説明

回路構成体

【課題】本発明は、電子部品のリード端子とバスバーとを確実に半田付けすると共に、合成樹脂材の成形不良が抑制された回路構成体を提供する。
【解決手段】回路構成体10は、表面22及び裏面23を有するバスバー13を合成樹脂材14でモールド成形してなる回路基板11に電子部品12を実装してなり、電子部品12のリード端子15はバスバー13に形成された挿通孔16に挿通された状態で裏側開口部18から露出するバスバー13とフロー半田付けされており、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度は、30°以上70°以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板に電子部品が実装された回路構成体として、特許文献1に記載のものが知られている。この回路構成体は、バスバーに合成樹脂材をモールド成形してなる回路基板の表面に電子部品が実装されている。バスバーには電子部品のリード端子が挿通される挿通孔が設けられている。合成樹脂材には、バスバーの挿通孔に対応する位置に開口部が形成されている。リード端子は、バスバーの挿通孔に挿通された状態で、バスバーの裏面側からフロー半田付けされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−8164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂材と、溶融状態の半田とは比較的に親和性が低い。このため、溶融状態の半田の表面張力により、溶融状態の半田が合成樹脂材の開口部内に進入できなくなる結果、リード端子とバスバーとの間で半田付け不良が発生することが懸念される。このため、従来技術においては、合成樹脂材の裏面側に形成された開口部の内壁面を、バスバーから開口縁部に向かうに従って開口面積が大きくなるようにテーパ状に形成する構成が開示されている(特許文献1の図4参照)。
【0005】
しかしながら開口部の内壁面とバスバーの裏面とのなす角度を過度に小さくすると、合成樹脂材に成形不良が発生することが懸念される。これは以下の理由による。
【0006】
開口部の内壁面とバスバーの裏面とのなす角度が小さくなると、合成樹脂材とバスバーとの接触部分における合成樹脂材の厚さ寸法が小さくなる。すると、溶融状態の合成樹脂材の粘度によっては、合成樹脂材が金型内に十分に充填されな結果、いわゆるヒケが生じることが懸念される。
【0007】
一方で、ヒケを抑制するために溶融状態の合成樹脂材の粘度を低くすると、金型とバスバーとの間の微細な隙間から合成樹脂材が流出してしまい、いわゆるバリが生じることが懸念される。このバリがバスバーの裏面を覆うように形成されると、バスバーと電子部品のリード端子との間にバリが介在する場合がある。すると、バスバーと電子部品のリード端子との半田付け部分において、例えばフィレット形状の不良等、いわゆる半田不良が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、電子部品のリード端子とバスバーとを確実に半田付けすると共に、合成樹脂材の成形不良が抑制された回路構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、表面及び裏面を有するバスバーを合成樹脂材でモールド成形してなる回路基板に電子部品を実装してなる回路構成体であって、前記バスバーには表裏を貫通すると共に前記電子部品のリード端子が表側から挿通される挿通孔が形成されており、前記合成樹脂材の表面及び裏面には前記挿通孔に対応する位置にそれぞれ表側開口部及び裏側開口部が形成されており、前記表側開口部及び前記裏側開口部からは前記バスバーが露出しており、前記リード端子は前記挿通孔に挿通された状態で前記裏側開口部から露出する前記バスバーとフロー半田付けされており、前記バスバーの裏面と、前記裏側開口部の内壁面とのなす角度は、30°以上70°以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、バスバーの裏面と、裏側開口部の内壁面とのなす角度を70°以下に設定したので、電子部品のリード端子と、バスバーの裏面とをフロー半田付けすることができる。
【0011】
また、バスバーの裏面と、裏側開口部の内壁面とのなす角度を30°以上に設定したので、バスバーの裏面にバリが形成されることを抑制すると共に合成樹脂材の裏側開口部にヒケが発生することを抑制できる。
【0012】
本発明の実施態様としては以下の態様が好ましい。
前記表側開口部から露出する前記バスバーの表面と、前記リード端子とは、前記挿通孔と前記リード端子との隙間から湧出した溶融状態の半田が固化することにより半田付けされており、前記バスバーの表面と、前記表側開口部の内壁面とのなす角度は、30°以上90°未満であることが好ましい。
【0013】
