説明

地震情報による建物の震度予測システム

【課題】地震情報による建物の震度予測システムに関し、建物の各階に高精度な予測震度を迅速に知らせる。
【解決手段】緊急地震速報のデータを配信する所定のネットワーク5に接続された現場地震速報サーバー6と、現場地震速報サーバーに接続されると共に地震情報を伝えたい建物8における震度データを予め入力されて記憶する記憶装置7と、所定のネットワークを介して現場地震速報サーバーからの送信された警報信号を受信し警報を発するように、建物毎における所望の階毎に設けられた警報用表示端末機9と、現場地震速報サーバーのプログラムで、記憶装置の振動特性データベースから各建物における所望階毎の震度データを取り込み、地震データと震度データと照合して、基礎部の予測震度から各階毎の予測震度を警報用表示端末機にネットワークを介して送信させる地震情報による建物の震度予測システム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、緊急地震速報に基づいて、所定の建物における各階毎にいち早く地震の来ることを連絡して、地震被害を最小にしようとする地震情報による建物の震度予測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震に対して、小地域などの限定された地域の地震被害や影響を、その地域に設置された観測手段の観測情報から短時間で地震被害を推定できる地震被害予測システムの被害推定方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−161783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の予測システムでは、従来の緊急地震速報は、対象となる建物に、警報受信及び地震情報解析の為の端末装置,パーソナルコンピュータ等を装備し、それぞれの建物位置情報、地盤増幅度のデータを入力しておくのが一般的である。その端末装置,コンピュータ等に気象庁から配信される、日本全国の発生地震の配信を受け、各個別に、地震と対象建物との距離,地盤増幅特性から、予測到達余裕時間および予測震度をすべて計算し、影響のありそうな地震のみについて警報を発している。
【0004】
しかしながら、対象となる建物の端末装置,パーソナルコンピュータ等ごとに、解析プログラムおよびメンテナンスが必要である。また、対象となる建物までの到達時間や震度について、従来は、地震が一律に同心円状に広がるとして予測し、地盤増幅特性から予測される震度は地表面の震度であって建物毎の振動特性は考慮されていない、しかも、地盤増幅度は、0.5km−1kmごとのメッシュで分割されたデータを用いるのが一般的であって、震度の予測精度は高くない。そこで、予測震度の精度を高めようとしても、解析のための時間が長くなるので、地震が発生してから解析計算をしたのでは、緊急地震速報で最も重要な「緊急性」が確保できないという課題がある。そこで、本発明に係る地震情報による建物の震度予測システムは、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る地震情報による建物の震度予測システムの上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、気象庁からの緊急地震速報のデータを配信する配信手段に接続されるとともに所定のネットワークに接続された現場地震速報サーバーと、前記現場地震速報サーバーに電気的に接続されると共に地震情報を伝えたい建物における所望の各階毎の地震の種類・大きさによって予測される応答解析の結果である震度データを建物毎の振動特性データベースとして入力装置で予め入力されて記憶する記憶装置と、前記所定のネットワークを介して前記現場地震速報サーバーからの送信された警報信号を受信するとともに警報を発するように前記建物毎における所望の階毎に設けられた警報用表示端末機と、前記現場地震速報サーバーの中央演算処理装置に記憶されるプログラムで、前記緊急地震速報の地震データが配信されて受信されると、前記記憶装置の振動特性データベースから前記各建物における所望階毎の前記震度データを中央演算装置に取り込み、前記配信された地震データと前記震度データとを照合して、当該地震データの地震パターンから計算される建物の基礎部の予測震度及び予測到達余裕時間と、地震パターンに対応する前記基礎部の予測震度から照合される当該建物の各階毎の予測震度とを前記現場地震速報サーバーから前記建物毎における各階毎の前記警報用表示端末機にネットワークを介して送信させる地震警報プログラムとからなることである。
【0006】
また、警報用表示端末機は、嫌振機器の制御装置と電気的に接続され、予測震度が閾値の震度より高い場合には所定の制御信号が現場地震速報サーバーから前記警報用表示端末機を介して前記制御装置に発信されることを含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地震情報による建物の震度予測システムによれば、地震が発生したときに、気象庁の緊急地震速報により、地震の種類・大きさにより対象となる建物の各階における予測震度は、予め解析されている震度特性ベータベースからの震度データの照合で済むので、瞬時に高精度に震度を予測することができる。これにより、建物が、生産施設、病院等であって嫌振機器を有する場合に、高精度な予測が可能となり重要機器や設備を停止させたり、病院では手術などの医療行為を一時中断にしたり、非常電源への切替を行ったりすることができる。更に、機能に悪影響を及ぼさない程度の震度では、生産ラインを止めたり医療行為を停止したり等の過度の反応を防ぐことにもなる。
