説明

圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機

【課題】簡略な構成によって、ガイドベーンの軸の一つに外部から回動軸を挿入し確実に接続し得、組立作業性向上を図り得る圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機を提供する。
【解決手段】ガイドベーン19の軸20の端面中心部に、該軸20の直径方向へ延びる接続凸部36を形成し、前記ガイドベーンの軸20に形成した接続凸部36に嵌合する接続凹部39を前記回動軸40の先端に設けることにより、嵌合手段60を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンへの過給を行う過給機は、タービンインペラとコンプレッサインペラを同軸上に備え、エンジンの排気によりタービンインペラを回転させ、回転軸を介してコンプレッサインペラを回転させることにより、吸気を取り入れて圧縮し、得られた圧縮空気をエンジンに供給する遠心圧縮機(圧縮機)を備えている。
【0003】
前述の如き過給機の圧縮機においては、該圧縮機に取り入れられる空気量が減少してくると、圧縮機の特性曲線がサージ線を越えてサージング領域に入るという特性がある。従って、前記サージ線を低流量側へ移動させてサージング領域を狭めることができれば、エンジンの運転範囲をワイドレンジとすることができて有益となる。
【0004】
このため、従来、サージング領域に入るような低流量容量の運転状況下でも、サージング領域に入らないようにサージ線を低流量側へ移動させるようにした圧縮機として、コンプレッサインペラの入口上流側に可変ガイドベーン(VIGV:Variable Inlet Guide Vane=以下、単にガイドベーンと略称する)を設けることにより、コンプレッサインペラに向かう空気に予旋回を与えて、圧縮機の流量特性を変化させるようにしたものが提案されており、この種の圧縮機としては、例えば、特許文献1、2が存在する。
【0005】
特許文献1に記載の圧縮機では、コンプレッサインペラへ空気を導く空気入口管(ハウジング)内側の周方向に複数のガイドベーンを放射状に配置すると共に、各ガイドベーンの各軸をハウジングを貫通して外部に導き、該ハウジングの外部には前記各軸に対応した回転駆動装置を設け、該各回転駆動装置によって前記各軸を同時に回転させることにより各ガイドベーンの回動角度を一斉に調整するようにしている。
【0006】
一方、特許文献2に記載の圧縮機では、コンプレッサインペラへ空気を導くハウジング内側の周方向に複数のガイドベーンを放射状に配置し、該各ガイドベーンの各軸をハウジングの内部に設けた空間に導き、該空間内部におけるガイドベーンの各軸には軸と直交方向に延びるアームを取り付け、該アームの端部を他のアームを介してリングに接続している。各ガイドベーンの一つの軸に接続された回転軸がハウジングを貫通して外部に導かれており、前記回動軸を回動させると、前記アームと他のアームを介してリングが回転し、該リングが回転すると前記他のアームとアームを介して前記各軸が同時に回動し、各ガイドベーンの回動角度が一斉に調整されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−023792号公報
【特許文献2】特開2004−190557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載の圧縮機においては、ガイドベーンの各軸をハウジングを貫通して外部に導き、該軸に対応して設けた回転駆動装置により各軸を別個に回転駆動するようにしているので、ハウジング内部の構成は比較的簡単となるものの、複数のガイドベーンの各軸に対応した回転駆動装置をハウジングの外部に複数配設する必要があるため、ハウジング外部の構造が複雑となり、且つガイドベーンの数に応じた複数の回転駆動装置が必要となることから大幅なコストアップにつながるという問題があった。又、ハウジングの外部に複数の回転駆動装置が設置されると、外部からの衝撃等を受けることにより回転駆動装置が損傷する可能性があった。更に、前記複数の回転駆動装置を同期して駆動するために制御が必要になるという問題もあった。
【0009】
