説明

圧縮機

【課題】弁押さえが受ける加振力を低減することによって、騒音を抑制することができる圧縮機を提供することにある。
【解決手段】弁体92及び弁押さえ94は、ボルト96によって弁座24a1の吐出表面41aに固定されている。弁体92は、吐出孔41の吐出表面41a上の開口部を開閉する部材である。弁押さえ94は、弁体92の上方に配置され、弁体92とは反対側に向かって凸状に膨らんだ断面形状を有する部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧縮機には、圧縮機構の冷媒ガスの吐出孔を開閉するための弁が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2000−161511号公報)に記載されているスクロール圧縮機では、固定スクロールの背面である弁座の表面に、圧縮された冷媒ガスの吐出孔を開閉するための弁が設けられている。この弁は、矩形平板状の弁体と、弁体の上方に設けられている弁押さえとから構成され、一端が弁座に対してネジで固定されている。このスクロール圧縮機では、弁押さえの前縁は、弁体に対して面接触しない形状を有しており、弁押さえの後縁は、弁座の表面に平行な平板状に成形されている。このスクロール圧縮機では、弁押さえは弁体に対して面接触しないので、圧縮機運転時における弁押さえと弁体との接触音が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の圧縮機では、弁が開いて圧縮された冷媒ガスが吐出される際に、弁押さえの後縁で冷媒ガスの流れが弁押さえから剥離してしまう。そして、冷媒ガスの流れが剥離することによって負圧が発生すると、弁押さえが加振力を受ける。その結果、弁押さえの振動が励起されて、騒音の原因となる虞がある。
【0005】
本発明の課題は、弁押さえが受ける加振力を低減することによって、騒音を抑制することができる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る圧縮機は、ケーシングと、圧縮機構と、弁座と、弁体と、弁押さえとを備える。圧縮機構は、ケーシング内に収容される。圧縮機構は、流体を圧縮する圧縮室を有する。弁座は、圧縮機構に設けられる。弁座は、吐出孔が形成された吐出表面を有する。吐出孔は、圧縮室内の圧縮された流体を吐出する。弁体は、吐出表面に接して配設される。弁体は、吐出孔から吐出される流体の圧力に応じて弾性変形することで吐出孔を開閉する。弁押さえは、弁座と共に、弁体を挟み込むように配設される。弁押さえは、その断面形状が、弁体とは反対側に向かって凸状に膨らんだ形状である。
【0007】
第1観点に係る圧縮機では、圧縮機構内の圧縮室に吸入された低圧の冷媒ガスは、圧縮室の収縮によって圧縮されて高圧の冷媒ガスとなる。圧縮された高圧の冷媒ガスは、吐出孔を経由して圧縮機構から吐出される。圧縮機の運転停止時や運転開始直後などにおいて、吐出孔内の圧力が一定以下になっている場合には、弁体は、吐出表面上の吐出孔の開口部を閉じている状態となる。また、圧縮機の運転時において、吐出孔から吐出される冷媒ガスの圧力が一定以上になっている場合には、弁体は、変形して吐出表面上の吐出孔の開口部を開いている状態となる。弁体が開いている状態のとき、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、弁押さえの凸状に膨らんだ部分の表面を沿うように流れるので、冷媒ガスの流れが弁押さえから剥離しにくい。これにより、弁押さえの近傍で負圧が発生することを防ぐことができるので、負圧に起因して弁押さえが受ける加振力が低減される。その結果、この圧縮機では、運転時において、弁押さえが振動することによって発生する騒音を抑制することができる。一方、従来の圧縮機のように、弁押さえの後縁が平板状になっている場合には、冷媒ガスの流れが弁押さえの後縁で剥離して負圧が発生する。そのため、弁押さえは、負圧に起因する加振力を受けて、騒音が発生しやすい。
【0008】
従って、第1観点に係る圧縮機では、弁押さえが受ける加振力を低減することによって、騒音を抑制することができる。
【0009】
本発明の第2観点に係る圧縮機は、第1観点に係る圧縮機において、弁押さえは、その断面形状が、断面幅減少部を有する。断面幅減少部は、吐出表面に垂直な方向における吐出表面からの距離が増加するに従って、吐出表面に水平な方向の幅が徐々に減少する部分である。
【0010】
第2観点に係る圧縮機では、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、断面幅減少部における弁押さえの表面を沿うように流れるので、冷媒ガスの流れが弁押さえから剥離しにくい。
