説明

型内被覆成形方法、型内被覆成形装置及び型内被覆成形品

【課題】 被覆の厚みを均一にすることを目的として、成形時の金型変形をコントロールするために、樹脂成形品の形状が決まる樹脂冷却時の型締力を、塗料硬化時における型締力と同一にするような型内被覆成形を行う場合において、発生しやすい成形品のひけと、金型よりの塗料漏れを防止する。
【解決手段】 塗料硬化時の工程(第4工程)において、初期の型締力を、少なくとも2段階以上の多段で昇圧して最終の型締力とするとともに、樹脂成形時の工程(第2工程)において、初期の型締力を降圧してから最終の型締力とする。
本発明によれば、塗料硬化時の工程において、型締力が高くなる際には金型内の塗料は粘度が高くなって流れにくくなった状態となっているため、金型から塗料が漏れ出しにくく、また、樹脂成形時の工程においても製品がひけにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内で樹脂を成形した後、樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤(塗料と称することもある)を注入して硬化させることにより、表面を被覆剤により被覆(塗膜と称することもある)する型内被覆成形に関するものであって、特に被覆の厚みを均一にして外観が良好な成形品を成形するに適した型内被覆成形方法、型内被覆成形装置及び型内被覆成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂で成形した樹脂成形品の装飾性を高める方法として、塗装法による加飾が多く用いられている。
【0003】
従来から行われている塗装法は、金型内で射出成形した成形品を、金型から取り出した後、スプレー法や浸漬法等によって、塗料を塗布するのが一般的である。塗布された塗料はその後、乾燥することによって、強固な塗膜となって成形品の表面を被覆し、加飾するとともに保護する。
【0004】
しかしながら、近年は、前記塗装方法による工程の省略化を目的として、樹脂の成形と被覆を同一の金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称されることもある)が提案されている。
【0005】
前記型内被覆成形方法は、特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4等にその例が示めされている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−277577号公報
【特許文献2】特開2000−141407号公報
【特許文献3】特開2000−334800号公報
【特許文献4】特開2001−38737号公報
【0007】
前記型内被覆成形方法によれば、熱可塑性樹脂の成形と被覆を同一の金型内で行うため、工程の省略化によるコストダウンが可能であるとともに、浮遊している塵が硬化する以前の被覆(塗膜と称することともある)に付着して不良となる等といったことがほとんどないので、高い品質の被覆製品を得ることができる。
【0008】
そのため、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドア、ドアミラーカバー、フェンダー等に、型内被覆成形方法の利用が検討されている。
【0009】
ところで、従来の型内被覆成形方法においては、成形時の金型変形によって被覆の厚みが均一にならないという問題を有していた。
というのは、型内被覆成形方法に使用する金型は、一般的に、高い剛性を有しているが、型締装置で型締めすると数μm〜数十μmレベルオーダーで変形する。
通常の樹脂成形においてこの程度の変形は、ほとんど問題とならないが、型内被覆成形方法においては、樹脂成形品の表面に数十μm程度の厚みで被覆剤を施す場合もあって、金型の変形による金型キャビティ形状の変化が、被覆剤の厚みが均一にならない原因の一つとなる。
【0010】
この問題を解決する方法として、樹脂成形工程の金型変形と、塗料硬化工程の金型変形を近似させる型内被覆成形技術が、特許文献5に開示されている。
【特許文献5】国際公開第2004/048067号パンフレット
【0011】
特許文献5に開示される型内被覆成形の技術は、図10にその挙動を概念的に説明するように、被覆剤の厚みが均一にならない原因が成形時の金型変形にあることに着目して、樹脂成形品の形状が決まる樹脂冷却時の型締力を、塗料硬化時における型締力と同一にする等の方法により、金型キャビティの変形モード、及び変形量を、樹脂冷却時と塗料硬化時の工程で近似させるものである。
【0012】
つまり、樹脂成形品の形状が決まる樹脂冷却時において金型キャビティの形状が型締力により多少変形したとしても、塗料硬化時における金型キャビティの形状も同様に変形するので、結果として、被覆の厚みは均一になる。
