説明

周波数合成器および周波数合成装置

【課題】基準信号の周波数の実数倍の周波数を持ちジッタの少ないデジタル信号を整数PLLとデジタル回路のみを用いて生成する。
【解決手段】実数である周期指定値をデルタ・シグマ変調器を通してジッタの低周波成分を抑制した整数分周数列を発生させ、その分周数列で基準信号を分周する。その分周出力信号に対して整数PLLによりジッタを除去することにより所望の信号を得る。また、前記デルタ・シグマ変調器では、分周器出力において理想的な信号の立ち上がりのタイミングと実際の立ち上がりのタイミングの誤差を算出し、その誤差に対してデジタルフィルタを通して分周数にフィードバック補償を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数合成器および周波数合成装置に関し、基準信号の周波数に対して指定された実数倍の周波数を持つ信号を生成する周波数シンセサイザに用いて好適なるものである。
【背景技術】
【0002】
ある所望の周波数の信号を生成しようとするとき、周波数精度の高い基準信号に対して、その周波数の実数倍(厳密には有限の分解能であるが、実際にはその分解能が非常に高い場合が多いので、実数倍と記述することにする)の信号を生成する周波数シンセサイザはしばしば必要とされ用いられている。このような周波数シンセサイザの実現方法としては、ダイレクト・デジタル・シンセサイザ(DDS)と分数PLLがある。
【0003】
DDSのブロック図の例を図5に示す。DDSは指定周波数の分解能を非常に高く取ることができるが、D/A変換器44と正弦波データを格納するROM43が必要になるといったハードウェア上の制約がある。また、出力信号がアナログ信号であるのでデジタル信号を得たい場合には不向きである上に、ジッタも多く含まれてしまうといった問題点を持っている。さらに、出力信号の周波数は動作周波数に比べてかなり低くする必要があるので、あまり高い周波数の出力信号が得られないといった問題点も持っている。
【0004】
分数PLLのブロック図の一例を図6に示す。分数PLLは、PLLのフィードバック経路におけるカウンタ36の分周数N(整数)を毎回変化させることにより、実質的な分周数を毎回の分周数の平均値とすることにより、基準周波数信号refの周波数に対して実数倍の周波数の信号を得るものである。毎回の分周数Nの生成にデルタ・シグマ変調器51を用いることにより、非常に分解能の高い周波数シンセサイザを実現することができる。しかし、性能の高い分数PLLの設計には多くのノウハウが必要とされる上に、分数PLL自体を一つのIC内に収めることが望ましいため、分数PLLを用いるには専用のICを用いるか、独自に分数PLLを開発してIC内に組み込む必要がある。
【0005】
一方、近年FPGA(Field Programmable Gate Array)と呼ばれる汎用のデジタルICが普及している。FPGAの中には整数PLLを内在するものもあるが、分数PLLを組み込めるものは限られてしまう。整数PLLは多く用いられるのに対し、分数PLLは設計するのに高度なノウハウを必要とするためである。しかし、整数PLLしか内蔵していないFPGAを用いて分数PLLと同じ機能を実現させたい場合もある。
【0006】
そこで、整数PLLしか内蔵していないFPGAを用いて分数PLLのように基準信号の周波数の実数倍の周波数を持ち、低ジッタである信号を得る方法を提案する。これを実現するために用いる、ジッタのスペクトルをシェーピングした2値信号の生成手段も提案する。

これに似た技術として、図7に示すようなDDS4と整数PLL3を組み合わせた手法が提案されている(特許文献1)。まず、DDS4により所望の周波数を持つ信号を生成する。しかし、生成された信号にはジッタが含まれるため、このジッタをバンドパスフィルタ52と整数PLL3により除去する。しかし、この方法では、DDSを用いているので一旦アナログ信号を生成する必要がある上、アナログ回路であるバンドフィルタ52を必要とするといった問題点を持っている。所望の周波数を持つデジタル信号をFPGAを用いて生成する際には、PLL以外にはアナログ回路の使用を避ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−332539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、整数PLLを用いて基準周波数の実数倍の周波数を持つジッタの小さい信号を生成する手段を提供することである。また、上記手段を実現するための、ジッタのスペクトルをシェーピングした信号の生成手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、ジッタのスペクトルをシェーピングすることが可能でありデジタル回路により実現する周波数合成器と整数PLLを組み合わせ、周波数合成器の出力信号を整数PLLに入力し、周波数合成器の出力信号に含まれるジッタを除去する。周波数合成器では所望の周波数を持つ信号を生成する。周波数合成器の出力信号に含まれるジッタの低周波成分が少なくなるようにジッタのスペクトルをシェーピングすることにより、整数PLLによりジッタのほとんどを除去することができるので、ジッタの少ない所望の周波数を持つ信号を得る事ができる。
【0010】