【0011】
本発明の第3観点に係る圧縮機は、第2観点に係る圧縮機において、弁押さえは、その断面形状が、尖端部を有する。
【0012】
第3観点に係る圧縮機では、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、弁押さえの表面を沿うように流れた後、尖端部に到達する。この尖端部は、弁押さえの断面の両側を流れる冷媒ガスが、互いに滑らかに合流できる形状を有している。そのため、弁押さえの断面の両側を流れる冷媒ガスが、弁押さえの後縁で互いに衝突することを抑制することができる。これにより、この圧縮機では、吐出孔から吐出された冷媒ガスが、尖端部によって弁押さえの表面をより滑らかに沿うように流れやすくなるので、冷媒ガスの流れが弁押さえの後縁で剥離することをより効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の第4観点に係る圧縮機は、第2観点又は第3観点に係る圧縮機において、弁押さえは、その断面形状が、断面幅増加部を有する。断面幅増加部は、吐出表面に垂直な方向における吐出表面からの距離が増加するに従って、吐出表面に水平な方向の幅が徐々に増加する部分である。断面幅増加部は、弁体に接する弁押さえの面と断面幅減少部との間において、断面幅減少部と隣接して形成される。
【0014】
第4観点に係る圧縮機では、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、断面幅増加部における弁押さえの表面を沿うように流れた後、断面幅減少部における弁押さえの表面を沿うように流れる。これにより、この圧縮機では、吐出孔から吐出された冷媒ガスが、断面幅増加部によって弁押さえの表面をより滑らかに沿うように流れやすくなるので、冷媒ガスの流れが弁押さえの後縁で剥離することをより効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明の第5観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに係る圧縮機において、固定部材をさらに備える。固定部材は、弁体及び弁押さえの一端を弁座に固定する。弁押さえは、固定部材の近傍における断面形状が長方形である。
【0016】
第5観点に係る圧縮機では、弁押さえは、固定部材によって弁座に固定される端部においてのみ、断面形状が長方形となっている。そのため、この圧縮機の弁押さえは、ボルト等の固定部材によって弁座に容易に固定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る圧縮機は、弁押さえが受ける加振力を低減することによって、騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における、スクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における、弁座、弁体及び弁押さえの側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態における、弁押さえの断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例1Aにおける、弁座、弁体及び弁押さえの側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例1Bにおける、弁押さえの断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態における、弁押さえの断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態における、弁押さえの断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態の変形例3Aにおける、弁押さえの断面図である。
【図9】比較例としての圧縮機の弁押さえの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る圧縮機について、図1乃至図5を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態における圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機である。スクロール圧縮機は、互いに噛合する2つのスクロールの少なくとも一方のスクロールが自転することなく他方のスクロールに対して公転することにより、冷媒を圧縮する圧縮機である。
