説明

回転基部材

【課題】異方向の溝を交差させることで、ベアリングまたはベアリングを内包するリングの材料逃げの偏りを減らし、外側の成形物体の寸法変化を抑制した、回転基部材を提供する。
【解決手段】ベアリング2の外周面203に、リング形状のアウターリング3を外嵌し、さらに、このアウターリング3の外周面301に、樹脂または粉体等の成形部材4を外嵌する。前記アウターリング3の外周面301には、複数の領域ごとに、交差する第1、第2溝302、303を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等の外部動力源から、ベルト等の動力伝達手段を介して動力が伝達される回転体と、過大なトルクによってもずれることなく、一体で回転できるように、外周面に、回り止めの機能を持たせた回転基部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の外部動力源から、ベルト等の動力伝達手段を介して動力が伝達される回転体と、過大なトルクによってもずれることなく、一体で回転できるように、外周面に、回り止めの機能を持たせた回転基部材がある。
この場合、回転基部材は、ベアリング外輪の外周面、またはベアリングを内包するリングの外周面に、回転体である樹脂または粉体等の成形部材を設ける際、リングと成形部材とが過大なトルクによって軸回りにずれるのを防止する、回り止めの機能を持たせるために、溝を設ける手段が提案されている。例えば、次のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3063419号
【0004】
この文献における嵌合体を回転防止可能に設けたベアリングでは、ベアリング外周面に一定の深さと幅を有する1本または複数本の条溝を螺旋状に凹周設している。
そして、ベアリングとその外周面に設置された嵌合体との回り止めを確実に実施するために、ベアリングの外周面の条溝内に嵌合体の一部が入り込んで溶着させ、動力的に一体化結合させるようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このベアリングでは、溝は全周連続する構成のため、プレス加工によりこのような溝を形成するのは不可能である。
また、全周に溝を形成できるのは、螺旋状の溝に限られ、ベアリングに高荷重がかかる際には、ベアリング外周面に設置された嵌合体から、ベアリング外周面に対して周方向に過大な力が及ぼされ、螺旋形状では、確実な回り止めとすることは困難である。すなわち、螺旋状の溝は、ベアリングの外周面の周方向に傾斜した角度で連続的に形成されているため、嵌合体からの、ベアリング外周面に対する過大な力の作用方向と、溝の形成方向が近く、外周面の条溝内に嵌合体の一部が入り込んで溶着させたとしても、充分な回り止めの力を発揮し得ないからである。
さらに、プレス、転造等の塑性加工により、溝を形成する際には、下地の材料の逃げにより、ベアリング又はベアリングを内包するリングの形状に変形を来たし、これが元で外側の成形物体の寸法精度の低下に至るという課題がある。
本発明はこのような課題を改善するために提案されたものであって、ベアリング外輪の外周面、またはベアリングを内包するリングの外周面に、複数の領域に分けて、プレス・転造等の塑性加工により交差溝を形成することで、ベアリング外輪またはベアリングを内包するリングの材料逃げの偏りを減らし、変形を略均一化することで外側の成形物体の寸法変化を最小限に抑えることができるようにした、回転基部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明における請求項1では、ベアリング(1)を内包するアウターリング(2)の外周面(201)に設けられた複数の領域毎に、互いに交差する複数の溝(202、203)が形成することで、プレス・転造等の塑性加工によるベアリングを内包するリングの材料逃げの偏りを減らし、変形を略均一化することで外側の成形物体の寸法変化を最小限に抑えることができる。
【0007】
また本発明における請求項2では、ベアリング(1)の外周面(103)に設けられた複数の領域毎に、互いに交差する複数の溝(104、105)を形成することで、プレス加工により溝の形成を可能とする。また、プレス・転造等の塑性加工によるベアリングの外周面(103)の材料逃げの偏りを減らし、変形を略均一化することで外側の成形物体の寸法変化を最小限に抑えることができる。
【0008】
なお、上記各構成要素に付した括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に回転基部材1の一例を示す。この回転基部材1は、ベアリング2の外周面に、リング形状のアウターリング3を外嵌し、さらに、このアウターリング3の外周面301に、樹脂または粉体等の成形部材4を外嵌して構成している。
ベアリング2は中心軸に沿う貫通孔Hを有する。この貫通孔Hに挿通される軸部材(図示せず)を、ベアリング2の中心軸回りに回動自在に支えるため、ベアリング2には、ベアリング外輪201とベアリング内輪202との間に、多数の転動部材(図示省略)を介装している。
そして、アウターリング3の外周面301には、アウターリング3の軸方向に対してある傾斜角度を持つ第1の溝302と、第1溝302とは異なる傾斜角度の第2の溝303を交差させた状態で刻設している。なお、図1においては、第1溝302と、第2溝303とを、それぞれ1本のみ形成した状態を示しているが、複数本形成することができる。
【0010】
