説明

塗膜形成方法および塗膜形成装置

【課題】気泡の発生を防止し得る塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】一方の面における中央部位14aが突出形成された基材14の一方の面に塗膜をスピンコートする際に、中央部位14aの外縁側に形成された円環状の段差部14cの外周側から段差部14cの内周側に亘る円環領域内に外周側から塗液Rを滴下した後に、基材14を高速回転させて滴下した塗液Rを一方の面の全域に展延して塗膜を形成する。この塗膜形成方法により、塗液による空気の巻き込みを抑制することができる結果、塗膜内での気泡の発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の面における中央部分に段差部が円環状に形成された基材上に塗膜を形成する塗膜形成方法および塗膜形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の塗膜形成方法として、特開平10−320850号公報に開示された塗膜形成方法が知られている。この塗膜形成方法では、塗液をスピンコートする際に、一主面の中央に凸部が形成されることによってこの一主面側に段差部を有する基材に対して、その凸部上に塗液を円環状に供給することによって凸部と基材の一主面との段差部に行き渡るように塗液を供給し、基材を高速回転させることによって塗液を展延して一主面に塗布している。
【0003】
この塗膜形成方法によれば、一主面側に段差部を有する基材におけるこの段差部に行き渡るように塗液を供給した後、基材の回転速度を上昇させて塗液を塗布することにより、凸部上に供給された塗液の進行が段差部によって阻害されるのを回避できるため、塗液を均等に拡げることができる結果、膜厚の均一性を向上させることができる。また、段差部によって塗布開始位置を明確にできるため、塗布開始位置における回転中心からの半径のばらつきを抑えることができる結果、膜厚の所定の半径における周方向のばらつきを抑えることができる。したがって、膜厚の均一な塗膜を形成することが可能となっている。
【特許文献1】特開平10−320850号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この従来の塗膜形成方法には、以下の問題点がある。すなわち、この従来の塗膜形成方法では、図9に示すように、基材51の中央に形成された凸部51aに塗液Rを円環状に供給することにより、凸部51a上から段差部51cを介して基材51の一主面51bに塗液Rを行き渡らせている。この場合、段差部51cの壁面を伝って落下する塗液Rの先端部(下端部)の断面形状は、表面張力によって同図に示すようにティアドロップ形状になる。このため、塗液Rの先端部における最下部が一主面51bに当接した時点で、塗液R、一主面51bおよび段差部51cで囲まれた空間内に空気が閉じ込められる。したがって、その後に、塗液Rがこの空間に行き渡る過程において空間内の空気が塗液R中に巻き込まれる結果、形成された塗膜全域に気泡が発生するおそれがあるという問題点が存在する。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、気泡の発生を防止し得る塗膜形成方法および塗膜形成装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本発明に係る塗膜形成方法は、一方の面における中央部位が突出形成された基材の当該一方の面に塗膜をスピンコートする際に、前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の外周側から当該段差部の内周側に亘る円環領域内に当該外周側から塗液を滴下した後に、当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下した塗液を当該一方の面の全域に展延して前記塗膜を形成する。
【0007】
また、本発明に係る塗膜形成方法は、一方の面における中央部位が凹んだ基材の当該一方の面に塗膜をスピンコートする際に、前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の内周側から当該段差部の外周側に亘る円環領域内に当該内周側から塗液を滴下した後に、当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下した塗液を当該一方の面の全域に展延して前記塗膜を形成する。
【0008】
