説明

回動付勢機構及びこれを備えたプーリ装置

【課題】外側部材と内側部材との回転速度の変動を効果的に緩和することが可能であり、しかも、耐久性を向上することが可能な回動付勢機構を提供する。
【解決手段】回動付勢機構1は、第1軸心X1回りに回転可能で環状の外側軌道面21を内周に有する外側部材2と、第1軸心X1回りに回転可能で環状の内側軌道面31を外周に有している内側部材3と、外側軌道面21と内側軌道面31との間に転動可能に配置された複数の玉4とを備え、外側軌道面21が、第1軸心X1に対して傾斜した第2軸心X2回りに形成され、内側軌道面31が、第1軸心X1に対して傾斜した第3軸心X3回りに形成され、複数の玉4は、外側軌道面21と内側軌道面31との間において最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域Mを避けて配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転方向にばね弾性を有する回動付勢機構、及びこれを備えたプーリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンの補機として用いられるオルタネータは、クランクシャフトから取り出された回転力によって駆動され、自動車の走行に必要な電力を供給する。このオルタネータの入力軸にはオルタネータ用プーリ装置が取り付けられ、このオルタネータ用プーリ装置と、クランクシャフトに取り付けられたプーリとの間にベルトを架け渡すことで、オルタネータにエンジンの回転力を伝達している。
【0003】
一般に、自動車等のエンジンのクランクシャフトはシリンダ内の爆発力によって回転力が付与されるので、その回転速度には変動が生じる。一方、オルタネータは、その内部において比較的重量の重いアーマチュア等が入力軸と一体に回転しているので、クランクシャフトの回転速度の変動が急激であると、アーマチュアは自身の回転で生じる慣性力によってクランクシャフトの回転速度の変動に追従できず、クランクシャフトとオルタネータとの間で一時的に回転速度差が生じる場合がある。このような回転速度差は、オルタネータ用プーリ装置とベルトとの間のスリップやベルトへの過大な負荷を招き、ベルトの異音の発生や寿命低下等の原因となる。また、ベルトのスリップを防止するために当該ベルトの初期張力を比較的高く設定すると、クランクシャフトの回転抵抗が増大し、エンジンの燃費性能を低下させるという問題が生じる。
【0004】
このため、従来のオルタネータ用プーリ装置には、クランクシャフトから伝達される回転速度の変動を許容するために、ベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、オルタネータの入力軸に固定されるプーリボスとの間に回動付勢機構が設けられていた。
【0005】
従来、このような回動付勢機構として、プーリ部材とプーリボスとの間にねじりコイルばねを設け、ねじりコイルばねが捻られることにより生じる弾性力によって、プーリ部材とプーリボスとを一時的に周方向に弾性的に相対回転させることで、回転速度の変動を緩和するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−180287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のねじりコイルばねを用いた回動付勢機構においては、プーリボスに対するプーリ部材の回転変動の緩和特性が、ばねの寸法等(線径、自由長、巻数等)によって定められるばね特性に依存していた。しかし、ねじりコイルばねの寸法等はオルタネータ用プーリ装置内の組み込みスペース等によって制限されるので、ばね特性を自由に設定することは困難であった。また、ねじりコイルばねのばね定数は一定であるので、ねじれ角に応じてばね定数を自在に変化させることはできなかった。このため、オルタネータ用プーリ装置としての回転変動の緩和特性を設定する際の自由度が制限され、クランクシャフトの回転速度の変動を十分に緩和できない可能性があった。また、コイルばねを備えることによってプーリ装置としての強度が低下し、耐久性の面で不利になるという問題があった。
【0008】
そこで本願出願人は、上記問題を解決するために、ねじりコイルばねを用いることなく構成し、プーリ部材のプーリボスに対する回転変動の緩和特性の自由度を高めることが可能な回動付勢機構(プーリ装置)を従前に提案している(特願2008−138118号;以下、単に「先願」という)。
【0009】
