説明

回転センサ

【課題】組付け性に優れかつコストの低減を図るとともに広範囲にわたって検出精度に優れた回転センサを提供する。
【解決手段】回転するシャフトSに取付けられ、周方向に沿って幅が変化する導電性のセンシング部を有するロータと、交流励磁電流が流されることで前記ロータのセンシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと、磁性材から成形されかつ前記励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取付けて前記ロータのセンシング部に対して前記シャフトの軸線方向に間隔をおいて対向配置される固定コアとを備えた回転センサにおいて、前記固定コアがセンシング部の周方向異なる位置に配置された少なくとも2つの固定コアからなり、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を所定角度だけ互いにずらしたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に取り付けてこの回転体の回転角度を検出するのに使用する回転センサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のステアリングシャフトなどの回転シャフトに取り付けてこのシャフトと一体になったハンドルの回転角度を検出するのにいわゆる回転センサが使用される。
【0003】
かかる回転センサの一例として、ロータに対して固定コアを所定間隔隔てて対向配置したものがある。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この回転センサは、回転するシャフトの軸線方向所定位置に取り付けられ、周方向に沿って幅が変化するセンシング部を有するロータ、励磁コイルと、絶縁磁性材から成形され、励磁コイルを保持するコアとを有し、固定部材に取り付けて、ロータに対してシャフトの軸線方向に間隔を置いて対向配置される固定コア及び励磁コイルと接続され、特定周波数の発振信号を発信する発振手段を有する回転角度測定装置を備えている。
【0005】
そして、このような構成の回転センサを用いて、この渦電流の発生に伴う励磁コイルのインピーダンス変動を利用してロータの0°〜360°の回転角度を検出するようになっている。
【特許文献1】特開2005−265830号公報(第6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転センサのように、コイルに交流電流を流してシールド板(センシング部)の面積の変化をこのコイルにて検知して、そのシールド板の回転角度を検出する方法において、周方向異なる位置に2個以上の励磁コイルを配置した場合、各励磁コイルによって発生した渦電流がシールド板を流れるループ電流として互いの励磁コイルに影響しあい、干渉して回転角度の誤差が大きくなることがある。
【0007】
具体的には、図11に示すように、一方の励磁コイル1を励磁する交流電流i1により発生した磁界Φ1によりシールド板12に渦電流を発生させ、その渦電流から発生した磁界Φ2が励磁コイル1に影響を与え、その磁界Φ2による電流i2が励磁コイル1に生じる。その電流i2は交流電流i1とは位相ずれ180°程度遅れて励磁コイル1に影響する。そして、磁界Φ1を横切るシールド板12の面積が変化すると渦電流による電流i2も変化し、コイル1の電流変化をインピーダンスの変化(図12における検出位相θとしてのベクトル方向参照)として検出することができる。このようにコイル1及びコイル2はそれぞれの近傍のシールド板の面積変化による渦電流の変化を検出している。しかしながら、一方のコイル(例えば、図11におけるコイル2)の交流電流も同じように磁界Φ3を発生させると共にループ電流IR、磁界ΦIRを発生させ、180°程度の位相遅れで磁界ΦIRにより電流irが、他方のコイル(例えば、コイル1)に影響を及ぼし、これが誤差要因となる。
【0008】
この問題を解決するために、例えばシールド板12の一部をカット(電気的に縁切り)することでシールド板12のループ電流回路を絶縁し、シールド板12自体にループ電流を流れなくすれば良いが、シールド板12の厚さが薄い板であった場合、構造上の強度が保てない問題が生じる。また、シールド板12には励磁コイル1,2への投影面積の小さな幅の狭い部分が存在するため、製造をプレスで行う場合、シールド板12の周方向を一部カットするような構造ではプレス時に変形を生じ、製品としてのシールド板12の寸法精度が悪くなってしまう。また、プレス後にシールド板12の周方向を一部カットする場合、応力が開放されてシールド板12自体の寸法が変化する恐れもある。
【0009】
