説明

地図情報処理装置及び移動ロボット装置

【課題】移動ロボットが移動可能領域を算出するための計算コストを軽減させる。
【解決手段】移動体が移動した移動軌跡を取得する移動軌跡取得部と、移動体が移動する床面に上方から投影されたサイズを示す移動体サイズを特定するために前記移動体の大きさに関する情報を取得するサイズ取得部と、移動軌跡と移動体サイズとにより障害物が無いと判断された領域のうち、移動ロボットが移動する床面に上方から投影されたサイズ以上の広い領域を、移動ロボットが移動可能な領域として特定する領域特定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロボットが移動するために用いる地図情報を処理する地図情報処理装置及び移動ロボット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人間と活動空間を共有する移動ロボットが各種発表されている。また、このような活動空間は、移動ロボット用が移動するために設定された空間ではないので、当該空間を移動ロボットが移動するために様々な技術が必要となる。
【0003】
例えば、移動ロボットは、活動空間において、現在地から目的地までの移動経路を生成して、当該移動経路に従って移動するが、移動経路を特定するために、障害物などが存在しない移動可能な領域を特定する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、カメラから入力された距離画像情報などの3次元データから、障害物のない平面領域を抽出している。このように抽出された平面領域が、移動ロボットが移動可能な領域となる。これにより、移動ロボットは移動可能な領域内から移動経路を生成することができる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−333746号公報
【特許文献2】特開2003−271975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示した手法を用いた場合、距離画像情報の処理が煩雑であり、処理負担が大きいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、移動ロボットの移動可能な領域を算出する際の計算コストを削減できる地図情報処理装置及び移動ロボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる地図情報処理装置は、移動ロボットに対する移動可能な領域を示す地図情報を処理する地図情報処理装置において、移動体が移動した移動軌跡を取得する移動軌跡取得手段と、前記移動体が移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動体サイズを特定するために前記移動体の大きさに関する情報を取得するサイズ取得手段と、前記移動軌跡と前記移動体サイズを用いて障害物の有無を判断し、前記障害物が無いと判断された領域のうち、前記移動ロボットが移動する移動平面上に上方から投影されたサイズ以上の広い領域を、前記移動ロボットが移動可能な領域として特定する領域特定手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる移動ロボット装置は、移動体が移動した移動軌跡を取得する移動軌跡取得手段と、前記移動体が移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動体サイズを特定するために前記移動体の大きさに関する情報を取得するサイズ取得手段と、前記移動軌跡と前記移動体サイズを用いて移動時に障害物の有無を判断し、前記障害物が無いと判断された領域のうち、自装置の移動平面上に上方から投影されたサイズ以上の広い領域を、移動可能な領域として算出する領域特定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動ロボットの移動可能な領域を算出する際の計算コストを軽減させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる地図情報処理装置及び移動ロボット装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる移動ロボットの構成を示すブロック図である。本図に示すように、移動ロボット100は、物体サイズ記憶部101と、移動領域・速度記憶部102と、ロボット特性記憶部103と、センサ104と、移動可能領域登録部105と、領域特定部106と、ゴール設定部107と、スタート設定部108と、経路生成部109と、参考速度算出部110と、移動制御部111とを備える。また、移動ロボット100は、他の移動ロボットのセンサ151、床センサ152、環境内カメラ153等と無線等を介して接続されている。
