説明

回路シミュレーション方法

【課題】トランジスタの電気的特性を精度よく再現できる半導体集積回路のシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】半導体集積回路のシミュレーション方法は、TEGに搭載した実デバイスの測定値を用いて実デバイスのDC特性とAC特性を再現する回路情報を抽出し、抽出した回路情報をネットリストに反映するステップと、回路シミュレーションを行うステップとを含んでいる。設計寸法と実仕上がり寸法の誤差に起因する回路シミュレーション誤差を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の設計において用いられる回路情報を、実デバイスの電気特性から抽出し、抽出された回路情報を用いる回路シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(LSI)は、プロセス技術や設計技術の進歩に伴い、その性能や集積度を急速に高めている。微細化の進展に伴い、LSIに含まれるトランジスタのゲート長およびゲート幅はますます短くなり、ゲート長およびゲート幅のばらつきや設計寸法と実デバイス寸法とのずれが増大している。それにより、回路の伝播遅延時間のばらつきや実測とシミュレーションとのずれが増大し、設計マージンが増大する。この結果、高性能なLSIを提供することが困難になっている。
【0003】
現在、回路シミュレーションは一般的に次のようにして実施される。
【0004】
図7は、一般的な回路シミュレーション方法を示すフローチャートである。まず、第1ステップでは、ネットリスタ1102が、設計レイアウト情報1101を入力としてネットリスト変換を行い、能動素子(トランジスタ等)、寄生素子(配線抵抗等)などの接続情報や素子寸法情報からネットリスト1103を作成する。次に、第2ステップでは、回路シミュレータ1104が、ネットリスタ1102から出力されたネットリスト1103を入力として回路シミュレーションを行い、遅延時間やリーク電流などの回路特性情報1105を出力する。
【0005】
一方、一般的に半導体製造プロセスでは、レジスト塗布、露光、現像を含むフォトリソグラフィ工程と、レジストマスクを用いて要素のパターニングを行なうためのエッチング工程と、レジスト除去工程とを繰り返すことにより、半導体基板上に集積回路が形成される。
【0006】
図8は、半導体集積回路において、ゲートおよび活性領域の設計レイアウトパターンと実際の仕上がり形状とを示す図である。同図に示すようなトランジスタのゲート1111および活性領域1112を形成する際にも、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程、およびレジスト除去工程が適用される。このフォトリソグラフィ工程の露光の際に、パターン寸法が露光波長以下であると、回折光や干渉光の影響による光近接効果によって、設計時のレイアウト寸法と半導体基板上の実パターン寸法との誤差が大きくなる。
【0007】
このような不具合を解決する技術として、位相シフトマスクを用いた超解像技術や、マスクに描かれた回路パターンを修正することにより光近接効果の影響を補正するOPC(Optical Proximity Correction)技術などがある。しかし、光近接効果は原理的に避けることができないため、超解像技術やOPCなどの製造、プロセス技術だけでは回避することが困難である。そのため、光近接効果の影響を受けにくい半導体装置のレイアウト設計やリソシミュレーションを用いた実仕上がり形状予測など、設計段階からの取り組み(例えば、特許文献1参照)がなされ、これらの取り組みを通して、回路シミュレーション精度の向上を図ろうとしている。
【特許文献1】特開2002−203907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に述べたように、トランジスタの微細化の進展に伴いゲート長およびゲート幅は短くなり、ゲートおよび活性領域を露光する際、回折光による光近接効果の影響が大きくなる。ゲート形成時の光近接効果は、トランジスタのゲートおよび活性領域のレイアウトパターンに依存して生じる。つまり、レイアウトに依存したゲート長およびゲート幅の誤差(設計寸法と実仕上がり形状の誤差)が生じる。これらのゲート長およびゲート幅の誤差の増加は、トランジスタの駆動能力、容量特性などのばらつきを大きくさせ、直接回路性能に影響を与えるため、回路シミュレーションの誤差を増大させる。その結果、設計マージンの増加や動作不良といった不具合の原因となる。
【0009】
この不具合を軽減するために、リソシミュレーションを用いた実仕上がり形状予測技術などの技術開発がなされている。しかしながら、回路シミュレーションにおけるトランジスタの駆動能力を実際のデバイスの駆動能力と合致するようにトランジスタサイズを変更すると、回路シミュレーションと実デバイスの容量特性の誤差が増大し、容量特性を実デバイスと合致するようトランジスタサイズを変更すると、駆動能力の誤差が増大し、結果として高い精度で回路シミュレーションを実施することができない。
【0010】
