説明

基板保持具および基板閃光照射方法

【課題】閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などを効果的に抑制すること、また、かかる基板保持具を安価に提供すること。
【解決手段】基板保持具10の本体部は下本体部11とこの上に載る上本体部12とからなり、複数の基板支持部材13が本体部に着脱可能に装着されている。基板20は、複数の基板支持部材13の基板支持面によって支持され、下本体部11の内側の平坦な基板載置面上に載置される。この基板保持具では、本体部に装着された状態での基板支持部材13の基板支持面は上記基板載置面よりも高い位置にあるため、この基板支持面で支持された状態の基板20の裏面は基板載置面とは接触しない。基板支持部材13が本体部に着脱可能であるため、仮に基板支持部材13に傷がついたり破損したりした場合にも、当該基板支持部材13のみを取り替えることができ、その他の部分は継続して使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持具および基板閃光照射方法に関し、より詳細には、閃光照射による基板損傷やパーティクル付着などを抑制可能な基板保持具およびこれを用いた基板閃光照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜質を改善する手法のひとつに閃光照射法があり、例えば、基板の主面に光学膜などの薄膜が形成されている場合、当該薄膜の改質を目的として閃光照射を行うという基板閃光照射方法である。
【0003】
このような基板閃光照射を行なう際に、基板を収容している部材の側面や裏面からの反射光が基板に照射されると、当該照射領域には反射光と直接照射光とが重なって照射されることとなって必要以上のエネルギが付与されることとなる結果、薄膜特性が不均一なものとなってしまう。
【0004】
本発明者らは、このような不都合を防止することを目的とした基板保持部材およびそれを利用したフォトマスクブランクの製造方法についての考案を行い、既に特許出願済みである(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
しかし、その後の検討を進めた結果、閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などの抑制を更に確実なものとするためには、幾つかの改善すべき点があることが明らかとなってきた。
【0006】
図1は、上述の従来型の基板保持部材(基板保持具)の更なる改善点を説明するための概略図で、この図において、図1(a)は基板保持具100の上面図、図1(b)は基板保持具100に基板200を載置した状態の、A−A´に沿う断面図である。
【0007】
基板保持具100の内側には矩形の溝101が設けられており、基板200はこの溝101の内部に収容される。溝101の底部には、複数の基板支持部102が一体的に形成され、この基板支持部102に支持された状態で基板200が収容されている。
【0008】
基板支持部102は基板200に直接接触する部分であり、この部分に僅かな傷などの不具合があると閃光照射中の基板200を傷つけたりパーティクル汚染を生じさせたりする原因となってしまうため、上記不具合部分を取り替える必要がある。しかし、図1に示したような基板保持具の場合には、基板支持部102を交換することは基板保持具100全体を交換することを意味し、基板保持具100が石英などの高価な部材からなる場合には製造コストの上昇を招いてしまう。
【0009】
また、本発明者らの検討によれば、基板200を支持する部分(基板支持部102)が多いほど、基板支持部102や基板200を損傷させ易くなる傾向がある。これは、基板保持具100の作製段階でのアニール処理中に、基板支持部102のそれぞれの高さが微妙に設計値からずれてしまい、基板200が全ての基板支持部102によって確実に保持されないこととなる結果であると理解される。つまり、基板保持に与らない基板支持部102があると、当該基板支持部102は、基板200が何らかの原因で動いた場合の衝撃付与源として作用してしまうのである。
【特許文献1】特開2007−114680号公報
【特許文献2】特開2007−114681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などを更に効果的に抑制すること、また、かかる基板保持具を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこのような課題を解決するために、本発明は、載置された基板を閃光照射する際に用いられる基板保持具であって、平坦な基板載置面を有する本体部と、該本体部に着脱可能に装着された複数の基板支持部材とを備え、前記本体部に装着された状態での前記基板支持部材の基板支持面は前記基板載置面よりも高い位置にあり、該基板支持面で支持された状態の基板は裏面が前記基板載置面と接触せずに保持されることを特徴とする。