このように、励磁コイルを2個以上配置した場合、各励磁コイルによって発生する渦電流により一方の励磁コイルに流れる電流が他方の励磁コイルに影響を及ぼすことがあるので、その問題を解決することが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、広範囲の回転角度にわたって検出精度に優れた回転センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明にかかる回転センサは、
回転するシャフトに取付けられ、周方向に沿って幅が変化する導電性のセンシング部を有するロータと、
交流励磁電流が流されることで前記ロータのセンシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと、磁性材から成形されかつ前記励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取付けて前記ロータのセンシング部に対して前記シャフトの軸線方向に間隔をおいて対向配置される固定コアとを備えた回転センサにおいて、
前記固定コアがセンシング部の周方向異なる位置に配置された少なくとも2つの固定コアからなり、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を所定角度だけ互いにずらしたことを特徴としている。
【0012】
各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流を所定角度だけずらすことにより、或る固定コアにおいて発生した渦電流がセンシング部のループ電流となって他の固定コアの検出出力誤差となる影響を少なくする。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載の回転センサは、請求項1に記載の回転センサにおいて、
何れか一方の固定コアのみが前記回転センサに備わったとしたときの前記センシング部の幅が最も広い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR1、リアクタンスをXL1とし、前記センシング部の幅が最も狭い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR2、リアクタンスをXL2とし、
α=tan−1{(XL2−XL1)/(R1−R2)}
β=tan−1{(XL2+XL1)/(R1+R2)}
としたとき、
前記所定角度をθ3とすると、
θ3=180−α−βで規定されることを特徴としている。
【0014】
一方の励磁コイルの交流励磁電流i1より磁界Φ1が発生し、それを打ち消す方向に磁界Φ2が発生するよう渦電流がセンシング部の表面に流れ、更にこの磁界Φ2によって励磁された電流i2が発生すると共に、他方の励磁コイルの交流電流が磁界Φ3を発生させ、ループ電流IRを励起し、更に磁界ΦIRを誘導発生させi2と同じようにおよそ180°の位相遅れで電流irを発生させる。この場合に、同一線上ベクトルで変化するi2影響分とir影響分のir影響分のみのベクトル方向を原点に向くようにずらす。即ち各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を上述のように規定された角度θ3分、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相をずらしたとき、一方の励磁コイルの位相検出が他方の励磁コイルの位相検出に与える影響が最も小さくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、広範囲の回転角度にわたって検出精度に優れた回転センサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態にかかる回転センサを図面に基づいて説明する。なお、この説明においては自動車のステアリング装置においてこの回転センサをステアリングシャフトに取付けてハンドルの回転角度を検出する場合について説明する。
【0017】
本発明の一実施形態にかかる回転センサ1は、図1及び図2に示すように、回転するシャフトSに取付けられるロータ10と、絶縁磁性材からなるコア本体及びコア本体内に収容される少なくとも1つの励磁コイルを有する固定コア31,32(41,42)と、固定コア31,32(41,42)を保持する保持部材90と、保持部材90の一部に備わった回路基板95と、これらを収容するケース20とを備えている。また、保持部材90には、固定コア31,41を対向配置させるコイルコアホルダ92と、固定コア32,42を対向配置させるコイルコアホルダ93が備わっている。そして、保持部材90は、コイルコアホルダ92,93がシャフトSの軸に対して中心角90度をなすように回転センサ1に組付けられている。
【0018】
