説明

固定子および回転電機

【課題】スロット内に装着される絶縁紙の損傷を防止した固定子と、この固定子を備えることで絶縁性能を向上させた回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機の固定子は、円筒状の固定子鉄心と、固定子鉄心の内周側に形成される複数のスロット236に絶縁紙(スロットライナー247)を介在させて装着される固定子巻線240とを備え、複数のスロット236の各々は、内周側の幅狭の第1導体収容部236aと、第1導体収容部236aに傾斜壁237により連設された外周側の幅広の第2導体収容部236bとを有し、固定子巻線240は、第1導体収容部236aに挿通される第1コイル導体241と、第2導体収容部236bに挿通される第2コイル導体241とを含んで構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定子巻線の抵抗を低減させるために、固定子巻線を納めるスロットの周方向幅を径方向外方にステップ状に広くした固定子が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2008/044703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の固定子では、断面矩形に形成された内周側の第1スロット部(第1導体収容部)と外周側の第2スロット部(第2導体収容部)のそれぞれに絶縁紙、いわゆるスロットライナーを装着する場合、異なった寸法、形状のスロットライナーを装着する必要があるため、部品数が多くなってしまうといった問題があった。
【0005】
さらに、特許文献1に記載の固定子では、スロットごとに単一のスロットライナーを断面S字状に折り曲げるなどして装着する場合、第1導体収容部と第2導体収容部との境界である段差の角によりスロットライナーが損傷して、電気絶縁性能が低下するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、回転電機の固定子であって、円筒状の固定子鉄心と、固定子鉄心の内周側に形成される複数のスロットに絶縁紙を介在させて装着される固定子巻線とを備え、複数のスロットの各々は、内周側の幅狭の第1導体収容部と、第1導体収容部に傾斜壁により連設された外周側の幅広の第2導体収容部とを有し、固定子巻線は、第1導体収容部に挿通される第1コイル導体と、第2導体収容部に挿通される第2コイル導体とを含んで構成されていることを特徴とする固定子である。
請求項8に係る発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の固定子と、固定子の内周側に隙間をあけて回転可能に配設された回転子とを備え、三相交流電力で駆動される全閉構造の回転電機であって、回転子は、積層鉄心と導体等で構成されるが、回転周方向に沿って交互にNS極を形成する永久磁石、または直流電流で励磁されてNS極を形成する界磁巻線を有しておらず、固定子巻線は、複数のセグメント導体が互いに接続されてなるセグメント型コイルであって、スロットに1列に配置される第1および第2コイル導体と、スロット外に延び出して配置されたコイルエンドとを含んで構成されることを特徴とする回転電機である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スロット内に装着される絶縁紙の損傷を防止した固定子と、この固定子を備えることで絶縁性能を向上させた回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る固定子を備えた回転電機を搭載したハイブリッド型電気自動車の概略構成を示す図。
【図2】図1の電力変換装置を示す回路図。
【図3】本発明の実施の形態に係る回転電機を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る固定子の外観斜視図。
【図5】本発明の実施の形態に係る固定子の平面断面図。
【図6】本発明の実施の形態に係る固定子のスロットの拡大図。
【図7】本発明の実施の形態に係る固定子巻線の結線図。
【図8】(a)は固定子の側面断面を示す模式図であり、(b)はコイルエンドの側面断面を示す拡大図。
【図9】コイルエンドを拡大した側面模式図。
【図10】U相巻線の詳細結線を示す図。
【図11】U相巻線の詳細結線を示す図。
【図12】コイル導体の配置図。
【図13】本発明の変形例に係る固定子のスロットに装着されるスロットライナーを示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による固定子およびこの固定子を備えた回転電機の実施の形態を、図面を参照して説明する。
