説明

基板、プリント回路板及びそれらの製造方法

【課題】電機製品のさらなる小型化に伴う電子部品搭載密度の高度化要求に対応するため、マザーボード用基板等の安価な基板上に半導体チップなどの電子部品を搭載することが可能であり、かつ接続信頼性に優れる、基板を提供する。
【解決手段】基板表1面に部分的にシリコーン重合体含有樹脂2を備える基板であり、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の硬化後の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である基板であって、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物はシリコーン重合体及び無機充填剤を含み、シリコーン重合体100重量部に対して無機充填剤を100〜2000重量部含有している基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板、プリント回路板及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達に伴い電子部品の搭載密度が高くなり、CSPと呼ばれるような半導体チップサイズとほぼ同等なサイズを有する半導体パッケージや、半導体のベアチップ実装など新しい形式の電子部品実装方法が採用され始めている。
【0003】
一般に、半導体チップをフェイスダウンボンディング方式により直接基板に実装する方法として、半導体チップの電極部分にはんだバンプを形成し基板にはんだ接続するフリップチップ方式や、半導体チップに設けた突起電極に導電性接着剤を塗布し実装用基板電極に接着する接続方法が知られている。
【0004】
また、半導体チップや電子部品と基板とを機械的な電極接続により電気的に接続する方法として、導電粒子を分散させた異方導電性接着剤がある。この異方導電性接着剤は、接着フィルムを電子部品と電極や回路の間に設け、加圧または加熱加圧手段を構じることによって、両者の電極同士が電気的に接続されると共に、隣接電極間の絶縁性を付与して、電子部品と回路とが接着固定されるものである。この機械的な電極接続による実装方法は、現在ガラス基板で適用されているほか、汎用性の高いガラスクロス補強樹脂製の配線板に適用する検討が進められている。
【0005】
さらに、半導体チップ等の電子部品と実装用基板とを機械的な電極接続により電気的に接続する方法として、半導体チップの電極に金バンプを形成し、基板側の金電極と機械的に接触させると共に熱硬化性もしくは光硬化性接着剤により保持固定化する方法も提案されている。
【0006】
半導体素子をはじめとする各種電子部品を搭載した実装基板として最も重要な特性の一つとして接続信頼性がある。この接続信頼性を低下させる原因として、熱膨張係数の異なる各種材料を用いていることから生じる熱応力が挙げられる。これは、半導体チップの熱膨張係数と配線板の熱膨張係数との差が大きいことから熱衝撃に対して熱ひずみが発生し、その熱ひずみによって熱応力が発生するものである。従来のQFPやSOP等のリードフレームを有する半導体パッケージを実装した基板では、リードフレームの部分で熱応力を吸収し信頼性を保っていた。しかし、ベアチップ実装では、はんだボールを用いて半導体チップの電極と配線板の配線パッドを接続する方式やバンプと呼ばれる小突起を作製して導電ペーストで接続する方式を取っており、熱応力がこの接続部に集中して接続信頼性を低下させていた。このため、一般には、半導体チップとインターポーザとの熱膨張率差から生じる熱応力を低減するようなエラストマなどの接着部材を介して、インターポーザと呼ばれる配線基板に半導体チップを搭載した半導体パッケージとし、これを基板に実装する方法が採られているが、プリント回路板の更なる高密度化要求に対応する電子部品の基板への実装方法とそれを可能にする材料が待望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マザーボード用基板として従来使用されている紙補強フェノール樹脂製配線板やガラスクロス補強樹脂製配線板に直接半導体チップなどの電子部品を搭載した場合、材料の熱膨張率の差から、電子部品と配線板の回路部との間で接続不良を発生する。この熱応力を分散させるためにアンダーフィルと呼ばれる樹脂をチップと配線板の間に注入させることが有効であることがわかっているが、実装工程を増やし、コストアップを招く原因となる。従来のワイヤボンディングを用いて半導体チップの電極と配線板の配線パッドを接続する方式もあるが、ワイヤを保護するために封止材樹脂を被覆せねばならずやはり実装工程を増やす。
【0008】
また、マザーボード用基板等の補強材を含む基板は、基板表面に補強材に由来する凹凸を有しているため、チップと接続する微細な配線を形成することが困難であった。形成された接続用電極の表面に凹凸を有する一方、電子部品の接続電極(バンプ等)には、製造時の高さのばらつきがあることから、これらを接続する場合、接続電極及び配線板表面の高さにばらつきが生じて接続信頼性が低下するという課題があった。
【0009】
本発明は、電機製品のさらなる小型化に伴う電子部品搭載密度の高度化要求に対応するため、マザーボード用基板等の安価な基板上に半導体チップなどの電子部品を搭載することが可能であり、かつ接続信頼性に優れる、基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に記載の各事項に関する。
(1) 基板表面に部分的にシリコーン重合体含有樹脂を備える基板であり、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の硬化後の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である基板。
(2) 基板に備えられたシリコーン重合体含有樹脂の表面にも導体パターンを設けてなる(1)に記載の基板。
(3) 基板表面に部分的にシリコーン重合体含有樹脂を備える基板であり、基板に備えられたシリコーン重合体含有樹脂の表面にも導体パターンを設けてなる基板。
(4) シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の硬化後の引張試験での伸びが1.0%以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の基板。
(5) シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物がシリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の基板。