保持部材90は、例えば合成樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ABS樹脂等ガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させたFRP(繊維強化プラスチック)等)でできた矩形状の板部材であって下ケース22に取付けられるベース部91と、このベース部91の一側端部に備わったコイルコアホルダ92,93とからなる。
【0019】
保持部材90の一方のコイルコアホルダ92には、固定コア31,41が互いに同芯度を保ちながら対向配置された状態で備わり、保持部材90の他方のコイルコアホルダ93には固定コア32,42が互いに同芯度を保ちながら対向配置されている。また、一方の組の各固定コア31,41が他方の組の固定コア32,42に対してシャフトSの軸に関して中心角90°をなして配置されている。これによって、一側の固定コア31(32)は、ロータ10を挟んで他側の固定コア41(42)との間に所定間隔G(図2参照)を隔てて対向配置されている。
【0020】
また、保持部材90の一部には回路基板95が備わり、この回路基板95に回転角度検出回路100が備わっている。回転角度検出回路100は、ケース20から外部に延出させた複数の電線(図示せず)を介して電源や信号伝送用のワイヤハーネスと接続されると共に、ケース20の外部に設けられた外部装置と接続されるようになっている。
【0021】
上述のように、固定コア31,32は、シャフトSの軸に対して中心角90°をなすように保持部材90の下ケース側に配置される。一方、固定コア41,42は、シャフトSの軸に対して中心角90°をなすように保持部材90の上ケース側に配置される。
【0022】
また、固定コア31と固定コア41はロータ10のセンシング部12を挟んで同芯度を維持しながら対向配置され、固定コア32と固定コア42もロータ10のセンシング部12を挟んで同芯度を維持しながら対向配置される。
【0023】
なお、一側の固定コア31,32は、図2に示すように、絶縁磁性材(例えば、Ni−Zn系、Mn−Zn系、Mg−Zn系のフェライトに、ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ABS樹脂等の電気絶縁性を有する熱可塑性合成樹脂を混合したもの、あるいはセラミック等)からなり、円柱状に形成され、上面側に励磁コイルが収容されるリング状の空隙部を有するコア本体31a,32aとコア本体31a,32a内に収容される励磁コイル31b,32bを有している。
【0024】
また、他側の固定コア41,42も同様に、絶縁磁性材からなるコア本体41a,42aとコア本体41a,42a内に収容される励磁コイル41b,42bを有している。そして、励磁コイル31bと励磁コイル41b、励磁コイル32bと励磁コイル42bは、それぞれ直列に接続され、保持部材90の回転角度検出回路100と電気的に接続され、交流励磁電流が流されることでコイル周囲に交流磁界を形成し、それぞれ対となっている固定コア間で磁気回路を形成するようになっている。
【0025】
また、固定コア31,32(41,42)が備わった保持部材90、回転角度検出回路100が備わった回路基板95、及びロータ10は、交流磁界の遮蔽性を有する金属又は絶縁磁性材からなるケース20に収容されている。なお、ケース20は上ケース21と下ケース22とからなり、シャフトSの近傍に位置する固定部材(図示せず)に図示しないブラケット等を介して取付けられている。
【0026】
ロータ10は、図1に示すように、絶縁磁性材のロータ取付け部11と、このロータ取付け部11とステー12a,12bを介して連結され、周方向にわたって幅が連続的に変化するセンシング部12とからなる。なお、センシング部12は、アルミニウム,銅,銀,真鍮等の導電性を有する金属でできている。また、センシング部12は、図1及び図3に示すように、幅が最小の幅狭部と、この幅狭部と半径方向反対側に幅が最大の幅広部とを有している。そして、ロータ10の回転角度に対応して半径方向の幅が変化するように形成され、ロータ回転に伴い後述する交流磁界によってセンシング幅の、各コイルに対応した領域の面積に基く大きさの渦電流が誘起されるようになっている。
【0027】
回転センサ1の回転角度検出回路100は、図4の回路ブロック図に示すように、発振回路111からなり特定周波数の発振信号を出力する発振部110と、発振部110から後述する一方の位相シフト部122の励磁コイルB2(図5における励磁コイル32b,42b)に供給される交流電流の位相を他方の位相シフト部121の励磁コイルB1(図5における励磁コイル31b,41b)に供給される交流電流の位相に対して所定角度だけ遅らせる位相遅れ回路111aと、発振部110から入力された発振信号の位相をシフトする位相シフト部120(121,122)と、位相シフト量を検出する位相シフト量検出部130(131,132)と、検出された位相シフト量を対応するパラメータに変換する位相シフト量コンバート部140(141,142)と、位相シフト量コンバート部140から出力される位相シフト量を増幅させる増幅部150(151,152)と、位相シフト量に対応するパラメータから回転角度を算出する信号処理部160とを有し、位相シフト部120に入力される各回転角度を検出するようになっている。
