない。
【0024】
吸音構造体用部材
本発明に係る吸音構造体用部材は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる。
測定方法1:無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
測定方法2:JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【0025】
ここで、上記性質を有する板状部材又はシート状部材としては、所定構造の硬質板、金属繊維シート及びフッ素繊維紙を挙げることができる。以下、これらを順に説明することとする。
【0026】
≪所定構造の硬質板≫
当該所定構造の硬質板は、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である。以下、各要件を詳述する。
【0027】
(材料)
硬質板として用いられる材料は、特に限定されず、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、アリル−スチレン共重合体(ABS)等のプラスチック製板、ガラス板、鉄、アルミニウム、鉛等の金属製板、等が挙げられる。ここで、用途として例えば採光吸音天井や採光吸音窓の一部材としてこの吸音構造体用部材を用いる場合には、硬質板は、透明又は透光性の材料からなることが好適である。
【0028】
(構造−厚さ)
硬質板の厚さは、硬質板の厚さと微細孔の孔径との関係を満たす範囲において特に制限はないが、0.1〜100mmが好ましく、より好ましくは1〜60mmである。0.1mm未満では強度上の問題が発生し易くなり、100mmを超えると、0.5mm以下の径の長い貫通孔を板面に開けることの困難性が高くなるからである。
【0029】
(構造−孔径)
硬質板に設けられる微細孔の径は、1〜500μm、好ましくは50〜500μm、より好ましくは100〜300μmである。長径が1μm未満でも特に問題がないが、製造技術上の困難性が高くなり、高価となってしまう。長径が500μmを超えると硬質板へ近づいた際に開口部を視認し易くなり、美観上の欠点を生じやすくなるだけでなく、吸音構造体用部材の表面に通気性のクロス等を配置した場合、孔の部分が空気の出入りで汚れ、黒ずむなどの視覚的問題の原因ともなり易い。
【0030】
(構造−厚さ/孔径比)
硬質板の厚さ/孔径の比は、1〜200、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜5である。
【0031】
(開口率)
硬質板に設けられる孔の開口率は、単位面積あたりに存在する孔の開口面積の合計を単位面積で除した値を100分率で表示した値である。開口率は、3〜50%が好ましく、より好ましくは5〜30%である。開口率が50%を超えることに理論上問題はなく、孔が完全円形の場合は理論上78.5%まで開口可能であるが、実際には50%を超えると強度を保った状態で開口することが難しい。開口率が3%未満でも用途によっては問題ない場合もあるが、300Hz以下の低周波帯域の音が通過し難くなる。
【0032】
(製造方法)
本発明に係る硬質板の製造方法は、特に制限はないが、機械式ドリル、レーザー光線や電熱器等による手法やエッチングによる手法等により硬質板に孔を開ける方法を挙げることができる。
【0033】
≪金属繊維シート≫
当該金属繊維シートは、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである。以下、各要件を詳述する。尚、当該金属繊維シート及びその製造方法として、特開2000−80591、特許2649768及び特許2562761の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。
【0034】
(材料)
1種又は2種以上の金属繊維とは、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、チタン、ニッケル、金、白金、鉛等の金属材料を素材とする繊維から選択される1種又は2種以上の組み合わせである。
【0035】
(構造)
当該金属繊維シートは、金属繊維が互いに交絡した構造を採っている。また、当該金属繊維を構成する金属繊維は、1μm〜50μm、好ましくは8μm〜20μmの繊維径を有し、かつアスペクト比が500〜3000のものが好ましく、さらに好ましくは、アスペクト比が1000〜2000のものである。このような金属繊維であれば、金属繊維同士を交絡させるのに好適であり、また、このような金属繊維同士を交絡させることにより、表面がけば立ちの少ない金属繊維シートとすることが可能となる。
【0036】
(製造方法)
本発明に係る金属繊維シートの製造方法は、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法によりシート形成する際に、網上の水分を含んだシートを形成している前記金属繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を含んで構成される。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、抄紙後の金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維同士を交絡させることが可能である。即ち、湿式抄紙により平面方向に不規則に交差した金属繊維で構成されるシートに、例えば、高圧ジェット水流をシートのZ軸方向に噴射することにより、高圧ジェット水流が噴射された部分の金属繊維がZ軸方向に配向する。このZ軸方向に配向した金属繊維が平面方向に不規則に配向した金属繊維間に絡みつき、各繊維が互いに三次元的に絡み合った状態、すなわち交絡することで物理的強度を得ることができるものである。また、抄造方法は、例えば、長網抄紙、円網抄紙、傾斜ワイヤ抄紙等、必要に応じて種々の方法を採用することができる。尚、長繊維の金属繊維を含むスラリーを製造する場合、金属繊維の水中での分散性が悪くなることがあるので、造粘作用のあるポリビニールピロリドン、ポリビニールアルコール、CMC等の高分子水溶液を少量添加してもよい。また、金属繊維シートの製造方法は、上述した湿式抄造工程後、得られた金属繊維シートを真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含んで構成されるのが好ましい。すなわち、上述した湿式抄造工程後、焼結工程が行われれば、繊維交絡処理が施されるため、金属繊維シートに有機バインダ等を添加する必要がないので、有機バインダ等の分解ガスが焼結工程において障害となることもなく、金属特有の光沢面を有する金属繊維シートを製造することが可能となる。また、金属繊維が交絡しているので、焼結後の金属繊維シートの強度を一層向上することが可能となる。
【0037】
≪フッ素繊維紙≫
