説明

周波数シンセサイザ

【課題】 スプリアスを低減すると共にDDS回路本来の出力周波数帯域を十分に活用して所望の基準周波数信号を出力することができる周波数シンセサイザを提供する。
【解決手段】 DDS回路22の出力に、帯域制御電圧に応じて通過周波数帯域を可変とする帯域可変型フィルタ24を備え、制御回路21が、周波数の値と帯域制御電圧の値とを対応付けた制御電圧テーブルを記憶しており、外部からDDS回路22の出力周波数が設定されると、制御電圧テーブルを参照して、設定された出力周波数に対応する制御電圧を帯域可変型フィルタ24に出力して、帯域可変型フィルタ24をDDS回路からの出力周波数に応じたフィルタ特性としてスプリアス成分を除去する周波数シンセサイザとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DDS(Direct Digital Synthesizer)方式の周波数シンセサイザに係り、特に、スプリアスを低減すると共にDDSの出力周波数帯域を有効に利用して所望の基準周波数信号を出力することができる周波数シンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:図8]
DDS回路とPLL(Phase Locked Loop)−IC(Integrated Circuit)とを用いた周波数シンセサイザでは、DDS回路から出力される基準信号に含まれるスプリアス成分が、そのまま出力に現れてしまう。
そこで、スプリアスを低減するために、DDS回路が出力可能な周波数帯域の範囲よりも狭い帯域を通過させるBPFを備えた周波数シンセサイザがある。
【0003】
DDS回路と、PLL−ICとを用いた一般的な周波数シンセサイザについて図8を用いて説明する。図8は、一般的な周波数シンセサイザの構成を示す構成ブロック図である。
図8に示すように、一般的な周波数シンセサイザは、制御回路31と、DDS回路32と、BPF(Band Pass Filter)33と、PLL−IC34と、ループフィルタ35と、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)36とを備えている。
【0004】
制御回路31は、DDS回路32及びPLL−IC34に対して、VCO36からの出力が規定の周波数となるようデータの設定を行う。
DDS回路32は、制御回路31から設定されたデータに基づいて、基準周波数信号を生成して出力する。
BPF33は、DDS回路32からの基準周波数信号を帯域制限して、スプリアス成分を除去する。
【0005】
PLL−IC34は、制御回路31から設定された分周比でVCO36の出力周波数を分周し、BPF33で帯域制限された基準周波数と比較して、VCO36の出力周波数が規定周波数となるよう制御する電圧を出力する。
ループフィルタ35は、PLL−IC34からの電圧の直流分を取り出してVCO36の発振制御電圧として出力する。
VCO36は、発振制御電圧に応じて周波数を発振する。
【0006】
そして、上記構成の周波数シンセサイザでは、DDS回路32が、制御部31からの設定に従って基準周波数信号を出力すると、BPF33で帯域制限されてスプリアスが低減され、PLL−IC34に入力される。PLL−IC34は、入力されたVCO36の出力信号を制御回路31から指定された分周比で分周して、基準周波数信号と位相を比較して位相差に基づく電圧を出力し、ループフィルタ36で直流成分を取り出して発振制御電圧とし、VCO36に印加する。これにより、VCO36の出力を規定の周波数とするものである。
【0007】
[DDS出力の周波数成分:図9]
ここで、DDS出力の周波数成分とBPF通過後の周波数成分について図9を用いて説明する。図9(a)は、DDS出力の周波数成分を示し、(b)はBPF通過後の周波数成分を示す説明図である。
図9(a)に示すように、DDS回路32では、必要な周波数成分だけでなく、その前後に等間隔に不要なスプリアス成分が発生するため、DDS出力にはそのままでは多くのスプリアス成分が含まれる。
【0008】
そこで、図8の周波数シンセサイザでは、BPF33により帯域制限を行って、スプリアス成分を除去した信号を基準周波数信号としてPLL−IC34に入力するようにしている。
図9(b)に示すように、BPF33通過後の基準周波数信号は、所望の基準周波数信号のみを含み、不要なスプリアス成分が除去されている。これにより、周波数シンセサイザ出力のスプリアス劣化を防ぐものである。
【0009】
[DDS出力の範囲とBPFの帯域:図10]
次に、DDS出力の範囲とBPFの通過帯域の関係について図10を用いて説明する。図10は、DDS出力の範囲とBPFの通過帯域の関係を示す模式説明図である。
図10に示すように、DDS回路32が本来出力できる周波数の範囲を、fa〜fbの周波数範囲とする。
一方、スプリアス成分を除去するBPF33の通過帯域は、f1〜f2であり、DDS出力の範囲(fa〜fb)に比べてかなり狭い。
