説明

圧力式流量制御装置

【課題】 非臨界膨張条件にある流体中の同一点の流体圧力と流体温度を同時に測定してオリフィス通過流量を高精度に制御できる圧力式流量制御装置を実現する。
【解決手段】 流量制御用のオリフィス4と、オリフィス4の上流側配管に設けられたコントロールバルブ22と、オリフィス4とコントロールバルブ22の間に設けて上流側圧力Pを検出する上流側圧力センサ10と、オリフィス4の下流側配管に設けて下流側圧力Pを検出する下流側圧力センサ12と、上流側圧力Pと下流側圧力Pによりオリフィス通過流量を流量式Qc=KP(P−Pによって演算しながらコントロールバルブの開閉によりオリフィス通過流量を制御する圧力式流量制御装置であって、上流側圧力センサ10又は下流側圧力センサ12は圧力を受けたときに電気抵抗が変化する抵抗素子から構成され、この圧力センサとしての抵抗素子を同時に温度センサとしても用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として半導体製造設備や化学プラント等で使用される圧力式流量制御装置に関し、更に詳細には、流体の圧力を計測する圧力センサを抵抗素子で構成し、同時にこの抵抗素子を流体温度計測用の温度センサとして使用する圧力式流量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造設備や化学プラントなどでは、原料となる複数のガスを所定の流量で供給し、原料ガスを反応炉の中で化学反応させて目的ガスを生成する場合が多い。このような場合に、原料ガスの供給流量が正確でないと化学反応に過不足が生じ、目的ガスの中に原料ガスが残留する事態が生じる。特に、この原料ガスが引火性の場合には爆発の危険性が付きまとう。
【0003】
従来、ガス流量を正確に制御するために、配管内にオリフィスを配置し、このオリフィスを通過する理論流量として出来るだけ精度の良い流量式が選択されてきた。特に、ガス流の非圧縮性を考慮して、オリフィスを通過するガス流の流速を音速領域に設定して流量制御する方法が使用されている。
【0004】
この流量制御方法では、オリフィスの上流側圧力Pと下流側圧力Pの圧力比P/Pを約0.5の臨界値より小さくしたとき、オリフィスを通過するガスの流速が音速に達し、この音速領域で理論流量式が高精度にQc=KPによって表現される性質が利用されている。ここで、比例係数Kは流体の種類と流体温度に依存することが分かっている。
【0005】
この理論流量式によりオリフィス通過流量を制御するには、オリフィスの上流側圧力Pと上流側の流体温度Tを正確に測定することが必要となる。上流側圧力Pはダイヤフラムで受圧され、圧力伝達媒体を経由して抵抗素子で測定される。他方、流体温度Tはオリフィスを組み込んだ弁装置にサーミスタを別個に配置することにより測定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−338546号
【特許文献2】特開2000−322130号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、上流側圧力はダイヤフラムに直接接触して作用し、圧力伝達媒体を経由して圧力センサである抵抗素子で計測されるから、流体圧を正確に測定することができる。他方、温度センサであるサーミスタは流体に直接接触せず、前述した弁装置内のオリフィス近傍位置に配置されている。流体はオリフィスを継続的に通過するから、オリフィス近傍位置は流体と熱平衡状態に到達して温度が等しくなっていると考えられ、オリフィス近傍位置に配置されたサーミスタは流体温度を正確に再現できると考えられたからである。
【0008】
ところが、弁装置は一般に金属により形成されるから、熱伝導性は極めて高い。流体からオリフィス位置で吸引された熱は、弁装置の外側表面へと急速に熱伝達し、この温度傾斜によりオリフィスから少し離れた位置の温度でも、流体温度と同一ではない。サーミスタは有限の幾何学的寸法を有しているから、サーミスタがオリフィス近傍に配置されたとしても、その測定温度は流体温度から僅かにずれていると考えられる。従って、このサーミスタ温度を流体温度として流量を計算した場合には、Qc=KPによる演算流量に誤差を誘導する第1の原因となる。
【0009】
また、Qc=KPの演算に使用される上流側圧力Pと流体温度Tは、理論的には上流側流体の同一点における圧力と温度である。このことは流量式Qc=KPを導出する過程において、同一点の圧力Pと温度Tが使用されていることからも理解できる。