本実施の形態に係る回転電機は、電気自動車やハイブリッド自動車の走行に使用するのが好適な回転電機であって、かご型回転子を備える誘導電動機や永久磁石を有する回転子を備える同期電動機である。以下、ハイブリッド自動車に用いられる誘導電動機を例に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態に係る回転電機を搭載したハイブリッド型電気自動車の概略構成を示す図である。
図1に示すように、ハイブリッド自動車(以下、車両)100には、エンジン120と、第1の回転電機200と、第2の回転電機202と、バッテリ180とが搭載されている。
【0011】
バッテリ180は、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池などの二次電池やキャパシタで構成され、250ボルトから600ボルト、あるいはそれ以上の高電圧の直流電力を出力する。バッテリ180は、力行走行時には回転電機200,202に直流電力を供給し、回生走行時には回転電機200,202から直流電力を受ける。バッテリ180と回転電機200,202との間の直流電力の授受は、電力変換装置600を介して行われる。
【0012】
車両100には低電圧電力(たとえば、14ボルト系電力)を供給するバッテリ(不図示)が搭載されており、以下に説明する制御回路に直流電力を供給する。
【0013】
エンジン120および回転電機200,202による回転トルクは、変速機130とデファレンシャルギア160を介して前輪110に伝達される。変速機130は変速機制御装置134により制御され、エンジン120はエンジン制御装置124により制御され、バッテリ180は、バッテリ制御装置184により制御される。
【0014】
変速機制御装置134、エンジン制御装置124、バッテリ制御装置184および電力変換装置600には、通信回線174を介して統合制御装置170が接続されている。
【0015】
統合制御装置170は、変速機制御装置134、エンジン制御装置124、電力変換装置600およびバッテリ制御装置184の状態を表す情報を、通信回線174を介してそれらからそれぞれ受け取る。統合制御装置170は、取得したそれらの情報に基づき各制御装置の制御指令を演算する。演算された制御指令は通信回線174を介してそれぞれの制御装置へ送信される。
【0016】
バッテリ制御装置184は、バッテリ180の充放電状況やバッテリ180を構成する各単位セル電池の状態を、通信回線174を介して統合制御装置170に出力する。
【0017】
統合制御装置170は、バッテリ制御装置184からの情報に基づいてバッテリ180の充電が必要と判断すると、電力変換装置600に発電運転の指示を出す。
【0018】
統合制御装置170は、エンジン120および回転電機200,202の出力トルクの管理、エンジン120の出力トルクと回転電機200,202の出力トルクとの総合トルクやトルク分配比の演算処理を行い、その演算処理結果に基づく制御指令を、変速機制御装置134、エンジン制御装置124および電力変換装置600へ送信する。
【0019】
電力変換装置600は、統合制御装置170からのトルク指令に基づき、指令通りのトルク出力あるいは発電電力が発生するように回転電機200,202を制御する。電力変換装置600にはインバータを構成するパワー半導体素子が設けられている。電力変換装置600は、統合制御装置170からの指令に基づきパワー半導体素子のスイッチング動作を制御する。パワー半導体素子のスイッチング動作により、回転電機200,202は電動機としてあるいは発電機として運転される。
【0020】
回転電機200,202を電動機として運転する場合は、高電圧のバッテリ180からの直流電力が電力変換装置600のインバータの直流端子に供給される。電力変換装置600は、パワー半導体素子のスイッチング動作を制御して供給された直流電力を3相交流電力に変換し、回転電機200,202に供給する。
【0021】
一方、回転電機200,202を発電機として運転する場合には、回転子が外部から加えられる回転トルクで回転駆動され、固定子巻線に3相交流電力が発生する。発生した3相交流電力は電力変換装置600で直流電力に変換され、その直流電力が高電圧のバッテリ180に供給されることにより、バッテリ180が充電される。
【0022】
[電力変換装置]
図2は、図1の電力変換装置600の回路図である。電力変換装置600には、第1の回転電機200のための第1のインバータ装置と、第2の回転電機202のための第2のインバータ装置とが設けられている。第1のインバータ装置は、パワーモジュール610と、パワーモジュール610の各パワー半導体素子21のスイッチング動作を制御する第1の駆動回路652と、回転電機200の電流を検知する電流センサ660とを備えている。駆動回路652は駆動回路基板650に設けられている。
【0023】
第2のインバータ装置は、パワーモジュール620と、パワーモジュール620における各パワー半導体素子21のスイッチング動作を制御する第2の駆動回路656と、回転電機202の電流を検知する電流センサ662とを備えている。駆動回路656は駆動回路基板654に設けられている。
【0024】