【0021】
(1)全体構成
本実施形態に係るスクロール圧縮機101の縦断面図を図1に示す。スクロール圧縮機101は、冷媒を循環する冷凍サイクルを繰り返す冷媒回路において、冷媒ガスを圧縮する役割を担う。
【0022】
本実施形態に係るスクロール圧縮機101は、図1に示されるように、ケーシング10、圧縮機構15、ハウジング23、モータ16、クランク軸17、吸入管19、吐出管20、弁体92及び弁押さえ94等から構成される。以下、スクロール圧縮機101の構成部品について詳述する。
【0023】
(2)詳細構成
(2−1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とから構成される。ケーシング10は、ケーシング10の内部及び外部において圧力及び温度が変化した場合に変形及び破損が起こりにくい剛性部材で成型される。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の略円筒状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置される。
【0024】
ケーシング10の内部には、圧縮機構15と、圧縮機構15の下方に配置されるハウジング23と、ハウジング23の下方に配置されるモータ16と、ケーシング10内を鉛直方向に延びるように配設されるクランク軸17等が収容されている。ケーシング10の壁部には、吸入管19及び吐出管20が気密状に溶接されている。
【0025】
ケーシング10の底部には、潤滑油を貯留するための空間である油貯留部Pが形成されている。潤滑油は、スクロール圧縮機101の運転中において、圧縮機構15等の摺動部の潤滑性を良好に保つために使用される。
【0026】
(2−2)圧縮機構
圧縮機構15は、ケーシング10の内部に収容され、低温低圧の冷媒ガスを吸引し、圧縮し、高温高圧の冷媒ガス(以下、「圧縮冷媒」という)を吐出する。圧縮機構15は、固定スクロール24と、旋回スクロール26とから構成される。次に、固定スクロール24及び旋回スクロール26について、それぞれ説明する。
【0027】
固定スクロール24は、第1鏡板24aと、第1鏡板24aに直立して形成されている渦巻形状(インボリュート状)の第1ラップ24bとを有している。固定スクロール24には、主吸入孔(図示せず)と、主吸入孔に隣接する補助吸入孔(図示せず)とが形成されている。主吸入孔は、吸入管19と、後述する圧縮室40とを連通する。補助吸入孔は、後述する低圧空間S2と、圧縮室40とを連通する。第1鏡板24aの中央部には、吐出孔41が形成され、第1鏡板24aの上面には、吐出孔41と連通する拡大凹部42が形成されている。この拡大凹部42は、第1鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる空間である。以下、吐出孔41が開口する拡大凹部42の表面を、吐出表面41aと云い、吐出表面41aを有する第1鏡板24aの部分を弁座24a1と云う。弁座24a1には、後述する弁体92及び弁押さえ94がボルト96によって固定されている。固定スクロール24の上面には、拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることにより圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、ガスケット(図示せず)を介して密着させることによりシールされている。また、固定スクロール24には、マフラー空間45と連通し、固定スクロール24の下面に開口する第1連絡通路46が形成されている。
【0028】
旋回スクロール26は、第2鏡板26aと、第2鏡板26aに直立して形成されている渦巻形状(インボリュート状)の第2ラップ26bとを有している。第2鏡板26aの下面中央部には、上端軸受26cが形成されている。第2鏡板26aの内部には、給油細孔63が形成されている。給油細孔63は、第2鏡板26aの上面外周部と、上端軸受26cの内側の空間とを連通している。
【0029】
固定スクロール24及び旋回スクロール26は、第1ラップ24bと第2ラップ26bとが噛合することにより、第1鏡板24a、第1ラップ24b、第2鏡板26a及び第2ラップ26bによって囲まれる空間である圧縮室40を形成する。この圧縮室40は、旋回スクロール26の公転運動によって自身の体積を減少させることにより、冷媒を圧縮する。
【0030】
(2−3)ハウジング
ハウジング23は、圧縮機構15の下方に配設され、その外周面においてケーシング10の内壁に気密状に接合されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23の下方の高圧空間S1と、ハウジング23の上方の低圧区間S2とに画成されている。