【0013】
図2は、移動体の移動軌跡と、移動ロボット100が生成する移動経路の関係を示した概念図である。図2に示した移動体(人)は、ドア202を介して移動軌跡上に示した矢印方向に移動したこととする。この場合、移動ロボット100は、移動体が移動した移動軌跡上を障害がない領域と判断する。そして、移動ロボット100は、当該障害がない領域で、移動体が移動した方向であれば、他の移動体と衝突しない方向と判断する。そして、移動ロボット100が、現在地201からドア202を通って目的地203まで移動する必要がある場合、移動体が移動した方向に逆らわないように移動経路を算出する。これにより、移動体との衝突を抑止できる。
【0014】
これは、例えば移動体(人)の間の暗黙の了解として、ドア202を通過する際は右側を通ることが決められている場合、移動ロボット100も上述した処理でドア202の右側を通るように移動経路が算出される。このように、所定の空間で移動体の移動に流れが存在する場合、移動ロボット100は当該流れに従って移動することが可能となる。これにより、移動ロボット100は、移動体と移動経路上で衝突する確率を低下させることができる。
【0015】
図1に戻り、他の移動ロボットのセンサ151、床センサ152、環境内カメラ153は、移動体、障害物を検出し、移動ロボット100に対して時間差分データ、反応領域データ又は画像データ等のセンサデータを出力する。このように様々なセンサから入力されたセンサデータを用いることで移動可能領域を広域な範囲且つ高い精度で特定することができる。
【0016】
物体サイズ記憶部101は、移動体サイズ管理テーブルを記憶する。図3は、移動体サイズ管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。図3に示すように、移動体サイズ管理テーブルは、移動体を示す物体名と、移動体が床面に投影された物体大きさ(サイズ)とを対応付けて格納する。移動ロボット100は、移動体サイズ管理テーブルにより、検出した移動体の床面に投影された大きさ(サイズ)を特定することができる。なお、本実施の形態では、移動体及び移動ロボット100が移動する移動平面の一例として、床面を用いることとする。
【0017】
移動領域・速度記憶部102は、移動領域・速度履歴管理テーブルを記憶する。図4は、移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。図4に示すように、移動領域・速度履歴管理テーブルは、“x座標”と、“y座標”と、“通過フラグ”と、“通過物体個数”と、“速度平均”と、“速度分散”と、“平均速度ベクトルx方向成分”と、“平均速度ベクトルy方向成分”と、“分散速度ベクトルx方向成分”と、“分散速度ベクトルy方向成分”と、を対応付けて格納する。
【0018】
そして、“x座標”及び“y座標”により床面における位置を特定する。そして、“通過フラグ”は、当該特定される位置が通過可能か否かを示すパラメータを保持する。“通過物体個数”は当該特定される位置を通過した物体の個数を保持する。“速度平均”は、当該特定される位置を通過した移動体の平均速度を示している。“速度分散”は、移動体の平均速度のばらつきを示している。“平均速度ベクトルx方向成分”及び“平均速度ベクトルy方向成分”は、移動体の速度ベクトルの方向成分毎の平均値を保持する。“分散速度ベクトルx方向成分”及び“分散速度ベクトルy方向成分”は、移動体の分散速度ベクトルの方向成分毎の平均値を保持する。
【0019】
そして、“速度平均”、“速度分散”、“平均速度ベクトルx方向成分”、“平均速度ベクトルy方向成分”、“分散速度ベクトルx方向成分”及び“分散速度ベクトルy方向成分”から、“x座標”及び“y座標”で特定される位置で、移動方向が一方向か否か判断することができる。換言すれば、これらフィールドに格納されたパラメータは、移動方向が一方向か否か示す指標として用いることができる。
【0020】
図4に示す例では、第1のレコードは、分散が‘0.3’と小さく、平均速度と、平均速度ベクトルのx、y方向成分から算出される速度がほぼ一致するので移動方向が一方向と判断する。第2のレコードは、分散が‘0.4’と第1のレコードよりばらつきが大きく、そして平均速度と、平均速度ベクトルのx、y方向から算出される速度とが異なるので、移動方向が一方向ではないと判断できる。
【0021】
ロボット特性記憶部103は、移動ロボット100が床面に投影されたサイズ(以下、移動ロボットサイズとする)、移動ロボット100の加減速特性等を記憶する。本実施の形態では、移動ロボット100が床面に投影された縦×横のサイズを、0.4(m)×0.4(m)とする。
