説明

型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法

【課題】多数個取りが可能であり、汎用の型締装置が使用出来、複数のキャビティにおける可動金型部又は固定金型部のキャビティ形成面と、樹脂成形品と、の間の隙間へ導入する塗料の流動バランスを調節することが可能な型内被覆成形手段を提供すること。
【解決手段】固定金型部3と可動金型部4とで構成される金型10の提供による。この金型10には、固定金型部3及び可動金型部4によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティ5,6と、それら複数のキャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのランナ7,8と、複数のキャビティ5,6の中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成されている。金型10は、ランナ7,8が、複数のキャビティ5,6のそれぞれに接続されるとともに、被覆材注入路が、ランナ7,8に通じて設けられ、複数のキャビティ5,6に接続されたそれぞれのランナ7,8を形成する面のうち被覆材が流れる面に、複数の凹部が形成されているところに特徴がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型のキャビティ内で複数個の樹脂成形品を成形した後に、それら樹脂成形品を金型から取り出さずに、各々の樹脂成形品に塗料によって被覆を施す(塗装する)型内被覆成形方法、及びそれに用いられる型内被覆成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂成形品の装飾性を高めるために、塗装によって表面を被覆して加飾を施す手段が採用される。そして、近年においては、塗装による工程の省略化を目的として、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品の表面被覆とを、同一の金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称する)が行われている。
【0003】
型内被覆成形方法は、型締めされた金型へ樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品を得た後に、その樹脂成形品を金型内に保持したまま、金型を微開して、金型内で、樹脂成形品とキャビティ形成面との間に生じた隙間へ、塗料(被覆材)の注入を行い、再度、金型を型締めし、樹脂成形品の表面に注入した塗料を均一に広げ、塗料を硬化させることにより、表面が塗膜で被覆された樹脂成形品を得る方法である。
【0004】
このような型内被覆成形方法によれば、樹脂を用いた成形と、得られた樹脂成形品への被覆とを、同一の金型内で行うため、工程が省略化され、浮遊している粉塵が硬化前の塗膜に付着して、不良品になる等といった問題が殆ど生じず、高い品質の製品を低廉に得ることが可能である。特に、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドアミラーカバー、フェンダー等の多くの部品には、型内被覆成形方法の利用が好適である。
【0005】
尚、型内被覆成形方法についての先行文献として、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、金型の型割面からの溶融樹脂の漏れを効果的に防止し得る手段が提案されている。
【特許文献1】特開平9−52257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、複数個の樹脂成形品を一度に成形(多数個取り、ともいう)するために、樹脂成形品の成形空間であるキャビティが複数備わる金型を用いて型内被覆成形方法を行おうとすると、樹脂成形品の表面に、均一に、良好な被覆を施すことが出来ない場合が生じていた。型内被覆成形方法は、工程が省略化され製品を低廉に得ることが出来る手段であるが、品質が安定しなければ、外観に対して高い品質が要求される場合に、結局、歩留まりが低下して製品コストの上昇を招来する。一方、樹脂成形品の製造にかかり生産効率を向上させるためには、多数個取りすることが、今後、更に望まれると想定される。従って、多数個取りする場合であっても、より安定して高い品質の被覆を施すことが可能な型内被覆成形手段が求められていた。
【0007】
これに対し研究が重ねられた結果、塗料(被覆材)が複数のキャビティへ均等に導入されない場合が生じ得ることが、被覆にかかる品質低下を導くものと推考された。この問題につき、図5及び図6を参照して説明する。
【0008】