【0028】
なお、一方の位相シフト部122の励磁コイルB2(図5における励磁コイル32b,42b)に供給される交流電流の位相を他方の位相シフト部121の励磁コイルB1(図5における励磁コイル31b,41b)に供給される交流電流の位相に対して所定角度だけ位相遅れ回路111aで遅らせるこの所定の角度θ3は、本実施形態の場合、何れか一方の固定コアのみが回転センサに備わったとしたときのセンシング部の幅が最も広い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR1、リアクタンスをXL1とし、センシング部の幅が最も狭い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR2、リアクタンスをXL2とし、
α=tan−1{(XL2−XL1)/(R1−R2)}
β=tan−1{(XL2+XL1)/(R1+R2)}
としたとき、図13に示すように、θ3=180−α−βで規定される。
また、本実施形態では記載されていないが、発振回路111と位相シフト部120との間に必要に応じて分周回路やバッファを設けても良い。
【0029】
続いて、上記構成を有した回転センサ1の回転角度検出方法について説明する。
【0030】
まず、一方の各励磁コイル31b,41bに交流励磁電流i1が流されると、図11に示すように各励磁コイル31b,41bは周囲に交流磁界Φ1を形成し、このとき、磁界Φ1がセンシング部12を横切ると、センシング部12の表面には渦電流が誘起され、各励磁コイル31b,41bのインピーダンスを変動させる。このインピーダンスの変動量は、センシング部12の表面に誘起される渦電流量の変動に対応する。
【0031】
更に詳しく説明すると、各励磁コイル31b,41bに流された交流励磁電流i1より磁界Φ1が発生し、それを打ち消す方向に磁界Φ2が発生するよう渦電流がセンシング部12の表面に流れる。さらにこの磁界Φ2によって励磁された電流i2(i1とは位相がおよそ180度ずれている)が励磁コイル31b,41bに影響を及ぼす。この原理により、固定コア31,41に対応するセンシング部12の面積(センシング部12のセンシング面と直交する方向から見てセンシング部12の固定コア31,41に対する投影面積、即ち「センシング部の固定コアへの投影面積」)により渦電流の大きさが変化し、励磁コイル31b,41bの電流変化、即ちコイル1のインピーダンスの変化として検出される。実際のインピーダンスは面積が広い部分では図12の点P1となるR、XLを得られ、面積の狭い部分では点P2となり、信号検出は位相θ1を検出して角度換算している。
【0032】
従来の回転センサでは、図11に示すように励磁コイル32b,42bの交流電流が磁界Φ3を発生させ、ループ電流IRを励起し、図11に示すようにさらに磁界ΦIRを誘導発生させi2と同じようにおよそ180°の位相遅れで電流irとなり励磁コイル31b,41bに図12のように影響を及ぼし、これが検出誤差θ2となっていた。すなわち、図12のi2影響分とir影響分は、ともにセンシング部12に流れる渦電流の影響を受けるため、ほぼ同方向のベクトルとなっていた。
【0033】
これに対して、本実施形態における回転センサ1は、上述した位相遅れ回路111aにより励磁コイル32b,42bの励磁電流の位相を予め上述した角度θ3だけずらしている。これによって、上述した図12に示す電流ir影響分が角度θ3ずれた形となり、励磁コイル32b,42bの位相θ1の検出には影響しづらくなる。検出しているi2影響分の方向(図12中のベクトル方向)とir影響分はθ3位相がずれているので実際に検出しようとしている角度相当量のθ1に対してはその変化の影響は小さくなるからである。
【0034】
その後、ロータ10が回転すると、各固定コア31,32,41,42に対応するセンシング部12の幅はロータ10の回転角度に比例して変動し、これに伴い各励磁コイル31b,32b,41b,42bにおけるインピーダンスも変動する。このときの各励磁コイル31b,32b,41b,42bからの出力信号を後述する回転角度検出回路100で検出し、ロータ10の角度信号に変換して、ロータ10の回転角度を検出することができる。
【0035】
以上の構成を有する回転センサ1は、シャフトSの回転による励磁コイル31b,32b,41b,42bのインピーダンス変動を利用して出力を回転角度検出回路100で信号処理することで、後述するようにロータの0°〜360°の回転角度全体にわたって検出するようになっている。
【0036】