この先願の回動付勢機構は、プーリ部材の内周側に設けられ、プーリ部材の回転軸心に対して傾斜した軸心回りに形成された外側軌道面と、プーリボスの外周側に設けられ、外側軌道面と同様にプーリ部材の回転軸心に対して傾斜した軸心回りに形成された内側軌道面と、外側軌道面と内側軌道面との間に転動可能に配置された複数の玉と、複数の玉の相互間に設けられ、各玉の間隔を保持するための複数の保持部材と、を備えている。そして、プーリ部材がプーリボスに相対してプーリ部材の回転軸心回りに回転すると、外側軌道面は内側軌道面に対して周方向に相対移動するだけでなく軸方向にも相対移動し、外側軌道面と内側軌道面との間で玉が徐々に軸方向に挟持され、その反作用として外側軌道面と内側軌道面との相対回転により生じた位相差を解消する方向への弾性力(回動付勢力)が生じる。そして、外側軌道面と内側軌道面との相対回転角度が所定に達すると、外側軌道面と内側軌道面との相対回転が玉によって規制され、外側部材と内側部材とが一体的に回転するように構成されている。
【0010】
ところが、各玉の配置箇所によって外側軌道面と内側軌道面とに玉が挟持されることによる弾性接近量(弾性変形量)が異なるので、一部の玉に対する負荷が大きく、当該玉の寿命が短くなり、回動付勢機構の耐久性が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、ねじりコイルばねを使用することなく、外側部材と内側部材との回転速度の変動を効果的に緩和することが可能であり、しかも、耐久性を向上することが可能な回動付勢機構、及びこれを備えたプーリ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の回動付勢機構は、第1軸心回りに回転可能であり、かつ環状の外側軌道面を内周に有している外側部材と、前記第1軸心回りに回転可能であり、かつ前記外側軌道面の径方向内側に全周に亘って対向する環状の内側軌道面を外周に有している内側部材と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動可能に配置された複数の玉と、を備えており、前記外側軌道面が、前記第1軸心に対して傾斜した第2軸心回りに形成され、前記内側軌道面が、前記第1軸心に対して傾斜した第3軸心回りに形成され、
前記複数の玉は、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間において最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域を避けて配置されていることを特徴としている。
【0013】
以上の構成によれば、外側軌道面及び内側軌道面が第1軸心に対して傾斜した第2,第3軸心回りに形成されているので、例えば外側部材が内側部材に相対して第1軸心回りに回転すると、外側軌道面は内側軌道面に対して周方向に相対移動するだけでなく軸方向にも相対移動する。そして、この軸方向の相対移動により、外側軌道面と内側軌道面との間の玉の配置空間が次第に軸方向に狭くなる。一方、複数の玉は、外側部材の回転に伴って転動しつつ、次第に狭くなっていく前記配置空間において外側軌道面と内側軌道面との間で軸方向に徐々に強く挟持される。この作用により、外側部材と内側部材との相対回転による位相差を解消する方向への弾性力(回動付勢力)が生じる。そして、外側部材と内側部材との相対回転角度が所定に達すると、外側軌道面と内側軌道面との周方向及び軸方向の相対移動が玉によって規制され、外側部材と内側部材とが一体的に回転する。
【0014】
したがって、本発明では、外側部材と内側部材とが相対回転可能な範囲において、外側部材と内側部材との間の回転変動を弾性的に吸収(緩和)することが可能となる。そして、回転変動の緩和特性は、外側軌道面や内側軌道面の曲率半径や玉の直径等を変更することによって自由に設定することができ、効果的に回転変動を緩和することができる。
また、従来技術のように、ねじりコイルばねやねじりコイルばねを設けるための複雑な構造を必要とせず、非常に簡素な構造により回動付勢機構を形成することが可能となり、回動付勢機構の小型化も可能となる。さらに、外側部材及び内側部材には、一般的な転がり軸受の軌道面の加工と略同一の方法により、第2、第3軸心回りに外側軌道面及び内側軌道面を形成することが可能となり、製作も容易である。また、本発明の回動付勢機構は、外側部材と内側部材と玉とによって転がり軸受のような形態となり、外側部材や内側部材に作用するラジアル荷重を支持可能な構造とすることができる。
【0015】
また、外側部材が内側部材に対して相対回転し、外側軌道面と内側軌道面との間で玉が挟持されると、外側軌道面と玉との接触位置及び内側軌道面と玉との接触位置で弾性変形が生じ、外側軌道面と内側軌道面とが接近するが、その接近量(弾性接近量)は各玉4の配置箇所によって異なる。本発明では、最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域を避けて玉を配置しているので、一部の玉に多大な負荷がかかることが少なくなり、各玉の寿命を長くして回動付勢機構の耐久性を高めることができる。