本発明の目的は、上記の不具合に鑑み、トランジスタの電気的特性を精度よく再現できる半導体集積回路のシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の回路シミュレーション方法は、設計レイアウト情報からトランジスタの特性情報を含むネットリストを抽出するステップ(a)と、前記トランジスタのDC特性を実測するステップ(b)と、前記ステップ(b)で得られたDC特性の実測値に基づいてDC特性に応じた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出するステップ(c)と、前記トランジスタのAC特性を実測するステップ(d)と、前記ステップ(d)で得られたAC特性の実測値に基づいてゲート長Lg2とゲート幅W2とを抽出するとともに、前記電気的ゲート長Lg1と前記ゲート長Lg2との差分δLgと前記電気的ゲート幅W1と前記ゲート幅W2との差分δWとを抽出するステップ(e)と、前記ネットリストを前記電気的ゲート長Lg1、前記電気的ゲート幅W1、前記差分δWおよび前記差分δWに基づいて修正ネットリストに変換するステップ(f)と、前記修正ネットリストを用いて前記半導体集積回路のシミュレーションを行うステップ(g)とを備えている。
【0012】
この方法によれば、トランジスタのDC特性だけでなく遅延時間や容量の影響などのAC特性を考慮に入れたシミュレーションが可能になるので、従来よりも精度の高い回路シミュレーションを実行することが可能になる。なお、実際の測定は、TEG(Test Elementary Group)に含まれるNチャネル型MOSトランジスタおよびPチャネル型トランジスタや、CMOSなどに対して行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、LSIの最小寸法の微細化により顕在化している、トランジスタの設計寸法と実仕上がり寸法の誤差に起因する回路シミュレーション誤差を低減し、設計マージンの増大、動作不良による歩留まり低下を回避することで、低コストで高性能なLSIを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を適宜参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る回路シミュレーション方法を示すフローチャートである。同図に示すように、本実施形態に係る回路シミュレーション方法では、測定されたトランジスタのDC特性(直流電流印加時の特性)と合致するDC特性を示すトランジスタのゲート長およびゲート幅を、電気的ゲート長Lg1、ゲート幅W1として抽出し、トランジスタのAC特性(交流電流印加時の特性)から得られたトランジスタの容量特性を再現するように容量特性を加味した補正ゲート長δLg、補正ゲート幅δWを抽出する。ここで測定されるDC特性は、ドレイン電流Idsや閾値電圧Vth、コンダクタンスGds、Gmなどである。そして、本実施形態に係る回路シミュレーション方法は、これらLg1、W1、δLg、δWをネットリストに反映させることにより、回路シミュレーションの精度を向上させるものである。本明細書では、容量特性を加味した補正ゲート長Lg2、および補正ゲート幅W2をそれぞれ「容量的ゲート長Lg2」、および「容量的ゲート幅W2」と呼ぶものとする。
【0016】
まず、図1における回路シミュレーション方法におけるデータの流れを説明する。
【0017】
ネットリスタ102は、設計レイアウト情報101からトランジスタ部の形状、寄生素子、接続情報などを抽出し、ネットリスト103にこれらの情報を出力する。
【0018】
ネットリスト103は、回路情報パラメータ修正値123に基づいて修正ネットリスト126に変換される。このステップは、例えばシミュレーションソフトを実行するコンピュータなどにより行われる。
【0019】
ここで、回路情報パラメータ修正値123は、TEG(Test Elementary Group)に搭載されたトランジスタのDC特性、AC特性から得ることができる。電気的Lg、W抽出手段122は、TEGに搭載されたトランジスタのDC特性を再現する電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出し、回路情報パラメータ修正値123に反映する。また、容量的Lg、W抽出手段125は、TEGに搭載されたトランジスタのAC特性を再現する容量的ゲート長Lg2および容量的ゲート幅W2を抽出し、電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1との差分δLg、δWを回路情報パラメータ修正値123に反映する。
【0020】
次に、以上のステップによって得られた修正ネットリスト126を入力として回路シミュレータ104を用いて回路シミュレーションを実行し、回路特性情報105を出力する。
【0021】
次に、図1に示す各構成要素について詳細に説明する。
【0022】
まず、DC特性実測値121について説明する。DC特性実測値121はTEGに搭載されたトランジスタのDC特性を測定することにより得ることができる。DC特性評価に用いるトランジスタの適用範囲は制限されず、すべてのトランジスタについて適用可能である。例えば、セルベース設計されるLSIでは、標準セルごとにセル内のトランジスタのNチャネルMISトランジスタの電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1をそれぞれ平均した電気的Lg1、電気的ゲート幅W1、PチャネルMISトランジスタの電気的ゲート長Lg1、ゲート幅W1を平均した電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出することで、標準セルレベルでの回路情報パラメータの特徴付けが可能である。もちろん、標準セル内のすべてのトランジスタについてDC特性を評価し、電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出することも可能である。