一方、前記特許文献2に記載の圧縮機では、ハウジングに設けた空間に、リングと、ガイドベーンの各軸とリングとを接続するためのアーム及び他のアームを備え、ガイドベーンの一つの軸をハウジングを貫通した回動軸によって回動するようにしているので、前記回動軸を回動させる一つの駆動装置を備えることで、全てのガイドベーンの回動角度を一斉に調整できる利点があり、ハウジング外部の構成を簡略化することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献2では、ガイドベーンの各軸とリングとの間に備えるアーム及び他のアームを、狭い空間内部で接続する必要があり、組立作業が非常に困難であるという問題があった。又、軸とリングとの間の力の伝達を前記アーム及び他のアームを介して行う構成では、各部の製作精度のバラツキ等によって各ガイドベーンの回動に誤差を生じる可能性があった。更に又、特許文献2では特に説明されていないが、ガイドベーンの各軸はハウジングの空間を形成する内壁の孔を貫通し、この孔の軸受によって回動可能に支持する必要があるが、前記したように軸に予めアームが備えられている場合には、前記軸を内壁の孔に貫通させることができなくなる虞もあった。
【0011】
上記したような組立性の問題を解消するには、前記ガイドベーンの各軸をハウジングを貫通して外部に突出して設け、ハウジングの外部に設けた回動リング機構によって前記各軸を一斉に回動させるようにしたものも考えられる。しかし、このようにハウジングの外部に回動リング機構を設けた場合には、圧縮機の外形形状が大型化する問題があると共に、外部からの衝撃等によって損傷する可能性が高まる。
【0012】
従って、上記観点から、圧縮機のガイドベーンを一斉に回動するための機構はハウジング内部に設けられることが好ましいが、一斉回動のための機構をハウジング内に設けた場合には、組み立て等の作業性が非常に悪くなるという問題がある。特に、車載用のターボチャージャに備えられる圧縮機は、近年、小型・軽量化が進められており、このような小型の圧縮機においては、組み立ての作業性に優れた技術の出現が望まれている。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡略な構成によって、ガイドベーンの軸の一つに外部から回動軸を挿入し確実に接続し得、組立作業性向上を図り得る圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、内部に回転軸を中心としてコンプレッサインペラが回転自在に配設されたハウジングの内部に、ガイドベーンユニットを前記コンプレッサ入口側に嵌合するよう挿入して構成され、
該ガイドベーンユニットは、前記回転軸と交差する方向の対向面によって分割された軸受リングと押えリングとの間で、円周方向へ等間隔で且つ半径方向へ放射状に配設される複数のガイドベーンの軸を挟み込んで回動自在に支持し、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方に形成された環状溝にはリングギヤが配置され、且つ該リングギヤに噛合するピニオンが前記各ガイドベーンの軸に備えられ、
前記ハウジングには、該ハウジングの内部に挿入した前記ガイドベーンユニットのガイドベーンの軸の一つに外部から回動軸を挿入して接続するための軸孔が形成され、
前記各ガイドベーンの軸の端部に前記回動軸の先端を接続可能な嵌合手段を備えたことを特徴とする圧縮機の可変ガイドベーン装置にかかるものである。
【0015】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0016】
複数あるガイドベーンのうちのどの軸が回動軸の取付部分に位置しても、該回動軸の先端を嵌合手段を介して前記軸に確実に接続可能となり、ガイドベーンを一斉に回動させるための機構をハウジング内部に設けた小型の圧縮機においても組立作業性が向上し、コスト面でも有利となる。
【0017】
前記圧縮機の可変ガイドベーン装置においては、前記ガイドベーンの軸の端面中心部に、該軸の直径方向へ延びる接続凸部を形成し、前記ガイドベーンの軸に形成した接続凸部に嵌合する接続凹部を前記回動軸の先端に設けることにより、前記嵌合手段を構成することができ、このようにすると、製作の容易化と軽量化を図るためにガイドベーンを樹脂によって製作し、回動軸を鋼材等の金属で製作した場合、前記接続凸部が形成されるガイドベーンの軸の強度を確保しやすく、有効となる。因みに、仮に前記ガイドベーンの軸に接続凹部を形成するのでは、肉厚が薄くなる箇所が生じて、その部分の強度低下が懸念されるが、このような強度低下の問題は、前記接続凸部が形成されるガイドベーンの軸には生じない。
【0018】
更に、前記圧縮機の可変ガイドベーン装置の組立方法としては、