回転基部材1は、図2に示すように構成することもできる。この場合の回転基部材1では、ベアリング2におけるベアリング外輪201の外周面203に、ベアリング2の軸方向に対して角度Θ1傾斜させた第1溝204と、第1溝204とは異なる傾斜角度Θ2の第2溝205を交差させた状態で刻設している。なお、図2においても、第1溝204と、第2溝205とを、それぞれ1本のみ形成した状態を示しているが、複数本形成することができる。また、これら第1、第2溝204、205は必ずしも直線でなくともよい。第1、第2溝204、205が直線の場合、傾斜角度Θ1、Θ2は、10度〜80度の範囲とすることができる。
【0011】
以上のような回転基部材1について、実際に、前述のアウターリング3の外周面301や、ベアリング2における外周面203に形成した溝について、図3に示した、ベアリング2(またはアウターリング3)の外周面501を基に説明する。
すなわち、この外周面501には、中心軸に対し傾斜している第1の溝502と、第1溝502とは異なる傾斜角度を持ち、第1溝502と直交する第2の溝503を形成している。これにより、回転方向と軸方向のずれを拘束している。
なお、溝は、溝の領域504のように、複数の平行な溝の集合形式をとり、一つの領域に異方向の二つの溝が混在することで、塑性加工による溝付与時の下地金属の変形に偏りが出ないようにしている。また、それぞれの溝間の距離は一定でなくともよく、複数の溝領域504が形成されている場合の領域間距離は一定でなくてもよい。しかしながら、領域間距離の総距離は、外周面501の全周長の20%以下とする。
さらに、溝領域の軸方向の長さaは、外周面501の軸方向の長さLに対し、60%以上としている。なお、溝の断面形状は適宜である。
【0012】
次に、図4に示すベアリング2(アウターリング3)では、外周面501に形成された複数の溝領域508に、さらに複数の小溝領域509を設けている。小溝領域509は異方向の溝が交差状態で形成している。なお、溝間距離、領域間距離B、領域間距離Bの総距離、溝領域の軸方向長さb、断面形状等は、図3に示すベアリング2(アウターリング3)と同様に設定している。
【0013】
また、図5に示すベアリング2(アウターリング3)では、外周面501に中心軸に対し傾斜している第1の溝513と、第1溝513とは異なる傾斜角度を有し、第1溝513と0°〜90°の範囲の角度で交差する、第2の溝514を形成して、回転方向と軸方向のずれを拘束している。溝は溝領域515のように平行な溝の集合形式を採用している。
なお、溝間距離、領域間距離C、領域間距離Cの総距離、溝領域の軸方向長さc、断面形状等は、図3に示すベアリング2(アウターリング3)と同様に設定している。
【0014】
また、図6に示すベアリング2(アウターリング3)では、外周面501に中心軸に対し傾斜している第1の溝519と、第1溝519とは異なる傾斜角度を有し、第1溝519と0°〜90°の範囲の角度で交差する第2の溝520を形成して、回転方向と軸方向のずれを拘束している。溝は、溝領域520のように、複数の溝の集合体形式を採用し、図示するように、それぞれの溝は、異なる角度で交差している。なお、溝間距離、領域間距離D、領域間距離Dの総距離、溝領域の軸方向長さd、断面形状等は、図3に示すベアリング2(アウターリング3)と同様に設定している。
【0015】
また、図7に示すベアリング2(アウターリング3)では、外周面501に、周方向にカーブを描く第1の溝525と、第1溝525と複数の箇所で交差する第2の溝526を形成して、回転方向と軸方向のずれを拘束している。第2溝526は第1溝525と異なる曲率の曲線でもよく、もちろん、直線でもよい。溝は、溝領域527のように、複数の溝の集合体形式を採用し、図示するように、それぞれの溝は、平行でなくてもよい。なお、溝間距離、領域間距離E、領域間距離Eの総距離、溝領域の軸方向長さe、断面形状等は、図3に示すベアリング2(アウターリング3)と同様に設定している。
【0016】
さらに、図8に示すベアリング2(アウターリング3)では、外周面501に、複数の凹部531を形成し、回転方向と軸方向のずれを拘束している。
凹部531は、複数の領域532に分かれて形成しており、プレス加工により形成している。この場合、凹部531の形状として菱形形状とし、角部を回転方向と、軸方向とに配向させている。
それぞれの凹部531の距離は適宜であり、等間隔でなくてもよい。なお、溝間距離、領域間距離F、領域間距離Fの総距離、溝領域の軸方向長さf、断面形状等は、図3に示すベアリング2(アウターリング3)と同様に構成している。
【0017】
次に、図9に、アウターリングまたはベアリング外輪6の外周面601に溝加工を施す一例として、プレス加工を示して説明する。
この場合、アウターリングまたはベアリング外輪6に溝加工を施す手段として、中央に配置したアウターリングまたはベアリング外輪6に、プレス型A,B,C,D701〜704が外側から中央に移動し、型突起部705を、外周面601に押し付けることにより、溝を刻設するようにしている。
この場合のプレス型は4つであるが、勿論、プレス型はこれに限らず、5個以上でも、1〜3個でも可能である。
【0018】
以上のような構成の回転基部材において、ベアリング2(アウターリング3)に溝加工を施す際には、上述のプレス型A,B,C,D701〜704により、外周面501を、例えば90度ごとに4つの領域に分け、領域毎に、第1溝と第2溝とで構成される溝の交差パターンや、凹部等、所望形状の溝加工を施すことができる。なお、これら第1溝と第2溝との交差パターンや凹部等で構成される溝領域は、適宜間隔A、B、C、D、E、Fを隔てて、施すことができる。
