説明

変速制御装置

【課題】運転者の加速意図や減速意図を適切に反映させた変速制御を実行できる変速制御装置を提供すること。
【解決手段】車両に搭載された自動変速機を制御する変速制御装置であって、運転者により操作されてシフトポジションが選択されるシフトポジション選択手段と、運転者により操作され、可動範囲における初期位置からの操作量が可変である、シフトポジション選択手段とは異なる操作子とを備え、操作量が初期位置に対応する値であるとき(S2−N)は、選択されたシフトポジションと車両の走行状態とに基づく予め設定された第一変速比を目標変速比とする変速制御を実行(S1)し、操作量が初期位置に対応する値でないとき(S2−Y)には、第一変速比から予め設定された第二変速比までの間の操作量に応じた変速比を目標変速比とする変速制御を実行(S3)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速制御装置に関し、特に、車両に搭載された自動変速機を制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動変速機において、運転者が任意の変速比(変速段)を選択することができるマニュアルモードを備えたものが知られている。例えば、特許文献1には、最小トルク比から最大トルク比にわたって連続的に設定された複数のトルク比の中から運転者の操作により任意のトルク比を選択し出力する設定トルク比選択装置を備える車両用動力伝達装置の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−42626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、運転者の加速意図や減速意図を適切に反映させた変速制御を実行できるようにすることについて、従来十分な検討がなされていなかった。例えば、上記特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置では、現状トルク比と、シフトレバーのマニュアル設定位置に応じた設定トルク比との比較結果に応じて、ダウンシフトされる場合と、アップシフトされる場合と、現状トルク比が維持される場合とがあり、運転者の加速意図や減速意図が適切に反映されない場合があった。
【0005】
本発明の目的は、車両に搭載された自動変速機において、運転者の加速意図や減速意図を適切に反映させた変速制御を実行できる変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の変速制御装置は、車両に搭載された自動変速機を制御する変速制御装置であって、運転者により操作されてシフトポジションが選択されるシフトポジション選択手段と、前記運転者により操作され、可動範囲における初期位置からの操作量が可変である、前記シフトポジション選択手段とは異なる操作子とを備え、前記操作量が前記初期位置に対応する値であるときは、前記選択されたシフトポジションと前記車両の走行状態とに基づく予め設定された第一変速比を目標変速比とする変速制御を実行し、前記操作量が前記初期位置に対応する値でないときには、前記第一変速比から予め設定された第二変速比までの間の前記操作量に応じた変速比を前記目標変速比とする変速制御を実行することを特徴とする。
【0007】
本発明の変速制御装置において、前記操作量が大きい場合の前記目標変速比は、前記操作量が小さい場合の前記目標変速比と比較して前記第二変速比側の値であることを特徴とする。
【0008】
本発明の変速制御装置において、前記自動変速機は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機であることを特徴とする。
【0009】
本発明の変速制御装置において、前記第二変速比が、前記第一変速比よりも大きな変速比であることを特徴とする。
【0010】
本発明の変速制御装置において、前記操作子は、前記操作量を減少させる向きに付勢されており、前記運転者が前記操作子に力を加えていない状態では、前記操作子は前記初期位置に戻ることを特徴とする。
【0011】
本発明の変速制御装置において、前記操作子は、前記運転者により踏込まれるペダルであり、前記操作量は、前記ペダルの踏込み量であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる変速制御装置は、運転者により操作され、可動範囲における初期位置からの操作量が可変な操作子を備え、操作量が初期位置に対応する値であるときは、選択されたシフトポジションと車両の走行状態とに基づく予め設定された第一変速比を目標変速比とする変速制御を実行し、操作量が初期位置に対応する値でないときには、第一変速比から予め設定された第二変速比までの間の操作量に応じた変速比を目標変速比とする変速制御を実行する。これにより、運転者の加速意図や減速意図を適切に反映させた変速制御を実行することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の変速制御装置のブロック図である。