制御回路基板646に設けられた制御回路648、コンデンサモジュール630およびコネクタ基板642に実装された送受信回路644は、第1のインバータ装置と第2のインバータ装置とで共通に使用される。
【0025】
パワーモジュール610,620は、それぞれ対応する駆動回路652,656から出力された駆動信号によって動作する。パワーモジュール610,620は、それぞれバッテリ180から供給された直流電力を3相交流電力に変換し、その電力を対応する回転電機200,202の電機子巻線である固定子巻線に供給する。パワーモジュール610,620は、回転電機200,202の固定子巻線に誘起された交流電力を直流に変換し、高電圧のバッテリ180に供給する。
【0026】
パワーモジュール610,620は、図2に示すように3相ブリッジ回路を備えており、3相に対応した直列回路が、それぞれバッテリ180の正極側と負極側との間に電気的に並列に接続されている。各直列回路は上アームを構成するパワー半導体素子21と下アームを構成するパワー半導体素子21とを備え、それらのパワー半導体素子21は直列に接続されている。
【0027】
パワーモジュール610とパワーモジュール620とは、図示するように、回路構成がほぼ同じであるため、ここではパワーモジュール610を代表して説明する。
【0028】
本実施の形態では、スイッチング用パワー半導体素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を用いている。IGBTは、コレクタ電極、エミッタ電極およびゲート電極の3つの電極を備えている。IGBTのコレクタ電極とエミッタ電極との間にはダイオード38が電気的に接続されている。ダイオード38は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えており、IGBTのエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBTのコレクタ電極に、アノード電極がIGBTのエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
【0029】
各相のアームは、IGBTのエミッタ電極とIGBTのコレクタ電極とが電気的に直列に接続されて構成されている。なお、本実施の形態では、各相の各上下アームのIGBTを1つしか図示していないが、制御する電流容量が大きいので、実際には複数のIGBTが電気的に並列に接続されて構成されている。
【0030】
各相の各上アームのIGBTのコレクタ電極はバッテリ180の正極側に、各相の各下アームのIGBTのエミッタ電極はバッテリ180の負極側にそれぞれ電気的に接続されている。各相の各アームの中点(上アーム側IGBTのエミッタ電極と下アーム側のIGBTのコレクタ電極との接続部分)は、対応する回転電機200,202の対応する相の電機子巻線(固定子巻線)に電気的に接続されている。
【0031】
駆動回路652,656は、対応するインバータ装置のパワーモジュール610,620を制御するための駆動部を構成しており、制御回路648から出力された制御信号に基づいて、IGBTを駆動させるための駆動信号を発生する。それぞれの駆動回路652,656で発生した駆動信号は、対応するパワーモジュール610,620の各パワー半導体素子21のゲートにそれぞれ出力される。駆動回路652,656には、各相の各上下アームのゲートに供給する駆動信号を発生する集積回路がそれぞれ6個設けられており、6個の集積回路を1ブロックとして構成されている。
【0032】
制御回路648は各インバータ装置の制御部を構成しており、複数のスイッチング用パワー半導体素子21を動作(オン・オフ)させるための制御信号(制御値)を演算するマイクロコンピュータによって構成されている。制御回路648には、統合制御装置170からのトルク指令信号(トルク指令値)、電流センサ660,662のセンサ出力、回転電機200,202に搭載された回転センサ(不図示)のセンサ出力が入力される。制御回路648はそれらの入力信号に基づいて制御値を演算し、駆動回路652,656にスイッチングタイミングを制御するための制御信号を出力する。
【0033】
コネクタ基板642に実装された送受信回路644は、電力変換装置600と外部の制御装置との間を電気的に接続するためのもので、図1の通信回線174を介して他の装置と情報の送受信を行う。
【0034】
コンデンサモジュール630は、パワー半導体素子21のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制するための平滑回路を構成するもので、パワーモジュール610,620における直流側の端子に電気的に並列に接続されている。
【0035】
[回転電機の構造]
回転電機200,202の構造について図面を参照して説明する。第1の回転電機200と第2の回転電機202とはほぼ同様の構造であるため、以下、第1の回転電機200の構造を代表例として説明する。なお、以下に示す構造は回転電機200,202の双方に採用されている必要はなく、一方だけに採用されていてもよい。