当該フッ素繊維紙は、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されている紙である。尚、当該フッ素繊維紙及びその製造方法として、特開昭63−165598の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。以下、各要素を詳述する。
【0038】
(材料)
本発明に係るフッ素繊維は、熱可塑性フッ素樹脂から製造されるもので、その主成分としてはPTFE、TFE、PFE、FEP、ETFE、PVDF、PCTFE、PVFがあるが、フッ素樹脂から作られたものであればこれらに限定されるものではなく、さらにこれら或いは他の樹脂と混合して使用することもできる。ここで、当該フッ素繊維は、湿式抄紙法により紙状物とするために、繊維長が1〜20mmの単繊維であることが好適であり、また、その繊維径は2〜30μmであることが好適である。
【0039】
(製造方法)
本発明に係るフッ素繊維紙は、フッ素繊維と自己接着機能を有する物質とを湿式抄造法により混抄し乾燥して得たフッ素繊維混抄紙を、フッ素繊維の軟化点以上で熱圧着してフッ素繊維の繊維間を熱融着させた後、自己接着機能を有する物質を溶媒により溶解除去し、必要により再乾燥することにより製造することができる。ここで、自己接着機能を有する物質としては、通常製紙用として用いられる木材、綿、麻、わら等の植物繊維からなる天然パルプ、PVA、ポリエステル、芳香族ポリアミド、アクリル系、ポリオレフィン系の熱可塑性合成高分子からなる合成パルプや合成繊維、更に天然高分子や合成高分子からなる製紙用紙力増強剤等を用いることができるが、自己接着性の機能があってフッ素繊維と混在して水に分散できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0040】
吸音構造体用部材の物性
本発明に係る吸音構造体用部材は、前述のパラメータ特性(周波数特性の差が10dB以内、α0変化が0.10以下)に加え、当該吸音構造体用部材を用いて吸音構造体を構築すると、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持するという性質を有する。
【0041】
吸音構造体
本発明に係る吸音構造体は、前述の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する。ここで、吸音材としては、特に限定されず、グラスウール等の汎用されているものが使用可能である。当該母材の選択・背後空気層の調整・背後吸音材の選定、等により種々の調整・制御が可能であり、用途に応じて多くの形態が考えられる。例えば、建築・構造物のみならず、自動車、電車、航空機等の輸送機器等、騒音対策、音響対策、音響調整を要する用途に幅広く用いることができる。
【0042】
ここで、吸音構造体用部材として硬質材を使用した場合、図9のように「固い表面を持つ吸音面」を有する吸音構造体を構築することが可能となる。また、吸音構造体部材として透明又は透光性の硬質材を選択し、かつ、当該硬質材の背後に空気層を形成する(即ち、吸音材を設けない)と、図10のように「透明で固い吸音構造体部材」を有する吸音構造体を構築することが可能になる。表1は、図9及び図10に示した態様の構成例及び用途例である。
【表1】
【実施例】
【0043】
実施例1及び2並びに比較例1及び2{吸音構造体用部材(硬質材)}
(製造例)
厚さ10mm、100mm四方の透明アクリル板に、CO2レーザー装置、電動ドリル、NC旋盤を適宜用いて、表2のとおり比較例1及び2の吸音構造体用部材を作製した。そして、厚さ2mm、100mm四方のアルミ板に、電動ドリルを用いて開孔させ、実施例1の吸音構造体用部材を作製した。
【表2】
【0044】
(吸音特性確認試験)
作成した実施例及び各比較例の吸音構造体用部材について、各々その吸音特性を確認した。確認方法は、伝送周波数特性と垂直入射吸音率により行なった。
【0045】
伝送周波数特性については、図2に示すように、有効径10cmのスピーカー1を取り付けた約2250cm3の発音装置の前面に、各実施例及び各比較例の吸音構造体用部材2を設置し、スピーカー1前面より1500mmの位置に設置したマイク3で測定される伝送周波数特性を測定し、その変化を確認した。スピーカー1には、略100Hzから10kHzまで、周波数変調を掛けない正弦波スイープを信号として用いた。測定した結果を図3〜4に示す。図3は実施例1の吸音構造体用部材を設置した時及びサンプルを設置しなかった時(コントロール)の測定結果、図4は比較例1及び2の吸音構造体用部材を設置した時の伝送周波数特性の測定結果である。明らかなように、図4の各測定値はコントロールの波形とは異なり、スピーカーに入力された音の大半が、各比較例の吸音板を透過できなかった結果である。それに対し、実施例1の吸音構造体の場合は、図3からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している{尚、図3では、コントロール(実線)と実施例1(点線)とが略重複している}。
【0046】
垂直入射吸音率(α0)については、JIS A1405−2に従い、図5に示す装置を用い、A−A線の位置にサンプルを設置して測定した。音響管の内径は44.8mm、吸音材として96Kg/m3グラスウール吸音材を使用し、マイク1とマイク2として1/2インチコンデンサマイクロホンを用いて間隔を7cmとした。その結果を図6に示す。図6は、コントロール(サンプルなし)、実施例1の吸音構造体用部材、をそれぞれ用いた場合の垂直入射吸音率の測定結果である。背後のグラスウール吸音材のみの場合に準じる特性となっている。特に、1kHzから2kHzでは吸音材だけのときよりも吸音率が高くなっており、これは音波に対する試料と吸音材の相乗効果と考えられる。
【0047】
実施例2(金属繊維シート)
(製造例)
表3に示す膜厚にした点を除いては特許2562761の実施例1と同様の手法で、実施例2に係る金属繊維シートを製造した。
【0048】
(吸音特性確認試験)
実施例と同様の手法で、伝送周波数特性及び垂直入射吸音率を測定した。その結果を図11及び図12にそれぞれ示す。まず、図11は、実施例2の吸音構造体用部材の伝送周波数特性を示した図である。ここで、当該図中、(1)がコントロール、(2)が実施例2の吸音構造体用部材である。尚、図11では、コントロール(1)と実施例2(2)とが略重複している。このように、実施例2の吸音構造体用部材の場合は、図11からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している。次に、図12の左側は、実施例2の吸音構造体用部材の垂直入射吸音率である。ここで、当該図中、(1)がコントロール(シートなし)、(6)が実施例2の吸音構造体用部材である。このように、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さいことが確認された。
