説明

圧縮機

【課題】装置が大型化することを抑制しつつ、空調装置の暖房能力を向上できる圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機が有する筺体(2)の一端には、冷媒を筺体(2)の内部へ吸入する吸入口(3)が設けられ、筺体(2)の他端には、吸入口(3)を通じて吸入された冷媒を筺体(2)の外部へ吐出する吐出部(5)が設けられる。そしてこの圧縮機は、筺体(2)内に収容され、筺体(2)内へ吸入された冷媒を圧縮する圧縮機構部(20)と、筺体(2)内において圧縮機構部(20)よりも吸入口(3)の近くに配置され、圧縮機構部(20)へ動力を提供する電動機部(10)と、筺体(2)内で電動機部(10)と圧縮機構部(20)との間の冷媒が通る空間に配置され、冷媒を暖める暖房部(30)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用空調装置では、車室内を冷房するためにヒートポンプシステムが用いられ、一方、車室内を暖房するために、エンジンにより温められたラジエータの冷却水が循環供給されるヒータコアが利用されている。しかし、近年、電気自動車、燃料電池自動車、及びエンジンとモータの両方を動力として利用するハイブリッド型自動車といった、動力としてモータを利用する自動車が研究及び開発されている。このようなモータを利用する自動車では、エンジンの冷却水が無かったり、あるいは、例えエンジンが搭載されていても、走行中にエンジンが休止しているために冷却水が十分に温められていないことがある。そのため、空調装置は、ヒータコアを用いて車室内へ供給される空調空気を暖めることができない。そこで、冷房に利用されているヒートポンプシステムを、暖房にも利用することが検討されている。
【0003】
しかし、車両用空調装置に用いられているヒートポンプシステムの暖房能力は、極低温環境、例えば、外気温が-20℃以下となるような環境では、車室内を十分に暖房できないおそれがあった。特に、冷媒として、代替フロンであるHFC134aまたはHFO1234Yfが用いられる場合、極低温環境でヒートポンプシステムの暖房能力が不足する傾向がある。
【0004】
そこで、車室内エバポレータの冷媒出口と圧縮機の冷媒吸入口との間に、車載用電源からの電力供給により発熱する、内蔵されたシーズヒータのその発熱を利用して車室内から流入する冷媒を加熱する車室外エバポレータを配置し、シーズヒータから発生する熱を冷媒が内部を流通する冷媒管へ伝達させるようにした電気自動車用空調装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−203148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、既存のヒートポンプシステムの構成部品とは別個に冷媒加熱用の部品を設けるためには、その冷媒加熱用の部品を設置するための余分なスペースを確保しなければならない。しかし、車両において、空調装置の設置に利用できるスペースは限られているので、このように空調装置が大型化することは望ましくない。また、冷媒加熱用の部品を別途設けることにより、空調装置のコストも高くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、装置が大型化することを抑制しつつ、空調装置の暖房能力を向上できる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態として、圧縮機が提供される。この圧縮機が有する筺体(2)の一端には、冷媒を筺体(2)の内部へ吸入する吸入口(3)が設けられ、筺体(2)の他端には、吸入口(3)を通じて吸入された冷媒を筺体(2)の外部へ吐出する吐出部(5)が設けられる。そしてこの圧縮機は、筺体(2)内に収容され、筺体(2)内へ吸入された冷媒を圧縮する圧縮機構部(20)と、筺体(2)内において圧縮機構部(20)よりも吸入口(3)の近くに配置され、圧縮機構部(20)へ動力を提供する電動機部(10)と、筺体(2)内で電動機部(10)と圧縮機構部(20)との間の冷媒が通る空間に配置され、冷媒を暖める暖房部(30)とを有する。
このような構成を有することにより、この圧縮機は、装置が大型化することを抑制しつつ、空調装置の暖房能力を向上できる。
【0009】
また請求項2の記載によれば、この圧縮機は、暖房部(30)よりも吸入口(3)の近くに、筺体(2)の外壁に近接して配置され、暖房部(30)及び電動機部(10)を制御する制御部(40、70)をさらに有することが好ましい。