【0010】
ところが、従来の圧力式流量制御装置では、前述したように、抵抗素子により流体圧力を測定し、別に配置されたサーミスタにより流体温度を測定している。抵抗素子とサーミスタが極小化されたとしても、両者は別体であるから、必然的に圧力と温度の測定点は異なってくる。両者が有限の大きさを有し、しかも取付位置が異なっている実情では、圧力と温度の測定位置が多少とも離間し、前記流量式に第2の誤差を誘導する原因となる。
【0011】
従って、本発明に係る圧力式流量制御装置の温度測定装置は、流体圧力を測定する位置と同一位置の流体温度を直接測定することにより、流量式の理論的要請を満足させて、オリフィスを通過する流体の流量を高精度に制御することを目的とする。この目的を達成するために、本発明は下記の発明群から構成される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、流量制御用のオリフィスと、オリフィスの上流側配管に設けられたコントロールバルブと、オリフィスとコントロールバルブの間に設けて上流側圧力Pを検出する上流側圧力センサと、オリフィスの下流側配管に設けて下流側圧力Pを検出する下流側圧力センサと、上流側圧力Pと下流側圧力Pによりオリフィス通過流量を流量式Qc=KP(P−P(Kは流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量をこの流量式でフィットすることにより導出された値)によって演算しながらコントロールバルブの開閉によりオリフィス通過流量を制御する圧力式流量制御装置であって、前記上流側圧力センサ又は下流側圧力センサは圧力を受けたときに電気抵抗が変化する抵抗素子から構成され、この圧力センサとしての抵抗素子を同時に温度センサとしても用いることを特徴とする圧力式流量制御装置である。
【0013】
第2の発明は、前記抵抗素子において、受圧面に4個の抵抗が配置され、この4個の抵抗を4辺とするブリッジ回路が形成され、このブリッジ回路の入力端子間に定電流電源が接続され、出力端子間の電圧変化で流体圧力を検出し、前記入力端子間の電圧変化で流体温度を検出する圧力式流量制御装置である。
【0014】
第3の発明は、シリコン基板に抵抗が拡散形成された抵抗素子を用いる圧力式流量制御装置である。
【0015】
第4の発明は、第1の発明において、前記流量式の指数m、nがm=n=0.5である圧力式流量制御装置である。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、オリフィス通過流速が音速よりも低い非臨界膨張条件下において、上流側圧力センサまたは下流側圧力センサの少なくとも一方を抵抗素子で構成するから、この抵抗素子により流体圧力と流体温度の両方が同時に測定でき、従来から必要であった温度センサが不要となり、しかも流体の同一点の圧力と温度を同時に測定できる。従って、回路構成の簡単化と流量制御の高性能化を同時的に満足し、装置全体の低価格化に貢献できる。
【0017】
第2の発明によれば、受圧面に4個の抵抗を配置し、この4個の抵抗を4辺とするブリッジ回路から抵抗素子を構成するから、ブリッジ回路の入力端子間に定電流電源を接続すると、出力端子間電圧で流体圧力を検出し、入力端子間電圧(ブリッジ電圧)で流体温度を検出することが可能となる。従って、従来から圧力センサとして利用されてきた抵抗素子を圧力温度センサとして圧力式流量制御回路に用いて、部品点数の減少と価格低減に貢献することができる。
【0018】
第3の発明によれば、従来から存する拡散型半導体圧力トランスジューサを温度トランスジューサとしても機能させることができ、この新規な拡散型半導体圧力温度トランスジューサを圧力式流量制御装置に組み込んで、部品点数の低減による装置サイズの低減化と同一点の圧力と温度を同時測定する事による圧力式流量制御装置の高性能化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】臨界条件を利用した圧力式流量制御装置による流量制御の構成図である。
【図2】抵抗素子からなる圧力温度センサ10の要部断面斜視図である。
【図3】図2に示す抵抗素子の等価回路図である。
【図4】圧力温度センサ10の圧力特性と温度特性測定用の実験装置図である。
【図5】3種類の圧力温度センサのブリッジ電圧―温度特性図である。
【図6】3種類の圧力温度センサの同一温度におけるブリッジ電圧―圧力特性図である。
【図7】本発明の圧力式流量制御装置の制御系の詳細ブロック構成図である。
