説明

塗装ガン、及び、その塗装ガンを用いた塗装方法

【課題】マスキング処理を不要化し得る塗装ガン及び塗装方法を提供する。
【解決手段】ガン先端部1aをガン基体部1bに対して回転軸芯Q周りでの駆動回転操作が可能な状態に連結し、被塗物に向けて塗料を噴出させる塗料ノズル2a〜2dを回転軸芯Qから偏心させた位置でガン先端部1aに取り付ける。そして、被塗物における塗装禁止部の周囲部位を塗装する際には、回転軸芯Qが塗装禁止部の中心に対して直交する位置にガン先端部1aを位置させ、かつ、その位置でガン先端部1aを回転軸芯Q周りで駆動回転させて塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを回転軸芯Q周りで円弧状に回転移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車ボディの床下部を高粘度塗料により塗装する場合などに用いる塗装ガン、及び、その塗装ガンを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗装ガンを用いて自動車ボディなどの被塗物を塗装するのに、例えば図4に示す如き立込ボルトXなどが被塗物Wに存在する場合、塗装後における立込ボルトXの使用に支障を来たすことが無いようにするため、立込ボルトX及びその周り部分X′(即ち、ボルト連結物に対する座面部分)を塗装禁止部Kとして、その塗装禁止部Kにマスキング処理を施した状態で被塗物Wを塗装するようにしていた。
【0003】
なお、特許文献1には静電塗装用の塗装ガンが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−153559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マスキング処理を施すには手間と時間を要し、また、塗装後においてマスキング材を除去するのにも手間と時間を要し、この為、被塗物に上記の如き塗装禁止部がある場合には、塗装作業の能率が大幅に低下するとともに作業コストも嵩む問題があった。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、上記の如き問題を効果的に解消することができる塗装ガン及び塗装方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は塗装ガンに係り、その特徴は、
ガン先端部をガン基体部に対して回転軸芯周りでの駆動回転操作が可能な状態に連結し、
被塗物に向けて塗料を噴出させる塗料ノズルを前記回転軸芯から偏心させた位置で前記ガン先端部に取り付けてある点にある。
【0008】
つまり、この構成の塗装ガンよれば、ガン先端部をガン基体部に対して回転軸芯周りで駆動回転させることにより、塗料ノズルを回転軸芯周りで円弧状に回転移動(即ち、回転軸芯からの偏心量を半径とする円運動状態で移動)させることができ、この円弧状の回転移動において塗料ノズルから塗料噴出させれば、被塗物に対してドーナツ状の塗装パターンを描くことができる。
【0009】
したがって、前述した立込ボルトなどの突出物とその周り部分、あるいは、ボルト孔などの穴部とその周り部分のような塗装禁止部が被塗物に存在する場合、回転軸芯が塗装禁止部の中心に対して直交する位置にガン先端部を位置させた状態で、上記の如くガン先端部を回転軸芯周りで駆動回転させて塗料ノズルを円弧状に回転移動させるようにすれば、塗装禁止部に塗装を施すことなく被塗物における塗装禁止部の周囲部位のみをドーナツ状に塗装することができる。
【0010】
即ち、このことにより塗装禁止部に対するマスキング処理を不要にすることができて、塗装作業能率を大幅に高めることができ、また、作業コストも大幅に低減することができる。
【0011】
ちなみに、ドーナツ状の塗装パターンを描くには、塗装ガンの全体を円弧状に回転移動させる方式や、塗料ノズルを回転軸芯上に配置して回転軸芯に対し傾斜する姿勢でガン先端部に取り付け、このガン先端部をガン基体部に対して回転軸芯周りで駆動回転させる方式なども考えられるが、前者の場合、塗装ガンの移動操作が煩雑になり、また、塗装ガンを装備した塗装ロボットの動作制御が複雑になって難しくなる問題が生じる。