【0049】
実施例3(フッ素繊維シート)
(製造例)
表3に示す膜厚にした点を除いては特開昭63−165598の実施例1と同様の手法で、実施例3に係るフッ素繊維シート(フッ素樹脂系繊維シート)を製造した。
【0050】
(吸音特性確認試験)
実施例と同様の手法で、伝送周波数特性及び垂直入射吸音率を測定した。その結果を図11及び図12にそれぞれ示す。まず、図11は、実施例3の吸音構造体用部材の伝送周波数特性を示した図である。ここで、当該図中、(1)がコントロール、(3)が実施例3の吸音構造体用部材である。尚、図11では、コントロール(1)と実施例3(3)とが略重複している。このように、実施例3の吸音構造体用部材の場合は、図11からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している。次に、図12の左側は、実施例3の吸音構造体用部材の垂直入射吸音率である。ここで、当該図中、(1)がコントロール(シートなし)、(7)が実施例3の吸音構造体用部材である。このように、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さいことが確認された。
【0051】
実施例5(空気層有無での吸音特性確認試験)
各種多孔質シートとグラスウール吸音材を試料とした垂直入射吸音率を測定した。ここで、各種多孔質シートしては、実施例2の金属繊維シートと実施例3のフッ素繊維シートの他、汎用の各種多孔質シートを比較のため試験した。
【0052】
≪測定方法≫
(垂直入射吸音率とシートの位置)
シートを設置しそれより2cm後方に厚さ5cmの32Kg/m3のグラスウールを置いた場合と、装置の終端を2cm短くしシートと吸音材を密着させた場合、とを測定した。1/2インチのコンデンサマイクロホン(B&K4133)を7cm間隔で設置し、この2本の伝達関数から吸音率を測定した。音源として中心周波数250、500、lk、2kHzの1Oct.バンドノイズを雑音発生器(NODE7030)から入力した。音速は室温から計算で求めた。測定できる周波数は300Hzから2kHzである。マイクロホン出力はプリアンプで増幅後、A/D)変換器で20秒程度パソコンに取り込んだ。サンプリング周波数はそれぞれ、中心周波数500Hzまでは2048Hzとし、1kHzでは4096Hz、2kHzでは8192Hzとした。
【0053】
吸音率αの算出手順は以下のとおりである:マイク1,2の512点FFT(ハニング窓)を求め、自己相関(マイク1)と相互相関を求めた後、20回の平均から伝達関数H12を求める。αはこれより、式(1)のように算出することができる。
【式1】
【0054】
【0055】
(シートの特性)
シートのそれぞれの特性を表3に示す。透気度(紙の一定面積を一定量の空気が一定圧力の下で通過するのにかかる時間)はs(秒)/100mlである。各試料は、装置の内径とほぼ同じ大きさのO型リングを作成し、そのリングにシートを貼り付けて使用した。
【表3】
【0056】
(測定結果)
垂直入射吸音率の測定結果を吸音材のみ(試料なし)を含めて図12に示す。図12(左)には、シートと厚さ5cmの吸音材の間に空隙2cmを設けてある結果を示し、図12(右)には、シートと吸音材との間に空隙を設けない結果を示している。また、(a)にはシートなしと試料1、2、8及び3における結果を示し、(b)にははシートなしと試料4、5、7(実施例3のフッ素繊維シート)、6(実施例2の金属繊維シート)の結果を示す。その結果、図12(左)の「空隙2cmあり」の結果では、まず、開孔のない印刷用紙はシートなしと比較することにより、吸音率が低域でも高域でもかなり低下することがわかる。一方、試料1〜5はシートなしと比較して各周波数における吸音率が多少変化するが、試料8(印刷用紙)と比較すると吸音率に大きな変化が生じず、「全音響透過」に近い傾向を示す。また、本実施例に係る試料6及び7に関しても、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さく、「全音響透過」であることが確認できた。他方、図12(右)に示す「空隙なし」の結果では、シートなしと比較して、試料1〜5及び8においては、吸音率が下がる傾向が見られた。しかし、本実施例に係る試料6及び7においてはシートなしとほぽ同じ吸音率を示し、他の試料と比べて際だった「全音響透過」であることが確認できた。グラスウール吸音材は、低い周波数では空.気のインピーダンスからずれていく。また、グラスウール表面の見え方が、シートを直接接触させると異なることが予想されるが、試料6及び7では、他のシートより透気度が低いことが「全音響透過」となっていると思われる。このように、本実施例に係る試料6及び7に係るシートでは、空隙の有無にかかわらず「全音響透過」であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】開放端の反射による減音量(ASHRAE)
【図2】音響透過性(伝送周波数特性)測定方法の概略図
【図3】実施例1及びブランクの伝送周波数特性測定結果
【図4】比較例1及び2の伝送周波数特性測定結果
【図5】垂直入射吸音率測定装置の概略図
【図6】実施例1の垂直入射吸音率の測定結果
【図7】本発明の原理図
【図8】本発明の原理図(「局所作用的」のイメージ)
【図9】固い表面を持つ吸音材の例を示した図
【図10】透明で固い表面を持つ吸音材の例を示した図
【図11】実施例2、実施例3及びブランクの伝送周波数特性測定結果
【図12】実施例2及び3の垂直入射吸音率の測定結果(+空隙の有無と吸音効果の確認図)
【符号の説明】
【0058】
1 スピーカー
2 サンプル
3 マイク
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸音性能を示す吸音構造体(例えば、壁、窓、天井)と、当該吸音構造体の構成パーツである吸音構造体用部材に関する。特に、本発明は、吸音構造体を製造するに際し、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択や構造体自体の透明化を可能とすると共に、空気層が無くとも高い吸音特性を維持する、新規な吸音構造体用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
美術館や博物館をはじめ、文化施設や展示施設にシンプルで継ぎ目のない内装材料を使いたいという建築設計の要望には根強いものがある。そのため、これらの空間の内装にはコンクリートや金属材料等など、反射性の固い材料が選ばれることになる。結果として、静けさを必要とする室内音響の要求条件からは程遠い、残響が長く鳴竜(フラッタエコ)などの音響障害に悩まされる空間となるケースがほとんどだった。また、室内プールの天井などについても、水に強い材料をということで、同様に反射性の固い材料が使われることが多く、響きの多い、場内アナウンスなどの明瞭度が悪い空間条件になることが多かった。