上記の態様によれば、バスバーの表面と、表側開口部の内壁面とのなす角度を90°未満に設定したので、表側開口部の開口縁の開口面積は、表側開口部から露出するバスバー表面の面積よりも大きくなっている。これにより、挿通孔に挿通されたリード端子と、表側開口部の内壁面との間隔は、バスバーの表面から表側開口部の開口縁に向かうに従って大きくなるようになっている。これにより、挿通孔とリード端子との隙間から湧出した溶融状態の半田が、表側開口部の内壁面にはじかれることが抑制されるので、溶融状態の半田がリード端子の表面を容易に這い上がることができる。この結果、バスバーの表面と、リード端子とを確実に半田付けすることができる。
【0014】
また、バスバーの表面と、表側開口部の内壁面とのなす角度を30°以上に設定したので、バスバーの表面にバリが形成されることを抑制すると共に合成樹脂材の表側開口部にヒケが発生することを抑制できる。
【0015】
前記合成樹脂材は熱可塑性樹脂からなることが好ましい。上記の態様によれば、合成樹脂材をモールド成形する際の製造コストを低減できる。
【0016】
前記合成樹脂材はポリフェニレンサルファイドであることが好ましい。上記の態様によれば、合成樹脂材の耐熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子部品のリード端子とバスバーとを確実に半田付けできると共に、合成樹脂材の成形不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施形態に係る回路構成体を示す要部拡大断面図である。
【図2】図2は、バスバーをモールド成形している工程を示す要部拡大断面図である。
【図3】図3は、基準面における合力を計算するためのモデルを示す模式図である。
【図4】図4は、図3における要部拡大断面図である。
【図5】図5は、合成樹脂材と溶融半田との界面張力を計算するためのモデルを示す模式図である。
【図6】図6は、基準面における合力の計算値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図1ないし図5を参照しつつ説明する。本実施形態に係る回路構成体10は、回路基板11に電子部品12が実装されている。以下の説明においては、図1における上側を表側とし、下側を裏側として説明する。
【0020】
回路基板11は、金属板材を所定の形状にプレス加工して形成されたバスバー13を、合成樹脂材14でモールド成形してなる。上記のバスバー13により、回路基板11には回路パターンが形成されている。バスバー13は、銅、銅合金等、必要に応じて任意の金属で形成することができる。また、バスバー13の表面22及び裏面23には、スズ、ニッケル等のメッキを施してもよい。バスバー13には、表裏を貫通すると共に、電子部品12のリード端子15が表側から挿通される挿通孔16が形成されている。挿通孔16の断面は円形状をなしている。
【0021】
回路基板11の表面には、バスバー13の挿通孔16に対応する位置に、表側開口部17が形成されている。表側開口部17の断面形状は円形状をなしている。この表側開口部17からは、バスバー13の表面22が露出している。表側開口部17の内壁面は、バスバー13から図1における上方に位置する開口縁部に向かうに従って開口面積が大きくなるように傾斜して形成されている。
【0022】
表側開口部17の内壁面と、バスバー13の表面22とのなす角度Aは、30°以上90°未満に形成されている。
【0023】
回路基板11の裏面23には、バスバー13の挿通孔16に対応する位置に、裏側開口部18が形成されている。裏側開口部18の断面形状は円形状をなしている。この裏側開口部18からは、バスバー13の裏面23が露出している。裏側開口部18の内壁面は、バスバー13から図1における下方に下方に位置する開口縁部に向かうに従って開口面積が大きくなるように傾斜して形成されている。
【0024】
裏側開口部18の内壁面と、バスバー13の裏面23とのなす角度Bは、30°以上70°以下に形成されている。
【0025】
回路基板11を構成する合成樹脂材14としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、液晶ポリマー(LCP)等、必要に応じて任意の合成樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂等、必要に応じて任意の熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂を用いると、耐熱性に優れるので好ましい。また、寸法安定性に優れるので好ましい。
【0026】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ナイロン6,6、ナイロン6、ナイロン4,6等のポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等、必要に応じて任意の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂を用いると、成形コストを低減させることができるので好ましい。また、ポリフェニレンサルファイドを用いると、耐熱性に優れるので特に好ましい。