このような構成を有することにより、この圧縮機は、暖房部により加熱される前の冷媒により、制御部を冷却することができる。
【0010】
さらに請求項3の記載によれば、電動機部(10)は、供給される電力に応じた磁場を発生する固定子(11)と、固定子(11)により生じた磁場と相互作用することにより回転する回転子(13)とを有し、暖房部(30)は、供給される電力に応じて発熱することが好ましい。そして、制御部(40、70)は、直流電源(47)の正極と接続される正極側母線(54)と直流電源(47)の負極と接続される負極側母線(55)との間に接続され、直流電源(47)から供給される直流電力を交流電力に変換し、その交流電力を固定子(11)へ供給することにより電動機部(10)を駆動する電動機駆動回路(41)と、正極側母線(54)を介して直流電源(47)から供給される直流電力を暖房部(30)へ供給し、またはその直流電力の供給を停止する暖房部駆動回路(42、72)と、回転子(13)が所定の目標回転数で回転する交流電力が固定子(11)に供給されるように電動機駆動回路(41)を制御し、かつ、暖房部(30)が単位時間あたりに所定の発熱量を生じるように所定の周期の第1の割合を占める期間のみ直流電力が暖房部(30)へ供給されるように暖房部駆動回路(42、72)を制御する制御回路(46)とを有する。
これにより、この圧縮機は、一つの直流電源を、電動機の駆動と暖房部への電力供給に利用でき、かつ、一つの制御回路で電動機の駆動回路と暖房部の駆動回路の両方を制御できるので、制御部の回路の部品点数を削減できる。
【0011】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一つの実施形態による圧縮機の概略構成図である。
【図2】圧縮機の制御回路の回路図である。
【図3】他の実施形態による、圧縮機の制御回路の回路図である。
【図4】本発明の実施形態による圧縮機を備えた車載用空調装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係る、空調装置用圧縮機について詳細に説明する。この圧縮機は、その圧縮機内部へ冷媒を吸入する吸入口から冷媒を吐出する吐出口までの冷媒が流動する空間に配置されたヒータを有し、そのヒータによって冷媒を加熱することで、空調装置の暖房能力を向上させる。またこの圧縮機は、ヒータの駆動回路の一部を、圧縮機が有するモータの駆動回路と共通化することにより、部品点数の増加を抑制する。
【0014】
図1に、本発明の一つの実施形態による圧縮機の概略断面図を示す。本実施形態による圧縮機1は、スクロール型圧縮機であり、ハウジング2と、ハウジング2内に設けられた電動機部10と、圧縮機構部20と、ヒータ30と、ハウジング2の外側に設けられた制御基板40とを有する。
【0015】
ハウジング2は、略円筒状の筺体であり、両端に設けられた端部壁2a、2bと略円筒状の側壁2cにより内部に流入した冷媒を封止するようになっている。端部壁2aの近傍には、ヒートポンプ回路から還流される冷媒をハウジング2内に吸引する吸入口3が設けられている。そしてこの圧縮機1は、圧縮機構部20を作動させることでハウジング2内を吸入圧力雰囲気にして、吸入口3を介してハウジング2内に冷媒を吸引する。吸入口3を介してハウジング2内に流入した冷媒は、電動機部10とハウジング2の側壁2cとの間のスペースを通って圧縮機構部20へ流れる。
【0016】
電動機部10は、例えば、三相交流誘導電動機または三相交流同期電動機であり、ハウジング2の内壁に配設した固定子11と、固定子11により囲まれたハウジング2内空間で側壁2cの中心軸zに沿うように配置された回転軸12と、回転軸12に固定的に取り付けられた回転子13とを有する。
回転軸12の一方の端部は、端部壁2aに設けられた主軸受14により回動可能に支持され、一方、回転軸12の他方の端部の近傍に設けられたベアリング15によって回転軸12は回動可能に支持される。ベアリング15は、回転子13と圧縮機構部20との間において、その周囲がハウジング2の側壁2cに固定されるベアリング支持部16により支持される。なお、回転軸12の中心には、冷媒とともに圧縮機構部20側へ流れたオイルを吸入口3側へ戻すためのオイル戻し用の配管12aが形成されている。
【0017】
電動機部10の固定子11は、例えば、コイルを有する電磁石により形成され、後述する制御基板40からの駆動信号に応じて変動する磁場を発生させる。これにより、永久磁石を有する回転子13と固定子11との間の磁場の相互作用によって、回転軸12は、駆動信号に応じた回転速度で回転する。
