説明

塗装金属板およびそれを用いた絞りしごき缶

【課題】 塗装金属板が伸びた部分でも皮膜の付着性が高く絞りしごき加工に耐えうる塗装金属板およびそれを用いた絞りしごき缶を提供する。
【解決手段】 下地金属板の両面を塗装した塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜および加工後に缶外面側となる皮膜について塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による前記下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下である塗装金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶用の両面塗装金属板に関するものであり、特に絞りしごき加工(DI加工、Draw and Ironing)のような高速で厳しい加工に耐えうる塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
食缶などに使用される2ピース缶はその製造方法によって、しごきによるつや出し工程が入る絞りしごき缶(DI缶:Draw and Ironed Can)と、しごきが入らない絞り缶(DR缶:Drawn Can)、再絞り缶(DRD缶:Drawn and Redrawn Can)、DTR缶(Drawn Thin Redraw Can)などがある。この内DI缶はその美粧性と薄肉軽量性からビール、炭酸飲料などの内圧飲料用缶に多用されている。しかしながらDI缶の製造にはクーラントを大量に使用し、脱脂、水洗、表面処理を施した後、内面をスプレー塗装して焼付け乾燥させる必要があり、洗浄による大量の排水の問題やスプレーダストの問題など環境への負荷も大きいものであった。
【0003】
かかる問題を解決するため、あらかじめ有機皮膜で被覆した被覆鋼板を用いて製缶加工することによりクーラントなしで製缶でき、後の内面スプレー塗装も行なわない提案が種々なされている。
【0004】
これらの中で有望な提案の一つとして、水酸基含有高分子ポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂および/またはアミノ樹脂とを含有する塗料を金属板に塗装して、上記塗料からなる皮膜を金属板に形成した塗装金属板を用いることが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
上記塗装金属板に形成された皮膜は強靭で加工性にも富むものではあるが、金属板の伸びに対する皮膜の追随性が低く、金属板が伸びた部分における皮膜の付着性が低下するため、絞りしごき加工に十分耐えうるものではなかった。
【特許文献1】特開2003−34322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況に鑑みて、本発明は、塗装金属板の伸びに対する皮膜の追随性を高めることにより、塗装金属板が伸びた部分でも皮膜の付着性が高く絞りしごき加工に耐えうる塗装金属板およびそれを用いた絞りしごき缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、下地基板の両面を塗装した塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜について、乾燥塗布量が10〜400mg/100cm2、ガラス転移温度が30〜120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度4B以上、伸び率200%以上、動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下であり、加工後に缶外面側となる皮膜について、乾燥塗布量が5〜150mg/100cm2、ガラス転移温度が30〜120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度B以上、伸び率200%以上および動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下である塗装金属板である。
【0008】
本発明にかかる塗装金属板において、皮膜の形成に使用する塗料を、少なくとも固体高分子と多官能性有機化合物とを反応させて得られる高分子微粒子分散スラリー樹脂を含有するものとすることが好ましい。ここで、上記固体高分子をポリエステル樹脂とし、上記多官能性有機化合物が1以上の水酸基を含有する多官能性有機化合物とすることがより好ましい。また、上記皮膜の形成に使用する塗料中の高分子微粒子分散スラリー樹脂の含有量を5〜95質量%と、上記高分子微粒子分散スラリー樹脂中の高分子微粒子の含有量を5〜60質量%とすることが好ましい。また、上記高分子スラリー樹脂中の前記高分子微粒子の粒径を1〜50μmとすることが好ましい。
【0009】