【0023】
図2は、標準セルなどに用いられるトランジスタのDC特性評価パターンの一例を示す図である。例えばNチャネル型MISトランジスタとPチャネル型MISトランジスタとで構成されるCMOSのDC特性を評価する際には、図2に示すように、ゲート143と基板のうちゲート143の両側方に位置する領域に形成された活性領域141とコンタクト145とをそれぞれ有するNチャネル型MISトランジスタ(図2下側)、およびPチャネル型MOSFET(図2上側)の特性を個別に測定して評価を行えばよい。
【0024】
なお、個別のトランジスタについて評価を行う代わりにCMOS構造を有する標準セルを用いて評価を行ってもよい。この場合、Pチャネル型MISトランジスタのソースおよびドレイン端子がNチャネル型MISトランジスタのソースおよびドレインとが短絡していると各MISトランジスタの特性を個別に評価できない。そこで、Nチャネル型MISトランジスタを評価する際は、Pチャネル型MISトランジスタのソースおよびドレイン端子を電源電圧に短絡し、Pチャネル型MISトランジスタを評価する際は、Nチャネル型MISトランジスタのソースおよびドレイン端子をグランド端子に短絡することで、Nチャネル型MISトランジスタおよびPチャネル型MISトランジスタのDC特性を個別に評価することが可能となる。
【0025】
次に、AC特性実測値124について説明する。AC特性実測値124はTEGに搭載されたトランジスタのAC特性を測定することにより得ることができる。AC特性を実測する際にも、図2に示すようにNチャネル型MISトランジスタおよびPチャネル型MISトランジスタについてのAC特性を個別に測定する。
【0026】
また、CMOSパターンを用いてCMOS構造を有するトランジスタのAC特性を評価することもできる(図示せず)。この場合、トランジスタのオーバーラップ容量などによって容量成分を十分評価できないことがあるので、測定しない方のMISトランジスタの活性領域を設けないパターンをTEGに搭載しておくことが好ましい。これにより、各MISトランジスタのチャネル容量を個別に評価することができる。
【0027】
次に、上記DC特性実測値121とAC特性実測値124とを用いて電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1、容量的ゲート長Lg2、容量的ゲート幅W2を抽出し、回路情報パラメータ修正値123を作成する方法について説明する。
【0028】
電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出するには、例えば、SPICEなどの回路シミュレータを用いてシミュレーションを行い、DC特性実測値121とシミュレーションで得られたDC特性とが合致するゲート長Lgおよびゲート幅Wを求めればよい。また、ゲート長Lgおよびゲート幅Wの設計寸法が十分大きく、設計寸法のLg、Wと実仕上がり寸法のLg、Wとの誤差が無視できるようなトランジスタのDC特性を基準とし、評価したいトランジスタのDC特性から電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1を求めてもよい。容量的ゲート長Lg2および容量的ゲート幅W2も、電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1と同様に、SPICEなどの回路シミュレーションを用いて、AC特性実測値124とシミュレーションで得られたAC特性とが合致するゲート長Lgおよびゲート幅Wを求めてもよい。また、基準となるトランジスタのAC特性から評価したいトランジスタの容量的ゲート長Lg2および容量的ゲート幅W2を推測してもよい。以上のようにして求めた、電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1と容量的ゲート長Lg2、容量的ゲート幅W2から、電気的ゲート長Lg1と容量的ゲート長Lg2との差分δLgと、電気的ゲート幅W1と容量的ゲート幅W2との差分δWとを求めることができる。式で表すと、
δLg=(容量的ゲート長Lg2)−(電気的ゲート長Lg1
δW=(容量的ゲート幅W2)−(電気的ゲート幅W1
となる。回路情報パラメータ修正値123は、各トランジスタ、または標準セルに対して、電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1とδLg、δWの参照テーブルとして作成される。あるいは、電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1とδLg、δWは遅延ライブラリを構成するネットリストに含まれていてもよい。ネットリストには、長チャネルMISトランジスタでのしきい値電圧Vth0がさらに含まれていてもよい。
【0029】
回路シミュレーションは、回路情報パラメータ修正値123を反映した修正ネットリスト126を用いて実行される。ここで、回路情報パラメータ修正値123のネットリスト103への反映方法について説明する。
【0030】
図3は、図1に示す回路情報パラメータ修正値123に含まれる電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1のネットリストへの反映方法を示す図である。設計レイアウト情報101をネットリスタ102によってネットリスト103に変換する際、設計レイアウト情報中のトランジスタTrn_1、Trn_2、Trp_1、Trp_2はサブサーキットとして認識される。このとき、各トランジスタごとに設計寸法のゲート長、ゲート幅も同時に抽出される。
