増粘性組成物の増粘方法、及び針装置
内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わる増粘性組成物、胃や食道などの粘膜注射に用いられ、前記増粘性組成物を増粘させるのに好適な針装置等の提供することを目的とする。外から刺激を付与可能な刺激付与手段と、対象に刺入可能な針本体とを少なくとも有する針装置。該刺激付与手段が複数針本体内に出入可能に収容された態様、刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させる刺激付与領域拡大手段を有してなる態様、対象内に流体を移送可能な流体移送手段を有してなる態様などが好ましい。外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物を提供する。増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、前記増粘性組成物が本発明の増粘性組成物であり、前記針装置が本発明の針装置である増粘性組成物の増粘方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時には外から付与される刺激により(患者の体外からコントロールされる刺激により)ゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物のゲル化方法、及び胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食道、胃、十二指腸等の腑粘膜に発生した腫瘍、特に悪性腫瘍(癌)については、内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)によりその除去が行われてきた。該内視鏡的粘膜切除術としては、スネアー法、分割除去法、一括切開剥離法などが知られている。これらの中でも、前記スネアー法は、直径が2〜3cm以下の早期癌の治療法として有効であり、一般的な手術法として広く使用されてきている。
前記スネアー法においては、内視鏡を用いて、図1から図3に示すように、食道、胃、大腸等の粘膜層10に発生した癌細胞塊15の映像を観ながら、癌細胞塊15を含む切除対象部の粘膜層10の皮下に、より詳しくは該粘膜層10とその直下に位置する筋層20との界面に粘膜膨隆液を注射針90を用いて注射して該切除対象部を含む粘膜層10を筋層20から解離させ隆起させる。そして、図4に示すように、内視鏡(図示せず)の先端からリング状金属線であるスネアー300を押出して、スネア300にて前記切除対象部の外周を囲いつつ、内視鏡の先端に備えられたかんし200にて該切除対象部を摘んで引っ張りながら、図5から図6に示すように、スネアー300のリングを徐々に絞込み、該スネア300のリング状金属線に電気を流して電気メスの原理により、該切除対象部を切除する。こうして切除された前記切除対象部は略円形となる。
しかし、前記スネアー法においては、前記粘膜膨隆液としての生理食塩水を粘膜10の皮下に注射をして切除対象部を隆起させる必要があるが、該切除対象部を注射針90を用いて注射して隆起させた後、該注射針90を該粘膜10から抜くと、図7から図8に示すように、そこに形成されたピンホール30から粘膜膨隆液60が流出してしまい、前記切除対象部の隆起を長時間維持することができず、術時には隆起が存在せず、手術が困難になるという問題がある。
患者の苦痛緩和、術者の術操作の容易化、術不完全による癌再発の効果的抑制、等の観点からは、前記切除対象部を容易にかつ簡便に隆起させることができ、かつその隆起の状態を術時において維持可能であることが望ましい。しかし、現在のところ、前記切除対象部を容易にかつ簡便に隆起させることができ、かつその隆起の状態を術時において維持可能とする技術は知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2001−46488
【非特許文献1】Hironori Yamamoto et al.“Success rate ofcurative endoscopic mucosal resection withcircumferential mucosal incisionassisted by submucosal injection of sodium hyaluronate”, GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY Vol56,No.4, 2002, p507-p512
【発明の開示】
【0004】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時にはゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物、及び操作が簡単で効率的なそのゲル化方法、並びに、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置を提供することを目的とする。
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 外から刺激を付与可能な刺激付与手段と、対象に刺入可能な針本体とを少なくとも有する針装置である。該針装置においては、前記針本体が、例えば、食道、胃、大腸等の粘膜層等の対象に刺入される。そして、粘膜膨隆液を注射等した後、前記刺激付与手段が外からの刺激(患者の体外からコントロールされる刺激)を付与する。すると、前記粘膜膨隆液等に該刺激が付与される。このとき、例えば、前記粘膜膨隆液が本発明の増粘性組成物である場合には、該増粘組成物が前記刺激により増粘しゲル化等する。
<2> 刺激付与手段が針本体内に設けられた前記<1>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段が前記針本体内に設けられているので、破損等が少なく、取扱い易く、前記針本体が、食道、胃、大腸等の粘膜層等の対象に刺入された際に、該針本体と一緒に前記対象に刺入される。
<3> 刺激付与手段が針本体内に出入可能に収容された前記<1>から<2>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与手段が、前記針本体内に出入可能に収容されているので、該針本体が粘膜層等の対象に刺入された後、前記刺激付与手段が該針本体から押し出され、前記粘膜層等の下で延設される。そして、この押し出された前記刺激付与手段により、広範囲な領域に前記刺激が付与される。
<4> 刺激付与手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<1>から<3>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与手段が、前記針本体内に出入可能に複数収容されているので、該針本体が前記粘膜層等の対象に刺入された後、該複数の刺激付与手段が前記針本体から押し出され、前記粘膜層等の下で複数延設される。そして、この押し出された複数の前記刺激付与手段により、広範囲にかつ所望の範囲に前記刺激が付与される。
<5> 刺激付与手段が付与する刺激が、光、熱及び振動から選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段が、光、熱、振動及び圧力から選択される少なくとも1種の刺激を付与する。その結果、例えば、前記刺激付与手段が本発明の増粘性組成物に刺激を付与する場合には、該刺激付与手段から付与された刺激により、粘膜膨隆液としての本発明の増粘性組成物が、付与された刺激により、増粘化し、ゲル化等する。
<6> 刺激付与手段が、光ファイバーである前記<1>から<5>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記光ファイバーから刺激としての光が照射される。その結果、該刺激を受ける対象が、感光性材料、例えば本発明の増粘性組成物である場合には、該増粘性組成物が前記刺激により、増粘化し、ゲル化等する。
<7> 光ファイバーの先端における光放射面が光ファイバーの軸方向に対して非垂直面である光ファイバーである<6>に記載の針装置である。通常光ファイバーの端面は接合時の光軸を合わせるために光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して垂直に切断されるが、光ファイバーの端面を光軸方向に対して非垂直面とすることによって、光放射面の面積を広くし、光が放射される範囲を広げることにより、光の照射をよりスムーズに行うことができる。
<8> 刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させる刺激付与領域拡大手段を有してなる前記<1>から<7>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段からの刺激が、前記刺激付与領域拡大手段によりその領域が拡大されて付与される。その結果、前記刺激が広範囲なかつ所望の領域に効果的に付与される。
<9> 刺激付与領域拡大手段が刺激付与手段の先端に設けられている<8>に記載の針装置である。例えば、光ファイバーの先端にポリメチルメタクリレート製の鏃状多面体を設け、該鏃状多面体中や、鏃状多面体と鏃状多面体外空間との界面における光の反射や屈折によって、刺激である光の付与領域(光が放射される範囲)が拡大される。
<10> 刺激付与領域拡大手段が針本体内に収容された前記<8>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段が前記針本体に収容されているので、取扱性、操作性に優れ、前記針本体を粘膜層等の対象に刺入する際に前記刺激付与領域拡大手段を損傷することがなく、該針本体と一緒に該刺激付与領域拡大手段が前記粘膜層等の対象に刺入される。
<11> 刺激付与領域拡大手段が針本体内に出入可能に収容された前記<8>から<10>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段が、前記針本体に出入可能に収容されているので、前記針本体を粘膜層等の対象に刺入した後、前記刺激付与領域拡大手段を該針本体から押し出すことにより、該刺激付与領域拡大手段が前記粘膜層等の下に延設される。そして、前記刺激付与手段からの前記刺激が該刺激付与領域拡大手段により広範囲なかつ所望の領域に拡大されて付与される。
<12> 刺激付与領域拡大手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<8>から<11>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与領域拡大手段が前記針本体に複数収容されているので、前記針本体が対象に刺入された後で、複数の該刺激付与領域拡大手段を該針本体から出すことにより、前記刺激付与手段からの刺激が該刺激付与領域拡大手段により広範囲なかつ所望の領域に拡大されて付与される。
<13> 刺激付与領域拡大手段が、刺激を多方向に反射可能な反射体を有する前記<7>から<12>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段における前記反射体により、前記刺激付与手段からの刺激が効率的にかつ効果的に多方向に反射されて付与される。
<14> 反射体が、光を多方向に反射可能な鏡体である前記<7>から<13>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記反射体前記鏡体であるので、前記刺激付与手段からの刺激が光である場合には、該光が前記鏡体により多方向に反射される。
<15> 刺激付与領域拡大手段の周囲に刺激付与手段が配置された状態で針本体内に収容された前記<7>から<14>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段の周囲に前記刺激付与手段が複数配置されているので、これら複数の該刺激付与手段からの刺激が、一つの前記刺激付与領域拡大手段により効率よく多方向に反射される。
<16> 刺激付与領域拡大手段が、光を多方向に反射可能な鏡体を有し、刺激付与手段が、光ファイバーである前記<15>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段としての前記光ファイバーからの前記刺激としての光が、前記刺激付与領域拡大手段としての前記鏡体により多方向に反射される。
<17> 対象内に流体を移送可能な流体移送手段を有してなる前記<1>から<16>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段を有しているので、例えば、前記流体移送手段により、食道、胃、大腸等の粘膜層と筋層との界面に粘膜膨隆液等を注射して移送させることができる。
<18> 流体移送手段が針本体内に収容された前記<7>から<14>に記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が前記針本体内に収容されているので、該針本体を対象に刺入した際に破損等する危険が少なく、取扱性に優れ、該流体移送手段が前記針本体と一緒に粘膜層等の対象に刺入される。
<19> 流体移送手段が針本体内に出入可能に収容された前記<7>から<10>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が前記針本体内に出入可能に収容されているので、該針本体を対象に刺入した後、前記流体移送手段を該針本体から押し出すことにより、流体が、粘膜層等の対象に効率的に注射され、移送される。
<20> 流体移送手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<7>から<11>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が複数前記針本体に出入可能に収容されているので、該流体移送手段ごとに、前記針本体から出入可能であり、異なる流体、即ち異なる薬剤等を粘膜層等の対象の下に注射し移送することができる。
<21> 流体移送手段がチューブ及び注射針の少なくともいずれかである前記<17>から<19>のいずれかに記載の針装置である。
