説明

圧電振動子

【課題】 錫系の低融点金属ろう材による接合強度を安定させながら、電気的特性の劣化させることがないより信頼性の高い電極構造が得られる圧電振動子を提供する。
【解決手段】 リード端子21,22が植設された気密端子用のベース2と、励振電極13,14と電極パッド17,18が形成された圧電振動片1とを有し、前記リード端子の先端部分と圧電振動片の電極パッドとを錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合してベースに圧電振動片を搭載してなる圧電振動子であって、前記励振電極と電極パッドとは同じ下地金属層の上面に同じ導電金属層が形成され、前記励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成され、前記電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子は、通信機器の基準発振源、あるいはマイクロコンピュータのクロック源として用いられる。例えば特許文献1に示すようなシリンダー型の圧電振動子では、金属製のシェルに絶縁ガラスが充填され、当該絶縁ガラスにリード端子が貫通固定されたベースを用い、ベース上面に圧電振動片を取着し、キャップをベースに圧入することにより、圧電振動片等を気密封止する構成である。このような圧電振動片とリード端子(ベースの接合部)との接合には、圧電振動片に対する熱的な悪影響を与えないようにするため、350℃以下のはんだ材や低融点金属ろう材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−68007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
錫(Sn)を主成分とするはんだ材や低融点金属ろう材による接合構成では、比較的低融点で圧電振動片にダメージを与えないものが多く、ヌレ性や接合強度も高く、クラックなどが生じにくいといった優位点があるものの、電極材料によって接合強度がばらついたり、電気的特性にも影響が生じやすいといった問題点あった。例えばクロム(Cr)やニッケル(Ni)など水晶などに対して密着性の高い下地電極膜の上面に、銀(Ag)や金(Au)などの導通性の高い表面電極膜を構成した電極に対して、錫(Sn)を主成分とするはんだ材や低融点金属ろう材を用いると、下地電極膜と表面電極膜との金属間結合力に比べて、表面電極膜とはんだ材や金属ろう材との金属間結合力が非常に強くなり、接合後に下地電極膜と表面電極膜の間の膜剥がれが生じることがあった。このため圧電振動子の接合部分における耐衝撃性能が著しく低下し、導通不良を招く可能性があった。また前記錫によって表面電極膜のくわれ現象が早められたり、前記錫が経年変化とともに表面電極膜中で拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることもあった。
【0005】
なお、近年の電子部品の鉛フリー要請により、上述の圧電振動子においても鉛フリー製品が求められている。このような要請に対応して、圧電振動片を支持するはんだ材や低融点金属ろう材も鉛フリー製品が採用されるようになっている。このような錫を主成分とする鉛フリー製品では、上述した問題点がより顕著となっているのが現状である。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、錫系の低融点金属ろう材による接合強度を安定させながら、電気的特性の劣化させることがないより信頼性の高い電極構造が得られる圧電振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するためになされたもので、請求項1に示すように、ベースと、励振電極と電極パッドが形成された圧電振動片とを有し、前記ベースの圧電振動片接合部と圧電振動片の電極パッドとを錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合してベースに圧電振動片を搭載してなる圧電振動子であって、前記励振電極と電極パッドとは下地金属層の上面に導電金属層が形成され、前記励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成され、前記電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、前記励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成されていることで、軟質の錫層が導電金属層による圧電振動片の振動への悪影響を和らげ、結果として直列共振抵抗値(CI値)を向上させることができる。
前記電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることで、前記合金層が前記下地金属層と前記導電金属層との金属間結合を向上させる介在層として機能することができる。結果として、錫系の低融点金属ろう材による接合後に下地電極膜と表面電極膜の間の膜剥がれが生じることがなくなり、耐衝撃性能を高める。また電極パッドの領域の導電金属層の下には錫層が存在していないため、錫によって表面電極膜のくわれ現象が抑えられ、前記錫が経年変化とともに表面電極膜中で拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。
