説明

基準電圧回路

【課題】温度依存性を改善した基準電圧回路を提供する。
【解決手段】基準電圧回路100は、電源端子と接地端子の間に順に直列にスタックされた電流源30、第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20を備える。第1バンドギャップリファレンス回路10と第2バンドギャップリファレンス回路20はそれぞれ、互いに反対の温度係数を有する第1基準電圧Vref1、第2基準電圧Vref2を生成するよう構成される。基準電圧回路100は、第1基準電圧Vref1と第2基準電圧Vref2の和電圧Vref(=Vref1+Vref2)を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準電圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路において、電源電圧変動や温度変動によらない一定の電圧を生成する目的で、バンドギャップ基準電圧回路(バンドギャップリファレンス(BGR)回路ともいう)が利用される。特許文献1には、BGR回路の一例が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−088767号公報
【非特許文献1】PAUL R. GRAY, PAUL J. HURST, STEPHEN H. LEWIS, ROBERT G. MEYER、ANALYSIS AND DESING OF ANALOG INTEGRATED CIRCUIT 4th Edition、JOHN WILEY & SONS, INC. pp.229-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のBGR回路は、電源電圧および温度に対して安定した基準電圧Vrefを生成することができるが、温度係数δVref/δTが完全にゼロではなく、用途によっては不十分な場合がある。
【0005】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、温度依存性を改善した基準電圧回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、基準電圧回路に関する。この基準電圧回路は、電源端子と接地端子の間に順に直列にスタックされた第1バンドギャップリファレンス回路および第2バンドギャップリファレンス回路を備える。第1バンドギャップリファレンス回路と第2バンドギャップリファレンス回路はそれぞれ、互いに反対の温度係数を有する第1基準電圧、第2基準電圧を生成するよう構成される。この基準電圧回路は、第1、第2基準電圧の和を出力する。
【0007】
この態様によると、第1基準電圧と第2基準電圧の温度特性が互いにキャンセルし合うため、温度依存性の小さな基準電圧を生成することができる。
【0008】
第1、第2バンドギャップリファレンス回路は、互いに反対の導電性のバイポーラトランジスタを用いて構成されてもよい。
【0009】
第1、第2バンドギャップリファレンス回路の一方は、第1端子と、第2端子と、第2端子側に設けられた第1ワイドラー型カレントミラー回路と、第1ワイドラー型カレントミラー回路と第1端子の間に設けられた第1負荷回路と、第1負荷回路と第2トランジスタの接続点の電位に応じた第1基準電圧を、第1端子と第2端子の間に発生させる第1出力回路と、を含んでもよい。第1ワイドラー型カレントミラー回路は、NPN型バイポーラトランジスタの第1トランジスタ、第2トランジスタおよび第1エミッタ抵抗を含んでもよい。第1、第2バンドギャップリファレンス回路の他方は、第3端子と、第4端子と、第3端子側に設けられた第2ワイドラー型カレントミラー回路と、第2ワイドラー型カレントミラー回路と第4端子の間に設けられた第2負荷回路と、第2負荷回路と第4トランジスタの接続点の電位に応じた第2基準電圧を、第3端子と第4端子の間に発生させる第2出力回路と、を含んでもよい。第2ワイドラー型カレントミラー回路は、PNP型バイポーラトランジスタの第3トランジスタ、第4トランジスタおよび第2エミッタ抵抗を含んでもよい。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る基準電圧回路によれば、温度依存性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る基準電圧回路の構成を示す回路図である。
【図2】図1の基準電圧回路の温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0015】
図1は、実施の形態に係る基準電圧回路100の構成を示す回路図である。基準電圧回路100は、第1バンドギャップリファレンス回路10、第2バンドギャップリファレンス回路20および電流源30を備える。
【0016】
電流源30、第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20は、電源電圧Vccが印加される電源端子と、接地電圧Vgndが印加される接地端子の間に順に直列にスタックされる。
【0017】
第1バンドギャップリファレンス回路10はその両端間に第1基準電圧Vref1を発生させる。第2バンドギャップリファレンス回路20はその両端間に第2基準電圧Vref2を発生させる。第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20はそれぞれ、第1基準電圧Vref1と第2基準電圧Vref2が互いに反対の温度係数を有するように構成される。
【0018】
基準電圧回路100は、第1基準電圧Vref1と第2基準電圧Vref2の和(Vref1+Vref2)を、基準電圧Vrefとして出力する。つまり第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20の両端間の電圧を出力する。