(6) シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物がシリコーン重合体100重量部に対して無機充填剤を100〜2000重量部含有する(5)に記載の基板。
(7) シリコーン重合体として熱硬化性官能基含有シリコーン重合体を含有する(5)又は(6)のいずれかに記載の基板。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載のシリコーン重合体含有樹脂の表面に電子部品を搭載してなるプリント回路板。
(9) 電子部品が半導体チップである(8)に記載のプリント回路板。
(10) 硬化物の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である樹脂組成物をワニス化し、基板表面に部分的にこの樹脂ワニスを塗布することを特徴とする基板の製造方法。
(11) 熱硬化性シリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有する樹脂組成物をワニス化し、基板表面に部分的にこの樹脂ワニスを塗布することを特徴とする基板の製造方法。
(12) 硬化物の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である樹脂組成物を用いてなる樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けることを特徴とする基板の製造方法。
(13) 熱硬化性シリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有する樹脂組成物を用いてなる樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けることを特徴とする基板の製造方法。
(14) (10)〜(13)のいずれかに記載の製造方法で製造された基板の、部分的に設けられた樹脂の表面に、さらに回路を形成することを特徴とする基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、基板上の基板表面の部品を実装する位置等の特定部位に、目的に応じた熱膨張率、伸び等の特性を有する樹脂を配設することによって、特定部位に優れた応力緩和性などを付与した基板を提供することができる。
これによって、マザーボード用基板等の安価な基板上に半導体チップなどの電子部品を搭載することが可能であり、かつ接続信頼性に優れるシリコーン重合体含有樹脂を備えた基板を提供することが可能となる。このシリコーン重合体含有樹脂を備えた基板は電機製品のさらなる小型化に伴う電子部品搭載密度の高度化要求に対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の、基板の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の、プリント回路板の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の基板はシリコーン重合体含有樹脂を部分的に備えることによって、基板の特定の箇所に、低熱膨張性、応力緩和性、表面平坦性などのシリコーン重合体含有樹脂が有する性質を付与することができる。なお、部分的に備えるとは、基板表面上の特定の箇所に樹脂が積層されていることをいう。特定の箇所としては、例えば部品を表面実装する箇所が挙げられる。本発明における基板のシリコーン重合体含有樹脂上に部品を実装すると、基板表面に部分的に備えられるシリコーン重合体含有樹脂は、基板と部品との間の熱応力を緩和することができる。十分な応力緩和能を発現するために、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂硬化物の熱膨張係数が50×10-6/℃以下となる樹脂組成物を用いて作製する必要がある。接続信頼性の観点から、熱膨張係数は30×10-6/℃以下であることが好ましく、15×10-6/℃以下であることが特に好ましい。電子部品が半導体チップなどの場合は接続信頼性の観点から、熱膨張係数が小さいほど好ましいが、3×10-6/℃以上で十分であり、シリコーン重合体含有樹脂の接着性等、他の特性とのバランスを考慮すると5×10-6/℃以上であることが好ましい。シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の例としては、熱硬化性官能基含有シリコーン重合体(以下、熱硬化性シリコーン重合体と記載する。)とその硬化剤及び無機充填剤を含有してなるシリコーン重合体組成物が挙げられる。熱硬化性シリコーン重合体とその硬化剤及び無機充填剤を含有してなるシリコーン重合体組成物を用いることによって、電子部品に合わせて樹脂の硬化後の熱膨張係数を調整することができる。
【0014】
一般には、樹脂に無機充填剤を配合することにより、熱膨張率を低減し、耐熱性などの配線基板用材料に求められるような諸特性を向上させることができるが、無機充填剤が多すぎると硬化物の引っ張り強さが減少して、低応力性が失われることが知られている。シリコーン重合体の低熱膨張率と低応力性を高いレベルで両立することは困難であった。本発明は、また、この問題を解決し、優れた低応力性と低熱膨張率を兼ね備えたシリコーン重合体組成物を用いて作製されるシリコーン重合体含有樹脂を有する基板を提供するものである。硬化後の熱膨張係数が50×10-6/℃以下で、引張試験での伸びが1.0%以上である樹脂組成物を使用することで、優れた低応力性と低熱膨張率を達成するシリコーン重合体含有樹脂を備えた基板を作製することができる。伸びは2.0%以上であることが特に好ましい。低熱膨張率と低応力性を兼ね備えたシリコーン重合体組成物の具体例としては、熱硬化性シリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有してなるシリコーン重合体組成物が挙げられる。
【0015】
ここで、熱硬化性シリコーン重合体は、一般式(I)
[化1]
R′m(H)kSiX4-(m+k) (I)
(式中Xは、加水分解してOH基を生成する基であり、例えば、塩素、臭素等のハロゲン又は−ORを示し、ここで、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルカルボニル基を示す。R′は、非反応性の基であり、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等のアリール基、kは1又は2、mは0又は1、m+kは1又は2を意味する)で表されるシラン化合物とヒドロシリル化反応剤とを反応させて得ることができる。一般式(I)のシラン化合物は加水分解、重縮合によってSi−H基含有シリコーン重合体とされ、ヒドロシリル化反応剤をSi−H基含有シリコーン重合体のSi−H基との間でヒドロシリル化反応させて、熱硬化性官能基が導入されたシリコーン重合体が得られる。