【0008】
また、前記警報用表示端末機は、嫌振機器の制御装置と電気的に接続され、予測震度が閾値の震度より高い場合には所定の制御信号が現場地震速報サーバーから前記警報用表示端末機を介して前記制御装置に発信されることを含むので、重要な嫌振機器等の運転を停止したり、安全運転にしたりすることが自動的にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る地震情報による建物の震度予測システム1は、図1に示すように、気象庁2からの緊急地震速報のデータを配信する配信手段である配信業者(例えば、(財)気象業務支援センター)3のサーバーに専用線4で接続されるとともに所定のネットワーク5に接続された現場地震速報サーバー6がある。
【0010】
前記緊急地震速報とは、気象庁2が提供する、地震の発生時間、発生位置、深さ、マグニチュード等の地震データである。この地震データが、具体的には、配信業者3である気象事業支援センターのサーバーから専用線4にて配信される。
【0011】
前記現場地震速報サーバー6に電気的に接続されると共に地震情報を伝えたい建物8の位置データと、当該建物8における地盤増幅のデータと、各階毎の予測震度の震度データと、振動特性データベースとしてを入力装置で予め入力されて記憶する記憶装置7がある。この記憶装置7は、前記現場地震速報サーバー6の一部に組み込まれている。
【0012】
前記建物8は、例えば、中高層の建物、病院等であって、前記位置データは、当該建物8のIPアドレスと経度、緯度に関するデータであり、地盤増幅のデータとは、建物8が存在する場所の、地層の特性により定めた地震増幅係数のデータである。
【0013】
前記建物8の各階毎の予測震度については、予め地震による建物毎の特性を解析しておく必要がある。即ち、前記地震のパターンを、例えば、直下型とプレート型の2種類に分類し(図2参照、地震Aがプレート型、地震Bが直下型)、震度6弱相当にして作成したサイト波(模擬波)が地震A、地震Bであり、これを例えば東京で震度5弱で観測された地震の観測波が地震C(観測地点の計測震度は3.4、震源距離約30km)である。
【0014】
そして、モデル建物として、同じ地盤に規模の異なる建物1,2,3があり、ここで、建物1は、生産施設で鉄骨造5階、地下無し、免震構造であり、建物2は、事務所建物で鉄骨造37階、地下4階、制震構造であり、建物3は、集合住宅、RC造30階、地下1階である、を想定して、弾塑性振動解析プログラムRESP−M/IIを用い、前記建物を等価剪断バネを用いた質点モデルにモデル化している。
【0015】
応答解析結果のうち、一例として、前記建物1の5階床における応答加速度の時刻歴を図3に示す。この建物1は、免震建物であり、長周期成分が卓越し、最大加速度は入力に比べて非常に小さくなり、地震A,Bに対する応答加速度の最大値は同程度であり、入力波における地震Cと地震A,Bとの差と、応答加速度における地震Cと地震A,Bとの差と、では応答加速度における差が小さくなっている。これより、地震の種類よりも建物の振動特性の方が建物に与える影響が大きいことが判る。
【0016】
図4に、各建物1,2,3における最大応答加速度の高さ方向の分布を、図5に各建物1,2,3における最大応答速度の高さ方向の分布を示す。これを見ると、建物の種類により異なる傾向があり、前記建物1に比べると建物2,3が地震の種類により応答値に差があらわれている。
【0017】
更に、各建物1,2,3における代表的な階について、応答結果を用いて計測震度を算定した結果と、建物の基礎部の計測震度と各階の計測震度との比(倍率)が、下記の表1に示すものである。
【表1】

【0018】
このように、各建物について、その建物の特性、地震の種類、大きさによって計測震度を予め予備解析(パラメータスタディ)しておいて、各建物毎の振動特性をデータベース化して記憶装置7に記憶させ構築する。これにより、気象庁2からの緊急地震速報により、建物8の部位毎の予測震度を高精度で瞬時に予測することができるようになる。
【0019】
前記ネットワーク5、例えば、社内ネットワーク若しくはインターネットVPN(Virtual Private Network)とハブ10とを介して前記地震情報を伝えたい建物8にて、前記現場地震速報サーバー6からの送信された警報信号を受信するとともに警報を発する警報用表示端末機9がある。
【0020】
この端末機9には、特にプログラムなどはインストールされているわけではなく、前記現場地震速報サーバー6と社内ネットワークやインターネットで双方向で繋がっていて、常に電源が入っていて、警報信号を受信することで、警報を発するものである。前記警報用表示端末機9による警報には、公知の手段であって、例えば、光によるライトの点滅、音声による警告、LEDなどによる文字情報の表示などがある。また、この警報用表示端末機9には、図1に示すように、重要設備,精密機器等の嫌振機器11若しくは手術室11a、危険物11bなどにおける制御装置あるいは放送設備等と電気的に接続する制御信号用配線12が接続されている。
【0021】