なお、後述するヒータ30を配置するスペースを確保するために、中心軸z方向に沿った電動機部10の長さが短くなるように、固定子11が有するコイルは、回転軸12方向に沿ったコイルエンドの長さを短くできる集中巻きにより構成されることが好ましい。
【0018】
さらに、回転軸12の圧縮機構部20側の端部には、回転軸12の回転中心に対して偏心させた偏心部12bが設けられており、この偏心部12bに圧縮機構部20を構成する可動スクロール21が固定されている。そのため、回転軸12が回転することにより可動スクロール21も回転する。また、回転軸12の圧縮機構部20側の端部には、回転軸12が偏心しないように、可動スクロール21と重量的なバランスを取るためのバランサ17が取り付けられている。
【0019】
圧縮機構部20は、上述した可動スクロール21と、可動スクロール21に対向するように配置された固定スクロール22とを有する。
可動スクロール21は、回転軸12と略直交するように配置された略円盤状の基板21aと、その基板21aの固定スクロール22側の面に設けられ、基板21aに略直交し、インボリュート曲線状に形成された可動側渦巻板21bと、基板21aの電動機10側の面に設けられたボス部21cとを有する。そしてボス部21cに、回転軸12の偏心部12bが勘合されている。
【0020】
一方、固定スクロール22は、回転軸12と略直交するように配置された略円盤状の基板22aと、基板22aの可動スクロール21側の面に設けられた渦巻状の溝によって形成された固定側渦巻溝22bを有している。そして、可動側渦巻板21bと固定側渦巻溝22bとが噛合うように、可動スクロール21と固定スクロール22とが、対向配置されることにより、複数の作動室23が形成される。
【0021】
固定スクロール22の最外周の外周縁部22cによって形成された可動スクロール21を収容する空間内において、可動スクロール21の外縁部側の固定スクロール22内側面と対向する空間には、可動スクロール21の自転を防止する自転防止手段として、オルダムリングが介在していてもよい。これにより、可動スクロール21は公転のみが許容される。
【0022】
可動スクロール21は、上記のように、回転軸12の偏心部12bに固定されているので、回転軸12が回転することにより、可動側渦巻板21bと固定側渦巻溝22bとの噛み合いによって形成される複数の作動室23の体積が縮小する。これにより、圧縮機構部20は、固定側渦巻溝22bの最外周側に連通する吸入室(図示せず)に供給された冷媒を圧縮する。
【0023】
さらに圧縮機構部20の固定スクロール22の基板22aの中心部には、基板22aを軸方向に貫通する吐出口22dが設けられている。
可動スクロール21と固定スクロール22とによって圧縮された冷媒は、吐出口22dから逆流防止用の吐出弁24を介して吐出室4に吐出される。そしてその冷媒は、吐出室4からハウジング2の外側に向けてハウジング2を貫通するように形成されているオイル・冷媒分離装置5へ流入する。
吐出部であるオイル・冷媒分離装置5は、冷媒とともに流入したオイルを分離し、冷媒をヒートポンプ回路へ供給し、オイルを吐出室4へ戻す。このオイルは、吐出室4内に設けられたフィルタ6を通った後、固定スクロール22の外周部に形成されたオイル戻し口22eを介して電動機部10側へ戻される。なお、フィルタ6は、オイル戻し口22eへ流入するオイルから屑または埃などの不純物を取り除く。
【0024】
暖房部であるヒータ30は、電動機部10の固定子11と圧縮機構部20との間、冷媒が通過する空間に設置される。例えば、ヒータ30は、ハウジング2の側壁2cの内周に沿って、円弧状に形成されたシーズヒータを有する。なお、ヒータ30は、電力によって発熱し、気体を加熱するのに適した他の発熱体を有してもよい。そしてヒータ30は、制御基板40から供給される電力に応じて発熱し、電動機部10から圧縮機構部20へ向けて流れる冷媒を加熱する。
このように、ヒータ30は、ハウジング2内の構造物が無い空間に設置されるので、圧縮機1のサイズは、ヒータを有さない従来技術による圧縮機のサイズと同程度とすることができる。
【0025】
制御基板40は、車載用空調装置の制御回路(図示せず)からの制御信号に応じて、電動機部10及びヒータ30を制御する。また本実施形態では、制御基板40は、制御基板40上の回路素子がハウジング2内に流入した冷媒によって冷却される程度に、端部壁2aの外側に近接して配置される。
【0026】
図2は、制御基板40が有する駆動回路の回路図である。図2に示されるように、制御基板40は、電動機駆動回路41と、ヒータ駆動回路42と、コンデンサ43と、電流センサ44と、通信回路45と、制御回路46とを有する。
