説明

塗装装置及びそれを利用した塗装方法

【課題】
簡単な構成で、小型化及び生産性,品質,経済性の向上を図るとともに、環境にも配慮した塗装装置及び塗装方法を提供する。
【解決手段】
塗装装置は、架台1,塗布ブース2,被塗装体脱着部6により構成されている。塗布ブース2には、被塗装体であるプリント回路基板100に塗布剤18を噴射するスプレーノズル3のほか、ノズル洗浄ユニット65,塗布剤受けパレット23,排気フィルタ13,吸気フィルタ12などが設けられている。一方、前記塗装ブース2から前記被塗装体脱着部6にわたって、被塗装体を搬送するためのスライド用ボールネジ43及びスライド用レール45が設けられている。被塗装体を保持する被塗装体クランプハンド(7),(8)は、水平保持アーム34,35との間に設けられたクランプハンド反転シリンダ9,10の作動により回転し、保持した被塗装体を反転することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置及びそれを利用した塗装方法に関し、更に具体的には、プリント回路基板などの電気又は電子部品の塗装に好適な塗装装置及びそれを利用した塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、抵抗器,コンデンサ,あるいは、トランジスタ等のチップ化された電子部品を、予め回路配線パターンが形成されたプリント回路基板上の所定位置に装着し半田付けによって接続するための前処理として、プリント回路基板の表裏両面にソルダーレジストからなる塗布剤によるコーティング処理を施している。
【0003】
一般に、被塗装体への液状コーティング材料の塗布方法には、例えば、スクリーン印刷方式,カーテンコーター方式,スプレーコーター方式等がある。このような各種の塗布方法は、周知の通り、被塗装体の塗布面の表面状態や外形寸法,形状,生産スピード,生産工程,あるいは、コーティング材料の粘度,種類,コスト等を考慮して、用途別に使い分けられている。
【0004】
スクリーン印刷方式は、印刷版の上に液状コーティング材料であるインク(インキ)を供給し、スキージにて印圧を付加しながらコーティングするものである。カーテンコーター方式は、自由滴下している低粘度な液状コーティング材料のカーテン内に被塗装体を通すことによりコーティングするものである。スプレーコーター方式には、平板状の被塗装体を水平状態に保ち、上部より下方に向けて塗布剤を噴射する片面専用の方式と、被塗装体をクリップ付きハンガー等により垂直状態に保ち、前記被塗装体と略直交する方向から、左右又はいずれか一方より塗布剤を噴射する両面塗布の方式がある。静電気を利用した回転霧化式スプレーガンは、複雑な形状をした導電性を有する被塗装体への塗布には好適であり、例えば、自動車部品などの塗装に広く利用され、また、近年では、例えば、プリント回路基板などの板状の被塗装体の連続両面塗布装置にも利用されつつある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上のような背景技術には次のような不都合がある。まず、スクリーン印刷方式では、近年、配線パターンの密集化及びファイン化が見られるプリント回路基板を塗装する場合、塗布作業にはかなりの熟練した高度の技術を要し、しかも、機種ごとに専用の版の製作及び管理が必要となる。また、被塗装体へのコーティング処理が、主に片面のみであるため、生産性にも劣るという問題がある。カーテンコーター方式では、特に、平滑な塗布面を有する被塗装体への塗布には好適であるが、プリント配線基板のように、凹凸面及び、表裏面の導通用貫通孔のある被塗装体への塗布には限界がある。
【0006】
また、片面スプレーコーター方式では、平板状の被塗装体の裏面を利用して、ベルト式コンベア又はチェーン付きバーコンベア等により接触搬送される。このため、製品となる面へのゴミやホコリ等の異物の付着はもちろんのこと、裏面を塗布する際には、仮乾燥工程を終えた塗布面が直接各搬送部と接触し、キズ,ヘコミ,塗布剤剥がれ等の不良も発生しやすい。また、塗装ブース内においては、スプレーノズルより噴射された未塗着のミストを排気する機能を備えるものの、被塗装体の搬入口及び搬出口の開口部より外気が入り込むため、ブース内において飛散した塗料粒子を効率よく回収することができず、ブース内壁が汚れやすい。
