説明

圧力制御性に優れる油圧制御回路

【課題】増圧器を使用した圧力制御装置における増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止めることにより連続圧力制御を可能とする圧力制御回路の提供。
【解決手段】本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路によれば、高圧シャットオフ弁8等からの油洩れに起因して、増圧器2の自動復帰回路が作動する場合でも、降圧シャットオフ弁22と油洩れ量設定弁23を装備することにより、増圧器2の圧力制御の再開から高圧シャットオフ弁8が開き増圧器側と圧力容器側の圧油が合流するまでの間に、増圧器側の圧力が圧力容器側の圧力に到達するだけの圧力偏差を与えることができるので、増圧器2の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止め、圧力容器の連続圧力制御が可能となる。これにより、圧力容器等の連続圧力制御装置にも広く適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−油圧サーボ弁(以下、単に「サーボ弁」という)を備える圧力制御装置の制御精度の向上に関し、さらに詳しくは、圧力制御装置の増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止めることにより高精度の連続圧力制御を可能とし、圧延機用のクラウン可変ロールに最適な油圧制御回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板材(鋼板、銅板、アルミ板など)の圧延において、材料と圧延ロールとの間に作用する圧延荷重により圧延ロールには弾性的に偏平変形または曲げ変形が生じる。このため、変形形状をあらかじめ補償するように圧延ロールにはロールクラウンが設けられる。
【0003】
これに対応して、クラウン可変ロール(Variable Crown Roll 以下、「VCロール」という)は、圧延ロールの内部に油圧室を設け、油圧を調整することにより圧延ロールを膨張させ、ロールクラウンを可変構造としている。
【0004】
VCロールの油圧制御回路は、油圧ポンプからの圧油を増圧器により数倍の高圧に昇圧してVCロールに供給する主圧力回路を備え、前記増圧器のピストンは、その上下動がサーボ弁による油量の切り換えにより制御される。サーボ弁を備えた油圧制御回路では、増圧器への圧油を高圧にする指令信号と、VCロールの高圧力を電気信号に変換したフィードバック信号との偏差をなくすために補正信号が常に出力されている(以下、「フィードバック制御」という)。これにより、VCロールの油圧制御回路では、所定の高圧を精度よく保持することができる。
【0005】
一方、VCロールの油圧制御回路には、連続して増圧器使用による圧力制御を可能とすることを目的として、増圧器のストロークを検出するために下記の4個のリミットスイッチが設けられている。
【0006】
図1は、VCロールの油圧制御回路に設けられる増圧器用リミットスイッチの取り付け位置とその作用を説明する図である。同図に示す増圧器2は、4個のリミットスイッチを備えている。リミットスイッチ16(以下、「LS1」ともいう)はピストン4の上限を検出するために設置されており、ピストンの検出部4aがLS1に到達すると、増圧器2が強制下降モード(不感帯状態)となりピストン4は降下する。リミットスイッチ18(以下、「LS2」ともいう)はピストン4の中間位置を検出するために設置されており、ピストンの検出部4aがLS2に到達すると、その位置で停止し、増圧器2は正常な圧力制御に復帰する。リミットスイッチ19(以下、「LS3」ともいう)はピストン4の下限を検出するために設置されており、圧力制御を開始する場合の始点となる。リミットスイッチ17(以下、「LS4」ともいう)はピストン4の上限手前信号用であり、ピストンの検出部4aがLS4に到達すると、ブザー等により、まもなく増圧器2が上限に到達する予告信号を発するが、制御は継続して行われる。
【0007】
VCロールの油圧制御回路において、増圧器が上限リミットスイッチに到達したときの増圧器の自動復帰回路は、上記のリミットスイッチと、切換弁であるシャットオフ弁とが連動して作動するようにシーケンス制御されている。
【0008】