【0031】
ハウジング23は、ハウジング23の上面に凹設されている主フレーム凹部31と、ハウジング23の下面から下方に延設されている上部軸受32とを有している。この上部軸受32には、鉛直方向に上部軸受孔33が貫通して形成されている。ハウジング23は、ボルト等で固定することによって固定スクロール部品24を載置し、旋回スクロール26の自転運動を防止するためのオルダム継手39を介して、固定スクロール部品24と共に旋回スクロール部品26を挟持している。ハウジング23の外周部には、鉛直方向に第2連絡通路48が貫通して形成されている。この第2連絡通路48は、ハウジング23の上面において第1連絡通路46と連通し、ハウジング23の下面において吐出口49を介して高圧空間S1と連通する。
【0032】
(2−4)モータ
モータ16は、ケーシング10の内部に収容され、ハウジング23の下方に配設されるブラシレスDCモータである。モータ16は、ケーシング10の内壁に固定されるステータ51と、このステータ51の内側に僅かな間隙(エアギャップ)を設けて回転自在に収容されるロータ52とによって構成される。
【0033】
ステータ51は、導線が巻き付けられているコイル部(図示せず)と、コイル部の上方及び下方に形成されているコイルエンド53とを有している。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて、切欠形成されている複数のコアカット部(図示せず)が設けられている。このコアカット部は、胴部ケーシング部11とステータ51との間に鉛直方向に延びるモータ冷却通路55を形成する。
【0034】
(2−5)クランク軸
クランク軸17は、ケーシング10の内部に収容され、その軸方向が鉛直方向に沿うように、ロータ52に固定されて配設されている。クランク軸17は、図1に示されるように、その上端部の軸心が上端部を除く部分の軸心に対してわずかに偏心している形状を有している。クランク軸17は、軸回転運動することで、その外周面が、旋回スクロール26の上端軸受26c、ハウジング23の上部軸受32、及び、モータ16の下方に配設される下部軸受60と摺動する。
【0035】
クランク軸17は、軸方向に延びている主給油路61を内部に有している。主給油路61の上端は、クランク軸17の上端面と第2鏡板26aの下面とによって形成される油室83と連通している。この油室83は、第2鏡板26aの給油細孔63を介して、固定スクロール24と旋回スクロール26との摺動部(以下、「圧縮機構15の摺動部」という)に連通し、圧縮室40を介して最終的に低圧空間S2に連通する。また、主給油路61の下端は、高圧空間S1の油貯留部Pに連通する。
【0036】
クランク軸17は、主給油路61から分岐する第1副給油路61a、第2副給油路61b及び第3副給油路61cを有している。第1副給油路61a、第2副給油路61b及び第3副給油路61cは、主給油路61に対して直交して形成されている。第1副給油路61aは、上端軸受26cと摺動するクランク軸17の外周面に開口する。第2副給油路61bは、上部軸受32と摺動するクランク軸17の外周面に開口する。第3副給油路61cは、下部軸受60と摺動するクランク軸17の外周面に開口する。
【0037】
(2−6)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の外部から圧縮機構15へ、冷媒回路の冷媒を導入するための管状部材である。吸入管19は、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間S2を鉛直方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0038】
(2−7)吐出管
吐出管20は、高圧空間S1からケーシング10の外部へ、圧縮冷媒を吐出するための管状部材である。吐出管20は、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。吐出管20は、高圧空間S1を水平方向に貫通すると共に、ケーシング10内にある開口部20aが、ハウジング23の近傍に位置している。
【0039】
(2−8)弁体及び弁押さえ
弁体92及び弁押さえ94は、図2に示されるように、ボルト96によって、弁座24a1の吐出表面41aに固定されている。なお、図2は、図1に示される吐出孔41及び弁押さえ94の近傍を拡大した図である。図2において、鉛直方向をZ軸と定義する。Z軸は、吐出表面41aに垂直である。