【0036】
図3に示すように、本実施の形態に係る回転電機200は、密閉構造のハウジング内において保持された固定子230と、固定子230の内周側に隙間をあけて回転可能に配設された回転子250とを備える全閉型誘導電動機である。
【0037】
[ハウジング]
ハウジングは、フロントブラケット213と、リアブラケット214と、フロントブラケット213およびリアブラケット214によって前後から挟持されるように保持されている円筒状のセンターブラケット217とを含んで構成される。
【0038】
[回転子]
回転子250は、円環状の電磁鋼板を積層してなる回転子鉄心252に多数の導体バーと一対のエンドリング256とを組み付けて、回転子250の軸方向両端部においてエンドリング256と導体バーとを溶接により接合した組立式のかご形回転子である。本実施の形態における回転電機200の回転子250は、回転周方向に沿って交互にNS極を形成する永久磁石、または直流電流で励磁されてNS極を形成する界磁巻線を有していない。
【0039】
回転子250には回転軸218が一体回転するように装着されている。回転軸218は、フロントブラケット213に設けられたフロントベアリング215と、リアブラケット214に設けられたリアベアリング216とにより回転可能に支持されている。
【0040】
[固定子]
図4に示すように、固定子230は、円筒状の固定子鉄心232と固定子巻線240とを備え、図3に示すように、回転子250と僅かな隙間をあけて配置されている。
【0041】
固定子鉄心232は、ハウジングのセンターブラケット217内に収容保持されている。固定子鉄心232は、薄肉の円環形状の電磁鋼板を複数枚積層して形成されている。固定子鉄心232を構成する電磁鋼板は厚さ0.05〜1.0mm程度であって、打ち抜き加工またはエッチング加工により形成される。
【0042】
図5に示すように、固定子鉄心232の内周側には、固定子鉄心232の軸方向に平行な複数の半閉スロット236とティース238とが周方向に等間隔となるように形成されている。本実施の形態では、72個のスロット236が形成されている。固定子鉄心232には、固定子巻線240が波巻きで巻き回されている。この固定子巻線240は、固定子鉄心232のスロット236内に配置されるコイル導体241と、固定子鉄心232の両端からスロット外に延び出して配置されるコイルエンド249(図4参照)とを含んで構成されている。
【0043】
図6は、図5の部分拡大図であり、図示する3つのスロット236のうちの中央のスロット236にはコイル導体241とスロットライナー247を記載しているが、両脇のスロット236内のコイル導体241およびスロットライナー247については記載を省略している。
【0044】
本実施の形態では、図6に示すように、1つのスロット236内に、円形断面を有する4本のコイル導体241が径方向に1列に並んで配置されている。以下、各コイル導体241が配置されるスロット236内の各層を、スロット236の内周側(スロット開口側)から外周側に向かって順にレイヤ1(L1)、レイヤ2(L2)、レイヤ3(L3)、レイヤ4(L4)と称する。
【0045】
図6に示すように、スロット236は、内周側に形成される幅狭の第1導体収容部236aと外周側に形成される幅広の第2導体収容部236bとを有している。第1導体収容部236aはレイヤ1およびレイヤ2を形成し、第2導体収容部236bはレイヤ3およびレイヤ4を形成している。
【0046】
第2導体収容部236bの周方向の幅w2を第1導体収容部236aの周方向の幅w1よりも広くすることで、ティース238の幅をほぼ一定にすることができる。これにより、ティース238の磁束密度のアンバランスを防止できる。
【0047】
第1導体収容部236aは、周方向に幅狭で対向し、径方向に略平行に延在する一対の第1側壁236awで画成され、第2導体収容部236bは、周方向に幅広で対向し、径方向に略平行に延在する一対の第2側壁236bwで画成されている。第1側壁236awと第2側壁236bwは、外径方向に互いに広がるように傾斜する一対の傾斜壁237により連設されている。
【0048】
第1導体収容部236aの第1側壁236awと傾斜壁237、ならびに、第2導体収容部236bの第2側壁236bwと傾斜壁237とは鈍角で繋がっている。第1導体収容部236aの第1側壁236awと傾斜壁237との境界、ならびに、第2導体収容部236bの第2側壁236bwと傾斜壁237との境界は滑らかな曲面237rとされている。
【0049】
