説明

増幅回路

【課題】受光素子(フォトダイオード)の出力信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路において、初段増幅器の増幅率を大きくする。
【解決手段】フォトダイオード2で光電変換された電気信号を増幅する初段増幅器31の出力信号に含まれる直流成分をローパスフィルタ34にて抽出し、その抽出した直流成分を打ち消すように、初段増幅器31の入力側にバイアス電流を帰還する。このようにして初段増幅器31の入力側にバイアス電流を流すことによって、初段増幅器31に入力される電気信号の直流成分(照明光等の信号成分)を除去することができ、初段増幅器31の増幅率を大きくすることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光通信等において光変調信号を受信する受信器に用いられる増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(発光ダイオード)などの光源が出力する可視光を利用してデータ通信を行う可視光通信システムが開発されている。
【0003】
可視光通信システムの一例として、送信データに応じて照明機器等の光源を点滅制御することにより、照明光(可視光)に光変調信号を重畳して出力する送信器と、この送信器から送信される可視光信号(光変調信号)を受信し、その受信した光変調信号を復調して通信データを取得する受信器とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような可視光通信システム等において、光変調信号を受信する受信器は、光変調信号を電気信号に変換する受光素子(例えば、フォトダイオード)、この受光素子の出力信号を増幅する増幅回路、及び、受信信号を復調する復調回路などを備えている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
また、この種の受信器に用いられる増幅回路は、例えば、受光素子で光電変換された電気信号(電流信号)を増幅する初段増幅器、この初段増幅器にて増幅された電気信号から光変調信号(通信データ)に対応する周波数成分を抽出するバンドパスフィルタ、及び、バンドパスフィルタによって抽出された電気信号のゲインを調整して信号の振幅を一定にするAGC(Auto Gain Control;自動利得制御)回路などを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−252465号公報
【特許文献2】特開2008−117206号公報
【特許文献3】特開2009−118180号公報
【特許文献4】特開2010−136167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した増幅回路において、受光素子で光電変換された電気信号を増幅する初段増幅器の出力には、光変調信号(通信データ)と、照明光等の2つの信号成分が含まれている(図4参照)。
【0007】
ここで、この種の増幅回路において、初段増幅器で増幅率を稼ぐことが、例えば、微弱な光変調信号の受信にも対応することができ、光変調信号の受信のダイナミックレンジを広げることが可能であるという点で有利である。しかしながら、上述の如く、初段増幅器の出力には光変調信号と照明光等との2つの信号成分が含まれているので、初段増幅器の増幅率を大きくすると、照明光等の信号成分(ほぼ直流成分)も大きく増幅され、初段増幅器の出力が飽和してしまう。このため、初段増幅器の増幅率を大きくすることはできない。
【0008】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、受光素子で光電変換された電気信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路において、初段増幅器の増幅率を大きくすることが可能な構成を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光信号を電気信号に変換して出力する受光素子に適用され、前記受光素子が出力する電気信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路であって、前記初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分を検出する直流成分検出手段(例えば、ローパスフィルタ)と、この直流成分を打ち消すように、前記初段増幅器の入力側にバイアス電流を帰還するバイアス手段とを備えていることを技術的特徴としている。
【0010】
本発明によれば、初段増幅器の入力側に、直流成分を打ち消す(直流成分をゼロにする)ようなバイアス電流を流しているので、初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分つまり照明光等の信号成分を取り除くことができる。これによって初段増幅器の増幅率を大きくすることができる。
【0011】
本発明において、初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分を検出する直流成分検出手段の一例として、抵抗器とコンデンサとからなり、初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分のみを抽出するローパスフィルタを挙げることができる。このようなローパスフィルタを用いると、簡単な回路構成で直流成分を検出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、受光素子が出力する電気信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路において、初段増幅器の増幅率を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用する増幅回路を備えた受信器の一例を示すブロック図である。