また、本発明にかかる塗装金属板において、加工後に缶内面側となる皮膜の形成に使用する塗料をさらにポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂とを含有するものとし、加工後に缶外面側となる皮膜の形成に使用する塗料をさらにポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはレゾール型フェノール樹脂とを含有するものとすることが好ましい。また、上記加工後に缶外面側となる皮膜の形成に使用する塗料を、さらにエポキシ樹脂を含有するものとすることが好ましい。また、本発明は、上記塗装金属板を絞りしごき加工して得られる絞りしごき缶である。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明によれば、金属板の伸びに対する皮膜の追随性を高めることにより、金属板が伸びた部分でも皮膜の付着性が高く絞りしごき加工に耐えうる塗装金属板およびそれを用いた絞りしごき缶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかる塗装金属板は、下地金属板の両面を塗装した塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる面には、乾燥塗布量が10〜400mg/100cm2、好ましくは15〜200mg/cm2である皮膜が形成され、加工後に缶外面側となる面には、乾燥塗布量が5〜150mg/100cm2、好ましくは15〜100mg/100cm2、である皮膜が形成されているものである。以下に、加工後に缶内面側となる皮膜およびその皮膜を形成する缶内面用塗料と、加工後に缶外面側となる皮膜およびその皮膜を形成する缶外面用塗料とに分けて説明する。
【0012】
[缶内面側となる皮膜および缶内面用塗料]
絞りしごき加工に用いられる塗装金属板として、加工後に缶内面側となる皮膜について、ガラス転移温度が30〜120℃、好ましくは50〜100℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度4B以上、伸び率200%以上、動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下である塗装金属板が適している。
【0013】
絞りしごき加工時の発熱により60℃程度まで作業温度が上昇する点から、60℃における上記特性が必要となる。また、絞りしごき加工という皮膜にとって過酷な加工を行なう点から、前記塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離は15%以下であることが必要であり、5%以下であることが好ましい。ここで、クロスカット法による皮膜の付着性試験とは、JIS K 5600−5−6に規定されている付着性試験をいう。かかる付着性試験において、皮膜の剥離が15%を超えるものは、絞りしごき加工の際に皮膜の剥離または亀裂が生じる。
【0014】
上記皮膜特性を有する皮膜を形成することができる塗料としては、高分子微粒子分散スラリー樹脂を含むベース樹脂と、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂などの硬化剤とを組み合わせたものを使用することができる。高分子微粒子分散スラリー樹脂を含有することにより上記皮膜特性を有する塗料が得られる。
【0015】
上記高分子微粒子分散スラリー樹脂は、少なくとも固体高分子と多官能性有機化合物とを反応させて得られるものである。かかるスラリー樹脂を用いることにより、高分子微粒子を皮膜の中に均一に分散させて、塗装金属板の伸びに追随性の高い皮膜を形成することができるため、塗装金属板を伸ばしたときに下地金属板への皮膜の付着性が向上する。本高分子微粒子分散スラリー樹脂は、固体高分子と多官能性有機化合物とを反応させることによって、多官能性有機化合物によって固体高分子の一部を開裂させて、交差反応を起こし、多官能性有機化合物によって導入された官能基を備え、固体高分子の開裂した部分の構造単位である高分子微粒子を形成させ、この高分子微粒子を有機化合物中に分散させたものである。
【0016】
ここで、固体高分子としては特に制限はないが、開裂反応を生じさせ易い点から、その骨格にカルボニル基を含む数平均分子量が5,000以上の固体高分子が好ましい。骨格にカルボニル基を含む高分子としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリカーボネート樹脂などが挙げられる。これらの中で、特に優れた皮膜特性が得られる観点から、ポリエルテル樹脂が特に好ましい。また、固体高分子の数平均分子量は、5,000〜100,000がより好ましく、10,000〜50,000がさらに好ましい。
【0017】
また、多官能性有機化合物とは、2以上の官能基を有する有機化合物をいう。官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。1つの多官能性有機化合物に2種以上の官能基が含まれていてもよい。1以上の水酸基を有する多官能性有機化合物としては、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコールまたはこれらを含む有機化合物などが挙げられる。1以上のカルボキシル基を有する多官能性有機化合物としては、エチレンジアミン4酢酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸またはこれらを含む有機化合物などが挙げられる。1以上のアミノ基を有する多官能性有機化合物としては、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミンまたは(2−アミノエチル)アミンなどが挙げられる。これらの中で、1以上の水酸基を有する多官能性有機物が好ましい。
【0018】
また、有機化合物には特に制限は無いが、固体高分子としてポリエステル樹脂、多官能性有機化合物として1以上の水酸基を有する多官能性有機化合物を用いる場合は、有機化合物も、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。また、この有機化合物中には、作業性の観点から、各種有機溶媒が含められる。かかる有機溶媒には特に制限はないが、上記の場合には、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート系溶媒、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶媒、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0019】