【0019】
以上が基準電圧回路100全体の構成である。続いて第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20の具体的な構成を説明する。反対の温度係数を有する基準電圧Vref1、Vref2を生成するために、第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20は、反対の導電性のバイポーラトランジスタを用いて対称に構成される。すなわち、第1バンドギャップリファレンス回路10と第2バンドギャップリファレンス回路20は、互いに天地反転しており、PNP型バイポーラトランジスタ(PチャンネルMOSFET)とNPN型バイポーラトランジスタ(NチャンネルMOSFET)が置換された構成となっている。
【0020】
第1バンドギャップリファレンス回路10は、第1端子P1、第2端子P2、第1ワイドラー型カレントミラー回路12、第1負荷回路14、第1出力回路16を備える。第1バンドギャップリファレンス回路10は、第1端子P1と第2端子P2の間に、第1基準電圧Vref1を発生する。
【0021】
第1ワイドラー型カレントミラー回路12は、第2端子P2側に設けられる。第1ワイドラー型カレントミラー回路12は、NPN型バイポーラトランジスタの第1トランジスタQ1、第2トランジスタQ2および第1エミッタ抵抗Re1を含む。第1トランジスタQ1と第2トランジスタQ2のサイズ比は、1:Nである。
【0022】
第1負荷回路14は、第1ワイドラー型カレントミラー回路12と第2端子P2の間に設けられる。具体的に第1負荷回路14は、第1トランジスタQ1の経路上に設けられた第1負荷抵抗RL1と、第2トランジスタQ2の経路上に設けられた第2負荷抵抗RL2と、を含む。なお第1負荷回路14として能動負荷(カレントミラー回路)を用いてもよい。
【0023】
第1出力回路16は、第1負荷回路14と第2トランジスタQ2の接続点N1の電位VN1に応じた第1基準電圧Vref1を、第1端子P1と第2端子P2の間に発生させる。
【0024】
第1出力回路16は、第5トランジスタQ5〜第9トランジスタQ9を含む。第5トランジスタQ5(第1増幅用トランジスタ)のベースには、接続点N1の電圧VN1が入力される。トランジスタQ7〜Q9は、トランジスタQ1、Q2に流れる電流に比例した電流を、第5トランジスタQ5へと供給するバイアス回路として動作する。第6トランジスタ(第1出力トランジスタ)Q6は、そのベースに第5トランジスタQ5のコレクタ電圧を受けるソースフォロア回路である。トランジスタQ6〜Q9は、第5トランジスタQ5の状態に応じた電圧(電流)を出力するバッファ回路とみなすことができる。なお第1出力回路16の構成は図1のそれには限定されない。
【0025】
第2バンドギャップリファレンス回路20は、第3端子P3、第4端子P4、第2ワイドラー型カレントミラー回路22、第2負荷回路24、第2出力回路26を備える。第2バンドギャップリファレンス回路20は、第3端子P3と第4端子P4の間に、第2基準電圧Vref2を発生する。
【0026】
第2ワイドラー型カレントミラー回路22は第3端子P3側に設けられる。第2ワイドラー型カレントミラー回路22は、PNP型バイポーラトランジスタである第3トランジスタQ3、第4トランジスタQ4および第2エミッタ抵抗Re2を含む。第3トランジスタQ3と第4トランジスタQ4のサイズ比は、1:Nである。
【0027】
第2負荷回路24は、第2ワイドラー型カレントミラー回路22と第4端子P4の間に設けられる。具体的に第2負荷回路24は、第3トランジスタQ3の経路上に設けられた第3負荷抵抗RL3と、第4トランジスタQ4の経路上に設けられた第4負荷抵抗RL4と、を含む。なお第2負荷回路24として能動負荷(カレントミラー回路)を用いてもよい。
【0028】
第2出力回路26は、第1負荷回路14と第4トランジスタQ4の接続点N2の電位VN2に応じた第2基準電圧Vref2を、第3端子P3と第4端子P4の間に発生させる。
【0029】
第2出力回路26は、第10トランジスタQ10〜第14トランジスタQ14を含む。第10トランジスタ(第2増幅用トランジスタ)Q10のベースには、接続点N2の電圧VN2が入力される。トランジスタQ12〜Q14は、トランジスタQ3、Q4に流れる電流に比例した電流を、第10トランジスタQ10へと供給するバイアス回路として動作する。第11トランジスタ(第2出力トランジスタ)Q11は、そのベースに第10トランジスタQ10のコレクタの電圧を受ける。トランジスタQ11〜Q14は、第10トランジスタQ10の状態に応じた電圧(電流)を出力するバッファ回路とみなすことができる。なお第2出力回路26の構成は図1のそれには限定されない。
【0030】
以上が基準電圧回路100の構成である。続いてその動作を説明する。図2は、図1の基準電圧回路100の温度特性を示す図である。横軸は温度であり、上段が第1バンドギャップリファレンス回路10の、中段が第2バンドギャップリファレンス回路20の、下段が基準電圧回路100全体の温度特性を示す。
【0031】
第1バンドギャップリファレンス回路10に着目すると、第1トランジスタQ1に流れる電流IQ1は、以下の式(1)で与えられる。
Q1=VTN・ln(N)/Re1 …(1)
ここでVTNはNPN型バイポーラトランジスタQ1の熱電圧を示す。したがって第1バンドギャップリファレンス回路10が発生する第1基準電圧Vref1は、以下の式(2)で与えられる。
Vref1=V+IQ1×RL1
=V+VTN・ln(N)/Re1×RL1 …(2)
ここでVはバイポーラトランジスタQ1のベースエミッタ間の順方向電圧である。
【0032】