【0027】
電子部品12からはリード端子15が突出して設けられている。このリード端子15は、回路基板11の表面側から、表側開口部17、バスバー13の挿通孔16、及び裏側開口部18に挿通された状態で、バスバー13にフロー半田付けされている。
【0028】
表側開口部17、及び裏側開口部18から露出するバスバー13の表面22及び裏面23と、リード端子15とは、固化した半田19により接続されている。バスバー13の裏面23側に位置する半田19は、フロー半田付け時に、回路基板11が溶融半田槽(図示せず)に浸漬された後に、溶融半田が固化してなる。一方、バスバー13の表面22側に位置する半田19は、フロー半田付け時に、バスバー13の挿通孔16とリード端子15との間から溶融半田が湧出してリード端子15を這い上がり、その後、固化してなる。
【0029】
続いて、本実施形態に係る回路構成体10の製造工程の一例を説明する。まず、金属板材を所定の形状にプレス加工して、バスバー13を形成する。このバスバー13を、図2に示すように、一対の金型20,20の間に配置し、合成樹脂材14を金型20のキャビティ21内に充填することにより、モールド成形する。成形工程は、合成樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、例えば、トランスファー成形、又は射出成形、により成形することができる。また、合成樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合には、例えば射出成形により成形することができる。
【0030】
上記のようにして形成した回路基板11の表面側から、電子部品12のリード端子15を、バスバー13の挿通孔16内に挿通する。リード端子15が挿通孔16内に挿通された状態で、溶融半田が充填された溶融半田槽に浸漬してフロー半田付けを実行する。これにより、リード端子15とバスバー13とが電気的に接続される。
【0031】
続いて、本実施形態の作用、効果について説明する。本実施形態によれば、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度を70°以下に設定したので、電子部品12のリード端子15と、バスバー13の裏面23とをフロー半田付けすることができる。これは以下の理由によると考えられる。
【0032】
溶融半田24と、合成樹脂材14とは比較的に親和性が低い。このため、フロー半田付けにおいて、溶融半田24に回路基板11を浸漬したときに、溶融半田24の表面22張力により回路基板11の裏側開口部18内に溶融半田24が進入することができなくなることが懸念される。すると、バスバー13と、電子部品12のリード端子15との間に半田19が十分に付着せず、半田付け不良が発生するおそれがある。
【0033】
裏側開口部18内に溶融半田24を進入させようとした場合に、例えば裏側開口部18の開口面積を大きくすることが考えられる。しかしながら、この方法によると回路基板11が大型化するので、採用することはできない。
【0034】
そこで、本実施形態においては、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度を70°以下に設定した。これにより、溶融半田24と合成樹脂材14とが比較的に親和性が低い場合であっても、裏側開口部18内に溶融半田24が容易に進入することができる。この結果、バスバー13と、電子部品12のリード端子15とを確実に半田付けすることができる。
【0035】
更に、本実施形態においては、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度を30°以上に設定したので、バスバー13の裏面23にバリが形成されることを抑制すると共に合成樹脂材14の裏側開口部18にヒケが発生することを抑制できる。これは以下の理由によると考えられる。
【0036】
開口部の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度が小さくなると、合成樹脂材14とバスバー13との接触部分における合成樹脂材14の厚さ寸法が小さくなる。すると、溶融状態の合成樹脂材14の粘度によっては、合成樹脂材14が金型20内に十分に充填されなくなる結果、いわゆるヒケが生じることが懸念される。
【0037】
一方で、ヒケを抑制するために溶融状態の合成樹脂材14の粘度を低くすると、金型20とバスバー13との間の微細な隙間から合成樹脂材14が流出してしまい、いわゆるバリが生じることが懸念される。このバリがバスバー13の裏面23を覆うように形成されると、バスバー13と電子部品12のリード端子15との間にバリが介在することにより、バスバー13と電子部品12のリード端子15との間において、いわゆる半田不良が発生することが懸念される。半田不良としては、例えば、バスバー13が半田濡れしていないことに起因する赤目や、フィレット形状が不成形若しくはいびつになること、等が挙げられる。