<22> 流体が、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物である前記<17>から<21>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体が本発明の増粘性組成物であるので、前記流体移送手段により、該流体が粘膜層等の対象の下に前記増粘性組成物が注射され、移送される。そして、この増粘性組成物に刺激を付与して該増粘性組成物を増粘化させゲル化等させることにより、例えば、粘膜膨隆液として使用した前記増粘性組成物は、注射後のピンホールから外部に漏出せず、粘膜膨隆が長時間維持され、術時においても、癌等の対象が良好に隆起された状態が維持される。その結果、手術が容易となり、また、粘膜除去後においても、粘膜除去部分の表面が前記ゲル化等した前記増粘性組成物により、被覆されているので、出血や細菌感染等が効果的に抑制される。
<23> 流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する前記<22>に記載の針装置である。該針装置においては、前記流体に刺激が付与されると、該流体の粘度が3倍以上も増加し、流動性が顕著に低下するので、前記流体の注射により形成された粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。また、切除などの処置において、切除面に対して露出した部分に光を照射することで更に追加的にゲル化することにも使用可能である。
<24> 流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する前記<22>から<23>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体に刺激が付与されると、該流体がゾル状態からゲル状体に変化するので、前記流体の注射により形成された粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<25> 流動性物質が、刺激に感応性のある刺激感応基を有する前記<22>から<24>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、増粘性組成物に含まれる前記流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<26> 刺激感応基が、アクリレート基及びその誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<22>から<25>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における該刺激感応基であるアクリレート基及びその誘導体基等が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<27> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<22>から<26>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、アミノ酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<28> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<22>から<27>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、タンパク質、糖タンパク、脂質タンパク、脂質、多糖類、高分子核酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<29> 流動性物質が、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である前記<22>から<28>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<30> 刺激が、光、熱、振動及び圧力か選択される少なくとも1種である前記<22>から<29>のいずいれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、光等の刺激により、増粘化しゲル化等する。
<31> 針本体が外筒に出入可能に収容された前記<1>から<30>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記針本体が、外筒に収容され、かつ出入可能であるので、術時までの間、該針本体の破損、雑菌感染等の危険が少ない。
<32> 針本体が複数外筒に出入可能に収容された前記<31>に記載の針装置である。該針装置においては、前記針本体が、外筒に複数収容され、かつ出入可能であるので、術時までの間、該針本体の破損、雑菌感染等の危険が少ない。また、針本体が複数あるので、注射する流体ごとに、あるいは手術の種類等ごとに、前記針本体取り替え等が可能である。
<33> 内視鏡装置に備えられた前記<1>から<32>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記内視鏡装置に備えられているので、例えば前記内視鏡装置の先端から出入可能に備えられたり、前記内視鏡装置の側面に沿って備えられたりでき、内視鏡的粘膜除去術(EMR)に特に好適に使用される。
<34> 外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられることを特徴とする増粘性組成物である。例えば、該増粘性組成物は、粘膜層等の対象の下に注射された後、刺激が付与されると、増粘化し、ゲル化等する。このため、例えば、該増粘性組成物を粘膜膨隆液として使用し、粘膜層等の下に注射した後で増粘化させると、注射後のピンホールから外部に、増粘化した前記増粘性組成物が漏出せず、粘膜膨隆が長時間維持され、術時においても、癌等の対象が良好に隆起された状態が維持される。その結果、手術が容易となり、また、粘膜除去後においても、粘膜除去部分の表面が前記ゲル化等した前記増粘性組成物により、被覆されているので、出血や細菌感染等が効果的に抑制される。また、切除などの処置で露出した該増粘性組成物に追加的に光照射することにも使用できる。
<35> 流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する前記<34>に記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、刺激が付与されると、粘度が3倍以上も増加し、流動性が顕著に低下するので、例えば粘膜膨隆液として使用されると、粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<36> 流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する前記<34>から<35>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、刺激が付与されると、ゾル状態からゲル状体に変化するので、例えば粘膜膨隆液として使用されると、粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<37> 流動性物質が、刺激に感応性のある刺激感応基を有する前記<34>から<36>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、前記流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<38> 刺激感応基が、アクリレート基及びその誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<34>から<37>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基であるアクリレート基及びその誘導体基等が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<39> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<34>から<38>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が、アミノ酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<40> 流動性物質が、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である前記<34>から<40>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が生体適合性物質であるので、該増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<41> 刺激が、光、熱、振動及び圧力から選択される少なくとも1種である前記<34>から<40>のいずいれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が、光等の刺激を受けると、増粘化しゲル化等する。
<42> 増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、
前記増粘性組成物が、前記<34>から<41>のいずれかに記載の増粘性組成物であり、前記針装置が、前記<1>から<33>のいずれかに記載の針装置であること特徴とする増粘性組成物の増粘方法である。
該増粘性組成物の増粘方法においては、本発明の針装置と、本発明の増粘性組成物とを用いる。該増粘性組成物の増粘方法においては、前記針装置により、前記増粘性組成物に刺激をする。すると、該粘性組成物が増粘化しゲル化等する。
【0006】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時にはゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物、及び操作が簡単で効率的なそのゲル化方法、並びに、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、粘膜下で、もしくは粘膜表面でも該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、胃壁の断面の一例を示す概略説明図である。
【図2】図2は、一部に癌細胞が増殖した胃の粘膜層に注射針を刺入した状態を示す一部断面概略説明図である。
【図3】図3は、癌細胞が増殖した胃の粘膜層の下に粘膜膨隆液を注射して粘膜膨隆を形成した状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図4】図4は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜膨隆させた粘膜層をかんしで摘みながらスネアーを用いてこれを囲んで切除する状態の一例を説明するための概略図である。
【図5】図5は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜膨隆させた粘膜層をスネアーを用いて切除している状態の一例を説明するための概略図である。
【図6】図6は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜層が切除された状態の一例を示す概略説明図である。
【図7】図7は、胃の粘膜層の下に粘膜膨隆液を注入した後で、注射針を該粘膜層から抜き取った状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図8】図8は、図7の状態の後、針のピンホールから注射した粘膜膨隆液が粘膜層の外に流出している状態を説明するための断面概略図である。
【図9】図9は、一部に癌細胞が増殖した胃の粘膜層の下に本発明の増粘性組成物を粘膜膨隆液として注射した状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図10】図10は、図9において、本発明の増粘性組成物を粘膜層の下に注射した後、該増粘性組成物をゲル化させた状態を説明するための断面概略説明図である。
【図11】図11は、図10に示す状態の後、かんしとスネアーとを用いて癌細胞が増殖した粘膜層を切除した状態を説明するための断面概略図である。
【図12】図12は、本発明の針装置の一例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、外針本体内に複数の光ファイバーが出入可能に収容された状態を示している。
【図13】図13は、図12に示す針装置の概略説明図である。
【図14】図14は、図12に示す針装置において針本体から光ファイバーを押し出した状態の一例を示す概略説明図である。
【図15】図15は、図12に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図16】図16は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に、光反射鏡棒と、該光反射鏡針棒の周囲に配置された複数の光ファイバーとを出入可能に収容した状態を示す。
【図17】図17は、図16に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図18】図18は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に、複数の光反射鏡棒と、該複数の光反射鏡針棒の周囲に配置された複数の光ファイバーとを出入可能に収容した状態を示す。
【図19】図19は、図18に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図20】図20は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に2本の針本体が出入可能に収容された状態を示す。
【図21】図21は、図20に示す針装置における、一つの針本体を押し出した状態を説明するための概略図である。