皮膜の形成に使用する塗料中の上記高分子微粒子分散スラリー樹脂の含有量は、5〜95質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましい。高分子微粒子分散スラリー樹脂の含有量が5質量%未満であると、皮膜の下地基板の伸びへの追随性が低下するため、塗装金属板を伸ばしたときに下地金属板への皮膜の付着性が低下する。高分子微粒子分散スラリー樹脂の含有量が95%を超えると塗料の硬化性が低下する。ここで、上記含有量は、塗料中の高分子微粒子分散スラリー樹脂においては高分子微粒子を含む樹脂固形分を基準とした含有量をいい、その他の樹脂においては樹脂固形分を基準とした含有量をいう。
【0020】
上記高分子微粒子分散スラリー樹脂中の高分子微粒子の含有量は、5〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。高分子微粒子の含有量が上記範囲外になると安定な分散スラリー樹脂を形成しにくくなる。ここで、上記含有量は、高分子微粒子分散スラリー樹脂において高分子微粒子を含む樹脂固形分を基準とした含有量をいう。
【0021】
また、上記皮膜特性を有する皮膜の形成に使用する塗料は、ベース樹脂として、上記高分子微粒子分散スラリー樹脂の他に、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などを併用することができる。優れた皮膜特性を有する皮膜が得られる観点から、上記塗料は、ベース樹脂として高分子微粒子分散スラリー樹脂の他にさらにポリエステル樹脂を含有し、硬化剤としてレゾール型フェノール樹脂を含有することが好ましい。
【0022】
上記ポリエステル樹脂については、数平均分子量が5,000〜80,000、特に10,000〜50,000、水酸基価が1〜20mgKOH/g、特に2〜12mgKOH/gである水酸基含有ポリエステル樹脂が硬度と加工性のバランスを取る観点から、より好ましい。かかるポリエステル樹脂は、酸成分とアルコール成分とを直接エステル化またはエステル交換反応によって合成されるものである。
【0023】
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、たとえば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸などから選ばれる1種以上の二塩基酸およびこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられ、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−tert−ブチル安息香酸などの一塩基酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが併用される。
【0024】
また、ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分としては、たとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサンなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することができる。これらのアルコール成分は単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
上記酸成分と上記アルコール成分とを常法により直接エステル化法またはエステル交換法により合成するに際し、カルボキシル基が水酸基に対して過剰となる条件下で反応を行なえば、カルボキシル基を主体に含有するポリエステル樹脂が得られ、水酸基がカルボキシル基に対して過剰となる条件下で反応を行なえば、水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂が得られる。さらにこの水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂に酸無水物を付加反応させることにより、単独樹脂中の水酸基とカルボキシル基の量を調製することが可能となる。この水酸基を主体に含有するポリエステル樹脂に反応させる酸無水物としては、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸などを挙げることができる。
【0026】
上記方法において、直接エステル化法またはエステル交換法による反応は、加圧または減圧操作、あるいは不活性ガスを流入させて反応を促進させることもできる。さらに反応の際にジ−n−ブチル錫オキサイドなどの有機金属触媒などをエステル化触媒として使用することができる。
【0027】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂は、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、または、これらの樹脂の変性物、たとえばウレタン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂などのいずれであってもよいが、なかでもオイルフリーポリエステル樹脂であることが好適である。
【0028】