【0012】
また後者の場合、被塗物と塗料ノズルとの離間寸法が規定される条件下においてドーナツ状塗装パターンの径を十分に確保しようとすると回転軸芯に対する塗料ノズルの傾斜角度を大きくしなければならず、この為、被塗物の表面に対してきつい斜め方向から塗料を吹き付ける状態になってドーナツ状塗装パターンの内径側部分と外径側部分との間で塗装ムラが生じ易くなる問題が生じる。
【0013】
これに対し、上記構成の塗装ガンによれば、塗装ガンの移動操作を伴わずにガン先端部の円弧状の駆動回転だけでドーナツ状の塗装パターンを描くことができるから、塗装ガンの移動操作を容易にすることができ、また、基本的に回転軸芯に対する塗料ノズルの偏心配置をもってドーナツ状塗装パターンを描くから、被塗物の表面に対してきつい斜め方向から塗料を吹き付けるといったことも回避することができて、塗装ムラのない良好なドーナツ状塗装パターンを描くことができる。
【0014】
また一方、前述した特許文献1に示されるように、静電塗装用の塗装ガンはドーナツ状の塗装パターンを描くことが知られているが(多くの場合は欠点として)、この静電塗装用の塗装ガンで得られるドーナツ状の塗装パターンは同時に噴霧した塗料粒子の分散パターンとして描かれるものであるため、図8に示す如く内側及び外側ともに輪郭が不明確なものであって、ドーナツ状塗装パターンTP′の中心部においても少なからず塗料粒子が分散している。
【0015】
したがって、このような静電塗装用の塗装ガンが描くドーナツ状の塗装パターンをもって塗装禁止部の周囲部位を塗装禁止部に対するマスキング処理のない状態で塗装するのでは、塗装禁止部へも塗料粒子が被るオーバースプレーが生じてしまい、また、このオーバースプレーを防止するためドーナツ状塗装パターンの径を大きくすると、塗装禁止部の周囲部位に対する塗装において塗り残しや塗装不足を生じてしまう。
【0016】
これに対し、上記構成の塗装ガンであれば、塗料ノズルそのものを円弧状に回転移動させてドーナツ状の塗装パターンを言わば一筆書きの如く描くから、図5に如き輪郭が明確なドーナツ状の塗装パターンTPを描くことができて、ドーナツ状塗装パターンTPの中心部(即ち、塗装禁止部)に対するオーバースプレーを確実に回避するとともに、塗装禁止部の周囲部位に対する塗装において塗り残しや塗装不足を生じることも確実に回避することができる。
【0017】
なお、第1特徴構成の実施において塗料ノズルは圧縮エアを用いずに塗料を噴出するエアレス型のものが好適であるが、必ずしもエアレス型に限らず各種噴出形式の塗料ノズルを採用することができる。
【0018】
塗料ノズルにおける塗料噴出口部の構造は、スプレーパターンの断面形状が扁平形状となるスリット構造が好適であり、また、この場合、その扁平形状の長軸方向が回転軸芯からの半径方向となる取り付け姿勢で塗料ノズルをガン先端部に取り付けるのが好適であるが、塗料噴出口部の構造は必ずしもスリット構造に限られるものではなく、スプレーパターンの断面形状が充円形状や充楕円形状あるいは充四角形状になるものであってもよい。
【0019】
また、塗料ノズルから噴出させる塗料は高粘度のものが好適であるが、必ずしも高粘度塗料に限られるものではない。
【0020】
第1特徴構成の実施においては、塗料ノズルから噴出させる塗料を複数種の塗料のなかから選択的に切り換える塗料切換手段を装備しておくのが望ましく、この場合、その塗料切換手段は塗装ガンの本体部に装備する形態あるいは塗装ガンを装備した塗装ロボットなどに装備する形態のいずれを採用してもよい。
【0021】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
複数の前記塗料ノズルを、前記回転軸芯に対する傾斜姿勢又は前記回転軸芯からの偏心量が互いに異なる状態で前記回転軸芯周りに並べて前記ガン先端部に取り付け、
これら塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルを選択的に切り換えるパターン径変更用のノズル切換手段を設けてある点にある。