【図2】ローパスフィルタの一例を示す図である。
【図3】光通信システムを構成する送信器の一例を示すブロック図である。
【図4】フォトダイオードの出力信号を増幅する初段増幅器の出力信号(直流成分を含む信号)の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
この実施形態では、可視光通信にてデータ通信を行う送信器と受信器とを備えた光通信システムにおいて、受信器に設けられる増幅回路に本発明を適用した場合の例について説明する。
【0016】
まず、光通信システムを構成する送信器100の一例について、図3を参照して説明する。この例の送信器100は、変調回路101、LED駆動回路102、及び、照明機器の光源であるLED(発光ダイオード)103などを備えている。
【0017】
変調回路101は、通信データ(照明光に重畳するデータ)を変調してLED駆動回路102に出力する。変調回路101の信号変調方式は、光通信などで一般に用いられている変調方式であればよく、例えば、ASK方式(Amplitude Shift Keying;振幅偏移変調)方式やPPM(Pulse Position Modulation;パルス位置変調)方式を挙げることができる。また、QPSK(quadrature phase shift keying)方式などの直交変復調方式などを用いてもよい。
【0018】
LED駆動回路102は、変調回路101にて変調された変調データに基づいてLED103を高速点滅する。これによって照明光に重畳して光変調信号(通信データ)が出力される。その出力された光変調信号は受信器1にて受信される。
【0019】
−受信器−
次に、受信器1について図1を参照して説明する。
【0020】
受信器1は、上記送信器100が出力する光変調信号(通信データ)を受光して、その光変調信号を電気信号(電流信号)に変換するフォトダイオード(受光素子)2、このフォトダイオード2で光電変換された電気信号を増幅する増幅回路3、及び、増幅回路3を通過した電気信号(光変調信号)を復調する復調回路4などを備えている。
【0021】
増幅回路3は、初段増幅器(フォトダイオード受光回路)31、バンドパスフィルタ32、可変ゲイン増幅器33、ローパスフィルタ34、ADコンバータ35、処理制御部36、及び、バイアス回路37などを備えている。
【0022】
初段増幅器31は、オペアンプ31aと帰還抵抗器31bとからなる増幅器(I−V変換器)であって、フォトダイオード2で光電変換された電気信号を増幅する。初段増幅器31で増幅された電気信号はバンドパスフィルタ32に入力される。
【0023】
なお、初段増幅器(I−V変換回路)31は、オペアンプ31aを用いた反転増幅回路であるので、オペアンプ31aの出力電圧Vは[V=−Ipd×R Ipd:フォトダイオード2の出力電流 R:帰還抵抗器31bの抵抗値]となり、後述する直流成分(図4参照)は負の値となる。
【0024】
バンドパスフィルタ32は、例えば、減衰特性が3段バターワース特性(振幅平坦特性)のフィルタであって、初段増幅器31が出力する電気信号に含まれるノイズ成分を除去して光変調信号(通信データ)のみを抽出する。このバンドパスフィルタ32にて抽出された光変調信号は可変ゲイン増幅器33によってゲインが調整される。可変ゲイン増幅器33はADコンバータ35にてA/D変換された後に、処理制御部36に入力される。
【0025】
処理制御部36は、バンドパスフィルタ32にて抽出され、可変ゲイン増幅器33及びADコンバータ35を通過した光変調信号(通信データ)に所定の信号処理を行って復調回路4に出力する。具体的には、光変調信号をADコンバータ35により、光変調信号の2倍より高い周波数でサンプリングし、光変調信号をデジタル信号に変換する(サンプリング定理)。次に、その変換後のデータを移動平均フィルタに通してノイズ除去し復調回路4に出力する。復調回路4は処理制御部36からの光変調信号を復調して通信データを取得する。
【0026】
また、処理制御部36は、ADコンバータ35の出力値(AD値)が予め設定した規定範囲内に収まるように、可変ゲイン増幅器33の増幅率を調整する。このようなAGC増幅率制御により、バンドパスフィルタ32を通過した信号の振幅を一定に揃えることができる。
【0027】
さらに、処理制御部36は、ローパスフィルタ34にて抽出された信号(A/D変換後)に基づいて、バイアス回路37に、後述する直流成分を打ち消すためのバイアス信号(デジタル信号)を出力する。
【0028】
−特徴部分−
次に、本実施形態の特徴部分について説明する。
【0029】
まず、図1に示す増幅回路3において、本実施形態の特徴部分(ローパスフィルタ34及びバイアス回路37等)を備えていない場合、初段増幅器31の出力信号は図4に示すような波形となる。この図4から判るように、初段増幅器31の出力信号には、光変調信号(通信データ)と、照明光等の2つの信号成分が含まれている。このため、初段増幅器31の増幅率を大きくすることができない。つまり、初段増幅器31の増幅率を大きくすると、照明光等の信号成分(ほぼ直流成分)も大きく増幅され初段増幅器31の出力が飽和してしまう。
【0030】
このような点を考慮して、本実施形態では、初段増幅器31の出力信号に含まれる直流成分を抽出し、この直流成分を打ち消すように初段増幅器31の入力側にバイアス電流を帰還することで、初段増幅器31に入力される電気信号の直流成分を除去する。その具体的な構成について以下に説明する。
【0031】
まず、本実施形態では、図1に示すように、初段増幅器31の出力信号に含まれる光変調信号(通信データ)を除去して直流成分(照明光等の信号成分)を抽出するローパスフィルタ34と、DAコンバータ37a及び抵抗器37bによって構成されるバイアス回路37とを設け、このバイアス回路37の出力端子(抵抗器37b)を初段増幅器31の入力側(フォトダイオード2と初段増幅器31との間)に接続している。
【0032】