上記レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール成分とホルムアルデヒド類とを反応触媒の存在下で加熱して縮合反応させてメチロール基を導入して得られるメチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルコールでアルキルエーテル化してなるものである。
【0029】
レゾール型フェノール樹脂架橋剤の製造においては、出発原料である上記フェノール成分として、2官能性フェノール化合物、3官能性フェノール化合物、4官能性以上のフェノール化合物などを使用することができる。
【0030】
レゾール型フェノール樹脂架橋剤の製造に用いられる2官能性フェノール化合物としては、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノールなどの2官能性フェノールなどが挙げられる。3官能性フェノール化合物としては、フェノール、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールなどが挙げられる。4官能性フェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。これらのフェノール化合物は1種で、または2種以上混合して使用することができる。
【0031】
レゾール型フェノール樹脂の製造に用いられるホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はトリオキサンなどが挙げられ、1種で、または2種以上混合して使用することができる。
【0032】
メチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜4個の1価アルコールを好適に使用することができる。好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどが挙げられる。
【0033】
レゾール型フェノール樹脂は、水酸基含有ポリエステル樹脂との反応性などの点からベンゼン核1核当りアルコキシメチル基を平均して0.5個以上、好ましくは0.6〜3.0個有するものが適している。
【0034】
高分子微粒子分散スラリー樹脂、ポリエステル樹脂などのベース樹脂とレゾール型フェノール樹脂などの硬化剤との配合比については、ベース樹脂/硬化剤は、硬化性と加工性のバランスの観点から、質量比で70/30〜98/2の範囲が好ましく、85/15〜97/3の範囲がより好ましい。
【0035】
缶内面用塗料から得られる皮膜の動摩擦係数を調整するためには、上記樹脂および硬化剤以外にワックスが好適に使用できる。添加するワックスとしては、たとえば、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、脂肪酸エステル系ワックス、フッ素系ワックス、ポリオレフィン(オレフィン重合体を意味する、以下同じ)系ワックスなどが挙げられる。また、上記ワックスを2種類以上併用してもよい。
【0036】
缶内面側の塗装に用いられる塗料に上記ワックスを用いることによって、動摩擦係数の調整以外に、DI加工時に膜の連続性、被覆性が損なわれ難いなどの効果があり缶内面用として適したものとなる。
【0037】
上記植物系ワックスとしては、カルナウバワックス、綿ワックス、木ロウなどが挙げられ、動物系ワックスとしては、ラノリンワックス、ゲイロウ、蜜ろうなどが挙げられ、鉱物系ワックスとしてはオゾケライト、モンタンワックスなどが挙げられる。石油系ワックスとしては、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどが挙げられ、脂肪酸エステル系ワックスとしては、脂肪酸蔗糖エステルポリグリセリンエーテルと脂肪酸とのエステル化物などが挙げられる。フッ素系ワックスとしては、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどが挙げられる。ポリオレフィン系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスなどが挙げられる。上記ワックスの添加量としては、塗料中のスラリー樹脂および樹脂の合計量としての100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0038】
[缶外面側となる皮膜および缶外面用塗料]
絞りしごき加工に用いられる塗装金属板として、加工後に缶外面側となる皮膜について、ガラス転移温度が30〜120℃、好ましくは50〜100℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度B以上、伸び率200%以上、動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下である塗装金属板が適している。
【0039】
絞りしごき加工時の発熱により60℃程度まで作業温度が上昇する点から、60℃における上記特性が必要となる。また、絞りしごき加工という皮膜にとって過酷な加工を行なう点から、前記塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離は15%以下であることが必要であり、5%以下であることが好ましい。ここで、クロスカット法による皮膜の付着性試験とは、JIS K 5600−5−6に規定されている付着性試験をいう。かかる付着性試験において、皮膜の剥離が15%を超えるものは、絞りしごき加工の際に皮膜の剥離または亀裂が生じる。
【0040】