上記目的を達成すべく本発明に係る塗膜形成装置は、一方の面における中央部位が突出形成された基材を回転させる回転駆動部と、前記一方の面に塗液を滴下する滴下部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記滴下部を制御して前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の外周側から当該段差部の内周側に亘る円環領域内に当該外周側から塗液を滴下させた後に、前記回転駆動部を制御して当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下させた塗液を当該一方の面の全域に展延させて前記塗膜を形成させる。
【0009】
また、本発明に係る塗膜形成装置は、一方の面における中央部位が凹んだ基材を回転させる回転駆動部と、前記一方の面に塗液を滴下する滴下部と、制御部とを備え、前記制御部は、前記滴下部を制御して前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の内周側から当該段差部の外周側に亘る円環領域内に当該内周側から塗液を滴下させた後に、前記回転駆動部を制御して当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下させた塗液を当該一方の面の全域に展延させて前記塗膜を形成させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る塗膜形成方法および塗膜形成装置によれば、一方の面における段差部を含んで段差部の外周側から内周側に亘る円環領域内に外周側から塗液を滴下することにより、塗液による空気の巻き込みが最も発生し易い基材における他の部位と段差部とのコーナー部の全周に対して、他の部位(低位)上に滴下した塗液のうちの厚みの最も薄い先端部分から行き渡らせることができる。このため、塗液の先端部分が段差部に達したときに、塗液と他の部位と段差部との間に空間(隙間)を形成しにくくすることができる。したがって、塗液による空気の巻き込みを抑制することができる結果、塗膜内での気泡の発生を防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る塗膜形成方法および塗膜形成装置によれば、一方の面における段差部を含んで段差部の内周側から外周側に亘る円環領域内に内周側から塗液を滴下することにより、塗液による空気の巻き込みが最も発生し易い基材における中央部位と段差部とのコーナー部の全周に対して、中央部位(低位)上に滴下した塗液のうちの厚みの最も薄い先端部分から行き渡らせることができる。このため、塗液の先端部分が段差部に達したときに、塗液と中央部位と段差部との間に空間(隙間)を形成しにくくすることができる。したがって、塗液による空気の巻き込みを抑制することができる結果、塗膜内での気泡の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る塗膜形成装置および塗膜形成方法の最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
最初に、樹脂層形成装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0014】
樹脂層形成装置1は、本発明における塗膜形成装置に相当し、図1に示すように、ターンテーブル2、回転駆動部3、ノズル4、塗液供給部5、移動部6、エネルギー線照射部7および制御部8を備えて構成されている。この樹脂層形成装置1は、一例として、図2に示すように、主要な機能層としての情報層12と、情報層12を覆うようにして形成された樹脂層13とが基材14の表面側に積層されて構成された情報記録媒体(本例では光記録媒体)11の製造時において、本発明に係る塗膜形成方法に従って本発明における塗膜としての樹脂層13をスピンコートによって形成するために使用される。この場合、光記録媒体11は、同図に示すように、樹脂層13側からレーザービームが照射されることによってデータの記録および読出しが可能に構成されている。したがって、樹脂層13は、光透過層として機能する。基材14は、例えば、直径が120mm程度で厚みが1.2mm程度の円板状(平板形状)に形成されている。また、基材14は、同図に示すように、情報層12側の表面(本発明における一方の面)における中央部位14a(基材14の軸線を中心とした平面視円環状の領域)が、他の部位14b(中央部位14aよりも外周側の部位)と比較して若干厚く形成されている。この構成により、中央部位14aと他の部位14bとを区画する円環状の段差部14cが基材14の中央部分に形成され、この段差部14cの内周側(中央部位14a)が外周側(他の部位14b)に対して突出している。また、基材14の中央部位14aには、ドライブ装置に装着するための直径15mm程度の装着用の中心孔14dが形成されている。さらに、基材14における他の部位14bの表面には、配列ピッチが例えば0.32μmのグルーブパターン(図示せず)が形成されている。情報層12は、一例として、反射層、誘電体層および相変化型記録層等が積層されて構成されている。