【図22】図22は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に注射針と該注射針の周囲に配置された光ファイバーとを収容した状態を示す。
【図23】図23は、本発明の針装置の他の例を示す内部構造図であり、光ファイバーが針本体に収容されている状態を示す。
【図24】図24は、本発明の針装置の他の例を示す内部構造図であり、光ファイバーが針先から出ている状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の増粘性組成物の増粘方法は、本発明の針装置を用いて本発明の増粘性組成物に刺激を付与することを少なくとも含む。以下、本発明の針装置と、本発明の増粘性組成物とを説明すると共に、これらを用いた本発明の増粘性組成物の増粘方法について併せて説明する。
【0009】
本発明の針装置は、刺激付与手段と、針本体とを少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択した、刺激付与領域拡大手段、流体移送手段などのその他の部材を有してなる。
【0010】
本発明における針装置の針の太さとしては、特に制限はないが、例えば、27G(外径0.40mm、内径0.22mm)、26G(外径0.45mm、内径0.27)、25G(外径0.50mm、内径0.32mm)、24G(外径0.55mm、内径0.37mm)、23G(外径0.65mm、内径0.40mm)、22G(外径0.70mm、内径0.48mm)、21G(外径0.8mm、内径0.57mm)、20G(外径0.90mm、内径0.66mm)、19G(外径1.10mm、内径0.78mm)、18G(外径1.2mm、内径0.94mm)、17G(外径1.46mm、内径1.46mm)、16G(外径1.65mm、内径1.25mm)、15G(外径1.83mm、内径1.43mm)、14G(外径2.10mm、内径1.59mm)、13G(外径2.40mm、内径1.90mm)、12G(外径2.75mm、内径2.18mm)等が挙げられる。中でも18G〜25Gが好ましく使用される。
また、針先が複数設けられている既存のマルチニードルやシャワーニードル等も使用できる。
【0011】
前記刺激付与手段としては、刺激を付与することができる限り、その形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明が主に内視鏡手術における患者の体内の粘膜切除手術に使用することを想定しているため、本発明における刺激(患者の体外からコントロールされる刺激)とは、手術中に患者の体外にある機器や施術者が、刺激のエネルギー量や刺激付与時間、刺激付与箇所等をコントロール可能な刺激をいう。
前記刺激付与手段が付与する刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光、熱、振動などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記光としては、例えば、可視光、紫外線(例えば、波長が365nmの紫外線であるi線、波長が436nmの紫外線であるg線などを含む)、などが好適に挙げられる。前記熱としては、加熱、除熱のいずれであってもよい。前記振動としては、例えば、超音波振動などが好適に挙げられる。
【0012】
前記刺激付与手段の具体例としては、前記刺激が前記光である場合には、光ファイバーなどが好適に挙げられ、前記刺激が前記熱である場合には、熱電対などが挙げられ、前記刺激が前記振動である場合には、水晶発振子等の発振子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明においては、所望時に確実に誤作動なく刺激を付与することができる等の点で、前記光ファイバーが特に好ましい。
【0013】
通常光ファイバーの端面は接合時の光軸を合わせるために光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して垂直に切断される。しかし、本発明においては、前記光ファイバーの刺激付与側端面は、光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して、非素直面であることが好ましい。これによって、光放射面において光が屈折又は反射して、光をより広い範囲に照射でき、効率よく刺激付与を行うことができる。
【0014】
前記刺激付与手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1つであってもよいし、2以上(複数)であってもよい。後者の場合、所望の領域にかつ広範な領域に前記刺激を効率的に付与することができる点で好ましい。
【0015】
前記刺激付与手段が設けられる部位乃至箇所としては、前記針本体内であるのが好ましく、前記針本体内に出入可能に収容されているのが好ましい。これらの場合、該針本体を粘膜層等の対象に刺入させた際に、該針本体と一緒に前記対象の下に刺入させることができ、操作性、取扱性に優れ、特に後者の場合には更に、破損等が少ない点で好ましい。
【0016】
前記針本体としては、刺入可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内部に前記刺激付与手段等を収容可能であるものが好ましく、内部に前記刺激付与手段等を出入可能に収容可能であるものが好ましい。これらの場合、前記針本体を粘膜層等の対象の下に刺入した後で、該針本体から前記刺激付与手段等を出入させて、手術を行うことができ、刺入回数を減らすことができる等の点で有利である。
前記針本体の形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記構造としては、中空構造、単管構造、重管構造、これらの組合せ、などが挙げられ、前記大きさとしては、通常の注射針程度、内視鏡手術で使用される針等の大きさが挙げられ、前記材質として、耐久性があり、雑菌等による汚染が少なく、滅菌処理可能なものが好ましく、金属等が好適に挙げられる。
【0017】
前記刺激付与領域拡大手段としては、前記刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させることができる限り、特に制限はなく、前記刺激の種類、該刺激を付与する対象及び領域の大きさ等に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激を多方向に反射可能な反射体を有する刺激拡散部材ものが好適に挙げられる。なお、該刺激付与領域拡大手段の形状としては、前記針本体内に収容可能な針状であるもの(刺激拡散棒)が好ましい。
前記反射体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激が光である光を多方向に反射可能な鏡体であるもの、など好適に挙げられる。なお、前記反射体として前記鏡体を使用する場合には、前記刺激付与手段として前記光ファイバーを特に好適に使用することができる。
【0018】
また、刺激付与手段として光ファイバーからの光の照射を選択する場合には、光ファイバーの先端に透明な鏃状多面体やダイヤモンド状多面体等の光透過性部材を設けたり、光ファイバーの先端を三角錐や四角錐等の多面体形状に研磨することにより、刺激付与領域拡大手段を設け、該多面体中や、多面体と多面体外空間との界面における光の反射や屈折によって、刺激である光の付与領域(光が放射される範囲)を拡大できる。
【0019】
前記刺激付与領域拡大手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
前記刺激付与領域拡大手段の前記針装置に設けられる部位乃至箇所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、針本体内に収容されているのが好ましく、該針本体内に出入可能に収容されているのがより好ましい。これらの場合には、前記針本体を粘膜層等の対象の下に刺入した際に、該針本体と一緒に刺入させることができ、破損等が生じ難い等の点で有利であり、また、後者の場合には、所望の箇所にかつ広範囲に前記刺激を効果的に付与することができる点で有利である。
【0020】
前記流体移送手段としては、前記対象内に流体を移送可能である限り、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等について適宜選択することができ、例えば、前記形状としては、針状等が好適に挙げられ、前記構造としては、単管、重管などが挙げられ、前記大きさとしては、前述の注射針等の大きさが挙げられ、前記材質としては、耐久性があり、滅菌等が可能な材質であることが好ましい。
前記流体移送手段の具体例としては、チューブ、注射針などが好適に挙げられる。
【0021】
前記流体移送手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。なお、後者の場合には、異なる種類の薬剤等を注射することができる点で有利である。
前記流体移送手段の前記針装置に設けられる部位乃至箇所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記針本体に設けられているのが好ましく、前記針本体内に出入可能に収容されているのがより好ましい。これらの場合、前記針本体を刺入した際に、該針本体と一緒に該流体移送手段も刺入させることができ、取扱性に優れ、破損等の危険か少なく、また、一度の刺入だけで、流体の注射、刺激の付与等を行うことができる点で有利である。
【0022】
前記針本体は、上述の通り、その内部に前記刺激付与手段、前記刺激付与領域拡大手段、前記流体移送手段などを出入可能に収容しているのが好ましいが、該針本体自体が、外筒に出入可能に収容されているのが好ましい。この場合、該針本体を必要時まで該外筒内に収容させておくことができ、手術ミス、事故等を効果的に抑制することができ、また、該針本体の雑菌汚染等を効果的に抑制することができる点で有利である。
前記外筒の形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内視鏡装置に出入可能な形状等であることが好ましく、内視鏡装置の先端に出入可能な形状等であることがより好ましい。
【0023】
前記流体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、本発明の増粘性組成物、注射液、薬剤、生理食塩水、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記流体が本発明の増粘性組成物であるのが特に好ましい。
【0024】
ここで、本発明の増粘性組成物について説明する。
本発明の増粘性組成物は、各種用途に使用することができるが、粘膜切除術に用いられるのが好ましく、粘膜膨隆液として使用されるのが特に好ましい。
前記増粘性組成物は、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含んでなる。
【0025】
前記流動性物質としては、前記刺激が付与された際にその流動性が変化し、増粘化するものであればよく、該刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加するものがより好ましく、前記内視鏡的粘膜切除術における前記粘膜膨隆液の代わりとして使用し、粘膜膨隆の状態を手術時において維持可能とする観点からは、前記刺激によりゾル状態からゲル状態に変化するものが特に好ましい。
【0026】
前記流動性物質としては、前記刺激に感応性のある刺激感応基を有するものが好ましく、前記刺激に感応し増粘化乃至硬化反応可能な刺激感応基を有するものがより好ましい。
前記刺激感応基としては、例えば、アクリレート基、これらの誘導体基(エポキシアクリレート基、ウレタンアクリレート基など)、などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらの中でも、前記刺激が光である場合には、公知の感光材料における感光基が挙げられ、例えば、光分解性基(例えば、ジアゾ基、アジド基など)、光重合性基、光架橋性基、などが挙げられ、具体的には、前記アクリレート基及びこれらの誘導体基から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0028】
前記刺激感応基の数、種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0029】
前記流動性物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記増粘性組成物を前記粘膜膨隆液として使用する場合には、生体適合性の観点からは、生体材料乃至生体材料に近い材料であるのが好ましく、例えば、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、これらのポリマー(タンパク質、糖タンパク、リポタンパク、多糖類)、などが挙げられる。
前記流動性物質の具体例としては、例えば、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、これらの誘導体などが好適に挙げられる。
【0030】
前記増粘性組成物における増粘化の反応乃至メカニズムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激が光である場合には、公知の感光性樹脂の硬化反応を利用することができ、具体的には、官能基変化、架橋付加等による光分解反応や、架橋、分子鎖延長等による光二量化反応や、高分子量化、架橋ゲル化等による光重合反応、などが挙げられる。
また、前記増粘性組成物としては、光重合型感光性樹脂組成物として設計されていてもよく、この場合、該光重合型感光性樹脂組成物は、例えば、(1)光ラジカル重合開始剤、線状ポリマー、モノマーなどを含む態様、(2)光ラジカル重合開始剤、不飽和オリゴマー、モノマーなどを含む態様、などが挙げられる。なお、前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ポリイミド等のラジカル発生剤が好適に挙げられる。