【0016】
上記構成において、前記外側軌道面及び内側軌道面の軸方向最外側の位置を基準位置(0°)として、周方向両側に90°離れた位置の周辺領域を避けて複数の玉が配置されていることが好ましい。このように基準位置から周方向両側に90°離れた位置の周辺領域は最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域であるので、かかる領域を避けて玉を配置することで、各玉の寿命を長くすることができる。
【0017】
前記複数の玉は、高負荷領域を除く領域において略等ピッチで配置されていてもよいし、不等ピッチで配置されていてもよい。
前者の場合、各玉の間に間隔保持用の保持体が設けられている場合には、等ピッチで配置された玉の間には同一の保持体を使用することができ、部品の共通化によるコストダウンを図ることができる。
後者の場合には、さらに複数の玉が、高負荷領域と、最も弾性接近量が小さい低負荷領域とを除く中負荷領域に配置されていることが好ましい。このように中負荷領域に多くの玉を配置することによって、当該玉によって分散して中負荷を受け、各玉の負荷バランスを図り、全体として回動付勢機構の耐久性を向上することができる。
【0018】
本発明のプーリ装置は、外周にベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、このプーリ部材の内周側に、当該プーリ部材と同心に配置されたプーリボスと、前記プーリ部材と前記プーリボスとの間に配置された回動付勢機構と、を備えており、前記回動付勢機構は、前記プーリ部材の内周側に設けられた環状の外側軌道面と、前記プーリボスの外周側において前記外側軌道面の径方向内側に全周に亘って対向して配置された環状の内側軌道面と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動可能に配置された複数の玉と、を備えており、前記外側軌道面が、前記プーリ部材の回転軸心に対して傾斜した第2軸心回りに形成され、前記内側軌道面が、前記プーリ部材の回転軸心に対して傾斜した第3軸心回りに形成され、前記複数の玉は、最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域を避けて配置されていることを特徴としている。
このような構成によって、上記回動付勢機構と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ねじりコイルばねを使用することなく外側部材と内側部材との間の回転速度の変動を効果的に緩和することが可能であり、しかも、回動付勢機構の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る回動付勢機構の断面図である。
【図2】回動付勢機構の作用を説明するための概略正面図である。
【図3】回動付勢機構の作用を説明するための概略平面図(図1のD矢視概略図)である。
【図4】(a)は図1のA−A矢視断面図、(b)は図1のB矢視概略図である。
【図5】(a)は9個の玉を使用した場合の比較例に係る玉の配列パターンを示す概略図、(b)は9個の玉を使用した場合の実施例に係る玉の配列パターンを示す概略図である。
【図6】各玉の位置における弾性接近量を示すグラフである。
【図7】(a)は8個の玉を使用した場合の比較例に係る玉の配列パターンを示す概略図、(b)は8個の玉を使用した場合の実施例に係る玉の配列パターンを示す概略図である。
【図8】回動付勢機構を適用したプーリ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔回動付勢機構の構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る回動付勢機構の断面図である。この回動付勢機構1は、内周に外側軌道面21を有する環状の外輪(外側部材)2と、外周に内側軌道面31を有する環状の内輪(内側部材)3と、外側軌道面21及び内側軌道面31の間に配置された複数の玉4と、各玉4の間隔を保持する弾性保持体5とを備えている。なお、以下の説明において、「軸方向」とは外輪2及び内輪3の軸心(第1軸心)X1に平行な方向をいい、「周方向」とは外輪2及び内輪3の軸心X1回りの方向をいう。
【0022】
外輪2、内輪3、及び玉4は、軸受鋼等の金属により形成されている。また、外輪2及び内輪3は、第1軸心X1回りに回転可能に構成されている。外側軌道面21及び内側軌道面31は、第1軸心X1を通る面で切断した断面形状が凹円弧状(凹曲面状)に形成され、その曲率半径が玉4の半径よりも大きい寸法に設定されている。複数の玉4は、互いに周方向に間隔をあけた状態で、外側軌道面21と内側軌道面31との間に全周に亘って配置されている。
