説明

周波数シンセサイザ

【課題】設計が容易で、かつノイズ特性を良好にする。
【解決手段】周波数foutの出力信号Soutを生成するVCO5、周波数f1の低周波信号S1を生成する低周波信号生成部3、周波数f2の高周波信号S2を生成する高周波信号生成部4、ミキサ部6、ミキシング信号Smix中の差周波数信号Sdiを通過させる低域フィルタ部7、比較用信号S4を出力する信号処理部10、位相比較部8およびループフィルタ9を備え、信号処理部10は、周波数f2が新たに設定された際に、fout<f2のときには比較用信号S4の出力を停止し、fout≧f2で、かつ差周波数信号Sdiの絶対周波数fdiが低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco以上のときには周波数f3(>f1)の基準信号S3を比較用信号S4として出力し、fout≧f2で、かつfdi<fcoのときには差周波数信号Sdiを比較用信号S4として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミキサを用いた周波数シンセサイザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の周波数シンセサイザとして、下記特許文献1に開示された周波数シンセサイザが知られている。この周波数シンセサイザは、第1VCOの出力を分周器で分周し、この分周信号と基準周波数信号の位相を一致させることで第1VCOから周波数信号を出力する第1のPLLと、第1のPLLから出力される周波数信号と第2VCOの出力をミキサでミキシングし、ミキサで得られた2つの周波数信号のうち一方の周波数信号を選択し、この周波数信号と加減算周波数信号の位相を一致させることで第2VCOから周波数信号を出力する第2のPLLと、第1VCOへ加えられる信号のレベルと第2VCOへ加えられる信号のレベルとを比較して、この2つの信号のレベル差が設定電圧以上の期間、第1VCOへ加えられる信号に応じたレベル信号を第2VCOの入力端子へ加えるようにした制御回路とを備えている。
【0003】
この周波数シンセサイザは上記のように第1および第2の2個のPLL回路を備えているが、分周器を備えた方の第1のPLL回路は応答が速く、分周器を備えていない方の第2のPLLは応答が遅い。そこで、この周波数シンセサイザでは、出力周波数を大きく変化させる場合(即ち応答時間が長くかかる場合)に、応答が速い第1のPLLに備えられている第1VCOに加える制御電圧を、応答の遅い第2のPLLに備えられている第2VCOへ加えることにより所望の周波数の近傍まで強制的に第2VCOの動作点をシフトすることで、全体としての応答を高速化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−24380号公報(第3頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の周波数シンセサイザには、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、この周波数シンセサイザでは、第1VCOおよび第2VCOへ加えられる各信号のレベルを比較して、各信号のレベル差が設定電圧以上の期間、第1VCOへ加えられる信号に応じたレベル信号を第2VCOの入力端子へ加える制御回路を、複数の電子部品(複数の定電流源、複数の抵抗、複数のダイオードおよびFET)を用いて構成している。したがって、この周波数シンセサイザには、2つのVCO内部の動作と各電子部品の特性とを考慮してこのような複雑な制御回路を設計しなければならないという課題が存在している。また、制御回路がVCOに加えられるレベル信号自体を生成する構成のため、制御回路において発生したノイズや制御回路に重畳したノイズの影響をVCOが直接受けることになるため、周波数シンセサイザのノイズ特性が悪化し易いという課題も存在している。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、設計が容易で、かつノイズ特性の良好な周波数シンセサイザを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の周波数シンセサイザは、入力した制御電圧に応じた周波数の出力信号を生成する電圧制御発振部と、予め設定された周波数範囲内で任意の周波数の低周波信号を生成する低周波信号生成部と、設定された周波数の高周波信号を生成する高周波信号生成部と、前記出力信号および前記高周波信号をミキシングしてミキシング信号として出力するミキサ部と、前記ミキシング信号に含まれる前記出力信号および前記高周波信号の差周波数信号を選択的に通過させる低域フィルタ部と、前記出力信号、前記高周波信号および前記差周波数信号を入力すると共に、当該出力信号の前記周波数および当該高周波信号の前記周波数の高低関係に基づいて比較用信号を出力する信号処理部と、前記低周波信号および前記比較用信号の各位相についての誤差信号を出力する位相比較部と、前記誤差信号に基づいて前記制御電圧を生成する制御電圧生成部とを備えた周波数シンセサイザであって、前記信号処理部は、前記高周波信号の前記周波数が新たに設定された際に、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数よりも低い前記高低関係のときには、前記位相比較部への前記比較用信号の出力を停止し、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ前記差周波数信号の絶対周波数が前記低域フィルタ部のカットオフ周波数以上の前記高低関係のときには、前記低周波信号の周波数よりも高い周波数の基準信号を前記比較用信号として前記位相比較部に出力し、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ前記差周波数信号の絶対周波数が前記低域フィルタ部のカットオフ周波数よりも低い前記高低関係のときには、前記差周波数信号を前記比較用信号として前記位相比較部へ出力する。
【0008】