前記(1)の場合、前記線状ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、水溶性ポリアミドなどが挙げられる。前記モノマーとしては、高級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。前記(2)の場合、前記不飽和オリゴマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和エポキシ樹脂、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0031】
具体的な増粘性組成物としては、特開2003−252936号公報に記載されているような温度に応答してゲル化するゾルであるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)をグラフと重合したデキストランや、特開2003−169844号公報に記載されているような光硬化性ゼラチン、WO97/18244に記載されているような光硬化性ヒアルロン酸、WO00/27889に記載されているような光反応性キトサン等が使用できる。
【0032】
本発明の増粘性組成物の増粘方法においては、増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、前記増粘性組成物が本発明の前記増粘性組成物であり、前記針装置が本発明の前記針装置であること以外は、特に制限はなく、目的に応じて実施可能である。
【実施例】
【0033】
ここで、本発明の針装置及び本発明の増粘性組成物を用いた、本発明の増粘性組成物の増粘方法の実施例について図面を参照しながら説明する。なお本実施例においては、豚の胃袋を使って実験を行った。また、増粘性組成物としては、ネーテック社製の光反応性キトサン(脱アセチル化度80%のキトサンにおいて、グルコサミン単位の2位のアミノ基にラクトースとp−アジド安息香酸を結合させたキトサン)を用いた。この光反応性キトサンは、光官能基を導入しているが、細胞毒性及び変異原性がないことが確認されており、光ラジカル重合開始剤等の添加剤も必要ない点で優れている。
前記光反応性キトサンを蒸留水に溶かし、1重量%水溶液である光反応性キトサン水溶液(増粘性組成物)を得た。前記光反応性キトサン水溶液の光刺激を与える前の37℃における粘度は、約0.2Pa・sであり、6mWの紫外線を25秒間照射した後の37℃における粘度は、約10000Pa・sであった。
【0034】
まず、図9に示すように、癌細胞塊15が生じた胃壁50の粘膜層10とその下の筋層20との界面に、前記粘膜膨隆液としての増粘性組成物70(3ml)を本発明の針装置90(太さ:22G)を用いて注射する。すると、増粘性組成物70により、粘膜層10と筋層20との界面が解離し、粘膜層10が山状に隆起する。このとき、針装置90(内部構造を図23に示す)を粘膜層10から抜き取らず、そのままの状態で、針装置90内に収容された前記刺激付与手段としての先端を三角錐状に加工したプラスチック製光ファイバー91(直径0.45mm)を押し出し、光ファイバーの先端から増粘性組成物70に光(波長:360nm、エネルギー:6mW)を25秒間照射する(図24)。
【0035】
ここで、図23、図24に示すように、前記光ファイバー91の先端は三角錐状になっており、この三角錐状部分91aは光ファイバーのクラッドが削られてコアが露出しているため、前記三角錐状部分91aと増粘組成物の界面にて反射や屈折した光が、前記三角錐状部分91aの表面から放射される。このため、前記光ファイバーの端面を光ファイバーの軸方向(光軸方向)に垂直面とした場合に比べ、光が広範囲に分散され、より広い範囲の増粘組成物に光刺激を付与することができる。
また、前記光ファイバー91が針装置100内に収容されている場合には、増粘性組成物70は、針装置100内のスリット92を通って針先94から注射される。増粘性組成物が注射された後、図24のように、前記光ファイバー91が前記針先94から押し出され、増粘性組成物に光刺激を付与する。この際、前記光ファイバー91の先端は、前記スリット92を有する筒体93の中を通って針先に向かうため、前記光ファイバー91が前記針先94の根本でひっかかることがない。
【0036】
前記光ファイバー91から光刺激が付与されると、増粘性組成物70が架橋して増粘化しゲル化する。その後、前記光ファイバー91を針装置100内に収納し、針装置90を粘膜層10から抜き取ると、図10に示すように、ゲル化された増粘性組成物75は、ピンホール(針孔)30から外部に流出せず、粘膜層10と筋層20との界面にとどまるため、粘膜隆起の状態が維持され、癌細胞塊15は、隆起した粘膜層10の頂部に存在する。
【0037】
次に、内視鏡の先端からかんしとスネアーとを押し出して操作することにより、該スネアーを癌細胞塊15の周囲に位置させ、前記かんしで癌細胞塊15を摘みながら引っ張り、スネアーのリングを徐々に締め付けていき、電気を流すことにより電気メスの原理にて、図11に示すように、癌細胞塊15を含む粘膜層10が切除される。このとき、粘膜層10が除去された部分の筋層20は、出血をすることがあるが、この実施例において、ゲル化した増粘性組成物75が露出した筋層20の表面を覆うため、出血を抑制することができ、かつ該露出する筋層20の細菌感染等が効果的に抑制される。また、増粘性組成物70には、殺菌剤、抗生物質、等の各種薬剤を添加させておくことができるので、この場合、該薬剤等により、切除部のダメージが最小に抑制することができる。
【0038】
なお、前記光ファイバーは、図12及び図13に示すように、針装置100の針本体101内に出入可能に複数収容させることができる。これらの図に示す、光ファイバー102は、針本体101から押し出すことができ、図14に示すように、押し出されると、互いの間隔を広げながら配置させることができ、広範囲に光を照射することができる。
【0039】
具体的には、次のような方法を使うことができる。直線状の光ファイバーを湾曲させた状態でアニーリング処理を施すことにより、クラッド層を形成する樹脂等に歪みが生じ、湾曲した状態の光ファイバーが得られる。このように、湾曲した光ファイバーを針本体101から押し出すと、それまで針本体101の内壁等によって図14のように直線性を維持するように押さえ込まれていた前記光ファイバーが、図15のように針本体の先端から多方向に広がる。また、これらの光ファイバーは、針の先端から出た長さによって、光ファイバーの端面が向く方向(光軸の方向)が変わるため、時間をかけてゆっくりと前記光ファイバーを押し出したり、何度か前記光ファイバーを出し入れすることにより、広範囲に光を照射させることができる。
このため、図15に示すように、増粘性組成物70が、粘膜層10の下に広範囲に存在していても、複数の光ファイバー102から増粘性組成物70の全体に効率よくかつ確実に光を照射させることができ、増粘性組成物70を効率よくかつ確実にゲル化させることができる。
【0040】
また、図16には、針本体101には、光ファイバー102のみならず、前記刺激付与領域拡大手段としての光拡散棒110を出入可能に収容させておくことができる。光拡散棒110は、光を任意の方向に反射可能な鏡体115を多数有してなり、その周囲に複数の光ファイバー102(例えばプラスチック製の直径0.1mmの光ファイバー等)が配置されている。図16のように、刺激付与領域拡大手段である前記光拡散棒110の周囲に刺激付与手段である前記光ファイバー102を配置して針本体内に収容しておくことにより、刺激付与手段(光ファイバー)が常に刺激付与領域拡大手段(光拡散棒)の近くに存在し、効率よく刺激領域を拡大させる(光ファイバーからの光を広範囲にわたって照射する)ことができる。光ファイバー102から照射される光は、光拡散棒110の軸方向に向けて照射される。そして、光ファイバーの端面から発せられる光の回折又は拡散のみによる効果に比べて、光拡散棒110の軸方向に照射し拡散された光の一部が鏡体115により、任意の多方向に反射される結果、光ファイバー102による光が広範囲に照射される。なお、光拡散棒110は、樹脂等により形成することができ、鏡体115は蒸着により形成することができ、この場合、光拡散棒110は、弾性を有し、折り曲げ等が可能である。更に、図18に示すように、光拡散棒110とその周囲に複数配置した光ファイバー102とを、複数セット用意し、これらを針本体101内に出入可能に収容させておくこともできる。この場合、図19に示すように、光ファイバー102からの光の光拡散効率に優れ、粘膜層10の下で増粘性組成物70の広範囲に光を拡散し照射することができるため、増粘性組成物70の増粘化効率、ゲル化効率に優れ、短時間(30秒以内)で容易にかつ確実に増粘性組成物70を増粘化させ、ゲル化させることができる。
図12〜図19の場合において、増粘性組成物70は、他の針装置を用いて注入してもよいし、例えば図20のように針本体を複数有する針装置を用い、別の針本体から注入してもよい。
【0041】
また、図20に示すように、外筒103内に針本体101を2本出入可能に収容させておいてもよい。この場合、図21に示すように、針本体101の一つを押し出して、増粘性組成物70の注射等を行い、残りの針本体101により増粘性組成物70の増粘化、ゲル化等を行ってもよい。
また、図22に示すように、針本体101内に前記流体移送手段としての注射針120を出入可能に収容しておき、その周囲に複数の光ファイバー102を出入可能に収容させておくことができる。この場合、針本体101を粘膜層10の下に刺入した後、注射針120により増粘性組成物70を粘膜層10の下に注射して粘膜膨隆を形成し、針本体101を粘膜層10から抜くことなく、そのまま光ファイバー102を押し出しして、増粘性組成物70に光を照射することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の増粘性組成物は、内視鏡的粘膜切除術において、既存の粘膜膨隆液に代わりに使用することができ、粘膜切除術に好適に用いることができる。
本発明の針装置は、内視鏡的粘膜切除術において、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いることができ、前記増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時には外から付与される刺激により(患者の体外からコントロールされる刺激により)ゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物のゲル化方法、及び胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食道、胃、十二指腸等の腑粘膜に発生した腫瘍、特に悪性腫瘍(癌)については、内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)によりその除去が行われてきた。該内視鏡的粘膜切除術としては、スネアー法、分割除去法、一括切開剥離法などが知られている。これらの中でも、前記スネアー法は、直径が2〜3cm以下の早期癌の治療法として有効であり、一般的な手術法として広く使用されてきている。
前記スネアー法においては、内視鏡を用いて、図1から図3に示すように、食道、胃、大腸等の粘膜層10に発生した癌細胞塊15の映像を観ながら、癌細胞塊15を含む切除対象部の粘膜層10の皮下に、より詳しくは該粘膜層10とその直下に位置する筋層20との界面に粘膜膨隆液を注射針90を用いて注射して該切除対象部を含む粘膜層10を筋層20から解離させ隆起させる。そして、図4に示すように、内視鏡(図示せず)の先端からリング状金属線であるスネアー300を押出して、スネア300にて前記切除対象部の外周を囲いつつ、内視鏡の先端に備えられたかんし200にて該切除対象部を摘んで引っ張りながら、図5から図6に示すように、スネアー300のリングを徐々に絞込み、該スネア300のリング状金属線に電気を流して電気メスの原理により、該切除対象部を切除する。こうして切除された前記切除対象部は略円形となる。
しかし、前記スネアー法においては、前記粘膜膨隆液としての生理食塩水を粘膜10の皮下に注射をして切除対象部を隆起させる必要があるが、該切除対象部を注射針90を用いて注射して隆起させた後、該注射針90を該粘膜10から抜くと、図7から図8に示すように、そこに形成されたピンホール30から粘膜膨隆液60が流出してしまい、前記切除対象部の隆起を長時間維持することができず、術時には隆起が存在せず、手術が困難になるという問題がある。
患者の苦痛緩和、術者の術操作の容易化、術不完全による癌再発の効果的抑制、等の観点からは、前記切除対象部を容易にかつ簡便に隆起させることができ、かつその隆起の状態を術時において維持可能であることが望ましい。しかし、現在のところ、前記切除対象部を容易にかつ簡便に隆起させることができ、かつその隆起の状態を術時において維持可能とする技術は知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2001−46488
【非特許文献1】Hironori Yamamoto et al.“Success rate ofcurative endoscopic mucosal resection withcircumferential mucosal incisionassisted by submucosal injection of sodium hyaluronate”, GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY Vol56,No.4, 2002, p507-p512
【発明の開示】
【0004】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時にはゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物、及び操作が簡単で効率的なそのゲル化方法、並びに、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置を提供することを目的とする。