特許文献5に開示の技術は、前述の理論によって、金型キャビティの変形モード、及び変形量を、樹脂冷却時と塗料硬化時の工程で近似させて被覆の厚みを均一にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、特許文献5の方法により型内被覆成形方法を実施する場合においては、金型の変形等を勘案して、樹脂成形時の型締力と、塗料硬化時の型締力を略同一にするケースが想定されている。
しかし、一般的に言えば、樹脂成形時に使用する型締力は、塗料硬化時に使用する型締力より高いケースが多い。そのため、2つの工程の型締力を同一に合わせようとして、樹脂成形時の型締力を低下させた場合において、成形品にひけ等の不良が発生する可能性がある。また、2つの工程の型締力を合わせようとして、塗料硬化時の型締力を高くした場合においては、型内より塗料が漏れ出すという不良が発生する可能性があった。
【0014】
そのため、樹脂成形時の型締力と塗料硬化時の型締力を同一にする場合においては、樹脂成形時の型締力をやや低下させると共に、塗料硬化時の型締力をやや高めに調整して、前述の不良が発生しないような範囲で、2つの型締力を合わせるよう調整することになるが、不良が発生する可能性は塗料の種類や製品の形状によって影響を受けるため、調整しきれない場合において、成形品にひけや塗料の漏れが発生する可能性があった。
【0015】
前述のように型締圧力を調整しきれない場合は、金型を改造して、ひけが発生し易い部分の製品形状を変更する、あるいは、金型の漏れ止め強化を図る等という手段が必要になってくるが、金型の改造は、費用と時間がかかり効率的でない。
従って、塗料の種類や製品の形状が変わっても、金型等の改造をする必要がない、あるいは金型等の改造を最小限に抑えることのできる適応範囲の広い型内被覆成形が求められていた。
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、被覆の厚みを均一にして外観が良好な成形品を成形するに適した型内被覆成形方法、型内被覆成形装置及び型内被覆成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明による型内被覆成形方法は、
(1) 雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形方法において、該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程を備えるとともに、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程と、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程を備えて、該第4の工程において、初期の型締力を昇圧して、該第4の工程における最終の型締力を、該第2の工程における最終の型締力と略同一にする。
【0018】
(2) (1)に記載の型内被覆成形方法であって、前記第4の工程において、初期の型締力を、少なくとも2段階以上の多段で昇圧して、最終の型締力とする。
【0019】
(3) (1)又は(2)に記載の型内被覆成形方法であって、前記第2の工程において、初期の型締力を、降圧して、最終の型締力とする。
【0020】
(4) (1)から(3)までのいずれか1項に記載の型内被覆成形方法であって、前記第1の工程の際に型締力制御した金型内に樹脂を射出充填する場合において、前記第2の工程における最終の型締力を、第1の工程における型締力より降圧して小さくする。
【0021】
上記の課題を解決するため、本発明による型内被覆成形装置は、
(5) 雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形装置において、該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程、及び、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程を、順次行い、該第4の工程においては、初期の型締力を少なくとも2段階以上の多段ステップで昇圧して最終の型締力を、該第2の工程における最終の型締力と略同一にする構成とした。
【0022】
また、本発明による型内被覆成形品は、
(6) (1)から(4)までのいずれか1項に記載の型内被覆成形方法によって成形する。
【発明の効果】
【0023】
本発明による型内被覆成形方法又装置によれば、被覆の厚みを均一にすることを目的として、成形時の金型変形をコントロールするために、樹脂成形品の形状が決まる樹脂冷却時の型締力を、塗料硬化時における型締力と同一にするような場合において、塗料硬化時における型締力を徐々に昇圧する。