【0007】
一方、両面スプレーコーター方式は、被塗装体の上端をクリップ付きハンガー等により垂直方向に吊るし保持している状態で、その側面又は両側面から連続もしくは同時に塗布剤を噴射するため、その噴射圧力により被塗装体が揺れてしまい、塗布面を理想的な状態に維持することが難しく、また、ブース内壁と接触するおそれもある。このような現象は、被塗装体の厚みが薄くなるほど顕著である。また、上記現象とは逆に、被塗装体の厚みが厚く、重量があるものについては、塗布時もしくは搬送時に、被塗装体が落下するおそれがある。更に、被塗装体に塗着した塗布剤は、常に下方へ流れ落ちる性質があるため、塗布剤の粘度管理幅が狭いという不都合もある。
【0008】
回転霧化式静電スプレーガンを使用した両面塗布方式は、上述した通り、導電性を有する被塗装体に対しては有効な手法である。しかしながら、回路形成後のプリント回路基板の場合、その回路部分は導電性を有しているが、そのベースとなる板材は、主にガラスエポキシ樹脂又はベーク材などの絶縁材を使用している。このように、導電体と絶縁体とが複雑に混在しているため、静電気を利用する塗布方法においては、被塗装体全面に均一な塗膜を形成することは非常に困難である。また、静電塗布の特性上、表面塗布時において、裏面外周部にマイナス電位を帯びた塗料粒子が回り込んで付着する現象と、角部に塗料粒子が集中的に付着する現象が発生するため、平板状の被塗装体両面を塗布した後には、外周部,角部,中央部とで塗膜厚にばらつきが生じてしまうという不都合がある。
【0009】
更に、回転霧化式静電ガンやエアスプレーガン等を利用した近年の両面塗装装置は、連続的に表裏両面を塗布するため、平板状の被塗装体を垂直に立たせた状態で塗布工程を行っている。従って、塗布剤が自然落下するために、一度に塗布できる塗布剤の膜厚には限界が生じる。
【0010】
また、スプレー方式は、液状のコーティング材料を一旦霧化させた後に、遠心力や圧縮エア等の力によって、被塗装体へ間接的に塗着させる方法であるため、被塗装体への塗布剤の塗着効率は、直接的なスクリーン印刷方式やカーテン方式と比べ、約6割程度である。残りの未塗着の塗布剤は、排気フィルタやブース内壁に付着し、産業廃棄物として処理されている。
【0011】
ところで、板状の被塗装体の塗布工程,例えば、プリント回路基板への液状コーティング材料の塗布工程においては、特に、回路配線パターン形成後のプリント回路基板の表裏両面に塗布剤であるフォトソルダーレジストを塗布する場合は、塗布面に形成された配線部エッジへのレジストインキのカバーリングと、密集した回路配線の微小隙間へのインキの入り込みが問題であり、より均一で、かつ、必要最小限な塗着膜厚を形成することが品質上重要となる。
【0012】
上述したプリント回路基板の表裏両面にコーティング処理を行う場合、従来では、基板の一方の面に液状コーティング材料の片面塗布を行い、一度仮乾燥を行った後、基板を反転させ、再度他方の面に液状コーティング材料を塗布して仮乾燥させるのが一般的である。このため、従来では、プリント回路基板への液状コーティング材料の塗布工程において、仮乾燥の後工程を少なくとも2度行う必要があり、生産性を低下させるばかりでなく、プリント回路基板の表面側と裏面側とでは乾燥時間が異なることから、品質管理上、その乾燥条件の許容範囲が、両面同時処理と比較して小さくなるという不都合もある。
【0013】
しかも、プリント回路基板のような電子部品の装着に使用される塗布剤は高価であるため、被塗装体への塗布剤の塗着効率を高く維持できるようにして経済性を高めると同時に、廃棄処理される塗布剤の未塗着量をより一層軽減し、生活環境に配慮しなくてならない。また、装置自体も、簡単な機構・構造として、小型化及び設置スペースの縮小を図るとともに、生産性が高く安価であることが望ましい。