【0009】
また請求項2に示すように、ベースと、励振電極と電極パッドが形成された圧電振動片とを有し、前記ベースの圧電振動片接合部と圧電振動片の電極パッドとを錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合してベースに圧電振動片を搭載してなる圧電振動子であって、前記圧電振動片が2つの主面と2つの側面とを有した基部とこの基部一端部から突出し、2つの主面と2つの側面とを有する複数本の脚部とから構成され、前記励振電極と電極パッドとは下地金属層の上面に導電金属層が形成され、前記基部と脚部の側面に形成された励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成され、前記基部と脚部の主面に形成された励振電極と電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、前記基部と脚部の2つの側面に形成された励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成されていることで、軟質の錫層が導電金属層による圧電振動片の振動への悪影響を和らげ、結果として直列共振抵抗値(CI値)を向上させることができる。
特に複数の脚部が側面方向に屈曲振動してなる音叉圧電型振動片では、主面の励振電極よりも側面の励振電極による影響が強くなる傾向にあり、直列共振抵抗値(CI値)の向上に関係する。
前記基部と脚部の2つの主面に形成された励振電極と電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることで、前記合金層が前記下地金属層と前記導電金属層との金属間結合を向上させる介在層として機能することができる。結果として、錫系の低融点金属ろう材による接合後に下地電極膜と表面電極膜の間の膜剥がれが生じることがなくなり、耐衝撃性能を高める。また電極パッドの領域の導電金属層の下には錫層が存在していないため、錫によって表面電極膜のくわれ現象が抑えられ、前記錫が経年変化とともに表面電極膜中で拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。
特に複数の脚部が側面方向に屈曲振動してなる音叉圧電型振動片では、上述のような接合の信頼性を高めながら、基部の主面に形成された電極パッドで、リード端子と錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合することができるため、音叉型圧電振動片の振動も阻害しにくい保持形態とすることができる。
【0011】
また請求項3に示すように、上記構成において、前記励振電極と電極パッドとはお互いが離間した状態で形成し、接続電極は前記離間した励振電極と電極パッドとの上面に一部が重なった状態でお互いを接続するとともに、前記励振電極と電極パッドより低融点金属ろう材の濡れ性の低い電極膜で形成してもよい。
【0012】
上記構成によれば、上述の作用効果に加え、前記錫が経年変化とともに励振電極に拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。錫系の低融点金属ろう材が前記電極パッド内でのみ濡れ拡がり、ベースの圧電振動片接合部との接合強度も安定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錫系の低融点金属ろう材による接合強度を安定させながら、電気的特性の劣化させることがなく、しかも圧電振動片の直列共振抵抗値を向上させることができるより信頼性の高い電極構造が得られる圧電振動子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による実施形態を示す音叉型圧電振動子の分解側面図。
【図2】図1のX−X線に沿った断面図。
【図3】図1のY−Y線に沿った断面図。
【図4】図1の圧電振動片をベースに搭載した状態の斜視図。
【図5】図1の変形例を示す圧電振動片をベースに搭載した状態の斜視図。
【図6】図1の変形例を示す圧電振動片の斜視図。
【図7】他の実施形態を示す圧電振動片の斜視図。
【図8】図7のZ−Z線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による好ましい実施形態について音叉型圧電振動子を例にとり、図面に基づいて説明する。本発明の音叉型圧電振動子は、音叉型振動片(圧電振動片)1と、この音叉型振動片が搭載され接合されるリード端子21,22(22については図示せず)を有するベース2と、音叉型振動片1とリード端子21,22とを接合する錫系の低融点金属ろう材としての鉛フリーはんだ材H、図示しないキャップとから構成されている。
【0016】