【図3】図3は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態のシフトペダルの配置を示す図である。
【図4】図4は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態のアクセル開度および車速と目標駆動力との対応関係を示す図である。
【図5】図5は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の目標パワーと目標制御量との対応関係を示す図である。
【図6】図6は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態において第一変速比が無段変速機の最小変速比である場合のペダル開度と目標変速比との関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態において第一変速比が無段変速機の最小変速比と最大変速比との間の値である場合のペダル開度と目標変速比との関係を示す図である。
【図8】図8は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の減速時におけるペダル開度と車両加速度の変化代との関係を示す図である。
【図9】図9は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の加速時におけるペダル開度と車両加速度の変化代との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる変速制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
(実施形態)
図1から図9を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両に搭載された自動変速機を制御する変速制御装置に関する。図1は、本発明にかかる変速制御装置の実施形態の動作を示すフローチャート、図2は、本実施形態の変速制御装置のブロック図、図3は、本実施形態の変速制御装置のシフトペダルの配置を示す図である。
【0016】
本実施形態の変速制御装置では、アクセルペダル(図3の符号7参照)、ブレーキペダル(図3の符号8参照)の他に、シフトペダル(図3の符号9参照)が設けられており、このシフトペダル9で無段変速機(図2の符号2参照)の変速比を制御することができる。シフトペダル9が踏込まれた場合、シフトペダル9が踏込まれる前と比較して、大きな変速比に変速される。
【0017】
これにより、減速中、シフトペダル9を操作することによってエンジンブレーキ力が変化し、車両の減速を運転者の意図に制御することができる。また、加速中、シフトペダル9とアクセルペダル7を合わせて操作することによって車両の駆動力を運転者の意図に制御することができる。
【0018】
図2において、符号1は、エンジン(内燃機関)を示す。エンジン1は、公知の内燃機関であり、図示しない吸気通路と、吸気通路を流れる吸気の流量を調節するスロットルバルブと、吸気通路に燃料を噴射する燃料噴射装置と、筒内の混合気に点火する点火装置とを備える。スロットルバルブは、開閉することで吸気通路の流路面積を調整し、吸気の流量を調節する。エンジン1は、吸気通路を介して供給される空気と燃料噴射装置により供給される燃料との混合気を筒内で燃焼させ、発生する燃焼エネルギーを回転運動に変換して出力するものである。
【0019】
エンジン1の出力トルクは、無段変速機(CVT)2へ伝達される。無段変速機2は、変速比を最小変速比γminから最大変速比γmaxまでの間で無段階(連続的)に制御するものであり、エンジン1の出力を図示しない駆動軸へ伝達する。エンジン1の出力軸(図示せず)は、無段変速機2の入力軸(図示せず)と連結可能に構成されており、無段変速機2の入力回転数(入力軸回転数)NINは、エンジン1の回転数(出力軸回転数)Neと対応している。
【0020】
エンジン1および無段変速機2が搭載された車両(図示せず)には、無段変速機2を制御する変速制御装置100が設けられている。変速制御装置100は、第一変速比算出部110と、目標制御量算出部120とを含む。変速制御装置100は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、図示しないCPU、RAM、ROM、入力ポート、出力ポート、及びコモンバスを備えている。変速制御装置100は、以下に説明するように、エンジン1を制御する機能も併せ持っており、車両の駆動力を制御する駆動力制御装置として機能することができる。