また、請求項2記載の周波数シンセサイザは、請求項1記載の周波数シンセサイザにおいて、前記信号処理部は、前記高周波信号をM分周(Mは2以上の整数)して第1分周信号を出力する第1分周器と、前記出力信号を(M+L)分周(Lは1以上の整数)して第2分周信号を出力する第2分周器と、前記第2分周信号の周波数が前記第1分周信号の周波数以上のときに第1検出信号を出力する第1周波数比較器と、前記出力信号の周波数が前記高周波信号の周波数以上のときに第2検出信号を出力する第2周波数比較器と、前記差周波数信号および前記基準信号を入力すると共に、前記第1検出信号および前記第2検出信号を入力しているときには、前記位相比較部に前記比較用信号として当該基準信号を出力し、前記第1検出信号を入力せず、かつ前記第2検出信号を入力しているときには、前記位相比較部に前記比較用信号として当該差周波数信号を出力し、前記第2検出信号を入力していないときには、前記位相比較部への前記比較用信号の出力を停止させる選択部を備え、前記高周波信号の周波数をfとし、かつ前記カットオフ周波数をfcoとしたときに、数値Mが値(L×f/fco)に最も近い整数となるように規定されている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の周波数シンセサイザでは、信号処理部は、高周波信号の周波数が新たに設定された際に、出力信号の周波数が新たに設定された高周波信号の周波数よりも低い高低関係のときには、位相比較部への比較用信号の出力を停止し、これによって出力信号の周波数を強制的に上昇させることにより、周波数シンセサイザをロック状態に移行させる。また、出力信号の周波数が新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ差周波数信号の絶対周波数が低域フィルタ部のカットオフ周波数以上の高低関係のときには、低周波信号の周波数よりも高い周波数の基準信号を比較用信号として位相比較部に出力し、これによって出力信号の周波数を強制的に低下させることにより、周波数シンセサイザをロック状態に移行させる。また、信号処理部は、出力信号の周波数が新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ差周波数信号の絶対周波数が低域フィルタ部のカットオフ周波数よりも低い高低関係のときには、差周波数信号を比較用信号として位相比較部へ出力することにより、ロック状態を継続させる。
【0010】
したがって、この周波数シンセサイザによれば、従来の周波数シンセサイザとは異なり、高周波信号の周波数が新たに設定された場合に周波数シンセサイザをロック状態に移行させるための回路として、2つのVCO内部の動作と各電子部品の特性とを考慮した複雑な制御回路を設計して使用する必要がないため、設計の容易化を図ることができる。また、電圧制御発振部に加えられる制御電圧を直接制御する構成ではなく、位相比較部に入力される比較用信号を切り換える構成を採用するため、内部回路において発生したノイズなどの影響を電圧制御発振部が直接受けるといった不具合を回避できる結果、良好なノイズ特性を実現することができる。
【0011】
また、請求項2記載の周波数シンセサイザによれば、信号処理部を、上記のように、第1分周器、第2分周器、第1周波数比較器、第2周波数比較器および選択部を備えて構成し、第1分周器の分周回数Mに対して第2分周器の分周回数を(M+L)とすると共に、低域フィルタ部のカットオフ周波数を考慮して、両数値M,Lを規定する構成としたことにより、低周波信号の周波数の変更に対応させてカットオフ周波数を変更した場合においても、数値M,Lの少なくとも一方を変更することにより、信号処理部から位相比較部に対して適切な比較用信号を出力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】周波数シンセサイザ1の構成を示す構成図である。
【図2】図1の信号処理部10の構成を示す構成図である。
【図3】図2における選択部27の機能を示す機能図である。
【図4】ロック状態における低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco、差周波数信号Sdiの差周波数成分(fdi=|fout−f2|)、第2基準信号S3の周波数f3、高周波信号S2の周波数f2および出力信号Soutの周波数foutの高低関係を説明するための説明図である。
【図5】高周波信号S2の周波数f2を低下させたときの、低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco、差周波数信号Sdiの差周波数成分(fdi=|fout−f2|)、第2基準信号S3の周波数f3、高周波信号S2の周波数f2および出力信号Soutの周波数foutの変移状態を説明するための説明図である。
【図6】高周波信号S2の周波数f2を上昇させたときの、低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco、差周波数信号Sdiの差周波数成分(fdi=|fout−f2|)、高周波信号S2の周波数f2および出力信号Soutの周波数foutの変移状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、周波数シンセサイザの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0014】
最初に、周波数シンセサイザ1の構成について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示す周波数シンセサイザ1は、基準信号生成部2、低周波信号生成部3、高周波信号生成部4、電圧制御発振部(以下、「VCO」ともいう)5、ミキサ部6、低域フィルタ部7、位相比較部8、制御電圧生成部(以下、「ループフィルタ」ともいう)9および信号処理部10を備えて、PLL(Phase Locked Loop)回路に構成されて、予め決められた周波数範囲内において予め決められた周波数分解能(周波数間隔)で任意の周波数foutの出力信号Soutを出力可能に構成されている。
【0016】
基準信号生成部2は、一例として、周波数が一定のクロック信号を出力する水晶発振器、および上記のクロック信号をそのクロック信号に同期させて分周する分周器(いずれも図示せず)を備え、クロック信号の分周信号である予め決められた周波数frの第1基準信号Sr、およびクロック信号の分周信号である予め決められた周波数f3の第2基準信号(基準信号)S3を生成して出力する。この場合、第2基準信号S3の周波数f3は、低周波信号生成部3から出力される低周波信号S1の周波数f1についての設定範囲(上限周波数f1max、下限周波数f1min)の上限周波数f1maxを超える値に規定されている。
【0017】
低周波信号生成部3は、一例として、DDS(Direct Digital Synthesizer)を備えて構成されて、設定範囲(上限周波数f1max、下限周波数f1min)内で設定された任意の周波数f1の低周波信号S1を出力する。高周波信号生成部4は、一例として、ループ内に分周器が介装されたPLL(Phase Locked Loop)回路で構成されている。また、高周波信号生成部4は、分周器に対して分周設定を行うことにより、出力される高周波信号S2の周波数f2(高周波信号の周波数fの一例)を変更可能に構成されている。
【0018】
VCO5は、入力した制御電圧Vcに応じた(制御電圧Vcの上昇に伴い上昇し、制御電圧Vcの低下に伴い低下する(例えば比例する))周波数foutの出力信号Soutを生成する。ミキサ部6は、出力信号Soutおよび高周波信号S2を入力してミキシングすることにより、ミキシング信号Smixを出力する。この場合、ミキシング信号Smixは、出力信号Soutおよび高周波信号S2の各周波数fout,f2の差周波数成分(fdi=|fout−f2|)で構成される差周波数信号Sdiと、各周波数fout,f2の和周波数成分(fsu=fout+f2)で構成される和周波数信号とを含んで構成されている。
【0019】