以下に上述の回転センサ1を用いた回転角度検出を行うにあたっての具体的な信号処理の仕方について説明する。まず、発振回路111は、特定周波数の発振信号を直接励磁コイル31b及び励磁コイル41b(コイルB1)に伝達すると同時に位相遅れ回路111aによって所定角度だけ位相が遅れた発振信号として励磁コイル32b及び励磁コイル42b(コイルB2)に伝達する。これによって、各発振信号が抵抗R1,R2、励磁コイルB1,B2及びコンデンサC1,C2からなる各位相シフト部120に出力される。このとき、コンデンサC1,C2両端における電圧信号の位相は、励磁コイルB1,B2のインピーダンスの変動によって変化する。コンデンサC1,C2両端の電圧信号は、各位相シフト量検出部130へ出力される。各位相シフト量検出部130は、コンデンサC1,C2両端の電圧信号の位相シフト量をそれぞれ検出する。各位相シフト量コンバート部140は検出された各位相シフト量を対応する電圧に変換する。
【0037】
そして、この電圧値を位相シフト量コンバート部140の後段に接続した増幅部150(151,152)に伝達する。増幅器150はオペアンプ等からなる電子回路である。
【0038】
信号処理部160には演算処理手段として例えばワンチップマイクロプロセッサが使用され、各増幅部150から入力される電圧値に基づき、信号処理部160がロータ10の回転角度を測定する。
【0039】
これによって、例えば一方の励磁コイル(コイルB1)の出力電圧(V)が図6に示すように得られる。同図の励磁コイルに関するロータ回転角度と出力電圧との関係から明らかなように、180°離れた位置にセンシング部12の2箇所のステー12a,12bに対応するピーク状の突出部が出現する。また、この部分を除いて従来の回転センサよりも回転角度に応じて正比例して直線的に変化する特性上向上した出力電圧を得られる検出帯域Qが現れる。
【0040】
なお、励磁コイル31b,41bと励磁コイル32b,42bとは、図3に示すように90°の中心角度をなして配置されているので、このようなロータ回転角度に応じた直線性に優れた検出帯域Qを図7に示すようにロータ回転角度の0°〜360°まで互いに90°の位相だけずれたまま入れ替わり連続的に生じさせることができる。なお、図7においてはピーク状の突出部は省略して示している。
【0041】
ところで、図7から明らかなように、ロータ回転角度の変化に応じて位相シフト量に対応する出力信号のリニアリティの優れた区域とそうではない区域が生じる。図8は、図7の理解を容易にするために、位相シフト量に対応する特性図においてリニアリティに優れた区域を太線で示し、それ以外を細線で示したものである。リニアリティの優れた区域は90°よりやや大きい。そして、2つコイル出力信号のリニアリティ部分のみを回転角度位置の検出に用いるためにうまく連結するには、本実施形態にかかる回転センサのように、各励磁コイルの配置場所が中心角度で90°ずれていることが望ましい。このように、コイルが90°の中心角度をもって配置されていることが、ロータの角度位置を判別するには最も好都合である。
【0042】
続いて、ロータ10の回転角度位置を判別する方法の望ましい一例を詳しく説明する。信号処理アルゴリズムの中、2つのコイル検出信号から360°の回転角度に変換するために、信号処理回路から検出した2種類の信号を検出に際して適宜選択(判別)する。
【0043】
すなわち、ロータ10が任意の位置で、検出された中心角度が互いに90°ずれて配置された2つの励磁コイルの位相シフト量に対応する信号をそれぞれS1,S2とする信号S1とS2の中、リニアリティの優れたコイル信号(図8における太線部分)を選択する。
【0044】
このためには、まず、角度範囲の判別を行う。図7及び図8に示すように1つのコイル信号は180°の周期を持ち、360°の範囲内には2値性を持っている。即ち、2つのコイルが90°の回転角度で配置されていると、角度θの出力信号レベル=角度(θ+180°)の出力信号レベルとなり、同じ信号レベルが、角度θか或いは角度(θ+180°)かという判別を行う。この具体的な判別方法は以下の通りとなる。
【0045】
まず、リニアリティ信号レベルの範囲を設定する。すなわち、図10に示すようにリニアリティ区間範囲内の信号を用いて角度位置を算出する。具体的には以下のようになる。
・ロータ回転位置区域X1(0°≦α<45°、315°≦α<360°)の場合:条件がS1>S2となり、S1の信号のリニアリティが優れている。そのため、S1信号を用いて0°≦α<45°、315°≦α<360°の角度位置を算出する。
・ロータ回転位置区域X2(45°≦α<135°)の場合:条件がS2>S1となり、S2の信号のリニアリティが優れている。そのため、S2信号を用いて45°≦α<135°の角度位置を算出する。
・ロータ回転位置区域X3(135°≦α<225°)の場合:条件がS2>S1となり、S1の信号のリニアリティが優れている。そのため、S1信号を用いて135°≦α<225°の角度位置を算出する。
