説明

基材の処理方法

ガラス状基材に減圧下で適用される薄層のスタックによって形成される、層(B)と基材との間に配置された少なくとも1つの層(A)の少なくとも一方の表面部分の処理方法は、少なくとも1つの薄層(A)を前記基材の表面部分に減圧堆積プロセスによって堆積し、少なくとも1つのリニアイオン源を用いて、イオン化された種のプラズマをガス又はガス混合物から発生させ、該プラズマに前記層(A)の少なくとも一方の表面部分をさらして、前記イオン化された種により該層(A)の表面状態を少なくとも部分的に改質するようにし、少なくとも1つの層(B)を該層(A)の表面部分に減圧堆積プロセスによって堆積することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面の処理方法に関する。より詳しくは、本発明は、工業的規模の薄膜堆積設備内に組み込まれ、かつ減圧中で操作することを意図した処理方法に関する(基材は1.5mを超え、さらには2mもの移動方向に垂直な寸法を有する)。より詳しくは、本発明は、薄膜堆積プロセス(通常、スパッタリング、任意選択で磁気強化型スパッタリング又はマグネトロンスパッタリングの堆積ライン)と、リニアイオン源を用いたこれら薄膜表面の処理方法とを組み合わせた表面処理方法に関する。
【0002】
当然ながら、本発明はまた、こうして処理され、かつ様々な機能性を有する層(太陽光制御層、低放射率層、電磁遮蔽層、発熱層、親水性層、疎水性層及び光触媒層)、能動系(エレクトロクロミック層、エレクトロルミネセンス層又は光起電層)を組み込んだ可視光の反射レベルを変更する層(反射防止層又はミラー層)からなる多層で被覆された基材に関する。
【背景技術】
【0003】
一般的には、ガラスの機能を有する基材上に堆積される薄膜多層はますます多くの薄層を含み、それに応じて各層間の界面数が増す。異なる材料の2つの膜を隔てる各界面は、多層全体の光学的、熱的及び機械的性質を制御するために不可欠な領域を構成する。
【0004】
したがって、例えば、薄膜多層の場の強度が、界面における結合(化学結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、水素結合等)のエネルギーによって決まることがよく知られている。同様に、種々の層の体積応力から生じる界面応力は界面の破壊を引き起こし、結果として、最も強く応力が加わった界面又は最も低い付着エネルギーを有する界面において被膜の層間剥離が生じる場合もある。
【0005】
また、界面を特徴付ける第2のパラメーターが、結晶性を改質するか又は少なくとも上部層の中距離規則性を確保するその能力であることが知られている。この作用は、当然ながら、例えば、超小型電子産業において、適切な結晶学的特性の基材を用いてナノ結晶薄膜内の粒子の準単結晶成長又は選択配向を促進させるのに使用される。この技術は、一般に「エピタキシャル成長」と呼ばれ、下側の材料と上側の材料が異なる場合には、より正確にはヘテロエピタキシャル成長と呼ばれる。
【0006】
それゆえ、この薄層の結晶学的特性及び粒子形態が、ガラスの機能を有する基材上に堆積される多層によって与えられる機能性を決定する。
【0007】
したがって、第1の限定的でない例によれば、光触媒特性を有する薄層(特に酸化チタンに基づく薄層)を堆積させることによって得られる自己洗浄機能を有する多層の場合には、この層の性能は、その機能層中に含まれるアナターゼ型酸化チタン相の量によって決定される。
【0008】
第2の例として、太陽光制御機能又は高い断熱機能(低E機能とも呼ばれる)を有する多層の性能は、機能層の波長よりも大きな波長を有する放射線の反射に有利な結晶化状態を有する機能性金属層の能力によって決定され、この機能性金属層は、例えば、銀から作製することができ、その有利な結晶化状態は、機能層よりも時間的に前に堆積される1つ又は複数の層を形成する原子の結晶学的配列に大きく左右される。
【0009】
より一般的には、スパッタリング堆積ラインを用いて堆積される薄膜多層構造は、少なくとも1つの層A上に堆積される機能層と呼ばれる少なくとも1つの層Bを含む。
【0010】
本発明の範囲内で、層Aは、複数の層Ai(A1、A2、A3、・・・An、式中、iは1〜nであり、nは1以上である)の重ね合わせであることができる少なくとも1つの層として規定される。
【0011】
多層の最適な性能は、基本層Aiのそれぞれが可能な限り汚染物質(例えば、吸着気体分子)を含まず、また可能な限り滑らかな表面仕上げを有し、かつ最適な材料配置(低密度の格子型結晶欠陥又は転位等)を有する場合に達成される。
【0012】
本発明者らは、堆積工程において注意を払ったにもかかわらず、層Aiのそれぞれの表面が、残念なことに、
(i)各自陰極を備えた2つの堆積チャンバー間を層Aが移動する間に堆積装置(マグネトロン)の残留雰囲気(水、炭化水素)によって汚染され、