前記各ガイドベーンに形成した羽根部に対する接続凸部の前記軸直径方向への向きを全てのガイドベーンで統一させると共に、該接続凸部の軸方向長さをその先端が前記軸受リングの外周から突出する長さに設定し、
前記ガイドベーンユニット組立時に、前記各ガイドベーンの接続凸部を嵌入可能な凹溝が形成された補助リングを前記軸受リングの外周に嵌装し、
前記各ガイドベーンの接続凸部を前記補助リングの凹溝に嵌入することにより、前記各ガイドベーンの羽根部の傾斜角度が調整されるようにすることができ、このようにすると、各ガイドベーンの羽根部が誤った傾斜角度で組み込まれてしまうことが避けられ、組立作業性を更に向上させる上で有効となる。
【0019】
一方、本発明は、前記圧縮機の可変ガイドベーン装置を備えたことを特徴とする過給機にかかるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機によれば、簡略な構成によって、ガイドベーンの軸の一つに外部から回動軸を挿入し確実に接続し得、組立作業性向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例におけるガイドベーンを示す切断側面図、(b)は(a)のガイドベーンをI−I方向から見た平面図である。
【図2】本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例の組み立て状態を説明するための切断側面図である。
【図3】本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例の組み立て完了状態を示す切断側面図である。
【図4】図3をIV−IV方向から見た平面図である。
【図5】(a)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例におけるガイドベーンユニットを組み立てた状態を示す側面図、(b)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例における軸受リングを上方から見た斜視図である。
【図6】(a)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例におけるリングギヤを示す正面図、(b)は(a)のリングギヤをVI−VI方向から見た断面図である。
【図7】(a)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例における波ワッシャを示す正面図、(b)は(a)の波ワッシャをVII−VII方向から見た側面図である。
【図8】本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例における止め輪を示す正面図である。
【図9】本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例における軸受リングの軸受凹部にガイドベーンを嵌合配置する状態を示す平面図である。
【図10】(a)は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の組立方法の実施例における軸受リングの軸受凹部にガイドベーンを、補助リングを用いて嵌合配置する状態を示す平面図、(b)は(a)の補助リングをXb−Xb方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1〜図9は本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置の実施例であって、自動車等に搭載される過給機の圧縮機1は、図2〜図4に示す如く、ハウジング2の内部にコンプレッサインペラ3を回転自在に配設し、該コンプレッサインペラ3は、自動車用エンジンの排気によって回転する図示していないタービンインペラと同軸の回転軸4によって回転されるようになっている。前記ハウジング2の内側には、前記コンプレッサインペラ3の入口
側に延びた吸込口5と、該コンプレッサインペラ3によって速度が高められた空気の運動エネルギを圧力のエネルギに換えてハウジング2内部のスクロール6に導くディフューザ7が形成されている。
【0024】
前記圧縮機1のハウジング2における前記コンプレッサインペラ3の入口側には、前記吸込口5を拡径することにより円筒状に形成した段部8を設けてあり、該段部8は切欠底面8aと切欠内周面8bとからなる。一方、前記ハウジング2の内部には、前記段部8の切欠内周面8bに外面が嵌合し且つ内面に前記吸込口5の延長部5aが形成されたガイドベーンユニット9を設け、可変ガイドベーン装置を構成してある。