【0016】
一般式(I)のSi−H基含有シラン化合物に一般式(II)
[化2]
R′nSiX4-n (II)
(式中R′及びXは一般式(I)に同じであり、nは0〜2の整数を意味する。)で表されるアルコキシシラン化合物を併用することができる。
【0017】
前記一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物は、具体的には
[化3]
HCH3Si(OCH32、HC25Si(OCH32、H3CH7Si(OCH32、HC49Si(OCH32、HCH3Si(OC252、HC25Si(OC252、HC37Si(OC252、HC49Si(OC252、HCH3Si(OC372、HC25Si(OC372、HC37Si(OC372、HC49Si(OC372、HCH3Si(OC492、HC25Si(OC492、HC37Si(OC492、HC49Si(OC492、等のアルキルジアルコキシシラン
【0018】
[化4]
2Si(OCH32、H2Si(OC252、H2Si(OC372、H2Si(OC492、等のジアルコキシシラン
【0019】
[化5]
HPhSi(OCH32、HPhSi(OC252、HPhSi(OC372、HPhSi(OC492、(ただし、Phはフェニル基を示す。以下同様)等のフェニルジアルコキシシラン
【0020】
[化6]
2Si(OCH32、H2Si(OC252、H2Si(OC372、H2Si(OC492、等のジアルコキシシランなどの2官能性シラン化合物(以下、シラン化合物における官能性とは、縮合反応性の官能基を有することを意味する。)
【0021】
[化7]
HSi(OCH33、HSi(OC253、HSi(OC373、HSi(OC493、等のトリアルコキシシランなどの3官能性シラン化合物などがある。
【0022】
一般式(II)で表されるシラン化合物は、具体的には、
[化8]
Si(OCH34、Si(OC254、Si(OC374、Si(OC494等のテトラアルコキシシランなどの4官能性シラン化合物、
【0023】
[化9]
3CSi(OCH33、H52Si(OCH33、H73Si(OCH33、H94Si(OCH33、H3CSi(OC253、H52Si(OC253、H73Si(OC253、H94Si(OC253、H3CSi(OC373、H52Si(OC373、H73Si(OC373、H94Si(OC373、H3CSi(OC493、H52Si(OC493、H73Si(OC493、H94Si(OC493、等のモノアルキルトリアルコキシシラン、
【0024】
[化10]
PhSi(OCH33、PhSi(OC253、PhSi(OC373、PhSi(OC493(ただし、Phはフェニル基を示す。以下同様)等のフェニルトリアルコキシシラン、
【0025】
[化11]
(H3CCOO)3SiCH3、(H3CCOO)3SiC25、(H3CCOO)3SiC37、(H3CCOO)3SiC49等のモノアルキルトリアシルオキシシラン
【0026】
[化12]
Cl3SiCH3、Cl3SiC25、Cl3SiC37、Cl3SiC49、Br3SiCH3、Br3SiC25、Br3SiC37、Br3SiC49等のモノアルキルトリハロゲノシランなどの3官能性シラン化合物、
【0027】
[化13]
(H3C)2Si(OCH32、(H522Si(OCH32、(H732Si(OCH32、(H942Si(OCH32、(H3C)2Si(OC252、(H522Si(OC252、(H732Si(OC252、(H942Si(OC252、(H3C)2Si(OC372、(H522Si(OC372、(H732Si(OC372、(H942Si(OC372、(H3C)2Si(OC492、(H522Si(OC492、(H732Si(OC492、(H942Si(OC492等のジアルキルジアルコキシシラン、
【0028】
[化14]
Ph2Si(OCH32、Ph2Si(OC252等のジフェニルジアルコキシシラン、
【0029】
[化15]
(H3CCOO)2Si(CH32、(H3CCOO)2Si(C252、(H3CCOO)2Si(C372、(H3CCOO)2Si(C492等のジアルキルジアシルオキシシラン、
【0030】
[化16]
Cl2Si(CH32、Cl2Si(C252、Cl2Si(C373、Cl2Si(C492、Br2Si(CH32、Br2Si(C252、Br2Si(C372、Br2Si(C492等のアルキルジハロゲノシランなどの2官能性シラン化合物がある。
【0031】
熱硬化性シリコーン重合体を製造する際には、前記一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物は必須成分として使用される。また、前記一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物と一般式(II)で表されるシラン化合物のうち、3官能性シラン化合物又は4官能性アルコキシシラン化合物が必須成分として用いられ、一般式(II)で表されるシラン化合物のうち、2官能性アルコキシシラン化合物は任意成分とされる。特に、4官能性シラン化合物としてはテトラアルコキシシランが好ましく、3官能性シラン化合物としてはモノアルキルトリアルコキシシラン又はトリアルコキシシランが好ましく、2官能性シラン化合物としてはジアルキルジアルコキシシラン又はアルキルジアルコキシシランが好ましい。
【0032】
熱硬化性シリコーン重合体の製造方法はシラン化合物の総量に対して、Si−H基含有アルコキシシラン化合物35モル%以上配合するものであり、シラン化合物の総量に対して、一般式(I)で表されるSi−H基含有アルコキシシラン化合物35〜100モル%(より好ましくは35〜85モル%)及び一般式(II)で表されるアルコキシシラン化合物0〜65モル%(15〜65モル%)の割合で使用されることが好ましい。
【0033】
前記熱硬化性シリコーン重合体は三次元架橋しており、一般式(II)で表されるアルコキシシラン化合物のうち15〜100モル%が4官能性シラン化合物又は3官能性シラン化合物であることが好ましく、20〜100モル%が4官能性シラン化合物又は3官能性シラン化合物であることがより好ましい。すなわち一般式(II)で表されるアルコキシシラン化合物のうち2官能性シラン化合物は、0〜85モル%であることが好ましく、より好ましくは0〜80モル%の割合で使用される。
【0034】