(ii)マグネトロンスパッタリングによって堆積された層Aの表面は、特に一部の材料の場合、堆積される材料の性質、層の厚さ及び層が堆積される条件に応じてある特定の粗さを有するので、層Bを堆積させるのに理想的な表面を常に構成するとは限らず、また
(iii)結晶学的に障害のある媒体を構成する
可能性があることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、A/B薄膜多層構造中の層Aの少なくとも一方の表面部分の表面の処理方法を提供することによって上記の欠点を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、薄膜多層の層Bと基材との間に配置された少なくとも1つの層Aの少なくとも一方の表面部分の処理方法であり、これらの層が本発明に従ってガラスの機能を有する基材上に減圧堆積される処理方法は、
・少なくとも1つの薄層Aを前記基材の表面部分に堆積し、この堆積段階が減圧堆積プロセスによって実施され、
・少なくとも1つのリニアイオン源を用いて、イオン化された種のプラズマをガス又はガス混合物から発生させ、
・該プラズマに前記層Aの少なくとも一方の表面部分をさらして、前記イオン化された種により該層Aの表面状態を少なくとも部分的に改質するようにし、
・少なくとも1つの層Bを該層Aの表面部分に堆積し、この堆積段階が減圧堆積プロセスによって実施されることを特徴としている。
【0015】
これらの配置のために、Aの表面の性質を実質的に改質することが可能であり、この改質は、工業的規模の薄膜堆積設備であってかつ減圧中で操作される薄膜堆積設備内で層A上に堆積されるタイプBの層の結晶化及び/又は粒子形態に影響を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好ましい実施態様では、任意選択で、以下の配置の1つ又は複数をさらに用いることができる。
・リニアイオン源が層Aを堆積するための減圧堆積装置を収容する同じ区画に配置される。
・層Aが複数の重ね合わされた層Aiを含み、該層Ai(式中、iは1〜nであり、n>1)の少なくとも1つの層がプラズマにさらされる。
・表面処理が次々に配置される1つ又は複数のリニアイオン源によって実施される。
・表面処理がスパッタ・アップ・アンド・ダウン技術によって実施される。
・リニアイオン源が層Aを堆積するための減圧堆積装置を収容する区画から離れた区画に配置される。
・リニアイオン源が基材の平面に対して30°〜90°の角度に配置される。
・堆積プロセスがスパッタリングプロセス、特には磁気強化型スパッタリングプロセス又はマグネトロンスパッタリングプロセスからなる。
・減圧堆積プロセスがPECVDプロセス(プラズマ化学気相成長)からなる。
・プロセスがイオン源と基材との間の相対運動を伴う。
・アルゴン又は任意の不活性ガス、酸素又は窒素に基づくガスプラズマが用いられる。
・リニアイオン源が0.05〜2.5keV、好ましくは1〜2keVのエネルギーを有する平行イオンビームを発生させる。
【0017】
本発明の別の態様によれば、本発明はまた、少なくとも一方の表面部分が、様々な機能性を有する層(太陽光制御層、低放射率層、電磁遮蔽層、発熱層、疎水性層、親水性層及び光触媒層)、可視光の反射レベルを変更する層(ミラー層又は反射防止層)又は能動系を組み込んだ層(エレクトロクロミック層、エレクトロルミネセンス層又は光起電層)を含む薄膜多層で被覆された基材、特にはガラス基材に関し、Bの下に配置される薄層Aiの少なくとも1つの層が上記の方法によって処理される。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、限定的でない例により与えられる以下の説明を通して明らかになろう。
【0019】
本発明の主題である方法を実施する好ましいやり方では、この方法は、陰極スパッタリング、特には磁気強化型スパッタリング又はマグネトロンスパッタリング、特には酸素及び/又は窒素の存在下における反応性スパッタリングによって基材上に薄膜を堆積させるための工業的規模のラインに少なくとも1つのリニアイオン源を挿入することにある。
【0020】
この薄膜堆積はまた、CVD(化学気相成長)又はPECVD(プラズマ化学気相成長)に基づくプロセスによって実施することもでき、これらは当業者に周知であり、その実施の例は欧州特許出願公開第0149408号明細書において示されている。
【0021】
本発明の範囲内で、「工業的規模」という表現は、その規模が一方では連続運転に適しており、もう一方ではその特性寸法の1つ、例えば、基材の走行方向に対して垂直な少なくとも1.5mの幅を有する基材を取り扱うのに適した生産ラインに適用される。
【0022】
リニアイオン源は、陰極の代わりに又は2つの堆積チャンバーを連結するエアロック部に又はより一般的には高真空(例えば、1×10-5mbar程度の値を有する真空)にさらされる堆積ラインの一部を形成するチャンバーに取り付けることができる。