【0040】
弁体92は、Z軸に沿って平面視した形状が長方形である、厚さが0.5mm程度の薄板部材である。ここで、弁体92をZ軸に沿って平面視した形状である長方形の長辺方向をY軸と定義する。Y軸は、吐出表面41aに平行である。弁体92は、Y軸に垂直な断面形状が長方形である。弁体92の一方の端部は、弁押さえ94の一方の端部と共に、ボルト96によって吐出表面41aに固定されている。弁体92の他方の端部は、吐出表面41aに固定されておらず、吐出表面41aから離れるように変形することによって、吐出孔41の開口部を開閉する。弁体92が吐出孔41を閉じているとき、弁体92の下面は、吐出表面41aに面接触している。
【0041】
弁押さえ94は、Z軸に沿って平面視した形状が長方形である、厚さが1.5〜2.0mm程度の薄板部材である。弁押さえ94は、弁体92の上方に重なるように配置される。弁押さえ94は、Y軸に垂直な断面形状が、図3に示される形状を有している。以下、図3に示されるように、Z軸とY軸の両方に垂直な方向で、かつ、吐出表面41aに平行な方向をX軸と定義する。図3において、紙面に垂直な方向がY軸である。弁押さえ94は、図2及び図3に示されるように、X軸方向の幅が上方に向かうに従って徐々に減少する断面幅減少部R1を有している。この断面幅減少部R1のY軸に垂直な断面形状の輪郭は、図3に示されるように、Z軸方向の頂部においてR形状を有している。弁押さえ94の一方の端部は、弁体92の一方の端部と共に、ボルト96によって吐出表面41aに固定されている。弁押さえ94の他方の端部は、吐出表面41aに固定されておらず、吐出表面41aから離れるように変形することができる。弁押さえ94は弾性変形するので、吐出表面41aから離れた弁押さえ94の端部には、吐出表面41aに向かう弾性力が発生する。
【0042】
(3)動作
本実施形態におけるスクロール圧縮機101を備える冷媒回路を循環する冷媒の流れについて説明する。
【0043】
最初に、モータ16が駆動されることによって、ロータ52が回転する。これにより、ロータ52に固定されているクランク軸17が、軸回転運動を行う。クランク軸17の軸回転運動は、上端軸受26cを介して旋回スクロール26に伝達される。クランク軸17の上端部の軸心は、クランク軸17の軸回転運動の軸心に対して偏心しているので、旋回スクロール26は、クランク軸17の軸回転中心に対して公転運動を行う。なお、旋回スクロール26は、オルダム継手39によって自転することなく公転運動を行う。
【0044】
圧縮前の低温低圧の冷媒は、吸入管19から主吸入孔を経由して、又は、低圧空間S2から補助吸入孔を経由して、圧縮機構15の圧縮室40に吸引される。旋回スクロール26の旋回運動により、圧縮室40は体積を徐々に減少させながら固定スクロール24の外周部から中心部へ向かって移動する。その結果、圧縮室40内の冷媒は圧縮されて圧縮冷媒となる。この圧縮冷媒は、吐出孔41からマフラー空間45へ吐出される際に、自身の圧力によって弁体92及び弁押さえ94の一方の端部を鉛直方向上向きに押し上げようとする力を生じさせる。これにより、弁体92及び弁押さえ94の一方の端部が鉛直方向上向きに持ち上がるように変形して、吐出孔41がマフラー空間45と連通する。その結果、吐出孔41からマフラー空間45へ圧縮冷媒が吐出され、その後、圧縮冷媒は、第1連絡通路46及び第2連絡通路48を経由して、吐出口49から高圧空間S1へ導入される。そして、圧縮冷媒は、モータ冷却通路55を下降して、モータ16の下方の空間に到達する。その後、圧縮冷媒は、流れの向きを反転して、他のモータ冷却通路55及びエアギャップを上昇する。最終的に、圧縮冷媒は、吐出管20からスクロール圧縮機101の外部に吐出される。
【0045】
スクロール圧縮機101から吐出管20を介して吐出された圧縮冷媒は、凝縮器を通過することによって、冷却されて液化される。液化された冷媒は、膨張部を通過することによって、低温低圧の冷媒になる。その後、低温低圧の冷媒は、蒸発器を通過することによって気化されて、最終的に吸入管19からスクロール圧縮機101の内部に吸入される。
【0046】
(4)特徴
本実施形態では、吐出孔41からマフラー空間45に吐出された冷媒ガスは、弁押さえ94の近傍を流れる際に、図3に示されるように、断面幅減少部R1における弁押さえ94の表面を沿うように流れやすい。そのため、冷媒ガスの流れは、弁押さえ94から剥離しにくい。これにより、弁押さえ94の近傍において、冷媒ガスの流れの剥離に起因する負圧の発生を防ぐことができる。その結果、負圧の発生によって弁押さえ94が受ける鉛直方向の加振力が低減される。すなわち、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、運転時において、弁押さえ94が鉛直方向に振動することによる騒音を抑制することができる。