低域フィルタ部7は、カットオフ周波数fcoの低域通過型フィルタで構成されている。このカットオフ周波数fcoは、PLL回路で構成された周波数シンセサイザ1が周波数のロック状態にあるときに出力されるミキシング信号Smixに含まれる差周波数成分(fdi=|fout−f2|)を超え、かつ和周波数成分(fsu=fout+f2)未満となるように規定されている。この構成により、低域フィルタ部7は、ミキシング信号Smixに含まれる差周波数成分および和周波数成分のうちの差周波数成分で構成される差周波数信号Sdiを選択的に通過させる。また、後述するように、周波数シンセサイザ1がロック状態にあるときには、周波数(fout−f2)は周波数f1と等しくなっている。したがって、周波数f1を変更した場合には、fco>f1(=fout−f2)の関係が成り立つように、変更された周波数f1に対応してカットオフ周波数fcoも変更する必要がある。このため、本例の低域フィルタ部7は、カットオフ周波数fcoを変更可能に構成されている。
【0020】
信号処理部10は、出力信号Sout、高周波信号S2、第2基準信号S3および差周波数信号Sdiを入力すると共に、出力信号Soutの周波数foutおよび高周波信号S2の周波数f2の高低関係に基づいて、比較用信号S4を出力する。本例では、信号処理部10は、高周波信号S2の周波数f2が新たに設定された際に、出力信号Soutの周波数foutが新たに設定された高周波信号S2の周波数f2以上で、かつ差周波数信号Sdiの絶対周波数(fdi=|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco以上の高低関係(以下、「第1の高低関係」ともいう)のときには、低周波信号S1の周波数f1よりも高い周波数f3(本例では一例として周波数f3は一定の周波数)の第2基準信号S3を比較用信号S4として位相比較部8に出力する機能を有している。また、信号処理部10は、出力信号Soutの周波数foutが新たに設定された高周波信号S2の周波数f2以上で、かつ差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoよりも低い高低関係(以下、「第2の高低関係」ともいう)のときには、差周波数信号Sdiを比較用信号S4として位相比較部8へ出力する機能を有している。また、信号処理部10は、出力信号Soutの周波数foutがこの新たに設定された高周波信号S2の周波数f2よりも低い高低関係(以下、「第3の高低関係」ともいう)のときには、位相比較部8への比較用信号S4の出力を停止する機能を有している。
【0021】
これらの機能を簡易な構成で実現するため、信号処理部10は、一具体的として、図2に示すように、4つの分周器21,22,23,24、2つの周波数位相比較器25,26および選択部27を備えて構成されている。この場合、分周器(第1分周器)21は、入力した高周波信号S2をM(Mは2以上の整数。以下においても同様)分周して、分周信号(第1分周信号)S21(周波数f21=f2/M)として出力する。分周器(第2分周器)22は、入力した出力信号Soutを(M+L)分周して、分周信号(第2分周信号)S22(周波数f22=fout/(M+L))として出力する。なお、Lは1以上の整数である。
【0022】
分周器23は、入力した高周波信号S2をN(Nは1以上の整数。以下においても同様)分周して、分周信号S23(周波数f23=f2/N)として出力する。分周器24は、入力した出力信号SoutをN分周して、分周信号S24(周波数f24=fout/N)として出力する。ここで、N=1のときには、各分周器23,24は、入力した信号を分周することなく、そのまま出力する。
【0023】
周波数位相比較器(第1周波数比較器)25は、各分周器21,22から出力される分周信号S21,S22を入力すると共に双方の周波数f21,f22を比較して、周波数f22が周波数f21以上のときに検出信号(第1検出信号)Saを出力する。周波数位相比較器(第2周波数比較器)26は、各分周器23,24から出力される分周信号S23,S24を入力すると共に双方の周波数f23,f24を比較して、周波数f24が周波数f23以上のときに検出信号(第2検出信号)Sbを出力する。
【0024】
選択部27は、一例としてアナログスイッチを用いたスイッチマトリクス回路(不図示)を備えている。また、選択部27は、図2に示すように、差周波数信号Sdi、第2基準信号S3および各検出信号Sa,Sbを入力すると共に、各検出信号Sa,Sbの入力状態に応じてスイッチマトリクス回路を切替制御することにより、比較用信号S4を出力する。具体的には、図3に示すように、選択部27は、検出信号Saおよび検出信号Sbを入力しているときには、第2基準信号S3を比較用信号S4として位相比較部8に出力する。また、選択部27は、検出信号Saを入力しておらず(検出信号Saが未入力で)、かつ検出信号Sbを入力しているときには、比較用信号S4として差周波数信号Sdiを位相比較部8に出力する。また、選択部27は、検出信号Sbを入力していないとき(検出信号Sbの未入力のとき)には、検出信号Saの入力・未入力のいかんに拘わらず、位相比較部8への比較用信号S4の出力を停止させる。ここで、比較用信号S4の出力を停止させるとは、第2基準信号S3および差周波数信号Sdiにおけるローレベルの電圧を出力することを示すものとする。
【0025】
このように、この具体的な回路構成においては、信号処理部10の4つの分周器21〜24、および2つの周波数位相比較器25,26によって生成される検出信号Sa,Sbの出力状態が、上記した第1の高低関係、第2の高低関係および第3の高低関係を規定することになる。この場合、第1の高低関係、第2の高低関係および第3の高低関係を規定する条件のうち、出力信号Soutの周波数foutと高周波信号S2の周波数f2との関係については、検出信号Sbの出力状態で直接的に示される。
【0026】
一方、第1の高低関係および第2の高低関係を規定する他の条件である差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)と低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoとの関係については、検出信号Saの出力状態で示される。具体的には、PLL回路で構成されたこの周波数シンセサイザ1がロック状態にあるときには、ミキサ部6から出力されるミキシング信号Smixに含まれる差周波数成分(fdi=|fout−f2|)で構成される差周波数信号Sdiが低域フィルタ部7を通過して信号処理部10に出力され、かつ信号処理部10はこの差周波数信号Sdiを位相比較部8に出力する状態となる。この状態は、信号処理部10において選択部27に検出信号Saが出力されない状態(つまり、周波数f22が周波数f21未満の状態)となる必要がある。ロック状態では、周波数foutは、周波数f2よりも低周波信号S1の周波数f1分だけ高い周波数となっているものの、分周器22は、分周器21よりもL回多い(M+L)回だけ、出力信号Sout(周波数fout)を分周して分周信号S22を出力する。このため、数値M,Lを適切に設定することにより、分周信号S22の周波数f22(=fout/(M+L))を、分周器21が高周波信号S2(周波数f2)をM回分周して出力する分周信号S21の周波数f21(=f2/M)よりも低く設定することができ、この結果として、周波数位相比較器25から検出信号Saが出力されない状態とすることができる。