【0014】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、簡単な構成で小型化及び設置スペースの削減を図り、生産性,品質,経済性も高めるとともに、環境にも配慮した塗装装置及びそれを利用した塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明の塗装装置は、平板状の被塗装体に塗布剤を噴射するスプレーノズルを備えた塗布ブース,前記被塗装体の非製品部である最外周部を必要最小面積で、前記被塗装体の前後又は左右の3点以上で略水平状態に保持する保持機構,該保持機構に保持された被塗装体を、前記塗布ブースに搬送する搬送機構,を備えるとともに、前記保持機構は、前記被塗装体の前後又は左右で独立した一対の保持アームと、保持した被塗装体を反転させる反転機構を含むことを特徴とする。
【0016】
主要な形態の一つは、前記一対の保持アームは、基準となる基準アームと、前記被塗装体の寸法に応じて移動し前記基準アームと任意の位置関係の維持が可能な移動アームとによって構成されており、前記搬送機構は、前記基準アーム及び移動アームのいずれか一方または両方を駆動し、前記基準アーム及び移動アームを同一方向に移動させることを特徴とする。
【0017】
他の形態は、前記保持アームは、厚みの薄い被塗装体を一度クランプした後に、前記基準アームに対して、前記移動アームを後方へ微小寸法移動させることにより、前記被塗装体の弛みないし皺を伸ばして修正するとともに、前記被塗装体の上部又はその周辺より塗布されるスプレー圧力に耐えるように保持強度を強化することを特徴とする。
【0018】
更に他の形態は、前記被塗装体の塗布中に、前記塗布ブースを密閉するシャッター手段,前記塗布ブースに外気を取り入れる吸気口,前記スプレーノズルより噴射され、前記被塗装体に付着せずに塗装ブース内を浮遊する塗布剤微粒子を塗布ブース外に回収する排気口,前記塗布ブース内に排気圧力を加える排気手段,を設けるとともに、前記浮遊する塗布剤微粒子を、装置外へ流出させずに回収することを特徴とする。更に他の形態は、前記吸気口及び排気口に、フィルタを設けたことを特徴とする。
【0019】
更に他の形態は、前記搬送機構によって前記塗布ブース内を移動する被塗装体に対して、該被塗装体の移動方向と略直交する面に沿って往復移動しながら上方から塗布剤を噴射するように、前記スプレーノズルを移動させるノズル移動手段,を設けたことを特徴とする。
【0020】
更に他の形態は、(1)前記塗装ブース内を移動する被塗装体の下方に、少なくとも前記スプレーノズルが移動する範囲にわたって設けられており、前記スプレーノズルから噴射されて被塗装体に未着の塗布剤を回収する回収パレットを設けたこと,(2)前記スプレーノズルの先端に付着した塗布剤に洗浄剤を噴射して、前記塗布剤を洗浄ないし除去するノズル洗浄手段を設けたこと,(3)前記塗装ブース内を移動する被塗装体の下方に、少なくとも前記スプレーノズルが移動する範囲にわたって設けられており、前記スプレーノズルから噴射されて被塗装体に未着の塗布剤を回収するとともに、底面が一定の傾斜を有する回収パレットと、前記スプレーノズルの先端に付着した塗布剤に洗浄用溶剤を噴射して、前記塗布剤を洗浄ないし除去するノズル洗浄手段と、前記スプレーノズルの洗浄に使用され、前記回収パレット内の未着の塗布剤と混ざって回収パレットの底面を流れる洗浄用溶剤を備蓄ないし貯留するタンクとを設けたこと、のいずれかであることを特徴とする。
【0021】
本発明の塗装方法は、請求項1〜9のいずれかに記載の塗装装置を利用して、平板状の被塗装体の両面塗装を連続して行うことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、平板状の被塗装体の最外周部を保持して水平状態に保ちながら、被塗装体の平面と略直交する方向より、塗布剤をスプレーノズルにより噴射・塗着し、一方の面の塗装後、前記被塗装体を反転させて他方の面を塗装することとした。このため、連続両面塗布処理による生産性向上と、均一な塗膜形成による品質向上を図ることができる。また、簡単な構成のため、小型化・設置スペースの縮小を図ることができる。更に、未塗着の塗布剤や塗布剤ミストを回収することにより、装置外の環境を保護することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