特に好ましくは、一般式(II)で表されるアルコキシシラン化合物のうち4官能性シラン化合物が15〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、3官能性シラン化合物が0〜85モル%、より好ましくは0〜80モル%及び2官能性シラン化合物が0〜85モル%、より好ましくは0〜80モル%の割合で使用される。2官能性シラン化合物が85モル%を越えると、シリコーン重合体の鎖が長くなり、メチル基等の疎水性基の配向等により無機材料表面に横向きとなる可能性が高く、リジットな層を形成しやすいため、低応力化が難しくなる。
【0035】
前記熱硬化性シリコーン重合体は、前記した一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物と一般式(II)で表されるシラン化合物を加水分解・重縮合させ、さらにヒドロシリル化反応して製造されるが、このとき、加水分解・重縮合触媒としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、フッ酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、スルホン酸、ギ酸等の有機酸を使用することが好ましく、アンモニア、トリメチルアンモニウムなどの塩基性触媒を用いることもできる。これら加水分解・重縮合触媒は、一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物と一般式(II)で表されるシラン化合物の量に応じて適当量用いられるが、好適には一般式(I)で表されるSi−H基含有シラン化合物と一般式(II)で表されるシラン化合物1モルに対し0.001〜10モルの範囲で用いられる。ヒドロシリル化触媒としては、白金、パラジウム、ロジウム系の遷移金属化合物を用いることができ、特に塩化白金酸等の白金化合物を使用することが好ましく、過酸化亜鉛、過酸化カルシウム、過酸化水素、過酸化ジ−tert−ブチル、過酸化ストロンチウム、過酸化ナトリウム、過酸化鉛、過酸化バリウム等の過酸化物、また、3級アミン、ホスフィンを用いることもできる。これらヒドロシリル化触媒は、一般式(I)で表されるSi−H基含有アルコキシシラン化合物のSi−H基1モルに対し、好ましくは0.0000001〜0.0001モルの範囲で用いられる。
【0036】
ヒドロシリル化反応剤は、ビニル基等のヒドロシリル化反応のための二重結合と、有機化合物と反応(硬化)する際に作用するエポキシ基やアミノ基等の官能基とを有しているものである。ここで、反応(硬化)する際に作用する官能基とは、硬化剤又は架橋剤と反応する反応性有機基、自硬化反応する反応性有機基、無機充填剤の分散性、耐熱性向上のための有機基、水酸基と反応する基等である。(本発明において、これら官能基を、熱硬化性官能基と記載する。)具体例としては、エポキシ基を有するヒドロシリル化反応剤としてアリルグリシジルエーテル等を用いることができ、また、アミノ基を有するヒドロシリル化反応剤としてアリルアミン、塩酸アリルアミン、アミノエチルアクリレート等のアミノアルキルアクリレート、アミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルメタクリレートなどを用いることができる。これらヒドロシリル化反応剤は、一般式(I)で表されるSi−H基含有アルコキシシラン化合物1モルに対し、0.1〜2モルの範囲とすることが好ましく、特に0.2〜1.5モルが好ましい。
【0037】
また、上記の加水分解・重縮合、ヒドロシリル化反応は、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、ブチロニトリルなどのニトリル系溶剤等の溶剤中で行うことが好ましい。これら溶剤は単独で用いてもよく、数種類を併用した混合溶剤を用いることもできる。また、この反応に際して、水が存在させられる。水の量も適宜決められるが、多すぎる場合には塗布液の保存安定性が低下するなどの問題があるので、水の量は、前記シラン化合物の総量1モルに対して0〜5モルの範囲とすることが好ましく、特に、0.5〜4モルが好ましい。
【0038】
熱硬化性シリコーン重合体の製造は、上記の条件、配合を調整してゲル化しないように行われる。
【0039】
熱硬化性シリコーン重合体は、上記の反応溶媒と同じ溶媒に溶解して使用することが作業性の点で好ましい。このためには、上記の反応生成溶液をそのまま使用してもよく、反応生成溶液から熱硬化性シリコーン重合体を分離し、改めて上記溶媒に溶解してもよい。
【0040】
前記熱硬化性シリコーン重合体は、完全硬化又はゲル化していないが、3次元架橋しているものであり、本発明おけるシリコーン重合体の3次元架橋は、例えば、反応溶媒に溶解する程度に制御される。このために、熱硬化性シリコーン重合体の製造、保管及び使用に際し、温度は、常温以上200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
【0041】
前記熱硬化性シリコーン重合体は、Si−H基含有シリコーン重合体を中間生成物として作成することができる。このSi−H基含有シリコーン重合体のSi−H基はSi−H基含有2官能性シロキサン単位(HR′SiO2/2)又は(H2SiO2/2)(式中、R′は前記の通りであり、シリコーン重合体中のR′基は互いに同一であってもよいし、異なってもよい。以下同様)又はSi−H基含有3官能性シロキサン単位(HSiO3/2)によって導入されている。また、Si−H基含有シリコーン重合体は、Si−H基含有3官能性シロキサン単位(HSiO3/2)、3官能性シロキサン単位(R′SiO3/2)又は4官能性シロキサン単位(SiO4/2)(式中、R′は有機基であり、シリコーン重合体中のR基は互いに同一であってもよいし、異なってもよい)を含有し、Si−H基含有2官能性シロキサン単位(HR′SiO2/2)又は(H2SiO2/2)及び2官能性シロキサン単位(R′2SiO2/2)を任意成分とするものである。
【0042】
熱硬化性シリコーン重合体は、重合度が7000以下で三次元架橋しているものであることが好ましい。さらに好ましい重合度は4000以下であり、特に好ましい重合度は2000以下である。このシリコーン重合体の側鎖及び末端には、Si−H基に対するヒドロシリル化反応によって導入された熱硬化性官能基が存在する。ここで、熱硬化性シリコーン重合体の重合度は、その重合体の分子量(低重合度の場合)又はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレン若しくはポリエチレングリコールの検量線を利用して測定した数平均分子量から算出したものである。
【0043】