【0025】
前記ガイドベーンユニット9は、図5(a)に示す如く、前記回転軸4と直交する方向の対向面10a,10bによって分割された軸受リング11と押えリング12とを有している。前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bのそれぞれには、環状溝13,14(図2、図5(b)参照)を形成してあり、該環状溝13,14によって、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bにそれぞれ内側壁15と外側壁16が形成されている。
【0026】
前記内側壁15と外側壁16の対向面10a,10bの部分には、図5に示す如く、複数の軸受凹部21を形成し、該軸受凹部21によって、図1に示すように羽根部17とピニオン18を備えたガイドベーン19の軸20,20´を支持することにより、該ガイドベーン19が軸受リング11の円周方向へ等間隔で且つ半径方向へ放射状に配設されるようにしてある。図5の例では、軸受リング11の対向面10aにガイドベーン19の軸20を収容できる深さのU字状の軸受凹部21を形成した場合を示しており、前記軸受リング11に形成した軸受凹部21に対向する押えリング12の対向面10bは平坦面となっている。図1のガイドベーン19の外側の軸20は外側壁16に形成した軸受凹部21に嵌合し、ガイドベーン19の内側の軸20´は内側壁15に形成した軸受凹部21に嵌合しており、この時、前記ガイドベーン19の内側の軸20´には、内側壁15を挟むことによってガイドベーン19の軸方向への移動を拘束するための突部20a´,20b´を備えている。尚、図5に示す例に代えて、前記U字状の軸受凹部21を押えリング12の対向面10bに形成するようにしても良く、又、前記軸受リング11の対向面10aと押えリング12の対向面10bの両方に半円形状の軸受凹部21を形成するようにしても良い。
【0027】
更に、前記軸受リング11と押えリング12の外側壁16の対向面10a,10bには、互いに嵌合して前記軸受リング11と押えリング12の位置決めを行うための係合凸部22と係合凹部23を形成してある。図5(b)に示す例では、前記軸受リング11の外側壁16の対向面10aの三箇所に係合凹部23を形成すると共に、前記押えリング12の外側壁16の対向面10bに前記係合凹部23に嵌合する三個の係合凸部22を形成し、該係合凸部22と係合凹部23とが互いに嵌合することによって、前記軸受リング11と押えリング12の周方向並びに回転軸4と直交する方向への移動が拘束されるようになっている。尚、図5に示す例に代えて、前記軸受リング11の対向面10aに係合凸部22を形成し、前記押えリング12の対向面10bに係合凹部23を形成しても良い。
【0028】
前記環状溝13,14の一方には、押付手段24を介してリングギヤ25を挿入するようになっている。図2及び図3に示す例では、U字状の軸受凹部21を形成した軸受リング11の環状溝13の底部に、押付手段24とリングギヤ25を挿入している。ここで、U字状の軸受凹部21を押えリング12に形成した場合には、押えリング12の環状溝14に押付手段24とリングギヤ25を挿入すれば良く、又、前記軸受リング11の対向面10aと押えリング12の対向面10bの両方に半円形状の軸受凹部21を形成した場合には、前記環状溝13,14のいずれか一方に押付手段24とリングギヤ25を挿入すれば良い。
【0029】
前記リングギヤ25は、図6(a)及び図6(b)に示す如く、短い筒状体の端面にラック歯25aを形成したものであり、該リングギヤ25のラック歯25aは前記軸受凹部21に嵌合されたガイドベーン19のピニオン18と噛合するようになっている。図6のリングギヤ25は全周に亘ってラック歯25aを形成した場合を示しているが、前記ガイドベーン19のピニオン18が噛合する部分のみにラック歯25aを形成しても良く、又、図1のガイドベーン19の軸20に形成したピニオン18は、軸20の周方向におけるガイドベーン19が回動する範囲内のみに形成した、いわゆるセクターピニオンを示しているが、全周に歯を有する通常の円板状のピニオン18としても良い。
【0030】
前記押付手段24は前記リングギヤ25を前記ガイドベーン19のピニオン18に確実に噛合させるためのものであり、図7(a)及び図7(b)に示す如く、環状に形成された波ワッシャ26を用いることができる。該波ワッシャ26は図7(b)に示すように、周方向三箇所で突出又はへこむように波打った形状を有しており、これにより前記リングギヤ25を三箇所で押してリングギヤ25をガイドベーン19のピニオン18に噛合させるようになっている。尚、前記押付手段24としては、前記波ワッシャ26に代えて、コイルバネを用いることもできる。