【0022】
センサ104は、移動体を検出できるセンサであればどのようなセンサでも良く、例えば赤外線センサ等とする。そして、センサ104は、時間差分データ、反応領域データ等のセンサデータを、移動可能領域登録部105に出力する。
【0023】
移動可能領域登録部105は、移動体検出部131と、サイズ取得部132と、移動軌跡取得部133と、移動方向取得部134と、移動速度取得部135と、登録部136とを備える。
【0024】
移動体検出部131は、センサ104、他の移動ロボットのセンサ151、床センサ152、環境内カメラ153から入力されたセンサデータから、移動体を識別する情報の検出処理を行う。そして、移動体検出部131は、移動体を識別する情報を検出した場合、検出した移動体の特定を行う。そして、移動体検出部131が、移動体を特定した場合、当該移動体を含むセンサデータを、サイズ取得部132に出力する。また、センサデータは、移動軌跡取得部133、移動方向取得部134、移動速度取得部135にも出力される。
【0025】
サイズ取得部132は、当該移動体を含むセンサデータから、移動体の床面に投影されたサイズ(以下、移動体サイズという)を算出できる場合、当該移動体サイズを算出する。なお、サイズ取得部132が取得する情報は、移動体の大きさに関する情報であり、且つ移動体のサイズを特定できる情報であれば、センサデータ以外の情報でもよい。
【0026】
また、サイズ取得部132は、移動体サイズを算出できない場合、当該センサデータからから、移動体を示す特徴情報を抽出し、当該特徴情報から移動体を表す物体名を特定する。そして、サイズ取得部132は、特定された物体名と対応付けられた物体大きさ(移動体サイズ)を、物体サイズ記憶部101に記憶された移動領域・速度履歴管理テーブルから取得する。なお、サイズ取得部132が当該特徴情報から移動体の特定する手法は、周知の手法を問わずどのような手法を用いても良い。
【0027】
移動軌跡取得部133は、入力されたセンサデータから、床面上を移動した移動体の移動軌跡を取得する。そして、移動体が通過した移動領域は、取得した移動軌跡に従って移動体サイズが移動した際に、当該移動体サイズに含まれたことがある領域となる。なお、この移動軌跡の取得手法は、周知の手法を問わず、どのような手法でも良い。
【0028】
移動方向取得部134は、センサデータから、移動体が通過した移動領域に含まれる位置毎に移動方向を取得する。また、取得した移動方向は、移動速度取得部135に出力する。
【0029】
移動速度取得部135は、センサデータから、移動体が通過した移動領域に含まれる位置毎に移動速度を算出し、各位置の移動速度を取得する。そして、移動速度取得部135は、取得した移動速度及び入力された移動方向から速度ベクトルを取得できる。
【0030】
そして、本実施の形態にかかる移動速度取得部135は、移動軌跡の各位置における速度、速度ベクトルx方向成分、速度ベクトルy方向成分を算出する。
【0031】
登録部136は、取得した移動体の移動軌跡に関する情報を、移動領域・速度履歴管理テーブルに対して登録する。つまり、登録部136は、サイズ取得部132、移動軌跡取得部133、移動方向取得部134及び移動速度取得部135により算出された移動軌跡上で移動体が通過した位置毎の速度ベクトル等を、移動領域・速度履歴管理テーブルに対して更新する。
【0032】
まず、登録部136は、移動体が通過した移動領域に含まれる位置を、障害物がない位置として登録する。つまり、登録部136は、移動領域・速度履歴管理テーブルにおいて、当該移動領域に含まれる位置を表すレコードで通過フラグが“不明”の場合、“可能”に変更する。これにより、障害物がない領域が特定可能となる。
【0033】
登録部136は、移動領域・速度履歴管理テーブルから、移動体が通過した移動領域に含まれる位置毎に、“通過物体個数”、“速度平均”、“速度分散”、“平均速度ベクトルx方向成分”、“平均速度ベクトルy方向成分”、“分散速度ベクトルx方向成分”、“分散速度ベクトルy方向成分”を取得する。
【0034】
そして、登録部136は、移動領域に含まれる位置毎に、移動速度取得部135で算出された算出結果(速度、速度ベクトルx方向成分、速度ベクトルy方向成分)と、移動領域・速度履歴管理テーブルから取得した情報とを用いて、速度平均、速度分散、平均速度ベクトルx方向成分、平均速度ベクトルy方向成分、分散速度ベクトルx方向成分、分散速度ベクトルy方向成分を算出すると共に、取得した通過物体個数に“1”追加する。そして、登録部136は、算出した値及び通過物体個数で、移動領域・速度履歴管理テーブルの当該位置が格納されたレコードを更新する。
【0035】