その結果、型締力が高くなる成形段階において、金型内の塗料は粘度が高くなって流れにくくなった状態となっているため、金型から塗料が漏れ出しにくい。
従って、型内被覆成形の塗料硬化工程においても、最終的に高い型締力をかけることができるので、成形時に製品がひけにくく、かつ塗料が漏れ出す可能性が低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明による型内被覆成形方法及び型内被覆成形装置等について、好ましい実施形態の1例を説明する。
【0025】
図1〜図8は本発明の実施形態に係わり、図1及び図2は本実施形態による型内被覆成形方法の工程を説明する図である。また、図3は本実施形態に用いた型内被覆成形装置全体の構成を説明する全体構成図であり、図4は本実施形態に用いた型内被覆成形用金型の構成を説明するため概略の構造を示した断面図である。
図5〜図8は本発明による他の実施形態に係わり、型内被覆成形方法の工程を説明する図である。なお、図9〜図11は、比較として従来方法による型内被覆成形方法の工程を説明するための図である。
【0026】
まず初めに、本実施形態に用いた型内被覆成形用金型装置10(金型10と称することもある)の好ましい1例について、図4を用いて簡略に説明する。
【0027】
本発明による金型10は、可動型14、固定型12、及び塗料注入機50を備えている。図4に示した実施形態においては、可動型14が雌型であり、固定型12が雄型である。そして、金型10の金型キャビティ15形状は、金型キャビティ15の外周に型開閉方向に沿って延在する側壁部分と、底面部分とを有しており、所謂、開口部を有した箱型となっていることである。
【0028】
金型10は、雄型である固定型12と雌型である可動型14とがシェアエッジ構造(くいきり構造と称することもある)の嵌合部で嵌め合わされ、該嵌め合わされた状態でその内部に金型キャビティ15を形成する構造となっており、該シェアエッジ構造の嵌合部(くいきり部と称することもある)は、金型キャビティ15の全周にわたって形成されている。そして、金型10は、前述の嵌合部にて金型キャビティ15に充填した樹脂や塗料等が、金型10から漏れ出すことを防止する構造になっている。
【0029】
次に、塗料注入機50について簡単に説明する。本実施形態における塗料注入機50は、可動型14に取りつけられて、可動型14の金型キャビティ面に配設された塗料注入口51より金型キャビティ15内に塗料を注入することができるよう構成されている。
また、塗料注入機50の塗料注入口51には図示しないバルブが取りつけられており、基材となる樹脂の射出成形時においては、該バルブが閉じられていることによって、金型10の金型キャビティ15内に射出された樹脂が塗料注入口51より塗料注入機50内に進入することを防止している。
【0030】
そして、本実施の形態における塗料注入機50は、図示しない駆動装置によって駆動されて、塗料注入機50の中に供給された塗料を、所望する量だけ正確に可動型14の金型キャビティ面より金型キャビティ15内に注入することができるよう構成されている。
【0031】
なお、本実施の形態における塗料注入機50は、前記したように可動型14の金型キャビティ面より塗料を注入するよう構成したが、これに限るものではなく、後述する金型キャビティ15内で成形した樹脂成形品と金型キャビティ面との間に生じる隙間部分に、塗料を注入できるように構成すれば良く、その条件を満たせば塗料注入機50は固定型12等に取りつけられる等しても良い。
【0032】
次に、本実施形態による型内被覆成形用装置100の好ましい1例について、その構成を、図3を用いて簡略に説明する。
図3に示した型内被覆成形装置100は、射出装置30と、型締装置20を備えており、射出装置30は、射出シリンダ40、ホッパ38、バレル32、及びスクリュ34等を備えた、所謂、インライン式の射出機構を備えた射出ユニットである。
また、型締装置20は、固定盤29、可動盤28、エンドプレート25、型締シリンダ22、及びトグル式型締機構23等を備えている。
また、図3に示した型内被覆成形装置100は、型締制御装置61及び射出制御装置63を備えた制御装置60と、塗料注入制御装置52と、を有して、その各々が互いに信号を送受して連動する。
なお、本実施形態においては、所謂、油圧式の射出装置30と型締装置20とを備えた型内被覆成形装置100を使用したが、これに限るものでないことは勿論であって、例えば、電動サーボモータ、ボールネジ等を備えた電動式の型内被覆成形装置100であっても良く、本発明の趣旨の範囲を逸脱しない範囲で変更しても良いことは説明するまでもない。
【0033】