そのため、従来の周波数シンセサイザでは、DDS回路32が本来出力できる周波数範囲を十分に活用して基準周波数信号を出力するものとはなっていない。
【0010】
[関連技術]
尚、DDS回路を用いた周波数シンセサイザに関する技術としては、特開2008−172333号公報「無線受信機」(出願人:株式会社日立国際電気、特許文献1)、国際公開WO98/001965号公報「隣接チャネル漏洩電力測定装置」(出願人:アンリツ株式会社、特許文献2)、特開平9−219669号公報「ダイレクト・ディジタル・シンセサイザ」(出願人:三洋電機株式会社、特許文献3)、特開2001−268163号公報「ワンダ発生装置およびそれを含むディジタル回線試験装置」(アンリツ株式会社)がある。
【0011】
特許文献1には、受信周波数を局部発振信号と混合して中間周波数IFに変換する際に、DDSからの局部発振信号に中間周波数IFと一致するスプリアス成分が含まれる場合には、それを除去するフィルタを通過させ、中間周波数IFと一致するスプリアス成分が含まれない場合には当該フィルタを通過させないことが記載されている。
しかし、特許文献1では、複数のフィルタを備えそれらを切り替えて用いることは記載されていない。
【0012】
特許文献2には、隣接チャネル漏洩電力測定装置において、デジタル信号を複数のフィルタに切り替えて入力することが記載されている。
また、特許文献3には、DDSにおいて、発生周波数帯域を含む分割帯域を識別して、選択帯域信号を出力し、選択帯域信号に同期してフィルタの通過帯域を切り替えて使用することが記載されている。
また、特許文献4には、白色雑音信号と所望のタイムデビエーション特性に基づくタップ係数との畳み込み演算を行って揺らぎ信号列を発生し、当該揺らぎ信号列によって周波数が変調されたクロック信号をDDSから出力することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−172333号公報
【特許文献2】国際公開WO98/001965号公報
【特許文献3】特開平9−219669号公報
【特許文献4】特開2001−268163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の周波数シンセサイザでは、DDS回路から出力されるスプリアスを除去するBPFの通過帯域が狭いため、DDS回路本来の出力周波数帯域を十分に活用して所望の基準周波数信号を出力するものではないという問題点があった。
【0015】
本発明は、上記実状に鑑みて為されたもので、スプリアスを低減すると共にDDS回路本来の出力周波数帯域を十分に活用して所望の基準周波数信号を出力することができる周波数シンセサイザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、位相差に基づいて発振制御電圧を生成するループフィルタと、基準周波数生成回路の出力周波数とPLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、基準周波数生成回路の出力に、帯域制御電圧に応じて通過周波数帯域を可変とする帯域可変型フィルタを備え、制御回路が、周波数の値と帯域制御電圧の値とを対応付けた制御電圧テーブルを記憶しており、外部から基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、制御電圧テーブルを参照して、設定された出力周波数に対応する帯域制御電圧を帯域可変型フィルタに出力することを特徴としている。
【0017】
また、本発明は、上記周波数シンセサイザにおいて、制御回路からの帯域制御電圧を増幅して帯域可変型フィルタに印加するオペアンプを備えたことを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、上記周波数シンセサイザにおいて、帯域可変型フィルタが、コンデンサ、コイル及び可変容量ダイオードで構成されることを特徴としている。
【0019】
また、本発明は、発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、位相差に基づいて発振制御電圧を生成するループフィルタと、基準周波数生成回路の出力周波数とPLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、それぞれ通過周波数特性の異なる複数のバンドパスフィルタと、基準周波数信号生成回路の出力信号を複数のバンドパスフィルタのいずれかに出力する入力側切替スイッチと、複数のバンドパスフィルタのいずれかから出力される信号をPLL回路に出力する出力側切替スイッチとを備え、制御回路が、周波数の値といずれかのバンドパスフィルタとを対応付けたスイッチ切替テーブルを記憶しており、外部から基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、スイッチ切替テーブルを参照して設定された出力周波数に対応するバンドパスフィルタを選択し、選択されたバンドパスフィルタに接続を切り替えるよう入力側切替スイッチ及び出力側切替スイッチを制御することを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、上記周波数シンセサイザにおいて、入力側切替スイッチ及び出力側切替スイッチがダイオードスイッチで構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、位相差に基づいて発振制御電圧を生成するループフィルタと、基準周波数生成回路の出力周波数とPLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、基準周波数生成回路の出力に、帯域制御電圧に応じて通過周波数帯域を可変とする帯域可変型フィルタを備え、制御回路が、周波数の値と帯域制御電圧の値とを対応付けた制御電圧テーブルを記憶しており、外部から基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、制御電圧テーブルを参照して、設定された出力周波数に対応する制御電圧を帯域可変型フィルタに出力する周波数シンセサイザとしているので、ハードウェア構成を増大させることなく、帯域可変型フィルタを基準周波数生成回路が出力可能な周波数範囲内の任意の周波数に応じたフィルタ特性としてスプリアスを低減することができ、特定の狭い帯域内だけでなく基準周波数生成回路が出力可能な周波数範囲を十分利用して、所望の基準周波数信号を出力することができる効果がある。
【0022】
また、本発明によれば、制御回路からの帯域制御電圧を増幅して帯域可変型フィルタに印加するオペアンプを備えた上記周波数シンセサイザとしているので、帯域可変型フィルタの可変周波数帯域幅を広くすることができる効果がある。
【0023】
また、本発明によれば、発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、位相差に基づいて発振制御電圧を生成するループフィルタと、基準周波数生成回路の出力周波数とPLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、それぞれ通過周波数特性の異なる複数のバンドパスフィルタと、基準周波数信号生成回路の出力信号を複数のバンドパスフィルタのいずれかに出力する入力側切替スイッチと、複数のバンドパスフィルタのいずれかから出力される信号をPLL回路に出力する出力側切替スイッチとを備え、制御回路が、周波数の値といずれかのバンドパスフィルタとを対応付けたスイッチ切替テーブルを記憶しており、外部から基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、スイッチ切替テーブルを参照して設定された出力周波数に対応するバンドパスフィルタを選択し、選択されたバンドパスフィルタに接続を切り替えるよう入力側切替スイッチ及び出力側切替スイッチを制御する周波数シンセサイザとしているので、基準周波数生成回路が出力可能な周波数範囲内の任意の周波数についてスプリアスを低減することができ、特定の狭い帯域内だけでなく基準周波数生成回路が出力可能な周波数範囲を十分利用して、所望の基準周波数信号を出力することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
【図2】BPF#1〜BPF#Nの周波数特性を示す模式説明図である。
【図3】スイッチ切替テーブルの模式説明図である。
【図4】第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
【図5】制御電圧テーブルの模式説明図である。
【図6】帯域可変型フィルタ24の構成例を示す回路図である。
【図7】帯域可変型フィルタ24における制御電圧Vtとフィルタ特性との関係を示す模式説明図である。
【図8】一般的な周波数シンセサイザの構成を示す構成ブロック図である。
【図9】(a)は、DDS出力の周波数成分を示し、(b)はBPF通過後の周波数成分を示す説明図である。
【図10】DDS出力の範囲とBPFの通過帯域の関係を示す模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[発明の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザは、DDS回路の出力に、それぞれ通過帯域が異なる複数のBPFを有するBPF部と、BPF部の入力と出力にそれぞれ設けられ、いずれかのBPFに接続する切り替えスイッチと、各切り替えスイッチを制御する制御部とを備え、制御部が、DDS回路の出力周波数に応じて特定のBPFを選択する信号を切り替えスイッチに出力し、入力側の切り替えスイッチがDDS回路からの信号を選択されたBPFに出力し、出力側の切り替えスイッチが選択されたBPFからの信号をPLL−ICに出力するものであり、DDS回路の出力可能な周波数範囲を有効に利用して複数種類の基準周波数を出力することができ、スプリアスを低減すると共にDDS回路の機能を十分活用することができるものである。