【0027】
電動機駆動回路41は、インバータ回路として構成され、直流電源47から供給された直流電力を、制御回路46から入力された制御信号に従って三相交流電力に変換し、その三相交流電力を電動機部10の固定子11に設けられ、スター結線されたコイルL1〜L3に出力する。そのために、電動機駆動回路41は、インバータ回路として構成され、電動機部10のU相のコイルL1、W相のコイルL2、V相のコイルL3のそれぞれに対応する3組のアーム51、52、53を有する。これらアーム51、52、53は直流電源47に対して並列に接続される。そしてアーム51は、直列接続されたスイッチング素子SW1とSW4を有する。同様に、アーム52、53は、それぞれ、直列接続されたスイッチング素子SW2とSW5、SW3とSW6を有する。なお、ここでは、便宜上、スイッチング素子SW1〜SW3を上側スイッチング素子と呼び、スイッチング素子SW4〜SW6を下側スイッチング素子と呼ぶ。
【0028】
各スイッチング素子SW1〜SW6は、例えば、トランジスタと、トランジスタを電流が流れる方向と逆向きに電流が流れるように、トランジスタと並列に接続されたダイオードを有する(例えば、NPN型トランジスタのエミッタ端子とダイオードのアノード端子が接続され、そのトランジスタのコレクタ端子とダイオードのカソード端子が接続される)。なお、スイッチング素子が有するトランジスタとして、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor、IGBT)またはパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を利用することができる。なお、各スイッチング素子SW1〜SW6は、電動機部10の回転子13の回転速度に応じてオン、オフを切り替えることが可能な他の構成を有していてもよい。
【0029】
また、アーム51について、スイッチング素子SW1の一端(ダイオードのカソード端子側)は、電動機駆動回路41の正極側母線54と接続される。一方、スイッチング素子SW1の他端、すなわち、スイッチング素子SW1とSW4の中間点T1は、電動機部10のU相コイルL1の一端と接続される。そしてスイッチング素子SW4の一端(ダイオードのアノード端子側)は、負極側母線55と接続される。同様に、アーム52について、スイッチング素子SW2の一端は、電動機駆動回路41の正極側母線54と接続される。一方、スイッチング素子SW2とSW5の中間点T2は、電動機部10のW相端子コイルL2の一端と接続される。そしてスイッチング素子SW5の一端は、負極側母線55と接続される。さらに、アーム53について、スイッチング素子SW3の一端は、正極側母線54と接続される。一方、スイッチング素子SW3とSW6の中間点T3は、電動機部10のV相コイルL3の一端と接続される。そしてスイッチング素子SW6の一端は、負極側母線55と接続される。
【0030】
また、各スイッチング素子SW1〜SW6は、制御回路46からの制御信号によって、それぞれオンまたはオフが切り替えられる。そして例えば、何れか一つのアームの上側スイッチング素子と、他のアームの下側スイッチング素子がオンになり、その他のスイッチング素子がオフとなることで、電動機部10に電流が流れ、回転子13が回転する。そして、オンとなるスイッチング素子がアームごとに順に入れ替わることにより、回転子13は指示された速度で安定的に回転する。
【0031】
ヒータ駆動回路42は、正極側母線54と負極側母線55との間に、電動機駆動回路41と並列に接続される。そしてヒータ駆動回路42は、正極側母線54とヒータ30の発熱体の一端との間に接続されるスイッチング素子SW7と、負極側母線55とヒータ30の発熱体の一端との間に接続されるスイッチング素子SW8とを有する。すなわち、スイッチング素子SW7、ヒータ30の発熱体及びスイッチング素子SW8は、正極側母線54と負極側母線55との間に直列に接続される。なお、スイッチング素子SW7、SW8は、それぞれ、スイッチング素子SW1〜SW6と同様の構成とすることができる。
【0032】
スイッチング素子SW7、SW8は、制御回路46からの制御信号によってオンまたはオフが切り替えられる。そしてスイッチング素子SW7及びSW8の両方がオンである場合に、ヒータ30に直流電源47からの直流電力が供給され、一方、スイッチング素子SW7及びSW8の何れか一方でもオフになれば、ヒータ30への直流電力の供給は停止される。
【0033】
コンデンサ43は、直流電源47と並列に、正極側母線54と負極側母線55との間に接続される。直流電源47の正極は正極側母線54に接続され、直流電源47の負極は負極側母線55に接続される。そして直流電源47は、正極側母線54に電源電圧を出力する。コンデンサ43は直流電源47から正極側母線54に出力される電圧を安定化させる。
なお、コンデンサ43は、例えば、電解コンデンサ、フィルムコンデンサまたはセラミックコンデンサとすることができる。
また直流電源47として、直流電力を供給する様々な電源を利用することができる。例えば、直流電源47として、鉛蓄電池、リチウム・イオン電池あるいはニッケル・水素電池若しくは燃料電池を用いることができる。
【0034】
電流センサ44は、負極側母線55に流れる電流を検出する。負極側母線55に流れる電流は、W相電流、V相電流、およびU相電流が加算されたものである。U相電流は中間点T1からステータ11のU相コイルL1に流れる電流である。W相電流は中間点T2からステータ11のW相コイルL2に流れる電流である。V相電流は中間点T3からステータ11のV相コイルL3に流れる電流である。
電流センサ44は、検出した電流の値を制御回路46へ通知する。
【0035】
通信回路45は、空調装置の電子制御装置60と信号線を介して接続され、電子制御装置60から目標回転数、ヒータ30のオン/オフなどの制御信号を受信し、その受信信号を制御回路46へ渡す。
【0036】
制御回路46は、プロセッサ、メモリ及びその周辺回路を有し、そのメモリに記憶された電動機部10及びヒータ30を制御するためのコンピュータプログラムを実行することにより、電動機部10及びヒータ30を制御する。
例えば、制御回路46は、電流センサ44の検出値と空調装置の電子制御装置60から通信回路45を介して受信した目標回転数とに基づいて電動機駆動回路41の各スイッチング素子のオン/オフのタイミングを制御する。
【0037】
また制御回路46は、電子制御装置60から通信回路45を介して受信したヒータ30をオンまたはオフにする制御信号及びヒータ30の単位時間当たりの目標発熱量を表す制御信号に基づいてヒータ駆動回路42の各スイッチング素子のオン/オフのタイミングを制御する。
そこで、例えば、ヒータ30が冷媒を暖める場合、制御回路46は、スイッチング素子SW7をオンにする。また制御回路46は、パルス幅変調(PWM)方式によって所定の周期中におけるスイッチング素子SW8がオンとなる期間、すなわち、所定の周期に占める、ヒータ30に電力供給される期間の割合を制御することにより、ヒータ30の単位時間当たりの発熱量を制御する。したがって、制御回路46は、ヒータ30の単位時間当たりの発熱量を高くするほど、スイッチング素子SW8をオンにする期間を長くする。なお、所定期間中におけるスイッチング素子SW8がオンとなる期間の長さと、ヒータ30の単位時間当たりの発熱量との関係を表す参照テーブルが予め制御回路46が有するメモリに記憶される。制御回路46は、電子制御装置60から目標発熱量を通知されると、その参照テーブルを参照することにより、目標発熱量に対応するスイッチング素子SW8がオンとなる期間を決定する。
【0038】
また、制御回路46は、例えば、スイッチング素子SW8が故障した場合など、正極側母線54と負極側母線55が短絡するおそれがある場合には、スイッチング素子SW7をオフにすることで、正極側母線54と負極側母線55が短絡することを防止する。
また、制御回路46は、スイッチング素子SW8をオンするか否かによってヒータ30のオン/オフを切り替え、スイッチング素子SW7をPWM方式により制御することで、ヒータ30の単位時間当たりの発熱量を制御してもよい。
【0039】
このように、電動機駆動回路41とヒータ駆動回路42とで、共通の制御回路を使用し、また一つの電源から電動機駆動回路41とヒータ駆動回路42の両方に電力を供給するようにこれらの回路を構成することで、圧縮機1が有する回路の構成部品点数を少なくできる。
【0040】
図3は、変形例による制御基板70の回路図である。なお、図3において、制御基板70の各構成要素には、図2に示された制御基板40の対応する構成要素の参照番号と同一の参照番号を付した。図3に示される制御基板70は、図2に示される制御基板40と比較して、ヒータ駆動回路72の構成が異なる。
【0041】
ヒータ駆動回路72は、正極側母線54とヒータ30の発熱体の一端との間に接続される一つのスイッチング素子SW9を有する。そしてヒータ30の発熱体の他端が、電動機駆動回路41のU相のアームの中間点T1と接続される。すなわち、スイッチング素子SW9及びヒータ30の発熱体は、正極側母線54と中間点T1との間に直列に接続される。なお、スイッチング素子SW9は、スイッチング素子SW1〜SW6と同様の構成とすることができる。