上記皮膜特性を有する皮膜を形成することができる塗料としては、高分子微粒子分散スラリー樹脂を含むベース樹脂と、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂などの硬化剤とを組み合わせたものを使用することができる。高分子微粒子分散スラリー樹脂を含有することにより上記皮膜特性を有する塗料が得られる。
【0041】
また、上記皮膜特性を有する皮膜の形成に使用する塗料は、ベース樹脂として、上記高分子微粒子分散スラリー樹脂の他に、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などを併用することができる。優れた皮膜特性を有する皮膜が得られる観点から、上記塗料は、ベース樹脂として高分子微粒子分散スラリー樹脂の他にさらにポリエステル樹脂を含有し、硬化剤としてアミノ樹脂および/またはレゾール型フェノール樹脂を含有することが好ましい。特に、硬化剤としてアミノ樹脂、またはアミノ樹脂とレゾール型フェノール樹脂との組み合わせは、塗料の発色もなく好ましい。硬化剤であるレゾール型フェノール樹脂は、塗膜の焼付硬化時に黄変する傾向があるため缶外面用塗料に使用するには注意を要するが、たとえばアルミ顔料を使用したシルバー色に黄変を利用して着色しゴールド色とする使用方法、レゾール型フェノール樹脂の耐食性に優れる点を利用してアミノ樹脂と併用する使用方法などには適している。
【0042】
上記高分子微粒子分散スラリー樹脂、ポリエステル樹脂、レゾール型フェノール樹脂としては、缶内面側となる皮膜および缶内面用塗料の説明において挙げたものを用いることができる。
【0043】
アミノ樹脂としてはメラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミドなどのアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。また、このメチロール化メラミン樹脂を1種または2種以上のアルコールによってエーテル化したものも上記アミノ樹脂に包含される。エーテル化に用いられるアルコールとしては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノールなどの1価アルコールが挙げられる。これらのうち、なかでもメチロール化メラミン樹脂のメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数1〜4の1価アルコールでエーテル化してなるメラミン樹脂が好適である。
【0044】
高分子微粒子分散スラリー樹脂、ポリエステル樹脂などのベース樹脂とアミノ樹脂、レゾール型フェノール樹脂などの硬化剤との配合比については、ベース樹脂/硬化剤は、硬化性と加工性のバランスの観点から、質量比で70/30〜98/2の範囲が好ましく、85/15〜97/3の範囲がより好ましい。
【0045】
缶外面用塗料から得られる皮膜のしごき加工の際の傷つきを防止のためには、上記樹脂と硬化剤以外にワックスを添加することが効果的である。添加するワックスとしては、たとえば、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、脂肪酸エステル系ワックス、フッ素系ワックス、ポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。また、上記ワックスを2種類以上併用してもよい。
【0046】
上記植物系ワックスとしては、カルナウバワックス、綿ワックス、木ロウなどが挙げられ、動物系ワックスとしては、ラノリンワックス、ゲイロウ、蜜ろうなどが挙げられ、鉱物系ワックスとしてはオゾケライト、モンタンワックスなどが挙げられる。石油系ワックスとしては、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどが挙げられ、脂肪酸エステル系ワックスとしては、脂肪酸蔗糖エステルポリグリセリンエーテルと脂肪酸とのエステル化物などが挙げられる。フッ素系ワックスとしては、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどが挙げられる。ポリオレフィン系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスなどが挙げられる。上記ワックスの添加量としては、塗料中の樹脂100質量部に対し、0.1〜30質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0047】
また、外面用塗料の硬度、密着性などの改良の目的でポリエステル樹脂とアミノ樹脂との系にエポキシ樹脂を添加することが好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、またはこれらのエポキシ樹脂中のエポキシ基もしくは水酸基に各種変性剤が反応せしめられた変性エポキシ樹脂などが挙げられる。さらに、下地金属板との密着性付与の観点からは、低分子量、低粘度であることが望ましい。
【0048】
ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の系においてエポキシ樹脂の添加量としては、水酸基含有高分子ポリエステル樹脂とメラミン樹脂の合計量としての100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部の範囲内が適している。
【0049】
上記缶内面用及び缶外面用塗料には硬化反応を促進するための硬化触媒として、酸触媒を必要に応じて添加することができる。たとえば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、リン酸などの酸触媒またはこれらの酸のアミン中和物などが挙げられる。
【0050】