【0021】
変速制御装置100は、運転者の意志に基づいて設定、あるいは車両の自動走行制御において算出される車両に要求される要求制駆動力に基づいて、噴射信号、点火信号、バルブ開度信号などをエンジン1に出力する。これらの出力信号により、図示しない燃料噴射装置によりエンジン1に供給される燃料の燃料供給量や噴射タイミングなどの燃料噴射制御、図示しない点火装置の点火制御、エンジン1の図示しない吸気通路に設けられたスロットルバルブのバルブ開度制御などが行われる。
【0022】
第一変速比算出部110は、アクセル開度(アクセル操作量)accpおよび車速spdに基づいて、後述する第一変速比γ1を算出する。第一変速比算出部110には、アクセル開度検出手段3、および車速検出手段4が接続されている。アクセル開度検出手段3は、図3に示すアクセルペダル7の開度を検出するものである。図3に示すように、車室内において、ステアリングホイール10の下方には、アクセルペダル7およびブレーキペダル8が配置されている。アクセルペダル7およびブレーキペダル8は、それぞれ公知のものである。アクセルペダル7は、ブレーキペダル8に対して、車両後方側から見て右側に配置されている。アクセル開度検出手段3は、アクセルペダル7の開度(踏込み量)を検出するものであり、検出されたアクセル開度accpは、第一変速比算出部110に出力される。
【0023】
車速検出手段4は、車両の走行速度を検出するものである。車速検出手段4は、例えば、車速spdと対応する無段変速機2の出力軸の回転数を検知し、検知された回転数に基づいて、車速spdを検出する。車速検出手段4により検出された車速spdは、第一変速比算出部110に出力される。
【0024】
図3に示すように、車両には、アクセルペダル7およびブレーキペダル8に加えて、シフトペダル(操作子)9が配置されている。シフトペダル9は、後述するように、走行状態とシフトポジションとに基づいて設定される第一変速比γ1に対して、運転者が異なる変速比への変速を指示するためのものである。シフトペダル9は、車両後方側から見てブレーキペダル8の左側に配置されている。つまり、シフトペダル9は、ブレーキペダル8に対してアクセルペダル7側と反対側に配置されている。シフトペダル9は、例えば、運転者が左足(アクセルペダル7を操作する足と異なる足)で操作可能な位置に配置されることが好ましい。シフトペダル9は、アクセルペダル7やブレーキペダル8と同様に、運転者が踏込み可能に構成されており、かつ、踏込む力と反対向きにスプリング等の付勢手段により付勢されている。したがって、運転者がシフトペダル9を踏込まない(付勢手段の付勢力を上回る力を加えない)場合には、シフトペダル9は、付勢手段の付勢力により、踏込み量が最小となる位置(初期位置)まで戻る。
【0025】
運転者が付勢手段の付勢力に抗してシフトペダル9を踏込んでいくと、その踏込み量(踏込み力)に応じてシフトペダル9の初期位置からの操作量が増していく。一方、運転者が、シフトペダル9に対する踏込み量(踏込み力)を減じていくと、付勢手段の付勢力により、シフトペダル9が初期位置に向けて戻り、操作量が減少していく。つまり、運転者は、踏込み量(踏込み力)を調節することで、初期位置から、踏込み量が最大となる位置までの可動範囲における任意の位置にシフトペダル9を操作することができる。言い換えると、シフトペダル9は、可動範囲における初期位置からの操作量が可変であるように構成されている。
【0026】
図2に示すように、車両には、シフトペダル9の踏込み量(操作量)を検出するシフトペダル操作量検出手段5が設けられている。シフトペダル操作量検出手段5は、検出したシフトペダル9の踏込み量であるペダル開度sftを変速制御装置100に出力する。ペダル開度sftは、シフトペダル9に対する踏込み量が大きくなるほど大きな開度として検出される。
【0027】
また、車両には、シフトレバー(シフトポジション選択手段)11のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ6が設けられている。シフトレバー11は、運転者により操作されてシフトポジションが選択されるものである。シフトレバー11は、例えば、公知のシフトレバーであることができ、パーキングポジション(Pポジション)、リバースポジション(Rポジション)、ニュートラルポジション(Nポジション)、ドライブポジション(Dポジション)等のポジションに操作可能である。シフトポジションセンサ6は、シフトレバー11がいずれのシフトポジションにあるか(いずれのシフトポジションが選択されているか)を検出する。
【0028】