【0026】
また、本発明の実施の形態に係る周波数シンセサイザは、DDS回路の出力に、制御電圧に応じて通過周波数帯域を可変とする帯域可変型フィルタを備え、制御部が、DDS回路の出力に対応する制御電圧を帯域可変型フィルタに印加するものであり、スプリアスを低減すると共にDDS回路の機能を十分活用することができ、更にハードウェアの小型化を図るものである。
【0027】
[第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザ:図1]
第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成について図1を用いて説明する。図1は、第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザ(第1の周波数シンセサイザ)は、制御回路11と、DDS回路12と、入力側Nチャンネル切り替えスイッチ13と、BPF部14と、出力側Nチャンネル切り替えスイッチ15と、PLL−IC16と、ループフィルタ17と、VCO18とを備えている。
【0028】
[各部]
上記構成部分の内、DDS回路12、PLL−IC16、ループフィルタ17、VCO18は、図8に示した一般的な周波数シンセサイザと同様の部分であるため、ここでは説明を省略する。尚、DDS回路12は、請求項に記載した基準信号発生回路に相当する。
【0029】
第1の周波数シンセサイザの特徴部分について説明する。
BPF部14は、並列に配置され、通過周波数帯域が異なるn個のBPF(BPF#1〜BPF#N)から成り、DDS回路12から出力された信号のスプリアス成分を除去して、所定の周波数帯域のみを通過させる。
【0030】
ここで、第1の周波数シンセサイザの特徴として、BPF部14の複数のBPF(BPF#1〜BPF#N)は、それぞれ異なる周波数特性を備えている。
具体的には、BPF#1の通過帯域はf1〜f2であり、BPF#2の通過帯域はf2〜f3であり、…BPF#Nの通過帯域はfx〜fyとなっている。尚、各BPFの通過帯域が一部重複していても構わない。
【0031】
入力側Nチャンネル切替スイッチ13は、DDS回路12からの出力を、制御回路11からの指示に従って、BPF#1〜BPF#NのN個のBPFのいずれかに切り替えて出力するものである。
また、出力側Nチャンネル切替スイッチ15は、制御回路11からの指示に従って、BPF部14のN個のBPF(BPF#1〜BPF#N)の内、いずれかのBPFから出力されたスプリアスが除去された基準周波数信号をPLL−IC16に出力する。出力側にも切替スイッチを備えることにより、各BPFの特性が良好になるものである。
【0032】
入力側Nチャンネルスイッチ13、及び出力側Nチャンネルスイッチ14は、ダイオードスイッチで構成される。
例えば、BPFが2つの場合にはSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチで構成され、BPFが3つの場合にはSP3T、4つの場合にはSP4Tで構成される。
【0033】
制御回路11は、MPU等で構成される処理回路であり、従来と同様に、DDS回路12及びPLL−IC16の制御を行うと共に、第1の周波数シンセサイザの特徴として、入力側Nチャンネル切替スイッチ13と、出力側Nチャンネル切替スイッチ15に切り替え先を指示する。
具体的には、制御回路11には、スイッチを切り替える指示を出力するためのスイッチ切替テーブルが設けられており、DDS回路12の出力周波数が設定されると、スイッチ切替テーブルを参照して適切なBPFを選択するよう入力側切替スイッチ13及び出力側切替スイッチ15に切り替え指示を出力する。スイッチ切替テーブルについては後で説明する。
【0034】
[BPF#1〜BPF#Nの周波数特性:図2]
次に、BPF部14の各BPFの周波数特性について図2を用いて説明する。図2は、BPF#1〜BPF#Nの周波数特性を示す模式説明図である。
図2に示すように、BPF#1〜BPF#Nの各BPFは、図10に示した従来のBPFと同様の通過帯域幅を備え、各BPFの通過帯域の中心周波数は少しずつずれて設定されている。尚、各BPFの中心周波数は、スプリアス除去の効果が十分得られるよう、想定されるDDS出力周波数に合わせて設定しておくことが望ましい。
【0035】
更に、第1の周波数シンセサイザの特徴として、BPF#1〜BPF#Nの通過帯域は、DDS回路12において出力可能な周波数範囲fa〜fbのほぼ全域に亘っている。
これにより、第1の周波数シンセサイザでは、DDS回路12で出力可能な周波数範囲内で所望のDDS出力周波数の値を設定すれば、それに応じた適切なBPFが選択されることにより、当該DDS出力周波数のスプリアスを低減でき、所望の基準周波数を得ることができるものである。