図5及び図6は、多数個取りの型内被覆成形に用いられる従来の金型の一例を示す図である。図5は型割線を表した断面図であり、図6は図5におけるAA断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型50は、固定金型部53と可動金型部54とで構成され、それらによって2つのキャビティ55,56が形成されたものである。固定金型部53には、キャビティ55,56の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル59が形成され、固定金型部53と可動金型部54の型割面によって、スプル59とキャビティ55とを接続するランナ57、及びスプル59とキャビティ56とを接続するランナ58が形成されている。即ち、ランナ57,58は、スプル59から分岐してキャビティ55,56にそれぞれ接続され、ランナ57とランナ58も通じている。又、注入機52を用いて被覆材注入口61からキャビティ55,56の中へ塗料を注入するための被覆材注入路51が、ランナ57,58に通じて設けられている。
【0009】
多数個取りが可能な型内被覆成形用の金型50において、最初の課題は、成形にあたり2つのキャビティ55,56に所望通りの均等の量の溶融樹脂を充填することである。この課題は、キャビティ55とランナ57又はキャビティ56とランナ58との接続部分であるゲートの位置、大きさ、及び形状、あるいは、ランナ57,58の長さ、径、及び形状等が、CAE解析等のシミュレーションを利用して検討することにより、達成出来る。そして、次の課題は、塗料の注入にあたり固定金型部53に対し可動金型部54を精度よく離隔することである。型内被覆成形においては、可動金型部54のキャビティ形成面と樹脂成形品との間に生じた僅かな隙間へ塗料の注入を行うので、この隙間の寸法が導入される塗料の量に与える影響が大きいからである。
【0010】
ところが、従来の金型50では、使用される汎用の型締装置(図示しない)のプラテン(固定金型部及び/又は可動金型部の取付盤)の平行度の調整が困難である等の理由により、μmオーダーの精度で制御して、固定金型部53に対し可動金型部54を離隔することは困難であった。そうすると、固定金型部53に対する可動金型部54の離れ具合(金型50の開き具合)が部分によって異なり、それによって、ランナ57における可動金型部54のランナ形成面と成形体との間の隙間と、ランナ58における可動金型部54のランナ形成面と成形体との間の隙間とが、均等ではなくなる。従って、注入機52を用いて被覆材注入口61から被覆材注入路51へ塗料を注入したときに、ランナ57,58を介して、キャビティ55,56における可動金型部54のキャビティ形成面と樹脂成形品との間の隙間へ導入される塗料が、所望する量にならず、極端な場合には、例えば、キャビティ55側では塗料が少なすぎて樹脂成形品の表面に行き渡らない結果、所望の被覆が施せず、他方、キャビティ56側では塗料の過充填となり、塗膜が過大に厚くなったり塗料が金型の外へ漏れる、といった問題が生じていた。
【0011】
このような問題を解決するため、特別注文の型締装置を採用し、固定金型部に対し可動金型部をμmオーダーの精度で制御して動かして金型を開閉可能とする対策も考えられるが、莫大な投資を要する結果、生産される樹脂成形品(製品)の価格を押し上げ競争力を低下させるので好ましい手段ではない。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した型内被覆成形手段を提供することを目的とする。より具体的には、多数個取りが可能であり、汎用の型締装置が使用出来、複数のキャビティにおける可動金型部のキャビティ形成面と樹脂成形品との間の隙間へ導入する塗料の流動バランスを調節することが可能な型内被覆成形手段の提供が目的である。本発明は、以下に示す手段を提供することにより、上記目的を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明によれば、先ず、固定金型部と可動金型部とで構成され、固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、ランナが、複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、被覆材注入路が、ランナに通じて設けられ、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面に、複数の凹部が形成されている型内被覆成形用金型が提供される。
【0014】
本明細書において、被覆材は、流動性のある被覆材料を指し、通常は塗料である。被覆材注入路は、被覆材注入口(金型の外部から被覆材が注入される開口)からランナまでの被覆材の流路である。可動金型部が、成形体及び固定金型部から離れることによって形成される隙間に被覆材が注入されるから、通常は、ランナを形成する面のうち被覆材が流れる面は、可動金型部の内面に該当する。