【0022】
つまり、この構成によれば、回転軸芯に対する傾斜姿勢又は回転軸芯からの偏心量が互いに異なる状態でガン先端部に取り付けた上記複数の塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルをパターン径変更用のノズル切換手段により選択的に切り換えるだけで、前述の如き塗料ノズルの円弧状回転移動により描くドーナツ状塗装パターンの径をそのときの塗装禁止部に応じた径に変更することができる。
【0023】
即ち、このことにより種々の塗装禁止部に対する対応性の高い塗装ガンにすることができ、塗装作業能率の向上及び作業コストの低減を一層確実かつ効果的に達成することができる。
【0024】
なお、回転軸芯に対する傾斜姿勢又は回転軸芯からの偏心量を互いに異ならせた状態で回転軸芯周りに並べてガン先端部に取り付ける複数の塗料ノズルは、互いに同種の塗料ノズルあるいは異種の塗料ノズルのいずれであってもよい。
【0025】
また、回転軸芯に対する傾斜姿勢を互いに異ならせる場合、その傾斜姿勢の選択肢の一つは回転軸芯と平行な姿勢であってもよい。
【0026】
パターン径変更用のノズル切換手段は、塗装ガンの本体部に装備する形態あるいは塗装ガンを装備する塗装ロボットなどに装備する形態のいずれを採用してもよい。
【0027】
本発明の第3特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記塗料ノズルとして塗料噴出口部の構造が互いに異なる異種の塗料ノズルを前記回転軸芯周りに並べて前記ガン先端部に取り付け、
これら異種の塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルを選択的に切り換える異種ノズル選択用のノズル切換手段を設けてある点にある。
【0028】
つまり、この構成によれば、ガン先端部に取り付けた上記複数の異種の塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルを異種ノズル選択用のノズル切換手段により選択的に切り換えるだけで、そのときの塗装条件に応じた塗料噴出形態で塗装を行うことができ、この点で利便性及び汎用性の一層高い塗装ガンにすることができる。
【0029】
なお、第3特徴構成の実施において、異種ノズル選択用のノズル切換手段は塗装ガンの本体部に装備する形態あるいは塗装ガンを装備する塗装ロボットなどに装備する形態のいずれを採用してもよい。
【0030】
本発明の第4特徴構成は、第1〜第3特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記塗料ノズルを、前記回転軸芯に対する傾斜姿勢の変更又は前記回転軸芯からの偏心量の変更が可能な状態で前記ガン先端部に取り付けてある点にある。
【0031】
つまり、この構成によれば、前述の如き塗料ノズルの円弧状回転移動により描くドーナツ状塗装パターンの径を上記傾斜姿勢の変更操作又は上記偏心量の変更操作により、そのときの塗装禁止部に応じた径に変更することができ、これにより、種々の塗装禁止部に対する対応性を高めることができる。
【0032】
なお、第4特徴構成の実施においては、塗料ノズルの傾斜姿勢又は偏心量を変更するアクチュエータを塗装ガンの本体部に装備して、それら傾斜姿勢の変更操作や偏心量の変更操作をリモートコントロール的に行なえるようにするのが望ましいが、場合によっては、それら傾斜姿勢の変更操作や偏心量の変更操作を初期設定的に手作業で行なうにしてもよい。
【0033】
本発明の第5特徴構成は、第1〜第4特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記塗料ノズルを、その塗料ノズルの中心軸芯周りでの回転姿勢変更が可能な状態で前記ガン先端部に取り付けてある点にある。
【0034】
つまり、この構成によれば、塗料ノズルをその中心軸芯周りで回転させたときスプレーパターンの断面形状も回転姿勢変化するような塗料ノズルの場合、その塗料ノズルを上記の如く中心軸芯周りで回転姿勢変化させることで、前述の如き塗料ノズルの円弧状回転移動により描くドーナツ状塗装パターンの幅(内外径差)を適宜調整することができ、この点で、種々の塗装禁止部に対する対応性並びに利便性に一層優れた塗装ガンにすることができる。