【0038】
このように、裏側開口部18のヒケを抑制しつつ、且つ、バスバー13の裏面23にバリが形成されないようにすることは困難であった。
【0039】
上記の点を鑑み、本実施形態においては、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度を30°以上に設定した。これにより、合成樹脂材14の裏側開口部18にヒケが発生しないようなバスバー13の裏面23にバリが形成されることを抑制すると共に合成樹脂材14の裏側開口部18にヒケが発生することを抑制できるという優れた効果を奏することができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、バスバー13の表面22と、表側開口部17の内壁面とのなす角度を90°未満に設定したので、表側開口部17の開口縁の開口面積は、表側開口部17から露出するバスバー13表面22の面積よりも大きくなっている。これにより、挿通孔16に挿通されたリード端子15と、表側開口部17の内壁面との間隔は、バスバー13の表面22から表側開口部17の開口縁に向かうに従って大きくなるようになっている。これにより、挿通孔16とリード端子15との隙間から湧出した溶融半田24が、表側開口部17の内壁面にはじかれることが抑制されるので、溶融半田24がリード端子15の表面22を容易に這い上がることができる。この結果、バスバー13の表面22と、リード端子15とを確実に半田付けすることができる。
【0041】
また、バスバー13の表面22と、表側開口部17の内壁面とのなす角度を30°以上に設定したので、バスバー13の表面22にバリが形成されることを抑制すると共に合成樹脂材14の表側開口部17にヒケが発生することを抑制できる。
【0042】
以下に、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度Bが70°以下に設定されていることについて、更に詳細に説明する。以下の説明においては、図3に示すように、バスバー13を重力に対して水平な姿勢で配置した場合において、合成樹脂材14の裏面23を裏側開口部18側に延長した仮想的な平面を、基準面25とする。図3は、フロー半田付け時に溶融半田槽に回路基板11が浸漬された状態において、上記の基準面25より上方であって、且つバスバー13より下方に位置する溶融半田24を剛体Aと見立て、この剛体Aにおける力のつりあいを示すものである。なお、以下の計算においては、開口部18の内壁面は滑面と仮定した。
【0043】
図3に示すように、剛体Aには以下の力が加わると考えられる。まず、第1の力として、回路基板11により排除された溶融半田24に起因して、上記した基準面25において溶融半田24から加えられる圧力に由来する力が挙げられる。この第1の力は、剛体Aを上方に押し上げようとする方向に働く。
【0044】
次に、第2の力として、基準面25と、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面との間に囲まれた空間に充填された剛体Aの重量に起因する力が挙げられる。この第2の力は、剛体Aを下方に押し下げようとする方向に働く。
【0045】
続いて、第3の力として、合成樹脂材14に形成された裏側開口部18の内壁面と、溶融半田24との間の表面22張力のうち、重力に対する垂直成分に由来する力が挙げられる。この第3の力は、剛体Aを下方に押し下げようとする方向に働く。
【0046】
上記した剛体Aにおける合力の大きさは、重力に対する上方を正方向とすると、下記の式(1)により計算される。
【数1】

【0047】
式(1)によれば、剛体Aにおける合力が正の値を示すということは、剛体Aの重量に由来して剛体Aを下方に押し下げる力よりも、剛体Aを上方に押し上げる力の方が優勢であることを示す。これにより、溶融半田24は、開口部内を上方に這い上がり、バスバー13と溶融半田24とが接触しやすくなる。
【0048】
一方、式(1)の値が負の値を示すということは、剛体Aを下方に押し下げる力の方が、剛体Aを上方に押し上げる力よりも優勢であることを示す。これにより、剛体Aは下方に押し下げられるので、バスバー13と溶融半田24とが接触しにくくなる。
【0049】
上記の式(1)における第1の力F1は、下記の式(2)により計算される。
【数2】

【0050】
以下の検討においては、上記の式(2)における各項につき、下記の値を用いた。溶融半田密度は、Snの密度で代用し、7310(kg/m)とした。また、半田浸漬深さHは、溶融半田槽に浸漬された回路基板11の基準面25(裏面23)から、溶融半田24の液面までの高さ寸法をいい、本実施形態では2.5mmであった。また、基準面25の面積については、図3に示すように、裏側開口部18から露出するバスバー13の裏面23の半径R(本実施形態では0.85mm)と、バスバー13の裏面23と裏側開口部18の内壁面とのなす角度Bと、バスバー13の裏側に位置する合成樹脂材14の厚さ寸法T(本実施形態では1.0mm)とから、公知の手法により計算した。