【0015】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路がランナに通じて設けられ、ランナ形成面のうち被覆材が流れる面に複数の凹部が形成されており、この凹部が被覆材の流動バランスの調節手段として機能して、後述する効果を発現する。即ち、被覆材は、被覆材注入口から被覆材注入路を通り、ランナを介して(より厳密には可動金型部のランナ形成面と成形体との間の隙間を介して)、可動金型部のキャビティ形成面と樹脂成形品との間の隙間へ注入されるが、例えば、複数のキャビティに接続されるそれぞれのランナ毎に、凹部の数、形状、深さ、その他の態様を変えることにより、被覆材が可動金型部のランナ形成面と成形体との間の隙間を通る際の圧力損失を調整し、被覆材の流動バランスを調節することが出来る。固定金型部に対して可動金型部を動かし金型を開閉させる汎用の型締装置の制御の精度等の限界により、複数のキャビティへ通じる複数のランナにおいて、可動金型部のランナ形成面と成形体との間の隙間が均等にならなくても、可動金型部のキャビティ形成面と樹脂成形品との間の隙間へ注入される被覆材の量を均等にすることが可能である。
【0016】
本発明に係る型内被覆成形用金型においては、凹部の深さが、100〜500μmであることが好ましい。凹部の深さは、より好ましくは150〜450μmであり、更に好ましくは200〜400μmである(後述の本発明に係る型内被覆成形方法においても同様である)。
【0017】
又、複数の凹部が、しぼであることが好ましい。
【0018】
しぼとは、模様を表すように形成された微細な多数の凹みを意味する。しぼを得るための手段としては、溶接、放電、加熱、腐食等の加工手段が採用出来る。但し、複数の凹部の態様は、限定されるものではなく、例えば、シェーパー、フライス盤等の機械加工手段を用いて、溶融樹脂の流れ方向に概ね垂直方向に複数の溝部又はヘアノッチ(毛髪状の微細な切欠)を形成したり、角柱体状又は円柱体状の凹みを複数設けたものであってもよい(後述の本発明に係る型内被覆成形方法においても同様である)。
【0019】
次に、本発明によれば、固定金型部と可動金型部とで構成される金型の複数のキャビティの中へ、それらに接続されたランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、樹脂成形品をそれぞれのキャビティの中に保持したまま、固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、可動金型部又は固定金型部のキャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、金型における複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち被覆材が流れる面に、複数の凹部を形成し、ランナ毎に凹部の態様を調整することによって被覆材の流動バランスを調節する型内被覆成形方法が提供される。
【0020】
ランナ毎に凹部の態様を調整するとは、凹部の数、形状、深さ、その他の態様を、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナ毎に変えることを意味する。但し、被覆材の流動バランスを調節し得るものであれば凹部の態様を調整する手段は限定されない。調整の具体的手順としては、限定されるものではないが、例えば、2つのキャビティに接続された2つのランナが形成された金型において、両方のランナ形成面のうち被覆材が流れる面に、初めは同じ態様の凹部を形成し、成形により得られた樹脂成形品の(例えば)被覆の膜厚の状態を確認して、差が認められれば、膜厚の厚い方のキャビティへ注入される被覆材の量が、他方より多いと判断し、そのキャビティへ接続されるランナにおいて、被覆材が流れる面に形成された凹部の(例えば)深さを、他方より深くする、という手順を示すことが出来る。
【0021】
本発明に係る型内被覆成形方法においては、凹部の深さが、100〜500μmであることが好ましい。
【0022】
又、複数の凹部が、しぼであることが好ましい。
【0023】
更に、可動金型部に上記複数の凹部を形成するとともに、上記複数の樹脂成形品を得た後に、可動金型部又は固定金型部を交換することが好ましい。この場合、樹脂成形品は、固定金型部(又は可動金型部)に片持ちされて露わになるが、新たな可動金型部(又は固定金型部)が取り付けられることにより、固定金型部(又は可動金型部)とその新たな可動金型部(又は固定金型部)とで形成されるキャビティの中に収まる。そして、固定金型部に対して可動金型部を離隔し金型を微開して、可動金型部又は固定金型部のキャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、上記それぞれのランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で樹脂成形品の表面を被覆する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面(ランナ形成面)のうち被覆材が流れる面に複数の凹部が形成されており、ランナ毎に凹部の態様を調整することによって、被覆材の流動バランスを調節することが出来る。即ち、本発明に係る型内被覆成形用金型は、本発明に係る型内被覆成形方法の実施に好適に用いられる。
【0025】