【0023】
生産ラインに複数のイオン源を組み込むことが可能であり、これらのイオン源は基材の一方の側でのみ又は基材の両側(例えば、アップ・アンド・ダウン・スパッタリングライン)で動作させることができ、同時に又は連続して動作させることができ、場合によりそれぞれが各自の調整モードを有する。処理は、イオンビームが垂直方向に又は上下に向けられるようにして実施される場合には、スパッタ・アップ・アンド・ダウン処理と言われる。
【0024】
以下の動作原理の少なくとも1つのリニアイオン源が用いられる。
【0025】
非常に概略的には、リニアイオン源は、陽極、陰極、磁気装置、及びガス導入用の供給源を備える。このタイプのイオン源の例は、例えば、露国特許第2030807号明細書、米国特許第6002208号明細書又は国際公開第02/093987号パンフレットに記載されている。陽極は、DC電源によってプラス電位に引き上げられ、陽極と陰極の間の電位差によって近くに注入されたガスがイオン化される。
【0026】
次いで、ガスプラズマを(永久又は非永久磁石によって作り出される)磁界にかけ、それによってイオンビームを加速しかつ集束させる。
【0027】
それゆえ、イオンは平行化されかつ加速されてイオン源の外部に向い、その強度は、特にはイオン源の幾何学的形状、ガス流量、イオンの性質及び陽極に印加される電圧によって決まる。
【0028】
この場合、本発明の主題の方法によれば、リニアイオン源は、酸素、アルゴン、窒素及び場合により微量成分として不活性ガス、例えば、ネオン又はヘリウムなどを含有するガス混合物を用いて平行モードで動作する。
【0029】
その化学的性質が処理すべき層のタイプに適合するガスを使用することが好ましい。上記表面との化学反応を避けるために、不活性ガス、特にはアルゴン、クリプトン又はキセノンに基づくものを使用することが好ましい。これは、イオン化状態で有意な酸化力を有するガス(特には酸素)が好ましい基材洗浄タイプの用途に関する場合ではない。
【0030】
限定的でない例として、酸素は、流量150sccm、電極間電圧3kV及び電流1.8A、それゆえ消費電力5400Wで導入される(これらの数字は長さ1mのイオン源に関するものである)。
【0031】
このイオン源は、イオン化した種を含有する平行化されたプラズマが、処理チャンバーを通って移動するガラスの機能を有する基材の一部に減圧堆積技術によって予め堆積された薄層Aの少なくとも一方の表面部分に達するようなやり方で、チャンバー内に上記の条件下で配置される。
【0032】
それゆえ、基材の一方の面又は同一の基材の両面(複数のイオン源が用いられる場合)に配置される層Aの表面部分に関し、
続いて減圧堆積技術を用いて層Bで被覆される層Aの表面を処理するか(その時、層Bはその結晶化及び/又はその粒子形態が制御される)又はより一般的には機能層Bで被覆される多層の層Ai(A1、A2、A3、・・・An)の一層のいずれか一方の面において表面を処理することが可能である。
【0033】
こうして処理された基材及びその薄膜多層構造体は、ガラスシート、場合により湾曲したガラスシートの形態であり、「工業的」寸法を有する。本発明の範囲内で「工業的」寸法とは、フランス語で一般にPLF(即ち、全幅フロート)又はDLF(即ち、半幅フロート)と呼ばれる、即ち、それぞれ幅が3m超及び2m超のガラスシートの特性寸法を意味すると解される。
【0034】
こうして処理された基材及びその多層は、真空を破壊する(即ち、基材が減圧堆積設備内に残る)ことなく、種々の技術、即ち、PECVD、CVD(化学気相成長)、マグネトロンスパッタリング又はイオンプレーティング、イオンビームスパッタリング及びデュアルイオンビームスパッタリングの公知の方法による薄膜堆積に適したチャンバーを通過し続けることができる。
【0035】
ガラス又はプラスチック(PMMA、PC等)から作製される基材、好ましくは透明、平坦又は湾曲した基材を、上記の減圧堆積設備内において、上記基材に種々の機能性、例えば、上で規定した機能性を与える少なくとも1つの薄膜多層で被覆することができる。
【0036】
例えば、第1の実施態様によれば、基材は、「高い断熱性」又は低E(低放射率)型の被膜を有する。
【0037】
この被膜は、少なくとも一連の少なくとも5つの連続した層、即ち、金属酸化物又は半導体、特には酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛から選択される金属酸化物又は半導体に基づく第1層(10〜30nmの厚さを有する)と、この第1層の上に堆積される金属酸化物又は半導体、特には酸化亜鉛又は酸化チタンに基づく金属酸化物又は半導体の層(5〜20nmの厚さを有する)と、銀層(5〜12nmの厚さを有する)と、特にはニッケルクロム、チタン、ニオブ及びジルコニウムから選択される金属層であって、任意選択で窒化され(5nm未満の厚さを有する)、銀層の上に堆積される金属層と、この金属層の上に堆積される金属酸化物、特には酸化スズ、酸化チタン及び酸化亜鉛から選択される金属酸化物を含み、任意選択でオーバーコートと呼ばれる保護層である少なくとも1つの上部層(任意選択で複数の層からなる)(5〜40nmの厚さを有する)とからなる。