・ロータ回転位置区域X4(225°≦α<315°)の場合:条件がS1>S2となり、S2の信号のリニアリティが優れている。そのため、S2信号を用いて225°≦α<315°の角度位置を算出する。
【0046】
以上の判別処理は全て図4に示す信号処理部160で実行する。具体的には、図10に示すように、各励磁コイルの位相シフト量検出部130で得られた位相シフト量に対応する信号S1,S2の他に当該位相シフト量をそれぞれ反転させた位相シフト量に対応する反転信号S1R,S2Rを求め、これらの信号及び反転信号に基づき、最もリニアリティに優れた出力信号を選択する。図10は、互いに180°位相のずれた信号S1、信号S2に関してそれぞれ、出力を反転した信号S1R、信号S2Rを求めてこれらを重畳して示している。
【0047】
次いで、ロータ10の回転角度に応じた信号S1、信号S2、信号S1R、信号S2Rの大小関係から信号処理部160においてロータ10が現在、どの回転区間にあるかを判断する。具体的には、位相シフト量の出力がS2R<S1<S1R<S2の場合、0°<ロータ回転角度<45°でロータ回転位置区域X1bと判断する。また、位相シフト量の出力がS1<S2R<S2<S1Rの場合、45°<ロータ回転角度<90°でロータ回転位置区域X2aと判断する。また、位相シフト量の出力がS1<S2<S2R<S1Rの場合、90°<ロータ回転角度<135°でロータ回転位置区域X2bと判断する。また、位相シフト量の出力がS2<S1<S1R<S2Rの場合、135°<ロータ回転角度<180°でロータ回転位置区域X3aと判断する。また、位相シフト量の出力がS2<S1R<S1<S2Rの場合、180°<ロータ回転角度<225°でロータ回転位置区域X3bと判断する。また、位相シフト量の出力がS1R<S2<S2R<S1の場合、225°<ロータ回転角度<270°でロータ回転位置区域X4aと判断する。また、位相シフト量の出力がS1R<S2R<S2<S1の場合、270°<ロータ回転角度<315°でロータ回転位置区域X4bと判断する。また、位相シフト量の出力がS2R<S1R<S1<S2の場合、315°<ロータ回転角度<360°でロータ回転位置区域X1aと判断する。
【0048】
なお、ロータ10の回転角度を検出するにあたって、上述した4つの信号区間を連結して1つ連続的な信号とする処理も行う。具体的には、図9に示す各太線の交差する端部を互いに連結して回転角度検出用の信号が図10に示すように連結する太線で構成されるようにする。その連結処理は誤差をできるだけ小さくするために、両コイルから算出した角度のずれをある角度範囲内に分散することが望まれる。これは、いわゆるスムージング処理と呼ばれるものである。また、できるだけ、角度ずれ値を細かく分散するため、連結処理の角度範囲をある程度大きくすることが望まれる。そこで、本実施形態にかかる回転センサの場合、信号処理部160においてもう1つ別の信号判別処理を行う。即ち、信号S1又は信号S2のみからロータの回転角度を検出する信号処理に加えて、通常の信号算出区間か連結処理区間かの判別を行う信号判別処理である。その判別を行い易いようにするために、図9に示したように信号処理部160であるマイコンで作り出した信号S1と信号S2の反転信号S1RとS2Rをこの信号判別処理においても利用する。
【0049】
例えば、ロータ回転角度45°近辺の連結区間J1を判別する場合、信号S1と信号S2Rの差分がある範囲内に入れば、ロータ回転角度が連結処理区間J1に入ったと判別する。また、ロータ回転角度135°近辺の連結区間J2を判別する場合、信号S1Rと信号S2Rの差分がある範囲内に入れば、ロータ回転角度が連結処理区間J2に入ったと判別する。また、ロータ回転角度225°近辺の連結区間J3を判別する場合、信号S1Rと信号S2の差分がある範囲内に入れば、ロータ回転角度が連結処理区間J3に入ったと判別する。また、ロータ回転角度315°近辺の連結区間J4を判別する場合、信号S2と信号S1の差分がある範囲内に入れば、ロータ回転角度が連結処理区間J4に入ったと判別する。このようにして連結区間J1,J2,J3,J4における信号間の誤差をできるだけ小さくするとともに両コイルから算出した角度のずれをある角度範囲内に分散するスムージング処理を行う。これによって、図10に示すように、上述した4つの信号区間を連結してS1,S2R,S1R,S2から構成される1つ連続的な信号にする連結処理を行う。
【0050】
このようにして、ロータ回転角度がどの区間にあるかを判断した後、図10に示すように、ロータ回転角度が上述したロータ回転位置区域X1にあるときは信号S1のリニアリティが優れているので、信号S1からロータ10の回転角度を検出する。また、ロータ10の回転角度が上述したロータ回転位置区域X2にあるときは、リニアリティの優れた信号S2の反転信号S2Rからロータ10の回転角度を検出する。また、ロータ10の回転角度が上述したロータ回転位置区域X3にあるときは、リニアリティに優れた信号S1の反転信号S1Rからロータの回転角度を検出する。また、ロータの回転角度が上述したロータ回転位置区域X4にあるときは、信号S2のリニアリティが優れているので、信号S2からロータの回転角度を検出する。