【0051】
また、上記の式(1)における第2の力F2は、下記の式(3)により計算される。
【数3】

【0052】
上記の式(3)における各項について以下に説明する。裏側開口部体積は、基準面25よりも上方(図3における上方)であって、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面との間に囲まれた領域の体積をいう。この裏側開口部18体積は、裏側開口部18から露出するバスバー13の裏面23の半径R(本実施形態では0.85mm)と、バスバー13の裏面23と裏側開口部18の内壁面とのなす角度Bと、バスバー13の裏側に位置する合成樹脂材14の厚さ寸法T(本実施形態では1.0mm)とから、公知の手法により計算した。なお、式(2)と同じ名称の項については説明を省略する。
【0053】
また、上記の式(1)における第3の力F3の項は、以下の式(4)で計算される。
【数4】

【0054】
裏側開口部18を構成する合成樹脂材14と、溶融半田24との界面張力のうち、溶融半田24が重力に対する上下方向に変位することに寄与するのは、上記の界面張力のうち重力に対する垂直成分である。そして、界面張力は単位長さあたりに働く力なので、第3の力F3は、樹脂及び半田間の界面張力γ3の垂直成分と、界面長さと、の積で計算される。
【0055】
上記の、樹脂及び半田間の界面張力γ3の垂直成分は、以下の式(5)で計算される。
【数5】

【0056】
なお、式(5)中のθ1について、図4を参照しつつ説明する。図4は、図3における、裏側開口部18の近傍を拡大した要部拡大断面図である。図4における角度θ2は、裏側開口部18の内壁面と、溶融半田24の液面とのなす角度である。そして、鉛直線Lと、溶融半田24の液面とのなす角度θ1は、上記の角度θ2と、バスバー13の裏面23と裏側開口部18の内壁面とのなす角度Bとから、以下の式(6)により計算される。
【数6】

【0057】
式(5)のように、樹脂及び半田間の界面張力γ3に対してcosθ1を乗じることにより、樹脂及び半田間の界面張力γ3の垂直成分を算出することができるのである。
【0058】
上記の、式(5)に記載の、樹脂及び半田間の界面張力γ3は、以下の式(7)により計算される。なお、式(7)はフォークス式として公知である。
【0059】
【数7】

【0060】
なお、上記の式(7)における各項は以下のようである。γ1は、大気中における溶融半田24の表面張力である。本実施形態では、半田19としてはSnAg0.5Cuを用いた。この半田19の表面張力は、480mN/mとして計算を行った(参照文献:実装性に優れた鉛フリーはんだ(東芝レビューVol.66) タン トロン ロン 他)。γ2は、合成樹脂材14の表面張力である。本実施形態では、合成樹脂としてPPSを用いた。PPSの表面張力は、37mN/mとした(参照文献:特開2001−32841号公報)。
【0061】
上記の式(7)に、上記γ1及びγ2を代入して、樹脂及び半田間の界面張力γ3を、250mN/mと計算した。
【0062】
続いて、上記のようにして計算したγ1,γ2,及びγ3を用いて、溶融半田24と、合成樹脂材14との接触角θ3を算出した。図5に、合成樹脂材14の表面22に溶融状態の半田19を滴下した状態における、力のつりあい状態を示す。下記の式(8)に示すように、大気中における溶融半田24の表面張力γ1の、合成樹脂材14の表面22に沿う方向の成分(γ1×cosθ3)と、樹脂及び半田間の界面張力γ3との和が、大気中における合成樹脂材14の表面張力γ2と等しくなっている。なお、式(8)は、ヤング式として公知である。
【数8】

【0063】
続いて、上記の式(1)乃至(8)を用いて、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度Bに対する、基準面25における合力(N)の値を計算した。結果を、図6に示した。
【0064】
角度Bが大きくなるに従って、基準面25における合力は減少した。これは、角度Bが大きくなると、樹脂及び半田間の界面張力γ3の垂直成分が大きくなるためと考えられる。
【0065】
図6によると、角度Bが70°よりも大きくなると、基準面25における合力は負の値を示した。これは、角度Bが70°よりも大きい場合には、溶融半田24を押し下げる力が、溶融半田24を押し上げる力よりも優勢になることを示している。これにより、溶融半田24が裏側開口部18内を上昇しにくくなる。すると、溶融半田24がバスバー13の裏面23に達しにくくなるので、半田付け不良が発生することが懸念される。従って、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度は70°以下であることが好ましい。