領域特定部106は、移動ロボットサイズを用いて障害物の有無を判断し、障害物が無いと判断された領域のうち、移動ロボット100が移動ロボットサイズより幅が広い領域を、移動可能な領域として特定する。このため、領域特定部106は、移動ロボットサイズを、ロボット特性記憶部103から取得する。
【0036】
本実施の形態にかかる領域特定部106は、移動領域・速度履歴管理テーブルに格納された位置毎に“通過フラグ”を参照することで、床面で障害物が無い領域を特定できる。そして、領域特定部106は、当該障害物が無い領域のうち、移動ロボットサイズの幅より広い領域を移動可能な領域として特定する。
【0037】
図5が、移動ロボット100が移動可能な領域を説明する概略図である。符号501が床面に投影された犬のサイズを示し、符号502が移動ロボットサイズを示し、符号503が床面に投影された人のサイズを示している。そして、領域505は人が通過した移動領域を示している。そして、領域504及び領域506は犬が通過した移動領域を示している。そして、移動領域・速度履歴管理テーブルでは、人が通過した移動領域(領域505)及び犬が通過した移動領域(領域504及び領域506)に含まれる各位置の“通過フラグ”には、“可能”が格納されている。
【0038】
つまり、領域特定部106は、領域504、領域505及び領域506は、障害物が無い領域と判断できる。そして、領域特定部106は、人が通過した移動領域が、移動ロボットサイズ502の幅より広いので移動可能な領域と判断する。また、領域特定部106は、領域504が移動ロボットサイズの幅より狭いので移動可能領域と判断しない。また、領域特定部106は、犬が通過した移動領域が重ね合わさった領域505については移動ロボットサイズの幅より広いので移動可能領域と判断する。つまり、領域特定部106は、床507において領域506と、領域506とを移動可能領域として特定する。
【0039】
ゴール設定部107は、移動ロボット100の目的地となるゴール地点を設定する。スタート設定部108は、移動ロボットの現在地をスタート地点として設定する。
【0040】
経路生成部109は、判断部120を備え、領域特定部106により特定された移動可能領域のうち、設定されたスタート地点からゴール点までの移動経路を生成する。なお、詳細な候補の生成手順については後述する。
【0041】
判断部120は、生成された移動経路の候補による移動が、移動体の移動方向と逆方向の移動の有無を判断する。また、判断部120が逆方向の移動があると判断した場合、経路生成部109は、別の移動経路の候補を生成する。
【0042】
参考速度算出部110は、経路生成部109により生成された移動経路に含まれる位置毎に、ロボット特性記憶部103から取得した移動ロボット100の加減速特性と、移動領域・速度履歴管理テーブルから取得した速度ベクトルの平均に基づいて、移動体と同等若しくはそれ以下の速度である参考速度ベクトルを算出する。そして、参考速度算出部110は、位置毎の参考速度から、スタート地点からゴール地点までの参考速度の候補列(以下、移動速度候補列ともいう)を生成する。
【0043】
また、参考速度とは、移動ロボット100が移動するとき目標となる速度であるが、移動時に外乱が発生した場合に修正される可能性のある速度をいう。例えば、移動ロボット100が算出された速度で移動中に、人が移動経路上に存在する場合、移動ロボット100が当該速度に従った状態だと人に衝突する可能性もある。そこで、参考速度算出部110は、実際に移動する速度ではなく、移動時に速度変更可能な参考速度を算出する。
【0044】
図6は、参考速度算出部110により生成された移動速度候補列の例を示した図である。図6に示すように移動速度候補列は、各経由地点間の候補速度ベクトル(参考速度ベクトル)を保持する。そして、移動ロボット100は、移動速度候補列を参照して、移動経路に沿ってゴール地点まで移動することができる。
【0045】
移動制御部111は、生成された移動速度候補列を参照して、移動ロボット100がゴール地点まで移動するために(図示しない)駆動機構を制御する。
【0046】
次に、移動ロボット100の移動体の検出から移動領域・速度履歴管理テーブルに登録するまでの処理手順について説明する。図7は、移動ロボット100の移動体の検出から移動領域・速度履歴管理テーブルに登録するまでの処理手順を示すフローチャートである。
【0047】
まず、移動ロボット100の移動体検出部131は、センサ104、他の移動ロボットのセンサ151、床センサ152及び環境内カメラ153から入力されたセンサデータから、移動ロボット100が存在する環境内において移動体の検出処理を行う(ステップS701)。そして、移動体検出部131が、移動体を検出できない場合(ステップS701)、所定の時間経過後に再び移動体の検出処理を行う(ステップS701)。