【0051】
なお、上述した実施形態にかかる回転センサのように2つの固定コアが互いにシャフトの軸に対してなす中心角は、実質的に90°であることは必ずしも必要でなく、シャフトの軸に対してなす中心角が実質的に180°を除いた角度の2箇所に配置されていれば、本発明の効果を発揮することが可能である。しかしながら、2つの固定コアが互いにシャフトの軸に対してなす中心角が実質的に90°であることによって図8乃至図10に示した出力特性を得ることができるので、少ない個数の固定コアによって精度の良い回転角度検出を行うためにはこのような固定コアの配置が最も好ましいと言える。
【0052】
以上のようにして、ロータの回転角度を検出するにあたって、図4に示す励磁コイルB1、コイルB2(図1乃至図3に示す励磁コイル31b,41bと励磁コイル32b、42b)を励磁する交流電流の位相を予めずらしておくことで、一方の励磁コイルに交流電流を印加して励磁させたときに発生する渦電流がループ電流となってセンシング部(シールド板)を伝わって他方の励磁コイルの検出精度に悪影響を与えることを防止できる。その結果、ロータの回転角度を広範囲にわたって正確に検出できるようになる。
【0053】
すなわち、本発明にかかる回転センサ1は、センシング部12を構成するシールド板の周方向異なる位置に配置された励磁コイルを励磁する交流電流の位相をずらすことで、互いの励磁コイルの干渉レベルを最小にすることが可能となり、シールド板をカットせずに角度誤差を小さくできる。
【0054】
なお、本実施形態のように固定コアはセンシング部の周方向に必ずしも2つだけ配置されているとは限定されず、例えば特開2003−202240号公報に記載された回転センサのように、これより多い個数の固定コアがセンシング部の周方向に配置されている場合であっても、本発明は適用可能である。この場合、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を全て互いに異ならしめるのが良い。
【0055】
また、固定コア同士は、上述した実施形態にかかる回転センサのようにロータのセンシング部を挟んで対向配置された固定コア対として配置されていることを必ずしも必要としない。しかしながら、各固定コア同士がロータのセンシング部を挟んで対向配置していることで、各固定コア対が振動に対する出力特性の変動を相殺することができ、耐振動性に優れた回転角度の検出を行うことが可能となるので、このようなロータのセンシング部を挟んで各固定コア同士の対向配置が好ましい配置態様と言える。
【0056】
以上説明したように、本発明においては上述した原理で一方の励磁コイルの位相検出が他方の励磁コイルの位相検出に与える影響をなるべく少なくするには各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相差が上述した角度θ3であることが最も好ましいと言える。
【0057】
一方の励磁コイルの交流励磁電流i1より磁界Φ1が発生し、それを打ち消す方向に磁界Φ2が発生するよう渦電流がセンシング部の表面に流れる。更にこの磁界Φ2によって励磁された電流i2が発生すると共に、他方の励磁コイルの交流電流が磁界Φ3を発生させ、ループ電流IRを励起し、更に磁界ΦIRを誘導発生させi2と同じようにおよそ180°の位相遅れで電流irを発生させる。この場合に、i2影響分の線分と角度θ3の位置にir影響分を配置したとき、即ち各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相が角度θ3かその近傍の角度で各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相をずらしたとき、一方の励磁コイルの位相検出が他方の励磁コイルの位相検出に与える影響が最も小さくなる。
【0058】
また、上述した位相遅れ回路で遅らせる位相の角度θ3に関する規定の仕方について、本実施形態においてはその一例を示したものに過ぎない。従って、どのように位相遅れを持たせるか又はどのように位相を進めるかは本発明の作用を発揮する範囲で位相遅れ回路を適宜設計変更することで対応可能となる。位相遅れ回路は、一般にはローパスフィルタ(LPF)で構成され、抵抗器、コンデンサを1個ずつ用いたRC回路が最小限の構成となる。実際には演算増幅器(オペアンプ)などと組み合わせることもある。
【0059】