更に、前記現場地震速報サーバー6の中央演算処理装置に記憶されるプログラムで、前記緊急地震速報のデータが配信されて受信されると、前記記憶装置7から前記所定の建物8の位置データと当該所定の建物8における地盤増幅のデータ、及び振動特性データベース化した当該建物8の部位毎の震度データを中央演算装置に取り込み、前記配信された緊急地震速報のデータを基にして照合し、地震パターンによる建物の基礎部の予測震度と予測到達余裕時間とを所定の計算式で計算するとともに、同じく、地震のパターンによる前記建物の基礎部の予測震度に基づいて前記建物8の部位毎の予測震度を震度データから照合して得ると共に、前記建物8の部位の予測震度が閾値(例えば震度4)を越えた場合に、当該建物8の各部位に対して警報信号及び嫌振機器における制御装置に対する停止信号などを、前記現場地震速報サーバー6から前記所定のネットワーク5に送信させる地震警報プログラム(図示せず)がある。
【0022】
以上のような構成から成る地震情報による建物の震度予測システム1によって、実際に地震が発生すると、図5に示すように、前記気象庁2から配信された緊急地震速報のデータにより、記憶装置7のデータベースと照合して、前記各建物8の基礎部に地震が届く迄の時間と予測震度とを、前記現場地震速報サーバー6の前記地震警報プログラムで計測する。
【0023】
その後、前記地震警報プログラムによって、地震パターンに対応した前記建物8の基礎部における予測震度、及び震度データを照合して前記基礎部の予測震度に対応する当該建物8の各部位毎の予測震度を求める。そして、その予測震度が、閾値、例えば、予測震度が4若しくは5、の震度を超える当該建物8の各部位に対して、前記所定のネットワーク5を介して前記建物8の各部位に備えられた警報用表示端末機9に警報信号が送信される。該警報用表示端末機9から警報機によって警報を発するとともに、制御信号用配線12を介し嫌振機器11の制御装置に対して運転停止,緊急点検などの制御信号が送信される。
【0024】
このような伝達システム1により、例えば、発生した地震のS波の地震が届くまでに、例えば、10秒程度の余裕があれば、建物8において、人の安全を図るのは勿論のほか、重要機器の機能維持、更に、手術室の医療機器の機能維持、危険物の安全確保など、物理的な被害を最小に食い止めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る地震情報による建物の震度予測システム1の概略構成図である。
【図2】地震のパターン別の入力地震動の例を示す説明図(A)と、想定した地震の緒元を示す図(B)である。
【図3】図2に示す入力地震動に対する建物1の応答加速度の時刻歴を示す説明図である。
【図4】同建物1,2,3における建物の高さ方向の応答加速度分布を示す説明図である。
【図5】同建物1,2,3における建物の高さ方向の応答速度分布を示す説明図である。
【図6】本発明に係る地震情報による建物の震度予測システム1のフロー図である。
【符号の説明】
【0026】
1 地震情報による建物の震度予測システム、
2 気象庁、
3 配信業者、
4 専用線、
5 ネットワーク、
6 現場地震速報サーバー、
7 記憶装置、
8 建物、
9 警報用表示端末機、 10 ハブ、
11 建機機器、 11a 手術室、
11b 危険物、
12 制御信号用配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象庁からの緊急地震速報のデータを配信する配信手段に接続されるとともに所定のネットワークに接続された現場地震速報サーバーと、
前記現場地震速報サーバーに電気的に接続されると共に地震情報を伝えたい建物における所望の各階毎の地震の種類・大きさによって予測される応答解析の結果である震度データを建物毎の振動特性データベースとして入力装置で予め入力されて記憶する記憶装置と、
前記所定のネットワークを介して前記現場地震速報サーバーからの送信された警報信号を受信するとともに警報を発するように前記建物毎における所望の階毎に設けられた警報用表示端末機と、
前記現場地震速報サーバーの中央演算処理装置に記憶されるプログラムで、前記緊急地震速報の地震データが配信されて受信されると、前記記憶装置の振動特性データベースから前記各建物における所望階毎の前記震度データを中央演算装置に取り込み、前記配信された地震データと前記震度データとを照合して、当該地震データの地震パターンから計算される建物の基礎部の予測震度及び予測到達余裕時間と、地震パターンに対応する前記基礎部の予測震度から照合される当該建物の各階毎の予測震度とを前記現場地震速報サーバーから前記建物毎における各階毎の前記警報用表示端末機にネットワークを介して送信させる地震警報プログラムとからなること、
を特徴とする地震情報による建物の震度予測システム。
【請求項2】
警報用表示端末機は、嫌振機器の制御装置と電気的に接続され、予測震度が閾値の震度より高い場合には所定の制御信号が現場地震速報サーバーから前記警報用表示端末機を介して前記制御装置に発信されること、
を特徴とする請求項1に記載の地震情報による建物の震度予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−92402(P2009−92402A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260746(P2007−260746)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】