なお、熱硬化性シリコーン重合体を作製する際には、前記の様にSi−H基含有シリコーン重合体を製造してからヒドロシリル化反応剤を添加してヒドロシリル化反応を行ってもよく、また、ヒドロシリル化反応剤を前記シラン化合物と同時に配合し、シラン化合物の加水分解・重縮合と同時に又はその途中でヒドロシリル化反応を行ってもよい。
【0044】
上記の熱硬化性シリコーン重合体を含有してなる樹脂組成物には、無機充填剤を多量に配合することができる。無機充填剤としては、その種類は特に制約はなく、例えば、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化チタン、マイカ、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、ガラス短繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカや炭化ケイ素ウィスカ等の各種ウィスカ等が用いられる。また、これらを数種類併用しても良い。無機充填剤の形状、粒径については特に制限はなく、通常用いられている粒径0.001〜50μmのものを本発明においても用いることができ、好ましくは0.01〜10μmのものが好適に用いられる。これら無機充填剤の配合量は、熱硬化性シリコーン重合体100重量部に対して100〜2000重量部が好ましく、300〜1500重量部が特に好ましい。硬化後の樹脂の熱膨張係数を無機充填剤の配合量が少なすぎると熱膨張係数が大きくなる傾向があり、無機充填剤が多すぎるとフィルム化が困難になる傾向がある。
【0045】
前記熱硬化性シリコーン重合体を含有する樹脂組成物の硬化剤は、熱硬化性シリコーン重合体の熱硬化性官能基と反応(硬化)する化合物であればよく、特に制限はない。例えば熱硬化性官能基がエポキシ基の場合には、アミン系硬化剤やフェノール系硬化剤などの一般にエポキシ樹脂用硬化剤として用いられるものを利用することができる。エポキシ樹脂用硬化剤としては多官能フェノール化合物が好ましい。多官能フェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシン、カテコール等の多価フェノールがあり、また、これらの多価フェノール、フェノール、クレゾール等の一価のフェノール化合物とホルムアルデヒドを反応させて得られるノボラック樹脂などがある。多官能フェノール化合物は臭素等のハロゲンで置換されていてもよい。硬化剤の使用量は、シリコーン重合体の熱硬化性官能基1当量に対して、0.2〜1.5当量使用することが好ましく、0.5〜1.2当量使用することが特に好ましい。硬化物と金属との接着性を向上させるためにはエポキシ樹脂用硬化剤にアミン化合物を含むことが好ましく、また、硬化剤が過剰に含まれていることが好ましい。このアミン化合物は接着性補強剤として作用するものであり、具体例については後に記載する。耐熱性などの他の特性と接着性とのバランスを考慮すると、アミン化合物を含む硬化剤をシリコーン重合体の熱硬化性官能基1当量に対して1.0〜1.5当量用いることが好ましく、熱硬化性官能基1当量に対して1.0〜1.2当量用いることが特に好ましい。
【0046】
また、硬化剤とともに硬化促進剤を加えてもよい。例えば熱硬化性官能基がエポキシ基の場合には、イミダゾール化合物などが一般に使用されており、本発明においてもこれを用いることができる。硬化促進剤として用いられるイミダゾール化合物の具体例としてはイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2,4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等が挙げられる。硬化促進剤の十分な効果を得るためには、シリコーン重合体100重量部に対して0.01重量部以上使用することが好ましく、熱膨張率や伸び等の観点から10重量部以下が好ましい。
【0047】
熱硬化性シリコーン重合体を含有する樹脂組成物には必要に応じて両末端シリル基変性エラストマを加えることができる。樹脂組成物に両末端シリル基変性エラストマを加えることで樹脂硬化物の破断応力が大きくなり、取り扱い性が向上する。本発明における両末端シリル基変性エラストマとは、重量平均分子量が3000〜10万程度の長鎖状エラストマであり、主鎖の両末端にアルコキシシリル基を有する。エラストマの主鎖については特に制限はなく、ポリイソブチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル、ブタジエンゴム又はアクリルゴム等の主鎖骨格を有するエラストマが利用できる。アルコキシシリル基はSi元素に1〜3個のアルコキシ基が結合したものでよく、Si元素に結合したアルコキシ基の炭素数は1〜4であることが好ましい。両末端シリル基変性エラストマとしては、例えばSAT200(両末端シリル基変性ポリエーテル、鐘淵化学工業株式会社製商品名)、EP103S、EP303S(両末端シリル基変性ポリイソブチレン、鐘淵化学工業株式会社製商品名)等を用いることができる。両末端シリル基変性エラストマの配合量は、シリコーン重合体100重量部に対して0.1〜30重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では配合することによる効果が現れにくく、30重量部を越えると熱膨張率が大きくなる傾向がある。
【0048】
シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物には、前記熱硬化性シリコーン重合体に換えて、熱硬化性シリコーン重合体とエポキシ基を持つシリコーンオイル(本発明において、エポキシ変性シリコーンオイルと記載する)とを併用することもできる。例えば、本発明の熱硬化性シリコーン重合体100重量部に換えて、本発明の熱硬化性シリコーン重合体50重量部とエポキシ変性シリコーンオイル50重量部を併用することができる。熱硬化性シリコーン重合体とエポキシ変性シリコーンオイルの合計100重量部中に熱硬化性シリコーン重合体が0.1重量部以上含まれていることが好ましく、熱膨張率、伸び、破断応力の観点から、熱硬化性シリコーン重合体が5重量部以上含まれていることが特に好ましい。熱硬化性シリコーン重合体が0.1重量部未満の場合は無機充填剤の分散性が低下する傾向がある。熱硬化性シリコーン重合体とエポキシ変性シリコーンオイルの配合比は熱膨張係数と伸びの値から、目的に応じて決めることができる。すなわち、熱硬化性シリコーン重合体の配合比が大きいほど熱膨張係数が小さくなり、エポキシ変性シリコーンオイルの配合比を増やすことで伸びの値を大きくすることができる。ここで、エポキシ変性シリコーンオイルとは側鎖にエポキシ基を含む官能基を有する鎖状ポリシロキサン化合物であり、25℃における粘度が10-2〜103Pa・sの範囲にあるものである。なお、本発明における粘度は東京計器(株)製EMD型粘度計を用いて、25℃で測定した。エポキシ変性シリコーンオイルのエポキシ当量は150〜5000であることが好ましく、300〜1000であることが特に好ましい。
