説明

塗料供給装置及び塗料供給方法

【課題】チクソトロピーの大きな塗料を塗布する場合において、安定した塗料カーテンを形成することができ、効率の良い塗装が可能となる塗料供給装置を提供する。
【解決手段】上下に2つの塗料供給用ヘッドが設けられ、下方ヘッドBは、底部に塗料流下用のスリット2を有するとともに、上部に塗料回収口3を有するものであり、上方ヘッドAは、底部に塗料流下用のスリット1を少なくとも1つ以上有するものであり、上方ヘッドAのスリット1は、下方ヘッドBのスリット2よりもスリット幅が狭く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料供給装置に関するものである。特に本発明は、スリットにより塗料カーテンを形成して塗布を行うフローコーターの塗料供給装置として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
フローコーターは、効率良く塗料を被塗物に塗布するための装置として一般的によく知られている。このフローコーターでは、塗布しようとする塗料をスリットに通して薄い塗料カーテンを形成させ、このカーテンによって被塗物を塗装することができる。具体的には、タンクに貯留された塗料をポンプにより塗料供給ヘッドに供給し、この塗料供給ヘッドに設けられたスリットにより一定幅の薄い塗料カーテンを形成させる。そして、コンベアにより被塗物を移動させて、この塗料カーテンの下を通過させることにより塗装が行われる。被塗物に付着されなかった塗料は回収後タンクに送られ、再度塗装に供される。
【0003】
しかし、従来のフローコーターでは、塗料を循環させる際に塗料中に気泡が入り込みやすく、一度気泡が入り込むとこれを消すことが困難であった。そのため、塗料カーテンが途中で切れてしまう等の不具合が引き起こされるおそれがあった。
【0004】
フローコーターによって塗装を行う場合、均一な塗装を行うためには、上述のカーテン切れ等の不具合を改善し、安定した塗料カーテンを形成させる必要がある。例えば、実公平2−3829号公報(特許文献1)には、塗料供給ヘッド内に塗料を吐出させ、ヘッド内に形成したスリットよりカーテン状に塗料を流下させる塗料供給装置において、複数の穴を有するフィルターを塗料供給ヘッド内に設けることが開示されている。該公報では、複数の穴を有するフィルターを設けることによって、塗料カーテンの均一化を図っている。
しかしながら、塗装に供する塗料がチクソトロピーの大きな塗料である場合において、該公報のようなフィルターを使用すると、塗料がフィルターを通過しづらくなり、効率良く塗装を行うことが困難となる。
【0005】
【特許文献1】実公平2−3829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、チクソトロピーの大きな塗料を塗布する場合において、安定した塗料カーテンを形成することができ、効率の良い塗装が可能となる塗料供給装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、塗料流下用のスリットを有する2つの塗料供給用ヘッドを上下に設置し、それぞれのスリットを特定条件に調整することに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.チクソトロピーを有する塗料を流下させて塗料カーテンを形成させるための塗料供給装置であって、
上下に2つの塗料供給用ヘッドが設けられ、
下方ヘッドは、底部に塗料流下用のスリットを有するとともに、上部に塗料回収口を有するものであり、
上方ヘッドは、底部に塗料流下用のスリットを少なくとも1つ以上有するものであり、
上方ヘッドのスリットは、下方ヘッドのスリットよりもスリット幅が狭いことを特徴とする塗料供給装置。
2.上方ヘッドが、その上部に塗料回収口を有するものであることを特徴とする項1.記載の塗料供給装置。
3.項1.または項2.記載の塗料供給装置を用いて塗料を供給する方法であって、
上部ヘッドからの塗料の吐出量が、下部ヘッドからの塗料の吐出量よりも大きくなるように設定することを特徴とする塗料供給方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料供給装置は、チクソトロピーの大きな塗料を塗布する場合に適した装置である。すなわち、塗装に供する塗料がチクソトロピーの大きな塗料である場合に、安定した塗料カーテンを形成することができ、被塗物に効率良く塗装を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明塗料供給装置の一例を示す図である。