【0003】
これらは全て、固い質感の吸音構造体用部材が不在であることに起因しており、この事実はこれまで建築家の強い要望を阻んできた。固い質感の吸音材料、というだけであれば軽石や発泡成形された金属等がある程度の吸音性を示すので、用途によっては使えないことはない。しかし、これらの表面は凸凹しており平滑とは言いがたく、吸音率も中程度で中途半端の域を免れ得なかった。「固くて平滑な表面を持ち、高い吸音率を示す部材(構造)」という建築業界の要求は、「静かでシンプルな室内表面」を有する美術館や博物館を実現したい、或いは、室内拡声設備の明瞭度が良い室内プールを提供したい、といった切実かつ現実的なニーズから発しており、永きに亘り実現が待たれる対象技術であったが、これら視覚条件と音響条件を同時に満たすアイデアや工業技術が浮上しなかった。
【0004】
ところで、従来の吸音材はグラスウールやフェルト・カーペット・カーテン等に代表されるように、物理的な質感は「柔らかく」、固い(硬い)イメージからは程遠いものがほとんどであった。防振床材として使われる高密度グラスウールボード(例:96kg/m3)や天井吸音材として一般的な岩綿吸音板(商品例:ミネラートン・ダイロートン)などは、ある程度の固さを有しているものの、指で押せば変形するなど強度的にも「固い」とは言えず、吸音特性としてもグラスウールより低い、あるいは吸音に関わる周波数範囲が狭くなっている。
【0005】
一方、これを打破するために開発された発泡金属板や金属焼結板の場合、吸音特性に加え遮音性や電磁シールド性などを併せ持つ一方で、表面は概して平滑でなく細かいながら凸凹しており、美術館や博物館の内装には向かない。吸音特性も、空気層と組み合わせればグラスウールに準ずる特性を示すが、一般的にはグラスウールより低く、また、価格的にも高めである。価格を下げるために開発された多孔質石材(商品名:クーストーン(COUSTONE)/イングランド産フリントストーンを粉砕し特殊樹脂で固めた軽石状の材料、発泡バーミキュライト/中国産のバーミキュライトを原石と混ぜて800〜1500℃で焼結加工した吸音性・保温性などを持つ育苗用軽石、等)もあるが、金属板と同様に表面はざらざらしており強度的には脆く、吸音特性もグラスウールよりは低く狭帯域のため、室内用吸音材料としては使いにくい嫌いがある。
【0006】
また、穿孔板として現在最も普及している有孔合板(有孔ベニヤ)は、選択吸音性で特定の周波数帯域だけを吸音するので使いにくく、更に最近では穴あきという外観が好まれず内装として使われる機会が減ってきている。表面に通気性のクロスを配置するという回避手段もあるが、孔の部分が空気の出入で汚れ黒ずむなど視覚的な問題を誘発している。孔の径を1mm以下にしたMPP(Multi−perforated Panel)の場合は、開口率は更に低く音響透過性という視点からは異なる範疇の材料と位置づけられるが、背後空気層にグラスウールを充填した「ヘルムホルツ型吸音構造」に対し、決定的に差別化できる特徴が無い。ここで、孔径が1mm以下である場合は、空気の粘性による減衰と開口端での反射減衰により音響透過率が減少すると言われている。より詳しくは、図1に示すように、開放端の反射における減音量にはfl=cl/λに依存する関係があり、微小な開孔では低周波数帯域の音が通過せずに反射されやすくなる、つまり、0.5mm以下の径を有する孔を100Hz以下の低周波数帯域の音が通過することは理論上困難である(非特許文献1)。孔径を小さくしようとすると、理論上低周波数帯域の音ほど通過し難くなると言われており、設計上の限界があると考えられている。
【0007】
【非特許文献1】「建築の音響設計<新訂版>/日本建築学会設計計画パンフレット4」P40/図5(日本建築学会編/彰国社刊)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、吸音構造体を製造するに際し、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択や構造体自体の透明化を可能とすると共に、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持する、新規な吸音構造体用部材及びそれを用いた吸音構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(1)は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材である。
(測定方法1):無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
(測定方法2):JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【0010】
本発明(2)は、前記板状部材が、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0011】
ここで、図7及び図8を参照しながら、本発明(2)に係る硬質板が本発明(1)で規定する性質を有する原理を説明する。ここで、図7中、上側が平面図、下側は断面図である。まず、図7の左図に示すように、開口が1個の場合は開口部分でインピーダンスが急変し、かつ、空気の粘性も作用するため、断面の左側から到来した音は車や空調の消音器と同様、反射して穴(開口)を通過することができない。この孔を数個に増やしても状況は変わらず、図7の中図に示すように、音は「遮断」(遮音)され見かけ上の材料の遮音性、即ち、ほぼ母材の透過損失TL(dB)を維持する。しかし、図7の右図に示すように、この孔の数を開口率Pを一定に保ったまま増やしていき、開口径が1〜500μmとなると、各隣接開口間の距離もそれに伴って小さくなり、透過する音響エネルギーが急増し、Pが50%以下でも(つまり100%をはるかに下回るのに)、広い周波数にわたり「音響全透過」、即ち材料の一方に入射した音響エネルギーのほとんどが反対側に透過する現象を示すようになる。この全音響透過状態では、波動としての音響エネルギーが競合し合い、波動的に連携作用して開口面積以上に透過する(開口面積に対し過剰透過する)ものと考えられる。また、音響物理学的な面からは、波動方程式を展開する時の仮定としてしか存在しなかった材料境界面の性質、「局所作用的」性質を理想的な形で有する初めての材料となる。材料が「局所作用的」とは、材料表面において境界面に垂直な粒子速度成分Vnと音速との比、すなわちノーマル音響インピーダンスZnが入射角によらず材料の特定インピーダンスZに等しい、という性質で、この場合、VnはVn=p/Zのように計算できる。物理的には音がどの方向から材料に入射しても全て表面に垂直な成分に変換される性質、つまり、多くの微細管を並べたハニカム構造のような性質をいう。上記の「吸音板」は微小径の孔を無数に穿孔することになるので、結果的に「局所作用的」となる。「局所作用的」のイメージを図8に示す。