【0035】
なお、第5特徴構成の実施においては、塗料ノズルをその中心軸芯周りで回転させるアクチュエータを塗装ガンの本体部に装備して、塗料ノズルの回転姿勢変更をリモートコントロール的に行なえるようにするのが望ましいが、場合によっては、その回転姿勢変更を初期設定的に手作業で行なうにしてもよい。
【0036】
本発明の第6特徴構成は、第1〜第5特徴構成のいずれかによる塗装ガンを用いた塗装方法に係り、その特徴は、
被塗物における通常塗装部位を塗装する際には、前記ガン先端部の前記回転軸芯周りでの駆動回転を停止させた状態で、塗料噴出状態にある前記塗料ノズルを被塗物の表面に沿って直線的に平行移動させ、
被塗物における塗装禁止部の周囲部位を塗装する際には、前記回転軸芯が塗装禁止部の中心に対して直交する位置に前記ガン先端部を位置させ、かつ、その位置で前記ガン先端部を前記ガン基体部に対して前記回転軸芯周りで駆動回転させて塗料噴出状態にある前記塗料ノズルを前記回転軸芯周りで円弧状に回転移動させる点にある。
【0037】
つまり、この塗装方法では、被塗物における通常塗装部位ついては、上記の如くガン先端部の回転軸芯周りでの駆動回転を停止させた状態で、塗料噴出状態にある塗料ノズルを被塗物の表面に沿って直線的に平行移動させるように塗装ガンを移動操作することにより、帯状の塗装パターンを連続的に描く形態で被塗物の通常塗装部位を塗装する。
【0038】
なお、ここで言う直線的な平行移動とは例えば蛇行移動における各途中時点の直線的な移動を含むものである。
【0039】
一方、被塗物における塗装禁止部の周囲部位については、上記の如く回転軸芯が塗装禁止部の中心に対して直交する位置にガン先端部を位置させ、その位置でガン先端部をガン基体部に対して回転軸芯周りで駆動回転させて塗料噴出状態にある塗料ノズルを回転軸芯周りで円弧状に回転移動させるように塗装ガンを操作することで、前述の如く塗装禁止部の周りにドーナツ状の塗装パターンを一筆書きの如く描いて、被塗物における塗装禁止部の周囲部位のみをドーナツ状に塗装する。
【0040】
即ち、この塗装方法によれば、被塗物における通常塗装部位並びに塗装禁止部の周囲部位の両方を1つの塗装ガンで塗装することができ、これにより、マスキング処理の不要化と相俟って塗装作業を一層容易にすることができて、塗装作業能率を一層高めることができる。
【0041】
なお、この塗装方法の実施においては、通常塗装部位の塗装を行っている途中において塗装禁止部に到達する毎にドーナツ状の塗装パターンを描いて塗装禁止部の周囲部位を塗装するようにするのが望ましいが、場合によっては、通常塗装部位の塗装に先立ち塗装禁止部の周囲部位をドーナツ状に塗装してしまう作業形態、あるいは逆に、塗装禁止部の周囲部位をドーナツ状に塗装するのに先立ち通常塗装部位を塗装してしまう作業形態などを採用してもよい。
【0042】
また、この塗装方法は、塗装ガンを保持させた塗装ロボットなどによる自動塗装で採用するのに適しているが、場合によっては、作業者が塗装ガンを保持して塗装を行なう手吹き塗装で採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】塗装ガンの側面図
【図2】塗装ガンの正面部
【図3】塗装ガンを装備した塗装ロボットの側面図
【図4】塗装作業形態の説明図
【図5】ドーナツ状の塗装パターンを示す図
【図6】別の実施形態を示す正面図
【図7】別の実施形態を示す斜視図
【図8】静電塗装用の塗装ガンが描く塗装パターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1、図2は塗装ガン1を示し、この塗装ガン1は先部に塗料ノズル2a〜2dを取り付けたガン先端部1aをガン基体部1bの一端側に連結して形成してあり、ガン先端部1aは、ガン中心軸芯Qを回転軸芯として、その回転軸芯Q周りでの駆動回転操作が可能な状態でガン基体部1bに連結してある。
【0045】