音叉型振動片1は、水晶からなりXYカットやNTカットなどの屈曲振動する切断角度のものが用いられ、基部10と当該基部の一端部側101から同一方向へ平行にのびる2本の脚部11,12を構成している。基部10は脚部11,12とつながる2つの主面103,104と2つの側面105,106とを有している。脚部11,12には異極の励振電極である第1励振電極13と第2励振電極14とが形成されている。脚部11には表裏主面に第1励振電極13a,13bと両側面に第2励振電極14c,14dが形成され、脚部12には表裏主面に第2励振電極14a,14bと両側面に第1励振電極13c,13dが形成されている。このうち脚部11の表裏主面の第1励振電極13a,13bと脚部12の両側面の第1励振電極13c,13dとが後述する引き回し電極により同極で共通接続され、脚部12の表裏主面の第2励振電極14a,14bと脚部11の両側面の第2励振電極14c,14dとが後述する引き回し電極により同極で共通接続されている。
【0017】
基部10には表裏主面に後述するベース2のリード端子21,22(圧電振動片接合部)と後述する鉛フリーはんだ材Hを用いて導電接合されるとともに前記第1励振電極と第2励振電極とを個別に導出する電極パッド17,18が基部の主面103,104のうち他端部側102の端部に接した状態かあるいは端部近傍(基部他端部あたり)に形成されている。図1では基部端部近傍に形成している。また、図1に示すように、これらの電極パッド17,18のうち基部の一端部側101(音叉型振動片の基部の脚部側)の端部位置Aは、側面の励振電極13d,14c(14cについては図示せず)のうち基部の他端部側(音叉型振動片の底面側)102の端部位置Bに対して基部の他端部側(音叉型振動片の底面側)102の位置に配置している。
【0018】
上述の各励振電極と各電極パッドとはお互いが離間した状態で以下に説明する複数の引き回し電極と接続電極により共通接続されている。また図1に示す音叉型振動片1の基部10を下側に配置した状態から表裏反転した状態に配置される裏面側の各電極は、図1に示す表面側の各電極と同様の配置や同様の形状で構成しているので、反転させた際に同位置に配置される電極については図中括弧書きで補足的に記載している。
【0019】
第1励振電極13は脚部11の表裏主面の第1励振電極13a,13bと脚部12の両側面の第1励振電極13c,13dにより構成されており、脚部11,12から離間した基部10に形成された電極パッド17へと導出されている。このうち表裏主面の第1励振電極13aと第1励振電極13bとは脚部11の先端付近に形成された引き回し電極15a,15bにより接続されており、第1励振電極13aと第1励振電極13cとは脚部12の付根付近に形成された引き回し電極15cにより接続され、第1励振電極13aと第1励振電極13dとは基部10に形成された接続電極15d,15eおよび電極パッド17により接続されている。
【0020】
接続電極15dは離間した第1励振電極13aと電極パッド17との上面に一部が重なった状態でお互いを接続しており、接続電極15eはお互いに離間した側面106の第1励振電極13dと主面103の電極パッド17との上面に一部が重なった状態でお互いを接続している。
【0021】
接続電極15eは基部の主面103から側面106に面方向が変更された状態で形成されているとともに、基部の他端部側102の側面106にはその他端部に接した状態かあるいはその他端部近傍に(基部他端部あたりに)接続電極15eのみが形成されている。図1では接続電極15eを基部他端部近傍に形成している。接続電極15eはつまり音叉型振動片の基部の他端部側102では、その主面103の端部近傍に電極パッド17と接続電極15eの重なり部分のみが形成された端子領域を構成し、その側面106の端部近傍に接続電極15eのみが形成された端子領域を構成している。
【0022】
第2励振電極14は脚部12の表裏主面の第2励振電極14a,14bと脚部11の両側面の第2励振電極14c,14dにより構成されており、脚部11,12から離間した基部10に形成された電極パッド18へと導出されている。このうち表裏主面の第2励振電極14aと第2励振電極14bとは脚部12の先端付近に形成された引き回し電極16a,16bにより接続されており、第2励振電極14bと第2励振電極14dとは脚部11の付根付近に形成された引き回し電極16c(図示せず)により接続され、第2励振電極14bと第2励振電極14cとは基部10に形成された接続電極16d,16eおよび電極パッド18(図示せず)により接続されている。
【0023】
接続電極16d(図示せず)は離間した第2励振電極14bと電極パッド18との上面に一部が重なった状態でお互いを接続しており、接続電極16eはお互いに離間した側面105の第2励振電極14cと主面104の電極パッド18との上面に一部が重なった状態でお互いを接続している。
【0024】
接続電極16eは基部の主面104から側面105に面方向が変更された状態で形成されているとともに、基部の他端部側102の側面105にはその他端部に接した状態かあるいはその他端部近傍に(他端部あたりに)接続電極16eのみが形成されている。つまり音叉型振動片の基部の他端部側102では、その主面104の端部近傍に電極パッド18と接続電極16eの重なり部分のみが形成された端子領域を構成し、その側面105の端部近傍に接続電極16eのみが形成された端子領域を構成している。