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 外から刺激を付与可能な刺激付与手段と、対象に刺入可能な針本体とを少なくとも有する針装置である。該針装置においては、前記針本体が、例えば、食道、胃、大腸等の粘膜層等の対象に刺入される。そして、粘膜膨隆液を注射等した後、前記刺激付与手段が外からの刺激(患者の体外からコントロールされる刺激)を付与する。すると、前記粘膜膨隆液等に該刺激が付与される。このとき、例えば、前記粘膜膨隆液が本発明の増粘性組成物である場合には、該増粘組成物が前記刺激により増粘しゲル化等する。
<2> 刺激付与手段が針本体内に設けられた前記<1>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段が前記針本体内に設けられているので、破損等が少なく、取扱い易く、前記針本体が、食道、胃、大腸等の粘膜層等の対象に刺入された際に、該針本体と一緒に前記対象に刺入される。
<3> 刺激付与手段が針本体内に出入可能に収容された前記<1>から<2>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与手段が、前記針本体内に出入可能に収容されているので、該針本体が粘膜層等の対象に刺入された後、前記刺激付与手段が該針本体から押し出され、前記粘膜層等の下で延設される。そして、この押し出された前記刺激付与手段により、広範囲な領域に前記刺激が付与される。
<4> 刺激付与手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<1>から<3>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与手段が、前記針本体内に出入可能に複数収容されているので、該針本体が前記粘膜層等の対象に刺入された後、該複数の刺激付与手段が前記針本体から押し出され、前記粘膜層等の下で複数延設される。そして、この押し出された複数の前記刺激付与手段により、広範囲にかつ所望の範囲に前記刺激が付与される。
<5> 刺激付与手段が付与する刺激が、光、熱及び振動から選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段が、光、熱、振動及び圧力から選択される少なくとも1種の刺激を付与する。その結果、例えば、前記刺激付与手段が本発明の増粘性組成物に刺激を付与する場合には、該刺激付与手段から付与された刺激により、粘膜膨隆液としての本発明の増粘性組成物が、付与された刺激により、増粘化し、ゲル化等する。
<6> 刺激付与手段が、光ファイバーである前記<1>から<5>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記光ファイバーから刺激としての光が照射される。その結果、該刺激を受ける対象が、感光性材料、例えば本発明の増粘性組成物である場合には、該増粘性組成物が前記刺激により、増粘化し、ゲル化等する。
<7> 光ファイバーの先端における光放射面が光ファイバーの軸方向に対して非垂直面である光ファイバーである<6>に記載の針装置である。通常光ファイバーの端面は接合時の光軸を合わせるために光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して垂直に切断されるが、光ファイバーの端面を光軸方向に対して非垂直面とすることによって、光放射面の面積を広くし、光が放射される範囲を広げることにより、光の照射をよりスムーズに行うことができる。
<8> 刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させる刺激付与領域拡大手段を有してなる前記<1>から<7>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段からの刺激が、前記刺激付与領域拡大手段によりその領域が拡大されて付与される。その結果、前記刺激が広範囲なかつ所望の領域に効果的に付与される。
<9> 刺激付与領域拡大手段が刺激付与手段の先端に設けられている<8>に記載の針装置である。例えば、光ファイバーの先端にポリメチルメタクリレート製の鏃状多面体を設け、該鏃状多面体中や、鏃状多面体と鏃状多面体外空間との界面における光の反射や屈折によって、刺激である光の付与領域(光が放射される範囲)が拡大される。
<10> 刺激付与領域拡大手段が針本体内に収容された前記<8>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段が前記針本体に収容されているので、取扱性、操作性に優れ、前記針本体を粘膜層等の対象に刺入する際に前記刺激付与領域拡大手段を損傷することがなく、該針本体と一緒に該刺激付与領域拡大手段が前記粘膜層等の対象に刺入される。
<11> 刺激付与領域拡大手段が針本体内に出入可能に収容された前記<8>から<10>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段が、前記針本体に出入可能に収容されているので、前記針本体を粘膜層等の対象に刺入した後、前記刺激付与領域拡大手段を該針本体から押し出すことにより、該刺激付与領域拡大手段が前記粘膜層等の下に延設される。そして、前記刺激付与手段からの前記刺激が該刺激付与領域拡大手段により広範囲なかつ所望の領域に拡大されて付与される。
<12> 刺激付与領域拡大手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<8>から<11>のいずれかに記載の針装置である。該針装置において、前記刺激付与領域拡大手段が前記針本体に複数収容されているので、前記針本体が対象に刺入された後で、複数の該刺激付与領域拡大手段を該針本体から出すことにより、前記刺激付与手段からの刺激が該刺激付与領域拡大手段により広範囲なかつ所望の領域に拡大されて付与される。
<13> 刺激付与領域拡大手段が、刺激を多方向に反射可能な反射体を有する前記<7>から<12>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段における前記反射体により、前記刺激付与手段からの刺激が効率的にかつ効果的に多方向に反射されて付与される。
<14> 反射体が、光を多方向に反射可能な鏡体である前記<7>から<13>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記反射体前記鏡体であるので、前記刺激付与手段からの刺激が光である場合には、該光が前記鏡体により多方向に反射される。
<15> 刺激付与領域拡大手段の周囲に刺激付与手段が配置された状態で針本体内に収容された前記<7>から<14>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与領域拡大手段の周囲に前記刺激付与手段が複数配置されているので、これら複数の該刺激付与手段からの刺激が、一つの前記刺激付与領域拡大手段により効率よく多方向に反射される。
<16> 刺激付与領域拡大手段が、光を多方向に反射可能な鏡体を有し、刺激付与手段が、光ファイバーである前記<15>に記載の針装置である。該針装置においては、前記刺激付与手段としての前記光ファイバーからの前記刺激としての光が、前記刺激付与領域拡大手段としての前記鏡体により多方向に反射される。
<17> 対象内に流体を移送可能な流体移送手段を有してなる前記<1>から<16>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段を有しているので、例えば、前記流体移送手段により、食道、胃、大腸等の粘膜層と筋層との界面に粘膜膨隆液等を注射して移送させることができる。
<18> 流体移送手段が針本体内に収容された前記<7>から<14>に記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が前記針本体内に収容されているので、該針本体を対象に刺入した際に破損等する危険が少なく、取扱性に優れ、該流体移送手段が前記針本体と一緒に粘膜層等の対象に刺入される。
<19> 流体移送手段が針本体内に出入可能に収容された前記<7>から<10>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が前記針本体内に出入可能に収容されているので、該針本体を対象に刺入した後、前記流体移送手段を該針本体から押し出すことにより、流体が、粘膜層等の対象に効率的に注射され、移送される。
<20> 流体移送手段が複数針本体内に出入可能に収容された前記<7>から<11>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体移送手段が複数前記針本体に出入可能に収容されているので、該流体移送手段ごとに、前記針本体から出入可能であり、異なる流体、即ち異なる薬剤等を粘膜層等の対象の下に注射し移送することができる。
<21> 流体移送手段がチューブ及び注射針の少なくともいずれかである前記<17>から<19>のいずれかに記載の針装置である。
<22> 流体が、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物である前記<17>から<21>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体が本発明の増粘性組成物であるので、前記流体移送手段により、該流体が粘膜層等の対象の下に前記増粘性組成物が注射され、移送される。そして、この増粘性組成物に刺激を付与して該増粘性組成物を増粘化させゲル化等させることにより、例えば、粘膜膨隆液として使用した前記増粘性組成物は、注射後のピンホールから外部に漏出せず、粘膜膨隆が長時間維持され、術時においても、癌等の対象が良好に隆起された状態が維持される。その結果、手術が容易となり、また、粘膜除去後においても、粘膜除去部分の表面が前記ゲル化等した前記増粘性組成物により、被覆されているので、出血や細菌感染等が効果的に抑制される。
<23> 流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する前記<22>に記載の針装置である。該針装置においては、前記流体に刺激が付与されると、該流体の粘度が3倍以上も増加し、流動性が顕著に低下するので、前記流体の注射により形成された粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。また、切除などの処置において、切除面に対して露出した部分に光を照射することで更に追加的にゲル化することにも使用可能である。
<24> 流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する前記<22>から<23>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流体に刺激が付与されると、該流体がゾル状態からゲル状体に変化するので、前記流体の注射により形成された粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<25> 流動性物質が、刺激に感応性のある刺激感応基を有する前記<22>から<24>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、増粘性組成物に含まれる前記流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<26> 刺激感応基が、アクリレート基及びその誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<22>から<25>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における該刺激感応基であるアクリレート基及びその誘導体基等が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<27> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<22>から<26>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、アミノ酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<28> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<22>から<27>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、タンパク質、糖タンパク、脂質タンパク、脂質、多糖類、高分子核酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<29> 流動性物質が、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である前記<22>から<28>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<30> 刺激が、光、熱、振動及び圧力か選択される少なくとも1種である前記<22>から<29>のいずいれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記流動性物質が、光等の刺激により、増粘化しゲル化等する。
<31> 針本体が外筒に出入可能に収容された前記<1>から<30>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記針本体が、外筒に収容され、かつ出入可能であるので、術時までの間、該針本体の破損、雑菌感染等の危険が少ない。
<32> 針本体が複数外筒に出入可能に収容された前記<31>に記載の針装置である。該針装置においては、前記針本体が、外筒に複数収容され、かつ出入可能であるので、術時までの間、該針本体の破損、雑菌感染等の危険が少ない。また、針本体が複数あるので、注射する流体ごとに、あるいは手術の種類等ごとに、前記針本体取り替え等が可能である。
<33> 内視鏡装置に備えられた前記<1>から<32>のいずれかに記載の針装置である。該針装置においては、前記内視鏡装置に備えられているので、例えば前記内視鏡装置の先端から出入可能に備えられたり、前記内視鏡装置の側面に沿って備えられたりでき、内視鏡的粘膜除去術(EMR)に特に好適に使用される。