また、励磁コイルを3つ以上センシング部の周方向異なる位置に配置した構成の回転センサにおいても、このような位相遅れ回路を適宜設けることで本発明に記載した作用を発揮することが同様に可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる回転センサは、振動の影響をかなり受け易い車両用ステアリング装置の回転角度検出に特に適している。しかしながら、本発明にかかる回転センサは、例えば、ロボットアームのように振動しながら回転する回転軸間の相対回転角度や回転トルクを求めるものであれば、どのようなものにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態にかかる回転センサの内部構造を示した平面図である。
【図2】図1に示した回転センサをステアリングシャフトに装着した状態で示したII-II断面図である。
【図3】図1に示した回転センサのロータセンシング部と2つの励磁コイルとの配置関係を分かりやすく示した平面図である。
【図4】図1に示した回転センサの信号処理回路を説明する回路ブロック図である。
【図5】図4に示した回路ブロック図における位相遅れ回路の部分を分かり易く示した図である。
【図6】図4の回路ブロック図において一方の増幅部で得られたロータの回転角度毎の位相シフト量を示す図である。
【図7】図1に示した2つの励磁コイルの位相シフト量に対応する出力特性を示す図である。
【図8】図4の回路ブロック図における両増幅部で得られた位相シフト量に対応する出力を信号処理部で重畳した状態を示す出力特性図である。
【図9】反転した位相シフト量に対応する出力を図8の出力特性図に更に重畳した状態を示した特性図である。
【図10】図9の出力特性図に連結処理を施した状態を示した平面図である。
【図11】従来技術の問題点と本発明にかかる回転センサの検出原理をセンシング部とコイルを用いて示した説明図である。
【図12】本実施形態にかかる位相をずらす様子をベクトルを用いて示したベクトル図である。
【図13】角度θ3を算出するための説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 回転センサ
10 ロータ
11 ロータ取付け部
12 センシング部
12a,12b ステー
20 ケース
21 上ケース
22 下ケース
31,32 固定コア
31a,32a コア本体
31b,32b 励磁コイル
41,42 固定コア
41a,42a コア本体
41b,42b 励磁コイル
90 保持部材
91 ベース部
92 コイルコアホルダ
93 コイルコアホルダ
95 回路基板
100 回転角度検出回路
110 発振部
111 発振回路
111a 位相遅れ回路
120(121,122) 位相シフト部
130(131,132) 検出部
140(141,142) コンバート部
150(151,152) 増幅部
160 信号処理部
B1,B2 励磁コイル
C1,C2 コンデンサ
G 所定間隔
IR ループ電流
i1 交流励磁電流
i2 電流変化
ira 位相遅れの励磁電流
irb θ位相をずらした励磁電流
Q 検出帯域
S シャフト
R1,R2 抵抗
Φ1,Φ2 磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するシャフトに取付けられ、周方向に沿って幅が変化する導電性のセンシング部を有するロータと、
交流励磁電流が流されることで前記ロータのセンシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと、磁性材から成形されかつ前記励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取付けて前記ロータのセンシング部に対して前記シャフトの軸線方向に間隔をおいて対向配置される固定コアとを備えた回転センサにおいて、
前記固定コアがセンシング部の周方向異なる位置に配置された少なくとも2つの固定コアからなり、各固定コアの励磁コイルを励磁する交流電流の位相を所定角度だけ互いにずらしたことを特徴とする回転センサ。
【請求項2】
何れか一方の固定コアのみが前記回転センサに備わったとしたときの前記センシング部の幅が最も広い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR1、リアクタンスをXL1とし、前記センシング部の幅が最も狭い部分が当該固定コアに対応して位置したときの当該固定コアに備わった励磁コイルの抵抗値をR2、リアクタンスをXL2とし、
α=tan−1{(XL2−XL1)/(R1−R2)}
β=tan−1{(XL2+XL1)/(R1+R2)}
としたとき、
前記所定角度をθ3とすると、
θ3=180−α−βで規定されることを特徴とする、請求項1に記載の回転センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−271393(P2007−271393A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96067(P2006−96067)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】