【0031】
前記軸受リング11のコンプレッサインペラ側端面11aとハウジング2の段部8の切欠底面8aには、図2及び図3に示す如く、ピン28を挿入して前記ガイドベーンユニット9の軸受リング11とハウジング2との周方向の位置決めを行うためのピン孔29,30を凹設してある。
【0032】
前記ガイドベーンユニット9は、図5(a)及び図5(b)に示す如く、前記軸受リング11と押えリング12とに、互いに嵌合する前記係合凸部22及び係合凹部23を形成することにより、前記軸受リング11と押えリング12を組み立てた際に一体に保持しておくための仮止め手段を有している。該仮止め手段としては、前記係合凸部22及び係合凹部23がきつく嵌合されるように予め設計しておくことで機能させることができるが、前記係合凸部22と係合凹部23を少量の接着剤を用いて嵌合させるようにすることも可能である。更に、図5(b)に示すように、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bにピン孔31(図の例では二個)を設けておき、該ピン孔31にきつく嵌合するピン32を挿入することによって、前記軸受リング11と押えリング12を一体に保持することができる。尚、前記仮止め手段は、組み立てられたガイドベーンユニット9をハウジング2の段部8に挿入する際に分解しないように保持しておくためのものであり、強度が要求されるものではない。
【0033】
前記ハウジング2には、段部8に挿入した前記ガイドベーンユニット9を段部8内に固定しておくための固定手段33が設けられる。図2及び図3に示す例では、前記段部8に挿入したガイドベーンユニット9の押えリング12の開放側端面に対応する切欠内周面8bの位置に環状の係止溝34を形成し、該係止溝34に、図8に示す止め輪35を縮めた状態で挿入し、開放してその弾撥力により係合させることで、該止め輪35によって前記ガイドベーンユニット9を段部8から抜け出ないように固定している。前記固定手段33としては、前記ガイドベーンユニット9が段部8から抜け出ないように固定ボルト等を用いてハウジング2に固定しても良い。
【0034】
そして、本実施例の場合、前記ガイドベーン19における外側の軸20の端面中心部には、図1に示す如く、該軸20の直径方向へ延びる接続凸部36を形成してあり、前記ガイドベーン19の軸20,20´を前記軸受リング11の外側壁16と内側壁15の軸受凹部21に嵌合させて前記ガイドベーンユニット9を組み立てた際に、前記接続凸部36の先端が段部8の切欠内周面8bに接しない長さとなるようにしてある。図2及び図3に示す例では、前記段部8の切欠底面8aに近い切欠内周面8bの位置には相互に緊密に嵌合する嵌合部37が形成してあり、該嵌合部37よりも開放端側の切欠内周面8bは前記嵌合部37よりも径が大きくなっている。このため、前記切欠内周面8bとガイドベーンユニット9の外周面との間には隙間38を有しており、従って、前記ガイドベーン19の接続凸部36の先端は前記隙間38まで突出した長さとなっている。尚、前記ガイドベーン19は接続凸部36の先端がガイドベーンユニット9の外径内に収まる長さとしても良く、この場合には、前記隙間38を設けることなく、切欠内周面8bとガイドベーンユニット9の外周面を緊密に嵌合させることができる。
【0035】
前記ハウジング2の段部8にガイドベーンユニット9を挿入した際に前記ガイドベーン19の一つの軸20に対応する位置のハウジング2には、前記ガイドベーン19の軸20を回動させる回動軸40を外部から挿入するための一つの軸孔41を設けてある。前記回動軸40の先端には、前記ガイドベーン19の軸20に形成した接続凸部36に嵌合する接続凹部39を設けてあり、該接続凸部36と接続凹部39とから、前記各ガイドベーン19の軸20の端部に前記回動軸40の先端を接続可能な嵌合手段60を構成してある。前記回動軸40の他端には、図1〜図4に示す如く、アーム42を介して作動ピン43をクランク状に取り付けてあり、図示していないアクチュエータよって前記作動ピン43を図4の矢印A方向に押し引きして前記回動軸40を回動させることにより、前記接続凹部39と接続凸部36を介して一つのガイドベーン19の軸20を回動させるようになっている。前記回動軸40によって一つのガイドベーン19の軸20が回動すると、ピニオン18を介してリングギヤ25が回転し、該リングギヤ25の回転によりピニオン18を介して全てのガイドベーン19が一斉に回動されるようになっている。