図2は、従来の油圧制御回路に設けられる増圧器の自動復帰回路の作動順序(S1〜S8)の一例を示す図である。以下の説明において、高圧シャットオフ弁とは圧力容器側への増圧器による発生圧の送給弁とその逆流を遮断する逆止弁とを切り換えるシャットオフ弁を意味し、補給シャットオフ弁とは増圧器への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換えるシャットオフ弁を意味する。
【0009】
ピストンの検出器がLS1に到達すると(S1)、高圧シャットオフ弁が閉じて圧力容器からの逆流が遮断され、VCロール側の圧力が保持される(S2)。高圧シャットオフ弁が閉じてからタイマー設定値後に補給シャットオフ弁が開き増圧器への圧油の送給を開始する(S3)。補給シャットオフ弁が開いてからタイマー設定値後にサーボ弁後退指令によりピストンが下降する(S4)。
【0010】
ピストンの検出器がLS2に到達すると、その位置で停止し(S5)、サーボ弁は正常な圧力制御に復帰する(S6)。サーボ弁の圧力制御が再開されてからタイマー設定値後に補給シャットオフ弁が閉じられ増圧器への圧油の送給が遮断される(S7)。補給シャットオフ弁が閉じてからタイマー設定値後に高圧シャットオフ弁が開き(S8)、高圧シャットオフ弁により保持されていたVCロール側の圧油と、サーボ弁の圧力制御が復帰してからタイマー設定値間で昇圧された圧油とが合流し、正常な状態となる。
【0011】
このようにVCロールの油圧制御回路は、通常の状態ではフィードバック制御によって高圧を保持することにより、また増圧器が上限リミットスイッチに到達した時には、シーケンス制御された自動復帰回路が作動することにより連続して圧力制御が行われている。
【0012】
従来技術の一例として、特許文献1には、1個の増圧器と1個の油圧源によって、高圧の発生操作、制御操作および保持操作が行えるとともに、異常高圧発生時に回路の破損を防止するための圧抜き操作が自動的に行われるように構成し、従来の同種の回路に比べて配管や切換弁等の部品数を大幅に削減した省スペースで、しかも低コスト設計の油圧制御回路が開示されている。また、特許文献2には、更なる省スペースおよび低コストを課題として、サーボ弁に代えて電磁リリーフ弁を使用する制御回路が提案されている。
【0013】
【特許文献1】実公平03−36725号公報
【特許文献2】実開平05−79003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記の特許文献1および特許文献2で提案される油圧制御回路は、省スペースおよび低コストを実現する優れた油圧制御回路であるが、VCロールの油圧制御回路には、連続圧力制御に関して下記の問題がある。
【0015】
増圧器のピストンは、回路の油洩れに起因して上限LS1に到達する場合がある。ピストンの上昇を誘発するような油洩れを発生する箇所としては、前記高圧シャットオフ弁、油圧ポンプ方向への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換える圧抜きシャットオフ弁およびVCロールのロータリージョイントがある。
【0016】
上記の箇所から油洩れが発生すると、洩れた油の容積だけ増圧器のピストンが上昇する。この際、VCロール側の圧力には変化が生じないため、フィードバック信号として出力されることなく、増圧器のピストンの上昇だけが進行する。時間の経過とともに、油洩れ量が増加して、油洩れ見込み量(前記図1のLS1とLS2とのストロークに相当する容積)を超えると、増圧器のピストンが上限LS1に到達し、増圧器の自動復帰回路が作動する。
【0017】
上記のように、油洩れにより増圧器の自動復帰回路が作動した場合における、高圧シャットオフ弁に分離されるVCロール側と増圧器側での圧力を測定し、その結果を以下に示す。
【0018】
図3は、従来の油圧制御回路を使用した場合に、高圧シャットオフ弁に分離されるVCロール側と増圧器側の圧力波形を模式的に示す図である。同図中のΔP1は増圧器の自動復帰回路が作動してから高圧シャットオフ弁が開くまでのVCロール側の圧力制御偏差を表し、θ1は圧力制御再開後の増圧器の昇圧速度を表す。
【0019】
同図に示すように、増圧器のピストンが上限LS1に到達すると、増圧器の自動復帰回路が作動して高圧シャットオフ弁が閉じる。このとき、VCロール側では、高圧シャットオフ弁が閉じたことにより圧力が保持されるが、油洩れによる微小な圧力偏差ΔP1が生じる。また、増圧器側では、減圧弁の設定値で増圧器が下降作動して中間LS2に到達すると、圧力制御が再開されて昇圧速度θ1で圧油が昇圧する。このように、増圧器の自動復帰回路はシーケンス制御されたとおりに作動していることが確認できる。