【0023】
外側軌道面21は、第1軸心X1に対して傾斜した第2軸心X2回りに形成されている。換言すると、外側軌道面21は、第1軸心X1に直交する垂直面Y1に対して傾斜した面Y2と平行に形成されている。また、内側軌道面31は、第1軸心X1に対して傾斜した第3軸心X3回りに形成されている。換言すると、内側軌道面31は、第1軸心X1に直交する垂直面Y1に対して傾斜した面Y3と平行に形成されている。本実施形態では、第2軸心X2と第3軸心X3とは、第1軸心X1に対して同じ傾斜角度θで傾斜している。
【0024】
図1に示す状態において、外側軌道面21の第2軸心X2と内側軌道面31の第3軸心X3とは互いに一致している。したがって、外側軌道面21と内側軌道面31とは、ほぼ平行に配置され、周方向全周に亘って互いに対向している。以下、この状態を「基準状態」という。そして、例えば内輪3を停止状態とし、外輪2を第1軸心X1回りに回転させると、外側軌道面21は内側軌道面31に対して周方向及び軸方向に移動する。以下、このときの作用を図2及び図3を参照して詳しく説明する。
【0025】
図2は、回動付勢機構1の作用を説明するための概略正面図であり、図3は、同じく回動付勢機構1の作用を説明するための概略平面図(図1の外側軌道面21及び内側軌道面31を矢印D方向に見た図)である。図2(a)及び図3(a)において、外側軌道面21及び内側軌道面31は基準状態にある。そして、図2(b)及び図3(b)に示すように、外側軌道面21が内側軌道面31に対して相対的に矢印方向Cに回転すると、外側軌道面21は、垂直面Y1(図1)に対する傾斜によって、内側軌道面31に対して周方向だけでなく軸方向にも相対移動する。この軸方向の相対移動により、外側軌道面21と内側軌道面31との間の玉4の収納空間Sの軸方向幅Lが次第に狭くなっていき、玉4は矢印Zのように転動し、内側軌道面31の肩部32近傍と外側軌道面21の肩部22近傍との間で次第に強く挟まれる。内輪3に対する外輪2の相対回転が所定量(角度)に達すると、外側軌道面21及び内側軌道面31の周方向及び軸方向の相対移動が玉4によって規制され、外輪2に追従して内輪3が一体的に回転する。
【0026】
外側軌道面21と内側軌道面31とが軸方向に相対移動していく過程において、玉4と、外側軌道面21及び内側軌道面31との接触圧は次第に高められていく。そして、玉4と両軌道面21,31との接触に伴う玉4及び両軌道面21,31の弾性変形により、外輪2と内輪3との相対回転による位相差を解消する方向(相対回転方向とは逆方向)への回動付勢力(ねじりばね力)が発生する。また、外側軌道面21と内側軌道面31との軸方向の相対移動量が大きくなるに従って回動付勢機構1のばね定数が徐々に増大し、これに伴って当該回動付勢力も増大する。
【0027】
以上の構成において、外輪2と内輪3とは所定の範囲で相対回転可能であり、外輪2と内輪3とが一体的に回転している状態で両者2,3間に回転変動が生じた場合には、当該相対回転範囲において回転変動を弾性的に吸収(緩和)することが可能である。
また、回転変動の緩和特性は、外側軌道面21や内側軌道面31の曲率半径や溝深さ、玉4の半径、第1軸心X1に対する第2,第3軸心X2,X3の傾斜角度θ等を変更することによって自由に設定することができる。例えば、外側軌道面21や内側軌道面31の曲率半径を大きくすれば、外輪2及び内輪3の相対回転範囲も大きくなり、回動付勢機構1のばね定数(ばね剛性)を低く設定することが可能となる。また、第1軸心X1に対する第2,第3軸心X2,X3の傾斜角度θを大きくすれば、ばね定数を高く設定することが可能である。したがって、外輪2や内輪3の回転特性等に応じて効果的に外輪2と内輪3との間の回転変動を緩和することが可能となる。
【0028】
また、従来技術のようなねじりコイルばねや、ねじりコイルばねを設けるための複雑な構造を必要とせず、外輪2及び内輪3に外側軌道面21及び内側軌道面31を形成し、両軌道面の間に玉4を配置するという非常に簡素な構造により回動付勢機構1を形成することが可能となり、回動付勢機構1の小型化も可能となる。また、外側軌道面21及び内側軌道面31は、第2,第3軸心X2,X3回りの周方向に均一な溝とされているので、一般的な転がり軸受の軌道面の加工方法(研磨方法)と略同一の方法により外側軌道面21や内側軌道面31を形成することが可能となり、製作(加工)が容易となる。さらに、回動付勢機構1は、外輪2と内輪3と玉4とによって転がり軸受のような形態となるので、外輪2や内輪3に作用するラジアル荷重を支持可能となる。