【図8】本発明に係る非臨界膨張条件を利用した圧力式流量制御装置の流量制御の構成図である。
【図9】本発明に係る非臨界膨張条件を利用した改良型圧力式流量制御装置による流量制御の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者等は、流体中の同一位置における流体圧力と流体温度を同時に計測するために鋭意研究した結果、圧力センサと温度センサを別体で配置することを止め、圧力センサを同時に温度センサとして利用できないかという着想を得て本発明を想到するに到ったものである。
【0021】
本発明者等は、従来より流体の流量制御を行なう場合に、圧力センサとして抵抗素子を使用している。この抵抗素子は、圧力を受けたときに抵抗が変化する性質を利用したもので、一般的には4個の抵抗をシリコン基板上に形成し、この4個の抵抗を4辺としたホイートストンブリッジが構成されている。
【0022】
この圧力センサの原理は次の通りである。ホイートストンブリッジの入力端子間に接続された定電流電源により抵抗には定電流が流れる。圧力を受けると抵抗の抵抗値が変化するから、ブリッジの出力端子間の電圧が変化し、この出力端子間の電圧により流体圧力を測定することができる。
【0023】
この圧力センサを同時に温度センサとして利用するために、本発明者等は、ホイートストンブリッジの入力端子に着目した。入力端子間には定電流電源が接続されているものの電圧電源は接続されていないから、入力端子間の電圧は抵抗変化に応じて当然に変化する。
【0024】
本発明者等は、この抵抗素子を恒温槽に配置して、温度を変化させながら入力端子間の電圧を測定した結果、温度変化に対して広範囲に電圧が変化することを発見した。また、温度を一定に保持しながら圧力だけを変化させたとき、入力端子間の電圧はほとんど変化しないか、又は本発明装置が許す誤差範囲内の変化しか示さなかった。
【0025】
以上の結果から、抵抗素子の入力端子間電圧により流体温度を測定することが可能であることが実証された。そこで、以下では、この入力端子間電圧をブリッジ電圧とも称し、流体温度測定に専用的に使用する。また、従来通り、出力端子間電圧は流体圧力の測定用に使用されるので、この抵抗素子は流体の同一点に対し機能する圧力センサ且つ温度センサであり、総合して圧力温度センサと称することもできる。
【0026】
以下に、本発明に係る圧力式流量制御装置の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0027】
図1は臨界膨張条件を利用した圧力式流量制御装置による流量制御の構成図である。この圧力式流量制御装置2は、供給される流体が臨界膨張条件にある場合、即ちオリフィス4から流出する流体の速度が音速である場合を前提としているため、流量はQc=KPで表される。
【0028】
この圧力式流量制御装置2には、オリフィス孔4aを形成したオリフィス4、上流側配管6、下流側配管8、上流側の圧力温度センサ10、制御回路16、バルブ駆動部20及びコントロールバルブ22が配置されている。
【0029】
圧力温度センサ10は抵抗素子から構成され、後述するようにホイートストンブリッジの出力端子間電圧で上流側の流体圧力を検出し、またその入力端子間電圧(ブリッジ電圧とも云う)で流体中の同一点の流体温度を検出するように構成されている。
【0030】
制御回路16は電子回路とマイクロコンピュータと内蔵プログラムを中心に構成されているが、電子回路だけで構成してもよいし、電子回路とパーソナルコンピュータで構成してもよい。この制御回路16は、図示しない増幅回路やA/D変換器などの電子回路系と、実験流量式による流量Qcを演算する流量演算手段17と、流すべき設定流量Qsを指令する流量設定手段18と、演算流量Qcと設定流量Qsの流量差ΔQ(=Qs−Qc)を計算する比較手段19から構成されている。流量差ΔQはQc−Qsにより算出されてもよい。
【0031】
この圧力式流量制御装置2の上流側には、高圧ガスを内蔵するガスタンク24と、この高圧ガスのガス圧力を適度に調整するレギュレータ26と、このガスを供給側配管27からコントロールバルブ22に供給するバルブ28が接続されている。
【0032】
また、圧力式流量制御装置2の下流側には、流量制御されたガスを流通させる制御側配管29と、このガスをチャンバー32に供給するバルブ30と、真空ポンプ34が連結されている。チャンバー32は供給される原料ガスから目的ガスを生成する反応室で、例えばHとOの原料ガスからHOの水分ガスを生成する反応室である。