【0049】
熱硬化性シリコーン重合体に換えて熱硬化性官能基を含まないシリコーン重合体(本発明において、非熱硬化性シリコーン重合体と記載する。)とエポキシ変性シリコーンオイルを併用することもできる。また、非熱硬化性シリコーン重合体と熱硬化性シリコーン重合体を併用してもよい。非熱硬化性シリコーン重合体を用いる場合には、非熱硬化性シリコーン重合体の配合量は、エポキシ変性シリコーンオイルとシリコーン重合体の合計100重量部に対して30重量部以下であることが好ましい。非熱硬化性シリコーン重合体が30重量部を越える場合は樹脂硬化物の伸びの値が低下する傾向がある。
【0050】
ここで、非熱硬化性シリコーン重合体とは、2官能性シロキサン単位(R2SiO2/2)、3官能性シロキサン単位(RSiO3/2)(式中、Rは有機基であり、シリコーン重合体中のR基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。)及び4官能性シロキサン単位(SiO4/2)から選ばれる少なくとも1種類のシロキサン単位を含有し、末端に水酸基と反応する官能基を1個以上有するものである。重合度は2〜7000が好ましく、さらに好ましい重合度は2〜100、特に好ましい重合度は2〜70である。前記Rとしては、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基等の芳香族基などがある。水酸基と反応する官能基としては、シラノール基、炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数1〜4のアシルオキシ基、塩素等の臭素以外のハロゲン等がある。
【0051】
このような非熱硬化性シリコーン重合体は、前記一般式(II)で表されるシラン化合物を加水分解、重縮合させて得ることができ、例えば、前記の4官能性シラン化合物、3官能性シラン化合物、2官能性シラン化合物などを用いて合成される。非熱硬化性シリコーン重合体の合成に用いられる前記一般式(II)で表されるシラン化合物としては、4官能性シラン化合物又は3官能性シラン化合物が必須成分として用いられ、2官能性シラン化合物は必要に応じて適宜使用される。特に、4官能性シラン化合物としてはテトラアルコキシシランが好ましく、3官能性シラン化合物としてはモノアルキルトリアルコキシシランが好ましく、2官能性シラン化合物としてはジアルキルジアルコキシシランが好ましい。シラン化合物の使用割合は、好ましくは、4官能性シラン化合物又は3官能性シラン化合物15〜100モル%及び2官能性シラン化合物を0〜85モル%が好ましく、4官能性シラン化合物または3官能性シラン化合物の1種以上を20〜100モル%及び2官能性シラン化合物を0〜80モル%がより好ましい。また、特に、4官能性シラン化合物を15〜100モル%、3官能性シラン化合物0〜85モル%及び2官能性シラン化合物0〜85モル%の割合で使用することが好ましく、4官能性シラン化合物を20〜100モル%、3官能性シラン化合物を0〜80モル%と、2官能性シラン化合物を0〜80モル%の割合で使用することがより好ましい。加水分解・重縮合反応の触媒及び溶剤は熱硬化性シリコーン重合体を製造する際の加水分解・重縮合反応と同様のものを適用することができる。非熱硬化性シリコーン重合体の製造は条件、配合を調整してゲル化しないように行われる。非熱硬化性シリコーン重合体は、完全硬化又はゲル化していないが、3次元架橋しているものであり、3次元架橋は、例えば、反応溶媒に溶解する程度に制御される。このために、非熱硬化性シリコーン重合体の製造、保管及び使用に際し、温度は、常温以上200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
【0052】
熱硬化性シリコーン重合体又は非熱硬化性シリコーン重合体と、エポキシ変性シリコーンオイルとを併用する場合において、シリコーン重合体成分として非熱硬化性シリコーン重合体のみを用いた場合と比較し、熱硬化性シリコーン重合体を含む場合は熱膨張率、伸び、破断応力の観点から好ましく、シリコーン重合体成分として熱硬化性シリコーン重合体のみを用いることが特に好ましい。
【0053】
シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物には、金属箔との接着性を高め、樹脂硬化物と金属箔との引き剥がし強度を高めるために、必要に応じて接着性補強材を加えることができる。接着性補強材としてはアミノ基や水酸基などの反応性官能基を複数持つ化合物を用いることができ、反応性官能基を複数持つアミン化合物が好ましい。反応性官能基を複数持つアミン化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル等の分子内に複数のアミノ基を持つ化合物やジシアンジアミドなどの、分子内に複数の活性N−H基を有する化合物、3−アミノ−1−プロパノール、4−アミノフェノール等の分子内にアミノ基と水酸基を併せ持つ化合物などを用いることができる。接着性補強材の配合量はシリコーン重合体100重量部に対して0.01〜9重量部であることが好ましく、0.1〜6重量部であることが特に好ましい。0.01重量部未満の場合は配合による効果が現れにくく、また、9重量部を越える場合は、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。
【0054】
前記樹脂組成物は、溶剤に溶解ないし分散させて樹脂ワニスとし、印刷などによってこの樹脂ワニスからなる樹脂層を基板表面に部分的に設けて、乾燥させ、本発明の基板を作製することができる。なお、ここでの乾燥とは、溶剤が除去され、室温での流動性がなくなることをいう。
【0055】
ワニス化の溶剤は、シリコーン重合体の合成に続いて、樹脂組成物の調整を行う場合、シリコーン重合体の合成に用いた溶剤と同じものを使用することが作業効率の観点から好ましい。溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤、ブチロニトリルなどのニトリル系溶剤等が好ましく使用される。また、これら溶剤の数種類を併用した混合溶剤を用いることもできる。
【0056】
基板表面に部分的に樹脂ワニスを用いてなる樹脂層を設ける方法の例として、スクリーン印刷等の印刷が挙げられる。スクリーン印刷による場合は樹脂ワニスの粘度を10〜200Pa・s(EMD型粘度計,25℃)に調整することが好ましく、15〜100Pa・sに調整することが特に好ましい。溶剤の量によって濃度を変えて樹脂ワニスの粘度を調整することができる。