【0029】
図4(a)は、図1のA−A矢視断面図であり、図4(b)は図1のB矢視概略図である。本実施形態の回動付勢機構1には、隣接する玉4が互いに接触しないように間隔を保持する弾性保持体5が設けられている。弾性保持体5は、各玉4の間に対応して配置された複数のセパレート部材511と、周方向に隣接するセパレート部材511を接続する弾性接続部材512とからなる。
【0030】
セパレート部材511は、合成樹脂や金属等によって形成されており、各玉4に対向する凹円弧状(凹曲面状)の対向面513を有している。また、セパレート部材511は、玉4よりも軸方向両側に突出し、外輪2の内周面及び内輪3の内周面との間に僅かな隙間をもって配置されている。また、周方向に隣接するセパレート部材511の軸方向両端部は弾性接続部材512によって互いに接続されている。したがって、玉4は、隣接する2つのセパレート部材511と、これらセパレート部材511を接続する2つの弾性接続部材512とによって囲まれたスペースに配置されている。
【0031】
本実施形態の弾性接続部材512は圧縮コイルバネから構成されており、この圧縮コイルバネ512の伸縮によって周方向に隣接するセパレート部材511の間隔が拡縮可能とされている。また、圧縮コイルバネ512の撓みによって隣接するセパレート部材511の軸方向の相対移動も許容されるようになっている。したがって、外側軌道面21と内側軌道面31との軸方向の相対移動に伴う玉4の軸方向への移動を許容することができる。
【0032】
複数の圧縮コイルバネ512は、略均等に圧縮された状態で各セパレート部材511の間に配置されている。したがって、外側軌道面21及び内側軌道面31が基準状態にあるとき(不使用時等)は、各圧縮コイルバネ512の弾性復帰力によって各セパレート部材511の間隔が予め設定された所定の間隔に保持され、各セパレート部材511の間に配置された玉4の間隔も所定に保持されるようになっている。なお、基準状態において、各玉4とその両側のセパレート部材511とは互いに当接していてもよいし、僅かに隙間があいていてもよい。
【0033】
一方、外輪2が内輪3に対して相対的に回転し、外側軌道面21及び内側軌道面31が軸方向及び周方向に相対移動すると、各玉4は、その配置箇所に応じて周方向に異なった量だけ移動する。このように各玉4の移動量(公転角度)に差が生じ、各玉4の間隔が変化すると、この変化に応じて圧縮コイルバネ512が弾性的に伸縮してセパレート部材511の間隔が変化する。これにより玉4の移動を妨げることなく玉4の間隔の変化を吸収することができる。
【0034】
〔玉の配列パターン〕
次に、外側軌道面21と内側軌道面31との間に配置される複数の玉4の配列パターンについて詳細に説明する。
図5(a)は、9個の玉を使用した場合の比較例に係る玉の配列パターンを示す概略図、図5(b)は9個の玉を使用した場合の実施例に係る玉の配列パターンを示す概略図である。
【0035】
図5(a)に示す比較例では、9個の玉4が等ピッチ、すなわち40°ピッチで配置されている。また、図5(a)において、各玉4の位置(中心位置)には、軌道面21,31の軸方向最外側に位置する部分である最上部(図1参照)を基準(0°)とした時計回りの角度がそれぞれ付されている。また、以下の説明では、便宜上、基準位置から時計回りに各玉4を第1の玉〜第9の玉と呼称し、図5(a)にはその序数詞と同じ数字を各玉4に付している。
【0036】
外側軌道面21と内側軌道面31とが相対回転すると、両軌道面21,31の間に配置された複数の玉4は、その配置箇所によって周方向の移動量だけでなく、両軌道面21,31に挟持されることによる各玉4の位置での両軌道面21,31間の弾性接近量(弾性変形量)も異なる。図6には、比較例における各玉4の位置での弾性接近量を示す。なお、このグラフでは、最も弾性接近量が大きい280°位置に配置された第8の玉4の位置での弾性接近量を100(%)とし、その他の玉4の位置での弾性接近量を相対割合(%)で示している。また、グラフの横軸で示された各玉4の位置(角度)は、外側軌道面21と内側軌道面31とが「基準状態」にあるときの位置であり、この基準状態から回転したときの各玉4の位置における弾性接近量がそれぞれグラフで示されている。
【0037】
このグラフによれば、9個の玉4を等ピッチで配置した場合には、基準位置(0°)から時計回りに280°位置に配置された第8の玉4の位置での弾性接近量が最も大きく、次いで80°位置に配置された第3の玉4の位置での弾性接近量が大きいことがわかる。このことから、図1における垂直面Y1上の位置(90°及び270°の位置)に近いほど弾性接近量が大きくなると考えられる。そして、弾性接近量が大きいということは、その玉4に付与される負荷が大きいことを意味するため、90°及び270°位置の近くに配置された玉4ほど寿命が短くなる。なお、第8の玉4の位置と第4の玉4の位置とにおける弾性接近量の差は、外側軌道面21と内側軌道面31の相対回転方向に依存して生じており、回転方向を逆にするとその結果も逆となる。