【0038】
例えば、第2の実施態様では、基材は、熱処理を受けるのに適した(強化型の)「高い断熱性」又は低E若しくは太陽光制御型の被膜を有するか、或いは(同様に熱処理を受けるのに適した)自動車産業に特定した用途向けに設計された被膜を有する。
【0039】
この被膜は、赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有するn個の機能層Bであって、特には銀に基づいたn個の機能層B(5〜15nmの厚さを有する)と、(n+1)個の被膜A(n≧1)とを交互に含む薄膜多層からなり、該被膜Aが、誘電体、特には窒化ケイ素(5〜80nmの厚さを有する)、ケイ素とアルミニウムの混合物、オキシ窒化ケイ素、又は酸化亜鉛(5〜20nmの厚さを有する)に基づいた誘電体から作製される層又は該層の重ね合わせを含み、各機能層Bが2つの被膜Aの間に配置され、この多層がまた、可視光を吸収する層、特にはチタン、ニッケルクロム又はジルコニウムに基づく層を含み、これらの層が任意選択で窒化され、機能層の上及び/又は下に配置される。
【0040】
例えば、第3の実施態様では、基材は太陽光制御型の被膜を有する。
【0041】
基材は、赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有するn個の機能層であって、特には本質的に金属性のn個の機能層と、(n+1)個の「被膜」(n≧1)とを交互に含む薄膜多層を備え、該多層が、一方で、誘電体、特には酸化スズ(20〜80nmの厚さを有する)、酸化亜鉛若しくは金属亜鉛又は酸化ニッケルクロム(2〜30nmの厚さを有する)に基づいた誘電体から作製される少なくとも1つの層を含む1つ又は複数の層と、もう一方で、銀又は銀を含有する金属合金から作製される少なくとも1つの機能層(5〜30nmの厚さを有する)とから構成され、(各)機能層が2つの誘電体層の間に配置される。
【0042】
例えば、第4の実施態様では、基材は、熱処理を受けるのに適した(例えば、強化型の)太陽光制御型の被膜を有する。
【0043】
これは、少なくとも一連の少なくとも5つの連続した層、即ち、特には窒化ケイ素に基づく第1層(20〜60nmの厚さを有する)と、この第1層の上に堆積される金属層、特にはニッケルクロム又はチタンに基づく金属層(10nm未満の厚さを有する)と、赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有し、特には銀に基づいた機能層(10nm未満の厚さを有する)と、この銀層の上に堆積される金属層、特にはチタン、ニオブ、ジルコニウム及びニッケルクロムから選択される金属層(10nm未満の厚さを有する)と、この金属層の上に堆積される窒化ケイ素に基づく上部層(2〜60nmの厚さを有する)とを含む薄膜多層である。
【実施例】
【0044】
低E多層で被覆された基材の例を以下に与える。
例1:基材/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/NiCr/ZnO/Si34/TiO2
例2:基材/SnO2/ZnO/Ag/NiCr/ZnO/Si34/TiO2
【0045】
例1及び2では、層Bは銀を含み、層Aは層Bの下に配置される多層の残りの層のうちの少なくとも1つである。
【0046】
例1及び2の変形態様として、第2の実施態様によれば、基材は熱処理を受けるのに適した(強化型の)低E型又は太陽光制御型の被膜を含むか、或いは(同様に熱処理を受けるのに適した)自動車に特定した用途向けに設計された被膜を含む。
【0047】
例えば、熱処理を受けるのに適した例3及び4を以下に与える。
例3:基材/Si34/ZnO/NiCr/Ag/ZnO/Si34
例4:基材/Si34/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si34/ZnO/Ti/Ag/ZnO/Si34/TiO2
【0048】
例3及び4では、層Bは銀を含み、層Aは層Bの下に配置される多層のうち残りの層である。
【0049】
例1及び4の主題を形成する多層の堆積条件は以下のとおりであった。
・Si34層、Si:Alターゲットを使用し、パルスモード(極性変換周波数(change-of-polarity frequency):50kHz)の電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力2000W、Ar16sccm及びN218sccm