最初に、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例の塗装装置の全体構成を示す斜視図,図2は、被塗装体の保持機構及び搬送機構を示す平面図,図3は、本実施例の塗布剤及び洗浄用溶剤の回収機構と、スプレーノズルの洗浄機構を示す平面図である。図1に示すように、本実施例の塗装装置は、架台1と、該架台1上に設置された塗布ブース2、被塗装体脱着部6により構成されている。なお、本実施例では、被塗装体としてプリント回路基板100を例に挙げて説明している。
【0025】
前記塗布ブース2には、被塗装体脱着部6との間の搬入搬出口に自動開閉式シャッター11が設けられており、塗装中の塗布ブース2の密閉が可能となっている。前記自動開閉式シャッター11は、図示しないセンサなどにより、後述する水平保持アーム34及び35に保持されたプリント回路基板100の搬入・搬出が検知されると、自動的に開閉するようになっている。なおプリント回路基板100は、図1の被塗装体脱着部6内に実線で示す脱着位置から、塗布ブース2内の破線で示す塗装位置、同じく塗布ブース2内の2点破線で示す反転位置の間で、図1の矢印X1で示す方向に往復移動が可能となっている。以下、各部の詳細について、順に説明する。
【0026】
最初に、塗布ブース2について説明する。前記塗布ブース2内には、本実施例の被塗装体であるプリント回路基板100に対して、下向きに塗布剤18を噴射塗布するスプレーノズル3が設けられている。該スプレーノズル3は、図3に示すように、ノズル取り付け固定アーム57によって、塗布ブース2の上方に設けられたY軸スライダ4に取り付けられおり、Y軸スライダ4の一端側に設けられたY軸スライダ用駆動モータ56により、矢印Y1で示す方向に往復移動する。塗布剤18は、図1に示すように、塗布ブース2の外側に設けられた塗布剤供給部架台16上に設置された塗布剤タンク18aから、塗布剤吸い込みホース19,塗布剤供給ポンプ17,塗布剤吐出ホース20によって、前記スプレーノズル3に供給される。
【0027】
ここで、前記プリント回路基板100の全面を均一に塗布するためには、被塗装体(ないしワーク)に対して噴射されるインキのスプレーパターン5の幅の半分程度を、図3に示すようにオーバースプレーする必要があるが、このようにすると、未着塗布剤62が発生することになる。本実施例では、未着塗布剤62を効率よく回収、再利用するために、塗装位置にあるプリント配線基板100の直下に、前記スプレーノズル3の移動範囲に沿って、塗布剤受けパレット23を設けている。該塗布剤受けパレット23は、塗布ブース2の底面と前記架台1の境目に設けられており、底面が一定の傾斜を有する斜面に形成されるとともに、該底面の下流側には、回収タンク22が設けられている。前記回収タンク22には、塗布剤受けパレット23の底面を流れる回収塗布剤58が備蓄ないし貯留される。
【0028】
また、塗布ブース2内には、前記スプレーノズル3を洗浄するためのノズル洗浄ユニット65が、スプレーノズル3の移動方向の一端側に設けられている。前記スプレーノズル3は、プリント回路基板100と近距離で塗布動作を行うため、図3に示すように、跳ね返り塗布剤ミスト61がスプレーノズル3の先端に付着しやすくなるが、前記ノズル洗浄ユニット65は、このような付着物を洗浄・除去するものである。前記ノズル洗浄ユニット65内には、自吸式二流体洗浄ノズル63が設けられており、これによって、溶剤タンク51内から矢印FA方向に吸い上げられた洗浄用溶剤50の洗浄スプレー液64が、スプレーノズル3に噴射される。実際の操作は、圧縮エア54によって、エアオペレーションバルブ55を介して、洗浄用溶剤50を自吸式二流体洗浄ノズルへ供給することによって行われる。なお、洗浄スプレー液64は、塗布剤受けパレット23の傾斜した底面を矢印FB方向に沿って流れ、上述のオーバースプレーした未着塗布剤62と混合しながら下流へと流れていき、最終的には、前記回収タンク22に回収される。以上のような塗布作業及び回収作業は、前記自動開閉式シャッター11により密閉されたクリーンな塗布ブース2内で行われる。
【0029】
前記塗布剤受けパレット23の更に下側には、排気フィルタ13が設けられている。前記スプレーノズル3による塗布処理を行う際には、被塗装体の搬入搬出口は自動開閉式シャッター11により閉じられるが、それと同時に、被塗装体脱着部6内に設けられた排気ブロワ15の作動によって、スプレーノズル3から噴射した塗布剤18のうち、被塗装体に付着せずに飛散した塗装剤ミストを、排気フィルタ13及び排気ホース14を通して、塗布ブース2外へと搬出する。なお、塗布ブース2の上部には、吸気フィルタ12が設けられており、該吸気フィルタ12を介してクリーンな空気を塗布ブース2内に常に供給することにより、前記排気ブロア15の作動時の塗布ブース2内外の差圧バランスが保たれている。