【0038】
一方、図5(b)に示す実施例の場合、各玉4(各玉4の中心)は、最も弾性接近量が大きい領域M、すなわち、基準位置から90°及び270°離れた位置(基準位置から周方向両側に90°離れた位置)を中心とする角度α1の領域M(高負荷領域;当該領域Mの境界は除く)には配置されておらず、この高負荷領域Mを除く領域(当該領域Mの境界は含む)に9個の玉4が配置されている。更に、高負荷領域Mを除く上側と下側の各領域には、複数の玉4がそれぞれ等ピッチ(角度β1a,β1b)で配置されている。なお、この実施例では9個(奇数個)の玉9が使用されているので、高負荷領域Mの上側と下側とでは玉4の個数(それぞれ5個と4個)が異なっている。
【0039】
このような配列パターンで玉4を配置することによって、各玉4の位置における弾性接近量を最大値(比較例の第8の玉の位置における弾性接近量)よりも小さくすることができ、一部の玉4の寿命が著しく低下するというような不都合は生じない。そのため、各玉4における寿命のばらつきが小さくなり、その結果、回動付勢機構1の耐久性を高めることが可能となる。また、高負荷領域Mを除く領域において複数の玉4が等ピッチで配置されているので、この等ピッチで配置される玉4の間には、同一形状のセパレート部材511を使用することができる。したがって、部品の共通化によりコストダウンを図ることが可能となる。
【0040】
なお、角度α1は、9個の玉4を等ピッチで配置した場合におけるピッチ角度(40°)よりも大きい角度であり、α1=55°程度(40°+15°)に設定するのがより好適である。これは、α1が55°よりも小さいと、一部の玉4の位置での弾性接近量が大きくなって回動付勢機構1の耐久性を十分に高めることができず、α1が55°よりも大きいと、高負荷領域Mを除く領域が狭くなって玉数を減らす必要が生じ、負荷容量の低下を招くからである。
【0041】
図7(a)は、8個の玉を使用した場合の比較例に係る玉の配列パターンを示す概略図、図7(b)は同じく8個の玉を使用した場合の実施例に係る玉の配列パターンを示す概略図である。
図7(a)に示す比較例では、8個の玉4が等ピッチ、すなわち45°ピッチで配置されている。そして、図5及び図6を参照して説明したように、基準位置(0°)から90°及び270°位置に配置された第3の玉4と第7の玉4の位置での弾性接近量が最も大きくなる。このため、図7(b)に示す実施例では、この90°及び270°位置を中心とする角度α2の領域を高負荷領域Mに設定し、その高負荷領域Mを除く領域に複数の玉4が等ピッチ(角度β2)で配置されている。
【0042】
したがって、この実施例においても、各玉4の位置での弾性接近量を最大値(比較例の第3,第7の玉4の位置における弾性接近量)よりも小さくすることができ、一部の玉4の寿命が著しく低下することを防止することができる。よって、回動付勢機構1の耐久性を高めることが可能となる。また、高負荷領域Mを除く領域において複数の玉4が等ピッチで配置されているので、この等ピッチで配置される玉4の間には同一形状のセパレート部材511を使用することができる。したがって、部品種数を低減し、コストダウンを図ることが可能となる。
【0043】
なお、角度α2は、8個の玉4を等ピッチで配置した場合におけるピッチ角度(45°)よりも大きい角度であり、α2=60°程度(45°+15°)に設定するのがより好適である。これは、上記実施例と同様に、α2が60°よりも小さいと、一部の玉4の位置での弾性接近量が大きくなって回動付勢機構1の耐久性を十分に高めることができず、α2が60°よりも大きいと、高負荷領域Mを除く領域が狭くなって玉数を減らす必要が生じ、負荷容量の低下を招くからである。
【0044】
図5(b)及び図7(b)に示した実施例において、高負荷領域Mを除く領域に配置された玉4は、必ずしも等ピッチβ1a、β1b、β2に配置されていなくてもよく、不等ピッチで配置されていてもよい。この場合、高負荷領域Mだけでなく、最も弾性接近量が小さい0°及び180°位置付近の低負荷領域をも除く領域(中負荷領域)、例えば、図6のグラフに示す40°、120°、160°、240°、320°付近の領域に集中してより多くの玉4が配置されるようにすることができる。このようにすることによって、各玉4によって中負荷を分散して受け、各玉4の位置における弾性接近量のばらつき、すなわち負荷や寿命のばらつきを小さくすることができ、その結果、回動付勢機構1の耐久性を高めることが可能となる。