硬化触媒(酸触媒)の添加量は、得られる塗膜の物性などの点から、酸量(たとえば、スルホン酸化合物のアミン中和物の場合は、この中和物からアミンを除去した残りのスルホン酸化合物量)として上記樹脂と硬化剤の合計量としての100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、0.2〜2質量部がより好ましい。
【0051】
また、上記缶内面用及び缶外面用塗料には、塗装性の観点などから、通常、溶剤が含められる。さらに、必要に応じて、塗膜の改質を目的に、その他の樹脂を配合することができ、また、さらに着色顔料、光輝性顔料、体質顔料などの顔料、凝集防止剤、レベリング剤、消泡剤などの塗料用添加剤などを配合することもできる。
【0052】
上記溶剤としては、上記樹脂、硬化剤及び必要に応じて使用されるその他の樹脂などの各成分を溶解ないし分散できるものが使用でき、具体的には、たとえば、トルエン、キシレン、その他の高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0053】
本発明にかかる塗装金属板は、下地金属板の両面にロールコータ塗装、スプレー塗装など等の公知の塗装方法によって上記缶内面用及び缶外面用塗料を塗装し、焼き付けることによって絞りしごき缶用塗装金属板として適した塗膜を形成することができる。なお両面塗装に当たっては、先に外面側を塗装乾燥してから、内面側を塗装焼付した方が缶内面の衛生性の観点からは好ましい。塗膜の焼付け条件は、通常、下地金属板の最高到達温度が、約90〜300℃の温度となる条件で約2秒〜約30分間程度である。
【0054】
上記下地金属板の素材としては、DI缶用素材として従来から用いられている各種の表面処理鋼板やアルミニウム板、アルミニウム合金板などを好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0056】
[高分子微粒子分散スラリー樹脂の合成]
(合成例1)
固体高分子として、ペレット状のポリブチレンテレフタレートNOVADUR5008(三菱エンジニアリングプラスチック社製、数平均分子量が14,000、Tgが35℃、融点が224℃、固有粘度(25℃におけるo−クロロフェノール中で測定したもの、以下同じ)が0.85dl/g)100部と、多官能性有機化合物であるトリメチロールプロパン2部と、上記両者を反応させる触媒であるモノブチル錫オキサイド0.2部とを混合した。この混合物を2軸押出機(同一方向に2つのスクリューが回転するもの、以下同じ)の供給口から供給し(0.8kg/hr)、250℃で約15秒間混合、溶融、反応をさせた。
【0057】
さらに、上記2軸押出機の中央部にある第2の供給口から、ポリエステル樹脂GK−880(東洋紡績社製、数平均分子量が18,000、水酸基価が5mgKOH/g、酸価が2.2mgKOH/g、ガラス転移温度(以下、Tgという)が84℃)をジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに溶解した33%溶液を供給し(2.3kg/hr)、250℃で約15秒間混合、反応させた。
【0058】
上記2軸押出機の出口より押し出された反応物(3.1kg/hr)と、上記ポリエルテル樹脂GK−880をシクロヘキサノン/高沸点石油系炭化水素(質量比50/50)に溶解した16%溶液(5.1kg/hr)とを連続式ホモジナイザーで分散し、高分子微粒子分散スラリー樹脂A−1を得た。この高分子微粒子分散スラリー樹脂A−1中の高分子微粒子の含有量は9.8%、粒径は4μm、高分子微粒子を含む樹脂固形分(スラリー樹脂全体から溶剤のみを除いた全固形分をいう、以下同じ)は29.0%であった。
【0059】
(合成例2)
固体高分子としてペレット状のポリエチレンテレフタレートMA−1340P(ユニチカ社製、数平均分子量が18,000、Tgが75℃、融点が230℃、固有粘度が0.57dl/g)を用いた他は、合成例1と同様にして、高分子微粒子分散スラリー樹脂A−2を得た。この高分子微粒子分散スラリー樹脂A−2中の高分子微粒子の含有量は9.8%、粒径は4μm、高分子微粒子を含む樹脂固形分は29.0%であった。
【0060】
(合成例3)
上記2軸押出機の第2の供給口から供給するポリエステル樹脂として、UE−9600(ユニチカ社製、数平均分子量が18,000、水酸基価が8mgKOH/g、酸価が1.0mgKOH/g、Tgが71℃)を用いた他は、合成例1と同様にして、高分子微粒子分散スラリー樹脂A−3を得た。この高分子微粒子分散スラリー樹脂A−3中の高分子微粒子の含有量は9.8%、粒径は4μm、高分子微粒子を含む樹脂固形分は29.0%であった。
【0061】
[水酸基含有ポリエステル樹脂の合成]
(合成例4)
テレフタル酸81部、イソフタル酸35部、エチレングリコール15部、2−メチル−
1,3−プロパンジオール67.5部、トリメチロールプロパン1.5部、および重縮合触媒としてモノブチル錫オキサイドを0.6部添加して、加熱攪拌させ、生成する水を除去しながらエステル反応を進め、数平均分子量が19,000、水酸基価が8mgKOH/g、酸価が1mgKOH/g、Tgが61℃の水酸基含有ポリエステル樹脂を得た。この水酸基含有ポリエステル樹脂を、シクロヘキサノン/高沸点石油系炭化水素(質量比が70/30)の混合溶剤で希釈して、樹脂固形分30%のポリエステル樹脂溶液B−1を得た。ここで、高沸点石油系炭化水素とは、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの石油系炭化水素の単独または混合溶剤で沸点が185〜211℃程度のものをいう。
【0062】
(合成例5)