なお、無段変速機2は、上記のポジションに加えて、増速側の変速領域を制限し、適度なエンジンブレーキ力を発生させるSポジションや、変速領域をより減速側に設定したBポジションを選択可能に構成されていたり、マニュアル操作によりシフトダウンやシフトアップさせるシーケンシャルシフトが可能なMポジションが選択可能に構成されていたりしてもよい。シフトポジションセンサ6により検出されたシフトポジションは、変速制御装置100に出力される。
【0029】
第一変速比算出部110は、アクセル開度検出手段3により検出されたアクセル開度accpと、車速検出手段4により検出された車速spdとに基づいて、以下に説明するように、第一変速比γ1を算出する。ここで、第一変速比γ1とは、シフトペダル9が踏込まれていない場合に無段変速機2の目標変速比として設定される変速比であり、走行状態とシフトポジションとに基づく予め設定された値である。シフトペダル操作量検出手段5により検出されるペダル開度sftが、シフトペダル9の初期位置に対応する値である場合には、この第一変速比γ1を目標変速比とする変速制御が実行される。
【0030】
例えばドライブポジションが選択されている場合について説明すると、第一変速比算出部110は、まず、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図4に示すマップを参照して目標駆動力Ftgtを算出する。図4は、アクセル開度accpおよび車速spdと目標駆動力Ftgtとの対応関係を示す図である。図4において、横軸は車速spd、縦軸は駆動力forceをそれぞれ示す。符号accp1、accp2、およびaccp3は、アクセル開度accpの大きさに応じた車速spdと目標駆動力Ftgtとの関係を示す曲線である。accp1からaccp3の順でアクセル開度accpが大きな値となっている。図4に示すように、所定の車速spdに対して、アクセル開度accpが大きな値となるほど、目標駆動力Ftgtが大きな値として算出される。
【0031】
次に、第一変速比算出部110は、目標駆動力Ftgtおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)Pを算出する。第一変速比算出部110は、目標駆動力Ftgtと車速spdの乗算により目標パワーPを算出する。第一変速比算出部110は、算出された目標パワーPと車速spdとに基づいて、図5に示すマップを参照して第一変速比γ1を算出する。図5は、目標パワーPと目標制御量との対応関係を示す図である。図5において、横軸はエンジン回転数Ne、縦軸はエンジン1の出力トルク(エンジントルク)TEをそれぞれ示す。符号P1,P2,およびP3は、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる等パワー線を示す。エンジン1の動作点(回転数Neと出力トルクTEの組み合わせ)が同一の等パワー線上にある場合には、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる。符号P1で示す等パワー線から符号P3で示す等パワー線の順でエンジン1の出力が大きな値となる。
【0032】
符号200は、エンジン1の最適燃費線を示す。最適燃費線200は、エンジン1を最適な燃費で(効率良く)運転できる運転領域を示す。エンジン1の動作点が最適燃費線200上にある場合には、燃費を優先してエンジン1を運転することができる。本実施形態では、必要なパワー(目標パワーP)と最適燃費線200とから目標エンジン回転速度および目標エンジントルクが算出される。例えば、目標パワーPに対応する等パワー線が符号P2で示すものである場合、符号Ne1で示す値が目標エンジン回転速度とされ、符号TE1で示す値が目標エンジントルクとされる。言い換えると、エンジン1の目標とする動作点が、符号X1で示される点とされる。
【0033】
また、目標エンジン回転速度に対応する無段変速機2の入力回転速度NINとして、第一入力回転速度nin1が設定される。第一変速比γ1は、この第一入力回転速度nin1と無段変速機2の出力軸の回転速度との比として求めることができる。つまり、目標パワーPと、最適燃費線200とに基づいて、無段変速機2の第一変速比γ1が算出される。第一変速比算出部110は、算出した目標エンジン回転速度、目標エンジントルク、および第一変速比γ1を目標制御量算出部120に出力する。ドライブポジションと異なる走行ポジションが選択されている場合、それぞれのポジションに対応する予め設定された変速線に基づいて、走行状態に応じた第一変速比γ1が設定される。
【0034】
なお、ここで説明した第一変速比γ1の算出方法は、一例であり、走行状態に基づいて、他の方法で第一変速比γ1が算出されてもよい。また、第一変速比γ1は、他の車両制御等の要求により補正がなされたものであってもよい。つまり、第一変速比γ1は、シフトペダル9が踏込まれていない場合に、変速制御装置100により自動的に設定される無段変速機2の目標変速比であればよい。