【0015】
ターンテーブル2は、全体として円板状に形成されて、図3に示すように、その表面(同図中の上面)における中心部には、基材14の中心孔14dに嵌め込み可能な環状突起2aが形成されている。また、ターンテーブル2の裏面(同図中の下面)における中心部には、回転駆動部3の回転軸(図示せず)に連結されるシャフト2bが取り付けられている。回転駆動部3は、モータ等で構成されると共に、制御部8によって制御されて、ターンテーブル2(およびターンテーブル2に載置された基材14)をその軸線を中心として回転させる。塗液供給部5は、ノズル4と共に本発明における滴下部を構成すると共に、制御部8によって制御されて、樹脂層13形成用の例えば紫外線硬化型の塗液R(ウレタンアクリレートなどの樹脂材料)をノズル4に供給することにより、ノズル4から塗液Rを吐出させて基材14(情報層12)の上に滴下する。移動部6は、制御部8によって制御されて、ターンテーブル2の上方においてノズル4を移動させる。
【0016】
エネルギー線照射部7は、ターンテーブル2の上方に配設されて、制御部8の制御に従ってターンテーブル2(具体的には、ターンテーブル2に載置された基材14)に向けて紫外線(エネルギー線の一例)を照射することにより、基材14の表面に塗布された塗液Rを硬化させる。制御部8は、CPUおよびメモリを備え、メモリに予め記憶された動作プログラムに従って作動して、回転駆動部3、塗液供給部5、移動部6およびエネルギー線照射部7を制御する。
【0017】
次に、樹脂層形成装置1を用いた基材14への樹脂層13の形成方法(スピンコートによる形成方法)について、図面を参照して説明する。なお、グルーブパターンが形成された基材14の表面側には、反射層、誘電体層、相変化型記録層および誘電体層がこの順序で積層されて情報層12が形成されているものとする。
【0018】
まず、図3に示すように、情報層12が形成された面を上向きにした状態で、環状突起2aに中心孔14dを嵌め込んでターンテーブル2に基材14を載置する。続いて、図4に示すように、環状突起2aの内側に閉塞部材15の凸部15bを嵌め込むことによって基材14の中心孔14dを閉塞する。
【0019】
次いで、樹脂層形成装置1を作動させる。これに応じて、制御部8が、回転駆動部3を制御することにより、例えば120rpmの低速でターンテーブル2を回転させる。これにより、基材14および閉塞部材15もターンテーブル2と共に回転(軸線を中心とした回転)を開始する。続いて、制御部8は、移動部6を制御してノズル4を図4に示すように基材14の中央部分に移動させると共に、塗液供給部5を制御して塗液Rを所定量だけノズル4に供給させることにより、段差部14cを挟んで段差部14cの外周側から段差部14cの内周側に亘る円環領域Aに含まれる閉塞部材15の本体部15aおよび基材14の中央部分に塗液Rを滴下する。この際に、制御部8は、図5に示すように、まず、基材14における段差部14cよりも若干外周側(基材14の他の部位14bにおける段差部14cの近傍)の上方にノズル4を移動させると共に、ノズル4への塗液Rの供給を開始させる。これにより、ノズル4から塗液Rが基材14上に滴下し始める。次いで、制御部8は、ノズル4から塗液Rを滴下させつつ、段差部14c上を経由して段差部14cの内周側に位置する閉塞部材15の本体部15aの上方までノズル4を移動させる。また、制御部8は、その後、滴下した塗液Rが所定量に達したときに、ノズル4への塗液Rの供給を停止させる。これにより、塗液Rは、段差部14cよりも若干外周側の位置から本体部15aの上方に亘る円環領域A内にこの外周側から順次渦巻き状に滴下されて、円環領域Aの全域に塗布される。具体的には、塗液Rは、まず、基材14の他の部位14bにおける段差部14cの近傍全周に滴下され、次いで、段差部14c全周に滴下され、次いで、基材14の中央部位14aおよび本体部15aに環状に滴下される。このように、基材14の他の部位14b、段差部14cおよび基材14の中央部位14aの順に、すなわち基材14における低位側から高位側へと塗液Rを順次滴下することにより、塗液Rによる空気の巻き込みが最も発生し易い基材14における他の部位14bと段差部14cとのコーナー部には、他の部位14b(低位)上に滴下した塗液Rが水平方向に拡がるようにして供給されて、塗液Rがこのコーナー部に行き渡る。この場合、基材14における他の部位14b上に滴下した塗液Rは、その外縁部分(先端部分)の厚みが最も薄くなる。このため、外縁部分の断面形状もティアドロップ形状になり難くなる。したがって、塗液が段差部の上側から段差部の壁面を伝って下側に供給される従来の方法と比較して、塗液Rが段差部14cに達したときに、塗液Rと他の部位14bと段差部14cとの間で空間(隙間)を形成しにくくできるために、塗液Rによる空気の巻き込みが抑制される。