図1に示すように、本発明塗料供給装置は、上下に2つの塗料供給用ヘッドが設けられたものである。このうち、下方ヘッドBは、底部に塗料流下用のスリット2を有するとともに、上部に塗料回収口3を有するものであり、上方ヘッドAは、底部に塗料流下用のスリット1を少なくとも1つ以上有するものである。また、上方ヘッドAの上部には、塗料供給管Cが備えられている。この塗料供給管Cの上流部には、別途ポンプ、塗料タンク等を設けることができる。
【0012】
塗装に使用する塗料5は、塗料供給管Cから、上方ヘッドAに供給され、上方ヘッドAのスリット1を通過し、下方ヘッドBへ流下する。次いで、下方ヘッドBのスリット2を通過し、ここで塗料カーテン6を形成する。この塗料カーテン6の下を、コンベアDにより被塗物Eを移動させることにより塗装が行われる。被塗物Eに付着されなかった塗料は、コンベアDの下方で回収され、ポンプ等により塗料タンクに送られ、再度塗装に供される。各ヘッド上部に設けられた塗料回収口3,4からオーバーフローした塗料も、繰り返し利用することができる。
【0013】
本発明では、上方ヘッドA及び下方ヘッドBの双方に、それぞれスリット1,2が設けられている。塗料の吐出口の形状がこのような形状であることにより、塗料の吐出性を十分に確保することができる。この効果は、スリットでは塗料との接触面積が小さく、ずり応力が低減されるためであると考えられる。
【0014】
上方ヘッドA及び下方ヘッドBにおけるスリット1,2としては、いずれも、長尺方向の長さが短尺方向の幅よりも大であるものが使用できる。スリットの長尺方向の長さは、被塗物Eのサイズに応じて適宜設定すればよい。なお、塗装時においては、通常、下方ヘッドBのスリット2の長尺方向と被塗物Eの移動方向が直交するように、下方ヘッドBとコンベアD等を設置すればよい。上方ヘッドAのスリット1は、通常、下方ヘッドBのスリット2と平行状態となるように設置すればよいが、それぞれのスリットの方向が異なるように設置することもできる。
【0015】
本発明において、上方ヘッドAのスリット1は、下方ヘッドBのスリット2よりもスリット幅が狭く設定されている。本発明では、このような条件にスリット幅を設定することにより、気泡によるカーテン切れが防止され、安定した塗料カーテンが得られる。その作用機構については明らかではないが、塗料が上方ヘッドAのスリットを通過する際に塗料に大きな圧力がかかり、スリット通過後にその圧力が一気に開放され、その際に破泡作用がはたらくためと考えられる。なお、本発明におけるスリット幅とは、スリットの短尺方向の幅のことである。
【0016】
上方ヘッドAのスリット幅は、通常10mm以下、好ましくは5mm以下とする。上方ヘッドAのスリット幅の下限は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上とすればよい。下方ヘッドBのスリット幅は、上方ヘッドAのスリット幅より大きく設定すればよい。下方ヘッドBのスリット幅の上限は、通常15mm以下とすればよい。塗装に供する塗料5が骨材を含有する場合は、それぞれのスリット幅がその骨材の粒子径を超える幅となるように設定する。
【0017】
下方ヘッドBには、塗料回収口3が設けられている。この塗料回収口3が具備されていることにより、スリット2からの塗料の吐出量を一定に保つことができ、塗料カーテン6の安定化を図ることができる。
本発明では、上方ヘッドAの上部に塗料回収口4を設けることもできる。上方ヘッドAに塗料回収口4を設けることにより、上方ヘッドA内に発生した気泡を効率良く除去することができる。
【0018】
本発明塗料供給装置を用いて塗装を行う際には、上方ヘッドAからの塗料の吐出量が、下方ヘッドBからの塗料の吐出量よりも大きくなるように設定することが望ましい。塗料の吐出量をこのような条件を満たすようにするためには、図1に示すように上方ヘッドAのスリット1を2つ以上設けることが望ましい(図1では2つ設けられている)。
塗料の吐出量は、本発明の効果が阻害されない範囲内において、ヘッドの形状や容量、スリット幅、スリット数等を適宜設定することで調整することができる。
【0019】