【0027】
他方、ロック状態において高周波信号生成部4に対する分周設定が変更されて、出力される高周波信号S2の周波数f2がより低い周波数に設定され、その結果として、ミキシング信号Smixに含まれる差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco以上の周波数となったときには、信号処理部10から位相比較部8に対して、第2基準信号S3を比較用信号S4として位相比較部8に出力する必要があり、このためには、信号処理部10において選択部27に検出信号Saが出力される状態(つまり、周波数f22が周波数f21以上の状態)となる必要がある。この状態についても、数値M,Lが適切に設定されていることにより、分周器21の分周回数がM回で分周器22の分周回数(M+L)よりも少ないものの、分周器21で分周される高周波信号S2の周波数f2がより低い周波数に設定されることにより、分周信号S21の周波数f21(=f2/M)を、分周信号S22の周波数f22(=fout/(M+L))以下に設定することができ、この結果として、周波数位相比較器25から検出信号Saが出力される状態とすることができる。
【0028】
具体的に、数値M,Lの設定手順について説明する。第1に、上記したように、周波数シンセサイザ1がロック状態のときには、ミキシング信号Smixに含まれる差周波数成分(fdi=|fout−f2|)で構成される差周波数信号Sdiが低域フィルタ部7を通過して信号処理部10に出力され、さらに信号処理部10から位相比較部8に出力される必要がある。つまり、周波数(fout−f2)がカットオフ周波数fco未満となり、かつ周波数位相比較器25が検出信号Saを出力しない状態となる必要がある。また、ロック状態では、周波数foutは周波数f2よりも低周波信号S1の周波数f1分だけ高い周波数となっている。つまり、周波数(fout−f2)は周波数f1と等しくなっている。したがって、カットオフ周波数fcoと低周波信号S1の周波数f1との間には、下記式(1)が成り立つ。
fco>f1 ・・・・ (1)
【0029】
第2に、上記したように、周波数位相比較器25が選択部27に対して検出信号Saの出力を開始すべき条件は、差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoとなったとき、つまり、下記式(2)が成り立ったときが条件となる。また、周波数位相比較器25は、分周信号S22の周波数f22(=fout/(M+L))が分周信号S21の周波数f21(=f2/M)と一致したとき(下記式(3)が成り立ったときに)、検出信号Saの出力を開始する。
fout−f2=fco ・・・・ (2)
fout/(M+L)=f2/M ・・・・ (3)
また、上記式(3)を変形することにより、下記式(4)が算出され、
fout−f2=L/M×f2 ・・・・ (4)
この式(4)と上記式(2)とに基づいて、下記式(5)が算出される。
fco=L×f2/M ・・・・ (5)
【0030】
第3に、低周波信号S1の周波数f1を設定したときには、上記式(1)より、カットオフ周波数fcoは、この周波数f1よりも大きい周波数に規定することになる。また、出力信号Soutの周波数foutは、低周波信号S1の周波数f1と高周波信号S2の周波数f2との加算値となるため、高周波信号S2の周波数f2は、周波数foutと周波数f1とに基づいて規定される。また、カットオフ周波数fcoおよび低周波信号S1の周波数f1と比較して、高周波信号S2の周波数f2および出力信号Soutの周波数foutは極めて高い周波数となることから、数値Lは数値Mよりも大幅に小さい数値となる。このため、カットオフ周波数fco、高周波信号S2の周波数f2および数値L(一般的には、数値Mに対して数十分の1の数値。一例として、1,2,3・・・などの1桁の数)を規定して、上記式(5)に代入し、値(L×f2/fco)に最も近い整数となるような数値Mを算出することにより、数値M,Lが設定される。
【0031】
位相比較部8は、一例として論理回路で構成されて、低周波信号生成部3から出力される周波数f1の低周波信号S1および信号処理部10から出力される比較用信号S4を入力すると共に、両信号S1,S4間の位相差を検出して、検出した位相差に応じた(比例した)デューティ比(パルス幅をパルス周期で割った比)のパルス信号を誤差信号Serとして出力する。具体的には、位相比較部8は、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が遅れているときには、誤差信号Serのデューティー比を増加させ、一方、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が進んでいるときには、誤差信号Serのデューティー比を低下させる。また、位相比較部8は、低周波信号S1の入力状態において、比較用信号S4が入力されないときには、低周波信号S1の位相に対して、比較用信号S4の位相が大幅に遅れているため、誤差信号Serのデューティー比を増加させることで、デューティー比の高い誤差信号Serを出力する。
【0032】
ループフィルタ9は、一例としてローパスフィルタで構成されて、入力した誤差信号Serを平滑することにより、直流電圧としての制御電圧Vcを生成して出力する。この構成により、ループフィルタ9から出力される制御電圧Vcは、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が遅れているときに、その電圧が上昇し、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が進んでいるときに、その電圧が下降する。
【0033】
次いで、周波数シンセサイザ1の動作について説明する。なお、一例として、高周波信号生成部4は、基準信号生成部2から出力される周波数frの第1基準信号Srに基づいて、800MHz〜2.1GHzの周波数範囲内で、12.5MHzの分解能で周波数f2の高周波信号S2を出力可能であるものとする。また、低周波信号生成部3は、基準信号生成部2から出力される周波数frの第1基準信号Srに基づいて、25MHz〜100MHzの周波数範囲内で、0.1Hzの分解能で周波数f1の低周波信号S1を出力可能であるものとし、これにより、周波数シンセサイザ1は、825MHz〜2.1GHzの周波数範囲内で、0.1Hzの分解能で周波数foutの出力信号Soutを出力可能であるものとする。
【0034】