【0048】
また、移動体検出部131が移動体を検出した場合(ステップS701:Yes)、サイズ取得部132は移動体のサイズを取得する(ステップS702)。なお、移動体のサイズの取得手法は、上述したとおりなので説明を省略する。
【0049】
次に、移動軌跡取得部133は、入力されたセンサデータから、移動体の移動軌跡を取得する(ステップS703)。そして、登録部136は、移動軌跡及び移動体サイズから特定される移動体が通過した移動領域に含まれる各位置を、障害物のない位置として移動領域・速度履歴管理テーブルに登録する(ステップS704)。
【0050】
次に、移動方向取得部134は、移動体の移動領域に含まれる位置毎の移動方向を取得する(ステップS705)。
【0051】
そして、移動速度取得部135が、センタデータから、移動体の移動領域に各位置での移動速度を取得する(ステップS706)。そして、移動方向取得部134が取得した移動方向により速度ベクトルを取得できる。そして、登録部136が、取得した速度ベクトル等で、移動領域・速度履歴管理テーブルのレコードを更新する。
【0052】
これにより、移動体が移動した結果が移動領域・速度履歴管理テーブルに反映されたことになる。そして、移動ロボット100は、移動領域・速度履歴管理テーブルに格納された情報を用いて、移動経路及び移動時の参考速度を取得することが可能となる。
【0053】
次に、移動ロボット100の移動経路及び移動時の参考速度の候補列を算出する処理手順について説明する。図8は、移動ロボット100の移動経路及び移動時の参考速度の候補列を算出する処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
まず、領域特定部106は、移動領域・速度履歴管理テーブルに記憶されたレコード上方から、移動ロボット100が移動可能な領域を特定する(ステップS801)。なお、特定手法については、上述した通りとする。
【0055】
次に、スタート設定部108が、移動ロボット100のスタート地点を設定する(ステップS802)。そして、ゴール設定部107が、移動ロボット100のゴール地点を設定する(ステップS803)。
【0056】
そして、経路生成部109が、スタート地点からゴール点までの移動経路の候補を、移動可能な領域内から生成する(ステップS804)。また、移動経路の候補の生成手法としては、周知の手法を問わず、あらゆる手法を用いて良い。例えば、特開平10−333746に記載された手法を用いて、移動経路の候補を生成すること等が考えられる。
【0057】
そして、判断部120は、生成された移動経路の候補において、移動体の移動方向と逆方向の移動の有無を判断する(ステップS805)。判断部120が行う逆方向の移動か否か判断する手法の例を説明する。まず、判断部120は、移動領域・速度履歴管理テーブルから移動経路(の候補)上の各位置の情報を取得する。そして、判断部120は、取得した位置の情報から、速度ベクトルの分散が小さい位置を全て特定する。次に、判断部120は、特定された位置毎に、当該位置の平均速度ベクトルと、生成された移動経路(の候補)による移動方向とがほぼ逆であるか否か判断する。
【0058】
つまり、速度ベクトルの分散が小さい(移動速度のばらつきが少ない)場合、移動方向が一方向と判断できる。そして、速度ベクトルの分散が小さく且つ移動方向が逆であれば、一方向の領域で逆方向に移動しているものと判断できる。
【0059】
そして、判断部120が、逆方向の移動があると判断した場合(ステップS805:Yes)、経路生成部109が再度、移動経路の候補の生成を行う(ステップS804)。
【0060】
そして、判断部120が、逆方向の移動がないと判断した場合(ステップS805:No)、参考速度算出部110が、移動領域・速度履歴管理テーブルに記憶されていた平均速度ベクトル等から、移動する際の参考速度の候補列(移動速度候補列)を算出する(ステップS806)。
【0061】
そして、移動ロボット100は、上述した処理手順により生成された移動速度候補列を参照して、ゴール地点まで移動することができる。
【0062】
上述した本実施の形態にかかる移動ロボット100によれば、移動体の移動軌跡と、移動体の移動体サイズと、移動ロボットサイズを用いて、移動ロボットが移動可能な領域を算出するため、計算コストを軽減させることができる。
【0063】
また、本実施の形態に係る移動ロボット100は、センサ104、他の移動ロボットのセンサ151、床センサ152及び環境内カメラ153等の複数種類のセンサを利用することが可能なので、床面が見えないような遮蔽物の反対側の移動可能な領域も認識することができるので、大域的な移動可能領域を生成することができる。