【0012】
本発明(3)は、前記硬質板が透明又は透光性の材料からなる、前記発明(2)の吸音構造体用部材である。
【0013】
本発明(4)は、前記シート状部材が、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0014】
本発明(5)は、前記シート状部材が、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されているフッ素繊維紙である、前記発明(1)の吸音構造体用部材である。
【0015】
本発明(6)は、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する吸音構造体である。
【0016】
本発明(7)は、前記発明(3)の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に空気層を有する、採光吸音天井又は採光吸音窓である吸音構造体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明(1)及び(6)によれば、吸音構造体を製造するに際し、所定のパラメータについて所定の範囲内にある板状部材又はシート状部材を吸音構造体用部材として採用すれば、高い吸音特性を有する吸音構造体を提供することができるので、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料・透明な吸音構造体といった、ニーズに応じた自由な性質を吸音構造体に付加できるという効果を奏する。更には、本発明(1)によれば、当該吸音構造体用部材を採用すれば、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持する吸音構造体とすることができる結果、吸音材と貼り合わせた自立性のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明(2)によれば、前記効果に加え、数十cm程度にまで近づいても孔の開口部をほとんど視認できない硬質板を使用するので、従来は吸音特性との関係で採用することが問題であった、本来的に反射性の固い材料・平滑な固い質感の材料の選択が可能になるという効果を奏する。尚、開口率が一定の範囲内において孔径を極限まで十分小さくすることにより、波長の増加と共に音響透過し難くなるという従来常識とは逆に、音響透過しやすくなり、ついには全帯域で全音響透過性を示すという事実は、当業者にとって予想外のことである。
【0019】
本発明(3)によれば、前記効果に加え、硬質板が透明又は透光性材料からなる(例えばアクリル板)ので、視覚的には孔径が極めて小さく、ひとつひとつを開口として認められないばかりでなく、うっすらと曇った感じが加わるのみで、「固い平滑な表面」を有する音響的にも視覚的にも「無」に近い吸音板を提供することができるという効果を奏する。
【0020】
本発明(4)によれば、前記効果に加え、吸音構造体用部材として金属繊維シートを採用するよう構成されているので、防水効果のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
本発明(5)によれば、前記効果に加え、吸音構造体用部材としてフッ素樹脂繊維紙を採用するよう構成されているので、防水効果のある吸音構造体を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明(7)によれば、前記効果に加え、透明又は透光性材料と空気層との組み合わせで吸音構造体を構築しているので、美術館や博物館で「透光性や透明性のある吸音天井」を構成したり、或いは、室内プール等で「水や湿気に強い吸音天井」を提供して明瞭度の高い拡声音質を確保したりすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、まず、本発明に係る吸音構造体用部材を説明し、次いで、本発明に係る吸音構造体を説明することとする。尚、本発明の技術的範囲は、以下で説明する最良形態には限定されない。
【0024】
吸音構造体用部材
本発明に係る吸音構造体用部材は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる。
測定方法1:無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
測定方法2:JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【0025】
ここで、上記性質を有する板状部材又はシート状部材としては、所定構造の硬質板、金属繊維シート及びフッ素繊維紙を挙げることができる。以下、これらを順に説明することとする。
【0026】
≪所定構造の硬質板≫
当該所定構造の硬質板は、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である。以下、各要件を詳述する。
【0027】
(材料)
硬質板として用いられる材料は、特に限定されず、アクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、アリル−スチレン共重合体(ABS)等のプラスチック製板、ガラス板、鉄、アルミニウム、鉛等の金属製板、等が挙げられる。ここで、用途として例えば採光吸音天井や採光吸音窓の一部材としてこの吸音構造体用部材を用いる場合には、硬質板は、透明又は透光性の材料からなることが好適である。
【0028】
(構造−厚さ)
硬質板の厚さは、硬質板の厚さと微細孔の孔径との関係を満たす範囲において特に制限はないが、0.1〜100mmが好ましく、より好ましくは1〜60mmである。0.1mm未満では強度上の問題が発生し易くなり、100mmを超えると、0.5mm以下の径の長い貫通孔を板面に開けることの困難性が高くなるからである。
【0029】
(構造−孔径)
硬質板に設けられる微細孔の径は、1〜500μm、好ましくは50〜500μm、より好ましくは100〜300μmである。長径が1μm未満でも特に問題がないが、製造技術上の困難性が高くなり、高価となってしまう。長径が500μmを超えると硬質板へ近づいた際に開口部を視認し易くなり、美観上の欠点を生じやすくなるだけでなく、吸音構造体用部材の表面に通気性のクロス等を配置した場合、孔の部分が空気の出入りで汚れ、黒ずむなどの視覚的問題の原因ともなり易い。
【0030】
(構造−厚さ/孔径比)
硬質板の厚さ/孔径の比は、1〜200、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜20、更に好ましくは1〜5である。
【0031】
(開口率)