本発明塗料供給装置は、チクソトロピーを有する塗料の塗装において優れた効果を発揮するものである。ここで、チクソトロピーを有する塗料としては、チクソトロピーインデックスが1.5以上(好ましくは2以上、より好ましくは2〜4)であるものが使用できる。本発明によれば、このような塗料を使用する場合においても、安定した塗料カーテン6が形成でき、被塗物Eに効率良く塗装を行うことができる。さらに、本発明では塗装に使用する塗料の粘度が0.1〜40Pa・s(さらには5〜20Pa・s)である場合に、特に優れた効果を得ることができる。
【0020】
なお、本発明における粘度は、BH型粘度計による20rpmにおける粘度(4回転目の指針値)を測定することにより求められる値である。チクソトロピーインデックス(TI)は、BH型粘度計を用い、下記式により求められる値である。いずれも測定温度は23℃である。
<式>TI=η1/η2
(式中、η1は2rpmにおける粘度(Pa・s:2回転目の指針値)。η2は20rpmにおける粘度(Pa・s:4回転目の指針値))
【0021】
このような塗料の中でも、特に骨材を含有する塗料を使用した場合において、本発明の効果は顕著となる。骨材の粒子径は、通常20〜2000μm、好ましくは50〜500μmである。塗料中の骨材含有量は、通常30〜80重量%、好ましくは40〜60重量%である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0023】
(実施例)
塗料として、アクリル樹脂エマルション、着色骨材等を主成分とする塗料(粘度10Pa・s、チクソトロピーインデックス3.0、着色骨材の粒子径50〜500μm、塗料中の着色骨材含有量50重量%)を使用し、図1に示す塗料供給装置を用いて、実際に塗装を行った。なお、下方ヘッドBのスリット幅は2mm、スリットの長さ(長尺方向)は350mmとし、このスリット2からの塗料の吐出量は3kg/minに設定した。また、上方ヘッドAのスリット幅は1.8mmとした。その結果、塗料カーテン6において、カーテン切れはみられず、均一なカーテンが形成された。
コンベアDにより被塗物E(ステンレス板)を移動させ、この塗料カーテン6の下を通過させた。塗装直後の被塗物Eの状態を目視にて確認したところ、気泡の発生は認められなかった。
塗装後の被塗物Eを、140℃下で10分間乾燥させたところ、その塗膜状態も良好であった。
【0024】
(比較例)
図1に示す塗料供給装置において、上方ヘッドAを除き、塗料が塗料供給管Cから直接下方ヘッドBに供給されるように設置した。この場合に、実施例1と同じ塗料を用いて同様に塗装を行った。その結果、カーテン切れが発生し、均一な塗装を行うことができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明塗料供給装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
A:上方ヘッド
B:下方ヘッド
C:塗料供給管
D:コンベア
E:被塗物
1:スリット
2:スリット
3:塗料回収口
4:塗料回収口
5:塗料
6:塗料カーテン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チクソトロピーを有する塗料を流下させて塗料カーテンを形成させるための塗料供給装置であって、
上下に2つの塗料供給用ヘッドが設けられ、
下方ヘッドは、底部に塗料流下用のスリットを有するとともに、上部に塗料回収口を有するものであり、
上方ヘッドは、底部に塗料流下用のスリットを少なくとも1つ以上有するものであり、
上方ヘッドのスリットは、下方ヘッドのスリットよりもスリット幅が狭いことを特徴とする塗料供給装置。
【請求項2】
上方ヘッドが、その上部に塗料回収口を有するものであることを特徴とする請求項1記載の塗料供給装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の塗料供給装置を用いて塗料を供給する方法であって、
上部ヘッドからの塗料の吐出量が、下部ヘッドからの塗料の吐出量よりも大きくなるように設定することを特徴とする塗料供給方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−102659(P2006−102659A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293368(P2004−293368)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】