【0057】
基板としては金属板、樹脂成形体、樹脂シート、紙・有機繊維・無機繊維等の繊維基材を樹脂に含浸・硬化させた基板、繊維基材を樹脂に含浸硬化させた基板上の片面又は両面に導体パターンを設けた配線板、複数の配線板をプリプレグ等を介して積層した多層配線板、ビルドアップ工法で多層化された多層配線板などが挙げられる。配線板や多層配線板を基板として用いることで、低熱膨張率などの特殊な特性を有するシリコーン重合体含有樹脂を基板の必要箇所に備えた配線板とすることができる。特に、基板としてガラス基材エポキシ樹脂基板や紙基材フェノール樹脂基板などの汎用基板を用いることで、必要箇所に優れた特性を有する部材を備えた安価な基板とすることができる。
【0058】
前記樹脂組成物からなる樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けて熱圧着し、本発明の基板を作製することができる。ここで、樹脂シートは樹脂ワニスの濃度を調整し、離型性のキャリアフィルムなどに塗布して乾燥炉内で80〜200℃の範囲で乾燥させることにより作製することができる。貼り付ける方法としては必要な大きさに切断した樹脂シートを直接積層し、熱圧着等によって直接貼り付ける方法や、切断したシートを接着剤を介して貼り付ける方法によることができ、相手材となる基板の種類によっていずれかの方法を選ぶことができる。直接貼り付けた場合にも必要とされる接着性が得られる場合には、製造コスト等の観点から、直接貼り付ける方法によることが好ましい。また、熱圧着は温度80〜200℃、圧力0.1〜15MPa、時間0.1〜120分間の条件で行うことが好ましい。
【0059】
以上のような樹脂ワニスや樹脂シートを用いて作製した基板の、シリコーン重合体含有樹脂上に電子部品との接続に用いる端子等の導体パターンを設けてもよい。導体パターンは、シリコーン重合体含有樹脂上に金属箔を積層・一体化し、不要な金属をエッチング除去して導体パターンを形成する方法や、メッキなどで樹脂上の必要な箇所にのみ導体パターンを形成する方法によって設けることができる。
【0060】
金属箔付き樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けて、回路加工を施す方法や、配線付き樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付ける方法によって、端子等の導体パターンが設けられたシリコーン重合体含有樹脂を基板表面に部分的に有する基板とすることもできる。
【0061】
ここで、金属箔付き樹脂シートは前記樹脂シートを金属箔に積層して作製することができる。また、樹脂組成物を溶剤に溶解ないし分散させて濃度を調整し、金属箔に塗布して乾燥炉内で80〜200℃の範囲で乾燥させることにより、金属箔付き樹脂シートとすることもできる。また、金属箔付き樹脂シートから金属の不要部分をエッチング除去することで、配線付き樹脂シートとすることができる。
【0062】
前記金属箔付き樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けて熱圧着し、金属箔付き樹脂シートに由来する金属の不要部分をエッチング除去して、シリコーン重合体含有樹脂の表面にも回路パターンを有する基板を作製することができる。熱圧着は温度80〜200℃、圧力0.1〜15MPa、時間0.1〜120分間の条件で行うことが好ましい。また、前記配線付き樹脂シートを同様の方法で基板表面に部分的に熱圧着することによって、シリコーン重合体含有樹脂に導体パターンが埋め込まれたシリコーン重合体含有樹脂を有する基板とすることができる。
【0063】
以上のようにして得られた基板のシリコーン重合体含有樹脂上に半導体チップ等の電子部品をフリップチップ方式などの面実装方式で搭載し、プリント回路板とすることができる。
【実施例】
【0064】
(参考例)
撹拌装置、コンデンサ及び温度計を備えたガラスフラスコに、テトラメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を20g、ジメトキシジメチルシラン(東京化成工業株式会社製)を60g、ジメトキシメチルシラン(東京化成工業株式会社製)を67g、合成溶剤としてメタノール(東京化成工業株式会社製)を37g配合した溶液に、合成触媒としてマレイン酸を1.5g、蒸留水を50g配合して80℃で2時間攪拌した後、アリルグリシジルエーテル(東京化成工業株式会社製)を72gと塩化白金酸塩(2重量%イソプロピルアルコール溶液)を0.2g添加し、更に4時間撹拌してエポキシ変性のシリコーン重合体、を合成した。得られたシリコーン重合体のシロキサン単位の重合度は65であった(GPCによって標準ポリスチレンの検量線を利用して測定した数平均分子量から換算、以下同じ)。
【0065】
(実施例1)
撹拌装置、コンデンサ及び温度計を備えたガラスフラスコに、前記参考例と同様の方法で合成したシリコーン重合体の固形分100重量部に対してシリカ粉末(製品名:SO−25R,平均粒径:0.5μm,株式会社アドマテックス製)450重量部と希釈溶剤としてメタノールを202重量部配合し、80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却し、シリコーン重合体の固形分100重量部に対してテトラブロモビスフェノールAを78重量部と2−エチル−4−メチルイミダゾール3重量部を配合し、室温で1時間撹拌して樹脂ワニスを調製した。この樹脂ワニスの硬化物の熱膨張係数は22×10-6/℃であり、伸びは3.1%であった。
【0066】
なお、本発明において、樹脂硬化物の熱膨張係数及び伸びの測定には、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムをキャリヤーフィルムとして、接着剤ワニスを加熱乾燥後の厚さが50μmとなるようにナイフコータにより塗工し、170℃・2時間の条件で加熱・硬化させ、キャリヤーフィルムを取り外して、樹脂シートを作製し、これを試料として用いた。熱膨張率は、熱機械分析(TMA:MAC SCIENCE社製TMA)により引張モードで測定した。伸びは、幅10mm×長さ80mm、厚み50μmのフィルムを試料として用いて、引張試験機(島津製作所オートグラフAG−100C)により、測定条件をチャック間距離:60mm、引張速度:5mm/minとして、引張試験で測定した。
【0067】