【0012】
前記基板支持部材は、前記本体部に設けられた凹部に嵌合または収容されて固定される態様のものとすることができる。
【0013】
好ましくは、前記基板支持部材の基板支持面は前記本体部の外側から内側に向かって低くなる傾斜部を有しており、例えば、前記基板支持部材の上部は凸型の形状を有し該上部の曲面が基板支持面である態様とすることができる。
【0014】
本発明では、前記基板支持部材を3個備え、前記基板を3点支持する態様が好ましい。
【0015】
前記基板支持部材は前記本体部と同じ材質からなることが好ましく、前記基板支持部材は、例えば、アルミニウム、セラミックス、及び、石英の何れかの材質からなる。また、前記基板支持部材の基板支持面は、加熱により平滑化されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、前記本体部の基板載置面を囲む領域の上面は、前記基板支持部材の基板支持面で支持された状態の基板の表面よりも高い位置にあることが好ましい。
【0017】
本発明の基板閃光照射方法は、上述の基板保持具に保持された基板に閃光を照射を行なう工程を備えている。例えば、当該基板は、主面に光学膜を備えた透明基板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の基板支持部材を、基板保持具の本体部に着脱可能に装着する構成するとともに、基板支持面で支持された状態の基板裏面が本体部の基板載置面と非接触の状態で基板保持することとしたので、閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などを効果的に抑制するとともに、基板保持具を安価に提供することが可能となる。
【0019】
また、このような基板保持具を用いて閃光照射を行なう手法は、光学膜を備えた透明基板の閃光照射を必要とするフォトマスクブランクの製造等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
図2は、本発明の基板保持具の第1の態様を説明するための図である。この図において、図2(a)は基板保持具10の上面図、図2(b)は基板保持具10に基板20を載置した状態の、B−B´に沿う断面図である。
【0022】
この図に示した例では、基板保持具10の本体部は下本体部11とこの上に載る上本体部12とからなり、複数の基板支持部材13が本体部に着脱可能に装着されている。基板20は、上記の複数の基板支持部材13の基板支持面によって支持され、下本体部11の内側の平坦な基板載置面上に載置されることとなる。なお、ここで、「基板支持面」とは、基板(の裏面)と接触する部分を意味する。本発明の基板保持具では、本体部に装着された状態での基板支持部材13の基板支持面は上記基板載置面よりも高い位置にあるため、この基板支持面で支持された状態の基板20の裏面は基板載置面とは接触しない。
【0023】
図3は、基板支持部材13が本体部に着脱可能に装着される様子を説明するための断面概略図である。下本体部11には、基板支持部材13を嵌合ないし収容して固定するための凹部が形成されており(図3(a))、基板支持部材13がこの凹部に固定される(図3(b))。この固定は、基板支持部材13が凹部内で容易には動かない程度のものとする。これは、何らかの原因で基板保持具が動いた場合に、凹部内で基板支持部材13が容易に動いてしまうと、それによって基板を傷つけてしまうことがあり得るからである。
【0024】
基板支持部材13を下本体部11の凹部に固定した後、下本体部11の基板載置面に対応する場所に開口部を有する上本体部12を載せて基板保持具10が完成し(図3(c))、この基板保持具10に基板20が収容される(図3(D))。
【0025】
このような構成の基板保持具10では、仮に基板支持部材13に傷がついたり破損したりした場合にも、当該基板支持部材13のみを取り替えることができ、その他の部分は継続して使用することができる。
【0026】
図4は、基板支持部材13の形状、および、当該基板支持部材13の基板支持面で支持された状態の基板の裏面が下本体部11の基板載置面と接触せずに保持される様子を説明するための図である。図4(a)に示した例では、基板支持部材13の上部は凸型の形状を有し、該上部の曲面13sが基板支持面となる。