【0042】
スイッチング素子SW9は、制御回路46からの制御信号によってオンまたはオフが切り替えられる。そして例えば、ヒータ30が冷媒を暖める場合、制御回路46は、PWM方式によって所定周期中にスイッチング素子SW9がオンとなる期間を制御することにより、ヒータ30の単位時間当たりの発熱量を制御する。
このようにヒータ駆動回路を構成することにより、ヒータ駆動回路に含まれるスイッチング素子の数が一つとなるので、圧縮機の制御基板の部品点数をさらに減少させることができる。
なお、ヒータ30の発熱体の他端は、何れか一つの相のアームの中間点と接続されていればよく、例えば、W相の中間点T2あるいはV相の中間点T3と接続されてもよい。
また、ヒータ30の発熱体とスイッチング素子SW9の接続順序は入れ替えられていてもよい。さらにまた、スイッチング素子SW9の一端は、正極側母線54と接続される代わりに、負極側母線55と接続されてもよい。
【0043】
図4に、上記の実施形態による圧縮機を有する車載空調装置100の概略構成図を示す。車載空調装置100は、ヒートポンプ回路101と電子制御装置110とを有する。ヒートポンプ回路101は、圧縮機102、コンデンサ103、レシーバ104、膨張弁105、エバポレータ106及び四方弁107を有する。
圧縮機102は、上記の実施形態による圧縮機であり、冷媒を圧縮して高温、高圧のガスにする。冷媒は、冷房時において以下に説明するようにヒートポンプ回路101内を流れる。
ガス状になった冷媒は、四方弁107を通ってコンデンサ103に流入する。コンデンサ103は、圧縮機102より送られてきた高温、高圧の冷媒ガスを冷却し、液化させる。レシーバ104は、液化された冷媒ガスを貯蔵する。また、冷却性能の低下を防ぐため、液化された冷媒に含まれるガス状の気泡を取り除き、完全に液化された冷媒のみを膨張弁105へ送る。膨張弁105は、液化された冷媒を断熱膨張させて低温、低圧化し、エバポレータ106へ送る。エバポレータ106は、低温、低圧化された冷媒と、ブロアファン(図示せず)などによってエバポレータ106に送り込まれた空気との間で熱交換を行ってその空気を冷却する。冷却された空気は、車室内へ吹き出され、車室内を冷房する。一方エバポレータ106における熱交換により暖められた冷媒は、再度圧縮機102へ流入する。
【0044】
なお、暖房時においては、電子制御装置110からの制御により四方弁107が切り替えられ、図4において点線で示されるルートで冷媒が流れる。すなわち、圧縮機102から吐出されたガス状冷媒は、四方弁107を介してエバポレータ106に導かれ、コンデンサ103からの冷媒は四方弁107を介して圧縮機102に導かれる。そして、高温・高圧の冷媒が、エバポレータ106において車室内へ導入される空気を暖める。
【0045】
電子制御装置(空調ECU)110は、組み込み型のマイクロプロセッサ、メモリ、通信回路及びその周辺回路により構成される。そして電子制御装置110は、マイクロプロセッサ上で動作するプログラムにより、目標室温及び検知室温などに従って、圧縮機102を含む、空調装置の各部の動作を制御する。電子制御装置110は、冷房時においては、圧縮機102が有するヒータをオフにする制御信号を圧縮機102へ送信する。また電子制御装置110は、暖房時においては、圧縮機102が有するヒータをオンにする制御信号及び単位時間当たりの発熱量を指示する制御信号を圧縮機102へ送信する。
【0046】
以上説明してきたように、本発明に係る圧縮機は、ハウジング内の電動機及び圧縮機構と干渉しない位置にヒータを設置したことにより、圧縮機が大型化することを防止しつつ、暖房能力を向上できる。またこの圧縮機は、電動機を制御する回路とヒータを制御する回路の一部を共通化することにより、部品点数を削減できる。
【0047】
なお、上述してきた実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。例えば、制御基板が有する電動機駆動回路として、インバータ式の様々な電動機駆動回路の何れかが適用されてもよい。例えば、直流電源及びコンデンサと、正極側母線及び負極側母線との間に、直流電源から供給された電圧を昇圧または降圧する昇降圧回路と、その昇降圧回路と電動機駆動回路の間に正極側母線と負極側母線間の電圧を測定し、その電圧値を制御回路へ通知する電圧計が設けられてもよい。この場合、制御回路は、負極側母線に流れる電流、正極側母線と負極側母線間の電圧及び電動機部の目標回転数に応じて昇降圧回路及び電動機駆動回路を制御する。なお、このような昇圧回路は、例えば、特開2010−268627号公報に開示されているように周知であるので、その詳細な説明は省略する。