以下、本実施形態による型内被覆成形方法の好ましい1例について、図1及び図2を用いて説明する。
本実施形態による型内被覆成形方法は、第1の工程として、型締装置20により金型10を型締めして、金型キャビティ15を形成する。
なお、この際に形成する金型キャビティ15は、所望する樹脂成形品の寸法に対して、後述する樹脂成形中の金型の型開量に相当する分だけ厚み方向(型開閉方向の成形品肉厚)の寸法を小さく形成する。
また、この際における金型10の型締圧力は、後述する樹脂の射出工程において、金型キャビティ15内に溶融樹脂を射出した後、溶融樹脂の圧力で金型10がわずかに開く程度の型締力とすることが好ましい。
【0034】
これは、金型キャビティ15の容積より、若干大きい量の溶融樹脂を金型キャビティ15内に射出することで、樹脂成形品の成形時(後述する第1及び第2の工程)において、賦形の最後まで樹脂に圧力がかかるようにすることにより、樹脂成形品の成形時の金型変形パターンを、型締力により塗料に圧力をかける塗料注入時における金型変形パターンに、近づけるためである。
【0035】
そして、前述したような構成で金型10を型締めした後、射出装置30によって、基材となる熱可塑性樹脂を、溶融状態で金型キャビティ15内に射出(本実施の形態においては、基材としてABS樹脂:宇部サイコン株式会社製 UT20B)する。
なお、溶融樹脂を充填する際においては、できるだけ型締装置20の型締力が変化しないように、型締制御装置61により、トグル式型締機構23に配した型締シリンダ22の油圧を調整することが好ましい。
【0036】
本実施形態においては、型締力Pの最大値をPmaxとした場合に、樹脂成形品の形状を、金型開閉方向から投射した場合の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧Mmaxが概ね30MPa(メガパスカル)程度であった。
なお、前記面圧Mmaxは成形品の形状や大きさ、また樹脂の種類や溶融温度等の多くの要因によってその大きさは左右されるが、低圧成形方法と呼ばれる一部の射出圧縮又は射出プレス方法を除けば、一般的に少なくとも30MPa以上である。
【0037】
【数1】

【0038】
次に、金型キャビティ15内に溶融樹脂を射出完了した後、第2の工程に進み、溶融樹脂を冷却して後述する被覆剤の注入圧力に耐えうる程度まで固化(半固化状態と称することもある)させる工程に入る。
【0039】
ここで、金型キャビティ15の容積は、溶融樹脂の射出完了直後の時点において、充填した溶融樹脂の圧力で、金型10がわずかに開いていることによって、所望する樹脂成形品の寸法容積に対して金型10の型開量に相当する分だけ大きめとなっている。
この状態で金型10を型締めすると、金型キャビティ15内の溶融樹脂の熱収縮に合わせて、金型10が徐々に閉じられてゆき、金型キャビティの容積量が減少し金型キャビティの形状に溶融樹脂を賦形することができる。なお、この際において、樹脂成形品の側壁部には、熱収縮によるわずかな空隙が徐々に発生する。
【0040】
なお、本実施形態では、この第2の工程において、第1の工程より型締力を降圧し減少させて、型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧を小さくする。
本実施形態においては、第2の工程における面圧M2を20MPaとした。
【0041】
基材となる樹脂成形品の冷却後、第3の工程に進み、型締装置20を作動させて可動盤28を反金型10側に微小移動させて、金型をわずかに開いた状態(本実施の形態においては2mmほど型開方向に可動型14を移動させた状態)とし、金型キャビティ15内で成形した樹脂成形品と可動型14の金型キャビティ面との間に塗料を注入するための隙間(空隙と称することもある)を生じさせる。
【0042】
前記隙間を生じさせた後、塗料注入制御装置52により、塗料注入機50に指令信号を送信し、塗料注入機50によって塗料注入口51から金型キャビティ15内に塗料を6ml(ミリリットル)注入すると、型開によって生じた前記隙間並びに前記側壁部に生じた空隙に塗料が流れ込み始める。
【0043】
なお、本実施形態で成形する成形品の被覆表面積は600cmであり、被覆の厚みは0.1mm程度となる。また、本実施の形態において用いた塗料は、プラグラス#8000:白色(大日本塗料株式会社製)である。
【0044】
塗料を注入した後、第4の工程に進み、可動型14を固定型12の方向に移動させ金型10を再度閉じて型締めすることにより、隙間の中の塗料を押し広げながら流動させ、基材である樹脂成形品の表面を塗料で被覆する。
【0045】