【0033】
次に、この圧力式流量制御装置2の制御動作を説明する。上流側では供給側配管27に所定圧力のガスが供給され、更にバルブ駆動部20により開閉制御されるコントロールバルブ22により上流側配管6への供給流量が制御される。同時に、下流側では真空ポンプ34により下流側配管8が低圧に設定されている。
【0034】
真空ポンプ34による排気で、下流側配管8内の下流側圧力Pは上流側圧力Pよりもかなり小さく設定され、少なくともP/P<約0.5の臨界膨張条件が常に満足されるように自動的に設定されるから、オリフィス孔4aから流出するガス速度は音速となっている。従って、オリフィス4の通過流量はQc=KPで表現される。
【0035】
上流側圧力Pは圧力温度センサ10により計測される。正確な圧力測定をするため、ガス圧力は耐食性に優れたダイヤフラムで直接受圧され、圧力伝達媒体を経由して圧力温度センサ10のセンサ部分で圧力計測されるように構成されている。しかも、ガス流を撹乱しないように、そのセンサ部分は極めて小さく設計されている。従って、センサ部分はガス温度Tに等しくなっている。
【0036】
図2は抵抗素子からなる圧力温度センサ10の要部断面斜視図である。リードピン36、36を有したヘッダー35の上にガラス台座37が配置され、このガラス台座37の上に脚部38a、38aで両端支持されたシリコン基板38が固定されている。シリコン基板38の下面には隙間状の空間部39が形成され、この空間部39に連続して貫通孔41が穿孔されている。
【0037】
シリコン基板38の上面には4個の抵抗41a、41b、41c、41dが熱拡散法で形成されている。この抵抗は、表面に応力が加えられると、この応力に相応して電気抵抗が変化する性質を有している。従って、定電流を流すと、応力に相応して電圧が変化し、この電圧変化により圧力測定が可能になる。
【0038】
ガス圧力(流体圧力)は図示しないダイヤフラムで受圧されて圧力伝達媒体(流体)に圧力Pを生起させ、圧力伝達媒体に生じた圧力Pがシリコン基板38の上面を押圧して、圧力Pが抵抗41a〜41dに作用する。一方、空間部39を真空にすると、シリコン基板38は流体圧力Pだけで変形するから、流体の絶対圧力がシリコン基板38に作用し、絶対圧力センサとして機能する。また、貫通孔41が大気に開放されていると、流体圧力Pと大気圧の差圧がシリコン基板38を変形させるから、流体のゲージ圧力がシリコン基板38に作用し、ゲージ圧力センサとして機能する。
【0039】
図3は図2に示す抵抗素子の等価回路図である。抵抗41a、41b、41c、41dはホイートストンブリッジの4辺を構成し、一方の対角点C・Dには入力端子42a・42bが連結され、この入力端子間に定電流電源43が接続されている。また、他方の対角点A・Bには出力端子44a、44bが連結されている。
【0040】
4個の抵抗41a、41b、41c、41dは圧力Pを受けて抵抗値が変化する。定電流電源43から矢印方向に定電流Iが流され、前記抵抗変化によりAB間の電位差が変化し、出力端子44a・44bの間に流体圧力に相応した電圧Vが生じる。この明細書では、電圧Vを出力端子間電圧と呼び、流体圧力の検出電圧の意味で圧力電圧とも称する。
【0041】
この抵抗素子を流体温度測定にも利用するために、本発明者等は他方の対角点C・Dに着目した。定電流Iにより点CD間にも電位差が発生し、この電位差は入力端子42a・42bの間で検出できるから、入力端子間電圧又はブリッジ電圧とも称される。本発明者等はこのブリッジ電圧Vが流体温度によってかなり変化すると予測した。
【0042】
図4は圧力温度センサ10の圧力特性と温度特性測定用の実験装置図である。抵抗素子からなる圧力温度センサ10を装填した圧力式流量制御装置2が恒温槽CTの内部に配設され、基準圧力発生器PGと真空ポンプDPがバルブV、Vを介して配管系PSに接続されている。
【0043】
まず、バルブVを閉鎖し、バルブVを開放して、真空ポンプDPにより配管系PSを真空状態、即ち内部圧力を0(kPa・abs)に設定する。この状態で恒温槽CTの内部温度を25℃から100℃まで変化させながら、各温度毎に圧力温度センサ10を作動させる。No.1、No.2及びNo.3の3種類の圧力温度センサに対し、絶対圧ゼロの状態で、各温度毎にブリッジ電圧Vが測定された。
【0044】
図5は3種類の圧力温度センサのブリッジ電圧―温度特性図である。この特性図は絶対圧がゼロの真空状態で得られ、横軸は温度T(℃)、縦軸はブリッジ電圧V(V)を示す。
【0045】