上記の要件を満たす周波数合成器の実現方法として、分周器とデルタ・シグマ変調器を組み合わせる。基準周波数信号を出力させたい所望の出力信号周波数で除した値(基準周波数信号の周期を単位とした所望の出力信号の周期に相当、以下所望の周期と記す)をデルタ・シグマ変調器に入力し、平均が所望の周期と等しくなる整数列を出力する。この整数列を分周数として分周器に入力することにより、分周器における平均分周数が所望の周期となり、所望の周波数の信号を得ることができる。
【0011】
デルタ・シグマ変調器においては、所望の周期に対応する理想的な周波数合成器出力信号の変化のタイミングと、出力する分周数から算出される実際の周波数合成器出力信号の変化のタイミングの差を検出し、その差を信号処理した結果により出力する分周数を補償する、例えば上記のタイミングの差をフィルタを通して次回以降出力する分周数にフィードバック補償することにより、ジッタのスペクトルをシェーピングする。そのときに用いるフィルタの特性により、ジッタのスペクトルの形が決まる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態を説明するブロック図。
【図2】本発明の実施の形態における信号を説明する図。
【図3】デルタ・シグマ変調器1の第1の例を示すブロック図。
【図4】デルタ・シグマ変調器1の第2の例を示すブロック図。
【図5】従来技術であるDDSの構成図。
【図6】従来技術である分数PLLの構成図。
【図7】従来技術であるDDSとPLLを組み合わせた周波数シンセサイザの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に本発明の実施の形態を示すブロック図を示す。これは、基準信号(基準周波数信号)の周期に対して指定した倍数の周期を持ちジッタの小さい信号を得るものである。入力信号Cは基準信号であり、正確な周波数350[MHz]を持つ周期がT≒2.86 [ns]で一定である信号である。周期指定値Pは出力信号の周期を指定するデジタル信号であり、整数部分が3ビット、小数部分が24ビットの信号である。
【0014】
デルタ・シグマ変調器1は、周期指定値Pを入力し、3ビットの整数値デジタル信号である整数分周数Nを出力する。ただし、整数分周数Nは逐次変化するものであり、整数分周数Nの平均値は周期指定値Pと等しい。周期指定値Pの値が4.25であるときの信号例を図2に示す。整数分周数Nは不規則に近い形で変化する。整数分周数Nが規則的に変化すると、後で述べる周波数合成信号S1のスペクトルに大きなスプリアスが発生してしまうためである。
【0015】
プログラマブルカウンタ(以下分周器と記す)2は、基準信号Cを分周数Nに従い分周し、分周信号S1を出力する。分周数Nの平均値が周期指定値Pに等しいので、分周信号S1の周波数は正確に基準信号Cの周波数を周期指定値Pで割った値に等しくなる。すなわち、分周信号S1の周期の平均値は、基準信号Cの周期Tに周期指定値Pを乗じた値に等しくなる。分周信号S1の周期の平均値の分解能は約0.170 [fs]となる。分周信号S1の周波数分解能は周期指定値Pの値に依存し、たとえば周期指定値Pの値が5.5のときは、約3.79 [Hz]である。このとき、分周信号S1の周波数は約63.6 [MHz]となる。
【0016】
分周信号S1は、位相比較器31、チャージポンプ32、ループフィルタ33、電圧制御発振器34および分周器35によって構成される整数PLL3に入力される。分周器35の分周数は一定で、その値をMとする。周期指定値の値が5.5であり、分周数Mの値が4であるとき、電圧制御発振器34の出力信号S2の周波数は約255 [MHz]となる。整数PLL3は、ループ帯域幅を狭く取ることにより、分周信号S1のジッタを除去することができるので、電圧制御発振器34の出力信号S2はジッタの小さい信号とすることができる。その際、整数PLL3によって分周信号S1のジッタの高周波成分は除去することはできるが、低周波成分は除去することができない。分周信号S1のジッタの大きさの下界は基準信号Cの周期によって決まってしまい小さくすることができないので、電圧制御発振器34の出力信号S2に含まれるジッタを小さくするには、分周信号S1に含まれるジッタに対して周波数シェーピングする必要がある。
【0017】
本発明の実施の形態においては、デルタ・シグマ変調器1は分周信号S1に同期して動作する。通常のDDSとは異なり、基準信号Cに同期して動作する訳ではないので、DDSよりも高い周波数の出力信号を扱うことができる。
【0018】
デルタ・シグマ変調器1の第1の例を示すブロック図を図3に示す。図において、レジスタ12aは整数PLL3におけるフィードバック信号S3の立ち上がりエッジの理想的なタイミングを記憶するレジスタであり、周期指定値Pと同じく、整数部分が3ビット、小数部分が24ビットの信号幅を持つレジスタである。一方、レジスタ12bは整数分周数Nを記憶するレジスタであり、3ビットのレジスタである。
【0019】