【0036】
尚、BPF部14のBPFの数は任意に設定可能であり、想定されるDDS出力周波数(基準周波数)の間隔が小さい場合には、隣接するBPF間の通過帯域のずれを小さくして、より多くのBPFを備えるようにすることも可能である。また、反対に想定される基準周波数の間隔が大きい場合には、BPFの数を少なくしてもよい。
【0037】
[スイッチ切替テーブル:図3]
次に、制御回路11に設けられたスイッチ切替テーブルについて図3を用いて説明する。図3は、スイッチ切替テーブルの模式説明図である。
図3に示すように、スイッチ切替テーブルは、周波数(DDS回路12からの出力周波数)と、それに対応するBPFの番号(#1〜#N)を記憶しているものである。
【0038】
そして、制御回路11は、外部からDDS回路12の出力周波数が設定されると、スイッチ切替テーブルを参照して対応するBPF番号を読み出し、当該BPFに接続するよう入力側Nチャンネル切替スイッチ13と出力側Nチャンネルスイッチ15に切り替え指示を出力する。
【0039】
入力側Nチャンネル切替スイッチ13と出力側Nチャンネルスイッチ15は、切り替え信号に従って、指定されたBPFに接続を切り替える。
このようにして、DDS回路12からの出力信号は、適切なBPFを通過することによりスプリアスが除去されて、所望の基準周波数がPLL−IC16に出力されるものである。
【0040】
[第1の実施の形態の効果]
本発明の第1の実施の形態に係る周波数シンセサイザによれば、DDS回路12の出力に、DDS回路12の出力可能な周波数範囲内で周波数特性の異なる複数のBPF#1〜BPF#Nを備えたBPF部14と、DDS回路12からの出力信号をいずれかのBPFに切り替えて出力する入力側Nチャンネル切替スイッチ13と、いずれかのBPFからの出力信号を切り替えてPLL−IC16に出力する出力側Nチャンネル切替スイッチ15とを有し、制御回路11が、DDS出力周波数とBPF番号とを対応付けてスイッチ切替テーブルに記憶しておき、外部からDDS出力周波数が設定されると、スイッチ切替テーブルを参照して、当該DDS出力周波数に対応するBPF番号のBPFに接続を切り替える指示を入力側と出力側のNチャンネル切替スイッチ13,15に出力するようにしているので、DDS回路12の出力可能な周波数範囲内の任意の周波数についてスプリアスを低減することができ、DDS回路12の出力可能な周波数範囲を十分利用して、所望の基準周波数信号を出力することができる効果がある。
【0041】
[第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザ:図4]
次に、第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザについて図4を用いて説明する。図4は、第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザの構成ブロック図である。
図4に示すように、第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザ(第2の周波数シンセサイザ)は、制御回路21と、DDS回路22と、オペアンプ23と、帯域可変型フィルタ24と、PLL−IC25と、ループフィルタ26と、VCO27とを備えている。
【0042】
[各部]
上記構成部分の内、DDS回路22、PLL−IC25、ループフィルタ26、VCO27は、図8に示した一般的な周波数シンセサイザと同様の部分であるため、ここでは説明を省略する。
【0043】
第2の周波数シンセサイザの特徴部分について説明する。
帯域可変型フィルタ24は、可変容量ダイオードで構成され、オペアンプ23から入力される制御電圧Vtに応じたフィルタ特性が得られるものである。具体的には、通過帯域の中心周波数がDDS回路22からの出力周波数で、スプリアスを十分低減する通過帯域幅となるフィルタ特性とするものである。尚、制御電圧Vtは、請求項に記載した帯域制御電圧に相当する。
【0044】
制御回路21は、MPU等で構成される処理回路であり、従来と同様に、DDS回路22及びPLL−IC25の制御を行うと共に、第2の周波数シンセサイザの特徴として、帯域可変型フィルタ24を制御する電圧を出力する。尚、制御回路21は、オペアンプ23に電圧を出力するためのD/A変換機能を備えている。
具体的には、制御回路21には電圧を出力するための制御電圧テーブルが設けられており、DDS回路22の出力周波数が設定されると、テーブルを参照して当該出力周波数に対応する電圧値を読み出し、D/A変換してオペアンプ23に出力する。制御電圧テーブルについては後で説明する。
【0045】
オペアンプ23は、制御回路21から入力された電圧を増幅して帯域可変型フィルタ24の制御電圧Vtとして出力する。