【0020】
しかし、同図に示すように、高圧シャットオフ弁が開く瞬間に高圧シャットオフ弁に分離される圧力容器側と増圧器側の圧油が混合し、ある程度の圧力の降下が検出される。このような急激な圧力降下がVCロールを使用した圧延作業時に発生した場合は、その圧力降下量および圧延材によっては被圧延材である板材の品質の低下を招く原因となり、連続して安定した圧延作業をすることができず、板材圧延の生産性が低下する可能性がある。
【0021】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止めることが可能な圧力容器の油圧制御回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
先ず、本発明者らは、前記図3に示す圧力降下の原因を究明した。その結果、前記の圧力降下は、VCロール側と増圧器側の圧力が同圧になっておらず、VCロール側に比べて増圧器側の圧力が低いことが要因になっていることが判明した。さらに、高圧シャットオフ弁を閉じることによりVCロール側の圧力が保圧されている際に、高圧シャットオフ弁等からの油洩れ量が予測された量よりも少ないために、増圧器が正常な圧力制御に復帰してから高圧シャットオフ弁が開くまでにΔt1+Δt2を要し、その間に増圧器側の圧力がVCロール側の圧力まで昇圧するだけの十分な圧力偏差が得られなかったことが、VCロール側と増圧器側とに圧力差が生じる原因であることを知得した。
【0023】
本発明者らは、上記の原因を取り除くには、指令信号とフィードバック信号との偏差をなくすために補正信号が常に出力されるサーボ弁の特性を利用することが有効であるという観点に立って、検討を行った。その結果、増圧器が圧力制御を再開する際に、昇圧作動する速度は、フィードバック制御の特性により高圧シャットオフ弁等からの微小油洩れによる圧力制御偏差に比例することに着目し、新たに切換弁を付加して強制的に油漏れ量を設定することにより上記の油圧制御回路が実現可能であることを知見した。
【0024】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(7)の油圧制御回路を要旨としている。
(1)油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油を昇圧する増圧器と、前記増圧器の発生圧を制御する可変制御手段と、圧力容器側の圧力を保持する保圧手段と、圧力容器側の圧力を降下する降圧手段とを備える油圧制御回路であって、前記増圧器がピストンと、ストロークを検出するための検出手段とを備えて、前記増圧器の自動復帰回路が作動する際に、前記降圧手段によって、前記保圧手段により保持される圧力容器側の圧油に強制的に圧力偏差を与えることを特徴とする圧力制御性に優れる油圧制御回路。
(2)上記(1)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路において、前記降圧手段が、前記保圧手段による圧力の保持と相反する関係で圧力容器側の圧力を降下するように開閉する降圧シャットオフ弁と、前記保圧手段により保持される圧力容器側の圧力を強制的に降下する油洩れ量設定弁とを備える回路構成とすれば、確実な圧力の降下機能を発揮するとともに、保守点検数が少なくてすみ、回路が小規模になるため望ましい。
(3)上記(1)または(2)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路において、前記保圧手段が、圧力容器側への前記増圧器による発生圧の送給弁とその逆流を遮断する逆止弁とを切り換える高圧シャットオフ弁を備える回路構成とすれば、簡易かつ確実な圧力の保持機能が期待できるため望ましい。
(4)上記(1)〜(3)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路において、前記可変制御手段が、前記増圧器の発生圧が目標設定値となるように制御するサーボ弁と、圧力容器の高圧力を前記サーボ弁が駆動するためのフィードバック信号に変換するプレッシャートランスデューサーとを備える回路構成とすれば、降圧手段によって与えられる圧力偏差に対して、速やかに昇圧作動の指令信号がサーボ弁に送信されるため望ましい。