以上のように、ベアリング2(アウターリング3)に施される、第1溝と第2溝とで構成される溝の交差パターンや、複数凹部は、各領域全て同パターンで付与されるため、樹脂の拘束力を確保したまま、偏肉を最小限に抑制することができる。
【0019】
そして、上記溝加工を施したベアリング2(アウターリング3)の外周面501には、所望の樹脂や粉体等の成形部材4を、周知の加工手段(溶着等)で固着することで、製品としての回転基部材を得ることができる。
例えば樹脂製の成形部材4にあっては、溶着による加工工程において、成形部材4は、成形部材4の接触面が熱によって軟化流動して、外周面501に刻設された第1溝と第2溝とで構成される交差溝に、隙間なく入り込むことで、成形部材4とベアリング2(アウターリング3)とを、強固に一体化することができる。
【0020】
なお、図3、図4に示す実施の態様では、前述しているようにベアリング2(アウターリング3)の外周面501に形成された交差溝である第1溝502、503、小溝領域509は、互いに直交する縦溝長さ方向、および周り溝長さ方向の長さが最大となる傾斜角(45度)に設定することで、軸方向、および回転方向すなわち周方向へのずれ力に対する耐ずれ力を最大とすることができる。しかも、ベアリング2(アウターリング3)においては、4つの溝領域毎に、同パターンの交差溝を形成することで、一層、回転方向、軸方向共に、拘束力を増大することができる。
【0021】
以上、本発明にかかる回転基部材について、種々、実施の態様を示し、図3、図4に示す実施態様についての作用を主に説明したが、他の図5〜図8に示す実施の態様においても、同様の効果を奏する。
すなわち、本発明では、ベアリング外輪の外周面、またはベアリングを内包するリングの外周面に、複数の領域に分けて形成することで、プレス加工により溝の形成を可能とし、さらには、異方向の溝を交差させることで、プレス・転造等の塑性加工によるベアリング外輪またはベアリングを内包するリングの材料逃げの偏りを減らし、変形を略均一化することで外側の成形物体の寸法変化を最小限に抑えることができる。
【0022】
さらに本発明は、前述の実施の態様に限定されるものではない。
例えば、溝の形状、パターンとして、図8に示すベアリング2(アウターリング3)では、凹部531の形状として菱形形状とし、角部を回転方向と、軸方向とに配向させているが、凹部の形状としては、他の形状、例えば、円形凹部、多角形凹部、あるいはX状(十字状)凹部も考えることができる。
また、溝加工においても、プレス加工に限られるものではなく、転造による加工によっても可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる回転基部材における、一つの実施の形態の、要部を破断して示した、模式的な斜視説明図である。
【図2】本発明にかかる回転基部材における、別の実施の形態を示す、模式的な斜視説明図である。
【図3】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の一例を示した、正面説明図である。
【図4】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の別例を示した、正面説明図である。
【図5】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の別例を示した、正面説明図である。
【図6】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の別例を示した、正面説明図である。
【図7】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の別例を示した、正面説明図である。
【図8】回転基部材のベアリングまたはアウターリングに形成された溝の別例を示した、正面説明図である。
【図9】本発明にかかる回転基部材に対する溝加工の一例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0024】
1 回転基部材
2 ベアリング
201 ベアリング外輪
202 ベアリング内輪
203 外周面
204 第1溝
205 第2溝
3 アウターリング
301 外周面
302 第1溝
303 第2溝
4 成形部材
501 外周面
502 第1溝
503 第2溝
504 溝領域
508 溝領域
509 小溝領域
513 第1溝
514 第2溝
515 溝領域
519 第1溝
520 第2溝
525 第1溝
526 第2溝
527 溝領域
531 凹部
532 領域
6 ベアリング外面
601 外周面
701 プレス型A
702 プレス型B
703 プレス型C
704 プレス型D
705 型突起部
H 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリング(1)を内包するアウターリング(2)の外周面(201)に設けられた複数の領域毎に、互いに交差する複数の溝(202、203)が形成されていることを特徴とする回転基部材。
【請求項2】
ベアリング(1)の外周面(103)に設けられた複数の領域毎に、互いに交差する複数の溝(104、105)が形成されていることを特徴とする回転基部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−174633(P2009−174633A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13797(P2008−13797)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】