【0035】
目標制御量算出部120は、エンジン1および無段変速機2に対する制御量の目標値を設定するものである。目標制御量算出部120には、第一変速比算出部110で算出された目標エンジン回転速度と目標エンジントルクと第一変速比γ1、および、シフトペダル操作量検出手段5で検出されたペダル開度sftが入力される。
【0036】
目標制御量算出部120は、シフトペダル9のペダル開度sftが0である場合、すなわち、運転者によりシフトペダル9が踏込まれておらず、シフトペダル9が運転者により力を加えられていないときの初期位置にある場合、第一変速比算出部110から入力された目標エンジン回転速度と目標エンジントルクと第一変速比γ1をそのまま目標制御量とする。目標制御量算出部120は、無段変速機2の入力回転速度NINの指令値として、第一入力回転速度nin1を出力し、これにより、無段変速機2において、第一変速比γ1を目標変速比とした変速制御がなされる。また、目標制御量算出部120は、目標エンジン回転速度と目標エンジントルクを実現するようにエンジン1に対して噴射信号、点火信号、バルブ開度信号などを出力する。
【0037】
一方、シフトペダル9が運転者により踏込まれている場合、すなわち、ペダル開度sftが、シフトペダル9の初期位置に対応する値でない場合、目標制御量算出部120は、ペダル開度sftに応じて無段変速機2の目標変速比を第一変速比γ1よりも大きな変速比に設定する。つまり、以下に図6および図7を参照して説明するように、シフトペダル9のペダル開度sftが大きいほど、目標変速比は、第一変速比γ1と比較して大きな値に設定される。図6は、第一変速比γ1が無段変速機2の最小変速比γminである場合のペダル開度sftと目標変速比との関係を示す図、図7は、第一変速比γ1が無段変速機2の最小変速比γminと最大変速比γmaxとの間の値である場合のペダル開度sftと目標変速比との関係を示す図である。
【0038】
図6および図7において、横軸はシフトペダル9のペダル開度sft、縦軸は無段変速機2の変速比を示す。また、符号γmaxは、無段変速機2の変速比の最大値である最大変速比(第二変速比)、符号γminは無段変速機2の変速比の最小値である最小変速比を示す。ここで、最大変速比γmaxとは、無段変速機2において設定可能な最大の変速比であり、最小変速比γminとは無段変速機2において設定可能な最小の変速比である。図6では、第一変速比γ1が、最小変速比γminと一致しており、図7では、第一変速比γ1は、最小変速比γminと最大変速比γmaxとの間の値となっている。
【0039】
図6における符号201、および図7における符号202は、それぞれペダル開度sftと無段変速機2の目標変速比との関係を示す。図6に示すように、目標変速比は、第一変速比γ1から最大変速比γmaxまでの間の値に設定される。ペダル開度sftが0%であるとき(すなわち、シフトペダル9の踏込み操作がなされていないとき)には、第一変速比γ1が目標変速比として設定され、ペダル開度sftが100%(最大)である場合には、最大変速比γmaxが目標変速比として設定される。また、ペダル開度sftが、0%と100%との間の値である場合には、目標変速比は、第一変速比γ1よりも大きく最大変速比γmaxよりも小さな値として設定され、かつ、ペダル開度sftが大きい場合は、ペダル開度sftが小さい場合と比較して、目標変速比が最大変速比γmax側の値として設定される。つまり、運転者がシフトペダル9を大きく(深く)踏込んだ場合には、小さく(浅く)踏込んだ場合と比較して、目標変速比が第一変速比γ1から最大変速比γmaxまでのより大きな変速比として設定される。言い換えると、シフトペダル9が踏込まれている(ペダル開度sftが初期位置に対応する値でない)ときには、第一変速比γ1から最大変速比γmaxまでの間のペダル開度sftに応じた変速比が目標変速比として設定され、その目標変速比に基づく変速制御が実行される。
【0040】
これにより、運転者は、シフトペダル9の踏込み量を調節することで、シフトペダル9を踏込む前の第一変速比γ1から最大変速比γmaxまでの任意の変速比に無段変速機2を変速させることができる。
【0041】
第一変速比γ1が、最大変速比γmaxと最小変速比γminとの間の値である場合も同様であり、図7に示すように、目標変速比は、第一変速比γ1から最大変速比γmaxまでの値に設定される。ペダル開度sftが0%であるときには、第一変速比γ1が目標変速比として設定され、ペダル開度sftが100%であれば最大変速比γmaxが目標変速比として設定される。ペダル開度sftが、0%と100%との間の値である場合には、目標変速比は、第一変速比γ1よりも大きく最大変速比γmaxよりも小さな値として設定され、かつ、ペダル開度sftが大きい場合は、ペダル開度sftが小さい場合と比較して、目標変速比が最大変速比γmax側の値として設定される。