【0020】
次いで、制御部8は、回転駆動部3を制御することにより、ターンテーブル2の回転速度(つまり基材14の回転速度)を上昇させて、塗液Rをほぼ均一な厚みに展延するのに適した高速回転状態を維持して、基材14における円環領域A内に滴下した塗液Rを基材14の表面全域に展延させると共に、余分な塗液Rを振り切る。これにより、図6に示すように、塗液Rが、基材14の表面に均一な厚みで、かつ情報層12を覆うようにしてスピンコートされる。次いで、制御部8は、エネルギー線照射部7を作動させて塗液Rに向けて紫外線を照射させる。この紫外線の照射によって塗液Rが硬化して、樹脂層13が形成される。次いで、制御部8は、回転駆動部3を制御してターンテーブル2の回転を停止させる。これにより、樹脂層形成装置1による樹脂層13の形成が完了して、光記録媒体11が完成する。
【0021】
このように、この樹脂層形成装置1および樹脂層形成方法によれば、段差部14cの内周側の中央部位14aが段差部14cの外周側の他の部位14bから突出する基材14に対して、段差部14cを含んで段差部14cの外周側から内周側に亘る円環領域Aの全域に外周側から塗液Rを渦巻き状に滴下することにより、塗液Rによる空気の巻き込みが最も発生し易い基材14における他の部位14bと段差部14cとのコーナー部の全周に対して、他の部位14b(低位)上に滴下した塗液Rのうちの厚みの最も薄い先端部分から行き渡らせることができる。このため、塗液Rの先端部分が段差部14cに達したときに、塗液Rと他の部位14bと段差部14cとの間に空間(隙間)を形成しにくくすることができる。したがって、塗液Rによる空気の巻き込みを抑制することができる結果、樹脂層13内での気泡の発生を防止することができる。
【0022】
なお、本発明に係る樹脂層形成装置および樹脂層形成方法は、上記した樹脂層形成装置1および樹脂層形成方法に限定されない。例えば、図7に示すように、情報層12が形成される面(本発明における一方の面)における中央部分に段差部24cが円環状に形成されると共に、段差部24cの内周側が外周側に対して凹む基材24に樹脂層13を形成する際には、後述する樹脂層形成装置1Aおよび樹脂層形成方法を採用することができる。以下、この樹脂層形成装置1Aおよび樹脂層形成方法について説明する。
【0023】
最初に、樹脂層形成装置1Aの構成について、図面を参照して説明する。なお、樹脂層形成装置1と同一の構成については同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0024】
樹脂層形成装置1Aは、図1に示すように、ターンテーブル2、回転駆動部3、ノズル4、塗液供給部5、移動部6、エネルギー線照射部7および制御部8Aを備えて構成されている。制御部8Aは、CPUおよびメモリを備え、メモリに予め記憶された動作プログラムに従って作動して、回転駆動部3、塗液供給部5、移動部6およびエネルギー線照射部7を制御する。
【0025】
この樹脂層形成装置1Aによって樹脂層13が形成される基材24は、一例として、図7に示すように、情報層12と、情報層12を覆うようにして形成された樹脂層13とが基材24の表面(本発明における一方の面)に積層されて構成された光記録媒体21の製造時において、樹脂層13を形成するために使用される。この場合、光記録媒体21は、同図に示すように、樹脂層13側からレーザービームが照射されることによってデータの記録および読出しが可能に構成されている。基材24は、情報層12側の表面における中央部位24a(基材24の軸線を中心とした平面視円環状の領域)が、中央部位24aよりも外周側の他の部位24bと比較して若干薄く形成されている。この構成により、中央部位24aと他の部位24bとを区画する円環状の段差部24cが基材24の中央部分に形成され、この段差部24cの内周側(中央部位24a)が外周側(他の部位24b)に対して凹んでいる。また、基材24の中央部位24aには、ドライブ装置に装着するための直径15mm程度の装着用の中心孔24dが形成されている。さらに、基材24における他の部位24bの表面には、配列ピッチが例えば0.32μmのグルーブパターン(図示せず)が形成されている。
【0026】
次に、樹脂層形成装置1Aを用いた基材24への樹脂層13の形成方法について、図面を参照して説明する。なお、グルーブパターンが形成された基材14の表面側には、反射層、誘電体層、相変化型記録層および誘電体層がこの順序で積層されることにより、情報層12が形成されているものとする。なお、樹脂層形成装置1Aによって実行される樹脂層13の形成方法は、一部を除き、樹脂層形成装置1によって実行される形成方法とほぼ同じに実行される。したがって、相違する動作を中心に説明し、重複する動作についての説明を省略する。