水酸基含有ポリエステル樹脂である上記GK−880を、シクロヘキサノン/高沸点石油系炭化水素(質量比が、70/30)の混合溶剤にて希釈して、樹脂固形分30%のポリエステル樹脂溶液B−2を得た。
【0063】
(合成例6)
水酸基含有ポリエステル樹脂である上記UE−9600を、シクロヘキサノン/高沸点石油系炭化水素(質量比が、70/30)の混合溶剤にて希釈して、樹脂固形分30%のポリエステル樹脂溶液B−3を得た。
【0064】
[缶内面用塗料および缶外面用塗料の製造]
(製造例1〜11)
下記表1に示す配合にて缶内面用塗料および缶外面用塗料を調製した。ここで、製造例1〜6は缶内面用塗料の製造例であり、この内、製造例1〜5は実施例用として、製造例6は比較例用として製造されたものである。また、製造例7〜11は、缶外面用塗料の製造例であり、この内、製造例7〜9は実施例用として、製造例10および11は比較例用として製造されたものである。なお、表1における配合は、高分子微粒子分散スラリー樹脂については高分子微粒子を含む樹脂固形分を、それ以外の樹脂については樹脂固形分を基準とする質量部で示した。
【0065】
表1において、レゾール型フェノール樹脂としてはスミライトレジンPR−53893(住友デュレズ社製)を用い、エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエピコート1001(ジャパンエポキシレジン社製)を用い、アミノ樹脂としてはメラミン系アミノ樹脂であるサイメル254(三井サイテック社製)またはベンゾグアナミン系アミノ樹脂であるサイメル1123(三井サイテック社製)を用い、酸触媒としてはドデシルベンゼンスルホン酸を用いた。
【0066】
【表1】

【0067】
[塗装金属板の作成]
(実施例1〜8および比較例1〜3)
上記製造例で得られた缶内面用塗料と缶外面用塗料を用い、下記表2および表3に示す組み合わせにて各塗装金属板を作成した。表2に示すように、実施例1〜5および比較例1については、いずれも缶外面用塗料は製造例8の塗料を用いて、缶内面用塗料および缶の内面側の皮膜について評価を行なった。表3に示すように、実施例6〜8および比較例2,3については、いずれも缶内面用塗料として製造例2の塗料を用いて、缶外面用塗料および缶の外面側の皮膜について評価を行なった。
【0068】
塗装金属板の作成においては、下地金属板としてリン酸クロメート処理が施された厚さ0.28mmの#3004アルミニウム材を使用した。まず、この下地金属板の外面側に外面用塗料を表2に示す各乾燥塗布量になるようバーコーターにて塗装し100℃で60秒間焼付け乾燥を行った後、下地金属板の内面側に内面用塗料を表3に示す各乾燥塗布量になるようバーコーターにて塗装し、下地金属板の最高到達温度が260℃になる条件で20秒間焼付けを行なうことにより作成した。
【0069】
各内面用塗料及び各外面用塗料から得られる塗膜の性能、および上記方法で得られた各塗装金属板について下記の試験方法に従って試験を行った。試験結果を表2および表3にに示す。
【0070】
[試験方法]
(ガラス転移温度(Tg))
バーコーターを用いて、各内面用塗料および外面用塗料を乾燥後の塗着量が50mg/100cm2となるようにブリキ板に塗装し、下地金属板の最高到達温度が260℃になる条件で20秒間焼付けを行った。得られた塗板を5mm×5mmの大きさに切り、MAC SCIENCE社製TMA−4000装置を用いて、針入法(荷重1g)でTMA曲線を測定し、変曲点前後の接線の交点をTgとして評価した。
【0071】
(60℃鉛筆硬度)
各塗装金属板を60℃に設定した加熱板の上に乗せ、表面温度計で試料表面が60℃になったのを確認してから、JIS K 5600−5−4に準拠して鉛筆引っ掻き試験を行った。
【0072】
(60℃動摩擦係数)
東洋精機社製FRICTION TESTER TR−2装置の加熱板を60℃に設定し、その上に各塗装金属板を乗せた。表面温度計で試料表面が60℃になったのを確認してから、荷重2kg、引張り速度1,000mm/minの条件で動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が小さいほど潤滑性は良好である。
【0073】
(60℃加圧粘着性)
各塗装金属板を5cm×5cmの大きさに切り、塗装面に所定の紙(クレシア社製Kleenex Facial Tissues)をかぶせ、60℃の雰囲気中、30kg/cm2で24時間加圧した後取り出し、室温に戻してから紙をはがし、その状態を評価した。評価基準は、○:剥がすことができる、△:剥がせるが塗膜に紙の繊維が残る、×:剥がすことができないの3段階とした。
【0074】
(60℃伸び率、60℃破断応力)
バーコーターを用いて、各内面用塗料および外面用塗料を乾燥後の塗着量が50mg/100cm2となるようにブリキ板に塗装し、下地金属板の最高到達温度が260℃になる条件で20秒間焼付けを行った。この塗膜を水銀アマルガム法ではがし、フリーフィルムを得た。このフィルムを5mm幅で30mm長さに切り、上下5mmをつかみ代として、島津製作所社製 オートグラフAGS−H装置を用いて60℃雰囲気下、引張り速度500mm/minで破断までの伸び率(%)を測定した。また、このときの破断応力(g/cm2)を測定した。
【0075】
(折り曲げ加工性)
各塗装金属板を、同じ厚さの下地金属板を1枚挟んで180°に折り曲げたとき(1T加工)の折り曲げ部の通電性を通電値測定装置デジタルエナメルレータ(Digital Enamel Rater)(ペコ社製)を用いて評価した。評価基準は、◎:通電せず、○:5mA以下、△:5〜50mA以下、×:50mAを超える、の4段階とした。
【0076】
(キャップ成型性、成型後の皮膜付着性)