【0042】
ここで、図6の場合と図7の場合とで異なる点は、ペダル開度sftの変化に対する目標変速比の変化の割合である。第一変速比γ1が、小さな変速比であるほど、一定のペダル開度sftの変化に対して、目標変速比の変化量が大きくなる。したがって、無段変速機2の変速比が小さな変速比であった場合に、シフトペダル9を踏込むと、小さな踏込み量でもそれまでの変速比に対して、大きな変化量で変速比を変化させることができる。つまり、シフトペダル9の1回の踏込み操作で、大きな変速比まで素早く変速させることができる。一方、無段変速機2の変速比が比較的大きな変速比であった場合に、シフトペダル9を踏込むと、踏込み量に応じて、小刻みに変速比を変化させることが出来る。すなわち、すでにある程度大きな変速比となっている場合、更に大きな変速比を望むときに、シフトペダル9を踏込むことで、変速比を微調整することが可能となる。
【0043】
目標変速比が、第一変速比γ1と異なる値に変更されることで、エンジン1の目標とする動作点もシフトする。目標変速比が、第一変速比γ1よりも大きな値とされることで、目標エンジン回転速度も増加する。例えば、第一変速比γ1に対応する目標エンジン回転速度が、図5に符号Ne1で示す値であった場合、シフトペダル9が踏込まれると、目標動作点は、符号X1で示す点よりもエンジン回転数Neが増加する側にシフトする。目標制御量算出部120は、例えば、矢印Y1に示すように、エンジントルクTEを一定として目標動作点をシフトさせる。
【0044】
目標制御量算出部120は、目標エンジン回転速度および目標エンジントルクを変更後の目標動作点に対応する値に設定する。そして、目標制御量算出部120は、変更後の目標エンジン回転速度および目標エンジントルクに基づく噴射信号、点火信号、バルブ開度信号などをエンジン1に出力する。また、これと並行して、目標制御量算出部120は、目標変速比を無段変速機2に出力する。これにより、シフトペダル9のペダル開度sftに応じた目標変速比を実現するエンジン1および無段変速機2の制御が実行される。なお、車速spd等に応じて変速比の上限値が設定されている場合に、設定された目標変速比が上記上限値を上回る場合には、上記上限値よりも大きな変速比への変速が禁止されるようにしてもよい。例えば、目標制御量算出部120が、目標変速比を実現するように変速比を増加させていく途中で、実際の変速比が上記上限値に達した場合には、さらに変速比を増加させることが禁止される。
【0045】
シフトペダル9を踏込み、無段変速機2において大きな変速比に変速させることで、以下に図8および図9を参照して説明するように、減速時には減速度を増し、加速時には加速度を増すことができる。図8は、減速時におけるペダル開度sftと車両加速度の変化代Δとの関係を示す図、図9は、加速時におけるペダル開度sftと車両加速度の変化代Δとの関係を示す図である。
【0046】
図8には、減速時(被駆動時)であって、エンジントルクが一定、あるいはフューエルカット中の場合におけるペダル開度sftと車両加速度の変化代Δとの関係の一例が示されている。減速時に変速比を増加させると、エンジン回転数Neの増加により、エンジンフリクションが増加する。これにより、シフトペダル9を踏込んで変速がなされた後は、踏込む前と比較して、車両加速度が減少(車両減速度が増加)する。また、シフトペダル9のペダル開度sftが大きい場合には、ペダル開度sftが小さい場合と比較して、変速比がより大きな値に変化するため、車両加速度が大きく減少する。よって、運転者は、所望の減速度に応じて、シフトペダル9の踏込み量を調節することにより、適切な減速度を実現することができる。
【0047】
図9には、加速時(駆動時)であって、エンジントルクが一定の場合のペダル開度sftと車両加速度の変化代Δとの関係の一例が示されている。加速時に変速比を増加させると、変速比の増加分だけ出力トルクが増加する。これにより、シフトペダル9を踏込んで変速がなされた後は、踏込む前と比較して、車両加速度が増加する。また、シフトペダル9のペダル開度sftが大きい場合には、ペダル開度sftが小さい場合と比較して、変速比がより大きな値に変化するため、車両加速度が大きく増加する。よって、運転者は、所望の加速度に応じて、シフトペダル9の踏込み量を調節することにより、適切な加速度を実現することができる。
【0048】