また、この構成において、一例として、低周波信号生成部3から出力される低周波信号S1の周波数f1が25MHzに設定され、かつ高周波信号生成部4から出力される高周波信号S2の周波数f2が975MHzに設定されて、周波数シンセサイザ1が初期状態において、周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力する状態で作動している例を挙げて説明する。なお、低周波信号生成部3の周波数範囲が25MHz〜100MHzであり、また高周波信号生成部4の周波数範囲が800MHz〜2.1GHzであることから、低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoは、実際に設定されている周波数f1(本例では上記のように25MHz)以上であって、800MHz未満の任意の周波数に設定することができるが、低域フィルタ部7から出力される差周波数信号Sdiになるべく不要な周波数成分を含めないようにするのが好ましいため、カットオフ周波数fcoは周波数f1に近い周波数、一例として50MHzに設定されているものとする。
【0035】
したがって、周波数f2を975MHzとし、カットオフ周波数fcoを50MHzとし、数値Lを「2」として、上記(L×f2/fco)に基づいて数値Mを求めると、下記のようにして、数値Mとして数値「39」が算出される。
M≒2×975/50=39
【0036】
周波数シンセサイザ1の作動状態において、基準信号生成部2は、周波数frの第1基準信号Srを生成して出力し、周波数f3の第2基準信号S3を生成して出力している。なお、第2基準信号S3の周波数f3は、低周波信号生成部3から出力される低周波信号S1の周波数f1についての設定範囲(上限周波数f1max(=100MHz)、下限周波数f1min(=25MHz))の上限周波数f1max(=100MHz)を超える値(一例として200MHz)に規定されている。
【0037】
この場合、PLL回路に構成された周波数シンセサイザ1がロック状態で作動しているときには、図1に示すように、VCO5が周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力し、ミキサ部6が、この出力信号Soutと高周波信号生成部4から出力される高周波信号S2(周波数f2が975MHz)とをミキシングすることにより、ミキシング信号Smixを出力している。この場合、ミキシング信号Smixは、出力信号Soutおよび高周波信号S2の各周波数fout,f2の差周波数成分(fdi=|fout−f2|=25MHz)で構成される差周波数信号Sdiと、各周波数fout,f2の和周波数成分(fsu=fout+f2=1975MHz)で構成される和周波数信号とを含んで構成されている。
【0038】
低域フィルタ部7は、カットオフ周波数fcoが50MHzに規定されているため、ミキシング信号Smixを入力して、このミキシング信号Smixを構成する差周波数信号Sdiおよび和周波数信号のうちの差周波数信号Sdiのみを出力する。
【0039】
信号処理部10では、図2に示すように、分周器21が高周波信号S2をM分周して周波数f21の分周信号S21を出力し、分周器22が出力信号Soutを(M+L)分周して周波数f22の分周信号S22を出力し、分周器23が高周波信号S2をN分周して周波数f23の分周信号S23を出力し、分周器24が出力信号SoutをN分周して周波数f24の分周信号S24を出力している。
【0040】
また、周波数位相比較器25は、分周信号S21,S22の周波数f21,f22を比較して、周波数f22が周波数f21以上のときに検出信号Saを出力し、周波数f22が周波数f21未満のときに検出信号Saの出力を停止する動作を実行している。本例では、上記したように、M=39、L=2に規定されているため、分周器21から出力される分周信号S21の周波数f21は、975MHz/39=25MHzとなり、分周器22から出力される分周信号S22の周波数f22は、1GHz/(39+2)≒24.4MHzとなる。したがって、周波数f22が周波数f21未満となるため、周波数位相比較器25は検出信号Saの出力を停止している。
【0041】
一方、周波数位相比較器26は、分周信号S23,S24の周波数f23,f24を比較して、周波数f24が周波数f23以上のときに検出信号Sbを出力し、周波数f24が周波数f23未満のときに検出信号Sbの出力を停止する動作を実行している。周波数シンセサイザ1がロック状態のときには、出力信号Soutの周波数foutは、高周波信号S2の周波数f2よりも、低周波信号S1の周波数S1分だけ常に高い。つまり、分周回数が同じN回に規定された分周器23,24から出力される分周信号S23,S24間では、出力信号Soutを分周して得られる分周信号S24の方が、高周波信号S2を分周して得られる分周信号S23よりも周波数が常に高い状態となっている。したがって、周波数位相比較器26は、検出信号Sbを出力している。
【0042】
このため、選択部27には、検出信号Saが入力されず(未入力)、かつ検出信号Sbが入力されるため、選択部27は、図3に示すように、差周波数信号Sdiを比較用信号S4として位相比較部8に出力している。これにより、VCO5、ミキサ部6、低域フィルタ部7、信号処理部10、位相比較部8およびループフィルタ9が閉ループ状態に構成されて、PLL回路に構成された周波数シンセサイザ1がロック状態を維持しつつ作動を継続する。このロック状態での出力信号Soutの周波数fout、高周波信号S2の周波数f2、カットオフ周波数fco、差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)および第2基準信号S3の周波数f3の高低関係は、図4に示す状態となっている。
【0043】
次いで、上記のロック状態において、図5に示すように、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を周波数A(975MHz)から周波数B(937.5MHz(=975−12.5×3))に低下させ、これによって、差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|=62.5MHz(=1GHz−937.5MHz))が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco(50MHz)以上となったときには、低域フィルタ部7から差周波数信号Sdiが信号処理部10に出力されない状態、つまり、VCO5、ミキサ部6、低域フィルタ部7、信号処理部10、位相比較部8およびループフィルタ9が閉ループ状態に構成されないため、PLL回路が構成されない状態となる。
【0044】
この状態において、信号処理部10では、分周器21が高周波信号S2(周波数f2(=937.5MHz))をM(=39)分周して周波数f21(≒24.0MHz)の分周信号S21を出力し、分周器22が出力信号Sout(周波数fout(=1GHz))を(39+2)分周して周波数f22(≒24.4MHz)の分周信号S22を出力する。これにより、分周信号S22の周波数f22が分周信号S21の周波数f21以上となるため、周波数位相比較器25は、両分周信号S21,S22の周波数f21,f22を比較して、検出信号Saの出力を開始する。
【0045】