【0030】
次に、図2も参照して、被塗装体であるプリント回路基板100の保持機構及び搬送機構について説明する。プリント回路基板100の脱着は、被塗装体脱着部6内のスペースで行われる。図2に示すように、プリント回路基板100は、被塗装体クランプハンド7及び8によって、略水平状態で保持されるが、プリント回路基板100がない状態では、被塗装体クランプハンド7,8の先端のそれぞれのツメ30及び31が、クランプ用ツメ動作シリンダ32及び33によって開いた状態にある。前記ツメ30及び31を開いた状態でプリント回路基板100を所定の位置にセットし、図示しないスイッチもしくは外部からの電気信号等により各クランプ用ツメ動作シリンダ32及び33を作動させると、プリント回路基板100が完全に固定・保持される。
【0031】
前記被塗装体クランプハンド7及び8は、それぞれ、クランプハンド反転シリンダ9及び10の回転駆動ベース部分に取り付けられており、該クランプハンド反転シリンダ9及び10の本体側は、それぞれ、被塗装体用の水平保持アーム34及び35に固定されている。前記被塗装体クランプハンド7及び8にクランプされたプリント回路基板100は、前記クランプハンド反転シリンダ9及び10の駆動により、表塗布面100aと裏塗布面100bの反転が可能となっている。また、前記水平保持アーム34,35は、アームスライド用レール45に沿って水平移動を行うが、その駆動の基準は、本実施例では、水平保持アーム34側となっている。すなわち、水平保持アーム34が基準アーム,水平保持アーム35が移動アームである。なお、前記アームスライド用レール45は、前記図1に示す塗装ブース2及び被塗装体脱着部6にわたって、矢印X1方向に設置されている。
【0032】
前記水平保持アーム34の駆動機構は、両端がボールネジ固定側ベアリングユニット42により支持されており図2に矢印θ2で示す方向に回転可能なスライド用ボールネジ43と、該スライド用ボールネジ43の表面を移動するボールネジ用ナット44と、カップリング41により直結された搬送用駆動モータ40により構成されている。そして、前記搬送用駆動モータ40が回転動作することにより、前記水平保持アーム34が、アームスライド用レール45に沿って、矢印X1方向に往復移動する。
【0033】
前記水平保持アーム34の端部側には、他方の水平保持アーム35をスライドさせて位置を調整するためのアーム調整用駆動モータ46が設けられており、該アーム調整用駆動モータ46は、一端にボールネジ固定側ベアリングユニット42が設けられたアーム調整用ボールネジ47と、カップリング41によって直結されている。前記アーム調整用ボールネジ47は、前記スライド用ボールネジ43と略平行に設けられており、ボールネジ固定側ベアリングユニット42と反対の端部側は、水平保持アーム35に固定されたボールネジ用ナット44に螺合している。これら各部により、水平保持アーム35は、前記水平保持アーム34に対して任意の位置間隔を維持することができるとともに、前記水平保持アーム34の移動に伴って、アームスライド用レール45に沿って同方向に往復移動が可能となっている。
【0034】
前記水平保持アーム35は、前記アーム調整用駆動モータ46が、図2に矢印θ3で示す方向に回転動作を行うと、水平保持アーム34を基準にして、矢印X2で示す方向に移動し、プリント回路基板100のサイズ変更に対応することができる。更に、厚みが薄いプリント回路基板などをクランプし、中央部分が下方へ弛むような場合には、前記水平保持アーム35が、制御盤21(図1参照)にて設定された微小寸法分だけ水平保持アーム34に対して後方へ移動することにより、弛みを修正し、最適な保持状態を保つことができる。
【0035】