被覆材の流動バランスが調節された結果、多数個取りの成形を行っても、それぞれの樹脂成形品の表面に、均一に良好な被覆を施すことが可能である。従って、高品質の樹脂成形品を高い効率で生産することが出来る。又、金型をμmオーダーの精度で制御しなくても、ランナを介して、可動金型部(又は固定金型部)のキャビティ形成面と、樹脂成形品と、の間の隙間へ、均等の被覆材を注入することが出来るので、汎用の型締装置を使用出来、樹脂成形品の製造にあたり特段の投資を必要としない。
【0026】
本発明に係る型内被覆成形用金型は、その好ましい態様において、複数の凹部がしぼである。このしぼは、放電加工等の手段により、容易に、その態様(凹みの大きさ、深さ、数等)を変え得るものであるから、より簡便に、被覆材の流動バランスを調節することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法について実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0028】
図1、図2、図3及び図9は、多数個取りの本発明に係る型内被覆成形方法に用いられる、本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す図である。図1は型割線を表した断面図であり、図2は図1における楕円で囲われたB部分、即ちランナ近傍部分を拡大した図であり、図3はランナにおける凹部の態様を示す断面図であり、図9は図1におけるXX断面、即ち可動金型部の型割面、を表した図である。図示される金型10は、従来の金型と同様に、固定金型部3と可動金型部4とで構成され、それらの型割面によって2つのキャビティ5,6が形成されたものである。尚、型割面とは、金型としての分割面を意味し、固定金型部と可動金型部とが互いに対向する面を指す。
【0029】
金型10は、型内被覆成形方法に使用される成形装置の一構成要素であり、例えば、型締装置とそれに組み込まれる金型装置、更には射出装置、制御装置で構成される成形装置において金型装置を構成するものである。金型10は、図示しない型締装置に組み込まれ、固定金型部3に対し可動金型部4が離隔することにより、開閉する。固定金型部3には、キャビティ5,6の中へ溶融樹脂を射出するためのスプル9が形成され、固定金型部3と可動金型部4の型割面によって、スプル9とキャビティ5とを接続するランナ7、及びスプル9とキャビティ6とを接続するランナ8が形成されている。ランナ7,8は、キャビティ5,6と同様に固定金型部3と可動金型部4の型割面によって形成されるとともに、溶融樹脂の流路としては、スプル9から分岐してキャビティ5,6にそれぞれ接続され、ランナ7,8どうしも通じている。又、注入機2を用いて被覆材注入口11からキャビティ5,6の中へ被覆材(塗料)を注入するための被覆材注入路31が、ランナ7,8に通じて設けられている。尚、実施形態に示される金型において、スプルとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、金型の溶融樹脂注入口(金型の外部から溶融樹脂が注入される開口)からランナまでの部分を指し、一般には円錐形を呈するものである。本発明に係る型内被覆成形用金型においては、溶融樹脂の流路として、スプルを含むものには限定されずスプルレスであってもよく、又、ホットランナから本明細書で示されるランナへ溶融樹脂が供給される態様であってもよく、特段に制限されない。実施形態に示される金型においては、ランナとは、キャビティまでの溶融樹脂の流路の一部であり、スプルからキャビティまでの部分を指し、スプルから分岐してキャビティ毎に設けられる。
【0030】
金型10は、可動金型部4のランナ7を形成する面のうち被覆材が流れる面に複数の凹部21が形成され、ランナ8を形成する面のうち被覆材が流れる面に複数の凹部22が形成されているところが従来の金型(図5参照)とは異なる。多数個取りが可能な型内被覆成形用の金型10は、キャビティ5,6の位置、ランナ7,8の長さ、径、及び形状、キャビティ5,6とランナ7,8にかかるゲートの位置、大きさ、及び形状等について、充分な検討がなされ、2つのキャビティ5,6に均等の量の溶融樹脂を充填することが可能なものになっている。ところが、金型10は、溶融樹脂を固化させて樹脂成形品を得た後に、被覆材を注入するために、汎用の型締装置を用いて固定金型部3に対して可動金型部4を離隔し金型10を開けると、キャビティ6側がキャビティ5側より僅かに開きが大きくなってしまい、キャビティ6を形成する面と樹脂成形品との間に生じる隙間の方が、キャビティ5を形成する面と樹脂成形品との間に生じる隙間より、僅かに広くなってしまうものである。そのため、複数の凹部21,22は、それぞれ溝部として構成され、その深さが異なり、図3における(a)で示される凹部21の深さD1(例えば250μm)の方が、図3における(b)で示される凹部22の深さD2(例えば400μm)より、小さく(浅く)なっていて(併せて図2参照)、キャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品との間に生じる隙間へ導入される被覆材(塗料)の流動バランスを調節する手段として機能している。