硬質板に設けられる孔の開口率は、単位面積あたりに存在する孔の開口面積の合計を単位面積で除した値を100分率で表示した値である。開口率は、3〜50%が好ましく、より好ましくは5〜30%である。開口率が50%を超えることに理論上問題はなく、孔が完全円形の場合は理論上78.5%まで開口可能であるが、実際には50%を超えると強度を保った状態で開口することが難しい。開口率が3%未満でも用途によっては問題ない場合もあるが、300Hz以下の低周波帯域の音が通過し難くなる。
【0032】
(製造方法)
本発明に係る硬質板の製造方法は、特に制限はないが、機械式ドリル、レーザー光線や電熱器等による手法やエッチングによる手法等により硬質板に孔を開ける方法を挙げることができる。
【0033】
≪金属繊維シート≫
当該金属繊維シートは、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである。以下、各要件を詳述する。尚、当該金属繊維シート及びその製造方法として、特開2000−80591、特許2649768及び特許2562761の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。
【0034】
(材料)
1種又は2種以上の金属繊維とは、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、チタン、ニッケル、金、白金、鉛等の金属材料を素材とする繊維から選択される1種又は2種以上の組み合わせである。
【0035】
(構造)
当該金属繊維シートは、金属繊維が互いに交絡した構造を採っている。また、当該金属繊維を構成する金属繊維は、1μm〜50μm、好ましくは8μm〜20μmの繊維径を有し、かつアスペクト比が500〜3000のものが好ましく、さらに好ましくは、アスペクト比が1000〜2000のものである。このような金属繊維であれば、金属繊維同士を交絡させるのに好適であり、また、このような金属繊維同士を交絡させることにより、表面がけば立ちの少ない金属繊維シートとすることが可能となる。
【0036】
(製造方法)
本発明に係る金属繊維シートの製造方法は、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法によりシート形成する際に、網上の水分を含んだシートを形成している前記金属繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を含んで構成される。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、抄紙後の金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維同士を交絡させることが可能である。即ち、湿式抄紙により平面方向に不規則に交差した金属繊維で構成されるシートに、例えば、高圧ジェット水流をシートのZ軸方向に噴射することにより、高圧ジェット水流が噴射された部分の金属繊維がZ軸方向に配向する。このZ軸方向に配向した金属繊維が平面方向に不規則に配向した金属繊維間に絡みつき、各繊維が互いに三次元的に絡み合った状態、すなわち交絡することで物理的強度を得ることができるものである。また、抄造方法は、例えば、長網抄紙、円網抄紙、傾斜ワイヤ抄紙等、必要に応じて種々の方法を採用することができる。尚、長繊維の金属繊維を含むスラリーを製造する場合、金属繊維の水中での分散性が悪くなることがあるので、造粘作用のあるポリビニールピロリドン、ポリビニールアルコール、CMC等の高分子水溶液を少量添加してもよい。また、金属繊維シートの製造方法は、上述した湿式抄造工程後、得られた金属繊維シートを真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含んで構成されるのが好ましい。すなわち、上述した湿式抄造工程後、焼結工程が行われれば、繊維交絡処理が施されるため、金属繊維シートに有機バインダ等を添加する必要がないので、有機バインダ等の分解ガスが焼結工程において障害となることもなく、金属特有の光沢面を有する金属繊維シートを製造することが可能となる。また、金属繊維が交絡しているので、焼結後の金属繊維シートの強度を一層向上することが可能となる。
【0037】
≪フッ素繊維紙≫
当該フッ素繊維紙は、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されている紙である。尚、当該フッ素繊維紙及びその製造方法として、特開昭63−165598の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。以下、各要素を詳述する。
【0038】
(材料)
本発明に係るフッ素繊維は、熱可塑性フッ素樹脂から製造されるもので、その主成分としてはPTFE、TFE、PFE、FEP、ETFE、PVDF、PCTFE、PVFがあるが、フッ素樹脂から作られたものであればこれらに限定されるものではなく、さらにこれら或いは他の樹脂と混合して使用することもできる。ここで、当該フッ素繊維は、湿式抄紙法により紙状物とするために、繊維長が1〜20mmの単繊維であることが好適であり、また、その繊維径は2〜30μmであることが好適である。
【0039】
(製造方法)
本発明に係るフッ素繊維紙は、フッ素繊維と自己接着機能を有する物質とを湿式抄造法により混抄し乾燥して得たフッ素繊維混抄紙を、フッ素繊維の軟化点以上で熱圧着してフッ素繊維の繊維間を熱融着させた後、自己接着機能を有する物質を溶媒により溶解除去し、必要により再乾燥することにより製造することができる。ここで、自己接着機能を有する物質としては、通常製紙用として用いられる木材、綿、麻、わら等の植物繊維からなる天然パルプ、PVA、ポリエステル、芳香族ポリアミド、アクリル系、ポリオレフィン系の熱可塑性合成高分子からなる合成パルプや合成繊維、更に天然高分子や合成高分子からなる製紙用紙力増強剤等を用いることができるが、自己接着性の機能があってフッ素繊維と混在して水に分散できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0040】
吸音構造体用部材の物性
本発明に係る吸音構造体用部材は、前述のパラメータ特性(周波数特性の差が10dB以内、α0変化が0.10以下)に加え、当該吸音構造体用部材を用いて吸音構造体を構築すると、空気層と組み合わせなくとも高い吸音特性を維持するという性質を有する。
【0041】
吸音構造体
本発明に係る吸音構造体は、前述の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する。ここで、吸音材としては、特に限定されず、グラスウール等の汎用されているものが使用可能である。当該母材の選択・背後空気層の調整・背後吸音材の選定、等により種々の調整・制御が可能であり、用途に応じて多くの形態が考えられる。例えば、建築・構造物のみならず、自動車、電車、航空機等の輸送機器等、騒音対策、音響対策、音響調整を要する用途に幅広く用いることができる。
【0042】