次に、本実施例の作用を説明する。上述した保持機構及び搬送機構により、プリント回路基板100を被塗装体クランプハンド7及び8によって水平に保持し、水平保持アーム34及び35をアームスライド用レール45に沿って移動させて、前記プリント回路基板100を塗布ブース2内に送る。プリント回路基板100は、まず、塗布ブース2内のスプレーノズル3の手前まで移動し、自動開閉式シャッター11が閉じると、再度前進(本実施例の場合は、図1の左側への移動)を開始する。それと同時に、アームスライド用レール45と略直交する上方向から、スプレーノズル3が塗布剤18を下方に向けて噴射する。該スプレーノズル3は、一定のスプレーパターン5を有しており、図1に矢印Y1で示す方向に往復しながら、プリント回路基板100の表塗布面100aを塗布する。
【0036】
表塗布面100aの塗布作業が終了したら、クランプハンド反転シリンダ9及び10が図1に2点破線で示す位置において、矢印θ1に示す方向に回転作動し、プリント回路基板100を反転させる。その後、水平保持アーム34及び35は、矢印X1に示す方向に後退(本実施例の場合は、図1の右側への移動)を開始し、裏塗布面100bに対してスプレーノズル3から塗布剤18が噴射され、裏塗布面100bが塗装される。両面の塗布が終了したら、自動開閉式シャッター11が開き、連続両面塗布が完了したらプリント回路基板100が、塗布ブース2から搬出され、塗布作業が終了する。両面塗布完了後、スプレーノズル3は、洗浄ユニット65内へ移動し、自吸式二流体洗浄ノズル63によって洗浄用溶剤50の洗浄スプレー液64が吹き付けられて、先端に付着した跳ね返り塗布剤ミスト61が洗浄・除去される。
【0037】
なお、上述した塗布作業中、オーバースプレーによる未着塗布剤62は、塗布剤受けパレット23に回収される。また、スプレーノズル3から噴射した塗布剤18のうち、プリント回路基板100に付着せずに飛散した塗布剤ミストは、排気ブロワ15の作動により、排気フィルタ13及び排気ホース14を介して塗布ブース2から搬出される。また、塗布終了後、前記洗浄ユニット65内での洗浄に使用された洗浄スプレー液64は、前記塗布剤受けパレット23に回収され、前記未着塗布剤62と混合しながら、傾斜した底面を流れ、最終的に回収タンク22に備蓄される。
【0038】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)プリント回路基板100の最外周部を、必要最小限の面積で安定に保持しつつ、上部より塗布剤18をスプレーノズル3によって塗布することによって、例えば、プリント回路基板100などの回路形成後の配線パターン上の凹凸に対しても、熟練した高度の印刷技術を要することなく、容易に塗布が可能である。また、従来のスクリーン印刷法と比べ、専用の印刷版やそれに付随する一切の管理が不要となり、作業の効率向上とともにコスト削減も図ることができる。
【0039】
(2)被塗装体の水平保持アーム34及び35に、クランプハンド反転シリンダ9及び10を設けることとしたので、連続的に被塗布体の表裏両面の塗布作業ができるという効果がある。これにより、従来の片面のみの塗布方式であるスクリーン印刷方式やカーテンコーター方式と比べ、塗布後の乾燥工程が一度で済み、生産性の向上が図れるばかりでなく、品質管理上、その乾燥条件の管理幅も広げることができる。
【0040】
(3)平板状の被塗装体を一枚ずつ塗布ブース2内で連続両面塗布するため、一枚の被塗装体を塗布する毎に、塗布ブース2内を密閉状態にすることができる。このため、塗布剤ミストや臭気が塗装装置外に流出することがなく、快適な作業環境の維持が可能である。
【0041】
(4)平板状の被塗装体を水平状態で連続両面塗布するため、従来の両面塗布装置のように、被塗装体を垂直状態で保持することがない。これにより、被塗装体にコーティングされた塗布剤18の重力落下によるダレやムラ等の不具合が発生することがなく、常に、品質的に均一で良好な塗布面が得られるとともに、従来よりも厚い塗布面を形成することも可能となる。
【0042】
(5)従来のスプレー塗布方式では、平板状の被塗装体の全面を均一にコーティングする場合、外周寸法よりスプレーパターン幅の約半分程度がでるようにオーバースプレーしなければならず、この時に発生する未着の塗布剤は廃棄処理されている。しかしながら、本実施例においては、塗装処理位置にある被塗装体の直下に塗布剤受けパレット23を設け、オーバースプレーした未着塗布剤62を前記塗布剤受けパレット23によって受け、専用の回収タンク22に備蓄し、再利用可能としたため、塗布剤18の消費が少なく、ランニングコストの低下が可能となる。