第1導体収容部236aに配置されているコイル導体241は、その周方向寸法が第1導体収容部236aの幅w1に対応した値であり、第2導体収容部236bに配置されているコイル導体241は、その周方向寸法が第2導体収容部236bの幅w2に対応した値である。すなわち、第2導体収容部236bに配置されている外側固定子巻線240oのコイル導体241の径d2は、第1導体収容部236aに配置されている内側固定子巻線240iのコイル導体241の内径d1よりも大きく、第2導体収容部236b内のコイル導体241の断面積は、第1導体収容部236a内のコイル導体241の断面積よりも大きい。
【0050】
コイル導体241の径をスロットの幅に対応させて可能な限り太くすることで、固定子巻線240の抵抗を低減することができる。
【0051】
固定子鉄心232のスロット236の各々には、絶縁紙であるスロットライナー247が1枚ずつ装着されている。スロットライナー247は、長尺状の絶縁紙を撓ませることで、図6に示すようなS字状に湾曲させた後、スロット236とコイル導体241との間、および、内側固定子巻線240iのコイル導体241と外側固定子巻線240oのコイル導体241との間に介在するように配置される。事前成形を要しないため、製作工程の短縮化を図ることができる。
【0052】
図7は、固定子巻線240の結線図である。固定子巻線240は、全体で6系統(U1,U2,V1,V2,W1,W2)の巻線で構成され、スロット236によって相互に適正な間隔をもって配列される。図7に示すように、固定子巻線240の結線には、U1相巻線群、V1相巻線群、W1相巻線群からなる第1のスター結線と、U2相巻線群、V2相巻線群、W2相巻線群からなる第2のスター結線とが並列に接続されたダブルスター結線が採用されている。U1,V1,W1相巻線群およびU2,V2,W2相巻線群はそれぞれ6つの周回巻線で構成されており、U1相巻線群は周回巻線U11〜U16を有し、V1相巻線群は周回巻線V11〜V16を有し、W1相巻線群は周回巻線W11〜W16を有している。同様に、U2相巻線群は周回巻線U21〜U26を有し、V2相巻線群は周回巻線V21〜V26を有し、W2相巻線群は周回巻線W21〜W26を有している。
【0053】
図7において細い実線で模式的に示すように、周回巻線U11〜U13,V11〜V13,W11〜W13,U24〜U26,V24〜V26,W24〜W26は、図6に示した第1導体収容部236aに挿通される直径d1のコイル導体241による巻線である。図7において太い実線で模式的に示すように、周回巻線U21〜U23,V21〜V23,W21〜W23,U14〜U16,V14〜V16,W14〜W16は、図6に示した第2導体収容部236bに挿通される直径d2のコイル導体241による巻線である。なお、上記したように、d2>d1である。このように、U1相とU2相とで断面積の大きい周回巻線の数と断面積の小さい周回巻線の数を同じにすることで、同様に、V1相とV2相とで、ならびに、W1相とW2相とで、断面積の大きい周回巻線の数と断面積の小さい周回巻線の数を同じにすることで、循環電流を防止できる。
【0054】
図4に示すように、固定子巻線240における一方のコイルエンド249(図中上側のコイルエンド249)には、UVW3相それぞれの固定子巻線240の口出し線が引き出されている。口出し線は、U(U1,U2)相、V(V1,V2)相、W(W1,W2)相のそれぞれに対応して引き出されており、それぞれに上記した電力変換装置600に接続される圧着端子246が装着されている。
【0055】
固定子巻線240における一方のコイルエンド249(図中上側のコイルエンド249)には、中性点結線用導体243と、同相間接続用導体244とが引き出されている。中性点結線用導体243は、図7に示すように、U1相の巻き終わりとなるU1相中性線と、V1相の巻き終わりとなるV1相中性線と、W1相の巻き終わりとなるW1相中性線で構成される。U2,V2,W2相も同様である。同相間接続用導体244は、U1相を構成する周回巻線U13の巻き終わりとなる導体と周回巻線U14の巻き始めとなる導体で構成され、溶接により接続されている。V1,W1相およびU2,V2,W2相も同様である。
【0056】
図4に示すように、固定子巻線240は、略U字状の複数のセグメント導体が互いに接続されることで形成されるセグメント型コイルである。所定のスロット236に挿通されたセグメント導体は、両端部が一方のコイルエンド249(図中下側のコイルエンド249)において溶接され、端末溶接部245が形成されている。したがって、一方のコイルエンド249(図中下側のコイルエンド249)には、端末溶接部245が整然と配列され、もう一方のコイルエンド249(図中上側のコイルエンド249)には、略U字状のセグメント導体の中央部分が整然と配列されている。
【0057】
図8(a)は固定子230の側面断面を示す模式図であり、図8(b)は図8(a)のB部を拡大した図である。図8に示すように、コイルエンド249の一方、すなわち、図中左側の端末溶接部245が形成されるコイルエンド249には、円筒状の絶縁紙であるインシュレータ248が配置されている。インシュレータ248は、配置された後に樹脂含浸が行われる。
【0058】