また、ガン基体部1bの他端側には塗装ガン1を塗装ロボットの作業アームに連結するフランジ状の連結具1cを取り付けてある。
【0046】
ガン先端部1aの先部(ガン基体部1bとは反対側の端部)には、回転軸芯Qを中心とする同一円周上で回転軸芯Q周りに等間隔に並べて第1〜第4の4個の塗料ノズル2a〜2dを取り付けてあり、第1と第4の塗料ノズル2a,2dは回転軸芯Qと平行な姿勢(即ち、回転軸芯Qと平行する向きに塗料Tを噴出する姿勢、傾斜角度θ=0)でガン先端部1aに取り付けてある。
【0047】
また、第2と第3の塗料ノズル2b,2cは、回転軸芯Qに対して同じ傾斜角度θだけで先方を外側へ傾けた傾斜姿勢(即ち、回転軸芯Qに対して先拡がりの斜め向きに塗料Tを噴出する姿勢)でガン先端部1aに取り付けてある。
【0048】
塗料ノズル2の種類としては、塗料噴出口部pの構造が互いに異なるA種とB種の2種の塗料ノズルを採用してあり、第1と第2の塗料ノズル2a,2bはA種の塗料ノズルにし、第3と第4の塗料ノズル2c,2dはB種の塗料ノズルにしてある。
【0049】
塗装ガン1の内部には、塗料ホース3から供給される塗料Tを各塗料ノズル2a〜2dに送る内部塗料路4をガン基体部1bからガン先端部1aにわたらせて形成してあり、ガン先端部1aには、この内部塗料路4を通じて供給される塗料Tをいずれの塗料ノズル2a〜2dに送るのかを選択的に切り換えるノズル切換弁装置5を内装してある。
【0050】
つまり、このノズル切換弁装置5は、第1〜第4の塗料ノズル2a〜2dのうち塗料噴出させる塗料ノズルを選択的に切り換えるものであり、また、第1〜第4の塗料ノズル2a〜2dの全てを塗料噴出停止状態にする塗装一時停止操作も、このノズル切換弁装置5により行なう。
【0051】
ガン基体部1bには、ガン先端部1aを回転軸芯Q周りで駆動回転させるエアモータなどの回転用駆動装置6を内装してあり、この回転用駆動装置6によりガン先端部1aをガン基体部1bに対して回転軸芯Q周りで駆動回転させることにより、塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを回転軸芯Q周りで円弧状に回転移動(即ち、回転軸芯Qからの偏心量eを半径とする円運動状態で移動)させることができるようにしてある。
【0052】
図3は上記塗装ガン1を作業アーム7aの先端部に取り付けた塗装ロボット7を示し、この塗装ロボット7により塗装ガン1を所定の移動経路に沿って移動操作しながら、いずれかの塗料ノズル2a〜2dを塗料噴出動作させることで、例えば自動車ボディの床下部を高粘度塗料Tにより塗装するアンダーコート塗装などの被塗物塗装を自動化状態で行なう。
【0053】
また図4は、このような塗装ロボット7による上記塗装ガン1を用いた被塗物Wの塗装において、被塗物Wに塗装禁止部Kがある場合の塗装作業形態の一例を示し、この図の例では、被塗物Wに立込ボルトXが存在し、この立込ボルトXとその周り部分X′(即ち、ボルト連結物に対する座面部分)が塗装禁止部Kになっている。
【0054】
このような塗装禁止部Kがあることに対し、塗装禁止部Kから離れた通常塗装部位については、ガン先端部1aの回転軸芯Q周りでの駆動回転を停止させた状態で、塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを被塗物Wの表面に沿って(A)の一点鎖線や(C)の一点鎖線で示す直線的な移動経路で平行移動させるように塗装ガン1を移動操作することで、帯状の塗装パターンを連続的に描く形態で塗装を行う。
【0055】
一方、被塗物Wにおける塗装禁止部Kの周囲部位については、回転軸芯Qが塗装禁止部Kの中心に対して直交する位置にガン先端部1aを位置させ、その位置でガン先端部1aをガン基体部1bに対して回転軸芯Q周りで駆動回転させて、塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを(B)の一点鎖線で示す円弧状の移動経路で回転移動させるように塗装ガン1を操作することで、塗装禁止部Kの周りに図5に示す如きドーナツ状の塗装パターンTPを一筆書きの如く描いて、被塗物Wにおける塗装禁止部Kの周囲部位のみをドーナツ状に塗装する。