【0043】
(6)スプレーノズル3用のノズル洗浄ユニット65を設け、スプレーノズル3から噴射され被塗装体によって跳ね返ってノズル先端に付着した跳ね返り塗布剤ミスト61を洗浄ないし除去することとした。このため、塗布剤18の付着を気にすることなく、被塗装体に対して近い距離から塗布剤18を噴射することができ、高い塗着効率を維持することが可能となる。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例の形状,大きさ,材質は一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
(2)前記実施例による被塗装体の保持機構,位置調節機構,搬送機構や、スプレーノズル3の移動機構も一例であり、同様の効果を奏するように適宜設計変更してよい。例えば、前記実施例では、水平保持アーム34の搬送機構として、ボールネジ機構を利用したが、他の公知の各種の送り機構が知られており、そのいずれを用いるようにしてよい。
(3)塗布剤18や洗浄用溶剤50の供給機構,未着塗布剤62や塗布剤ミストの回収機構も一例であり、同様の効果を奏するように適宜設計変更してよい。
(4)ノズル洗浄用ユニット65の構成も一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更可能である。
(5)上述した作用も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(6)前記実施例で示したプリント回路基板100も一例であり、本発明は、平板状の被塗装体全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、被塗装体の最外周部を保持して水平状態に保ちながら、被塗装体の平面と略直交する方向より、塗布剤をスプレーノズルにより噴射・塗着し、一方の面の塗装後、前記被塗装体を反転させて他方の面を塗装することとしたので、平板状の被塗装体の塗装に好適である。また、連続両面塗布処理による生産性向上と、均一な塗膜形成による品質向上を図ることができることから、例えば、プリント回路基板などの電気または電子部品の塗装の用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1の塗装装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】前記実施例1の被塗装体の保持機構及び搬送機構を示す平面図である。
【図3】前記実施例1の塗布剤及び洗浄用溶剤の回収機構と、スプレーノズル洗浄機構を示す正面図である。
【符号の説明】
【0047】
1:架台
2:塗布ブース
3:スプレーノズル
4:スプレーノズル用Y軸スライダ
5:スプレーパターン
6:被塗装体脱着部
7,8:被塗装体クランプハンド
9,10:クランプハンド反転シリンダ
11:自動開閉式シャッター
12:吸気フィルタ
13:排気フィルタ
14:排気ホース
15:排気ブロワ
16:塗布剤供給部架台
17:塗布剤供給ポンプ
18:塗布剤(液状コーティング材料)
18a:塗布剤タンク
19:塗布剤吸い込みホース
20:塗布剤吐出ホース
21:制御盤
22:回収タンク
23:塗布剤受けパレット
30,31:ツメ
32,33:クランプ用ツメ動作シリンダ
34,35:水平保持アーム
40:搬送用駆動モータ
41:カップリング
42:ボールネジ固定側ベアリングユニット
43:スライド用ボールネジ
44:ボールネジ用ナット
45:アームスライド用レール
46:アーム調整用駆動モータ
47:アーム調整用ボールネジ
50:洗浄用溶剤
51:溶剤タンク
52:溶剤吸い上げホース
54:圧縮エア
55:エアオペレーションバルブ
56:Y軸スライダ用駆動モータ
57:ノズル取り付け固定アーム
58:回収塗布剤
61:跳ね返り塗布剤ミスト
62:未着塗布剤
63:自吸式二流体洗浄ノズル
64:洗浄スプレー液
65:ノズル洗浄ユニット
100:プリント回路基板
100a:表塗布面