また、出力信号Soutの周波数foutが高周波信号S2の周波数f2よりも高いため、分周器24から出力される分周信号S24の周波数f24が分周器23から出力される分周信号S23の周波数f23よりも高い状態となっている。このため、周波数位相比較器26は、両分周信号S23,S24の周波数f23,f24を比較して、検出信号Sbを出力している。
【0046】
これにより、選択部27には、検出信号Saおよび検出信号Sbが入力されるため、選択部27は、図3に示すように、周波数f3の第2基準信号S3を比較用信号S4として位相比較部8に出力し始める。第2基準信号S3の周波数f3は、低周波信号生成部3から出力される低周波信号S1の上限周波数f1maxを超える値に規定されているため、位相比較部8は、両信号S1,S4間の位相差を検出して、検出した位相差に応じたデューティ比のパルス信号を誤差信号Serとして出力する。具体的には、位相比較部8は、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が進んでいるため、ロック状態のときと比較して、デューティー比を低下させた誤差信号Serを出力する。
【0047】
ループフィルタ9は、誤差信号Serに基づいて制御電圧Vcを生成してVCO5に出力するが、この場合、低周波信号S1に対して比較用信号S4の位相が進んでいるため、ロック状態のときと比較して電圧を下降させた制御電圧Vcを出力する。VCO5は、この制御電圧Vcを入力して、出力信号Soutの周波数foutを低下させる。このように、信号処理部10から第2基準信号S3が比較用信号S4として出力されている状態では、VCO5に対して位相比較部8およびループフィルタ9が開ループ制御を実行して、VCO5から出力される出力信号Soutの周波数foutを強制的に低下させる。
【0048】
これにより、図5に示すように、一旦、低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco(50MHz)を超えて、周波数C(62.5MHz)に達した差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)も、出力信号Soutの周波数foutの低下に伴って低下し、短時間にカットオフ周波数fcoに達し、さらに低下する。
【0049】
この状態において、低域フィルタ部7は、差周波数信号Sdiの出力を再開する。また、信号処理部10では、出力信号Soutの周波数foutが約984.5MHzまで低下した時点(差周波数信号Sdiの絶対周波数|fout−f2|が47MHz(=984.5MHz−937.5MHz)となった時点)で、分周器21から出力される分周信号S21の周波数f21(24.04MHz(=937.5/39))よりも、分周器22から出力される分周信号S22の周波数f22(24.01MHz(=984.5/41))の方が低くなる。これにより、周波数位相比較器25は、検出信号Saの出力を停止する。一方、周波数位相比較器26は、出力信号Soutの周波数foutが高周波信号S2の周波数f2よりも高く、これにより、分周信号S24の周波数f24が分周信号S23の周波数f23よりも高い状態となっているため、検出信号Sbを出力している。
【0050】
したがって、選択部27に対して、検出信号Saが未入力で、かつ検出信号Sbが入力される状態となるため、図3に示すように、選択部27は、第2基準信号S3に代えて、低域フィルタ部7から出力されている差周波数信号Sdiの出力を開始する。これにより、VCO5に対して開ループ制御状態から閉ループ制御状態(ロック状態)に移行するため、周波数シンセサイザ1はPLL回路として作動して、差周波数信号Sdiの絶対周波数|fout−f2|が、低周波信号生成部3から出力される低周波信号S1の周波数f1(25MHz)となるまで、出力信号Soutの周波数foutを低下させる。これにより、周波数シンセサイザ1は、周波数foutが962.5MHz(=937.5+25)の出力信号Soutを出力する。
【0051】
また、周波数シンセサイザ1がロック状態で作動して、VCO5が周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力している状態において、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を出力信号Soutの周波数foutを超える周波数、例えば、図6に示すように、出力される高周波信号S2の周波数f2を周波数A(975MHz)から周波数D(例えば、1025MHz(=975+12.5×4))に上昇させたときには、出力信号Soutの周波数foutが高周波信号S2の周波数f2未満となる。この場合、信号処理部10では、出力信号Soutの周波数foutよりも高周波信号S2の周波数f2の方が高いため、分周器24から出力される分周信号S24の周波数f24よりも分周器23から出力される分周信号S23の周波数f23の方が高い状態となっている。このため、周波数位相比較器26は、両分周信号S23,S24の周波数f23,f24を比較して、検出信号Sbの出力を停止する。
【0052】
これにより、選択部27は検出信号Sbの未入力状態となるため、選択部27は、図3に示すように、検出信号Saの入力状態のいかんに関わらず(つまり、差周波数信号Sdiの絶対周波数|fout−f2|がカットオフ周波数fcoを超えるか否かに関わらず)、比較用信号S4の位相比較部8への出力を停止する。この場合、位相比較部8は、低周波信号S1の位相に対して、比較用信号S4の位相が大幅に遅れているため、ロック状態のときと比較して、誤差信号Serのデューティー比を増加させることで、デューティー比の高い誤差信号Serを出力する。
【0053】
ループフィルタ9は、誤差信号Serに基づいて制御電圧Vcを生成してVCO5に出力するが、この場合、誤差信号Serのデューティー比が高い状態となっているため、ロック状態のときと比較して電圧を上昇させた制御電圧Vcを出力する。VCO5は、この制御電圧Vcを入力して、出力信号Soutの周波数foutを上昇させる。このように、信号処理部10が比較用信号S4の出力を停止している状態では、VCO5に対して位相比較部8およびループフィルタ9が開ループ制御を実行して、VCO5から出力される出力信号Soutの周波数foutを強制的に上昇させる。
【0054】
その後、出力信号Soutの周波数foutは、高周波信号S2の周波数f2(1025MHz)に達する。この場合、信号処理部10において、周波数位相比較器26が検出信号Sbの出力を再開する。一方、分周器22から出力される分周信号S22の周波数f22は分周器21から出力される分周信号S21の周波数f21よりも低い状態となっているため、周波数位相比較器25は検出信号Saの出力を停止している。
【0055】