・SnO2層、Snターゲットを使用し、DC電源、4×10-3mbar(0.4Pa)の圧力下、電力500W、アルゴン30sccm及び酸素40sccm
・Zn:AlO層、Zn:Al(2wt%アルミニウム)ターゲットを使用して堆積し、DC電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力1500W、Ar40sccm及びO225sccm
・TiO2層、TiOxターゲットを使用して堆積し、DC電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力2500W、Ar50sccm及びO23.0sccm
・銀層、Agターゲットを使用して堆積し、DC電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力120W、及びアルゴン50sccm
・チタン層、Tiターゲットを使用して堆積し、DC電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力180W、及びアルゴン50sccm
・NiCr層、Ni80Cr20ターゲットを使用して堆積し、DC電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力200W、及びアルゴン50sccm
【0050】
下表において知ることができるように、リニアイオン源による界面処理の影響は、ZnO層([0002]方位)及び銀層([111]方位)の非晶質相を減らして結晶相の顕著な増加をもたらし、したがって銀の結晶学的特性の改良を示す。これは、実験的には銀層の抵抗率の低下と関連付けられる。例1〜5では、イオン源を高エネルギー動作モードにおいて使用した。
【0051】
【表1】

1:酸化物層の処理については、キャリアガスとしてアルゴンを使用し、動作条件は、放電電圧及び電流:1060V及び141mA、キャリアガス:23sccmのAr、全圧=1mTorrであり、
窒化物層の処理については、イオン源の動作条件は、放電電圧及び電流:1500V及び190mA、キャリアガス:50sccmのN2、全圧=1mTorrであった。
2:示される面積は、多層全体のうちのZnO層の寄与の合計である。
3:例4の場合、示される面積は多層全体のうちの2つのAg層の寄与の合計である。
【0052】
例えば、第4の実施態様によれば、基材は光触媒機能を有するタイプの被膜を備える。
【0053】
このタイプの多層で被覆された基材の例を以下に与える。
例5:基材/SiO2/BaTiO3/TiO2
【0054】
層BはTiO2層であり、層Aは層Bの下に配置される層のうちの少なくとも1つであった。
【0055】
例5の主題を形成する多層の堆積条件は以下のとおりであった。
・SiO2層、Si:Alターゲットを使用し、パルスモード(極性変換周波数:30kHz)の電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力2000W、Ar15sccm及びO2sccm
・BaTiO3層、BaTiO3ターゲットを使用し、高周波電源、2×10-3mbar(0.2Pa)の圧力下、電力500W、及びアルゴン50sccm
・TiO2層、TiOxターゲットを使用して堆積し、DC電源、20×10-3mbar(2.0Pa)の圧力下、電力2500W、Ar200sccm及びO22.5sccm
【0056】
強化処理前後の酸化チタン層の結晶学的特性及びその光触媒性能に及ぼすイオンビームによる処理の影響を下表において知ることができる。
【0057】
【表2】

*イオン源の条件は、放電電圧及び電流:1500V及び118mA、キャリアガス:20sccmのAr、全圧=1mTorrである。
【0058】
低エネルギー動作モードでリニアイオン源を使用することも可能である。
【0059】
この実施態様に従って処理した多層構造体(例6)を以下に与える。
例6:TiO2層の低エネルギー処理:以下のタイプの多層
基材/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/NiCr/ZnO/Si34/TiO2
【0060】
下表において知ることができるように、低エネルギー(500V)イオン源による処理は、この事例のTiO2では層Aの構造の改質をもたらす。実際、この処理により、それまで非晶質の層内にナノスケールの結晶性ドメインを生成させることが可能になる。この効果は銀の結晶化に影響を及ぼし、これは実験的にはこの層の抵抗率の低下と関連付けられる。
【0061】
【表3】

【0062】
X線回折によって測定されるピークの広がりが結晶化ドメインのサイズのみに関係すると仮定して、微結晶のサイズをScherrerの式を用いて評価した(ピークはpseudo−Voigt関数によりシミュレートした)。
【0063】