<34> 外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられることを特徴とする増粘性組成物である。例えば、該増粘性組成物は、粘膜層等の対象の下に注射された後、刺激が付与されると、増粘化し、ゲル化等する。このため、例えば、該増粘性組成物を粘膜膨隆液として使用し、粘膜層等の下に注射した後で増粘化させると、注射後のピンホールから外部に、増粘化した前記増粘性組成物が漏出せず、粘膜膨隆が長時間維持され、術時においても、癌等の対象が良好に隆起された状態が維持される。その結果、手術が容易となり、また、粘膜除去後においても、粘膜除去部分の表面が前記ゲル化等した前記増粘性組成物により、被覆されているので、出血や細菌感染等が効果的に抑制される。また、切除などの処置で露出した該増粘性組成物に追加的に光照射することにも使用できる。
<35> 流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する前記<34>に記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、刺激が付与されると、粘度が3倍以上も増加し、流動性が顕著に低下するので、例えば粘膜膨隆液として使用されると、粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<36> 流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する前記<34>から<35>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、刺激が付与されると、ゾル状態からゲル状体に変化するので、例えば粘膜膨隆液として使用されると、粘膜膨隆が術時においても良好に維持される。
<37> 流動性物質が、刺激に感応性のある刺激感応基を有する前記<34>から<36>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物は、前記流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<38> 刺激感応基が、アクリレート基及びその誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<34>から<37>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、流動性物質に刺激が付与されると、該流動性物質における前記刺激感応基であるアクリレート基及びその誘導体基等が反応し、該流動性物質が増粘化しゲル化等する。
<39> 流動性物質が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、及びこれらのポリマーから選択される少なくとも1種である前記<34>から<38>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が、アミノ酸等の生体適合性物質であるので、該流動性物質を含む増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<40> 流動性物質が、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種である前記<34>から<40>のいずれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が生体適合性物質であるので、該増粘性組成物が生体に注射された場合でも、拒絶反応等が生ずることがない。
<41> 刺激が、光、熱、振動及び圧力から選択される少なくとも1種である前記<34>から<40>のいずいれかに記載の増粘性組成物である。該増粘性組成物においては、前記流動性物質が、光等の刺激を受けると、増粘化しゲル化等する。
<42> 増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、
前記増粘性組成物が、前記<34>から<41>のいずれかに記載の増粘性組成物であり、前記針装置が、前記<1>から<33>のいずれかに記載の針装置であること特徴とする増粘性組成物の増粘方法である。
該増粘性組成物の増粘方法においては、本発明の針装置と、本発明の増粘性組成物とを用いる。該増粘性組成物の増粘方法においては、前記針装置により、前記増粘性組成物に刺激をする。すると、該粘性組成物が増粘化しゲル化等する。
【0006】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、内視鏡的粘膜切除術において既存の粘膜膨隆液に代わるものであって、注射時には良好な流動性を維持しつつ術時にはゲル状態等に変化可能であり、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物、及び操作が簡単で効率的なそのゲル化方法、並びに、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いられ、粘膜下で、もしくは粘膜表面でも該増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる針装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、胃壁の断面の一例を示す概略説明図である。
【図2】図2は、一部に癌細胞が増殖した胃の粘膜層に注射針を刺入した状態を示す一部断面概略説明図である。
【図3】図3は、癌細胞が増殖した胃の粘膜層の下に粘膜膨隆液を注射して粘膜膨隆を形成した状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図4】図4は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜膨隆させた粘膜層をかんしで摘みながらスネアーを用いてこれを囲んで切除する状態の一例を説明するための概略図である。
【図5】図5は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜膨隆させた粘膜層をスネアーを用いて切除している状態の一例を説明するための概略図である。
【図6】図6は、内視鏡的粘膜切除術において、粘膜層が切除された状態の一例を示す概略説明図である。
【図7】図7は、胃の粘膜層の下に粘膜膨隆液を注入した後で、注射針を該粘膜層から抜き取った状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図8】図8は、図7の状態の後、針のピンホールから注射した粘膜膨隆液が粘膜層の外に流出している状態を説明するための断面概略図である。
【図9】図9は、一部に癌細胞が増殖した胃の粘膜層の下に本発明の増粘性組成物を粘膜膨隆液として注射した状態の一例を示す断面概略説明図である。
【図10】図10は、図9において、本発明の増粘性組成物を粘膜層の下に注射した後、該増粘性組成物をゲル化させた状態を説明するための断面概略説明図である。
【図11】図11は、図10に示す状態の後、かんしとスネアーとを用いて癌細胞が増殖した粘膜層を切除した状態を説明するための断面概略図である。
【図12】図12は、本発明の針装置の一例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、外針本体内に複数の光ファイバーが出入可能に収容された状態を示している。
【図13】図13は、図12に示す針装置の概略説明図である。
【図14】図14は、図12に示す針装置において針本体から光ファイバーを押し出した状態の一例を示す概略説明図である。
【図15】図15は、図12に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図16】図16は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に、光反射鏡棒と、該光反射鏡針棒の周囲に配置された複数の光ファイバーとを出入可能に収容した状態を示す。
【図17】図17は、図16に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図18】図18は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に、複数の光反射鏡棒と、該複数の光反射鏡針棒の周囲に配置された複数の光ファイバーとを出入可能に収容した状態を示す。
【図19】図19は、図18に示す針装置を用いて粘膜層の下に注射した本発明の増粘性組成物に対し光を照射してゲル化させている状態を説明するための概略図である。
【図20】図20は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に2本の針本体が出入可能に収容された状態を示す。
【図21】図21は、図20に示す針装置における、一つの針本体を押し出した状態を説明するための概略図である。
【図22】図22は、本発明の針装置の他の例を示す概略説明図であり、外筒内に針本体が出入可能に収容され、該針本体内に注射針と該注射針の周囲に配置された光ファイバーとを収容した状態を示す。
【図23】図23は、本発明の針装置の他の例を示す内部構造図であり、光ファイバーが針本体に収容されている状態を示す。
【図24】図24は、本発明の針装置の他の例を示す内部構造図であり、光ファイバーが針先から出ている状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の増粘性組成物の増粘方法は、本発明の針装置を用いて本発明の増粘性組成物に刺激を付与することを少なくとも含む。以下、本発明の針装置と、本発明の増粘性組成物とを説明すると共に、これらを用いた本発明の増粘性組成物の増粘方法について併せて説明する。
【0009】
本発明の針装置は、刺激付与手段と、針本体とを少なくとも有してなり、更に必要に応じて適宜選択した、刺激付与領域拡大手段、流体移送手段などのその他の部材を有してなる。
【0010】
本発明における針装置の針の太さとしては、特に制限はないが、例えば、27G(外径0.40mm、内径0.22mm)、26G(外径0.45mm、内径0.27)、25G(外径0.50mm、内径0.32mm)、24G(外径0.55mm、内径0.37mm)、23G(外径0.65mm、内径0.40mm)、22G(外径0.70mm、内径0.48mm)、21G(外径0.8mm、内径0.57mm)、20G(外径0.90mm、内径0.66mm)、19G(外径1.10mm、内径0.78mm)、18G(外径1.2mm、内径0.94mm)、17G(外径1.46mm、内径1.46mm)、16G(外径1.65mm、内径1.25mm)、15G(外径1.83mm、内径1.43mm)、14G(外径2.10mm、内径1.59mm)、13G(外径2.40mm、内径1.90mm)、12G(外径2.75mm、内径2.18mm)等が挙げられる。中でも18G〜25Gが好ましく使用される。
また、針先が複数設けられている既存のマルチニードルやシャワーニードル等も使用できる。
【0011】
前記刺激付与手段としては、刺激を付与することができる限り、その形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明が主に内視鏡手術における患者の体内の粘膜切除手術に使用することを想定しているため、本発明における刺激(患者の体外からコントロールされる刺激)とは、手術中に患者の体外にある機器や施術者が、刺激のエネルギー量や刺激付与時間、刺激付与箇所等をコントロール可能な刺激をいう。
前記刺激付与手段が付与する刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光、熱、振動などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記光としては、例えば、可視光、紫外線(例えば、波長が365nmの紫外線であるi線、波長が436nmの紫外線であるg線などを含む)、などが好適に挙げられる。前記熱としては、加熱、除熱のいずれであってもよい。前記振動としては、例えば、超音波振動などが好適に挙げられる。
【0012】
前記刺激付与手段の具体例としては、前記刺激が前記光である場合には、光ファイバーなどが好適に挙げられ、前記刺激が前記熱である場合には、熱電対などが挙げられ、前記刺激が前記振動である場合には、水晶発振子等の発振子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明においては、所望時に確実に誤作動なく刺激を付与することができる等の点で、前記光ファイバーが特に好ましい。
【0013】
通常光ファイバーの端面は接合時の光軸を合わせるために光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して垂直に切断される。しかし、本発明においては、前記光ファイバーの刺激付与側端面は、光ファイバーの軸方向(光軸方向)に対して、非素直面であることが好ましい。これによって、光放射面において光が屈折又は反射して、光をより広い範囲に照射でき、効率よく刺激付与を行うことができる。
【0014】
前記刺激付与手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1つであってもよいし、2以上(複数)であってもよい。後者の場合、所望の領域にかつ広範な領域に前記刺激を効率的に付与することができる点で好ましい。
【0015】
前記刺激付与手段が設けられる部位乃至箇所としては、前記針本体内であるのが好ましく、前記針本体内に出入可能に収容されているのが好ましい。これらの場合、該針本体を粘膜層等の対象に刺入させた際に、該針本体と一緒に前記対象の下に刺入させることができ、操作性、取扱性に優れ、特に後者の場合には更に、破損等が少ない点で好ましい。
【0016】
前記針本体としては、刺入可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内部に前記刺激付与手段等を収容可能であるものが好ましく、内部に前記刺激付与手段等を出入可能に収容可能であるものが好ましい。これらの場合、前記針本体を粘膜層等の対象の下に刺入した後で、該針本体から前記刺激付与手段等を出入させて、手術を行うことができ、刺入回数を減らすことができる等の点で有利である。