減算器15aはレジスタ12a、レジスタ12bに記憶されている値からフィードバック信号S3の理想的な立ち上がりエッジのタイミングと分周信号S1の立ち上がりエッジのタイミングの時間差であるタイミング誤差peを算出する。このタイミング誤差peは、上述したように、所望の周期に対応する理想的な周波数合成器(分周器)出力信号の変化のタイミングと、出力する分周数から算出される実際の周波数合成器(分周器)出力信号の変化のタイミングの差に相当する。加算器14aはタイミング誤差peと周期指定値Pを加算することにより、フィードバック信号S3の次の理想的な立ち上がりエッジのタイミングpcを算出し、レジスタ12aに記憶される。フィルタ16はデジタルフィルタであり、これによりタイミング誤差peのスペクトルを整形する。フィルタ16の伝達関数H[z]は、たとえば
【0020】
【数1】

【0021】
である。このフィルタ16は積分器を二つ含み、低い周波数で信号を増幅するので、タイミング誤差peのスペクトルの低い周波数成分は抑制されることになる。
【0022】
フィルタ16の伝達関数H[z]は直達項を持つことができる。加算器14bは、フィルタ16の出力信号と次の理想的な立ち上がりエッジのタイミングpcを加算して、その結果に対して量子化器11において整数部分のみを抜き出すこと(切り下げ)により、次の整数分周数Nを算出する。フィルタ16が少なくとも一つの積分を含んでいれば、量子化器11における整数への丸めに対して、切り上げや四捨五入を用いても、得られる分周信号S1のスペクトルにはほとんど影響を与えない。
【0023】
なお、上記したレジスタ12a、レジスタ12bおよびフィルタ16は、分周器2から出力された分周信号S1をクロックとして動作する。
【0024】
デルタ・シグマ変調器1の第2の例を示すブロック図を図4に示す。デルタ・シグマ変調器1の第1の例と比べて擬似ランダム信号PRが付加されているところが異なる。一般に、デルタ・シグマ変調器は出力信号に特定の周波数の信号成分(以下スプリアスと記す)を持つことが多い。そのようなスプリアスは、分周器2の出力信号S1にもスプリアスを発生させ、PLL3の出力信号S2にもスプリアスが混入することになる。特にデルタ・シグマ変調器1の出力信号Nに低い周波数のスプリアスが含まれていると、PLL3によって対応するスプリアスを抑制することが困難になってしまうので、十分に注意する必要がある。また、デルタ・シグマ変調器1が定常的なリミットサイクルに陥ってしまう可能性もある。そのようなスプリアスやリミットサイクルに対する対策として、擬似ランダム信号を加え合わせることが有効であることが知られている。ただし、擬似ランダム信号を加えることにより、デルタ・シグマ変調器1の出力信号Nに含まれるノイズの総量は増加してしまう。
【0025】
ここでは擬似ランダム信号PRとして、0または1/32の値を取る2値シーケンス信号を用いる。このどちらの値を取るかは擬似的にランダムに決まる。この擬似ランダム信号PRに直流成分を含んでいるが、フィルタ16が積分を含んでいるため、問題は発生しない。擬似ランダム信号PRは量子化器11の入力において加算され、デルタ・シグマ変調器1がリミットサイクルに陥ることを防いでいる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の周波数シンセサイザを用いると、整数PLLとデジタル回路を用いて、基準周波数の実数倍の周波数を持つジッタの小さい信号を生成することができる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・デルタ・シグマ変調器
11・・・量子化器
12a,12b・・・レジスタ
13・・・フィルタ
14a,14b,14c・・・加算器
15a・・・減算器
2・・・分周器
3・・・整数PLL
31・・・位相比較器
32・・・チャージポンプ
33・・・ループフィルタ
34・・・VCO
35・・・固定分周器
36・・・分周器
4・・・DDS
41・・・加算器
42・・・レジスタ
43・・・ROM
44・・・D/A変換器
51・・・デルタ・シグマ変調器
52・・・バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準周波数信号と周期指定値を入力し、周波数合成信号を出力する周波数合成器であって、前記周期指定値を入力として逐次変化する整数分周数を出力するデルタ・シグマ変調器と、前記基準周波数信号を前記整数分周数で分周して分周信号を出力する分周器を持ち、前記デルタ・シグマ変調器は前記分周信号に同期して動作し、前記分周信号を前記周波数合成信号とすることを特徴とする周波数合成器。
【請求項2】
前記デルタ・シグマ変調器において、前記周期指定値から算出される前記周波数合成信号が変化すべきタイミングと、出力された前記整数分周数から算出される前記周波数合成信号の変化のタイミングの差を検出し、前記差を信号処理した結果により出力する前記整数分周数を補償することを特徴とする請求項1に記載の周波数合成器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の周波数合成器と整数PLLを持ち、前記周波数合成信号を前記整数PLLの入力信号とし、前記整数PLLの出力信号を該装置の出力信号とする周波数合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−183369(P2010−183369A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25328(P2009−25328)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】