また、制御基板は、上記の吸入口側の端部壁に近接した位置に限られず、ヒータよりも吸入口に近く、かつハウジングの端部壁、側壁などの外壁に近接する他の位置に配置されてもよい。
【0048】
上記のように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 圧縮機
2 ハウジング
2a、2b 端部壁
2c 側壁
3 吸入口
4 吐出室
5 オイル・冷媒分離装置
6 フィルタ
10 電動機部
11 固定子
12 回転軸
13 回転子
14 主軸受
15 ベアリング
16 ベアリング支持部
17 バランサ
12a オイル戻し用配管
12b 偏心部
20 圧縮機構部
21 可動スクロール
21a 基板
21b 可動側渦巻板
21c ボス部
22 固定スクロール
22a 基板
22b 固定側渦巻溝
22c 外周縁部
22d 吐出口
22e オイル戻し口
23 作動室
24 吐出弁
30 ヒータ
40、70 制御基板
41 電動機駆動回路
42、72 ヒータ駆動回路
43 コンデンサ
44 電流センサ
45 通信回路
46 制御回路
47 直流電源
51〜53 アーム
54 正極側母線
55 負極側母線
SW1〜SW9 スイッチング素子
60 電子制御装置
100 車載空調装置
101 ヒートポンプ回路
102 圧縮機
103 コンデンサ
104 レシーバ
105 膨張弁
106 エバポレータ
107 四方弁
110 電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筺体(2)であって、該筺体(2)の一端に設けられ、冷媒を該筺体(2)の内部へ吸入する吸入口(3)と、該筺体(2)の他端に設けられ、前記吸入口(3)を通じて吸入された冷媒を該筺体(2)の外部へ吐出する吐出部(5)とを有する筺体(2)と、
前記筺体(2)内に収容され、前記筺体(2)内へ吸入された冷媒を圧縮する圧縮機構部(20)と、
前記筺体(2)内において前記圧縮機構部(20)よりも前記吸入口(3)の近くに配置され、前記圧縮機構部(20)へ動力を提供する電動機部(10)と、
前記筺体(2)内で前記電動機部(10)と前記圧縮機構部(20)との間の冷媒が通る空間に配置され、冷媒を暖める暖房部(30)と、
を有することを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記暖房部(30)よりも前記吸入口(3)の近くに、前記筺体(2)の外壁に近接して配置され、前記暖房部(30)及び前記電動機部(10)へ駆動信号を出力する制御部(40、70)をさらに有する、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記電動機部(10)は、供給される電力に応じた磁場を発生する固定子(11)と、該固定子(11)により生じた磁場と相互作用することにより回転する回転子(13)とを有し、
前記暖房部(30)は、供給される電力に応じて発熱し、
前記制御部(40、70)は、
直流電源(47)の正極と接続される正極側母線(54)と該直流電源(47)の負極と接続される負極側母線(55)との間に接続され、該直流電源(47)から供給される直流電力を交流電力に変換し、該交流電力を前記固定子(11)へ供給することにより、前記電動機部(10)を駆動する電動機駆動回路(41)と、
前記正極側母線(54)を介して前記直流電源(47)から供給される直流電力を前記暖房部(30)へ供給し、または該直流電力の供給を停止する暖房部駆動回路(42、72)と、
前記電動機部(10)の前記回転子(13)が所定の目標回転数で回転する交流電力が前記電動機部(10)に供給されるように前記電動機駆動回路(41)を制御し、かつ、前記暖房部(30)が単位時間あたりに所定の発熱量を生じるように所定の周期の第1の割合を占める期間のみ前記直流電力が前記暖房部(30)へ供給されるように前記暖房部駆動回路(42、72)を制御する制御回路(46)と、
を有する、請求項2に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−127328(P2012−127328A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281989(P2010−281989)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】