なお、本実施形態においては、第4の工程における最終の型締力を制御して、樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧M3として20MPa程度に調整し、第2工程における面圧M2と面圧M3を同一にするが、そのまま一挙に、20MPaまで昇圧することはせず、型締力の昇圧を2ステップとして、まず、最初に面圧を10MPaとして3秒保持した後、20MPaまで昇圧するよう型締制御装置60で制御する。
【0046】
そして、前記第4工程の最終型締力で、塗料が金型内で硬化するまで状態で保持し、製品を取り出せる程度に塗料が硬化してから、型締力を解除し、金型を大きく開いて、型内被覆成形品を取り出す。なお、取り出した型内被覆成形品は、ひけがなく、外観が良好な成形品であった。
【0047】
以下、本実施形態による型内被覆成形の優れている点について説明する。
前述したように、型内被覆成形時において被覆剤の厚みが均一にならない原因は、成形時の金型変形にあるとして、第2の工程における最終の型締力と第4の工程における最終の型締力を同一にすることにより、金型キャビティ15の変形モード、及び変形量を第2の工程と第4の工程で近似させることができる。
これは、第2の工程における型締力と第4の工程における最終型締力を少しでも近づければ効果が生じるが、近づければ近づけるほど効果が向上する。
また、第2の工程において、初期の型締力を、多段に、あるいは徐々に降圧して、減少させて、最終的に少しでも小さくするということが、金型の変形量を小さくできるといった点で効果があり、好ましい形態である。
また、好ましい範囲としては、型締力を調整して、第2の工程における最終の型締力と第4の工程における最終型締力を略同一にし、第2の工程と第4の工程における面圧(型締力を樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの圧力)の差を10MPa以内とすることであり、さらに好ましくは、前記面圧の差を5MPa以内とすることであり、最も好ましいのは第2の工程における最終の型締力と第4の工程における最終型締力を同一とすることである。
【0048】
なお、樹脂の賦形を考えた場合に、通常、必要な面圧は30MPa以上のことが多い。
そのため、図10に示すように、高い型締力のままで樹脂成形品を成形して、この圧力まで塗料硬化時の型締力を一挙に昇圧して合わせると、まだ硬化の進んでいない流動性の高い塗料が、金型内の隙間に高い圧力で入り込んで、その結果として、金型内より塗料が漏れ出す危険性が極めて高くなる。
【0049】
また、一方、図9に示すようにして、低い型締力のままで樹脂成形品を成形すれば、樹脂成形品にひけ等の不良が発生する可能性がある。
【0050】
前述したように、従来の型内被覆成形方法であれば、金型を改造して本問題に対処しなければならない場合も発生し、金型の改造でひけを防止できない、あるいは塗料漏れを防止できないといった事情が発生すれば成形できなくなる可能性も捨てきれない。
例えば、シェアエッジ構造となった嵌合部で塗料の漏れ出しを防止するような金型10においては、漏れ止め効果を高めることに限界があって、型内より塗料が漏れ出すことを完全に防止できないようなケースも想定される。
【0051】
それに比較して、本実施形態においては、樹脂成形時の型締力と塗料硬化時の型締力を近づけるために、第2の工程における型締力が第1の工程における型締力より小さくなるよう制御した上で、さらに、第4の工程における型締力の昇圧を2ステップとして、まず、最初に面圧が10MPaとなるような型締力で3〜5秒保持することによって、その間に塗料の硬化を進めて粘度を高くし、塗料の粘度が高くなって微小隙間を流れにくくなった状態で、面圧が20MPaになるよう型締力を昇圧する。
粘度が高くなった塗料は、金型10から漏れ出しにくく、その結果として、塗料の硬化時において、最終的に面圧が20MPaとなる型締力をかけたとしても、金型10から塗料が漏れ出す可能性を低減させることができるのである。
【0052】
また、このことを言い換えると、塗料の硬化時の型締力を上げることができれば、第2工程における型締力をあげることも可能になると言えるのであって、ひけ等の低減につなげることも可能である。従って、本実施形態においては、ひけのない優れた製品を、塗料が漏れ出す危険性を低減させた状態においても、成形できる。
【0053】
次ぎに、本発明による他の実施形態を、先に説明した実施形態と異なっている部分を中心にして、簡略に説明する。
以下、本発明による第2の実施形態による型内被覆成形方法について図5を用いて説明する。
まず、第1の工程として、型締装置20によって金型10を型閉して、金型キャビティ15を形成する。なお、この際における金型キャビティ15の容積は、先に説明した実施形態と同様である。
【0054】