【0047】
一方、比較例として挙げる、本実施形態に係る弁押さえ94を有さない圧縮機では、図9に示されるように、弁押さえの後縁が平板状になっており、弁押さえの断面形状が長方形である。このため、冷媒ガスの流れは、弁押さえの後縁において弁押さえから剥離しやすい。その結果、弁押さえは、冷媒ガスの流れの剥離に起因する負圧によって鉛直方向の加振力を受けやすいので、騒音が発生しやすい。
【0048】
(5)変形例
(5−1)変形例1A
本実施形態では、図2に示されるように、弁押さえ94は、Y軸方向に沿った全領域に断面幅減少部R1が形成されているが、図4に示されるように、弁押さえ94は、ボルト96によって吐出表面41aに固定される端部においてのみ、その断面形状が図9に示されるような長方形に形成され、かつ、その端部を除いた部分においては、本実施形態と同様に断面幅減少部R1が形成されるようにしてもよい。この場合、弁押さえ94を、ボルト96によって容易に吐出表面41aに固定することができる。
【0049】
(5−2)変形例1B
本実施形態では、図3に示されるように、断面幅減少部R1は、Z軸方向の頂部においてR形状を有しているが、図5に示されるように、Z軸方向の頂部がR形状を有していなくてもよい。この場合でも、本実施形態と同様に、弁押さえ94が受ける鉛直方向の加振力が低減される。
【0050】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る圧縮機について、図6を参照しながら説明する。本実施形態の基本的な構成、動作及び特徴は、第1実施形態に係る圧縮機と同一であるので、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0051】
(1)構成
本実施形態では、弁押さえ194の断面形状が、第1実施形態に係る弁押さえ94の断面形状と異なる。本実施形態における弁押さえ194の断面形状を図6に示す。弁押さえ194は、図6に示されるように、Z軸方向の上端部に、断面形状の輪郭が鋭角に形成されている尖端部R2を有している。
【0052】
(2)動作
本実施形態では、吐出孔41からマフラー空間45に吐出された冷媒ガスは、弁押さえ194の近傍を流れる際に、図6に示されるように、断面幅減少部R1において弁押さえ194の表面を沿うように流れやすい。また、弁押さえ194の断面幅減少部R1の両側を流れる冷媒ガスは、尖端部R2の近傍において、Z軸方向上向きに互いに滑らかに合流するように流れやすい。
【0053】
(3)特徴
本実施形態では、弁押さえ194の断面幅減少部R1の両側を流れる冷媒ガスは、尖端部R2の近傍において、互いに滑らかに合流するように流れやすい。そのため、弁押さえ194の上端部において、断面幅減少部R1の両側を流れた冷媒ガスが互いに衝突することを抑制することができる。これにより、この圧縮機では、尖端部R2によって、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、弁押さえの表面を沿うようにより滑らかに流れやすくなるので、冷媒ガスの流れが弁押さえ194の後縁で剥離することをより効果的に抑制することができる。
【0054】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る圧縮機について、図7及び図8を参照しながら説明する。本実施形態の基本的な構成、動作及び特徴は、第1実施形態に係る圧縮機と同一であるので、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0055】
(1)構成
本実施形態では、弁押さえ294の断面形状が、第1実施形態に係る弁押さえ94の断面形状と異なる。本実施形態における弁押さえ294の断面形状を図7に示す。弁押さえ294は、断面幅減少部R1のZ軸方向下方に、断面幅増加部R3を有する。断面幅増加部R3は、Z軸方向の吐出表面41aからの距離が増加するに従って、X軸方向の弁押さえ294の幅が徐々に増加する部分である。
【0056】
(2)動作
本実施形態では、吐出孔41からマフラー空間45に吐出された冷媒ガスは、弁押さえ294の近傍を流れる際に、図7に示されるように、断面幅増加部R3において弁押さえ294の表面を沿うように流れやすく、かつ、断面幅減少部R1において弁押さえ294の表面を沿うように流れやすい。
【0057】
(3)特徴