制御回路21の駆動電圧は3.3Vであるが、オペアンプ23を設けることにより、それ以上の制御電圧Vtを出力することができ、帯域可変型フィルタ24の可変帯域幅を広げることができるものである。
尚、帯域可変型フィルタ24の制御を3.3V以内で行うことが可能であれば、オペアンプ23は不要である。
【0046】
[制御電圧テーブル:図5]
次に、制御回路21に設けられた制御電圧テーブルについて図5を用いて説明する。図5は、制御電圧テーブルの模式説明図である。
図5に示すように、制御電圧テーブルは、周波数(DDS回路22からの出力周波数)と、それに対応する電圧値を記憶しているものである。電圧値は、オペアンプ23で増幅した場合に、帯域可変型フィルタ24で適切なフィルタ特性が得られる制御電圧Vtが印加されるよう、制御回路21が出力する電圧の値である。
【0047】
そして、制御回路21は、外部からDDS回路22の出力周波数が設定されると、制御電圧テーブルを参照して対応する電圧値を読み出し、D/A変換して、電圧をオペアンプ23に出力する。
【0048】
オペアンプ23は、制御回路21からの電圧を増幅して、制御電圧Vtとして帯域可変型フィルタ24に出力する。
これにより、帯域可変型フィルタ24は、DDS回路22からの出力周波数に応じた適切な通過帯域を備えたフィルタ特性となり、DDS出力のスプリアスを除去し、所望の基準周波数がPLL−IC25に入力されるものである。
尚、オペアンプ23を含まない構成では、制御回路21から出力される電圧がそのまま制御電圧Vtとなり、制御電圧テーブルでは、Vtを生成するための電圧値が記憶される。
【0049】
[帯域可変型フィルタの構成例:図6]
次に、帯域可変型フィルタ24の構成例について図6を用いて説明する。図6は、帯域可変型フィルタ24の構成例を示す回路図である。
図6に示すように、帯域可変フィルタ24の構成例は、入力端子と出力端子との間に、第1のコンデンサC1と、第1のコイルL1と、第3のコイルL3と、第2のコンデンサC2とが直列に接続され、第1のコイルと第3のコイルとの間の点に一端が接地された第2のコイルL2が接続されている。
【0050】
そして、第2のコイルが接続された点と第3のコイルとの間の点に、第1のダイオードD1のアノードが接続され、カソードは制御電圧端子に接続されている。
更に、第1のダイオードD1のカソードと制御電圧端子との間の点に第2のダイオードD2のカソードが接続され、アノードは接地されている。
第1のダイオードD1と第2のダイオードD2は、可変容量コンデンサを構成し、制御電圧Vtに応じ容量を可変する。
【0051】
上記構成の帯域可変型フィルタ24では、入力端子から入力されたDDS出力信号を、制御電圧Vtに応じたフィルタ特性でフィルタリングして、所定の周波数帯域のみを通過させて出力端子から基準周波数信号として出力する。
【0052】
このように、第2の周波数シンセサイザでは、第1の周波数シンセサイザに比べてハードウェア構成を大幅に小さくすることができるものである。
【0053】
[制御電圧とフィルタ特性との関係:図7]
次に、帯域可変型フィルタ24における制御電圧Vtとフィルタ特性との関係について図7を用いて説明する。図7は、帯域可変型フィルタ24における制御電圧Vtとフィルタ特性との関係を示す模式説明図である。
図7に示すように、帯域可変型フィルタ24は、制御電圧Vtに応じて通過帯域を変えるものである。図7の例では、Vt=1Vの場合からVt=10Vの場合が示されているが、これに限らず、制御電圧Vtを調整することにより、DDS回路22において出力可能な周波数範囲fa〜fbの間で、通過帯域を任意の位置に設定することができるものである。
【0054】
つまり、帯域可変型フィルタ24に適切な制御電圧Vtを印加することにより、所望のDDS出力周波数をフィルタの中心周波数とするフィルタ特性として、スプリアスが除去された基準周波数信号を出力するものである。
【0055】
そして、第2の周波数シンセサイザでは、予め想定されるDDS出力周波数について、それに応じたフィルタ特性が得られる制御電圧Vtを求めておく。そして、制御回路21の制御電圧テーブルでは、オペアンプ23で増幅して当該制御電圧Vtとなるような電圧値をDDS出力周波数に対応して記憶しておくものである。
オペアンプ23を備えていない場合には、制御電圧テーブルには制御電圧Vtの値が記憶される。
【0056】
これにより、第2の周波数シンセサイザでは、DDS回路22の出力可能な周波数範囲内の任意の周波数を用いて、スプリアスのない基準周波数信号を出力することができるものであり、DDS回路22の機能を十分活用することができるものである。
【0057】
[第2の実施の形態の効果]