【0031】
また、回路情報パラメータ修正値123は、図3の左側に示す各トランジスタTrn_1、Trn_2、Trp_1、Trp_2に対する、電気的ゲート長Ln_1、Ln_2、Lp_1、Lp_2、電気的ゲート幅Wn_1、Wn_2、Wp_1、Wp_2、電気的ゲート長Lg1と容量的ゲート長Lg2の差であるDLCn_1、DLCn_2、DLCp_1、DLCp_2、電気的ゲート幅W1と容量的ゲート幅W2との差であるDWCn_1、DWCn_2、DWCp_1、DWCp_2を補正テーブルとして格納している。ここで、DLCn_1、DLCn_2、DLCp_1、DLCp_2、DWCn_1、DWCn_2、DWCp_1、DWCp_2は、SPICEのパラメータである。
【0032】
ネットリスト103に回路情報パラメータ修正値123を反映させるには、ネットリスト103から、サブサーキット名を読み込み、サブサーキット中のトランジスタを認識させる。そして、回路情報パラメータ修正値123の補正テーブルから、認識したトランジスタを検索し、そのトランジスタに対応する電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1を読み込み、元のネットリスト103の設計ゲート長、ゲート幅を電気的ゲート長、電気的ゲート幅に置き換え、さらに電気的ゲート長Lg1、電気的ゲート幅W1と容量的ゲート長Lg2、容量的ゲート幅W2との差を反映させることで修正ネットリスト126が作成される。
【0033】
その後は、通常の回路シミュレーション方法に従って、修正ネットリスト126を入力として、回路シミュレータ104により回路シミュレーションが実施される。
【0034】
図4は、本実施形態の回路シミュレーション方法において、DC特性に基づく電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の抽出と、AC特性から得られたδLg、δWを用いた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の補正とを行う手順の一例を示すフローチャートである。
【0035】
まず、ステップ171では、セルに含まれるトランジスタのDC特性を測定する。本ステップにおいて、図1に示す「DC特性実測値121」を得る。
【0036】
次に、ステップ172では、ステップ171で得られたDC特性実測値からDC特性に基づいた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の抽出を行う。
【0037】
次いで、ステップ173では、リングオシレータにおいて、ステップ172で抽出した電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1をネットリストの入力値として、SPICEによる回路シミュレーションを行い、1段あたりのゲート遅延の計算値を算出する。
【0038】
ここで、図6は、本ステップで用いられるリングオシレータのレイアウトおよび回路構成を示す図である。同図に示すリングオシレータは、例えば4N個のインバータと1個のNANDゲートから構成される。NANDゲートのReset端子はリングオシレータの発振を制御する端子である。
【0039】
次に、ステップ174ではリングオシレータの測定を行い、得られた実測値からインバータ1段あたりの遅延時間の実測値を算出する。インバータ1段あたりの遅延時間tdは、リングオシレータが4N個のインバータで構成されている場合、Tをリングオシレータの発振周期とするとT/8Nで求められる。本ステップでは、図1に示す「AC特性実測値」としてリングオシレータにおける遅延時間を得ている。本ステップでは、リングオシレータにおける消費電流の測定値を得てもよい。リングオシレータにおける消費電流は、リングオシレータが発振しているときに、図6に示す電源線(Vdd)に流れる電流を測定することで求めることができる。
【0040】
続いて、ステップ175では、ゲート遅延の計算値と実測値とを比較し、計算値と実測値との差がある基準値εを下回れば、フローを完了する。一方、計算値と実測値との差がある基準値ε以上であれば、ステップ176において、DLC、DWCを変更する。ここで、DLC、DWCは、それぞれδLgおよびδWを表すSPICEパラメータである。
【0041】
次に、ステップ177では、変更されたDLC、DWCを含むリングオシレータのネットリスト(修正ネットリスト126)を用いてSPICEによる回路シミュレーションを行い、ゲート遅延の計算値と実測値の差異がある基準値以下であることを確認する。この例のように、DC特性の測定値を用いて誤差の小さい回路シミュレーションを行うことができる。
【0042】
次に、本実施形態の回路シミュレーションのもう一つの実施例を説明する。
【0043】
図5は、本実施形態の回路シミュレーション方法において、DC特性に基づく電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の抽出と、AC特性から得られたδLg、δWを用いた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の補正とを行う手順の第2の例を示すフローチャートである。
【0044】