【0025】
上述の各励振電極や各引き回し電極は、図2に示すように、マスク治具を用いるパターンニングによる手法やフォトリソグラフィー技術によるメタルエッチングなどによる手法で形成される。例えば、クロム(Cr)やニッケル(Ni)など水晶などに対して密着性の高い下地金属層M1が形成され、その上面に錫(Sn)層M2が形成され、その上面に銀(Ag)や金(Au)などの導通性の高い導電金属層M3が形成された少なくとも3層以上の金属薄膜であり、真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成されている。なお、導電金属層としては銀(Ag)が導電性能とコスト面で優れて望ましく、これにクロム(Cr)の下地金属層と、錫(Sn)の中間層を組み合わせたものが、直列共振抵抗値(CI値)を劣化させることなくコストも抑制することができるので、最も好ましい最適材料の組み合わせとなる。本形態では前記下地金属層と錫(Sn)層の間に、これら下地金属と錫(Sn)の合金層M4が形成された4層構成としている。この構成では下地金属層と錫(Sn)層との金属間接合をさらに高めることができ、膜剥がれの悪影響をなくすより望ましい形態としている。なお、本形態に限らず、前記錫(Sn)層と導電金属層の間には、これら錫(Sn)層と導電金属の合金層がさらに形成された5層構成としてもよい。この構成では錫(Sn)層と導電金属層との金属間接合をさらに高めることができる。
【0026】
これに対して、図3に示すように、各電極パッド17,18は、同様の手法で、例えば、クロム(Cr)やニッケル(Ni)など水晶などに対して密着性の高い下地金属層M1が形成され、最上面に銀(Ag)や金(Au)などの導通性の高い導電金属層M3が形成されるとともに、前記下地金属層と前記導電金属層との間に、これら下地金属と導電金属の合金層M5が介在した状態で形成された3層構成の金属薄膜である。なお、導電金属層としては銀(Ag)が導電性能とコスト面で優れて望ましく、これにクロム(Cr)の下地金属層と、これら合金層の中間層を含めた組み合わせたものが、直列共振抵抗値(CI値)を劣化させることなくコストも抑制することができるので、最も好ましい最適材料の組み合わせとなる。
【0027】
また、一部図3に示すように、接続電極15d,15e,16d,16e(15d,16dについては図示せず)は、マスク治具を用いる手法で、例えば、クロム(Cr)の電極層M6のみから構成された単層構成の金属薄膜であり、真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成されている。これは後述する錫系の鉛フリーはんだ材Hの濡れ性の低い電極膜として形成されている。
【0028】
ベース2は、金属製のシェルと、当該シェル内に充填された絶縁ガラスと、当該絶縁ガラスに貫通固定されたリード端子21,22とからなる。シェルは例えば42アロイを基体としており、上下に貫通した円筒形状を有している。なお、このシェルの材料は42アロイ以外に、コバールあるいは鉄ニッケル系合金を用いてもよい。
【0029】
リード端子21,22は例えばコバールを基体とし、線状に加工されている。これらリード端子は前記シェル内に所定の間隔をもって貫通配置されている。シェル内に充填された絶縁ガラスは例えばホウケイ酸ガラスからなり、前記シェルとリード端子21,22とを各々電気的に独立させた状態で固定されている。
【0030】
ベースのシェルおよびリード端子21,22の表面には次の金属膜が形成される。シェルの基体表面およびリード端子の基体表面には、図示していないが、それぞれCu層からなる下地金属層が形成され、その上面にはSn−Cu層が形成されている。上記Cu層は例えば2〜5μmの厚さで形成され、上記Sn−Cu層は9〜15μmの厚さで形成される。これら層厚は一例であり、実施形態により適宜調整変更すればよい。なお、下地金属層としてNi層を用いてもよい。このようなSn−Cu層により鉛フリー(無鉛)対応ができ、また耐熱性を確保することができる。
【0031】
図4に示すように、このようなベース2のリード端子のインナー側21a,22aには前記音叉型水晶振動子片1が電気的機械的に接合される。すなわち基部10に形成された電極パッド17,18とリード端子のインナー側21a,22aとがSn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材Hを用いたろう付け等により導電接合される。なお、鉛フリーはんだ材としては錫系の鉛フリー金属ろう材以外に他の材料のものでもよく、さらにはんだ材以外の錫系の鉛フリー低融点金属ろう材であってもよい。本発明では銀(Ag)や金(Au)の上部電極からなる導電性の高い電極膜に対して拡散する現象が生じやすくなる錫(Sn)を主成分として構成される鉛フリーはんだ材や鉛フリー低融点金属ろう材を用いる場合に好適である。
【0032】