3種類の圧力温度センサ10はNo.1、No.2及びNo.3で示され、恒温槽CTの温度は25℃から100℃まで変化された。温度T(℃)に対するブリッジ電圧V(V)の依存性は、No.1は実線、No.2は鎖線及びNo.3は破線で示され、ほぼ直線になっている。
【0046】
No.1、No.2及びNo.3において、25℃でのブリッジ電圧Vは7.295V、7.380V及び7.271Vであり、100℃でのブリッジ電圧Vは8.966V、9.076V及び8.925Vであった。圧力温度センサによる個性の違いは、同一温度で約0.15V程度あるが、個々のセンサで直線性は極めて高い。
【0047】
25℃から100℃までの75℃の温度差で、ブリッジ電圧Vの変化量は2.228V(No.1)、2.205V(No.2)及び2.261V(No.3)である。従って、1℃当たりのブリッジ電圧Vの変化量は、22.28mV(No.1)、22.05mV(No.2)及び22.61mV(No.3)とかなり大きいことが分かる。1℃の変化でブリッジ電圧Vは約20mVも変化するから、ブリッジ電圧Vにより温度Tを測定できることが示される。
【0048】
図6は3種類の圧力温度センサの同一温度におけるブリッジ電圧―圧力特性図である。圧力温度センサ10のブリッジ電圧Vが圧力によってどの程度変化するかが測定された。もし、ブリッジ電圧が圧力にほとんど依存しないならば、ブリッジ電圧Vは温度測定に使用できることが実証される。
【0049】
図6には、温度を25℃に保持した場合と100℃に保持した場合の2通りの実験結果が示されている。両者とも、圧力Pを0〜700(kPa・abs)まで変化させた場合について、ブリッジ電圧Vが測定された。
【0050】
25℃において圧力Pを0から700(kPa・abs)まで変化させると、ブリッジ電圧Vは7.295V→7.285V(No.1)、7.271V→7.261V(No.2)及び7.380V→7.370V(No.3)まで変化した。従って、700(kPa・abs)の圧力変化に対して、3種類の圧力温度センサともにブリッジ電圧Vの変化量は−10mVと極めて微小な変化を示したに過ぎなかった。
【0051】
また、100℃において圧力Pを0から700(kPa・abs)まで変化させると、ブリッジ電圧Vは8.966V→8.956V(No.1)、8.925V→8.915V(No.2)及び9.076V→9.067V(No.3)まで変化した。従って、700(kPa・abs)の圧力変化に対して、3種類の圧力温度センサのブリッジ電圧Vの変化量は−10mV、−10mV及び−9mVとなり、センサの個性の違いが現れるものの、前述と同様に極めて微小な変化を示すに過ぎなかった。
【0052】
以上をまとめると、700(kPa・abs)の圧力変化に対して、25℃では−10mV、100℃では約−10mVのブリッジ電圧Vの変化が見られる。ブリッジ電圧Vは75℃の温度変化に対して約2Vも変化するのであるから、10mVはその0.5%に過ぎない。
【0053】
誤差についてもう少し議論する。ガス流体の実使用圧力を350(kPa・abs)とすると、ブリッジ電圧Vの変動は10mV/2=5mVとなる。No.1の圧力温度センサでは1℃当たり22.28mVも変化するから、前記の5mVは5/22.8より0.224℃の温度誤差を与えるに過ぎない。
【0054】
この0.224℃の温度誤差は、ガス温度補正では所要の計算により0.04%の誤差を与えるに過ぎない。また圧力センサとしてのゼロ点温度ドリフトを1℃当たり0.1%とすると、0.224℃の温度誤差に対して0.1%×0.224=約0.02%の誤差を誘導する。従って、前記0.224℃の温度誤差は0・04%+0.02%=0.06%から0.06%の誤差を誘引するに過ぎない。この圧力式流量制御装置の誤差は例えば1%以下のように設計されるから、0.06%の誤差は全体誤差に埋没する程度に過ぎないものである。
【0055】
従って、抵抗素子を用いた圧力温度センサは、圧力と温度を相関関係無く同時に測定でき、圧力センサであると同時に温度センサとしても機能することができる。従って、前述したように、抵抗素子の出力端子間電圧(圧力電圧)Vで圧力測定を行い、入力端子間電圧、即ちブリッジ電圧V(温度電圧とも云う)で温度測定を行なえるから、抵抗素子は圧力温度センサと呼ぶに相応しい素子であると言う事ができる。
【0056】