(5)上記(1)〜(4)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路において、前記検出手段が、前記ピストンの上限を検出するリミットスイッチ1と、前記ピストンの中間位置を検出するリミットスイッチ2と、前記ピストンの下限を検出するリミットスイッチ3と、前記ピストンの上限手前信号用リミットスイッチ4とを備える回路構成とすれば、増圧器の昇圧状態を直接検知できるため望ましい。
(6)上記(1)〜(5)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路において、前記自動復帰回路が、前記増圧器のピストンが上限に到達すると前記増圧器が強制下降モード(不感帯状態)となり、同時に前記保圧手段が圧力容器側の圧力を保持し、前記可変制御手段の後退指令により前記ピストンが下降し、前記ピストンが中間位置に到達すると、前記増圧器が再び制御モードになり、前記保圧手段が圧力容器側の圧力を開放し、圧力制御を行うようにシーケンス制御される回路構成とすれば、確実かつ迅速な連続制御機能を発揮できるため望ましい。
(7)上記(1)〜(6)に記載の圧力制御性に優れる油圧制御回路を、VCロールに適用することにより、圧延機の連続操業が可能となるので望ましい。
【0025】
上記(1)〜(6)に規定される本発明の油圧制御回路の具体的な構成例を分説すれば、次の通りである。
【0026】
まず、後述する図5に示すように、油圧ポンプ1と、油圧ポンプ1から吐出される圧油を高圧に昇圧する増圧器2と、増圧器2の発生圧が目標設定値となるように制御するサーボ弁7と、圧力容器の高圧力をサーボ弁7が駆動するためのフィードバック信号に変換するプレッシャートランスデューサー9と、圧力容器側への増圧器2による発生圧の送給弁とその逆流を遮断する逆止弁とを切り換える高圧シャットオフ弁8と、油圧ポンプ方向への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換える圧抜きシャットオフ弁14と、増圧器2への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換える補給シャットオフ弁12と、高圧シャットオフ弁8と相反する関係で開閉する降圧シャットオフ弁22と、高圧シャットオフ弁8により保持される圧力容器側の圧力を強制的に降下する油洩れ量設定弁23とを備える油圧制御回路を前提とする。
【0027】
次に検出手段として、増圧器2にピストン4と、ピストン4の上限を検出するリミットスイッチ(1)16と、ピストン4の中間位置を検出するリミットスイッチ(2)18と、ピストン4の下限を検出するリミットスイッチ(3)19と、ピストン4の上限手前信号用リミットスイッチ(4)17とを備えている。
【0028】
さらに、本発明では、増圧器2のピストン4が上限に到達すると増圧器2が強制下降モード(不感帯状態)となり、同時に高圧シャットオフ弁8が閉じて圧力容器側の圧力を保持し、サーボ弁7の後退指令によりピストン4が下降し、ピストン4が中間位置に到達すると、増圧器2が再び制御モードになり、高圧シャットオフ弁8が開いて圧力制御を行うようにシーケンス制御される増圧器2の自動復帰回路が作動する際に、降圧シャットオフ弁22と油洩れ量設定弁23によって、高圧シャットオフ弁8により保持される圧力容器側の圧油に強制的に圧力偏差を与えるように構成することを特徴とする。
【0029】
本発明において、「圧力制御性に優れる」とは、前述のとおり、増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止めることにより圧力容器の連続圧力制御を可能とすることを意味する。
【0030】
本発明で規定する「不感帯状態」とは、可変制御手段がフィードバック信号に反応せず、増圧器の圧力制御を行わない状態を意味する。
【0031】
図4は、本発明の油圧制御回路に設けられる増圧器の自動復帰回路の作動順序(S1〜S10)の一例を示す図である。同図中においてS1〜S8は前記図2と同じ作動順序を示す。上記の具体的な構成例に記載の油圧制御回路に設けられる増圧器の自動復帰回路の作動順序を、図4に沿って説明する。以下の説明において、降圧シャットオフ弁とは、高圧シャットオフ弁と相反する関係で開閉し、圧力容器側の圧油に強制的に圧力偏差を与える際に送給弁と逆止弁とを切り換えるシャットオフ弁を意味し、油洩れ量設定弁とは高圧シャットオフ弁により保持される圧力容器側の圧力を強制的に降下するために設定された量の油洩れを促す弁を意味する。
【0032】