本実施例では、ステップ171〜ステップ175までは図4に示す実施例と同じである。ステップ175において、ゲート遅延の計算値と実測値を比較し、ある基準値ε以上であれば、ステップ186において、セルに含まれるトランジスタの容量特性を測定する。本ステップでは、図1に示すAC特性実測値124が得られる。本ステップにおいては単体のNチャネル型MISトランジスタおよびPチャネル型MISトランジスタについて測定してもよいし、CMOSについて測定してもよい。CMOSの場合、ゲート電圧が0Vのときの容量値、すなわち、第1のPチャネル型MOSトランジスタのチャネル容量値と第1のNチャネル型MOSトランジスタのオーバーラップ容量値との和を測定する。また、ゲート電圧が電源電圧のときの容量値、すなわち第1のNチャネル型MOSトランジスタのチャネル容量値と第1のPチャネル型MOSトランジスタのオーバーラップ容量値との和を測定する。その上で、先に測定した第1のNチャネル型MOSトランジスタとレイアウトパターンが異なる第2のNチャネル型MOSトランジスタでのオーバーラップ容量値を別途測定し、そのオーバーラップ容量値をゲート電圧が0Vのときの第1のNチャネル型MOSトランジスタの容量値から引き算することで第1のPチャネル型MOSトランジスタのチャネル容量値を抽出する。また、第1のPチャネル型MOSトランジスタとレイアウトパターンが異なる第2のPチャネル型MOSトランジスタでのオーバーラップ容量値を別途測定し、そのオーバーラップ容量値をゲート電圧が電源電圧のときの第1のPチャネル型MOSトランジスタの容量値から引き算することで、第1のNチャネル型MOSトランジスタのチャネル容量値を抽出する。
【0045】
次に、ステップ187では、容量特性の測定結果に基づいてDLC、DWCの補正を行う。
【0046】
続いて、ステップ188において、補正されたDLC、DWCを含むリングオシレータのネットリストでSPICEによる回路シミュレーションを行い、ステップ189において、ゲート遅延の計算値と実測値の差異がある基準値εより小さいことを確認する。
【0047】
以上説明してきたように、本実施形態の回路シミュレーション方法によれば、TEGに搭載した実デバイスから実デバイスのDC特性とAC特性を再現する回路情報を抽出し、抽出した回路情報をネットリストに反映し、回路シミュレーションを行うことで、設計寸法と実仕上がり寸法の誤差に起因する回路シミュレーション誤差を低減することができる。そのため、設計マージンの増大、動作不良による歩留まり低下を回避でき、高性能なLSIを低コストで提供することが可能となる。
【0048】
特に、図4および図5に示す回路シミュレーション方法では、ゲート1段分(あるいはインバータ1段分)の遅延時間を測定し、実測値に基づいて行った回路シミュレーション結果との誤差が小さくなるように確認しているので、シミュレーションの精度をより向上させることができる。
【0049】
なお、本実施形態ではDC特性およびAC特性の実測値に基づいて修正されたネットリストを用いて回路シミュレーションを行う例を説明したが、DC特性の測定値のみで修正されたネットリストを用いても従来の方法よりもシミュレーション精度を向上させることは可能である。
【0050】
また、AC特性として遅延時間と容量特性のいずれか一方のみの測定値を用いてネットリストを修正しても従来よりも精度の高い回路シミュレーションを実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、各種電子機器に搭載される半導体集積回路の設計において、回路シミュレーションを高精度化するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係る回路シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図2】標準セルなどに用いられるトランジスタのDC特性評価パターンの一例を示す図である。
【図3】図1に示す回路情報パラメータの修正値に含まれる電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1のネットリストへの反映方法を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る回路シミュレーション方法において、DC特性に基づく電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の抽出と、AC特性から得られたδLg、δWを用いた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の補正とを行う手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る回路シミュレーション方法において、DC特性に基づく電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の抽出と、AC特性から得られたδLg、δWを用いた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1の補正とを行う手順の第2の例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る回路シミュレーション方法で用いられるリングオシレータのレイアウトおよび回路構成を示す図である。
【図7】一般的な回路シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【図8】半導体集積回路において、ゲートおよび活性領域の設計レイアウトパターンと実際の仕上がり形状とを示す図である。
【符号の説明】
【0053】
101 設計レイアウト情報
102 ネットリスタ
103 ネットリスト
104 回路シミュレータ
105 回路特性情報
121 DC特性実測値
122 電気的Lg、W抽出手段