【0027】
この樹脂層形成装置1Aでは、閉塞部材15の本体部15aおよび基材24の中央部分への塗液Rの滴下に際して、制御部8Aが、図8に示すように、まず、閉塞部材15の本体部15aの上方にノズル4を移動させると共にノズル4への塗液Rの供給を開始させ、次いで、基材24の中央部位24aおよび段差部24cの各上方を経由して基材24における他の部位24bの上方にノズル4を移動させる。これにより、図示はしないが、樹脂層形成装置1と同様にして、基材24の情報層12側の表面における段差部24cを含んで段差部24cの内周側から外周側に亘る円環領域Aの全域に内周側から塗液Rが渦巻き状に滴下(供給)される。
【0028】
このように、この樹脂層形成装置1Aによれば、段差部24cの内周側の中央部位24aが段差部24cの外周側の他の部位24bよりも凹んだ基材24に対して、段差部24cを含んで段差部24cの内周側から外周側に亘る円環領域Aの全域に内周側から塗液Rを渦巻き状に滴下することにより、塗液Rによる空気の巻き込みが最も発生し易い基材24における中央部位24aと段差部24cとのコーナー部の全周に対して、中央部位24a(低位)上に滴下した塗液Rのうちの厚みの最も薄い先端部分から行き渡らせることができる。このため、塗液Rの先端部分が段差部24cに達したときに、塗液Rと中央部位24aと段差部24cとの間に空間(隙間)を形成しにくくすることができる。したがって、塗液Rによる空気の巻き込みを抑制することができる結果、樹脂層13内での気泡の発生を防止することができる。
【0029】
なお、上記した例では、情報層12を覆う樹脂層13を形成する例について説明したが、本発明における樹脂層形成装置1,1Aおよび樹脂層形成方法は、他の樹脂層を形成するときにも適用できるのは勿論である。また、光記録媒体以外の記録媒体、例えば、光磁気記録媒体およびディスクリートトラック媒体等の情報記録媒体において樹脂層を形成するときにも適用できるのは勿論である。また、制御部8(8A)が互いに異なる樹脂層形成装置1および樹脂層形成装置1Aについて説明したが、これに限らず、1つの制御部8を備えた樹脂層形成装置1に対して、基材14および基材24の双方の各樹脂層を形成させることもできる。この構成では、基材14,24用の動作プログラムを制御部8に予め記憶させ、樹脂層形成対象の基材14(または24)に応じて動作プログラムを切り替えて制御部8を作動させる。この構成によれば、1つの樹脂層形成装置1で2通りの樹脂層形成方法を実行させることができるため、装置のコストを実質的に低減することができる。
【0030】
さらに、図9に示す情報記録媒体(本例では光記録媒体)用の中間体31の製造に本発明を適用することができる。なお、光記録媒体11の各構成要素と同等の機能を有するものについては、同一の符号を付して重複した説明を省略する。この場合、中間体31では、スピンコートを行う際の位置決め用の中心孔35が基材34の中心部に形成されると共にその中心孔35の外縁部に円筒状の突起部36が形成されている。また、基材34は、同図に示すように、情報層12側の表面(本発明における一方の面)における中央部位34a(基材14の軸線を中心とした平面視円環状の領域)が、他の部位34b(中央部位34aよりも外周側の部位)と比較して若干厚く形成されている。この構成により、中央部位34aと他の部位34bとを区画する円環状の段差部34cが基材34の中央部分に形成され、この段差部34cの内周側(中央部位34a)が外周側(他の部位34b)に対して突出している。また、基材34における他の部位34bの表面には、配列ピッチが例えば0.32μmのグルーブパターン(図示せず)が形成されている。
【0031】
この中間体31を製造する際には、上記した基材14に対する塗液Rの塗布処理と同様にして、制御部8が、移動部6を制御してノズル4を基材34の中央部分に移動させると共に、塗液供給部5を制御して塗液Rを所定量だけノズル4に供給させることにより、段差部34cを挟んで段差部34cの外周側から段差部34cの内周側の突起部36の外壁に亘る円環状の中央部位34aに塗液Rを滴下する。この際に、突起部36は、塗液Rの中心孔35への侵入を阻止する。この後、制御部8は、滴下した塗液Rが所定量に達したときに、ノズル4への塗液Rの供給を停止させる。これにより、塗液Rは、中央部位34a内にこの外周側から順次渦巻き状に滴下されて、中央部位34aの全域に塗布される。この中間体31でも、塗液Rによる空気の巻き込みが最も発生し易い基材34における他の部位34bと段差部34cとのコーナー部には、他の部位34b上に滴下した塗液Rが水平方向に拡がるようにして供給されて、塗液Rがこのコーナー部に行き渡る。