ピストンの検出器がLS1に到達すると(S1)、高圧シャットオフ弁が閉じて圧力容器からの逆流が遮断され、VCロール側の圧力が保持される(S2)。これと同時に降圧シャットオフ弁が開き、高圧シャットオフ弁により保圧される圧力容器側の油圧が、油洩れ量設定弁によって強制的に降圧される(S9)。高圧シャットオフ弁が閉じてからタイマー設定値後に補給シャットオフ弁が開き増圧器への圧油の送給を開始する(S3)。補給シャットオフ弁が開いてからタイマー設定値後にサーボ弁後退指令によりピストンが下降する(S4)。
【0033】
ピストンの検出器がLS2に到達すると、その位置で停止し(S5)、サーボ弁は正常な圧力制御に復帰するが、降圧シャットオフ弁および油洩れ量設定弁による強制的な降圧量がフィードバック信号に変換されサーボ弁に送られる(S6)。サーボ弁の圧力制御が再開されてからΔt1後に補給シャットオフ弁が閉じて増圧器への圧油の送給が遮断される(S7)。補給シャットオフ弁が閉じてからΔt2後に高圧シャットオフ弁が開き(S8)、同時に降圧シャットオフ弁が閉じて(S10)、高圧シャットオフ弁により保圧されていた圧力容器側の圧油と、サーボ弁の圧力制御が復帰してからΔt1+Δt2間で圧力容器側の圧油と同等の圧力まで昇圧された圧油とが合流し、正常な状態となる。
【0034】
上記の増圧器の自動復帰回路において、Δt1+Δt2間で到達する圧力が圧力容器側よりも低い場合は、増圧器側と圧力容器側の圧力差と容量差で計算された値だけ圧力が降下する。しかし、Δt1+Δt2間で到達する圧力が圧力容器側よりも高い場合は、圧力の降下は生じない。
【0035】
上述の圧力降下が生じない理由は、圧力容器側よりも増圧器側の圧力が高くなる場合には、高くなった直後から圧力偏差が発生し、その微小な偏差によりサーボ弁は圧力を下げる方向に作動するが、偏差が微小なため増圧器のピストンが下降していく速度が非常に遅く、降圧しない間に高圧シャットオフ弁が開くためである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路によれば、降圧シャットオフ弁と油洩れ量設定弁を装備することにより、増圧器の自動復帰回路が作動するに際し、増圧器の圧力制御の再開から高圧シャットオフ弁が開き増圧器側と圧力容器側の圧油が合流するまでの間に、増圧器側の圧力が圧力容器側の圧力に到達するだけの圧力偏差を与えることができるので、増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止め、圧力容器の連続圧力制御が可能となる。
【0037】
このため、本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路をVCロールに用いれば、VCロールを使用した圧延機による圧延作業を連続して行う場合でも、油洩れに起因して生じる圧力の降下を防止できるため、品質の良好な鋼板等の板材(銅材、鉄材、アルミ材、ステンレス材、銅箔材、アルミ箔材、その他の板材)を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路の回路構成を図面に基づいて説明する。
【0039】
図5は、本発明の油圧制御回路をVCロールに用いた場合の一例を示す図である。同図に示す油圧制御回路は、油圧ポンプ1からの圧油を増圧器2により高圧に昇圧してVCロール3に供給する回路を主圧力回路Aとし、主圧力回路Aの低圧側回路A1と、主圧力回路Aの高圧側回路A2と、戻し回路Bと、圧抜き回路Cと、補給回路Dと、リリーフ回路Eと、アキュムレータ回路Fと、冷却清浄回路Gと、降圧回路Hとから構成される。
【0040】
低圧側回路A1は油圧ポンプ1からの圧油を増圧器2へ供給する回路であり、圧油の送給とタンク26への戻りを切り換えるアンロードリリーフ弁5と、回路の混入物を除去するラインフィルター6と、増圧器2が高圧を発生するように操作されるサーボ弁7とを備えている。
【0041】
高圧側回路A2は増圧器2において高圧に昇圧された圧油をVCロール3へ供給する回路であり、増圧器2による発生圧の送給弁とその逆流を遮断する逆止弁とを切り換える高圧シャットオフ弁8と、増圧器2の発生圧を検出し、サーボ弁7を駆動させるフィードバック信号に変換するプレッシャートランデューサー9とを備えている。
【0042】
戻し回路Bはサーボ弁7と冷却清浄回路Gを接続する回路である。
【0043】