インシュレータ248は、内側固定子巻線240iおよび外側固定子巻線240oの間の間隙を全周に渡って絶縁し得る円周方向長さおよび軸方向長さを有し、コイルエンド249の軸方向外側に突出している。これによって、内側固定子巻線240iと外側固定子巻線240oとの間の絶縁性を担保するとともに、絶縁材としての沿面距離を確保している。
【0059】
図9は、図4のA部を拡大した側面図である。図中の矢印は、冷却油の進行方向を模式的に示している。回転電機200は、ハウジング内にハウジング容積の約1/3程度の冷却油を有している。したがって、回転子250が回転すると、冷却油が攪拌されて回転電機200が冷却される。
【0060】
図示されるように、コイルエンド249では、渡り導体242が互いに可能な限り近接した状態で配列されている。このようにコイルエンド249が整然としていると、回転子250が回転した際に、冷却油が渡り導体242の斜行部の表面に沿って流れるため、効率よく固定子巻線240を冷却することができる。
【0061】
図10および図11は固定子巻線240のU相巻線の詳細結線を示す図であり、図10(a)はU1相巻線群の周回巻線U11〜U13を示し、図10(b)はU1相巻線群の周回巻線U14〜U16を示している。図11(c)はU2相巻線群の周回巻線U24〜U26を示し、図11(d)はU2相巻線群の周回巻線U21〜U23を示している。図中の符号01,02〜71,72は、スロット番号を示している。
【0062】
各周回巻線U11〜U26は、スロット内に挿通されるコイル導体241と、異なるスロットに挿通されたコイル導体241の同一側端部同士を接続して、コイルエンド249(図4参照)を構成する渡り導体242とからなる。
【0063】
周回巻線U11〜U13およびU24〜U26の破線部分はレイヤ1を示しており、実線部分はレイヤ2を示している。一方、周回巻線U14〜U16およびU21〜U23において、破線部分はレイヤ3を示しており、実線部分はレイヤ4を示している。なお、周回巻線U11〜U26は、上述したようにセグメント導体をスロット内に挿通した後に溶接等によりセグメント導体同士を接続することで構成される。
【0064】
固定子巻線240は、図10(a)に示すように、スロット番号01のレイヤ1へ入り、渡り導体242によりスロット9個分を跨いだ後に、コイル導体241がスロット番号64のレイヤ2に入り、スロット番号64のレイヤ2から渡り導体242によりスロット9個分を跨いだ後に、コイル導体241がスロット番号55のレイヤ1に入る。このように、周回巻線U11はスロット9個分を跨ぎながらスロット番号10のレイヤ2まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。ここまでのほぼ1周分の固定子巻線240が周回巻線U11である。すなわち、周回巻線U11のコイルピッチはNp=9である。スロットは72個であり、磁極数は8極であるから本実施の形態では、コイルピッチが極ピッチと等しい全節巻を採用している。
【0065】
スロット番号10のレイヤ2から出た固定子巻線240は、スロット8個分を跨いでスロット番号02のレイヤ1に入る。スロット番号02のレイヤ1からは周回巻線U12となる。周回巻線U12も周回巻線U11と同様に、コイルピッチNp=9でスロット番号11のレイヤ2まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。
【0066】
スロット番号11のレイヤ2から出た固定子巻線240は、スロット8個分を跨いでスロット番号03のレイヤ1に入る。スロット番号03のレイヤ1からは周回巻線U13となる。周回巻線U13も周回巻線U11と同様に、コイルピッチNp=9でスロット番号12のレイヤ2まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。
【0067】
スロット番号12のレイヤ2から出た固定子巻線240は、スロットを11個分跨いでスロット番号01のレイヤ3(図10(b)参照)に入る。スロット番号01のレイヤ3からは周回巻線U14となり、図10(b)に示すように、その後は周回巻線U11〜U13の場合と同様にコイルピッチNp=9で、スロット番号10のレイヤ4まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。ここまでのほぼ1周分の固定子巻線240が周回巻線U14である。
【0068】
スロット番号10のレイヤ4から出た固定子巻線240は、スロット8個分を跨いでスロット番号02のレイヤ3に入る。スロット番号02のレイヤ3からは周回巻線U15となる。その後は周回巻線U11〜14の場合と同様に、コイルピッチNp=9でスロット番号11のレイヤ4まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。
【0069】