【0031】
型内被覆成形方法により成形を行うにあたっては、先ず、成形装置を構成する図示しない射出装置を用いて、型締めされた金型10のスプル9からランナ7,8を介してキャビティ5,6へ溶融樹脂を射出・充填し、冷却により固化させて樹脂成形品を得る。次いで、その樹脂成形品を金型10のキャビティ5,6に保持したまま、固定金型部3に対し可動金型部4を離隔して金型10を微開し、樹脂成形品とキャビティ5,6形成面との間に生じた隙間へ、被覆材(塗料)の注入を行う。この被覆材の注入は、被覆材が被覆材注入口11から被覆材注入路31を通り、可動金型部4のランナ7,8を形成する面と成形体との間の隙間を介して、可動金型部4のキャビティ5,6を形成する面と樹脂成形品との間の隙間へ入ることで行われる。このとき、ランナ7においては、図3における(a)(左側)で示されるように、凹部21に相補する形状の成形体25が成形され、ランナ7を形成する面と成形体25との間の隙間が凹部21近傍において少し狭められ、被覆材は隙間P1を通ることになる。一方、ランナ8においては、図3における(b)(右側)で示されるように、凹部22に相補する形状の成形体26が成形され、ランナ8を形成する面と成形体26との間の隙間が凹部22近傍において、より大きく狭められ、被覆材は僅かに開いた隙間P2を通ることになる。
【0032】
被覆材がランナ8に形成された隙間P2を通る際の圧力損失が、ランナ7に形成された隙間P1を通る際の圧力損失より、大きいことから、ランナ8を通過する被覆材の量が、より制限され、固定金型部3から可動金型部4を離隔し金型10を開けたときに、キャビティ6側がキャビティ5側より僅かに開きが大きくなってしまっても、被覆材の流動バランスが調節され、キャビティ5とキャビティ6に均等な量の被覆材を充填することが可能である。
【0033】
図4は、複数の凹部の態様を例示する平面図であり、ランナ側から可動金型部の表面をみた様子を表している。図4における(a)(左上)は、複数の凹部が、矢印で示された溶融樹脂の流れ方向に概ね垂直方向に(この例では)8本形成された溝部41である場合を表している。図4における(b)(左下)は、複数の凹部が、矢印で示された溶融樹脂の流れ方向に概ね垂直方向に(この例では)8本形成されたヘアノッチ42の場合である。図4における(c)(右上)は、複数の凹部が、千鳥状に配置された13個の角柱体状の凹み43である場合を表している。図4における(d)(右下)は、(複数の)凹部が、しぼ44の場合である。
【0034】
次に、多数個取りの本発明に係る型内被覆成形方法であって、成形を行った後、被覆を行う前に、可動金型部を交換する方法について説明する。このような方法においても本発明に係る型内被覆成形用金型は好適に利用される。図7は、可動金型部を交換する工程を含む型内被覆成形方法の工程を示す説明図であり、図7における(a)〜(e)は、それぞれ金型の型割線を表した断面を示している。
【0035】
図7における(a)には、固定金型部73から離隔した状態の可動金型部74が示されており、この状態から、可動金型部74を動作させ型締めを行う。尚、可動金型部74は、図1に示される可動金型部4と同態様の可動金型部であり、そのランナ77(図7における(b)参照)を形成する面のうち被覆材が流れる面に複数の凹部81が形成され、ランナ78(図7における(b)参照)を形成する面のうち被覆材が流れる面に、凹部81より深い凹部82が複数形成されている。そして、型締めされた金型へ、図示しない射出装置を用いて、スプル79からランナ77,78を介してキャビティ75,76へ溶融樹脂を射出・充填する(図7における(b)参照)。その後、冷却により固化させて樹脂成形品80を得る。
【0036】
次いで、その樹脂成形品80を金型の固定金型部73に密着させ片持ちしたまま、可動金型部74を、固定金型部73から離隔して(図7における(c)参照)型締装置から外す。そして、新たな可動金型部84を取り付ける(図7における(d)参照)。尚、可動金型部84は、ランナ77,78を形成する面に凹部は形成されていないものである。その可動金型部84を、樹脂成形品80及び固定金型部73に密着させずに、それらに対して可動金型部84を離隔し金型を微開した状態で、可動金型部84のキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品80との間に生じた隙間へ、スプル79から分岐をしたランナ77,78を介して、より厳密には可動金型部84のランナ77,78を形成する面と成形体85,86との間の隙間を介して、被覆材の注入を行い、金型内で樹脂成形品80の表面を被覆する(図7における(e)参照)。
【0037】