上記ローパスフィルタ34にて抽出された直流成分はADコンバータ35にてA/D変換された後に処理制御部36に入力される。処理制御部36は、ローパスフィルタ34で抽出された直流成分(A/D変換後のデジタル信号)を一時記憶するとともに、その直流成分を打ち消す(直流成分がゼロになる)ようなバイアス信号(デジタル信号)をバイアス回路37に出力する。バイアス回路37では、処理制御部36からのバイアス信号(デジタル信号)をDAコンバータ37aでアナログ信号(バイアス電流)に変換し、抵抗器37bを通じて初段増幅器31の上流側に帰還する。
【0033】
このようにして、初段増幅器31の入力側に、直流成分を打ち消すバイアス電流を流すことによって、初段増幅器31に入力される電気信号の直流成分(照明光等の信号成分)を除去することができ、初段増幅器31の増幅率を大きくすることが可能になる。これによって、例えば、微弱な光変調信号を受信することが可能になり、光変調信号の受信のダイナミックレンジを広げることができる。
【0034】
ここで、処理制御部36は、例えば、上記送信器100からの送信データを受信する毎に、上記初段増幅器31の出力信号に含まれる直流成分を取り込んで(一時記憶して)、その直流成分を打ち消すように、バイアス回路37にバイアス信号を出力する動作(初段増幅器31の入力側にバイアス電流を流す動作)を順次繰り返す処理を行うようにしてもよい。
【0035】
なお、以上説明した処理制御部36及びバイアス回路37などによって、本発明のバイアス手段が実現されている。
【0036】
−ローパスフィルタ−
次に、本実施形態に用いるローパスフィルタ34の一例について図2を参照して説明する。図2に示すローパスフィルタ34は、1個の抵抗器34aと、1個のコンデンサ34bとからなる簡単な回路構成のフィルタである。
【0037】
本実施形態に用いるローパスフィルタ34では、上記したように初段増幅器3が出力する電気信号の直流成分のみを抽出することを目的としているので、カットオフ周波数fcを小さい値に設定している。例えば、この例では、図2に示す抵抗器34aの抵抗値Rを10kΩ、コンデンサ34bの容量Cを1μFとして、カットオフ周波数fcを約16Hz[fc=1/(2π・R・C)≒16Hz]に設定している。
【0038】
そして、このようなローパスフィルタ34を用いると、簡単な回路構成で、初段増幅器31の出力信号に含まれる光変調信号(通信データ)を除去して直流成分(蛍光灯光等の信号成分)のみ抽出(検出)することが可能になる。
【0039】
−他の実施形態−
以上の実施形態では、初段増幅器31の出力信号に含まれる直流成分を検出する手段として、ローパスフィルタ34を用いているが、本発明はこれに限られることなく、初段増幅器31の出力信号に含まれる直流成分を検出できるものであれば、他の回路構成の検出手段を用いてもよい。
【0040】
以上の実施形態では、変調回路101及びLED103等を有する送信器100と、フォトダイオード2、増幅回路3及び復調回路4等を有する受信器1とを備えた片方向通信の光通信システムを例にとって説明したが、本発明はこれに限られることなく、送信側及び受信側の両方に、LED駆動回路系(変調回路等)及び受光回路系(復調回路等)を備えさせた双方向通信の光通信システムに用いられる増幅回路にも適用可能である。
【0041】
以上の実施形態では、LEDが出力する可視光を利用してデータ通信を行う可視光通信システムを例にとって説明したが、本発明にこれに限られることなく、例えば、蛍光灯などの放電灯、有機EL、無機ELなどの光源が出力する可視光を利用してデータ通信を行う可視光通信システムに用いられる増幅回路にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、可視光通信などにおいて光変調信号を受信する受信器に用いられる増幅回路に利用可能であり、さらに詳しくは、受光素子で光電変換された電気信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路において、初段増幅器の増幅率を大きくする技術に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 受信器
2 フォトダイオード(受光素子)
3 増幅回路
31 初段増幅器
31a オペアンプ
31b 帰還抵抗器
32 バンドパスフィルタ
33 可変ゲイン増幅器
34 ローパスフィルタ(直流成分検出手段)
35 ADコンバータ
36 処理制御部
37 バイアス回路
37a DAコンバータ
37b 抵抗器
4 復調回路
100 送信器
101 変調回路
102 LED駆動回路
103 LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を電気信号に変換して出力する受光素子に適用され、前記受光素子が出力する電気信号を増幅する初段増幅器を有する増幅回路であって、
前記初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分を検出する直流成分検出手段と、この直流成分を打ち消すように、前記初段増幅器の入力側にバイアス電流を帰還するバイアス手段とを備えていることを特徴とする増幅回路。
【請求項2】
請求項1記載の増幅回路において、
前記直流成分検出手段は、抵抗器とコンデンサとからなり、前記初段増幅器が出力する電気信号に含まれる直流成分のみを抽出するローパスフィルタであることを特徴とする増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−5326(P2013−5326A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136303(P2011−136303)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000195029)星和電機株式会社 (143)
【Fターム(参考)】