金型キャビティ15を形成した後、射出装置に30によって、基材である熱可塑性樹脂を溶融状態で金型キャビティ15内に射出(第2の実施形態においては、基材としてABS樹脂:宇部サイコン株式会社製 UT20B)する。
また、第2の実施形態でも先の実施形態と同様に、溶融樹脂を充填する際において、溶融樹脂の充填圧力により金型10が開くことによって金型キャビティ15の容積が増えるように、型締力を制御した。
【0055】
金型キャビティ15内に溶融樹脂を射出完了した後、第2の工程に進み、溶融樹脂を冷却して後述する被覆剤の注入圧力に耐えうる程度まで固化させる工程に入る。また、第2の実施形態においては、この第2の工程において第1の工程と型締力を同一として、樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧を30MPaとした。
【0056】
この状態で金型10を型締めすると、金型キャビティ15内の溶融樹脂の熱収縮に合わせて、金型10が徐々に閉じられて溶融樹脂が賦形される。
【0057】
基材である樹脂の冷却後、第3の工程に進み、金型をわずかに開いた状態(第2の実施の形態においては2mmほど型開方向に可動型14を移動させた状態)として、金型キャビティ15内で成形した樹脂成形品と可動型14の金型キャビティ面との間に空隙を生じさせる。
【0058】
前記隙間を生じさせた後、塗料注入機50によって塗料注入口51から金型キャビティ15内に塗料を6ml注入すると、型開によって生じた空隙に塗料が流れ込み始める。
なお、第2の実施形態に用いた金型で成形する成形品の被覆表面積は600cmであり、塗膜の厚みは0.1mm程度となる。また、第2の実施の形態において用いた塗料は、プラグラス#8000:白色(大日本塗料株式会社製)である。
【0059】
塗料を注入した後、第4の工程に進み、可動型14を固定型12の方向に移動させ金型10を再度閉じて型締めすることにより、隙間の中の塗料を押し広げながら流動させ、成形品表面を塗料で被覆する。
なお、第2の実施形態においては、第4の工程における最終の型締力を、樹脂成形品の投影面積Sで割った単位面積あたりの面圧を面圧M3として30MPaとし、第2工程における面圧M2とM3を同一にするが、そのまま一挙に30MPaまで増圧せず、型締力の増加を2ステップとして、まず、最初に面圧を10MPaとして5秒保持した後、30MPaまで昇圧させた。
なお、第2の実施形態においては、先に説明した実施形態と異なり、第2工程の最後まで比較的高い型締力をかけているため、製品がひけやすい肉厚の型内被覆成形品などを成形するときに有効である。
なお、取り出した型内被覆成形品は、先の実施形態と同様にひけがなく、外観が良好な成形品であった。
【0060】
なお、第4の工程において、型締力を昇圧する際には、図6に示したように3段ステップにより昇圧しても良く、必要に応じて適宜、ステップ数を増やしていくことは本発明の適応の範囲内である。
【0061】
なお、前述した実施形態においては、第1の工程において型締力制御にて樹脂を射出し、溶融樹脂充填の際に、溶融樹脂の充填圧力により金型10が開くことによって、金型キャビティ15の容積が増えるように型締装置を制御しており、第1の工程の際に型締力制御した金型内に樹脂を射出充填する場合であって、所謂、射出圧縮成形方法と一般的に呼ばれるような樹脂の射出充填方式である。
しかしながら、本発明に適用できる第1の工程の型締制御方式はこれに限らず、例えば、図7に示すような、予め金型10をわずかに開いた状態として樹脂を充填する、所謂、射出プレス成形方法と一般的に呼ばれるような樹脂の射出充填であっても勿論、良い。
ここで、図7に示す工程の成形方法を行う場合について、型締装置の制御方法の一例を図8に示す。第1工程において位置制御により金型をわずかに開いた状態として、樹脂を射出した後、すぐに第2工程の型締力制御に進んで金型を閉じることによって、金型内に射出した樹脂を型締力により賦形する。また、この際において、第3の工程に入るまで、金型内に充填した樹脂に型締力がかかるようにするため、型締めしても金型がわずかに開いた状態のままとなる量の樹脂を金型内に充填する。
【0062】
なお、型を開いて樹脂を射出した場合においては、射出直後の型を開いたままの状態の時に金型キャビティの末端にまで樹脂が行きわたっていない場合が多い。
そのような場合において、型締力により金型内に樹脂を行きわたらせる必要がある。そのため、第2工程における初期の型締力を大きめに設定する必要が生じるケースがある。