ここで、吸音構造体用部材として硬質材を使用した場合、図9のように「固い表面を持つ吸音面」を有する吸音構造体を構築することが可能となる。また、吸音構造体部材として透明又は透光性の硬質材を選択し、かつ、当該硬質材の背後に空気層を形成する(即ち、吸音材を設けない)と、図10のように「透明で固い吸音構造体部材」を有する吸音構造体を構築することが可能になる。表1は、図9及び図10に示した態様の構成例及び用途例である。
【表1】
【実施例】
【0043】
実施例1及び2並びに比較例1及び2{吸音構造体用部材(硬質材)}
(製造例)
厚さ10mm、100mm四方の透明アクリル板に、CO2レーザー装置、電動ドリル、NC旋盤を適宜用いて、表2のとおり比較例1及び2の吸音構造体用部材を作製した。そして、厚さ2mm、100mm四方のアルミ板に、電動ドリルを用いて開孔させ、実施例1の吸音構造体用部材を作製した。
【表2】
【0044】
(吸音特性確認試験)
作成した実施例及び各比較例の吸音構造体用部材について、各々その吸音特性を確認した。確認方法は、伝送周波数特性と垂直入射吸音率により行なった。
【0045】
伝送周波数特性については、図2に示すように、有効径10cmのスピーカー1を取り付けた約2250cm3の発音装置の前面に、各実施例及び各比較例の吸音構造体用部材2を設置し、スピーカー1前面より1500mmの位置に設置したマイク3で測定される伝送周波数特性を測定し、その変化を確認した。スピーカー1には、略100Hzから10kHzまで、周波数変調を掛けない正弦波スイープを信号として用いた。測定した結果を図3〜4に示す。図3は実施例1の吸音構造体用部材を設置した時及びサンプルを設置しなかった時(コントロール)の測定結果、図4は比較例1及び2の吸音構造体用部材を設置した時の伝送周波数特性の測定結果である。明らかなように、図4の各測定値はコントロールの波形とは異なり、スピーカーに入力された音の大半が、各比較例の吸音板を透過できなかった結果である。それに対し、実施例1の吸音構造体の場合は、図3からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している{尚、図3では、コントロール(実線)と実施例1(点線)とが略重複している}。
【0046】
垂直入射吸音率(α0)については、JIS A1405−2に従い、図5に示す装置を用い、A−A線の位置にサンプルを設置して測定した。音響管の内径は44.8mm、吸音材として96Kg/m3グラスウール吸音材を使用し、マイク1とマイク2として1/2インチコンデンサマイクロホンを用いて間隔を7cmとした。その結果を図6に示す。図6は、コントロール(サンプルなし)、実施例1の吸音構造体用部材、をそれぞれ用いた場合の垂直入射吸音率の測定結果である。背後のグラスウール吸音材のみの場合に準じる特性となっている。特に、1kHzから2kHzでは吸音材だけのときよりも吸音率が高くなっており、これは音波に対する試料と吸音材の相乗効果と考えられる。
【0047】
実施例2(金属繊維シート)
(製造例)
表3に示す膜厚にした点を除いては特許2562761の実施例1と同様の手法で、実施例2に係る金属繊維シートを製造した。
【0048】
(吸音特性確認試験)
実施例と同様の手法で、伝送周波数特性及び垂直入射吸音率を測定した。その結果を図11及び図12にそれぞれ示す。まず、図11は、実施例2の吸音構造体用部材の伝送周波数特性を示した図である。ここで、当該図中、(1)がコントロール、(2)が実施例2の吸音構造体用部材である。尚、図11では、コントロール(1)と実施例2(2)とが略重複している。このように、実施例2の吸音構造体用部材の場合は、図11からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している。次に、図12の左側は、実施例2の吸音構造体用部材の垂直入射吸音率である。ここで、当該図中、(1)がコントロール(シートなし)、(6)が実施例2の吸音構造体用部材である。このように、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さいことが確認された。
【0049】
実施例3(フッ素繊維シート)
(製造例)
表3に示す膜厚にした点を除いては特開昭63−165598の実施例1と同様の手法で、実施例3に係るフッ素繊維シート(フッ素樹脂系繊維シート)を製造した。
【0050】
(吸音特性確認試験)
実施例と同様の手法で、伝送周波数特性及び垂直入射吸音率を測定した。その結果を図11及び図12にそれぞれ示す。まず、図11は、実施例3の吸音構造体用部材の伝送周波数特性を示した図である。ここで、当該図中、(1)がコントロール、(3)が実施例3の吸音構造体用部材である。尚、図11では、コントロール(1)と実施例3(3)とが略重複している。このように、実施例3の吸音構造体用部材の場合は、図11からも明らかなように、測定した全音域においてほとんどの音が透過している。次に、図12の左側は、実施例3の吸音構造体用部材の垂直入射吸音率である。ここで、当該図中、(1)がコントロール(シートなし)、(7)が実施例3の吸音構造体用部材である。このように、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さいことが確認された。
【0051】
実施例5(空気層有無での吸音特性確認試験)
各種多孔質シートとグラスウール吸音材を試料とした垂直入射吸音率を測定した。ここで、各種多孔質シートしては、実施例2の金属繊維シートと実施例3のフッ素繊維シートの他、汎用の各種多孔質シートを比較のため試験した。
【0052】
≪測定方法≫
(垂直入射吸音率とシートの位置)
シートを設置しそれより2cm後方に厚さ5cmの32Kg/m3のグラスウールを置いた場合と、装置の終端を2cm短くしシートと吸音材を密着させた場合、とを測定した。1/2インチのコンデンサマイクロホン(B&K4133)を7cm間隔で設置し、この2本の伝達関数から吸音率を測定した。音源として中心周波数250、500、lk、2kHzの1Oct.バンドノイズを雑音発生器(NODE7030)から入力した。音速は室温から計算で求めた。測定できる周波数は300Hzから2kHzである。マイクロホン出力はプリアンプで増幅後、A/D)変換器で20秒程度パソコンに取り込んだ。サンプリング周波数はそれぞれ、中心周波数500Hzまでは2048Hzとし、1kHzでは4096Hz、2kHzでは8192Hzとした。
【0053】
吸音率αの算出手順は以下のとおりである:マイク1,2の512点FFT(ハニング窓)を求め、自己相関(マイク1)と相互相関を求めた後、20回の平均から伝達関数H12を求める。αはこれより、式(1)のように算出することができる。
【式1】
【0054】
【0055】
(シートの特性)
シートのそれぞれの特性を表3に示す。透気度(紙の一定面積を一定量の空気が一定圧力の下で通過するのにかかる時間)はs(秒)/100mlである。各試料は、装置の内径とほぼ同じ大きさのO型リングを作成し、そのリングにシートを貼り付けて使用した。