前記樹脂ワニスを、厚さ18μmの片面粗化銅はくの粗化面側に、加熱乾燥後の樹脂シートの厚さが50μmとなるようにナイフコータにより塗工し、温度130℃で10分間加熱乾燥し、銅箔付樹脂シートを作製した。次に、銅箔付樹脂シートを半導体チップの搭載面と同サイズに切断して、紙基材フェノール樹脂片面銅張積層板(全体の厚さ0.8mm、銅層の厚さ18μm、MCL−437F:日立化成工業株式会社製商品名)の銅箔の不要部分をエッチングにより取り除いた配線板上に積層・一体化し、シリコーン重合体含有樹脂上の銅箔付樹脂シートに由来する銅層に回路加工を施すことによって接続端子(導体パターン)を作成して、基板(図1)とした。こうして作製された基板のシリコーン重合体含有樹脂に半田バンプ付半導体チップを設置した後、288℃、30秒間、半田リフローすることにより半導体チップのバンプと樹脂シート上の接続端子を接続し、プリント回路板(図2)とした。
【0068】
(実施例2)
シリコーン重合体の固形分100重量部に対して、シリカ粉末(商品名:SO−25R,平均粒径:0.5μm,株式会社アドマテックス製)の配合量を900重量部、メタノールの配合量を250重量部に変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製した。この樹脂ワニスの硬化物の熱膨張係数は15×10-6/℃であり、伸びは2.2%あった。この樹脂ワニスを用いて、実施例1と同様にしてプリント回路板を作製した。
【0069】
(実施例3)
シリコーン重合体の固形分100重量部に対して、シリカ粉末(商品名:SO−25R,平均粒径:0.5μm,株式会社アドマテックス製)の配合量を1300重量部、メタノールの配合量を490重量部に変えた以外は実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製した。この樹脂ワニスの硬化物の熱膨張係数は10×10-6/℃であり、伸びは1.2%であった。この樹脂ワニスを用いて、実施例1と同様にしてプリント回路板を作製した。
【0070】
(比較例)
厚さ0.8mmの紙基材フェノール樹脂片面銅張積層板に接続端子を作成し、その上に半田バンプ付半導体チップを設置した後、288℃、30秒間、熱による半田リフローすることにより半導体チップのバンプと樹脂シート上の接続端子を接続した。
【0071】
(接続信頼性の検査法)
接続状態(リフロークラックの有無)の検査結果を表1に示す。リフロークラックの無かったものを○とし、クラックが見られたものを×とした。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように、半導体チップを搭載する部分に本発明の樹脂シートを使用することで、紙基材フェノール樹脂銅張積層板のような、安価な基板を用いても、実装部位にシリコーン重合体含有樹脂を設けることによって半導体チップを搭載することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1.紙基材フェノール樹脂基板
2.シリコーン重合体含有樹脂
3.接続端子(導体パターン)
4.回路導体
5.ハンダ
6.半導体チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に部分的にシリコーン重合体含有樹脂を備える基板であり、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の硬化後の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である基板であって、シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物はシリコーン重合体及び無機充填剤を含み、シリコーン重合体100重量部に対して無機充填剤を100〜2000重量部含有している基板。
【請求項2】
基板に備えられたシリコーン重合体含有樹脂の表面にも導体パターンを設けてなる請求項1に記載の基板。
【請求項3】
基板表面に部分的にシリコーン重合体含有樹脂を備える基板であり、基板に備えられたシリコーン重合体含有樹脂の表面にも導体パターンを設けてなる基板。
【請求項4】
シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物の硬化後の引張試験での伸びが1.0%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の基板。
【請求項5】
シリコーン重合体含有樹脂を形成する樹脂組成物がさらに硬化剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の基板。
【請求項6】
シリコーン重合体として熱硬化性官能基含有シリコーン重合体を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のシリコーン重合体含有樹脂の表面に電子部品を搭載してなるプリント回路板。
【請求項8】
電子部品が半導体チップである請求項7に記載のプリント回路板。
【請求項9】
硬化物の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である樹脂組成物をワニス化し、基板表面に部分的にこの樹脂ワニスを塗布することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項10】
熱硬化性シリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有する樹脂組成物をワニス化し、基板表面に部分的にこの樹脂ワニスを塗布することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項11】
硬化物の熱膨張係数が50×10-6/℃以下である樹脂組成物を用いてなる樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項12】
熱硬化性シリコーン重合体、硬化剤及び無機充填剤を含有する樹脂組成物を用いてなる樹脂シートを基板表面に部分的に貼り付けることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の製造方法で製造された基板の、部分的に設けられた樹脂の表面に、さらに回路を形成することを特徴とする基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−191240(P2012−191240A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−142457(P2012−142457)
【出願日】平成24年6月25日(2012.6.25)
【分割の表示】特願2010−214095(P2010−214095)の分割
【原出願日】平成13年6月25日(2001.6.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】