また上述の実施形態に限ることなく、ベースのリード端子のインナー側21a,22a(ベースの圧電振動片接合部)と音叉型水晶振動子片1と接合構成については、上述の実施形態に限ることなく、図5に示すようにシリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂、イミド系樹脂などの絶縁性樹脂接着剤Jにより音叉型水晶振動片の基部10の他端部側102とベース2の平面部分20との隙間の一部を埋めるようにお互いを接合することで、機械的な接合強度のさらなる補強を実現した構成としてもよい。
【0033】
図示しないキャップは洋白(Cu−Ni−Zn系合金)からなり、有底の円筒状を有している。キャップの外周および内周面にはニッケル層が3〜9μmの厚さでメッキ等の手段により形成されている。
【0034】
キャップの内径は前記ベースのシェル部分よりも若干小さく設計されており、例えば2〜5%小さな内径に設定されている。このようなキャップを真空雰囲気中で前記音叉型振動片1を被覆し、キャップ開口部をベース2に圧入することにより、ベース2とキャップが強く密着しキャップ内部が真空状態に保たれた気密封止を行うことができる。
【0035】
本発明では、前記接続電極を、銀(Ag)や金(Au)の上部電極からなる導電性の高い電極膜により構成された励振電極13,14と電極パッド17,18に対して、クロム(Cr)の電極層のみからなる錫系の鉛フリー低融点金属ろう材の濡れ性の低い電極膜により構成されている。ここで、励振電極13,14と電極パッド17,18の一部と重なった状態でお互いを接続する接続電極の構成としては、上述の実施形態に限ることなく、図6に示されているような接続構成でもよい。
【0036】
図6では、前記接続電極15d,15eと電極パッド17の重なり領域151d,151eは、電極パッド17から音叉型振動片の振動領域である励振電極13,14の形成された領域に近接しない方向の基部10の幅方向のみで重なるように構成されている。また前記接続電極16d,16eと電極パッド18の重なり領域161d,161e(図示せず)は、電極パッド18から音叉型振動片の振動領域である励振電極13,14の形成された領域に近接しない方向の基部10の幅方向のみで重なるように構成されている。すなわち電極パッド17,18の基部の一端部側101の上端部からはみ出した状態で前記重なり領域151d,151e,161d,161e(161dと161eについて図示せず)が形成されないように配置されている。加えて接続電極15d,16dも電極パッド17,18より小さく、かつ基部の一端部側101の上端部からもはみ出さないように小さく形成されている。また図6では、電極パッド17,18とは直接接続されず、表裏主面の励振電極(図では13a)から両側面の励振電極(図では13d)へ直接接続する接続電極15i(16i)が別途形成されている。
【0037】
上記実施形態により、励振電極13,14と電極パッド17,18とは同じ金属材料であるクロムやニッケルの下地金属層M1上面に同じ金属材料である銀や金の導電金属層M3で形成されていることで、電極材料の増加、および電極形成に伴う工程の増加をなくしてより安価な電極構成とすることができる。励振電極13,14は下地金属層M1と導電金属層M3の間に錫層M2が介在した状態で形成されていることで、
軟質の錫層M2が導電金属層M3による音叉型振動片1の振動の悪影響を和らげ、結果として直列共振抵抗値(CI値)を向上させることができる。電極パッド17,18は下地金属層M1と導電金属層M3との間に前記下地金属材料のクロムやニッケルと前記導電金属材料の銀や金からなる合金層M5が介在した状態で形成されていることで、合金層M5が下地金属層M1と導電金属層M3との金属間結合を向上させる介在層として機能することができる。結果として、錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)による接合後に、下地金属層M1と表面の導電金属層M3の間の膜剥がれが生じることがなくなり、耐衝撃性能を高める。また電極パッド17,18の領域の導電金属層M3の下には錫層M2が存在していないため、錫によって表面の導電金属層M3のくわれ現象が抑えられ、前記錫が経年変化とともに表面の導電金属層M3で拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。
【0038】
励振電極13,14と電極パッド17,18とはお互いが離間した状態で形成し、接続電極15d,15e,16d,16eは前記離間した励振電極13,14と電極パッド17,18との上面に一部が重なった状態でお互いを接続するとともに、励振電極13,14と電極パッド17,18より錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)の濡れ性の低いクロムの電極層M6のみから構成で形成しているため、前記錫が経年変化とともに励振電極13,14に拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)が電極パッド17,18内でのみ濡れ拡がり、リード端子21,22との接合強度も安定する。特に図6に示す実施形態では、接続電極と電極パッドとの重なり領域151d,151e,161d,161eが、電極パッド17,18から圧電振動片の振動領域である励振電極13,14の形成された領域に近接しない方向の基部10の幅方向のみで重なるように構成されているので、前記重なり領域の電極パッドと接続電極との界面に錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)が拡散しても、圧電振動子の振動を阻害することがなく、より一層圧電振動子の電気的特性の劣化をなくすことができる。