したがって、選択部27に対して、検出信号Saが未入力で、かつ検出信号Sbが入力される状態となるため、図3に示すように、選択部27は、第2基準信号S3に代えて、低域フィルタ部7から出力されている差周波数信号Sdiの出力を開始する。これにより、VCO5に対して開ループ制御状態から閉ループ制御状態(ロック状態)に移行するため、その後、周波数シンセサイザ1はPLL回路として作動して、図6に示すように、差周波数信号Sdiの絶対周波数|fout−f2|が低周波信号S1の周波数f1(25MHz)となるまで、つまり、出力信号Soutの周波数foutを高周波信号S2の周波数f2(1025MHz)よりも25MHz(周波数f1分)だけ高くなるまで上昇させる。これにより、周波数シンセサイザ1は、周波数foutが1050MHz(=1025+25)の出力信号Soutを出力する。
【0056】
このように、この周波数シンセサイザ1では、高周波信号S2の周波数f2が新たに設定された際に、信号処理部10が、出力信号Soutの周波数foutが新たに設定された高周波信号S2の周波数f2よりも低い高低関係のときには、位相比較部8への比較用信号S4の出力を停止し、これによって出力信号Soutの周波数foutを強制的に上昇させることにより、周波数シンセサイザ1をロック状態に移行させる。また、出力信号Soutの周波数foutが新たに設定された高周波信号S2の周波数f2以上で、かつ差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco以上の高低関係のときには、低周波信号S1の周波数f1よりも高い(一例として一定の)周波数f3の第2基準信号S3を比較用信号S4として位相比較部8に出力し、これによって出力信号Soutの周波数foutを強制的に低下させることにより、周波数シンセサイザ1をロック状態に移行させる。また、出力信号Soutの周波数foutが新たに設定された高周波信号S2の周波数f2以上で、かつ差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoよりも低い高低関係のときには、差周波数信号Sdiを比較用信号S4として位相比較部8へ出力することにより、ロック状態を継続させる。
【0057】
したがって、この周波数シンセサイザ1によれば、従来の周波数シンセサイザとは異なり、高周波信号S2の周波数f2が新たに設定された場合に周波数シンセサイザ1をロック状態に移行させるための回路として、2つのVCO内部の動作と各電子部品の特性とを考慮した複雑な制御回路を設計して使用する必要がないため、設計の容易化を図ることができる。また、VCO5に加えられる制御電圧Vcを直接制御する構成ではなく、位相比較部8に入力される比較用信号S4を切り換える構成を採用するため、内部回路において発生したノイズなどの影響をVCO5が直接受けるといった不具合を回避できる結果、良好なノイズ特性を実現することができる。
【0058】
また、この周波数シンセサイザ1によれば、4つの分周器21,22,23,24、2つの周波数位相比較器25,26および選択部27で、位相比較部8に対して比較用信号S4を出力する信号処理部10を構成することができるため、従来の周波数シンセサイザとは異なり、少ない種類の電子部品で比較用信号S4を出力する回路を実現することができる。
【0059】
なお、低周波信号S1の周波数f1を25MHzとし、これにより、カットオフ周波数fcoを50MHzとし、また、高周波信号生成部4から出力される高周波信号S2の周波数f2を975MHzとして、周波数シンセサイザ1がロック状態において、周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力する構成において、数値M,Lをそれぞれ「39」,「2」とした例について上記したが、低周波信号S1の周波数f1を変更し、これに対応させてカットオフ周波数fcoも変更した場合においても、数値M,Lを変更することにより、上記した例と同様にして、周波数位相比較器25から選択部27に対して、検出信号Saを最適な状態で出力させることができる。
【0060】
例えば、低周波信号S1の周波数f1を50MHzとし、これにより、カットオフ周波数fcoを100MHzとし、また、高周波信号生成部4から出力される高周波信号S2の周波数f2を950MHzとして、周波数シンセサイザ1がロック状態において、周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力する構成においては、一例として、数値Lを「4」とした場合、下記のようにして、数値Mが規定される。
M=4×950/100=38
【0061】
この構成においても、ロック状態から、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を低下させ、これによって、差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco(100MHz)以上となったとき(例えば、周波数f2を887.5MHzまで低下させたとき)にも、この状態において、信号処理部10では、分周器21が高周波信号S2(周波数f2(=887.5MHz))をM(=38)分周して周波数f21(≒23.4MHz)の分周信号S21を出力し、分周器22が出力信号Sout(周波数fout(=1GHz))を(38+4)分周して周波数f22(≒23.8MHz)の分周信号S22を出力する。これにより、分周信号S22の周波数f22が分周信号S21の周波数f21以上となるため、周波数位相比較器25が検出信号Saの出力を開始することで、信号処理部10から位相比較部8に対して第2基準信号S3を比較用信号S4として出力することができ、出力信号Soutの周波数foutを強制的に低下させることができる。
【0062】
また、ロック状態から、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を出力信号Soutの周波数foutを超える周波数(例えば、1012.5MHz)に上昇させたときには、信号処理部10では、出力信号Soutの周波数foutよりも高周波信号S2の周波数f2の方が高いため、分周器24から出力される分周信号S24の周波数f24よりも分周器23から出力される分周信号S23の周波数f23の方が高い状態となる。このため、周波数位相比較器26が、周波数f23,f24を比較して、検出信号Sbの出力を停止することで、信号処理部10が位相比較部8への比較用信号S4の出力を停止することができ、出力信号Soutの周波数foutを強制的に上昇させることができる。
【0063】
また、低周波信号S1の周波数f1を100MHzとし、これにより、カットオフ周波数fcoを150MHzとし、また、高周波信号生成部4から出力される高周波信号S2の周波数f2を900MHzとして、周波数シンセサイザ1がロック状態において、周波数fout(=1GHz)の出力信号Soutを出力する構成においては、一例として、数値Lを「3」とした場合、下記のようにして、数値Mが規定される。
M=3×900/100=27
【0064】
