説明

回転電機の駆動システム

【課題】平滑コンデンサの放電を、より迅速に行なえる回転電機の駆動システムを提供する。
【解決手段】MG駆動用コンピュータ18は、衝突または衝突の可能性が検知された場合、システムリレーSR1,SR2をオフする。また、回転電機10の回転数を低減する回転数低減制御と、平滑コンデンサ14を放電する放電制御とを実行する。回転数低減制御においては、回転電機10の回転数が第二閾値以下の場合には、インバータ12の上アームまたは下アームの三相分のスイッチング素子をオンにし、他をオフにする三相オン制御を行なう。回転数が第二閾値超過の場合は、上アームまたは下アームの一相分のスイッチング素子をオンにし、他をオフにする一相オン制御を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行駆動源の一つとして機能する回転電機の駆動システムに関し、特に、駆動システムに設けられた平滑コンデンサの放電技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行駆動源の一つとして回転電機を搭載した電動車両、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車などが広く知られている。こうした電動車両には、通常、回転電機に交流電力を供給するインバータと、インバータに接続されたバッテリと、インバータの端子間の電圧を平滑化する平滑コンデンサと、を備えている。かかる車両においては、車両の衝突時には、インバータのスイッチング素子をスイッチングさせて、平滑コンデンサの電荷を放電することが望まれる。この放電を確実に行なうために、特許文献1には車両の衝突を予知した際には、平滑コンデンサの電荷を放電するべく、インバータをスイッチング制御する技術が開示されている。かかる技術によれば、衝突によりインバータの駆動回路が破壊される前に、放電のためにインバータを駆動できるため、コンデンサの電荷を確実に放電できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−020952号公報
【特許文献2】特開2005−094883号公報
【特許文献3】特開2006−020450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、こうした放電処理の際、回転電機が回転していると逆起電圧が発生し、放電できない、もしくは、放電に時間がかかるという問題があった。特に、車両の衝突に伴い、ドライブシャフトが抜けた場合や、車両が横転した場合には、車両が停止しても、モータが回り続けることになるため、こうした問題が発生しやすかった。
【0005】
特許文献2,3には、車両の衝突を検知した場合には、インバータの上アーム側のスイッチング素子をオフし、下アーム側のスイッチング素子をオンとすることにより、車両の制動力を発生させ、その後、全てのスイッチング素子をオンとして平滑コンデンサに残存している電荷を放電する技術が開示されている。このように放電に先立って、制動力を生じさせ、回転電機の回転数を低減させることにより、衝突から放電完了までの時間をより短縮できる。
【0006】
しかし、特許文献2,3記載の技術では、回転電機の回転数を効率的に低減させることはできなかった。その結果、特許文献2,3の技術でも、放電完了までに時間がかかることがあった。
【0007】
そこで、本発明では、平滑コンデンサの放電を、より迅速に行なえる回転電機の駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の駆動システムは、車両の走行駆動源の一つとして機能する回転電機の駆動システムであって、前記車両の衝突また衝突の可能性を検知する衝突検知手段と、直流電源から供給された直流電力を交流電力に変換して前記回転電機に出力するインバータと、前記インバータの端子間の電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記衝突また衝突の可能性が検知された際に、前記直流電源からの電力出力を遮断するとともに、前記回転電機の回転数を予め規定された第一閾値以下にする回転数低減制御を行なった後、前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷を放電するべく前記インバータを制御する放電制御を行なう制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記回転数低減制御において、前記回転電機の回転数が前記第一閾値より高い第二閾値超過の場合、前記インバータの上アームまたは下アームの一方のスイッチング素子を1相分のみオンにし、他のスイッチング素子を全てオフとする一相オン制御を行なう、ことを特徴とする。
【0009】
他の好適な態様では、前記制御手段は、前記回転数低下制御において、前記回転電機の回転数が第二閾値以下、かつ、第二閾値超過の場合、前記インバータの上アームまたは下アームの一方のスイッチング素子を3相分全てオフにするとともに、他方のスイッチング素子を3相分全てがオンとする三相オン制御を行なう。
【0010】