【0064】
また、本実施の形態に係る移動ロボット100は、移動領域・速度履歴管理テーブルに位置毎の移動速度と方向に記憶していることで、一方通行の空間で逆走を行わない移動経路の候補の算出が可能となる。
【0065】
また、本実施の形態に係る移動ロボット100は、移動体の移動軌跡と共に、移動速度と方向を記録し、移動経路候補を計算することで、周りの移動体の流れを阻害しない移動経路を算出できる。
【0066】
(変形例)
また、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
【0067】
(変形例1)
上述した第1の実施の形態に係る移動ロボット100は、床面の位置毎に移動方向が一方向か否かを、移動領域・速度履歴管理テーブルで対応付けられた“速度分散”、“分散速度ベクトルx方向成分”、“分散速度ベクトルy方向成分”による速度のばらつきから判断した。しかしながら、移動方向が一方向か否かを判別する速度のばらつきを、速度の分散に制限するものではない。
【0068】
そこで、本変形例にかかる移動ロボットでは、移動方向が一方向か否か判断するために、速度の標準偏差を用いた例について説明する。図9は、本変形例に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。図9に示すように、移動領域・速度履歴管理テーブルは、“x座標”と、“y座標”と、“通過フラグ”と、“通過物体個数”と、“速度平均”と、“速度標準偏差”と、“平均速度ベクトルx方向成分”と、“平均速度ベクトルy方向成分”と、“標準偏差速度ベクトルx方向成分”と、“標準偏差速度ベクトルy方向成分”と、を対応付けて格納する。
【0069】
そして、分散を標準速度変化に置き換えて、第1の実施の形態と同様の処理を行うことで、位置毎に移動方向が一方向か否か判断することができる。このように速度のばらつきとして標準速度偏差など、さまざまなパラメータを用いることができる。なお、他の構成は、第1の実施の形態と同様なので説明を省略する。以下の変形例も、第1の実施の形態と同様の構成については説明を省略することとする。
【0070】
(変形例2)
移動領域・速度履歴管理テーブルに格納される速度のばらつきの他の例としては、速度の最大値、最小値を格納することが考えられる。そこで、変形例2では、移動ロボットが一方向か否か判断するために、速度の最大値及び最小値を保持する例について説明する。
【0071】
図10は、本変形例に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。図10に示すように、移動領域・速度履歴管理テーブルは、“x座標”と、“y座標”と、“通過フラグ”と、“通過物体個数”と、“速度平均”と、“速度標準偏差”と、“平均速度ベクトルx方向成分”と、“平均速度ベクトルy方向成分”と、“速度ベクトルx方向成分最大値”と、“速度ベクトルx方向成分最小値”と、“速度ベクトルy方向成分最大値”と、“速度ベクトルy方向成分最小値”と、を対応付けて格納する。
【0072】
そして、移動ロボットは、上述した移動領域・速度履歴管理テーブルを参照することで、方向成分毎に最大値及び最小値により導き出せる速度のばらつきにより、位置毎に移動方向が一方向か否か判断することができる。
【0073】
(変形例3)
また、位置毎に移動方向が一方向か否かを判断する手法を、速度のばらつきで判断する手法に制限するものではない。そこで、変形例3では、速度ベクトル各方向成分における正方向の個数により、移動方向が一方向か否か判断する例について説明する。
【0074】
図11は、本変形例に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。図11に示すように、移動領域・速度履歴管理テーブルは、“x座標”と、“y座標”と、“通過フラグ”と、“通過物体個数”と、“速度平均”と、“速度標準偏差”と、“平均速度ベクトルx方向成分”と、“平均速度ベクトルy方向成分”と、“速度ベクトルx方向が正方向の個数”と、“速度ベクトルy方向が正方向の個数”と、を対応付けて格納する。
【0075】
そして、移動ロボットの判断部は、上述した移動領域・速度履歴管理テーブルを参照し、“通過物体個数”に第1の確率を乗じた値より、“速度ベクトルx方向が正方向の個数”、“速度ベクトルy方向が正方向の個数”の値が大きい場合に正の方向に対して一方向と判断する。また、“通過物体個数”に第2の確率を乗じた値より、“速度ベクトルx方向が正方向の個数”、“速度ベクトルy方向が正方向の個数”の値が小さい場合も負の方向に対して一方向と判断する。この第1の確率及び第2の確率の関係は、第1の確率>第2の確率となる。例としては第1の確率は70%で、第2の確率は30%等が考えられる。