この構成においても、ロック状態から、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を低下させ、これによって、差周波数信号Sdiの絶対周波数(|fout−f2|)が低域フィルタ部7のカットオフ周波数fco(150MHz)以上となったとき(例えば、周波数f2を837.5MHzまで低下させたとき)にも、この状態において、信号処理部10では、分周器21が高周波信号S2(周波数f2(=837.5MHz))をM(=27)分周して周波数f21(≒31.0MHz)の分周信号S21を出力し、分周器22が出力信号Sout(周波数fout(=1GHz))を(27+3)分周して周波数f22(≒33.3MHz)の分周信号S22を出力する。これにより、分周信号S22の周波数f22が分周信号S21の周波数f21以上となるため、周波数位相比較器25が検出信号Saの出力を開始することで、信号処理部10から位相比較部8に対して第2基準信号S3を比較用信号S4として出力することができ、出力信号Soutの周波数foutを強制的に低下させることができる。
【0065】
また、ロック状態から、高周波信号生成部4に対する分周設定を変更して、出力される高周波信号S2の周波数f2を出力信号Soutの周波数foutを超える周波数(例えば、1012.5MHz)に上昇させたときには、信号処理部10では、出力信号Soutの周波数foutよりも高周波信号S2の周波数f2の方が高いため、分周器24から出力される分周信号S24の周波数f24よりも分周器23から出力される分周信号S23の周波数f23の方が高い状態となる。このため、周波数位相比較器26が、周波数f23,f24を比較して、検出信号Sbの出力を停止することで、信号処理部10が位相比較部8への比較用信号S4の出力を停止することができ、出力信号Soutの周波数foutを強制的に上昇させることができる。
【0066】
このように、この周波数シンセサイザ1によれば、信号処理部10における分周器21の分周回数Mに対して他の分周器22の分周回数を(M+L)とすると共に、低域フィルタ部7のカットオフ周波数fcoを考慮して、両数値M,Lを規定する構成としたことにより、低周波信号S1の周波数f1の変更に対応させてカットオフ周波数fcoを変更した場合においても、数値M,Lの少なくとも一方を変更することにより、信号処理部10から位相比較部8に対して適切な比較用信号S4を出力することができる。
【0067】
なお、数値Mの設定に際して、値(L×f2/fco)に最も近い整数となるように設定するという最も好ましい構成について上記したが、フィルタの一般的な特性として、カットオフ周波数であっても、その周波数での信号成分はゼロにはならないため、値(L×f2/fco)に最も近い整数そのものではなく、この最も近い整数の近傍の整数を数値Mとして設定することもできる。また、分周器22の分周回数(M+L)を規定する各数値M,Lの設定において、まず数値Lを設定し、次いで数値Mを設定する構成について上記したが、逆に、まず数値Mを設定し、次いで数値Lを設定する構成を採用してもよいのは勿論である。また、周波数位相比較器26の前段に2つの分周器23,24を配設して、周波数位相比較器26に入力される信号の周波数を低下させる構成を採用したが、周波数位相比較器26が出力信号Soutと高周波信号S2の各周波数fout,f2とを直接比較できる構成においては、この分周器23,24の配設を省略することもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 周波数シンセサイザ
3 低周波信号生成部
4 高周波信号生成部
5 VCO
6 ミキサ部
7 低域フィルタ部
8 位相比較部
9 ループフィルタ
10 信号処理部
Vc 制御電圧
S1 低周波信号
S2 高周波信号
S3 基準信号
S4 比較用信号
Sdi 差周波数信号
Ser 誤差信号
Sout 出力信号
Smix ミキシング信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した制御電圧に応じた周波数の出力信号を生成する電圧制御発振部と、
予め設定された周波数範囲内で任意の周波数の低周波信号を生成する低周波信号生成部と、
設定された周波数の高周波信号を生成する高周波信号生成部と、
前記出力信号および前記高周波信号をミキシングしてミキシング信号として出力するミキサ部と、
前記ミキシング信号に含まれる前記出力信号および前記高周波信号の差周波数信号を選択的に通過させる低域フィルタ部と、
前記出力信号、前記高周波信号および前記差周波数信号を入力すると共に、当該出力信号の前記周波数および当該高周波信号の前記周波数の高低関係に基づいて比較用信号を出力する信号処理部と、
前記低周波信号および前記比較用信号の各位相についての誤差信号を出力する位相比較部と、
前記誤差信号に基づいて前記制御電圧を生成する制御電圧生成部とを備えた周波数シンセサイザであって、
前記信号処理部は、前記高周波信号の前記周波数が新たに設定された際に、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数よりも低い前記高低関係のときには、前記位相比較部への前記比較用信号の出力を停止し、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ前記差周波数信号の絶対周波数が前記低域フィルタ部のカットオフ周波数以上の前記高低関係のときには、前記低周波信号の周波数よりも高い周波数の基準信号を前記比較用信号として前記位相比較部に出力し、前記出力信号の周波数が当該新たに設定された高周波信号の周波数以上で、かつ前記差周波数信号の絶対周波数が前記低域フィルタ部のカットオフ周波数よりも低い前記高低関係のときには、前記差周波数信号を前記比較用信号として前記位相比較部へ出力する周波数シンセサイザ。
【請求項2】
前記信号処理部は、
前記高周波信号をM分周(Mは2以上の整数)して第1分周信号を出力する第1分周器と、
前記出力信号を(M+L)分周(Lは1以上の整数)して第2分周信号を出力する第2分周器と、
前記第2分周信号の周波数が前記第1分周信号の周波数以上のときに第1検出信号を出力する第1周波数比較器と、
前記出力信号の周波数が前記高周波信号の周波数以上のときに第2検出信号を出力する第2周波数比較器と、
前記差周波数信号および前記基準信号を入力すると共に、前記第1検出信号および前記第2検出信号を入力しているときには、前記位相比較部に前記比較用信号として当該基準信号を出力し、前記第1検出信号を入力せず、かつ前記第2検出信号を入力しているときには、前記位相比較部に前記比較用信号として当該差周波数信号を出力し、前記第2検出信号を入力していないときには、前記位相比較部への前記比較用信号の出力を停止させる選択部を備え、
前記高周波信号の周波数をfとし、かつ前記カットオフ周波数をfcoとしたときに、数値Mが値(L×f/fco)に最も近い整数となるように規定されている請求項1記載の周波数シンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−97382(P2011−97382A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249617(P2009−249617)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】