スロット番号11のレイヤ4から出た固定子巻線240は、スロット8個分を跨いでスロット番号03のレイヤ3に入る。スロット番号03のレイヤ3からは周回巻線U16となる。その後は周回巻線U11〜U15の場合と同様にコイルピッチNp=9でスロット番号12のレイヤ4まで固定子鉄心232を1周するように波巻きで巻き回されている。
【0070】
図11に示す固定子巻線群U2も、固定子巻線群U1と同様に波巻きで巻き回されている。周回巻線U21はスロット番号03のレイヤ4からスロット番号66のレイヤ3まで巻き回され、周回巻線U22はスロット番号02のレイヤ4からスロット番号65のレイヤ3まで巻き回され、周回巻線U23はスロット番号01のレイヤ4からスロット番号64のレイヤ3まで巻き回されている。
【0071】
その後、固定子巻線240はスロット番号03のレイヤ2からスロット番号12のレイヤ1へ入り、周回巻線U24としてスロット番号66のレイヤ1まで巻き回される。周回巻線U25は、スロット番号02のレイヤ2からスロット番号65のレイヤ1まで巻き回され、周回巻線U26は、スロット番号01のレイヤ2からスロット番号64のレイヤ1まで巻き回されている。
【0072】
図12は、固定子鉄心232におけるコイル導体241の配置を示す図であり、図10および図11のスロット番号01〜18までを示した図である。本実施の形態では、2極分、つまり電気角360度にスロット236が18個配置されている。各スロット236には、固定子巻線240のコイル導体241が4本ずつ挿通されている。図示されるように、本実施の形態では毎極スロット数が9、毎極毎相スロット数NSPP=3とされる。
【0073】
なお、各コイル導体241は模式的に矩形で示されているが、実際には、図5および図6に示したように、円形の断面とされている。コイル導体241を模式的に表す矩形の中には、U相、V相、W相を示す符号U11〜U26,V,Wと、一方のコイルエンド側から反対側のコイルエンド側への方向を示すクロス印「×」、その逆の方向を示す黒丸印「●」をそれぞれ記した。なお、U相のコイル導体241のみ周回巻線を表す符号U11〜U26で示し、V相およびW相のコイル導体241に関しては、相を表す符号V,Wで示した。
【0074】
図12において破線で囲んだ12本のコイル導体241は、全てU相のコイル導体241である。なお、上述したように、レイヤ1とレイヤ2に挿通されるコイル導体241の断面積は、レイヤ3とレイヤ4に挿通されるコイル導体241の断面積に比べて小さい。
【0075】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)固定子230のスロット236は、幅の異なる第1導体収容部236aおよび第2導体収容部236bを有し、第1導体収容部236aと第2導体収容部236bとは傾斜壁によって連設されているため、スロット236に装着される絶縁紙の損傷が防止される。その結果、絶縁信頼性の高い回転電機200,202を提供することができる。
【0076】
(2)スロット236内に配置されるスロットライナー247は、長尺状の絶縁紙を撓ませることで、S字状に湾曲させた後に挿着されるため、所望の断面形状を呈するように複数回折り曲げるなどの事前成形を要しない。これにより、製作工程の短縮化を図ることができる。
【0077】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(1)固定子巻線240の結線方式は、上記した実施の形態に限定されない。回転電機200,202の駆動電圧によっては、シングルスター結線としてもよい
【0078】
(2)スロットライナー247の形状は、図6に示したようなS字状とする場合に限定されることなく、種々の形状を採用することができる。図13は、スロットライナー247の他の形状を示す図であり、スロットライナー247のみを実線で記し、コイル導体241とスロット236の外形は二点鎖線で記している。スロットライナー247は、たとえば、図13(a)に示すように、B字状になるように絶縁紙を撓ませた状態でスロット236に挿着することとしてもよいし、図13(b)に示すように、S字状に撓ませた2枚のスロットライナー247を1つのスロット236に挿着することとしてもよい。
【0079】
(3)なお、スロット挿通前に丸棒を用いて絶縁紙を湾曲させるように準備しておくことで、スロット挿通作業性を向上させてもよい。さらに、絶縁紙の一部に軽く折り目をつけておいてもよい。
【0080】
(4)周回巻線は、略U字状の複数のセグメント導体をスロット内に挿通した後に接続する場合に限定されることなく、連続した導体で形成してもよい。
(5)毎極毎相スロット数は3に限定されることもなく、3未満であってもよいし、4以上となるように固定子巻線240を巻き回してもよい。
(6)回転電機は、誘導電動機に限定されることなく同期電動機であってもよい。
(7)固定子巻線240は全節巻で固定子鉄心232に装着する場合に限定されない。短節巻で固定子巻線240を巻き回してもよい。
【0081】
(8)第1導体収容部236aおよび第2導体収容部236bに挿通されるコイル導体241は、2本ずつである場合に限定されない。導体収容部ごとに3本以上あるいは1本だけ挿通してもよい。