図7は本発明の圧力式流量制御装置の制御系の詳細ブロック構成図である。上述した圧力温度センサ10は流体の上流側圧力Pとその同一点の流体温度Tを同時に測定する。この圧力温度センサ10の圧力Pに相当する圧力電圧(出力端子間電圧)Vが固定増幅回路45と可変増幅回路47により増幅され、A/D変換器48を介してCPU51に入力されて圧力Pに変換される。また、可変増幅回路46を通して上流側圧力Pを外部に表示する。
【0057】
圧力温度センサ10は抵抗素子から構成され、圧力がゼロでも圧力電圧Vを出力する場合があり、このVをゼロ点ドリフト電圧という。この場合には、オフセット用D/A変換器49を介して、電圧−Vをオフセット端子45aに出力して、ゼロ点ドリフトを強制的にゼロに設定する。
【0058】
他方、圧力温度センサ10は流体温度Tに相当するブリッジ電圧Vを出力し、このブリッジ電圧Vを固定増幅器56及びA/D変換器58を介してCPU51に出力する。このブリッジ電圧Vは温度変換手段50により流体温度Tに変換される。
【0059】
この流体温度Tは温度ドリフト補正手段60とガス温度補正手段68に入力される。温度ドリフト補正手段60では、ゼロ点補正手段62とスパン補正手段66により流体温度Tに対応した補正がメモリ手段64のデータを活用しながら行なわれる。また、ガス温度補正手段68では、演算流量Qcの比例係数Kの補正が流体温度Tを用いて行なわれる。
【0060】
このようにして、正確な上流側圧力Pと比例定数Kが算出され、これらデータから演算流量QcがQc=KPとして演算される。この演算流量QcはD/A変換器72と固定増幅回路74を介して出力され、図示しない外部表示装置に表示される。
【0061】
流量設定手段18から目的流量として入力された設定流量Qsは、固定増幅回路76とA/D変換器78を介して比較手段19に入力される。一方、ガス温度補正手段68から演算流量Qcが比較手段19に入力され、流量差ΔQがΔQ=Qc−Qsとして計算され、バルブ駆動部20に出力される。
【0062】
バルブ駆動部20は、この流量差ΔQをゼロにするようにコントロールバルブ22の弁開度を開閉調整し、この開閉によって上流側圧力Pが制御される。この結果、ΔQはゼロとなり、演算流量Qcは設定流量Qsに一致するように自動制御される。
【0063】
本発明では、従来から圧力センサとして使用されてきた抵抗素子が温度センサとしても機能するという意外な発見から、一つの抵抗素子を圧力温度センサとして活用する道を開いたものである。従って、ブロック構成図から分るように、1個の圧力温度センサで圧力と温度の測定が可能となり、回路構成の簡単化と低価格化を同時に達成することに成功した。
【0064】
図8は、本発明に係る非臨界膨張条件を利用した圧力式流量制御装置の構成図である。この圧力式流量制御装置2は、供給される流体が非臨界膨張条件にある場合、即ちオリフィス4から流出する流体の流体速度が音速より低い場合を前提としている。
【0065】
流体が非臨界膨張条件にあるとき、オリフィス通過流量の理論流量式の一つは、非圧縮性流体に対して成立するベルヌーイの定理から導出したもので、Q=KP1/2(P−P1/2で与えられる。但し、オリフィスの通過前後で流体温度は変化しないことを前提とする。図8では、この理論流量式を使用して、ガス流量を制御する。
【0066】
この流量式では、オリフィス通過量Qは上流側圧力Pと下流側圧力Pの両方を使用して演算される。しかし、流体温度Tは上流側又は下流側のいずれを使用してもよいから、上流側に本発明の圧力温度センサ10を配置し、下流側には圧力センサ12だけを配置する。従って、圧力温度センサ10により上流側圧力Pと流体温度Tが測定され、圧力センサ12により下流側圧力Pが常に計測され、演算流量QcをQc=KP1/2(P−P1/2で算出する。
【0067】
図1との相違点は、下流側圧力Pを圧力センサ12により測定して制御回路16に入力する電子回路系及びソフト系が付加されることである。作用効果は図1とほぼ同様であるから、その詳細を省略する。
【0068】
図9は、本発明に係る非臨界膨張条件を利用した改良型圧力式流量制御装置による流量制御の構成図である。この圧力式流量制御装置2は、供給される流体が非臨界膨張条件にある場合を前提としているが、改良された理論流量式を使用する。
【0069】
実際のガス流体は膨張性と圧縮性を有しているため、非圧縮性を前提としたベルヌーイの定理は近似的にしか成立しない。従って、Qc=KP1/2(P−P1/2で表される流量式は近似式でしかない。本発明者等は、この近似式を改良して実際の流量を高精度に再現できる流量式を検討した。
【0070】