【0036】
前記軸受リング11、押えリング12、リングギヤ25及びガイドベーン19からなる構成部材は、焼結金属、アルミダイカスト、樹脂等によって製作することができるが、このような構成部材はいずれも樹脂による一体成形が可能な形状になっており、該樹脂による一体成形によって製作した場合には、機械加工、溶接加工、仕上加工等を省略でき、ガイドベーンユニット9の製造工程の簡素化並びに低コスト化を図ることができると共に、軽量化を図れる利点があり、更には、過給機全体の製造工程の効率向上を図ることが可能となる。尚、前記ガイドベーン19は、図1に示す如く、羽根部17、ピニオン18、突部20a´,20b´接続凸部36が軸20,20´に対して一体的に設けられ、樹脂による一体成形が可能となっている。又、各ガイドベーン19の形状、寸法を互いに同一とせずに、異なる形状とすることも可能ではあるが、仮に、駆動機構としての回動軸40に接続されるガイドベーン19のみ異なる形状とした場合(例えば、前記回動軸40に接続されるガイドベーン19のみに接続凸部36を設け、他のガイドベーン19には接続凸部36を設けないようにした場合)、ガイドベーンユニット9の組立時に、作業者は、ガイドベーン19の配置に応じて形状の異なるガイドベーン19を選択する必要があるため、作業者にとって手間になる。しかし、本実施例のように全てのガイドベーン19の形状、寸法を同一とした場合は、上記のような手間が不要になり、ガイドベーンユニット9の組立作業性が向上し、ガイドベーンユニット9の製造工程、並びに過給機全体の製造工程の効率をより向上させることができ、好ましい。
【0037】
更に、前記軸受リング11及び押えリング12と、ガイドベーン19の少なくとも一方の構成部材を樹脂により製作すると、樹脂は自己潤滑性を有することから、ガイドベーン19の軸20,20´を軸受凹部21によって好適に軸支することができる。
【0038】
次に、上記実施例の圧縮機を組み立てる手順について説明する。
【0039】
先ず、前記ハウジング2の外部において、前記ガイドベーンユニット9の組み立てを行うことが可能となり、該ガイドベーンユニット9の組み立てに際して、図5(b)、図9に示す如く、前記軸受リング11を軸受凹部21が上側を向いた状態になるように机上等に載置する。
【0040】
この状態で、前記軸受リング11の環状溝13に、図7に示す波ワッシャ26を挿入し、続いて、該波ワッシャ26の上側にリングギヤ25(図6参照)を挿入する。
【0041】
次に、図9に示す如く、軸受リング11の外側壁16の対向面10aに形成した軸受凹部21にガイドベーン19の外側の軸20が嵌合し、内側壁15の対向面10aに形成した軸受凹部21にガイドベーン19の内側の軸20´が嵌合するようにガイドベーン19を配置し、この時、ガイドベーン19のピニオン18が前記リングギヤ25のラック歯25aに噛合して、ガイドベーン19の羽根部17が所定の傾斜角度になるように調整する。続いて、図9における別の軸受凹部21にも別のガイドベーン19の軸20,20´を嵌合させて配置し、この時、別のガイドベーン19の羽根部17の傾斜角度が前記ガイドベーン19の羽根部17の傾斜角度と等しくなるように調整する。ここで、前記リングギヤ25のラック歯25aとガイドベーン19のピニオン18との噛み合いは予め設定されているので、正しい位置にガイドベーン19を配置すると、各ガイドベーン19の羽根部17の傾斜角度は同じになり、万一、歯がずれて噛み合わされたときは、ガイドベーン19の羽根部17の傾斜角度は大きく異なったものとなるので、誤って嵌合された時の間違いは比較的判明しやすくなっている。このようにして、全ての軸受凹部21にガイドベーン19を嵌合配置する。
【0042】
続いて、図5(a)に示すように、前記軸受リング11の対向面10aの上部に前記押えリング12の対向面10bが対向するようにし、相互間に設けた係合凸部22と係合凹部23を嵌合させて対向面10a,10bを当接させることでガイドベーンユニット9を組み立てる。
【0043】
前記ガイドベーンユニット9の組立時には、前記軸受リング11と押えリング12を一体に保持しておくための仮止め手段を介して組み立てる。例えば、図5(b)に示すように、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bに形成したピン孔31にきつく嵌合するピン32を挿入して組み立てることにより、軸受リング11と押えリング12を一体に保持する。又、前記軸受リング11と押えリング12に形成した係合凸部22及び係合凹部23がきつく嵌合されるように予め設計しておくことでも同様に一体に保持することができ、又、前記係合凸部22と係合凹部23を少量の接着剤を介して嵌合させることでも同様に軸受リング11と押えリング12を一体に保持することができる。