他の好適な態様では、前記第二閾値は、一相オン制御時に生じる引きずりトルクと三相オン制御時に生じる引きずりトルクとの大小関係が逆転する際の回転数である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第二閾値より高い回転数域においては、一相オン制御が実行されるため、より迅速に回転数を低減でき、ひいては、衝突検知から放電完了までの時間をより短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態である駆動システムの構成を示す図である。
【図2】引きずりトルクと回転数との関係を示す図である。
【図3】衝突検知後の制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施形態、および、三相オン制御のみを行なった場合における回転数の変化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である回転電機10の駆動システムの構成を示す図である。この駆動システムは、走行駆動源の一つとして回転電機10を搭載した車両、例えば、ハイブリッド自動車や、電気自動車などに搭載され、当該回転電機10の駆動を制御する。
【0014】
駆動システムは、直流電源16や、平滑コンデンサ14、インバータ12、衝突検知装置22、制御部などを備えている。この駆動システムによって駆動される回転電機10は、車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するモータとして機能する一方で、自動車の制動時、駆動輪からの回転力を受けて回生電力を発生するジェネレータとしても機能する回転電機10である。
【0015】
直流電源16は、蓄電装置(図示せず)を含んで構成され、電源ラインVLおよびアースラインSLの間に直流電圧を出力する。たとえば、直流電源16を、二次電池および昇降圧コンバータの組合せにより、二次電池の出力電圧を変換して電源ラインVLおよびアースラインSLに出力する構成とすることが可能である。この場合には、昇降圧コンバータを双方向の電力変換可能なように構成して、電源ラインVLおよびアースラインSL間の直流電圧を二次電池の充電電圧に変換する。
【0016】
システムリレーSR1は、直流電源16の正極と電源ラインVLとの間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源16の負極とアースラインSLとの間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、MG駆動用コンピュータ18からの信号によりオン/オフされる。また、電源ラインVLおよびアースラインSLの間には、平滑コンデンサ14が接続されている。
【0017】
インバータ12は、U相アーム30と、V相アーム32と、W相アーム34とからなる。U相アーム30、V相アーム32およびW相アーム34は、電源ラインVLとアースラインSLとの間に並列に設けられる。
【0018】
U相アーム30は、直列接続されたスイッチング素子Q1,Q2からなる。同様に、V相アーム32も、直列接続された二つのスイッチング素子Q3,Q4からなり、W相アーム34も、直列接続された二つのスイッチング素子Q5,Q6からなる。また、各スイッチング素子Q1〜Q6のコレクタ−エミッタ間には、エミッタ側からコレクタ側へ電流を流すダイオードD1〜D6がそれぞれ接続されている。この実施の形態におけるスイッチング素子としては、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が適用される。スイッチング素子Q1〜Q6は、MG駆動用コンピュータ18からのスイッチング制御信号に対応してオン・オフ制御、すなわちスイッチング制御される。なお、複数のスイッチング素子Q1〜Q6のうち、二次電池の高電圧側(プラス端子側)と接続されているスイッチング素子Q1,Q3,Q5が、インバータ12の上アーム(高電圧側アーム)を構成し、二次電池の低電圧側(マイナス端子側)と接続されているスイッチング素子Q2,Q4,Q6が下アーム(低電圧側アーム)を構成する。
【0019】
各相アームの中間点は、導電線を介して回転電機10の各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、回転電機10は、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通に接続されて構成される。U相コイルの他端が導電線を介してIGBT素子Q1,Q2の中間点に、V相コイルの他端が導電線を介してIGBT素子Q3,Q4の中間点に、W相コイルの他端が導電線を介してIGBT素子Q5,Q6の中間点にそれぞれ接続されている。
【0020】
導電線のうちU相、V相には、電流センサ24が介挿されている。電流センサ24は、回転電機10のU相、V相に流れる電流を検出する。電流センサ24による電流検出値は、MG駆動用コンピュータ18へ送出される。また、U相、V相、W相のモータ電流Iu,Iv,Iw(瞬時値)の和は零であることから、MG駆動用コンピュータ18は、U相、V相のモータ電流からW相のモータ電流Iwを算出する。
【0021】