【0039】
さらに音叉型振動片の基部10は主面103,104と側面105,106とを有しており、電極パッド17,18は基部の主面103,104のみに形成され、基部の他端部側102の側面105,106には接続電極15e,16eのみが形成されているので、接続電極15e,16eは電極パッド17,18と側面の励振電極13d,14cとを接続するだけでなく、主面103から側面106あるいは主面104から側面105に面方向が変更されているため、錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)の濡れ拡がりをさらに抑えることができる。
【0040】
またこの側面の接続電極15e,16eを電極パッド17,18が存在しない基部の他端部側102の側面に形成された第2電極パッド(端子領域)として活用することができるため、基部の主面103,104に形成された電極パッド17,18と、基部の側面105,106に形成された第2電極パッドとしての接続電極15e,16eとを端子として用途に応じて使い分けることができる。例えば機械加工による音叉型振動片1であれば、ベースに搭載する前に音叉型振動片の脚部先端を研削して各脚部の重量バランスを整えながら周波数の粗調整を行う自動バランサー工程がある。この工程を実施する際、クロムからなる傷に強い第2電極パッドとしての接続電極15e,16eのみに治具の電極端子を接触させることができ、リード端子21,22に接合されるとともに、銀や金を主成分とした導電性の高い電極パッド17,18を傷つけることがない。ベースのリード端子21,22に音叉型振動片1を固着する際に、無傷で導通性能の優れた電極パッド17,18を接合することができる。
【0041】
また電極パッド17,18のうち基部の一端部側101の端部位置をAとし、側面の励振電極13d,14cのうち基部の他端部側102の端部位置をBとした場合、前記Bの位置に対して前記Aの位置を基部の他端部側102の位置に配置しているので、錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)の濡れ拡がりを側面の励振電極13d,14cの形成領域に到らせることなく、接続電極15e,16eで確実にせき止めることができるので、音叉型圧電振動子の振動を阻害することがより一層抑制され、音叉型圧電振動子の電気的特性の劣化をなくすのにさらに好ましい。
【0042】
また接続電極15d,15e,16d,16eがクロムで構成されているため、硬質で鉛フリー低融点金属ろう材Hの濡れ拡がりにくい材料とすることができ、はんだ拡散防止と端子接触による傷にも強い好ましい電極材料となる。
【0043】
次に、他の実施形態について図7,図8に基づいて説明する。なお基本構成は上記実施形態と同様であるため、同番号を付すことで説明の一部を割愛するとともに、相違点についてのみ説明する。
【0044】
本実施形態では、基部10と脚部11,12の2つの側面に形成された励振電極13c,13d,14c,14dと引き回し電極15a,15b,16a,16bは、例えば、クロム(Cr)やニッケル(Ni)など水晶などに対して密着性の高い下地金属層M1が形成され、その上面に前記下地金属と錫(Sn)の合金層M4が形成され、その上面に錫(Sn)層M2が形成され、その上面に銀(Ag)や金(Au)などの導通性の高い導電金属層M3が形成され4層の金属薄膜として構成している。
【0045】
また、基部10と脚部11,12の2つの主面に形成された励振電極13a,13b,14a,14bと引き回し電極15a,15b,16a,16b、電極パッド17,18は、例えば、クロム(Cr)やニッケル(Ni)など水晶などに対して密着性の高い下地金属層M1が形成され、最上面に銀(Ag)や金(Au)などの導通性の高い導電金属層M3が形成されるとともに、前記下地金属層と前記導電金属層との間に、これら下地金属と導電金属の合金層M5が介在した状態で形成された3層の金属薄膜として構成している。
【0046】
また、接続電極15d,15e,16d,16e(15d,16dについては図示せず)は、例えば、クロム(Cr)の電極層M6のみの単層の金属薄膜として構成している。これらの電極形成は、マスク治具を用いるパターンニングによる手法で真空蒸着法やスパッタリング法などにより形成されている。
【0047】