図8や図9に示す例では、ペダル開度sftと車両加速度の変化代Δとの関係は線形となっている。このように、ペダル開度sftの変化量に対する車両加速度の変化代Δの変化量の割合が一定となるように、ペダル開度sftと無段変速機2の目標変速比との関係(図6の符号201、図7の符号202参照)が設定されていれば、望む加減速度を実現するためにどの程度シフトペダル9を踏込めばよいかを運転者が把握しやすい。
【0049】
なお、シフトペダル9が踏込まれた状態から、シフトペダル9がOFFされる(ペダル開度sftが0となる)と、変速比のマニュアル制御から、自動制御に復帰する。言い換えると、ペダル開度sftが0になると、変速制御装置100は、シフトポジションと車両の走行状態とに基づく変速比の自動制御に復帰し、随時算出される第一変速比γ1が目標変速比として設定される。
【0050】
ここで、図1を参照して、本実施形態の動作について説明する。図1に示すフローチャートは、車両の走行時に所定の間隔で繰り返し実行される。
【0051】
まず、ステップS1では、変速制御装置100により、変速比の自動制御が開始される。第一変速比算出部110は、アクセル開度accpと車速spdに基づいて、目標駆動力Ftgtおよび目標パワーPを算出し、算出された目標パワーPと最適燃費線200とに基づいて第一変速比γ1を設定する。目標制御量算出部120は、第一変速比算出部110により設定された第一変速比γ1を目標変速比とする変速制御を開始する。
【0052】
次に、ステップS2では、変速制御装置100により、シフトペダル9のペダル操作がONであるか否かが判定される。目標制御量算出部120は、シフトペダル操作量検出手段5から出力される信号に基づいて、ステップS2の判定を行う。シフトペダル操作量検出手段5から出力されるペダル開度sftが、運転者によるペダル操作がなされていることを示す値である場合には、ステップS2で肯定判定がなされる。具体的には、目標制御量算出部120は、ペダル開度sftが0%よりも大きな値である場合に肯定判定を行う。ステップS2の判定の結果、ペダル操作がONであると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には本制御フローは終了される。
【0053】
ステップS3では、変速制御装置100により、変速比のマニュアル制御が実行される。目標制御量算出部120は、図6および図7を参照して説明したように、第一変速比γ1よりも大きく最大変速比γmax以下の値を目標変速比として無段変速機2の変速制御を行う。この目標変速比は、ペダル開度sftが大きい場合には、ペダル開度sftが小さい場合と比較して大きな変速比として設定される。
【0054】
次に、ステップS4では、変速制御装置100により、シフトペダル9が解放されたか否かが判定される。目標制御量算出部120は、シフトペダル操作量検出手段5から出力されるペダル開度sftが、運転者によるペダル操作がなされていないことを示す値(0)である場合に、ステップS4において肯定判定する。その判定の結果、シフトペダル9が解放されたと判定された場合(ステップS4−Y)には本制御フローは終了し、そうでない場合(ステップS4−N)にはステップS3へ移行し、変速比のマニュアル制御が実行される。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、シフトペダル9が踏込まれると、踏込み操作がなされる前の第一変速比γ1に対して、大きな変速比に変速される。また、シフトペダル9のペダル開度sftが大きいほど、大きな変速比に変速される。これにより、運転者の加速意図や減速意図を適切に反映させた変速制御が可能となる。
【0056】
シフトペダル9の踏込みにより変速比のマニュアル操作を行うため、カーブ走行時などハンドル操作が必要な場面であっても容易に変速比のマニュアル操作を行うことができ、ドライバビリティが向上する。また、アクセル操作やブレーキ操作を妨げることなく、他方の足でシフトペダル9を操作することができる。ペダルの踏込みによりシフト操作を行うという新たな操作方法が運転者に提供され、運転する楽しさという付加価値を向上させることができる。
【0057】
シーケンシャルシフト等では、シフトレバー等に対する操作回数によって指示する変速比(変速段)を変化させていくため、所望の変速比を指示するために複数回の操作が必要となる場合があるが、本実施形態では、シフトペダル9に対する操作量によって変速比を指示する方法であるため、1回の操作で所望の変速比を無段変速機2に対して指示することができ、操作性が向上する。また、シーケンシャルシフト等では、ドライブポジションに設定していた状態から、マニュアルシフトで所望の変速比を指示するまでに、シフトレバー等をマニュアルポジションへ移動させ、さらにアップシフトあるいはダウンシフトのシフト操作を行う必要があるのに対し、本実施形態では、シフトペダル9を踏込む操作のみで変速比のマニュアル制御モードへの移行と変速比の指示とを同時に行うことができる。このように、本実施形態の変速制御装置100によれば、マニュアルシフト操作に伴う運転者の負担を軽減することができる。