(9)コイル導体241は、径方向に1列に配置される場合に限定されない。径方向に2列に配置してもよい。
(10)固定子巻線に用いられる導体の形状は円形状に限らず、矩形状の平角線を使用した場合にも適用することもできる。
【0082】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
200 回転電機、202 回転電機、230 固定子、232 固定子鉄心、236 スロット、236a 第1導体収容部、236aw 第1側壁、236b 第2導体収容部、236bw 第2側壁、237 傾斜壁、237r 曲面、238 ティース、240 固定子巻線、240i 内側固定子巻線、240o 外側固定子巻線、241 コイル導体、242 渡り導体、247 スロットライナー、249 コイルエンド、250 回転子、252 回転子鉄心、256 エンドリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の固定子であって、
円筒状の固定子鉄心と、
前記固定子鉄心の内周側に形成される複数のスロットに絶縁紙を介在させて装着される固定子巻線とを備え、
前記複数のスロットの各々は、内周側の幅狭の第1導体収容部と、前記第1導体収容部に傾斜壁により連設された外周側の幅広の第2導体収容部とを有し、
前記固定子巻線は、前記第1導体収容部に挿通される第1コイル導体と、前記第2導体収容部に挿通される第2コイル導体とを含んで構成されていることを特徴とする固定子。
【請求項2】
請求項1に記載の固定子において、
前記第1コイル導体は、その周方向寸法が前記第1導体収容部の幅に対応した値であり、
前記第2コイル導体は、その周方向寸法が前記第2導体収容部の幅に対応した値であり、
前記第2コイル導体の断面積は、前記第1コイル導体の断面積よりも大きいことを特徴とする固定子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の固定子において、
前記第1導体収容部の側壁と前記傾斜壁、ならびに、前記第2導体収容部の側壁と前記傾斜壁とは鈍角で繋がっていることを特徴とする固定子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の固定子において、
前記第1導体収容部は、周方向に幅狭で対向し、径方向に略平行に延在する一対の第1側壁で画成され、
前記第2導体収容部は、周方向に幅広で対向し、径方向に略平行に延在する一対の第2側壁で画成され、
前記第1側壁と前記第2側壁は、外径方向に互いに広がるように傾斜する一対の前記傾斜壁により連設されていることを特徴とする固定子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の固定子において、
前記第1導体収容部の側壁と前記傾斜壁との境界、ならびに、前記第2導体収容部の側壁と前記傾斜壁との境界は曲面とされていることを特徴とする固定子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の固定子において、
前記複数のスロットの各々に1枚の絶縁紙が挿通され、
前記絶縁紙は、前記スロットと前記第1および第2コイル導体との間、ならびに、前記第1コイル導体と前記第2コイル導体との間に配置されていることを特徴とする固定子。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の固定子において、
前記回転電機が三相交流式の場合、前記固定子巻線は各相ごとにそれぞれコイル巻線を有し、
前記各相のコイル巻線の各々は、前記第1コイル導体と第2コイル導体とを接続導体で接続した相巻線であることを特徴とする固定子。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の固定子と、
前記固定子の内周側に隙間をあけて回転可能に配設された回転子とを備え、
三相交流電力で駆動される全閉構造の回転電機であって、
前記回転子は、積層鉄心と導体等で構成されるが、回転周方向に沿って交互にNS極を形成する永久磁石、または直流電流で励磁されてNS極を形成する界磁巻線を有しておらず、
前記固定子巻線は、複数のセグメント導体が互いに接続されてなるセグメント型コイルであって、前記スロットに1列に配置される前記第1および第2コイル導体と、前記スロット外に延び出して配置されたコイルエンドとを含んで構成されることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−222983(P2012−222983A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87244(P2011−87244)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】