【0066】
続いて、バスバー13の裏面23と、裏側開口部18の内壁面とのなす角度Bが30°以上に設定されていることについて詳細に説明する。上記したように、角度Bを小さくすると、基準面25における合力は増大する。これにより、溶融状態の半田19を押し上げる力が増大するので、バスバー13とリード端子15との半田付けが良好に行われるとも思える。
【0067】
しかしながら、角度Bを小さくするということは、裏側開口部18とバスバー13の裏面23との境界部分を構成する合成樹脂材14の厚さ寸法が小さくなることを意味する(図1参照)。すると、モールド成形時に金型20内に液体状の合成樹脂材14が流入しにくくなるため、裏側開口部18において、合成樹脂材14にヒケが発生するおそれがある。
【0068】
ヒケを抑制しようとすると、液体状の合成樹脂材14の粘度を小さくすることが考えられる。すると、金型20の内壁面と、バスバー13の裏面23との間に形成された微小な隙間から、液体状の合成樹脂材14が漏れ出すことにより、バスバー13の裏面23に合成樹脂材14の薄い被膜(いわゆるバリ)が形成される。このバリは絶縁性の合成樹脂材14からなるので、バスバー13の裏面23がバリによって絶縁されてしまうと共に、バスバー13とリード端子15との半田付け不良が発生することが懸念される。
【0069】
このように、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度Bを小さくすると共に、合成樹脂材14のヒケを抑制し、且つバリの発生をも抑制することは容易ではなかった。
【0070】
上記の点に鑑み、発明者らが鋭意検討した結果、裏側開口部18の内壁面と、バスバー13の裏面23とのなす角度Bを、30°以上とすることにより、裏側開口部18を構成する合成樹脂材14にヒケが発生することが抑制されると共に、バスバー13の裏面23にバリが発生することが抑制されることを見出した。
【0071】
以下に、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1−1)
実施例1−1においては、合成樹脂材14としてポリフェニレンサルファイドを用いた。また、バスバー13は、銅合金製の板材の表面22及び裏面23にスズメッキを施したものを使用した。上記の材料を用いて回路構成体10を製造した。実施例1においては、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度は30°とした。フロー半田付け時における溶融半田24の温度は260℃とし、半田付け時間は30秒とした。
【0073】
(実施例1−2乃至1−7)
実施例1−2乃至1−7については、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度を表1に示した値とした以外は、実施例1−1と同様にして回路構成体10を製造した。
【0074】
(比較例1−1乃至1−4)
比較例1−1乃至1−4については、裏側開口部18の内壁面とバスバー13の裏面23とのなす角度を表1に示した値とした以外は、実施例1−1と同様にして回路構成体10を製造した。
【0075】
実施例1−1乃至1ー7、及び比較例1−1乃至1−4に係る回路構成体10について、公知の手法により、リード端子15とバスバー13とが電気的に導通しているか否かを判定した。また、目視により、合成樹脂材14にヒケが発生しているか否か、及びバスバー13の裏面23にバリが発生しているか否かを判定した。結果を表1にまとめた。
【0076】
表中の記号の意味は以下の通りである。半田接続状態を示すカラムに記載された「○」は、バスバー13とリード端子15が良好なフィレット形状で電気的に接続されていることを示し、「×」は、バスバー13とリードとが電気的に接続されていない、もしくは電気的に接続されているが、良好なフィレット形状で接続されていないことを示す。
【0077】
成形状態(ヒケ)の状態を示すカラムに記載された「○」は、合成樹脂材14にヒケが発生しておらず、良好な成形状態であることを示し、「×」は、合成樹脂材14にヒケが発生している状態を示す。
【0078】
成形状態(バリ)の状態を示すカラムに記載された「○」は、バスバー13の裏面23にバリが発生しておらず、良好な成形状態であることを示し、「×」は、バスバー13の裏面23に合成樹脂材14の被膜からなるバリが発生している状態を示す。
【0079】
【表1】

【0080】
角度Bが70°以下である実施例1−1乃至1−7においては、バスバー13とリード端子15との間の半田接続は良好であった。これに対して、角度Bが70°を超える比較例1−3及び1−4においては、バスバー13とリード端子15との電気的接続は不良であった。これは、溶融状態の半田19が裏側開口部18内において十分に上昇できなかったために、バスバー13とリード端子15とが十分に半田付けされなかったためと考えられる。