圧抜き回路Cは高圧側回路A2の高圧シャットオフ弁8のVCロール側より分岐して戻し回路Bの途中に接続する回路であり、戻し回路B方向への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換える圧抜きシャットオフ弁14と、VCロール3に封入された油が取付位置の高低差によりタンク26に戻らないように遮断するアングルチェック15とを設けている。
【0044】
補給回路Dは増圧器2に減圧された油を送給する回路であり、補給圧力を調整する減圧弁11と、増圧器2への圧油の送給弁とその送給を遮断する逆止弁とを切り換える補給シャットオフ弁12と、増圧器2へ送給された低圧油の逆流を遮断するチェック弁13とを設けている。
【0045】
リリーフ回路Eはアンロードリリーフ弁5とラインフィルター6の中間から分岐しタンク26に接続された回路であり、油圧回路上の安全弁としてタンク26に戻すリリーフ弁10を設けている。
【0046】
アキュムレータ回路Fはアンロードリリーフ弁5にて設定される圧油を蓄圧する回路であり、アキュムレータ20と、アキュムレータ20を操作するソレノイド弁21とを設けている。
【0047】
冷却清浄回路GはVCロールのロータリージョイントのクーリングおよびクリーニングを行う回路であり、VCロールからの戻り油を冷却するオイルクーラー24と、VCロールからの戻り油を濾過清浄するリターンフィルター25とを備えている。
【0048】
降圧回路Hは圧抜きシャットオフ弁14のVCロール側より分岐して圧抜きシャットオフ弁14とアングルチェック15の中間に接続する回路であり、高圧シャットオフ弁8と相反する関係で開閉する降圧シャットオフ弁22と、高圧シャットオフ弁8により保持されるVCロール側の圧力を強制的に降圧する油洩れ量設定弁23とを設けている。
【0049】
また、増圧器2はピストン4と、ピストン4の上限を検出するリミットスイッチ(LS1)16と、ピストン4の中間位置を検出するリミットスイッチ(LS2)18と、ピストン4の下限を検出するリミットスイッチ(LS3)19と、ピストン4の上限手前信号用リミットスイッチ(LS4)17とを備えている。
【0050】
次に、本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路の作動状態について説明する。
【0051】
主圧力回路Aでは、タンク26よりフィルターを経て油圧ポンプ1にて吐出された油は、アンロードリリーフ弁5にて、圧力が一例として16.7〜19.6MPaに設定される。油の一部はソレノイド弁21の操作にて、アキュムレータ20に蓄圧される。一方、油圧ポンプ1から吐出された油はラインフィルター6を経て、サーボ弁7に供給され、増圧器2を通じて、高圧を発生させるようにサーボ弁7が操作される。アンロードリリーフ弁5とサーボ弁7の戻り油はリターンフィルター25とオイルクーラー24を経てタンク26に送られる。
【0052】
主圧力回路A2では、増圧器2によって昇圧された高圧油はシャットオフ弁8を経て、VCロール3に供給される。また、この高圧力は、プレッシャートランスデューサー9に導かれ、サーボ弁7駆動のフィードバック信号となる。
【0053】
冷却清浄回路Gでは、油圧ポンプ1から吐出された油はラインフィルター6を経て、減圧弁11により、一例として1.5〜2.5MPaにコントロールされ、VCロール3のロータリージョイントのクーリングとクリーニングのために、VCロール3に供給される。ロータリージョイントからの戻り油は、リターンフィルター25とオイルクーラー24を経てタンク26に戻っていく。
【0054】
制御開始時は、増圧器2はリミットスイッチ(LS3)19の位置にあり、圧力を増圧し始めると、増圧器2はリミットスイッチ(LS3)19からリミットスイッチ(LS2)18の方向に移動し、油を圧縮し始める。制御が長時間に渡る場合、油洩れによって、増圧器2がリミットスイッチ(LS2)18を超えて、リミットスイッチ(LS1)16の方向に移動していく。
【0055】
増圧器2はピストン4のストローク位置がリミットスイッチ(LS1)16に達すると、高圧シャットオフ弁8が閉じて、VCロール3の内圧を保持した状態で、ピストン4のストローク位置はリミットスイッチ(LS1)16からリミットスイッチ(LS2)18の位置に自動的に復帰する。また、高圧シャットオフ弁8が閉じると同時に降圧シャットオフ弁22が開き、高圧シャットオフ弁8により保圧される圧力容器側の油圧が、油洩れ量設定弁23によって強制的に降圧される。
【0056】