【0045】
〔回動付勢機構の適用例(プーリ装置の構成)〕
以下、本発明の回動付勢機構1の適用例を説明する。
図8は、本発明の回動付勢機構1を具備したプーリ装置7の断面図である。このプーリ装置7は、例えば自動車等のエンジン補機として用いられるオルタネータの入力軸8に取り付けられて使用される。プーリ装置7は、円筒状に形成されたプーリボス71と、このプーリボス71の外周側に同軸に配置された円筒状のプーリ部材72と、これらの間に介装された回動付勢機構1とを備えている。なお、図示は省略しているが、この回動付勢機構1には、前述の実施形態で説明した弾性保持体5が設けられている。
【0046】
プーリ部材72の外周面72Aには波状溝が形成され、当該外周面72Aに、エンジンのクランクシャフトからの回転力を伝達するためのベルト9が巻き掛けられる。
プーリボス71の内周には、図示しないオルタネータから突設された入力軸8が挿入されている。また、プーリボス71の内周面における軸方向中途部には、雌ねじ部71Aが一体的に形成されており、入力軸8の端部に設けられた雄ねじ部8Aを雌ねじ部71Aに螺合することによってプーリボス71が入力軸8と一体回転可能に連結される。また、プーリボス71の内周側の端部には、プーリボス71を入力軸8に螺合するための六角レンチを挿入するための正六角形のレンチ挿入部71Bが形成されている。
【0047】
回動付勢機構1の構成は、上述したものと同様であり、プーリ部材72の内周面に一体回転可能に嵌合された外輪(外側部材)2と、プーリボス71の外周面に一体回転可能に嵌合された内輪(内側部材)3と、外輪2及び内輪3の間に配置された玉4及び弾性保持体(図示略)とを備えている。また、本実施形態においては、回動付勢機構1が軸方向に2つ並設され、この2つの回動付勢機構1によって回動付勢装置が構成されている。各回動付勢機構1は、それぞれの第2,第3軸心X21,X31、X22,X32が第1軸心X1に対して略同じ角度で互いに逆向きに傾斜するように配置されている。
【0048】
本実施形態において、エンジンのクランクシャフトからベルト9を介して伝達された回転動力によりプーリ部材72が回転すると、内側軌道面31に対して外側軌道面21が周方向に相対移動するとともに軸方向にも相対移動する。そして、図2及び図3を参照して説明したように、玉4が外側軌道面21の肩部近傍と内側軌道面31の肩部近傍との間に強く挟まれることにより、外側軌道面21と内側軌道面31との相対移動が規制され、プーリ部材72とともにプーリボス71が一体的に回転し、オルタネータの入力軸8が回転する。
【0049】
クランクシャフトの回転変動によってプーリ部材72とプーリボス71との間に回転変動が生じると、プーリ部材72とプーリボス71との相対回転によって弾性的に回転変動を緩和することができる。そして、クランクシャフトの回転速度の変動を緩和することによって、ベルト9とプーリ部材72との間に生じるスリップを効果的に抑制できる。そのため、ベルト9の初期張力を低く設定することが可能となり、クランクシャフトの負荷を低減し、エンジンの燃費性能を向上させることができる。
【0050】
プーリボス71に対してプーリ部材72が相対回転すると、外側軌道面21と内側軌道面31とは周方向だけでなく軸方向に相対移動し、特に、軸方向の相対移動によって軸方向の力が発生し、この力がプーリ部材72やプーリボス71(入力軸8)に作用する可能性がある。しかし、本実施形態では、2つの回転付勢機構1が軸方向に並設され、しかも、それぞれの第2,第3軸心X21,X31、X22,X32が第1軸心X1に対して互いに逆向きに傾斜しているので、各回動付勢機構1において発生する軸方向の力が互いに打ち消され、入力軸8等に不要な負荷が付与されるのを防止することができる。
【0051】
本発明は、前述の実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、回動付勢機構1において、第1軸心X1に対する第2軸心X2の傾斜角度と、第3軸心X3の傾斜角度とは、必ずしも一致させなくてもよく、両軌道面21,31が全周に亘って対向し、その対向面間に玉4の配置空間を確保できれば、当該傾斜角度を異ならせることも可能である。
【0052】
外側軌道面21及び内側軌道面31の曲率半径や溝深さは、互いに同一の寸法としてもよいし、異なる寸法としてもよい。曲率半径や溝深さを同一とするか異ならせるかについても、外側部材2や内側部材3の回転特性等に応じて適宜設計することができる。また、玉4の軌道列数は、1列に限らず、負荷に応じて2列、3列のように複列にしてもよい。
【0053】