【0044】
前記軸受リング11と押えリング12を組み立てた状態では、ガイドベーン19のピニオン18がリングギヤ25を介して波ワッシャ26を弾性変形させるように押す状態となり、これによってリングギヤ25とピニオン18の噛合はより確実に行われるようになる。
【0045】
次に、図2に示すように、前記軸受リング11のコンプレッサインペラ側端面11aに設けたピン孔30にピン28を挿入した後、前述の如く組み立てたガイドベーンユニット9を前記ハウジング2の段部8に挿入し、前記ピン28をハウジング2の段部8の切欠底面8aに設けたピン孔29に合致させるように挿入して、段部8に設けた嵌合部37に前記ガイドベーンユニット9を嵌合させる。この時、ピン28によってハウジング2に対するガイドベーンユニット9の周方向の位置は規定され、同時に、前記一つのガイドベーン19の羽根部17の軸20はハウジング2に形成した軸孔41に一致する。
【0046】
前記ハウジング2の段部8にガイドベーンユニット9を挿入した後、固定手段33によってガイドベーンユニット9を段部8に固定する。図2の例では、前記段部8に挿入したガイドベーンユニット9の押えリング12の開放側端面に対応する切欠内周面8bに形成した環状の係止溝34に、図8に示す止め輪35を縮めた状態で挿入し、開放してその弾撥力により係合させることで、該止め輪35によって前記ガイドベーンユニット9を段部8から抜け出ないように固定する。
【0047】
続いて、前記回動軸40をハウジング2に設けた軸孔41から挿入し、該回動軸40の先端に設けた接続凹部39を前記ガイドベーン19の軸20の接続凸部36に嵌合させると、圧縮機1は組み立てられる。
【0048】
ここで、前記各ガイドベーン19の軸20の端部に前記回動軸40の先端を接続可能な嵌合手段60を備えたことにより、複数あるガイドベーン19のうちのどの軸20が回動軸40の取付部分に位置しても、該回動軸40の先端を嵌合手段60を介して前記軸20に確実に接続可能となり、ガイドベーン19を一斉に回動させるための機構をハウジング2内部に設けた小型の圧縮機1においても組立作業性が向上し、コスト面でも有利となる。
【0049】
しかも、本実施例においては、前記ガイドベーン19における外側の軸20の端面中心部に、該軸20の直径方向へ延びる接続凸部36を形成し、前記ガイドベーン19の軸20に形成した接続凸部36に嵌合する接続凹部39を前記回動軸40の先端に設けることにより、前記嵌合手段60を構成してあるため、製作の容易化と軽量化を図るためにガイドベーン19を樹脂によって製作し、回動軸40を鋼材等の金属で製作した場合、前記接続凸部36が形成されるガイドベーン19の軸20の強度を確保しやすく、有効となる。因みに、仮に前記ガイドベーン19の軸20に接続凹部39を形成するのでは、肉厚が薄くなる箇所が生じて、その部分の強度低下が懸念されるが、このような強度低下の問題は、前記接続凸部36が形成されるガイドベーン19の軸20には生じない。
【0050】
こうして、簡略な構成によって、ガイドベーン19の軸20の一つに外部から回動軸40を挿入し確実に接続し得、組立作業性向上を図り得る。しかも、前記圧縮機1を備えた過給機の組立作業性が向上することにより、過給機の生産量の増加及びコストの低減化が図れる。
【0051】
更に、本実施例における圧縮機の可変ガイドベーン装置の場合、図10(a)に示す如く、前記各ガイドベーン19に形成した羽根部17に対する接続凸部36の前記軸20直径方向への向きを全てのガイドベーン19で統一させると共に、該接続凸部36の軸20方向長さをその先端が前記軸受リング11の外周から所要量だけ突出する長さに設定し、図10(b)に示す如く、前記ガイドベーンユニット9組立時にのみ前記軸受リング11の外周に嵌装され且つ前記各ガイドベーン19の接続凸部36を嵌入可能な凹溝61aが形成され前記ガイドベーンユニット9組立後には取り外される補助リング61を利用し、該補助リング61をガイドベーンユニット9組立時に前記軸受リング11の外周に嵌装した状態で、前記各ガイドベーン19の接続凸部36を凹溝61aに嵌入することにより、前記各ガイドベーン19の羽根部17の傾斜角度が等しく配置されるようにする組立方法を採用することができる。