前記針本体の形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記構造としては、中空構造、単管構造、重管構造、これらの組合せ、などが挙げられ、前記大きさとしては、通常の注射針程度、内視鏡手術で使用される針等の大きさが挙げられ、前記材質として、耐久性があり、雑菌等による汚染が少なく、滅菌処理可能なものが好ましく、金属等が好適に挙げられる。
【0017】
前記刺激付与領域拡大手段としては、前記刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させることができる限り、特に制限はなく、前記刺激の種類、該刺激を付与する対象及び領域の大きさ等に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激を多方向に反射可能な反射体を有する刺激拡散部材ものが好適に挙げられる。なお、該刺激付与領域拡大手段の形状としては、前記針本体内に収容可能な針状であるもの(刺激拡散棒)が好ましい。
前記反射体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激が光である光を多方向に反射可能な鏡体であるもの、など好適に挙げられる。なお、前記反射体として前記鏡体を使用する場合には、前記刺激付与手段として前記光ファイバーを特に好適に使用することができる。
【0018】
また、刺激付与手段として光ファイバーからの光の照射を選択する場合には、光ファイバーの先端に透明な鏃状多面体やダイヤモンド状多面体等の光透過性部材を設けたり、光ファイバーの先端を三角錐や四角錐等の多面体形状に研磨することにより、刺激付与領域拡大手段を設け、該多面体中や、多面体と多面体外空間との界面における光の反射や屈折によって、刺激である光の付与領域(光が放射される範囲)を拡大できる。
【0019】
前記刺激付与領域拡大手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
前記刺激付与領域拡大手段の前記針装置に設けられる部位乃至箇所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、針本体内に収容されているのが好ましく、該針本体内に出入可能に収容されているのがより好ましい。これらの場合には、前記針本体を粘膜層等の対象の下に刺入した際に、該針本体と一緒に刺入させることができ、破損等が生じ難い等の点で有利であり、また、後者の場合には、所望の箇所にかつ広範囲に前記刺激を効果的に付与することができる点で有利である。
【0020】
前記流体移送手段としては、前記対象内に流体を移送可能である限り、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等について適宜選択することができ、例えば、前記形状としては、針状等が好適に挙げられ、前記構造としては、単管、重管などが挙げられ、前記大きさとしては、前述の注射針等の大きさが挙げられ、前記材質としては、耐久性があり、滅菌等が可能な材質であることが好ましい。
前記流体移送手段の具体例としては、チューブ、注射針などが好適に挙げられる。
【0021】
前記流体移送手段の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。なお、後者の場合には、異なる種類の薬剤等を注射することができる点で有利である。
前記流体移送手段の前記針装置に設けられる部位乃至箇所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記針本体に設けられているのが好ましく、前記針本体内に出入可能に収容されているのがより好ましい。これらの場合、前記針本体を刺入した際に、該針本体と一緒に該流体移送手段も刺入させることができ、取扱性に優れ、破損等の危険か少なく、また、一度の刺入だけで、流体の注射、刺激の付与等を行うことができる点で有利である。
【0022】
前記針本体は、上述の通り、その内部に前記刺激付与手段、前記刺激付与領域拡大手段、前記流体移送手段などを出入可能に収容しているのが好ましいが、該針本体自体が、外筒に出入可能に収容されているのが好ましい。この場合、該針本体を必要時まで該外筒内に収容させておくことができ、手術ミス、事故等を効果的に抑制することができ、また、該針本体の雑菌汚染等を効果的に抑制することができる点で有利である。
前記外筒の形状、構造、大きさ、材質等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、内視鏡装置に出入可能な形状等であることが好ましく、内視鏡装置の先端に出入可能な形状等であることがより好ましい。
【0023】
前記流体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、本発明の増粘性組成物、注射液、薬剤、生理食塩水、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記流体が本発明の増粘性組成物であるのが特に好ましい。
【0024】
ここで、本発明の増粘性組成物について説明する。
本発明の増粘性組成物は、各種用途に使用することができるが、粘膜切除術に用いられるのが好ましく、粘膜膨隆液として使用されるのが特に好ましい。
前記増粘性組成物は、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含んでなる。
【0025】
前記流動性物質としては、前記刺激が付与された際にその流動性が変化し、増粘化するものであればよく、該刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加するものがより好ましく、前記内視鏡的粘膜切除術における前記粘膜膨隆液の代わりとして使用し、粘膜膨隆の状態を手術時において維持可能とする観点からは、前記刺激によりゾル状態からゲル状態に変化するものが特に好ましい。
【0026】
前記流動性物質としては、前記刺激に感応性のある刺激感応基を有するものが好ましく、前記刺激に感応し増粘化乃至硬化反応可能な刺激感応基を有するものがより好ましい。
前記刺激感応基としては、例えば、アクリレート基、これらの誘導体基(エポキシアクリレート基、ウレタンアクリレート基など)、などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらの中でも、前記刺激が光である場合には、公知の感光材料における感光基が挙げられ、例えば、光分解性基(例えば、ジアゾ基、アジド基など)、光重合性基、光架橋性基、などが挙げられ、具体的には、前記アクリレート基及びこれらの誘導体基から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0028】
前記刺激感応基の数、種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0029】
前記流動性物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記増粘性組成物を前記粘膜膨隆液として使用する場合には、生体適合性の観点からは、生体材料乃至生体材料に近い材料であるのが好ましく、例えば、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、これらの誘導体、これらのポリマー(タンパク質、糖タンパク、リポタンパク、多糖類)、などが挙げられる。
前記流動性物質の具体例としては、例えば、ヒアルロン酸、デキストラン、コラーゲン、キトサン、キチン、これらの誘導体などが好適に挙げられる。
【0030】
前記増粘性組成物における増粘化の反応乃至メカニズムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記刺激が光である場合には、公知の感光性樹脂の硬化反応を利用することができ、具体的には、官能基変化、架橋付加等による光分解反応や、架橋、分子鎖延長等による光二量化反応や、高分子量化、架橋ゲル化等による光重合反応、などが挙げられる。
また、前記増粘性組成物としては、光重合型感光性樹脂組成物として設計されていてもよく、この場合、該光重合型感光性樹脂組成物は、例えば、(1)光ラジカル重合開始剤、線状ポリマー、モノマーなどを含む態様、(2)光ラジカル重合開始剤、不飽和オリゴマー、モノマーなどを含む態様、などが挙げられる。なお、前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ポリイミド等のラジカル発生剤が好適に挙げられる。
前記(1)の場合、前記線状ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、水溶性ポリアミドなどが挙げられる。前記モノマーとしては、高級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。前記(2)の場合、前記不飽和オリゴマーとしては、例えば、不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和エポキシ樹脂、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、などが挙げられる。
【0031】
具体的な増粘性組成物としては、特開2003−252936号公報に記載されているような温度に応答してゲル化するゾルであるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)をグラフと重合したデキストランや、特開2003−169844号公報に記載されているような光硬化性ゼラチン、WO97/18244に記載されているような光硬化性ヒアルロン酸、WO00/27889に記載されているような光反応性キトサン等が使用できる。
【0032】
本発明の増粘性組成物の増粘方法においては、増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、前記増粘性組成物が本発明の前記増粘性組成物であり、前記針装置が本発明の前記針装置であること以外は、特に制限はなく、目的に応じて実施可能である。
【実施例】
【0033】
ここで、本発明の針装置及び本発明の増粘性組成物を用いた、本発明の増粘性組成物の増粘方法の実施例について図面を参照しながら説明する。なお本実施例においては、豚の胃袋を使って実験を行った。また、増粘性組成物としては、ネーテック社製の光反応性キトサン(脱アセチル化度80%のキトサンにおいて、グルコサミン単位の2位のアミノ基にラクトースとp−アジド安息香酸を結合させたキトサン)を用いた。この光反応性キトサンは、光官能基を導入しているが、細胞毒性及び変異原性がないことが確認されており、光ラジカル重合開始剤等の添加剤も必要ない点で優れている。
前記光反応性キトサンを蒸留水に溶かし、1重量%水溶液である光反応性キトサン水溶液(増粘性組成物)を得た。前記光反応性キトサン水溶液の光刺激を与える前の37℃における粘度は、約0.2Pa・sであり、6mWの紫外線を25秒間照射した後の37℃における粘度は、約10000Pa・sであった。
【0034】
まず、図9に示すように、癌細胞塊15が生じた胃壁50の粘膜層10とその下の筋層20との界面に、前記粘膜膨隆液としての増粘性組成物70(3ml)を本発明の針装置90(太さ:22G)を用いて注射する。すると、増粘性組成物70により、粘膜層10と筋層20との界面が解離し、粘膜層10が山状に隆起する。このとき、針装置90(内部構造を図23に示す)を粘膜層10から抜き取らず、そのままの状態で、針装置90内に収容された前記刺激付与手段としての先端を三角錐状に加工したプラスチック製光ファイバー91(直径0.45mm)を押し出し、光ファイバーの先端から増粘性組成物70に光(波長:360nm、エネルギー:6mW)を25秒間照射する(図24)。
【0035】
ここで、図23、図24に示すように、前記光ファイバー91の先端は三角錐状になっており、この三角錐状部分91aは光ファイバーのクラッドが削られてコアが露出しているため、前記三角錐状部分91aと増粘組成物の界面にて反射や屈折した光が、前記三角錐状部分91aの表面から放射される。このため、前記光ファイバーの端面を光ファイバーの軸方向(光軸方向)に垂直面とした場合に比べ、光が広範囲に分散され、より広い範囲の増粘組成物に光刺激を付与することができる。
また、前記光ファイバー91が針装置100内に収容されている場合には、増粘性組成物70は、針装置100内のスリット92を通って針先94から注射される。増粘性組成物が注射された後、図24のように、前記光ファイバー91が前記針先94から押し出され、増粘性組成物に光刺激を付与する。この際、前記光ファイバー91の先端は、前記スリット92を有する筒体93の中を通って針先に向かうため、前記光ファイバー91が前記針先94の根本でひっかかることがない。
【0036】
前記光ファイバー91から光刺激が付与されると、増粘性組成物70が架橋して増粘化しゲル化する。その後、前記光ファイバー91を針装置100内に収納し、針装置90を粘膜層10から抜き取ると、図10に示すように、ゲル化された増粘性組成物75は、ピンホール(針孔)30から外部に流出せず、粘膜層10と筋層20との界面にとどまるため、粘膜隆起の状態が維持され、癌細胞塊15は、隆起した粘膜層10の頂部に存在する。
【0037】
次に、内視鏡の先端からかんしとスネアーとを押し出して操作することにより、該スネアーを癌細胞塊15の周囲に位置させ、前記かんしで癌細胞塊15を摘みながら引っ張り、スネアーのリングを徐々に締め付けていき、電気を流すことにより電気メスの原理にて、図11に示すように、癌細胞塊15を含む粘膜層10が切除される。このとき、粘膜層10が除去された部分の筋層20は、出血をすることがあるが、この実施例において、ゲル化した増粘性組成物75が露出した筋層20の表面を覆うため、出血を抑制することができ、かつ該露出する筋層20の細菌感染等が効果的に抑制される。また、増粘性組成物70には、殺菌剤、抗生物質、等の各種薬剤を添加させておくことができるので、この場合、該薬剤等により、切除部のダメージが最小に抑制することができる。
【0038】