この改良された流量式として、Qc=KP(P−Pを使用することにした。従来は、指数として二つのパラメータm、nを使用し、実際の流量をこの流量式でフィットすることにより、mとnを導出した。これらのパラメータm、nを使用することにより、実際の流量を高精度に再現する事ができた。
【0071】
この実施形態では、改良された流量式を用いて流量演算手段17を構成しており、この点を除けば図8に示す実施形態と全く同様である。即ち、上流側には本発明に係る圧力温度センサ10が配置され、下流側には圧力センサ12が配置されている。その他の構成と作用効果は図1と同様であるから、その説明は省略する。
【0072】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例・設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
2は圧力式流量制御装置、4はオリフィス、4aはオリフィス孔、6は上流側配管、8は下流側配管、10は上流側の圧力温度センサ、12は下流側の圧力センサ、16は制御回路、17は流量演算手段、18は流量設定手段、19は比較手段、20はバルブ駆動部、22はコントロールバルブ、24はガスタンク、26はレギュレータ、27は供給側配管、28はバルブ、29は制御側配管、30はバルブ、32はチャンバー、34は真空ポンプ、35はヘッダー、36はリードピン、37はガラス台座、38はシリコン基板、38aは脚部、39は空間部、41a〜41dは抵抗、42a・42bは入力端子、43は定電流電源、44a・44bは出力端子、45は固定増幅回路、45aはオフセット端子、46は可変増幅回路、47は可変増幅回路、48はA/D変換器、49はオフセット用D/A変換器、50は温度変換手段、51はCPU、56は固定増幅回路、58はA/D変換器、60は温度ドリフト補正手段、62はゼロ点補正手段、64はメモリ手段、66はスパン補正手段、68はガス温度補正手段、72はD/A変換器、74は固定増幅回路、76は固定増幅回路、78はA/D変換器、CTは恒温槽、Pは上流側圧力、Pは下流側圧力、PGは基準圧力発生器、Qcは演算流量、Qsは設定流量、ΔQは流量差、Vはゼロ点出力ドリフト電圧、V・Vはバルブ、Vは圧力電圧、Vはブリッジ電圧(温度電圧)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量制御用のオリフィスと、オリフィスの上流側配管に設けられたコントロールバルブと、オリフィスとコントロールバルブの間に設けて上流側圧力Pを検出する上流側圧力センサと、オリフィスの下流側配管に設けて下流側圧力Pを検出する下流側圧力センサと、上流側圧力Pと下流側圧力Pによりオリフィス通過流量を流量式Qc=KP(P−P(Kは流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量をこの流量式でフィットすることにより導出された値)によって演算しながらコントロールバルブの開閉によりオリフィス通過流量を制御する圧力式流量制御装置であって、前記上流側圧力センサ又は下流側圧力センサは圧力を受けたときに電気抵抗が変化する抵抗素子から構成され、この圧力センサとしての抵抗素子を同時に温度センサとしても用いることを特徴とする圧力式流量制御装置。
【請求項2】
前記抵抗素子において、受圧面に4個の抵抗が配置され、この4個の抵抗を4辺とするブリッジ回路が形成され、このブリッジ回路の入力端子間に定電流電源が接続され、出力端子間の電圧変化で流体圧力を検出し、前記入力端子間の電圧変化で流体温度を検出する請求項1に記載の圧力式流量制御装置。
【請求項3】
シリコン基板に抵抗が拡散形成された抵抗素子を用いる請求項2に記載の圧力式流量制御装置。
【請求項4】
前記流量式の指数m、nが、m=n=0.5であることを特徴とする請求項1に記載の圧力式流量制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−116904(P2009−116904A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25342(P2009−25342)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【分割の表示】特願2002−301421(P2002−301421)の分割
【原出願日】平成14年10月16日(2002.10.16)
【出願人】(000205041)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】