【0027】
なお、基板支持部材13の形状がこのような態様に限定されるものではないことは言うまでもないが、基板支持部材13の基板支持面は、本体部(下本体部11)の外側から内側(基板載置面側)に向かって低くなる傾斜部を有していることが好ましい。
【0028】
さらにその形状を円錐形にすることにより、基板は基板端面の稜線部(主面と面取り部の境界部または端面と主面の境界部、または端面と面取り部との境界部など)で基板支持部材と点接触することが望ましい。
【0029】
このように、基板は、基板端面の稜線部で基板支持部材と接触することにより、装置の振動、閃光照射時の大気の圧力変動等による振動から基板裏面に発生する傷を防止することができる。さらに閃光照射を行なう際に、裏面傷から発生するパーティクルを防止することができる。
【0030】
また、基板支持面は、加熱によって平滑化しておくことが好ましい。平滑化は、基板との衝突や摩擦が起こった際、あるいは、閃光照射光の局所的な集中に起因するパーティクル発生を防止するためであり、そのような平滑化の方法としては加熱による方法が好ましい。
【0031】
図4(b)に断面の一部を図示したように、下本体部11の凹部に収容されて固定された基板支持部材13の基板支持面は、下本体部11の基板載置面よりも高い位置にあるため、該基板支持面で支持された状態の基板の裏面と基板載置面との間にギャップが形成され、両面は接触せずに基板20が保持されることとなる。
【0032】
そして、図4(c)に断面の一部を示したように、基板支持部材13を下本体部11の凹部に収容した後に、下本体部11の基板載置面に対応する場所に開口部を有する上本体部12を載せて基板保持具10が完成する。
【0033】
なお、図4(c)には、本体部の基板載置面を囲む領域の上面(上本体部12の上面)が、基板支持部材13の基板支持面で支持された状態の基板の表面よりも高い位置にある様子が図示されているが、このような態様とすると、閃光照射を行なう場合に、斜めから入射する光が基板の端部に直接照射されることによる、当該部分への過剰なエネルギの付与が回避乃至低減できる。
【0034】
図5は、本発明の基板保持具の第2の態様を説明するための図である。この図において、図5(a)は基板保持具10の上面図、図5(b)は基板保持具10に基板20を載置した状態の、C−C´に沿う断面図である。
【0035】
図2に示した態様のものでは基板支持部材13の数は4個とされていたのに対し、この図に示した態様のものでは3個となっている点が異なる。基板支持部材13の数を3個とすることの利点は、全ての基板支持部材13を確実に基板支持に関与させ得る点にある。基板を支持する箇所が4以上ある場合には、基板支持に与らない基板支持部材が生じ得て、当該基板支持部材が基板への衝撃付与原因となり得る。
【0036】
図6は、第1および第2の態様のものが備えている上本体部12を備えていない態様の基板保持具を説明するための図である。この図に示した態様では、下本体部11の基板載置面を囲む領域の上面が、基板支持部材13の基板支持面で支持された状態の基板の表面よりも低い位置にあることとなるため、上本体部12を備えていた方が好ましい。
【0037】
本発明の基板保持具に用いる基板支持部材13の材質は、本体部と同じ材質であることが好ましい。これは、両者の材質が異なると、熱膨張量の差に起因してパーティクルが発生する場合があるからである。
【0038】
基板支持部材13の材質としては、例えば、アルミニウム、セラミックス、或いは、石英などが例示される。セラミックスとしては、SiN、SiC、アルミナなどが例示される。また、石英としては、内部に泡が入った石英ガラスなどが例示される。
【0039】
上述したような基板保持具に基板を保持し、当該基板に閃光照射を行なう手法を採用すると、基板閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などを効果的に抑制することができる。このような基板閃光照射方法は、フォトマスクブランクの製造に用いられるような、主面に光学膜を備えた透明基板の閃光照射方法として有用である。
【0040】
以下では、本発明を、実施例により具体的に説明する。なお、本発明の基板保持具は、半導体ウエハなどの基板閃光照射一般に広く用いることができるが、以下の実施例および比較例は何れも、キセノンフラッシュランプ(光スペクトル範囲が300〜1100nmのもの)を用い、真空下において、3000〜3500V(16〜23J/cm)の照射パワーで閃光照射を行なったものである。また、用いた基板は、フォトマスクブランク製造用の透明石英基板である。
【実施例】
【0041】