100b:裏塗布面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の被塗装体に塗布剤を噴射するスプレーノズルを備えた塗布ブース,
前記被塗装体の非製品部である最外周部を必要最小面積で、前記被塗装体の前後又は左右の3点以上で略水平状態に保持する保持機構,
該保持機構に保持された被塗装体を、前記塗布ブースに搬送する搬送機構,
を備えるとともに、
前記保持機構は、前記被塗装体の前後又は左右で独立した一対の保持アームと、保持した被塗装体を反転させる反転機構を含むことを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
前記一対の保持アームは、基準となる基準アームと、前記被塗装体の寸法に応じて移動し前記基準アームと任意の位置関係の維持が可能な移動アームとによって構成されており、
前記搬送機構は、前記基準アーム及び移動アームのいずれか一方または両方を駆動し、前記基準アーム及び移動アームを同一方向に移動させることを特徴とする請求項1記載の塗装装置。
【請求項3】
前記保持アームは、厚みの薄い被塗装体を一度クランプした後に、前記基準アームに対して、前記移動アームを後方へ微小寸法移動させることにより、前記被塗装体の弛みないし皺を伸ばして修正するとともに、前記被塗装体の上部又はその周辺より塗布されるスプレー圧力に耐えるように保持強度を強化することを特徴とする請求項2記載の塗装装置。
【請求項4】
前記被塗装体の塗布中に、前記塗布ブースを密閉するシャッター手段,
前記塗布ブースに外気を取り入れる吸気口,
前記スプレーノズルより噴射され、前記被塗装体に付着せずに塗装ブース内を浮遊する塗布剤微粒子を塗布ブース外に回収する排気口,
前記塗布ブース内に排気圧力を加える排気手段,
を設けるとともに、
前記浮遊する塗布剤微粒子を、装置外へ流出させずに回収することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗装装置。
【請求項5】
前記吸気口及び排気口に、フィルタを設けたことを特徴とする請求項4記載の塗装装置。
【請求項6】
前記搬送機構によって前記塗布ブース内を移動する被塗装体に対して、該被塗装体の移動方向と略直交する面に沿って往復移動しながら上方から塗布剤を噴射するように、前記スプレーノズルを移動させるノズル移動手段,
を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗装装置。
【請求項7】
前記塗装ブース内を移動する被塗装体の下方に、少なくとも前記スプレーノズルが移動する範囲にわたって設けられており、前記スプレーノズルから噴射されて被塗装体に未着の塗布剤を回収する回収パレット,
を設けたことを特徴とする請求項6記載の塗装装置。
【請求項8】
前記スプレーノズルの先端に付着した塗布剤に洗浄剤を噴射して、前記塗布剤を洗浄ないし除去するノズル洗浄手段,
を設けたことを特徴とする請求項6記載の塗装装置。
【請求項9】
前記塗装ブース内を移動する被塗装体の下方に、少なくとも前記スプレーノズルが移動する範囲にわたって設けられており、前記スプレーノズルから噴射されて被塗装体に未着の塗布剤を回収するとともに、底面が一定の傾斜を有する回収パレット,
前記スプレーノズルの先端に付着した塗布剤に洗浄用溶剤を噴射して、前記塗布剤を洗浄ないし除去するノズル洗浄手段,
前記スプレーノズルの洗浄に使用され、前記回収パレット内の未着の塗布剤と混ざって回収パレットの底面を流れる洗浄用溶剤を備蓄ないし貯留するタンク,
を設けたことを特徴とする請求項6記載の塗装装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の塗装装置を利用して、平板状の被塗装体の両面塗装を連続して行うことを特徴とする塗装方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−346606(P2006−346606A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177187(P2005−177187)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(505230799)
【Fターム(参考)】