図8に示す型締装置の制御方法においては、第2工程における型締力を、初期の型締力から多段に降圧して減少させることにより最終的に小さくしているので、製品に影響する型締力による金型の変形を小さくできるといった点で、特に好ましい形態である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係り型内被覆成形の工程を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係り型締装置の制御方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係り型内被覆成形装置全体の構成を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に用いた金型装置の構成を説明する概略の断面図である。
【図5】本発明による第2の実施形態に係り型締装置の制御方法を説明する図である。
【図6】本発明による第3の実施形態に係り型締装置の制御方法を説明する図である。
【図7】本発明による他の実施形態に係り型内被覆成形の工程を説明する図である。
【図8】本発明による他の実施形態に係り型締装置の制御方法を説明する図である。
【図9】従来の型内被覆成形方法による型締装置の制御方法を説明する図である。
【図10】従来の型内被覆成形方法による型締装置の制御方法を説明する図である。
【図11】従来技術による型内被覆成形方法に係り金型内における樹脂と塗料の挙動を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0064】
10 金型装置
12 固定型
14 可動型
15 金型キャビティ
20 型締装置
22 型締シリンダ
25 エンドプレート
28 可動盤
29 固定盤
30 射出装置
32 バレル
38 ホッパ
40 シリンダ
50 塗料注入機
51 注入口
52 塗料注入制御装置
60 制御装置
61 型締制御装置
63 射出制御装置
100 型内被覆成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形方法において、
該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程と、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程を備えるとともに、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程と、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程を備えて、
該第4の工程において、初期の型締力を昇圧して、該第4の工程における最終の型締力を該第2の工程における最終の型締力と略同一にする型内被覆成形方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、初期の型締力を、少なくとも2段階以上の多段で昇圧して、最終の型締力とする請求項1記載の型内被覆成形方法。
【請求項3】
前記第2の工程において、初期の型締力を、降圧して、最終の型締力とする請求項1又は請求項2記載の型内被覆成形方法。
【請求項4】
前記第1の工程の際に型締力制御した金型内に樹脂を射出充填する場合において、前記第2の工程における最終の型締力を、第1の工程における型締力より降圧して小さくする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の型内被覆成形方法。
【請求項5】
雄型と雌型により形成された金型キャビティを有する金型を用いて、該金型キャビティ内で、樹脂成形品を成形するとともに該樹脂成形品の表面に被覆を施す型内被覆成形装置において、
該金型キャビティに溶融樹脂を充填する第1の工程、該金型キャビティに溶融樹脂を充填した後に該溶融樹脂の熱収縮に合わせながら金型キャビティの容積量を減少させ溶融樹脂を賦形して樹脂成形品を成形する第2の工程、該樹脂成形品が被覆剤の注入圧力と流動圧力に耐えうる程度に固化した段階で金型をわずかに開いて該樹脂成形品と金型キャビティ面との間に被覆剤を注入するための空隙を形成する第3の工程、及び、該空隙に被覆剤を注入して金型を再度型締めする第4の工程を、順次行い、
該第4の工程においては、初期の型締力を少なくとも2段階以上の多段ステップで昇圧して最終の型締力を、該第2の工程における最終の型締力と略同一にする型内被覆成形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の型内被覆成形方法によって成形した型内被覆成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−253494(P2007−253494A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82004(P2006−82004)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】