なお、前記光ファイバーは、図12及び図13に示すように、針装置100の針本体101内に出入可能に複数収容させることができる。これらの図に示す、光ファイバー102は、針本体101から押し出すことができ、図14に示すように、押し出されると、互いの間隔を広げながら配置させることができ、広範囲に光を照射することができる。
【0039】
具体的には、次のような方法を使うことができる。直線状の光ファイバーを湾曲させた状態でアニーリング処理を施すことにより、クラッド層を形成する樹脂等に歪みが生じ、湾曲した状態の光ファイバーが得られる。このように、湾曲した光ファイバーを針本体101から押し出すと、それまで針本体101の内壁等によって図14のように直線性を維持するように押さえ込まれていた前記光ファイバーが、図15のように針本体の先端から多方向に広がる。また、これらの光ファイバーは、針の先端から出た長さによって、光ファイバーの端面が向く方向(光軸の方向)が変わるため、時間をかけてゆっくりと前記光ファイバーを押し出したり、何度か前記光ファイバーを出し入れすることにより、広範囲に光を照射させることができる。
このため、図15に示すように、増粘性組成物70が、粘膜層10の下に広範囲に存在していても、複数の光ファイバー102から増粘性組成物70の全体に効率よくかつ確実に光を照射させることができ、増粘性組成物70を効率よくかつ確実にゲル化させることができる。
【0040】
また、図16には、針本体101には、光ファイバー102のみならず、前記刺激付与領域拡大手段としての光拡散棒110を出入可能に収容させておくことができる。光拡散棒110は、光を任意の方向に反射可能な鏡体115を多数有してなり、その周囲に複数の光ファイバー102(例えばプラスチック製の直径0.1mmの光ファイバー等)が配置されている。図16のように、刺激付与領域拡大手段である前記光拡散棒110の周囲に刺激付与手段である前記光ファイバー102を配置して針本体内に収容しておくことにより、刺激付与手段(光ファイバー)が常に刺激付与領域拡大手段(光拡散棒)の近くに存在し、効率よく刺激領域を拡大させる(光ファイバーからの光を広範囲にわたって照射する)ことができる。光ファイバー102から照射される光は、光拡散棒110の軸方向に向けて照射される。そして、光ファイバーの端面から発せられる光の回折又は拡散のみによる効果に比べて、光拡散棒110の軸方向に照射し拡散された光の一部が鏡体115により、任意の多方向に反射される結果、光ファイバー102による光が広範囲に照射される。なお、光拡散棒110は、樹脂等により形成することができ、鏡体115は蒸着により形成することができ、この場合、光拡散棒110は、弾性を有し、折り曲げ等が可能である。更に、図18に示すように、光拡散棒110とその周囲に複数配置した光ファイバー102とを、複数セット用意し、これらを針本体101内に出入可能に収容させておくこともできる。この場合、図19に示すように、光ファイバー102からの光の光拡散効率に優れ、粘膜層10の下で増粘性組成物70の広範囲に光を拡散し照射することができるため、増粘性組成物70の増粘化効率、ゲル化効率に優れ、短時間(30秒以内)で容易にかつ確実に増粘性組成物70を増粘化させ、ゲル化させることができる。
図12〜図19の場合において、増粘性組成物70は、他の針装置を用いて注入してもよいし、例えば図20のように針本体を複数有する針装置を用い、別の針本体から注入してもよい。
【0041】
また、図20に示すように、外筒103内に針本体101を2本出入可能に収容させておいてもよい。この場合、図21に示すように、針本体101の一つを押し出して、増粘性組成物70の注射等を行い、残りの針本体101により増粘性組成物70の増粘化、ゲル化等を行ってもよい。
また、図22に示すように、針本体101内に前記流体移送手段としての注射針120を出入可能に収容しておき、その周囲に複数の光ファイバー102を出入可能に収容させておくことができる。この場合、針本体101を粘膜層10の下に刺入した後、注射針120により増粘性組成物70を粘膜層10の下に注射して粘膜膨隆を形成し、針本体101を粘膜層10から抜くことなく、そのまま光ファイバー102を押し出しして、増粘性組成物70に光を照射することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の増粘性組成物は、内視鏡的粘膜切除術において、既存の粘膜膨隆液に代わりに使用することができ、粘膜切除術に好適に用いることができる。
本発明の針装置は、内視鏡的粘膜切除術において、胃や食道などの粘膜に注射するのに好適に用いることができ、前記増粘性組成物をゲル化等させ増粘させるのに好適に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外から刺激を付与可能な刺激付与手段と、対象に刺入可能な針本体とを少なくとも有する針装置。
【請求項2】
刺激付与手段が針本体内に設けられた請求項1に記載の針装置。
【請求項3】
刺激付与手段が針本体内に出入可能に収容された請求項1から2のいずれかに記載の針装置。
【請求項4】
刺激付与手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項1から3のいずれかに記載の針装置。
【請求項5】
刺激付与手段が付与する刺激が、光、熱及び振動から選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載の針装置。
【請求項6】
刺激付与手段が、光ファイバーからの光の照射である請求項1から5のいずれかに記載の針装置。
【請求項7】
光ファイバーの先端における光放射面が光ファイバーの軸方向に対して非垂直面である光ファイバーである請求項6に記載の針装置。
【請求項8】
刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させる刺激付与領域拡大手段を有してなる請求項1から6のいずれかに記載の針装置。
【請求項9】
刺激付与領域拡大手段が刺激付与手段の先端に設けられている請求項7に記載の針装置。
【請求項10】
刺激付与領域拡大手段が針本体内に収容された請求項7に記載の針装置。
【請求項11】
刺激付与領域拡大手段が針本体内に出入可能に収容された請求項7から9のいずれかに記載の針装置。
【請求項12】
刺激付与領域拡大手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項7から10のいずれかに記載の針装置。
【請求項13】
刺激付与領域拡大手段が、刺激を多方向に反射可能な反射体を有する請求項7又は9から11のいずれかに記載の針装置。
【請求項14】
反射体が、光を多方向に反射可能な鏡体である請求項7又は9から12のいずれかに記載の針装置。
【請求項15】
刺激付与領域拡大手段の周囲に刺激付与手段が配置された状態で針本体内に収容された請求項7又は9から13のいずれかに記載の針装置。
【請求項16】
刺激付与領域拡大手段が、光を多方向に反射可能な鏡体を有し、刺激付与手段が、光ファイバーである請求項14に記載の針装置。
【請求項17】
対象内に流体を移送可能な流体移送手段を有してなる請求項1から15のいずれかに記載の針装置。
【請求項18】
流体移送手段が針本体内に収容された請求項16に記載の針装置。
【請求項19】
流体移送手段が針本体内に出入可能に収容された請求項16又は17のいずれかに記載の針装置。
【請求項20】
流体移送手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項16から18のいずれかに記載の針装置。
【請求項21】
流体移送手段がチューブ及び注射針の少なくともいずれかである請求項16から19のいずれかに記載の針装置。
【請求項22】
流体が、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物である請求項16から20のいずれかに記載の針装置。
【請求項23】
流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する請求項21に記載の針装置。
【請求項24】
流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する請求項21から22のいずれかに記載の針装置。
【請求項25】
針本体が外筒に出入可能に収容された請求項1から23のいずれかに記載の針装置。
【請求項26】
針本体が複数外筒に出入可能に収容された請求項24に記載の針装置。
【請求項27】
内視鏡装置に備えられた請求項1から25のいずれかに記載の針装置。
【請求項28】
増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、
前記増粘性組成物が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種の増粘性組成物であり、前記針装置が、請求項26に記載の針装置であること特徴とする増粘性組成物の増粘方法。
【請求項1】
外から刺激を付与可能な刺激付与手段と、対象に刺入可能な針本体とを少なくとも有する針装置。
【請求項2】
刺激付与手段が針本体内に設けられた請求項1に記載の針装置。
【請求項3】
刺激付与手段が針本体内に出入可能に収容された請求項1から2のいずれかに記載の針装置。
【請求項4】
刺激付与手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項1から3のいずれかに記載の針装置。
【請求項5】
刺激付与手段が付与する刺激が、光、熱及び振動から選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載の針装置。
【請求項6】
刺激付与手段が、光ファイバーからの光の照射である請求項1から5のいずれかに記載の針装置。
【請求項7】
光ファイバーの先端における光放射面が光ファイバーの軸方向に対して非垂直面である光ファイバーである請求項6に記載の針装置。
【請求項8】
刺激付与手段からの刺激の付与領域を拡大させる刺激付与領域拡大手段を有してなる請求項1から6のいずれかに記載の針装置。
【請求項9】
刺激付与領域拡大手段が刺激付与手段の先端に設けられている請求項7に記載の針装置。
【請求項10】
刺激付与領域拡大手段が針本体内に収容された請求項7に記載の針装置。
【請求項11】
刺激付与領域拡大手段が針本体内に出入可能に収容された請求項7から9のいずれかに記載の針装置。
【請求項12】
刺激付与領域拡大手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項7から10のいずれかに記載の針装置。
【請求項13】
刺激付与領域拡大手段が、刺激を多方向に反射可能な反射体を有する請求項7又は9から11のいずれかに記載の針装置。
【請求項14】
反射体が、光を多方向に反射可能な鏡体である請求項7又は9から12のいずれかに記載の針装置。
【請求項15】
刺激付与領域拡大手段の周囲に刺激付与手段が配置された状態で針本体内に収容された請求項7又は9から13のいずれかに記載の針装置。
【請求項16】
刺激付与領域拡大手段が、光を多方向に反射可能な鏡体を有し、刺激付与手段が、光ファイバーである請求項14に記載の針装置。
【請求項17】
対象内に流体を移送可能な流体移送手段を有してなる請求項1から15のいずれかに記載の針装置。
【請求項18】
流体移送手段が針本体内に収容された請求項16に記載の針装置。
【請求項19】
流体移送手段が針本体内に出入可能に収容された請求項16又は17のいずれかに記載の針装置。
【請求項20】
流体移送手段が複数針本体内に出入可能に収容された請求項16から18のいずれかに記載の針装置。
【請求項21】
流体移送手段がチューブ及び注射針の少なくともいずれかである請求項16から19のいずれかに記載の針装置。
【請求項22】
流体が、外から付与される刺激により粘度が増加する流動性物質を少なくとも含み、粘膜切除術に用いられる増粘性組成物である請求項16から20のいずれかに記載の針装置。
【請求項23】
流動性物質が、外から付与される刺激により、該刺激が付与される前に比し粘度が3倍以上増加する請求項21に記載の針装置。
【請求項24】
流動性物質が、外から付与される刺激によりゾル状態からゲル状態に変化する請求項21から22のいずれかに記載の針装置。
【請求項25】
針本体が外筒に出入可能に収容された請求項1から23のいずれかに記載の針装置。
【請求項26】
針本体が複数外筒に出入可能に収容された請求項24に記載の針装置。
【請求項27】
内視鏡装置に備えられた請求項1から25のいずれかに記載の針装置。
【請求項28】
増粘性組成物に刺激を付与可能な針装置を用い、該増粘性組成物に前記刺激を付与し、該増粘性組成物の粘度を増加させることを含み、
前記増粘性組成物が、アミノ酸、糖類、核酸、脂肪酸、コラーゲン、キトサン、キチン、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種の増粘性組成物であり、前記針装置が、請求項26に記載の針装置であること特徴とする増粘性組成物の増粘方法。
【図23】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図24】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図24】
【国際公開番号】WO2005/039672
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514962(P2005−514962)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015538
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(804000015)株式会社信州TLO (30)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/015538
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(804000015)株式会社信州TLO (30)
【Fターム(参考)】
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