次いで、これらの基材の幾つかは熱処理(曲げ加工、強化、アニーリング)にかけることができ、それらは自動車産業、特にはサンルーフ、側窓、フロントガラス、リアウィンドウ若しくはバックミラー、又は建築物用の一重若しくは二重グレージング、特には建築物用の内装若しくは外装グレージング、店の湾曲した場合のあるショーケース若しくはカウンター、塗装タイプの物体を保護するためのグレージング、ぎらつき防止のコンピュータ・スクリーン、ガラス家具、又は任意のガラス、特には一般に透明ガラス、基材に使用されるものであった。
【0064】
SAT試験により光触媒活性を測定するための操作条件を以下に与える。
【0065】
光触媒活性は次のように測定した。
・5×5cm2の寸法に試験片を切り取った。
・試験片をUV照射下、酸素流中で45分間洗浄した。
・基準スペクトルを構成するためにFTIR又は4000〜400cm-1の波数で赤外スペクトルを測定した。
・ステアリン酸を堆積した。即ち、5g/Lの量でメタノール中に溶解したステアリン酸溶液60μLをスピンコーティングによって試験片上に堆積した。
・FTIRにより赤外スペクトルを測定し、CH2−CH3結合の伸縮バンドの面積を3000〜2700cm-1の間で測定した。
・試験片をUVA照射にさらした。即ち、屋外及び屋内の暴露をそれぞれシミュレートする約35W/m2及び1.4W/m2の試験片が受ける電力を315〜400nmの波長範囲で光電池により調節する。ランプの性質はまた、照明条件、即ち、屋内暴露の場合のPhilips T12基準のホット・ポイント蛍光灯、及び屋外暴露の場合のPhilips Cleo Performance UVランプのホット・ポイント蛍光灯によって異なっていた。
・次いで、ステアリン酸層は、3000〜2700cm-1の間のCH2−CH3結合の伸縮バンドの面積の測定ごとの10分間の連続的な暴露時間の後に光分解された。
・屋外条件下での光触媒活性koutを、0〜30分間にわたるUV暴露時間の関数として3000〜2700cm-1の間のCH2−CH3結合の伸縮バンドの面積を表す直線の傾き(cm-1・分-1で表される)によって規定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜多層の層Bと基材との間に配置された少なくとも1つの層Aの少なくとも一方の表面部分の処理方法であり、これらの層がガラスの機能を有する基材上に減圧堆積される処理方法であって、
少なくとも1つの薄層Aを前記基材の表面部分に堆積し、この堆積段階が減圧堆積プロセスによって実施され、
少なくとも1つのリニアイオン源を用いて、イオン化された種のプラズマをガス又はガス混合物から発生させ、
該プラズマに前記層Aの少なくとも一方の表面部分をさらして、前記イオン化された種により該層Aの表面状態を少なくとも部分的に改質するようにし、
少なくとも1つの層Bを該層Aの表面部分に堆積し、この堆積段階が減圧堆積プロセスによって実施されることを特徴とする、処理方法。
【請求項2】
前記層Aが複数の重ね合わされた層Aiを含み、該層Ai(式中、iは1〜nであり、n≧1)の少なくとも1つの層が前記プラズマにさらされることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
表面処理が次々に配置される1つ又は複数のリニアイオン源によって実施されることを特徴とする、請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
スパッタ・アップ・アンド・ダウン技術によって実施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記リニアイオン源が前記層Aを堆積するための減圧堆積装置を収容する同じ区画に配置されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記リニアイオン源が前記層Aを堆積するための減圧堆積装置を収容する区画から離れた区画に配置されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記リニアイオン源が前記基材の平面に対して30°〜90°の角度に配置されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記堆積プロセスがスパッタリングプロセス、特には磁気強化型スパッタリングプロセス又はマグネトロンスパッタリングプロセスからなることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項9】
前記減圧堆積プロセスがPECVDプロセスからなることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項10】
希ガス、酸素又は窒素に基づくガスプラズマが用いられることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項11】