また、回転電機10には、回転子(図示せず)の回転角を検出する位置センサ26が配置される。位置センサ26によって検出された回転角は、MG駆動用コンピュータ18へ送出される。
【0022】
MG駆動用コンピュータ18は、後述するHV−ECU20とともに、制御手段として機能するもので、システムリレーSR1,SR2のオン/オフ制御をするとともに、インバータ12のスイッチング素子Q1〜Q6をスイッチング制御する。MG駆動用コンピュータ18は、HV−ECU20から回転電機10の運転指令を受ける。この運転指令には、回転電機10の運転許可/禁止指示や、トルク指令値、回転数指令等が含まれる。MG駆動用コンピュータ18は、電流センサ24および位置センサ26の検出値に基づくフィードバック制御により、HV−ECU20からの運転指令に従って回転電機10が動作するように、スイッチング素子Q1〜Q6のスイッチング動作を制御するスイッチング制御信号を発生する。
【0023】
たとえば、HV−ECU20により回転電機10の運転指示が発せられている場合には、MG駆動用コンピュータ18は、回転電機10のトルク指令値に応じた各相モータ電流が供給されるように、スイッチング制御信号を発生する。また、回転電機10の回生制動時には、MG駆動用コンピュータ18は、回転電機10によって発電された交流電圧を直流電圧に変換するように、スイッチング制御信号を発生する。さらに、HV−ECU20により、平滑コンデンサ14の放電が指示された場合には、MG駆動用コンピュータ18は、システムリレーSR1,SR2をオフするとともに、放電のためのスイッチング制御信号を発生するが、これについては、後に詳説する。
【0024】
HV−ECU20(Electronic Control Unit)は、車両の運転状況に応じて、回転電機10の運転許可/禁止指示や、トルク指令値、回転数指令等を算出し、MG駆動用コンピュータ18に出力する。このHV−ECU20には、衝突検知装置22から衝突検知信号が入力される。衝突検知装置22は、車両に搭載されたレーダセンサやプリクラッシュセンサECUなどから構成される。レーダセンサは、障害物(他車両を含む)と車両(自車両)との衝突速度(すなわち、障害物と自車両との相対速度)および障害物と自車両との距離とを計測する。このレーダセンサには、たとえばレーダクルーズ用ミリ波レーダなどを使用することができる。これらの計測信号は、プリクラッシュセンサECUに送信され、プリクラッシュセンサECUは、送信された信号に基づいて、衝突の可能性の判定を行ない、衝突の可能性があると、HV−ECU20に衝突検知信号を送信する。HV−ECU20は、この衝突検知信号を受信すると、MG駆動用コンピュータ18に対し、平滑コンデンサ14に蓄積された電荷の放電を指示する。
【0025】
次に、放電時におけるMG駆動用コンピュータ18による制御について詳説する。既述したとおり、HV−ECU20は、衝突検知信号を受信すると、MG駆動用コンピュータ18に対して、平滑コンデンサ14に蓄積された電荷の放電を指示する。この指示を受けると、MG駆動用コンピュータ18は、システムリレーSR1,SR2をオフにし、インバータ12への電力の供給を遮断する。
【0026】
また、MG駆動用コンピュータ18は、インバータ12の駆動を制御して平滑コンデンサ14から電荷を放電する放電制御も実行する。放電制御では、例えば、回転電機10にd軸電流を流すことによって、換言すれば、回転電機10にトルクを発生させないように回転電機10のコイルに通電することによって、平滑コンデンサ14の電荷を放電するようにインバータ12を制御する。このように積極的に電力を消費することにより、平滑コンデンサ14を迅速に放電することができる。
【0027】
しかしながら、この放電制御の際、回転電機10が回転していると逆起電圧が発生し、放電できない、もしくは時間がかかるという問題がある。特に、衝突に伴いドライブシャフトが抜けた場合や、車両が横転した場合には、車両が停止しても、回転電機10が高速で回転し続けることが多い。
【0028】
そこで、本実施形態では、放電制御に先立って、回転電機10の回転速度を低下させる回転数低減制御も行なう。この回転数低減制御では、回転電機10の回転数に応じて、一相オン制御または三相オン制御を実行する。
【0029】
三相オン制御は、インバータ12のスイッチング素子Q1〜Q6のうち、高電圧側(プラス端子側)と接続されている上アーム、または、低電圧側(マイナス端子側)と接続されている下アームのいずれか一方のスイッチング素子を、三相分全てオンとする制御である。したがって、三相オン制御の場合、上アーム三相分全てがオンかつ下アーム三相分全てがオフ、あるいは、下アーム三相分全てがオンかつ上アーム三相分全てがオフとなる。
【0030】
また、一相オン制御は、インバータ12のスイッチング素子Q1〜Q6のうち、高電圧側(プラス端子側)と接続されている上アーム、または、低電圧側(マイナス端子側)と接続されている下アームのいずれか一方のスイッチング素子を一相分のみオンとする制御である。したがって、一相オン制御の場合、上アーム一相がオンかつ上アームの他二相および下アーム三相分全てがオフ、あるいは、下アーム一相がオンかつ下アームの他二相および上アーム三相分全てがオフとなる。