【表3】
【0056】
(測定結果)
垂直入射吸音率の測定結果を吸音材のみ(試料なし)を含めて図12に示す。図12(左)には、シートと厚さ5cmの吸音材の間に空隙2cmを設けてある結果を示し、図12(右)には、シートと吸音材との間に空隙を設けない結果を示している。また、(a)にはシートなしと試料1、2、8及び3における結果を示し、(b)にははシートなしと試料4、5、7(実施例3のフッ素繊維シート)、6(実施例2の金属繊維シート)の結果を示す。その結果、図12(左)の「空隙2cmあり」の結果では、まず、開孔のない印刷用紙はシートなしと比較することにより、吸音率が低域でも高域でもかなり低下することがわかる。一方、試料1〜5はシートなしと比較して各周波数における吸音率が多少変化するが、試料8(印刷用紙)と比較すると吸音率に大きな変化が生じず、「全音響透過」に近い傾向を示す。また、本実施例に係る試料6及び7に関しても、シートなしと比較して各周波数における吸音率の変化が小さく、「全音響透過」であることが確認できた。他方、図12(右)に示す「空隙なし」の結果では、シートなしと比較して、試料1〜5及び8においては、吸音率が下がる傾向が見られた。しかし、本実施例に係る試料6及び7においてはシートなしとほぽ同じ吸音率を示し、他の試料と比べて際だった「全音響透過」であることが確認できた。グラスウール吸音材は、低い周波数では空.気のインピーダンスからずれていく。また、グラスウール表面の見え方が、シートを直接接触させると異なることが予想されるが、試料6及び7では、他のシートより透気度が低いことが「全音響透過」となっていると思われる。このように、本実施例に係る試料6及び7に係るシートでは、空隙の有無にかかわらず「全音響透過」であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】開放端の反射による減音量(ASHRAE)
【図2】音響透過性(伝送周波数特性)測定方法の概略図
【図3】実施例1及びブランクの伝送周波数特性測定結果
【図4】比較例1及び2の伝送周波数特性測定結果
【図5】垂直入射吸音率測定装置の概略図
【図6】実施例1の垂直入射吸音率の測定結果
【図7】本発明の原理図
【図8】本発明の原理図(「局所作用的」のイメージ)
【図9】固い表面を持つ吸音材の例を示した図
【図10】透明で固い表面を持つ吸音材の例を示した図
【図11】実施例2、実施例3及びブランクの伝送周波数特性測定結果
【図12】実施例2及び3の垂直入射吸音率の測定結果(+空隙の有無と吸音効果の確認図)
【符号の説明】
【0058】
1 スピーカー
2 サンプル
3 マイク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材。
(測定方法1):無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
(測定方法2): JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【請求項2】
前記板状部材が、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項3】
前記硬質板が透明又は透光性の材料からなる、請求項2記載の吸音構造体用部材。
【請求項4】
前記シート状部材が、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項5】
前記シート状部材が、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されているフッ素繊維紙である、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する吸音構造体。
【請求項7】
請求項3記載の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に空気層を有する、採光吸音天井又は採光吸音窓である吸音構造体。
【請求項1】
以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であり、かつ、以下の測定方法2に従い測定されたα0変化が0.10以下である音響透過型の板状部材又はシート状部材からなる吸音構造体用部材。
(測定方法1):無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域(50〜10000Hz)の音を音源から1500mm離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
(測定方法2): JIS A 1405−2「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法」に従い測定される、一般的な残響設計領域(125〜4000Hz)にわたる各1/1オクターブ帯域での垂直入射吸音率(α0)の変化量。
【請求項2】
前記板状部材が、孔径が1〜500μmの一方の面から他方の面に貫通する微細孔を有し、厚さ/孔径の比が1〜200、単位面積あたりの該面上の該微細孔による開口率が3〜50%である硬質板である、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項3】
前記硬質板が透明又は透光性の材料からなる、請求項2記載の吸音構造体用部材。
【請求項4】
前記シート状部材が、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維シートである、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項5】
前記シート状部材が、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されているフッ素繊維紙である、請求項1記載の吸音構造体用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に吸音材及び/又は空気層とを有する吸音構造体。
【請求項7】
請求項3記載の吸音構造体用部材と当該吸音構造体用部材の背後に空気層を有する、採光吸音天井又は採光吸音窓である吸音構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−59658(P2010−59658A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225337(P2008−225337)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】
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