【0081】
また、角度Bが30°以上である実施例1−1乃至1−7においては、合成樹脂材14について、ヒケ及びバリの双方が発生しなかった。これに対して、角度Bが30よりも小さな比較例1−1及び1−2においては、バリは発生しなかったが、ヒケが発生した。ポリフェニレンサルファイドは、液体状態における流動性が比較的に低いので、金型20内の比較的に狭い隙間に充填されにくい。このため、バスバー13の裏面23にバリは発生しなかったが、合成樹脂材14にヒケが発生したと考えられる。
【0082】
(実施例2−1乃至2−7、及び比較例2−1乃至2−4)
合成樹脂材14としてLCPを用い、また、角度Bを表2に示した値とした以外は、実施例1−1と同様にして回路構成体10を作成した。
【0083】
実施例2−1乃至2−7、及び比較例2−1乃至2−4に対し、リード端子15とバスバー13との半田接続状態、ヒケの発生及びバリの発生につき判定し、結果を表2にまとめた。
【0084】
【表2】

【0085】
角度Bが70°以下である実施例2−1乃至2−7においては、バスバー13とリード端子15との間の半田接続は良好であった。これに対して、角度Bが70°を超える比較例2−3及び2−4においては、バスバー13とリード端子15との電気的接続は不良であった。これは、溶融状態の半田19が裏側開口部18内において十分に上昇できなかったために、バスバー13とリード端子15とが十分に半田付けされなかったためと考えられる。
【0086】
また、角度Bが30°以上である実施例2−1乃至2−7においては、合成樹脂材14について、ヒケ及びバリの双方が発生しなかった。これに対して、角度Bが30よりも小さな比較例2−1及び2−2においては、ヒケは発生しなかったが、バリが発生した。LCPは、液体状態における流動性が比較的に高いので、金型20内において、比較的に狭い隙間に充填されやすい。このため、角度Bが30°よりも小さい場合であっても、ヒケは発生しなかったと考えられる。しかしながら、流動性が高いために、金型20とバスバー13との隙間からバスバー13の裏面23に漏出し、バリが発生したと考えられる。
【0087】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)表側開口部17の内壁面と、バスバー13の表面22とのなす角度は、90°であってもよい。
(2)回路構成体10をケース内に収容して電気接続箱としてもよい。
(3)電子部品12としては、リレー、抵抗、コンデンサ等、必要に応じて、任意の電子部品を用いることができる。
(4)半田19としては、必要に応じて、任意の半田19を用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
10…回路構成体
11…回路基板
12…電子部品
14…合成樹脂材
15…リード端子
16…挿通孔
17…表側開口部
18…裏側開口部
19…半田
22…バスバーの表面
23…バスバーの裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有するバスバーを合成樹脂材でモールド成形してなる回路基板に電子部品を実装してなる回路構成体であって、
前記バスバーには表裏を貫通すると共に前記電子部品のリード端子が表側から挿通される挿通孔が形成されており、前記合成樹脂材の表面及び裏面には前記挿通孔に対応する位置にそれぞれ表側開口部及び裏側開口部が形成されており、前記表側開口部及び前記裏側開口部からは前記バスバーが露出しており、前記リード端子は前記挿通孔に挿通された状態で前記裏側開口部から露出する前記バスバーとフロー半田付けされており、
前記バスバーの裏面と、前記裏側開口部の内壁面とのなす角度は、30°以上70°以下であることを特徴とする回路構成体。
【請求項2】
前記表側開口部から露出する前記バスバーの表面と、前記リード端子とは、前記挿通孔と前記リード端子との隙間から湧出した溶融状態の半田が固化することにより半田付けされており、
前記バスバーの表面と、前記表側開口部の内壁面とのなす角度は、30°以上90°未満であることを特徴とする請求項1に記載の回路構成体。
【請求項3】
前記合成樹脂材は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回路構成体。
【請求項4】
前記合成樹脂材はポリフェニレンサルファイドであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の回路構成体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−159868(P2011−159868A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21399(P2010−21399)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】