【0031】
この一相オン制御および三相オン制御を行なった場合、回転電機10には、回転に伴う回転抵抗、いわゆる「引きずりトルク」が生じる。本実施形態では、この引きずりトルクを積極的に生じさせることにより、回転電機10の回転数を迅速に低減し、ひいては、迅速な放電を可能としている。
【0032】
ここで、この引きずりトルクは、回転数に応じて変化する。図2は、一相オン制御および三相オン制御を行なった場合に生じる引きずりトルクと回転数との関係を示すグラフである。図2において実線は三相オン制御時の、破線は一相オン制御時の引きずりトルクを示している。なお、引きずりトルクは、回転電機10の力行制御時に生じるトルクと区別するために負の値で表されている。
【0033】
図2から明らかなとおり、三相オン制御時における引きずりトルクは、低回転数域である回転数R1〜R2において急峻に増加した後、急峻に低減し、回転数R2以降では、緩慢に低減し続けていく。したがって、三相オン制御時における引きずりトルクは、低回転数域である回転数R1〜R2においては、比較的高い値をとる一方で、回転数R2以降では比較的低い値をとる。
【0034】
一方、一相オン制御時における引きずりトルクは、比較的高めの回転数である回転数R3(R3>R2)に到達するまで緩慢に増加し、回転数R3で極値を取った後、緩慢に減少していく。
【0035】
そして、一相オン制御時と三相オン制御時の引きずりトルクを比較すると、回転数R2に到達するまでの低回転数域では、三相オン制御時の引きずりトルクの方が高いものの、回転数R2を超えた高回転数域では一相オン制御時の引きずりトルクの方が高くなる。本実施形態では、こうした引きずりトルクと回転数との関係に着目し、より高い引きずりトルクが得られる制御を実行する。
【0036】
具体的には、本実施形態では、回転電機10の回転が実質的に0と見なせる回転数、換言すれば、回転に伴い生じる逆起電圧が小さく、スイッチング制御による放電が規定時間内に行ない得る回転数R1を第一閾値として設定する。また、一相オン制御時の引きずりトルクと、三相オン制御時の引きずりトルクの大小関係が反転する回転数R2を第二閾値として設定する。そして、平滑コンデンサ14の放電のために回転電機10の回転数低減制御が必要になれば、まず、回転電機10の回転数を取得する。そして、得られた回転数が第二閾値R2を超える場合には、一相オン制御を行ない、第二閾値R2以下の場合には、三相オン制御を行なう。そして、回転電機10の回転数が第一閾値R1以下となれば、平滑コンデンサ14の放電制御、すなわち、トルクを発生させないように回転電機10のコイルに通電するべく、インバータ12のスイッチング制御を実行する。かかる構成とすることで、車両の衝突発生後、回転電機10の回転数をより迅速に低減することができ、放電制御をより迅速に開始できる。そして、結果として、車両の衝突発生から放電完了までの時間を短縮することができる。
【0037】
次に、本実施形態における衝突時の放電処理について図3を参照して説明する。図3は、本実施形態における衝突検知から放電完了までの処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すように、HV−ECU20が、衝突検知信号を受信すると(S10)、HV−ECU20は、MG駆動用コンピュータ18に、衝突対応の制御実行を指示する。この指示を受けたMG駆動用コンピュータ18は、システムリレーSR1,SR2をオフにし、インバータ12への電力の供給を遮断する(S12)。
【0038】
続いて、回転電機10の回転数を確認し、当該回転数が第二閾値R2以下か否かを確認する(S14)。確認の結果、回転数が第二閾値R2を超過している場合には、インバータ12のスイッチング素子のうち、上アームの一相分、あるいは、下アームの一相分のみをオンにし、他のスイッチング素子をオフにする一相オン制御を実行する(S16)。
【0039】
一方、確認の結果、回転数が第二閾値R2以下の場合には、続いて、回転数が第一閾値R1以下か否かを確認する(S18)。確認の結果、回転数が第一閾値R1を超過している場合には、インバータ12のスイッチング素子のうち、上アームの三相分、あるいは、下アームの三相分のみをオンにし、他のスイッチング素子をオフにする三相オン制御を実行する(S20)。
【0040】
さらに、回転数が第一閾値以下の場合には、回転電機10にd軸電流が流れるように、換言すれば、回転電機10にトルクを発生しないように回転電機10のコイルに通電するべく、インバータ12のスイッチング制御を行ない、平滑コンデンサ14を放電する放電制御を実行する(S22)。
【0041】
一相オン制御、三相オン制御を行なった場合は、定期的に、回転電機10の回転数を確認、すなわち、ステップS14、または、ステップS18に戻り、得られた回転数に応じた制御を実行する。
【0042】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、放電制御に先立って、回転電機10の回転数を低減する回転数低減制御を実行する。かかる構成とする効果を、回転数低減のために三相オン制御のみを実行する場合と比較して説明する。図4は、回転数低減制御を開始してからの回転電機10の回転数の変化を示すグラフである。図4において、実線L1は本実施形態での回転数の変化を、破線L2は、一相オン制御を行なわず、三相オン制御のみを行なった場合の回転数の変化を示している。また、本実施形態での回転数変化を示す実線L1のうち太線部分は一相オン制御の実行期間を、細線部分は三相オン制御の実行期間を示している。