したがって、基材14に対する塗液Rの塗布処理時と同様にして、従来の方法と比較して、塗液Rが段差部34cに達したときに、塗液Rと他の部位34bと段差部34cとの間で空間(隙間)を形成しにくくできるために、塗液Rによる空気の巻き込みが抑制される。なお、この中間体31では、樹脂層13および他の機能層の形成処理が完了した後に、中心孔35の軸線に沿って図示しない打ち抜き刃で打ち抜かれることにより、ドライブ装置に装着するための直径15mm程度の装着用中心孔が基材34の中心に形成される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】樹脂層形成装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】光記録媒体11の断面図である。
【図3】ターンテーブル2、基材14および閉塞部材15の断面図である。
【図4】ノズル4から塗液Rを滴下している状態のターンテーブル2、基材14および閉塞部材15の断面図である。
【図5】基材14および閉塞部材15への塗液Rの滴下方法を説明するための段差部14c近傍の基材14および閉塞部材15の拡大断面図である。
【図6】塗液Rが基材14の表面にスピンコートされた状態における、ターンテーブル2、基材14、情報層12、閉塞部材15および塗液Rの断面図である。
【図7】光記録媒体21の断面図である。
【図8】基材24および閉塞部材15への塗液Rの滴下方法を説明するための段差部24c近傍の基材24および閉塞部材15の拡大断面図である。
【図9】中間体31の断面図である。
【図10】基材51への塗液Rの従来の滴下方法を説明するための段差部51c近傍の基材51の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 樹脂層形成装置
3 回転駆動部
4 ノズル
5 塗液供給部
6 移動部
8,8A 制御部
13 樹脂層
14,24,34 基材
14a,24a,34a 中央部位
14b,24b,34b 他の部位
14c,24c,34c 段差部
A 円環領域
R 塗液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面における中央部位が突出形成された基材の当該一方の面に塗膜をスピンコートする際に、
前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の外周側から当該段差部の内周側に亘る円環領域内に当該外周側から塗液を滴下した後に、当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下した塗液を当該一方の面の全域に展延して前記塗膜を形成する塗膜形成方法。
【請求項2】
一方の面における中央部位が凹んだ基材の当該一方の面に塗膜をスピンコートする際に、
前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の内周側から当該段差部の外周側に亘る円環領域内に当該内周側から塗液を滴下した後に、当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下した塗液を当該一方の面の全域に展延して前記塗膜を形成する塗膜形成方法。
【請求項3】
一方の面における中央部位が突出形成された基材を回転させる回転駆動部と、前記一方の面に塗液を滴下する滴下部と、制御部とを備え、
前記制御部は、前記滴下部を制御して前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の外周側から当該段差部の内周側に亘る円環領域内に当該外周側から塗液を滴下させた後に、前記回転駆動部を制御して当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下させた塗液を当該一方の面の全域に展延させて前記塗膜を形成させる塗膜形成装置。
【請求項4】
一方の面における中央部位が凹んだ基材を回転させる回転駆動部と、前記一方の面に塗液を滴下する滴下部と、制御部とを備え、
前記制御部は、前記滴下部を制御して前記中央部位の外縁側に形成された円環状の段差部の内周側から当該段差部の外周側に亘る円環領域内に当該内周側から塗液を滴下させた後に、前記回転駆動部を制御して当該基材の回転速度を上昇させて前記滴下させた塗液を当該一方の面の全域に展延させて前記塗膜を形成させる塗膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−35082(P2006−35082A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218138(P2004−218138)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】