増圧器2のピストン4のストローク位置をリミットスイッチ(LS1)16からリミットスイッチ(LS2)18の位置まで自動的に下降させる際に使用する油は、補給シャットオフ弁12の操作によって減圧弁11とチェック弁13を経て、増圧器2の高圧側に補給される。
【0057】
ピストン4がリミットスイッチ(LS2)18の位置に到達すると、その位置で停止し、サーボ弁7は正常な圧力制御に復帰する。このとき、降圧シャットオフ弁22および油洩れ量設定弁23による強制的な降圧量がフィードバック信号に変換されサーボ弁7に送られる。サーボ弁7の圧力制御が再開された後、補給シャットオフ弁12が閉じて増圧器2への圧油の送給が遮断される。
【0058】
高圧シャットオフ弁8が開くと同時に降圧シャットオフ弁22が閉じて、高圧シャットオフ弁8により保圧されていた圧力容器側の圧油と、強制的な降圧量によるフィードバック信号を受信したサーボ弁7の圧力制御によって圧力容器側の圧油と同等の圧力まで昇圧された圧油とが合流する。
【実施例】
【0059】
図5に示すVCロールの油圧制御回路を用いて、増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量の測定を行った。
【0060】
図6は、本発明の油圧制御回路を使用した場合に、高圧シャットオフ弁に分離されるVCロール側と増圧器側の圧力波形を模式的に示す図である。同図中のΔP2は増圧器自動復帰回路が作動してからシャットオフ弁が開くまでのVCロール側の圧力制御偏差を表し、θ2は圧力制御再開後の増圧器の昇圧速度を表す。
【0061】
同図に示すように、増圧器のピストンが上限LS1に到達すると、増圧器の自動復帰回路が作動して高圧シャットオフ弁が閉じた。このとき、VCロール側では、高圧シャットオフ弁が閉じたことにより圧力が保持されるが、油洩れによる微小な圧力偏差ΔP2が生じた。圧力偏差ΔP2は、降圧シャットオフ弁と油洩れ量設定弁を付加したことにより、前記図3の圧力偏差ΔP1より大きな値となっていた。
【0062】
増圧器側では、減圧弁の設定値で増圧器が下降作動して中間LS2に到達すると、圧力制御が再開されて昇圧速度θ2で圧油が昇圧した。昇圧速度θ2は、従来の圧力偏差ΔP1よりも大きな圧力偏差ΔP2を与えた効果により、前記図3の昇圧速度θ1よりも大きな値となっていた。
【0063】
これらの結果として、前記図6に示すように、高圧シャットオフ弁が開く瞬間に高圧シャットオフ弁に分離される圧力容器側と増圧器側の圧油が混合しても圧力の降下は0.5MPaに止まった。
【0064】
このように、本発明の油圧制御回路を使用すれば、従来の油圧制御回路に比べて、増圧器の自動復帰時の圧力降下量が1/20〜1/30以下に低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路によれば、降圧シャットオフ弁と油洩れ量設定弁を装備することにより、増圧器の自動復帰回路が作動するに際し、増圧器の圧力制御の再開から高圧シャットオフ弁が開き増圧器側と圧力容器側の圧油が合流するまでの間に、増圧器側の圧力が圧力容器側の圧力に到達するだけの圧力偏差を与えることができるので、増圧器の自動復帰回路が作動する際の圧力降下量を最小限に止め、圧力容器の連続圧力制御が可能となる。
【0066】
このため、本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路をVCロールに用いれば、VCロールを使用した圧延機による圧延作業を連続して行う場合でも、油洩れに起因して生じる圧力の降下を防止できるため、品質の良好な鋼板等の板材(銅材、鉄材、アルミ材、ステンレス材、銅箔材、アルミ箔材、その他の板材)を製造することができる。
【0067】
このように、本発明の圧力制御性に優れる油圧制御回路は、圧力降下が最小の連続圧力制御が可能であるため、VCロールに限らず様々な圧力容器等の連続圧力制御装置にも広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】VCロールの油圧制御回路に設けられる増圧器用リミットスイッチの取り付け位置とその作用を説明する図である。
【図2】従来の油圧制御回路に設けられる増圧器の自動復帰回路の作動順序(S1〜S8)の一例を示す図である。
【図3】従来の油圧制御回路を使用した場合に、高圧シャットオフ弁に分離されるVCロール側と増圧器側の圧力波形を模式的に示す図である。
【図4】本発明の油圧制御回路に設けられる増圧器の自動復帰回路の作動順序(S1〜S10)の一例を示す図である。