【0052】
図10(a),(b)に示す例では、前記各ガイドベーン19に形成した羽根部17が広がる面方向と、前記接続凸部36の軸20直径方向への向きとを一致させることにより、該接続凸部36を前記補助リング61の凹溝61aに嵌入した際、前記羽根部17が全開となるように設定してある。但し、前記接続凸部36の軸20直径方向への向きを、例えば、90°ずらし、前記各ガイドベーン19に形成した羽根部17が広がる面方向と直交する方向に一致させることも可能であり、この場合には、前記接続凸部36を前記補助リング61の凹溝61aに嵌入した際、前記羽根部17が全閉となるように設定される形となる。尚、前記接続凸部36の軸20直径方向への向きは、前述の角度に限定されるものではなく、必要に応じて選定し得ることは言うまでもない。
【0053】
図10(a),(b)に示す如く前記ガイドベーンユニット9組立時にのみ補助リング61を用いて、該ガイドベーンユニット9組立後には補助リング61を取り外すようにすると、各ガイドベーン19の羽根部17が誤った傾斜角度で組み込まれてしまうことが避けられ、組立作業性を更に向上させる上で有効となる。
【0054】
尚、本発明の圧縮機の可変ガイドベーン装置及びその組立方法並びに過給機は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0055】
1 圧縮機
2 ハウジング
3 コンプレッサインペラ
4 回転軸
5a 延長部
9 ガイドベーンユニット
10a 対向面
10b 対向面
11 軸受リング
12 押えリング
13 環状溝
14 環状溝
17 羽根部
18 ピニオン
19 ガイドベーン
20 軸
20´ 軸
21 軸受凹部
25 リングギヤ
25a ラック歯
36 接続凸部
39 接続凹部
40 回動軸
41 軸孔
60 嵌合手段
61 補助リング
61a 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に回転軸を中心としてコンプレッサインペラが回転自在に配設されたハウジングの内部に、ガイドベーンユニットを前記コンプレッサ入口側に嵌合するよう挿入して構成され、
該ガイドベーンユニットは、前記回転軸と交差する方向の対向面によって分割された軸受リングと押えリングとの間で、円周方向へ等間隔で且つ半径方向へ放射状に配設される複数のガイドベーンの軸を挟み込んで回動自在に支持し、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方に形成された環状溝にはリングギヤが配置され、且つ該リングギヤに噛合するピニオンが前記各ガイドベーンの軸に備えられ、
前記ハウジングには、該ハウジングの内部に挿入した前記ガイドベーンユニットのガイドベーンの軸の一つに外部から回動軸を挿入して接続するための軸孔が形成され、
前記各ガイドベーンの軸の端部に前記回動軸の先端を接続可能な嵌合手段を備えたことを特徴とする圧縮機の可変ガイドベーン装置。
【請求項2】
前記ガイドベーンの軸の端面中心部に、該軸の直径方向へ延びる接続凸部を形成し、前記ガイドベーンの軸に形成した接続凸部に嵌合する接続凹部を前記回動軸の先端に設けることにより、前記嵌合手段を構成した請求項1記載の圧縮機の可変ガイドベーン装置。
【請求項3】
請求項2記載の圧縮機の可変ガイドベーン装置の組立方法であって、
前記各ガイドベーンに形成した羽根部に対する接続凸部の前記軸直径方向への向きを全てのガイドベーンで統一させると共に、該接続凸部の軸方向長さをその先端が前記軸受リングの外周から突出する長さに設定し、
前記ガイドベーンユニット組立時に、前記各ガイドベーンの接続凸部を嵌入可能な凹溝が形成された補助リングを前記軸受リングの外周に嵌装し、
前記各ガイドベーンの接続凸部を前記補助リングの凹溝に嵌入することにより、前記各ガイドベーンの羽根部の傾斜角度が調整されるようにしたことを特徴とする圧縮機の可変ガイドベーン装置の組立方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の圧縮機の可変ガイドベーン装置を備えたことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−19287(P2013−19287A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151830(P2011−151830)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】