(実施例1):図2に図示した態様の基板保持具を用い、上記条件で閃光照射により基板を処理し、処理枚数150枚毎に基板支持部材を交換して閃光照射を繰り返したところ、450枚処理しても基板に傷は発生しなかった。
【0042】
(実施例2):図5に図示した態様の基板保持具を用い、上記条件で閃光照射により基板を処理したところ、2000枚処理しても基板に傷は発生しなかった。
【0043】
(比較例1):図1に図示した態様の基板保持具を用い、上記条件で閃光照射により基板を処理したところ、212枚目に処理した基板で、基板支持部と接触している箇所に傷が発生した。
【0044】
(比較例2):図1に図示した態様の基板保持具の基板支持部の数を8個から3個とした態様の基板保持具を用い、上記条件で閃光照射により基板を処理したところ、574枚目に処理した基板で、基板支持部と接触している箇所に傷が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、閃光照射時の基板損傷やパーティクル付着などを効果的に抑制すること、また、かかる基板保持具を安価に提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来型の基板保持部材(基板保持具)の更なる改善点を説明するための概略図である。
【図2】本発明の基板保持具の第1の態様を説明するための図である。
【図3】基板支持部材が本体部に着脱可能に装着される様子を説明するための断面概略図である。
【図4】基板支持部材の形状、および、当該基板支持部材の基板支持面で支持された状態の基板の裏面が下本体部の基板載置面と接触せずに保持される様子を説明するための図である。
【図5】本発明の基板保持具の第2の態様を説明するための図である。
【図6】第1および第2の態様のものが備えている上本体部を備えていない態様の基板保持具を説明するための図である。
【符号の説明】
【0047】
10、100 基板保持具
11 下本体部
12 上本体部
13 基板支持部材
20、200 基板
101 矩形の溝
102 基板支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置された基板を閃光照射する際に用いられる基板保持具であって、
平坦な基板載置面を有する本体部と、該本体部に着脱可能に装着された複数の基板支持部材とを備え、
前記本体部に装着された状態での前記基板支持部材の基板支持面は前記基板載置面よりも高い位置にあり、該基板支持面で支持された状態の基板は裏面が前記基板載置面と接触せずに保持されることを特徴とする基板保持具。
【請求項2】
前記基板支持部材は、前記本体部に設けられた凹部に嵌合または収容されて固定されることを特徴とする請求項1に記載の基板保持具。
【請求項3】
前記基板支持部材の基板支持面は、前記本体部の外側から内側に向かって低くなる傾斜部を有している請求項1又は2に記載の基板保持具。
【請求項4】
前記基板支持部材の上部は凸型の形状を有し、該上部の曲面が基板支持面である請求項3に記載の基板保持具。
【請求項5】
前記基板支持部材を3個備え、前記基板を3点支持することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の基板保持具。
【請求項6】
前記基板支持部材は、前記本体部と同じ材質からなる請求項1乃至5の何れか1項に記載の基板保持具。
【請求項7】
前記基板支持部材は、アルミニウム、セラミックス、及び、石英の何れかの材質からなる請求項1乃至6の何れか1項に記載の基板保持具。
【請求項8】
前記基板支持部材の基板支持面は、加熱により平滑化されている請求項1乃至7の何れか1項に記載の基板保持具。
【請求項9】
前記本体部の基板載置面を囲む領域の上面は、前記基板支持部材の基板支持面で支持された状態の基板の表面よりも高い位置にあることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の基板保持具。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の基板保持具に、主面に光学膜を備えた透明基板を載置して該透明基板に閃光を照射する工程を備えた基板閃光照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−186662(P2009−186662A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25200(P2008−25200)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】