本発明の第2の実施の形態に係る周波数シンセサイザによれば、DDS回路22の出力に、制御電圧Vtに応じて通過帯域を可変とする帯域可変型フィルタ24を設け、制御回路21が、DDS出力周波数と電圧値とを対応付けて制御電圧テーブルに記憶しておき、外部からDDS出力周波数が設定されると、制御電圧テーブルを参照して、当該DDS出力周波数に対応した電圧値を読み取り、D/A変換した電圧をオペアンプ23に出力し、オペアンプ23が入力された電圧を増幅して制御電圧Vtとして帯域可変型フィルタ24に印加するようにしているので、小規模なハードウェア構成で、DDS回路22の出力可能な周波数範囲内の任意の周波数についてスプリアスを低減することができ、DDS回路22の出力可能な周波数範囲を十分利用して、所望の基準周波数信号を出力することができる効果がある。
【0058】
また、第2の周波数シンセサイザによれば、オペアンプ23を設けることにより、制御回路21からの電圧を増幅して帯域可変型フィルタ24に印加することができ、帯域可変型フィルタ24の可変帯域幅を広くすることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、スプリアスを低減すると共にDDSの出力周波数帯域を有効に利用して所望の基準周波数信号を出力することができる周波数シンセサイザに適している。
【符号の説明】
【0060】
11,21,31…制御回路、 12,22,32…DDS回路、 13…入力側Nチャンネル切替スイッチ、 14…BPF部、 15…出力側Nチャンネル切替スイッチ、 16,25,34…PLL−IC、 17,26,35…ループフィルタ、 18,27,36…電圧制御発振器(VCO)、 23…オペアンプ、 24…帯域可変型フィルタ、 33…BPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、前記電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と前記基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、前記位相差に基づいて前記発振制御電圧を生成するループフィルタと、前記基準周波数生成回路の出力周波数と前記PLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、
前記基準周波数生成回路の出力に、帯域制御電圧に応じて通過周波数帯域を可変とする帯域可変型フィルタを備え、
前記制御回路が、周波数の値と前記帯域制御電圧の値とを対応付けた制御電圧テーブルを記憶しており、外部から前記基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、前記制御電圧テーブルを参照して、前記設定された出力周波数に対応する帯域制御電圧を前記帯域可変型フィルタに出力することを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項2】
制御回路からの帯域制御電圧を増幅して帯域可変型フィルタに印加するオペアンプを備えたことを特徴とする請求項1記載の周波数シンセサイザ。
【請求項3】
帯域可変型フィルタが、コンデンサ、コイル及び可変容量ダイオードで構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の周波数シンセサイザ。
【請求項4】
発振制御電圧に応じた周波数を発振する電圧制御発振器と、基準周波数信号を出力する基準周波数生成回路と、前記電圧制御発振器の出力周波数を設定された分周比で分周した周波数と前記基準周波数生成回路の出力周波数とを比較して位相差を出力するPLL回路と、前記位相差に基づいて発振制御電圧を生成するループフィルタと、前記基準周波数生成回路の出力周波数と前記PLL回路の分周比とを制御する制御部とを備えた周波数シンセサイザであって、
それぞれ通過周波数特性の異なる複数のバンドパスフィルタと、前記基準周波数生成回路の出力信号を前記複数のバンドパスフィルタのいずれかに出力する入力側切替スイッチと、前記複数のバンドパスフィルタのいずれかから出力される信号を前記PLL回路に出力する出力側切替スイッチとを備え、
前記制御回路が、周波数の値といずれかのバンドパスフィルタとを対応付けたスイッチ切替テーブルを記憶しており、外部から前記基準周波数生成回路の出力周波数が設定されると、前記スイッチ切替テーブルを参照して前記設定された出力周波数に対応するバンドパスフィルタを選択し、前記選択されたバンドパスフィルタに接続を切り替えるよう前記入力側切替スイッチ及び前記出力側切替スイッチを制御することを特徴とする周波数シンセサイザ。
【請求項5】
入力側切替スイッチ及び出力側切替スイッチがダイオードスイッチで構成されることを特徴とする請求項4記載の周波数シンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−193222(P2011−193222A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57663(P2010−57663)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】