【0076】
このように移動可能な領域の位置毎に一方向か否か判断する手法は、上述した手法のほか、あらゆる手法を用いても良い。
【0077】
(変形例4)
上述した実施形態では、地図情報処理装置を移動ロボットに適用した例について説明した。しかしながら、地図情報処理装置を移動ロボットに適用させる場合に限るものではない。そこで変形例4では、地図情報処理装置をPCに適用した場合について説明する。
【0078】
本変形例に係るPCは、移動ロボットが移動する環境内に設置されていることとする。当該PCは、環境内に設置されたセンサからセンサデータが入力され、移動ロボットに対してデータの送受信を可能とする。そして、PCは、上述した実施の形態と同様に、センサ等から入力されたセンサデータから、当該環境内を移動する移動ロボットの移動可能な領域を特定した後、当該移動ロボットに対して移動経路を生成し、移動ロボットに対して移動経路を送信する。これにより移動ロボットは、移動方向が一方向の位置で逆に移動することなく、移動することができる。このように、地図情報処理装置は、様々な装置に対して適用して良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】第1の実施の形態にかかる移動ロボットの構成を示すブロック図である。
【図2】移動体の移動軌跡と、移動ロボット100が生成する移動経路の関係を示した概念図である。
【図3】前記移動ロボットの物体サイズ記憶部に記憶される移動体サイズ管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。
【図4】前記移動ロボットの移動領域・速度記憶部に記憶される移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。
【図5】前記移動ロボット100が移動可能な領域を説明する概略図である。
【図6】前記移動ロボット100の参考速度算出部110により生成された移動速度候補列の例を示した図である。
【図7】前記移動ロボット100の移動体の検出から移動領域・速度履歴管理テーブルに登録するまでの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】前記移動ロボット100の移動経路及び移動時の参考速度の候補列を算出する処理手順を示すフローチャートである。
【図9】変形例1に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。
【図10】変形例2に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。
【図11】変形例3に係る移動ロボットの移動領域・速度記憶部が記憶する移動領域・速度履歴管理テーブルのテーブル構造の例を示した図である。
【符号の説明】
【0080】
100 移動ロボット
101 物体サイズ記憶部
102 移動領域・速度記憶部
103 ロボット特性記憶部
104 センサ
105 移動可能領域登録部
106 領域特定部
107 ゴール設定部
108 スタート設定部
109 経路生成部
110 参考速度算出部
111 移動制御部
120 判断部
131 移動体検出部
132 サイズ取得部
133 移動軌跡取得部
134 移動方向取得部
135 移動速度取得部
136 登録部
151 センサ
152 床センサ
153 環境内カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動ロボットに対する移動可能な領域を示す地図情報を処理する地図情報処理装置において、
移動体が移動した移動軌跡を取得する移動軌跡取得手段と、
前記移動体が移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動体サイズを特定するために前記移動体の大きさに関する情報を取得するサイズ取得手段と、
前記移動軌跡と前記移動体サイズを用いて障害物の有無を判断し、前記障害物が無いと判断された領域のうち、前記移動ロボットが移動する移動平面上に上方から投影されたサイズ以上の広い領域を、前記移動ロボットが移動可能な領域として特定する領域特定手段と、
を備えることを特徴とする地図情報処理装置。
【請求項2】
前記移動軌跡取得手段により取得された前記移動軌跡を前記移動体が移動している際の、前記移動体の移動方向を取得する移動方向取得手段と、
取得した前記移動方向と特定した前記移動可能な領域とに基づいて、前記移動軌跡における前記移動方向で、前記移動ロボットの目的地までの移動経路を生成する移動経路生成手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の地図情報処理装置。