123 回路情報パラメータ修正値
124 AC特性実測値
125 容量的Lg、W抽出手段
126 修正ネットリスト
141 活性領域
143 ゲート
145 コンタクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートを有するトランジスタを含む半導体集積回路の設計レイアウト情報を用いる回路シミュレーション方法であって、
前記設計レイアウト情報から前記トランジスタの特性情報を含むネットリストを抽出するステップ(a)と、
前記トランジスタのDC特性を実測するステップ(b)と、
前記ステップ(b)で得られたDC特性の実測値に基づいてDC特性に応じた電気的ゲート長Lg1および電気的ゲート幅W1を抽出するステップ(c)と、
前記ネットリストを前記電気的ゲート長Lg1および前記電気的ゲート幅W1に基づいて修正ネットリストに変換するステップ(d)と、
前記修正ネットリストを用いて前記半導体集積回路のシミュレーションを行うステップ(e)とを備えていることを特徴とする回路シミュレーション方法。
【請求項2】
前記トランジスタのAC特性を実測するステップ(f)と、
前記ステップ(f)で得られたAC特性の実測値に基づいてゲート長Lg2とゲート幅W2とを抽出するとともに、前記電気的ゲート長Lg1と前記ゲート長Lg2との差分δLgと前記電気的ゲート幅W1と前記ゲート幅W2との差分δWとを抽出するステップ(g)とをさらに備え、
前記ステップ(d)では、前記差分δLgおよび前記差分δWをさらに用いて前記ネットリストを前記修正ネットリストに変換することを特徴とする請求項1に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項3】
前記ステップ(f)では、前記トランジスタの容量特性を測定し、
前記ステップ(g)では前記トランジスタの容量値の影響を加味して前記ゲート長Lg2と前記ゲート幅W2とを抽出することを特徴とする請求項2に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項4】
前記ステップ(f)は、複数個の前記トランジスタで構成される第1の半導体装置の遅延時間を測定し、前記トランジスタにおける遅延時間を得るステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項5】
前記第1の半導体装置は、リングオシレータであることを特徴とする請求項4に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項6】
前記ステップ(c)の後に、前記電気的ゲート長Lg1および前記電気的ゲート幅W1を用いて前記半導体集積回路のシミュレーションを行って前記トランジスタにおける遅延時間の計算値を得るステップ(h)をさらに備え、
前記ステップ(f)および前記ステップ(h)の後、前記遅延時間の計算値と前記ステップ(f)で得られた前記トランジスタにおける遅延時間との差が、あらかじめ設定された値を以上になる場合には前記ステップ(g)、前記ステップ(d)および前記ステップ(e)を行い、前記あらかじめ設定された値を下回る場合には前記ステップ(d)および前記ステップ(e)を行わないことを特徴とする請求項4に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項7】
前記ステップ(f)および前記ステップ(h)の後で且つ前記ステップ(e)の前に、前記トランジスタの容量特性を測定するステップ(i)をさらに備え、
前記ステップ(g)では前記トランジスタの容量値の影響を加味して前記ゲート長Lg2と前記ゲート幅W2とを抽出することを特徴とする請求項6に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項8】
前記ステップ(f)は、複数個の前記トランジスタで構成されるリングオシレータの消費電流を測定するステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)では、前記トランジスタを有する第2の半導体装置についてDC特性を実測するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項10】
前記第2の半導体装置は単体のMOSトランジスタまたはCMOSであることを特徴とする請求項9に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項11】
前記ネットリストは、前記電気的ゲート長Lg1と前記電気的ゲート幅W1と前記差分δLg、前記差分δWおよび長チャネルMOSトランジスタでのしきい値電圧Vth0をパラメータとして含んでいることを特徴とする請求項2に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項12】
前記ステップ(g)で抽出された前記差分δLgと前記差分δWとを含む参照テーブルをメモリに格納するステップをさらに備え、
前記ステップ(d)では前記参照テーブルを用いて前記ネットリストの変換を行うことを特徴とする請求項2に記載の回路シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−329824(P2006−329824A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154116(P2005−154116)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】