被覆材の注入は、被覆材が被覆材注入口91から被覆材注入路を通り、可動金型部84のランナ77,78を形成する面と成形体85,86との間の隙間を介して、可動金型部84のキャビティ75,76を形成する面と樹脂成形品80との間の隙間へ入ることで行われる。このとき、ランナ77においては、図8における(a)(左側)で示されるように、交換前の可動金型部74の(より浅い)凹部81に相補する形状の成形体85が成形され、交換後の可動金型部84のランナ77を形成する面と成形体85との間の隙間が少し狭められ、被覆材は隙間P3を通ることになる。一方、ランナ78においては、図8における(b)(右側)で示されるように、交換前の可動金型部74の(より深い)凹部82に相補する形状の成形体86が成形され、ランナ78を形成する面と成形体86との間の隙間がより大きく狭められ、被覆材は僅かに開いた隙間P4を通ることになる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の型内被覆成形用金型及び型内被覆成形方法は、あらゆる樹脂成形品の成形手段として利用の可能性がある。特に、外観に対して高い品質が要求される製品、例えば二輪車用部品、自動車用部品、あるいは、家電製品、住宅設備等の成形に好適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1における楕円で囲われたB部分を拡大した図である。
【図3】本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す図であり、ランナにおける凹部の態様を拡大して示す断面図である。
【図4】本発明の型内被覆成形用金型の一の実施形態を示す図であり、複数の凹部の態様を例示する平面図である。
【図5】従来の金型の一例を示す断面図である。
【図6】図5におけるAA断面を表した図である。
【図7】本発明に係る型内被覆成形方法の一の実施形態を示す図であり、工程を表した説明図である。
【図8】金型が図7における(e)の状態(可動金型部の交換後)において、ランナを拡大して示す断面図である。
【図9】図1におけるXX断面を表した図である。
【符号の説明】
【0040】
2,52…注入機、3,53,73…固定金型部、4,54,74,84…可動金型部、5,6,55,56,75,76…キャビティ、7,8,57,58,77,78…ランナ、9…スプル、10,50…金型、11,61,91…被覆材注入口、31,51…被覆材注入路、41…溝部、42…ヘアノッチ、43…(角柱体状の)凹み、44…しぼ、80…樹脂成形品、85,86…成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型部と可動金型部とで構成され、前記固定金型部及び可動金型部によって、樹脂成形品の成形空間である複数のキャビティと、それら複数のキャビティの中へ溶融樹脂を射出するためのランナと、前記複数のキャビティの中へ被覆材を注入するための被覆材注入路と、が形成された型内被覆成形用の金型であって、
前記ランナが、前記複数のキャビティのそれぞれに接続されるとともに、前記被覆材注入路が、前記ランナに通じて設けられ、
前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面に、複数の凹部が形成されている型内被覆成形用金型。
【請求項2】
前記凹部の深さが、100〜500μmである請求項1に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項3】
前記複数の凹部が、しぼである請求項1又は2に記載の型内被覆成形用金型。
【請求項4】
固定金型部と可動金型部とで構成される金型の複数のキャビティの中へ、それらに接続されたランナを介して溶融樹脂を充填し、その溶融樹脂を固化させて複数の樹脂成形品を得た後に、前記樹脂成形品をそれぞれの前記キャビティの中に保持したまま、前記固定金型部に対し可動金型部を離隔し金型を微開して、前記可動金型部又は前記固定金型部のキャビティを形成する面と、樹脂成形品と、の間に生じた隙間へ、前記ランナを介して被覆材の注入を行い、金型内で前記樹脂成形品の表面を被覆する方法であって、
金型における前記複数のキャビティに接続されたそれぞれのランナを形成する面のうち前記被覆材が流れる面に、複数の凹部を形成し、ランナ毎に前記凹部の態様を調整することによって被覆材の流動バランスを調節する型内被覆成形方法。
【請求項5】
前記凹部の深さが、100〜500μmである請求項4に記載の型内被覆成形方法。
【請求項6】
前記複数の凹部が、しぼである請求項4又は5に記載の型内被覆成形方法。
【請求項7】
前記可動金型部に前記複数の凹部を形成するとともに、前記複数の樹脂成形品を得た後に、可動金型部又は固定金型部を交換する請求項4〜6の何れか一項に記載の型内被覆成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−289793(P2006−289793A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113901(P2005−113901)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】