【請求項3】
前記移動軌跡取得手段により取得された前記移動軌跡を前記移動体が移動している際の、前記移動体の移動速度を取得する移動速度取得手段と、
前記移動ロボットが前記移動経路を移動する際に参考とされる参考速度を算出する参考速度算出手段と、
をさらに備え
前記参考速度算出手段は、前記参考速度を前記移動軌跡における前記移動体の前記移動速度と同等若しくはそれ以下の速度とすることを特徴とすることを特徴とする請求項2に記載の地図情報処理装置。
【請求項4】
前記移動平面上の位置を示す位置情報と、当該位置における前記移動速度の平均を示す速度平均情報と、当該位置において移動方向が一方向か否かを示す指標と、を対応付ける速度履歴情報を記憶する移動速度記憶手段と、をさらに記憶し、
前記参考速度算出手段は、前記速度履歴情報に格納された各位置における前記速度平均情報を用いて前記参考速度を算出し、
前記移動速度取得手段により取得された前記移動平面上の位置毎に前記移動体の前記移動速度を、前記速度履歴情報に対して登録する登録手段をさらに備えたこと、
を特徴とする請求項3に記載の地図情報処理装置。
【請求項5】
前記移動速度記憶手段に記憶された前記速度履歴情報は、前記位置において移動方向が一方向か否かを示す指標として、前記移動速度のばらつきを示すデータを保持すること、
を特徴とする請求項4に記載の地図情報処理装置。
【請求項6】
前記ばらつきを示すデータは、移動速度の分散、移動速度の標準偏差、分散速度ベクトルの所定の方向成分、標準偏差速度の所定の方向成分、速度ベクトルの所定の方向成分の最小値及び速度ベクトルの所定の方向成分の最大値、速度ベクトルにおける所定の方向成分に前記移動体が移動した回数のうちいずれか一つ以上を含むこと、
を特徴とする請求項5に記載の地図情報処理装置。
【請求項7】
移動体の識別情報と、当該移動体における前記移動体サイズとを対応付ける移動体サイズ管理情報を記憶するサイズ記憶手段と、
前記移動体の識別情報を検出する移動体検出取得手段と、
前記サイズ取得手段は、前記移動体サイズ管理情報から、検出した前記移動体を識別する前記識別情報と対応付けられた前記移動体サイズを取得すること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の地図情報処理装置。
【請求項8】
前記サイズ検知手段は、前記移動体を計測する所定のセンサから入力された信号情報から、前記移動体のサイズを取得すること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の地図情報処理装置。
【請求項9】
前記領域特定手段は、前記移動ロボットが移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動ロボットサイズより前記移動体サイズが広い移動体が移動した場合、当該移動体の前記移動体サイズの幅で移動軌跡に従って移動した移動領域を、移動可能な領域として特定すること、
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の地図情報処理装置。
【請求項10】
前記領域特定手段は、前記移動ロボットが移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動ロボットサイズより前記移動体サイズが狭い移動体が移動した場合、当該移動体の前記移動体サイズの幅で移動軌跡に従って移動した移動領域が複数重畳した結果、前記移動ロボットサイズより広いと判断された移動領域を、移動可能な領域として特定すること、
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の地図情報処理装置。
【請求項11】
移動体が移動した移動軌跡を取得する移動軌跡取得手段と、
前記移動体が移動する移動平面上に上方から投影されたサイズを示す移動体サイズを特定するために前記移動体の大きさに関する情報を取得するサイズ取得手段と、
前記移動軌跡と前記移動体サイズを用いて移動時に障害物の有無を判断し、前記障害物が無いと判断された領域のうち、自装置の移動平面上に上方から投影されたサイズ以上の広い領域を、移動可能な領域として算出する領域特定手段と、
を備えることを特徴とする移動ロボット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−83995(P2008−83995A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263119(P2006−263119)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】