【0056】
即ち、このような塗装作業形態を採ることで、塗装禁止部Kに対するマスキング処理を不要化することができ、また、被塗物Wにおける通常塗装部位並びに塗装禁止部Kの周囲部位の両方を実質的に1つの塗装ガン1で塗装することができる。
【0057】
また、ガン先端部1aを回転軸芯Q周りで駆動回転させてドーナツ状の塗装パターンTPを描く場合、4つの塗料ノズル2a〜2bのうち、回転軸芯Qと平行姿勢の第1又は第4の塗料ノズル2a,2dから塗料噴出させるか、あるいは、回転軸芯Qに対して傾斜姿勢の第2又は第3の塗料ノズル2b,2cから塗料噴出させるかのいずれかをノズル切換弁装置5によるノズル切り換えにより選択することで、塗料ノズル2a〜2dの円弧状回転移動により描くドーナツ状塗装パターンTPの径をそのときの塗装禁止部Kに応じて変更する。
【0058】
さらにまた、通常塗装部位や塗装禁止部Kの周囲部位を塗装するのに、4つの塗料ノズル2a〜2bのうち、A種の塗料ノズルである第1又は第2の塗料ノズル2a,2bから塗料噴出させるか、あるいは、B種の塗料ノズルである第3又は第4の塗料ノズル2c,2dから塗料噴出させるかのいずれかを、塗装部位の塗装条件などに応じて、ノズル切換弁装置5によるノズル切り換えにより適宜選択できるようにしてある。
【0059】
つまり、本例においてノズル切換弁装置5は、ドーナツ状塗装パターンTPの径を変更するパターン径変更用のノズル切換手段と、A種とB種の塗料ノズルのうちいずれを使用するかを選択する異種ノズル選択用のノズル切換手段とを兼ねるものになっている。
【0060】
なお、上記の如き塗装作業形態で被塗物Wの通常塗装部位並びに塗装禁止部Kの周囲部位を塗装する場合、一点鎖線(A),(B),(C)の順の移動経路で塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを移動させる作業形態を採るのが望ましいが、場合によっては、一点鎖線(B),(A),(C)の順の移動経路や一点鎖線(A),(C),(B)の順の移動経路で塗料噴出状態にある塗料ノズル2a〜2dを移動させる作業形態を採用してもよい。
【0061】
〔別実施形態〕
次に本発明の別の実施形態を列記する。
【0062】
前述の実施形態では、ガン先端部1aに複数の塗料ノズル2a〜2dを取り付ける例を示したが、場合によっては、1つの塗料ノズル2aのみを回転軸芯Qから偏心させた位置でガン先端部1aに取り付けるようにしてもよい。
【0063】
また、前述の実施形態では、複数の塗料ノズル(第1と第4の塗料ノズル2a,2d、並びに、第2と第3の塗料ノズル2b,2c)を回転軸芯Qに対する傾斜姿勢(傾斜角度θ)が互いに異なる状態で、かつ、回転軸芯Qを中心とする同一円周上に並べてガン先端部1aに取り付けたが、これに代えて又はこれに加えて、複数の塗料ノズル2a〜2dを回転軸芯Qからの偏心量eが互いに異なる状態で回転軸芯Q周りに並べてガン先端部1aに取り付け、この構成において、塗料噴出させる塗料ノズルをノズル切換弁装置5により選択的に切り換えることで、ドーナツ状塗装パターンTPの径を適宜変更するようにしてもよい。
【0064】
図6に示す如く、回転軸芯Qから偏心した位置でガン先端部1aに取り付ける1個又は複数個の塗料ノズル2a〜2dを、回転軸芯Qからの偏心量eの変更(又は回転軸芯Qに対する傾斜姿勢θの変更)が可能な状態でガン先端部1aに取り付けるようにし、この偏心量e(又は傾斜姿勢θ)の変更によりドーナツ状塗装パターンTPの径を変更するようにしてもよい。
【0065】
また、図7に示すように、回転軸芯Qから偏心した位置でガン先端部1aに取り付ける塗料ノズル2aを、その塗料ノズル2aの中心軸芯q周りでの回転姿勢変更が可能な状態でガン先端部1aに取り付けるようにしてもよい。
【0066】
塗料ノズル2a〜2dを取り付けるガン先端部1aの構造や、ガン先端部1aを駆動回転可能に連結するガン基体部1bの構造は、前述の実施形態で示した構造に限らず、種々の変更が可能であり、また、ガン先端部1aをガン基体部1bに対して回転軸芯Q周りでの駆動回転操作が可能な状態に連結する具体的な連結構造も種々の構造を採用することができる。