【0043】
三相オン制御のみを用いる場合には、衝突を検知した直後、換言すれば、回転電機10の回転数が比較的高い領域でも、三相オン制御が実行される。三相オン制御は、高回転数域では引きずりトルクが小さいため、三相オン制御のみの場合、図4に示すように、回転数が第二閾値R2に到達するまで時間がかかることになる。第二閾値R2に到達して以降は、高い引きずりトルクが得られるため、回転数は急峻に低下する。しかし、衝突検知してから第二閾値R2に到達するまでに時間がかかるため、結果として、衝突検知してから、放電制御が許容される第一閾値R1に到達するまでの時間が、長くなりがちである。
【0044】
一方、本実施形態では、衝突を検知した後、即座に、一相オン制御を実行する。一相オン制御は、高回転数域での引きずりトルクが高い。そのため、本実施形態によれば、衝突検知してから、即座に、回転数が急激に低下していく。そして、回転数が第二閾値R2に到達すれば、低回転数域での引きずりトルクが高い三相オン制御に切り替えられる。その結果、回転数が第二閾値R2に到達した以降では、回転数は、より急峻に低下していき、迅速に第一閾値R1に到達できる。
【0045】
つまり、本実施形態のように、回転数に応じて、一相オン制御および三相オン制御を切り替えることにより、三相オン制御のみを用いる場合に比して、より迅速に放電を完了することができる。
【0046】
また、本実施形態のように、衝突時に、一相オン制御または三相オン制御として、引きずりトルクを生じさせることにより、衝突後の車両の惰性走行を低減することができ、より安全に車両を停車させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、一相オン制御時に生じる引きずりトルクと三相オン制御時に生じる引きずりトルクとの大小関係が逆転する際の回転数R2を第二閾値として設定している。しかし、厳密に回転数R2を第二閾値とする必要はなく、当然、若干の誤差があってもよい。ただ、その場合であっても、第二閾値は、回転数R2より高い値であることが望ましい。
【符号の説明】
【0048】
10 回転電機、12 インバータ、14 平滑コンデンサ、16 直流電源、18 駆動用コンピュータ、22 衝突検知装置、24 電流センサ、26 位置センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行駆動源の一つとして機能する回転電機の駆動システムであって、
前記車両の衝突また衝突の可能性を検知する衝突検知手段と、
直流電源から供給された直流電力を交流電力に変換して前記回転電機に出力するインバータと、
前記インバータの端子間の電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記衝突また衝突の可能性が検知された際に、前記直流電源からの電力出力を遮断するとともに、前記回転電機の回転数を予め規定された第一閾値以下にする回転数低減制御を行なった後、前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷を放電するべく前記インバータを制御する放電制御を行なう制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記回転数低減制御において、前記回転電機の回転数が前記第一閾値より高い第二閾値超過の場合、前記インバータの上アームまたは下アームの一方のスイッチング素子を1相分のみオンにし、他のスイッチング素子を全てオフとする一相オン制御を行なう、
ことを特徴とする回転電機の駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の駆動システムであって、
前記制御手段は、前記回転数低下制御において、前記回転電機の回転数が第二閾値以下、かつ、第二閾値超過の場合、前記インバータの上アームまたは下アームの一方のスイッチング素子を3相分全てオフにするとともに、他方のスイッチング素子を3相分全てがオンとする三相オン制御を行なう、
ことを特徴とする回転電機の駆動システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機の駆動システムであって、
前記第二閾値は、一相オン制御時に生じる引きずりトルクと三相オン制御時に生じる引きずりトルクとの大小関係が逆転する際の回転数である、ことを特徴とする回転電機の駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−46432(P2013−46432A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180441(P2011−180441)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】