【図5】本発明の油圧制御回路をVCロールに用いた場合の一例を示す図である。
【図6】本発明の油圧制御回路を使用した場合に、高圧シャットオフ弁に分離されるVCロール側と増圧器側の圧力波形を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1.油圧ポンプ 2.増圧器
3.VCロール 4.ピストン
4a.ピストンの検出部 5.アンロードリリーフ弁
6.ラインフィルター 7.サーボ弁
8.高圧シャットオフ弁 9.プレッシャートランスデューサー
10.リリーフ弁 11.減圧弁
12.補給シャットオフ弁 13.チェック弁
14.圧抜きシャットオフ弁 15.アングルチェック
16.リミットスイッチLS1 17.リミットスイッチLS4
18.リミットスイッチLS2 19.リミットスイッチLS3
20.アキュムレータ 21.ソレノイド弁
22.降圧シャットオフ弁 23.油洩れ量設定弁
24.オイルクーラー 25.リターンフィルター
26.タンク
A.主圧力回路 A1.低圧側回路
A2.高圧側回路 B.戻し回路
C.圧抜き回路 D.補給回路
E.リリーフ回路 F.アキュムレータ回路
G.冷却清浄回路 H.降圧回路
S1〜S10.作動手順

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される圧油を昇圧する増圧器と、前記増圧器の発生圧を制御する可変制御手段と、圧力容器側の圧力を保持する保圧手段と、圧力容器側の圧力を降下する降圧手段とを備える油圧制御回路であって、
前記増圧器がピストンと、ストロークを検出するための検出手段とを備えて、
前記増圧器の自動復帰回路が作動する際に、前記降圧手段によって、前記保圧手段により保持される圧力容器側の圧油に強制的に圧力偏差を与えることを特徴とする圧力制御性に優れる油圧制御回路。
【請求項2】
前記降圧手段が、前記保圧手段による圧力の保持と相反する関係で圧力容器側の圧力を降下するように開閉する降圧シャットオフ弁と、前記保圧手段により保持される圧力容器側の圧力を強制的に降下する油洩れ量設定弁とを備えることを特徴とする請求項1に記載の油圧制御回路。
【請求項3】
前記保圧手段が、圧力容器側への前記増圧器による発生圧の送給弁とその逆流を遮断する逆止弁とを切り換える高圧シャットオフ弁を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の油圧制御回路。
【請求項4】
前記可変制御手段が、前記増圧器の発生圧が目標設定値となるように制御するサーボ弁と、圧力容器の高圧力を前記サーボ弁が駆動するためのフィードバック信号に変換するプレッシャートランスデューサーとを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油圧制御回路。
【請求項5】
前記検出手段が、前記ピストンの上限を検出するリミットスイッチ1と、前記ピストンの中間位置を検出するリミットスイッチ2と、前記ピストンの下限を検出するリミットスイッチ3と、前記ピストンの上限手前信号用リミットスイッチ4とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油圧制御回路。
【請求項6】
前記自動復帰回路が、前記増圧器のピストンが上限に到達すると前記増圧器が強制下降モード(不感帯状態)となり、同時に前記保圧手段が圧力容器側の圧力を保持し、前記可変制御手段の後退指令により前記ピストンが下降し、前記ピストンが中間位置に到達すると、前記増圧器が再び制御モードになり、前記保圧手段が圧力容器側の圧力を開放し、圧力制御を行うようにシーケンス制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の油圧制御回路。
【請求項7】
圧延機用のクラウン可変ロールの圧力制御に適用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の油圧制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−247802(P2007−247802A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72818(P2006−72818)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】