上記他の実施形態により、励振電極13,14と電極パッド17,18とは同じ金属材料であるクロム(Cr)やニッケル(Ni)の下地金属層M1上面に同じ金属材料である銀(Ag)や金(Au)の導電金属層M3で形成されていることで、電極材料の増加、および電極形成に伴う工程の増加をなくしてより安価な電極構成とすることができる。基部10と脚部11,12の2つの側面に形成された励振電極13c,13d,14c,14dと引き回し電極15a,15b,16a,16bは、下地金属層M1と導電金属層M3の間に錫(Sn)層M2が介在した状態で形成されていることで、軟質の錫層M2が導電金属層M3による音叉型振動片1の振動の悪影響を和らげ、結果として直列共振抵抗値(CI値)を向上させることができる。特に脚部11,12が側面方向に屈曲振動してなる音叉圧電型振動片1では、主面の励振電極13a,13b,14a,14bよりも側面の励振電極13c,13d,14c,14dによる影響が強くなる傾向にあり、必要最小限の材料変更により直列共振抵抗値(CI値)の向上させることができる。基部10と脚部11,12の2つの主面に形成された励振電極13a,13b,14a,14bと引き回し電極15a,15b,16a,16b、電極パッド17,18は、下地金属層M1と導電金属層M3との間に前記下地金属材料のクロム(Cr)やニッケル(Ni)と前記導電金属材料の銀(Ag)や金(Au)からなる合金層M5が介在した状態で形成されていることで、合金層M5が下地金属層M1と導電金属層M3との金属間結合を向上させる介在層として機能することができる。結果として、錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)による接合後に、下地金属層M1と表面の導電金属層M3の間の膜剥がれが生じることがなくなり、耐衝撃性能を高める。また電極パッド17,18の領域の導電金属層M3の下には錫層M2が存在していないため、錫(Sn)によって表面の導電金属層M3のくわれ現象が抑えられ、前記錫(Sn)が経年変化とともに表面の導電金属層M3で拡散することによる電気的特性の劣化を生じさせることも抑制される。特に脚部11,12が側面方向に屈曲振動してなる音叉圧電型振動片1では、上述のような接合の信頼性を高めながら、基部10の2つの主面103,104に形成された電極パッド17,18で、リード端子21,22と錫系の低融点金属ろう材(Sn−3Ag−0.5Cu等の錫系の鉛フリーはんだ材H)により電気機械的に接合することができるため、音叉型圧電振動片1の振動も阻害しにくい保持形態とすることができる。なお、上記実施形態と同様の構成部分については、上記実施形態と同様の効果を有するとともに変形例で開示した内容についても適用できる。
【0048】
なお、本発明は、その精神や主旨または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。屈曲振動してなる音叉型振動片に限らず他の形状、他の振動モードの圧電振動片にも適用できる。またリードタイプの圧電振動子に限らず、表面実装型の圧電振動子にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
水晶振動子等の圧電振動デバイスの量産に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 音叉型振動片
2 ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、励振電極と電極パッドが形成された圧電振動片とを有し、前記ベースの圧電振動片接合部と圧電振動片の電極パッドとを錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合してベースに圧電振動片を搭載してなる圧電振動子であって、
前記励振電極と電極パッドとは下地金属層の上面に導電金属層が形成され、
前記励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成され、
前記電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
ベースと、励振電極と電極パッドが形成された圧電振動片とを有し、前記ベースの圧電振動片接合部と圧電振動片の電極パッドとを錫系の低融点金属ろう材により電気機械的に接合してベースに圧電振動片を搭載してなる圧電振動子であって、
前記圧電振動片が2つの主面と2つの側面とを有した基部とこの基部一端部から突出し、2つの主面と2つの側面とを有する複数本の脚部とから構成され、
前記励振電極と電極パッドとは下地金属層の上面に導電金属層が形成され、
前記基部と脚部の側面に形成された励振電極は前記下地金属層と前記導電金属層の間に錫層が介在した状態で形成され、
前記基部と脚部の主面に形成された励振電極と電極パッドは前記下地金属層と前記導電金属層との間に当該下地金属と導電金属からなる合金層が介在した状態で形成されていることを特徴とする圧電振動子。
【請求項3】
前記励振電極と電極パッドとはお互いが離間した状態で形成し、接続電極は前記離間した励振電極と電極パッドとの上面に一部が重なった状態でお互いを接続するとともに、前記励振電極と電極パッドより前記低融点金属ろう材の濡れ性の低い電極膜で形成されたことを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−114536(P2012−114536A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259781(P2010−259781)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】