前記リニアイオン源が0.05〜2.5keV、好ましくは1〜2keVのエネルギーを有する平行イオンビームを発生させることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項12】
前記基材が熱放射に関して高い反射作用を有する多層被膜を備え、該被膜が少なくとも一連の少なくとも5つの連続した層、即ち、
金属酸化物、特には酸化スズ及び酸化チタンから選択される金属酸化物に基づく第1層と、
該第1層の上に堆積される金属酸化物、特には酸化亜鉛に基づく金属酸化物の層と、
銀層と、
該銀層の上に堆積される金属層、特にはニッケルクロム、チタン、ニオブ及びジルコニウムから選択される金属層と、
該金属層の上に堆積される金属酸化物又は半導体、特には酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化チタンから選択される金属酸化物又は半導体を含む上部層と
からなることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られた基材。
【請求項13】
前記基材が、赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有するn個の機能層Bであって、特には銀に基づいたn個の機能層Bと、(n+1)個の被膜A(n≧1)とを交互に含む薄膜多層を備え、該被膜Aが、誘電体、特には窒化ケイ素、ケイ素とアルミニウムの混合物、オキシ窒化ケイ素、又は酸化亜鉛に基づいた誘電体の層又は該層の重ね合わせを含み、各機能層Bが2つの被膜Aの間に配置され、この多層がまた、可視光を吸収する層、特にはチタン、ニッケルクロム又はジルコニウムに基づく層を含み、これらの層が任意選択で窒化され、前記機能層の上及び/又は下に配置されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られた基材。
【請求項14】
前記基材が、赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有するn個の機能層Bであって、特には本質的に金属性のn個の機能層Bと、(n+1)個の層A(n≧1)とを交互に含む薄膜多層を備え、該多層が、一方で、誘電体、特には酸化スズ若しくは金属スズ、又は酸化ニッケルクロムに基づいた誘電体から作製される少なくとも1つの層を含む1つ又は複数の層と、もう一方で、銀又は銀を含有する金属合金から作製される少なくとも1つの機能層とから構成され、(各)機能層が2つの誘電体層の間に配置されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られた基材。
【請求項15】
少なくとも一連の少なくとも5つの連続した層、即ち、
特には窒化ケイ素に基づく第1層と、
該第1層の上に堆積される層、特にはニッケルクロム又はチタンに基づく層と、
赤外線及び/又は太陽放射線において反射特性を有し、特には銀に基づいた機能層と、
該銀層上の金属層、特にはニッケルクロム、チタン、ニオブ及びジルコニウムから選択される金属層と、
該金属層の上に堆積される窒化ケイ素に基づく上部層と
を含む薄膜多層を備えたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られた基材。
【請求項16】
前記基材が、TiO2とヘテロエピタキシャル用途のバリア副層を有する少なくとも1つの機能層を含む自己洗浄機能を有する薄膜多層を備えたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施することによって得られた基材。
【請求項17】
自動車産業、特にはサンルーフ、側窓、フロントガラス、リアウィンドウ若しくはバックミラー、又は建築物用の一重若しくは二重グレージング、特には建築物用の内装若しくは外装グレージング、店の湾曲した場合のあるショーケース若しくはカウンター、塗装タイプの物体を保護するためのグレージング、ぎらつき防止のコンピュータ・スクリーン、又はガラス家具のための基材であることを特徴とする、請求項12〜16のいずれか1項に記載の基材。
【請求項18】
湾曲していることを特徴とする、請求項17に記載の基材。

【公表番号】特表2009−513828(P2009−513828A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537154(P2008−537154)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051082
【国際公開番号】WO2007/048963
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】