【0058】
(実施形態の第1変形例)
上記実施形態では、変速比を指示するための操作子がシフトペダル9である場合を例に説明したが、操作子は、ペダルには限定されない。初期位置からの操作量を可変に操作できるものであれば、上記実施形態のシフトペダル9に代えて操作子として用いることができる。
【0059】
(実施形態の第2変形例)
上記実施形態では、シフトペダル9が踏込まれた場合に、踏込み操作がなされる前の変速比と比較して大きな変速比に変速されたが、これに代えて、踏込み操作がなされる前の変速比と比較して小さな変速比に変速されてもよい。
【0060】
(実施形態の第3変形例)
上記実施形態では、自動変速機が無段変速機2である場合について説明したが、自動変速機は、有段のもの(例えば、AT)であってもよい。この場合、シフトペダル9の踏込み操作がなされると、踏込み操作がなされる前の変速段と比較して変速比の大きな(低速側の)変速段に変速される。ペダル開度sftが大きい場合には、ペダル開度sftが小さな場合と比較して、より変速比の大きな変速段に変速される。
【0061】
(実施形態の第4変形例)
上記実施形態では、最大変速比γmaxが、無段変速機2において機械的な(設計上の)変速比の最大値であり、固定値であったが、これに代えて、最大変速比γmaxを可変としてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 エンジン
2 無段変速機
3 アクセル開度検出手段
4 車速検出手段
5 シフトペダル操作量検出手段
6 シフトポジションセンサ
7 アクセルペダル
8 ブレーキペダル
9 シフトペダル
10 ステアリングホイール
11 シフトレバー
100 変速制御装置
110 第一変速比算出部
120 目標制御量算出部
200 最適燃費線
Ne エンジン回転数
NIN 入力回転速度
TE エンジントルク
accp アクセル開度
spd 車速
sft ペダル開度
γ1 第一変速比
γmin 最小変速比
γmax 最大変速比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された自動変速機を制御する変速制御装置であって、
運転者により操作されてシフトポジションが選択されるシフトポジション選択手段と、
前記運転者により操作され、可動範囲における初期位置からの操作量が可変である、前記シフトポジション選択手段とは異なる操作子とを備え、
前記操作量が前記初期位置に対応する値であるときは、前記選択されたシフトポジションと前記車両の走行状態とに基づく予め設定された第一変速比を目標変速比とする変速制御を実行し、
前記操作量が前記初期位置に対応する値でないときには、前記第一変速比から予め設定された第二変速比までの間の前記操作量に応じた変速比を前記目標変速比とする変速制御を実行する
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
前記操作量が大きい場合の前記目標変速比は、前記操作量が小さい場合の前記目標変速比と比較して前記第二変速比側の値である
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速制御装置において、
前記自動変速機は、変速比を連続的に変更可能な無段変速機である
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の変速制御装置において、
前記第二変速比が、前記第一変速比よりも大きな変速比である
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の変速制御装置において、
前記操作子は、前記操作量を減少させる向きに付勢されており、前記運転者が前記操作子に力を加えていない状態では、前記操作子は前記初期位置に戻る
ことを特徴とする変速制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の変速制御装置において、
前記操作子は、前記運転者により踏込まれるペダルであり、前記操作量は、前記ペダルの踏込み量である
ことを特徴とする変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−17380(P2011−17380A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162241(P2009−162241)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】