本実施形態では、吐出孔41から吐出された冷媒ガスは、断面幅増加部R3における弁押さえ294の表面を沿うように流れた後、断面幅減少部R1における弁押さえ294の表面を沿うように流れる。そのため、冷媒ガスは、断面幅増加部R3によって、弁押さえ294の表面を沿うように流れやすくなる。これにより、この圧縮機では、断面幅増加部R3によって、吐出孔から吐出された冷媒ガスは、弁押さえの表面を沿うようにより滑らかに流れやすくなるので、冷媒ガスの流れが弁押さえ294の後縁で剥離することをより効果的に抑制することができる。
【0058】
(4)変形例3A
本実施形態では、弁押さえ294は、断面幅減少部R1及び断面幅増加部R3のみを有しているが、図8に示されるように、第2実施形態に係る弁押さえ194が有する尖端部R2を有していてもよい。この場合、尖端部R2によって、弁押さえ294が受ける鉛直方向の加振力をより効果的に低減することができる。
【0059】
<他の変形例>
以上、第1実施形態乃至第3実施形態において、スクロール圧縮機101に用いられる弁押さえ94,194,294についてそれぞれ説明しましたが、これらの弁押さえ94,194,294は、スクロール圧縮機以外の他の種類の圧縮機に用いられてもよい。例えば、これらの弁押さえ94,194,294がロータリ圧縮機に用いられてもよい。この場合、シリンダ内で圧縮された冷媒ガスを吐出するためのフロントヘッドの吐出孔に設けられる弁に、これらの弁押さえ94,194,294が用いられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る圧縮機は、弁押さえが受ける加振力を低減することによって、騒音を抑制することができるので、有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 ケーシング
15 圧縮機構
24a1 弁座
40 圧縮室
41 吐出孔
41a 吐出表面
92 弁体
94 弁押さえ
96 ボルト(固定部材)
101 スクロール圧縮機(圧縮機)
194 弁押さえ
294 弁押さえ
R1 断面幅減少部
R2 尖端部
R3 断面幅増加部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】特開2000−161511号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)と、
前記ケーシング内に収容され、流体を圧縮する圧縮室(40)を有する圧縮機構(15)と、
前記圧縮機構に設けられ、前記圧縮室内の圧縮された流体を吐出する吐出孔(41)が形成された吐出表面(41a)を有する弁座(24a1)と、
前記吐出表面に接して配設され、前記吐出孔から吐出される流体の圧力に応じて弾性変形することで前記吐出孔を開閉する弁体(92)と、
前記弁座と共に、前記弁体を挟み込むように配設される弁押さえ(94,194,294)と、
を備え、
前記弁押さえは、その断面形状が、前記弁体とは反対側に向かって凸状に膨らんだ形状である、
圧縮機(101)。
【請求項2】
前記弁押さえは、その断面形状が、前記吐出表面に垂直な方向における前記吐出表面からの距離が増加するに従って、前記吐出表面に水平な方向の幅が徐々に減少する断面幅減少部(R1)を有する、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記弁押さえ(194,294)は、その断面形状が、尖端部(R2)を有する、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記弁押さえ(294)は、その断面形状が、前記吐出表面に垂直な方向における前記吐出表面からの距離が増加するに従って、前記吐出表面に水平な方向の幅が徐々に増加する断面幅増加部(R3)を有し、
前記断面幅増加部は、前記弁体に接する前記弁押さえの面と前記断面幅減少部との間において、前記断面幅減少部と隣接して形成される、
請求項2または3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記弁体及び前記弁押さえの一端を前記弁座に固定する固定部材(96)をさらに備え、
前記弁押さえは、前記固定部材の近傍における断面形状が長方形である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−67693(P2012−67693A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213846(P2010−213846)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】