続いて第2バンドギャップリファレンス回路20に着目すると、第3トランジスタQ3に流れる電流IQ3は、以下の式(3)で与えられる。
Q3=VTP・ln(N)/Re2 …(3)
ここでVTPはPNP型バイポーラトランジスタQ3の熱電圧を示す。したがって第2バンドギャップリファレンス回路20が発生する第2基準電圧Vref2は、以下の式(4)で与えられる。
Vref2=V+IQ3×RL3
=V+VTP・ln(N)/Re2×RL3 …(4)
ここでVはバイポーラトランジスタQ3のベースエミッタ間の順方向電圧である。
【0033】
式(2)で与えられる第1基準電圧Vref1は、上に凸の温度依存性を有する。反対に式(2)で与えられる第2基準電圧Vref2は、第1基準電圧Vref1とは反対に下に凸の温度依存性を有する。その結果、第1基準電圧Vref1と第2基準電圧Vref2を足し併せた基準電圧Vrefは、温度に対してフラットな特性を有する。
【0034】
このように、図1の基準電圧回路100によれば、従来よりも温度依存性の小さな基準電圧Vrefを発生することができる。
【0035】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0036】
第1バンドギャップリファレンス回路10と第2バンドギャップリファレンス回路20の位置は入れかえてもよい。また第1バンドギャップリファレンス回路10および第2バンドギャップリファレンス回路20の構成は図1に示すものには限定されず、当業者であればさまざまな変形例を設計可能である。たとえば実施の形態ではバイポーラトランジスタを用いたバンドギャップリファレンス回路を利用したが、導電型が異なるMOSFETを利用した2つのバンドギャップリファレンス回路をスタックしても、同様の効果を得ることができる。
【0037】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0038】
100…基準電圧回路、30…電流源、10…第1バンドギャップリファレンス回路、P1…第1端子、P2…第2端子、12…第1ワイドラー型カレントミラー回路、14…第1負荷回路、16…第1出力回路、Q1…第1トランジスタ、Q2…第2トランジスタ、Re1…第1エミッタ抵抗、20…第2バンドギャップリファレンス回路、P3…第3端子、P4…第4端子、22…第2ワイドラー型カレントミラー回路、24…第2負荷回路、26…第2出力回路、Q3…第3トランジスタ、Q4…第4トランジスタ、Re2…第2エミッタ抵抗、Vref…基準電圧、Vref1…第1基準電圧、Vref2…第2基準電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源端子と接地端子の間に順に直列にスタックされた第1バンドギャップリファレンス回路および第2バンドギャップリファレンス回路を備え、
前記第1バンドギャップリファレンス回路と前記第2バンドギャップリファレンス回路はそれぞれ、互いに反対の温度係数を有する第1基準電圧、第2基準電圧を生成するよう構成され、
前記第1、第2基準電圧の和を出力することを特徴とする基準電圧回路。
【請求項2】
前記第1、第2バンドギャップリファレンス回路は、互いに反対の導電性のバイポーラトランジスタを用いて構成されることを特徴とする請求項1に記載の基準電圧回路。
【請求項3】
前記第1、第2バンドギャップリファレンス回路の一方は、
第1端子と、
第2端子と、
NPN型バイポーラトランジスタの第1トランジスタ、第2トランジスタおよび第1エミッタ抵抗を含み、前記第2端子側に設けられた第1ワイドラー型カレントミラー回路と、
前記第1ワイドラー型カレントミラー回路と前記第1端子の間に設けられた第1負荷回路と、
前記第1負荷回路と前記第2トランジスタの接続点の電位に応じた第1基準電圧を、前記第1端子と前記第2端子の間に発生させる第1出力回路と、
を含み、
前記第1、第2バンドギャップリファレンス回路の他方は、
第3端子と、
第4端子と、
PNP型バイポーラトランジスタの第3トランジスタ、第4トランジスタおよび第2エミッタ抵抗を含み、前記第3端子側に設けられた第2ワイドラー型カレントミラー回路と、
前記第2ワイドラー型カレントミラー回路と前記第4端子の間に設けられた第2負荷回路と、
前記第2負荷回路と前記第4トランジスタの接続点の電位に応じた第2基準電圧を、前記第3端子と前記第4端子の間に発生させる第2出力回路と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載の基準電圧回路。
【請求項4】
前記第1出力回路は、
そのベースに前記第1負荷回路と前記第2トランジスタの接続点の電位を受けるNPN型の第1増幅用トランジスタと、
前記第1、第2トランジスタに流れる電流に応じた電流を、前記第1増幅用トランジスタに供給する第1バイアス回路と、
そのベースに前記第1増幅用トランジスタのコレクタ電圧を受ける第1出力トランジスタと、
を含み、
前記第2出力回路は、
そのベースに前記第2負荷回路と前記第4トランジスタの接続点の電位を受けるPNP型の第2増幅用トランジスタと、
前記第3、第4トランジスタに流れる電流に応じた電流を、前記第2増幅用トランジスタに供給する第2バイアス回路と、
そのベースに前記第2増幅用トランジスタのコレクタ電圧を受ける第2出力トランジスタと、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の基準電圧回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−170455(P2011−170455A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31625(P2010−31625)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】