各塗装金属板を、直径28mm×高さ33mmのキャップに成型したときの成型性を、○:成型できる、×:成型できない、の2段階で評価した。ここで、成型率は1.25倍とした。また、上記成型において塗装金属板の伸び率が125%の部分について、JIS K 5600−5−6に規定するクロスカット法による皮膜の付着性試験を行なった。評価基準は、◎:皮膜の剥離が5%以内、○:皮膜の剥離が5〜15%以内、△:皮膜の剥離が15〜35%以内、×:皮膜の剥離が35%を超える、の4段階とした。
【0077】
(DI加工性、DI加工後の皮膜確認)
絞り率約37%、しごき率約60%の絞りしごき加工を行なった。10缶成型加工したうちの成型加工できた率から以下の基準で評価した。◎:成功率100%、○:成功率90%以上、100%未満、△:成功率50%以上、90%未満、×:成功率50%未満の4段階とした。また、成型できた缶の内面側または外面側の皮膜を目視で観察し、○:異常無し、×:異常あり(皮膜の剥離、損傷など)、の2段階で評価した。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
表2および表3から明らかなように、高分子微粒子分散スラリー樹脂を含有する塗料により形成され、伸び率125%における皮膜付着性試験において皮膜の剥離が15%以下の皮膜を缶内面側および缶外面側に有する塗装金属板は、DI加工性に優れ、また、DI加工によっても皮膜の剥離、損傷が認められなかった。これは、皮膜内に高分子微粒子が含まれることにより、皮膜の下地金属板に対する追随性が向上したためと考えられる。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上記のように、本発明は、金属板が伸びた部分でも皮膜の付着性が高く絞りしごき加工に耐えうる塗装金属板およびそれを用いた絞りしごき缶に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地金属板の両面を塗装した塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜について、乾燥塗布量が10〜400mg/100cm2、ガラス転移温度が30〜120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度4B以上、伸び率200%以上、動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、前記塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による前記下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下であり、加工後に缶外面側となる皮膜について、乾燥塗布量が5〜150mg/100cm2、ガラス転移温度が30〜120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度B以上、伸び率200%以上および動摩擦係数0.03〜0.25の範囲内にあるとともに、前記塗装金属板を伸び率125%に伸ばしたときのクロスカット法による前記下地金属板への皮膜の付着性試験における皮膜の剥離が15%以下である塗装金属板。
【請求項2】
前記皮膜の形成に使用する塗料が、少なくとも固体高分子と多官能性有機化合物とを反応させて得られる高分子微粒子分散スラリー樹脂を含有するものである請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記固体高分子がポリエステル樹脂であり、前記多官能性有機化合物が1以上の水酸基を含有する多官能性有機化合物である請求項2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記皮膜の形成に使用する塗料中の高分子微粒子分散スラリー樹脂の含有量が5〜95質量%であり、前記高分子微粒子分散スラリー樹脂中の高分子微粒子の含有量が5〜60質量%である請求項2または請求項3に記載の塗装金属板。
【請求項5】
前記高分子部粒子分散スラリー樹脂中の前記高分子微粒子の粒径が、1〜50μmである請求項2から請求項4のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項6】
前記加工後に缶内面側となる皮膜の形成に使用する塗料が、さらにポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂とを含有するものであり、前記加工後に缶外面側となる皮膜の形成に使用する塗料が、さらにポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはレゾール型フェノール樹脂とを含有するものである請求項2から請求項5のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項7】
前記加工後に缶外面側となる皮膜の形成に使用する塗料が、さらにエポキシ樹脂を含有するものである請求項2から請求項6のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の塗装金属板を絞りしごき加工して得られる絞りしごき缶。

【公開番号】特開2006−88515(P2006−88515A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276633(P2004−276633)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【Fターム(参考)】