上記実施形態では、弾性保持体5の弾性接続部材512として圧縮コイルばねが用いられているが、引張りコイルバネや板ばね等の他の構造のばねを用いてもよい。また、弾性接続部材512は、ゴム等の弾性材料により形成されていてもよい。また、弾性接続部材512の材質は、金属製やゴム製に限らずウレタン等の合成樹脂製であってもよい。
【0054】
図8に示すプーリ装置7において、プーリ部材72及びプーリボス71はそれぞれ回動付勢機構1の外側部材2及び内側部材3を構成していてもよく、この場合、プーリ部材72及びプーリボス71にそれぞれ外側軌道面21及び内側軌道面31を直接形成すればよい。また、図8に示すプーリ装置7においては、2つの回動付勢機構1を並設しているが、4つ以上の偶数個の回動付勢機構1を並設するとともに、その半数の回動付勢機構1の第2,第3軸心X2,X3と、他の半数の回動付勢機構1の第2,第3軸心X2,X3とを、第1軸心X1に対して互いに逆向きに傾斜させることによって、各回動付勢機構1で発生する軸方向の力を互いに打ち消すことが可能となる。
【0055】
本発明の回動付勢機構1は、オルタネータ用のプーリ装置以外に、例えば、クランクプーリや、カーエアコン用のプーリ、オートテンショナー等にも適用することができる。また、クラッチのクラッチディスクにも用いることができる。また、内外輪間の回転角度を測定しうる角度センサを取り付けることによってトルクセンサとしても利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:回動付勢機構、2:外輪(外側部材)、21:外側軌道面、3:内輪(内側部材)、31:内側軌道面、4:玉、5:弾性保持体、7:プーリ装置、71:プーリボス、72:プーリ部材、9:ベルト、M:高負荷領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸心回りに回転可能であり、かつ環状の外側軌道面を内周に有している外側部材と、
前記第1軸心回りに回転可能であり、かつ前記外側軌道面の径方向内側に全周に亘って対向する環状の内側軌道面を外周に有している内側部材と、
前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動可能に配置された複数の玉と、を備えており、
前記外側軌道面が、前記第1軸心に対して傾斜した第2軸心回りに形成され、
前記内側軌道面が、前記第1軸心に対して傾斜した第3軸心回りに形成され、
前記複数の玉が、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間において最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域を避けて配置されていることを特徴とする回動付勢機構。
【請求項2】
前記外側軌道面及び前記内側軌道面の軸方向最外側の位置を基準位置として、周方向両側に90°離れた位置の周辺領域を避けて複数の玉が配置されている請求項1に記載の回動付勢機構。
【請求項3】
前記複数の玉が、前記高負荷領域を除く領域において略等ピッチで配置される請求項1又は2に記載の回動付勢機構。
【請求項4】
前記複数の玉が、前記高負荷領域と、最も弾性接近量が小さい低負荷領域とを除く領域に配置されている請求項1又は2に記載の回動付勢機構。
【請求項5】
外周にベルトが巻き掛けられるプーリ部材と、
このプーリ部材の内周側に、当該プーリ部材と同心に配置されたプーリボスと、
前記プーリ部材と前記プーリボスとの間に配置された回動付勢機構と、を備えており、
前記回動付勢機構が、前記プーリ部材の内周側に設けられた環状の外側軌道面と、
前記プーリボスの外周側において前記外側軌道面の径方向内側に全周に亘って対向して配置された環状の内側軌道面と、
前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動可能に配置された複数の玉と、を備えており、
前記外側軌道面が、前記プーリ部材の回転軸心に対して傾斜した第2軸心回りに形成され、
前記内側軌道面が、前記プーリ部材の回転軸心に対して傾斜した第3軸心回りに形成され、
前記複数の玉が、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間において最も弾性接近量が大きくなる高負荷領域を避けて配置されていることを特徴とするプーリ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−69438(P2011−69438A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221043(P2009−221043)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】