【0067】
本発明による塗装ガンを用いた塗装によりマスキング処理を不要にする塗装禁止部は、立込ボルトなどの突出部とその周り部分、あるいは、ボルト穴などの穴部とその周り部分に限らず、単なる平坦な円形部分などであってもよく、本発明による塗装ガンは種々の塗装禁止部の周囲部位を塗装するのに使用することができる。
【0068】
また、本発明よる塗装ガンは、被塗物における通常塗装部位に対する塗装と塗装禁止部の周囲部位に対する塗装との両方に兼用する使用形態に限らず、塗装禁止部の周囲部位に対する塗装のみに使用してもよい。
【0069】
本発明による塗装ガン及びそれを用いた塗装方法は、自動車ボディの塗装に限らず、どのような物品の塗装にも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
各種分野における種々の物品の塗装に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1a ガン先端部
1b ガン基体部
Q 回転軸芯
W 被塗物
T 塗料
2a〜2d 塗料ノズル
θ 傾斜姿勢(傾斜角度)
e 偏心量
5 ノズル切換手段(パターン径変更用、異種ノズル選択用)
p 塗料噴出口部
q 塗料ノズルの中心軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガン先端部をガン基体部に対して回転軸芯周りでの駆動回転操作が可能な状態に連結し、
被塗物に向けて塗料を噴出させる塗料ノズルを前記回転軸芯から偏心させた位置で前記ガン先端部に取り付けてある塗装ガン。
【請求項2】
複数の前記塗料ノズルを、前記回転軸芯に対する傾斜姿勢又は前記回転軸芯からの偏心量が互いに異なる状態で前記回転軸芯周りに並べて前記ガン先端部に取り付け、
これら塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルを選択的に切り換えるパターン径変更用のノズル切換手段を設けてある請求項1記載の塗装ガン。
【請求項3】
前記塗料ノズルとして塗料噴出口部の構造が互いに異なる異種の塗料ノズルを前記回転軸芯周りに並べて前記ガン先端部に取り付け、
これら異種の塗料ノズルのうち塗料噴出させる塗料ノズルを選択的に切り換える異種ノズル選択用のノズル切換手段を設けてある請求項1又は2記載の塗装ガン。
【請求項4】
前記塗料ノズルを、前記回転軸芯に対する傾斜姿勢の変更又は前記回転軸芯からの偏心量の変更が可能な状態で前記ガン先端部に取り付けてある請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装ガン。
【請求項5】
前記塗料ノズルを、その塗料ノズルの中心軸芯周りでの回転姿勢変更が可能な状態で前記ガン先端部に取り付けてある請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装ガン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗装ガンを用いた塗装方法であって、
被塗物における通常塗装部位を塗装する際には、前記ガン先端部の前記回転軸芯周りでの駆動回転を停止させた状態で、塗料噴出状態にある前記塗料ノズルを被塗物の表面に沿って直線的に平行移動させ、
被塗物における塗装禁止部の周囲部位を塗装する際には、前記回転軸芯が塗装禁止部の中心に対して直交する位置に前記ガン先端部を位置させ、かつ、その位置で前記ガン先端部を前記ガン基体部に対して前記回転軸芯周りで駆動回転させて塗料噴出状態にある前記塗料ノズルを前記回転軸芯周りで円弧状に回転移動させる塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−230075(P2011−230075A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103927(P2010−103927)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】